本発明は、金属磁性薄膜型の磁気記録媒体の製造方法及び製造装置に関し、より詳しくは、製造において金属薄膜磁性層の非磁性支持体近傍における酸素含有量の安定化を図り、品質の安定した磁性層を得ることのできる磁気記録媒体の製造方法及び製造装置に関する。本発明は、特に、高い保磁力を有し、短波長記録において高い再生出力及びC/N(出力/ノイズ)が得られる金属磁性薄膜型磁気記録媒体の製造方法及び製造装置に関する。
情報社会の進展に従い、磁気記録媒体の高密度記録化が切望されるなか、磁気記録層は塗布型からいわゆる金属磁性薄膜型へと進化しつつある。金属磁性薄膜型の磁気記録媒体は磁性層に塗布型磁気記録媒体のようなバインダーを含まないので、媒体の飽和磁化が大きく、高密度記録に適している。金属磁性薄膜は、磁性金属としてCo、Co−Ni合金、Co−Cr合金、Co−O、Co−Ni−O合金等が用いられ、真空蒸着法によって、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム等の非磁性支持体の一方の面上に磁性金属が直接被着される。斜め蒸着法では、強磁性金属の蒸気を非磁性支持体の表面に特定範囲の角度で入射させ、支持体に対し傾いた柱状結晶粒子からなる強磁性金属薄膜を形成する。
従来の斜め蒸着法においては、例えば、図7に模式的に示す構成の斜め蒸着装置(101) が使用される。この斜め蒸着装置(101) では、真空ポンプ(102) によって内部が所定の圧力に保たれた真空槽(103) 内において、長尺フィルム状の非磁性支持体(105) を供給ロール(104) から繰り出し、回転する冷却ドラム(110) の周面に添わせて走行させながら、定置された蒸着るつぼ(107) 内の蒸着材料(108) である強磁性金属に電子銃(109) から電子ビーム(109b)を照射して、強磁性金属の溶湯を形成し、強磁性金属の蒸発物を発生させて斜め蒸着を行うことにより、非磁性支持体(105) の表面上に強磁性金属薄膜を形成する。蒸着される強磁性金属の入射角を規制するために、遮蔽板(112) が所定位置に設けられている。入射角は、強磁性金属蒸気流と非磁性支持体(105) の進行方向に対する法線(回転冷却ドラム(110) の半径方向)とが成す角度である。強磁性金属の入射角は、最大入射角θmaxから、遮蔽板(112) によって規制される最小入射角θminまでの範囲とされる。遮蔽板(112) によって画定される蒸着終了点付近には酸素供給管(113) が設けられ、酸素供給管(113) に形成された酸素供給口から酸素ガスが強磁性金属蒸気流に導入される。また、蒸着開始点付近にも酸素供給管(114) が設けられ、酸素ガスを供給することも行われている。強磁性金属薄膜が形成された非磁性支持体(105) は、巻き取りロール(116) に巻き取られる。
酸素ガスを導入することによって形成された強磁性金属薄膜を磁性層として有する磁気テープは、飽和磁束密度が大きく、しかも保磁力が高く、優れた電磁変換特性を示すことが知られている。また、酸素含有量が高くされた表層部はそれ以外の内層部よりも硬く、磁性層の耐久性にとっても好ましいことも知られている。
特開2003−67917号公報には、酸素ガスを導入することによって形成された強磁性金属薄膜の表面に、分光測色計(上記図7中に(120) として示す)によって光を投射し、その反射光の明度を測定することによって、強磁性金属薄膜の保磁力を監視することが開示されている。
特開昭63−222328号公報には、透明高分子基体上に酸素ガスを導入しつつ斜め蒸着により強磁性金属薄膜を形成する磁気記録媒体の製造方法において、基体表面及び強磁性金属薄膜表面に光照射して基体−金属薄膜界面(薄膜裏面)と金属薄膜表面の反射率を検出すると共に強磁性金属薄膜表面に光照射してその透過率を検出し、それぞれの検出量に応じて酸素ガス導入量及び強磁性金属の蒸発量を制御する方法が開示されている。
特開平6−12668号公報には、[0050]〜[0052]に、強磁性金属薄膜中の酸素含有量をAES(オージェ電子分光法)深さ分析によって算出することが開示されている。しかしながら、オージェ深さ元素濃度分析では、強磁性金属薄膜の表層部や中間部の酸素含有量を知ることはできるが、強磁性金属薄膜の非磁性支持体近傍の最内層部の酸素含有量については簡単に知ることはできない。それは、オージェ深さ分析の際に、導電性のない非磁性支持体との界面近傍では帯電によってチャージアップするため、電荷を与えて中和する操作が必要となるからである。また、オージェ深さ元素濃度分析を製造完了後の磁気媒体の品質評価に用いることはできるが、オージェ深さ元素濃度分析を真空蒸着槽内においてインラインで行うことは非常に困難であり、測定で得られた値を、製造条件に直ちにフィードバックすることもできない。
特開平6−243457公報には、予め真空蒸着装置を用いて過剰酸素を供給して支持体上にCoOを主成分とする非磁性下地層を形成し、その後、真空蒸着装置を用いて非磁性下地層上に磁性層を形成する方法が開示されている。しかし、この方法では、2回の蒸着工程を必要とするので、生産効率上好ましくない。
特許第3173549号公報には、磁性層形成開始部の手前に蒸発材料の融点以上に昇温された薄板(上記図7中に(115) として示す)を基板とほぼ対向して配置し、かつ前記薄板により反射された蒸発原子により下地層が形成される領域に酸素を供給することを特徴とする方法が開示されている。しかしながら、このような薄板のみの配置では、下地層の形成領域に供給された酸素自体が拡散されてしまい、酸素によって蒸発原子を散乱させることは困難である。また、下地層の形成のための薄板は高温にする必要があり、取扱いが容易ではない。
また、特開平8−221753公報には、請求項1に、磁性層形成開始部側に蒸発材料の融点以上に昇温された薄板を支持体とほぼ対向して配置し、前記薄板により反射された蒸発原子により斜め磁気異方性を有する第1の磁性層を形成し、その上に連続して蒸発源から直接飛来する蒸発原子により斜め磁気異方性を有する第2の磁性層を形成することを特徴とする方法が開示されている。そして、請求項4に、薄板の手前にさらに下地層形成用として、蒸発材料の融点以上に昇温された下地層形成用薄板を支持体とほぼ対向して配置し、前記下地層形成用薄板により反射された蒸発原子により下地層が形成される領域に酸素を供給することを特徴とする方法が開示されている。しかしながら、このような薄板のみの配置では、下地層の形成領域に供給された酸素自体が拡散されてしまい、酸素によって蒸発原子を散乱させることは困難である。また、第1磁性層形成用の薄板、及び下地層形成用の薄板はいずれも高温にする必要があり、取扱いが容易ではない。
特開2003−196823号公報には、スパッタリング法で形成された非磁性金属酸化膜からなる下地層と、この下地層上に斜め蒸着法により形成されたCo系磁性膜とを順次有する薄膜磁気記録媒体が開示されている。同号公報には、真空槽中を上部と下部とに隔壁で分離し、上部にスパッタゲートを配置し、スパッタリングにより下地層を形成し、続いて、下部において斜め蒸着法により磁性膜を形成することが開示されている。しかしながら、スパッタリングと真空蒸着とでは、互いに圧力及び構成ガスが異なり、装置構成の観点からも難しく、低コストで品質の安定した連続成膜を行うことは難しい。
特開2001−143235号公報には、非磁性支持体上に真空蒸着法により形成された磁性金属薄膜を有し、前記磁性金属薄膜が、複数のコラムからなる柱状結晶構造を有し、各コラムは上側部分、中間部分、及び下側部分の3つからなり、中間部分の磁束密度が上側部分及び下側部分の磁束密度よりも高い磁気記録媒体が開示されている。
特開2002−319117号公報には、高分子支持体上に強磁性金属薄膜を形成してなる磁気記録媒体であって、前記金属薄膜は、前記支持体上に初期成長部分、後期成長部分が変曲点を持って順次連続して積層してなり、前記初期成長部分は、前記支持体に対して前記金属薄膜を構成する結晶粒が概ね垂直方向に半円弧状に成長した部分であり、前記後期成長部分は、前記支持体に対して前記結晶粒が所定の傾斜角度をもって半円弧状に傾斜成長した部分であることを特徴とする磁気記録媒体が開示されている。そして、前記初期成長部分において、前記支持体に対する結晶粒の傾斜角度は0度以上30度以下であること、前記傾斜角度が30度になるまでの厚さは3nm以上14nm以下であることが開示されている。
特開2003−303409号公報には、支持体上に強磁性金属と酸素とを含む単層の磁性層を形成した磁気記録媒体において、前記磁性層を厚さ方向に均等に3分割したとき、それぞれの領域の酸素濃度についての関係が開示されている。そして、結晶粒が支持体上で成長を開始する際の前記支持体に対する結晶粒成長の傾斜角度は0度以上30度以下であること、前記傾斜角度が30度になるまでの厚さは3nm以上14nm以下であることが開示されている。
特開2003−67917号公報
特開平6−12668号公報
特開平6−243457公報
特許第3173549号公報
特開平8−221753公報
特開2003−196823号公報
特開2001−143235号公報
特開2002−319117号公報
特開2003−303409号公報
金属薄膜磁性層の非磁性支持体近傍における酸素含有量を正確に評価することは非常に重要である。さらに、製造のインラインにおいて、金属薄膜磁性層の非磁性支持体近傍における酸素含有量を正確に評価することができれば、品質の安定した金属薄膜磁性層を得ることができる。
また、一方で、金属薄膜磁性層を真空蒸着法により形成するに際して、非磁性支持体上に酸素含有量の多い初期成長部分を形成し、初期成長部分上に連続的に後期成長部分を形成する生産効率の高い技術が望まれる。
本発明の目的は、製造インラインにおいて金属薄膜磁性層の非磁性支持体近傍における酸素含有量を正確に評価し、品質の安定した金属薄膜磁性層を得ることのできる磁気記録媒体の製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、高い保磁力を有し、短波長記録において高い再生出力及びC/Nが得られる金属磁性薄膜型の磁気記録媒体を生産効率よく低コストで製造する方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は、前記磁気記録媒体の製造方法を行うための製造装置を提供することにある。
非磁性支持体上に酸素含有量の多い初期成長部分、いわゆる下地層が存在すると、下地層上に続いて成長する後期成長部分の形成において、結晶磁気異方性の発現の元となるCo(六方晶)のC軸方向がコラム内でそろい易いため、後期成長部分が高い保磁力、及び残留磁化を有し、その結果、高いC/Nが得られる。
下地層のコラムが均一で細かく形成されると、下地層上に続いて成長する後期成長部分のコラムも均一で細かくなり、後期成長部分が高い保磁力、及び残留磁化を有し、その結果、高いC/Nが得られる。
非磁性支持体表面には微小な凹凸が存在している。下地層は支持体表面の微小凹凸を緩和し、下地層表面は平滑となり、下地層上に続いて成長する後期成長部分の表面も平滑となる。その結果、高いC/Nが得られる。
下地層が、非磁性支持体に対して略垂直方向に略直線状に形成されると、下地層はより均一で細かいコラムとして成長し易く、そして、下地層表面もより平滑となる。下地層が、非磁性支持体に対して垂直方向よりも傾斜して形成されると、支持体表面の微小凹凸が反映され、下地層表面の平滑性は低下する。
本発明者らは、蒸着開始点付近において、非磁性支持体側が開口され且つ内部に酸素ガス供給口を備えている金属蒸気を散乱させるためのチャンバを設け、このチャンバ内で、金属蒸気と供給された酸素ガスとを混合して金属蒸気を散乱させると共に非磁性支持体に向けて送り出すことにより、前記支持体面上に蒸着結晶粒が前記支持体に対して略垂直方向に略直線状に成長した初期成長部分を形成することができることを見いだした。
本発明は、走行している非磁性支持体の一方の面上に、真空蒸着法により酸素ガスを供給しつつ金属薄膜磁性層を形成する工程を含む磁気記録媒体の製造方法であって、
金属薄膜磁性層の形成後に、非磁性支持体の他方の面側から前記支持体を通して金属薄膜磁性層に光を投射し、その反射光の明度を測定することにより金属薄膜磁性層の非磁性支持体近傍における酸素含有量を監視することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法である。
本発明は、走行している非磁性支持体の一方の面上に、真空蒸着法により金属薄膜磁性層を形成する工程を含む磁気記録媒体の製造方法であって、
蒸着開始点付近に、前記支持体の一方の面側が開口され且つ内部に酸素ガス供給口を備えた蒸発材料・酸素混合チャンバを設け、前記チャンバ内に入ってくる蒸発した蒸着材料をチャンバ内に供給された酸素ガスにより散乱させることにより、前記支持体の一方の面上に、蒸着結晶粒が前記支持体に対して略垂直方向に略直線状に成長した初期成長部分を形成し、続いて、
前記初期成長部分上に、前記結晶粒が前記支持体に対して所定の傾斜角度の方向に半円弧状に成長した後期成長部分を形成して、初期成長部分と後期成長部分とからなる金属薄膜磁性層を形成し、
金属薄膜磁性層の形成後に、前記非磁性支持体の他方の面側から前記支持体を通して金属薄膜磁性層に光を投射し、その反射光の明度を測定することにより金属薄膜磁性層の非磁性支持体近傍における酸素含有量を監視することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法である。
本発明の製造方法において、前記監視に基づき、供給する酸素ガス量を変動させることにより、金属薄膜磁性層の非磁性支持体近傍における酸素含有量を制御することが好ましい。
本発明の製造方法において、酸素ガスを、蒸着開始点付近、及び蒸着終了点付近において供給することが好ましい。
本発明の製造方法において、前記監視に基づき、蒸着開始点付近において供給する酸素ガス量を主として変動させることにより、金属薄膜磁性層の非磁性支持体近傍における酸素含有量を制御することが好ましい。
本発明の製造方法において、金属薄膜磁性層の形成後に、金属薄膜磁性層の面側からも金属薄膜磁性層表面に光を投射し、その反射光の明度を測定することにより金属薄膜磁性層の表面近傍における酸素含有量をも監視することが好ましい。
本発明の製造方法において、前記監視をインラインにて行うことが好ましい。
また、本発明の製造方法において、酸素ガス以外の酸化性ガス、例えばオゾンガスを用いてもよい。
また、本発明は、真空槽内にて、
非磁性支持体の供給ロールと、
供給ロールから繰り出された非磁性支持体を周面に添わせて走行させる回転冷却ドラムと、
蒸着材料を収容し、且つ、電子ビームの照射により蒸発した蒸着材料を、回転冷却ドラム周面に添って走行している非磁性支持体の一方の面上に蒸着させるように定置されたるつぼと、
蒸着により前記一方の面上に金属薄膜磁性層が形成された非磁性支持体を巻き取る巻き取りロールとを備え、
前記冷却ドラムと前記巻き取りロールとの間において、前記一方の面上に金属薄膜磁性層が形成された非磁性支持体の他方の面側から前記支持体を通して金属薄膜磁性層に光を投射し、その反射光の明度を測定する手段を具備する、磁気記録媒体の製造装置である。
また、本発明は、真空槽内にて、
非磁性支持体の供給ロールと、
供給ロールから繰り出された非磁性支持体を周面に添わせて走行させる回転冷却ドラムと、
蒸着材料を収容し、且つ、電子ビームの照射により蒸発した蒸着材料を、回転冷却ドラム周面に添って走行している非磁性支持体の一方の面上に蒸着させるように定置されたるつぼと、
蒸着終了点付近に酸素ガスを供給する酸素ガス供給口と、
蒸着により前記一方の面上に金属薄膜磁性層が形成された非磁性支持体を巻き取る巻き取りロールとを備え、
蒸着開始点付近に、前記支持体側が開口され且つ内部に酸素ガス供給口を備えている蒸発材料・酸素混合チャンバを具備し、
前記冷却ドラムと前記巻き取りロールとの間において、前記一方の面上に金属薄膜磁性層が形成された非磁性支持体の他方の面側から前記支持体を通して金属薄膜磁性層に光を投射し、その反射光の明度を測定する手段を具備する、磁気記録媒体の製造装置である。
本発明の製造装置において、反射光の明度の測定手段により測定された反射光の明度に応じて、酸素ガスの供給量を自動的に制御する手段を備えていることが好ましい。
本発明によって、非磁性支持体の一方の面上に金属薄膜磁性層を有する磁気記録媒体の前記非磁性支持体の他方の面側から前記支持体を通して金属薄膜磁性層に光を投射し、その反射光の明度を測定することにより金属薄膜磁性層の非磁性支持体近傍における酸素含有量を評価する、磁気記録媒体の評価方法も提供される。
本発明において用いる「明度」とは色彩の定義であり、明るさの度合いを示すものである。数値化する方法としては表色系があり、物体の色や光源の色を数値や記号で表現することができる。表色系には1)L* a* b* 表色系、2)マンセル表色系、3)L* C* h* 表色系などが定められており、国際照明委員会CIEにて制定されている。本発明においては、いずれの表色系をも用いることができ、この点について特に制限されるべきもではない。
反射光の明度の測定手段としては、例えば、分光測色計、色分布測定装置等の明度を測定可能な装置が挙げられる。
本発明の磁気記録媒体の製造方法及び製造装置によれば、製造インラインにおいて、非磁性支持体の金属薄膜磁性層が形成された面とは反対の面側から前記支持体を通して金属薄膜磁性層に光を投射した際の反射光の明度を測定し、測定された明度によって金属薄膜磁性層の非磁性支持体近傍における酸素含有量を監視することができる。従って、測定された明度に応じて、供給する酸素ガス量を制御することにより、金属薄膜磁性層の非磁性支持体近傍における酸素含有量を制御することができ、品質の安定した金属薄膜磁性層が得られる。
本発明の磁気記録媒体の製造方法及び製造装置によれば、蒸着開始点付近に設けられた蒸発材料・酸素混合チャンバ内で、蒸発材料と供給された酸素ガスとを混合して蒸発材料を散乱させると共に非磁性支持体に向けて送り出すことにより、前記支持体面上に蒸着結晶粒が前記支持体に対して略垂直方向に略直線状に成長した初期成長部分が形成され、連続して、前記初期成長部分上に、前記結晶粒が前記支持体に対して所定の傾斜角度の方向に半円弧状に成長した後期成長部分が形成される。
混合チャンバ内で供給された酸素ガスによって蒸発材料は散乱されるので、初期成長部分において、前記支持体に対して略垂直方向に略直線状に蒸着結晶粒が成長する。また、混合チャンバ内で蒸発材料と酸素ガスとがよく混合されるので、酸素含有量の多い初期成長部分が安定して形成される。
本発明により製造された磁気記録媒体は、高い保磁力を有し、短波長記録において高い再生出力及びC/N(出力/ノイズ)が得られる。
まず、本発明により製造される磁気記録媒体の好ましい例について説明する。図1は、本発明の磁気記録媒体の一例を模式的に示す媒体長手方向の断面図である。図1において、本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体(1) 上に強磁性金属材料を真空蒸着させた金属薄膜磁性層(2) を有する。金属薄膜磁性層(2) は、1回の蒸着工程によって形成されたものであり、支持体(1) 面上の初期成長部分(2a)と、初期成長部分(2a)上の後期成長部分(2b)とからなる。なお、図1は、磁気記録媒体の層構成例を模式的に示すものであり、各層の厚さの関係を示すためのものではない。
非磁性支持体(1) の材質は特に制限はなく、強磁性金属蒸着時の熱に耐える各種フィルム、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド等が用いられる。
金属薄膜磁性層(2) における強磁性金属の組成も特に限定されないが、Coが最も好ましく、また、Coを主成分として含有するCo含有合金も好ましく、強磁性金属中の全金属元素を基準としたCo含有率は、60原子%以上、さらには80原子%以上、特に90原子%以上であることが好ましい。Co含有合金を用いる場合には、Co及びNiを主成分とする合金、又はCo、Ni及びCrを主成分とする合金が好ましい。Co以外の各元素の含有率は、要求される磁気特性や耐食性に応じて適宜選択すればよい。
金属薄膜磁性層(2) における初期成長部分(2a)は、蒸着工程の初期において金属薄膜磁性層(2) を構成する結晶粒が、支持体(1) に対して略垂直方向に略直線状に成長した部分である。ここで、略垂直方向とは、結晶粒の成長方向の、支持体(1) 面の法線方向に対する傾斜角度θaが0°〜10°、好ましくは0°〜5°であることを意味する。傾斜角度θaが10°を超えると、支持体表面の微小凹凸が反映され、初期成長部分(2a)表面の平滑性は低下する。すなわち、支持体表面の微小凸部の支持体走行方向のすぐ後ろ側では、蒸着粒子が堆積しにくく、微小凸部と微小凹部とでは結晶粒成長にばらつきが生じてしまう。その結果として、初期成長部分(2a)表面の平滑性は低下する。傾斜角度θaが小さいほど、均一な略直線状の結晶粒成長が得られ、初期成長部分(2a)表面は平滑となる。
本発明においては、後述するように、蒸着開始点付近に設けられた蒸発材料・酸素混合チャンバ内において、酸素ガスと良く混合され且つ散乱された蒸発強磁性金属が支持体(1) に向けて送り出され、初期の蒸着が行われる。そのため、支持体(1) に対して結晶粒が略垂直方向に略直線状に成長した初期成長部分(2a)が形成される。初期成長部分(2a)は、Co−Oを主体として形成される。初期成長部分(2a)における酸素含有量は、好ましくは50〜60原子%程度である。
初期成長部分(2a)の厚さは、5nm〜50nmの範囲であることが好ましい。この程度の厚さであれば、初期成長部分(2a)が均一で細かいコラムで形成されているため、初期成長部分(2a)に続いて成長する後期成長部分(2b)も均一で細かいコラムで形成されやすい。また、後期成長部分(2b)において、結晶磁気異方性の発現の元となるCo(六方晶)のC軸方向がコラム内でそろい易い。これらのため、後期成長部分(2b)が高い保磁力、及び残留磁化を有し、その結果、高いC/Nが得られる。また、支持体表面の微小凹凸を緩和し、初期成長部分(2a)の表面が平滑となり、初期成長部分(2a)に続いて成長する後期成長部分(2b)の表面も平滑となる。
初期成長部分(2a)の厚さが5nm未満であると、初期成長部分(2a)が均一なコラムとして成長しておらず、後期成長部分(2b)において、Co(六方晶)のC軸方向がコラム内でそろいにくい。また、支持体表面の微小凹凸の緩和が不十分である。一方、初期成長部分(2a)の厚さが50nmを超えると、初期成長部分(2a)のコラムが成長しすぎて粗大化しており、後期成長部分(2b)のコラムが太く不均一になりやすい。
金属薄膜磁性層(2) における後期成長部分(2b)は、初期成長部分(2a)から連続して蒸着により形成される部分であり、初期成長部分(2a)において成長した前記結晶粒が、支持体(1) に対して所定の傾斜角度の方向に半円弧状に成長した部分である。この傾斜角度は、結晶粒の成長方向の、支持体(1) 面の法線方向に対する傾斜角度であり、初期成長部分(2a)との界面近傍において最大の値θbiをとり、次第に小さくなっていき、磁性層(2) の表面近傍において最小の値θbeとなる。半円弧状とは、角度及び半径が任意の円又は楕円の多数の軌跡による断面曲線を表す。このことは、蒸着工程において、支持体(1) が回転冷却ドラムの周面に添いながら走行し、蒸発材料の入射角がθmax側から次第にθmin側へと変化していくことから理解される。前記傾斜角度の最大値θbiは、例えば、70°〜90°程度であり、最小値θbeは、例えば、10°〜60°程度である。後期成長部分(2b)は、初期成長部分(2a)に比べ酸素含有量が小さく、Coを主体として形成される。後期成長部分(2b)における酸素含有量は、好ましくは20〜50原子%程度である。
後期成長部分(2b)の厚さは、10nm〜300nmであることが好ましい。この程度の厚さであれば、初期成長部分(2a)の均一で細かいコラムに続いて、後期成長部分(2b)も均一で細かいコラムとして形成されやすく、また、後期成長部分(2b)の表面(すなわち、磁性層(2) の表面)の平滑性が得られやすい。このため、後期成長部分(2b)が高い保磁力及び残留磁化を有し、その結果、高いC/Nが得られる。一般に、後期成長部分(2b)の厚さは、初期成長部分(2a)の厚さよりも厚い。
後期成長部分(2b)の厚さが10nm未満であると、初期成長部分(2a)の有無に係わらず、後期成長部分(2b)の保磁力及び残留磁化を維持することが困難となる。一方、後期成長部分(2b)の厚さが300nmを超えると、後期成長部分(2b)の結晶が粗大化してしまい、後期成長部分(2b)の表面の平滑性が低下し、スペーシングロスが増大し、その結果、高いC/Nが得られにくくなる。
以上のような金属薄膜磁性層(2) の構成とすることにより、高い保磁力及び残留磁化を有し、短波長記録において高い再生出力及びC/Nが得られる磁気記録媒体となる。
次に、本発明の磁気記録媒体の製造方法及び装置について説明する。図2は、本発明の製造装置の一例の概略構成図である。図2において、本発明の製造装置(11)は、真空ポンプ(12)によって内部が所定の圧力に保たれた真空槽(13)内にて、非磁性支持体の供給ロール(14)と、供給ロール(14)から繰り出された非磁性支持体(1) を周面に添わせて走行させる回転冷却ドラム(20)と、蒸着材料すなわち強磁性金属(18)を収容し、且つ、電子銃(19)からの電子ビーム(19b) 照射により蒸発した強磁性金属を、回転冷却ドラム(20)周面に添って走行している非磁性支持体(1) の一方の面上に斜め蒸着させるように定置されたるつぼ(17)と、蒸着終了点(B) 付近に酸素ガスを供給する酸素ガス供給口を備えた酸素供給管(23)と、最小入射角θminを規制する遮蔽版(22)と、蒸着により前記一方の面上に金属薄膜磁性層が形成された非磁性支持体(1) を巻き取る巻き取りロール(16)とを備えている。そして、本発明の製造装置(11)は、蒸着開始点(A) 付近に、蒸発材料・酸素混合チャンバ(31)を備えている。さらに本発明の製造装置(11)は、回転冷却ドラム(20)と巻き取りロール(16)との間において、前記一方の面上に金属薄膜磁性層が形成された非磁性支持体(1) の他方の面(すなわち、裏面)側から支持体(1) を通して金属薄膜磁性層に光を投射し、その反射光の明度を測定する手段(15)、例えば、分光測色計、色分布測定装置を備えている。
また、非磁性支持体(1) の走行時に、非磁性支持体(1) の両エッジ部分や冷却ドラム(20)に蒸着材料が付着しないように、蒸着開始点(A) のやや上流側から蒸着終了点(B) のやや下流側にかけて、非磁性支持体(1) の両エッジ部分や冷却ドラム(20)両側面の端部を覆うマスクが設けられている。なお、この明細書において上流及び下流とは、非磁性支持体(1) の走行方向を基準とする。
図3は、蒸発材料・酸素混合チャンバ(31)の概略を示し、回転冷却ドラム(20)側から見た斜視図である。混合チャンバ(31)は、走行している非磁性支持体(1) の幅方向(すなわち、図2の紙面の垂直方向)に延びた形状のものであり、上壁(32)、下壁(33)、垂直壁(34)、及び両側壁(35)(36)によって形成され、チャンバ(31)の支持体(1) 側は開口されている。その開口の幅(W) は、所定の磁性層形成幅に応じて適宜決定される。通常は、開口の幅(W) は磁性層形成幅と等しくされるか、又は磁性層形成幅より僅かに大きくされる。また、開口の高さ(H) は、冷却ドラム(20)の直径や、非磁性支持体(1) の走行速度等によって適宜決定される。混合チャンバ(31)の内部には、垂直壁(34)に沿って、酸素ガス供給口(41)を備える酸素供給管(40)が配置されている。酸素ガス供給口(41)は、図示のような支持体幅方向に多数並べられた円形孔であってもよく、支持体幅方向に細長いスリットであってもよく、もちろん、その他の形状であってもよい。チャンバ(31)の内部とは、各壁(32)(33)(34)(35)(36)及び前記開口面によって囲まれた空間を指している。
図示の例では、混合チャンバ(31)は、蒸着される強磁性金属の最大入射角θmaxに影響を与えないような位置に設けられている。蒸着終了点(B) 付近には遮蔽版(22)が設けられ、遮蔽版(22)によって蒸着される強磁性金属の最小入射角θminが規制される。遮蔽版(22)に近接して、多数の酸素ガス供給口を備える酸素供給管(23)が配置されており、その酸素ガス供給口は蒸着終了点(B) 付近に向けられている。
図4は、インライン型分光測色計を用いた明度測定の例を示す模式図である。分光測色計(15)は、走行している非磁性支持体(1) の裏面(1b)側に配設されている。分光測色計(15)の好適例においては、ハロゲンライト等を用いた光源から、例えば、光ファイバー(図示せず)にて非磁性支持体(1) 表面に斜めから投光し、支持体(1) を通して金属薄膜磁性層(2) との界面で反射した光を受光する。受光した光は増幅され、増幅された受光光は分光測色計(15)にて明度測定がなされる。分光測色計(15)の設備の内、モニターや制御部等を真空槽(13)の外部に設置し、外部から明度を監視するようにする。かかる分光測色計は明度が測定できるものであればどのようなタイプのものであってもよい。また、非磁性支持体(1) の幅方向における明度をより正確に測定するために、分光測色計(15)を非磁性支持体(1) 幅方向に複数個並べて配設してもよい。
製造装置(11)を用いて、次のようにして金属薄膜磁性層の形成を行う。真空ポンプ(12)を作動させ、真空槽(13)内を所定の圧力に保つ。供給ロール(14)から非磁性支持体(1) を繰り出し、回転している冷却ドラム(20)の周面に添わせて走行させる。るつぼ(17)内に収容された強磁性金属(18)に、電子銃(19)から電子ビーム(19b) を照射して強磁性金属を蒸発させると共に、混合チャンバ(31)内において酸素供給管(40)から供給口(41)を通じて酸素ガスを供給し、酸素供給管(23)からもその供給口を通じて蒸着終了点(B) 付近に酸素ガスを供給する。電子ビーム(19b) は、非磁性支持体(1) の幅方向に走査される。
蒸発した強磁性金属のうち、蒸着開始点(A) 付近すなわち最大入射角θmax方向に飛来した蒸発金属の多くが、混合チャンバ(31)内において、供給された酸素ガスと良く混合され且つ散乱される。そして、酸素ガスの流れによって蒸発金属は支持体(1) に向けて送り出され、初期の蒸着が行われる。このようにして、最大入射角θmaxとなる蒸着開始点(A) 付近であるにも係わらず、支持体(1) に対して結晶粒が略垂直方向(すなわち、支持体(1) 面の法線方向に対する傾斜角度θaが0°〜10°)に略直線状に成長した初期成長部分(2a)が形成される。初期成長部分(2a)は、酸素含有量が高くなり、Co−Oを主体として形成される。なお、蒸着開始点(A) とは、幾何学的な意味での蒸着開始点であり、実際には、混合チャンバ(31)からの酸素ガス及び蒸発金属の送り出しによって、蒸着開始点(A) よりも少し上流側から蒸着が始まる。
初期成長部分(2a)の形成後に、混合チャンバ(31)の下流側において、支持体(1) が蒸着終了点(B) までの区間を走行している間に連続して蒸着が行なわれ、初期成長部分(2a)において成長した前記結晶粒が、支持体(1) に対して所定の傾斜角度の方向に半円弧状に成長し、後期成長部分(2b)が形成される。この際の傾斜角度は、初期成長部分(2a)との界面近傍における最大の値θbiから、次第に小さくなっていき、磁性層(2) の表面近傍(すなわち蒸着終了点(B) 近傍に対応する)において最小の値θbeとなる。この角度変化は、支持体(1) が回転冷却ドラムの周面に添いながら走行し、蒸発金属の入射角がθmax側から次第にθmin側へと変化していくことに対応する。後期成長部分(2b)の厚さは、目的とする磁気特性等に応じて、遮蔽板(22)の位置の調整や、支持体(1) の走行速度等によって行うことができる。なお、蒸着終了点(B) とは、幾何学的な意味での蒸着終了点であり、実際には、回り込み蒸発金属によって、蒸着終了点(B) よりも少し下流側でも蒸着が起こる。
θmaxは、通常、80〜90°程度、θminは、通常、10〜60°程度とすることが好ましい。
このようにして非磁性支持体(1) 上に初期成長部分(2a)と後期成長部分(2b)とからなる金属薄膜磁性層(2) が形成される。金属薄膜磁性層(2) の形成後に、インライン分光測色計(15)を用いて、非磁性支持体(1) の裏面(1b)に斜めから投光し、支持体(1) を通して支持体(1) と金属薄膜磁性層の初期成長部分(2a)との界面で反射した光を受光して、明度測定を行う。測定された明度は、非磁性支持体近傍における初期成長部分(2a)の状態をよく反映しており、実施例で示すように、測定された明度は、金属薄膜磁性層(2) の非磁性支持体近傍における酸素含有量と比例的関係にある。従って、明度と、金属薄膜磁性層(2) の非磁性支持体近傍における酸素含有量との関係を予め検量しておけば、インラインで支持体裏面(1b)から明度を測定することにより、金属薄膜磁性層(2) の非磁性支持体近傍における酸素含有量を正確に評価することができる。
そして、得られた酸素含有量に基づいて、混合チャンバ(31)内の酸素供給管(40)や酸素供給管(23)から供給する酸素ガス量を変動させることにより、金属薄膜磁性層(2) の非磁性支持体近傍における酸素含有量を制御するとよい。非磁性支持体近傍の初期成長部分(2a)は、蒸着初期段階において形成されたものであるので、蒸着開始点(A) 付近での酸素ガス供給量を主として変動させることにより、その酸素含有量を制御しやすい。
明度測定後に、金属薄膜磁性層(2) が形成された非磁性支持体(1) は、巻き取りロール(16)に巻き取られる。
図5は、本発明の製造装置の他の一例の概略構成図である。図5の製造装置(11)は、図2に示した製造装置(11)において、さらに、冷却ドラム(20)と巻き取りロール(16)との間において、金属薄膜磁性層(2) の面側から金属薄膜磁性層表面に直接に光を投射し、その反射光の明度を測定する分光測色計(17)を備えている。金属薄膜磁性層(2) の面側から明度を測定することにより金属薄膜磁性層(2) の表面近傍における酸素含有量をも正確に評価することができる。
本発明において、分光測色計(15)や分光測色計(17)で連続的に測定された明度のデータをコントロールユニットに送り、コントロールユニットにおいて、予め作成された明度と酸素含有量との関係の検量線を用いて、酸素供給管(40)(23)からの酸素供給量を算出して自動的に制御することも好ましい。
このようにして、測定された明度に応じて供給する酸素ガス量を制御することにより、金属薄膜磁性層の非磁性支持体近傍における酸素含有量を制御することができ、その結果、品質の安定した金属薄膜磁性層が得られる。
本発明において、金属薄膜磁性層(2) 形成後に、磁性層(2) 上に保護層や潤滑剤層等を形成してもよい。また、非磁性支持体(1) の裏面(1b)上には、バックコート層を形成してもよい。
また、本発明は、非磁性支持体の一方の面上に金属薄膜磁性層を有する磁気記録媒体の前記非磁性支持体の他方の面側から前記支持体を通して金属薄膜磁性層に光を投射し、その反射光の明度を測定することにより金属薄膜磁性層の非磁性支持体近傍における酸素含有量を評価する、磁気記録媒体の評価方法にも関する。この評価方法は、製造インラインについて説明した技術を製造後の磁気記録媒体に適用することによって実施される。非磁性支持体(1) の裏面(1b)上にバックコート層が形成されている場合には、バックコート層をアセトン等の適切な溶剤で取り除くなどした後、明度を測定するとよい。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
1.オフラインでの評価:明度L値と酸素含有量との相関性
図2に示す製造装置(11)を用いて、以下のようにして7種の蒸着テープサンプルを作製した。このオフラインでの評価のための蒸着テープサンプル作製中においては、分光測色計(15)は作動させていない。
図2に示す製造装置(11)を用いて、厚さ4.7μmのポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)フィルム(1) 上に強磁性金属薄膜を形成した。平均の最小入射角θminを50°、平均の最大入射角θmaxを実質的に90°とした。強磁性金属(18)としてはCo金属を用いた。るつぼ(17)は、酸化マグネシウム製のものを用いた。
まず、真空槽(13)内の圧力を真空ポンプ(12)によって10-3Paに保った。この状態で、PENフィルム(1) を走行させ、るつぼ(17)に収容されたCo金属(18)に電子銃(19)から電子ビーム(19b) を照射してCo金属の溶解、蒸着を行った。電子銃(19)からの電子ビーム(19b) は、るつぼ(17)内のCo金属(18)表面に対し、PENフィルム(1) の幅方向と平行な方向に走査した。θmin側の酸素供給管(23)からの酸素ガス供給量を一定として、その一定供給量を1として相対的に、θmax側に位置する混合チャンバ(31)内の酸素供給管(40)からの酸素ガス供給量を0、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0と変化させて、蒸着を行い、金属薄膜磁性層を形成した。金属薄膜磁性層の目標膜厚は、170nmとした。このようにして、7種の蒸着テープサンプルをそれぞれ作製した。
(明度L値の測定)
得られた7種の蒸着テープサンプルについて、分光測色計(ミノルタ製、CM−503d)を用いて、PENフィルム(1) の裏面側から、金属薄膜磁性層に光を投射し反射光の明度L値を測定した。
(オージェ酸素含有量の測定)
得られた7種の蒸着テープサンプルについて、オージェ分析計(アルバック・ファイ製、SAM60)を用いて、正イオンで帯電を中和して金属薄膜磁性層の支持体近傍の酸素含有量(at%)を測定した。
以上の結果を表1に示す。また、図6に、支持体裏面側からの明度L値と酸素含有量(at%)との関係を表すグラフを示す。
図6のグラフより、支持体裏面側からの明度L値と酸素含有量(at%)とは非常に良く比例している。このことから、支持体フィルム(1) を通して金属薄膜磁性層に光を投射した際の反射光の明度L値が、金属薄膜磁性層の支持体フィルム(1) 近傍における酸素含有量と比例的関係にあることが明らかである。
この際の明度L値と酸素含有量(at%)との関係は、次式(I)で近似される。
酸素含有量(at%)=3.5463×(L値)+231.36 (I)
この式(I)を検量線として用いると、種々のサンプルについて支持体裏面側からL値を測定し、このL値によって、金属薄膜磁性層の支持体近傍における酸素含有量を正確に知ることができる。従って、次に示すように、製造インライン中に分光測色計(15)を作動させて、随時L値を測定し、金属薄膜磁性層の支持体近傍における酸素含有量を正確に知ることができる。そして、得られたL値に基づいて、酸素供給量を制御して、目標の酸素含有量とされた金属薄膜磁性層を形成することができる。
2.インラインでの明度L値の測定及び酸素含有量の制御
金属薄膜磁性層の支持体フィルム(1) 近傍における酸素含有量の目標値45at%として、以下のように、図2に示す製造装置(11)を用いて、金属薄膜磁性層を形成した。分光測色計(15)としては、大塚電子(株)製 MCPD−2000を用いた。
上記式(I)から、酸素含有量45at%は、明度L値52.6に対応する。従って、目標明度L値52.6となるように、θmax側に位置する混合チャンバ(31)内の酸素供給管(40)からの酸素ガス供給量を自動制御して、蒸着を行い、金属薄膜磁性層を形成した。θmin側の酸素供給管(23)からの酸素ガス供給量は上記1.における場合と同じ一定供給量とした。この一定供給量を1として相対的に、θmax側酸素供給管(40)からの酸素ガス供給量は1.1であった。その他の条件は、上記1.における場合と同じとした。このようにして、蒸着テープサンプルNo.1を作製した。
[実施例2、3]
図2に示す製造装置(11)を用いた。金属薄膜磁性層の支持体フィルム(1) 近傍における酸素含有量の目標値50at%(実施例2)、55at%(実施例3)として、上記式(I)を用いて、実施例1と同様の手法により、蒸着テープサンプルNo.2、No.3をそれぞれ作製した。
[実施例4、5]
図2に示す製造装置(11)において、θmax側に混合チャンバ(31)を備えていない製造装置を用いた。この製造装置は、図2における混合チャンバ(31)から上壁(32)、垂直壁(34)及び両側壁(35)(36)が取り除かれた形態に相当する下壁(33)及び酸素供給管(40)が、図2における混合チャンバ(31)の設置位置に設置されているものである。
金属薄膜磁性層の支持体フィルム(1) 近傍における酸素含有量の目標値45at%(実施例4)、50at%(実施例5)として、上記式(I)を用いて、実施例1と同様の手法により、蒸着テープサンプルNo.4、No.5をそれぞれ作製した。
[比較例1]
実施例4で用いたのと同じ製造装置を用いたが、θmax側の酸素供給管(40)からの酸素供給は行わなかった。蒸着テープサンプルNo.6を得た。
[比較例2]
実施例1で用いたのと同じ製造装置を用いたが、θmax側の酸素供給管(40)からの酸素供給は行わなかった。蒸着テープサンプルNo.7を得た。
(オージェ酸素含有量の測定)
得られた各蒸着テープサンプルについて、オージェ分析計(アルバック・ファイ製、SAM60)を用いて、正イオンで帯電を中和して金属薄膜磁性層の支持体近傍の酸素含有量(at%)を測定した。
(保磁力の測定)
得られた各蒸着テープサンプルについて、VSM(振動試料型磁力計)にて保磁力Hc(kA/m)を測定した。
(出力の測定)
得られた各蒸着テープサンプルについて、0.2μmギャップ長インダクティブヘッドを搭載したドラムテスタを用いて、0.35μmの記録波長により出力(dB)を測定した。
以上の結果を表2に示す。表2から、実施例1〜5において、目標酸素含有量(at%)と実際に得られた酸素含有量(at%)の値が非常に近いことが分かる。このことから、インライン中に測定された明度L値に基づいて、金属薄膜磁性層の支持体フィルム近傍における酸素含有量を制御できることが明らかとなった。
また、予め、保磁力Hcや、出力に関するデータも測定しておけば、L値のみの管理によって、これらの磁気テープ性能の評価も同時に行うことができる。
本発明により製造される磁気記録媒体の好ましい例を模式的に示す断面図である。
本発明の製造装置の一例の概略構成図である。
蒸発材料・酸素混合チャンバの概略を示す斜視図である。
インライン型分光測色計を用いた明度測定の例を示す模式図である。
本発明の製造装置の他の一例の概略構成図である。
支持体裏面側からの明度L値と酸素含有量(at%)との関係を表すグラフである。
従来の蒸着装置の概略構成図である。
符号の説明
(1) :非磁性支持体
(2) :金属薄膜磁性層
(2a):初期成長部分
(2b):後期成長部分
(11):製造装置
(13):真空槽
(14):供給ロール
(15):明度の測定手段
(16):巻き取りロール
(17):るつぼ
(18):強磁性金属
(19):電子銃
(19b) :電子ビーム
(20):回転冷却ドラム
(23):酸素供給管
(31):蒸発材料・酸素混合チャンバ
(40):酸素供給管
(A) :蒸着開始点
(B) :蒸着終了点