本発明は、例えば携帯電話等の高周波用途の誘電体基板として使用される多層セラミック基板及びその製造方法に関する。
従来、導体内蔵のセラミック基板は、セラミックグリーンシートの表面に導電ペーストを電子回路素子や配線となるように印刷したのち、複数のグリーンシートを積み重ねてプレスしてグリーンシート積層体を形成し、そのグリーンシート積層体を連続炉中で焼成して得られる。近年導体の細線化、部品の小型化に伴って、基板に対して寸法精度の向上が一層要求されている。
しかし、多層セラミック基板において導体や誘電体を内蔵させると、導体ペーストを印刷された部分と印刷されていない部分では、通常、焼成時の収縮率が異なり、また成形密度も不均一であるため、焼成された基板に太鼓の縦断面形状に類似した変形が観察される。この変形がセラミック基板の寸法精度の低下要因となっている。
このような基板の収縮による変形を防止するために、次に示す技術が開示されている(特許文献1を参照。)。ガラスセラミック低温焼結基板材料に少なくとも有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシートを作製し、導体ペースト組成物で電極パターンを形成し、前記生シートと別の電極パターン形成済みグリーンシートとを所望枚数積層する。しかる後、前記低温焼結ガラスセラミックよりなるグリーンシート積層体の両面もしくは片面に、前記ガラスセラミック低温焼結基板材料の焼成温度では焼結しない無機組成物よりなるグリーンシートで挟み込むように積層し、前記積層体を焼成する。しかる後、焼結しない無機組成物を取り除くことにより焼成時の収縮が平面方向で起こらないガラスセラミック基板を作製する。特許文献1記載の技術によれば、前記のような工程を行なうことによって、ガラスセラミック基板が焼成時において厚み方向だけ収縮し、平面方向には収縮しない多層基板が得られる。これは、両面もしくは片面に積層した焼結しない材料で挟み込まれているため、平面方向の収縮が阻止されるためと考えられる。この後、不必要な焼結しない材料を取り除けば、所望の基板が得られる。
しかし、特許文献1に記載された技術では、アルミナ層により基板を挟み込むため、焼成基板からアルミナ層を取り除く必要がある。このアルミナ層を取り除くためには超音波洗浄や乾燥等本来不要の操作が必要となる。
本発明の目的は、超音波洗浄等の追加工程を行なうことなく、多種ロットであったとしても、多層セラミック基板の変形の程度に応じてその都度調整して変形を抑制する多層セラミック基板の製造方法を提供することである。また本発明は、通常0.5%とされる収縮率の誤差を0〜0.05%とした寸法精度の高い多層セラミック基板を提供することを目的とする。この多層セラミックス基板は、主として低温焼成セラミックス基板(LTCC基板)とし、情報・通信機器分野において、伝送情報の高容量化、高スピード処理のための高周波化が進み、GHz領域で使用可能な電気特性に優れる寸法精度の高い基板を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、セラミックスグリーンシートに銀ペーストなどの焼成用ペーストを塗布することで焼成時の収縮率が変化することに気づき、さらにこの知見を基に、塗布するペーストの種類及び塗布箇所によってセラミックス基板の変形の程度が調整できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は、グリーンシートを成膜し、該グリーンシートに電子回路素子又は配線のペースト層を印刷するグリーンシート形成工程と、前記グリーンシートを複数重ねてプレスして長方形又は正方形のグリーンシート積層体を成形するグリーンシート積層体形成工程と、前記グリーンシート積層体を連続炉に入れて焼成する焼成工程とを有する多層セラミック基板の製造方法において、前記グリーンシート形成工程は、前記グリーンシート積層体の中間層として配置されるグリーンシートのうち少なくとも1枚の表裏面の片面上若しくは表裏両面上の端部に収縮率補正ペーストを塗布する工程を含み、前記焼成工程は、前記グリーンシートの前記端部の縁辺方向が前記連続炉への投入方向とほぼ平行となるように前記グリーンシート積層体を連続炉に入れて焼成する工程を含むことを特徴とする。長方形又は正方形のグリーンシート積層体には縁辺が4つあるが、連続炉へ入れる方向に対して直交方向と同方向の縁辺は真直度が低く、連続炉へ入れる方向と同方向の縁辺は真直度が高い。すなわち、焼成された多層セラミック基板は、連続炉へ入れる方向に対して平行方向に沿った収縮率について基板中央部分と基板端部において差が大きく、基板端部の収縮率が基板中央部分のそれと比較して大きい。これにより、太鼓の縦断面形状の変形が生ずる。本発明では収縮率の大きな上記基板端部に収縮率補正ペーストを塗布することにより当該基板端部の収縮を他の部分の収縮と比較して抑制するものである。
ここで、収縮率補正ペーストを塗布するグリーンシートの前記端部は、前記連続炉の投入方向に沿って右端及び左端となるグリーンシートの両端部とすることが好ましい。右端及び左端となるいずれの基板端部も収縮が大きいため、この両端部に収縮率補正ペーストを塗布することにより、基板縁辺の真直度を高めるものである。すなわち、前記収縮率補正ペーストは、該収縮率補正ペーストを塗布したグリーンシート積層体の焼成による収縮率を、未塗布のグリーンシート積層体の焼成による収縮率よりも小さくするペーストであることを含む。
本発明に係る多層セラミック基板の製造方法では、前記収縮率補正ペーストは、銀ペーストであるか、或いはガラス粉とセラミック粉とをペースト化したガラスセラミックペーストであることが好ましい。
本発明に係る多層セラミック基板の製造方法では、前記銀ペーストは、前記グリーンシート積層体に塗布して焼成しても未塗布のグリーンシート積層体を焼成したときとほぼ同じ収縮率となる第1銀ペーストと、前記グリーンシート積層体への塗布により、該グリーンシート積層体の収縮率を小さくする第2銀ペーストとを混合することにより調製したペーストであることがより好ましい。少なくとも2種類の銀ペーストを混合することにより、第1銀ペーストの塗布によって得られる収縮率と第2銀ペーストの塗布によって得られる収縮率との中間の収縮率が容易に得られる。多種ロットのそれぞれに対応した銀ペーストを調製することにより、各々についてその都度、収縮率補正が簡易にできる。
ここで、前記第2銀ペーストは、前記連続炉の投入方向に沿って右端又は左端となるグリーンシートの端部に係る、前記連続炉への投入方向に対して平行方向の収縮率と、前記グリーンシート積層体の中央部分に係る、前記連続炉への投入方向に対して平行方向の収縮率との収縮率差が負となるペーストであることが好ましい。収縮率差が負となる場合は、基板端部の収縮を抑制することができ、収縮率差が負で大きいほど、幅広い範囲の収縮率補正が可能となる。
また、本発明に係る多層セラミック基板の製造方法では、前記ガラスセラミックペーストは、前記グリーンシート積層体に塗布して焼成しても未塗布のグリーンシート積層体を焼成したときとほぼ同じ収縮率となる第1ガラスセラミックペーストと、前記グリーンシート積層体への塗布により、該グリーンシート積層体の収縮率を小さくする第2ガラスセラミックペーストとを混合することにより調製したペーストであることがより好ましい。少なくとも2種類のガラスセラミックペーストを混合することにより、第1ガラスセラミックペーストの塗布によって得られる収縮率と第2ガラスセラミックペーストの塗布によって得られる収縮率との中間の収縮率が容易に得られる。多種ロットのそれぞれに対応したガラスセラミックペーストを調製することにより、各々についてその都度、収縮率補正が簡易にできる。
ここで、前記第2ガラスセラミックペーストは、前記連続炉の投入方向に沿って右端又は左端となるグリーンシートの端部に係る、前記連続炉への投入方向に対して平行方向の収縮率と、前記グリーンシート積層体の中央部分に係る、前記連続炉への投入方向に対して平行方向の収縮率との収縮率差が負となるペーストであることが好ましい。収縮率差が負となる場合は、基板端部の収縮を抑制することができ、収縮率差が負で大きいほど、幅広い範囲の収縮率補正が可能となる。
さらに、前記ガラスセラミックペーストは、ガラス成分とアルミナ成分との体積配合比が(50/50)〜(30/70)であることが好ましい。また、前記第1ガラスセラミックペーストは、ガラス成分とアルミナ成分との体積配合比が(60/40)〜(50/50)であることが好ましい。
本発明に係る多層セラミック基板の製造方法では、前記収縮率補正ペーストは、前記収縮率差をほぼゼロとするペーストであることがより好ましい。前記収縮率差がほぼゼロである場合は、縁辺の真直度の高い寸法精度の良い多層セラミック基板が得られる。
本発明に係る多層セラミック基板は、内部に電子回路素子又は配線が形成されたほぼ長方形又は正方形の多層セラミック基板であり、基板の層間の端部にペースト焼成層を設けたことを特徴とする。基板端部にペースト焼成層を設けることで、収縮率の分布が均一化される。
本発明に係る多層セラミック基板では、前記ペースト焼成層を対向し合う両端部に設けることが好ましい。基板両端部にペースト焼成層を設けることで、太鼓の縦断面状の変形を抑制する。
ここで本発明に係る多層セラミック基板では、前記ペースト焼成層は、面内圧縮応力を受けている場合を含む。
また、本発明に係る多層セラミック基板では、前記ペースト焼成層は、銀ペーストの焼成層であるか、或いはガラス粉とセラミック粉とをペースト化したガラスセラミックペーストの焼成層であることが好ましい。
ここで本発明に係る多層セラミック基板では、前記ガラスセラミックペーストの焼成層は、ガラス成分とアルミナ成分との体積比が(50/50)〜(30/70)であることが好ましい。
本発明に係る多層セラミック基板では、前記多層セラミック基板の縁辺の真直度は、0〜0.05%であることを含む。
さらに本発明に係る多層セラミック基板では、前記多層セラミック基板は、低温焼成セラミック基板(LTCC)基板であることを含む。伝送情報の高容量化、高スピード処理のための高周波化が進み、GHz領域で使用可能な電気特性に優れる回路基板としての使用を実現するものである。
本発明に係る多層セラミック基板の製造方法では、多種ロットについて、多層セラミック基板の変形の程度に応じてその都度収縮率調整を行なうことができ、基板の変形を抑制することができる。ここで、本発明に係る多層セラミック基板は、通常0.5%とされる収縮率の誤差を0〜0.05%とすることもでき、きわめて寸法精度を高めることができる。この多層セラミックス基板は、主として低温焼成セラミックス基板(LTCC基板)とすることで、GHz領域で使用可能な電気特性に優れる寸法精度の高い基板となりうる。
以下、本発明に実施の形態を示して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。なお、図中、同一部材には同一符号を付している。まず、本実施形態に係る多層セラミック基板の製造方法について説明する。図1に、本実施形態に係る多層セラミック基板の焼成前のグリーンシート積層体の一形態の概略断面図を示した。
(グリーンシートの形成)
多層セラミック基板を例えばグリーンシート多層法により作製する。グリーンシート法はセラミック粉末と有機ビヒクルを混合しスラリーを作り、ドクターブレード法等のシート成形法によりPET(ポリエチレンテレフタレート)シート等の樹脂シート上に成膜し、グリーンシートを得る方法である。ガラスセラミック基板を得る場合には、セラミック粉末とガラス粉末と有機ビヒクルを混合しスラリーを使用する。有機ビヒクルは主としてトルエンやイソプロピルアルコール等の溶媒、ポリビニルブチラールやアクリル等のバインダ、ジ−n−ブチルフタレート等の可塑剤で構成される。その他、解こう剤、湿潤剤等を入れても良い。
LTCC基板であるガラスセラミック基板を作製する場合には、ガラス成分とセラミック成分は目的とする比誘電率や焼成温度に基づいて適宜選択すればよく、1000℃以下で焼成して得たアルミナ(結晶相)と酸化ケイ素(ガラス相)からなる基板が例示できる。その他、セラミックス成分として、マグネシア、スピネル、シリカ、ムライト、フォルステライト、ステアタイト、コージェライト、ストロンチウム長石、石英、ケイ酸亜鉛、ジルコニア、チタニア等を用いることができる。ガラス成分としては、ホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸バリウムガラス、ホウケイ酸ストロンチウムガラス、ホウケイ酸亜鉛ガラス、ホウケイ酸カリウムガラス等を用いることができる。ガラス成分は60〜80体積%とし、骨材であるセラミックス成分を40〜20体積%とすることが好ましい。ガラス成分が上記の範囲を外れると複合組成物となりにくく、強度及び焼結性が低下するからである。
(導体又は誘電体原料の印刷)
得られたグリーンシート1について、縁辺部近傍の耳部分5を残して、電子回路素子や配線を形成するために製品領域7に導体ペーストや誘電体ペーストを印刷する。このとき、打ち抜き、バイアホール加工を形成する工程を行なっても良い。1000℃以下で焼成できるため内部導体を配線する場合にはAg、Ag−Pd合金、Cuの使用が可能である。
(収縮率補正ペーストの印刷)
得られたグリーンシート1について、グリーンシート積層体としたときに中間層の位置に配置される少なくとも1枚について、グリーンシートの縁辺部近傍の耳部分5に収縮率補正ペーストを印刷し、収縮率補正ペースト層6を形成する。収縮率補正ペーストは、収縮率補正ペースト層6を形成したグリーンシート積層体100の焼成による収縮率を、未塗布のグリーンシート積層体の焼成による収縮率よりも小さくするペーストである。具体的には、銀ペースト又はガラス粉とセラミック粉とをペースト化したガラスセラミックペーストが例示される。
収縮率補正ペーストとして銀ペーストを用いる場合には、グリーンシート積層体100に塗布して焼成しても未塗布のグリーンシート積層体を焼成したときとほぼ同じ収縮率となる第1銀ペーストと、グリーンシート積層体への塗布により、グリーンシート積層体の収縮率を小さくする第2銀ペーストとを混合することにより調製したペーストとすることが良い。第1銀ペーストは、セラミック積層体100の収縮の抑制にはほとんど影響を与えないペーストである。すなわち、第1銀ペーストを塗布して焼成しても、セラミック積層体は大きな収縮率を有することとなる。一方、第2銀ペーストは、グリーンシート積層体の収縮率を可能な限り小さくするペーストが好まれる。第1銀ペーストと第2銀ペーストとの配合比率を変えた混合銀ペーストは、グリーンシート積層体を、第2銀ペーストの塗布による収縮率を限度として、収縮を抑制することができる。
多層セラミック基板の収縮を幅広く制御するためには、第2銀ペーストは、連続炉の投入方向に沿って右端又は左端となるグリーンシートの端部に係る、連続炉への投入方向に対して平行方向の収縮率と、グリーンシート積層体100の中央部分に係る、連続炉への投入方向に対して平行方向の収縮率との収縮率差が負となるペーストであることが必要である。
収縮率補正ペーストとしてガラスセラミックペーストを用いる場合には、グリーンシート積層体100に塗布して焼成しても未塗布のグリーンシート積層体を焼成したときとほぼ同じ収縮率となる第1ガラスセラミックペーストと、グリーンシート積層体100への塗布により、グリーンシート積層体の収縮率を小さくする第2ガラスセラミックペーストとを混合することにより調製したペーストとすることが良い。第1ガラスセラミックペーストは、セラミック積層体の収縮の抑制にはほとんど影響を与えないペーストである。すなわち、第1ガラスセラミックペーストを塗布して焼成しても、セラミック積層体は大きな収縮率を有することとなる。一方、第2ガラスセラミックペーストは、グリーンシート積層体の収縮率を可能な限り小さくするペーストが好まれる。第1ガラスセラミックペーストと第2ガラスセラミックペーストとを混合した混合ガラスセラミックペーストを用いる理由は、第1銀ペーストと第2銀ペーストとの混合銀ペーストを用いる理由と同じである。第2ガラスセラミックペーストは、収縮率差が負となるペーストであることが必要である。
ガラスセラミックペーストは、LTCC基板と同様のスラリーをペーストとして用いることができるが、収縮率の調整のためにガラス成分とアルミナ成分との体積配合比が(50/50)〜(30/70)とすることが好ましい。第1ガラスセラミックペーストとしては、ガラス成分とアルミナ成分との体積配合比が(60/40)〜(50/50)の場合が好適であるためとなるため、これよりもガラス成分が多くても使用は可能であるが、第2ガラスセラミックペーストの配合量を多くする必要がある。一方、体積配合比を(30/70)よりも大きくすると、アルミナ成分が多すぎて焼成後はペースト焼成層が粉状となってしまう。
(プレス)
次にグリーンシートに印刷を行なったものを所定の枚数積み重ねる。この状態で熱圧着してグリーンシート積層体を形成した。熱圧着条件は、例えば温度が50℃、圧力は700kg/cm2とする。図1で示すように、グリーンシート積層体100は、グリーンシート1と、グリーンシート1との層間にある電子回路素子又は配線の導電ペースト層2と、ビアホールに充填された導電ペースト3と、ビアホールに充填された誘電体ペースト4とを有し、さらにグリーンシート積層体の中間層となるグリーンシートの縁辺近傍の耳部分5の界面に収縮率補正ペースト層6を有する。収縮率補正ペースト層6を塗布したグリーンシートは、グリーンシート積層体の表層若しくは裏層以外の中間層に配置することが好ましく、さらにグリーンシート積層体のほぼ中央層となるように配置することがより好ましい。耳部分5を除いた基板の内側は製品領域7である。図1では、収縮率補正ペースト層6は、グリーンシート積層体の中間層となるグリーンシート層1の縁辺の耳部分5の界面で対向し合うように配置したが、収縮率補正ペースト層6を片側の耳部分5の界面のみに設ける場合も含む。また、4つの縁辺の耳部分5の界面のすべてに収縮率補正ペースト層6を設けても良い。なお、グリーンシート積層体100は、プレス金型によりシート表面形状が長方形又は正方形に成形される。
(焼成)
次にグリーンシート積層体100を連続炉に入れて焼成する。図2に連続炉(ベルト炉)におけるグリーンシート積層体の概略配置図を示した。グリーンシート積層体100は、ベルト20に載せられて連続炉21を通過し、焼成され、多層セラミック基板101が得られる。収縮率補正ペースト層6は焼成によってペースト焼成層8となる。
図2で示すように、グリーンシートの端部の縁辺方向が連続炉21への投入方向に対して平行方向となるようにグリーンシート積層体100を連続炉21に入れて焼成することが好ましい。つまり、グリーンシート層の界面の縁辺の耳部分5に対向し合うように収縮率補正ペースト層6を配置した場合、この耳部分5である端部は、連続炉21の投入方向に沿って右端及び左端となる。なお、図2では、図示の容易化のため、収縮率補正ペースト層6を黒色で表示したが、実際には収縮率補正ペースト層6は中間層となるグリーンシートの耳部分の界面に塗布されるため、グリーンシート積層体の表面には収縮率補正ペースト層6は表れない。このような方向でグリーンシート積層体100をベルト20上に載せる理由は、次の通りである。多層セラミック基板において導体や誘電体を内蔵させると、導体ペーストを印刷された部分(製品領域)と印刷されていない部分(耳部分)では多くの場合焼成時の収縮率が異なり、また成形密度も不均一であるため、焼成された基板に太鼓の縦断面形状に類似した変形が観察される。収縮率補正ペースト層6を設けていない場合、収縮率差が正となる。図2に示したように、グリーンシート積層体200が焼成されると、太鼓の縦断面形状と類似した形状の多層セラミック基板201が得られる。積層セラミック基板の変形量に応じた収縮率補正ペーストを塗布してペースト焼成層8を設けることにより、グリーンシート積層体の収縮が抑制されて、第1銀ペーストと第2銀ペーストの配合比率又は第1ガラスセラミックペーストと第2ガラスセラミックペーストの配合比率を適宜調製することにより、収縮率差をほぼゼロとすることが可能となる。収縮を抑制することができるのは、グリーンシート積層体が焼成により収縮し始めるときに、ペースト焼成層が面内圧縮応力を受けて、収縮方向と反対方向にグリーンシート積層体に応力をかけるからと推測される。
図3にグリーンシート積層体の焼結前と焼結後の表面形状の一形態を示す概念図を示す。(a)は収縮率補正ペーストを塗布しなかった場合、(b) は収縮率補正ペーストを塗布した場合である。各辺の長さをx1、y1又はz1、又はx2、y2又はz2で示した。収縮率補正ペーストを塗布しなかった場合の中央部分と端部との収縮率差Snは数1により計算される。また、収縮率補正ペーストを塗布した場合の中央部分と端部との収縮率差Stは数2により計算される。そして、収縮率補正ペーストの塗布による収縮抑制効果Eは数3で計算される。ここで収縮率補正ペーストを塗布しない場合の多層セラミック基板は端部の収縮率(z1−y1)/z1が中央部分の収縮率(z1−x1)/z1よりも大きい。収縮率差Snが大きいほど焼成後の多層セラミック基板が太鼓の縦断面形状となる。収縮率補正ペーストを塗布した場合、端部の収縮率(z1−y1)/z1は塗布しない場合と比較して小さくなる。ここで、(z1−x1)/z1と(z2−x2)/z2とはほぼ同じ収縮率となる。そして、収縮率補正ペーストの塗布による収縮抑制効果が高いほど収縮抑制効果Eは大きくなる。収縮率補正ペーストがまったく収縮を抑制しない場合には、SnとStは同じ値となり、E=0となる。
(数1)Sn=(z1−y1)/z1−(z1−x1)/z1
(数2)St=(z2−y2)/z2−(z2−x2)/z2
(数3)E=Sn−St=(z1−y1)/z1−(z1−x1)/z1−(z2−y2)/z2+(z2−x2)/z2
なお、図3では、グリーンシート積層体の短辺側端部に収縮率補正ペーストを塗布したが、長辺側端部を右端及び左端として連続炉へ入れる場合には、長辺側端部に収縮率補正ペーストを塗布する。この場合、x1、y1、z1、x2、y2又はz2は長辺側の長さとする。
上記実施形態では、連続炉の入れる方向について、右端及び左端となる耳部分5に収縮率補正ペーストを塗布する場合を例として説明したが、収縮率の補正精度を高めるために、右端及び左端となる耳部分5に収縮抑制効果Eを有する収縮率補正ペーストを塗布し、それ以外の耳部分に収縮抑制効果E’を有する第2収縮率補正ペーストを塗布してもよい。この方法によれば、多層セラミック基板の4つの縁辺すべてについて個別に収縮率の調整が可能となり、より厳密に基板の変形を抑制できる。また、収縮率補正ペーストを塗布するグリーンシートの枚数を2枚以上としても良い。また、1枚のグリーンシートの表裏面の両面に収縮率補正ペーストを塗布しても良い。
このようにして形成された多層セラミック基板は、耳部分5を切り離して、さらに必要に応じて、製品部分7を回路ごとに切り離して電子部品として使用され、或いは実装されることとなる。耳部分の収縮による変形を抑制することで、切り離された各基板の寸法精度は良い。
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例1)
まず収縮率補正ペーストを塗布することについての効果を未塗布の場合と比較することで確認する。収縮率補正ペーストとして、銀ペースト(TDK株式会社内製、型番ML−4046、銀−二酸化マンガン系ペースト)を用いた。実施形態で説明したとおりに電子回路素子又は配線をグリーンシートに印刷によりペースト層を形成した。なお、グリーンシートの厚さは120μmである。グリーンシートの縁辺部分の端部は耳部分5として電子回路素子又は配線用のペースト層は形成していない。グリーンシートの大きさは105mm×120mm×120μmとした。この耳部分5は、グリーンシートの縁辺から3mm幅(105mm辺)又は4mm幅(120mm辺)とし、全外周にわたる部分とした。そして、グリーンシート積層体とするときに中間層に配置されるグリーンシートのみについて、図1又は図2に示したように対向しあう短辺側両端部の耳部分5に銀ペーストML−4046を塗布した。銀ペーストの塗布膜厚は10μmとした。このグリーンシートが中間層となるように、全部で14枚のグリーンシート積層体(総厚さ1680μm)を形成した。このグリーンシート積層体を最高温度900℃の連続炉に入れて焼成して多層セラミック基板を焼成した。このサンプルを実施例1とした。なお、連続炉において最高温度900℃で10〜20分間保持され、その後、30分間程度で炉冷される。
(比較例1)
収縮率補正ペーストを未塗布とした以外は実施例1と同様にして多層セラミック基板を焼成し、このサンプルを比較例1とした。
(参考例1)
収縮率補正ペーストを未塗布とし、さらに焼成前に長辺側の耳部分5を切断除去した以外は実施例1と同様にして多層セラミック基板を焼成し、このサンプルを参考例1とした。
(参考例2)
収縮率補正ペーストを未塗布とし、さらに焼成前に短辺側の耳部分5を切断除去した以外は実施例1と同様にして多層セラミック基板を焼成し、このサンプルを参考例2とした。
(参考例3)
焼成前に4つの縁辺に係る耳部分5を全て切断除去した以外は実施例1と同様にして多層セラミック基板を焼成し、このサンプルを参考例3とした。
図4にグリーンシート積層体の特定箇所を示すための符号付けを示した。実施例1、比較例1、参考例1〜3のいずれのサンプルについても、A,E,I側を右端、L,H,D側を左端として連続炉に入れた。図4に示すようにサンプルの位置に符号を付した場合、A−I方向、B−J方向及びD-L方向の焼成による収縮率を図5に示し、並びにI−L方向、E−H方向及びA−D方向の焼成による収縮率を図6に示した。図7に、A−I方向、B−J方向及びD-L方向の平均のStもしくはSnの比較を示した。参考例1と比較例1のグループと参考例2と参考例3のグループとの違いは、A,E,Iの端部の耳部分5、及びL,H,Dの端部の耳部分5が残されて焼成されるか否かであるが、この部分の耳部分5が残されていると収縮率が大きい。なお、実際の工程では後工程で耳部分5が必要であるため参考例1は勿論のこと、参考例2、3は収縮率が方向によって均一で変形が少なくても採用できないものである。図7を参照すると、比較例1のSnは方向により大きな違いがあり、変形が大きいことが示されているが、実施例1のStは方向によって差異がなく、焼成後の変形が抑制されていることがわかる。すなわち、多層セラミック基板の縁辺の真直度は、0〜0.05%の範囲に収めることが可能であった。
(実施例2)
次に収縮率補正ペーストを調製して収縮を抑制する実施例を示す。まず、銀ペーストを用いた場合について説明する。
(銀ペーストの選定)
銀ペースト(TDK株式会社内製、型番ML−4066、銀−亜鉛珪酸ガラス−ジルコニア系ペースト)、銀ペースト(TDK株式会社内製、型番ML−4051、銀−亜鉛珪酸ガラス−アルミナ系ペースト)、銀ペースト(型番ML−4046)を用いた。実施形態で説明したとおりに電子回路素子又は配線をグリーンシートに印刷によりペースト層を形成した。なお、グリーンシートの厚さは120μmである。グリーンシートの縁辺部分の端部は耳部分5として電子回路素子又は配線用のペースト層は形成していない。グリーンシートの大きさは105mm×120mm×120μmとした。この耳部分5は、グリーンシートの縁辺から3mm幅(105mm辺)又は4mm幅(120mm辺)とし、全外周にわたる部分とした。そして、グリーンシート積層体とするときに中間層に配置されるグリーンシートのみについて、図1又は図2に示したように対向しあう短辺側両端部の耳部分5に銀ペーストML−4066を塗布した。銀ペーストの塗布膜厚は10μmとした。このグリーンシートが中間層となるように、全部で8枚、12枚又は16枚のグリーンシート積層体を形成した。また、銀ペーストML−4051、ML−4046についても同様に全部で8枚、12枚又は16枚のグリーンシート積層体を形成した。これらのグリーンシート積層体を最高温度900℃の連続炉に入れて焼成して多層セラミック基板を焼成した。なお、連続炉は実施例1と同じとした。
図8を参照すると、銀ペーストML−4066は、積層枚数にかかわらず収縮抑制効果Eがゼロであり、ML−4051は積層枚数8枚でE=0.77%、積層枚数16枚でE=0.64%、ML−4046は積層枚数8枚でE=0.39%、積層枚数16枚でE=0.26%である。したがって、ML−4066を第1銀ペーストとし、収縮抑制効果Eが最も高くなるML−4051を第2銀ペーストとする。
(第1銀ペーストと第2銀ペーストとの配合比率、その1)
次に、ML−4051(第2銀ペースト)とML−4066(第1銀ペースト)との配合比を変化させて収縮率補正ペーストを調整してこれを使用したときのグリーンシートの積層枚数と収縮抑制効果Eとの関係を図9に示した。ML−4051の配合比率は0%、25%、50%、75%、100%とした。図9を参照すると、ML−4051の配合比率を変化させることにより、積層枚数に応じて所望の収縮抑制効果Eが得られることがわかる。
(第1銀ペーストと第2銀ペーストとの配合比率、その2)
次に120μmのグリーンシート14枚及び60μmのグリーンシート1枚を積層させて120μmのグリーンシート14.5枚相当(総厚み1740μm)のグリーンシート積層体を作製した。次にML−4051(第2銀ペースト)とML−4066(第1銀ペースト)との配合比を0%、25%、50%、75%、100%と変化させて各種収縮率補正ペーストを調整した。この各種収縮率補正ペーストについて、上記積層枚数14.5枚のグリーンシート積層体に対する収縮抑制効果Eを測定した。ML−4051の配合比率とEとの関係を図10に示した。図10を参照すると、ML−4051の配合比率を変化させることにより、所定積層枚数のグリーンシート積層体に対して、任意の収縮抑制効果Eが得られることがわかる。
(収縮の補正方法)
前記グリーンシート14.5枚相当(総厚み1740μm)のグリーンシート積層体と同じグリーンシート積層体を作製した。収縮率補正ペーストを塗布しなかった場合のSnは、0.45%であった。したがって、図10のグラフから、E=0.45%となる配合比率の収縮率補正ペースト、すなわちML−4051の配合比率が67%の銀ペーストを塗布することにより、St=0とすることができる。すなわち、変形をほぼなくすことができる。
(実施例3)
次に収縮率補正ペーストとしてガラスセラミックペーストを用いた場合について説明する。
(ガラスセラミックペーストの選定)
多層セラミック基板のグリーンシートを作製する際に使用するグリーンシート用スラリーをガラスセラミックペーストとして調整した。すなわちセラミック成分としてアルミナ粉末(住友化学株式会社製、低ソーダアルミナAL41−DBM、粒径1.2μm)、ガラス成分としてストロンチウムアルミナ硼珪酸ガラス(TDK株式会社内製、粒径1.9μm)を体積配合比で50:50となるように混合し、これにさらに有機ビヒクルを混合してガラスセラミックペーストを調整した。このガラスセラミックペーストをG/A=50/50と表記する。同様にセラミック成分とガラス成分とを体積配合比で40:60としてガラスセラミックペースト(G/A=40/60)を調整した。同様にセラミック成分とガラス成分とを体積配合比で30:70としてガラスセラミックペースト(G/A=30/70)を調整した。同様にセラミック成分とガラス成分とを体積配合比で20:80としてガラスセラミックペースト(G/A=20/80)を調整した。次に銀ペーストの実施形態で用いたものと同じグリーンシートを作製した。そして、グリーンシート積層体とするときに中間層に配置されるグリーンシートのみについて、図1又は図2に示したように対向しあう短辺側両端部の耳部分5に上記4種類のガラスセラミックペーストをそれぞれ塗布した。ガラスセラミックペーストの塗布膜厚は10μmとした。このグリーンシートがそれぞれ中間層となるように、全部で8枚、12枚又は16枚のグリーンシート積層体を形成した。これらのグリーンシート積層体を実施例1と同じ連続炉に入れて焼成して多層セラミック基板を焼成した。図11に、グリーンシートの積層枚数と収縮抑制効果Eとの関係を示した。
図11を参照すると、ガラスセラミックペーストG/A=50/50は、積層枚数にかかわらず収縮抑制効果Eがほぼゼロであり、ガラスセラミックペーストG/A=30/70は積層枚数8枚でE=0.55%、積層枚数16枚でE=0.28%、ガラスセラミックペーストG/A=40/60は積層枚数8枚でE=0.28%、積層枚数16枚でE=0.15%である。なお、ガラスセラミックペーストG/A=20/80は、積層枚数にかかわらずペースト焼成層が粉末状になり、縮小率補正ペーストとしては不適であった。セラミック成分が多すぎて面内圧縮応力に耐えられなかったと考えられる。
したがって、ガラスセラミックペーストG/A=50/50を第1ガラスセラミックペーストとし、収縮抑制効果Eが最も高くなるガラスセラミックペーストG/Aを第2ガラスセラミックペーストとする。そして、銀ペーストの実施例の場合と同様に第1ガラスセラミックペーストと第2ガラスセラミックペーストとの配合比を変えてガラスセラミックペーストを調製することで、所定積層枚数のグリーンシート積層体に対して、任意の収縮抑制効果Eが得られる。したがって、縮小率補正ペーストが未塗布のガラスセラミック積層体の収縮率差Snを求めて、それと同じ値の収縮抑制効果Eを有するガラスセラミックペーストを調製し、耳部分5に塗布することで、変形をほぼゼロに抑制できる。
実施例に示された製法により連続炉が同一であっても多品種に対応可能となる。
本実施形態に係る多層セラミック基板の焼成前のグリーンシート積層体の一形態の概略断面図を示した。
連続炉(ベルト炉)におけるグリーンシート積層体及び多層セラミック基板の概略配置図(上方から見た場合)を示した。
にグリーンシート積層体の焼結前と焼結後の表面形状の一形態を示す概念図で、(a)は収縮率補正ペーストを塗布しなかった場合、(b) は収縮率補正ペーストを塗布した場合を示した。
グリーンシート積層体の特定箇所を示すための符号付けを示した図である。
A−I方向、B−J方向及びD-L方向の焼成による収縮率を示した。
I−L方向、E−H方向及びA−D方向の焼成による収縮率を示した。
A−I方向、B−J方向及びD-L方向の平均のSt若しくはSnの比較を示した。
グリーンシートの積層枚数と縮小率変量Sとの関係を示した。
グリーンシートの積層枚数と収縮抑制効果Eとの関係を示した。
ML−4051の配合比率と収縮抑制効果Eとの関係を示した。
図11に、グリーンシートの積層枚数と収縮抑制効果Eとの関係を示した。
符号の説明
1 グリーンシート
2 電子回路素子又は配線の導電ペースト層
3 ビアホールに充填された導電ペースト
4 ビアホールに充填された誘電体ペースト
5 耳部分
6 収縮率補正ペースト層
7 製品領域
8 ペースト焼成層
20 ベルト
21 連続炉
100 塗布グリーンシート積層体
101 塗布多層セラミック基板(焼成済み)
200 未塗布グリーンシート積層体
201 未塗布多層セラミック基板(焼成済み)