本発明の一実施形態について図1ないし図5に基づいて説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明にかかる合成樹脂フィルムの製造方法は、合成樹脂フィルムの前駆体であるゲルフィルムに対して、焼成前に特定条件で加熱することにより、得られる合成樹脂フィルムの分子の配向を制御する方法である。より具体的には、本発明にかかる合成樹脂フィルムの製造方法は、上記ゲルフィルムの幅方向全体に対して、焼成の前に加熱処理を施す加熱工程を含んでいる。これにより、得られる合成樹脂フィルムにおいて、合成樹脂(高分子)の分子配向を良好に制御することが可能となる。
そこで、本実施の形態では、上記加熱工程、換言すれば、本発明にかかる合成樹脂フィルムの分子の配向制御方法を先に説明し、その後、本発明にかかる製造方法の全体、および、本発明の利用について説明する。なお、以下の説明では、便宜上、「合成樹脂フィルムの製造方法」を単に製造方法と略し、「合成樹脂フィルムの分子の配向制御方法」を分子配向制御方法と略す場合がある。また、本発明における「配向」とは、合成樹脂フィルムを形成する高分子鎖の配向を意味しており、一般に言われる「高分子フィルムの分子配向」を意味する。
(I)本発明にかかる分子配向制御方法(加熱工程)
本発明にかかる製造方法において行われる加熱工程は、ゲルフィルムについて、少なくとも1回、機械的送り方向に直行する方向全幅に対して、90℃以上350℃以下の温度範囲で加熱処理を施す工程であり、このとき、加熱処理前後のフィルムの搬送速度を制御する。
本発明にかかる製造方法は、合成樹脂フィルムを連続的に製造する方法であり、ここでいう連続的な製造とは、1回の製造過程で少なくとも1m以上の長さのフィルム体を製造する場合を意味し、好ましくは10m以上のフィルム体を製造する場合を意味する。ここで、連続的に製造される場合の進行方向が機械的送り方法(machine direction、MD方向)であり、このMD方向に直交する方向(MD方向に垂直な方向)がTD方向(transverse direction、以下、TD方向と略す)となる。
本発明者らは、連続的に製造される合成樹脂フィルムにおいて、分子の配向を制御させて寸法安定性をより向上させるために鋭意検討した結果、MD方向に分子を配向させることで、TD方向の物性に差を持たせることが有効であることを見出した。すなわち、MD方向に分子が配向していると、MD方向の弾性率が高く、熱膨張係数が小さくなるのに対して、TD方向の弾性率は小さく、熱膨張係数が大きくなる。そのため、例えば、合成樹脂に金属層を積層する金属積層工程では、ロールトゥロールでポリイミドフィルム表面に金属を積層するときに、当該ポリイミドフィルムのMD方向は高い弾性率を有しているので引き伸ばされる量が小さくなる。一方、TD方向は引き伸ばされて収縮するものの、収縮した量は熱膨張により緩和されることになる。その結果、寸法変化を小さくすることが可能と考えられる。
このように、MD方向に分子が配向している合成樹脂フィルムは、エレクトロニクス分野に用いられる各種電子部品用材料、特に、FPC、TAB(Tape Automated Bonding)用フィルム、COF(Chip On Film)用基板等に有用であると考えられる。ところが、このように、MD方向に分子を配向させた合成樹脂フィルムの製造技術は、これまで知られていなかった。特に、連続的に合成樹脂フィルムを生産する場合において、全幅においてフィルムの配向を制御することは非常に困難と考えられていた。これに対して、本発明者らは、加熱焼成前のゲルフィルムに対して、TD方向線幅に特定条件で加熱処理を施すことで、MD方向に分子の配向を制御することが可能であることを見出した。
なお、加熱処理を行う場合、ゲルフィルムのTD方向全幅とは、上記MD方向に対して垂直方向となるゲルフィルム全幅を意味しており、例えば、1mの幅のゲルフィルムが加熱装置内に搬送された場合には、1mの幅を全て加熱することを意味する。つまり、本発明において、少なくとも1回、TD方向全幅に対して加熱処理を施すとは、フィルム加熱装置(後述)を用いてフィルムのTD方向全幅を1回以上加熱することを意味している。
一般には、ゲルフィルムを加熱する際には、当該ゲルフィルムを延伸しながら加熱する手法が採用されている。これに対して、本発明では、ゲルフィルムを加熱する際には、後述するように、加熱処理前後におけるフィルムの搬送速度を制御する。これにより、フィルムのTD方向全幅を1回以上加熱することになり、MD方向に分子の配向を制御することができる。
<ゲルフィルム>
ここで、上記ゲルフィルムとは、目的の合成樹脂またはその前駆体と溶媒とを少なくとも含有しているゲル様の状態を有しており、かつ、フィルム形状を保持する自己支持性を有しているフィルムを指すものとする。このゲルフィルムを加熱して焼成することにより目的の合成樹脂フィルムを得ることができる。
例えば、本発明では、合成樹脂として後述するようにポリイミド樹脂を好適に用いることができるが、この場合、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の溶液を成形して加熱・乾燥させて、有機溶媒や各種反応副生物がポリイミドフィルム中に残存しているフィルムがゲルフィルムとなる。
上記ゲルフィルムは、ゲル様の状態となるように溶媒を含有していれば、その具体的な構成は特に限定されるものではないが、ゲルフィルム中に残存する残存成分割合が500重量%以下であることが好ましい。残存成分とは、合成樹脂を合成したりゲルフィルムを形成する過程で用いたりした溶媒や、合成過程の各種反応で生成した反応副生物を指し、具体的には、例えば、合成樹脂がポリイミド樹脂である場合には、ポリアミド酸溶液を溶解している有機溶媒、イミド化触媒、脱水剤、反応副生物(脱水剤の吸水成分、水)、添加剤を挙げることができる。
上記残存成分割合は、当該ゲルフィルムの乾燥後の重量(以下、完全乾燥合成樹脂重量とも称する)をWa(g)とし、残存成分の重量をWb(g)とした場合、残存成分割合Wc(重量%)は、次の式(2)で算出される。
Wc=(Wb/Wa)×100 ・・・(2)
上記残存成分割合Wcは、上記のように500重量%以下であることが好ましく、25重量%以上200重量%以下であることがより好ましく、30重量%以上150重量%以下であることがさらに好ましい。残存成分割合Wcが500重量%を超えると、後述する端部固定化工程において、有機溶媒の除去に伴うフィルム収縮量が増大するため、得られる合成樹脂フィルムに亀裂が入る場合がある。
なお、完全乾燥合成樹脂重量Waおよび残存成分の重量Wbは、次のようにして算出する。すなわち、100mm×100mmのゲルフィルムの重量(乾燥前重量)Wdを測定した後に、当該ゲルフィルムを450℃のオーブン中で20分乾燥した後、室温まで冷却し、その後に測定した重量を完全乾燥合成樹脂重量Waとする。また、ゲルフィルムの乾燥前重量Wdと完全乾燥合成樹脂重量Waの差分(Wd−Wa)を残存成分の重量Wbとする。
<合成樹脂>
本発明で用いられる合成樹脂は特に限定されるものではないが、FPCやTAB、COFの基板等に好適に用いることが可能な高分子、すなわち電子材料に適した高分子を挙げることができる。具体的には、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ナイロン6等を挙げることができる。これらの中でも、本発明では、ポリイミド樹脂を好適に用いることができる。なお、本発明で用いられるポリイミド樹脂については、後に詳述する。
<加熱工程における加熱条件>
上記加熱工程で行われる加熱処理の条件は特に限定されるものではないが、少なくとも加熱処理前後におけるフィルムの搬送速度を制御する必要がある。具体的には、加熱処理前におけるフィルムの搬送速度をVX とし、加熱処理後のフィルムの搬送速度をVY としたときに、加熱処理前後におけるフィルムの搬送速度の比(便宜上、搬送速度比と称する)VX /VY を、0.90<VX /VY <1.1に設定する。
フィルムの搬送速度をこのように制御すれば、フィルム加熱装置にゲルフィルムを搬送して加熱処理を施す場合に、TD方向全幅を1回以上十分に加熱することができる。そのため、MD方向への分子の配向を良好に制御することができる。なお、上記搬送速度比VX /VY は、VX /VY =1が好ましいが、もちろんこれに限定されるものではなく、上限が1.1未満であり下限が0.90を超えている範囲内であればよい。また、フィルムの具体的な搬送速度は、加熱処理前後における搬送速度から算出される上記搬送速度比が上記範囲内に入っていればどのように変化してもよい。
また、本発明にかかる製造方法では、加熱処理の条件のうち、加熱前後におけるフィルム幅の変化、すなわちフィルム収縮率が一定の範囲内に入っていることが好ましい。具体的には、上記加熱工程における加熱処理は、加熱直前のゲルフィルムの幅をWX 、加熱直後のゲルフィルムの幅をWY としたときに、WX およびWY は、次に示す式(1)
20.0≧(WX−WY)/WX×100>0.00 ・・・(1)
の関係を満たすように行われることが好ましい。更に好ましくは、WX およびWY は、次に示す式(3)
18.0≧(WX−WY)/WX×100≧1.00 ・・・(3)
の関係を満たすように行われることが特に好ましい。ここで、(WX−WY)/WX ×100=RS (単位%)がフィルム収縮率に相当する。ゲルフィルムのフィルム収縮率RS を上記範囲内で制御すれば、分子配向角がMD方向に向いた合成樹脂フィルムの得ることができる。
したがって、本工程で行われる加熱処理の条件、例えば、加熱温度、加熱時間、加熱回数等は、上記フィルム収縮率RS が上記範囲内に収まるように適宜選択すればよい。なお、フィルム収縮率RS 上限は、20.0%以下であればよいが、18.0%以下であることがより好ましい。フィルム収縮率RS が20.0%を超えると、最終的に得られる合成樹脂フィルムの幅が狭くなり、しかもトタン板状に波打った形状となるため好ましく無い。
上記のように、本工程で行われる加熱処理の条件は、上記フィルム収縮率RS が上記範囲内に収まるようになっていれば特に限定されるものではないが、機械的送り方向に直交する方向の全幅に対して、加熱温度は90℃以上350℃以下であることが好ましく、100℃以上300℃以下であることがより好ましい。加熱温度が350℃を超えるとゲルフィルムの収縮速度が素早くなり、制御が困難になるため好ましくない。一方、90℃未満であれば、ゲルフィルムの乾燥・収縮が進行しないため好ましくない。なお、本願における加熱温度とは、ゲルフィルムの全幅にわたって加熱温度を測定した場合の平均温度を意味する。
さらに、本発明にかかる製造方法では、加熱処理の条件のうち、ゲルフィルムを搬送する際の張力も制御することがより好ましい。具体的には、上記加熱工程において、ゲルフィルムの搬送時の張力が100g/mm2 を超える状態で加熱処理を施すことがより好ましい。なお、上記張力は、公知の方法に従って、ゲルフィルムの平均厚みに基づいて算出することができる。これにより、ゲルフィルムを安定して搬送することができるので、MD方向への分子の配向をより良好に制御することができる。なお、固定時の張力は、100g/mm2 を超えていることが好ましいが、110〜1000g/mm2 の範囲内の張力であることがより好ましい。
<ゲルフィルムの加熱方式>
また、ゲルフィルムの加熱方式も特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、図2に示すような加熱ロール方式の加熱装置や、図3に示すようなニップロール方式の加熱装置、あるいは図4に示すように、加熱炉を用いて端部を把持しない状態で加熱する方式(加熱炉方式)等を用いることができる。
図2に示す加熱ロール方式では、前段のフィルム加熱ロール21と後段のフィルム冷却ロール22とをそれぞれ少なくとも一つ備えており、さらにフィルムを搬送するための搬送ロール23を適宜備えていればよい。フィルム加熱ロール21・フィルム冷却ロール22は搬送ロール23と併用することもできる。図2では、搬送ロール23は、フィルム加熱ロール21の前段に1つ、フィルム冷却ロール22の後段に2つの計3つ備えられているがもちろんこの構成に限定されるものではない。
図3に示すニップロール方式では、一対のフィルム加熱ニップロール24と一対のフィルム冷却ニップロール25とを備えている構成を挙げることができる。この方式の加熱装置では、フィルム加熱ニップロール24を少なくとも備えておればよく、フィルム冷却手段はフィルム冷却ニップロール25以外の構成であってもよい。なお、図3では、搬送ロール23が、フィルム加熱ニップロール24の前段に1つ、フィルム冷却ニップロール25の後段に2つの計3つ備えられているがもちろんこの構成に限定されるものではない。
図4に示す加熱炉方式では、加熱炉26の前段に一対のフィルム繰り出しロール27、後段に一対のフィルム送り出しロール28がそれぞれ設けられている構成を挙げることができる。この方式の加熱装置では、加熱炉26(テンター炉等)とこれにゲルフィルムを連続して搬送し、排出させるための手段が設けられていればよい。なお、図4では、搬送ロール23が、フィルム繰り出しロール27の前段に1つ、フィルム送り出しロール28の後段に2つの計3つ備えられているがもちろんこの構成に限定されるものではない。
本工程においては、ゲルフィルムをTD方向全幅、すなわち、ゲルフィルムの両端部を完全に含むフィルム全幅を加熱することになる。そのため、例えば、加熱方式として、図2に示す加熱ロール方式や図3に示すニップロール方式を採用する場合には、フィルム加熱ロール21やフィルム加熱ニップロール24等の加熱手段は、ゲルフィルムの幅以上のロール幅を有していることが望ましい。また、図4に示す加熱炉方式においては、加熱炉26における加熱領域は、ゲルフィルムの全幅以上の幅を有していることが望ましい。
なお、上記各方式の加熱装置では、搬送時のゲルフィルムの張力を、100g/mm2 を超える張力とするための構成を適宜備えることができる。具体的には、図2に示す加熱ロール方式および図3に示すニップロール方式では、図中最上流の搬送ロール23の前段に、荷重をかけるためのダンサーロール、フィルムをニップしてテンションをかけるニップロール、もしくはフィルムのテンションを制御するためにゲルフィルムの搬送速度を制御するS字ロールを設ければよい。これにより、ゲルフィルムの張力を制御することができる。
また、図4に示す加熱炉方式では、フィルム繰り出しロール27およびフィルム送り出しロール28の間での張力を制御すればよい。これにより、加熱処理前後のフィルム搬送速度を制御することができる。さらに、搬送にあたっては、加熱炉26内に搬送される際には張力が小さいほど好ましいので、加熱炉26にゲルフィルムが挿入される前に、張力をカットするためのニップロールやS字ロールを設けるとより好ましい。これらロールを設けることで、加熱炉26に搬送される前のゲルフィルムの張力は1000g/mm2 に制御することができる。
(II)本発明にかかる合成樹脂フィルムの製造方法
本発明にかかる製造方法は、上記加熱工程を少なくとも含む方法であればよいが、具体的には、当該加熱工程に加えて、ゲルフィルムを形成するゲルフィルム形成工程、ゲルフィルムの機械的送り方向に直行する方向の両端部を固定する端部固定化工程、両端部を固定化されたゲルフィルムを加熱炉内に搬送して加熱し、焼成する焼成工程等を含む構成を挙げることができる。なお、上記加熱工程は、ゲルフィルム形成工程と端部固定化工程との間に行われる。
上記製造方法を行う合成樹脂フィルムの製造装置としては、具体的には、例えば、図1に示すようなゲルフィルム形成部10、加熱部20、ゲルフィルム把持部材30、段階的加熱炉40、フィルム巻取部50等を備える構成を挙げることができる。なお、図中、ゲルフィルムを部材番号8で示し、合成樹脂フィルムを部材番号9で示す。このうち、ゲルフィルム形成部10がゲルフィルム形成工程を行うための手段であり、加熱部20が加熱工程を行うための手段であり、ゲルフィルム把持部材30が端部固定化手段を行うための手段であり、段階的加熱炉40が焼成工程を行うための手段である。
<ゲルフィルム形成工程>
本発明におけるゲルフィルム形成工程は、材料である合成樹脂を用いてゲルフィルムを形成する工程であれば特に限定されるものではない。図1に示す構成では、合成樹脂および有機溶媒を含む液状の樹脂組成物を支持体上に流延・塗布してゲルフィルムを形成する構成のゲルフィルム形成部10を例示している。前述したように、本発明では、合成樹脂フィルムを連続的に製造するため、ゲルフィルム形成部10としては、ゲルフィルム8を連続的に形成することができる上記構成が好ましい。もちろん、予めゲルフィルム8を形成して巻き取っておく等しておき、これを加熱部20や段階的加熱炉40に繰り出すような構成となっていてもよい。
ゲルフィルムを形成する際の形成条件は特に限定されるものではなく、製造しようとする合成樹脂フィルムの種類や形状等に応じて適宜設定すればよい。本発明では、合成樹脂フィルムとしてポリイミドフィルムを好適に製造することができるので、ポリイミドフィルムの製造を例に挙げて、ゲルフィルム形成工程を含む各工程を説明する。
ポリイミドフィルムを製造する場合には、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸を合成し、このポリアミド酸の有機溶媒溶液(ポリアミド酸溶液と称する)を用いてゲルフィルムを形成すればよい。換言すれば、ポリイミドフィルムを製造する場合に、ゲルフィルム形成工程で用いられる樹脂組成物は、合成樹脂としてポリアミド酸を含む組成物ということができる。このように合成樹脂の種類によっては、樹脂組成物には合成樹脂そのものが含まれていてもよいし、合成樹脂の前駆体が含まれていてもよい。
上記ポリアミド酸溶液の具体的な組成は特に限定されるものではなく、ポリアミド酸とこれを溶解または分散可能な有機溶媒とを少なくとも含んでいればよい。ポリアミド酸溶液に用いられる有機溶媒としては、後述する合成樹脂を重合する工程の項で説明するように、重合用溶媒をそのまま用いることができる。また、ポリアミド酸はイミド化することによりポリイミド樹脂となるので、イミド化用の反応剤であるイミド化触媒や脱水剤を含んでいることが好ましい。なお、これら反応剤については後述する。
また、ポリアミド酸溶液には、その他の添加剤が含まれていてもよい。具体的には、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料、脂肪酸エステル、有機滑剤(例えばワックス)等を挙げることができる。さらに、ゲルフィルムやポリイミドフィルムの表面の易滑性や耐磨耗性、耐スクラッチ性等を付与するために、クレー、マイカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、湿式または乾式シリカ、コロイド状シリカ、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、硫酸バリウム、アルミナおよびジルコニア等の無機粒子、アクリル酸類、スチレン等を構成成分とする有機粒子等を添加してもよい。これらその他の添加剤は、ポリイミドフィルムを製造する場合だけでなく、他の合成樹脂フィルムを製造する場合にも用いることができる。
なお、ポリアミド酸溶液にイミド化触媒、脱水剤、添加剤等を加える場合には、これらを混合する前に、フィルター等にて不溶解原料や混入異物をポリアミド酸溶液から取り除く工程設けると好ましい。これにより得られるポリイミドフィルムにおいて、フィルム中の異物や欠陥を減少させることが可能になる。上記フィルターの目開きは特に限定されるものではないが、最終的に製造しようとするポリイミドフィルムの厚みの1/2以下であることが好ましく、1/5以下であることがより好ましく、1/10以下であることがさらに好ましい。
上記ポリアミド酸溶液の粘度は特に限定されるものではないが、支持体上に流延・塗布しやすい程度の流動性を有していることが好ましい。具体的には、50Pa・s以上1000Pa・s以下であることが好ましく、100Pa・s以上500Pa・s以下であることがより好ましく、200Pa・s以上350Pa・s以下であることが最も好ましい。なお、上記粘度は、23℃に保温された水浴中でポリアミド酸溶液を1時間保温し、その時の粘度をB型粘度計で、ローターはNo.7を回転数は4rpmで測定したときの粘度である。上記範囲内であれば、ゲルフィルムとして製造する際に、ポリアミド酸溶液が取扱いやすくなる。
また、上記ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の固形分濃度も特に限定されるものではないが、5〜40重量%の範囲内が好ましく、10〜30重量%の範囲内であることがより好ましく、13〜25重量%であることがさらに好ましい。上記範囲内であれば、ゲルフィルムとして製造する際に、ポリアミド酸溶液が取扱いやすくなる。
なお、上記ポリアミド酸溶液の粘度および固形分濃度は、必要に応じて、有機溶媒を加えて好ましい範囲内に調整することができる。
また、上記粘度や固形分濃度は飽くまでポリアミド酸溶液の場合に好ましい例であり、他の合成樹脂フィルムを製造する場合には、当該合成樹脂の種類等に応じて、適宜好ましい範囲を設定すればよい。
上記ポリアミド酸溶液は、支持体上に連続的に流延・塗布し、乾燥させることでゲルフィルムを得る。支持体としては、ポリアミド酸溶液等の液状の樹脂組成物により溶解や変質することがなく、当該樹脂組成物に含まれる有機溶媒を除去するために要する加熱にも耐え得るものであればどのような支持体でも用いることができる。特に、好ましくは、金属板を繋ぎ合わせて形成されるエンドレスベルト、もしくは金属製のドラム等を挙げることができる。これら金属製の支持体は溶液状の樹脂組成物を塗布して乾燥させる工程上、好ましい。
上記エンドレスベルトやドラムの材質は、上述した耐久性を有する金属であればどのような金属でも用いることができるが、特に、ステンレス材(SUS材)が好ましく用いられる。また、SUS材としては、その表面に、クロム、チタン、ニッケル、コバルト等の金属にてメッキを施したものを用いるとより好ましい。このようにメッキを施したSUS材を用いることで、エンドレスベルトやドラムの表面において、液状の樹脂組成物の密着性を向上させたり、乾燥したゲルフィルムを剥離させやすくしたりすることができるため好ましい。
また、上記エンドレスベルトやドラム上は、平滑な表面を有することが好ましいが、その表面上には無数の凸凹を形成してもよい。エンドレスベルトやドラムの表面に加工される凸凹の形状は特に限定されるものではないが、直径が0.1〜100μmの範囲内で深さが0.1〜100μmであることが好ましい。これら支持体表面に凸凹を形成することで、ゲルフィルムの表面に微細な突起を形成することが可能となり、当該突起によりゲルフィルム(さらには最終的に製造される合成樹脂フィルム)同士の摩擦による傷の発生、あるいは、ゲルフィルム同士のすべり性を向上させることが可能となる。
図1に示す製造装置では、塗布用ダイス11から支持体12の表面に対して液状の樹脂組成物(ポリアミド酸溶液等)を流延・塗布し、支持体12の表面で乾燥させてゲルフィルム8を形成し、剥離部材13により支持体12の表面から引き剥がす。剥離部材13としては支持体12の表面からゲルフィルム8を引き剥がすことができるような手段であれば特に限定されるものではないが、ニップロールやS字ロールを好ましく用いることができる。これにより、ゲルフィルム8を強制的かつ円滑に引き剥がすことができる。
上記ゲルフィルム形成工程において、流延・塗布した樹脂組成物を支持体上で加熱・乾燥させるときの条件(乾燥温度・乾燥時に吹き付けるときの熱風の風速・排気速度・乾燥時間等)は、残存成分割合Wcがゲルフィルムの項で説明した範囲内となるように適宜設定することが好ましい。特に、合成樹脂フィルムがポリイミドフィルムの場合には、50〜200℃の範囲内の温度で加熱・乾燥させることが好ましく、50〜180℃の範囲内で加熱・乾燥させることがより好ましい。また、乾燥時間は、20秒〜60分の範囲内で乾燥させることが好ましい。なお、乾燥過程は多段式の温度管理とすると好ましい。
ゲルフィルム8の引き剥がし速度は、支持体12の回転速度とほぼ同じ速度で引き剥がせばよいが、具体的には、支持体12の回転速度の1割以内であれば、剥離速度の変動は大きく影響しない。
<ポリアミド酸のイミド化>
上記のように、ポリアミド酸溶液からゲルフィルムを形成する場合には、ポリアミド酸を部分的にイミド化を行い、前記(I)のゲルフィルムの項で説明したような、自己支持性を有するフィルムとする。上記イミド化法としては従来公知の方法を用いることができる。具体的には、熱イミド化法および化学イミド化法を挙げることができる。
まず、熱イミド化法は、加熱によってのみポリアミド酸のイミド化を促進させる方法である。加熱条件は、ポリアミド酸の種類やゲルフィルムの厚さ等により適宜設定されるものである。さらに、熱イミド化においては、ポリアミド酸溶液中に剥離剤、熱イミド化触媒等の添加剤を適宜混合してイミド化することが望ましい。これによりゲルフィルムの剥離やポリアミド酸のイミド化を効率的に進めることができる。
次に、化学イミド化法は、ポリアミド酸に、イミド化触媒、脱水剤を作用させる方法である。脱水剤としては、具体的には、例えば、無水酢酸などの脂肪族酸無水物、無水安息香酸などの芳香族酸無水物等を用いることができる。イミド化触媒としては、具体的には、例えば、トリエチルアミンなどの脂肪族第3級アミン類、ジメチルアニリンなどの芳香族第3級アミン類、ピリジン、ピコリン、イソキノリン等の複素環式第3級アミン類等を用いることができる。
上記イミド化触媒の使用量は特に限定されるものではないが、ポリアミド酸に含まれるアミド基の量(モル)を基準として、モル比で、イミド化触媒/ポリアミド酸中アミド基=0.01〜10の範囲内が好ましく、0.5〜5の範囲内がより好ましい。また、脱水剤およびイミド化触媒を併用する際は、モル比で、脱水剤/ポリアミド酸中アミド基=0.01〜10の範囲内であり、かつ、イミド化触媒/ポリアミド酸中アミド基=0.01〜10の範囲内であることが好ましく、脱水剤/ポリアミド酸中アミド基=0.5〜5の範囲内であり、かつ、イミド化触媒/ポリアミド酸中アミド基=0.5〜5の範囲内であることがより好ましい。脱水剤・イミド化触媒を併用する場合には、アセチルアセトン等の反応遅延剤をさらに併用しても良い。
また、脱水剤・イミド化触媒を併用する場合、0℃にてポリアミド酸と脱水剤・触媒混合物とが混合されてから粘度上昇が始まるまでの時間(ポットライフ)に基づいて使用量を規定してもよい。一般的には、ポットライフが0.1分〜120分の範囲内が好ましく、1分〜60分の範囲内がより好ましい。
<加熱工程・端部固定化工程>
上記ゲルフィルム形成工程で得られたゲルフィルムに対しては、前記(I)の項で説明したように、加熱工程が施される。図1に示す例では、加熱部20はフィルム加熱ロール21を含む加熱ロール方式(図2参照)となっているが、もちろん本発明はこの方式に限定されるものではない。加熱工程の後には、加熱処理したゲルフィルムのTD方向の両端部を固定する端部固定化工程が行われる。
ここで、加熱工程は、図1に示す製造装置の構成からも明らかなように、ゲルフィルム形成部10で形成されたゲルフィルム8をゲルフィルム把持部材30まで搬送する工程でもある。したがって、本発明にかかる製造方法では、形成されたゲルフィルムをゲルフィルムの端部を固定化する手段まで搬送する工程において、加熱処理を行うということもできる。
上記端部固定化工程では、加熱処理がなされたゲルフィルム8を段階的加熱炉40に搬送するために、TD方向の両端部を固定する工程である。図1に示す例では、ゲルフィルム把持部材30により両端部の固定化が行われる。このゲルフィルム把持部材30としては、ゲルフィルム8を両端部を固定化できる手段であれば特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ピンシート、クリップ等の一般にフィルムの製造装置において用いられる把持装置を用いることができる。
<焼成工程>
上記端部固定化工程で両端部を固定化されたゲルフィルムは、焼成工程にて加熱・焼成処理がなされる。この焼成工程では、両端部を固定化されたゲルフィルムを加熱炉内で搬送させることにより加熱・焼成を行うようになっている。焼成工程で用いられる加熱炉は特に限定されるものではなく、公知の加熱炉を用いればよい。具体的には、例えば、(1)フィルム上面または下面、あるいは、両面から100℃以上の熱風をフィルム全体に噴射して加熱する方式の熱風炉(熱風オーブン等)、(2)遠赤外線を照射してフィルムを焼成する遠赤外線発生装置を備えた遠赤外線炉等を好適に用いることができる。
上記焼成工程における加熱の具体的な手法は特に限定されるものではなく、公知の加熱炉を用いればよいが、好ましくは、初期加熱温度から段階的に温度を上昇させて加熱を行うようになっていると良い。すなわち、本発明では、例えば、図1に示すように、2以上の加熱炉を複数台連結し、段階的に温度を上げて加熱・焼成することが好ましい。このとき、第一の加熱炉の温度を制御することが重要となる。
本発明においては、第一の加熱炉の加熱温度(初期加熱温度)が300℃以下であることが好ましく、60℃以上250℃以下であることがより好ましく、100℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。この温度範囲であれば、得られる合成樹脂フィルムにおいて、MD方向に分子配向を制御させやすくすることができる。また、初期加熱温度が300℃以下であれば、ポリイミドフィルムのボーイング現象を抑制することができる。これにより、端部においてもMD方向に分子配向したポリイミドフィルムを製造することが可能となる。
上記焼成工程を行うための加熱炉は、図1に示すように、ゲルフィルム8の搬送方向に沿って複数の加熱炉を連結して設けた段階的加熱炉40を好適に用いることができる。この段階的加熱炉40の具体的な構成も特に限定されるものではなく、上記熱風炉または遠赤外線炉を単独で、もしくはこれらを組み合わせて形成すればよい。具体的には、例えば、上記熱風炉および遠赤外線炉を混在させながら、複数台連結することにより、段階的に加熱温度を上昇させる段階的加熱炉とすることができる。なお、段階的加熱炉における個々の加熱炉の数、各加熱炉の温度は焼成条件により適宜設定されるものであり、変更可能となっていることが好ましい。
なお、上記段階的加熱炉においては、前段の加熱炉からの熱を次の段の加熱炉へ伝えないために、各炉を仕切るための断熱手段を設けることが好ましい。具体的な断熱手段波特に限定されるものではなく、公知の断熱材等を用いればよい。
上記段階的加熱炉においては、第一の加熱炉の温度を制御することが重要であるが、第二の加熱炉の温度についても制御することがより好ましい。具体的には、第二の加熱炉の温度は、第一の加熱炉の温度よりも50℃以上300℃以下の温度範囲に設定することが好ましく、60℃以上250℃以下の温度範囲に設定することがより好ましい。これにより、得られる合成樹脂フィルムの分子配向度を小さく制御することが可能となる。
なお、上記第一の加熱炉の温度は、60℃以上とすることがより好ましいが、60℃未満であっても合成樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)の製造は可能である。第一の加熱炉の温度が60℃未満であると、ポリイミドフィルムの分子配向軸を制御する上では好ましいが、乾燥が進行しない。それゆえ、第一の加熱炉の温度が60℃未満の場合には、第二の加熱炉の温度を100℃以上250℃以下の範囲に設定することが好ましい。このように、第一の加熱炉の温度を60℃未満としても、第二の加熱炉の温度を上記温度に設定することで、MD方向に分子配向したポリイミドフィルムが得やすくなる。
なお、上記第一加熱炉および第二の加熱炉より後段の加熱炉(第三の加熱炉以降の加熱炉)における加熱温度は、200℃から約600℃までの温度範囲で、段階的に加熱できるように設定することが好ましい。なお、最高焼成温度が低い場合には、イミド化率が完全でなくなるおそれがあるので、段階的かつイミド化に十分な高温で加熱処理を行うことが好ましい。
図1に示す製造装置の例では、段階的加熱炉40は5台の加熱炉41〜45から構成されており、第一の加熱炉41、第二の加熱炉42、第三の加熱炉43、第四の加熱炉44、および第五の加熱炉45の順で、ゲルフィルム8の搬送方向(MD方向:矢印D1 の方向)に沿って配置されている。なお、図1は、段階式加熱炉40をフィルム巻取部50とともに側面から見た図である。
なお、合成樹脂フィルムがポリイミドフィルムの場合には、イミド化法として熱イミド化法を採用するか化学イミド化法を採用するかにより、焼成工程におけるゲルフィルムの加熱温度、加熱時間は大きく異なる。本発明にかかる製造方法であれば、熱イミド化の場合であっても上記制御を行えば、目的とする合成樹脂フィルムを得ることができる。
<その他の工程>
本発明にかかる製造方法では、上記ゲルフィルム形成工程、加熱工程、端部固定化工程、焼成工程以外の工程を含んでいてもよい。具体的には、例えば、図1に示すように、段階的加熱炉40を通過した後、得られた合成樹脂フィルム(ポリイミドフィルム9)をフィルム巻取部50にて巻き取る工程等を挙げることができる。さらに、合成樹脂フィルムの表面に異種のワニスや表面コーティング材を塗布する工程や、表面を処理する工程(プラズマ処理装置、コロナ処理装置、エンボス加工装置等による表面処理工程)等が含まれていても良い。
つまり、本発明では、必要に応じて、熱処理、成形、表面処理(プラズマ処理、コロナ放電処理)、ラミネート、コーティング、印刷、エンボス加工、エッチング(アルカリエッチング、プラズマエッチング)、レーザー処理等の任意の加工手段を製造装置内に取り付けたオンライン装置で行ってもよい。もちろん、製造装置とは別個に設けられた外部装置により、製造された合成樹脂フィルムに対して上記各加工処理を行ってもよい。
<合成樹脂を重合する工程>
さらに、本発明にかかる製造方法には、合成樹脂を重合する工程が含まれていてもよい。例えば、図1に示す製造装置において、塗布用ダイス11の前段に合成樹脂を重合(合成)する装置を設け、合成樹脂を含む液状の樹脂組成物を製造する工程から、ゲルフィルム形成工程、加熱工程、端部固定化工程、焼成工程、巻取工程まで連続的に行ってもよい。
合成樹脂の重合方法は特に限定されるものではなく、用いる合成樹脂の種類に応じて公知の方法を採用すればよい。本発明では、前述したようにポリイミドフィルムを製造する場合に好適に用いることができるので、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸を合成する場合を例に挙げて説明する。
ポリアミド酸の合成方法は公知の方法を用いることができ、特に限定されるものではない。一般的には、まず、芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種を、実質的等モル量を有機溶媒中に溶解させて有機溶媒溶液を調製する。この有機溶媒溶液を、制御された温度条件下で上記酸二無水物とジアミンとの重合が完了するまで攪拌する。これによりポリアミド酸溶液を直接製造することができる。このポリアミド酸溶液は、通常、5〜40重量%の範囲内、好ましくは10〜30重量%の範囲内の固形分濃度で得ることができる。固形分濃度がこの範囲内であれば、ゲルフィルム形成工程に適当な分子量と粘度を得ることができる。
ポリアミド酸の具体的な合成方法(重合方法)としては、公知のあらゆる方法を採用することができるが、特に好ましい合成方法としては、例えば、次に示す5つの方法を挙げることができる。
まず、第一の方法では、芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する。
次に、第二の方法では、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、当該酸二無水物に対し過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、最終的に芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を添加して重合させる。
次に、第三の方法では、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、当該酸二無水物に対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いて、ここに同種もしくは異種の芳香族ジアミン化合物を追加添加した後、最終的に芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を添加して重合する。
次に、第四の方法では、芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解及び/または分散させた後、実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を添加して重合する。
次に、第五の方法では、実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する。
上記ポリアミド酸の重合に好適に用いられる有機溶媒としては、特に限定される物ではないが、テトラメチル尿素、N,N’−ジメチルエチルウレア等ウレア類;ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルフォン等のスルホキシドあるいはスルホン類;N,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ−ブチルラクトン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド類;ホスホリルアミド類;等の非プロトン性溶媒を挙げることができる。さらに、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;フェノール、クレゾールなどのフェノール類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、p−クレゾールメチルエーテルなどのエーテル類;等も挙げられることができる。
上記有機溶媒は、通常単独で用いられるが、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。これら有機溶媒の中でも、非プロトン性極性溶媒が好ましく用いられ、特に、DMF、DMAc、NMPなどのアミド類がより好ましく用いられる。
上記ポリアミド酸のモノマー原料として用いられる酸二無水物としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−メチルフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−(2,3−ジメチルフェニレン)ビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、4,4’−ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、1,4−ナフタレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、2,6−ナフタレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物;さらに、エチレンテトラカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)スルホン、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸、4,4−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸、4,4−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸、2,2−ビス[(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン等の芳香族テトラカルボン酸もしくは当該酸の酸二無水物を挙げることができる。
上記化合物の中でも、ピロメリット酸、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸)の芳香族テトラカルボン酸または当該酸の酸二無水物を好適に用いることができる。
これらの化合物は、少なくとも1種が用いられることが好ましい。また、これら化合物は1種類のみを用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
次に、ポリアミド酸のモノマー原料として用いられるジアミン類としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[3−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシジベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[3−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[3−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[3−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェニル)]スルホン、ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェニル)]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、ジアミノポリシロキサン等の化合物を挙げることができる。
これらの化合物は、少なくとも1種類が用いられることが好ましい。また、これら化合物は1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエ−テル、3,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、4,4’−ジアミノジフェニルエ−テルを好適に用いることができる。
特に本発明においては、得られるポリイミドフィルムの分子配向度を好ましい範囲に制御しやすくなる点から、モノマー原料として、次に示す酸二無水物およびジアミン類の組み合わせをより好ましく用いることができる。
具体的には、(1)ジアミン類としてp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを用い、酸二無水物としてピロメリット酸二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)を用いる組み合わせ、(2)ジアミン類としてp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを用い、酸二無水物としてピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いる組み合わせ、(3)ジアミン類としてp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを用い、酸二無水物としてピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を用いる組み合わせ、(4)ジアミン類としてp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを用い、酸二無水物としてピロメリット酸二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いる組み合わせ、(5)ジアミン類としてp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを用い、酸二無水物として3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いる組み合わせ、(6)ジアミン類として4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを用い、酸二無水物としてピロメリット酸二無水物を用いる組み合わせ、(7)ジアミン類として4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンを用い、酸二無水物としてピロメリット酸二無水物を用いる組み合わせ等を挙げることができる。
また、本発明においては、ポリイミドフィルムの弾性率は高い方が好ましい。これは、ポリイミドフィルムが高温に晒された場合の取扱性を良好なものとできるためである。そこで、得られるポリイミドフィルムの弾性率を高くすることができる点から、モノマー原料として、次に示す酸二無水物およびジアミン類の組み合わせをより好ましく用いることができる。
すなわち、ジアミン類としてp−フェニレンジアミンを用い、酸二無水物原料としてピロメリット酸二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物の組み合わせを挙げることができる。
得られるポリイミドフィルムの具体的な弾性率としては、引張り弾性率が4.0GPa以上であることが好ましい。なお、弾性率は高い方が好ましいが、製膜性の観点(弾性率が高すぎるとイミド化途中でフィルムが破れたりする場合がある)や、取扱性の低下(フレキシビリティーに欠ける場合がある)等から上限は12.0GPa以下であることが好ましい。
また、得られるポリアミド酸の平均分子量は、GPCのPEG(ポリエチレングリコール)換算で10000以上であることが好ましい。ポリアミド酸の平均分子量の下限が10000以上であれば、得られるポリイミドフィルムの物性を良好なものとできるため好ましい。
(III)本発明にかかる合成樹脂フィルム、並びに本発明の利用
<本発明にかかる合成樹脂フィルム>
本発明にかかる製造方法を用いて得られる合成樹脂フィルムは、MD方向に分子を配向させた状態となっており、特に好ましくは、分子配向角がMD方向を向いている。
上記分子配向角および分子配向軸とは、本発明では次のように定義される。すなわち、合成樹脂フィルムの長手方向(MD方向)をX軸、合成樹脂フィルムの幅方向(TD方向)をY軸、合成樹脂フィルムの厚み方向をZ軸方向とした場合に、当該合成樹脂フィルムのXY平面上で見たときに、最も分子配向度が大きい方向を分子配向軸と称し、この分子配向軸がMD方向からずれている角度のことを分子配向角と称する。
上記分子配向軸の測定は、汎用の測定装置であればどのような装置を用いても良い。具体的には、例えば、王子計測機器株式会社製の分子配向計MOA2012A(測定周波数12GHz)、あるいはMOA6015(測定周波数15GHz)を好適に用いることができる。このとき、合成樹脂フィルムから40mm×40mmの測定用サンプルを採取し、当該測定用サンプルについて分子配向軸の測定を行う。
なお、合成樹脂フィルムの幅が狭い場合には、複数の測定用サンプルをそれぞれMD方向にずらしながらサンプリングすることが好ましい。上記分子配向角は、上記分子配向軸を測定した場合に、当該分子配向軸がMD方向からずれてくる角度を意味しているため、合成樹脂フィルムの分子配向角が0°とは、分子配向軸がMD方向と並行な方向であることを意味している。
例えば、図5に示すように、MD方向を図中矢印D1 で示し、TD方向を図中矢印D2 で示す場合に、分子配向角が0°とは、分子配向軸がD1 方向と一致することを意味している。また、分子配向角が正(プラス)の場合は、MD方向から反時計回りに角度が傾斜した場合のこと指し、図5では、点線IL の状態を示す。一方、分子配向角が負(マイナス)の場合は、MD方向から時計回りに角度が傾斜した場合のことを指し、図5では、点線IR の状態を指す。
本発明にかかる合成樹脂フィルムおいては、MD方向を基準(0°)とした場合(図5のD1 方向)に、当該合成樹脂フィルムの分子配向角が、TD方向全幅において、0±25°となっていることが好ましい。すなわち、25°の分子配向角とは、図5において、MD方向から反時計回りに25°の角度で分子配向軸が傾斜した場合のこと(図5の点線IL が25°)を指し、−25°の分子配向角とは、図5において、MD方向から時計回りに25°の角度で分子配向軸が傾斜した場合のこと(図5の点線IR が−25°)を指す。それゆえ、本発明において好ましい0±25°の分子配向角とは、MD方向に対して左右に25°以内(図5において、点線IL から点線IR の範囲内)となるように制御されていることを意味する。
上記合成樹脂フィルムのその他の構成は特に限定されるものではなく、当該合成樹脂フィルムの用途等に応じて、適切な形状を設定することができる。例えば、上記合成樹脂フィルムのより好ましい具体例であるポリイミドフィルムについて説明すれば、本発明にかかるポリイミドフィルムの厚みが1〜200μmの範囲内であることが好ましく、1〜100μmの範囲内であることが好ましい。フィルムの厚みが200μmを超える場合には、フィルムの屈曲性が低下するので好ましくない。
<本発明の利用>
本発明にかかる合成樹脂フィルムの製造方法、並びにこれにより製造される合成樹脂フィルムは、様々な用途に用いることができる。中でも、エレクトロニクス分野に用いられる各種電子部品用の材料等として好適に用いることができる。したがって、本発明にかかる合成樹脂フィルムやその製造方法は、電子部品用の材料として用いるために様々な形状に加工することができる。
例えば、本発明には、上記合成樹脂フィルムを含む積層体が含まれる。この積層体としては様々な構成を挙げることができ、特に限定されるものではないが、本発明の合成樹脂フィルムにさらに他の樹脂層が積層された構成(樹脂積層体)や、金属層が積層された構成(金属積層体)等を挙げることができる。すなわち、本発明にかかる積層体は、少なくとも樹脂層または金属層を含んでいればよい。
樹脂積層体は、例えば、得られた合成樹脂フィルムの表面(片面または両面)に対して、他の1層以上のポリマー層を塗布する等して形成することができる。具体的には、例えば、熱可塑性ポリイミド樹脂(一般的な高分子の融点測定装置(例えば、DSC測定装置等)を用いて測定したガラス転移温度が300℃以下であるポリイミド樹脂を指す)、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニリデン、あるいはアクリル系ポリマー等を直接、あるいは接着剤などの層を介して積層することにより製造することができる。
また、熱可塑性ポリイミド樹脂を積層する際には、ゲルフィルム形成工程において一括して積層構造を形成してもよい。例えば、本発明にかかる合成樹脂フィルムが耐熱性を有するポリイミドフィルムであれば、熱可塑性ポリイミド樹脂と耐熱性のポリイミドフィルムとを同時に1以上のスリット口より支持体表面に同時に塗布し、ゲルフィルムを形成することができる。この二層構造のゲルフィルムを焼成すれば二層構造の樹脂積層体を得ることができる。さらに、3種以上の液状の樹脂組成物を同時に、または、支持体上で順次重ね合わせるように塗布して三層構造以上のゲルフィルムを形成してもよい。
さらに、本発明にかかる製造方法においては、流延・塗布する高分子樹脂溶液を1層以上同時に、あるいは、支持体上で順次重ね合わせるように塗布して樹脂積層体を製造することもできる。さらに、先にゲルフィルムを形成した後に、当該ゲルフィルムをポリアミド酸溶液に浸漬する、ポリイミド溶液中に浸漬する、あるいは、フィルムの表面にコーター等を用いてポリアミド酸溶液またはポリイミド溶液を塗布することにより、積層構造のゲルフィルムを形成し、これを焼成することで樹脂積層体を製造してもよい。
金属積層体は、合成樹脂フィルムをベースフィルム(基板)とし、その表面層に金属を積層することにより製造することができる。具体的には、例えば、合成樹脂フィルムの表面に接着剤を塗布した後に、金属箔を熱圧着して積層する方法等を挙げることができる。
この方法では、熱圧着時に合成樹脂フィルムのMD方向は、熱圧着装置により延伸され、TD方向は収縮する。それゆえ、当該合成樹脂フィルムの分子配向軸が0±25°以下に制御されていれば、合成樹脂フィルムのTD方向全幅において均等にMD方向に引き伸ばされることになり、例えば、250mm以上の幅を持った合成樹脂フィルムの場合には、フィルムの全幅の伸び率を制御しやすくなる。これにより、加熱下で引き伸ばされた場合に、フィルムの両端部の伸び率が異なることが原因で発生する、フィルムの片伸びや、フィルムのカールも抑制することができる。
なお、前記(II)の項(その他の工程)でも説明したが、積層以外にも、本発明にかかる合成樹脂フィルムに対しては、必要に応じて、熱処理、成形、表面処理、ラミネート、コーティング、印刷、エンボス加工、エッチング等の任意の加工を行ってもよい。
本発明の具体的な利用技術(用途)としては、特に限定されるものではないが、FPC用途、TAB用テープ基板、あるいは高密度記録媒体用ベースフィルム等の電気・電子機器基板用途、磁気記録媒体用途、電気絶縁用途などに特に好適に用いられる。例えば、本発明にかかる合成樹脂フィルムをベースフィルムとしてFPCを製造する用途には、本発明を非常に好適に用いることができる。
本発明について、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、本発明にかかる合成樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)における弾性率、分子配向角は、以下のように測定し評価した。
〔弾性率〕
得られたポリイミドフィルムの中央部および両端部において、MD方向から45°となる方向で、JIS C2318の6.3.3に準拠した方法で弾性率を測定し、その平均値を算出した。
〔分子配向角〕
得られたポリイミドフィルムの分子配向角を、分子配向計(王子計測機器株式会社製、商品名:MOA2012)にて測定した。このとき、実施例1〜4および8、並びに比較例1・参考例では、中央部を基準として260mm、380mm、460mmの部位の分子配向角を測定した。また、実施例5〜7では、中央部を基準として、260mm、380mmの部位の分子配向角を測定した。
〔実施例1〕
ジアミン成分として、4,4−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)40モル%と、パラフェニレンジアミン(p−PDA)60モル%とを用いるとともに、酸二無水物成分として、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TMHQ)55モル%、ピロメリット酸二無水物(PMDA)45モル%を用い、これら各モノマー成分をこれらモル比でN,N−ジメチルフォルムアミド(DMF)中に添加して重合しポリアミド酸溶液を合成した。
得られたポリアミド酸溶液に、アミド酸当量に対して、2.0倍当量の無水酢酸と1.0倍当量のイソキノリンを添加し、支持体としてのエンドレスベルト上にキャストした。キャスト時の厚さは焼成後20μmとなる厚さとし、幅は1100mmとした。100℃〜150℃で熱風乾燥し、自己指示性を有するゲルフィルムを得た(ゲルフィルム形成工程)。当該ゲルフィルムの残存成分割合は60重量%であった。
得られたゲルフィルムをベルト上から引き剥がし、加熱ロール(平均温度120℃)を通して加熱して収縮させた(加熱工程)。このときの加熱温度は120℃、加熱時間は10秒とすることにより、フィルム収縮率を2.1%とした。また、ゲルフィルムの張力を150g/mm2、搬送速度比を1.00とした。なお、加熱工程における加熱条件(ゲルフィルムの残存成分割合も含む)とフィルム収縮率および搬送速度比の結果を表1に示す。
次いで、加熱後のゲルフィルムにおけるTD方向の両端部を、連続的にゲルフィルムを搬送するピンシートに固定した(端部固定化工程)。固定後のゲルフィルムを加熱炉に搬送し段階的に焼成して(焼成工程)ポリイミドフィルムを得た。このときの段階的な焼成は、170℃(第一の加熱炉:熱風オーブン)、300℃(第二の加熱炉:熱風オーブン)、400℃(第三の加熱炉:熱風オーブン)、500℃(第四の加熱炉:遠赤外線炉)とした。
得られたポリイミドフィルムの幅は960mm、厚みは20μmとなり、弾性率は6.0GPaであった。また、分子配向角の結果を表2に示す。表2の結果から明らかなように、フィルムのTD方向の全幅において、分子配向軸の角度がMD方向に対して0±25°に制御されたポリイミドフィルムが作製できることが明らかになった。
〔実施例2〕
表1に示すように、加熱工程における加熱時間を20秒とすることでフィルム収縮率を5.2%とし、ゲルフィルムの張力を170g/mm2 、搬送速度比を1.05とした以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。また、得られたポリイミドフィルムの幅は960mmとなった。また、分子配向角の結果を表2に示す。表2の結果から明らかなように、フィルムのTD方向の全幅において、分子配向軸の角度がMD方向に対して0±25°に制御されたポリイミドフィルムが作製できることが明らかになった。
〔実施例3〕
表1に示すように、加熱工程における加熱温度を200℃とすることでフィルム収縮率を4.2%とし、ゲルフィルムの張力を160g/mm2 、搬送速度比を1.01とした以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。また、得られたポリイミドフィルムの幅は960mmとなった。また、分子配向角の結果を表2に示す。表2の結果から明らかなように、フィルムのTD方向の全幅において、分子配向軸の角度がMD方向に対して0±25°に制御されたポリイミドフィルムが作製できることが明らかになった。
〔実施例4〕
表1に示すように、加熱工程における加熱温度を300℃とするとともに、加熱時間を5秒とすることでフィルム収縮率を3.5%とし、ゲルフィルムの張力を155g/mm2 、搬送速度比を1.00とした以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。また、得られたポリイミドフィルムの幅は960mmとなった。また、分子配向角の結果を表2に示す。表2の結果から明らかなように、フィルムのTD方向の全幅において、分子配向軸の角度がMD方向に対して0±25°に制御されたポリイミドフィルムが作製できることが明らかになった。
〔実施例5〕
ゲルフィルム形成工程において、無水酢酸およびイソキノリンを含むポリアミド酸溶液をエンドレスベルト上にキャストするときに、幅を1000mmとするとともに、熱風乾燥の温度を100℃〜130℃とした以外は、実施例1と同様にして自己指示性を有するゲルフィルムを得た。当該ゲルフィルムの残存成分割合は54重量%であった。
また、表1に示すように、加熱工程における加熱時間を30秒とすることでフィルム収縮率を8.0%とし、ゲルフィルムの張力を300g/mm2 、搬送速度比を1.00とするとともに、焼成工程における段階的な焼成を、140℃(第一の加熱炉:熱風オーブン)、250℃(第二の加熱炉:熱風オーブン)、300℃(第三の加熱炉:熱風オーブン)、400℃(第四の加熱炉:熱風オーブン)、500℃(第五の加熱炉:遠赤外線炉)とした以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。また、得られたポリイミドフィルムの幅は800mmとなった。
得られたポリイミドフィルムにおける分子配向角の結果を表2に示す。表2の結果から明らかなように、フィルムのTD方向の全幅において、分子配向軸の角度がMD方向に対して0±25°に制御されたポリイミドフィルムが作製できることが明らかになった。
〔実施例6〕
ゲルフィルム形成工程において、無水酢酸およびイソキノリンを含むポリアミド酸溶液をエンドレスベルト上にキャストするときに、幅を1020mmとするとともに、熱風乾燥の温度を100℃〜130℃とし、ゲルフィルムの張力を420g/mm2 、搬送速度比を0.95とした以外は、実施例1と同様にして自己指示性を有するゲルフィルムを得た。当該ゲルフィルムの残存成分割合は65重量%であった。
また、表1に示すように、加熱工程における加熱時間を40秒とすることでフィルム収縮率を10.4%とするとともに、焼成工程における段階的な焼成を、140℃(第一の加熱炉:熱風オーブン)、250℃(第二の加熱炉:熱風オーブン)、300℃(第三の加熱炉:熱風オーブン)、400℃(第四の加熱炉:熱風オーブン)、500℃(第五の加熱炉:遠赤外線炉)とした以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。また、得られたポリイミドフィルムの幅は800mmとなった。
得られたポリイミドフィルムにおける分子配向角の結果を表2に示す。表2の結果から明らかなように、フィルムのTD方向の全幅において、分子配向軸の角度がMD方向に対して0±25°に制御されたポリイミドフィルムが作製できることが明らかになった。
〔実施例7〕
表1に示すように、加熱工程において、用いるゲルフィルムの残存成分割合が70重量%であるとともに、加熱時間を50秒とすることでフィルム収縮率を16.3%とし、さらに、ゲルフィルムの張力を800g/mm2 、搬送速度比を0.92とした以外は実施例6と同様にして、ポリイミドフィルムを得た。また、得られたポリイミドフィルムの幅は800mmとなった。
得られたポリイミドフィルムにおける分子配向角の結果を表2に示す。表2の結果から明らかなように、フィルムのTD方向の全幅において、分子配向軸の角度がMD方向に対して0±25°に制御されたポリイミドフィルムが作製できることが明らかになった。
〔実施例8〕
ゲルフィルム形成工程において、無水酢酸およびイソキノリンを含むポリアミド酸溶液をエンドレスベルト上にキャストするときに、幅を1100mmとした以外は、実施例1と同様にして自己指示性を有するゲルフィルムを得た。当該ゲルフィルムの残存成分割合は62重量%であった。
また、表1に示すように、フィルム収縮率を2.0%とし、ゲルフィルムの張力を155g/mm2 、搬送速度比を1.00とするとともに、焼成工程における段階的な焼成を、250℃(第一の加熱炉:熱風オーブン)、300℃(第二の加熱炉:熱風オーブン)、400℃(第三の加熱炉:熱風オーブン)、500℃(第四の加熱炉:遠赤外線炉)とした以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。また、得られたポリイミドフィルムの幅は960mmとなった。
得られたポリイミドフィルムにおける分子配向角の結果を表2に示す。表2の結果から明らかなように、フィルムのTD方向の全幅において、分子配向軸の角度がMD方向に対して0±25°に制御されたポリイミドフィルムが作製できることが明らかになった。
〔比較例1〕
実施例1と同様にして、残存成分割合が54重量%のゲルフィルムを得た。このゲルフィルムに対して加熱工程を施すことなく、実施例1と同様にして端部固定化工程および焼成工程を行い、ポリイミドフィルムを得た。なお、焼成工程における段階的な焼成を、250℃(第一の加熱炉:熱風オーブン)、300℃(第二の加熱炉:熱風オーブン)、400℃(第三の加熱炉:熱風オーブン)、500℃(第四の加熱炉:遠赤外線炉)とした。得られたポリイミドフィルムの幅は960mmとなった。
得られたポリイミドフィルムにおける分子配向角の結果を表2に示す。表2の結果から明らかなように、フィルムのTD方向の全幅において、ゲルフィルムを一度加熱しないとフィルムの端部の分子配向角が大きくなることが明らかになった。
〔比較例2〕
実施例1と同様にして、残存成分割合が54重量%のゲルフィルムを得た。このゲルフィルムを炉内の平均温度が390℃の加熱炉に通過させることにより加熱工程を行い、フィルム収縮率を4.0%とした。なお、搬送速度比は、1.00とした。ゲルフィルムはトタン板状に波打ったフィルムとなった。
このトタン板状に波打ったゲルフィルムに対して、実施例1と同様にして端部固定化工程および焼成工程を行い、ポリイミドフィルムを得た。なお、焼成工程における段階的な焼成を、250℃(第一の加熱炉:熱風オーブン)、300℃(第二の加熱炉:熱風オーブン)、400℃(第三の加熱炉:熱風オーブン)、500℃(第四の加熱炉:遠赤外線炉)とした。得られたポリイミドフィルムはトタン板状に波打ったままであり、ゲルフィルムの形状が焼成炉内で改善されることは無かった。
〔参考例〕
実施例1と同様にして、残存成分割合が62重量%のゲルフィルムを得た。このゲルフィルムに対して、実施例1と同じ条件で加熱工程を行い、フィルム収縮率を2.0%とした。
このゲルフィルムに対して、実施例1と同様にして端部固定化工程および焼成工程を行い、ポリイミドフィルムを得た。なお、焼成工程における段階的な焼成を、350℃(第一の加熱炉:熱風オーブン)、350℃(第二の加熱炉:熱風オーブン)、450℃(第三の加熱炉:熱風オーブン)、500℃(第四の加熱炉:遠赤外線炉)とした。得られたポリイミドフィルムの幅は960mmとなった。
得られたポリイミドフィルムにおける分子配向角の結果を表2に示す。本参考例のように、焼成工程における第一の加熱炉の加熱温度が高いとポリイミドフィルムの端部の分子配向角が大きくなることが明らかになった。