(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る多段増幅装置1の構成を示すブロック図である。図1において、多段増幅装置1は、第1の並列帰還増幅器10−1と、第2の並列帰還増幅器10−2と、入力端子71と、出力端子72とを備える。第1の並列帰還増幅器10−1は、第1の増幅部101−1と、第1の並列帰還部102−1とを含む。第2の並列帰還増幅器10−2は、第2の増幅部101−2と、第2の並列帰還部102−2とを含む。
図1に示すように、多段増幅装置1は、帰還回路として並列帰還部を含む二つの増幅器を、縦列に接続した構成である。第1の増幅部101−1と第2の増幅部101−2とは、反転増幅器である。第1の並列帰還部102−1と第2の並列帰還部102−2とは、互いに異なるリアクタンス成分を有する。
第1の並列帰還増幅器10−1において、第1の増幅部101−1は、入力端子71から入力された、所望周波数帯を有する所望信号(以下、所望信号という)を増幅する。第1の増幅部101−1が入力された所望信号を増幅する際、所望信号によって、IM3が発生する。第1の並列帰還部102−1は、リアクタンス成分によって、増幅された所望信号成分の位相と、第1の増幅部101−1で発生したIM3(以下、第1のIM3という)の位相とを変化させて、増幅された所望信号成分と第1のIM3成分とを帰還させる。
第2の並列帰還増幅器10−2において、第2の増幅部101−2は、第1の並列帰還増幅器10−1から出力された所望信号と第1のIM3とを増幅する。第2の増幅部101−2では、増幅された所望信号によって、新たにIM3が発生する。第2の並列帰還部102−2は、リアクタンス成分によって、増幅された所望信号成分の位相と、増幅された第1のIM3の位相と、新たに発生したIM3(以下、第2のIM3という)の位相とを変化させて、更に増幅された所望信号と、増幅された第1のIM3と、第2のIM3とを帰還させる。
第1の実施形態に係る多段増幅装置1の動作の概要を説明する。なお、本発明に係る多段増幅措置の動作を説明する場合、所望周波数帯を有する所望信号のうち二つの周波数成分(以下、所望信号成分という)と、二つの周波数成分によって発生するIM3とを用いて説明する。なお、二つの周波数成分の周波数は、所望周波数帯の最大値と最小値とする。これにより、本発明に係る多段増幅装置における、所望周波数帯の所望信号と、所望周波数帯の所望信号によって発生するIM3との関係を説明することができる。
以下、所望信号成分とIM3成分との位相関係を図示する場合、特に断りのない限り、以下のルールに従って表示するものとする。所望信号成分を実軸上にとって、所望信号のうち二つの周波数成分の位相とIM3成分の位相との関係を表す。所望信号成分と、周波数成分が異なる二つのIM3成分とは、それぞれ同相であるとする。所望信号成分の位相とIM3成分の位相との関係を分かりやすく表示するために、IM3成分の大きさは、誇張して表現する。
第1の増幅部101−1は、入力された所望信号成分(以下、入力所望信号成分という)を増幅する。第1の増幅部101−1が入力された所望信号成分を増幅する際、IM3成分が発生する。なお、第1の増幅部101−1において、所望信号成分によって発生する第1のIM3の周波数成分を、第1のIM3成分とする。第1の増幅部101−1は、増幅された所望信号成分と、第1のIM3成分とを出力する。増幅された所望信号成分の位相と第1のIM3成分の位相との差は、180°であるとする。図2Aは、図1に示す点a1における、増幅された所望信号成分(以下、所望信号成分Sa1という)の位相と、第1のIM3成分(以下、第1のIM3成分Xa1という)の位相との関係を示す模式図である。図2Aに示すように、所望信号成分Sa1の位相と、第1のIM3成分Xa1の位相との差は、180°である。
第1の並列帰還部102−1は、所望信号成分Sa1の位相及び第1のIM3成分Xa1の位相を変化させる。第1の並列帰還部102−1における、所望信号成分Sa1の位相変化及び第1のIM3成分Xa1の位相変化の周波数依存性は、十分に小さく、無視できるとする。
図2Bは、図1に示す点b1における、位相が変化した所望信号成分Sa1(以下、所望信号成分Sb1という)の位相と、位相が変化した第1のIM3成分Xa1(以下、第1のIM3成分Xb1という)の位相との関係を示す模式図である。なお、図2Bにおいて、入力所望信号成分が、実軸上にとられている。図2Bに示すように、所望信号成分Sb1の位相と、第1のIM3成分Xb1の位相との差は、180°のまま変化しない。
図2Cは、図1に示す点c1における、入力所望信号成分の位相と、帰還した所望信号成分Sb1の位相と、帰還した第1のIM3成分Xb1の位相との関係を示す模式図である。なお、図2Cにおいて、入力所望信号成分が、実軸上にとられている。図2Cに示すように、入力所望信号成分と、第1の並列帰還部102−1から帰還する所望信号成分Sb1とが、点c1において合成されることによって、所望信号成分Sc1が発生する。入力所望信号成分の位相と所望信号成分Sb1の位相とは、異なる位相である。このため、所望信号成分Sc1の位相は、入力所望信号成分の位相及び所望信号成分Sb1の位相と異なる位相となる。なお、点c1において、第1のIM3成分Sb1の位相は、変化しない。
図2Dは、図1に示す点c1における、所望信号成分Sc1の位相と第1のIM3成分Xb1の位相との関係を示す図である。図2Dに示すように、所望信号成分Sc の位相と第1のIM3成分Xb の位相との差を、θa1とする。
点c1における、入力所望信号成分と所望信号成分Sb1との位相差をθα1とする。このとき、θα1の値は、90°≦θα1≦270°であることが望ましい。この理由は、以下の理由による。θα1の値が、θα1≦90°または、θα1≧270°となる場合、第1の並列帰還部102−1から帰還する所望信号成分Sb1は、正帰還となる。この結果、第1の並列帰還増幅器10−1が不安定となり、第1の並列帰還増幅器10−1の制御が難しくなるという問題が発生するためである。
第1の増幅部101−1は、所望信号成分Sc1及び第1のIM3成分Xb1を、位相差θa1の状態を保ったまま、増幅する。第1の増幅部101−1が所望信号成分Sc1を増幅する際に、新たな第1のIM3成分が発生する。
図2Eは、図1に示す点d1における、増幅された所望信号成分Sc1(以下、所望信号成分Sd1という)の位相と、増幅された第1のIM3成分Xb1(以下、第1のIM3成分Xd1-1という)の位相と、新たな第1のIM3成分(以下、第1のIM3成分Xd1-2という)の位相との関係を示す模式図である。図2Eに示すように、点d1において、所望信号成分Sd1の位相と第1のIM3成分Xd1-2の位相との差は、180°である。第1のIM3成分Xd1-1と、第1のIM3成分Xd1-2とが、点d1において合成されることによって、合成IM3成分が発生する。以下、第1の並列帰還増幅器10−1で発生する合成IM3成分を、第1のIM3成分Xd1であるとして説明を行う。
図2Fは、図1に示す点e1における、所望信号成分Sd1の位相と、第1のIM3成分Xd1の位相との関係を示す模式図である。図2Fに示すように、所望信号成分Sd1の位相と第1のIM3成分Xd1の位相との差は、図2Eに示す状態から変化しない。第1の並列帰還増幅器10−1は、所望信号成分Se1及び第1のIM3成分Xe1を、図2Fに示す状態で出力する。
点d1において、所望信号成分Sd1及び第1のIM3成分Xd1の一部は、第1の並列帰還部102−1に入力される。この結果、第1の並列帰還部102−1は、図2Fに示す所望信号成分Sd1の位相と第1のIM3成分Xd1の位相との関係を保ったまま、所望信号成分Sd1の位相と第1のIM3成分Xd1の位相とを変化させて、所望信号成分Sd1と第1のIM3成分Xd1とを帰還させる。第1の並列帰還増幅器10−1が上記の動作を繰り返すことによって、点d1における所望信号成分Sd1の位相と第1のIM3成分Xd1の位相との差は、変化するが、やがて一定の値となる。なお、以下の説明では、第1の並列帰還増幅器10−1から出力される所望信号成分Sd1の位相と第1のIM3成分Xd1の位相との差がθb1であるとして、説明する。なお、第1の増幅部101−1において増幅された所望信号成分の位相と、第1の増幅部101−1で発生した第1のIM3成分の位相との差が180°である場合、θb1の値は、90°≦θb1≦270°となる。
次に、第2の並列帰還増幅器10−2の動作を説明する。
第2の並列帰還増幅器10−2には、所望信号成分Sd1及び第1のIM3成分Xd1が入力される。第2の増幅部101−2は、、位相差θb1の状態を保ったまま、所望信号成分Sd1及び第1のIM3成分Xd1を増幅する。第2の増幅部101−2が所望信号成分Sd1を増幅する際、IM3成分が発生する。なお、第2の増幅部101−2において、所望信号成分によって発生するIM3成分を、第2のIM3成分とする。第2の増幅部101−2が出力する、増幅された所望信号成分Sd1の位相と第2のIM3成分の位相との差は、180°である。
図3Aは、図1に示す点f1における、増幅された所望信号成分Sd1(以下、所望信号成分Sf1という)の位相と、増幅された第1のIM3成分Xd1(以下、第1のIM3成分Xf1という)の位相と、第2のIM3成分(以下、第2のIM3成分Yf1という)の位相との関係を示す模式図である。図3Aに示すように、点f1において、所望信号成分Sf1の位相と、第1のIM3成分Xf1の位相との差は、θb1である。所望信号成分Sf1の位相と第2のIM3成分Yf1の位相との差は、180°である。
第2の並列帰還部102−2は、所望信号成分Sf1の位相と、第1のIM3成分Xf1の位相と、第2のIM3成分Yf1の位相とを変化させる。第2の並列帰還部102−2における、所望信号成分Sf1、第1のIM3成分Xf1及び第2のIM3成分Yf1のそれぞれの位相変化の周波数依存性は、十分に小さく、無視できるとする。
図3Bは、図1に示す点g1における、位相が変化した所望信号成分Sf1(以下、所望信号成分Sg1という)の位相と、位相が変化した第1のIM3成分Sf1(以下、第1のIM3成分Xg1という)の位相と、位相が変化した第2のIM3成分Yf1(以下、第2のIM3成分Yg1という)の位相との関係を示す模式図である。なお、図3Bにおいて、所望信号成分Sd1が、実軸上にとられている。図3Bに示すように、点g1において、所望信号成分Sg1の位相と、第1のIM3成分Xg1の位相と、第2のIM3成分Yg1の位相との関係は、図3Aに示す状態のまま、変化しない。
図3Cは、図1に示す点h1における、所望信号成分Sd1の位相と、帰還した所望信号成分Sg1の位相と、帰還した第1のIM3成分の位相Xg1と、帰還した第2のIM3成分Yg1の位相との関係を示す模式図である。なお、図3Cにおいて、所望信号成分Sd1が、実軸上にとられている。図3Cに示すように、点h1において、所望信号成分Sd1と帰還した所望信号成分Sg1とが合成されることによって、所望信号成分Sh1が発生する。また、第1のIM3成分Xd1と、帰還した第1のIM3成分Xg1とが合成され、第1のIM3成分Xh1が発生する。
図3Cに示すように、所望信号成分Sd1の位相と所望信号成分Sg1の位相とは、異なる位相である。よって、所望信号成分Sh1の位相は、所望信号成分Sd1の位相及び所望信号成分Sg1の位相と異なる位相となる。また、第1のIM3成分Xd1の位相と第1のIM3成分Xg1との位相とは、異なる。よって、第1のIM3成分Xh1の位相は、第1のIM3成分Xd1の位相及び第1のIM3成分Xg1の位相と異なる位相となる。一方、点h1において、第2のIM3成分Yg1の位相は、変化しない。
図3Dは、図1に示す点h1における、所望信号成分Sh1の位相と、第1のIM3成分Xh1の位相と、第2のIM3成分Yg1の位相との関係を示す模式図である。図3Dに示すように、所望信号成分Sh1の位相と第1のIM3成分Xh1の位相との差は、θb1のまま、変化しない。一方、第2のIM3成分Yg1の位相と所望信号成分Sg1の位相との差が180°であったのに対し、所望信号成分Sh1の位相と第2のIM3成分Yg1の位相との差は、θc1となる。このように、点h1において、所望信号成分の位相と、第2のIM3成分の位相との関係は、図3Aの状態から図3Dの状態に変化する。
点h1における、所望信号成分Sd1の位相と所望信号成分Sg1の位相との差をθβ1とする。このとき、θβ1の値は、90°≦θβ1≦270°の範囲内の値をとることが望ましい。この理由は、以下の理由による。θβ1の値が、θβ1≦90°または、θβ1≧270°となる場合、第2の並列帰還部102−1から帰還する所望信号成分Sg1は、正帰還となる。この結果、第2の並列帰還増幅器10−2が不安定となり、制御が難しくなるという問題が発生するためである。
第2の増幅部101−2は、所望信号成分Sh1、第1のIM3成分Xh1及び第2のIM3成分Yg1を、図3Dに示す位相の関係の状態を保ったまま、増幅する。所望信号成分Sh1が増幅される際に、第2のIM3成分が新たに発生する。
図3Eは、図1に示す点i1における、増幅された所望信号成分Sh1(以下、所望信号成分Si1という)の位相と、増幅された第1のIM3成分Xh1(以下、第1のIM3成分Xi1という)の位相と、増幅された第2のIM3成分Yh1(以下、第2のIM3成分Yi1-1という)の位相と、所望信号成分Sh1の増幅の際に発生した第2のIM3成分(以下、第2のIM3成分Yi1-2という)の位相との関係を示す模式図である。図3Eに示すように、所望信号成分Si1の位相と第2のIM3成分Yi1-2の位相との差は180°である。点i1において、第2のIM3成分Yi1-1と第2のIM3成分Yi1-2とが合成されることによって、第2の合成IM3成分(以下、第2のIM3成分Yi1という)が発生する。所望信号成分Si1と第2のIM3成分Yi1との位相差は、θd1とする。なお、点i1において、所望信号成分Si1の位相と第1のIM3成分Xi1の位相との差は、θb1のまま変化しない。
図3Fは、図1に示す点j1における、所望信号成分Si1の位相と、第1のIM3成分Xi1の位相と、第2のIM3成分Yi1関係を示す模式図である。図3Fに示すように、点j1において、第1のIM3成分Xi1と第2のIM3成分Yi1とが合成され、第1の総和IM3成分が発生する。ここで、第1のIM3成分Xi1の位相と第2のIM3成分Yi1の位相とは、互いに相殺するような位相となっている。第1のIM3成分Xi1と第2のIM3成分Yi1とが相殺するような位相に関する詳細な説明は、後述する。
なお、点i1において、所望信号成分Si1、第1のIM3成分Xi1及び第2のIM3成分Yi1は、第2の並列帰還部102−2にも入力される。この結果、第2の並列帰還部102−2は、図3Eに示す所望信号成分Si1の位相と第1のIM3成分Xi1の位相との関係を保ったまま、所望信号成分Si1の位相と第1のIM3成分Xi1の位相とを変化させる。第2の並列帰還増幅器10−2が上記の動作を繰り返すことによって、点i1における所望信号成分Si1の位相と第2のIM3成分Yi1の位相との差は、変化するが、やがて一定の値となる。なお、以下では、点j1における、所望信号成分Si1の位相と第2のIM3成分Yi1の位相との差は、θd1であるとして説明する。なお、第2の増幅部101−2において増幅された所望信号成分の位相と、第2の増幅部101−2で発生した第2のIM3成分の位相との差が180°である場合、θd1の値は、90°≦θd1≦270°となる。
このように、多段増幅装置1は、第1の並列帰還増幅器10−1で発生した第1のIM3成分と、第2の並列帰還増幅器10−2で発生した第2のIM3成分とを相殺させ、IM3を抑圧する。
次に、第1の並列帰還増幅器10−1及び第2の並列帰還増幅器10−2の詳細な動作を説明する。図4は、第1の並列帰還増幅器10−1の詳細な動作を説明するための図である。なお、第2の並列帰還増幅器10−2の動作は、以下に説明する第1の並列帰還増幅器と同様に説明することができる。
図4に示すように、第1の並列帰還増幅器10−1には、信号源11から所望信号成分が入力される。第1の並列帰還増幅器10−1の入力電流をiinとする。第1の並列帰還増幅器10−1の出力電流をiout とし、第1の増幅部101−1の出力電流をi’out とする。第1の並列帰還部102−1にβ(ω)・i’out の電流が流れるとする。ここで、β(ω)は、帰還量を表す。図4において、第1の増幅部101−1の入力アドミッタンスをYin、第1の並列帰還部102−1のアドミッタンスをYf1、信号源11の内部アドミッタンスをYs 、負荷抵抗12の負荷アドミッタンスをYL とする。第1の増幅部101−1の出力アドミッタンスYout は、十分小さく、無視できるとする。
上記のようにパラメータを定義すると、負荷抵抗12に流れる電流は、(式1)のように表される。
また、キルヒホッフの法則より、i
out とi’
out とは、(式2)のように表される。
(式1)と(式2)とを用いて、β(ω)について解くと、β(ω)は、(式3)のように表される。
式(3)において、η(ω)=(Y
S +Y
in)/(Y
s +Y
in+Y
f1)である。
一般に、並列帰還増幅器は、電流帰還増幅器である。よって、第1の増幅部101−1の入出力電力特性から、電流帰還増幅器の入出力電力特性を導出する。図4に示す第1の増幅部101−1の入出力電力特性は、3次の非線形性まで考慮すると、(式4)のように表される。
ここで、α
n (ω)は、1次から3次までの係数である。ε(ω)は、ε(ω)=(Y
in+Y
S )/Y
inである。第1の並列帰還部102−1のアドミッタンスが0の場合、すなわち、第1の並列帰還増幅器10−1が開ループ増幅器の場合、信号源11からの入力電流i
inは、i
in=ε(ω)・i
out となる。また、第1の並列帰還増幅器10−1から負荷抵抗12への出力電流i
out は、i
out =i’
out となる。これより、α
1 (ω)は、開ループ増幅器の所望信号の電流利得を表していることがわかる。同様に、α
2 (ω)は、2次高調波の電流利得を表しており、α
3 (ω)は、3次高調波の電流利得を表していることがわかる。
また、キルヒホッフの法則より、(式5)が成り立つ。
(式4)と(式5)とから、電流帰還増幅器の入出力電流特性は、(式6)のように表される。
しかし、(式6)に示す電流帰還増幅器の入出力電力特性は、右辺にi
out が含まれている。このため、(式6)から、出力電流i
out について、解くことができない。従って、以下ではボルテラ級数を用いて、i
out の非線形閉ループ伝達関数を導出する。
増幅器50の出力電流i
out が、増幅器50への入力電流i
inのボルテラ級数で表せるとすると、(式7)のように表される。
(式7)において、χ
n ()は、ボルテラ級数の複素係数を表す。(式7)において、i
in=exp(jω
1 t)+exp(jω
2 t)とした場合、(式7)に示すi
out の一次の項は、(式8)のように表される。
(式7)から、第1の並列帰還増幅器10−1の出力電流iout の非線形閉ループ伝達関数のχn ()を求める。
最初に、(式7)のχ
1 (ω
1 )を導出する。第1の並列帰還増幅器10
1の入力電流i
inが、i
in=exp(jω
1 t)で表される場合、(式7)の一次の項は、(式9)のように表される。
(式6)に(式9)を代入すると、両辺のexp(jω
1 t)の項の係数が等しくなることから、χ
1 (ω
1 )は、(式10)のように表される。
次に、第1の並列帰還増幅器10−1の入力電流i
inが、i
in=exp(jω
1 t)+exp(jω
2 t)で表される場合、χ
2 (ω
1 ,ω
2 )を導出する。(式7)のi
inにおいて、2次までの項を考慮すると、i
inは、(式11)のように表される。
(式6)に(式11)を代入すると、両辺のexp(j(ω
1 +ω
2 ))の項の係数が等しくなる。このため、χ
2 (ω
1 ,ω
2 )は、(式12)のように表される。
ただし、(式12)は、(式10)に示すχ
1 (ω
1 )を用いている。
次に、第1の並列帰還増幅器10−1の入力電流i
inがi
in=exp(jω
1 t)+exp(jω
2 t)+exp(jω
3 t)で表される場合における、χ
3 (ω
1 ,ω
2 ,ω
3 )を導出する。(式7)のi
inにおいて、3次までの項を考慮すると、i
inは、(式13)のように表される。
(式6)に(式13)を代入すると、両辺のexp(j(ω
1 +ω
2 +ω
3 ))の項の係数が等しくなる。このため、χ
3 (ω
1 ,ω
2 ,ω
3 )は、(式14)のように表される。
ただし、(式14)において、(式10)に示すχ
1 (ω
1 )と、(式12)に示すχ
2 (ω
2 )を用いている。また、2次の相互変調成分である差周波及び2次高調波のアドミッタンスが十分大きい場合、所望信号成分と差周波及び2次高調波とのミキシングは、無視することができる。よって、α
2 ()がα
3 ()と比較して十分に小さいと仮定して、(式14)は、α
2 を無視する近似を行っている。
所望信号成分の周波数の低い成分の角振動数をω
L 、周波数の高い成分を角振動数ω
H とすると、第1の並列帰還増幅器10−1の入力電流i
inは、(式15)のように表される。
(式15)を(式6)に代入することによって、第1の並列帰還増幅器10−1の出力電流i
out のうち、所望信号成分及び第1のIM3成分は、(式16)のように表される。
(式16)において、I
1 は、入力電流i
inの振幅を表す。i
L は、角振動数ω
L の所望信号成分の出力電流を示す。i
H は、角振動数ω
H の所望信号成分の出力電流を示す。i
iM3Lは、IM3成分の周波数の低い側の成分を示す。i
iM3Hは、IM3成分の周波数の高い側の成分を示す。
第1の並列帰還増幅器10−1の出力電流i
out の非線形閉ループ伝達関数において、1次の閉ループ伝達関数χ
1 (ω
L )と、3次の閉ループ伝達関数χ
3 (ω
L ,ω
L ,−ω
H )は、(式17)のように表される。
ただし、(式17)において、ω
0 は、ω
0 ≒ω
L ≒ω
H である。(式17)において、η(ω
0 )≒1と近似すると、χ
1 (ω
L )は、(式18)のように近似できる。
(式17)のχ
3 (ω
L ,ω
L ,−ω
H )に(式3)を代入すると、χ
3 (ω
L ,ω
L ,−ω
H )は、(式19)のように近似できる。
このようにして、第1の並列帰還増幅器10−1の閉ループ伝達関数を導出することができる。
第1の並列帰還増幅器10−1から出力される、増幅された所望信号成分の位相と第1のIM3成分の位相との差について、(式18)及び(式19)を用いて説明する。第1の並列帰還部102−1のアドミッタンスYf1と、負荷抵抗52の入力アドミッタンス(負荷アドミッタンス)YL とがサセプタンス成分を含む場合を考える。この場合、(式18)及び(式19)の1/{1−β(ω0 )・α1 (ω0 )}の項は、位相成分θ1 を有すると考えることができる。
第1の並列帰還増幅器10−1の出力電流i
out において、i
L とi
IM3Lとについて考える。角振動数ω
L の所望信号成分の出力電流i
L と、周波数の低いIM3成分の出力電流i
IM3Lとは、(式20)のように書くことができる。
(式20)において、δは、{1−β(ω
0 )}の位相成分を表す。また、(式20)を導く際に、第1の増幅部101−1の入出力特性を表すα
1 の位相を0°、α
3の位相を180°としている。さらに、(式20)を導く際に、α
1 (−ω)=α
1 *(ω)、β(−ω)=β
* (ω)としている。ここで、
* は、複素共役を表す。
(式20)において、t=0における角振動数ω
L の所望信号成分の出力電流i
L の位相と、周波数の低い側の第1のIM3成分の出力電流i
IM3Lの位相との差を、Δφ
1-IM3Lとする。(式20)より、Δφ
1-IM3Lは、(式21)の様に表される。
図5Aは、第1の並列帰還増幅器10−1から出力される所望信号成分の位相と、第1のIM3成分の位相との関係を表す模式図である。図5Aは所望信号成分(ω
L 及びω
H )と、第1のIM3成分(2ω
L −ω
H )とを示している。図5Aに示すように、第1の並列帰還増幅器10−1から出力される所望信号成分の位相と、第1のIM3成分の位相との差は、Δφ
1-IM3Lである。
図5Aに示す、第1の並列帰還増幅器10−1から出力される所望信号成分の位相と第1のIM3成分の位相との関係は、図1に示す点e1における所望信号成分Sd1の位相と第1のIM3成分Xd1の位相との関係を示す図2Fに相当する。すなわち、点e1における所望信号成分Sd1と第1のIM3成分Xd1との位相差θb1は、Δφ1―IM3Lと等しい。また、θb1は、−90°≦θb1≦−270°であることより、θ1 の値は、−90°≦θ1 ≦90°の範囲となる。
第1の並列帰還増幅器10−1の動作の詳細な説明を、第2の並列帰還増幅器10−2に適用する場合を考える。第2の並列帰還増幅器10−2には、図5Aに示す、所望信号成分と第1のIM3成分とが入力されるとする。
第2の並列帰還部102−2のアドミッタンスY
f2と、負荷抵抗12の入力アドミッタンス(負荷アドミッタンス)Y
L とがサセプタンス成分を含むとする。この場合、(式18)及び(式19)の1/{1−β(ω
0 )・α
1 (ω
0 )}の項は、位相成分θ
2 を有すると考えることができる。第2の並列帰還増幅器10−2から出力される所望信号成分の位相と第2のIM3成分の位相との差を、Δφ
2―
IM3Lとする。第1の並列帰還増幅器10−1の場合と同様に考えることによって、Δφ
2―
IM3Lは、(式22)のように表される。
図5Bは、第2の並列帰還増幅器10−2から出力される所望信号成分の位相と第2のIM3成分の位相との関係を示した模式図である。図5Bは所望信号成分(ωL 及びωH )と、第2のIM3成分(2ωL −ωH )とを示している。図5Bに示す、第2の並列帰還増幅器10−2から出力される所望信号成分の位相と第2のIM3成分の位相との関係は、図3Eに示す、点i1における所望信号成分Si1の位相と第2のIM3成分Yi1の位相との関係に相当する。すなわち、点i1における所望信号成分Si1と第2のIM3成分Yi1との位相差θd1は、Δφ2―IM3Lと等しい。また、θd1は、−90°≦θd1≦−270°であることより、θ2 の値は、−90°≦θ2 ≦90°の範囲となる。
図5Cは、出力端子72において、第1のIM3成分と第2のIM3成分とが合成され、IM3が抑圧される様子を示す模式図である。図5Cは、第1のIM3成分Xi1と、第2のIM3成分Yi1とが相殺する様子を示す図3Fに相当する。ここでいう抑圧とは、図5Cに示す第1のIM3成分と第2のIM3成分とが合成されて発生した第1の総和IM3成分の電力値が、第1のIM3成分の電力値と第2のIM3成分の電力値との和より小さいことをいう。
第1の増幅部101−1で発生する第1のIM3成分の電力値と、第2の増幅部101−2で発生する第2のIM3成分の電力値とが同じ場合を考える。このとき、第1の総和IM3成分が、第1のIM3成分及び第2のIM3成分のいずれよりも小さくなるための条件は、θb1−θd1の最小値をθmin1とすると、θmin1>120°である。また、θmin1>120°であれば、第1の総和IM3成分の電力値は、第1のIM3成分の電力値と第2のIM3成分の電力値との和よりも小さくすることができる。
IM3成分が最も抑圧される条件は、第1のIM3成分の位相と第2のIM3成分の位相との差が180°であり、かつ、第1のIM3成分の電力値と第2のIM3成分の電力値とが等しいときである。つまり、θmin1=180°であれば良い。このとき、θ1 +θ2 =180°である。
図6を用いて、多段増幅装置1の具体例を説明する。図6は、多段増幅装置1の具体的な構成の一例を示す図である。多段増幅装置1は、第1の並列帰還増幅器10−1と、第2の並列帰還増幅器10−2と、入力端子71と、出力端子72と、入力インピーダンス整合回路73と、出力インピーダンス整合回路74とを備える。第1の並列帰還増幅器10−1は、第1の増幅部101−1と、第1の並列帰還部102−1と、第1の整合回路103−1とを含む。第2の並列帰還増幅器10−2は、第2の増幅部101−2と、第2の並列帰還部102−2と、第2の整合回路103−2とを含む。なお、第1の増幅部101−1及び第2の増幅部101−2において、バイアス回路の表示を省略している。なお、図6は多段増幅装置1の一例を示す図であり、多段増幅装置1の構成は、図6に示す構成に限られず、他の構成であってもよい。
第1の増幅部101−1は、第1のトランジスタ111と、第2のトランジスタ112と、第1のキャパシタ113とを有する。第1の並列帰還部102−1は、第2のキャパシタ121と、第1の抵抗122と、第3のキャパシタ123とを有する。第1の整合回路103−1は、第4のキャパシタ131と、第1のインダクタ132と、第5のキャパシタ133と、第1の電源端子134とを有する。
第2の増幅部101−2は、第3のトランジスタ211と、第4のトランジスタ212と、第6のキャパシタ213とを有する。第2の並列帰還部102−2は、第2のインダクタ221と、第2の抵抗222と、第7のキャパシタ223とを有する。第2の整合回路103−2は、第8のキャパシタ231と、第3のインダクタ232と、第9のキャパシタ233と、第2の電源端子234とを有する。
第1の並列帰還増幅器10−1において、入力インピーダンス整合回路73の一端は、入力端子71と接続する。第1の増幅部101−1と第1の並列帰還部102−1とは、入力インピーダンス整合回路73の他端と第1の整合回路103−1の一端との間に、並列に接続される。第1の整合回路103−1の他端は、第2の並列帰還増幅器10−2に接続する。第2の並列帰還増幅器10−2において、第2の増幅部101−2と第2の並列帰還部102−2とは、第1の整合回路103−1の他端と第2の整合回路103−2の一端との間に並列に接続される。出力インピーダンス整合回路74は、第2の整合回路103−2の他端と、出力端子72との間に接続される。
第1の増幅部101−1において、第1のトランジスタ111のベースは、入力インピーダンス整合回路73を介して入力端子71に接続し、コレクタは、第2のトランジスタ112のエミッタに接続する。第2のトランジスタ112のコレクタは、第1の整合回路103−1の第5のキャパシタ133に接続する。第1のトランジスタ111のエミッタは、接地される。第2のトランジスタ112のベースは、第1のキャパシタ113を介して接地する。
第1の並列帰還部102−1において、第2のキャパシタ121と第1の抵抗122とは、第1のトランジスタ111のベースと、第3のキャパシタ123の一端との間に並列に接続する。第3のキャパシタ123の他端は、第2のトランジスタ112のコレクタに接続する。なお、第1の並列帰還部102−1において、リアクタンス成分は、第2のキャパシタ121と第1の抵抗122とが並列に接続する回路が該当する。このため、第1の並列帰還部102−1は、容量性並列帰還部ということができる。
第1の整合回路103−1において、第5のキャパシタ133の他端は、第2の増幅部101−2の第3のトランジスタ211のベースに接続する。第1のインダクタ132の一端は、第5のキャパシタ133の一端に接続する、第1のインダクタ132の他端は、第4のキャパシタ131を介して接地するとともに、第1の電源端子134に接続する。
第2の増幅部101−2において、第3のトランジスタ211のコレクタは、第4のトランジスタ212のエミッタに接続する。第4のトランジスタ212のコレクタは、第2の整合回路103−2の第9のキャパシタ233の一端に接続する。第3のトランジスタ211のエミッタは、接地する。第4のトランジスタ212のベースは、第6のキャパシタ213を介して接地する。
第2の並列帰還部102−2において、第2のインダクタ221と第2の抵抗222とは、第3のトランジスタ211のベースと、第7のキャパシタ223の一端との間に並列に接続される。第7のキャパシタ223の他端は、第4のトランジスタ212のコレクタに接続する。なお、第2の並列帰還部102−2において、リアクタンス成分は、第2のインダクタ221と第2の抵抗222とが並列に接続する回路が該当する。このため、第2の並列帰還部2021 は、誘導性並列帰還部ということができる。
第2の整合回路103−2において、第9のキャパシタ233の一端は、第3のインダクタ232一端に接続する。第3のインダクタ232の他端は、第8のキャパシタ231を介して接地するとともに、第2の電源端子234に接続する。第9のキャパシタ233の他端は、出力インピーダンス整合回路74を介して、出力端子72に接続する。
図6に示す多段増幅装置1の動作について説明する。第1の増幅部101−1において、第1のトランジスタ111と第2のトランジスタ112とは、多段増幅装置1に入力された所望信号を増幅する。また、第1のトランジスタ111と第2のトランジスタ112とが所望信号成分を増幅する際、第1のIM3成分が発生する。第2の増幅部101−2において、第3のトランジスタ211と第4のトランジスタ212とは、第1の並列帰還増幅器10−1から入力された所望信号成分と第1のIM3成分とを増幅する。また、第3のトランジスタ211と第4のトランジスタ212とが第1の並列帰還増幅器10−1から入力された所望信号成分を増幅する際に、第2のIM3成分が発生する。第1の整合回路103−1と、第2の整合回路103−2とは、インピーダンス整合を行う。
第1の並列帰還部102−1及び第2の並列帰還部102−2の動作について詳しく説明する。具体的には、第1の並列帰還部102−1のサセプタンス成分及び第2の並列帰還部102−2のサセプタンス成分による、増幅された所望信号成分の位相及びIM3成分の位相の変化について、詳しく説明する。
まず、第1の並列帰還部102−1について説明する。第1の並列帰還部102−1において、第3のキャパシタ123のキャパシタンスが十分に大きいとした場合、第1の並列帰還部102−1のアドミッタンスY
f1は、(式23)のように表される。
ここで、R
f1は、第1の抵抗122の抵抗値を表し、C
f1は、第2のキャパシタ121のキャパシタンスを表す。さらに、第1の並列帰還部102−1から出力端子72側のアドミッタンスをY
L1とする。Y
L1が実数であるとすると、(式3)の帰還量β(ω)は、(式24)のように表される。
(式24)より、帰還量β(ω)は進み位相となる。(式18)及び(式19)において、a
1 (ω
0 )の位相が180°とすると、1/{1−β(ω
0 )・α
1 (ω
0 )}の持つ位相成分θ
1 は遅れ位相となる。よって、位相成分θ
1 は負の値となる。
第2の並列帰還部102−2について説明する。第2の並列帰還部102−2は、第1の並列帰還部102−1と同様に考えることによって、(式18)及び(式19)の1/{1−β(ω0 )・α1 (ω0 )}の持つ位相成分θ2 は進み位相となる。よって、位相成分θ2 は、正の値となる。
第1の並列帰還部102−1と第2の並列帰還部102−2とが異なるサセプタンス成分を有することによって、第1の並列帰還増幅器10−1及び第2の並列帰還増幅器10−2は、増幅された所望信号成分の位相と、IM3成分の位相とを、それぞれ異なる位相に制御することが可能となる。図6に示す多段増幅装置1の場合、第1の並列帰還部102−1は、キャパシタを有することで、第1の並列帰還部102−1のサセプタンス成分を容量性としている。第2の並列帰還部102−2は、インダクタを有することで、第2の並列帰還部102−2のサセプタンス成分を誘導性としている。
次に、図6に示す第1の整合回路103−1と第2の整合回路103−2の動作について詳しく説明する。第1の整合回路103−1と第2の整合回路103−2とは、それぞれ異なるアドミッタンス成分を有することによって、第1の並列帰還部102−1及び第2の並列帰還部102−2が帰還させる信号の位相を変化させることができる。以下に詳細を説明する。
第1の整合回路103−1のアドミッタンスY
L1とする。アドミッタンスY
L1が、(式25)のように表されるとする。
(式25)において、G
L1はY
L1のコンダクタンス成分、B
L1は、Y
L1のサセプタンス成分である。このとき、(式3)のβ(ω
0 )は、(式26)のように表される。
と表される。ここで、第1の並列帰還部102−1のアドミッタンスY
f1は実数とする。このとき、(式26)から、β(ω
0 )は進み位相となる。(式18)及び(式19)において、α
1 (ω
0 )の位相が180°とすると、1/(1−β(ω
0 )・α
1 (ω
0 ))は遅れ位相となる。よって、位相成分θ
1 は、負の値となる。
また、第1の整合回路103−1のアドミッタンスY
L1が、(式27)のように表されるとする。
アドミッタンスY
L1が(式27)に表される場合、(式25)の場合と同様に考えると、1/{1−β(ω
0 )・α
1 (ω
0 )}は進み位相となる。よって、位相成分θ
1 は、正の値となる。このように、第1の整合回路103−1は、サセプタンス成分を有することによって、第1の並列帰還部102−1が帰還させる、増幅された所望信号成分の位相及び第1のIM3成分の位相の変化量を制御することができる。
第2の整合回路103−2は、第1の整合回路103−1と同様に、サセプタンス成分を有することによって、第2の並列帰還部102−2が帰還させる増幅された所望信号成分の位相、第1のIM3成分の位相及び第2のIM成分の位相の変化量を制御することができる。
第1の並列帰還増幅器10−1及び第2の並列帰還増幅器10−2の利得の変化について説明する。
図7は、第1の並列帰還部102−1が容量性のリアクタンス成分を有する場合の、第1の並列帰還増幅器10−1の利得の変化を示す図である。図7に示すように、第1の並列帰還部102−1が容量性のリアクタンス成分を有する場合、使用周波数帯域の周波数成分が高くなるに従い、第1の並列帰還増幅器10−1の利得が下がる。これは、周波数が高くなるに従い帰還量が増えるためである。
図8は、第2の並列帰還部102−2が誘導性のリアクタンス成分を有する場合の、第2の並列帰還増幅器10−2の利得の変化を示す図である。図8に示すように、第2の並列帰還部102−2が誘導性のリアクタンス成分を有する場合、使用周波数帯域の周波数成分が高くなるに従い、第2の並列帰還増幅器10−2の利得が上がる。これは、周波数が高くなるに従い帰還量が減るためである。
多段増幅装置1は、第1の並列帰還増幅器10−1の利得の減少率と、第2の並列帰還増幅器10−2の利得の増加率とを同等にすることによって、利得の平坦性と、IM3の抑圧とを両立することが可能である。ここで、利得の増加率と利得の減少率とが同等であるとは、利得の増加率が6dB/OCT(20dB/dec)であり、かつ、利得の減少率が−6dB/OCT(−20dB/dec)である場合に、使用周波数帯域における、各周波数成分の多段増幅装置の利得偏差が1dB以内であることをいう。
以上のように、本発明の第1の実施形態に係る多段増幅装置1において、第1の並列帰還増幅器10−1は、増幅される所望信号成分の位相と第1のIM3成分の位相との差を変化させて出力する。また、第2の並列帰還増幅器10−2は、増幅される所望信号成分の位相と第2のIM3成分の位相との差を変化させる。多段増幅装置1は、第1のIM3成分と第2のIM3成分とを合成して抑圧する。これにより、多段増幅装置1は、IM3成分以外の雑音を発生させずに、IM3を抑圧することが可能となる。多段増幅装置の各増幅器は、フィードバック方式の増幅装置である。このため、各増幅部で発生するIM3成分は、通常のフィードバック方式の増幅回路と同様に抑圧されるとともに、上記のように相殺される。したがって、さらなるIM3の抑圧が可能となる。さらに、多段増幅装置1の各増幅部で発生する白色雑音は、増幅された所望信号及び所望信号によって発生するIM3成分と比較して無視することができる。また、各増幅部で発生する白色雑音は、負帰還されることによって抑圧される。したがって、多段増幅装置1は、白色雑音を除去するための装置を備える必要がないため、装置構成を簡単にすることができる。
なお、図6において、第1の並列帰還部102−1のサセプタンス成分及び第2の並列帰還部102−2のサセプタンス成分を、両方とも誘導性若しくは容量性にしても良い。この場合、第1の並列帰還部102−1のサセプタンス成分と、第2の並列帰還部102−2とのサセプタンス成分が異なる値を持ち、更に、上記のθ1 とθ2 の値の条件を満たすことができればよい。
また、図6に示す第1の並列帰還部102−1及び第2の並列帰還部102−2は、図9〜図9Dに示す回路を用いてもよい。図9A〜図9Dは、それぞれ第1の並列帰還部102−1及び第2の並列帰還部102−2の構成の一例を示す図である。図9A、図9B、図9C及び図9Dにおいて、矢印Aは、出力端子72方向、点Bは入力端子71方向を示す。図9Aは、キャパシタを用いた構成である。図9Bは、キャパシタとインダクタとを直列に接続した構成である。図9Cは、二つのキャパシタを直列に接続し、二つのキャパシタの間に、一端を接地したインダクタを接続する構成である。図9Dは、キャパシタと二つのインダクタとを直列に接続し、二つのインダクタの間に、一端を接地した他のキャパシタを接続する構成である。増幅器及び整合回路の構成を変更した際、帰還部は、図9A〜図9Dの回路を使用することによって、インピーダンス整合をとることが可能である。また、図9A〜図9Dに示す帰還部の回路以外でも、IM3成分の位相を変化させるとともに、インピーダンス整合を取れる回路であれば、帰還部として使用できることは言うまでもない。
なお、第1の実施形態において、多段増幅装置1の詳細な動作を、数式を用いて説明した。しかし、多段増幅装置1の詳細な動作の説明は、上記の説明と異なる説明であってもよい。第1の並列帰還増幅器10−1及び第2の並列帰還増幅器10−2の動作の概要を説明できるものであればよい。
(第2の実施形態)
図10は、本発明の第2の実施形態に係る多段増幅装置2の構成の一例を示す図である。図10に示す第2の実施形態に係る多段増幅装置2は、第1の並列帰還増幅器10−1と、第2の並列帰還増幅器10−2と、第3の並列帰還増幅器10−3とを備える。図10において、第1の実施形態と同じ構成要素には、図1と同一の符号を付与している。
図10に示す第2の並列帰還増幅器10−2には、バイアス回路216を表示している。バイアス回路216は、第3のトランジスタ211のベースと第4のトランジスタ212のベースとの間に接続される。
図10に示すように、多段増幅装置2は、第1の実施形態に係る多段増幅装置1に、さらに第3の並列帰還増幅器10−3を縦列に接続したものである。以下、第1の実施形態と異なる点を中心に、多段増幅装置2の動作を説明する。
第3の並列帰還増幅器10−3は、第3の増幅部101−3と、第3の並列帰還部102−3とを含む。第3の増幅部101−3は、反転増幅器である。第3の並列帰還部102−3は、第1の並列帰還部102−1と第2の並列帰還部102−2と異なるリアクタンス成分を有する。
第3の並列帰還増幅器10−3には、第2の並列帰還増幅器10−2が出力した所望信号成分が入力される。また、第3の並列帰還増幅器10−3には、第1のIM3成分と第2のIM3成分とが合成された第1の総和IM3成分が入力される。第3の増幅部101−3は、入力された所望信号成分と第1の総和IM3成分とを増幅する。第3の増幅部101−3が第2の並列帰還増幅器10−2から出力された所望信号成分を増幅する際、新たにIM3成分が発生する。第3の並列帰還部102−3は、第3の並列帰還部1023が有するリアクタンス成分によって、増幅された所望信号成分の位相と、第1の総和IM成分3の位相と、第3の増幅部101−3で発生したIM3成分(以下、第3のIM3成分という)の位相とを変化させて、増幅された所望信号と、第1の総和IM3成分と、第3のIM3成分とを帰還させる。。
図10に示す多段増幅装置2の動作の概要を説明する。なお、第2の並列帰還増幅器10−2から出力される増幅された所望信号と第1の総和IM3成分とが出力されるまでの多段増幅装置2の動作は、多段増幅装置1と基本的に同じである。このため、多段増幅装置1と異なる部分のみを説明する。
図11Aは、図10に示す点k1における、第2の並列帰還増幅器10−2から出力された所望信号成分(以下、所望信号成分Sk1という)の位相と、第2の並列帰還増幅器10−2から出力される第1のIM3成分(以下、第1のIM3成分Xk1という)の位相と、第2の並列帰還増幅器10−2から出力される第2のIM3成分(以下、第2のIM3成分Yk1という)の位相との関係の一例を示す模式図である。図11Aに示すように、点kにおける、所望信号成分Sk1の位相と第1のIM3成分Xk1の位相との差は、θb1であり、所望信号成分Sk1 の位相と第2のIM3成分Yk1の位相との差は、θd1である。
図11Bは、第1のIM3成分Xk1と第2のIM3成分Yk1とが合成され、第1の総和IM3成分が発生する様子を示す模式図である。図11Bに示すように、点k1において、第1のIM3成分Xk1と、第2のIM3成分Yk1とが合成され、第1の総和IM3成分(以下、第1の総和IM3成分Ck1という)が発生する。所望信号成分Sk1と第1の総和IM3成分Ck1との位相差をθk1とする。第3の並列帰還増幅器10−3には、所望信号成分Sk1及び第1の総和IM3成分Ck1が入力される。なお、第1の実施形態と異なる点は、第1のIM3成分Xk1の位相と第2のIM3成分Yk1の位相との差θb1−θd1は、第1のIM3成分と第2のIM3成分とが抑圧されないような値となることである。θb1−θd1の条件については、後述する。
第3の並列帰還増幅器10−3において、第3の増幅部101−3は、所望信号成分Sk1の位相と第1の総和IM3成分Ck1の位相との差θk1を保ったまま、所望信号成分Sk1及び第1の総和IM3成分Ck1を増幅する。第3の増幅部101−3が所望信号成分Sk1を増幅する際、第3のIM3成分が発生する。第3の増幅部101−3において、増幅された所望信号成分Sk1と第3のIM3成分との位相差は、180°であるとする。
図12Aは、図10に示す点L1における、増幅された所望信号成分Sk1(以下、所望信号成分SL1という)の位相と、増幅された第1の総和IM3成分Ck1(以下、合成IM3成分CL1という)の位相と、第3のIM3成分(以下、第3のIM3成分ZL1という)の位相との関係を示す模式図である。図12Aに示すように、点L1において、所望信号成分SL1と第1の総和IM3成分CL1との位相差は、θk1であり、所望信号成分SL1と第3のIM3成分ZL1との位相差は、180°である。
第3の並列帰還部102−3は、所望信号成分SL1の位相と、第1の総和IM3成分CL1の位相と、第3のIM3成分ZL1の位相とを変化させる。第3の並列帰還部102−3において、所望信号成分SL1の位相変化、第1の総和IM3成分CL1の位相変化及び第3のIM3成分ZL1の位相変化の周波数依存性は、十分に小さく、無視できるとする。
図12Bは、図10に示す点m1における、所望信号成分SL1(以下、所望信号成分Sm1という)の位相と、第1の総和IM3成分CL1(以下、第1の総和IM3成分Cm1という)の位相と、第3のIM3成分ZL1(以下、第3のIM3成分Zm1という)の位相との関係を示す模式図である。図12Bに示すように、図10に示す点m1において、所望信号成分Sm1の位相と、第1の総和IM3成分Cm1の位相と、第3のIM3成分Zm1の位相との関係は、図12Aに示す状態のまま変化しない。なお、図12Bにおいて、所望信号成分SL1が、実軸上にとられている。
図12Cは、図10に示す点n1における、所望信号成分Sk1の位相と、帰還した所望信号成分Sm1の位相と、第1の総和IM3成分Ck1の位相と、帰還した第1の総和IM3成分Cm1の位相と、帰還した第3のIM3成分の位相との関係を示す模式図である。なお、図12Cにおいて、所望信号成分Sk1が、実軸上にとられている。図12Cに示すように、点n1において、所望信号成分Sk1と帰還した所望信号成分Sm1とが合成さることによって、所望信号成分Sn1が発生する。また、第1の総和IM3成分Ck1と帰還した第1の総和IM3成分Cm1とが合成されることによって、第1の総和IM3成分Cn1が発生する。
図12Cに示すように、所望信号成分Sk1の位相と所望信号成分Sm1の位相とは、異なる位相である。よって、所望信号成分Sn1の位相は、所望信号成分Sk1の位相及び所望信号成分Sm1の位相と異なる。第1の総和IM3成分Ck1の位相と第1の総和IM3成分Cm1の位相とは、異なる位相である。よって、第1の総和IM3成分Cn1の位相は、第1の総和IM3成分Ck1の位相及び第1の総和IM3成分Cm1の位相と異なる。一方、第3のIM成分Zm1は、点n1において位相が変化しない。このため、所望信号成分の位相と、第1の総和IM3成分の位相と、第3のIM3成分の位相との関係は、図12Bに示す状態から図12Dに示す状態に変化する。
図12Dは、所望信号成分Sn1の位相と、第1の総和IM3成分Cn1の位相と、第3のIM3成分Zm1の位相との関係を示す模式図である。図12Dに示すように、所望信号成分Sn1の位相と第1の総和IM3成分Cn1の位相との差は、θk1のまま変化しない。一方、所望信号成分Sn1の位相と第3のIM3成分Zm1の位相との差は、180°からθn1に変化する。
点n1における、所望信号成分Sk1の位相と所望信号成分Sm1の位相との差をθγ1とする。このとき、θγ1の値は、90°≦θγ1≦270°の範囲内の値をとることが望ましい。この理由は、第1の実施形態で既に説明しているため省略する。
第3の増幅部101−3は、図12Dに示す位相の関係を保ったまま、所望信号成分Sn1と、第1の総和IM3成分Cn1と、第3のIM3成分Zm1とを増幅する。第3の増幅部101−3が所望信号成分Sn1を増幅する際、第3のIM3成分が新たに発生する。
図12Eは、図10に示す点o1における、増幅された所望信号成分Sn1(以下、所望信号成分So1という)の位相と、増幅された第1の総和IM3成分Cn1の位相(以下、第1の総和IM3成分Co1という)と、増幅された第3のIM3成分Zm1(以下、第3のIM3成分Zo1-1という)の位相と、新たに発生した第3のIM3成分(以下、第3のIM3成分Zo1-2という)の位相との関係を示す模式図である。図12Eに示すように、所望信号成分So1の位相と、第3のIM3成分Zo1-2の位相との差は、180°である。点o1において、第3のIM3成分Zo1-1及び第3のIM3成分Zo1-2とが合成され、第3の合成IM3成分が発生する。以下、第3の合成IM3成分を、第3のIM3成分Zo1という。所望信号成分So1の位相と第3のIM3成分Zo1の位相との差を、θo1とする。なお、点o1において、所望信号成分So1の位相と第1の総和IM3成分Co1の位相との差は、θk1のまま変化しない。
図12Fは、図10の出力端子72における、所望信号成分So1の位相と、第1の総和IM3成分Co1の位相と、第3のIM3成分Zo1の位相との関係を示す模式図である。図12Fに示すように、第1の総和IM3成分Co1と第3のIM3成分Zo1とは、合成され、第2の総和IM3成分が発生する。第1の総和IM3成分Co1の位相と第3のIM3Zo1の位相とは、互いが相殺するような位相となっている。出力端子72からは、所望信号成分So1及び第2の総和IM3成分が出力される。このようにして、多段増幅装置2は、各増幅器で発生するIM3成分を抑圧する。
上述のように、第1のIM3成分の位相と第2のIM3成分の位相との差θmin1は、第1のIM3成分と第2のIM3成分とが抑圧されないような値となる。具体的には、図10に示す点k1において発生する第1の総和IM3成分の電力値が、第1のIM3成分Xk1の電力値と第2のIM3成分Yk1の電力値との和より大きくなればよい。つまり、点k1において、第1のIM3成分Xk1の位相と第2のIM3成分Yh の位相との差θmin1が、120°以下であればよい。なお、θmin1=0°のとき、第1の総和IM3成分の電力値を最大とすることができる。
出力端子72における、第2の総和IM3成分Cp1の位相と第3のIM3成分Zp1の位相との差をθmin2とすると、θmin2=θo1−θk1である。出力端子72において、第2の総和IM3成分Cp1と第3のIM3成分Zp1とが相殺されるための条件は、第1の実施形態と同様に、θmin2>120°であればよい。また、θmin2=180°のとき、第2の総和IM3成分の電力値は最小値となる。
多段増幅装置において、後段の増幅器に入力される所望信号の電力値は、前段の増幅器に入力される所望信号の電力値より大きい。多段増幅装置2では、第3のIM3成分の電力値は、第1のIM3成分の電力値及び第2のIM3成分の電力値よりも大きくなる。多段増幅装置2は、第1の総和IM3成分の電力値を、第1のIM3成分の電力値及び第2のIM3成分の電力値より大きくする。これにより、第2の総和IM3成分の電力値を小さくすることが可能となり、多段増幅装置2で発生するIM3成分を抑圧することが可能となる。
このように、本発明の第2の実施形態に係る多段増幅装置2は、第1のIM3成分の位相と、第2のIM3成分の位相と、第3のIM3成分の位相とを変化させることによって、第1のIM3成分と、第2のIM3成分と、第3のIM3成分とを相殺させて、IM3を抑圧する。さらに、多段増幅装置2の各増幅器は、フィードバック方式の増幅器である。このため、各増幅部で発生するIM3成分は、通常のフィードバック方式の増幅回路と同様に抑圧されるとともに、上記のように相殺される。したがって、さらなるIM3の抑圧が可能となる。さらに、多段増幅装置2の各増幅部で発生する白色雑音は、増幅された所望信号及び所望信号によって発生するIM3成分と比較して無視することができる。また、各増幅部で発生する白色雑音は、負帰還されることによって抑圧される。したがって、多段増幅装置2は、白色雑音を除去するための装置を備える必要がないため、装置構成を簡単にすることができる。
また、図10において、第1の並列帰還部102−1、第2の並列帰還部102−2、及び第3の並列帰還部102−3において、全ての帰還部が誘導性のリアクタンス成分を有してもよい。また、全ての帰還部が容量性のリアクタンス成分にを有してもよい。
また、第1の並列帰還部102−1、第2の並列帰還部102−2、及び第3の並列帰還部102−3において、いずれかの1つの帰還部が誘導性のリアクタンス成分を有し、それ以外の帰還部が容量性リアクタンス成分を有してもよい。
また、第1の並列帰還部102−1、第2の並列帰還部102−2、及び第3の並列帰還部102−3において、いずれかの1つの帰還部が容量性のリアクタンス成分を有し、それ以外の帰還部が誘導性のリアクタンス成分を有してもよい。
更に、本発明の第2の実施形態において、多段増幅装置2は、シングルエンド形式の多段増幅装置であるものとして説明した。しかし、多段増幅装置2は、差動回路形式の増幅回路を用いてもよい。
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、第1〜第Nの増幅器(Nは2以上の自然数)を備える多段増幅装置について説明する。第kの増幅器は、第kの増幅部と、リアクタンス成分を有し、前記第kの増幅部からの出力信号の位相を変化させて、前記第kの増幅部の入力側に負帰還させる第kの帰還部とを含む。なお、第3の実施形態では、図13に示す、第1〜第Nの並列帰還増幅器を縦列に接続した多段増幅装置3を例にして説明する。
図13は、本発明の第3の実施形態に係る多段増幅装置3の構成を示す回路図である。図13に示す多段増幅装置3は、第1〜第Nの並列帰還増幅器を備える。第k(kは1〜Nの自然数)の並列帰還増幅器10−kは、第kの増幅部101−kと第kの帰還部102k とを含む。図13に示すように、第kの並列帰還増幅器10−kを縦列に接続した構成である。第2の実施形態に係る多段増幅装置2は、3個の並列帰還増幅器を縦列に接続した構成であるのに対し、多段増幅装置3は、N個の並列帰還増幅器をを縦列にした構成である。以下、多段増幅装置3の動作について、第2の実施形態と異なる点を中心に説明する。
第3の実施形態に係る第1の並列帰還増幅器10−1は、第2の実施形態に係る第1の並列帰還増幅器10−1と同様であるため、その説明を省略する。また、第3の実施形態に係る第2の並列帰還増幅器10−2は、第2の実施形態に係る第2の並列帰還増幅器10−2と同様であるため、その説明を省略する。
第kの並列帰還増幅器10−kの動作について説明する。第kの並列帰還増幅器10−kの動作は、第2の実施形態に係る第2の並列帰還増幅器10−2の動作と同様である。このため、その詳細な説明を省略し、第2の並列帰還増幅器10−2と相違する点のみを説明する。
図14Aは、図13に示す点p1における、所望信号成分Sp1の位相と第k−2の総和IM3成分Cp1の位相との関係を示す模式図である。第k−2の総和IM3成分は、第1〜第k−1の増幅部において発生するIM3成分が合成されたものである。図14Aは、第1の実施形態で説明した図2Fに相当する。所望信号成分Sp1は、図2Fの所望信号成分Sd1に相当する。第k−2の総和IM3成分Cp1は、図2Fの第1のIM3成分Xd1に相当する。図13に示すように、所望信号成分Sp1の位相と第k−2の総和IM3成分Cp1の位相との差を、θp1とする。θp1は、第2の実施形態で説明したθk1に相当する。第kの並列帰還増幅器10−kには、所望信号成分Sp1及び第k−2の総和IM3成分Cp1が入力される。なお、第k−2の総和IM3成分Cp1は、前段の増幅器(第k−1の並列帰還増幅器10−k−1(図示せず))からの出力信号に含まれる所望周波数帯における周波数成分によって発生する3次相互変調歪みのことである。
図14Bは、図13に示す点q1における、所望信号成分(以下、所望信号成分Sq1という)の位相と、第k−2の総和IM3成分(以下、第k−2の総和IM3成分Cq1という)の位相と、第kの増幅部で発生する第kのIM3成分(以下、第kのIM3成分Kq1という)の位相の関係を示す模式図である。図14Bは、第2の実施形態で説明した、図11Bに相当する。所望信号成分Sq1は、図11Bに示す所望信号成分Sk1に相当する。第k−2の総和IM3成分Cq1は、図11Bに示す第1のIM3成分Xk1に相当する。第kのIM3成分Kq1は、図11Bに示す第3のIM3成分Yk1に相当する。
図14Bに示すように、点q1において、第k−2の総和IM3成分Cq1と第kのIM3成分Kq1とが合成されることによって、第k−1の総和IM3成分が発生する。第kの増幅器は、所望信号成分Sq1と第k−1の総和IM3成分を第k+1の増幅器10−k+1(図示せず)に出力する。
第k−2の総和IM3成分Cq1の位相と第kのIM3成分Kq1の位相との差の最小値をθq1とする。第k−2の総和IM3成分Cq1と第kのIM3成分Kq1とが相殺されないためには、第k−1の総和IM3成分の電力値は、第k−2の総和IM3成分Cq1の電力値と第kのIM3成分Kq1の電力値との和よりと大きくなればよい。このため、θq1<120°となる。
第Nの並列帰還増幅器10−Nの動作について説明する。
第Nの並列帰還増幅器10−Nの動作は、第2の実施形態に係る第3の並列帰還増幅器10−3の動作と同様であるため、その詳細な説明を省略し、相違の点のみを説明する。
図15Aは、図13に示す点r1における、所望信号成分(以下、所望信号成分Sr1という)の位相と、第N−2の総和IM3成分(以下、第N−2の総和IM3成分Cr1という)の位相との関係を示す模式図である。図15Aは、第2の実施形態で説明した図11Bに相当する。所望信号成分Sr1は、図11Bに示す所望信号成分Sk1に相当する。第N−2の総和IM3成分は、図11Bに示す第1の総和IM3成分に相当する。所望信号成分Sr1の位相と第N−2のIM3成分Cr1の位相との差の最小値を、θr1であるとする。θr1は、θk1に相当する。第Nの並列帰還増幅器10−Nには、所望信号成分Sr1及び第N−2の総和IM3成分Cr1が入力される。
第Nの増幅部101−Nは、所望信号成分Sr1と第N−2の総和IM3成分Cr1とを増幅する。なお、第Nの増幅部101−Nが所望信号成分Sr1を増幅する際に新たなIM3成分(以下、第NのIM3成分という)が発生する
図15Bは、図13に示す点s1における、所望信号成分(以下、所望信号成分Ss1という)の位相と、第N−2の総和IM3成分(以下、第N−2の総和IM3成分Cs1という)の位相と、第NのIM3成分(以下、第NのIM3成分Ns1という)の位相の関係を示す模式図である。図15Bは、第2の実施形態で説明した図12Fに相当する。所望信号成分Ss1は、図12Fに示す所望信号成分So1に相当する。第N−2の総和IM3成分Cs1は、図12Fに示す第1の総和IM3成分Co1に相当する。第NのIM3成分Ns1は、図12Fに示す第3のIM3成分Zo1に相当する。所望信号成分Ss1の位相と第NのIM3成分Ns1の位相との差を、θs1とする。
図15Bに示すように、点s1において、第N−2の総和IM3成分Cs1と第NのIM3成分Ns1とは合成され、第N−1のIM3成分が発生する。このとき、第N−2の総和IM3成分Cs1の位相と第NのIM3成分Ns1の位相との差をθN とする。このとき、θN =θs1−θr1となる。θmin1と同様に、θN は、120°以上180°以下である。これにより、第N−1の総和IM3成分の電力値は、第N−2のIM3成分Cs1の電力値及び第NのIM3成分Ns1の電力値より小さくなるため、第N−2の総和IM3成分Cs1と第NのIM3成分Ns1とは、相殺される。この結果、多段増幅装置3の各増幅部で発生するIM3成分は抑圧される。なお、θr1、θs1及びθN の詳細な説明は、第1の実施形態ですでに説明しているため、省略する。
多段増幅装置において、後段の増幅器に入力される所望信号の電力値は、前段の増幅器に入力される所望信号の電力値より大きい。多段増幅装置3では、第NのIM3成分の電力値は、第1〜第N−1のIM3成分のそれぞれの電力値よりも大きくなる。多段増幅装置3において、第N−2の総和IM3成分の電力値を、第1〜第N−3の総和IM3成分の電力値より大きくする。これにより、第N−1の総和IM3成分の電力値を小さくすることが可能となり、多段増幅装置3で発生するIM3成分を抑圧することが可能となる。
このように、本発明の第3の実施形態に係る多段増幅装置3は、第Nの増幅器からの出力信号に含まれる所望周波数帯における周波数成分の位相と、第N−1の増幅器からの出力信号に含まれるIM3成分の位相との差を第1の位相とし、第Nの増幅器からの出力信号に含まれる所望周波数帯における周波数成分の位相と、第Nの増幅部で発生するIM3成分と第Nの帰還部から帰還するIM3成分とを合成した合成IM3成分の位相との差を第2の位相とした場合、第1の位相と第2の位相との差は、120°以上180°以下とする。第N−1の増幅器からの出力信号に含まれるIM3成分と、合成IM3成分とが合成されて発生する総和IM3成分の電力値が、第N−1の増幅器からの出力信号に含まれるIM3成分の電力値及び合成IM3成分の電力値より小さくすることができる。これにより、多段増幅装置3の各増幅部で発生するIM3成分を抑圧することができる。さらに、第1〜第Nの並列帰還増幅器は、それぞれフィードバック方式の増幅装置である。このため、各増幅部で発生するIM3成分は、通常のフィードバック方式の増幅装置と同様に抑圧されるとともに、上記のように相殺される。したがって、さらなるIM3の抑圧が可能となる。さらに、多段増幅装置3の各増幅部で発生する白色雑音は、増幅された所望信号及び所望信号によって発生するIM3成分と比較して無視することができる。また、各増幅部で発生する白色雑音は、負帰還されることによって抑圧される。したがって、多段増幅装置3は、白色雑音を除去するための装置を備える必要がないため、装置構成を簡単にすることができる。
なお、第3の実施形態において、第1〜第Nの並列帰還増幅器を縦列に接続した多段増幅装置3を例にして説明した。しかし、第3の実施形態に係る多段増幅装置は、第kの並列帰還増幅器を用いなくてもよい。具体的には、第kの増幅器は、リアクタンス成分を有し、前記第kの増幅部からの出力信号の位相を変化させて、前記第kの増幅部の入力側に負帰還させる第kの帰還部を含めばよい。他の例としては、第1〜第Nの増幅器として、後述する直列帰還部を含む増幅器や、後述する並列帰還部と直列帰還部とを含む増幅器などを用いることが考えられる。
(第4の実施形態)
図16は、本発明の第4の実施形態に係る多段増幅装置4の構成の一例を示す回路図である。図16に示す多段増幅装置4は、第1の並列帰還増幅器10−1と、位相制御増幅器20と、第3の並列帰還増幅器10−3とを備える。図16に示す多段増幅装置4は、第2の並列帰還増幅器10−2に代えて位相制御増幅器20を備える点が、図8に示す多段増幅装置2と異なる。図16に示す多段増幅装置4において、第2の実施形態に係る多段増幅装置と同じ構成要素には、図8と同一の符号を付与している。以下では、第2の実施形態と異なる箇所を中心に説明する。
位相制御増幅器20は、位相制御増幅部201と、位相制御帰還部202と、位相制御整合回路203とを含む。位相制御増幅部201は、第3のトランジスタ211と、第4のトランジスタ212と、第6のキャパシタ213と、第3の抵抗214と、第1の信号入力端子215と、バイアス回路216とを有する。位相制御帰還部202は、第1のバラクタダイオード224と、第10のキャパシタ225と、第4の抵抗226と、第2の信号入力端子227とを有する。位相制御整合回路203は、第8のキャパシタ231と、第3のインダクタ232と、第9のキャパシタ233と、第2の電源端子234と、第2のバラクタダイオード235と、第5の抵抗236と、第3の信号入力端子237とを有する。
位相制御増幅部201において、第3のトランジスタ211のベースは、第1の並列帰還増幅器10−1と接続する。第3のトランジスタ211のコレクタは第4のトランジスタ212のエミッタと接続する。第4のトランジスタ212のコレクタは、第9のキャパシタ233と接続する。第3のトランジスタ211のエミッタは、接地する。第4のトランジスタ212のベースは、第6のキャパシタ213を介して接地する。バイアス回路216は、第3のトランジスタ211のベースと第4のトランジスタ212とのベースに接続する。また、バイアス回路216は、第3の抵抗214を介して第1の信号入力端子215に接続する。
位相制御帰還部202において、第2の信号入力端子227は、第4の抵抗226を介して、第1のバラクタダイオード224の一端及び第10のキャパシタ225一端に接続する。第1のバラクタダイオード224の他端は、第4のトランジスタ212のベースに接続する。第10のキャパシタ225の他端は、第3のトランジスタ211のベースに接続する。
位相制御整合回路203において、第9のキャパシタ233の一端は、第4のトランジスタ212のコレクタに接続するとともに、第3のインダクタ232の一端に接続する。第3のインダクタ232の他端は、電源端子237と接続すると共に、第8のキャパシタ231を介して接地する。第9のキャパシタ233の他端は、第5の抵抗236を介して第3の信号入力端子237に接続すると共に、第2のバラクタダイオード235を介して、第3の並列帰還増幅器10−3に接続する。
多段増幅装置4の詳細な動作は、第2の実施形態に係る多段増幅装置と同様であるため、その説明を省略する。
位相制御増幅部201の動作について説明する。位相制御増幅部201には、第1の信号入力端子215から第1の制御信号が入力される。第3のトランジスタ211及び第4のトランジスタ212に流れる電流値は、第1の制御信号の電圧値Vctrl1 に応じて変化する。第3のトランジスタ211及び第4のトランジスタ212に流れる電流値の変化は、位相制御増幅部201の電流利得α1 の変化を伴う。
第1の並列帰還増幅器10−1の出力電流の非線形閉ループ伝達関数を表す(式18)及び(式19)を位相制御増幅器20に適用すると、(式18)及び(式19)の1/1−β(ω0 )・α1 (ω0 ))の項が持つ位相成分θ1 の値は、位相制御増幅部201が有する電流利得α1 (ω0 )の値に依存することがわかる。第1の実施形態で説明したように、θ1 は、(式21)に示される所望信号成分の位相とIM3成分の位相との差Δφ1-IM3Lを決定するパラメータである。従って、第1の制御信号の電圧値Vctrl1を制御することよって、位相制御増幅器20から出力される所望信号成分の位相と第2のIM3成分の位相との差を制御することが可能となる。
位相制御帰還部202の動作について説明する。位相制御帰還部202には、第2の信号入力端子227から第2の制御信号が入力される。第1のバラクタダイオード224の容量値は、第2の制御信号の電圧値Vctrl2 に応じて変化する。このため、位相制御帰還部202のアドミッタンスY’f1は、第1のバラクタダイオード224の容量値の変化に応じて変化する。位相制御帰還部202のアドミッタンスY’f1の変化に伴い、所望信号成分、第1のIM3成分、及び第2のIM3成分のそれぞれの位相の変化量が変化する。
第1の並列帰還増幅器10−1の出力電流の非線形閉ループ伝達関数を表す(式18)及び(式19)を位相制御増幅器20に適用すると、(式18)及び(式19)の1/{1−β(ω0 )・α1 (ω0 )}の項が持つ位相成分θ1 の値は、位相制御増幅部201が有する電流利得α1 (ω0 )の値に依存することがわかる。(式3)に示すように、帰還量β(ω0 )は、位相制御帰還部202が有するアドミッタンスY’f1に依存する。このため、位相制御増幅器20の出力電流の非線形閉ループ伝達関数を表す(式18)及び(式19)において、1/{1−β(ω0 )・α1 (ω0 )}の項が持つ位相成分θ1 の値は、アドミッタンスYf の値の変化に応じて変化する。このように、第2の制御信号の電圧値Vctrl2 を制御することによって、位相制御増幅器20から出力される所望信号成分の位相と第2のIM3成分の位相との差を制御することが可能となる。
位相制御整合回路203の動作について説明する。位相制御整合回路203には、第3の信号入力端子237から第3の制御信号が入力される。第2のバラクタダイオード235の容量値は、第3の制御信号の電圧値Vctrl3 に応じて変化する。第2のバラクタダイオード235の容量値の変化は、位相制御整合回路203の入力アドミッタンスY’L の変化を伴う。
(式3)に示すように、帰還量β(ω0 )は、位相制御整合回路203のアドミッタンスY’L に依存する。第1の並列帰還増幅器10−1の出力電流の非線形閉ループ伝達関数を表す(式18)及び(式19)を位相制御増幅器20に適用すると、(式18)及び(式19)の1/{1−β(ω0 )・α1 (ω0 )}の項が持つ位相成分θ1 の値は、位相制御整合回路203のアドミッタンスY’Lの変化に応じて変化することがわかる。このように、第3の制御信号の電圧値Vctrl3 を制御することによって、位相制御増幅器20から出力される所望信号成分の位相と第2のIM3成分の位相との差を制御することが可能となる。
以上のように、第3の実施形態に係る多段増幅装置4は、増幅部の電流利得と、帰還部が有するアドミッタンスと、整合回路が有するアドミッタンスとを、それぞれ制御することによって、所望信号成分の位相とIM3成分の位相との差を制御することができる。多段増幅装置4は、増幅する所望信号の状況に応じて、所望信号成分の位相とIM3成分の位相との差を制御することができる。
例えば、多段増幅装置4は、通信状況に応じて、使用する周波数帯域を切り替える移動通信端末などに有用である。帰還部のサセプタンス成分が一定の場合、中心周波数f1 の所望信号と中心周波数f2 の所望信号とは、帰還部における位相の変化量が異なる。このため、中心周波数f1 の所望信号によって発生するIM3成分を抑圧するための条件と、中心周波数f2 の所望信号によって発生するIM3成分を抑圧するための条件とは、異なる。このため、増幅部の電流利得と、帰還部のアドミッタンスと、整合回路のアドミッタンスとを制御することによって、移動体通信端末が使用する周波数帯域に応じた、所望信号の増幅と、IM3成分の抑圧が可能である。
なお、第4の実施形態において、多段増幅装置4は、多段増幅装置2の第2の並列帰還増幅器10−2に代えて、位相制御増幅部20を備えるものとして説明した。しかし、多段増幅装置4は、第1の並列帰還増幅器10−1または第3の並列帰還増幅器10−3に代えて、位相制御増幅器20を備えてもよい。
また、第4の実施形態において、位相制御増幅器20は、位相制御増幅部201、位相制御帰還部202、または位相制御整合回路203のうち、少なくともを1つを含んでいてもよい。
更に、第4の実施形態において、3段の多段増幅装置を例として説明したが、2段の多段増幅装置及び4段以上の多段増幅装置でも、使用できることは言うまでもない。
(第5の実施形態)
図17は、本発明の第5の実施形態に係る多段増幅装置5の構成の一例を示す図である。図17に示す多段増幅装置5は、第1の直列帰還増幅器30−1と第2の直列帰還増幅器30−2とを備える。第1の直列帰還増幅器30−1は、第1の増幅部101−1と、第1の直列帰還部302−1と、第1の整合回路103−1とを含む。第2の直列帰還増幅器30−2は、第2の増幅部101−2と、第2の直列帰還部302−2と、第2の整合回路103−2とを含む。
図17に示すように、多段増幅装置5は、直列帰還増幅器である第1の直列帰還増幅器30−1と第2の直列帰還増幅器30−2とを、縦列に接続した構成である。第1の直列帰還部302−1と第2の直列帰還部302−2とは、互いに異なるリアクタンス成分を有する。なお、図17は多段増幅装置5の一例を示す図であり、多段増幅装置5の構成は、図17に示す構成に限られず、他の構成であってもよい。
図17に示す多段増幅装置5が多段増幅装置1と異なる点は、二点である。一点目は、第1の直列帰還増幅器30−1は、第1の並列帰還増幅器10−1が含む第1の並列帰還部102−1に代えて、第1の直列帰還部302−1を含む点である。二点目は、第2の直列帰還増幅器30−2は、第2の並列帰還増幅器10−2が含む第2の並列帰還部102−2に代えて、第2の直列帰還部302−2を含む点である。なお、図17に示す多段増幅装置5の構成要素が図6に示す多段増幅装置1の構成要素と同じである場合、多段増幅装置5の構成要素には、多段増幅装置1の構成要素と同じ参照符号を付し、その説明を省略する。以下、上記の異なる点を中心に、図17に示す多段増幅装置5について説明する。
第1の直列帰還部302−1は、第5のインダクタ321を有する。すなわち、第1の直列帰還部302−1は、誘導性直列帰還部ということができる。第2の直列帰還部302−2は、第14のキャパシタ322と第6の抵抗323とを有する。すなわち、第2の直列帰還部302−2は、容量性直列帰還部ということができる。
第1の直列帰還増幅器30−1において、第1のトランジスタ111のエミッタは、第5のインダクタ321を介して接地する。第2の直列帰還増幅器30−2において、第3のトランジスタ211のエミッタは、第14のキャパシタ322を介して接地する。第6の抵抗323は、第14のキャパシタ322と並列に接続される。
図19を用いて、直列帰還増幅器の動作原理を説明する。なお、第1の直列帰還増幅器30−1を例にして説明する。図19は、第1の直列帰還増幅器30−1における、第1のトランジスタ111の動作を説明するための図である。まず、第1のトランジスタ111のベースに所望信号成分の電圧が入力される(図19(1))。第1のトランジスタ111は、所望信号成分を増幅する。所望信号成分が増幅される際に、第1のトランジスタ111には第1のIM3成分が発生する。また、第1のトランジスタ111が所望信号成分を増幅すると、第1のトランジスタ111のコレクタに、増幅された信号成分の電流とIM3成分の電流とが入力される(図19(2))。増幅された所望信号成分の電流とIM3成分の電流とによって、第1のトランジスタ111のエミッタに、増幅された所望信号成分の電圧及びIM3成分の電圧が発生する(図19(3))。第1のトランジスタ111が実際に増幅する電圧は、ベースとエミッタとの間の電圧である。よって、第1のトランジスタ111のベースとエミッタとの間の電圧は、第1のトランジスタ111のベースに入力される所望信号成分に逆相で加算される。すなわち、第1のトランジスタ111のベースに所望信号成分が入力される前の電圧よりも小さくなる(図19(4))。このように、第1のトランジスタ111のコレクタへの入力電流が、ベースに入力される所望信号成分の電圧として帰還される。第2の直列帰還増幅器30−2も、上記と同様の動作を行う。なお、直列帰還増幅器において、帰還量の位相は、第1のトランジスタ111のエミッタに接続される素子に依存する。第1のトランジスタ111に接続される素子による、帰還量の位相の変化については、後述する。
第1の直列帰還増幅器30−1は、第1の並列帰還増幅器10−1と同様に動作する。また、第2の直列帰還増幅器30−2は、第2の並列帰還増幅器10−2と同様に動作する。この理由について、図18を用いて説明する。
図18は、第1の直列帰還増幅器30−1の等価回路を示す図である。図18を用いて、第1の直列帰還増幅器30−1と、第1の並列帰還増幅器10−1とが等価であることを説明する。図18に示す等価回路は、信号源31と、入力インピーダンス素子32と、内部インピーダンス素子33と、定電流源34と、出力インピーダンス素子35と、直列帰還インピーダンス素子36とを備える。
入力インピーダンス素子32の一端は、信号源31を介して接地する。出力インピーダンス素子35の一端は、接地する。入力インピーダンス素子32の他端と出力インピーダンス素子35の他端との間には、内部インピーダンス素子33と定電流源34とが直列に接続される。直列帰還インピーダンス素子36の一端は、内部インピーダンス素子33と定電流源34とに接続する。直列帰還インピーダンス素子36の他端は、接地する。等価回路7において、内部インピーダンス素子33と定電流源34とを有する回路が、第1の増幅部101−1に相当する。
直列帰還増幅器は、電圧帰還増幅器である。このため、直列帰還増幅器の入出力電圧特性を求める。定電流源34を流れる電流i
y は、第1の直列帰還増幅器30−1の3次の非線形性まで考慮して書くと、(式28)のように表される。
(式28)において、g
1 、g
2 、g
3 は、それぞれ一次、二次、三次のトランスコンダクタである。v
x は、内部インピーダンス素子33の電圧である。第1の直列帰還増幅器30−1の出力電圧v
out と、定電流源34の電流i
y とは、オームの法則より、(式29)に示す関係が成り立つ。
また、キルヒホッフの法則より、(式30)に示す関係が成り立つ。
ここで、Z
e は、直列帰還インピーダンス素子36のインピーダンスである。v
e は、直列帰還インピーダンス素子36にかかる電圧(帰還電圧)である。Z
s は、入力インピーダンス素子32のインピーダンスである。v
inは、信号源31からの入力電圧である。Z
inは、内部インピーダンス素子33のインピーダンスである。v
x は、内部インピーダンス素子33にかかる電圧である。
(式29)と(式30)とを用いてv
x について解くと、v
x は、(式31)のように表される。
(式28)、(式29)及び(式31)を用いて、v
out について解くと、v
out は、(式32)のように表される。
ここで、η=Z
in/(Z
in+Z
L +Z
s )、α
1 =−Z
L ・g
1 、α
2 =−Z
L ・g
2 、α
3 =−Z
L ・g
3 、β=η・Z
e /(η・Z
e +Z
L )とおくと、(式32)は(式33)のように表される。
(式33)に対してオームの法則を適用すると、(式33)は、第1の実施形態で説明した(式7)の式とほぼ同じになる。以下、第1の直列帰還増幅器30−1の非線形閉ループ伝達関数は、第1の実施形態と同様に求めることができる。したがって、直列帰還増幅器である第1の直列帰還増幅器30−1とは、並列帰還増幅器である第1の並列帰還増幅器10−1とは、本質的に同じ動作をすることがわかる。第2の直列帰還増幅器30−2も、本質的に第2の並列帰還増幅器10−2と同様に動作する。ゆえに、直列帰還増幅器の動作の詳細な説明は、第1の実施形態で示した並列帰還増幅器の動作と同様であるため、省略する。
第1の直列帰還増幅器30−1の動作について説明する。第1の直列帰還増幅器30−1に入力所望信号が入力されると、第1の増幅部101−1は、入力所望信号を増幅する。なお、第1の増幅部101−1が所望信号を増幅する際に、第1の増幅部101−1では、第1のIM3成分が発生する。
第1のトランジスタ111のエミッタには、第5のインダクタ321が接続される。このため、第1の直列帰還部302−1からの帰還量β(ω)は、進み位相となり、第1のトランジスタ111の出力電流の位相は、遅れ位相となる。この結果、増幅された所望信号成分の位相と、第1のIM3成分の位相との差は、180°と異なる値で出力される。
図20Aは、図17に示す点a2における、第1の増幅部101−1で増幅された所望信号成分(以下、所望信号成分Sa2という)の位相と、第1のIM3成分(以下、第1のIM3成分Xa2という)の位相との関係を示す模式図である。なお、図20Aにおいて、入力所望信号が実軸上に取られている。このように、第1の直列帰還部302−1が第1の並列帰還部102−1と同様に動作するため、第1の直列帰還増幅器30−1から出力される所望信号成分Sa2の位相と、第1のIM3成分Xa2の位相との差は、第1の並列帰還増幅器10−1と同様に(式21)で表される。
図20Bは、図17に示す点b2における、第2の直列帰還増幅器30−2に入力される所望信号成分(以下、所望信号成分Sb2という)の位相と、第2の直列帰還増幅器302に入力される第1のIM3成分(以下、第1のIM3成分Xb2という)の位相との関係を示す模式図である。図20A及び図20Bが示す、所望信号成分の位相と第1のIM3成分の位相との関係は同じである。しかし、図20Bは、第1の増幅部101−1で増幅された所望信号成分を実軸上にとっている点が、図20Aと異なる。
第2の直列帰還増幅器30−2の動作について説明する。第2の増幅部101−2は、図20Bに示す位相の関係を保ったまま、所望信号成分Sb2と第1のIM3成分Xb2とを増幅する。第2の増幅部101−2が所望信号成分Sb2を増幅する際、第2の増幅部101−2では、第2のIM3成分が発生する。
第2の直列帰還部302−2のように、第2のトランジスタ211のエミッタに第14のキャパシタ322と第6の抵抗323とが並列に接続されている場合、第2の直列帰還部302−2の帰還量β(ω)は、遅れ位相となる。このため、第2の直列帰還増幅器30−2の出力電流の位相は、進み位相となる。図20Cは、図17に示す点c2における、増幅された所望信号成分Sb2(以下、所望信号成分Sc2という)の位相と、増幅された第1のIM3成分Xb2(以下、第1のIM3成分Xc2という)の位相と、第2のIM3成分(以下、第2のIM3成分Yc2という)の位相との関係を示す模式図である。なお、図20Cは、所望信号成分Sb2を実軸上に取っている。このように、第2の直列帰還部302−2は、第2の並列帰還部102−2と同じように動作する。従って、第2の直列帰還増幅器30−2から出力される所望信号成分の位相と、第2のIM3成分の位相との差は、(式22)で表すことができる。
図20Dは、出力端子72における、所望信号成分Sc2の位相と、第1のIM3成分Xc2の位相と、第2のIM3成分Yc2の位相との関係を示す図である。第1のIM3成分Xc2と第2のIM3成分Yc2とは合成され、合成直列帰還IM3成分が発生する。第1のIM3成分Xc2と第2のIM3成分Yc2とが合成され、IM3が抑圧される条件については、第1の実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
第1の直列帰還増幅器30−1及び第2の直列帰還増幅器30−2の利得の変化について説明する。
第1の直列帰還増幅器30−1において、第1の直列帰還部302−1が誘導性のリアクタンス成分を有する場合、使用周波数帯域の周波数成分が高くなるに従い、第1の直列帰還増幅器30−1の利得が下がる。これは、周波数が高くなるに従い帰還量が増えるためである。第2の直列帰還増幅器30−2において、第2の直列帰還部302−2が容量性のリアクタンス成分を有する場合、使用周波数帯域の周波数成分が高くなるに従い、第2の直列帰還増幅器30−2の利得が上がる。これは、周波数が高くなるに従い帰還量が減るためである。
多段増幅装置5は、第1の直列帰還増幅器30−1の利得の減少率と、第2の直列帰還増幅器30−2の利得の増加率とを同等にすることによって、利得の平坦性と、IM3の抑圧とを両立することが可能である。ここで、利得の増加率と利得の減少率とが同等である定義は、第1の実施形態で既に説明しているため、省略する。
以上のように、本発明の第5の実施形態に係る多段増幅装置5において、第1の直列帰還増幅器30−1は、増幅される所望信号成分の位相と第1のIM3成分の位相との差を変化させて出力する。また、第2の直列帰還増幅器30−2は、増幅される所望信号成分の位相と第2のIM3成分の位相との差を変化させる。これにより、多段増幅装置5は、第1のIM3成分と第2のIM3成分とを相殺させて、抑圧することができる。また、多段増幅装置5の各増幅器は、フィードバック方式の増幅装置である。このため、各増幅部で発生するIM3成分は、通常のフィードバック方式の増幅装置と同様に抑圧されるとともに、上記のように相殺される。したがって、さらなるIM3の抑圧が可能となる。さらに、多段増幅装置5の各増幅部で発生する白色雑音は、増幅された所望信号及び所望信号によって発生するIM3成分と比較して無視することができる。また、各増幅部で発生する白色雑音は、負帰還されることによって抑圧される。したがって、多段増幅装置5は、白色雑音を除去するための装置を備える必要がないため、装置構成を簡単にすることができる。
なお、第5の実施形態において、直列帰還部を含む増幅器を2つ縦列に接続された多段増幅装置について説明した。しかし、直列帰還部を含む増幅器を3つ以上縦列に接続した多段増幅装置を用いても、IM3を抑圧できることはいうまでもない。直列帰還部を含む増幅器を3つ以上縦列に接続した多段増幅装置の動作は、第2の実施形態で説明した多段増幅装置2と同様であるため、その説明を省略する。
また、第5の実施形態において、第2の直列帰還増幅器30−2は、第2の直列帰還部302−2に抵抗を用いる。このため、第2の直列帰還増幅器30−2は、第1の直列帰還増幅器30−1と比べて、雑音及び最大出力電力の特性が劣化する。したがって、多段増幅装置5を受信回路に用いる場合、多段増幅装置5の前段は、第1の直列帰還増幅器30−1であり、後段は第2の直列帰還増幅器30−2であることが望ましい。一方、多段増幅装置5を送信回路に用いる場合、多段増幅装置5の前段は、第2の直列帰還増幅器30−2であり、後段は、第1の直列帰還増幅器30−1であることが望ましい。なお、第5の実施形態に係る多段増幅装置を、3段以上に縦列接続させて受信回路に用いる場合、最後段の増幅器が第2の直列帰還増幅器30−2であることが望ましい。また、第5の実施形態に係る多段増幅装置を、3段以上に縦列接続させて送信回路に用いる場合、第1段の増幅器が第2の直列帰還増幅器30−2であることが望ましい。これにより、多段増幅装置の雑音及び最大出力電力の特性の劣化を防ぐことが可能となる。
(第6の実施形態)
図22は、本発明の第6の実施形態に係る多段増幅装置6の構成の一例を示す回路図である。図22に示す多段増幅装置6は、入力端子71と、入力インピーダンス整合回路73と、第1の組み合わせ帰還増幅器40−1と第2の組み合わせ帰還増幅器40−2と、出力インピーダンス整合回路74と、出力端子72とを備える。第1の組み合わせ帰還増幅器40−1は、第1の増幅部101−1と、第1の並列帰還部102−1と、第1の整合回路103−1と、第1の直列帰還部302−1とを含む。第2の組み合わせ帰還増幅器40−2は、第2の増幅部101−2と、第2の並列帰還部102−2と、第2の整合回路103−2と、第2の直列帰還部302−2とを含む。
図22に示すように、多段増幅装置6は、並列帰還部と直列帰還部とを含む二つの増幅器を、縦列接続した構成である。第1の組み合わせ帰還増幅器40−1は、第1の並列帰還増幅器10−1が、さらに第1の直列帰還部302−1を含む構成である。第2の組み合わせ帰還増幅器直列帰還インピーダンス素子36は、第2の並列帰還増幅器10−2が、さらに第2の直列帰還部302−2を含む構成である。なお、図22に示す多段増幅装置6を構成する機能ブロック及び回路素子が、図6に示す多段増幅装置1及び図17に示す多段増幅装置5と同じブロック及び回路素子である場合、図6に示す多段増幅装置1及び図17に示す多段増幅装置5と同じ参照符号を付し、その説明を省略する。なお、図22は多段増幅装置6の構成の一例を示す図であり、多段増幅装置6の構成は、図22に示す構成に限られず、他の構成であってもよい。
多段増幅装置6の動作の概要を説明する。
第1の組み合わせ帰還増幅器40−1の動作を説明する。第1の増幅部101−1は、入力所望信号成分を増幅する。第1の増幅部101−1が所望信号成分を増幅する際に、第1のIM3成分が発生する。第1の直列帰還部302−1は、増幅される所望信号成分の位相と第1のIM3成分の位相とを変化させる。このため、増幅された所望信号成分の位相と、第1のIM3成分の位相との差は、180°と異なる値で第1の増幅部101−1から出力される。
図23Aは、図22に示す点a3における、増幅された所望信号成分(以下、所望信号成分Sa3という)の位相と、第1のIM3成分(以下、第1のIM3成分Xa3という)の位相との関係を示す模式図である。なお、図23Aにおいて、入力所望成分が、実軸上にとられている。図23Aに示すように、点a3において、所望信号成分Sa3の位相と、第1のIM3成分Xa3の位相との差を、θa3とする。このとき、θa3+θ1 =180°である。
第1の並列帰還部102−1は、図23Aに示す位相の関係を保ったまま、所望信号成分Sa3の位相及び第1のIM3成分Xa3の位相を変化させる。
図23Bは、図22に示す点b3における、位相が変化した所望信号成分Sa3(以下、所望信号成分Sb3という)の位相と、位相が変化した第1のIM3成分Xa3(以下、第1のIM3成分Xb3という)の位相との関係を示す模式図である。なお、図23Bにおいて、入力所望信号成分が、実軸上にとられている。図23Bに示すように、第1の並列帰還部102−1は、自身が持つリアクタンス成分によって、所望信号成分Sb3の位相と入力所望信号成分の位相との差が180°となるように、所望信号成分Sa3の位相及び第1のIM3成分Xa3の位相を変化させる。このとき、所望信号成分Sb3の位相と第1のIM3成分Xb3の位相との差は、θa3のまま変化しない。
図23Cは、図22に示す点c3における、入力信号の所望信号成分の位相と、所望信号成分Sb3の位相と、第1のIM3成分Xb3の位相との関係を示す模式図である。図23Cに示すように、点c3には、入力所望信号成分、所望信号成分Sb3及び第1のIM3成分Xb3が入力される。入力所望信号成分の位相と、所望信号成分Sb3の位相との差は、180°である。点c3において、入力所望信号成分と所望信号成分Sb3とが合成される。しかし、所望信号成分の位相と第1のIM3成分の位相との関係を説明するために、以下の説明では、点c3において、入力所望信号成分と所望信号成分Sb3とは合成されないものとして説明する。
第1の増幅部101−1は、入力所望信号成分、所望信号成分Sb3及び第1のIM3成分Xb3をそれぞれ増幅する。第1の増幅部101−1が入力所望信号を増幅する際に、新たに第1のIM3成分が発生する。第1の直列帰還部302−1は、入力所望信号成分の位相と、所望信号成分Sb3の位相と、第1のIM3成分Xb3の位相とを変化させる。
図23Dは、図22に示す点d3における、増幅された入力所望信号成分(以下、所望信号成分Sd3-1という)の位相と、増幅された所望信号成分Sb3(以下、所望信号成分Sd3-2という)の位相と、増幅された第1のIM3成分Xb3(以下、第1のIM3成分Xd3-2という)の位相と、新たに発生した第1のIM3成分(以下、第1のIM3成分Xd3-1という)の位相との関係を示す模式図である。図23Dに示すように、所望信号成分Sd3-2の位相と、第1のIM3成分Xd3-2の位相との差は、θa3のまま変化しない。所望信号成分Sd3-1の位相と、第1のIM3成分Xd3-1の位相との差は、θa3となる。すなわち、所望信号成分Sd3-1の位相と、第1のIM3成分Xd3-1の位相との関係は、図23Aと同様の関係となる。
図23Eは、図22に示す点d3において、所望信号成分Sd3-1と所望信号成分Sd3-2とが合成され、かつ、第1のIM3成分Xd3-1と第1のIM3成分Xd3-2とが合成された結果を示す模式図である。図23Eに示すように、点d3において、所望信号成分Sd3-1と所望信号成分Sd3-2とが合成され、所望信号成分Sd3が発生する。第1のIM3成分Xd3-1と第1のIM3成分Xd3-2とが合成され、第1のIM3成分Xd3が発生する。このように、第1の組み合わせ帰還増幅器40−1は、第1のIM3成分を抑圧する。なお、図23Eにおいて、入力所望信号成分が、実軸上にとられている。
第1の組み合わせ増幅器40−1において、第1の直列帰還部302−1によって、所望信号成分Sa3の位相遅れが90°以上となる場合が考えられる。第5のインダクタ321のインダクタンスが大きくなるにしたがって、所望信号成分Sa3の位相も大きく遅れる。しかし、第1の並列帰還部102−1は、自身が有するリアクタンス成分によって、所望信号成分Sb3の位相と入力所望信号成分の位相との差が180°となるように所望信号成分Sa3の位相を変化させる。これにより、第1の組み合わせ帰還増幅器40−1は、第1の直列帰還部302−1によって変化する所望信号成分Sa2の位相に影響されることなく負帰還を実現することができるため、動作が安定化する。
次に、第2の組み合わせ帰還増幅器40−2の動作を説明する。図24Aは、第2の組み合わせ帰還増幅器40−2に入力される所望信号成分Sd3の位相と第1のIM3成分Xd3の位相との関係を示す模式図である。図24Aにおいて、所望信号成分Sd2を実軸上に取って示したものである。
第2の増幅部101−2は、所望信号成分Sd3と第1のIM3成分Xd3とを増幅する。第2の増幅部101−2が所望信号成分Sd3を増幅する際に、第2のIM3成分が発生する。第2の直列帰還部302−2は、増幅された所望信号成分Sd3の位相と、増幅された第1のIM3成分Xd3の位相と、第2のIM3成分とを変化させる。このとき、増幅された所望信号成分Sd3の位相と増幅された第1のIM3成分Xd3の位相との差は変化しない。また、増幅された所望信号成分Sd3の位相と、第2のIM3成分の位相との差は、180°と異なる値で出力される。
図24Bは、図22に示す点f3における、増幅された所望信号成分Sd3(以下、所望信号成分Sf3という)の位相と、増幅された第1のIM3成分Xd3(以下、第1のIM3成分Xf3という)の位相と、新たに発生した第2のIM3成分(以下、第2のIM3成分Yf3という)の位相との関係を示す模式図である。図24Bに示すように、点f3において、所望信号成分Sf3の位相と、第1のIM3成分Xf3の位相との差は、位相差θa3のまま変化しない。所望信号成分Sf3の位相と、第2のIM3成分Yf3の位相との差は、位相差θf3となる。このとき、θf3+θ2 =180°である。なお、図24Bにおいて、所望信号成分Sd3が、実軸上にとられている。
第2の並列帰還部102−2は、図24Bに示す位相の関係を保ったまま、所望信号成分Sf3の位相、第1のIM3成分Xf3の位相及び第2のIM3成分Yf3の位相を変化させる。
図24Cは、図22に示す、点g3における、位相が変化した所望信号成分Sf3(以下、所望信号成分Sg3という)の位相と、位相が変化した第1のIM3成分Xf3(以下、第1のIM3成分Xg3という)の位相と、位相が変化した第2のIM3成分Yf3(以下、第2のIM3成分Yg3という)の位相との関係を示す模式図である。なお、図24Cにおいて、所望信号成分Sd3が、実軸上にとられている。図24Cに示すように、第2の並列帰還部102−2は、所望信号成分Sg3の位相と所望信号成分Sd3の位相との差が180°となるように、所望信号成分Sf3の位相、第1のIM3成分Xf3の位相及び第2のIM3成分Yf3の位相を変化させる。
第2の組み合わせ増幅器40−2において、第2の直列帰還部302−2によって所望信号成分Sf3の位相が90°以上進む場合が考えられる。第14のキャパシタ322のキャパシタンスが大きくなるにしたがって、所望信号成分Sf3の位相の進みは、大きくなる。しかし、第2の並列帰還部102−2は、自身が有するリアクタンス成分によって、所望信号成分Sg3の位相と所望信号成分Sd3の位相との差が180°となるように所望信号成分Sf3の位相を変化させる。これにより、第2の組み合わせ帰還増幅器40−2は、第2の直列帰還部302−2によって変化する所望信号成分Sf3の位相の変化に影響されることなく負帰還を実現することができるため、動作が安定化する。
図24Dは、図22に示す点h3に入力される、所望信号成分Sd3の位相と、第1のIM3成分Xd3の位相と、所望信号成分Sg3の位相と、第1のIM3成分Xg3の位相と、第2のIM3成分Yg3の位相との関係を示す模式図である。図24Dに示すように、所望信号成分Sd3の位相と、所望信号成分Sg3の位相との差は、180°であり、第1のIM3成分Xd3の位相と、第1のIM3成分Xg3の位相との差は、180°である。
点h3において、所望信号成分Sd3と所望信号成分Sg3とは、合成される。また、第1のIM3成分Xd3と、第1のIM3成分Xg3とは合成される。しかし、所望信号成分の位相と、第1のIM3成分の位相と、第2のIM3成分の位相との関係を説明するために、点h3において、所望信号と第1のIM3成分とは、それぞれ合成されないないものとして説明する。
第2の増幅部101−2は、所望信号成分Sd3、所望信号成分Sg3、第1のIM3成分Xd3、第1のIM3成分Xg3及び第2のIM3成分Yg3をそれぞれ増幅する。第2の増幅部101−2が所望信号成分Sd3を増幅する際に、新たに第2のIM3成分が発生する。第2の直列帰還部302−2は、所望信号成分Sd3、所望信号成分Sg3、第1のIM3成分Xd3、第1のIM3成分Xg3及び第2のIM3成分Yg3のそれぞれの位相を変化させる。
図24Eは、図22に示す点i3における、増幅された所望信号成分Sd3(以下、所望信号成分Si3-1という)、増幅された所望信号成分Sg3(以下、所望信号成分Si3-2という)、増幅された第1のIM3成分Xd3(以下、第1のIM3成分Xi3-1という)と、増幅された第1のIM3成分Xg3(以下、第1のIM3成分Xi3-2という)と、増幅された第2のIM3成分Yg3(以下、第2のIM3成分Yi3-2という)と、新たに発生した第2のIM3成分(以下、第2のIM3成分Yi3-1という)のそれぞれの位相の関係を示す模式図である。なお、図24Eにおいて、所望信号成分Sd3が実軸上にとられている。
図24Eに示すように、所望信号成分Si3-1の位相と第1のIM3成分Xi3-1の位相との差は、θa3のまま変化しない。同様に、所望信号成分Si3-2の位相と第1のIM3成分Xi3-2の位相との差は、θa3のまま変化しない。所望信号成分Si3-2の位相と、第2のIM3成分Yi3-2の位相との差は、θf3のまま変化しない。所望信号成分Si3-1の位相と,第2のIM3成分Yi3-2の位相との差は、θf3となる。すなわち、所望信号成分Si3-1の位相と、第2のIM3成分Yi3-1の位相との関係は、図24Bと同様の関係となる。
図24Fは、図24Eに示す所望信号成分、第1のIM3成分及び第2のIM3成分がそれぞれ合成された状態を示す模式図である。所望信号成分Si3-1と所望信号成分Si3-2とは、逆相である。このため、所望信号成分Si3-1と所望信号成分Si3-2とは、相殺され、所望信号成分Si3が発生する。第1のIM3成分Xi3-1と第1のIM3成分Xi3-2とは、逆相である。このため、第1のIM3成分Xi3-1と第1のIM3成分Xi3-2とは、相殺され、第1のIM3成分Xi3が発生する。第2のIM3成分Yi3-1と第2のIM3成分Yi3-2とは、逆相である。このため、第2のIM3成分Yi3-1と第2のIM3成分Yi3-2とは、相殺され、第2のIM3成分Yi3が発生する。
図24Gは、第1のIM3成分Xi3と、第2のIM3成分Yi3とが相殺される様子を示す模式図である。第1のIM3成分Xi3と、第2のIM3成分Yi3とは、合成され、第1の総和IM3成分が発生する。その結果、多段増幅装置6の各増幅器で発生するIM3は抑圧される。
それぞれの増幅部における、増幅される所望信号成分の位相と、発生する第1のIM3成分の位相との変化については、第1の実施形態及び第6の実施形態で既に説明しているため、省略する。
第1の組み合わせ帰還増幅器40−1及び第2の組み合わせ帰還増幅器40−2の利得の変化について説明する。
第1の組み合わせ帰還増幅器40−1は、所望周波数帯の周波数成分が高くなるに従い、利得が下がる。これは、第1の並列帰還部102−1が容量性のリアクタンス成分を有し、かつ、第1の直列帰還部302−1が誘導性のリアクタンス成分を有することによって、周波数が高くなるに従い帰還量が増えるためである。したがって、第1の組み合わせ帰還増幅器40−1の帰還部は、容量性のリアクタンス成分を有し、並列帰還させる容量性並列帰還部と、誘導性のリアクタンス成分を有し、直列帰還させる誘導性直列帰還部とを有する帰還量増加帰還部ということができる。なお、利得の減少率は、−12dB/OCT(40dB/dec)以下であることが望ましい。
第2の組み合わせ帰還増幅器40−2は、所望周波数帯の周波数成分が高くなるに従い、利得が上がる。これは、第2の並列帰還部102−2が誘導性のリアクタンス成分を有し、かつ、第2の直列帰還部302−2が容量性のリアクタンス成分を有することによって、周波数が高くなるに従い帰還量が減るためである。したがって、第2の組み合わせ帰還増幅器40−2の帰還部は、誘導性のリアクタンス成分を有し、並列帰還させる誘導性並列帰還部と、容量性のリアクタンス成分を有し、直列帰還させる容量性直列帰還部とを有する帰還量減少帰還部ということができる。なお、利得の増加率は、12dB/OCT(20dB/dec)以下であることが望ましい。
多段増幅装置6は、第1の組み合わせ帰還増幅器40−1の利得の減少率と、第2の組み合わせ帰還増幅器40−2の利得の減少率とを同等にすることによって、所望の利得を得ることが可能である。ここで、利得の増加率と利得の減少率とが同等である定義は、第1の実施形態で既に説明しているため、省略する。
以上のように、本発明の第6の実施形態に係る多段増幅装置6において、組み合わせ帰還増幅器は、増幅される信号の位相を変化させるとともに、帰還する所望信号成分の位相と入力所望信号成分の位相と差を180°になるように変化させる。これにより、多段増幅装置6は、多段増幅装置1及び多段増幅装置5よりも、所望信号成分の位相とIM3成分の位相との差を容易に設定することができるとともに、安定した増幅器を提供することが可能となる。
なお、第6の実施形態において、並列帰還部と直列帰還部とを含む組み合わせ帰還増幅器を2つ縦列に接続された多段増幅装置について説明した。しかし、組み合わせ帰還増幅器を3つ以上縦列に接続した多段増幅装置を用いても、IM3を抑圧できることはいうまでもない。
また、第6の実施形態において、第1の並列帰還部102−1と第2の並列帰還部102−2とは、各増幅器に入力される所望信号成分の位相と、帰還させる所望信号成分の位相との差を180°にするものとして説明したが、必ずしも180°でなくてもよい。第1の並列帰還部102−1と第2の並列帰還部102−2とは、それぞれの増幅器に入力される所望信号成分の位相と、帰還する所望信号成分の位相との差が、180°に近い値にすることによっても、増幅器に入力される所望信号成分の位相と、帰還する所望信号成分の位相と同様の効果を得ることができる。
(第7の実施形態)
図25は、本発明の第7の実施形態に係る多段増幅装置7の構成の一例を示す図である。図25に示す多段増幅装置7は、入力端子71と、入力インピーダンス整合回路73と、出力インピーダンス整合回路74と、出力端子72と、第1の組み合わせ帰還増幅器50−1と、第2の組み合わせ帰還増幅器50−2とを備える。
図25に示す多段増幅装置7において、第1の組み合わせ帰還増幅器50−1は、第1の組み合わせ帰還増幅器40−1の第1の並列帰還部102−1及び第1の直列帰還部302−1に代えて、第1のリアクタンス制御並列帰還部502−1と、第1のリアクタンス制御直列帰還部504−1とを含む構成である。第2の組み合わせ帰還増幅器50−2は、第2の組み合わせ帰還増幅器40−2の第2の並列帰還部102−2及び第2の直列帰還部302−2に代えて、第2のリアクタンス制御並列帰還部502−2と、第1のリアクタンス制御直列帰還部504−2とを含む構成である。以下、多段増幅装置6と異なる点を中心に、多段増幅装置7の動作を説明する。
第1の組み合わせ帰還増幅器50−1は、第1の増幅部101−1と、第1のリアクタンス制御並列帰還部502−1と、第1のリアクタンス制御直列帰還部504−1とを含む。第1のリアクタンス制御並列帰還部502−1は、第1のリアクタンス回路521と、第2のリアクタンス回路522と、第3のリアクタンス回路523と、第1のスイッチング素子524と、第2のスイッチング素子525と、第3のスイッチング素子526と、第1の制御信号入力端子527とを有する。第1のリアクタンス制御直列帰還部504−1は、第4のリアクタンス回路541と、第5のリアクタンス回路542と、第6のリアクタンス回路543と、第4のスイッチング素子544と、第5のスイッチング素子545と、第6のスイッチング素子546と、第2の制御信号入力端子547とを有する。
第2の組み合わせ帰還増幅器50−2は、第2の増幅部101−2と、第2のリアクタンス制御並列帰還部502−2と、第2のリアクタンス制御直列帰還部504−2とを含む。第2のリアクタンス制御並列帰還部502−2は、第7のリアクタンス回路528と、第8のリアクタンス回路529と、第9のリアクタンス回路530と、第7のスイッチング素子531と、第8のスイッチング素子532と、第9のスイッチング素子533と、第3の制御信号入力端子534とを有する。第2のリアクタンス制御直列帰還部504−2は、第10のリアクタンス回路548と、第11のリアクタンス回路549と、第12のリアクタンス回路550と、第10のスイッチング素子551と、第11のスイッチング素子552と、第12のスイッチング素子553と、第4の制御信号入力端子554とを有する。
第1のリアクタンス制御並列帰還部502−1には、第1の制御信号入力端子537から第1の制御信号が入力される。第1の制御信号は、入力所望信号の周波数帯域やレベルに応じて入力される信号である。第1のリアクタンス制御並列帰還部502−1は、第1の制御信号に応じて、第1のスイッチング素子524、第2のスイッチング素子525、及び第3のスイッチング素子526のオン/オフを切り替える。これにより、第1のリアクタンス制御並列帰還部502−1のリアクタンスが変化するため、所望信号成分及び第1のIM3成分の位相の変化量を制御することができる。
第1のリアクタンス制御直列帰還部504−1には、第2の制御信号入力端子547から第2の制御信号が入力される。第2の制御信号は、入力所望信号の周波数帯域やレベルに応じて入力される信号である。第1のリアクタンス制御直列帰還部504−1は、第1の制御信号に応じて、第4のスイッチング素子544、第5のスイッチング素子545、及び第6のスイッチング素子546のオン/オフを切り替える。これにより、第1のリアクタンス制御直列帰還部504−1のリアクタンスが変化するため、所望信号成分及び第1のIM3成分の位相の変化量を制御することができる。
第2のリアクタンス制御並列帰還部502−2には、第3の制御信号入力端子534から第3の制御信号が入力される。第3の制御信号は、入力所望信号の周波数帯域やレベルに応じて入力される信号である。第2のリアクタンス制御並列帰還部502−2は、第1の制御信号に応じて、第7のスイッチング素子531、第8のスイッチング素子532、及び第9のスイッチング素子533のオン/オフを切り替える。これにより、第2のリアクタンス制御並列帰還部502−2のリアクタンス成分が変化するため、所望信号成分、第1のIM3成分及び第2のIM3成分の位相の変化量を制御することができる。
第2のリアクタンス制御直列帰還部504−2には、第4の制御信号入力端子554から第4の制御信号が入力される。第4の制御信号は、入力所望信号の周波数帯域やレベルに応じて入力される信号である。第2のリアクタンス制御直列帰還部504−2は、第4の制御信号に応じて、第10のスイッチング素子551、第11のスイッチング素子552、及び第12のスイッチング素子553のオン/オフを切り替える。これにより、第1のリアクタンス制御直列帰還部504−1のリアクタンスが変化するため、所望信号成分及び第1のIM3成分の位相の変化量を制御することができる。
このように、第7の実施形態に係る多段増幅装置7は、組み合わせ帰還増幅器の並列帰還部及び直列帰還部のリアクタンスを、スイッチで切り替える。これにより、入力所望信号の周波数帯域及びレベルに応じて、各帰還部のリアクタンスを制御することが可能となる。従って、IM3を抑圧することが可能な、広帯域及び広ダイナミックレンジな増幅回路を実現することができる。
なお、第7の実施形態において、それぞれの帰還部が有するリアクタンス回路が三つであるとして説明したが、リアクタンス回路の数は、三つ以上の数であってもよい。また、1つの制御信号入力端子で、全ての帰還部のスイッチを制御してもよい。
また、第7の実施形態において、第7の実施形態に係る組み合わせ帰還増幅器を2つ縦列に接続した多段増幅装置7について説明した。しかし、多段増幅装置7は、第7の実施形態に係る組み合わせ帰還増幅器を3段以上接続した構成であってもよい。
(第8の実施形態)
図26は、本発明の第8の実施形態に係る多段増幅装置8の構成の一例を示す図である。図26に示す多段増幅装置8は、入力端子71と、入力インピーダンス整合回路73と、出力インピーダンス整合回路74と、出力端子72と、第1の組み合わせ帰還増幅器60−1と、第2の組み合わせ帰還増幅器60−2とを備える。
図26に示す多段増幅装置8において、第1の組み合わせ帰還増幅器60−1は、第1の組み合わせ帰還増幅部40−1が、第1のバイアス制御回路601−1をさらに含む構成である。第2の組み合わせ帰還増幅器60−2は、第2の組み合わせ帰還増幅部40−2が、第2のバイアス制御回路601−2 をさらに含む構成である。以下、多段増幅装置6と異なる点を中心に、多段増幅装置8の動作を説明する。
第1のバイアス制御回路601−1は、第7の抵抗611と、第8の抵抗612と、第9の抵抗613と、第10の抵抗614と、第11の抵抗615と、第1のスイッチング素子616と、第2のスイッチング素子617と、第3のスイッチング素子618と、第7のトランジスタ619と、第8のトランジスタ620と、第5の制御信号入力端子621とを有する。
第2のバイアス制御回路601−2は、第12の抵抗622と、第13の抵抗623と、第14の抵抗624と、第15の抵抗625と、第16の抵抗626と、第4のスイッチング素子627と、第5のスイッチング素子628と、第6のスイッチング素子629と、第9のトランジスタ630と、第10のトランジスタ631と、第6の制御信号入力端子632とを有する。
第5の制御信号入力端子621は、第8のトランジスタ620のコレクタに接続する。第7の抵抗611の一端と第1のスイッチング素子616一端とは直列に接続する。第8の抵抗612の一端と第2のスイッチング素子617一端とは直列に接続する。第9の抵抗613の一端と第3のスイッチング素子618一端とは直列に接続する。第1のスイッチング素子616、第2のスイッチング素子617及び第3のスイッチング素子618のそれぞれの他端は、第5の制御信号入力端子621にそれぞれ接続する。第7の抵抗611、第8の抵抗612、及び第9の抵抗613の他端は、第7のトランジスタ619のコレクタと、第8のトランジスタ620のベースとにそれぞれ接続する。第10の抵抗614は、第7のトランジスタ619のベースと第8のトランジスタ620のエミッタとの間に接続される。第11の抵抗615は、第8のトランジスタ620のエミッタと、第1のトランジスタ111との間に接続される。第7のトランジスタ619のエミッタは、接地する。
第6の制御信号入力端子632は、第10のトランジスタ631のコレクタに接続する。第12の抵抗622の一端と第4のスイッチング素子627一端とは直列に接続する。第13の抵抗623の一端と第5のスイッチング素子628一端とは直列に接続する。第14の抵抗624の一端と第6のスイッチング素子629一端とは直列に接続する。第4のスイッチング素子627、第5のスイッチング素子628及び第6のスイッチング素子629のそれぞれの他端は、第6の制御信号入力端子632にそれぞれ接続する。第12の抵抗622、第13の抵抗623、及び第14の抵抗624の他端は、第9のトランジスタ630のコレクタと、第10のトランジスタ631のベースとにそれぞれ接続する。第15の抵抗625は、第9のトランジスタ630のベースと第10のトランジスタ631のエミッタとの間に接続される。第16の抵抗626は、第10のトランジスタ631のエミッタと、第3のトランジスタ211との間に接続される。第9のトランジスタ630のエミッタは、接地する。
第1の組み合わせ帰還増幅器60−1において、第1のバイアス制御回路601−1は、第5の制御信号入力端子621から入力される第5の制御信号に応じてスイッチを切り替えることによって、第1の増幅部101−1のバイアス電流を変化させる。第1の増幅部101−1のバイアス電流の変化に応じて、第1の増幅部101−1の電流利得が変化する。これにより、所望信号成分の位相及び第1のIM3成分の位相の変化量を制御することが可能となる。第1の増幅部101−1の電流利得の変化による、所望信号成分の位相及び第1のIM3成分の位相の変化については、第4の実施形態で既に説明しているため、省略する。
第2の組み合わせ帰還増幅器60−2において、第2のバイアス制御回路601−1は、第6の制御信号入力端子632から入力される第6の制御信号に応じてスイッチを切り替えることによって、第2の増幅部101−2のバイアス電流を変化させる。以下の説明は、第1のバイアス制御回路601−1と同様であるため省略する。
このように、第8の実施形態に係る多段増幅装置8は、組み合わせ帰還増幅器のバイアス電流を、スイッチで切り替える。これにより、入力所望信号の周波数帯域及びレベルに応じて各増幅部の電流利得を制御することが可能となる。従って、IM3を抑圧することが可能な、広帯域及び広ダイナミックレンジな増幅回路を実現することができる。
なお、第8の実施形態において、バイアス制御回路は、第1の増幅部101−1及び第2の増幅部101−2のバイアス電流を制御することができれば、他の回路でもよい。また、1つの制御信号入力端子で、全てのバイアス制御回路のスイッチを制御してもよい。
また、第8の実施形態において、第8の実施形態に係る組み合わせ帰還増幅器を2つ縦列に接続した多段増幅装置8について説明した。しかし、多段増幅装置8は、第8の実施形態に係る組み合わせ帰還増幅器を3段以上接続した構成であってもよい。
(第9の実施形態)
図27は、一般的な受信回路において、IM3が所望信号に及ぼす影響を説明するための図である。図27に示すように、第1の妨害波91及び第2の妨害波92からなる2つの異なる周波数の妨害波が、所望信号と共に、受信回路に入力された場合を考える。一般的な受信回路は、増幅器、ミキサ、及びバンドパスフィルタなどの回路素子を備えている。これらの回路素子は、非線形的な特性を有する。IM3成分93は、第1の妨害波91と第2の妨害波92とが、非線形的な特性を有する回路素子に入力されることで発生する。図27に示すように、IM3成分93の周波数帯域と所望信号94の周波数帯域とが一致した場合、バンドバスフィルタは、IM3成分93を除去することができない。この結果、所望信号のS/N比の劣化や受信感度の劣化などの問題が生じる。本発明の第9の実施形態に係る受信回路は、異なる2つの周波数の妨害波によるIM3成分を抑圧し、所望信号への影響を低減する。
図28は、本発明の第9の実施形態に係る受信回路9のブロック図である。受信回路9は、アンテナ901と、共用機902と、多段増幅装置904と、第1のミキサ905と、第2のミキサ906と、分波器907と、局部発振器908と、第1のバンドパスフィルタ909と、第2のバンドパスフィルタ910と、第1のAGC回路911と、第2のAGC回路912と、第1のA/Dコンバータ913と、第2のA/Dコンバータ914と、ロジック回路915と、第1の検出回路916と、第2の検出回路917と、制御回路918とを備える。多段増幅装置904は、第1の増幅器941と、第2の増幅器942とを含む。第1の増幅器941は、第1の増幅部943と、第1の帰還部945とを有する。第2の増幅器942は、第2の増幅部944と、第2の帰還部946とを有する。第1の増幅器941及び第2の増幅器942は、第3の実施形態に係る位相制御増幅器、第7の実施形態に係る組み合わせ帰還増幅器、または第8の実施形態に係る組み合わせ帰還増幅器である。
図28に示す受信回路9の動作を説明する。アンテナ901で受信された所望信号は、共用器902を介して多段増幅装置904に入力される。所望信号は多段増幅装置904によって増幅される。第1のミキサ905及び第2のミキサ906は、増幅された所望信号を、ベースバンド信号にダウンコンバートする。第1のバンドパスフィルタ909及び第2のバンドパスフィルタ910は、ベースバンド信号から所望の帯域を抽出する。第1のAGC回路911及び第2のAGC回路912は、ベースバンド信号のゲインを調整する。第1のA/Dコンバータ913及び第2のA/Dコンバータ914は、ベースバンド所望信号をアナログ所望信号からディジタル所望信号へと変換し、ロジック回路915に入力する。局部発振器908は、第1のミキサ905及び第2のミキサ906において、所望信号をダウンコンバートする際に使用する信号を発生する。分波器907は、局部発振器で発生した信号を分割し、第1のミキサ905及び第2のミキサ906に入力する。
制御回路918は、多段増幅装置904の増幅器及び帰還部のそれぞれのインピーダンスと、位相の変化量とに関するテーブルを予め保持している。制御回路918は、ロジック回路915と、第1の検出回路916と、第2の検出回路917とからの検出信号と、テーブルとに従って、多段増幅装置904の増幅部及び帰還部のそれぞれのインピーダンスを制御する。具体的には、制御回路918は、IM3成分の抑圧が必要であると判断した場合、第1のIM3成分の位相と第2のIM3成分の位相との差が120°以上180°以下となるように、多段増幅装置904の増幅部及び帰還部のそれぞれのインピーダンスを制御する。
第1の検出回路916は、多段増幅装置904によって増幅された所望信号の電力値を検出し、制御回路918に入力する。制御回路918は、増幅された所望信号の電力値が所定値より大きい場合、多段増幅装置904で発生するIM3成分が抑圧されていると判断する。一方、増幅された所望信号の電力値が所定値より小さい場合、制御回路918は、多段増幅装置904において発生するIM3成分が抑圧する必要があると判断する。
第2の検出回路917は、多段増幅装置904から出力されたベースバンド信号の電力値を検出し、ベースバンド信号の電力値を制御回路918に入力する。制御回路918は、ベースバンド信号の電力値が、所定値より大きい場合、多段増幅装置904で発生するIM3成分が抑圧されていると判断する。一方、制御回路918は、ベースバンド信号の電力値が所定値より小さい場合、多段増幅装置904において発生するIM3成分が抑圧する必要があると判断する。
ロジック回路915は、ベースバンド信号のビット誤り率を検出するととともに、ビット誤り率を検出信号として制御回路918に入力する。制御回路918は、ビット誤り率の値が、所定値より小さい場合、多段増幅装置904で発生するIM3成分が抑圧されていると判断する。一方、制御回路918は、ビット誤り率の値が、所定の値より大きい場合、制御回路918は、多段増幅装置904で発生するIM3成分を抑圧する必要があると判断する。
以上のように、本発明の第9の実施形態に係る受信回路は、二つの異なる周波数の妨害波によって発生したIM3成分を取り除くことによって、所望信号の品質劣化を防ぐことが可能となる。
なお、受信回路9は、制御回路918と、第1の検出回路916と、第2の検出回路917とを用いない構成にしてもよい。この場合、多段増幅装置904は、第1の実施形態に係る多段増幅装置1及び第2の実施形態に係る多段増幅装置2を使用すればよい。
(第10の実施形態)
図29は、一般的な送信回路において発生するIM3による所望信号への影響を説明する図である。所望信号96は、周波数的に広がりをもった変調波である。このため、所望信号96は、周波数帯域が隣接する2つの信号であると考えることができる。よって、所望信号96が一般的な送信回路に入力された場合、送信回路では、ベースバンドフィルタ、ミキサ、及び増幅器の非線形性により、IM3が発生する。
送信回路で発生する第1のIM3成分97及び第2のIM3成分97は、図29に示すように、所望信号96が使用するチャネルの隣接チャネルに広がりを持って表れる。第1のIM3成分97及び第2のIM3成分98がアンテナから放射されると、第1のIM3成分97及び第2のIM3成分98は、隣接チャネルを使用する他の通信端末に対する妨害波となってしまう。このため、IM3成分の電力値は、一定値以下に抑圧される必要がある。第10の実施形態に係る送信回路は、送信回路中の非線形回路から発生するIM3成分を抑圧し、IM3成分による影響を取り除くものである。
図30は、本発明の第10の実施形態に係る送信回路10のブロック図である。図30において、送信回路10は、アンテナ1001と、共用器1002と、多段増幅装置1004と、第1のミキサ1005と、第2のミキサ1006と、第1のベースバンドフィルタ1007と、第2のベースバンドフィルタ1008と、第1のD/Aコンバータ1209と、第2のD/Aコンバータ1010と、分波器1011と、局部発振器1012と、ロジック回路1013と、検出回路1014と、制御回路1015とを備える。多段増幅装置1004は、第1の増幅器1041と第2の増幅器1042とを含む。第1の増幅器1041は、第1の増幅部1043と第1の帰還部1045とを有する。更に、第2の増幅器1042は、第2の増幅部1044と第2の増幅部1046とを有する。第1の増幅器1041及び第2の増幅器1042は、第3の実施形態に係る位相制御増幅器、第7の実施形態に係る組み合わせ帰還増幅器、または第8の実施形態に係る組み合わせ帰還増幅器である。
図30に示す送信回路の動作を説明する。ロジック回路1013は、第1のD/Aコンバータ1009及び第2のD/Aコンバータ1010に、ベースバンド信号を出力する。第1のD/Aコンバータ1009及び第2のD/Aコンバータ1010は、ベースバンド信号を、ディジタル信号からアナログ信号へ変換する。第1のベースバンドフィルタ1007及び第2のベースバンドフィルタ1008は、ベースバンド信号から、所望信号の周波数帯域を抽出する。局部発振器1012は、第1のミキサ1005及び第2のミキサ1006において、ベースバンド信号をRF信号にアップコンバートする際に使用する信号を発生する。分波器1011は、局部発振器1012が発生した信号を、第1のミキサ1005及び第2のミキサ1006に出力する。第1のミキサ1005及び第2のミキサ1006は、ベースバンド信号を無線信号へとアップコンバートする。多段増幅装置1004は、無線信号を増幅する。共用器1002は、アンテナが受信した信号を受信回路に出力するとともに、送信回路が出力する無線信号をアンテナへ出力する。アンテナ1001は、無線信号を放射する。
制御回路1015は、多段増幅装置1004の増幅器及び帰還部のそれぞれインピーダンスと、位相の変化量とに関するテーブルを予め保持している。制御回路1015は、ロジック回路1013と、検出回路1014と、テーブルとに従って、多段増幅装置1004の増幅部及び帰還部のそれぞれのインピーダンスを制御する。具体的には、制御回路1015は、IM3成分の抑圧が必要であると判断した場合は、第1のIM3成分の位相と第2のIM3成分の位相との差が120°以上180°以下となるように、多段増幅装置1004の増幅部及び帰還部のそれぞれインピーダンスを制御する。
ロジック回路1013は、ベースバンド信号の電力情報を制御回路1015へ出力する。例えば、送信回路10を用いた移動通信端末の場合、ロジック回路1013は、受信した信号に含まれる制御信号の中から、移動通信端末と基地局との距離を検出する。ロジック回路は、移動通信端末と基地局との距離に応じて、無線信号のレベルを決定し、レベル調節信号として、制御回路に出力する。
検出回路1014は、多段増幅装置1004によって増幅された無線信号から、IM3成分を抽出すると共に、IM3成分の電力値を制御回路に出力する。制御回路1015は、IM3成分の電力値が、常に一定の値より小さくなるように、多段増幅装置1004の増幅部及び帰還部のそれぞれのインピーダンスの制御を行う。
以上のように、本発明の第10の実施形態に係る送信回路は、送信回路で発生するIM3成分を、IM3成分のレベルに応じて、取り除くことが可能となる。よって、IM3成分が及ぼす他のチャンネルへ影響を低減することが可能となる。
なお、検出回路1014は、多段増幅装置1004によって増幅された無線信号のレベルを検出し、制御回路1015に入力してもよい。このとき、制御回路1015は、増幅された無線信号のレベルが所定値を下回っている場合、IM3成分は抑圧されていると判断すればよい。一方、制御回路1015は、増幅された信号のレベルが所定値を上回っている場合、IM3成分は抑圧する必要があると判断すればよい。
また、制御回路1015は、ロジック回路1013から出力されるレベル調節信号を用いずに、多段増幅装置1004の制御を行ってもよい。
また、制御回路1015は、検出回路1014から出力される、多段増幅装置1004によって増幅された無線信号の電力情報を用いずに、多段増幅装置1004の制御を行ってもよい。
更に、送信回路10は、制御回路1015と、検出回路1014とを使用しない構成にしてもよい。この場合、多段増幅装置1004は、第1の実施形態に係る多段増幅装置1及び第2の実施形態に係る多段増幅装置2を使用すればよい。
以上のように、本発明の第10の実施形態に係る送信回路は、周波数的に拡がりを持った変調波の増幅などを行う際に発生するIM3成分を抑圧することによって、送信する無線信号の品質劣化を防ぐことが可能となる。
(第11の実施形態)
図31は、本発明の第11の実施形態に係る無線通信装置11の構成を示すブロック図である。図31に示す無線通信装置11は、受信回路1101と、送信回路1102と、制御回路1103とを備える。
受信回路1101は、受信信号を増幅して、増幅した受信信号を処理する受信増幅装置である。受信回路1101は、図28に示す受信回路9が備える第1の検出回路916、第2の検出回路917、及び制御回路918を備えない構成である。このため、受信回路1101が受信回路9と同じ構成要素をもつ場合、受信回路9と同じ参照符号を受信回路1101の構成要素に付し、その説明を省略する。
送信回路1102は、送信信号を増幅して送信する送信増幅装置である。制御回路1103は、送信回路1102が送信信号を送信する際に、受信回路1101の多段増幅装置904の制御を行う。
無線通信装置11の動作を説明する。無線通信装置11は、送信信号の送信と受信信号の受信とを同時に行う場合がある。この場合、送信回路1102が送信する信号の一部が、受信回路1101にリークする。このため、受信回路1101には、非常に低い歪み特性が要求される。
制御回路1103は、送信信号の送信と受信信号の受信とを同時に行う場合、送信信号のレベルを検出する。そして、制御回路1103は、送信信号のレベルに応じて制御信号を決定する。制御回路1103は、制御信号に基づいて、受信回路1101の制御を行う。具体的には、制御回路1103は、第1の帰還部945の帰還量と第2の帰還部946の帰還量とを増加するように、第1の帰還部945及び第2の帰還部946を制御する。制御回路1103は、第1の増幅部943のバイアス電流と、第2の増幅部944のバイアス電流とが増加するように、第1の増幅部943及び第2の増幅部944を制御する。制御回路1103は、多段増幅装置904を上記のように制御することによって、多段増幅装置904の利得を劣化させることなく、歪み特性を改善する。
このように、第11の実施形態に係る無線通信装置11は、送信と受信とを同時に行う際に、受信回路が含む多段増幅装置の増幅部のバイアス電流及び帰還部の帰還量を制御することによって、多段増幅装置の歪み特性を改善する。これにより、例えば、送信と受信とを同時に行う際に、受信感度がほとんど劣化しない無線通信装置を実現することができる。
以上、本発明を詳細に説明してきたが、前述の説明はあらゆる点において本発明の例示にすぎず、その範囲を限定しようとするものではない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。