(実施の形態1)
(構成)
図1から図12を参照して、本発明に基づく実施の形態1における磁気記憶素子および磁気記憶装置について説明する。
図1は、本実施の形態における磁気記憶素子の概略断面図である。半導体基板1の表面上には、素子選択用トランジスタ106が形成されている。素子選択用トランジスタ106は、互いに離間するように半導体基板1の表面に形成されたソース106bおよびドレイン106aを含む。半導体基板1の表面上において、ソース106bとドレイン106aとに挟まれる領域には、ゲート絶縁膜105を介してワード線104が形成されている。ワード線104は、半導体基板に形成される薄膜トランジスタのうちいわゆるゲート電極の役割を果たす。ワード線104の側面には、ワード線104を挟むように、サイドウォール107が形成されている。
ソース106bの表面には、コンタクトプラグ112が形成されている。コンタクトプラグ112は、導電性材料で形成された銅配線207と、銅配線207の表面に形成されたバリアメタル208とを含む。コンタクトプラグ112の表面には、読出しビット線121が接続されている。読出しビット線121は周りに形成されたバリアメタルを含む。このように、読出しビット線121は、コンタクトプラグ112を介して、ソース106bに接続されている。読出しビット線121は、図1において、紙面に垂直な方向に延在するように形成されている。
ドレイン106aの表面には、複数段のコンタクトプラグ111が形成されている。コンタクトプラグ111は、導電性材料で形成された銅配線205と、銅配線205の表面に形成されたバリアメタル206とを含む。コンタクトプラグ111は、複数段積み重ねられている。
複数段のコンタクトプラグ111の端部のうち、ドレイン106aと反対側の端部には、導電層113が形成されている。導電層113は、板状に形成され、半導体基板1の主表面にほぼ平行に形成されている。導電層113は、コンタクトプラグ111に接続されている。導電層113は、コンタクトプラグ111の側方に延在するように形成されている。
コンタクトプラグ111の側方において、導電層113の主表面には、強磁性トンネル接合素子61が形成されている。強磁性トンネル接合素子61は、導電層113の表面に接合されている。導電層113の主表面のうち、強磁性トンネル接合素子61が形成されている側と反対側には、第1配線としてのライト線6が形成されている。ライト線6は、導電層113から離隔するように配置されている。ライト線6は、導電層113を介して、強磁性トンネル接合素子61に対向するように形成されている。ライト線6は、導電性の材料である銅配線201と、銅配線201の表面に形成されたバリアメタル202とを含む。ライト線6は、図1において、紙面に垂直な方向に延在するように形成されている。
強磁性トンネル接合素子61の表面のうち、導電層113が接合されている面と反対側の面には、第2配線としての書込みビット線3が形成されている。すなわち、強磁性トンネル接合素子61は、ライト線6と書込みビット線3との間に配置されている。開口部131は、強磁性トンネル接合素子61と書込みビット線3の銅配線203との間に、間隙を形成するために形成されている。書込みビット線3は、導電性の材料である銅配線203と、銅配線の周りに形成されたバリアメタル204とを含む。書込みビット線3は、ライト線6が延在する方向と垂直な方向に延在するように形成されている。書込みビット線3は、図1において、紙面に平行な方向に延在するように形成されている。
半導体基板1の表面上であって、コンタクトプラグ111,112や、ライト線6などの周りには、絶縁性を有する層間絶縁膜130が形成されている。強磁性トンネル接合素子61は、層間絶縁膜130によってライト線6と絶縁されている。
図2に、強磁性トンネル接合素子61の説明図を示す。図2(a)は、強磁性トンネル接合素子の平面図であり、図2(b)は、概略断面図である。
強磁性トンネル接合素子61は、固着層11、トンネル絶縁層12および記録層13を含む。それぞれの層は、主表面が互いに接するように積層されている。固着層11は、強磁性層14aおよび反強磁性層14bを含む。固着層11は、磁化の向きが固定された層である。本実施の形態においては、固着層11は、図2(a)における矢印91に示す方向のうち一方の向きに磁化の向きが固定されている。
記録層13は、外部磁界によって磁化の向きが変化する層である。一般に、強磁性体には、結晶構造や形状などによって磁化しやすい方向がある。この方向は、エネルギが低い状態であり、磁化しやすい方向は、磁化容易軸(Ea:Easy axis)と呼ばれる。これに対して、磁化されにくい方向は、磁化困難軸(Hard axis)と呼ばれる。図2(a)を参照して、本実施の形態においては、矢印91に示す方向と平行な方向が、磁化容易軸63の方向である。また、磁化容易軸63に垂直な方向が磁化困難軸64の方向である。
本実施の形態における強磁性トンネル接合素子61は、磁化容易軸63に対して、平面形状が非対称になるように形成されている。また、強磁性トンネル接合素子61は、磁化困難軸64に対して、平面形状が対称になるように形成されている。すなわち、強磁性トンネル接合素子61は、磁化困難軸64に対して、線対称になるように形成されている。
本実施の形態における強磁性トンネル接合素子61の平面形状は、長方形の角となる部分のうち一部を曲線に置き換えた形状を有する。図2(a)において、平面形状の直線部703と直線部704bとは交点が垂直になるように形成され、また、直線部703と直線部704aとは交点が垂直になるように形成されている。これに対して、直線部704bと直線部702とは曲線部701aを介して接続され、直線部704aと直線部702とは曲線部701bを介して接続されている。直線部702と直線部703とは互いに平行であり、また、直線部704aと直線部704bとは互いに平行である。本実施の形態においては、曲線部701aおよび曲線部701bは、それぞれ円弧になるように形成されている。
本実施の形態における強磁性トンネル接合素子61は、磁化容易軸63の方向の長さと、磁化困難軸64の方向の長さとを比べたとき、磁化容易軸63の方向の長さが長くなるように形成されている。すなわち、平面形状において、磁化容易軸63の方向に長手方向を有するように形成されている。特に、強磁性トンネル接合素子61の平面形状は、アスペクト比が1.2の長方形の角の一部を曲線部に置き換えた形状である。
曲線部を有する強磁性トンネル接合素子61は、たとえば、周知のリソグラフィ技術を用いて、直接的にパターニングを行なうことによって形成される。または、楕円パターンによる露光と、線形パターンによる露光との2回の露光を行なって形成される。
本実施の形態においては、固着層11およびトンネル絶縁層12においても、図2(a)に示した平面形状を有しているが、特にこの形態に限られず、たとえば、記録層13のみが曲線部を有するように形成され、固着層11およびトンネル絶縁層12は、平面形状が長方形になるように形成され、さらに、平面視したときに、記録層13よりも大きくなるように形成されていても構わない。すなわち、トンネル絶縁層12および固着層11は、平面形状が記録層13と同じ形状であってもよいし、記録層13の平面形状を含んで、記録層13よりも大きい面積を有する任意の平面形状であってもよい。
図2(b)において、固着層11は、たとえば、強磁性層14aと反強磁性層14bとを積層することにより、磁化の向きが固定されている。反強磁性層14bが強磁性層14aのスピンの向きを固定することによって、強磁性層14aの磁化の向きが固定されている。反強磁性層14bは、強磁性層14aの主表面のうち、記録層13が配置されている側の反対側に配置されている。強磁性層14aとしては、たとえば、CoFeを用いて形成することができ、また、反強磁性層14bとしては、たとえば、IrMnを用いて形成することができる。
記録層13は、強磁性層であり、たとえば、CoFe層とNiFe層とが積層されて形成されている。トンネル絶縁層12としては、たとえば、AlOxを用いて形成されている。
図1に示すように、固着層11は、導電層113およびコンタクトプラグ111を介して、素子選択用トランジスタ106のドレイン106aに電気的に接続され、記録層13は、書込みビット線3と電気的に接続されている。
図3に、本実施の形態における強磁性トンネル接合素子の位置の説明図を示す。図3(a)は、磁気記憶素子を平面的に透視したときの図であり、(b)は、(a)における強磁性トンネル接合素子の部分の拡大図である。
強磁性トンネル接合素子61は、磁化容易軸の方向が、ライト線6の延在方向とほぼ平行になるように配置されている。すなわち、強磁性トンネル接合素子61は、長手方向が、ライト線6の延在方向とほぼ平行になるように配置されている。また、強磁性トンネル接合素子61の磁化困難軸の方向と、書込みビット線3の延在方向とがほぼ平行になるように配置されている。本実施の形態においては、ライト線6と書込みビット線3とのそれぞれの延在方向が互いにほぼ垂直になるように形成されている。
また、強磁性トンネル接合素子61は、磁化容易軸の方向とほぼ垂直な方向における端部のうち、一方がライト線6を書込みビット線3に投影したときに、影になる投影領域の内側に配置され、他方がこの投影領域の外側になるように配置されている。すなわち、強磁性トンネル接合素子61は、平面的に透視したときに、磁化困難軸の方向における端部のうち、一方の端部がライト線6の領域内に配置され、他方の端部がライト線6の領域外に配置されている。または、記録層の平面形状のうち、角が形成されている側の端部が上記の投影領域の内部に配置され、曲線部が形成されている側の端部が上記の投影領域の外部に配置されている。強磁性トンネル接合素子61は、書込みビット線3に主表面全体が覆われるように配置されている。
図4に、本実施の形態における磁気記憶装置の回路図の一部分を示す。本実施の形態における磁気記憶装置は、複数の磁気記憶素子(メモリセル:MC)を備える。それぞれの磁気記憶素子は、素子選択用トランジスタ106および強磁性トンネル接合素子61を含む。それぞれの磁気記憶素子は、格子状(マトリックス状)に配置されている。それぞれの磁気記憶素子は、素子選択用トランジスタ106と、強磁性トンネル接合素子61とが直列に接続された構成を含む。
書込みビット線3および読出しビット線121は、複数の磁気記憶素子を並列に接続するように形成されている。読出しビット線121は、共通のセンサアンプ(AMP)の入力端に接続されている。ライト線6は、1つの組の内部に形成された複数の強磁性トンネル接合素子61を跨ぐように形成されている。これらの並列に接続された複数の磁気記憶素子の組が、複数形成され、それぞれの組を跨ぐようにワード線104が形成されている。
(作用・効果)
図1を参照して、強磁性トンネル接合素子61は、後に詳細に説明するように、内部の磁化の向きによって、厚さ方向の抵抗値が異なる。この抵抗値の大小に対応して、“0”または“1”が記憶される。
記憶された“0”または“1”の読出し時には、選択された磁気記憶素子におけるワード線104に電流を流すことにより、ワード線104に接続された素子選択用トランジスタ106が駆動状態になる。一方で、所定の磁気記憶素子における書込みビット線3に電流を流すことによって、強磁性トンネル接合素子61にトンネル電流が流れる。さらに、導電層113、コンタクトプラグ111、素子選択用トランジスタ106、およびコンタクトプラグ112を通って、読出しビット線121に電流が流れる。
このとき、強磁性トンネル接合素子61の抵抗に依存して、読出しビット線121に出力される電流量が定まるため、“0”または“1”記憶状態が判別される。すなわち、強磁性トンネル接合素子61は、記録層の磁化の向きに依存して抵抗値が大きくなったり小さくなったりするため、強磁性トンネル接合素子を通った出力信号を参照セルの出力信号と比較することによって、記憶状態が判別される。それぞれの磁気記憶素子における出力信号は、図4に示すように、センスアンプ(AMP)によって受信され、出力信号の大小が判別される。
磁気記憶装置においては、それぞれの磁気記憶素子の抵抗値を判別することにより、それぞれの磁気記憶素子の記憶状態が判別される。磁気記憶装置においては、それぞれの磁気記録素子に対して、書込み動作および読込み動作を行なう。書込み動作および読込み動作については、以下に示す比較例も本発明に基づく形態においても同様である。
次に、磁気記憶素子について、比較例の磁気記憶素子を説明する。比較例の磁気記憶素子は、ライト線、書込みビット線および強磁性トンネル接合素子の部分以外について、前述した本発明に基づく本実施の形態における磁気記憶素子の構成と同様である。
図5は、本実施の形態における比較例としての強磁性トンネル接合素子の構成を説明する図である。図5は、磁気記憶素子を平面的に透視したときの図である。
比較例における磁気記憶素子の強磁性トンネル接合素子101は、平面形状が角を有する長方形になるように形成されている。また、ライト線2および書込みビット線3は、それぞれの幅が、対応する強磁性トンネル接合素子101の一辺の長さよりも大きくなるように形成されている。強磁性トンネル接合素子101は、ライト線2と書込みビット線3とに挟まれる領域の内部に形成されている。強磁性トンネル接合素子101は、磁化容易軸がライト線2の延在方向と平行になるように形成されている。
図6に、強磁性トンネル接合素子の機能を説明する概略断面図を示す。強磁性トンネル接合素子101は、固着層15、トンネル絶縁層16および記録層17が積層された構造を有する。固着層15は、強磁性層18aおよび反強磁性層18bを含む。これらの積層構造については、本実施の形態における強磁性トンネル接合素子61(図2参照)と同様である。
図6(a)および(b)に示すように、固着層15の磁化の向きは矢印94に示す向きである。固着層15の向きは、固定されている。これに対して、記録層17の磁化の向きは、固着層15の磁化の向きと平行である。記録層17の磁化の向きは、外部磁界によって、矢印95または矢印96に示すように反転する。
たとえば、図6(a)に示すように、固着層15の磁化の向きと記録層17の磁化の向きとが同じ向きである状態を、強磁性トンネル接合素子101が“0”を記憶している状態とすることができる。また、図6(b)に示すように、固着層15の磁化の向きと記録層17の磁化の向きとが互いに逆向きの状態を、強磁性トンネル接合素子101が“1”を記憶している状態とすることができる。
強磁性トンネル接合素子は、積層されている方向(厚さ方向)に、電流を流した場合に、記録層の磁化の向きに依存して抵抗が異なるという特性を有する。固着層と記録層との磁化の向きが互いに同じ向きである場合には、抵抗が小さく、固着層の磁化の向きと記録層の磁化の向きとが互いに逆向きである場合には、抵抗が大きいという特性を有する。この特性を利用して、強磁性トンネル接合素子に流れる電流(出力信号)が大きいかまたは小さいかによって、磁気記憶素子の記憶状態“0”または記憶状態“1”が判別される。
次に、記録層17の磁化の向きを反転させる動作について説明する。すなわち、強磁性トンネル接合素子への書込み動作について説明する。
図5を参照して、ライト線2と書込みビット線3とは、延在方向が互いに直交するように形成され、強磁性トンネル接合素子101は、ライト線2と書込みビット線3とが交差する領域に配置されている。強磁性トンネル接合素子101は、ライト線2と書込みビット線3との間に配置されている。ライト線2は、本発明に基づく磁気記憶素子と同様に、強磁性トンネル接合素子101の下方に配置され、書込みビット線3は上方に配置されている。
図5に、ライト線2の幅方向の中心軸と書込みビット線3の幅方向の中心軸との交点を原点とした座標系を示す。この比較例においては、強磁性トンネル接合素子101の平面形状である長方形の重心位置が原点となる。また、図5に、記録層の磁化の向きを反転させるために必要な磁界の大きさであるアステロイド曲線56を示す。アステロイド曲線56は、原点に向かって凹になる曲線であり、記録層に対してこの曲線よりも大きな磁界が印加されれば、記録層の磁化の向きが反転する。
強磁性トンネル接合素子101の書込み時においては、ライト線2と書込みビット線3とに電流が流される。書込みビット線3には、たとえば矢印92に示す向きに電流が流され、書込みビット線3を取巻く磁界が生じる。この磁界により、書込みビット線3の下方にある強磁性トンネル接合素子の記録層には、磁化容易軸に平行な向きの磁界53が形成される。一方、ライト線2には、たとえば、矢印93に示す向きに電流が流され、ライト線2を取巻く磁界が生じる。強磁性トンネル接合素子の記録層は、ライト線2の上方にあるため、記録層には、磁化困難軸方向に平行な向きの磁界54が形成される。書込み時においては、強磁性トンネル接合素子101の記録層に対して、磁界53と磁界54との合成磁界である磁界55が形成される。
図5に示す例では、磁界55の大きさが、アステロイド曲線56に示される磁界よりも大きいため、記録層13は、磁化容易軸方向のうち、矢印93で示した向きに磁化される。
図6を参照して、図6(a)は、強磁性トンネル接合素子101の記録層17の磁化の向きが、固着層15の磁化の向きと同じである。すなわち、矢印49に示す固着層15の磁化の向きと矢印95に示す記録層17の磁化の向きとが、互いに同じ状態である。この場合には、強磁性トンネル接合素子の積層方向(厚さ方向)についての抵抗値が小さくなる。
図6(b)は、固着層15における磁化の向きと記録層17における磁化の向きとが反対になるように、記録層17の磁化の向きを反転させたときの(磁化反転させたときの)断面図である。この場合には、強磁性トンネル接合素子の積層方向(厚さ方向)についての抵抗値が大きくなる。記録層17の磁化の向きを反転させるには、たとえば、図5において、書込みビット線3に対して矢印92の向きと反対向きに電流を流すことによって行なえる。
このように、ライト線2および書込みビット線3の電流を変化させることにより、記録層17の磁化の向きを反転させることができ、強磁性トンネル接合素子の厚さ方向の抵抗値を変化させることができる。
次に、図5を参照して、比較例における磁気記憶素子の問題点について説明する。強磁性トンネル接合素子101の記録層が、矢印93の向きと反対向きに磁化されている状態に対して、矢印93の向きに磁化の向きを反転させる書込みを行なう場合には、合成磁界である磁界55を印加することにより反転させることができる。
ここで、磁界53または磁界54のいずれか一方の磁界のみが印加された場合においては、磁化反転は生じない。しかし、磁化容易軸の方向において、アステロイド曲線56よりも大きな磁界58が印加された場合、この磁界58のみでも、強磁性トンネル接合素子101の記録層は磁化反転してしまう。このように、磁化容易軸に平行な大きな磁界を発生させる電流が書込みビット線3に流れた場合には、書込みビット線3に沿って配置されているすべての強磁性トンネル接合素子の記録層は、磁界58の向きになってしまう。すなわち、非選択の磁気記憶素子に対しても、磁化反転が生じて、誤った書込みを行なう可能性がある。
同様に、ライト線2に大きな電流が流れた場合においても、ライト線2によって形成される磁界が大きな場合には、わずかな磁化容易軸方向の磁界が加わることによって、磁化反転が生じてしまう。このような場合には、ライト線2に沿って形成されている磁気記憶素子において、非選択の磁気記憶素子に対しても、磁化反転が生じて、誤った書込みを行なう可能性がある。
図7は、比較例の記録層の磁化分布を例示する平面図である。記録層17の平面形状は、長方形になるように形成され、長方形の短辺に対する長辺の比(アスペクト比)が2.0になるように形成されている。この記録層においては、長辺の方向が矢印91に示す磁化容易軸の方向とほぼ平行になるように形成されている。図7においては、記録層17の表面の各位置における磁化の向きを矢印で示している。
図8に、記録層の材料および厚さを一定にして、平面形状のアスペクト比を変えた場合のアステロイド曲線の変化を説明するグラフを示す。横軸は、磁化困難軸方向に印加される磁界Hxの大きさを示し、縦軸は、磁化容易軸方向に印加される磁界Hyの大きさを示す。磁界Hxは、ライト線2に電流を流した際に発生する磁界であり、磁界Hyは、書込みビット線3に電流を流した際に発生する磁界である。グラフにプロットされているそれぞれの測定点は、記録層の磁化の向きが磁界Hyの負の向きの状態で、一定の磁界Hxを印加して、磁化の向きが反転するのに必要な磁界Hyを計測した結果である。すなわち、それぞれのプロット31〜34を結ぶ曲線は、それぞれの記録層のアステロイド曲線を示す。
図8に示すグラフにおいて、プロット31は、記録層の平面形状のアスペクト比が2.0の結果を示している。同様に、プロット32、プロット33、またはプロット34は、それぞれのアスペクト比が、この順に1.5、1.2または1.0の場合を示している。
プロット31で示される記録層を例にとると、磁界Hxが0の場合における磁界Hyの値よりも、大きな磁界Hyの領域である領域41に相当する磁界が印加された場合、記録層の磁化の向きが、印加された磁界の向きになる。すなわち、書込みビット線に、領域41の大きさの磁界を発生させる電流が流れていれば、ライト線に電流が流れていなくても、記録層の磁化の向きが決定される。さらに、当該書込みビット線に沿った部分に形成された強磁性トンネル接合素子では、記録層の磁化反転が生じる可能性がある。
同様に、プロット31において、磁化反転を生じる磁界Hyが非常に小さくなるときの磁界Hxよりも大きな磁界Hxの領域である領域42を検討する。領域42においては、ライト線に大きな電流が流れ、ライト線によって形成される磁界Hxが領域42の大きさになると、わずかな大きさの磁界Hyが印加されるので、記録層の磁化の向きが決定される。すなわち、ライト線に電流が流れ、磁界Hxが領域42に達すれば、書込みビット線にわずかな電流が流れるだけで、記録層の磁化の向きが決定される。さらに、当該ライト線に沿った部分に形成された強磁性トンネル接合素子は、記録層の磁化反転が生じる可能性がある。
このように、領域40の外側の領域である領域41または領域42においては、望ましくない磁化反転が生じるおそれがある。領域40は、磁界Hxと磁界Hyとが形成されて、磁化反転が生じる領域である。上記の領域41での望ましくない磁化反転を防止するためには、アステロイド曲線の傾きを急峻にして、領域40が大きくなるように記録層を形成することが好ましい。図8のそれぞれのプロット31〜34の比較において、記録層の平面形状のアスペクト比が大きいほど、Hxの小さい領域においてアステロイド曲線の傾きを急峻にできることが分かる。
しかしながら、図8に示すように、磁化困難軸方向の磁界の大きさ(磁界Hxの大きさ)が一定の場合、記録層の磁化を磁化容易軸方向に沿った所望の向きに向けるために必要な磁界(以下、「反転磁界」という)は、アスペクト比が大きいほど増大する。すなわち、記録層のアスペクト比が大きくなるほど、磁化反転に必要な消費電力も大きくなってしまう。また、アスペクト比を大きくすると、磁気記憶素子を形成するための必要な面積が大きくなってしまうという問題がある。
図9に、本発明に基づく本実施の形態における強磁性トンネル接合素子(図2参照)を採用した場合におけるグラフを示す。図9は、図8のグラフに加えて、本発明に基づく記録層のアステロイド曲線が形成されるプロット35を併記したグラフである。プロット31〜34は、図8におけるプロット31〜34である。プロット35の計測に用いられた記録層は、プロット31〜34に用いられた記録層の材料と同一であり、また、厚さが同一であるように形成されている。
図9のグラフにおいてプロット35に示すように、本発明に基づく図2に示す形状を有する記録層を採用すると、磁化困難軸方向の磁界Hxが一定の値(以下、「磁化困難軸方向しきい値」という)より小さくなれば、磁化容易軸方向の反転に必要な磁界Hyは、急激に大きくなる。すなわち、磁界Hxが磁化困難軸方向しきい値よりも小さい領域においてのみ、磁化容易軸方向に対して大きな反転磁界が必要になる。また、磁化困難軸方向しきい値よりも磁界Hxが大きければ、逆に、反転に必要な磁界Hyは小さくなる。
記録層の磁化反転を行なうことができる領域43は、図8に示した磁化反転を行なうことができる領域40よりも大きくなっている。特に、図9の磁界Hyで示される磁化容易軸方向に領域が大きくなっている。領域45については、図8に示した領域42と同様である。これに対して、磁化容易軸方向の磁界Hyのみで、磁化反転が生じる領域である領域44は、図8の対応する領域41に比べて非常に小さくなっている。すなわち、書込みビット線に電流が流れることによる書込みエラーが起り得る領域が、非常に小さくなる。したがって、磁化容易軸方向のみに磁界が印加されて生じる磁化反転を抑制することができる。すなわち、書込みビット線から発生される磁界によって、当該書込みビット線に沿った磁気記憶素子の記録層が、誤って磁化反転されることを抑制できる。
また、磁界Hxが、磁化困難軸方向しきい値よりも大きい場合には、プロット31で示されるアステロイド曲線よりも、磁化容易軸方向の反転磁界を小さくなる。すなわち、選択された磁気記憶素子において、反転磁界を小さくできて、磁化反転を容易に行なうことができる。または、ライト線に流れる電流と書込みビット線に流れる電流との合計を小さくすることができる。
このように、本発明に基づく図2に示した平面形状を有する記録層を備える磁気記憶素子においては、非選択の磁気記憶素子においては、反転磁界を従来の記録層よりも大きくして、選択された磁気記憶素子においては、反転磁界を従来よりも小さくすることができる。したがって、磁気記憶素子の選択についての信頼性が向上する。
さらに、記録層の平面形状における直線部を延在させたときの長方形のアスペクト比を小さくすることができる。ここで、後述するように、比較例における強磁性トンネル接合素子は、図5に示すように、ライト線と書込みビット線とが交差する領域の内部に形成することが好ましく、アスペクト比を大きくすると、たとえば、書込みビット線の幅を大きくする必要がある。磁気記憶素子および磁気記憶装置においては、書込みビット線の幅方向の長さが長くなる(図4参照)。しかし、本願における強磁性トンネル接合素子においては、アスペクト比を小さくすることができ、磁気記憶素子の面積を微細化することができる。すなわち、磁気記憶素子を小型化することができる。
図9のグラフに示すように、磁化容易軸方向において、反転磁界の大きさが磁化困難軸方向の磁界の大きさに依存して顕著に異なる現象は、磁化状態の差異に起因する。図10に、磁化容易軸方向の磁界Hyと磁化困難軸方向の磁界Hxとの合成磁界が、反転磁界よりも大きい場合と小さい場合との磁化分布を示す。図10(a)および(b)は、本発明に基づく強磁性トンネル接合素子61の記録層の平面図である。それぞれの矢印は、それぞれの位置における磁化の向きを示している。図10(a)および(b)は、それぞれの磁界Hyが同じ大きさで、磁界Hxの大きさが異なるように磁界が印加されている。図10(a)に印加されている磁界Hxは、磁化困難軸方向しきい値よりも小さく、図10(b)に印加されている磁界Hxは、磁化困難軸方向しきい値よりも大きくなるように磁界が印加されている。
一般的に、磁性体内の磁化は、磁束を外部に向かって漏らすと、エネルギ場を形成する。このエネルギ場が強磁性体と相互作用するため、磁化の向きは、できるだけ磁束を外部に漏らさないように(端面の形状に沿うように)なる。この相互作用は、磁性体の端面に近づくほど強く、磁性体の端面に近いほど磁束を外に漏らさないような磁化分布が形成される。すなわち、磁性体の端面に近い領域においては、端面の形状に沿うような磁化分布が形成される。
図7に示す比較例の記録層においては、記録層17の形状が、磁化容易軸(矢印91の方向)および磁化容易軸に垂直な軸に対して対称である。磁化困難軸方向には、わずかな外部磁界が印加されるのみである。このような分布は、その分布の形状からS型と言われる。
本発明に基づく記録層において、磁界Hxの値が磁化困難軸方向しきい値よりも小さく、合成磁界が反転磁界よりも小さい場合には、強磁性トンネル接合素子61の記録層の表面における磁化分布が、図10(a)に示されるような分布になる。この磁化分布の形態は、C型と呼ばれ、安定な磁化状態であるため、磁化容易軸方向の反転磁界は大きくなる。これに対し、図10(b)に示すように、磁界Hxの値が、磁化困難軸方向しきい値よりも大きく、合成磁界が反転磁界よりも大きい場合には、外部から印加された磁界によるエネルギによって、図10(b)に示されるような分布になる。この磁化分布の形態は、S型であり、それぞれの位置における磁化の向きが、磁界Hxおよび磁界Hyの合成磁界の向きにほぼ沿うような磁化分布となる。
図10(b)に示されたS型の状態では、外部の磁界によるトルクを受けやすくなり、反転磁界が急激に小さくなる。このように、記録層を磁化容易軸に対して非対称にして、かつ磁化容易軸に垂直な軸に対して対称の形状にすることによって、上記のようなS型とC型との磁化分布の変化を得ることができる。
所定の選択された磁気記憶素子の書込みのために、書込みビット線およびライト線に電流を流して形成された磁界は、非選択の磁気記憶素子にも寄与する。この磁界は、ディスターブ磁界と言われ、非選択の磁気記憶素子に対しても、磁化反転を発生させる可能性がある。したがって、図7に示すような平面形状が長方形の記録層を有する磁気記憶素子においては、図5に示すように、強磁性トンネル接合素子を、ライト線と書込みビット線とが交差する領域内に配置して、ディスターブ磁界の影響を排除することが好ましい。または、ライト線の幅および書込みビット線の幅を大きくして、上記の交差する領域の内部に完全に記録層が配置されるように形成されていた。
これに対して、本発明に基づく本実施の形態の強磁性トンネル接合素子においては、図9のプロット35に示されるように、磁化困難軸方向の磁界Hxを、磁化困難軸方向しきい値よりも大きくしなければ、ライト線に流れる電流によって、実質的な磁化反転が記録層に生じないという特徴がある。
選択された磁気記憶素子に含まれるライト線に、連なる非選択の磁気記憶素子に注目すると、磁化困難軸方向に磁化困難軸方向しきい値以上の磁界が与えられた場合には、磁気容易軸方向のディスターブ磁界に対して、ほぼ同じ耐性になる。これに対して、選択された磁気記憶素子を含む1つの書込みビット線に沿うように形成された非選択の磁気記憶素子に注目すると、ライト線による磁気困難軸方向のディスターブ磁界に対して、非常に強いという特徴を有する。
したがって、ディスターブ磁界の影響を避けるために制限されていた磁気困難軸方向に磁界を形成するライト線の配置の自由度を高くすることができる。具体的には、前述のとおり、磁性体内の磁化は、その端部に垂直になるほどエネルギが大きくなり、記録層の面内で磁化を貯めようとする特性を持つ。このため、端部の磁化の向きを制御することで、磁性体の磁化の向きを定めることができる。
この特性を利用して、外部の磁界が記録層の端部に集中されるように、ライト線を強磁性トンネル接合素子の磁化困難軸方向の端部のうち、一方の端部に対向するように配置することができる。すなわち、磁化容易軸の方向とほぼ垂直な方向の端部のうち、一方がライト線を書込みビット線に向かって投影したときの影になる投影領域の内部に配置され、他方が上記の投影領域の外側に配置されるように形成することができる。この構成を採用することにより、ライト線の配置の自由度を大きくすることができる。また、ライト線の幅を、磁気記憶素子の幅よりも小さくすることができ、磁気記憶素子の微細化を図ることができる。
なお、本実施の形態においては、第1配線として、強磁性トンネル接合素子の下側にライト線が形成され、第2配線として、強磁性トンネル接合素子の上側に書込みビット線が形成されたが、特にこの形態に限られず、第1配線として書込みビット線が形成され、第2配線としてライト線が形成されていても構わない。
図11に、この場合における強磁性トンネル接合素子61の部分の拡大図を示す。強磁性トンネル接合素子61は、書込みビット線7の延在方向と矢印91に示す磁化容易軸の方向とがほぼ平行になるように配置される。また、磁化困難軸の方向とライト線2の延在方向とがほぼ平行になるように配置される。この場合においても、第1配線としての書込みビット線7を第2配線としてのライト線2に投影したときの影になる投影領域の内部に、強磁性トンネル接合素子61の一部分が存在するように配置することができる。
また、記録層13の平面形状は、図2に示された形状に限定されるものではない。図12に、本実施の形態における他の記録層の平面図を示す。強磁性トンネル接合素子62は、平面形状が四角形の角になる部分を曲線部に置換した形状を有する。強磁性トンネル接合素子62の記録層は、表面に互いにほぼ平行になるように形成された直線部802aおよび直線部802bを含む。直線部804は、それぞれの直線部を延在したときに、直線部802aおよび直線部802bとほぼ垂直になるように形成されている。直線部804と直線部802aとは曲線部803aによって接続され、直線部804と直線部802bとは、曲線部803bを介して接続されている。
直線部802aと直線部802bとは、曲線部801を介して接続されている。曲線部803a,803b,801は、それぞれ円弧形状になるように形成されている。直線部804は、矢印91に示す磁化容易軸の方向にほぼ平行になるように形成され、直線部802aおよび直線部802bは、磁化容易軸の方向と垂直になるように形成されている。曲線部801の曲率半径は、曲線部803a,803bの曲率半径よりも大きい。すなわち、図12において、磁化困難軸64の方向の端部のうち、向かって左側の端部の方が直線形状に近く、向かって右側の端部は円弧形状を有する。
この記録層は、磁化容易軸63が直線部804とほぼ平行になるように形成され、磁化困難軸64が直線部802a,802bと平行になるように形成されている。
この記録層は、図2に示した記録層とは異なり、平面形状に角となる部分を有さず、曲線部と直線部とから形成されている。この記録層は、磁化容易軸63に対して、平面形状が非対称になるように形成され、磁化容易軸と垂直な磁化困難軸64に対して、平面形状が対称になるように形成されている。記録層の配置に関しては、図12における直線部804が、図2における直線部703に対応するように配置される。この強磁性トンネル接合素子においても上述と同様の効果を有する。
また、記録層の形成において、1回のリソグラフィでは、図2に示したような平面形状に角となる部分を有する形状の記録層を形成することが困難な場合がある。しかし、図12に示すように、記録層の平面形状として、直線部同士の間に曲線が形成され、角となる部分が排除された形状を採用することにより、1回のリソグラフィで本発明に基づく記録層を形成することができる。
本発明に基づく磁気記憶装置は、上述の磁気記憶素子を備える。この構成を採用することにより、上述の効果を有する磁気記憶装置を提供することができる。
(実施の形態2)
(構成)
図13から図15を参照して、本発明に基づく実施の形態2における磁気記憶素子および磁気記憶装置について説明する。
図13は、本実施の形態における第1の磁気記憶素子の断面図である。図13に示す断面図は、書込みビット線の延在方向に垂直な面で切断したときの断面図である。半導体基板1の主表面に、素子選択用トランジスタやコンタクトプラグが形成され、図示しないコンタクトプラグを介して、素子選択用トランジスタが強磁性トンネル接合素子61に接続されていることは、実施の形態1と同様である。強磁性トンネル接合素子61と半導体基板1との間において、強磁性トンネル接合素子61の直下に、ライト線が形成されていることも実施の形態1における磁気記憶素子と同様である。
本実施の形態においては、強磁性トンネル接合素子61の上面(半導体基板1が配置されている側と反対側)に配置されている書込みビット線5が、被覆層133で覆われた構成を備える。書込みビット線5は、導電性材料である銅配線203と、銅配線203の周りに形成されたバリアメタル204と、被覆層133とを含む。被覆層133は、書込みビット線5の上面および側面に形成されている。すなわち、書込みビット線5のうち、強磁性トンネル接合素子62と対向している面を除く面に、被覆層133が形成されている。被覆層133は、高透磁率材料で形成されている。たとえば、被覆層133は、パーマロイを用いて形成されている。
図14に、本実施の形態の第1の磁気記憶素子におけるライト線、書込みビット線、および強磁性トンネル接合素子の位置関係の説明図を示す。図14(a)は、本実施の形態における第1の磁気記憶素子を平面的に透視したときの図であり、(b)は、(a)における強磁性トンネル接合素子の部分の拡大図である。
本実施の形態においては、強磁性トンネル接合素子として、図2で示した形状を有する強磁性トンネル接合素子61が配置されている。ライト線2の延在方向と、書込みビット線5の延在方向とが、ほぼ垂直に交わるよう配置され、ライト線2と書込みビット線5との間に、強磁性トンネル接合素子61が配置されていることは、実施の形態1と同様である。本形態においては、磁化容易軸の方向とほぼ垂直な方向に磁界を形成するための第1配線としてライト線2が形成されている。また、平面的に見て、ライト線2に交差するように形成された第2配線として書込みビット線5が形成されている。
本実施の形態においては、強磁性トンネル接合素子の記録層において、磁化容易軸の方向の端部のうち、一方が書込みビット線5をライト線2に向かって投影したときの影になる投影領域の内部に配置され、上記の端部のうち他方が、上記の投影領域の外側に配置されている。すなわち、書込みビット線5は、強磁性トンネル接合素子61の一部のみを覆うように配置されている。
ライト線2は、強磁性トンネル接合素子61の対応する幅よりも大きな幅を有するように形成され、ライト線2を書込みビット線5に向かって投影したときに影になる領域の内部に、強磁性トンネル接合素子61が配置されるように形成されている。
図15に、本実施の形態における第2の磁気記憶素子の説明図を示す。図15は、第2の磁気記憶素子を平面的に透視したときの図のうち、強磁性トンネル接合素子の部分の拡大図である。
本実施の形態の第2の磁気記憶素子においては、ライト線の幅と位置が本実施の形態における第1の磁気記憶素子と異なる。第2の磁気記憶素子におけるライト線6の幅は、第1の磁気記憶素子におけるライト線2の幅よりも細くなるように形成されている。また、強磁性トンネル接合素子61において、矢印91に示す磁化容易軸方向とほぼ垂直な方向の端部のうち、一方がライト線6を書込みビット線5に向かって投影したときに影になる投影領域の内部に配置され、他方が上記の投影領域の外側に配置されるように形成されている。すなわち、第2の磁気記憶素子においては、平面的に透視したときに、強磁性トンネル接合素子61の一部が、ライト線6から飛び出すように形成され、さらに、書込みビット線5から一部が飛び出すように形成されている。
本実施の形態における磁気記憶装置は、実施の形態1と同様に、書込みビット線やライト線などで、複数の本実施の形態における磁気記憶素子が接続された構成を備える(図4参照)。
その他の構成については、実施の形態1と同様であるので、ここでは説明を繰返さない。
(作用・効果)
図14を参照して、書込みビット線5に電流を流すことによって発生する磁界は、被覆層133に集中する。書込みビット線5の近傍に配置された強磁性トンネル接合素子61に対しても磁界が集中する。したがって、書込みビット線5に電流を流すことによって強磁性トンネル接合素子61に印加される磁界は、被覆層133を形成しない場合と比べて大きくなる。すなわち、書込みビット線5に流す電流を小さくして、効率的な磁界の形成を行なうことができる。この結果、消費電力を低減することができるとともに、非選択の磁気記憶素子へのディスターブ磁界を低減することができる。
しかし、強磁性トンネル接合素子の記録層の平面形状が長方形である場合には、書込みビット線に流れる電流によって得られる磁化容易軸方向の磁界が大きくなると、書込みビット線に沿った磁気記憶素子において、記録層が誤って磁化反転する可能性があった。
本実施の形態における第1の磁気記憶素子においては、記録層の平面形状が、磁化容易軸に対して非対称になるように形成され、磁化容易軸と垂直な軸に対して対称になるように形成されている。書込みビット線5に流れる電流によって発生する磁界は、記録層の磁化容易軸方向に印加される。
図9のプロット35に示すように、本実施の形態における記録層は、磁化困難軸方向の磁界Hxが磁化困難軸方向しきい値よりも小さい場合においては、磁化反転させるために磁化容易軸方向に大きな磁界Hyが必要である。このため、書込みビット線5に対して、被覆層133を形成して発生する磁界を増大させても、不要な磁化反転を抑制することができる。すなわち、書込みビット線5に沿って形成された磁気記憶素子において、誤って磁化反転が生ずることを防止できる。
さらに、ディスターブ磁界の抑制のために制限されていた書込みビット線5の位置を変更することができる。前述のように、一般的に磁性体内の磁化は、その端部と垂直になるほどエネルギが大きくなり、記録層の面内で磁界を貯めようとする性質を持つ。このため、記録層の端部の磁化の向きを制御することによって、磁性体の磁化の向きを定めることができる。この性質を利用して、書込みビット線5の磁界が記録層の端部に集中されるように、書込みビット線5を強磁性トンネル接合素子61の磁化容易軸の方向の端部のうち、一方の端部を覆うように配置することができる。すなわち、第2配線としての書込みビット線5を、第1配線としてのライト線2に投影したときに影となる投影領域の内部に、強磁性トンネル接合素子の一部が配置され、他の部分が上記の投影領域の外側に配置されるように、書込みビット線5を配置することができる。
この結果、強磁性トンネル接合素子の記録層に、効果的な磁化反転磁場を与えることができる。さらに、書込みビット線5の幅方向の大きさが、強磁性トンネル接合素子61の大きさに依存しなくなって、書込みビット線5の幅を小さくすることができる。すなわち、書込みビット線5の線幅をデバイスの製造における最小の線幅にすることができ、磁気記憶素子の面積の微細化を図ることができる。すなわち、磁気記憶素子の小型化を行なうことができる。
さらに、被覆層133による磁界の集中効果によって、選択される磁気記憶素子を含むライト線2に連なる非選択の磁気記憶素子に注目した場合においても、磁化容易軸方向のディスターブ磁界によって、誤って磁化反転が生ずることを抑制できる。
図15を参照して、本実施の形態における第2の磁気記憶素子においては、実施の形態1と同様に、強磁性トンネル接合素子61の磁化容易軸に垂直な方向の端部のうち、一方が、ライト線6を書込みビット線5に向かって投影したときに影になる投影領域の外側に配置される。さらに、ライト線6の幅を細くすることができる。この構成を採用することにより、強磁性トンネル接合素子に、効果的な磁化反転磁場を与えられることができ、さらに、ライト線および書込みビット線の幅方向の大きさが、強磁性トンネル接合素子の大きさに依存しなくなる。この結果、強磁性トンネル接合素子の製造において、ライト線および書込みビット線の幅を製造可能な最小の幅にすることができ、磁気記憶素子の面積の微細化が可能になる。
本形態においては、書込みビット線に被覆層が形成されていたが、特にこの形態に限られず、書込みビット線に加えて、ライト線にも高透磁率材料で形成された被覆層が形成されていてもよい。
上述のように、本実施の形態によれば、非選択の磁気記憶素子の誤った磁化反転の防止、および書込み時の電力の低減により容易に磁化反転させることができるとともに、磁気記憶素子の面積の微細化を行なうことができる。
本発明に基づく磁気記憶装置は、上述の磁気記憶素子を備える。この構成を採用することにより、上述の効果を有する磁気記憶装置を提供することができる。
上記以外の作用および効果については、実施の形態1と同様であるので、ここでは説明を繰返さない。
(実施の形態3)
(構成)
図16から図18を参照して、本発明に基づく実施の形態3における磁気記憶素子および磁気記憶装置について説明する。
図16に、本実施の形態における第1の磁気記憶素子の断面図を示す。図16は、第1の磁気記憶素子の断面図である。
半導体基板1の主表面に、素子選択用トランジスタ106が形成され、素子選択用トランジスタ106に、読出しビット線121、強磁性トンネル接合素子61が接続されていることは、実施の形態1における磁気記憶素子と同様である。
本実施の形態における第1の磁気記憶素子においては、強磁性トンネル接合素子61の主表面の両側に書込みビット線3とライト線4が配置されている。書込みビット線3は、第1配線として形成されている。第2配線としてのライト線4は、周囲に高透磁率材料で形成された被覆層132を含む。被覆層132は、たとえば、パーマロイを用いて形成されている。被覆層132は、ライト線4の表面のうち、強磁性トンネル接合素子61に対向する面以外の面に形成されている。図16においては、ライト線4の側面およびライト線4の底面に当たる部分に被覆層132が形成されている。
図17に、本実施の形態の第1の磁気記憶素子において、ライト線、書込みビット線および強磁性トンネル接合素子の位置関係の説明図を示す。図17(a)は、第1の磁気記憶素子を平面的に透視したときの平面図であり、図17(b)は、(a)における強磁性トンネル接合素子の部分の拡大図である。
本実施の形態における強磁性トンネル接合素子61は、実施の形態1における強磁性トンネル接合素子と同様である。矢印91の方向は、磁化容易軸の方向である。本実施の形態においては、磁化容易軸が、書込みビット線3の延在方向とほぼ平行になるように配置され、磁化困難軸がライト線4の延在方向とほぼ平行になるように配置されている。
書込みビット線3は、強磁性トンネル接合素子61の平面形状全体を覆うように配置されている。これに対し、ライト線4は、強磁性トンネル接合素子61の磁化容易軸方向における端部のうち、一方が、ライト線4を書込みビット線5に投影したときに影になる投影領域の内側に配置され、上記端部のうち他方が、上記の投影領域の外側に配置されている。
図18に、本実施の形態における第2の磁気記憶素子の説明図を示す。図18は、第2の磁気記憶素子における強磁性トンネル接合素子の部分を透視したときの拡大図である。
第2の磁気記憶素子においては、第1の磁気記憶素子の構成に加えて、書込みビット線7の幅が細く形成されている。書込みビット線7は、強磁性トンネル接合素子61の一方の端部のみを覆うように配置されている。すなわち、強磁性トンネル接合素子61の磁化容易軸方向に垂直な方向における端部のうち、一方の端部が、書込みビット線7をライト線4に向かって投影したときに影となる投影領域に配置され、上記端部のうち他方が、上記の投影領域の外側に配置されている。その他の構成については、第1の磁気記憶素子と同様である。
本実施の形態における磁気記憶装置は、実施の形態1と同様に、書込みビット線や、ライト線などで、複数の磁気記憶素子が接続された構成を備える(図4参照)。
その他の構成については、実施の形態1における磁気記憶素子および磁気記憶装置と同様であるのでここでは説明を繰返さない。
(作用・効果)
図16および図17を参照して、本実施の形態の第1の磁気記憶素子において、ライト線4に電流を流すことによって発生する磁界は、被覆層132に集中する。したがって、ライト線4に対向するように配置されている強磁性トンネル接合素子61においても、磁界が集中しやすくなる。したがって、ライト線4に電流を流すことによって発生する磁界は、被覆層132を形成しない場合と比べて大きくなり、ライト線4に流す電流を小さくして、効率的に磁界を形成することができる。この結果、消費電力を低減することができる。
図9のアステロイド曲線を参照して、強磁性トンネル接合素子に印加される磁界は、配線を流れる電流によって形成されているため、磁化容易軸方向の磁界が強くなるような配線の配置の方が、磁化反転を生じる領域の磁界を容易に形成することができ、全体の電流値(消費電力)を小さくできる。従って、本実施の形態における磁気記憶素子においては、磁化容易軸の方向に大きな磁界を形成することができるライト線の延在方向と、磁化容易軸とが垂直になるように形成されることが好ましい。
しかし、ライト線4に流れる電流によって形成される磁化容易軸方向の磁界が大きくなると、ライト線4に沿って形成された磁気記憶素子において、非選択の磁気記憶素子にも誤って磁化反転が生じるという可能性があった。
本実施の形態においても、強磁性トンネル接合素子として、磁化容易軸に対して非対称で、磁化困難軸に対して対称であるような平面形状を有する強磁性トンネル接合素子を採用している。ライト線4に流れる電流によって形成される磁界は、強磁性トンネル接合素子の記録層に印加される。図9のプロット35に示されるように、磁化困難軸方向の磁界Hxが、磁化困難軸方向しきい値よりも小さい場合においては、磁化反転が生じるために磁化容易軸方向に大きな磁界Hyが印加される必要がある。このため、ライト線4に被覆層132を形成して、大きな磁界を発生させても、ライト線4からの磁界のみによって磁化反転されることを抑制することができる。すなわち、ライト線4に沿って形成された磁気記憶素子において、記録層が誤って磁化反転されることを防止できる。
さらに、ライト線4が、被覆層132を含むことにより、磁界の集中効果が生じて、選択された磁気記憶素子に対向する書込みビット線3に連なる非選択の磁気記憶素子に注目した場合でも、磁化容易軸方向のディスターブ磁界に対して強くなり、誤って磁化反転が生じることを防止できる。
したがって、ディスターブ磁界を抑制するために制限されていたライト線4の配置の自由度を大きくすることができる。具体的には、前述のとおり、記録層の端部の磁化の向きを制御することで、磁性体素子の磁化の向きを定めることができることを利用して、磁界が記録層の端部に集中されるように、ライト線4を強磁性トンネル接合素子61の磁化容易軸方向の端部のうち一方に対向するように配置することができる。この構成を採用することにより、強磁性とトンネル接合素子に効果的な磁化反転磁場を与えることができ、さらに、ライト線の幅方向の寸法を小さくすることができる。すなわち、ライト線の幅方向の寸法が、強磁性トンネル接合素子の大きさに依存しなくなって、磁気記憶素子の製造時におけるライト線の幅を最小のものにすることができる。この結果、磁気記憶素子の表面積の微細化を図ることができる。
さらに、図18の第2の磁気記憶素子においては、実施の形態1と組合せて、書込みビット線7をライト線4に投影したときに影となる投影領域に、強磁性トンネル接合素子の一方の端部が配置されている。この構成を採用することにより、ライト線および書込みビット線の線幅を磁気記憶素子の製造における可能な最小の線幅にすることができ、磁気記憶素子の微細化を図ることができる。
このように、本実施の形態によれば、非選択の磁気記憶素子の誤った磁気反転の防止と、書込み電流の低減が行なえるとともに、磁気記憶素子の微細化を図ることができる。本実施の形態においては、ライト線のみに高透磁率材料で形成された被覆層が形成されているが、特にこの形態に限られず、ライト線に加えて書込みビット線にも被覆層が形成されていてもよい。
本発明に基づく磁気記憶装置は、上述の磁気記憶素子を備える。この構成を採用することにより、上述の効果を有する磁気記憶装置を提供することができる。
その他の作用および効果については、実施の形態1と同様であるので、ここでは説明を繰返さない。
上記のそれぞれの実施の形態において、ライト線、書込みビット線および磁気抵抗効果素子としての強磁性トンネル接合素子は、上記の記述した位置または図に示された位置に限定されるものではない。
また、上記の各実施の形態においては、半導体基板を利用した磁気記憶素子および磁気記憶装置について説明したが、特にこれに限定されず、磁気センサ、磁気記録ヘッド、磁気記録媒体などのパターン化された磁気素子およびこれに類似する他の装置に広く適用することができる。
また、上記の各実施の形態においては、1つの磁気記憶素子に1つのトンネル磁気抵抗降下素子が形成されたものについて説明したが、1つの磁気記憶素子に、複数のトンネル磁気抵抗降下素子が形成されていてもよい。さらに、これらの複数のトンネル磁気抵抗降下素子が、互いに積層されていてもよい。
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
1 半導体基板、2,4,6 ライト線、3,5,7 書込みビット線、11,15 固着層、12,16 トンネル絶縁層、13,17 記録層、14b,18b 反強磁性層、14a,18a 強磁性層、31〜35 プロット、40〜45 領域、53〜55,58 磁界、56 アステロイド曲線、61,62,101 強磁性トンネル接合素子、63 磁化容易軸、64 磁化困難軸、81〜84 幅、91 (磁化容易軸の方向を示す)矢印、92〜96 矢印、104 ワード線、105 ゲート絶縁膜、106 素子選択用トランジスタ、106b ソース、106a ドレイン、107 サイドウォール、110a,110b コンタクトプラグ、111,112 コンタクトプラグ、113 導電層、121 読出しビット線、130 層間絶縁膜、131 開口部、132,133 被覆層、201,203,205,207 銅配線、202,204,206,208 バリアメタル、701a,701b,801,803a,803b 曲線部、702,703,704a,704b,802a,802b,804 直線部。