JP4016745B2 - 無段変速装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、自動車用自動変速装置として利用する、トロイダル型無段変速機を組み込んだ無段変速装置の改良に関し、故障時にも走行の為に最低限必要な機能を確保するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車用自動変速装置として、図4〜6に示す様なトロイダル型無段変速機を使用する事が研究され、一部で実施されている。このトロイダル型無段変速機は、ダブルキャビティ型と呼ばれるもので、入力軸1の両端部周囲に入力側ディスク2、2を、ボールスプライン3、3を介して支持している。従ってこれら両入力側ディスク2、2は、互いに同心に、且つ、同期した回転を自在に支持されている。又、上記入力軸1の中間部周囲に出力歯車4を、この入力軸1に対する相対回転を自在として支持している。そして、この出力歯車4の中心部に設けた円筒部の両端部に出力側ディスク5、5を、それぞれスプライン係合させている。従ってこれら両出力側ディスク5、5は、上記出力歯車4と共に、同期して回転する。
【0003】
又、上記各入力側ディスク2、2と上記各出力側ディスク5、5との間には、それぞれ複数個ずつ(通常2〜3個ずつ)のパワーローラ6、6を挟持している。これら各パワーローラ6、6は、それぞれトラニオン7、7の内側面に、支持軸8、8及び複数の転がり軸受を介して、回転自在に支持されている。上記各トラニオン7、7は、それぞれの長さ方向(図4、6の上下方向、図5の表裏方向)両端部に、これら各トラニオン7、7毎に互いに同心に設けられた枢軸9、9を中心として揺動変位自在である。これら各トラニオン7、7を傾斜させる動作は、油圧式のアクチュエータ10、10により、これら各トラニオン7、7を上記枢軸9、9の軸方向に変位させる事で行なうが、総てのトラニオン7、7の傾斜角度は、油圧式及び機械式に互いに同期させる。
【0004】
即ち、前記入力軸1と出力歯車4との間の変速比を変えるべく、上記各トラニオン7、7の傾斜角度を変える場合には、上記各アクチュエータ10、10により上記各トラニオン7、7を、それぞれ逆方向に、例えば、図6の右側のパワーローラ6を同図の下側に、同図の左側のパワーローラ6を同図の上側に、それぞれ変位させる。この結果、これら各パワーローラ6、6の周面と上記各入力側ディスク2、2及び各出力側ディスク5、5の内側面との当接部に作用する、接線方向の力の向きが変化(当接部にサイドスリップが発生)する。そして、この力の向きの変化に伴って上記各トラニオン7、7が、支持板11、11に枢支された枢軸9、9を中心として、互いに逆方向に揺動(傾斜)する。この結果、上記各パワーローラ6、6の周面と上記入力側、出力側各ディスク2、5の内側面との当接位置が変化し、上記入力軸1と出力歯車4との間の回転変速比が変化する。
【0005】
上記各アクチュエータ10、10への圧油の給排状態は、これら各アクチュエータ10、10の数に関係なく1個の制御弁12により行ない、何れか1個のトラニオン7の動きをこの制御弁12にフィードバックする様にしている。この制御弁12は、ステッピングモータ13により軸方向(図6の左右方向、図4の表裏方向)に変位させられるスリーブ14と、このスリーブ14の内径側に軸方向の変位自在に嵌装されたスプール15とを有する。又、上記各トラニオン7、7と上記各アクチュエータ10、10のピストン16、16とを連結するロッド17、17のうち、何れか1個のトラニオン7に付属のロッド17の端部にプリセスカム18を固定しており、このプリセスカム18とリンク腕19とを介して、上記ロッド17の動き、即ち、軸方向の変位量と回転方向との変位量との合成値を上記スプール15に伝達する、フィードバック機構を構成している。又、上記各トラニオン7、7同士の間には同期ケーブル20を掛け渡して、油圧系の故障時にも、これら各トラニオン7、7の傾斜角度を、機械的に同期させられる様にしている。
【0006】
変速状態を切り換える際には、上記ステッピングモータ13により上記スリーブ14を、得ようとする変速比に見合う所定位置にまで変位させて、上記制御弁12の所定方向の流路を開く。この結果、上記各アクチュエータ10、10に圧油が、所定方向に送り込まれて、これら各アクチュエータ10、10が上記各トラニオン7、7を所定方向に変位させる。即ち、上記圧油の送り込みに伴ってこれら各トラニオン7、7が、前記各枢軸9、9の軸方向に変位しつつ、これら各枢軸9、9を中心に揺動する。そして、上記何れか1個のトラニオン7の動き(軸方向及び揺動変位)が、上記ロッド17の端部に固定したプリセスカム18とリンク腕19とを介して上記スプール15に伝達され、このスプール15を軸方向に変位させる。この結果、上記トラニオン7が所定量変位した状態で、上記制御弁12の流路が閉じられ、上記各アクチュエータ10、10への圧油の給排が停止される。
【0007】
この際の上記トラニオン7及び上記プリセスカム18のカム面21の変位に基づく上記制御弁12の動きは、次の通りである。先ず、上記制御弁12の流路が開かれる事に伴って上記トラニオン7が軸方向に変位すると、前述した様に、パワーローラ6の周面と入力側ディスク2及び出力側ディスク5の内側面との当接部に発生するサイドスリップにより、上記トラニオン7が上記各枢軸9、9を中心とする揺動変位を開始する。又、上記トラニオン7の軸方向変位に伴って上記カム面21の変位が、上記リンク腕19を介して上記スプール15に伝わり、このスプール15が軸方向に変位して、上記制御弁12の切り換え状態を変更する。具体的には、上記アクチュエータ10により上記トラニオン7を中立位置に戻す方向に、上記制御弁12が切り換わる。
【0008】
従って上記トラニオン7は、軸方向に変位した直後から、中立位置に向け、逆方向に変位し始める。但し、上記トラニオン7は、中立位置からの変位が存在する限り、上記各枢軸9、9を中心とする揺動を継続する。この結果、上記プリセスカム18のカム面21の円周方向に関する変位が、上記リンク腕19を介して上記スプール15に伝わり、このスプール15が軸方向に変位する。そして、上記トラニオン7の傾斜角度が、得ようとする変速比に見合う所定角度に達した状態で、このトラニオン7が中立位置に復帰すると同時に、上記制御弁12が閉じられて、上記アクチュエータ10への圧油の給排が停止される。この結果上記トラニオン7の傾斜角度が、前記ステッピングモータ13により前記スリーブ14を軸方向に変位させた量に見合う角度になる。
【0009】
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、エンジン等の動力源に繋がる駆動軸22により一方(図4、5の左方)の入力側ディスク2を、図示の様なローディングカム式の、或は油圧式の押圧装置23を介して回転駆動する。この結果、前記入力軸1の両端部に支持された1対の入力側ディスク2、2が、互いに近づく方向に押圧されつつ同期して回転する。そして、この回転が、上記各パワーローラ6、6を介して上記各出力側ディスク5、5に伝わり、前記出力歯車4から取り出される。
【0010】
この様に上記各入力側ディスク2、2から上記各出力側ディスク5、5に動力を伝達する際に、上記各トラニオン7、7には、それぞれの内側面に支持した上記各パワーローラ6、6の周面と上記各ディスク2、5の内側面との摩擦に伴って、それぞれの両端部に設けた枢軸9、9の軸方向の力が加わる。この力は、所謂2Ftと呼ばれるもので、その大きさは、上記各入力側ディスク2、2から上記各出力側ディスク5、5(或は出力側ディスク5、5から入力側ディスク2、2)に伝達するトルクに比例する。そして、この様な力2Ftは、前記各アクチュエータ10、10により支承する。従って、トロイダル型無段変速機の運転時に、これら各アクチュエータ10、10を構成するピストン16、16の両側に存在する1対の油圧室同士の圧力差は、上記力2Ftの大きさに比例する。
【0011】
上記入力軸1と出力歯車4との回転速度を変える場合で、先ず入力軸1と出力歯車4との間で減速を行なう場合には、上記各アクチュエータ10、10により上記各トラニオン7、7を上記各枢軸9、9の軸方向に移動させ、これら各トラニオン7、7を図5に示す位置に揺動させる。そして、上各パワーローラ6、6の周面をこの図5に示す様に、上記各入力側ディスク2、2の内側面の中心寄り部分と上記各出力側ディスク5、5の内側面の外周寄り部分とにそれぞれ当接させる。反対に、増速を行なう場合には、上記各トラニオン7、7を図5と反対方向に揺動させ、上各パワーローラ6、6の周面を、この図5に示した状態とは逆に、上記各入力側ディスク2、2の内側面の外周寄り部分と上記各出力側ディスク5、5の内側面の中心寄り部分とに、それぞれ当接する様に、上記各トラニオン7、7を傾斜させる。これら各トラニオン7、7の傾斜角度を中間にすれば、入力軸1と出力歯車4との間で、中間の変速比(速度比)を得られる。
【0012】
更に、上述の様に構成され作用するトロイダル型無段変速機を実際の自動車用の無段変速機に組み込む場合、遊星歯車機構と組み合わせて無段変速装置を構成する事が、従来から提案されている。図7は、この様な従来から提案されている無段変速装置のうち、特開2000−220719号公報に記載されたものを示している。この無段変速装置は、トロイダル型無段変速機24と遊星歯車式変速機25とを組み合わせて成る。このうちのトロイダル型無段変速機24は、入力軸1と、1対の入力側ディスク2、2と、出力側ディスク5aと、複数のパワーローラ6、6とを備える。図示の例では、この出力側ディスク5aは、1対の出力側ディスクの外側面同士を突き合わせて一体とした如き構造を有する。
【0013】
又、上記遊星歯車式変速機25は、上記入力軸1及び一方(図7の右方)の入力側ディスク2に結合固定されたキャリア26を備える。このキャリア26の径方向中間部に、その両端部にそれぞれ遊星歯車素子27a、27bを固設した第一の伝達軸28を、回転自在に支持している。又、上記キャリア26を挟んで上記入力軸1と反対側に、その両端部に太陽歯車29a、29bを固設した第二の伝達軸30を、上記入力軸1と同心に、回転自在に支持している。そして、上記各遊星歯車素子27a、27bと、上記出力側ディスク5aにその基端部(図7の左端部)を結合した中空回転軸31の先端部(図7の右端部)に固設した太陽歯車32又は上記第二の伝達軸30の一端部(図7の左端部)に固設した太陽歯車29aとを、それぞれ噛合させている。又、一方(図7の左方)の遊星歯車素子27aを、別の遊星歯車素子33を介して、上記キャリア26の周囲に回転自在に設けたリング歯車34に噛合させている。
【0014】
一方、上記第二の伝達軸30の他端部(図7の右端部)に固設した太陽歯車29bの周囲に設けた第二のキャリア35に遊星歯車素子36a、36bを、回転自在に支持している。尚、この第二のキャリア35は、上記入力軸1及び第二の伝達軸30と同心に配置された、出力軸37の基端部(図7の左端部)に固設されている。又、上記各遊星歯車素子36a、36bは、互いに噛合すると共に、一方の遊星歯車素子36aが上記太陽歯車29bに、他方の遊星歯車素子36bが、上記第二のキャリア35の周囲に回転自在に設けた第二のリング歯車38に、それぞれ噛合している。又、上記リング歯車34と上記第二のキャリア35とを低速用クラッチ39により係脱自在とすると共に、上記第二のリング歯車38とハウジング等の固定の部分とを、高速用クラッチ40により係脱自在としている。
【0015】
上述の様な、図7に示した無段変速装置の場合、上記低速用クラッチ39を接続すると共に上記高速用クラッチ40の接続を断った、所謂低速モード状態では、上記入力軸1の動力が上記リング歯車34を介して上記出力軸37に伝えられる。そして、前記トロイダル型無段変速機24の変速比を変える事により、無段変速装置全体としての変速比、即ち、上記入力軸1と上記出力軸37との間の変速比が変化する。この様な低速モード状態では、無段変速装置全体としての変速比は、無限大に変化する。即ち、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を調節する事により、上記入力軸1を回転させた状態のまま上記出力軸37の回転状態を、停止状態を挟んで、正転、逆転の変換自在となる。
【0016】
尚、この様な低速モード状態での加速若しくは定速走行時に、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクは、上記入力軸1から、キャリア26及び第一の伝達軸28と太陽歯車32と中空回転軸31とを介して出力側ディスク5aに加わり、更にこの出力側ディスク5aから各パワーローラ6、6を介して各入力側ディスク2、2に加わる。即ち、加速若しくは定速走行時に上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクは、上記各入力側ディスク2、2が上記各パワーローラ6、6からトルクを受ける方向に循環する。
【0017】
これに対して、上記低速用クラッチ39の接続を断ち、上記高速用クラッチ40を接続した、所謂高速モード状態では、上記入力軸1の動力が上記第一、第二の伝達軸28、30を介して上記出力軸37に伝えられる。そして、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を変える事により、無段変速装置全体としての変速比が変化する。この場合には、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を大きくする程、無段変速装置全体としての変速比が大きくなる。
尚、この様な高速モード状態での加速若しくは定速走行時に、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクは、各入力側ディスク2、2が各パワーローラ6、6にトルクを付加する方向に加わる。
【0018】
例えば図7に示す様な構造を有し、入力軸1を回転させた状態のまま出力軸37を停止させる、所謂無限大の変速比を実現できる無段変速装置の場合、出力軸37を停止させた状態を含み、変速比を極端に大きくした状態で、上記トロイダル型無段変速機24に加わるトルクを適正値に維持する事が、運転操作の容易性確保の面から重要である。何となれば、「回転駆動力=回転速度×トルク」の関係から明らかな通り、変速比が極端に大きく、上記入力軸1が回転したまま上記出力軸37が停止又は極低速で回転する状態では、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクが、上記入力軸1に加わるトルクに比べて大きくなる。この為、上記トロイダル型無段変速機24の耐久性を、このトロイダル型無段変速機24を大型化する事なく確保する為には、上述の様にトルクを適正値に納める為に厳密な制御を行なう必要が生じる。具体的には、上記入力軸1に入力するトルクをできるだけ小さくしつつ、上記出力軸37を停止させる為、駆動源を含めた制御が必要になる。
【0019】
又、上記変速比が極端に大きな状態では、上記トロイダル型無段変速機24の変速比が僅かに変化した場合にも、上記出力軸37に加わるトルクが大きく変化する。この為、上記トロイダル型無段変速機24の変速比調節が厳密に行なわれないと、運転者に違和感を与えたり、運転操作を行ないにくくする可能性がある。例えば、自動車用の自動変速装置の場合、停止時には運転者がブレーキを踏んだままで、停止状態を維持する事が行なわれる。この様な場合に、上記トロイダル型無段変速機24の変速比調節が厳密に行なわれず、上記出力軸37に大きなトルクが加わると、停車時に上記ブレーキペダルを踏み込む為に要する力が大きくなり、運転者の疲労を増大させる。逆に、発進時に上記トロイダル型無段変速機24の変速比調節が厳密に行なわれず、上記出力軸37に加わるトルクが小さ過ぎると、滑らかな発進が行なわれなくなったり、上り坂での発進時に車両が後退する可能性がある。従って、極低速走行時には、駆動源から上記入力軸1に伝達するトルクを制御する他、上記トロイダル型無段変速機24の変速比調節を厳密に行なう必要がある。
【0020】
この様な点を考慮して、特開平10−103461号公報には、トラニオンを変位させる為の油圧式のアクチュエータ部分の圧力差を直接制御する事により、トロイダル型無段変速機を通過するトルクを規制する構造が記載されている。
但し、上記特開平10−103461号公報に記載されている様な構造の場合には、上記圧力差のみで制御を行なう為、トロイダル型無段変速機を通過するトルクが目標値に一致した瞬間にトラニオンの姿勢を停止させる事が難しい。具体的には、トルク制御の為に上記トラニオンを変位させる量が大きくなる為、トロイダル型無段変速機を通過するトルクが目標値に一致した瞬間にトラニオンが停止せずにそのまま変位を継続する、所謂オーバシュートが生じ易く、上記トロイダル型無段変速機を通過するトルクの制御が安定しない。
【0021】
特に、図4〜6に示した一般的なハーフトロイダル型無段変速機の様に、トラニオン7、7の両端部に設けた各枢軸9、9の方向と、入力側、出力側各ディスク2、5の中心軸の方向とが互いに直角方向である、所謂キャストアングルを持たないトロイダル型無段変速機24の場合に、上記オーバシュートが生じ易い。これに対して、一般的なフルトロイダル型無段変速機の様に、キャストアングルを持った構造の場合には、オーバシュートを収束させる方向の力が作用する為、上記特開平10−103461号公報に記載されている様な構造でも、十分なトルク制御を行なえるものと考えられる。
【0022】
【第一の先発明の説明】
この様な事情に鑑みて、本発明者は先に、一般的なハーフトロイダル型無段変速機の様に、キャストアングルを持たないトロイダル型無段変速機を組み込んだ無段変速装置でも、このトロイダル型無段変速機を通過するトルクの制御を厳密に行なえる方法及び装置を発明した(特願2002−116185号)。
図8は、この様な第一の先発明の制御方法及び装置の対象となる、無段変速装置の構造の1例を示している。この図8に示した無段変速装置は、前述の図7に示した従来から知られている無段変速装置と同様の機能を有するもであるが、遊星歯車式変速機25a部分の構造を工夫する事により、この遊星歯車式変速機25a部分の組立性を向上させている。
【0023】
入力軸1及び1対の入力側ディスク2、2と共に回転するキャリア26aの両側面に、それぞれがダブルピニオン型である、第一、第二の遊星歯車41、42を支持している。即ち、これら第一、第二の遊星歯車41、42は、それぞれ1対ずつの遊星歯車素子43a、43b、44a、44bにより構成している。そして、これら各遊星歯車素子43a、43b、44a、44bを、互いに噛合させると共に、内径側の遊星歯車素子43a、44aを、出力側ディスク5aにその基端部(図8の左端部)を結合した中空回転軸31aの先端部(図8の右端部)及び伝達軸45の一端部(図8の左端部)にそれぞれ固設した第一、第二の太陽歯車46、47に、外径側の遊星歯車素子43b、44bをリング歯車48に、それぞれ噛合させている。
【0024】
一方、上記伝達軸45の他端部(図8の右端部)に固設した第三の太陽歯車49の周囲に設けた第二のキャリア35aに遊星歯車素子50a、50bを、回転自在に支持している。尚、この第二のキャリア35aは、上記入力軸1と同心に配置された出力軸37aの基端部(図8の左端部)に固設されている。又、上記各遊星歯車素子50a、50bは、互いに噛合すると共に、一方の遊星歯車素子50aを上記第三の太陽歯車49に、他方の遊星歯車素子50bを、上記第二のキャリア35aの周囲に回転自在に設けた第二のリング歯車38aに、それぞれ噛合させている。又、上記リング歯車48と上記第二のキャリア35aとを低速用クラッチ39aにより係脱自在とすると共に、上記第二のリング歯車38aとハウジング等の固定の部分とを、高速用クラッチ40aにより係脱自在としている。
【0025】
この様に構成する改良された無段変速装置の場合、上記低速用クラッチ39aを接続し、上記高速用クラッチ40aの接続を断った状態では、上記入力軸1の動力が上記リング歯車48を介して上記出力軸37aに伝えられる。そして、トロイダル型無段変速機24の変速比を変える事により、無段変速装置全体としての変速比eCVT 、即ち、上記入力軸1と上記出力軸37aとの間の変速比が変化する。この際のトロイダル型無段変速機24の変速比eCVU と無段変速装置全体としての変速比eCVT との関係は、上記リング歯車48の歯数m48と前記第一の太陽歯車46の歯数m46との比をi1 (=m48/m46)とした場合に、次の(1)式で表される。
eCVT =(eCVU +i1 −1)/i1 −−− (1)
そして、例えば上記歯数同士の比i1 が2である場合に、上記両変速比eCVU 、eCVT 同士の関係が、図9に線分αで示す様に変化する。
【0026】
これに対して、上記低速用クラッチ39aの接続を断ち、上記高速用クラッチ40aを接続した状態では、上記入力軸1の動力が前記第一の遊星歯車41、上記リング歯車48、前記第二の遊星歯車42、前記伝達軸45、前記各遊星歯車素子50a、50b、上記第二のキャリア35aを介して、上記出力軸37aに伝えられる。そして、上記トロイダル型無段変速機24の変速比eCVU を変える事により、無段変速装置全体としての変速比eCVT が変化する。この際のトロイダル型無段変速機24の変速比eCVU と無段変速装置全体としての変速比eCVT との関係は、次の(2)式の様になる。尚、この(2)式中、i1 は上記リング歯車48の歯数m48と前記第一太陽歯車46の歯数m46との比(m48/m46)を、i2 は上記リング歯車48の歯数m48と前記第二の太陽歯車47の歯数m47との比(m48/m47)を、i3 は前記第二のリング歯車38aの歯数m38と前記第三の太陽歯車49の歯数m49との比(m38/m49)を、それぞれ表している。
eCVT ={1/(1−i3 )}・{1+(i2 /i1 )(eCVU −1)}−−− (2)
そして、上記各比のうち、i1 が2、i2 が2.2、i3 が2.8である場合に、上記両変速比eCVU 、eCVT 同士の関係が、図9に線分βで示す様に変化する。
【0027】
上述の様に構成し作用する無段変速装置の場合、図9の線分αから明らかな通り、前記入力軸1を回転させた状態のまま、上記出力軸37aを停止させる、所謂変速比無限大の状態を造り出せる。但し、この様に入力軸1を回転させた状態のまま上記出力軸37aを停止させたり、或は極く低速で回転させる状態では、前述した通り、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクが、駆動源であるエンジンから上記入力軸1に加えられるトルクよりも大きくなる。この為、車両の停止時又は微速運行時には、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクが過大(或は過小に)にならない様にする為、駆動源から上記入力軸1に入力されるトルクを適正に規制する必要がある。
【0028】
又、上記微速運行時、出力軸37aを停止させる状態に近い状態、即ち、上記無段変速装置の変速比が非常に大きく、上記入力軸1の回転速度に比べて上記出力軸37aの回転速度が大幅に遅い状態では、この出力軸37aに加わるトルクが、上記無段変速装置の変速比の僅かな変動により、大幅に変動する。この為、円滑な運転操作を確保する為に、やはり駆動源から上記入力軸1に入力されるトルクを適正に規制する必要がある。
【0029】
尚、この様な低速モード状態での加速若しくは定速走行時に、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクは、前述の図7に示す従来構造と同様に、入力軸1からキャリア26a及び第一の遊星歯車41と第一の太陽歯車46と中空回転軸31aとを介して出力側ディスク5aに加わり、更にこの出力側ディスク5aから各パワーローラ6、6を介して各入力側ディスク2、2に加わる。即ち、加速若しくは定速走行時に上記トロイダル型無段変速機を通過するトルクは、上記各入力側ディスク2、2が上記各パワーローラ6、6からトルクを受ける方向に循環する。
【0030】
この為に、先発明による変速比の制御方法及び装置の場合には、図10に示す様にして、上記駆動源から上記入力軸1に入力されるトルクを適正に規制する様にしている。先ず、上記駆動源であるエンジンの回転速度を大まかに制御する。即ち、このエンジンの回転速度を、図10のw範囲内の点aに規制する。これと共に、この制御されたエンジンの回転速度に上記無段変速装置の入力軸1の回転速度を一致させる為に必要とされる、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を設定する。この設定作業は、前述の(1)式に基づいて行なう。即ち、先発明の方法によりエンジンから上記入力軸1に伝達するトルクを厳密に規制する必要があるのは、前記低速用クラッチ39aを接続し、前記高速用クラッチ40aの接続を断った、所謂低速モード時である。従って、上記入力軸1の回転速度を、必要とする出力軸37aの回転速度に対応した値とすべく、上記(1)式により、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を設定する。
【0031】
又、上記トロイダル型無段変速機24に組み込んだトラニオン7、7を枢軸9、9の軸方向に変位させる為の油圧式のアクチュエータ10、10を構成する1対の油圧室51a、51b(図6、12参照)の圧力差を、図示しない油圧センサにより測定する。この油圧測定作業は、上記エンジンの回転速度を大まか(但し回転速度を一定に保つ状態)に制御し、これに対応して、上述の様に、(1)式により上記トロイダル型無段変速機24の変速比を設定した状態で行なう。そして、測定作業に基づいて求めた上記圧力差により、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクTCVU を算出する。
【0032】
即ち、上記圧力差は、上記トロイダル型無段変速機24の変速比が一定である限り、このトロイダル型無段変速機24を通過するトルクTCVU に比例する為、上記圧力差により、このトルクTCVU を求める事ができる。この理由は、前述した様に、上記各アクチュエータ10、10が、入力側ディスク2、2から上記各出力側ディスク5、5(或は出力側ディスク5、5から入力側ディスク2、2)に伝達されるトルク(=トロイダル型無段変速機24を通過するトルクTCVU )に比例する大きさを有する、2Ftなる力を支承する為である。
【0033】
一方、上記トルクTCVU は、次の(3)式によっても求められる。
TCVU =eCVU ・TIN/{eCVU +(i1 −1)ηCVU } −−− (3)
この(3)式中、eCVU は上記トロイダル型無段変速機24の変速比を、TINは上記エンジンから前記入力軸1に入力されるトルクを、i1 は第一の遊星歯車41に関する遊星歯車変速機の歯数比(リング歯車48の歯数m48と第一の太陽歯車46の歯数m46との比)を、ηCVU は上記トロイダル型無段変速機24の効率を、それぞれ表している。
【0034】
そこで、上記圧力差から求めた、実際にトロイダル型無段変速機24を通過するトルクTCVU1と、上記(3)式から求めた、目標とする通過トルクTCVU2とに基づいて、この実際に通過するトルクTCVU1と目標値TCVU2との偏差△T(=TCVU1−TCVU2)を求める。そして、この偏差△Tを解消する(△T=0とする)方向に、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を調節する。尚、上記トルクの偏差△Tと、上記圧力差の偏差とは比例関係にあるので、上記変速比の調節作業は、トルクの偏差によっても、圧力差の偏差によっても行なえる。即ち、トルクの偏差による変速比制御と、圧力差の偏差による変速比制御とは、技術的に見て同じ事である。
【0035】
例えば、図10に示す様に、上記トロイダル型無段変速機24を実際に通過するトルクTCVU1(測定値)を目標値TCVU2に規制する領域で、前記エンジンが前記入力軸1を駆動するトルクTINが、この入力軸1の回転速度が高くなる程急激に低くなる方向に変化する場合に就いて考える。この様なエンジンの特性は、電子制御されたエンジンであれば、低速回転域でも容易に得られる。この様なエンジン特性を有する場合で、上記トルクの測定値TCVU1が同じく目標値TCVU2に比べて、各入力側ディスク2、2が各パワーローラ6、6(図5〜7参照)からトルクを受ける方向の偏差を有する場合には、上記入力軸1を駆動するトルクTINを小さくする為にエンジンの回転速度を増大すべく、無段変速装置全体としての変速比を減速側に変位させる。この為に、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を、増速側に変速する。但し、ブレーキペダルを踏んで停止した状態(出力軸の回転速度=0)では、上記トロイダル型無段変速機24の内部で生じる滑り、即ち、入力側、出力側各ディスク2、5aの内側面と各パワーローラ6、6の周面(図5、7参照)との当接部(トラクション部)で生じる滑りにより吸収できる範囲内で、上記トロイダル型無段変速機24の変速比の制御を行なう。従って、この変速比を調節できる許容範囲は、上記当接部に無理な力が加わらない範囲に止まり、低速走行時の場合に比べて限られたものとなる。
【0036】
例えば、図10で、上記目標値TCVU2がa点に存在する場合に、上記測定値TCVU1が同図のb点に存在する場合には、上記各入力側ディスク2、2が上記パワーローラ6、6からトルクを受ける方向の偏差を有する状態となる。そこで、上記トロイダル型無段変速機24の変速比eCVU を増速側に変更して、無段変速装置(T/M)全体としての変速比eCVT を減速側に変更する。これに合わせてエンジンの回転速度を増速し、トルクを下げる。反対に、上記測定値TCVU1が同図のc点に存在する場合には、上記各入力側ディスク2、2が上記パワーローラ6、6にトルクを付加する方向の偏差を有する状態となる。この場合には、上述した場合とは逆に、上記トロイダル型無段変速機24の変速比eCVU を減速側に変更して、無段変速装置(T/M)全体としての変速比eCVT を増速側に変更する。これに合わせて、エンジンの回転速度を減速してトルクを上昇させる。
【0037】
以下、上記圧力差から求めた、実際にトロイダル型無段変速機24を実際に通過するトルクTCVU1が目標値に一致するまで、上述した動作を繰り返し行なう。即ち、1回のトロイダル型無段変速機24の変速制御だけでは、このトロイダル型無段変速機24を通過するトルクTCVU1を目標値TCVU2に一致させられない場合には、上述した動作を繰り返し行なう。この結果、前記エンジンが前記入力軸1を回転駆動するトルクTINを、このトロイダル型無段変速機24を通過するトルクTCVU を目標値TCVU2にする値に近付ける事ができる。尚、この様な動作は、無段変速装置の制御器に組み込んだマイクロコンピュータからの指令により、自動的に、且つ、短時間の間に行なわれる。
【0038】
尚、図11は、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクTCVU と上記エンジンが上記入力軸1を回転駆動するトルクTINとの比(左側縦軸)と、無段変速装置全体としての変速比eCVT (横軸)と、上記トロイダル型無段変速機24の変速比eCVU (右側縦軸)との関係を示している。実線aが上記通過トルクTCVU と駆動トルクTINとの比と、無段変速装置全体としての変速比eCVT との関係を、破線bが上記両変速比eCVT 、eCVU 同士の関係を、それぞれ示している。先発明の場合、上記無段変速装置全体としての変速比eCVT を所定値に規制した状態で、上記トロイダル型無段変速機24を実際に通過するトルクTCVU1を上記実線a上の点で表される目標値(TCVU2)に規制すべく、上記トロイダル型無段変速機24の変速比eCVU を規制するものである。
【0039】
先発明の場合、この様に上記トロイダル型無段変速機24を実際に通過するトルクTCVU1を前記目標値TCVU2である上記実線a上の点に規制する為の制御を2段階に分けて、即ち、エンジンの回転速度を大まかに、即ち、上記目標値TCVU2を得られるであろうと考えられる回転速度に制御した後、この回転速度に合わせてトロイダル型無段変速機24の変速比制御を行なう。この為、従来方法の様なオーバシュートを生じさせる事なく、或は仮に生じたとしても実用上問題ない程度に低く抑えて、上記トロイダル型無段変速機24を実際に通過するトルクTCV U1を上記目標値TCVU2に規制できる。
【0040】
次に、上述の様にトロイダル型無段変速機24を実際に通過するトルクTCVU1を目標値TCVU2に一致させるべく、このトロイダル型無段変速機24の変速比を制御する部分の回路に就いて、図12により説明する。トラニオン7を枢軸9、9(図6参照)の軸方向(図12の上下方向)に変位させる為の油圧式のアクチュエータ10を構成する1対の油圧室51a、51bに、制御弁12を通じて、圧油を給排自在としている。この制御弁12を構成するスリーブ14は、ステッピングモータ13により、ロッド52とリンク腕53とを介して軸方向に変位自在としている。又、上記制御弁12を構成するスプール15は、リンク腕19とプリセスカム18とロッド17とを介して上記トラニオン7と係合させ、このトラニオン7の軸方向変位及び揺動変位に伴って、軸方向に変位自在としている。以上の構成は、従来から知られている、トロイダル型無段変速機の変速比制御機構と、基本的に同じである。
【0041】
特に先発明の場合には、上記スリーブ14を、上記ステッピングモータ13により駆動するのに加えて、油圧式の差圧シリンダ54によっても駆動する様にしている。即ち、上記スリーブ14に基端部を結合した上記ロッド52の先端部を上記リンク腕53の中間部に枢支すると共に、このリンク腕53の両端部に設けた長孔に、上記ステッピングモータ13或は上記差圧シリンダ54の出力部に設けたピンを係合させている。上記リンク腕53の一端部に設けた長孔内のピンが押し引きされる場合、他端部の長孔内のピンは支点となる。この様な構成により、上記スリーブ14を、上記ステッピングモータ13による他、上記差圧シリンダ54によっても軸方向に変位させられる様にしている。先発明の場合、この差圧シリンダ54による上記スリーブ14の変位により、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクTCVU に応じてこのトロイダル型無段変速機24の変速比eCVU を調節する様にしている。
【0042】
この為に先発明の場合には、上記差圧シリンダ54に設けた1対の油圧室55a、55b内に、補正用制御弁56を通じて、互いに異なる油圧を導入自在としている。これら各油圧室55a、55bに導入される油圧は、前記アクチュエータ10を構成する1対の油圧室51a、51b内に作用する油圧Pdown、Pupの差圧△Pと、上記補正用制御弁56の開度調節用の1対の電磁弁57a、57bの出力圧の差圧△P0 とに基づいて決定される。即ち、これら電磁弁57a、57bの開閉は、これら電磁弁57a、57bの出力圧の差圧△P0 が前記トロイダル型無段変速機24の目標トルクTCVU2に対応する目標差圧となる様に、図示しない制御器(コントローラ)により演算され、この制御器から出力される出力信号に基づいて制御される。従って、上記補正用制御弁56を構成するスプール58には、上記アクチュエータ10の油圧室51a、51b内に作用する油圧の差圧△Pに応じた力と、これに対抗する力となる、上記目標トルクTCVU2に対応する目標差圧である上記電磁弁57a、57bの出力圧の差圧△P0 とが作用する。
【0043】
上記トロイダル型無段変速機24を実際に通過するトルクTCVU1と上記目標トルクTCVU2とが一致する場合、即ち、これら通過トルクTCVU1と目標トルクTCVU2との差△Tが0の場合には、上記アクチュエータ10の油圧室51a、51b内に作用する油圧の差圧△Pに応じた力と、上記電磁弁57a、57bの出力圧の差圧△P0 に応じた力とが釣り合う。この為、上記補正用制御弁56を構成するスプール58は中立位置となり、上記差圧シリンダ54の油圧室55a、55bに作用する圧力も等しくなる。この状態では、この差圧シリンダ54のスプール70は中立位置となり、上記トロイダル型無段変速機24の変速比は変わらない(補正されない)。
【0044】
一方、上記トロイダル型無段変速機24を実際に通過するトルクTCVU1と上記目標トルクTCVU2とに差が生じると、上記アクチュエータ10の油圧室51a、51b内に作用する油圧の差圧△Pに応じた力と、上記電磁弁57a、57bの出力圧の差圧△P0 に応じた力との釣り合いが崩れる。そして、上記通過トルクTCVU1と目標トルクTCVU2との差△Tの大きさ及び方向に応じて上記補正用制御弁56を構成するスプール58が軸方向に変位し、上記差圧シリンダ54の油圧室55a、55b内に、上記△Tの大きさ及び方向に応じた適切な油圧が導入される。そしてこの結果、上記差圧シリンダ54のスプール70が軸方向に変位し、これに伴って、前記制御弁12を構成するスリーブ14が軸方向に変位する。この結果、前記トラニオン7が枢軸9、9の軸方向に変位して、上記トロイダル型無段変速機24の変速比が変わる(補正される)。尚、この様にして変速比が変化する方向、及び変化する量は、前述の図10〜11により説明した通りである。又、この様にトロイダル型無段変速機24の変速比が変位する量、即ち補正される量(変速比の補正量)は、このトロイダル型無段変速機24の変速比幅に対して十分小さいものである。
【0045】
上述した先発明に係る無段変速装置、並びに前述した従来から知られているトロイダル型無段変速機は、何れの構造の場合でも、トラニオン7を軸方向に変位させる為のアクチュエータ10への圧油の給排を制御する為の制御弁12のスリーブ14を、ステッピングモータ13で駆動する様にしている。この為、このステッピングモータ13に関して、断線等の制御回路の故障、焼き付等が生じ、上記スリーブ14の位置を適正に調節できなくなった場合に、車両の運行が全く行なえなくなる可能性がある。
【0046】
即ち、制御回路が故障したり、或は焼き付き等のステッピングモータ13自体の故障が生じた場合には、その時点で上記スリーブ14の位置が固定される可能性がある。上記制御弁12を構成するスリーブ14とスプール15との間に付勢ばね59(図12参照)を設ければ、焼き付き等により、上記ステッピングモータ13の出力部がロックされない限り、トロイダル型無段変速機24の変速比が、減速側或は増速側の最大値に固定される。何れにしても、故障時には無段変速装置の変速比が固定される。この場合、固定された変速比によっては、車両の運行を継続し、例えば道路の中央に停車した車両を路肩部分に寄せる等の緊急対応も行なえなくなる可能性がある。
【0047】
例えば、前述の図7〜8に示す様な、入力軸を回転させた状態のまま出力軸を停止させる、無限大の変速比を実現する変速装置を車両に搭載する場合、トルクコンバータ等の発進クラッチを省略する事が考えられる。従って、無段変速装置の変速比が有限の状態で上記故障が発生してこの変速比が固定され、且つ、車両が停止した場合には、エンジンが停止し、しかもこのエンジンの始動を行なえなくなる。即ち、この場合には、エンジンの負荷が過大となり、走行停止に伴ってこのエンジンが停止する事に加え、セルモータによるエンジンの始動が不能になる。この結果、上記緊急対応を行なえなくなる。従って、上記無限大の変速比を実現する変速装置の場合には、故障時に変速比が無限大の状態となり、しかもエンジンの回転速度を変える事により、車両を低速でも走行可能にできる構造の実現が望まれる。
【0048】
【第二の先発明の説明】
この様な事情に鑑みて本発明者は先に、故障時にも車両を必要最小限走行させたりエンジンを始動させる事を可能とし、緊急時の対応を容易にできる無段変速装置を発明した(特願2002−138598号)。図13〜14は、この様な第二の先発明を、前述の図8〜12に示した様な、第一の先発明に係る無段変速装置に適用した場合に就いて示している。
揺動に伴って上記スリーブ14を軸方向に変位させる為のリンク腕53の一端部に変速比設定用アクチュエータ60の出力ロッド61の先端部を、前述の図12に示した第一の先発明に係る構造と同様に、長孔とピンとの係合等により結合している。上記変速比設定用アクチュエータ60は、シリンダ62内に油密に嵌装したピストン63の両側に存在する1対の油圧室64a、64b内への圧油の給排により、出力部材である上記出力ロッド61を軸方向に変位させる油圧式のものである。
【0049】
即ち、油溜65から吸引されて加圧ポンプ66、66aにより吐出され、1対の調圧弁67、67aのうちの調弁圧67により所定圧に調整された圧油を、1対の電磁弁68a、68bの開閉制御により、上記両油圧室64a、64bのうちの一方に送り込み、他方の油を上記油溜65に排出する様にしている。そして、上記両電磁弁68a、68bの開度(開閉時間)を制御する事により、上記両油圧室64a、64b内への油の給排量及び給排方向を適正に規制し、上記出力ロッド61の変位方向及び変位量を適切に調整自在としている。尚、上記両電磁弁68a、68bは何れも、通電に伴って上記加圧ポンプ66、66aの吐出口と何れかの油圧室64a、64bとを通じさせ、通電停止に伴って、これら油圧室64a、64bを上記油溜65に通じさせるものを使用している。従って、上記両電磁弁68a、68bの制御回路の故障時には、上記両油圧室64a、64b内の油圧が、何れも喪失する。
【0050】
そして、上記両油圧室64a、64b内の油圧が喪失した場合に、上記出力ロッド61を所定位置に移動させる復帰手段を設けている。図示の例の場合にこの復帰手段は、上記出力ロッド61の基端部が固定された上記ピストン63の軸方向両側面と、上記シリンダ62の軸方向両内端面との間に設けた、それぞれが圧縮コイルばねである、1対の復帰ばね69a、69bにより構成している。即ち、上記両油圧室64a、64b内の油圧が喪失した場合に上記ピストン63は、上記シリンダ62の軸方向中間部で上記両復帰ばね69a、69bの弾性が釣り合う所定位置にまで、これら両復帰ばね69a、69bのうちで大きな弾性を有する(より大きく圧縮されている)復帰ばねにより、変位させられる。
【0051】
又、図示は省略するが、好ましくは、上記出力ロッド61の一部で上記シリンダ62から突出した部分と、無段変速装置のケーシングの一部等、上記出力ロッド61に隣接して動かない部分との間に、この出力ロッド61が上記所定位置から変位する事に対する抵抗となる位置決め機構を設ける。この様な位置決め機構としては、ディテント機構と呼ばれる、周知の構造を利用できる。即ち、上記出力ロッド61自体、若しくはこの出力ロッド61に固定した部材に、摺鉢状の凹孔を設け、上記動かない部分にシリンダ筒を、この出力ロッド61の軸方向に対し直交する方向に支持する。そして、このシリンダ筒内に保持したボールを、この出力ロッド61に向け、弾性的に押圧する。この出力ロッド61が上記復帰ばね69a、69bにより上記所定位置近傍にまで変位した状態では、上記ボールが上記凹孔の底部に嵌り込んで、上記出力ロッド61の軸方向に関する位置を厳密に規制する。尚、上記位置決め機構による抵抗は小さい為、上記油圧室64a、64b内への圧油の給排時には、上記凹孔から上記ボールが円滑に抜け出る。従って、上記位置決め機構の存在が、トロイダル型無段変速機24(図7〜8参照)の変速比調節に関して悪影響を及ぼす事はない。
【0052】
又、上記出力ロッド61が上記両復帰ばね69a、69bにより変位させられる上記所定位置を、次の様に規制している。即ち、前述の図7或は図8に示した様な無段変速装置を、低速用クラッチ39、39aを繋ぎ、高速用クラッチ40、40aの接続を断った状態で運転する低速モード状態で、上記無段変速装置の変速比が、入力軸1を回転させた状態のまま出力軸37、37aを停止状態とする値に設定している。
【0053】
即ち、上記図7或は図8に示した無段変速装置の変速比(T/M変速比)は、この無段変速装置に組み込んだトロイダル型無段変速機24の変速比(CVU変速比)に応じて図14の線分α、βの様に変化する。このうち、低速モード時に於ける両変速比を表す線分αから明らかな通り、本例の場合には、上記トロイダル型無段変速機24の変速比が−1.85程度の場合に無段変速装置全体としての変速比が無限大になる。本例の場合、上記両復帰ばね69a、69bの弾力及びストローク、並びに上記位置決め機構の設置位置に関連する上記所定位置を、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を−1.85程度にする位置に設定している。
【0054】
第二の先発明に係る無段変速装置は、上述の様に構成する為、上記トロイダル型無段変速機24の変速比制御部分のうち、電磁弁68a、68b部分が故障すると、上記低速モード時には、上記無段変速装置全体としての変速比が無限大若しくはそれに近い値になる。この状態では、出力軸が停止した状態でも入力軸を回転させられる為、この入力軸にそのクランクシャフトを結合したエンジンの始動が可能になる。更に、上記無段変速装置が、前述の図10に示した第一の先発明の制御機構を備えたものであれば、上記エンジンのトルクを変える事により、上記無段変速装置の変速比を無限大から少し変化させる事ができる。即ち、上記制御機構を備えた無段変速装置の場合には、アクセルペダルにより上記エンジンのトルクを変える事により、差動シリンダ54が、リンク腕53を介して、制御弁12のスリーブ14を軸方向に変位させる。この結果、上記電磁弁68a、68b部分の故障時でも、上記無段変速装置の変速比が無限大から変化し、車両を低速で走行させる事が可能になる。従って、道路の中央に停車した車両を路肩に退避させる等の緊急措置が可能になる。
【0055】
一方、前記低速用クラッチ39、39aの接続を断ち、前記高速用クラッチ40、40aを接続した状態で運転する高速モード状態で、上記電磁弁68a、68b部分が故障した場合には、上記無段変速装置全体としての変速比は、図14から明らかな通り、1.6程度となる。この1.6なる変速比は、高速モード状態で実現される変速比のうちで中間の値である。従って、故障の直前までの変速比との間の差を少なく抑えられる。この結果、高速走行時に故障が発生した場合でも、変速比の急変を抑えて、車両の走行安定性を確保できる。
【0056】
【発明が解決しようとする課題】
上述した第二の先発明の構造を実際に図7〜8に示す様な無段変速装置に組み込んで実施する場合、図15に示す様な油圧回路により、アクチュエータ10への圧油の給排だけでなく、低速用、高速用、各クラッチ39a、40aへの圧油の給排も行なわせる。即ち、車両の前進時には、運転席に設けたシフトレバーにより、手動油圧切換弁71の通常走行レンジ(D)又は低速前進レンジ(L)又は後退レンジ(R)を選択する事により、加圧ポンプ66、66aから吐出した圧油を、上記手動油圧切換弁71と、高速用切換弁72又は低速用切換弁73とを介して、上記低速用クラッチ39a又は上記高速用クラッチ40aの油圧室内に送り込む。この結果、何れか一方のクラッチが接続され、他方のクラッチの接続が断たれる。何れのクラッチを接続するかは、上記高速用、低速用各切換弁72、73を上記手動切換弁71により、或はシフト用電磁弁74により切り換えられるシフト用切換弁75により、それぞれ切り換える事により行なう。
【0057】
尚、上記高速用、低速用各切換弁72、73にそれぞれ組み込まれ、これら各切換弁72、73の切り換えを行なう油圧式の切換用アクチュエータは、圧油の導入に伴って内蔵ばねの弾力に対抗する方向に切り換えを行なう切換用アクチュエータの径を、同じくこの内蔵ばねの弾力が付与される方向に切換を行なう切換用アクチュエータの径に比べて大きくしている。即ち、上記高速用、低速用各切換弁72、73の各切換用アクチュエータに同時に圧油が導入される場合には、これら高速用、低速用各切換弁72、73が、上記内蔵ばねの弾力に拘らず、この内蔵ばねの弾力に対抗する方向に切り換わる。従って、上記高速用、低速用各切換弁72、73はそれぞれ、上記シフト用切換弁75側から導入される圧油に基づいて、上記内蔵ばねの弾力に抗して切り換わる。従って、上記高速用クラッチ40a及び低速用クラッチ39aの各油圧室に、圧油が同時に送り込まれる事はない。
【0058】
上記シフト用切換弁75の切り換えを行なう上記シフト用電磁弁74は、付属のソレノイドへの通電若しくは通電停止により切り換えられる為、断線等の電源回路の故障による制御不能時には、高速モードと低速モードとの何れかに固定される。何れのモードに固定されるかは、上記シフト用電磁弁74としてどの様な構造のもの{非通電時に回路を開くノーマルオープン(N/O)型か、非通電時に回路を閉じるノーマルオープン(N/C)型か}で決定される。故障発生時のモードに固定されるとは限らない。この結果、次の様な問題を生じる。
【0059】
先ず、故障時に高速モードに固定される(図14の線分β上で、変速比が1.6程度に固定される)構造を採用した場合、シフトレバーにより手動切換弁71を走行レンジからニュートラルレンジ(N)に切り換えない限り、停止できない。又、ニュートラルレンジに切り換えて停止し、このニュートラルレンジでエンジンを始動させた場合でも、変速比が例えば1.6程度に固定されたままである為、通常前進レンジや後退レンジに切り換えて発進する事はできない。仮に行なえたとしても、N→D又はN→Rの切り換えに伴って急発進する可能性があり、危険である。
【0060】
これに対して、故障時に低速モードに固定される(図14の線分α上で、変速比が無限大若しくはそれに近い状態に固定される)構造を採用した場合、故障発生に伴って、エンジンブレーキに基づく大きな制動力が車両に加わる。この為、高速走行時に故障が発生した場合、車両の走行安定性が損なわれたり、後続車に追突される危険が生じる可能性がある。
本発明は、この様な事情に鑑みて、故障発生時に無限大若しくはそれに近い変速比を実現可能で、しかも各部に無理な力を加える事なく停止、再発進が可能な無段変速装置を実現すべく発明したものである。
【0061】
【課題を解決するための手段】
本発明の無段変速装置は、前述の図7に示した従来から知られている、或は図8に示した先発明に係る無段変速装置と同様に、トロイダル型無段変速機と、複数の歯車を組み合わせて成る歯車式の差動ユニットと、低速モードと高速モードとを切り換える為のクラッチ機構とを組み合わせて成る。そして、このうちの低速モード時には上記トロイダル型無段変速機の変速比を調節して上記差動ユニットを構成する複数の歯車の相対的変位速度を変化させる事で、駆動源により入力軸を一方向に回転させた状態のまま出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転及び逆転に変換自在とし、上記高速モード時には上記出力軸の回転状態(回転方向及び回転、停止の状態を言い、速度の大きさは含まない)を変える事なく、上記トロイダル型無段変速機の変速比を変える事により上記入力軸と上記出力軸との間の変速比を変更する。
【0062】
又、上記トロイダル型無段変速機は、相対回転を自在として互いに同心に支持された、少なくとも1対のディスクと、これら両ディスク同士の間に挟持された複数個のパワーローラと、これら各パワーローラを回転自在に支持した複数個のトラニオンと、これら各トラニオンをそれぞれ、これら各トラニオンの傾斜中心となる枢軸の軸方向に変位させる油圧式のアクチュエータと、このアクチュエータへの圧油の給排を制御する制御弁と、上記1対のディスク同士の間の変速比を所望値に規制すべく、この制御弁の構成部材の一部を出力部材により変位させる変速比設定用アクチュエータとを備えたものである。
【0063】
特に、本発明の無段変速装置に於いては、上記変速比設定用アクチュエータは、油圧室内への圧油の給排により上記出力部材を変位させる油圧式のものである。且つ、上記変速比設定用アクチュエータには、上記油圧室内の油圧を制御する電磁弁の駆動信号が断たれた場合に上記トロイダル型無段変速機の変速比を、上記クラッチ機構が低速モードであるか高速モードであるかに拘わらず所定の値となる様に、上記出力部材を所定位置に移動させる復帰手段が設けられている。そして、この復帰手段により移動される上記出力部材の所定位置を、上記クラッチ機構が上記低速モードであると仮定した場合に、上記入力軸を回転させた状態のまま上記出力軸が停止状態となる位置に対応する位置としている。更に、上記クラッチ機構の切り換えを行なうモード切換手段に、少なくとも人手により操作されるマニュアル部材の動きに基づいて上記低速モードと上記高速モードとの切り換えを可能にする、マニュアル選択機構を組み込んでいる。
【0064】
【作用】
上述の様に構成する本発明の無段変速装置の場合、故障発生時に各部に無理な力を加える事なく停止、再発進が可能な無段変速装置を実現できる。即ち、マニュアル部材により通常前進レンジを選択している状態で故障が発生した場合に、高速モードが選択される様に設計すれば、高速走行時に故障が発生した場合でも、エンジンブレーキに基づく大きな制動力を受ける事なく、必要最小限の走行性能を確保できる。この場合でも、上記マニュアル部材により上記通常前進レンジを以外のレンジを選択する事により、低速モードを選択して、停止、エンジン始動、低速発進が可能になる。
【0065】
【発明の実施の形態】
図1〜3は、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本例の特徴は、故障発生時に各部に無理な力を加える事なく、安定した継続走行、停止、再発進が可能な無段変速装置を実現すべく、手動油圧切換弁71の通常前進レンジ(D)を選択した状態で走行中に故障が発生した場合に高速モードを選択し、上記手動油圧切換弁71の低速走行レンジ(L)又は後退レンジ(R)を選択した場合に低速モードが選択される様にする点にある。その他の部分の構成及び作用は、前述の図8〜12に示した第一の先発明、並びに図13〜14に示した第二の先発明の場合と同様である。特に、本例の構造の特徴は、電源等の故障に伴って、油圧回路中に組み込まれた電磁式の切換弁への通電が停止した場合に、車両の走行安定性を確保し、継続走行及び停止を安全に行なわせて、しかも停止後にエンジンを始動したり車両を低速で走行させられる様にする点にある。通常時(未故障時)に於ける作用に就いては、上記各先発明と同様であるから、同等部分に関する説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0066】
油溜65から吸引されて加圧ポンプ66、66aより吐出され、1対の調圧弁67、67aのうちの調圧弁67aにより所定圧に調整された圧油は、制御弁12を介してアクチュエータ10に給排自在とする他、上記手動油圧切換弁71と、高速用切換弁72又は低速用切換弁73とを介して、低速用クラッチ39a又は高速用クラッチ40aの油圧室内に送り込み自在としている。又、図示の例では、上記圧油を、入力側、出力側各ディスクの内側面と各パワーローラの周面との当接圧を確保する為の油圧式の押圧装置23aにも送り込む様にしている。上記各切換弁71〜73のうち、上記手動油圧切換弁71は、運転席に設けられて運転者により操作される、マニュアル部材であるシフトレバーにより操作されて、駐車レンジ(P)、後退レンジ(R)、ニュートラルレンジ(N)、通常前進レンジ(D)、低速前進レンジ(L)を選択する。これら各レンジを選択した場合に於ける、上記手動油圧切換弁71の切り換え状態は、図示の通りである。尚、この手動油圧切換弁71を含め、各弁の構造及び機能の表示は、油圧機器に関する機械製図の一般的な手法によっている。
【0067】
又、上記高速用、低速用両切換弁72、73はそれぞれ、シフト用電磁弁74により切り換えられるシフト用切換弁75の切り換えに基づく圧油の給排により、それぞれの断接状態を切り換えられるもので、一方の切換弁72(又は73)が高速用クラッチ40a(又は低速用クラッチ39a)の油圧室に圧油を送り込む際には、他方の切換弁73(又は72)が低速用クラッチ39a(又は高速用クラッチ40a)の油圧室から圧油を排出する。
【0068】
即ち、本例の場合にも、前述の図15に示した構造と同様に、上記高速用、低速用各切換弁72、73にそれぞれ組み込まれ、これら各切換弁72、73の切り換えを行なう油圧式の切換用アクチュエータは、圧油の導入に伴って内蔵ばねの弾力に対抗する方向に切り換えを行なう切換用アクチュエータの径を、同じくこの内蔵ばねの弾力が付与される方向に切換を行なう切換用アクチュエータの径に比べて大きくしている。即ち、上記高速用、低速用各切換弁72、73の各切換用アクチュエータに同時に圧油が導入される場合には、上記内蔵ばねの弾力に拘らず、この内蔵ばねの弾力に対抗する方向に切り換わる様にしている。又、これと共に、上記各切換用アクチュエータに圧油が導入されない場合には、上記内蔵ばねの弾力に応じて切り換わる様にしている。従って、上記高速用、低速用各切換弁72、73はそれぞれ、上記シフト用切換弁75側から導入される圧油に基づいて、上記内蔵ばねの弾力に抗して切り換わる。従って、上記高速用クラッチ40a及び低速用クラッチ39aの各油圧室に、圧油が同時に送り込まれる事はない。
【0069】
又、上記シフト用電磁弁74と上記シフト用切換弁75との間部分には、本例の特徴点の一つである非常用切換弁76を設けている。この非常用切換弁76は、油圧の給排により切り換えられるもので、通常時、即ち、この非常用切換弁76に組み込んだ、油圧式の切換用アクチュエータへの油圧導入時には、図1に示す様に上記シフト用切換弁75に圧油を、上記シフト用電磁弁74側から送り込む位置に存在する。これに対して上記非常用切換弁76は、非常時、即ち、切換用アクチュエータへの圧油の導入停止時には、図1に示す状態とは逆、即ち後述する図2〜3に示す様に、上記シフト用切換弁75に圧油を、上記手動式油圧切換弁71を通じて給排する方向に切り換わる。
【0070】
上記非常用切換弁76の切換用アクチュエータには、変速比設定用アクチュエータ60に設けた1対の油圧室64a、64bと、この油圧室64a、64bへの圧油の給排を制御する為の電磁弁68a、68bとを結ぶ配管77a、77bから、圧油を導入する様にしている。この為に本例の場合には、これら両配管77a、77b同士を結ぶ連結管78の途中にシャトル弁79を設け、このシャトル弁79の吐出口と上記非常用切換弁76の切換用アクチュエータとを、圧力導入管80により連通させている。従って、上記両配管77a、77bのうちの何れか一方の配管内に油圧が存在する限り、上記非常用切換弁76の切換用アクチュエータに圧力が導入され、この非常用切換弁76が、図1に示す様に、上記シフト用切換弁75に圧油を、上記シフト用電磁弁74側から送り込む状態となる。
【0071】
上記両電磁弁68a、68bは、通電に伴って変速比設定用アクチュエータ60に設けた油圧室64a、64bを油圧源に通じさせ、非通電時にはこの油圧室64a、64bを解放する、ノーマルクローズ(N/C)型である。従って、電源回路等の故障により、上記両電磁弁68a、68bへの通電が停止された場合には、上記油圧室64a、64b、延いては、上記両配管77a、77b内の油圧が喪失し、上記非常用切換弁76の切換用アクチュエータへの圧力導入が停止される。この結果、この非常用切換弁76は、図1に示す状態とは逆(図2〜3に示す状態)に切り換わり、上記シフト用切換弁75に圧油を、前記手動油圧切換弁71側からこの手動油圧切換弁71の選択に応じて送り込み自在の状態となる。
【0072】
本例の無段変速装置は、以上に述べた通り構成する為、電源回路、制御回路等の故障に基づいて油圧回路中に組み込まれた電磁式の切換弁68a、68b、74への通電が停止した場合に、車両の走行安定性を確保し、継続走行及び停止を安全に行なわせて、しかも停止後にエンジンを始動したり車両を低速で走行させる事が可能になる。
【0073】
即ち、本例の場合には、油圧が存在する回路を太い実線で、油圧が解放されている回路を破線で、それぞれ示す図2から明らかな様に、運転者がシフトレバーにより手動油圧切換弁71の通常前進レンジ(D)を選択している状態で故障が発生した場合に、高速モードが選択される。先ず、故障に伴って上記両電磁弁68a、68b(図1)への通電が停止されて上記両配管77a、77b(図1)内の油圧が喪失すると、前記圧油導入管80の油圧も喪失し、上記非常用切換弁76の切換用アクチュエータへの圧力導入が停止される。この結果、この非常用切換弁76は、内蔵したばねの弾力により、図1に示す状態から図2に示す状態に切り換わり、上記シフト用切換弁75の切換用アクチュエータ及び内部流路に、前記シフト用電磁弁74(図1)からの圧油が送り込まれなくなる。この結果、上記シフト切換弁75は、内蔵したばねの弾力に基づいて、図2に示す状態となる。尚、この場合には、前記シフト用電磁弁74も、通電停止に伴って、図1に示す状態のままとなる。
【0074】
一方、前記低速用各切換弁73は、上記シフト用切換弁75側から導入される油圧に基づいて、(1対の油圧式の切換用アクチュエータの断面積の差に基づき)内蔵ばねの弾力に抗して切り換わった状態となると共に、上記高速用切換弁72は、上記手動油圧切換弁71側から導入される圧油に基づいて、内蔵ばねの弾力が付与される方向に切り換わった状態となる。この結果、上記高速用、低速用両切換弁72、73を通じて、前記低速用クラッチ39aの油圧室内の油圧が排出されると共に、前記高速用クラッチ40aの油圧室内に油圧が導入され、無段変速装置が高速モードの状態となる。この状態でこの無段変速装置の変速比は、前述した様に、図14の線分β上の点で表した値(1.6程度)となる。従って、高速走行時に故障が発生した場合に、エンジンブレーキに基づく大きな制動力を受ける事なく、必要最小限の走行性能を確保できる。
【0075】
この場合でも、車両を安全な場所にまで走行させてから(好ましくは運転席のシフトレバーにより手動油圧切換弁71をニュートラルレンジ若しくは低速前進レンジに切り換えてから)停止させた後、再び車両を低速で走行させる事ができる。又、手動油圧切換弁71を通常前進レンジのまま車両を停止させる等により、エンジンが停止した場合には、エンジンを始動させる事ができる。即ち、この場合には、上記シフトレバーにより手動油圧切換弁71の、前記低速走行レンジ(L)又は前記後退レンジ(R)を選択する。
【0076】
油圧が存在する回路と解放されている回路とを、図2と同様に、破線と太い実線とで示す図3から明らかな通り、上記低速走行レンジL(又は後退レンジR)を選択した場合には、前記シフト用切換弁75の切換用アクチュエータ及び内部流路に圧油が、上記手動油圧切換弁71側から送り込まれる状態となる。この結果、上記シフト用切換弁75が、内蔵ばねの弾力に効して図3に示す状態となる。一方、上記高速用切換弁72は、上記シフト用切換弁75側から導入される圧油に基づいて、(1対の油圧式の切換用アクチュエータの断面積の差に基づき)内蔵ばねの弾力に抗して切り換わった状態となると共に、上記低速用切換弁73は、上記手動油圧切換弁71側から導入される圧油に基づいて、内蔵ばねの弾力が付与される方向に切り換わった状態となる。
【0077】
この為、上記高速用、低速用両切換弁72、73を通じて、上記低速用クラッチ39aの油圧室内の油圧が導入されると共に、上記高速用クラッチ40aの油圧室内の油圧が排出され、無段変速装置が低速モードの状態となる。この状態でこの無段変速装置の変速比は、前述した様に、図14の線分α上の点で表した様に、無限大(0)若しくはそれに近い値となる。この結果、エンジンを回転させたままの車両の走行停止、停止したエンジン再始動、車両の低速発進が可能になる。低速発進が可能な理由は、前述の第二の先発明部分で説明した通りである。
【0078】
尚、上記手動油圧切換弁71により低速走行モード(L)又は後退モード(R)を選択した状態で故障が発生した場合には、低速モードが選択されて、変速比が無限大若しくはそれに近い状態となる。但し、この場合には、故障前から元々低速モードが選択されており、走行速度も早くない為、特に車両の走行安定性が損なわれたり、追突の危険性が増したりする可能性は低く、問題とはなりにくい。
【0079】
【発明の効果】
本発明のトロイダル型無段変速機及び無段変速装置は、以上に述べた通り構成され作用するので、故障時にも搭載した車両の最低限の走行性能を確保して、緊急避難作業の容易化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の無段変速装置に組み込むトロイダル型無段変速機の変速比を調節する為の機構を示す油圧回路図。
【図2】故障時に通常前進レンジ(D)を選択した状態を示す、図1のA部に相当する図。
【図3】同じく低速走行レンジ(L)を選択した状態を示す、図1のA部に相当する図。
【図4】従来から知られているトロイダル型無段変速機の1例を示す断面図。
【図5】図2のB−B断面図。
【図6】同C−C断面図。
【図7】従来から知られている無段変速装置の1例を示す略断面図。
【図8】第一の先発明に係る制御装置により変速比を制御する無段変速装置の1例を示す略断面図。
【図9】この無段変速装置に組み込んだトロイダル型無段変速機(CVU)の変速比と、この無段変速装置(T/M)全体としての変速比との関係を示す線図。
【図10】第一の先発明に係る制御装置で変速比を制御する状態を説明する為、エンジンの回転速度とトルクとの関係を示す線図。
【図11】トロイダル型無段変速機を通過するトルク及び変速比と、無段変速装置全体としての変速比との関係を示す線図。
【図12】第一の先発明の無段変速装置を構成するトロイダル型無段変速機の変速比を調節する為の機構を示す油圧回路図。
【図13】第二の先発明の無段変速装置を構成するトロイダル型無段変速機の変速比を調節する為の機構を示す油圧回路図。
【図14】この無段変速装置に組み込んだトロイダル型無段変速機(CVU)の変速比と、この無段変速装置(T/M)全体としての変速比との関係を示す線図。
【図15】第二の先発明の無段変速装置を構成するトロイダル型無段変速機の変速比を調節する為の機構をより具体化した構造を示す油圧回路図。
【符号の説明】
1 入力軸
2 入力側ディスク
3 ボールスプライン
4 出力歯車
5、5a 出力側ディスク
6 パワーローラ
7 トラニオン
8 支持軸
9 枢軸
10 アクチュエータ
11 支持板
12 制御弁
13 ステッピングモータ
14 スリーブ
15 スプール
16 ピストン
17 ロッド
18 プリセスカム
19 リンク腕
20 同期ケーブル
21 カム面
22 駆動軸
23、23a 押圧装置
24 トロイダル型無段変速機
25、25a 遊星歯車式変速機
26、26a キャリア
27a、27b 遊星歯車素子
28 第一の伝達軸
29a、29b 太陽歯車
30 第二の伝達軸
31、31a 中空回転軸
32 太陽歯車
33 遊星歯車素子
34 リング歯車
35、35a 第二のキャリア
36a、36b 遊星歯車素子
37、37a 出力軸
38、38a 第二のリング歯車
39、39a 低速用クラッチ
40、40a 高速用クラッチ
41 第一の遊星歯車
42 第二の遊星歯車
43a、43b 遊星歯車素子
44a、44b 遊星歯車素子
45 伝達軸
46 第一の太陽歯車
47 第二の太陽歯車
48 リング歯車
49 第三の太陽歯車
50a、50b 遊星歯車素子
51a、51b 油圧室
52 ロッド
53 リンク腕
54 差動シリンダ
55a、55b 油圧室
56 補正用制御弁
57a、57b 電磁弁
58 スプール
59 付勢ばね
60 変速比設定用アクチュエータ
61 出力ロッド
62 シリンダ
63 ピストン
64a、64b 油圧室
65 油溜
66、66a 加圧ポンプ
67、67a 調圧弁
68a、68b 電磁弁
69a、69b 復帰ばね
70 スプール
71 手動油圧切換弁
72 高速用切換弁
73 低速用切換弁
74 シフト用電磁弁
75 シフト用切換弁
76 非常用切換弁
77a、77b 配管
78 連結管
79 シャトル弁
80 圧力導入管
Claims (6)
- トロイダル型無段変速機と、複数の歯車を組み合わせて成る歯車式の差動ユニットと、低速モードと高速モードとを切り換える為のクラッチ機構とを組み合わせて成り、このうちの低速モード時には上記トロイダル型無段変速機の変速比を調節して上記差動ユニットを構成する複数の歯車の相対的変位速度を変化させる事で、駆動源により入力軸を一方向に回転させた状態のまま出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転及び逆転に変換自在とし、上記高速モード時には上記出力軸の回転状態を変える事なく、上記トロイダル型無段変速機の変速比を変える事により上記入力軸と上記出力軸との間の変速比を変更する無段変速装置であって、上記トロイダル型無段変速機は、相対回転を自在として互いに同心に支持された、少なくとも1対のディスクと、これら両ディスク同士の間に挟持された複数個のパワーローラと、これら各パワーローラを回転自在に支持した複数個のトラニオンと、これら各トラニオンをそれぞれ、これら各トラニオンの傾斜中心となる枢軸の軸方向に変位させる油圧式のアクチュエータと、このアクチュエータへの圧油の給排を制御する制御弁と、上記1対のディスク同士の間の変速比を所望値に規制すべく、この制御弁の構成部材の一部を出力部材により変位させる変速比設定用アクチュエータとを備えたものである無段変速装置に於いて、この変速比設定用アクチュエータは、油圧室内への圧油の給排により上記出力部材を変位させる油圧式のものであり、且つ、上記変速比設定用アクチュエータには、上記油圧室内の油圧を制御する電磁弁の駆動信号が断たれた場合に上記トロイダル型無段変速機の変速比を、上記クラッチ機構が低速モードであるか高速モードであるかに拘わらず所定の値となる様に、上記出力部材を所定位置に移動させる復帰手段が設けられており、この復帰手段により移動される上記出力部材の所定位置は、上記クラッチ機構が上記低速モードであると仮定した場合に、上記入力軸を回転させた状態のまま上記出力軸が停止状態となる位置に対応する位置であり、上記クラッチ機構の切り換えを行なうモード切換手段に、少なくとも人手により操作されるマニュアル部材の動きに基づいて上記低速モードと上記高速モードとの切り換えを可能にするマニュアル選択機構を組み込んだ事を特徴とする無段変速装置。
- 故障発生時にクラッチ機構が、マニュアル部材が通常前進レンジを選択している場合に、高速モードを選択し、故障発生時に上記マニュアル部材により低速前進レンジ又は後退レンジを選択した場合に低速モードとなる、請求項1に記載した無段変速装置。
- 復帰手段が、出力部材に固定されてこの出力部材と共に変位する部分と、この変位する部分を収納したシリンダとの間に設けた復帰ばねであり、上記出力部材とこの出力部材に隣接して動かない部分との間に、この出力部材が所定位置から変位する事に対する抵抗となる位置決め機構を設けた、請求項1〜2の何れかに記載した無段変速装置。
- マニュアル部材が、通常前進レンジを含めた複数のレンジを選択する為に運転席に設置されるセレクトレバーにより切り換え状態を変えられる手動油圧切換弁であり、このセレクトレバーにより通常前進レンジを選択した状態で変速比設定用アクチュエータの油圧室内の油圧を制御する電磁弁の駆動信号が断たれた場合に、上記手動油圧切換弁を通じてモード切換手段に導入される油圧により、高速モードが実現され、上記セレクトレバーにより低速前進レンジ又は後退レンジを選択した場合に低速モードが実現される、請求項1〜3の何れかに記載した無段変速装置。
- トロイダル型無段変速機の変速比を制御する制御装置が、このトロイダル型無段変速機を通過するトルクを目標値にすべく、駆動源の回転速度を大まかに制御すると共に、上記トロイダル型無段変速機の変速比を、この制御された駆動源の回転速度に無段変速装置の入力軸の回転速度を一致させる為に必要とされる値に設定し、且つ、アクチュエータを構成する1対の油圧室の圧力差を測定して上記トロイダル型無段変速機を通過するトルクを算出した後、このトルクの算出値と上記目標値とに基づいて、上記実際に上記トロイダル型無段変速機を通過するトルクの目標値に対する偏差を求め、この偏差を解消する方向にこのトロイダル型無段変速機の変速比を調節する機能を有するものである、請求項1〜4の何れかに記載した無段変速装置。
- 低速モード状態での、変速比設定用アクチュエータの油圧室内の油圧喪失時に、トロイダル型無段変速機の変速比が、入力軸を回転させた状態のまま出力軸を停止状態とする値に設定されている、請求項5に記載した無段変速装置。
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