例えば特許文献1に記載されている様に、自動車用自動変速装置として、図8〜10に示す様なトロイダル型無段変速機を使用する事が研究され、一部で実施されている。このトロイダル型無段変速機は、ダブルキャビティ型と呼ばれるもので、入力軸1の両端部周囲に、特許請求の範囲に記載した第一のディスクである入力側ディスク2、2を、ボールスプライン3、3を介して支持している。従ってこれら両入力側ディスク2、2は、互いに同心に、且つ、同期した回転を自在に支持されている。又、上記入力軸1の中間部周囲に出力歯車4を、この入力軸1に対する相対回転を自在として支持している。そして、この出力歯車4の中心部に設けた円筒部の両端部に、特許請求の範囲に記載した第二のディスクである出力側ディスク5、5を、それぞれスプライン係合させている。従ってこれら両出力側ディスク5、5は、上記出力歯車4と共に、同期して回転する。
又、上記各入力側ディスク2、2と上記各出力側ディスク5、5との間には、それぞれ複数個ずつ(通常2〜3個ずつ)のパワーローラ6、6を挟持している。これら各パワーローラ6、6はそれぞれ、特許請求の範囲に記載した支持部材であるトラニオン7、7の内側面に、支持軸8、8及び複数の転がり軸受を介して、回転自在に支持されている。上記各トラニオン7、7は、それぞれの長さ方向(図8、10の上下方向、図9の表裏方向)両端部に、これら各トラニオン7、7毎に互いに同心に設けられた枢軸9、9を中心として揺動変位自在である。これら各トラニオン7、7を傾斜させる動作は、油圧式のアクチュエータ10、10により、これら各トラニオン7、7を上記枢軸9、9の軸方向に変位させる事で行なうが、総てのトラニオン7、7の傾斜角度は、油圧式及び機械式に互いに同期させる。
即ち、前記入力軸1と出力歯車4との間の変速比を変えるべく、上記各トラニオン7、7の傾斜角度を変える場合には、上記各アクチュエータ10、10により上記各トラニオン7、7を、それぞれ逆方向(各ディスク2、5の回転方向に関して同方向)に、例えば、図10の右側のパワーローラ6を同図の下側に、同図の左側のパワーローラ6を同図の上側に、それぞれ変位させる。この結果、これら各パワーローラ6、6の周面と上記各入力側ディスク2、2及び各出力側ディスク5、5の内側面との当接部に作用する、接線方向の力の向きが変化(当接部にサイドスリップが発生)する。そして、この力の向きの変化に伴って上記各トラニオン7、7が、支持板11、11に枢支された枢軸9、9を中心として、互いに逆方向に揺動(傾斜)する。この結果、上記各パワーローラ6、6の周面と上記入力側、出力側各ディスク2、5の内側面との当接位置が変化し、上記入力軸1と出力歯車4との間の回転変速比が変化する。
上記各アクチュエータ10、10への圧油の給排状態は、これら各アクチュエータ10、10の数に関係なく1個の変速比制御弁12により行ない、何れか1個のトラニオン7の動きをこの変速比制御弁12にフィードバックする様にしている。この変速比制御弁12は、ステッピングモータ13により軸方向(図10の左右方向、図8の表裏方向)に変位させられるスリーブ14と、このスリーブ14の内径側に軸方向の変位自在に嵌装されたスプール15とを有する。又、上記各トラニオン7、7と上記各アクチュエータ10、10のピストン16、16とを連結するロッド17、17のうち、何れか1個のトラニオン7に付属のロッド17の端部にプリセスカム18を固定しており、このプリセスカム18とリンク腕19とを介して、上記ロッド17の動き、即ち、軸方向の変位量と回転方向との変位量との合成値を上記スプール15に伝達する、フィードバック機構を構成している。又、上記各トラニオン7、7同士の間には同期ケーブル20を掛け渡して、油圧系の故障時にも、これら各トラニオン7、7の傾斜角度を、機械的に同期させられる様にしている。
変速状態を切り換える際には、上記ステッピングモータ13により上記スリーブ14を、得ようとする変速比に見合う所定位置にまで変位させて、上記変速比制御弁12の所定方向の流路を開く。この結果、上記各アクチュエータ10、10に圧油が、所定方向に送り込まれて、これら各アクチュエータ10、10が上記各トラニオン7、7を所定方向に変位させる。即ち、上記圧油の送り込みに伴ってこれら各トラニオン7、7が、前記各枢軸9、9の軸方向に変位しつつ、これら各枢軸9、9を中心に揺動する。そして、上記何れか1個のトラニオン7の動き(軸方向及び揺動変位)が、上記ロッド17の端部に固定した上記プリセスカム18とリンク腕19とを介して上記スプール15に伝達され、このスプール15を軸方向に変位させる。この結果、上記トラニオン7が所定量変位した状態で、上記変速比制御弁12の流路が閉じられ、上記各アクチュエータ10、10への圧油の給排が停止される。
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、エンジン等の動力源に繋がる駆動軸22により一方(図8、9の左方)の入力側ディスク2を、図示の様なローディングカム式の、或は油圧式の押圧装置23を介して回転駆動する。この結果、前記入力軸1の両端部に支持された1対の入力側ディスク2、2が、互いに近づく方向に押圧されつつ同期して回転する。そして、この回転が、上記各パワーローラ6、6を介して上記各出力側ディスク5、5に伝わり、前記出力歯車4から取り出される。
この様に上記各入力側ディスク2、2から上記各出力側ディスク5、5に動力を伝達する際に、上記各トラニオン7、7には、それぞれの内側面に支持した上記各パワーローラ6、6の周面と上記各ディスク2、5の内側面との摩擦に伴って、それぞれの両端部に設けた上記各枢軸9、9の軸方向の力が加わる。この力は、所謂2Ftと呼ばれるもので、その大きさは、上記各入力側ディスク2、2から上記各出力側ディスク5、5(或は出力側ディスク5、5から入力側ディスク2、2)に伝達する力(トルク)に比例する。そして、この様な力2Ftは、前記各アクチュエータ10、10により支承する。従って、トロイダル型無段変速機の運転時に、これら各アクチュエータ10、10を構成するピストン16、16の両側に存在する1対の油圧室同士の圧力差は、上記力2Ftの大きさに比例する。
上記入力軸1と出力歯車4との回転速度を変える場合で、先ず入力軸1と出力歯車4との間で減速を行なう場合には、上記各アクチュエータ10、10により上記各トラニオン7、7を上記各枢軸9、9の軸方向に移動させ、これら各トラニオン7、7を図9に示す位置に揺動させる。そして、上記各パワーローラ6、6の周面をこの図9に示す様に、上記各入力側ディスク2、2の内側面の中心寄り部分と上記各出力側ディスク5、5の内側面の外周寄り部分とにそれぞれ当接させる。反対に、増速を行なう場合には、上記各トラニオン7、7を図9と反対方向に揺動させ、上記各パワーローラ6、6の周面を、この図9に示した状態とは逆に、上記各入力側ディスク2、2の内側面の外周寄り部分と上記各出力側ディスク5、5の内側面の中心寄り部分とに、それぞれ当接する様に、上記各トラニオン7、7を傾斜させる。これら各トラニオン7、7の傾斜角度を中間にすれば、入力軸1と出力歯車4との間で、中間の変速比(速度比)を得られる。
更に、上述の様に構成され作用するトロイダル型無段変速ユニットを実際の自動車用の無段変速機に組み込む場合、遊星歯車機構と組み合わせて無段変速装置を構成する事が、特許文献2〜6等に記載されている様に、従来から提案されている。
図11は、これら各特許文献のうちの特許文献5に記載された無段変速装置を示している。この無段変速装置は、ダブルキャビティ型のトロイダル型無段変速機24と遊星歯車式変速機25とを組み合わせて成る。そして、低速走行時には動力を上記トロイダル型無段変速機24のみで伝達し、高速走行時には動力を、主として上記遊星歯車式変速機25により伝達すると共に、この遊星歯車式変速機25による速度比を、上記トロイダル型無段変速機24の速度比を変える事により調節自在としている。
この為に、上記トロイダル型無段変速機24の中心部を貫通し、両端部に1対の入力側ディスク2、2を支持した入力軸1の先端部(図11の右端部)と、上記遊星歯車式変速機25を構成するリング歯車26を支持した支持板27の中心部に固定した伝達軸28とを、高速用クラッチ29を介して結合している。上記トロイダル型無段変速機24の構成は、次述する押圧装置23aの点を除き、前述の図8〜10に示した従来構造の場合と、実質的に同様である。
又、駆動源であるエンジン30のクランクシャフト31の出力側端部(図11の右端部)と上記入力軸1の入力側端部(=基端部=図11の左端部)との間に、発進クラッチ32と油圧式の押圧装置23aとを、動力の伝達方向に関して互いに直列に設けている。前記特許文献5に記載された無段変速装置の場合には、上記押圧装置23aに任意の油圧を導入自在としている(特許文献5に記載の明細書の[0012]段落参照)。
又、上記入力軸1の回転に基づく動力を取り出す為の出力軸33を、上記入力軸1と同心に配置している。そして、この出力軸33の周囲に前記遊星歯車式変速機25を設けている。この遊星歯車式変速機25を構成する太陽歯車34は、上記出力軸33の入力側端部(図11の左端部)に固定している。従ってこの出力軸33は、上記太陽歯車34の回転に伴って回転する。この太陽歯車34の周囲には前記リング歯車26を、上記太陽歯車34と同心に、且つ、回転自在に支持している。そして、このリング歯車26の内周面と上記太陽歯車34の外周面との間に、複数の遊星歯車35、35を設けている。これら各遊星歯車35、35は、それぞれ1対ずつの遊星歯車素子36a、36bにより構成している。これら各遊星歯車素子36a、36bは、互いに噛合すると共に、外径側に配置した遊星歯車素子36aが上記リング歯車26に噛合し、内径側に配置した遊星歯車素子36bが上記太陽歯車34に噛合している。この様な各遊星歯車35、35は、キャリア37の片側面(図11の左側面)に回転自在に支持している。又、このキャリア37は、上記出力軸33の中間部に、回転自在に支持している。
又、上記キャリア37と、前記トロイダル型無段変速機24を構成する1対の出力側ディスク5、5とを、動力伝達機構38により、回転力の伝達を可能な状態に接続している。この動力伝達機構38は、上記入力軸1及び上記出力軸33と平行な伝達軸39と、この伝達軸39の一端部(図11の左端部)に固定したスプロケット40aと、上記各出力側ディスク5、5に固定したスプロケット40bと、これら両スプロケット40a、40b同士の間に掛け渡したチェン41と、上記伝達軸39の他端(図11の右端)と上記キャリア37とにそれぞれ固定されて互いに噛合した第一、第二の歯車42、43とにより構成している。従って上記キャリア37は、上記各出力側ディスク5、5の回転に伴って、これら出力側ディスク5、5と反対方向に、上記第一、第二の歯車42、43の歯数及び上記1対のスプロケット40a、40bの歯数に応じた速度で回転する。
一方、上記入力軸1と上記リング歯車26とは、この入力軸1と同心に配置された前記伝達軸28を介して、回転力の伝達を可能な状態に接続自在としている。この伝達軸28と上記入力軸1との間には、前記高速用クラッチ29を、これら両軸28、1に対し直列に設けている。従って、この高速用クラッチ29の接続時にこの伝達軸28は、上記入力軸1の回転に伴って、この入力軸1と同方向に同速で回転する。
又、図11に示した無段変速装置は、モード切換手段を構成するクラッチ機構を備える。このクラッチ機構は、上記高速用クラッチ29と、上記キャリア37の外周縁部と上記リング歯車26の軸方向一端部(図11の右端部)との間に設けた低速用クラッチ44と、このリング歯車26と無段変速装置のハウジング(図示省略)等、固定の部分との間に設けた後退用クラッチ45とから成る。各クラッチ29、44、45は、何れか1個のクラッチが接続された場合には、残り2個のクラッチの接続が断たれる。
上述の様に構成する無段変速装置は、先ず、低速走行時には、上記低速用クラッチ44を接続すると共に、上記高速用クラッチ29及び後退用クラッチ45の接続を断つ。この状態で前記発進クラッチ32を接続し、前記入力軸1を回転させると、前記トロイダル型無段変速機24のみが、この入力軸1から上記出力軸33に動力を伝達する。この様な低速走行時には、それぞれ1対ずつの前記入力側ディスク2、2と、出力側ディスク5、5との間の速度比を、前述の図8〜10に示したトロイダル型無段変速機単独の場合と同様にして調節する。
これに対して、高速走行時には、上記高速用クラッチ29を接続すると共に、上記低速用クラッチ44及び後退用クラッチ45の接続を断つ。この状態で上記発進クラッチ32を接続し、上記入力軸1を回転させると、この入力軸1から上記出力軸33には、前記伝達軸28と前記遊星歯車式変速機25とが、動力を伝達する。即ち、上記高速走行時に上記入力軸1が回転すると、この回転は上記高速用クラッチ29及び伝達軸28を介して上記リング歯車26に伝わる。そして、このリング歯車26の回転が複数の前記各遊星歯車35、35を介して前記太陽歯車34に伝わり、この太陽歯車34を固定した上記出力軸33を回転させる。この状態で、上記トロイダル型無段変速機24の速度比を変える事により上記各遊星歯車35、35の公転速度を変化させれば、上記無段変速装置全体としての速度比を調節できる。
即ち、上記高速走行時に上記各遊星歯車35、35が、上記リング歯車26と同方向に公転する。そして、これら各遊星歯車35、35の公転速度が遅い程、上記太陽歯車34を固定した上記出力軸33の回転速度が速くなる。例えば、上記公転速度とリング歯車26の回転速度(何れも角速度)が同じになれば、上記リング歯車26と出力軸33の回転速度が同じになる。これに対して、上記公転速度が上記リング歯車26の回転速度よりも遅ければ、上記リング歯車26の回転速度よりも上記出力軸33の回転速度が速くなる。反対に、上記公転速度が上記リング歯車26の回転速度よりも速ければ、上記リング歯車26の回転速度よりも上記出力軸33の回転速度が遅くなる。
従って、上記高速走行時には、前記トロイダル型無段変速機24の速度比を減速側に変化させる程、無段変速装置全体の速度比は増速側に変化する。この様な高速走行時の状態では、上記トロイダル型無段変速機24に、前記入力側ディスク2、2からではなく、前記出力側ディスク5、5から力(トルク)が加わる(低速時に加わるトルクをプラスのトルクとした場合にマイナスのトルクが加わる)。即ち、前記高速用クラッチ29を接続した状態では、前記エンジン30から上記入力軸1に伝達されたトルクは、前記伝達軸28を介して前記遊星歯車式変速機25のリング歯車26に伝達される。従って、上記入力軸1の側から上記各入力側ディスク2、2に伝達されるトルクは殆どなくなる。
一方、上記伝達軸28を介して前記遊星歯車式変速機25のリング歯車26に伝達されたトルクの一部は、前記各遊星歯車35、35から、前記キャリア37及び動力伝達機構38を介して上記各出力側ディスク5、5に伝わる。この様に各出力側ディスク5、5から上記トロイダル型無段変速機24に加わるトルクは、無段変速装置全体の速度比を増速側に変化させるべく、トロイダル型無段変速機24の速度比を減速側に変化させる程小さくなる。この結果、高速走行時に上記トロイダル型無段変速機24に入力されるトルクが小さくなる。そして、この様にトロイダル型無段変速機24に加わるトルクが低い場合には、前記押圧装置23aの押圧力を低くして、このトロイダル型無段変速機24の構成部品の耐久性向上を図る(特許文献5に記載の明細書の[0025]段落参照)。
更に、自動車を後退させるべく、前記出力軸33を逆回転させる際には、前記低速用、高速用両クラッチ44、29の接続を断つと共に、前記後退用クラッチ45を接続する。この結果、上記リング歯車26が固定され、上記各遊星歯車35、35が、このリング歯車26並びに前記太陽歯車34と噛合しつつ、この太陽歯車34の周囲を公転する。そして、この太陽歯車34並びにこの太陽歯車34を固定した上記出力軸33が、前述した低速走行時並びに上述した高速走行時とは逆方向に回転する。
又、特許文献6には、入力軸を回転させた状態のまま出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転、逆転の切り換え自在とした、ギヤード・ニュートラルと呼ばれる無段変速装置が記載されている。この無段変速装置は、図12に示す様に、トロイダル型無段変速機24aと遊星歯車式変速機25aとを組み合わせて成る。このうちのトロイダル型無段変速機24aは、入力軸1と、1対の入力側ディスク2、2と、出力側ディスク5aと、複数のパワーローラ6、6とを備える。図示の例では、この出力側ディスク5aは、1対の出力側ディスクの外側面同士を突き合わせて一体とした如き構造を有する。
又、上記遊星歯車式変速機25aは、上記入力軸1及び一方(図12の右方)の入力側ディスク2に結合固定されたキャリア46を備える。このキャリア46の径方向中間部に、その両端部にそれぞれ遊星歯車素子47a、47bを固設した第一の伝達軸48を、回転自在に支持している。又、上記キャリア46を挟んで上記入力軸1と反対側に、その両端部に太陽歯車49a、49bを固設した第二の伝達軸50を、上記入力軸1と同心に、回転自在に支持している。そして、上記各遊星歯車素子47a、47bと、上記出力側ディスク5aにその基端部(図12の左端部)を結合した中空回転軸51の先端部(図12の右端部)に固設した太陽歯車52又は上記第二の伝達軸50の一端部(図12の左端部)に固設した太陽歯車49aとを、それぞれ噛合させている。又、一方(図12の左方)の遊星歯車素子47aを、別の遊星歯車素子53を介して、上記キャリア46の周囲に回転自在に設けたリング歯車54に噛合させている。
一方、上記第二の伝達軸50の他端部(図12の右端部)に固設した太陽歯車49bの周囲に設けた第二のキャリア55に遊星歯車素子56a、56bを、回転自在に支持している。尚、この第二のキャリア55は、上記入力軸1及び第二の伝達軸50と同心に配置された、出力軸57の基端部(図12の左端部)に固設されている。又、上記各遊星歯車素子56a、56bは、互いに噛合すると共に、一方の遊星歯車素子56aが上記太陽歯車49bに、他方の遊星歯車素子56bが、上記第二のキャリア55の周囲に回転自在に設けた第二のリング歯車58に、それぞれ噛合している。又、上記リング歯車54と上記第二のキャリア55とを低速用クラッチ44aにより係脱自在とすると共に、上記第二のリング歯車58とハウジング等の固定の部分とを、高速用クラッチ29aにより係脱自在としている。
上述の様な、図12に示した無段変速装置の場合、上記低速用クラッチ44aを接続すると共に上記高速用クラッチ29aの接続を断った、所謂低速モード状態では、上記入力軸1の動力が上記リング歯車54を介して上記出力軸57に伝えられる。そして、前記トロイダル型無段変速機24aの変速比を変える事により、無段変速装置全体としての変速比、即ち、上記入力軸1と上記出力軸57との間の変速比が変化する。この様な低速モード状態では、無段変速装置全体としての変速比は、無限大に変化する。即ち、上記トロイダル型無段変速機24aの変速比を調節する事により、上記入力軸1を一方向に回転させた状態のまま上記出力軸57の回転状態を、停止状態を挟んで、正転、逆転の変換自在となる。
これに対して、上記低速用クラッチ44aの接続を断ち、上記高速用クラッチ29aを接続した、所謂高速モード状態では、上記入力軸1の動力が上記第一、第二の伝達軸48、50を介して上記出力軸57に伝えられる。そして、上記トロイダル型無段変速機24aの変速比を変える事により、無段変速装置全体としての変速比が変化する。この場合には、上記トロイダル型無段変速機24aの変速比を大きくする程、無段変速装置全体としての変速比が大きくなる。
ところで、トロイダル型無段変速機で、入力側、出力側各ディスクの内側面と各パワーローラの周面との転がり接触部(トラクション部)の面圧を確保する為の押圧装置の構造としては、図8、9、11、12に示したものの他にも、特許文献7、8に記載されたものが知られている。このうちの特許文献7には、油圧式の押圧装置に導入する油圧を、エンジンの吸入負圧とトラニオンの傾斜角度とにより調節する構造、並びに、ローディングカムと油圧シリンダとを組み合わせ、ローディングカムにより入力トルクに応じた押圧力を発生させると共に、油圧シリンダにより変速比に応じた押圧力を発生させる構造が記載されている。又、特許文献8には、トラクションオイルの動粘度を粘度センサにより測定し、この動粘度に応じて押圧装置が発生する押圧力を変化させる構造が記載されている。
上述した様な従来構造のうち、図8、9、12に示した構造の場合には、ローディングカム式の押圧装置23が発生する押圧力が過大になる場合が多く、トロイダル型無段変速機24、24aの構成部品の耐久性を確保する面から不利である。即ち、上記押圧装置23に要求される押圧力は、変速比に応じて変わる事が、前述した特許文献7の他、例えば非特許文献1等に記載されて、従来から知られている。一方、ローディングカム式の押圧装置23が発生する押圧力は、この押圧装置23の入力部に加わるトルクが同じである限り一定である。従って、ローディングカム式の押圧装置23は、要求される最も大きな押圧力を発生させる様に設計する。具体的には、変速比が、最も大きな押し付け力を必要とする値である場合に要求される押圧力を発生する構造とする。
又、図11に示した構造の場合には、高速用クラッチ29を接続した高速モード時にトロイダル型無段変速機24を通過するトルクが低くなる際に押圧装置23aが発生する油圧を低くする事だけしか考慮していない為、伝達効率確保及び耐久性確保の面から、必ずしも十分な効果を得られない。
又、特許文献7に記載されたものは、入力トルクと変速比とを考慮した押圧力を発生させる構造ではあるが、必要とする押圧力と現実に発生する押圧力との差を十分に小さくする様な、細かな調節を行なう事は難しい。
更に、特許文献8に記載されたものは、トラクションオイルの動粘度に応じた押圧力を得る事はできるが、より細かな調節を行なう事はできない。しかも、トラクション部の動粘度を測定する事自体難しいだけでなく、仮にできたとしても装置が複雑化する事が避けられないものと考えられる。
必要とする押圧力と現実に発生する押圧力との差を十分に小さくする、言い換えれば、押圧装置が発生する押圧力を、トラクション部の面圧を確保する為に最低限必要とされる押圧力にほぼ一致させる(実際には僅かに大きくする)為には、油圧式の押圧装置に導入する油圧を、電気的に制御する事が考えられる。この様に油圧を電気的に制御すれば、変速比の変化に拘らず、上記押圧装置が発生する押圧力を、最低限必要とされる押圧力よりも僅かだけ大きくして、上記トラクション部の面圧を過大にする事なく、しかもこのトラクション部で過大な滑りが生じる事を防止できる。
但し、油圧式の押圧装置に導入する油圧を、純電気的に制御した場合、制御用のコンピュータの故障や断線等の制御回路の故障時に、この油圧が喪失若しくは極端に低下する。この結果、トロイダル型無段変速機を構成する入力側、出力側各ディスクの内側面と各パワーローラの周面との転がり接触部(上記トラクション部)で、これら各面同士が滑って動力の伝達を行なえなくなる、所謂グロススリップが発生する。この様なグロススリップが発生すると、トロイダル型無段変速機を搭載した車両の走行が不能になるだけでなく、上記各面の摩耗が著しく進行し、トロイダル型無段変速機に修理不能な程の損傷が発生する可能性がある。一方、現状に於いては、電気的な制御回路が故障する可能性は、油圧式或は機械式の制御機構が故障する可能性よりも高い。この為、純電気式の制御回路のみで、上記油圧式の押圧装置に導入する油圧を制御する事は、信頼性確保の面から問題がある。
この様な事情に鑑みて、特願2003−284196号には、図13〜15に示す様な押圧装置を組み込んだ、トロイダル型無段変速機用に関する発明が記載されている。
この先発明に係る構造では、トロイダル型無段変速機24bを構成する入力軸1の一端部(図13の左端部)に、断面コ字形で全体が円環状のシリンダ筒59を外嵌固定している。そして、このシリンダ筒59内に、入力側ディスク2の外半部(図13の左半部)を油密に嵌装して、油圧式の押圧装置23aを構成している。尚、上記シリンダ筒59の底板部と上記入力側ディスク2の外側面との間に予圧ばね116を設けて、各パワーローラ6、6と入力側、出力側各ディスク2、5の側面との転がり接触部(トラクション部)に、必要最小限の面圧を付与している。又、上記押圧装置23a内に、上記トロイダル型無段変速機24bを収納したケーシング(図示省略)の一部に設けた油溜部60からフィルタ61を通じて吸引し、圧油ポンプ62から吐出した圧油を、第一の圧力導入路63と、上記入力軸1内に設けた給油通路64とを通じて、送り込み自在としている。
又、上記第一の圧力導入路63の途中に圧力逃がし路65の一端部を接続し、この圧力逃がし路65の他端を、上記油溜部60に通じさせている。そして、この圧力逃がし路65の途中に押圧力制御弁66を、直列に設けている。この押圧力制御弁66は、リリーフ弁としての機能を備えたもので、その具体的構造を図14に示す様に、ケーシング67内に軸方向の変位を可能にして嵌装したスプール68を、ばね69により付勢して成る。又、上記押圧力制御弁66は、第一〜第三のパイロット部70〜72を備える。このうちの第一、第二のパイロット部70、71は、上記入力側ディスク2と上記出力側ディスク5との間で伝達される力の大きさに応じて上記押圧力制御弁66の開弁圧を調節する為のものである。これに対して、第三のパイロット部72は、上記トロイダル型無段変速機24bの変速比、このトロイダル型無段変速機24bの内部に存在する潤滑油(トラクションオイル)の温度、駆動源であるエンジンの回転速度等、上記伝達される力以外の運転条件に応じて上記押圧力制御弁66の開弁圧を調節する為のものである。図13に示した例は、上記第一〜第三のパイロット部70〜72に導入する油圧を適切に調節する事により、前記押圧装置23aが発生する押圧力を、上記トロイダル型無段変速機24bの運転状況に応じ、適正に規制する様に構成している。
上述の様な先発明に係る構造の場合、上記第一、第二のパイロット部70、71のうちの何れかのパイロット部に導入する油圧が高くなる程、上記押圧力制御弁66の開弁圧が高くなり、前記押圧装置23aを構成するシリンダ筒59内に導入する油圧を高くする。この為に、トラニオン7を枢軸9、9の軸方向に変位させる為のアクチュエータ10にピストン16を挟んで設けた1対の油圧室73a、73b同士の間の差圧を、上記何れかのパイロット部70、71に導入する様にしている。
上記1対の油圧室73a、73bには、前述の図8〜10に示した従来構造と同様に、変速比制御弁12を通じて、圧油を給排する。又、この変速比制御弁12を構成するスリーブ14(図10参照)は、マイクロコンピュータを内蔵した変速比制御装置74からの指令信号に基づいて、ステッピングモータ13(図10参照)により、軸方向に変位させられる。この様な変速比制御弁12を通じて油圧を導入される上記1対の油圧室73a、73b同士の間の差圧±△Pの大きさ|△P|が、上記トロイダル型無段変速機24bを通過する力(前記2Ft)に比例する事は、トロイダル型無段変速機の分野で広く知られている。尚、上記差圧が+とは、エンジンから駆動輪に力を伝達するのに伴って、図13の左上部のトラニオン7が上方に引っ張られる場合であり、−とは、減速時にエンジンブレーキの作動に伴って、上記トラニオン7が下方に押される場合を言う。
何れにしても先発明の構造では、本発明の対象となる差圧取り出し弁81により上記差圧±△Pを取り出して、前記第一、第二のパイロット部70、71のうちの何れかのパイロット部に導入する様に構成している。上記差圧取り出し弁81は、その具体的構造を図15に示す様に、小径部と大径部とを交互に配置したシリンダ孔75内に軸方向の変位自在に嵌装したスプール76を挟んで、それぞれ1対ずつのリターンスプリング77、77とパイロット部78a、78bとを設けている。上記スプール76に設けた複数のランドは、上記シリンダ孔75の小径部に、油密に嵌合自在である。そして、上記シリンダ孔75の中央部に存在する大径部内に、第二の圧力導入路79の下流端を開口させている。又、この第二の圧力導入路79の上流端は、前記圧油ポンプ62の吐出口に接続しており、この第二の圧力導入路79の中間部に減圧弁80を、直列に設けている。
上記差圧取り出し弁81を構成するスプール76は、上記1対のパイロット部78a、78bに導入された、前記アクチュエータ10にピストン16を挟んで設けた1対の油圧室73a、73b内の圧力に応じて、軸方向に変位する。そして、上記第二の圧力導入路79の下流端と、前記押圧力制御弁66に付属の第一、第二のパイロット部70、71との導通状態を制御する。即ち、上記差圧取り出し弁81を構成するスプール76は、上記1対のパイロット部78a、78bに導入された油圧の差に応じて軸方向に変位する。そして、何れのパイロット部78a(78b)に導入された油圧が他のパイロット部78b(78a)に導入された油圧よりも高いかにより、上記差圧取り出し弁81にそれぞれの一端部(図13の左上端部)を接続した第三の圧力導入路82a(82b)と、上記スプール76の両端面に対向する部分に設けた反力室83a(83b)とに、油圧を導入する。
例えば、トロイダル型無段変速機が駆動源から駆動輪に動力を伝達する際には、上記アクチュエータ10の油圧室73a内の油圧が他の油圧室73bよりも高くなる。この状態では、上記パイロット部78aに導入される油圧が他のパイロット部78bに導入される油圧よりも高くなり、上記スプール76が図13、15の右方に移動し、上記差圧取り出し弁81が図13の状態に切り換わる。この結果、前記第二の圧力導入路79を通じて送られてくる圧油が、一方(図13の右上方)の第三の圧力導入路82aを通じて、前記押圧力制御弁66の第一のパイロット部70に導入される。これに対して、エンジンブレーキ作動時には、反対に、上記他のパイロット部78bに導入される油圧が上記一方のパイロット部78aに導入される油圧よりも高くなり、上記スプール76が図13、15の左方に移動し、前記差圧取り出し弁81が図13とは逆の状態に切り換わる。この結果、上記第二の圧力導入路79を通じて送られてくる圧油が、他方(図13の左下方)の第三の圧力導入路82bを通じて、前記押圧力制御弁66の第二のパイロット部71に導入される。
何れの場合でも、上記第三の圧力導入路82a、82bに導入された圧油は、上記差圧取り出し弁81の反力室83a(83b)にも導入されて、上記スプール76の軸方向端面を押圧する。従って、このスプール76を軸方向に変位させて、上記第二の圧力導入路79と上記第三の圧力導入路82a(82b)とを連通させようとする力は、上記差圧取り出し弁81に設けた1対のパイロット部78a、78b内に導入された油圧の差|△P|に比例する。この結果、上記押圧力制御弁66の第一、第二のパイロット部70、71に導入される油圧は、上記アクチュエータ10の油圧室73a、73b内の油圧の差|△P|、即ち、トロイダル型無段変速機24bを通過する力に比例する。
上記押圧力制御弁66の開弁圧は、上記第一、第二のパイロット部70、71に導入される油圧が高くなる程高くなり、前記第一の圧力導入路63を通じて前記押圧装置23a内に導入される油圧は、上記押圧力制御弁66の開弁圧が高くなる程高くなる。従って、上記押圧装置23a内に導入される油圧、延てはこの押圧装置23aが発生する押圧力は、トロイダル型無段変速機24bを通過する力が大きくなる程大きくなる。この様にして上記押圧装置23aに発生させる押圧力は、上記トロイダル型無段変速機24bの変速比が、最も大きな押し付け力を必要とする値(例えば1.32)である場合に必要となる値である。
更に、図13に示した構造の場合には、油圧補正手段として、上記押圧力制御弁66に組み込んだ前記第三のパイロット部72に加えて、第四の圧力導入路84と電磁弁85とを設けている。このうちの第四の圧力導入路84は、前記第二の圧力導入路79と、上記第三のパイロット部72とを通じさせている。又、上記電磁弁85は、上記第四の圧力導入路84の途中に、直列に設けている。そしてこの電磁弁85は、前記変速比制御装置74からの指令により通電を制御されるソレノイド86により、上記第二の圧力導入路79と上記第三のパイロット部72とを通じさせる状態と、この第三のパイロット部72を前記油溜部60に通じさせる状態とを、高速で切り換える。従って、この第三のパイロット部72に導入される油圧は、上記変速比制御装置74からの指令により、任意に、且つ細かく調整される。即ち、この変速比制御装置74は、前記トロイダル型無段変速機24bの変速比、内部に存在する潤滑油の温度、駆動源であるエンジンの回転速度等を勘案して、上記押圧装置23aに発生させるべき押圧力の最適値に応じた油圧の必要値を電気的に求める。そして、この必要値と、上記目標値との差である補正値に対応する油圧を、上記第三のパイロット部72に導入する。
この様にしてこの第三のパイロット部72に導入された油圧は、前記押圧力制御弁66のスプール68を図13、14の左方に押す。この結果、この押圧力制御弁66の流路が開かれ、前記圧力逃がし路65と上記油溜部60とを導通する傾向になる。即ち、上記押圧力制御弁66の流路は、上記圧力逃がし路65から圧力室117内に導入された油圧が上昇すると開き、この圧力逃がし路65及び前記第一の圧力導入路63内の油圧を低下させる。結局、上記押圧力制御弁66の開弁圧P66は、この押圧力制御弁66に内蔵したばね69の弾力F69と前記第一、第二のパイロット部70、71の何れかに導入された油圧に基づく力F1 との和から、上記第三のパイロット部72に導入された油圧に基づく力(補正値)F2 を減じた値に比例する(P66∝F69+F1 −F2 )。このうちのばね69の弾力F69は一定であり、上記第一、第二のパイロット部70、71の何れかに導入された油圧に基づく力F1 は、前述した通り、前記トロイダル型無段変速機24bを通過する力が大きい程大きくなる。又、上記第三のパイロット部72に導入された油圧に基づく力F2 は、前記変速比制御装置74により、変速比、油温等、上記トロイダル型無段変速機24bの運転状態に応じて細かく調節される。具体的には、上記変速比の、最も大きな押圧力を必要とする値(例えば1.32)からのずれが大きくなる程、上記油温が低い程、上記第三のパイロット部72に導入する油圧を高くし、上記力F2 を大きくする。
上述の様に構成する先発明に係るトロイダル型無段変速機の場合には、上記トロイダル型無段変速機24bを通過する力により、前記押圧装置23aが発生する押圧力を調節する。この場合は、必要とされる押し付け力が最も大きくなる場合に合わせて、この押圧力を調節する他に、上記変速比及び油温に応じて、上記押圧装置23aが発生する押圧力を調節する。従って、上記トロイダル型無段変速機24bの運転状態の如何に拘らず、この押圧力を最適値に規制できる。この結果、トラクション部の面圧を適正にして、上記トロイダル型無段変速機24bの伝達効率及び耐久性の確保を図れる。
又、上記開弁圧P66のうちの補正値F2 を求める為の電気回路が故障により、上記変速比制御装置74内に設けた油圧補正手段の演算部が上記補正値の算出を行なえなくなると、上記押圧装置23aには、前記差圧取り出し弁81が設定した目標値(∝F69+F1 )の油圧が導入される。この目標値は、上記トロイダル型無段変速機24bの変速比が最も大きな押し付け力を必要とする値以外(例えば、1.32よりも増速側若しくは減速側)の場合には前記必要値を上回る。言い換えれば、この変速比の値が例えば1.32以外の場合には、上記押圧装置23aが発生する押圧力が過大になる。但し、この場合に発生する押圧力は、前述の図8〜10に示した従来構造の第1例で、ローディングカム式の押圧装置23が発生する押圧力に見合ったものとなる。従って、上記トロイダル型無段変速機24bの伝達効率及び耐久性が若干低下するが、必要最小限の機能は確保される。
上述の様な先発明に係る構造により上記押圧装置23aが発生する押圧力を、入力側、出力側各ディスク2、5同士の間で伝達する力に応じた適正値に制御する為には、前記差圧取り出し弁81により、前記1対の油圧室73a、73b同士の間の差圧(±△P)を、正確に且つ安定して取り出す必要がある。これに対して、図15に示した先発明に係る構造の場合、必ずしも上記差圧を正確に且つ安定して取り出せない可能性がある。この理由は、上記両油圧室73a、73b同士の間に差圧が存在せず(差圧=0)、上記差圧取り出し弁81を構成するスプール76が中立位置に存在する場合に、このスプール76のランド(大径部)とシリンダ孔75の内周面との間に、オーバーラップもアンダーラップも存在しない為である。
即ち、上記図15に示した差圧取り出し弁81の場合、上記スプール76が中立位置にあると、このスプール76のランドが、シリンダ孔75のうちで第三の圧力導入路82a、82bの一端が通じる大径部を、丁度塞いだ状態となる。この状態では、例えばエンジンや車輪から伝わる振動により上記スプール76が軸方向に微小変位し、上記第三の圧力導入路82a、82b内の油圧が排出されにくくなる可能性がある。これに伴って、例えばこれら第三の圧力導入路82a、82bの他端が通じる、前記押圧力制御弁66の第一、第二のパイロット部70、71の一方又は双方に、圧力が残る可能性がある。前述した先発明に関する説明から明らかな通り、上記両油圧室73a、73b同士の間に差圧が存在しない状態とは、上記入力側、出力側各ディスク2、5同士の間でトルク伝達が行なわれていない状態である。この状態では、上記押圧装置23aが発生する押圧力は小さくて良く、上記押圧力制御弁66の開弁圧は、前記予圧ばね116の弾力に見合う程度に低くて良い。上述の様に、差圧が存在しないにも拘らず上記第一、第二のパイロット部70、71の一方又は双方に圧力が残り、上記押圧力制御弁66の開弁圧が高くなると、上記押圧装置23aが発生する押圧力が過大になり、前記トロイダル型無段変速機24bの伝達効率及び耐久性確保の面からは好ましくない。
尚、前述の様な構成を有する差圧取り出し弁81は、図13に示す様な、押圧装置23aの押圧力制御の為に使用する他、特願2003−56681号に開示されている発明の様に、トロイダル型無段変速機の変速比を微調節する為に使用する事もある。この第二の先発明の構造の場合、前述の図12に示す様なギヤード・ニュートラル型の無段変速装置で、入力軸1を回転させた状態のまま出力軸57を停止若しくは極低速回転させる際に、この出力軸57に加わるトルクを適正値にする為の油圧制御回路に、差圧取り出し弁を組み込んでいる。この様な場合でも、上記トロイダル型無段変速機24aの通過トルクを適切に規制する為には、差圧取り出し弁が油圧式アクチュエータにピストンを挟んで設けた1対の油圧室同士の間の差圧を正確に取り出す事が必要になる。
特開平2−283949号公報
特開平1−169169号公報
特開平1−312266号公報
特開平10−196759号公報
特開平11−63146号公報
特開2000−220719号公報
特公平6−72652号公報
特開2000−65193号公報
今西 尚、町田 尚著、トラクションドライブ式無段変速機 パワートロスユニットの開発 第2報 −ハーフトロイダルCVTとフルトロイダルCVTの比較−「NSK TECHNICAL JOURNAL No.670、抜刷」、日本精工株式会社、2000年11月、第2〜10頁
図1〜3は、本発明の実施例1を示している。本実施例の差圧取り出し弁81aは、弁ケース87内に設けたシリンダ孔75内にスプール76を、軸方向(図1〜2の左右方向)の変位自在に組み込んで成る。このシリンダ孔75には次述する様に複数のポートを、軸方向に関して互いに離隔した状態で設けている。
先ず、上記シリンダ孔75の中央部に、源油圧導入ポート88を設けている。この源油圧導入ポート88は、途中に減圧弁80を設けた第二の圧力導入路79を介して、油圧源である圧油ポンプ62(図13参照)の吐出口に通じさせている。従って上記シリンダ孔75の中央部には、上記源油圧導入ポート88を通じて、上記圧油ポンプ62から吐出され、上記減圧弁80で調整された油圧が導入される。
又、上記シリンダ孔75の中央部から少し両端に寄った、上記源油圧導入ポート88を軸方向両側から挟む部分には、第一差圧送り出しポート93と第二差圧送り出しポート94とを設けている。このうちの第一差圧送り出しポート93は、上記スプール76が図1〜2に示した中立位置から図3に示した様に軸方向片側(図1〜3の右側)に変位した状態で、上記源油圧導入ポート88と連通する。これに対して、上記第二差圧送り出しポート94は、上記スプール76が中立位置から軸方向他側(図1〜3の左側)に変位した状態で、上記源油圧導入ポート88と連通する。
又、上記シリンダ孔75の中間部で、上記第一、第二両差圧送り出しポート93、94を軸方向両側から挟む部分には、ドレンポート92a、92bを設けている。これら両ドレンポート92a、92bは、それぞれオイルパン等の油溜部60に通じている。従って、上記ドレンポート92a、92b部分には油圧は存在しない(ゲージ圧=0)。
又、上記シリンダ孔75の中間部で更に両端に寄った、上記両ドレンポート92a、92bを軸方向両側から挟む部分には、第一油圧導入ポート89と第二油圧導入ポート90とを設けている。このうちの第一油圧導入ポート89には、圧力導入路91aを通じ、トラニオン7を変位させる為のアクチュエータ10の一方の油圧室73a(図10、13参照)内の油圧を導入している。これに対して上記第二油圧導入ポート90には、圧力導入路91bを通じ、上記アクチュエータ10の他方の油圧室73b(図10、13参照)内の油圧を導入している。
更に、上記シリンダ孔75の軸方向両端部近傍には、第一反力ポート95と第二反力ポート96とを設けている。このうちの第一反力ポート95は、上記シリンダ孔75の一端部(図1、3の右端部)に設けた第一反力室97に通じている。この第一反力室97は、上記シリンダ孔75の一端部に設けたライナ98の内側に設けたもので、上記スプール76の一端部は、このライナ98に油密に嵌合している。上記第一反力室97に油圧を導入すると、上記スプール76は、この油圧と上記ライナ98に嵌合した部分の断面積との積に見合う、図1、3の左向きの力を受ける。尚、上記スプール76の端面には小径のロッド部99を設け、このロッド部99にリターンスプリング100を、緩く外嵌している。このリターンスプリング100の弾力は、上記スプール76を図1、2に示した中立位置に押圧する程度の、小さなものとしている。又、上記第一反力ポート95と前記第一差圧送り出しポート93とを第一油圧導入路101により連通させて、この第一差圧送り出しポート93部分の油圧を、上記第一反力室97に導入する様にしている。
又、第二反力ポート96は、上記シリンダ孔75の他端部(図1、3の左端部)に設けた第二反力室102に通じている。この第二反力室102の構成は、上記第一反力室97の構成と同じである。この第二反力室102に油圧を導入すると、上記スプール76は、この油圧とライナ98に嵌合した部分の断面積との積に見合う、図1、3の右向きの力を受ける。又、上記第二反力ポート96と前記第二差圧送り出しポート94とを第二油圧導入路103により連通させて、この第二差圧送り出しポート94部分の油圧を、上記第二反力室102に導入する様にしている。
上記スプール76は、上記第一、第二両反力室96、97内に設置された1対のリターンスプリング100、100により、中立位置に向け弾性的に押圧されている。従って、上記スプール76の軸方向位置は、前記第一、第二両油圧導入ポート89、90部分の油圧が互いに等しい限り、図1、2に示した中立位置となる。
上記スプール76が、この様な中立位置に存在する状態で、このスプール76のランドと上記シリンダ孔75の内周面との間には、次述する様なアンダーラップとオーバーラップとを設けている。
先ず、上記中立状態では、上記第一、第二両差圧送り出しポート93、94と前記両ドレンポート92a、92bとを確実に連通させるべく、これら両差圧送り出しポート93、94とこれら両ドレンポート92a、92bとの間に、アンダーラップが存在する。このアンダーラップは、上記シリンダ孔75の内周面と上記スプール76のランド(大径部)とを、少なくとも円周方向の一部で、図2に示したLU 分だけ重畳させない状態としたものである。この様なアンダーラップの存在に基づき、上記中立状態で上記第一、第二両差圧送り出しポート93、94と上記両ドレンポート92a、92bとは、隙間104a、104bを介して確実に連通した状態となる。
更に、上記中立状態で前記源油圧導入ポート88と第一、第二両差圧送り出しポート93、94とを確実に遮断させるべく、この源油圧導入ポート88とこれら両差圧送り出しポート93、94との間に、オーバーラップが存在する。このオーバーラップは、上記シリンダ孔75の内周面と上記スプール76のランドとを、全周に亙って、図2に示したLO 分だけ重畳させた状態としたものである。この様なオーバーラップの存在に基づき、上記中立状態で上記源油圧導入ポート88と上記第一、第二両差圧送り出しポート93、94とは、確実に遮断された状態となる。従って、上記中立状態では、第一、第二両差圧送り出しポート93、94に、上記源油圧導入ポート88部分に存在する油圧が導入される事はない。
これらにより、上記中立状態では、第一、第二両差圧送り出しポート93、94は前記油溜部60に通じて、油圧が立ち上がる事はない(ゲージ圧=0となる)。尚、上記中立状態でのアンダーラップの軸方向寸法LU と上記オーバーラップの軸方向寸法LO とは互いに等しく(LU =LO )している。従って、上記スプール76が上記中立状態から軸方向に移動すると、上記アンダーラップが解消される{前記隙間104a、104b(のうちの何れか一方)が塞がれる}と同時に、上記第一、第二両差圧送り出しポート93、94(のうちの何れか一方)と上記源油圧導入ポート88部分とが連通する状態となる。
上述の様に構成する本実施例の差圧取り出し弁81aの場合、トロイダル型無段変速機を構成する入力側、出力側両ディスク2、5(図8、9、11、12、13参照)同士の間でトルク伝達が行なわれず、前記両油圧室73a、73b内の油圧が互いに等しいと、上記スプール76が前記1対のリターンスプリング100、100同士の釣り合いにより、図1、2に示す様な中立位置に存在する。この状態では、上記第一、第二両差圧送り出しポート93、94と前記両ドレンポート92a、92bとが、上記スプール76のランドと上記シリンダ孔75の内周面との間に存在するアンダーラップに基づく隙間104a、104bを介して、確実に連通する。同時に、これら両差圧送り出しポート93、94と上記源油圧導入ポート88とは、上記ランドと上記シリンダ孔75の内周面との間に存在するオーバーラップに基づいて確実に遮断され、上記源油圧導入ポート88部分の油圧が上記両差圧送り出しポート93、94に送り込まれる事はない。従って上記スプール76が、図1、2に示す様に中立位置に存在する状態から、振動により多少軸方向に移動した程度では、上記第一、第二両差圧送り出しポート93、94部分で油圧が立ち上がる事はない。
これに対して、上記両ディスク2、5同士の間でトルク伝達が行なわれ、上記両油圧室73a、73b内の油圧に差が生じた場合には、前記第一、第二両油圧導入ポート89、90部分に異なる油圧が導入される。上記リターンスプリング100、100の弾力は、これら両油圧導入ポート89、90部分に導入される油圧の差に基づいて生じる力に比べて遥かに小さいので、これら両油圧導入ポート89、90部分に導入される油圧に差が生じると、上記スプール76が直ちに軸方向に移動する。そして、例えば図3に示す様に、上記第一差圧送り出しポート93と上記ドレンポート92aとを遮断すると共に、この第一差圧送り出しポート93と上記源油圧導入ポート88とを連通させる。この結果、この第一差圧送り出しポート93部分で油圧が立ち上がる。第二差圧送り出しポート94は、ドレンポート93bに連通し、上記源油圧導入ポート88と連通しないままである。
上述の様にして上記第一差圧送り出しポート93部分で立ち上がった油圧は、第一油圧導入路101を通じて、第一反力室97に導入される。この状態で上記スプール76は、各部の油圧と受圧面積との積同士の釣り合いにより定まる軸方向位置に移動するので、上記第一差圧送り出しポート93部分の油圧を、上記両油圧室73a、73b内の油圧の差に比例した値にできる。例えば、上記第一油圧導入ポート89部分の油圧をPH とし、この第一油圧導入ポート89部分での上記スプール76の受圧面積をA1 とし、上記第二油圧導入ポート90部分の油圧をPL とし、この第二油圧導入ポート90部分での上記スプール76の受圧面積をA2 とし、上記第一反力室97部分でのこのスプール76の受圧面積をA3 とすれば、上記第一差圧送り出しポート93部分の油圧△Pは、
△P=(PH ×A1 −PL ×A2 )/A3
となる。尚、前記リターンスプリング100、100の弾力による影響は小さいので、上記式中では無視している。
上記第一、第二両差圧送り出しポート93、94の油圧の大小関係が逆になった場合は、第二反力室102部分でのスプール76の受圧面積をA4 とすれば、第二差圧送り出しポート94部分の油圧−△Pは、
−△P=(PL ×A2 −PH ×A1 )/A4
となる。
尚、上述の様な作用を円滑に行なわせる為に本実施例の場合には、図1、2に示す様な中立位置でのアンダーラップ及びオーバーラップの軸方向寸法LU 、LO を、中立位置を中心とするスプールの軸方向変位量(例えば中立位置から±1mm程度)の1/10〜1/2(例えば0.1〜0.5mm程度)としている。因に、上記スプール76のランド部の軸方向寸法LL は、5mm程度である。
上記アンダーラップ及びオーバーラップの軸方向寸法LU 、LO を上記軸方向変位量の1/10以上確保しているので、上記両油圧室73a、73b内の油圧に差がなく、上記スプール76が中立位置に存在すべき状態では、上記第一、第二両差圧送り出しポート93、94部分の油圧が立ち上がる事はない。即ち、上記スプール76が中立位置に存在すべき状態では、このスプール76が振動により多少軸方向に移動した程度では、上記アンダーラップに基づく前記各隙間104a、104bは消滅せず、上記第一、第二両差圧送り出しポート93、94と前記両ドレンポート92a、92bとが連通したままとなる。又、上記オーバーラップも消滅せず、上記両差圧送り出しポート93、94と前記源油圧導入ポート88とが遮断された状態のままになる。この為、上記両油圧室73a、73b内の油圧に差がない場合に、上記両差圧送り出しポート93、94部分の油圧が立ち上がる事を確実に防止できる。
一方、上記アンダーラップ及びオーバーラップの軸方向寸法LU 、LO を上記軸方向変位量の1/2以下に抑えているので、上記両油圧室73a、73b内の油圧に差が生じた場合に、直ちに上記第一、第二両差圧送り出しポート93、94部分に油圧を立ち上げられる。即ち、前述した通り、前記各リターンスプリング100、100弾力は小さいので、上記両油圧室73a、73b内の油圧に差が生じると、前記第一、第二両油圧導入ポート89、90部分に存在する油圧の差に基づいて、上記スプール76が軸方向に移動する。そして、上記第一、第二両差圧送り出しポート93、94のうちの何れかの差圧送り出しポート93(94)と、上記両ドレンポート92a、92bのうちの何れかのドレンポート92a(92b)とを遮断すると共に、この何れか一方の差圧送り出しポート93(94)と上記源油圧導入ポート88とを連通させる。この結果、上記油圧室73a、73b内の油圧の差が極く小さいうちから、上記何れか一方の差圧送り出しポート93(94)部分の油圧を立ち上げられる。
更に、本実施例の場合には、前述した様に、上記アンダーラップの軸方向寸法LU と上記オーバーラップの軸方向寸法LO とを互いに等しくしている。この為、上記両油圧室73a、73b内の油圧に差が生じ、上記スプール76が軸方向に移動した場合に、上記第一、第二両差圧送り出しポート93、94のうちの何れか一方の差圧送り出しポート93(94)と上記両ドレンポート92a、92bのうちの何れかのドレンポート92a(92b)とを遮断する瞬間と、この何れか一方の差圧送り出しポート93(94)と上記源油圧導入ポート88とを連通させ始める瞬間とを一致させられる。この結果、この何れか一方の差圧送り出しポート93(94)部分の油圧を、上記両油圧室73a、73b内の油圧の差に、より正確に比例させる事ができる。
図5は、上述した様な本実施例による効果を確認する為に行なった実験の結果を示している。図5の(A)は、図1〜3に示す様に、アンダーラップ及びオーバラップを設けた(LU =LO =0.3mmとした)場合に於ける、上記両油圧室73a、73b内の油圧の差(差圧)と、上記第一、第二両差圧送り出しポート93、94部分の油圧との関係を示している。又、図5の(B)は、図4に示す様に、アンダーラップ及びオーバラップを設けない(LU =LO =0とした)場合に於ける、同様の関係を示している。図5の(A)(B)は何れも、濃い菱形が上記差圧と第一差圧送り出しポート93部分の油圧との関係を、薄い三角形がこの差圧と第二差圧送り出しポート94部分の油圧との関係を、一点鎖線及び破線はこれらの理論的関係を、それぞれ示している。
この様な実験の結果を表す図5から明らかな通り、本実施例のトロイダル型無段変速機用差圧取り出し弁81aによれば、油圧式のアクチュエータ10にピストン16を挟んで設けた1対の油圧室73a、73b同士の間の差圧を正確に取り出せる。従って、前述の図13〜15に示す様な、油圧式の押圧装置23aに導入する油圧の制御回路に組み込んだ場合に、この押圧装置23aに導入する油圧を適正に規制して、この押圧装置23aが発生する押圧力が過大になる事を防止できる。この結果、この押圧装置23aを組み込んだトロイダル型無段変速機の効率及び耐久性の向上を図れる。
尚、上記アンダーラップ及びオーバーラップを設けた場合でも、これらの軸方向寸法LU 、LO を過大にする(前記スプール76の、中立位置からのストロークの1/2を超える値とする)と、上記両油圧室73a、73b同士の間に差圧が存在しても、その値が小さい場合に、上記第一、第二両差圧送り出しポート93、94部分の油圧が立ち上がらなくなる。即ち、上記各軸方向寸法LU 、LO が過大になると、この部分に油圧を立ち上げるまでに要する、上記スプール76のストロークが長くなって、前記両リターンスプリング100、100の弾力を無視できなくなる。この結果、上記差圧が小さい場合、図6に誇張して示す様に、上記第一、第二両差圧送り出しポート93、94部分の油圧が立ち上がらない、不感帯が存在する様になって、上記差圧を正確に取り出せなくなる。