JP2005237377A - パターニング用基板および細胞培養基板 - Google Patents

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Abstract

【課題】 本発明は、基材上に細胞を高精細なパターン状に接着し、培養させるために用いられる細胞培養用パターニング基板や、細胞を高精細なパターン状に接着させた細胞培養基板等を提供することを主目的としている。
【解決手段】 上記目的を達成するために、本発明は、基材と、前記基材上に形成され、細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有しかつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により変性される細胞接着阻害材料を含有する細胞接着阻害層とを有することを特徴とするパターニング用基板を提供する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、細胞を高精細なパターン状に接着させることが可能な細胞培養用パターニング基板や、その細胞培養用パターニング基板の形成に用いられるパターニング用基板、そのパターニング用基板を形成するために用いられるパターニング用基板用コーティング液、および細胞を高精細なパターン状に接着させた細胞培養基板に関するものである。
現在、いろいろな動物や植物の細胞培養が行われており、また、新たな細胞の培養法が開発されている。細胞培養の技術は、細胞の生化学的現象や性質の解明、有用な物質の生産などの目的で利用されている。さらに、培養細胞を用いて、人工的に合成された薬剤の生理活性や毒性を調べる試みがなされている。
一部の細胞、特に多くの動物細胞は、何かに接着して生育する接着依存性を有しており、生体外の浮遊状態では長期間生存することができない。このような接着依存性を有した細胞の培養には、細胞が接着するための担体が必要であり、一般的には、コラーゲンやフィブロネクチンなどの細胞接着性タンパク質を均一に塗布したプラスチック製の培養皿が用いられている。これらの細胞接着性タンパク質は、培養細胞に作用し、細胞の接着を容易にしたり、細胞の形態に影響を与えることが知られている。
一方、培養細胞を基材上の微小な部分にのみ接着させ、配列させる技術が報告されている。このような技術により、培養細胞を人工臓器やバイオセンサ、バイオリアクターなどに応用することが可能になる。培養細胞を配列させる方法としては、細胞に対して接着の容易さが異なるような表面がパターンをなしているような基材を用い、この表面で細胞を培養し、細胞が接着するように加工した表面だけに細胞を接着させることによって細胞を配列させる方法がとられている。
例えば、特許文献1には、回路状に神経細胞を増殖させるなどの目的で、静電荷パターンを形成させた電荷保持媒体を細胞培養に応用している。また、特許文献2では、細胞接着阻害性あるいは細胞接着性の光感受性親水性高分子をフォトリソグラフィ法によりパターニングした表面上への培養細胞の配列を試みている。
さらに、特許文献3では、細胞の接着率や形態に影響を与えるコラーゲンなどの物質がパターニングされた細胞培養用基材と、この基材をフォトリソグラフィ法によって作製する方法について開示している。このような基材の上で細胞を培養することによって、コラーゲンなどがパターニングされた表面により多くの細胞を接着させ、細胞のパターニングを実現している。
しかしながら、このような細胞培養部位のパターニングは、用途によっては高精細であることが要求される場合がある。上述したような感光性材料を用いたフォトリソグラフィ法等によるパターニングを行う場合は、高精細なパターンを得ることはできるが、細胞接着性材料が感光性を有する必要があり、例えば生体高分子等にこのような感光性を付与するための化学的修飾を行うことが困難な場合が多く、細胞接着性材料の選択性の幅を極めて狭くするといった問題があった。また、フォトレジストを用いたフォトリソグラフィ法では、現像液等を用いる必要性があり、これらが細胞培養に際して悪影響を及ぼす場合があった。
さらに、高精細な細胞接着性材料のパターンの形成方法として、マイクロ・コンタクトプリンティング法が、ハーバード大学のジョージ M,ホワイトサイズ(George M. Whitesides)により提唱されている(例えば、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7等)。しかしながら、この方法を用いて工業的に細胞接着性材料のパターンを有する細胞培養基材を製造することは難しいといった問題があった。
特開平2−245181号公報 特開平3−7576号公報 特開平5−176753号公報 米国特許第5,512,131号公報 米国特許第5,900,160号公報 特開平9−240125号公報 特開平10−12545号公報
そこで、基材上に細胞を高精細なパターン状に接着し、培養させるために用いられる細胞培養用パターニング基板や、細胞を高精細なパターン状に接着させた細胞培養基板等の提供が望まれている。
本発明は基材と、上記基材上に形成され、細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有しかつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により変性される細胞接着阻害材料を含有する細胞接着阻害層とを有することを特徴とするパターニング用基板を提供する。
本発明によれば、細胞接着阻害層が上記細胞接着阻害材料を含有することから、細胞接着阻害層の細胞との接着性を低いものとすることができる。また、この細胞接着阻害層に、例えば光触媒を含有する光触媒含有層等を用いてエネルギー照射した場合には、細胞接着阻害材料が変性され、細胞との接着性を有するものとすることができる。したがって、上記光触媒含有層等を用いてパターン状にエネルギー照射を行うことにより、細胞との接着性を有する領域と、細胞との接着性が低い領域とを容易に形成することが可能なパターニング用基板とすることができるのである。
また、本発明は、基材と、上記基材上に形成され、細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有しかつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着阻害材料、およびバインダを含有する細胞接着阻害層とを有することを特徴とするパターニング用基板を提供する。
本発明によれば、細胞接着阻害層が上記細胞接着阻害材料を含有することから、細胞接着阻害層の細胞との接着性を低いものとすることができる。また、この細胞接着阻害層に、例えば光触媒を含有する光触媒含有層等を用いてエネルギー照射した場合には、細胞接着阻害材料が分解または変性され、細胞との接着性を有する、バインダが露出した領域や細胞接着阻害材料の分解物とバインダとを含有する領域等とすることができる。したがって、上記光触媒含有層等を用いてパターン状にエネルギー照射を行うことにより、細胞との接着性を有する領域と、細胞との接着性が低い領域とを容易に形成することが可能なパターニング用基板とすることができるのである。
上記発明においては、上記細胞接着阻害層が、少なくともエネルギー照射された後に、細胞と接着性を有する細胞接着材料を含有することが好ましい。これにより、エネルギー照射された領域の細胞との接着性がより良好なパターニング用基板とすることができるからである。
また上記発明においては、上記基材上に遮光部が形成されていることが好ましい。これにより、例えば上記細胞接着阻害層と光触媒を含有する光触媒含有層等とを対向させて配置し、基材側から全面にエネルギーを照射することによって、遮光部が形成されていない領域のみの細胞接着阻害材料を分解または変性させることが可能なパターニング用基板とすることができるからである。
また、本発明は上記パターニング用基板の上記細胞接着阻害層が、パターン状に上記細胞接着阻害材料が分解または変性された細胞接着部と、上記細胞接着部以外の領域である細胞接着阻害部とを有することを特徴とする細胞培養用パターニング基板を提供する。
本発明によれば、上記細胞接着阻害材料が分解または変性されて細胞との接着性を有する細胞接着部と、上記細胞接着阻害材料が分解または変性されずに、細胞との接着性が低い細胞接着阻害部とを有することから、複雑な工程や、細胞に悪影響を及ぼすような処理液等を用いることなく、細胞接着部のみに高精細に細胞を接着させることが可能な細胞培養用パターニング基板とすることができる。
また、本発明は上記細胞培養用パターニング基板の、上記細胞接着部上に、細胞が接着していることを特徴とする細胞培養基板を提供する。
本発明によれば、上記細胞培養用パターニング用基板上には、細胞との接着性を有する細胞接着部と、細胞との接着性が低い細胞接着阻害部とが形成されていることから、容易に細胞接着部上にのみ細胞を接着することができ、高精細なパターン状に細胞が接着した細胞培養基板とすることができる。またこの際、細胞培養基板内に光触媒が含有されている必要がないことから、経時で光触媒が細胞に影響を及ぼす可能性もないものとすることができる、という利点も有する。
また、本発明は、細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有し、かつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着阻害材料と、少なくともエネルギー照射された後に、細胞と接着性を有する細胞接着材料とを含有することを特徴とするパターニング用基板用コーティング液を提供する。
本発明によれば、上記パターニング用基板用コーティング液を、例えば基材上に塗布し、光触媒を含有する光触媒含有層等を用いてエネルギーを照射することによって、容易に細胞接着阻害材料を分解することができ、細胞との接着性を有するものとすることができる。またこのエネルギー照射された領域には、上記細胞接着材料が含有されていることから、細胞との接着性をより良好なものとすることができる。一方、エネルギーが照射されていない領域は、細胞接着阻害材料によって細胞と接着することが阻害されることから、細胞との接着性が低い領域とすることができる。したがって、容易に細胞との接着性が良好な領域と、細胞との接着性が低い領域とを形成することが可能なパターニング用基板用コーティング液とすることができる。
また、本発明は、基材上に、細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有しかつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着阻害材料を含有する細胞接着阻害層を形成する細胞接着阻害層形成工程と、
上記細胞接着阻害層と、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有する光触媒含有層側基板とを、上記細胞接着阻害層と上記光触媒含有層とが対向するように配置した後、所定の方向からエネルギー照射し、上記細胞接着阻害層中に含有される細胞接着阻害材料が分解または変性された細胞接着部と、上記細胞接着部以外の細胞接着阻害部とからなるパターンを形成するエネルギー照射工程と
を有することを特徴とする細胞培養用パターニング基板の製造方法を提供する。
本発明によれば、上記細胞接着阻害層形成工程により形成された細胞接着阻害層に細胞接着阻害材料が含有されていることから、上記エネルギー照射工程において、上記光触媒含有層側基板を用いてパターン状にエネルギーを照射することにより、細胞接着阻害材料が分解または変性されて細胞との接着性を有する細胞接着部と、エネルギーが照射されていない細胞との接着性が低い細胞接着阻害部とが容易に形成された細胞培養用パターニング基板とすることができるのである。また本発明によれば、上記光触媒含有層側基板を用いることから、細胞培養用パターニング基板中に光触媒が含有される必要がなく、例えば上記細胞接着部上に細胞が接着した場合であっても、経時で光触媒が細胞に影響を与えること等のない、高品質な細胞培養用パターニング基板とすることができるのである。
また、本発明は、上記細胞培養用パターニング基板の製造方法により製造された細胞培養用パターニング基板の上記細胞接着部上に、細胞を接着させる細胞接着工程を有することを特徴とする細胞培養基板の製造方法を提供する。
本発明によれば、上記細胞培養用パターニング基板上には、細胞との接着性を有する細胞接着部と、細胞との接着性が低い細胞接着阻害部とが形成されていることから、細胞が容易に細胞接着部上にのみ高精細に接着された細胞培養基板を製造することができるのである。
本発明によれば、光触媒を含有する光触媒含有層等を用いてパターン状にエネルギー照射を行うことにより、細胞との接着性を有する領域と、細胞との接着性が低い領域とを容易に形成することが可能なパターニング用基板とすることができる、という効果を奏するものである。
本発明は、細胞を高精細なパターン状に接着させることが可能な細胞培養用パターニング基板や、その細胞培養用パターニング基板の形成に用いられるパターニング用基板、そのパターニング用基板を形成するために用いられるパターニング用基板用コーティング液、および細胞を高精細なパターン状に接着させた細胞培養基板等に関するものである。以下、それぞれについてわけて説明する。
A.パターニング用基板用コーティング液
まず、本発明のパターニング用基板用コーティング液について説明する。本発明のパターニング用基板用コーティング液は、細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有し、かつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着阻害材料と、少なくともエネルギー照射された後に、細胞と接着性を有する細胞接着材料とを含有するものである。
本発明のパターニング用基板用コーティング液には、上記細胞接着阻害性を有する細胞接着阻害材料を含有していることから、上記パターニング用基板用コーティング液を、基材等の上に塗布した層を、細胞との接着性が低いものとすることができる。またこの層に、光触媒を含有する光触媒含有層等を用いてエネルギー照射することによって、上記細胞接着阻害材料が分解または変性されて細胞との接着性が阻害されなくなる。またさらに上記細胞接着材料が含有されていることから、細胞との接着性を良好なものとすることができる。したがって、細胞との接着性が良好な領域と細胞との接着性が低い領域とを、複雑な工程や、細胞に悪影響を及ぼす処理液等を用いることなく、容易に形成することができるのである。
以下、上記のようなパターニング用基板用コーティング液に用いられる各材料について説明する。
1.細胞接着阻害材料
まず、本発明のパターニング用基板用コーティング液に用いられる細胞接着阻害材料について説明する。本発明のパターニング用基板用コーティング液に用いられる細胞接着阻害材料は、細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有し、かつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性されるものであれば、その種類等は特に限定されるものではない。
ここで、上記細胞接着阻害性を有するとは、細胞が細胞接着阻害材料と接着することを阻害する性質を有することをいい、細胞との接着性が細胞の種類によって異なる場合等には、目的とする細胞との接着を阻害する性質を有することをいう。
本発明に用いられる細胞接着阻害材料は、このような細胞接着阻害性を有しており、エネルギー照射に伴う光触媒の作用によって分解または変性されて、細胞接着阻害性を有しなくなるものや、細胞との接着性が良好となるものが用いられる。
上記細胞接着阻害材料として、例えば水和能の高い材料を用いることができる。水和能の高い材料を用いた場合には、細胞接着阻害材料の周りに水分子が集まった水和層が形成される。通常、このような水和能の高い物質は水分子との接着性の方が細胞との接着性より高いことから、細胞は上記水和能の高い材料と接着することができず、細胞との接着性が低いものとなるのである。ここで、上記水和能とは、水分子と水和する性質をいい、水和能が高いとは、水分子と水和しやすいことをいうこととする。
上記水和能が高く細胞接着阻害材料として用いられる材料としては、例えばポリエチレングリコールや、ベタイン構造等を有する両性イオン材料、リン脂質含有材料等が挙げられる。このような材料を上記細胞接着阻害材料として用い、エネルギーが照射された場合には、光触媒の作用によって、上記細胞接着阻害材料が分解または変質等され、表面の水和層が離れることにより、上記細胞接着阻害性を有しないものとすることができるのである。
また、光触媒の作用により分解されるような、撥水性または撥油性の有機置換基を有する界面活性剤も用いることができる。このような界面活性剤としては、例えば、日光ケミカルズ(株)製NIKKOL BL、BC、BO、BBの各シリーズ等の炭化水素系、デュポン社製ZONYL FSN、FSO、旭硝子(株)製サーフロンS−141、145、大日本インキ化学工業(株)製メガファックF−141、144、ネオス(株)製フタージェントF−200、F251、ダイキン工業(株)製ユニダインDS−401、402、スリーエム(株)製フロラードFC−170、176等のフッ素系あるいはシリコーン系の非イオン界面活性剤を挙げることができ、また、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることもできる。
このような材料を細胞接着阻害材料として用いた場合、パターニング用基板用コーティング液を塗布して層を形成した際に、表面に上記細胞接着阻害材料が偏在することとなる。これにより、細胞接着阻害層表面の撥水性や撥油性を高いものとすることができ、細胞との相互作用が小さく、細胞との接着性が低いものとすることができるのである。また、この層にエネルギーが照射された場合には、光触媒の作用によって、容易に分解されて上記光触媒が露出し、上記細胞接着阻害性を有しないものとすることができるのである。
ここで、本発明においては、上記細胞接着阻害材料として、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により細胞との接着性が良好となるものが用いられることが特に好ましい。このような細胞接着阻害材料として、特に撥油性や撥水性を有し、エネルギー照射に伴う光触媒の作用によって、表面が適度な親水性や親油性となることによって、細胞との接着性が良好となるものであることが好ましい。
細胞接着阻害材料として、上記撥水性または撥油性を有する材料を用いた場合には、細胞接着阻害材料の撥水性または撥油性によって、細胞と細胞接着阻害材料との間における、例えば疎水性相互作用等の相互作用が小さく、細胞との接着性を低いものとすることができ、表面が適度な親水性や親油性となることによって、細胞との相互作用を大きなものとすることができるからである。
このような撥水性または撥油性を有する材料としては、例えば骨格が光触媒の作用により分解されないような高い結合エネルギーを有するものであって、光触媒の作用により分解されるような撥水性または撥油性の有機置換基を有するもの等を挙げることができる。
骨格が光触媒の作用により分解されないような高い結合エネルギーを有するものであって、光触媒の作用により分解されるような撥水性または撥油性の有機置換基を有するものとしては、例えば、(1)ゾルゲル反応等によりクロロまたはアルコキシシラン等を加水分解、重縮合して大きな強度を発揮するオルガノポリシロキサン、(2)反応性シリコーンを架橋したオルガノポリシロキサン等を挙げることができる。
上記の(1)の場合、一般式:
SiX(4−n)
(ここで、Yはアルキル基、フルオロアルキル基、ビニル基、アミノ基、フェニル基またはエポキシ基、またはこれらを含む有機基であり、Xはアルコキシル基、アセチル基またはハロゲンを示す。nは0〜3までの整数である。)
で示される珪素化合物の1種または2種以上の加水分解縮合物もしくは共加水分解縮合物であるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。なお、ここでYで示される基の炭素数は1〜20の範囲内であることが好ましく、また、Xで示されるアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基であることが好ましい。
また、上記有機基として、特にフルオロアルキル基を含有するポリシロキサンを好ましく用いることができ、具体的には、下記のフルオロアルキルシランの1種または2種以上の加水分解縮合物、共加水分解縮合物が挙げられ、一般にフッ素系シランカップリング剤として知られたものを使用することができる。
CF(CFCHCHSi(OCH
CF(CFCHCHSi(OCH
CF(CFCHCHSi(OCH
CF(CFCHCHSi(OCH
(CFCF(CFCHCHSi(OCH
(CFCF(CFCHCHSi(OCH
(CFCF(CFCHCHSi(OCH
CF(C)CSi(OCH
CF(CF(C)CSi(OCH
CF(CF(C)CSi(OCH
CF(CF(C)CSi(OCH
CF(CFCHCHSiCH(OCH
CF(CFCHCHSiCH(OCH
CF(CFCHCHSiCH(OCH
CF(CFCHCHSiCH(OCH
(CFCF(CFCHCHSiCH(OCH
(CFCF(CFCHCHSi CH(OCH
(CFCF(CFCHCHSi CH(OCH
CF(C)CSiCH(OCH
CF(CF(C)CSiCH(OCH
CF(CF(C)CSiCH(OCH
CF(CF(C)CSiCH(OCH
CF(CFCHCHSi(OCHCH
CF(CFCHCHSi(OCHCH
CF(CFCHCHSi(OCHCH
CF(CFCHCHSi(OCHCH
CF(CFSON(C)CCHSi(OCH
上記のようなフルオロアルキル基を含有するポリシロキサンを細胞接着阻害材料として用いることにより、撥水性や撥油性を高いものとすることができ、細胞との相互作用が小さく、細胞との接着性が低いものとすることができる。また、上記のような材料にエネルギーが照射された場合には、容易にフッ素等を除去して表面にOH基等を導入することができ、細胞との相互作用を大きなものとできることから、細胞との接着性を良好なものとすることができるのである。
また、上記の(2)の反応性シリコーンとしては、下記一般式で表される骨格をもつ化合物を挙げることができる。
Figure 2005237377
ただし、nは2以上の整数であり、R,Rはそれぞれ炭素数1〜20の置換もしくは非置換のアルキル、アルケニル、アリールあるいはシアノアルキル基であり、モル比で全体の40%以下がビニル、フェニル、ハロゲン化フェニルである。また、R、Rがメチル基のものが表面エネルギーが最も小さくなるので好ましく、モル比でメチル基が60%以上であることが好ましい。また、鎖末端もしくは側鎖には、分子鎖中に少なくとも1個以上の水酸基等の反応性基を有する。
また、上記のオルガノポリシロキサンとともに、ジメチルポリシロキサンのような架橋反応をしない安定なオルガノシリコン化合物を別途混合してもよい。
上記のような反応性シリコーンを用いることにより、撥水性や撥油性を高いものとすることができ、細胞との相互作用が小さく、細胞との接着性が低いものとすることができる。また、上記のような材料にエネルギーが照射された場合には、容易に置換基を除去して表面にOH基等を導入することができ、細胞との相互作用を大きなものとできることから、細胞との接着性を良好なものとすることができるのである。
また、上記のようなオルガノポリシロキサンや反応性シリコーンを用いた場合には、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により変性されるが、骨格が分解されずに残るため、パターニング用基板用コーティング液が塗布された層のバインダとしての役割も果たすことが可能である、という利点も有する。
ここで、上記撥水性や撥油性を有する材料を細胞接着阻害材料として用いる場合、通常、水との接触角が80°以上、中でも100°〜130°の範囲内である材料を細胞接着阻害材料として用いることが好ましい。これにより、細胞との接着性を低いものとすることができるからである。なお、上記角度の上限は、平坦な基材上での細胞接着阻害材料の水との接触角の上限であり、例えば凹凸を有するような基材上での上記細胞接着阻害材料の水との接触角を測定した場合には、例えば資料ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス、パート2、32巻、L614〜L615、1993年 Ogawaら、に示されるように上限が160°程度となる場合もある。
また、この細胞接着阻害材料にエネルギーを照射し、細胞との接着性を有するものとする場合には、水との接触角が10°〜40°、中でも15°〜30°の範囲内とするようにエネルギーが照射されることが好ましい。これにより、細胞との接着性を高いものとすることができるからである。
なお、ここでいう水との接触角は、水、もしくは同等の接触角を有する液体との接触角を接触角測定器(協和界面科学(株)製CA−Z型)を用いて測定(マイクロシリンジから液滴を滴下して30秒後)し、その結果から、もしくはその結果をグラフにして得たものである。
このような細胞接着阻害材料は、パターニング用基板用コーティング液中に0.001重量%〜60重量%、中でも0.01重量%〜40重量%、特に0.1重量%〜20重量%の範囲内含有されることが好ましい。これにより、細胞接着阻害材料を含有する領域を細胞との接着性が低い領域とすることができるからである。
なお、エネルギーを照射して上記のような細胞接着阻害材料を分解または変性して、細胞との接着性が良好なものとして用いられる際には、目的とする細胞との接着性が良好となる程度にエネルギーが照射されて細胞接着阻害材料が分解または変性されればよく、完全に上記細胞接着阻害材料が分解または変性される必要はない。
また、上記細胞接着阻害材料は、界面活性を有するものであることが好ましい。パターニング用基板用コーティング液の塗布、乾燥過程において、塗膜表面に偏在する割合が高まり、結果として良好な細胞接着阻害性を得られるからである。
2.細胞接着材料
次に、本発明のパターニング用基板用コーティング液に用いられる細胞接着材料について説明する。本発明に用いられる細胞接着材料は、少なくともエネルギー照射された後に、細胞と接着性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、バインダとして用いられるものであってもよく、また上記バインダと別に、使用されるものであってもよい。また例えば、エネルギー照射される前から細胞と良好な接着性を有するものであってもよく、エネルギー照射に伴う光触媒の作用によって、細胞と良好な接着性を有するものとなるものであってもよい。ここで、上記細胞と接着性を有するとは、細胞と良好に接着することをいい、細胞との接着性が細胞の種類によって異なる場合等には、目的とする細胞と良好に接着することをいう。
本発明においては、少なくともエネルギー照射された後に、上記細胞接着材料が細胞と良好な接着性を有するものであれば、細胞との接着が、例えば疎水性相互作用や、静電的相互作用、水素結合、ファンデルワールス力等の物理的相互作用により良好なものとされるものであってもよく、生物学的特性により、良好なものとされるものであってもよい。
上記物理的相互作用により細胞と接着する材料として具体的には、親水化ポリスチレン、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)等の感温性高分子、ポリリジン等の塩基性高分子、アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等の塩基性化合物およびそれらを含む縮合物等が挙げられる。
また、上記生物学的特性により細胞と接着する材料として具体的には、フィブロネクチン、ラミニン、テネイシン、ビトロネクチン、RGD(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸)配列含有ペプチド、YIGSR(チロシン−イソロイシン−グリシン−セリン−アルギニン)配列含有ペプチド、コラーゲン、アテロコラーゲン、ゼラチン等が挙げられる。
本発明においては、このような細胞接着材料は、材料の細胞接着能により適宜最適化されるものであるが、パターニング用基板用コーティング液中に通常0.0001重量%〜30重量%、中でも0.001重量%〜10重量%の範囲内含有されることが好ましい。これにより、上記パターニング用基板用コーティング液を塗布して層を形成した際に、エネルギー照射された領域の細胞との接着性をより良好なものとすることができるからである。また、エネルギー照射される前から細胞と良好な接着性を有する材料を細胞接着材料として用いる場合には、パターニング用基板用コーティング液が塗布されて層が形成された後のエネルギーが照射されない領域において、上記細胞接着阻害材料の細胞接着阻害性を阻害しない程度含有されることが好ましい。
3.パターニング用基板用コーティング液
次に、本発明のパターニング用基板用コーティング液について説明する。本発明のパターニング用基板用コーティング液は、上記細胞接着材料と、上記細胞接着阻害材料とを含有するものであれば、特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜バインダ等の成分を含有しているものであってもよい。バインダを含有させることにより、パターニング用基板用コーティング液を、例えば基材等の上に塗布する際の塗工が容易なものとすることや、形成された層に強度や耐性を付与する等、様々な特性を付与することが可能となるからである。このようなバインダとしては、パターニング用基板用コーティング液が必要とされる目的に応じて適宜選択される。なお、本発明においては、このバインダとしての役割を、上記細胞接着阻害材料や細胞接着材料が果たすものとすることができる。
また、本発明のパターニング用基板用コーティング液には、光触媒が含有されていないことが好ましい。これにより、例えばパターニング用基板用コーティング液が塗布された層上に、細胞を接着した場合に、経時で光触媒が細胞に影響を及ぼす可能性のないものとすることが可能となるからである。
B.パターニング用基板
次に、本発明のパターニング用基板について説明する。本発明のパターニング用基板には、細胞接着阻害層の構成によって二つの実施態様がある。いずれの実施態様においても、例えば図1に示すように、基材1と、その基材1上に形成され、細胞との接着阻害性を有し、かつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により変性等される細胞接着阻害層2とを有するものである。以下、それぞれの実施態様ごとに詳しく説明する。
1.第1実施態様
まず、本発明のパターニング用基板の第1実施態様について説明する。本実施態様のパターニング用基板は、基材と、上記基材上に形成され、細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有しかつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により変性される細胞接着阻害材料を含有する細胞接着阻害層とを有するものである。
本実施態様においては、上記細胞接着阻害材料がエネルギー照射に伴う光触媒の作用により変性されるものであることから、例えば上記細胞接着阻害層に、光触媒を含有する光触媒含有層等を用いてエネルギーを照射することによって、細胞接着阻害材料が変性されて細胞接着阻害性が減少し、細胞との接着性を有する領域を形成することができるのである。一方、エネルギー照射されていない領域においては、細胞接着阻害材料の細胞接着阻害性により、細胞との接着性を低いものとすることができる。したがって、本実施態様によれば、例えば光触媒含有層を用いてエネルギー照射することによって、上記細胞接着阻害材料が変性されて細胞との接着性を有する領域と、細胞接着阻害材料が変化せず、細胞との接着性が悪い領域とを容易に形成することが可能なパターニング用基板とすることができる。
ここで、本実施態様のパターニング用基板は、例えば図2に示すように、基材1上に遮光部3が形成されており、その遮光部3上に細胞接着阻害層2が形成されているものであってもよい。これにより、上記光触媒含有層等と細胞接着阻害層とを対向させて配置した後、基材側からエネルギーを照射した場合、遮光部が形成された領域の光触媒含有層は光触媒が励起されず、遮光部が形成されていない領域のみの細胞接着阻害材料を変性させることができる。したがって、フォトマスク等の位置あわせ等が必要なく、高精細な細胞接着部を容易に形成することができる、という利点を有する。
以下、本実施態様のパターニング用基板の各構成について説明する。
(細胞接着阻害層)
まず、本実施態様に用いられる細胞接着阻害層について説明する。本実施態様に用いられる細胞接着阻害層は、後述する基材上に形成され、細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有し、かつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により変性される細胞接着阻害材料を含有するものである。
本実施態様における細胞接着阻害層は、少なくとも上記細胞接着阻害材料を含有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば細胞接着阻害材料がバインダとしての役割も果たす場合等には、別途バインダ等を含有していなくてもよい。このような細胞接着阻害層に光触媒含有層等を用いてエネルギーが照射された場合、エネルギー照射された領域においては、細胞接着阻害材料が変性されることから、細胞との接着阻害性が減少し、細胞との接着性を有するものとなるのである。このような細胞接着阻害材料としては、「A.パターニング用基板用コーティング液」の項で説明した細胞接着阻害材料のうち、例えばオルガノポリシロキサンや反応性シリコーン等、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により変性されるものを用いることができる。
ここで、本実施態様においては、特に細胞接着阻害層中に細胞接着材料が含有されていることが好ましい。これにより、細胞接着阻害層にエネルギーが照射された際に、エネルギーが照射された領域の細胞との接着性をより良好なものとすることができ、エネルギーが照射された領域のみに、より高精細なパターンで細胞を接着させることができるからである。
本実施態様において上記細胞接着阻害層は、例えば上記細胞接着阻害材料を含有するコーティング液等を塗布して層を形成することができるが、上述したように細胞接着材料を含有させる場合には、「A.パターニング用基板用コーティング液」の項で説明したような、上記細胞接着阻害材料の他に細胞接着材料を含有するパターニング用基板用コーティング液を用いることにより層を形成することができる。
このような細胞接着阻害層を形成する方法としては、上記パターニング用基板用コーティン液等を一般的な塗布方法により塗布すること等によって形成することができ、塗布方法として具体的には、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、ビードコート法等を用いることができる。また、吸着法、交互吸着法などの超薄膜を形成する方法も好適に用いることができる。
また、例えば後述する基材に凹部が形成されている場合には、上記基材の凹部にパターニング用基板用コーティング液等を滴下し、乾燥させて細胞接着阻害層とするキャスト法や、上記基材の凹部にパターニング用基板用コーティング液等を滴下し、所定時間後、洗浄する吸着法等も用いることができる。
本実施態様における細胞接着阻害層に用いられる細胞接着阻害材料や細胞接着材料等については、上述した「A.パターニング用基板用コーティング液」の項で説明したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
上記細胞接着阻害層の膜厚としては、パターニング用基板の種類等によって適宜選択されるものであるが、通常0.001〜1.0μm程度、中でも0.01〜0.3μm程度とすることができる。
なお、本実施態様における細胞接着阻害層中には、光触媒が含有されてないことが好ましい。これにより、例えば細胞接着阻害層上に細胞が接着等された場合に、経時で光触媒が細胞に影響を与えることを防ぐことができ、高品質なものとすることができるからである。また、このような細胞接着阻害層の上記細胞接着阻害材料を分解または変性させる方法としては、上述したように、光触媒を含有する光触媒含有層を対向させてエネルギーを照射すること等により、行うことができる。
(基材)
次に、本実施態様に用いられる基材について説明する。本実施態様に用いられる基材は、上記細胞接着阻害層を形成可能な層であれば、特に限定されるものではなく、例えば金属、ガラス、シリコン等の無機材料、およびプラスチックで代表される有機材料等を用いることができる。
ここで、基材の可撓性等はパターニング用基板の種類や用途等によって適宜選択される。また、上記基材の透明性は、パターニング用基板の種類や、上記細胞接着阻害材料を分解または変性させるために照射されるエネルギーの照射方向等によって、適宜選択され、例えば基材が遮光部等を有しており、上記エネルギーの照射が、基材側から行われる場合等には、基材が透明性を有するものとされる。
なお、本実施態様においては、基材が平坦なものであってもよいが、基材に凹部が形成されていてもよい。このような基材としては、例えば図10(a)に示すように、1つの凹部が形成されているものであってもよく、また例えば図10(b)に示すように、複数の凹部が形成されているものであってもよい。
またこの際、上記凹部を有する基材の側壁に上記細胞接着阻害層が形成されないように処理が施されたものであってもよい。このような処理としては、例えばマスク等を用いてCVD法により上記側壁のみに撥液性を有する材料を付着させる方法や、上記凹部全面に撥液性を有する材料を付着させた後、筒状のマスク等を用いて紫外線処理やプラズマ処理等を行い、上記凹部の底面のみ、親液化させる方法等が挙げられる。
ここで、本実施態様において、上記基材は、アルカリ洗浄等の薬液洗浄されたものであってもよく、また酸素プラズマ処理や紫外線処理等のドライ洗浄が行われたものであってもよい。この場合、上記パターニング用基板用コーティング液等の濡れ性が向上する。またさらに表面に反応性の官能基が配置されることとなることから、細胞接着阻害層の密着性が向上する、という利点を有する。
ここで、本実施態様に用いられる基材には、上述したように、遮光部が形成されていてもよい。本実施態様に用いることが可能な遮光部としては、パターニング用基板に照射されるエネルギーを遮断することが可能なものであれば、特に限定されるものではなく、例えばスパッタリング法、真空蒸着法等により厚み1000〜2000Å程度のクロム等の金属薄膜を形成し、この薄膜をパターニングすることにより形成されてもよい。このパターニングの方法としては、スパッタ等の通常のパターニング方法を用いることができる。
また、樹脂バインダ中にカーボン微粒子、金属酸化物、無機顔料、有機顔料等の遮光性粒子を含有させた層をパターン状に形成する方法であってもよい。用いられる樹脂バインダとしては、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ゼラチン、カゼイン、セルロース等の樹脂を1種または2種以上混合したものや、感光性樹脂、さらにはO/Wエマルジョン型の樹脂組成物、例えば、反応性シリコーンをエマルジョン化したもの等を用いることができる。このような樹脂製遮光部の厚みとしては、0.5〜10μmの範囲内で設定することができる。このような樹脂製遮光部のパターニングの方法は、フォトリソ法、印刷法等一般的に用いられている方法を用いることができる。
なお、上記遮光部は、基材の上記細胞接着阻害層が形成される側の面に形成されるものであってもよく、また反対側の面に形成されるものであってもよい。
(パターニング用基板)
次に、本実施態様のパターニング用基板について説明する。本実施態様のパターニング用基板は、上述した基材上に細胞接着阻害層が形成されたものであれば、特に限定されるものではなく、例えば必要に応じて他の層が積層されたもの等であってもよい。
2.第2実施態様
次に、本発明のパターニング用基板における第2実施態様について説明する。本実施態様におけるパターニング用基板は、基材と、上記基材上に形成され、細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有しかつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着阻害材料、およびバインダを含有する細胞接着阻害層とを有するものである。
本実施態様によれば、上記細胞接着阻害材料がエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性されるものであることから、例えば上記細胞接着阻害層に、光触媒を含有する光触媒含有層等を用いてエネルギーを照射することによって、細胞接着阻害材料が分解または変性され、細胞接着阻害性が低下することによって細胞との接着性を有する領域を形成することができるのである。一方、エネルギー照射されていない領域においては、細胞接着阻害材料の細胞接着阻害性により、細胞との接着性を低いものとすることができる。したがって、本実施態様によれば、例えば光触媒含有層を用いてエネルギー照射することによって、上記細胞接着阻害材料が変性されて細胞との接着性を有する領域と、細胞接着阻害材料が変化せず、細胞との接着性が悪い領域とを容易に形成することが可能なパターニング用基板とすることができる。
ここで、本実施態様のパターニング用基板においても、上述した第1実施態様と同様に、例えば基材上に遮光部が形成されており、その遮光部上に細胞接着阻害層が形成されているものであってもよい。なお、本実施態様に用いられる基材や遮光部等については、第1実施態様で用いられるものと同様であるので、ここでの説明は省略し、以下、本実施態様のパターニング用基板に用いられる細胞接着阻害層について説明する。
(細胞接着阻害層)
本実施態様における細胞接着阻害層は、少なくとも上記細胞接着阻害材料およびバインダを含有するものであれば、特に限定されるものではない。なお、本実施態様に用いられる細胞接着阻害材料は、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性されるものであることから、細胞接着阻害層に光触媒含有層等を用いてエネルギー照射が行われた場合、エネルギーが照射された領域においては、細胞接着阻害材料が変性または分解されて、細胞接着阻害性が低下し、細胞との接着性を有するものとなるのである。このようなエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着阻害材料として具体的には、「A.パターニング用基板用コーティング液」の細胞接着阻害材料の項で説明したもの等を用いることができる。
なお、本実施態様においては、細胞接着阻害層中にバインダが含有されていることから、例えば細胞接着阻害材料がエネルギー照射に伴う光触媒の作用によって完全に分解された場合であってもバインダが残存し、細胞接着阻害層が残存することとなるのである。このようなバインダとしては、細胞接着阻害性を有しないものであれば、特に限定されるものではなく、細胞培養基板の細胞培養層等に通常用いられるもの等を用いることができる。
ここで、本実施態様においても、上記細胞接着阻害層が細胞接着材料を含有することが好ましい。これにより、細胞接着阻害層にエネルギーが照射された際に、エネルギーが照射された領域の細胞との接着性をより良好なものとすることができ、エネルギーが照射された領域のみに、より高精細なパターンで細胞を接着させることができるからである。
本実施態様において上記細胞接着阻害層は、上記細胞接着阻害材料およびバインダを含有するコーティング液を塗布すること等により形成することができるが、上述したように細胞接着材料を含有させる場合には、「A.パターニング用基板用コーティング液」の項で説明したような、細胞接着阻害材料の他に細胞接着材料を含有するパターニング用基板用コーティング液を用いることにより、層を形成することができる。
このような細胞接着阻害層を形成する方法や、細胞接着阻害層の膜厚等については、上述した第1実施態様と同様であるので、ここでの詳しい説明は省略する。また、上記細胞接着阻害層に用いられる細胞接着材料やバインダ、細胞接着阻害材料等については、上述した「A.パターニング用基板用コーティング液」の項で説明したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
なお、本実施態様における細胞接着阻害層中についても、光触媒が含有されてないことが好ましい。これにより、例えば細胞接着阻害層上に細胞が接着等された場合に、経時で光触媒が細胞に影響を与えることを防ぐことができ、高品質なものとすることができるからである。
(パターニング用基板)
次に、本実施態様のパターニング用基板について説明する。本実施態様のパターニング用基板においても、上記基材上に上述したような細胞接着阻害層が形成されたものであれば、特に限定されるものではなく、必要に応じて例えば遮光層等、他の層が積層されたもの等であってもよい。
C.細胞培養用パターニング基板
次に、本発明の細胞培養用パターニング基板について説明する。本発明の細胞培養用パターニング基板は、上述したパターニング用基板の上記細胞接着阻害層が、パターン状に上記細胞接着阻害材料が分解または変性された細胞接着部と、上記細胞接着部以外の領域である細胞接着阻害部とを有するものである。
本発明の細胞培養基板は、例えば図3に示すように、基材1と、その基材1上に形成された細胞接着阻害層2を有するものであり、その細胞接着阻害層2は、細胞接着阻害層2中に含有される細胞接着阻害材料が分解または変性して細胞との接着性を有する細胞接着部4と、その細胞接着部4以外の領域であり、細胞との細胞接着阻害性を有する細胞接着阻害部2´とを有するものである。
本発明の細胞培養用パターニング基板は、上記細胞接着部と上記細胞接着阻害部とを有することから、容易に細胞接着部上にのみ細胞を接着させることができ、例えば細胞接着阻害層の全面に細胞を塗布した場合であっても、細胞接着部上のみに、高精細に細胞を接着させることが可能となるのである。
ここで、本発明においては、例えば図4に示すように、上記細胞接着阻害層2の細胞接着阻害部2´と同じパターン状に、基材1に遮光部3が形成されていてもよい。このような遮光部が形成されていることにより、例えば、上述した「B.パターニング用基板」で説明したパターニング用基板を形成し、光触媒を含有する光触媒含有層を細胞接着阻害層と対向させて配置し、基材側からエネルギーを照射することによって、遮光部が形成されていない領域上のみの細胞接着阻害材料を分解または変性させることができ、上記細胞接着部が容易に形成されたものとすることができるからである。
ここで、上記細胞接着阻害部とは、少なくとも細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有しかつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により変性または分解除去される細胞接着阻害材料を含有する領域であり、目的とする細胞との接着性が低い領域である。
一方、細胞接着部とは、上記細胞接着阻害材料が分解または変性されており、細胞との接着性を有する領域である。ここで、上記細胞接着阻害材料が分解または変性されているとは、上記細胞接着阻害材料が含有されていない、もしくは上記細胞接着阻害部に含有される細胞接着阻害材料の量と比較して、細胞接着阻害材料が少ない量含有されていることをいう。例えば上記細胞接着阻害材料がエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解されるものである場合には、細胞接着部中にはその細胞接着阻害材料が含有されていない、または細胞接着阻害材料の分解物等が含有されていることとなる。ここで、上記細胞接着阻害材料が分解されるものである場合には、上述したように、通常細胞接着阻害層中にバインダ等が含有され、このバインダ等が露出すること等によって、細胞との接着性を有する細胞接着部とされることが好ましい。一方、上記細胞接着阻害材料がエネルギー照射に伴う光触媒の作用により変性されるものである場合には、細胞接着部中にはその変性物等が含有されていることとなる。この場合には、上記細胞接着阻害材料の変性物により細胞との接着性を有するものとすること等ができ、上記細胞接着阻害層中に細胞接着阻害材料以外のバインダ等が含有されている場合、もしくはバインダ等が含有されていない場合のいずれであってもよい。
本発明においては、いずれの場合においても、上記「A.パターニング用基板用コーティング液」の項で説明したような、細胞との接着性が良好な細胞接着材料が含有されていることが特に好ましい。これにより、細胞接着部の細胞との接着性をより良好なものとすることができるからである。
ここで、本発明の細胞培養用パターニング基板に用いられる基材、および細胞接着阻害層については、上述した「B.パターニング用基板」で説明したものと同様であるので、ここでの説明は省略し、以下、上記細胞接着部および上記細胞接着阻害部を有する細胞接着阻害層の形成方法について説明する。
まず、上述した「A.パターニング用基板用コーティング液」で説明したパターニング用基板用コーティング液等を用いて、例えば図5に示すように、少なくとも細胞接着阻害材料を含有する細胞接着阻害層2を基材1上に形成する(図5(a))。次に、基体11と、その基体11上に形成された少なくとも光触媒を含有する光触媒含有層12を有する光触媒含有層側基板13を準備し、この光触媒含有層12と上記細胞接着阻害層2とを対向させて配置する(図5(b))。続いて、細胞接着部を形成するパターン状に、例えばフォトマスク5等を用いてエネルギー6を照射する(図5(b))。これにより、細胞接着阻害層2中に含有される細胞接着阻害材料が、光触媒含有層12中に含有される光触媒の作用により分解または変性されて、細胞との接着性を有する細胞接着部4と、エネルギーが照射されず、細胞接着阻害材料が分解されないことから細胞との接着性が低い細胞接着阻害部2´とが形成される(図5(c))。なお、上記細胞接着阻害層の形成方法等については、上記「B.パターニング用基板」で説明した方法と同様であるので、ここでの説明は省略し、このような細胞接着部の形成に用いられる光触媒含有層を有する光触媒含有層側基板、およびエネルギー等について、以下説明する。
(光触媒含有層側基板)
まず、光触媒を含有する光触媒含有層を有する光触媒含有層側基板について説明する。本発明に用いられる光触媒含有層側基板としては、通常、光触媒を含有する光触媒含有層を有するものであり、通常、基体と、その基体上に光触媒含有層が形成されているものである。この光触媒含有層側基板は、例えばパターン状に形成された光触媒含有層側遮光部やプライマー層等を有していてもよい。以下、本工程に用いられる光触媒含有層側基板の各構成について説明する。
a.光触媒含有層
まず、光触媒含有層側基板に用いられる光触媒含有層について説明する。本発明に用いられる光触媒含有層は、光触媒含有層中の光触媒が、近接する細胞接着阻害層中の細胞接着阻害材料を分解または変性させるような構成であれば、特に限定されるものではなく、光触媒とバインダとから構成されているものであってもよく、光触媒単体で製膜されたものであってもよい。また、その表面の特性は特に親液性であっても撥液性であってもよい。
本発明において用いられる光触媒含有層は、例えば図5(b)に示すように、基体11上に全面に形成されたものであってもよいが、例えば図6に示すように、基体11上に光触媒含有層12がパターン上に形成されたものであってもよい。
このように光触媒含有層をパターン状に形成することにより、細胞接着部を形成するためにエネルギーを照射する際に、フォトマスク等を用いるパターン照射をする必要がなく、全面にエネルギーを照射することにより、細胞接着阻害層に含有される細胞接着阻害材料が分解または変性されたパターンを形成することができる。
この光触媒含有層のパターニング方法は、特に限定されるものではないが、例えばフォトリソグラフィー法等により行うことが可能である。
また、実際に光触媒含有層に面する細胞接着阻害層上の部分のみの、細胞接着阻害材料が分解または変性されるものであるので、エネルギーの照射方向は上記光触媒含有層と細胞接着阻害層とが面する部分にエネルギーが照射されるものであれば、いかなる方向から照射されてもよく、さらには、照射されるエネルギーも特に平行光等の平行なものに限定されないという利点を有するものとなる。
本発明で使用する光触媒としては、光半導体として知られる例えば二酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化タングステン(WO)、酸化ビスマス(Bi)、および酸化鉄(Fe)を挙げることができ、これらから選択して1種または2種以上を混合して用いることができる。
本発明においては、特に二酸化チタンが、バンドギャップエネルギーが高く、化学的に安定で毒性もなく、入手も容易であることから好適に使用される。二酸化チタンには、アナターゼ型とルチル型があり本発明ではいずれも使用することができるが、アナターゼ型の二酸化チタンが好ましい。アナターゼ型二酸化チタンは励起波長が380nm以下にある。
このようなアナターゼ型二酸化チタンとしては、例えば、塩酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(石原産業(株)製STS−02(平均粒径7nm)、石原産業(株)製ST−K01)、硝酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(日産化学(株)製TA−15(平均粒径12nm))等を挙げることができる。
光触媒の粒径は小さいほど光触媒反応が効果的に起こるので好ましく、平均粒径が50nm以下であることが好ましく、20nm以下の光触媒を使用するのが特に好ましい。
本発明における光触媒含有層は、上述したように光触媒単独で形成されたものであってもよく、またバインダと混合して形成されたものであってもよい。
光触媒のみからなる光触媒含有層の場合は、細胞接着阻害層中の細胞接着阻害材料の分解または変性に対する効率が向上し、処理時間の短縮化等のコスト面で有利である。一方、光触媒とバインダとからなる光触媒含有層の場合は、光触媒含有層の形成が容易であるという利点を有する。
光触媒のみからなる光触媒含有層の形成方法としては、例えば、スパッタリング法、CVD法、真空蒸着法等の真空製膜法を用いる方法を挙げることができる。真空製膜法により光触媒含有層を形成することにより、均一な膜でかつ光触媒のみを含有する光触媒含有層とすることが可能であり、これにより細胞接着阻害層中の細胞接着阻害材料の分解または変性を均一に行うことが可能であり、かつ光触媒のみからなることから、バインダを用いる場合と比較して効率的に細胞接着阻害材料を分解または変性させることが可能となる。
また、光触媒のみからなる光触媒含有層の形成方法の他の例としては、例えば光触媒が二酸化チタンの場合は、基体上に無定形チタニアを形成し、次いで焼成により結晶性チタニアに相変化させる方法等が挙げられる。ここで用いられる無定形チタニアとしては、例えば四塩化チタン、硫酸チタン等のチタンの無機塩の加水分解、脱水縮合、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラメトキシチタン等の有機チタン化合物を酸存在下において加水分解、脱水縮合によって得ることができる。次いで、400℃〜500℃における焼成によってアナターゼ型チタニアに変性し、600℃〜700℃の焼成によってルチル型チタニアに変性することができる。
また、バインダを用いる場合は、バインダの主骨格が上記の光触媒の光励起により分解されないような高い結合エネルギーを有するものが好ましく、例えばオルガノポリシロキサン等を挙げることができる。
このようにオルガノポリシロキサンをバインダとして用いた場合は、上記光触媒含有層は、光触媒とバインダであるオルガノポリシロキサンとを必要に応じて他の添加剤とともに溶剤中に分散して塗布液を調製し、この塗布液を基体上に塗布することにより形成することができる。使用する溶剤としては、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系の有機溶剤が好ましい。塗布はスピンコート、スプレーコート、ディッブコート、ロールコート、ビードコート等の公知の塗布方法により行うことができる。バインダとして紫外線硬化型の成分を含有している場合、紫外線を照射して硬化処理を行うことにより光触媒含有層を形成することができる。
また、バインダとして無定形シリカ前駆体や界面活性剤等を用いることができる。このような材料は、特開2000−249821号公報に記載されているものと同様のものを用いることが可能である。
b.基体
次に、光触媒含有層側基板に用いられる基体について説明する。本発明においては、図5(b)に示すように、光触媒含有層側基板は、少なくとも基体11とこの基体11上に形成された光触媒含有層12とを有するものである。この際、用いられる基体を構成する材料は、後述するエネルギーの照射方向や、得られるパターン形成体が透明性を必要とするか等により適宜選択される。
また本発明に用いられる基体は、可撓性を有するもの、例えば樹脂製フィルム等であってもよいし、可撓性を有しないもの、例えばガラス基板等であってもよい。これは、エネルギー照射方法により適宜選択されるものである。
なお、基体表面と光触媒含有層との密着性を向上させるために、基体上にアンカー層を形成するようにしてもよい。このようなアンカー層としては、例えば、シラン系、チタン系のカップリング剤等を挙げることができる。
c.光触媒含有層側遮光部
本発明に用いられる光触媒含有層側基板には、パターン状に形成された光触媒含有層側遮光部が形成されたものを用いても良い。このように光触媒含有層側遮光部を有する光触媒含有層側基板を用いることにより、エネルギー照射に際して、フォトマスクを用いたり、レーザ光による描画照射を行う必要がない。したがって、光触媒含有層側基板とフォトマスクとの位置合わせが不要であることから、簡便な工程とすることが可能であり、また描画照射に必要な高価な装置も不必要であることから、コスト的に有利となるという利点を有する。
このような光触媒含有層側遮光部を有する光触媒含有層側基板は、光触媒含有層側遮光部の形成位置により、下記の二つの態様とすることができる。
一つが、例えば図7に示すように、基体11上に光触媒含有層側遮光部14を形成し、この光触媒含有層側遮光部14上に光触媒含有層12を形成して、光触媒含有層側基板とする態様である。もう一つは、例えば図8に示すように、基体11上に光触媒含有層12を形成し、その上に光触媒含有層側遮光部14を形成して光触媒含有層側基板とする態様である。
いずれの態様においても、フォトマスクを用いる場合と比較すると、光触媒含有層側遮光部が、上記光触媒含有層と細胞接着阻害層との配置部分の近傍に配置されることになるので、基体内等におけるエネルギーの散乱の影響を少なくすることができることから、エネルギーのパターン照射を極めて正確に行うことが可能となる。
ここで、本発明においては、図8に示すような光触媒含有層12上に光触媒含有層側遮光部14を形成する態様である場合には、光触媒含有層と細胞接着阻害層とを所定の位置に配置する際に、この光触媒含有層側遮光部の膜厚をこの間隙の幅と一致させておくことにより、上記光触媒含有層側遮光部を上記間隙を一定のものとするためのスペーサとしても用いることができるという利点を有する。
すなわち、所定の間隙をおいて上記光触媒含有層と細胞接着阻害層とを対向させた状態で配置する際に、上記光触媒含有層側遮光部と細胞接着阻害層とを密着させた状態で配置することにより、上記所定の間隙を正確とすることが可能となり、そしてこの状態でエネルギーを照射することにより、細胞接着阻害層と遮光部とが接触している部分の細胞接着阻害層は、細胞接着阻害材料が分解または変性されないことから、細胞接着部を精度良く形成することが可能となるのである。
このような光触媒含有層側遮光部の形成方法は、特に限定されるものではなく、光触媒含有層側遮光部の形成面の特性や、必要とするエネルギーに対する遮蔽性等に応じて適宜選択されて用いられ、「B.パターニング用基板」で説明した基材上に設けられる遮光部と同様のものとすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
なお、上記説明においては、光触媒含有層側遮光部の形成位置として、基体と光触媒含有層との間、および光触媒含有層表面の二つの場合について説明したが、その他、基体の光触媒含有層が形成されていない側の表面に光触媒含有層側遮光部を形成する態様も採ることが可能である。この態様においては、例えばフォトマスクをこの表面に着脱可能な程度に密着させる場合等が考えられ、細胞接着部のパターンを小ロットで変更するような場合に好適に用いることができる。
d.プライマー層
次に、本発明の光触媒含有層側基板に用いられるプライマー層について説明する。本発明において、上述したように基体上に光触媒含有層側遮光部をパターン状に形成して、その上に光触媒含有層を形成して光触媒含有層側基板とする場合においては、上記光触媒含有層側遮光部と光触媒含有層との間にプライマー層を形成してもよい。
このプライマー層の作用・機能は必ずしも明確なものではないが、光触媒含有層側遮光部と光触媒含有層との間にプライマー層を形成することにより、プライマー層は光触媒の作用による細胞接着阻害材料の分解または変性を阻害する要因となる光触媒含有層側遮光部および光触媒含有層側遮光部間に存在する開口部からの不純物、特に、光触媒含有層側遮光部をパターニングする際に生じる残渣や、金属、金属イオン等の不純物の拡散を防止する機能を示すものと考えられる。したがって、プライマー層を形成することにより、高感度で細胞接着阻害材料の分解または変性の処理が進行し、その結果、高精細に形成された細胞接着部を得ることが可能となるのである。
なお、本発明においてプライマー層は、光触媒含有層側遮光部のみならず光触媒含有層側遮光部間に形成された開口部に存在する不純物が光触媒の作用に影響することを防止するものであるので、プライマー層は開口部を含めた光触媒含有層側遮光部全面にわたって形成されていることが好ましい。
本発明におけるプライマー層は、光触媒含有層側基板の光触媒含有層側遮光部と光触媒含有層とが接触しないようにプライマー層が形成された構造であれば特に限定されるものではない。
このプライマー層を構成する材料としては、特に限定されるものではないが、光触媒の作用により分解されにくい無機材料が好ましい。具体的には無定形シリカを挙げることができる。このような無定形シリカを用いる場合には、この無定形シリカの前駆体は、一般式SiXで示され、Xはハロゲン、メトキシ基、エトキシ基、またはアセチル基等であるケイ素化合物であり、それらの加水分解物であるシラノール、または平均分子量3000以下のポリシロキサンが好ましい。
また、プライマー層の膜厚は、0.001μmから1μmの範囲内であることが好ましく、特に0.001μmから0.1μmの範囲内であることが好ましい。
(エネルギー照射)
次に、上記細胞接着部を形成する際のエネルギー照射について説明する。エネルギー照射は、上記細胞接着阻害層と、上記光触媒含有層側基板における光触媒含有層とを、所定の間隙をおいて配置し、所定の方向からエネルギーを照射することにより行うことができる。
上記の配置とは、実質的に光触媒の作用が細胞接着阻害層表面に及ぶような状態で配置された状態をいうこととし、実際に物理的に接触している状態の他、所定の間隔を隔てて上記光触媒含有層と細胞接着阻害層とが配置された状態とする。この間隙は、200μm以下であることが好ましい。
本発明において上記間隙は、パターン精度が極めて良好であり、光触媒の感度も高く、したがって細胞接着阻害層の細胞接着阻害材料の分解または変性の効率が良好である点を考慮すると特に0.2μm〜10μmの範囲内、好ましくは1μm〜5μmの範囲内とすることが好ましい。このような間隙の範囲は、特に間隙を高い精度で制御することが可能である小面積の細胞接着阻害層に対して特に有効である。
一方、例えば300mm×300mm以上といった大面積の細胞接着阻害層に対して処理を行う場合は、接触することなく、かつ上述したような微細な間隙を光触媒含有層側基板と細胞接着阻害層との間に形成することは極めて困難である。したがって、細胞接着阻害層が比較的大面積である場合は、上記間隙は、10〜100μmの範囲内、特に50〜75μmの範囲内とすることが好ましい。間隙をこのような範囲内とすることにより、パターンがぼやける等のパターン精度の低下の問題や、光触媒の感度が悪化して細胞接着阻害材料を分解または変性させる効率が悪化する等の問題が生じることなく、さらに細胞接着阻害材料の分解または変性にムラが発生しないといった効果を有するからである。
このように比較的大面積の細胞接着阻害層をエネルギー照射する際には、エネルギー照射装置内の光触媒含有層側基板と細胞接着阻害層との位置決め装置における間隙の設定を、10μm〜200μmの範囲内、特に25μm〜75μmの範囲内に設定することが好ましい。設定値をこのような範囲内とすることにより、パターン精度の大幅な低下や光触媒の感度の大幅な悪化を招くことなく、かつ光触媒含有層側基板と細胞接着阻害層とが接触することなく配置することが可能となるからである。
このように光触媒含有層と細胞接着阻害層表面とを所定の間隔で離して配置することにより、酸素と水および光触媒作用により生じた活性酸素種が脱着しやすくなる。すなわち、上記範囲より光触媒含有層と細胞接着阻害層との間隔を狭くした場合は、上記活性酸素種の脱着がしにくくなり、結果的に細胞接着阻害材料を分解または変性させる速度を遅くしてしまう可能性があることから好ましくない。また、上記範囲より間隔を離して配置した場合は、生じた活性酸素種が細胞接着阻害層に届き難くなり、この場合も細胞接着阻害材料の分解または変性の速度を遅くしてしまう可能性があることから好ましくない。
このような極めて狭い間隙を均一に形成して光触媒含有層と細胞接着阻害層とを配置する方法としては、例えばスペーサを用いる方法を挙げることができる。そして、このようにスペーサを用いることにより、均一な間隙を形成することができると共に、このスペーサが接触する部分は、光触媒の作用が細胞接着阻害層表面に及ばないことから、このスペーサを上述した細胞接着阻害部と同様のパターンを有するものとすることにより、スペーサの形成されていない部分のみの細胞接着阻害材料を分解または変性させることができ、高精細に細胞接着部を形成することができるのである。また、このようなスペーサを用いることにより、光触媒の作用により生じた活性酸素種が拡散することなく、高濃度で細胞接着阻害層表面に到達することから、効率よく高精細な細胞接着部を形成することができる。
本発明においては、このような光触媒含有層側基板の配置状態は、少なくともエネルギー照射の間だけ維持されればよい。
ここで、本発明でいうエネルギー照射(露光)とは、エネルギー照射に伴う光触媒の作用によって、細胞接着阻害材料を分解または変性させることが可能ないかなるエネルギー線の照射をも含む概念であり、光の照射に限定されるものではない。
通常このようなエネルギー照射に用いる光の波長は、400nm以下の範囲、好ましくは380nm以下の範囲から設定される。これは、上述したように光触媒として用いられる好ましい光触媒が二酸化チタンであり、この二酸化チタンにより光触媒作用を活性化させるエネルギーとして、上述した波長の光が好ましいからである。
このようなエネルギー照射に用いることができる光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ、その他種々の光源を挙げることができる。
上述したような光源を用い、フォトマスクを介したパターン照射により行う方法の他、エキシマ、YAG等のレーザを用いてパターン状に描画照射する方法を用いることも可能である。また、上述したように、基材が細胞接着阻害部と同じパターン状に遮光部を有する場合には、基材側からエネルギーを全面に照射することにより、行うことができる。また、光触媒含有層上に、細胞接着阻害部と同じパターン状に遮光部を有する場合には、どの方向からでもエネルギーを全面に照射することにより、行うことができる。これらの場合、フォトマスク等が必要なく、位置あわせ等の工程が必要ない、という利点を有する。
ここで、上述したように、上記基材が凹部を有しており、上記凹部内に上記細胞接着阻害層が形成されている場合、上述した方法により全面にエネルギー照射を行ってもよい。また、例えば上記凹部が複数形成されている場合には、例えば各凹部ごとにそれぞれ異なるパターン状に露光を行ってもよい。このように各凹部ごとにそれぞれ露光を行う方法としては、例えば1つ1つの凹部に異なるマスクを配置し、上記光触媒含有層側基板を用いてエネルギー照射する方法や、例えば光ファイバの先に、クロムマスクやステンシルマスク等と上記光触媒含有層側基板とを配置し、エネルギー照射する方法等が挙げられる。
なお、上記凹部の側壁にエネルギーが照射されないように、例えば筒状のマスク等を用い、上記凹部の底面のみ露光を行う方法を用いてもよい。
また、エネルギー照射に際してのエネルギーの照射量は、光触媒の作用によって細胞接着阻害材料が分解または変性されるのに必要な照射量とする。
この際、光触媒含有層を加熱しながらエネルギー照射することにより、感度を上昇させることが可能となり、効率的に細胞接着阻害材料を分解または変性させることができる点で好ましい。具体的には30℃〜80℃の範囲内で加熱することが好ましい。
また本発明におけるフォトマスクを介して行うエネルギー照射の方向は、上述した基材が透明である場合は、基材側および光触媒含有層側基板のいずれの方向からエネルギー照射を行っても良い。一方、基材が不透明な場合は、光触媒含有層側基板側からエネルギー照射を行う必要がある。
(細胞培養用パターニング基板)
次に、本発明の細胞培養用パターニング基板について説明する。本発明の細胞培養用パターニング基板は、上記基材上に、上記細胞接着部および細胞接着阻害部を有する細胞接着阻害層が形成されているものであれば、特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜他の層が形成されているもの等であってもよい。
また本発明においては、上記細胞接着部を形成した後、上記細胞培養用パターニング基板の一部を切り取り、この細胞培養用パターニング基板の一部を凹状の基材の底部等に貼り付けたもの等を細胞培養用パターニング基板としてもよい。
D.細胞培養基板
次に、本発明の細胞培養基板について説明する。本発明の細胞培養基板は、上述した細胞培養用パターニング基板における細胞接着部上に、細胞が接着したものである。
本発明の細胞培養基板は、例えば図9に示すように、上記細胞接着阻害層2の細胞接着部4上にのみ細胞7が接着し、細胞接着阻害部2´上には、細胞7が接着していないものである。
本発明によれば、上記細胞培養用パターニング基板上には、細胞と接着性を有する細胞接着部と、細胞と接着性を有しない細胞接着阻害部とが形成されていることから、例えば細胞を細胞培養用パターニング基板の全面に塗布した場合であっても、細胞接着部のみに細胞を接着させて、細胞接着阻害部上の細胞を容易に除去することができる。これにより、複雑な工程や細胞に悪影響を及ぼす処理液等を用いることなく、容易に形成されたものとすることができるのである。また、上記細胞培養用パターニング基板中には、光触媒が含有されている必要がないことから、経時で光触媒が細胞に影響を及ぼす可能性のないものとすることもでき、高品質な細胞培養基板とすることができるのである。
以下、本発明の細胞培養基板に用いられる細胞について説明する。ここで、細胞培養用パターニング基板については、上記「C.細胞培養用パターニング基板」で説明したものであるので、ここでの説明は省略する。
(細胞)
本発明の細胞培養基板に用いられる細胞としては、上記細胞培養用パターニング基板の細胞接着部上に接着するものであり、細胞接着阻害部上には接着しないものであれば特に限定されるものではない。
本発明に用いられる細胞としては例えば、神経組織、肝臓、腎臓、膵臓、血管、脳、軟骨等、血球系等の非接着性細胞以外なら、生体に存在するあらゆる組織とそれに由来する細胞とすることができる。また一般的に非接着性の細胞についても、近年、接着固定を行う為に細胞膜を修飾する技術が考案されており、必要に応じてこのような技術を用いる事で本発明に用いることが可能である。
ここで、上述したような各組織は種々の機能をもつ細胞により形成されていることから、所望する細胞を選択し、使用する必要がある。例えば肝臓の場合、肝実質細胞以外にも上皮細胞、内皮細胞、クッパー細胞、繊維芽細胞、脂肪摂取細胞等から形成されることとなる。なおこの場合、細胞の種類により細胞接着阻害材料に対する接着阻害性が異なる為、細胞種に応じて、上記細胞接着阻害部に用いられる細胞接着阻害材料やその組成比の選択が必要となる。
また、細胞を細胞接着部に接着させる方法としては、上記細胞接着部と細胞接着阻害部とを有する上記細胞培養用パターニング基板の上記細胞接着部のみに細胞を接着させることが可能な方法であれば特に限定されるものではない。例えばインクジェットプリンタやマニピュレータ等で細胞を接着させる方法等であってもよいが、細胞懸濁液を播種して上記細胞接着部に細胞を接着させた後、不要となった細胞接着阻害部上の細胞をリン酸バッファで洗浄し、細胞を除去する方法が一般的に用いられる。このような方法としては、例えば参考文献“Spatial distribution of mammalian cells dicated by material surface chemistry”,Kevin E.Healy 他,Biotech.Bioeng.(1994) p.792等に記載されている方法を用いること等ができる。
E.細胞培養用パターニング基板の製造方法
次に、本発明の細胞培養用パターニング基板の製造方法について説明する。本発明の細胞培養用パターニング基板の製造方法は、基材上に、細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有しかつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着阻害材料を含有する細胞接着阻害層を形成する細胞接着阻害層形成工程と、
上記細胞接着阻害層と、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有する光触媒含有層側基板とを、上記細胞接着阻害層と上記光触媒含有層とが対向するように配置した後、所定の方向からエネルギー照射し、上記細胞接着阻害層中に含有される細胞接着阻害材料が分解または変性された細胞接着部と、上記細胞接着部以外の細胞接着阻害部とからなるパターンを形成するエネルギー照射工程と
を有するものである。
本発明の細胞培養用パターニング基板の製造方法は、例えば図5に示すように、基材1上に少なくとも細胞接着阻害材料を含有する細胞接着阻害層を形成する細胞接着阻害層2を形成する細胞接着阻害層形成工程(図5(a))と、基体11および光触媒を含有する光触媒含有層12とを有する光触媒含有層側基板13を準備し、この細胞接着阻害層2および光触媒含有層12を対向させて配置し、例えばフォトマスク5等を用いてエネルギー6を照射し(図5(b))、エネルギーが照射された領域の細胞接着阻害層2中に含有される細胞接着阻害材料を分解または変性さた細胞接着部4と、エネルギー照射されておらず、細胞との接着性が低い細胞接着阻害部2´とを形成するエネルギー照射工程(図5(c))とを有するものである。
本発明によれば、上記光触媒含有層側基板を用いてエネルギー照射することにより、容易に上記細胞接着阻害層中に含有される細胞接着阻害材料を分解または変性させることができ、高精細なパターン状に細胞接着部および細胞接着阻害部を形成することが可能となるのである。また、上記細胞接着阻害層中に光触媒が含有される必要がないことから、経時で光触媒が影響を及ぼすことのない、高品質な細胞培養用パターニング基板とすることができる。
以下、本発明の各工程について説明する。
1.細胞接着阻害層形成工程
まず、本発明の細胞接着阻害層形成工程について説明する。本発明の細胞接着阻害層形成工程は、基材上に、細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有しかつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着阻害材料を含有する細胞接着阻害層を形成する工程である。本発明においては、少なくとも上記細胞接着阻害材料を含有する塗工液等を用いて、基材上に塗布することにより行うことができ、その塗布方法やその材料等については、特に限定されるものではないが、少なくともエネルギー照射された後に、細胞と接着性が良好な細胞接着性を有する細胞接着材料が含有されていることが好ましい。これにより、後述するエネルギー照射工程において、エネルギー照射された領域である細胞接着部の細胞との接着性を高いものとすることができ、高精細なパターン状に細胞を接着することが可能な細胞培養用パターニング基板とすることができるからである。
なお、本工程に用いられる細胞接着阻害材料、細胞接着材料、および基材や、細胞接着阻害層の形成方法については、上述した「B.パターニング用基板」の項で説明したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
2.エネルギー照射工程
次に、本発明におけるエネルギー照射工程について説明する。本発明におけるエネルギー照射工程においては、上記細胞接着阻害層と、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有する光触媒含有層側基板とを、上記細胞接着阻害層と上記光触媒含有層とが対向するように配置した後、所定の方向からエネルギー照射し、上記細胞接着阻害層中に含有される細胞接着阻害材料が分解または変性された細胞接着阻害部と、上記細胞接着阻害部以外の細胞接着部とからなるパターンを形成する工程である。
本工程は、上述した細胞接着阻害層形成工程により形成された細胞接着阻害層と、上記光触媒含有層側基板の光触媒含有層とを対向させてエネルギーをパターン状に照射し、細胞接着阻害層中の細胞接着材料が分解または変性されて細胞との接着性を有する細胞接着部が形成されるものであれば、その方法等は特に限定されるものではない。
ここで、本工程に用いられる光触媒含有層側基板や、エネルギー照射の方法については、上述した「C.細胞培養用パターニング基板」の項で説明したようなものを用いることが可能であるので、ここでの詳しい説明は省略する。
F.細胞培養基板の製造方法
次に、本発明の細胞培養基板の製造方法について説明する。本発明の細胞培養基板の製造方法は、上記細胞培養用パターニング基板の製造方法により製造された細胞培養用パターニング基板の細胞接着部上に、細胞を接着させる細胞接着工程を有するものである。
本発明によれば、上記細胞培養用パターニング基板には、細胞接着阻害層上に細胞との接着性を有する細胞接着部と、細胞との接着性を有しない細胞接着阻害部とが形成されていることから、この細胞接着阻害層上に、細胞を塗布等することにより、容易に細胞接着部上にのみ細胞が接着した細胞培養基板を製造することができるのである。また、上記細胞培養用パターニング基板中に、光触媒が含有されている必要がないことから、経時で光触媒が細胞に影響を及ぼす可能性のないものとすることができ、高品質な細胞培養基板とすることができるのである。
ここで、本発明における細胞接着工程は、上記細胞接着部上に細胞を付着させることが可能な方法であれば、特に限定されるものではなく、上述した「D.細胞培養基板」の項で説明したような方法とすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例1]
(細胞接着阻害層の形成)
イソプロピルアルコール3g、オルガノシランTSL8114(GE東芝シリコーン)0.4g、およびフルオロアルキルシランXC95-A9715(GE東芝シリコーン)0.1gを混合し、攪拌しながら20分間、100℃で加温した。この溶液をスピンコーティング法により予めアルカリ処理を施した厚さ0.7mmのガラス基板に塗布し、その基板を150℃の温度で10分間乾燥することにより、加水分解、重縮合反応を進行させ、膜厚が約40nmの、フルオロアルキル基を含むオルガノポリシロキサン層からなる細胞接着阻害層を基板上に形成し、パターニング用基板を形成した。
(パターニング用基板のパターニング)
光触媒層が形成されたフォトマスクを、光触媒層と上記パターニング用基板の細胞接着阻害層が対向するように静置し、フォトマスク越しに水銀ランプにより6J/cm(測定波長254nm)の紫外線照射を行い、未露光部が細胞接着阻害性で露光部が細胞接着性にパターン化された細胞接着性表面を有する細胞培養用パターニング基板を得た。
(細胞接着工程)
各種組織に由来する細胞の培養実験手順については、例えば“組織培養の技術 第三版 基礎編”, 日本組織培養学会編,朝倉書店等にその詳細が述べられている。
本出願においては、ラット肝実質細胞を用いて基板を評価した。
まず、ラットより摘出した肝臓をシャーレに移してメスで5mm大に細分し、20mlのDMEM培地を加えてピペットで軽く懸濁した後、細胞濾過器で濾過した。得られた粗分散細胞浮遊液を500〜600rpmで90秒間遠心処理し、上清を吸引して除去した。残留した細胞に新たにDMEM培地を加えて再び遠心処理した。この操作を3回繰り返すことにより、ほぼ均一な肝実質細胞を得た。得られた肝実質細胞に、DMEM培地20mlを加えて懸濁し、肝実質細胞懸濁液を調製した。
次にWaymouth MB752/1培地(L-グルタミン含有、NaHCO非含有) (ギブコ) 14.12gに蒸留水900mlを添加した。これにNaHCO 2.24g、アンホテリシンB液(ICN)10ml、ペニシリンストレプトマイシン液(ギブコ)10mlを加えて攪拌した。これをpH7.4に調整した後、全量を1000mlとし、0.22μmのメンブレンフィルターで濾過滅菌したものをWaymouth MB752/1培地液とした。
先に作成した肝実質細胞懸濁液を、同じく作成したWaymouth MB752/1培地液に懸濁した上で、細胞接着部と細胞接着阻害部を有する、上述した細胞培養用パターニング基板上に播種した。この基板を37℃,5%CO付与したインキュベータ内に24時間静置し、基板上全面に肝実質細胞を接着させた。この基板をPBSで2回洗浄することで非接着細胞や死細胞を除去した後、新しい培地液と交換した。培地液を交換しながら48時間まで細胞の培養を続け光学顕微鏡で細胞を観察したところ、細胞が細胞培養用パターニング基板上の細胞接着部に沿いながら接着している事を確認した。
[実施例2]
(細胞接着阻害層の形成)
イソプロピルアルコール6g、トルエン2g、オルガノシランTSL8114(GE東芝シリコーン)0.4g、およびポリ(2−メトキシエチル)アクリレート0.1gを混合し、攪拌しながら20分間、100℃で加温した。この溶液をスピンコーティング法により予めアルカリ処理を施した厚さ0.7mmのガラス基板に塗布し、その基板を150℃の温度で10分間乾燥することにより、加水分解、重縮合反応を進行させ、膜厚が約60nmの、フルオロアルキル基を含むオルガノポリシロキサン層を基板上に形成し、細胞接着阻害層を有するパターニング用基板とした。
(パターニング用基板のパターニング)
光触媒層が形成されたフォトマスクを、光触媒層と上記パターニング用基板の細胞接着阻害層が相対するように静置し、フォトマスク越しに水銀ランプにより5J/cm(測定波長254nm)の紫外線照射を行い、未露光部が細胞接着阻害性で露光部が細胞接着性にパターン化された細胞接着性表面を有する細胞培養用パターニング基板を得た。
(細胞接着工程)
実施例1と同様の手順で実験を行い、細胞が細胞培養用パターニング基板上の細胞接着部に沿いながら接着している事を確認した。
[実施例3]
市販の直径35mmのプラスチックディッシュ(コーニング社製)の底面の中央部に、直径14mmの穴をあけた。続いて、厚さ約0.1mmのガラス基板を用いて上記実施例1と同様に、細胞培養用パターニング基板を形成し、この細胞培養用パターニング基板を21mm角に切断した。その後、切断された細胞培養用パターニング基板のガラス基板を、上記プラスチックディッシュに、接着剤KE45T(信越シリコーン社製)を用いて貼りつけた。
(細胞の接着)
上記プラスチックディッシュを、70%エタノールで滅菌し、PBSで洗浄した後、DMEM培地で洗浄した。その後、実施例1と同様に、細胞を培養したところ、細胞がプラスチックディッシュ内の細胞接着部に沿いながら接着している事を確認した。
[実施例4]
厚さ約0.1mmのガラス基板を用いて実施例2と同様に、細胞接着阻害層を有する細胞培養用パターニング基板を形成し、この細胞培養用パターニング基板を21mm角に切断した。その後、実施例3と同様の手順により、切断された細胞培養用パターニング基板のガラス基板を、上記プラスチックディッシュに貼りつけた。
(細胞の培養)
実施例3と同様の方法により、プラスチックディッシュ内で細胞を培養したところ、細胞がプラスチックディッシュ内の細胞接着部に沿いながら接着している事を確認した。
[実施例5]
(パターニング用基板の形成)
イソプロピルアルコール3g、オルガノシランTSL8114(GE東芝シリコーン)0.2g、およびPEG−シラン(Methoxypolyethylene glycol 5,000 trimethylsilyl ether、Fluka)0.2gを混合し、攪拌しながら20分間100℃で加温した。この溶液をスピンコーティング法により、洗浄済みガラス基板(厚さ0.7mm)上に塗布し、続いて上記基板を150℃で10分間加熱処理を行った。これにより、膜厚が160nmの、ポリエチレングリコールを含むオルガノポリシロキサン層からなる細胞接着阻害層が基板上に形成されたパターニング用基板を得た。
(パターニング用基板のパターニング、および細胞の接着)
実施例1と同様に、パターニング用基板のパターニングを行って、細胞培養用パターニング基板を形成した。その後、上記細胞培養用パターニング基板上に、実施例1と同様に細胞を接着させたところ、本実施例においても細胞が細胞培養用パターニング基板上の細胞接着部に沿って接着していることを確認した。
[実施例6]
厚さ約0.1mmのガラス基板を用いて実施例5と同様に、細胞接着阻害層を有する細胞培養用パターニング基板を形成し、この細胞培養用パターニング基板を21mm角に切断した。その後、実施例3と同様の手順により、切断された細胞培養用パターニング基板のガラス基板を、上記プラスチックディッシュに貼りつけた。
(細胞の培養)
実施例3と同様の方法により、プラスチックディッシュ内で細胞を培養したところ、細胞がプラスチックディッシュ内の細胞接着部に沿いながら接着している事を確認した。
本発明のパターニング用基板の一例を示す概略断面図である。 本発明のパターニング用基板の他の例を示す概略断面図である。 本発明の細胞培養用パターニング基板の一例を示す概略断面図である。 本発明の細胞培養用パターニング基板の他の例を示す概略断面図である。 本発明の細胞培養用パターニング基板における細胞接着阻害部の形成方法の一例を示す工程図である。 本発明に用いられる光触媒含有層側基板の一例を示す概略断面図である。 本発明に用いられる光触媒含有層側基板の他の例を示す概略断面図である。 本発明に用いられる光触媒含有層側基板の他の例を示す概略断面図である。 本発明の細胞培養基板の一例を示す概略断面図である。 本発明の細胞培養用パターニング基板に用いられる基材を説明するための概略断面図である。
符号の説明
1 … 基板
2 … 細胞接着阻害層
2´… 細胞接着阻害部
3 … 遮光部
4 … 細胞接着部
5 … フォトマスク
6 … エネルギー
11… 基体
12… 光触媒含有層
13… 光触媒含有層側基板

Claims (9)

  1. 基材と、前記基材上に形成され、細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有しかつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により変性される細胞接着阻害材料を含有する細胞接着阻害層とを有することを特徴とするパターニング用基板。
  2. 基材と、前記基材上に形成され、細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有しかつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着阻害材料、およびバインダを含有する細胞接着阻害層とを有することを特徴とするパターニング用基板。
  3. 前記細胞接着阻害層が、少なくともエネルギー照射された後に、細胞と接着性を有する細胞接着材料を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のパターニング用基板。
  4. 前記基材上に遮光部が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載のパターニング用基板。
  5. 請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載のパターニング用基板の前記細胞接着阻害層が、パターン状に前記細胞接着阻害材料が分解または変性された細胞接着部と、前記細胞接着部以外の領域である細胞接着阻害部とを有することを特徴とする細胞培養用パターニング基板。
  6. 請求項5に記載の細胞培養用パターニング基板の、前記細胞接着部上に、細胞が接着していることを特徴とする細胞培養基板。
  7. 細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有し、かつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着阻害材料と、少なくともエネルギー照射された後に、細胞と接着性を有する細胞接着材料とを含有することを特徴とするパターニング用基板用コーティング液。
  8. 基材上に、細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有しかつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着阻害材料を含有する細胞接着阻害層を形成する細胞接着阻害層形成工程と、
    前記細胞接着阻害層と、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有する光触媒含有層側基板とを、前記細胞接着阻害層と前記光触媒含有層とが対向するように配置した後、所定の方向からエネルギー照射し、前記細胞接着阻害層中に含有される細胞接着阻害材料が分解または変性された細胞接着部と、前記細胞接着部以外の細胞接着阻害部とからなるパターンを形成するエネルギー照射工程と
    を有することを特徴とする細胞培養用パターニング基板の製造方法。
  9. 請求項8に記載の細胞培養用パターニング基板の製造方法により製造された細胞培養用パターニング基板の前記細胞接着部上に、細胞を接着させる細胞接着工程を有することを特徴とする細胞培養基板の製造方法。
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