以下、図面を参照して、本発明に係る電動パワーステアリング装置を実施するための最良の形態(以下「実施の形態」という)を説明する。
本発明に係る電動パワーステアリング装置は、制限部で第2駆動制御信号の最大値を制限することによって、フィードフォワード制御時に電動機の回転が急に0になって瞬間的に第2駆動制御信号による駆動電流が増加しても、この瞬間電流の最大値を制限することができる。したがって、電動機を駆動するブリッジ回路の全てのFETには、最大値以下に制限された駆動電流によって最大値制限された瞬間電流が流れる。なお、本発明では、第2駆動制御信号の最大値を制限する手段を、第2駆動制御信号の駆動電流を所定電流以下とする、あるいは第2駆動制御信号に基づいて生成されたPWM信号のデューティ比を所定比以下にする等、特に限定しない。
本実施の形態に係る電動パワーステアリング装置は、第1駆動制御信号を生成するフィードバック制御部を備えるとともに、第2駆動制御信号を生成するフィードフォワード制御部を備え、この第1駆動制御信号と第2駆動制御信号とを制御モード切替部によって切り替えて電動機を制御する。そして、この電動パワーステアリング装置は、PWM信号生成部で第1駆動制御信号または第2駆動制御信号に基づいて電動機制御信号を生成し、この電動機制御信号に基づいてブリッジ回路によって電動機をPWM駆動する。本実施の形態では、本発明に係る制限部をフィードフォワード制御部の後段に配して第2駆動制御信号の駆動電流を所定電流以下とする第1の実施の形態と、本発明に係る制限部をPWM信号生成部の後段に配してPWM信号のデューティ比を所定比以下とする第2の実施の形態について説明する。
まず、図1を参照して、電動パワーステアリング装置1の全体構成について説明する。
電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール3から操舵輪W,Wに至るステアリング系Sに備えられ、手動操舵力発生手段2による操舵力をアシストする。そのために、電動パワーステアリング装置1は、制御装置20で電動機電圧VMを発生し、この電動機電圧VMによって電動機8を駆動して補助操舵トルク(補助操舵力)を発生させ、手動操舵力発生手段2による手動操舵力を軽減する。なお、本実施の形態では、電動機8が、特許請求の範囲に記載の電動機に相当する。
手動操舵力発生手段2は、ステアリングホイール3に一体に設けられたステアリング軸4に連結軸5を介してステアリング・ギアボックス6内に設けたラック&ピニオン機構7のピニオン7aが連結される。なお、連結軸5は、その両端に自在継ぎ手5a,5bを備える。ラック&ピニオン機構7は、ピニオン7aに噛み合うラック歯7bがラック軸9に形成され、ピニオン7aとラック歯7bの噛み合いにより、ピニオン7aの回転運動をラック軸9の横方向(車両幅方向)の往復運動とする。さらに、ラック軸9には、その両端にタイロッド10,10を介して、操舵輪としての左右の前輪W,Wが連結される。なお、手動操舵力発生手段2は、操舵輪W,Wの最大転舵角を規定するために、ラック軸9の移動を規制するストッパ(図示せず)を左右に各々備える。
また、電動パワーステアリング装置1は、補助操舵力(補助トルク)を発生させるために、電動機8が、ラック軸9と同軸上に配設される。そして、電動パワーステアリング装置1は、電動機8の回転をラック軸9と同軸に設けられたボールねじ機構11を介して推力に変換し、この推力をラック軸9(ボールねじ軸11a)に作用させる。ちなみに、ラック軸9の移動が前記したストッパ(図示せず)によって規制されると、電動機8の回転が止まる。
制御装置20は、車速センサVS、操舵トルクセンサTS、電動機電流検出手段21、電動機電圧検出手段22からの各検出信号V,T,IMO,VMOが入力される。そして、制御装置20は、フィードバック制御用に、検出信号V,T,IMO,VMOに基づいて電動機8に流す電動機電流IMの大きさと方向を決定し、制御モード切替部38に第1駆動制御信号C1を出力する(図2、図5参照)。また、制御装置20は、フィードフォワード制御用に、検出信号V,Tに基づいて電動機8に流す電動機電流IMの大きさと方向を決定し、制御モード切替部38に第2駆動制御信号C2を出力する(図2、図5参照)。そして、制御装置20は、電動機電流検出手段21が異常/正常に基づいて制御モード切替部38で第1駆動制御信号C1と第2駆動制御信号C2を切り替えて、この駆動制御信号C1,C2に基づいて電動機駆動部40から電動機8に電動機電圧VMを印加する(図2、図5参照)。なお、本実施の形態では、操舵トルクセンサTSが特許請求の範囲に記載の操舵トルクセンサに相当し、電動機電流検出手段21が特許請求の範囲に記載の電動機電流検出手段に相当する。
なお、第1の実施の形態の制御装置20Aは、フィードフォワード制御部36の後段に駆動電流制限部37を備え、駆動電流制御部37で第2駆動制御信号C2の駆動電流を所定電流MI以下に制限し、電動機の回転が急に0になった際の瞬間電流の最大値を制限する(図2参照)。また、第2の実施の形態の制御装置20Bは、PWM信号生成部41の後段にデューティ比制限部44を備え、電動機電流検出手段21が故障の場合にデューティ比制限部44でPWM信号のデューティ比を所定比MD以下に制限し、電動機の回転が急に0になった際の瞬間電流の最大値を制限する(図5参照)。
車速センサVSは、車速を単位時間当たりのパルス数として検出し、検出したパルス数に対応したアナログ電気信号を車速信号Vとして制御装置20に送信する。なお、車速センサVSは、電動パワーステアリング装置1に車速信号Vを送信するためだけに設けられるものでなく、他のシステムにも車速信号Vを送信する。
操舵トルクセンサTSは、ステアリング・ギアボックス6内に配設され、ドライバによる手動操舵トルクの大きさと方向を検出する。そして、操舵トルクセンサTSは、検出した手動操舵トルクに対応したアナログ電気信号を操舵トルク信号Tとして制御装置20に送信する。なお、操舵トルク信号Tは、大きさを示す操舵トルクとトルクの向きを示すトルク方向の情報を含み、トルク方向は操舵トルクのプラス値/マイナス値で表され、プラス値は操舵トルク方向が右方向であり、マイナス値は操舵トルク方向が左方向である。
電動機電流検出手段21は、電動機8に対して直列に接続された抵抗またはホール素子等を備え、電動機8に実際に流れる電動機電流IMの大きさと方向を検出する。そして、電動機電流検出手段21は、電動機電流IMに対応した電動機電流信号IMOを制御装置20にフィードバック(負帰還)する。
電動機電圧検出手段22は、電動機8の両端の電圧を各々検出し、電動機8に実際に印加されている電動機電圧VMの大きさと方向を検出する。そして、電動機電圧検出手段22は、電動機電圧VMに対応した電動機電圧信号VMOを制御装置20に送信する。
次に、図2を参照して、第1の実施の形態の制御装置20Aについて説明する。制御装置20Aは、電動機速度演算部30、センサ異常検出部31、異常表示部32、操舵トルク補正部33、目標電流設定部34、フィードバック制御部35、フィードフォワード制御部36、駆動電流制限部37、制御モード切替部38、アシスト禁止部39および電動機駆動部40から構成される。電動機駆動部40は、PWM信号生成部41、ゲート駆動回路部42および電動機駆動回路43を備える。なお、制御装置20Aは、各種演算や処理等を行うCPU(Centaral Processing Unit)を少なくとも2個備え、さらに、入力信号変換手段、信号発生手段、記憶手段、電源回路、電動機駆動回路等を備える。なお、本実施の形態では、センサ異常検出部31が特許請求の範囲に記載の故障検出部に相当し、目標電流設定部34が特許請求の範囲に記載の目標電流設定部に相当し、フィードバック制御部35が特許請求の範囲に記載の第1駆動制御信号生成部に相当し、フィードフォワード制御部36が特許請求の範囲に記載の第2駆動制御信号生成部に相当し、駆動電流制限部37が特許請求の範囲の請求項1および請求項2に記載の制限部に相当し、制御モード切替部38が特許請求の範囲に記載の制御モード切替部に相当し、電動機駆動部40が特許請求の範囲に記載の電動機駆動部に相当する。
電動機速度演算部30は、電動機電流検出手段21からの電動機電流信号IMOと電動機電圧検出手段22からの電動機電圧信号VMOが入力され、電動機8の実際の回転速度を演算し、電動機回転速度信号RSとしてセンサ異常検出部31等に出力する。電動機速度演算部30は、前記した式(1)に基づいて、電動機電流信号IMOと電動機電圧信号VMOから電動機の回転速度を演算する(なお、電動機の抵抗値と誘起電圧係数は定数である)。ちなみに、電動機回転速度信号RSは目標電流を補正する際のダンピング補正等に使用されるが、本実施の形態ではその詳細な説明は省略する。
センサ異常検出部31は、車速センサVSからの車速信号V、電動機電流検出手段21からの電動機電流信号IMO、電動機電圧検出手段22からの電動機電圧信号VMOと電動機速度演算部30からの電動機回転速度信号RSが入力され、制御モード切替部38とアシスト禁止部39に異常信号SAを出力するとともに、目標電流設定部34と異常表示部32に異常センサ種別情報SSを出力する。センサ異常検出部31は、車速信号V、電動機電流信号IMO、電動機電圧信号VMOおよび電動機回転速度信号RS等を監視し、各々の信号毎に予め設定した信号値の範囲を越えた場合、信号が検出されない場合、あるいは信号の変化が正常でない場合を各センサの動作が異常と判断する。そして、センサ異常検出部31は、電動機電流信号IMOから電動機電流検出手段21の異常/正常を判断し、異常信号SAを出力する。なお、異常信号SAは、電動機電流検出手段21が異常時には論理レベルとして1が設定され、正常時には論理レベルとして0が設定される。さらに、センサ異常検出部31は、各信号から車速センサVS、各検出手段21,22および電動機速度演算部30の異常/正常を判断し、異常センサ種別情報SSを出力する。異常センサ種別情報SSは、車速センサVS、各検出手段21,22および電動機速度演算部30に対して論理レベルが各々設定され、各論理レベルにおいて異常時には1が設定され、正常時には0が設定される。なお、センサ異常検出部31は、異常信号SAおよび異常センサ種別情報SSを不揮発性メモリ(図示せず)に記憶させ、制御装置20Aが再起動された時も異常信号SAおよび異常センサ種別情報SSを保持している。
異常表示部32は、センサ異常検出部31からの異常センサ種別情報SSが入力され、車両の設けられた可視表示器(図示せず)または可聴出力器(図示せず)等にセンサ異常信号を出力する。なお、このセンサ異常信号は、異常センサ種別情報SSに基づいて、可視表示器または可聴出力器が各センサの異常/正常を個別に出力できるものの場合には各センサ別の異常情報とし、可視表示器または可聴出力器が電動パワーステアリング装置1の異常/正常を出力するものの場合には電動パワーステアリング装置1の異常情報とする。
操舵トルク補正部33は、操舵トルクセンサTSからの操舵トルク信号Tが入力され、目標電流設定部34に補正操舵トルク信号THを出力する。そのために、操舵トルク補正部33は、比例部33a、微分部33bおよび加算部33cを備える。比例部33aは、操舵トルク信号Tの変化をリニアに表すために、操舵トルク信号Tに係数を乗算し、比例項として加算部33cに出力する。微分部33bは、操舵トルク信号Tの応答性を向上させるために、操舵トルク信号Tを時間微分し、微分項として加算部33cに出力する。ちなみに、微分項は、ドライバがステアリングホイール3を右方向に操作している場合には、ドライバによる操作トルクが強められている時にはプラス値となり、操舵トルクが一定の時には0となり、操舵トルクが弱められている時にはマイナス値となる。また、微分項は、ドライバがステアリングホイール3を左方向に操作している場合には、ドライバによる操作トルクが強められている時にはマイナス値となり、操舵トルクが一定の時には0となり、操舵トルクが弱められている時にはプラス値となる。加算部33cは、比例部33aからの比例項と微分部33bからの微分項を加算し、補正操舵トルク信号THとして出力する。なお、補正操舵トルク信号THは、大きさを示す補正操舵トルクとトルクの向きを示すトルク方向の情報を含み、トルク方向は補正操舵トルクのプラス値/マイナス値で表され、プラス値は補正操舵トルク方向が右方向であり、マイナス値は補正操舵トルク方向が左方向である。ちなみに、必要に応じて、積分部を設けて操舵トルク信号Tの積分項を演算し、積分項を加算部33cで加算してもよい。
目標電流設定部34は、操舵トルク補正部33からの補正操舵トルク信号TH、車速センサVSからの車速信号Vおよびセンサ異常検出部31からの異常センサ種別情報SSが入力され、フィードバック制御部35とフィードフォワード制御部36に目標電流信号ITを出力する。なお、目標電流信号ITには、電動機8に流したい電流の大きさを示す目標電流と電動機8に流したい電流の向きを示す電流方向の情報を含み、電流方向は目標電流のプラス値/マイナス値で表され、プラス値はアシスト方向が右方向であり、マイナス値はアシスト方向が左方向である。目標電流設定部34は、ROM(Read Only Memory)等の記憶手段を備え、予め実験値または設計値に基づいて設定した補正操舵トルク信号THおよび車速信号Vと目標電流信号ITの対応するデータを記憶している。そして、目標電流設定部34は、異常センサ種別情報SSにおいて車速センサVSが正常の場合、補正操舵トルク信号THおよび車速信号Vをアドレスとして対応する目標電流信号ITを読み出す。図3には、補正操舵トルク信号および車速信号−目標電流信号の変換テーブルの一例を示す。図3に示すように、目標電流信号ITは、補正操舵トルク信号THが0近傍では0に対応づけられ、所定の補正操舵トルク信号(絶対値)以上になると補正操舵トルク信号THの増加に従って増加する値に対応づけられる。さらに、この補正操舵トルク信号THに対する目標電流信号ITの傾きは、車速信号Vによって変わる。この傾きは、車速信号Vに対して、路面反力の大きい低速の場合には大きい値(絶対値)が対応づけられ、走行時の安定性を確保するために高速の場合には小さい値(絶対値)が対応づけられている。つまり、車速が高速になるほど、補正操舵トルク信号THに対する目標電流信号ITの増分(絶対値)が少なくなる。なお、目標電流信号ITは、電動機8およびブリッジ回路43のパワーFET43a〜43dに流すことができる最大電流が規定されているので、最大目標電流以下に設定される。
また、目標電流設定部34は、異常センサ種別情報SSにおいて車速センサVSが異常の場合、フェイルアンドセーフの観点から車速信号Vを最大車速とし、補正操舵トルク信号THおよび車速信号Vをアドレスとして対応する目標電流信号ITを読み出す。つまり、車速を最大車速に設定して目標電流信号ITを小さくし、正常時より補助操舵トルクを低減させてドライバに電動パワーステアリング装置1の異常を認識させる。
フィードバック制御部35は、目標電流設定部34からの目標電流信号ITと電動機電流検出手段21からの電動機電流信号IMOが入力され、制御モード切替部38に第1駆動制御信号C1を出力する。フィードバック制御部35は、目標電流信号ITと電動機電流信号IMOとの偏差が0に近づくように、PID(Proportional Integral Differential)制御された第1駆動制御信号C1を生成する。そのために、フィードバック制御部35は、偏差演算部35aとPID制御部35bを備える。偏差演算部35aは、減算器またはソフト制御の減算機能を備え、目標電流信号ITから電動機電流信号IMOを減算し、偏差信号ΔIM(=IT−IMO)を演算する。PID制御部35bは、偏差演算部35aからの偏差信号ΔIMに対してP(比例)、I(積分)およびD(微分)制御を行い、偏差信号ΔIMが0に近づくように電動機8に供給する電流を制御するための第1駆動制御信号C1を生成する。なお、第1駆動制御信号C1は、電動機8に供給する電流の大きさを示す駆動電流と電動機8に供給する電流の向きを示す電流方向の情報を含み、電流方向は駆動電流のプラス値/マイナス値で表され、プラス値はアシスト方向が右方向であり、マイナス値はアシスト方向が左方向である。
フィードフォワード制御部36は、目標電流設定部34からの目標電流信号ITが入力され、駆動電流制限部37に第2駆動制御信号C2を出力する。フィードフォワード制御部36は、前記した式(1)に示す電動機8の回転による逆起電力成分(式(1)のK・N成分)による電動機電圧VMの消費を考慮して、目標電流信号ITより大きな値を第2駆動制御信号C2として生成する。つまり、目標電流信号ITをそのまま第2駆動制御信号C2とした場合、電動機8の回転によって逆起電力が発生するため、電動機8に流れる電動機電流IMは目標電流信号ITより小さくなる。そこで、電動機8の回転による逆起電力分を考慮して、目標電流信号ITに逆起電力に相当する所定の電流値を加算し、第2駆動制御信号C2を生成する。そのために、フィードフォワード制御部36は、逆起電力設定部36aと加算部36bを備える。逆起電力設定部36aは、ROM等の記憶手段を備え、所定の電流値でる逆起電力電流CCを加算部36bに出力する。なお、逆起電力電流CCは、電動機8の特性等を考慮して決定される。加算部36bは、加算器またはソフト制御の加算機能を備え、目標電流信号ITの目標電流に逆起電力電流CCを加算し、第2駆動制御信号C2を生成する。なお、第2駆動制御信号C2は、電動機8に供給する電流の大きさを示す駆動電流と電動機8に供給する電流の向きを示す電流方向の情報を含み、電流方向は駆動電流のプラス値/マイナス値で表され、プラス値はアシスト方向が右方向であり、マイナス値はアシスト方向が左方向である。
駆動電流制限部37は、フィードフォワード制御部36からの第2駆動制御信号C2が入力され、制御モード切替部38に第2駆動制御信号C2の駆動電流に最大値制限を施した第2駆動制御信号C2を出力する。駆動電流制限部37は、電動機電流信号IMOに基づく制御ができないフィードフォワード制御時に電動機の回転が急に0になって第2駆動制御信号C2による駆動電流が瞬間的に増加し、電動機駆動回路43のパワーFET43a〜43dに瞬間電流としてパワーFET43a〜43dを破壊するほどの過大な電流が流れるのを防止するために、第2駆動制御信号C2の駆動電流を所定電流MI以下とする。つまり、ラック突き当て時等に電動機8の回転が急に止まると、電動機8の回転速度が0になるが、フィードフォワード制御の場合には制御遅れの影響によって、フィードフォワード制御部36からの第2駆動制御信号C2の駆動電流に基づく電動機電圧VMがほぼラック突き当て時の電圧値に維持されている。そのため、前記した式(1)から判るように、電動機電流IMが瞬間過大となる。そして、パワーFET43a〜43dにも瞬間電流として過大な電流(120A以上)が流れるため、パワーFET43a〜43dを破壊する恐れがある。そこで、常時、第2駆動制御信号C2の駆動電流を所定電流MI以下とし、パワーFET43a〜43dに流れる瞬間電流の最大値を制限する。所定電流MIは、パワーFET43a〜43dの特性等によってパワーFET43a〜43dを絶対に破壊しない電流値以下にしか瞬間電流がならないように設定された駆動電流の最大値として設定され、本実施の形態では80Aとする。ちなみに、所定電流MIは、電動機8の回転速度が急に0になった場合に第2駆動制御信号C2の駆動電流がどの程度の増加率で増加するかを把握しておき、この増加率とパワーFET43a〜43dを破壊する電流値等を考慮して設定される。なお、この所定電流MIは、絶対に電動機8に異常を発生させない電流値でもある。なお、ラック突き当て後、時間の経過に伴って、ラック突き当てによってドライバによる操舵トルクが小さくなるので、目標電流信号ITの目標電流が小さくなり、さらに第2駆動制御信号C2の駆動電流も小さくなるため、電動機電圧VMも小さくなる。
そこで、駆動電流制限部37は、所定電流設定部37aと駆動電流比較部37bを備える。所定電流設定部37aは、ROM等の記憶手段を備え、所定電流MIを駆動電流比較部37bに出力する。駆動電流比較部37bは、所定電流MIとフィードフォワード制御部36からの第2駆動制御信号C2の駆動電流を比較する。そして、駆動電流比較部37bは、フィードフォワード制御部36からの第2駆動制御信号C2の駆動電流が所定電流MIより大きい場合には、所定電流MIを駆動電流として第2駆動制御信号C2を生成し、制御モード切替部38に出力する。他方、駆動電流比較部37bは、フィードフォワード制御部36からの第2駆動制御信号C2の駆動電流が所定電流MI以下の場合には、フィードフォワード制御部36からの第2駆動制御信号C2をそのまま制御モード切替部38に出力する。
制御モード切替部38は、フィードバック制御部35からの第1駆動制御信号C1、駆動電流制限部37からの第2駆動制御信号C2およびセンサ異常検出部31からの異常信号SAが入力され、電動機駆動部40のPWM信号生成部41に駆動制御信号CSを出力する。制御モード切替部38は、電動機電流検出手段21が正常の場合にはフィードバック制御に、電動機電流検出手段21が異常の場合にはフィードフォワード制御に電動機8の制御を切り替える。そのために、制御モード切替部38は、異常信号SAの論理レベルが0の場合にはフィードバック制御部35からの第1駆動制御信号C1を駆動制御信号CSとし、異常信号SAの論理レベルが1の場合には駆動電流制限部37からの第2駆動制御信号C2を駆動制御信号CSとし、PWM信号生成部41に駆動制御信号CSを出力する。駆動制御信号CSは、電動機8に供給する電流の大きさを示す駆動電流と電動機8に供給する電流の向きを示す電流方向の情報を含み、電流方向は駆動電流のプラス値/マイナス値で表され、プラス値はアシスト方向が右方向であり、マイナス値はアシスト方向が左方向である。
アシスト禁止部39は、操舵トルクセンサTSからの操舵トルク信号T、電動機電流検出手段21からの電動機電流信号IMO、センサ異常検出部31からの異常信号SAと制御モード切替部38からの駆動制御信号CSが入力され、ゲート駆動回路部42にアシスト禁止信号SBを出力する。アシスト禁止部39は、制御装置20AのメインのCPUが正常に動作しているか否かを監視するために、電動機電流検出手段21が正常の場合には操舵トルク信号Tと電動機電流信号IMOの関係および操舵トルク信号Tと駆動制御信号CSの関係を判定し、電動機電流検出手段21が異常の場合には操舵トルク信号Tと駆動制御信号CSの関係を判定する。なお、アシスト禁止部39は、制御装置20AのメインとなるCPUとは別のCPUで制御される。アシスト禁止部39は、異常信号SAが0(電動機電流検出手段21が正常)の場合にはマップM1(図4の(a)図参照)とマップM2(図4の(b)図参照)に基づいてアシスト禁止判定をし、異常信号SAが1(電動機電流検出手段21が異常)の場合にはマップM3(図4の(c)図参照)に基づいてアシスト禁止判定をする。
まず、電動機電流検出手段21が正常の場合について説明する。アシスト禁止部39は、ROM等の記憶手段を備え、予め実験値または設計値に基づいて設定した操舵トルク信号Tと電動機電流信号IMOの関係を示すマップM1(図4の(a)図参照)および操舵トルク信号Tと駆動制御信号CSの関係を示すマップM2(図4の(b)図参照)を記憶している。マップM1は、横軸が操舵トルク信号Tであり、縦軸が電動機電流信号IMOである。操舵トルク信号Tのプラス領域(横軸の原点(0)の右側領域)はステアリングホイール3に右旋回方向の手動操舵トルクが入力された場合に対応し、操舵トルク信号Tのマイナス領域(横軸の原点(0)の左側領域)はステアリングホイール3に左旋回方向の手動操舵トルクが入力された場合に対応する。また、電動機電流信号IMOのプラス領域(縦軸の原点(0)の上側領域)は電動機8に右旋回方向の電流が流れる場合に対応し、電動機電流信号IMOのマイナス領域(縦軸の原点(0)の下側領域)は電動機8に左旋回方向の電流が流れる場合に対応する。マップM1のアシスト禁止領域M1a,M1aおよびM1b,M1bは、操舵トルク信号Tに対して望ましくない電動機電流信号IMOの領域であり、制御装置20AのメインのCPUが異常であると判断できる領域である。なお、アシスト禁止領域M1a,M1aは、ダンピング制御や電動機8に対するイナーシャ制御を考慮すると実際の走行中には満たされる可能のある条件であるため、この領域に入っても100mS未満であればアシストを禁止しない領域である(つまり、アシスト禁止領域M1a,M1aに100mS以上入れば、アシストを禁止する)。また、アシスト禁止領域M1b,M1bは、ダンピング制御やイナーシャ制御を考慮しても入らない領域であるため、この領域に1mSでも入るとアシストを禁止する領域である。また、マップM2は、横軸が操舵トルク信号Tであり、縦軸が駆動制御信号CSである。操舵トルク信号Tのプラス領域(横軸の原点(0)の右側領域)はステアリングホイール3に右旋回方向の手動操舵トルクが入力された場合に対応し、操舵トルク信号Tのマイナス領域(横軸の原点(0)の左側領域)はステアリングホイール3に左旋回方向の手動操舵トルクが入力された場合に対応する。また、駆動制御信号CSのプラス領域(縦軸の原点(0)の上側領域)は電動機8が右旋回方向のトルクを出力する場合に対応し、駆動制御信号CSのマイナス領域(縦軸の原点(0)の下側領域)は電動機8が左旋回方向のトルクを出力する場合に対応する。マップM2のアシスト禁止領域M2a,M2aは、操舵トルク信号Tに対して望ましくない駆動制御信号CSの領域であり、制御装置20AのメインのCPUが異常であると判断できる領域である。そこで、アシスト禁止部39は、マップM1およびマップM2を検索し、操舵トルク信号Tと電動機電流信号IMOの関係がマップM1のアシスト禁止領域M1a,M1aの領域に100mS以上およびマップM1のアシスト禁止領域M1b,M1bの領域に1mS以上ある場合、または操舵トルク信号Tと駆動制御信号CSの関係がマップM2のアシスト禁止領域M2a,M2aの領域にある場合にはアシスト禁止信号SBの論理レベルとして1を設定し、それ以外の場合にはにはアシスト禁止信号SBの論理レベルとして0を設定し、ゲート駆動回路部42に出力する。アシスト禁止信号SBの論理レベルの設定は、前記設定に限定されず、ゲート駆動回路部42の論理回路の構成等に対応して設定する。ちなみに、マップM1とマップM2による判定条件は、マップM1による判定条件の方が厳しく、電動機電流検出手段21が正常の場合には殆どマップM1の判定条件でアシストが禁止される。
次に、電動機電流検出手段21が異常の場合について説明する。電動機電流検出手段21が異常の場合には電動機電流信号IMOによるマップM1での判定条件を用いることができない。そこで、駆動制御信号CSによるマップM2の判定条件を厳しくしたマップM3(図4の(c)図参照)を用いてアシスト禁止判定を行なう。なお、制御装置20AのメインのCPUが正常の場合、通常、手動操舵トルクの付加されている方向に対して同方向にアシストするために、駆動制御信号CSには電動機8に供給する電流に対する電流方向として手動操舵トルクの付加されている方向が設定される。例えば、ドライバがステアリングホイール3を右方向に操作した場合、駆動制御信号CSには右方向に補助操舵トルクを発生させるための電動機8に供給する電流の向きを示す電流方向が設定される。しかし、制御装置20AのメインのCPUが正常の場合でも、操舵トルク補正部33の微分部33bの作用によって、手動操舵トルクの付加されている方向に対して逆方向にアシストするために、駆動制御信号CSには電動機8に供給する電流に対する電流方向が通常時とは逆方向に設定される場合がある。例えば、ドライバがステアリングホイール3を右方向に操作しているが手動操舵トルクを弱めている場合、微分部33bによる微分項がマイナス値になり、補正操舵トルク信号TH中の操舵トルクの大きさがマイナス値(左方向)になる場合がある。そのとき、操舵トルク信号Tの方向が右方向にもかかわらず、駆動制御信号CSの電動機8に供給する電流に対する電流方向が左方向になる(図4の(c)図のa点参照)。ところが、制御装置20AのメインのCPUが異常の場合には、操舵トルク信号Tに基づいて設定される駆動制御信号CSの電流方向および駆動電流が明らかに異常な値となる(図4の(c)図のb点等参照)。そこで、アシスト禁止部39は、ROM等の記憶手段を備え、予め実験値または設計値に基づいて設定した操舵トルク信号Tと駆動制御信号CSの関係を示すマップM3(図4の(c)図参照)を記憶している。マップM3は、マップM2のアシスト禁止領域M2a,M2aに代わって、M3a,M3aの領域をアシスト禁止領域とする。このアシスト禁止領域M3a,M3aは、操舵トルク信号Tに対して望ましくない駆動制御信号CSの領域であり、制御装置20AのメインのCPUが異常であると判断できる領域である。なお、アシスト禁止領域M3a,M3aは、マップM2のアシスト禁止領域M2a,M2aのアシストの禁止を開始する操舵トルク信号T2,−T2より絶対値が小さい操舵トルク信号T3,−T3からアシストを禁止する(つまり、マップM3は、マップM2の判定条件より厳しい判定条件となっている)。そこで、アシスト禁止部39は、マップM3を検索し、操舵トルク信号Tと駆動制御信号CSの関係がマップM3のアシスト禁止領域M3a,M3aの領域にある場合にはアシスト禁止信号SBの論理レベルとして1を設定し、アシスト禁止領域Ma,Ma以外の場合にはアシスト禁止信号SBの論理レベルとして0を設定し、ゲート駆動回路部42に出力する。アシスト禁止信号SBの論理レベルの設定は、前記設定に限定されず、ゲート駆動回路部42の論理回路の構成等に対応して設定する。
PWM信号生成部41は、制御モード切替部38からの駆動制御信号CSが入力され、ゲート駆動回路部42に電動機制御信号MSを出力する。PWM信号生成部41は、駆動制御信号CSに基づいて、電動機8に供給する電動機電流の向きと電流値に対応したPWM信号、オン信号、オフ信号を生成する。PWM信号は、電動機駆動回路43のパワーFET43aのゲートG1またはパワーFET43bのゲートG2に入力され、駆動制御信号CSの駆動電流の大きさに応じてパワーFET43aまたはパワーFET43bをPWM駆動する信号である。なお、PWM信号がゲートG1かゲートG2のどちらのゲートに入力されるかは、駆動制御信号CSの駆動電流の極性(電流方向)によって決まる。そして、ゲートG1にPWM信号が入力される場合には、パワーFET43dのゲートG4にオン信号が入力され、パワーFET43dがオン駆動される。他方、ゲートG2にPWM信号が入力される場合には、パワーFET43cのゲートG3にオン信号が入力され、パワーFET43cがオン駆動される。また、ゲートG1またはゲートG2のうちPWM信号が入力されないゲートにはオフ信号が入力され、パワーFET43aまたはパワーFET43bはオフされる。このとき、ゲートG1にオフ信号が入力された場合には、パワーFET43dのゲートG4にもオフ信号が入力され、パワーFET43dもオフされる。他方、ゲートG2にオフ信号が入力された場合には、パワーFET43cのゲートG3にもオフ信号が入力され、パワーFET43cもオフされる。なお、電動機制御信号MSは、ゲートG1〜G4に出力するPWM信号、オン信号、オフ信号で構成され、ゲート駆動回路部42で論理判定される。
ゲート駆動回路部42は、PWM信号生成部41からの電動機制御信号MSとアシスト禁止部39からのアシスト禁止信号SBが入力され、電動機駆動回路43の各ゲートG1〜G4を駆動するために電動機制御信号MSを出力する。なお、ゲート駆動回路部42は、アシスト禁止信号SBの論理レベルが1の時、電動機8による補助操舵トルクの発生を禁止する。すなわち、ゲート駆動回路部42は、制御装置20AのメインのCPUが異常の時、電動機8によるアシストを禁止する。そのために、ゲート駆動回路部42は、図示しない4つのNOT回路と4つのAND回路からなる論理回路を備える。そして、ゲート駆動回路部42は、アシスト禁止信号SBを4つのNOT回路で4つのAND回路に各々反転出力する。さらに、ゲート駆動回路部42は、4つのAND回路に電動機制御信号MSの電動機駆動回路43のゲートG1〜G4に対する各信号とNOT回路の各反転出力が各々入力され、4つのAND回路から電動機駆動回路43のゲートG1〜G4に対して電動機制御信号MSを出力する。そして、ゲート駆動回路部42は、アシスト禁止信号SBの論理レベルが1の時には電動機制御信号MSとして全てオフ信号を出力し、アシスト禁止信号SBの論理レベルが0の時には電動機制御信号MSとしてPWM信号生成部41からの電動機制御信号MSをそのまま出力する。
電動機駆動回路43は、ゲート駆動回路部42から論理判定された電動機制御信号MSが入力され、この電動機制御信号MSに基づいて電動機電圧VMを電動機8に印加し、電動機8に電動機電流IMを出力する。電動機駆動回路43は、4個のパワーFET43a,43b,43c,43dのスイッチング素子からなるブリッジ回路で構成され、電源電圧から12Vの電圧が供給される。さらに、電動機駆動回路43は、電動機8がパワーFET43aとパワーFET43dの間に直列にかつパワーFET43bとパワーFET43cの間に直列に接続される。パワーFET43a,43bは、各ゲートG1,G2にPWM信号またはオフ信号が入力され、PWM信号が入力されて論理レベル1の時にオンする。パワーFET43c,43dは、各ゲートG3,G4にオン信号またはオフ信号が入力され、オン信号が入力された時にオンする。そして、電動機駆動回路43は、パワーFET43a,43b,43c,43dの各ゲートG1,G2,G3,G4に電動機制御信号MSが各々入力されると、電動機制御信号MSに基づいて電動機8に電動機電圧VMを印加する。すると、電動機8には電動機電流IMが流れ、電動機8は正転駆動または逆転駆動して電動機電流IMに比例した補助操舵トルクを発生する。なお、電動機8に印加される電動機電圧VMは、PWM信号のデューティ比によって決定される。そして、電動機8に流れる電動機電流IMは、電動機電圧VMに対応する。例えば、PWM信号のデューティ比が70%(すなわち、7(論理レベル1):3(論理レベル0))の場合、12V×(7/10)=8.4Vが電動機電圧VMとなり、電動機8に連続して8.4Vが印加されていることになる。
それでは、図1乃至図4を参照して、電動パワーステアリング装置1における制御装置20Aによる制御について説明する。ここでは、制御装置20Aが、電動機電流検出手段21が正常でフィードバック制御により電動機8を制御する場合と、電動機電流検出手段21が異常でフィードフォワード制御により電動機8を制御する場合について説明する。
電動機電流検出手段21が異常/正常にかかわらず、制御装置20Aは、操舵トルク補正部33で操舵トルク信号Tに基づいて補正操舵トルク信号THを生成する。そして、制御装置20Aは、目標電流設定部34で補正操舵トルク信号THと車速信号Vに基づいて目標電流信号ITを設定する。さらに、制御装置20Aは、フィードバック制御部35で目標電流信号ITと電動機電流信号IMOとの偏差ΔIMに基づいて第1駆動制御信号C1を生成する。また、制御装置20Aは、フィードフォワード制御部36で目標電流信号ITに基づいて第2駆動制御信号C2を生成する。さらに、制御装置20Aは、駆動電流制限部37でフィードフォワード制御36からの第2駆動制御信号C2の駆動電流を所定電流MI以下に制限する。
また、制御装置20Aは、センサ異常検出部31で各種センサからの各信号を監視し、各種センサが異常/正常かを判定する。特に、センサ異常検出手段31は、電動機電流検出手段21が正常の場合には異常信号SAの論理レベルを0にし、電動機電流検出手段21が異常の場合には異常信号SAの論理レベルを1にして制御モード切替部38に出力する。
異常信号SAの論理レベルが0の場合、制御装置20Aは、制御モード切替部38で第1駆動制御信号C1を駆動制御信号CSとして電動機駆動部40に出力し、電動機8をフィードバック制御する。電動機駆動部40は、実際に電動機8に流れている電動機電流信号IMOが考慮された第1駆動制御信号C1によって電動機制御信号MSを生成し、この電動機制御信号MSに基づいて電動機駆動回路43から電動機8に電動機電圧VMを印加する。すると、電動機8には電動機電流IMが流れ、この電動機電流IMに対応した補助操舵トルクが発生する。ちなみに、ラック突き当てにより電動機8の回転が急に止まっても、制御装置20Aは、電動機電流信号IMOによってフィードバック制御するので、電流制限をかけることができる。したがって、電動機8には瞬間電流として第1駆動制御信号C1による駆動電流が増加された電動機電流IMが流れるが、パワーFET43a〜43dを破壊するほどの過大な瞬間電流は流れない。
なお、制御装置20Aは、アシスト禁止部39で操舵トルク信号Tと電動機電流信号IMOとの関係がマップM1のアシスト禁止領域M1a,M1aに100mS以上かアシスト禁止領域M1b,M1b内に1mS以上の場合または操舵トルク信号Tと駆動制御信号CSとの関係がマップM2のアシスト禁止領域M2a,M2a内にある場合(図4参照)、メインのCPUが異常と判定する。そのとき、制御装置20Aは、アシスト禁止部39からゲート駆動回路部42にアシスト禁止信号SBの論理レベルとして1を出力する。そして、制御装置20Aは、ゲート駆動回路部42で全てオフ信号とする電動機制御信号MSを生成し、この電動機制御信号MSに基づいて電動機駆動回路43から電動機8への電動機電圧VMの印加を停止する。すると、電動機8への電動機電流IMの供給が停止され、補助操舵トルクも発生しない。
異常信号SAの論理レベルが1の場合、制御装置20Aは、制御モード切替部38で第2駆動制御信号C2を駆動制御信号CSとして電動機駆動部40に出力し、電動機8をフィードフォワード制御する。電動機駆動部40は、所定電流MI以下に制限された第2駆動制御信号C2によって電動機制御信号MSを生成し、この電動機制御信号MSに基づいて電動機駆動回路43から電動機8に電動機電圧VMを印加する。すると、フィードフォワード制御の場合には、通常、電動機8には所定電流MI以下の電動機電流IMが流れ、この電動機電流IMに対応した補助操舵トルクが発生する。また、ラック突き当てにより電動機8の回転が急に止まって、式(1)の逆起電力成分(式(1)中のK・N成分)が0になった場合でも、制御装置20Aは、フィードフォワード制御時には、第2駆動制御信号C2による駆動電流を所定電流MI以下としているため、電動機8の特性等による増加率で駆動電流が瞬間的に増加される瞬間電流の最大値も制限することができる。したがって、電動機8には制限された瞬間電流として電動機電流IMが流れ、パワーFET43a〜43dには破壊するほどの過大な瞬間電流が流れない。例えば、瞬間電流になる際の増加率を40%増とすると、第2駆動制御信号C2による駆動電流は80A以下に制限されるので、電動機8には瞬間電流は112A以下に制限される。ちなみに、フィードフォワード制御時には第2駆動制御信号C2による駆動電流を所定電流MI以下に制限されるが、通常操舵時(操舵トルクTの小さい時)の操舵フィーリングはフィードバック制御時と変わらない。
なお、制御装置20Aは、アシスト禁止部39で操舵トルク信号Tと駆動制御信号CSとの関係がマップM3のアシスト禁止領域M3a,M3a内にある場合(図4の(c)図参照)、メインのCPUが異常と判定する。そのとき、制御装置20Aは、アシスト禁止部39からゲート駆動回路部42にアシスト禁止信号SBの論理レベルとして1を出力する。そして、制御装置20Aは、ゲート駆動回路部42で全てオフ信号とする電動機制御信号MSを生成し、この電動機制御信号MSに基づいて電動機駆動回路43から電動機8への電動機電圧VMの印加を停止する。すると、電動機8への電動機電流IMの供給が停止され、補助操舵トルクも発生しない。
この制御装置20Aを備える電動パワーステアリング装置1によれば、フィードバック制御時には、電動機電流検出手段21からの電動機電流信号IMOのフィードバックによって、電動機8に流れる電動機電流IMを電流制限できる。また、電動パワーステアリング装置1は、フィードフォワード制御時には、駆動電流制限部37によって電動機8に流す第2駆動制御信号C2による駆動電流を所定電流MI以下とする。したがって、電動パワーステアリング装置1は、電動機8の回転が急に止まって回転速度が0になっても瞬間電流の最大値を制限し、電動機8には過大な電動機電流IMを流さないので、パワーFET43a〜43dにも破壊するのほどの過大な瞬間電流を流さない。
次に、図5を参照して、第2の実施の形態の制御装置20Bについて説明する。なお、制御装置20Bは、第1の実施の形態の制御装置20Aに対して第2駆動制御信号C2の最大値を制限する手段のみ異なり、他の構成については制御装置20Aと同一である。そこで、制御装置20Bの説明では、制御装置20Aと同一の構成については同一の符号を付し、同一の構成についての詳細な説明を省略する。制御装置20Bは、電動機速度演算部30、センサ異常検出部31、異常表示部32、操舵トルク補正部33、目標電流設定部34、フィードバック制御部35、フィードフォワード制御部36、制御モード切替部38、アシスト禁止部39および電動機駆動部40から構成される。電動機駆動部40は、PWM信号生成部41、ゲート駆動回路部42、電動機駆動回路43およびデューティ比制限部44を備える。つまり、制御装置Bは、制御装置20Aの駆動電流制限部37(図2参照)に代えて、デューティ比制限部44によって第2駆動制御信号C2の最大値を制限する。なお、制御装置20Bは、各種演算や処理等を行うCPUを少なくとも2個備え、さらに、入力信号変換手段、信号発生手段、記憶手段、電源回路、電動機駆動回路等を備える。なお、本実施の形態では、デューティ比制限部44が、特許請求の範囲の請求項1および請求項3に記載の制限部に相当する。
なお、制御装置20Bでは、フィードフォワード制御部36から制御モード切替部38に第2駆動制御信号C2を直接出力する。また、制御装置20Bでは、センサ異常検出部31から制御モード切替部38とデューティ比制限部44にも異常信号SAを出力する。
デューティ比制限部44は、PWM信号生成部41からの電動機制御信号MSとセンサ異常検出部31からの異常信号SAが入力され、ゲート駆動回路部42に電動機制御信号MSのPWM信号に所定比でデューティ比制限を施した電動機制御信号MSを出力する。デューティ比制限部44は、電動機電流信号IMOに基づく制御ができないフィードフォワード制御時に、電動機電流IMが過大となり、電動機駆動回路43のパワーFET43a〜43dに瞬間電流として過大な電流が流れるのを防止するために、電動機制御信号MSのPWM信号のデューティ比を所定比MD以下とする。つまり、ラック突き当て時等に電動機8の回転が急に止まると、電動機8の回転速度が0になるが、フィードフォワード制御の場合には制御遅れの影響によって、フィードフォワード制御部36からの第2駆動制御信号C2の駆動電流に基づく電動機電圧VMがほぼラック突き当て時の電圧値に維持されている。そのため、前記した式(1)から判るように、電動機電流IMが瞬間的に過大となる。そして、パワーFET43a〜43dにも瞬間電流として過大な電流(120A以上)が流れるため、パワーFET43a〜43dを破壊する恐れがある。そこで、フィードフォワード制御の場合には、ゲートG1またはゲートG2に入力される電動機制御信号MSのPWM信号のデューティ比を所定比MD以下とし、電動機8には所定比MD以下で最大値が制限された電動機電圧VMが印加される。そのため、電動機8の特性等による増加率で増加される瞬間電流の最大値も制限され、パワーFET43a〜43dにはこの制限された瞬間電流しか流れないようにする。所定比MDは、第2駆動制御信号C2による駆動電流が瞬間電流として増加されても、この瞬間電流が絶対にパワーFET43a〜43dを破壊しない電流値以下になるように設定された駆動電流の最大値以下とするための電動機電圧VMに基づくPWM信号のデューティ比以下に設定され、本実施の形態では50%とする(つまり、電動機8には連続して6V(=12V×(5/10))以下の電動機電圧VMしか印加されない)。ちなみに、所定比MDは、電動機8の回転速度が急に0になった場合に第2駆動制御信号C2の駆動電流がどの程度の増加率で増加するかを把握しておき、この増加率、電動機駆動回路43の電源電圧値とパワーFET43a〜43dを破壊する電流値等を考慮して設定される。なお、この所定比MDは、絶対に電動機8に異常を発生させないデューティ比でもある。なお、ラック突き当て後、時間経過に伴って、ラック突き当てによってドライバによる操舵トルクが小さくなるので、目標電流信号ITの目標電流が小さくなり、さらに第2駆動制御信号C2の駆動電流が小さくなるため、電動機制御信号MSのPWM信号のデューティ比も小さくなる。
そこで、デューティ比制限部44は、所定比設定部44aとデューティ比比較部44bを備える。所定比設定部44aは、ROM等の記憶手段を備え、所定比MDをデューティ比比較部44bに出力する。デューティ比比較部44bには、PWM信号生成部41からの電動機制御信号MS中でゲートG1とゲートG2に入力される信号(PWM信号とオフ信号)のみ入力される。したがって、PWM信号生成部41からの電動機制御信号MS中でゲートG3とゲートG4に入力される信号(オン信号とオフ信号)は、直接、PWM信号生成部41からゲート駆動回路部42に入力される。デューティ比比較部44bは、異常信号SAの論理レベルにかかわらず、PWM信号生成部41からの電動機制御信号MSのゲートG1またはゲートG2に対するオフ信号をそのままゲート駆動回路部42に出力する。そして、デューティ比比較部44bは、異常信号SAの論理レベルが0の場合(すなわち、フィードバック制御の場合)、PWM信号生成部41からの電動機制御信号MSのゲートG1またはゲートG2に対するPWM信号をそのままゲート駆動回路部42に出力する。また、デューティ比比較部44bは、異常信号SAの論理レベルが1の場合(すなわち、フィードフォワード制御の場合)、PWM信号生成部41からの電動機制御信号MSのゲートG1またはゲートG2に対するPWM信号のデューティ比と所定比MDを比較する。そして、デューティ比比較部44bは、PWM信号生成部41からのPWM信号のデューティ比が所定比MDより大きい場合には、所定比MDをPWM信号のデューティ比としてPWM信号を生成し、ゲート駆動回路部42に出力する。他方、デューティ比比較部44bは、PWM信号生成部41からのPWM信号のデューティ比が所定比MD以下の場合には、PWM信号生成部41からのPWM信号をそのままゲート駆動回路部42に出力する。
それでは、図1および図5を参照して、電動パワーステアリング装置1における制御装置20Bによる制御について説明する。ここでは、制御装置20Bが、電動機電流検出手段21が正常でフィードバック制御により電動機8を制御する場合と、電動機電流検出手段21が異常でフィードフォワード制御により電動機8を制御する場合について説明する。なお、制御装置20Bが前記した制御装置20Aと同一の制御を行う説明については、その制御の説明を省略する。
電動機電流検出手段21が異常/正常にかかわらず、制御装置20Bは、操舵トルク補正部33で操舵トルク信号Tに基づいて補正操舵トルク信号THを生成する。そして、制御装置20Bは、目標電流設定部34で補正操舵トルク信号THと車速信号Vに基づいて目標電流信号ITを設定する。さらに、制御装置20Bは、フィードバック制御部35で目標電流信号ITと電動機電流信号IMOとの偏差ΔIMに基づいて第1駆動制御信号C1を生成する。また、制御装置20Bは、フィードフォワード制御部36で目標電流信号ITに基づいて第2駆動制御信号C2を生成する。そして、異常信号SAの論理レベルが0の場合、制御装置20Bは、制御モード切替部38で第1駆動制御信号C1を駆動制御信号CSとして電動機駆動部40に出力し、電動機8をフィードバック制御する。また、異常信号SAの論理レベルが1の場合、制御装置20Bは、制御モード切替部38で第2駆動制御信号C2を駆動制御信号CSとして電動機駆動部40に出力し、電動機8をフィードフォワード制御する。続いて、制御装置20Bは、PWM信号生成部41で駆動制御信号CSに基づいて電動機制御信号MSを生成し、電動機制御信号MS中のゲートG1とゲートG2に対する信号をデューティ比制限部44に出力し、電動機制御信号MS中のゲートG3とゲートG4に対する信号をゲート駆動回路部42に出力する。
異常信号SAの論理レベルが0の場合、制御装置20Bは、デューティ比制限部44でPWM信号生成部41からの電動機制御信号MS中のゲートG1とゲートG2に対する信号(PWM信号とオフ信号)をそのままゲート駆動回路部42に出力する。そして、制御装置20Bは、ゲート駆動回路部42で論理判定された電動機制御信号MSに基づいて、電動機8をフィードバック制御する。なお、制御装置20Bは、PWM信号生成部41で実際に電動機8に流れている電動機電流信号IMOが考慮された第1駆動制御信号C1によって電動機制御信号MSを生成し、この電動機制御信号MSに基づいて電動機駆動回路43から電動機8に電動機電圧VMを印加する。すると、電動機8には電動機電流IMが流れ、この電動機電流IMに対応した補助操舵トルクが発生する。ちなみに、ラック突き当てにより電動機8の回転が急に止まっても、制御装置20Bは、電動機電流信号IMOによってフィードバック制御するので、電流制限をかけることができる。したがって、電動機8には瞬間電流として第1駆動制御信号C1による駆動電流が増加された電動機電流IMが流れるが、パワーFET43a〜43dを破壊するほどの過大な瞬間電流が流れない。
異常信号SAの論理レベルが1の場合、制御装置20Bは、デューティ比制限部44でPWM信号生成部41からの電動機制御信号MS中のゲートG1またはゲートG2に対するPWM信号のデューティ比を所定比MD以下に制限してゲート駆動回路部42に出力するとともに、電動機制御信号MS中のゲートG1またはゲートG2に対するオフ信号をそのままゲート駆動回路部42に出力する。そして、制御装置20Bは、ゲート駆動回路部42で論理判定された電動機制御信号MSに基づいて、電動機8をフィードフォワード制御する。なお、制御装置20Bは、デューティ比制限部44でPWM信号のデューティ比を所定比MD以下に制限しているので、電動機駆動回路43から電動機8にデューティ比制限されたPWM信号によって発生する電動機電圧VMを印加する。すると、フィードフォワード制御の場合には、通常、所定比MD以下に制限された電動機電圧VMによって、電動機8には最大値が制限された電動機電流IMが流れ、この電動機電流IMに対応した補助操舵トルクが発生する。また、ラック突き当てにより電動機8の回転が急に止まって、式(1)の逆起電力成分(式(1)中のK・N成分)が0になった場合でも、制御装置20Bは、フィードフォワード制御時には、所定比MD以下に制限された電動機電圧VMを電動機8に印加し、電動機8に流す駆動電流の最大値を制限している。そのため、電動機8の特性等による増加率で瞬間的に増加される瞬間電流も最大値が制限される。したがって、電動機8には制限された瞬間電流として電動機電流IMが流れ、パワーFET43a〜43dには破壊するほどの過大な瞬間電流が流れない。
この制御装置20Bを備える電動パワーステアリング装置1によれば、フィードバック制御時には、電動機電流検出手段21からの電動機電流信号IMOのフィードバックによって、電動機8に流れる電動機電流IMを電流制限できる。また、電動パワーステアリング装置1は、フィードフォワード制御時には、デューティ比制限部44で所定比MD以下に制限されたPWM信号によって電動機電圧VMの最大値を制限する。したがって、電動パワーステアリング装置1は、電動機8の回転が急に止まって回転速度が0になっても瞬間電流の最大値が制限され、電動機8には過大な電動機電流IMが流れないので、パワーFET43a〜43dには破壊するほどの過大な瞬間電流が流れない。ちなみに、フィードフォワード制御時にはPWM信号のデューティ比が所定比MD以下に制限されるが、通常操舵時(操舵トルクTの小さい時)の操舵フィーリングはフィードバック制御時と変わらない。
以上、本発明は、前記の実施の形態に限定されることなく、様々な形態で実施される。例えば、第2駆動制御信号C2の最大値を制限する手段として駆動電流制御部37またはデューティ比制限部44としたが、これらの手段に限定するものでない。