JP2006029059A - セメント系構造物の剥落防止方法及びセメント系構造物 - Google Patents
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Abstract
【課題】火災等が発生しても鉄筋の錆やアルカリ骨材反応によって引き起こされる体積膨張に起因するセメント系構造物からの破片の剥落を防止する効果を持続することができるとともに、膨張によるセメント系構造物の変形が大きい場合でも、長期間にわたって剥落を防止することができるセメント系構造物の剥落防止方法を提供するものである。
【解決手段】本発明のセメント系構造物の剥落防止方法は、セメント系構造物にセメントモルタルを塗布し、ZrO2を14質量%以上含有する連続した耐アルカリ性ガラス繊維からなる柔らかさが30mm以上のシート状繊維補強材を埋め込んだ後、表面を平滑にして硬化することを特徴とする。
【選択図】なし
【解決手段】本発明のセメント系構造物の剥落防止方法は、セメント系構造物にセメントモルタルを塗布し、ZrO2を14質量%以上含有する連続した耐アルカリ性ガラス繊維からなる柔らかさが30mm以上のシート状繊維補強材を埋め込んだ後、表面を平滑にして硬化することを特徴とする。
【選択図】なし
Description
本発明は主としてセメント系構造物の剥落防止方法に関し、より詳しくは、耐アルカリ性ガラス繊維からなるシート状繊維補強材入りセメントモルタルによるセメント系構造物の剥落防止方法に関するものである。
セメント系構造物は、その強度や化学的な安定性のため多くの建造物で採用されている。しかし、セメント構造物にもクラック(ひび割れ)、中性化、凍害、塩害、ポップアウト等多種の経時的な欠陥が発生することが知られている。その中でも最も一般的な欠陥として、中性化やクラックがある。セメント系構造物は、セメント系材料の中性化や微細クラックからの水の浸入などにより、セメント系構造物の中に埋め込まれた鉄筋が錆びると、また、セメント系材料に含まれるアルカリ成分と骨材との間でアルカリ骨材反応が起こると、鉄筋や骨材の体積が膨張することによりセメント系材料にクラックが発生したり、破壊したりする。橋梁、床版、建築物の柱、梁、壁面、地下構造物、トンネルの内面等のセメント系構造物からの破片の剥落は、人体にとって危険であるだけでなく、交通機関の麻痺の原因、あるいは交通事故の原因となる場合もある。
一般にセメント系構造物の補修は、下地調整、ひび割れ補修または断面修復、および剥落防止処理が行われる。下地調整には、はつり処理と下地処理とがあり、はつり処理は、コンクリート構造物に浮きや剥離が確認された箇所のコンクリートをたたいて除去することであり、下地処理は、ひび割れ補修および断面修復に用いられる補修材との接着性を高めるために、サンドブラストやウォータージェットによって表面の汚れを洗い流すとともに粗くすることである。ひび割れ補修および断面修復は、コンクリート構造物のひび割れ部または除去された浮きや剥離が確認され除去された部位に、エポキシ樹脂系または無機系充填材を注入し、硬化することによって空洞部を埋めることである。剥落防止処理は、コンクリート構造物を鋼板で覆う方法や、繊維補強プラスチック(FRP)を貼り付ける方法が用いられている。
しかし、コンクリート構造物を鋼板で覆う方法は、鋼板が重いため施工するために重機が必要となり、工事が大掛かりとなる。そのため、建物内部や地下構造物、トンネル内等の限られた空間での施工が困難となる場合があることや、鋼板は加工性が悪いため、複雑な形状を有する構造物に対して施工することが困難である。また、コンクリート構造物にFRPを貼り付ける方法は、FRPが、アルカリ環境に曝されると樹脂と繊維の接着界面が劣化しやすいとともにプラスチック補強用の繊維が劣化しやすいため、アルカリ性であるコンクリートに接して使用することは、耐久性の点で疑問視されている。さらに、FRP補強体は可燃物である樹脂を使用しているため、コンクリート構造物が防火性や耐火性を有する場合、FRPで補強を施すことで防火または耐火性が損なわれてしまうという問題がある。
そこで、合成繊維網をコンクリート内に埋設することでコンクリート片の剥落を防止する方法(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。また、耐アルカリガラス繊維からなるシートをコンクリート構造物に埋設し、コンクリート構造物の表面を曲げやせん断に対して補強する方法(例えば、特許文献2参照。)も提案されている。
特開2002−295194号公報
特開2002−242445号公報
しかし、特許文献1に開示されている方法は、火災などで合成繊維が溶けると、剥落防止効果が損なわれるとともに、コンクリート層の表面から5〜10cmの深さに合成繊維網が埋設されているため、表面から合成繊維網の間の層からのコンクリート片の剥落を防止することができない。
また、特許文献2に開示されている方法は、強度を高くすることができるものの、曲げやせん断等の大きな力が加わると耐アルカリガラス繊維が屈曲して破断し易くなり、セメント系材料の破片の剥落を防止するという観点からある程度の効果はあるものの、充分なものではなかった。
本発明の目的は、火災等が発生しても鉄筋の錆やアルカリ骨材反応によって引き起こされる体積膨張に起因するセメント系構造物からの破片の剥落を防止する効果を持続することができるとともに、膨張によるセメント系構造物の変形が大きい場合でも、長期間にわたって剥落を防止することができるセメント系構造物の剥落防止方法を提供するものである。
本発明者は、種々の実験を繰り返した結果、セメント系構造物にセメントモルタルを塗布し、所定の柔らかさを有する所定組成のガラス繊維をシート形状で埋設した後にセメントモルタルを上塗りすることで、膨張によるセメント系構造物の変形が大きい場合でも剥落防止効果が大きいことを見いだし、本発明を提案するものである。
本発明のセメント系構造物の剥落防止方法は、セメント系構造物にセメントモルタルを塗布し、ZrO2を14質量%以上含有する連続した耐アルカリ性ガラス繊維からなり、柔らかさの計測値が30mm以上の値を有するシート状繊維補強材を埋め込んだ後、表面を平滑にして硬化することを特徴とする。
ここで、セメント系構造物にセメントモルタルを塗布し、ZrO2を14質量%以上含有する連続した耐アルカリ性ガラス繊維からなり、柔らかさの計測値が30mm以上の値を有するシート状繊維補強材を埋め込んだ後、表面を平滑にして硬化するとは、ガラス組成中のZr成分を酸化物換算の質量百分率表示で表した場合に14質量%以上である長繊維状のガラス繊維を、柔らかさの評価の結果が30mm以上という数値となる性状を有するシート状繊維補強材とした状態で埋設した後に、その施工表面を平滑な状態とし、その後硬化させることを意味している。
よってより具体的には、「本発明のセメント系構造物の剥落防止方法は、セメント系構造物にセメントモルタルを塗布し、ZrO2を14質量%以上含有する連続した耐アルカリ性ガラス繊維からなり、縦400mm、横400mmの略矩形状のシート状繊維補強材を水平に固定保持し、幅400mmで長さ150mmの矩形部のみの固定保持を解除した時に、下方に自重で垂れ下がる幅400mmで長さ150mmの矩形部の下端までの水平位置からの垂直距離が30mm以上である柔らかさを有するシート状繊維補強材を埋め込んだ後、表面を平滑にして硬化することを特徴とするセメント系構造物の剥落防止方法」である。
ガラス繊維材質としては、ZrO2を14質量%以上含有することによって所望の性能すなわち耐アルカリ性という性能が実現できるなら、どのような材質であっても支障ないが、特に好ましい組成を例示すれば、以下のような組成となる。すなわち使用可能な耐アルカリ性に優れるガラス繊維の組成は、質量%で、SiO2 54〜65%、ZrO2 14〜25%、Li2O 0〜5%、Na2O 10〜17%、K2O 0〜8%、RO(ただし、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba、Znを表す) 0〜10%、TiO2 0〜7%、Al2O3 0〜2%であり、より好ましくは、質量%で、SiO2 57〜64%、ZrO2 18〜24%、Li2O 0.5〜3%、Na2O 11〜15%、K2O 1〜5%、RO(ただし、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba、Znを表す)0.2〜8%、TiO2 0.5〜5%、Al2O3 0〜1%である。
シート状繊維補強材の柔らかさの計測値を得るための具体的な評価方法としては、図1に示すような評価方法を採用している。この方法では、シート状繊維補強材を縦400×横400mmに切断して試験片10を作成する。次いでこの試験片の一端を水平に保持することのできる水平台Tの端から平行に幅400mmで長さ150mmだけ突出した状態として、台の上に載置されている試料片部分が浮かないように固定した状態とした時に、どれだけ水平台Tの上面から延長した水平位置から自重によって垂れ下がるか、その他端側の先端について水平位置からの垂直方向の寸法Lを計測する。そしてこの計測を試料片10の縦横および裏表について計4回測定し、その平均値を柔らかさとした。そのため、柔らかさが150mmを超えることはない。試料片10が柔らかい程、この計測による数値は大きくなる。そして本発明ではこの柔らかさを表す数値が30mm以上となったものを採用するものである。また本発明では、このシート状繊維補強材の柔らかさの計測値は、柔らかい程好ましく、さらに好ましい柔らかさの計測値は、40mm以上であり、一層好ましくは、50mm以上である。
シート状繊維補強材の柔らかさの計測値が30mmよりも小さいと、セメント系構造物の膨張に起因する変形による外力が加わった時にシート状繊維補強材の繊維が切断されやすいため剥落を防止できない虞がある。
シート状繊維補強材の柔らかさを30mm以上にするためには、繊維同士の目ズレを防止するために使用する目留め剤に、ガラス転移温度(Tg)0℃以下のポリビニルアルコール樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂等を使用すれば良い。
シート状繊維補強材が、格子状シート(ネット)やコンティニュアスストランドマットなど連続繊維からなるシートであると、剥落防止効果に優れるため好ましい。格子状シートは絡み織り、平織り、組布などが使用可能である。
また、ネットの構成はどんなものでも良く、二軸や三軸あるいは四軸のようなものでもかまわない。同様に、その格子の形状は四角や三角あるいはそれ以上の多角形でもかまわない。三軸以上のネットの場合、繊維の重なりが3重や4重になる交点が発生するが、その交点をずらすような織り方にするとネットが厚くなりすぎないため好ましい。
本発明において、セメント系構造物とは、ポリマーセメントモルタル、セメントモルタル、コンクリート等のセメント系材料で構築された構造物を指し、具体的には、橋梁、床版、一般建築物の柱、梁、壁面、地下構造物、トンネルの内面等である。
上塗りするセメントモルタルは、セメントをベースにするものであり、建築土木用材料として一般的に用いられるセメント、細骨材、軽量骨材、水、水性ポリマーディスパージョンを含有するセメントモルタルやポリマーセメントモルタルが使用可能である。
上塗りするセメントモルタルに、必要に応じて減水剤、流動化剤、増粘剤、防水剤、防錆剤、硬化促進剤、硬化遅延剤、スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム、着色剤、急結剤などの混和剤を添加してもよい。
セメント系構造物へ上塗りするセメントモルタルの塗布は、鏝塗りや吹き付け、あるいはロール成形など、セメント系材料である上塗りするセメントモルタルを塗布できる方法であればいずれの方法であっても良い。また、金鏝等で上塗りしたセメントモルタルの表面を平滑にすると外観上好ましい。
また、セメントモルタルを上塗りする前にセメント系構造物の表面にプライマーを塗布すると、セメント系構造物と上塗りしたセメントモルタルとの接着が強固になりやすいため好ましい。プライマーとしては、アクリルエマルジョン、エポキシエマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、ウレタンエマルジョン等の水性樹脂エマルジョンが使用可能である。
また、本発明のセメント系構造物の剥落防止方法は、上述に加えシート状繊維補強材の目開きが5〜100mmであることが好適である。
ここで、シート状繊維補強材の目開きが5〜100mmであるとは、シート状繊維補強剤を構成する繊維束が存在しない空隙部位の大きさを規定するものであり、所定の織り方を採用した場合に、繰り返される繊維束の織り模様によって発生する繊維束の存在しない空隙箇所について、その1つの繊維束断面の中心から1つの空隙を挟んだ他の繊維束断面の中心までの寸法が5mmから100mmの間にあることを意味している。
シート状繊維補強材の目開きが5〜100mmであると、シート状繊維補強材を挟んだ両面の接着強度が高くなるため好ましい。シート状繊維補強材の目開きが5mmよりも小さいと、シート状繊維補強材の目開きを骨材が通りにくいためシート状繊維補強材を挟んだ両面の接着強度が高くなりにくく、100mmよりも大きいと目開きが大きいため破片の剥落を防止する効果が乏しくなりやすい。
また、本発明のセメント系構造物の剥落防止方法は、上述に加えシート状繊維補強材の目付が50〜300g/m2であることが好適である。
ここで、シート状繊維補強材の目付が50〜300g/m2であるとは、単位面積当たりのシート状繊維補強材の質量を表す目付が、50g/m2から300g/m2の範囲にあることを表している。
シート状繊維補強材の目付が50〜300g/m2であるならば、シート状繊維補強材による補強効果と接着強度のバランスがとれるために充分な剥落防止効果が得られやすい。シート状繊維補強材の目付が50g/m2よりも小さいと充分な補強効果を得られにくく、300g/m2よりも大きいとシートの開口率が小さくなるため接着強度が充分に高くなりにくい。
また、本発明のセメント系構造物の剥落防止方法は、上述に加えシート状繊維補強材に上塗りするセメントモルタルの厚みが0.3〜3.0mmであることが好適である。
ここで、シート状繊維補強材に上塗りするセメントモルタルの厚みが0.3〜3.0mmであるとは、セメント系構造物のシート状繊維補強材を埋設した部位の上面に重ね塗るセメントモルタル層の厚さが、0.3mmから3.0mmの範囲内にあることを意味するものである。
シート状繊維補強材に上塗りするセメントモルタルの厚みが0.3〜3.0mmであるならば、上塗りするセメントモルタルが柔軟に撓んだりすることができるため剥落が発生しにくく好ましい。シート状繊維補強材に被せる上塗りモルタルの厚みが0.3mmよりも薄いとシート状繊維補強材が露出しやすく外観が損なわれやすいとともに、補強についての補強効果が乏しくなるため好ましくない。またセメントモルタルの厚みが3.0mmよりも厚い場合、上塗りするセメントモルタルが柔軟になりにくくなるため、大きな変形に耐えられずに剥落が発生しやすくなる虞がある。
また、本発明のセメント系構造物の剥落防止方法は、上述に加えセメントモルタルの曲げ強度が、3MPaから12MPaの範囲内にあることが好適である。
ここで、セメントモルタルの曲げ強度が、3MPaから12MPaの範囲内にあるとは、セメントモルタルを250×50×10mmの寸法に成形した硬化体の曲げ強度をクロスヘッド速度2mm/min、スパン200mm、3点曲げで測定すると、3MPaから12MPaの測定値となることである。
上記条件にて測定した場合にセメントモルタルの曲げ強度が3MPaよりも低いと、被補修体に対してセメント系構造物の補強を行うには充分な強度ではなく、また12MPaより高いと押し抜き試験時の最大荷重が小さくなるため好ましくない。
そして、より安定した機械的な強度性能を実現するためには、このセメントモルタルの曲げ強度の上記測定条件による計測値は、好ましくは5MPaから10MPaの範囲内とすることである。
また、本発明のセメント系構造物の剥落防止方法は、上述に加えセメントモルタルが、3mmから30mmの繊維長である短繊維を質量百分率表示で0.2%から5.0%含有していることが好適である。
ここで、セメントモルタルが、3mmから30mmの繊維長である短繊維を質量百分率表示で0.2%から5.0%含有しているとは、繊維長が3mmから30mmの範囲にある短繊維の質量がセメントモルタル全質量を100とした時に0.2から5.0の範囲にあることを意味している。
3mmから30mmの繊維長である短繊維が、質量百分率表示で0.2%より少ないと、充分なセメントモルタルの靭性を実現することができない。一方3mmから30mmの繊維長である短繊維が、質量百分率表示で5.0%より大きいと、セメントモルタルの流動性が低下するため、セメントを充分均質に混合することができず、セメントモルタルの塗布作業が困難になるため好ましくない。
ここで、3mmから30mmの繊維長である短繊維の材質はどのようなものであってもよい。すなわち例示すれば、炭素繊維、金属繊維、有機繊維、ガラス繊維、結晶化ガラス繊維、セラミックス繊維等を使用することができ、特に好適であるのは有機繊維を使用することである。また含まれる繊維は複数種であっても1種であっても支障はない。
また、本発明のセメント系構造物の剥落防止方法は、上述に加え短繊維の材質がガラス繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維及びポリプロピレン繊維の内の少なくとも1種以上の繊維材質であることが好適である。
ここで、短繊維の材質がガラス繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維及びポリプロピレン繊維の内の少なくとも1種以上の繊維材質であるとは、前記した3mmから30mmの繊維長である短繊維の材質としてビニロン、アクリル、ナイロン、ポリエチレン及びポリプロピレンのいずれか1種以上の材質による繊維であることを表している。
短繊維の材質がガラス、ビニロン、アクリル、ナイロン、ポリエチレン及びポリプロピレンの内の少なくとも1種以上であって、その繊維長が3mmから30mmの範囲の短繊維が質量百分率表示で0.2%以上かつ5.0%以下となることによって、セメントモルタルの靭性が向上し押し抜き試験時の最大荷重が大きくなるため好ましい。
また本発明のセメント系構造物の剥落防止方法では、非常に大きな面を施工する場合、シート状繊維補強材の打ち継ぎ部が発生するが、打ち継ぎ部が5cm以上あると補強効果が損なわれることがないため好ましい。
さらに本発明では、剥落防止処理を施した表面に模様を形成、あるいは装飾用シートやタイルなどの貼着や種々の意匠を表す施工を行うことも可能である。
(1)本発明のセメント系構造物の剥落防止方法は、セメント系構造物にセメントモルタルを塗布し、ZrO2を14質量%以上含有する連続した耐アルカリ性ガラス繊維からなり、柔らかさの計測値が30mm以上の数値を有するシート状繊維補強材を埋め込んだ後、表面を平滑にして硬化するため、耐アルカリ性に優れており、これをセメント系材料の補強材として使用してもセメント中のアルカリ性物質によってガラス繊維が浸食されにくく、長期間にわたって剥落防止効果を維持することができるものであって、例えば火災等が発生した場合でも効果を持続することができ、膨張によるセメント系構造物の変形が大きい場合でも長期間にわたってセメント系構造物からの破片の剥落を防止することができる。すなわち、ガラス繊維であるため、例えば火災等の高温環境によって溶ける心配がなく、セメント系構造物の膨張に起因する変形によって大きな力が加わっても柔軟なシート状繊維補強材を使用しているため、繊維が切断されずに大きく変形し剥落を防止できるとともに長期間にわたって効果を持続することができる。
(2)また、本発明のセメント系構造物の剥落防止方法は、シート状繊維補強材の目開きが5〜100mmであるならば、シート状繊維補強材の両面における接着力を高い状態に維持し続けることができ、セメント系構造物のシート状繊維補強材を埋め込み部位についての強度を長期に亘り安定化することができるものである。
(3)また、本発明のセメント系構造物の剥落防止方法は、シート状繊維補強材の目付が50〜300g/m2であるならば、シート状繊維補強材による補強効果と接着強度のバランスがとれるため、補強材を加えることによる重量増やシート界面部の構造に起因する強度分布の変更を補っても充分に余裕のある高い構造強度が実現されることとなり、小面積から大面積の補修まで幅広い応用を可能とするものである。
(4)また、本発明のセメント系構造物の剥落防止方法は、シート状繊維補強材に上塗りするセメントモルタルの厚みが0.3〜3.0mmであるならば、補修部位の外観を損ねず、かつ強度についても充分安定した品位を実現できるものであるため、補修部位の表面にさらに装飾を施し、意匠的に好ましい外観を有する面とする場合に好適なものである。
(5)また、本発明のセメント系構造物の剥落防止方法は、セメントモルタルの曲げ強度が、3MPaから12MPaの範囲内にあるならば、振動や衝撃などの外的な影響を受ける可能性のあるような補修表面についても適切な強度を維持し続けることを可能とするものである。
(6)また、本発明のセメント系構造物の剥落防止方法は、セメントモルタルが、3mmから30mmの繊維長である短繊維を質量百分率表示で0.2%から5.0%含有しているならば、充分なセメントモルタルの靭性を実現できるため、天井面や傾斜面等の補修面として不利な環境に置かれる場合であっても、安定した性能を実現することができるものである。
(7)また、本発明のセメント系構造物の剥落防止方法は、短繊維の材質がガラス繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維及びポリプロピレン繊維の内の少なくとも1種以上の繊維材質であるならば、押し抜き試験時の最大荷重が大きくなるため、セメント系構造物の補修部位についての応力印加時における耐久性を向上することができるものであり、充分高い耐久性能を維持し続けることを可能とするものである。
以下に本発明のセメント系構造物の剥落防止方法について、その具体的な実施の態様について詳細に説明する。
表1には、本発明のセメント系構造物の剥落防止方法についての実施例として、試験No.1から試験No.5についての評価結果を示す。
[実施例:試験No.1]この試験に使用した耐アルカリ性ガラス繊維からなるシート状繊維補強材は以下のようにして作製した。
まず、質量%で、SiO2 61%、ZrO2 19.5%、Li2O 1.5%、Na2O 12.3%、K2O 2.6%、CaO 0.5%、TiO2 2.6%の組成を有する耐アルカリ性ガラス(Aガラス)を熔融し、ノズルを有するブッシングより、直径13μmのガラスフィラメントを引き出し、集束剤を塗布し、ギャザリングシューによりタテ糸は800本のガラスフィラメントを一本のガラスストランドに、ヨコ糸は1600本のガラスフィラメントを一本のガラスストランドとし、ワインダーにケーキとして巻き取った。
続いて、ケーキの状態で乾燥した後、このガラスストランド(タテ糸:310tex、ヨコ糸:620tex)を10mmの目間隔で絡み織りした後、目留め剤としてTgが−25℃の水性ポリマーディスパージョンを塗布し、シート状繊維補強材を作製した。
次いで、接着強度評価用の試験片として試験片αを以下の手順で作製した。
まず、JIS A 5304(舗装用コンクリート平板)に記載の普通平板にサンドペーパーにより表面処理を行ない、プライマー(アクリル樹脂系吸水防止剤)処理を行なう。
次に、プライマー処理した上から、珪砂(1000g)、速硬性セメント(1000g)、アクリルエマルジョン(70g)および水(145g)からなるセメントモルタルを300mm角、厚さ2mmで水平に塗布して「下塗り」とした。
続いて、シート状繊維補強材を「下塗り」の表面に貼り付けて「下塗り」を硬化した後、その上から、「下塗り」と同じセメントモルタルを2mmの厚さで水平に塗布して「上塗り」とし、7日間養生し、試験片αとした。
次いで、最大荷重評価用の試験片として試験片βを以下の手順で作製した。
まず、JIS A 5334(鉄筋コンクリートU型用ふた)に記載のU型ふた(400×600×60mm)の中央部にφ100mmの切断コア抜きを5mm残して行ない、裏の面をサンドペーパーにより表面処理を行ない、プライマー(アクリル樹脂系吸水防止剤)処理を行なった。
次いで、プライマー処理を行った上から、珪砂(1000g)、速硬性セメント(1000g)、アクリルエマルジョン(70g)および水(145g)からなるセメントモルタルをふたの中央に400mm角、厚さ2mmで水平に塗布して「下塗り」とした。
続いて、シート状繊維補強材を「下塗り」の表面に貼り付けて「下塗り」を硬化した後、その上から、「下塗り」と同じ材質のセメントモルタルを2mmの厚さで水平に塗布して「上塗り」とし、7日間養生して試験片βとした。
[実施例:試験No.2]タテ糸用として直径13μmのガラスフィラメント1600本を1本に束ね620texのガラスストランドを、ヨコ糸用として16μmのガラスフィラメント2000本を1本に束ね1100texのガラスストランドを用いた以外は、全て試験No.1と同様の手順で試験片αと試験片βを作製した。
[実施例:試験No.3]直径13μmのガラスフィラメント400本を1本に束ね156texのガラスストランドを用い、2.5mmの目間隔で平織りした以外は、全て試験No.1と同様の手順で試験片αと試験片βを作製した。
[実施例:試験No.4]タテ糸用として直径13μmのガラスフィラメント1600本を1本に束ね620texのガラスストランドを、ヨコ糸用として16μmのガラスフィラメント2000本を1本に束ね1100texのガラスストランドを用い、目間隔を20mmとした以外は、全て試験No.1と同様の手順で試験片αと試験片βを作製した。
[実施例:試験No.5]タテ糸用として直径13μmのガラスフィラメント1600本を1本に束ね620texのガラスストランドを使用し、またヨコ糸用として16μmのガラスフィラメント2000本を1本に束ね1100texのガラスストランドを使用し、タテ糸の目間隔を11mm、ヨコ糸の目間隔を13mmとした以外は、全て試験No.1と同様の手順で試験片αと試験片βを作製した。
次いで、実施例の比較用試験として行った比較例について、表2に試験No6から試験No.8までの結果を以下に示す。
[比較例:試験No.6]試験No.1でタテ糸として用いた310texのガラスストランドを50mmの長さに切断したガラスチョップドストランドを用いて作製した不織布(マット)を用いた以外は、全て試験No.1と同様の手順で試験片αと試験片βを作製した。
[比較例:試験No.7]目留め剤としてTgが15℃の水性ポリマーディスパージョンを用いた以外は、全て試験No.1と同様の手順で試験片αと試験片βを作製した。
[比較例:試験No.8]質量%表示で、SiO2 53%、Al2O3 15%、MgO 2%、CaO 22%、B2O3 8%の組成を有する無アルカリガラス(Eガラス)を用いた以外は、全て試験No.1と同様の手順で試験片αと試験片βを作製した。
次いで、試験片αを使用して行った接着強度の測定方法について以下に示す。
試験片αを、上塗り側から平板に届くように40mm角で切り込みを入れ、引張試験具をエポキシ樹脂接着剤で切り込みに合わせて試験片に貼り付けた後、建研式接着力試験機を用いて接着強度を測定した。
また、試験片βを使用して行った押し抜き試験における最大荷重の測定方法について以下に示す。
試験片βを、コア底部が破損するまで1mm/分でコア抜き部を押し出し、それ以降は5mm/分でコア抜き部を押し出し、コア底部が破損後に最大となる荷重を測定した。なお、コア底部が破損後にいったん下がった荷重がもう一度上昇しなかった場合、最大荷重を(0)とした。最大荷重の変位は、最大荷重を示した変位(mm)を測定した。
また、10年間屋外暴露されたことに相当する評価が行える加速評価として、試験片α、試料片βを70℃の水中に10日間浸したものを使用して、浸漬前と同様に接着強度、及び押し抜き試験による最大荷重を示す値の計測を行った。
表1より明らかなように、実施例の試験No.1から試験No.5は、浸漬前の最大荷重が2.11kN以上と大きく、最大荷重時の変位が15.0mm以上と大きかった。また、実施例の試験No.1、試験No.4および試験No.5は、浸漬後の接着強度が2.05N/mm2以上と高く、最大荷重が1.67kN以上で、最大荷重時の変位が13.4mmと大きく、長期間にわたって剥落を防止する効果を有していた。
一方、表2より明らかなように比較例である試験No.6は、連続繊維を使用していないため、浸漬前の接着強度が0.72N/mm2と低く、コア底部の破損後に荷重が上昇せず最大荷重が測定できなかった。また、比較例である試験No.7は、硬いシート状繊維補強材を使用しているため、浸漬前の最大荷重および最大荷重時の変位が小さかった。比較例である試験No.8は、浸漬前の特性は実施例である試験No.4とほとんど変わらない値であったが、耐アルカリ性のないEガラス繊維を使用しているため、屋外暴露10年に相当する浸漬試験を行なうと、コア底部の破損後に荷重が上昇せず最大荷重が測定できず、長期間にわたって剥落を防止する効果を有していなかった。
以上の実施例と比較例の評価結果から、本発明のセメント系構造物の剥落防止方法を採用することによって、長期に亘る高い強度特性と接着強度を実現することができることが明瞭となった。
さらに、本発明者らは、セメントモルタル中に予め所定形状の短繊維を含有させることによって、セメントモルタルの曲げ強度とセメント系構造物の剥落に関する性能を表すことのできる押し抜き試験との関連についての評価を実施した。以下にその結果をまとめる。
表3に実施例として試料No.9から試料No.11までの評価結果を、さらに比較例として試料No.12の評価結果を示す。
[実施例:試験No.9]試験No.9は、前記した試験No.1と同様にAガラスを使用して同様のシート状繊維補強材を作成し、試験No.1と同じ構成のセメントモルタルを同じように「下塗り」、「上塗り」し、同様の手順で押し抜き試験用の試験片βを作成した。またこれとは別に曲げ強度試験片として試験片γを作製した。
試験片γは、250×50×10mmの寸法を有する板状試験片であって、2mm厚の「下塗り」、「上塗り」や養生条件等の一連の条件は、同じ条件で作製したものである。
また試験片β、試験片γの加速評価のための浸漬試験条件については、実施例1と同様の条件を採用した。
[実施例:試験No.10]試験No.10は、セメントモルタルとして軽量骨材(1000g)、速硬性セメント(1000g)、アクリルエマルジョン(70g)および水(145g)を使用した以外は、全て試験No.9と同様の手順で作製したものである。
[実施例:試験No.11]試験No.11は、セメントモルタルとして軽量骨材(1000g)、速硬性セメント(1000g)、繊維長10mmのビニロン繊維(8g) アクリルエマルジョン(70g)および水(145g)を使用した以外は、全て試験No.9と同様の手順で作成したものである。
[比較例:試験No.12]また、比較例である試験No.12は、セメントモルタルとして珪砂(500g)、速硬性セメント(1000g)、アクリルエマルジョン(70g)及び水(110g)を使用した以外は、全て試験No.9と同様の手順で作製したものである。
試験片βを使用し、押し抜き試験における最大荷重の測定は、前記と同様の手順でおこなった。
試験片γを使用し、曲げ強度試験については、(株)島津製作所製オートグラフを使用し3点曲げ条件で、支点間距離200mm、クロスヘッド速度2mm/分の条件にて測定を行った。
以上の評価の結果、実施例である試験No.9から試験No.11については、曲げ強度の計測値が、それぞれ試験No.9が10.9MPa、試験No.10が6.1MPa、試験No.11が6.1MPaという結果で、いずれも3MPaから12MPaの範囲内にあることが確認できた。一方比較例である試験No.12については、曲げ強度の計測値が、15.2MPaとなり12MPaを超える値であったため、押し抜き試験において、シート状繊維補強材がセメントモルタルを押し広げることができず、シートを構成しているガラス繊維が破断することによって浸漬前の最大荷重値が1.58kN、浸漬後の最大荷重値が1.42kNと低い値となった。
また試験No.11は、セメントモルタルに繊維長10mmのビニロン繊維を0.4質量%含有させたものであるが、浸漬前の接着強度が2.28N/mm2、最大荷重が3.44kN、最大荷重時の変位が19.8mm、浸漬後の接着強度が2.33N/mm2、3.3kN、最大荷重時の変位が19.1mmと非常に高く、長期に亘り剥落を防止する効果を持続することが判明した。
以上のように、本発明のセメント系構造物の剥落防止方法を採用することによって、セメントモルタルの曲げ強度が、3MPaから12MPaの範囲内にあるならば、押し抜き試験において高い性能評価を実現することができ、このことはセメント系構造物の長期的な剥落防止に効果のあるものであることが明瞭となった。またセメントモルタルに予め3mmから30mmの繊維長を有する短繊維を質量百分率表示で0.2%から5.0%含有させれば、さらに高い剥落防止効果を実現可能となることが明瞭となった。
以上のように、本発明のセメント系構造物の剥落防止方法は、鉄筋の錆やアルカリ骨材反応によって引き起こされる体積膨張に起因するセメント系構造物の剥落を火災等が発生しても効果を持続することができるとともに、セメント系構造物の膨張に起因する変形が大きい場合でも、長期間にわたって剥落を防止することができるため、橋梁、床版、建築物の柱、梁、壁面、地下構造物、トンネルの内面等の補修に好適である。
10 シート状繊維補強材。
T シート状繊維補強剤を水平固定する台。
L 水平位置からシート状繊維補強材の先端が垂れた寸法。
Claims (7)
- セメント系構造物にセメントモルタルを塗布し、ZrO2を14質量%以上含有する連続した耐アルカリ性ガラス繊維からなり、柔らかさの計測値が30mm以上の値を有するシート状繊維補強材を埋め込んだ後、表面を平滑にして硬化することを特徴とするセメント系構造物の剥落防止方法。
- シート状繊維補強材の目開きが5〜100mmであることを特徴とする請求項1に記載のセメント系構造物の剥落防止方法。
- シート状繊維補強材の目付が50〜300g/m2であることを特徴とする請求項1または2に記載のセメント系構造物の剥落防止方法。
- シート状繊維補強材に上塗りするセメントモルタルの厚みが0.3〜3.0mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセメント系構造物の剥落防止方法。
- セメントモルタルの曲げ強度が、3MPaから12MPaの範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載のセメント系構造物の剥落防止方法。
- セメントモルタルが、3mmから30mmの繊維長である短繊維を質量百分率表示で0.2%から5.0%含有していることを特徴とする請求項5に記載のセメント系構造物の剥落防止方法。
- 短繊維の材質がガラス繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維及びポリプロピレン繊維の内の少なくとも1種以上の繊維材質であることを特徴とする請求項6に記載のセメント系構造物の剥落防止方法。
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