JP2005179344A - フラーレン−カルボン酸付加体の製造方法及びフラーレン−カルボン酸付加体材料 - Google Patents

フラーレン−カルボン酸付加体の製造方法及びフラーレン−カルボン酸付加体材料 Download PDF

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Abstract

【課題】 水素等の爆発性気体の発生や、副生物等の不純物成分の残留を伴わず、フラーレン−カルボン酸付加体を高い収率で安全に製造できる方法を提供する。
【解決手段】 フラーレン−カルボン酸エステル付加体を加水分解する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、フラーレン−カルボン酸付加体の製造方法及びフラーレン−カルボン酸付加体含有材料に関する。具体的には、中性の水に対して高い溶解性を有するフラーレン−カルボン酸付加体を高い収率で安全に製造できる方法、並びに、アルカリ金属等のプロトン以外のカチオンの残留が少ない、高純度のフラーレン−カルボン酸付加体からなる材料に関する。
1990年にC60の大量合成法が確立されて以来、フラーレンに関する研究が精力的に展開されている。その結果、数多くのフラーレン誘導体が合成され、その多様な機能が明らかにされてきた。それに伴い、フラーレン誘導体を用いた電子伝導材料、半導体、生理活性物質等の各種用途開発が進められている。
フラーレン誘導体の中でも、フラーレン−カルボン酸付加体は、親水性及び水溶性を有することから、医農薬や化粧品や染料の中間体として有用である他、ポリマーの粗原料、各種電子材料としても有用である。
従来のフラーレン−カルボン酸付加体の製造方法としては、C60−マロン酸ジエチル付加体と20当量の水素化ナトリウム(NaH)をトルエン中で60℃に加熱した後、その反応液にメタノールを添加して反応を終了させ、析出した固体を濾別し、その固体を硫酸で洗浄することにより、C60−マロン酸付加体を製造する方法(非特許文献1及び2参照:NaH法)が知られている。
Journal of Chemical Society, Chemical Communication, 1994年,1727頁 Liebigs Ann./Recueil, 1997年,253頁
しかしながら、本発明者らの検討によると、上述した従来のNaH法では、反応によって目的物以外の副生物が生成してしまい、目的物であるフラーレン−カルボン酸付加体(C60−マロン酸付加体)の収率が低くなってしまうという課題があった。NaH法による合成後に反応生成物をイオン交換樹脂で処理してこれら副生物等の不純物成分を取り除くということも考えられるが、このような手法を用いても不純物成分を十分に除去することはできず、フラーレン−カルボン酸付加体を高い収率で得ることは困難であった。
また、NaH法では、メタノール添加時に爆発性気体である水素が発生して危険なため、工業的に大量生産することが困難であるという課題もあった。
この様な背景から、水素等の爆発性気体の発生や、副生物等の不純物成分の残留を伴わず、フラーレン−カルボン酸付加体を高い収率で安全に製造できる方法が要望されていた。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明の目的は、フラーレン−カルボン酸付加体を高い収率で安全に製造できる方法を提供すること、並びに、アルカリ金属等のプロトン以外のカチオンの残留が少ない、高純度のフラーレン−カルボン酸付加体からなる材料を提供することに存する。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、フラーレン−カルボン酸エステル付加体を加水分解することによって、フラーレン−カルボン酸付加体を高い収率で安全に製造できること、また、加水分解の生成物を酸性物質で処理することによって、アルカリ金属等のプロトン以外のカチオンの残留が少ない、高純度のフラーレン−カルボン酸付加体からなる材料を得られることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明の趣旨は、フラーレン−カルボン酸エステル付加体を加水分解することを特徴とするフラーレン−カルボン酸付加体の製造方法に存する(請求項1)。
ここで、前記加水分解は両親媒性溶媒の存在下で行なうことが好ましい(請求項2)。
また、フラーレン−ポリカルボン酸エステル付加体を原料として前記加水分解を行なうことによりフラーレン−ポリカルボン酸付加体を製造することが好ましい(請求項3)。
更に、前記加水分解により得られた生成物を、イオン交換樹脂で処理することが好ましい(請求項4)。
また、本発明の別の趣旨は、主にフラーレン−カルボン酸付加体からなる材料であって、乾燥状態におけるプロトン以外のカチオンの含有率が5重量ppm以下であることを特徴とするフラーレン−カルボン酸付加体材料に存する(請求項5)。
本発明によれば、フラーレン−カルボン酸エステル付加体を加水分解することによって、フラーレン−カルボン酸付加体を高い収率で安全に製造することが可能となる。また、加水分解の生成物を酸性物質で処理することによって得られた材料は、アルカリ金属等のカチオンの残留が少なく、フラーレン−カルボン酸付加体の純度が極めて高い。
以下、本発明について説明する。
本発明に係るフラーレン−カルボン酸付加体の製造方法(以下、適宜「本発明の製造方法」等と略称する。)は、フラーレン−カルボン酸エステル付加体を加水分解することにより、フラーレン−カルボン酸付加体を製造するものである。
<フラーレン−カルボン酸エステル付加体>
本発明では原料として、フラーレン−カルボン酸エステル付加体を用いる。
なお、本発明において「フラーレン−カルボン酸エステル付加体」とは、カルボン酸エステル基を有するフラーレン類を指す。
ここで、「フラーレン」とは、炭素原子が球状又はラグビー状に配置して形成される閉殻状の骨格(以下、「フラーレン骨格」という。)を有する炭素クラスターをいう。その炭素数は通常60以上、120以下の範囲であり、具体的にはC60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96及びより高次の炭素クラスターが挙げられる。これらは単一でも混合物であってもよい。これらのうち、製造時における反応原料の入手の容易さからC60又はC70が好ましい。
また、「フラーレン類」とは、フラーレン骨格を何らかの形で含有する化合物又は組成物の総称である。即ち、本発明における「フラーレン類」という語は、フラーレンそのものやその誘導体のみならず、フラーレン又はその誘導体が他の金属原子や化合物とキレートして錯体となっているものや、フラーレン又はその誘導体がフラーレン骨格内に他の金属原子や化合物を内包しているものをも含む意味に用いる。
一方、カルボン酸エステル基としては、各種のカルボン酸におけるカルボキシル基の水酸基(−OH)が他のアルコキシル基(−OR)で置換されたものであれば、その種類は特に制限されず、目的とするフラーレン−カルボン酸付加体の構造に応じて、様々なものを使用することが可能である。なお、Rは有機基を表わす。
具体的に、カルボン酸の種類としては、カルボキシル基を1つ有するモノカルボン酸、2つ以上有するポリカルボン酸の何れでも良い。ポリカルボン酸の場合、カルボン酸の数は通常40以下、好ましくは20以下である。また、ポリカルボン酸の各カルボキシル基は、同一でも異なっていても良い。但し、本発明では、入手の容易さや製造の簡便さの点から、カルボキシル基が2つ以下のもの、即ちモノカルボン酸又はジカルボン酸が好ましい。また、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸の何れであってもよいが、脂肪族カルボン酸の方が好ましい。脂肪族カルボン酸の場合、直鎖状でも分岐鎖状でも環状でもよいが分岐鎖状が好ましく、また、飽和でも不飽和でもよいが飽和が好ましい。
カルボン酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、安息香酸、アクリル酸、ムコン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、グルタル酸、クエン酸、イソクエン酸等が挙げられる。中でも、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マロン酸、安息香酸が好ましく、原料が入手容易であるという観点から、マロン酸が特に好ましい。
また、カルボキシル基の水酸基を置換してエステルを形成する基(以下、適宜「アルコキシル基(−OR)」という。)において、酸素原子と結合している有機基(R)としては、脂肪族又は芳香族の炭化水素基が挙げられるが、脂肪族炭化水素基の方が好ましい。脂肪族炭化水素基の場合、直鎖状でも分岐鎖状でも環状でもよいが直鎖状の方が好ましく、また、飽和でも不飽和でもよいが飽和の方が好ましい。また、これらの炭化水素基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に何らかの置換基を有していてもよい。アルコキシル基の炭素数は、他の置換基を有する場合にはその置換基も含めたアルコキシル基全体の値で、通常1以上、また、通常20以下である。中でも、原料入手の容易さ及び加水分解の起こり易さから少ない方が好ましく、具体的には、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは4以下の範囲である。
アルコキシル基における炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、フェニル基、ベンジル基等が挙げられる。中でも、原料調達の容易さ及び加水分解の生じ易さの観点から、メチル基又はエチル基が好ましい。
上述のアルコキシル基がカルボキシル基の水酸基と置換してエステル結合を形成する訳であるが、アルコキシル基は通常は1価の基であり、1つのカルボキシル基が1つのアルコキシル基との間にエステル結合を形成している。但し、使用するカルボン酸の種類によっては、2つ以上のアルコキシル基を有する炭化水素基を用いて、2つ以上のカルボキシル基との間にそれぞれエステル結合を形成させてこれらの基を連結し、フラーレン骨格の一部を含む環状構造を形成させたものでもよい。また、1つのカルボン酸が複数のカルボキシル基を有する場合、アルコキシル基が結合するのはそれらのカルボキシル基の一部のみであっても全てであってもよく、また、複数のカルボキシル基に結合するアルコキシル基の種類は同一であっても異なっていてもよいが、合成の容易さの観点からは、複数のカルボキシル基の全てが同一種のアルコキシル基と結合していることが好ましい。
カルボン酸エステルの好ましい具体例としては、ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、マロン酸エステル、コハク酸エステル、安息香酸エステル、アクリル酸エステル等が挙げられる。中でも、入手の容易さや製造の簡便さの点から、マロン酸エステルが好ましく、具体的にはマロン酸ジメチル、マロン酸メチルエチル、マロン酸ジエチルが好ましい。
フラーレン−カルボン酸エステル付加体は、上述のカルボン酸エステルが、そのカルボン酸側(エステル置換基側ではなく)において、上述のフラーレン類が有するフラーレン骨格に結合したものである。ここで、カルボン酸は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、フラーレン骨格とカルボキシル基がギ酸エステルのように直接結合していても良いし、フラーレン骨格とカルボキシル基との間に他の何らかの置換基を有していてもよい。但し、加水分解反応を容易にする観点からは、カルボキシル基に隣接する炭素原子、即ち、カルボキシル基に対してα位に存在する炭素部位が、他の置換基や二重結合によって占有されていないこと、即ち、−CH2−で表わされるメチレン基であることが好ましい。カルボン酸の炭素数は、カルボキシル基以外の置換基を有する場合にはその置換基も含めた値で、通常1以上、好ましくは2以上、また、通常45以下、好ましくは30以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは7以下の範囲である。フラーレン骨格とカルボキシル基との間に他の何らかの置換基を有する場合、使用するカルボン酸エステルの種類によっては2つ又はそれ以上の結合を有していてもよい。例えば、マロン酸エステルの場合、下記式(I)で表わされる部分構造でフラーレン骨格と結合していることが好ましい。
Figure 2005179344
なお、上式(I)において、Ra及びRbはそれぞれ独立にアルコキシル基を表わし、Ca及びCbはフラーレン骨格上の隣接する炭素原子を表わす。
フラーレン類に対するカルボン酸エステルの付加数は特に限定されるものではないが、フラーレン骨格に対して通常1以上、20以下の範囲であり、合成の容易さの観点からは、10以下が好ましい。特に、フラーレン骨格に対してそれぞれ1,2,3,4,5,6,10の置換基が付加したフラーレン誘導体については、その合成法が既に報告されていることから、合成の容易さの観点からは、カルボン酸エステルの付加数もこれらの数(1,2,3,4,5,6,10)とすることが好ましい。但し、これらの付加数は目的とするフラーレン−カルボン酸付加体の用途や、使用するカルボン酸エステルが有するカルボキシル基の数に応じて適宜調整することが好ましい。例えば、フラーレン−カルボン酸付加体のフラーレン骨格当たりのカルボキシル基数を所望の値とするのであれば、ジカルボン酸エステルを使用する場合の付加数は、モノカルボン酸エステルを使用する場合の付加数の2分の1とすることが好ましい。
なお、1つのフラーレン骨格に複数のカルボン酸エステルが結合する場合、これらのカルボン酸エステルは同一の種類であってもよく、異なる種類であってもよいが、合成の容易さの観点からは、全て同一の種類のカルボン酸エステルであることが好ましい。
以上、本発明の原料として使用されるフラーレン−カルボン酸エステル付加体について説明したが、使用可能なフラーレン−カルボン酸エステル付加体は上の説明によって制限される訳ではなく、あくまでも目的とするフラーレン−カルボン酸付加体の種類及び用途に合わせて、適切に選択すべきである。
なお、上述のフラーレン−カルボン酸エステル付加体は、例えば、Chem.Ber.,1993年,126巻,1957頁や、J.Chem.Soc.,Perkin 1,1997年,1595頁等に記載の方法により合成することが可能である。
本発明の原料としては、単一の種類のフラーレン−カルボン酸エステル付加体を用いてもよく、複数の種類のフラーレン−カルボン酸エステル付加体の混合物を用いてもよい。複数の種類のフラーレン−カルボン酸エステル付加体を用いる場合、その組み合わせ及び組成比も、目的及び用途に応じて任意に選択できる。
<水酸化物イオン供与性物質>
加水分解の際には、上述のフラーレン−カルボン酸エステル付加体の他に、反応系に水酸化物イオン(OH-)が存在する必要がある。水酸化物イオンの供与源(以下、適宜「水酸化物イオン供与性物質」という。)は、加水分解を酸性条件下で行なうか、アルカリ性条件下で行なうかによって異なる。
本発明における加水分解は、酸性条件下で行なってもアルカリ性条件下で行なっても構わないが、より高い収率を得られる点、及び、副生物の生成が少ない点から、アルカリ性条件下で行なうことが好ましい。アルカリ性条件下で加水分解反応を行なう場合、通常は反応系にアルカリ性物質を加えてアルカリ性条件とするが、このアルカリ性物質が水酸化物イオン供与性物質として機能することになる。
アルカリ性物質の種類は特に制限されないが、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属、又は、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属を含む化合物が挙げられ、化合物の種類としては、これらの金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、アンモニウム塩(例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等)又はこれらの水和物などが挙げられる。これらの中でも、後述する両親媒性溶媒への溶解性並びに反応性の観点から、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物が好ましく、アルカリ金属の水酸化物が更に好ましい。具体的には、水酸化リチウムが特に好ましい。これらのアルカリ性物質は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いることもよい。また、これらの物質は水和物の状態でも構わない。
アルカリ性物質の使用量は、フラーレン−カルボン酸エステル付加体の有するカルボン酸エステル結合の数(フラーレン骨格に結合するカルボン酸エステル基の付加数ではなく、カルボン酸エステル結合の数である。例えば、ジカルボン酸エステル基の場合、カルボン酸エステル結合の数はカルボン酸エステル基の付加数の2倍になる。)に対して、通常1倍モル以上、好ましくは1.2倍モル以上、また、通常10倍モル以下、好ましくは3倍モル以下の範囲である。アルカリ性物質の使用量が少な過ぎると反応が十分に進行しないおそれがある一方で、使用量が多過ぎると反応後に余分なアルカリ性物質を除去する手間がかかる上に副反応が起こる可能性が高くなるおそれがある。
なお、上に例示する多くのアルカリ性物質に代表されるように、水酸化物イオン供与性物質が常温で固体の場合には、水酸化物イオン供与性物質をフラーレン−カルボン酸エステルとともに、後述する両親媒性溶媒に直接溶解させてもよいが、予め別の溶媒を用いて水酸化物イオン供与性物質を溶解させてから用いることが好ましい。即ち、水酸化物イオン供与性物質溶液と、フラーレン−カルボン酸エステル付加体を後述する両親媒性溶媒に溶解させた溶液とを混合することによって、反応液中に水酸化物イオンを電離状態で多量に存在させることができ、水酸化物イオンとフラーレン−カルボン酸エステル付加体とを効率的に接触させることが可能となる。
溶媒としては、水酸化物イオン供与性物質を溶解させることができれば、その種類は特に制限されないが、通常は水やアルコール類やエーテル類等の極性溶媒が用いられる。なお、本発明において「極性溶媒」とは、常温常圧において水酸化リチウムを0.1重量%以上溶解させる溶媒を言うものとする。アルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等が挙げられ、エーテル類の具体例としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。極性溶媒は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組成及び組み合わせで用いてもよい。これらの中でも、水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフランの何れかを単独で、又はこれらのうち2種以上を組み合わせて用いるのが好ましい。
極性溶媒の使用量は、水酸化物イオン供与性物質が溶解した状態となればよく、少な過ぎると、水酸化物イオン供与性物質が十分に溶解せず、反応が十分に進行しないおそれがある。一方、極性溶媒の使用量が多過ぎると、反応速度の低下により反応時間が長くなってしまう。
なお、反応系に水を用いない場合であっても、例えば、アルカリ性物質に由来する水酸化物イオンと、アルカリ性物質を溶解させる極性溶媒のプロトンとから水が発生し、これによってカルボン酸エステルの分解が行なわれる場合もある。よって、本発明における「加水分解」とは、このように反応で発生する水による反応も含むものと定義する。
一方、中性から酸性の条件下で加水分解反応を行なう場合には、通常は、水が解離して水酸化物イオンを供与する。また、酸性物質としては、塩酸、硫酸などの鉱酸;トリフルオロ酢酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸等が使用される。
<両親媒性溶媒>
フラーレン−カルボン酸エステル付加体は、その構造の中心であるフラーレン骨格の極性が低く、通常は疎水性の性質を示す。これに対して、アルカリ性物質等の水酸化物イオン供与性物質は一般に親水性を有し、極性が高いことから、フラーレン−カルボン酸エステル付加体と馴染み難く、これらを用いて加水分解を行なうのは困難であった。
そこで、本発明では、原料となるフラーレン−カルボン酸エステル付加体を溶解させるとともに、アルカリ性物質等の水酸化物イオン供与性物質又はこれを極性溶媒に溶解させた溶液をも溶解させることが可能な溶媒、すなわち、非極性物質(フラーレン−カルボン酸エステル付加体)と極性物質(水酸化物イオン供与性物質又は極性溶媒)の双方に対して親和性を示す両親媒性溶媒を選択し、これを用いて加水分解反応を行なうことが好ましい。具体的には、フラーレン−カルボン酸エステル付加体を両親媒性溶媒に溶解させ、得られた溶液を、水酸化物イオン供与性物質(又はこれを極性溶媒に溶解させた溶液)と混合し、これを反応液とする。これによって、反応液中でフラーレン−カルボン酸エステル付加体を水酸化物イオンと適切に接触させることができ、効率的に加水分解反応を生じさせることが可能となる。
本発明において「両親媒性溶媒」とは、フラーレン−カルボン酸エステル付加体と、アルカリ性物質等の水酸化物イオン供与性物質又はこれを溶解させる極性溶媒との双方を溶解させる溶媒を広く指すものとする。但し、フラーレン−カルボン酸エステル付加体については、完全に両親媒性溶媒中に溶解していなくとも、溶解しているフラーレン−カルボン酸エステル付加体が加水分解されるに従って、溶解していないフラーレン−カルボン酸エステル付加体が随時、両親媒性溶媒中に溶解していく場合もあるので、本発明では、フラーレン−カルボン酸エステル付加体を完全に溶解させなくても、僅かでも溶解する溶媒であれば、両親媒性溶媒に含まれるものとする。
両親媒性溶媒の種類は特に制限されず、使用するフラーレン−カルボン酸エステル付加体の種類や、水酸化物イオン供与性物(アルカリ性物質等)又は極性溶媒の種類に応じて、双方を溶解可能な溶媒を適宜選択すればよい。具体的には、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル類;ジクロロメタン、トリクロロメタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン系炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族化合物類などが挙げられる。中でもエーテル類又はハロゲン系炭化水素類が好ましく、具体的にはテトラヒドロフラン又はジクロロメタンが好ましい。なお、これらの両親媒性溶媒は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
なお、アルカリ性物質等の水酸化物イオン供与性物質を極性溶媒に溶解させて使用する場合、極性溶媒と両親媒性溶媒との組み合わせの好ましい具体例としては、極性溶媒として水を、両親媒性溶媒としてテトラヒドロフランを用いる組み合わせや、極性溶媒としてメタノールを、両親媒性溶媒としてジクロロメタンを用いる組み合わせなどが挙げられる。
両親媒性溶媒の使用量は、フラーレン−カルボン酸エステル付加体に対する重量比の値で、通常0.2重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下の範囲である。両親媒性溶媒の使用量が少な過ぎるとフラーレン−カルボン酸エステル付加体を十分に溶解させることができず、ひいては加水分解反応が十分に進行しないおそれがある一方、使用量が多過ぎると加水分解の反応速度が低下して反応時間が長くなるおそれがあり、また、加水分解後の溶媒除去の負担増や、より大きな反応容器を必要とする等の点から、工業生産に不向きである。
また、アルカリ性物質等の水酸化物イオン供与性物質を極性溶媒に溶解させて使用する場合、極性溶媒と両親媒性溶媒との使用量の割合は、使用する溶媒の組み合わせによっても異なるが、(極性溶媒の重量):(両親媒性溶媒の重量)の比の値で、通常1:10以上、好ましくは1:5以上、また、通常10:1以下、好ましくは5:1以下の範囲である。極性溶媒の割合が少な過ぎると、アルカリ性物質等の水酸化物イオン交換樹脂剰余性物質が析出してしまい加水分解速度が低下するおそれがある一方で、逆に両親媒性溶媒の割合が少な過ぎると、フラーレン−カルボン酸エステルが析出してしまい加水分解速度が低下するおそれがある。
<加水分解反応>
加水分解反応は、通常、両親媒性溶媒の存在下で、フラーレン−カルボン酸エステル付加体を水酸化物イオン供与性物質と共存させることにより行なう。具体的には、フラーレン−カルボン酸エステル付加体と水酸化物イオン供与性物質とを、ともに両親媒性溶媒に溶解させればよい。また、より好ましい態様として、アルカリ性物質等の水酸化物イオン供与性物質を極性溶媒に溶解させて使用する場合には、フラーレン−カルボン酸エステル付加体を両親媒性溶媒に溶解させた溶液と、水酸化物イオン供与性物質を極性溶媒に溶解させた溶液とを作成し、これらの溶液を混合すればよい。これによって、反応系においてフラーレン−カルボン酸エステル付加体と水酸化物イオンが共存した状態となり、加水分解反応が効率的に進行することになる。
フラーレン−カルボン酸エステル付加体を両親媒性溶媒に溶解させる工程や、水酸化物イオン供与性物質を極性溶媒に溶解させる工程は、何れも反応器中で攪拌等の手法を用いて各成分を十分に混合することにより行なうのが良い。使用する反応器の種類や、各成分を反応器に入れる順序は特に制限されない。また、各成分はそれぞれ一度に加えてもよく、何度かに分けて加えてもよい。更には、全ての成分を反応器に入れてから攪拌してもよく、攪拌しながら各成分を適宜加えてもよい。
但し、フラーレン−カルボン酸エステル付加体は、その全てが反応液に溶解せず、その一部が溶け残り、固体状態であってもよいものとする。上述のように、溶解しているフラーレン−カルボン酸エステル付加体が加水分解されるに従い、残存するフラーレン−カルボン酸エステル付加体は随時、反応液中に溶解して加水分解されていく場合もあるからである。
なお、反応をアルカリ性条件下で行なう場合、反応液のpH値は、通常7.0よりも高い値である。一方、反応を中性から酸性の条件下で行なう場合、反応液のpH値は、通常7.0以下の値である。何れの場合も、反応系のpH値がこれらの好ましい値の範囲内となるように、アルカリ性物質又は酸性物質の使用量を調整すればよい。
<反応条件>
加水分解反応を行なう際の温度、圧力等の条件は特に制限されず、使用するフラーレン−カルボン酸エステル付加体、水酸化物イオン供与性物質、極性溶媒、両親媒性溶媒等の種類やその量比、目的とするフラーレン−カルボン酸付加体の用途等に応じて、更には反応を酸性条件下で行なうかアルカリ性条件下で行なうか等を考慮して、適宜適切な値を選択すればよい。
具体的に、反応をアルカリ性条件下で行なう場合を例として説明すると、反応温度は、通常15℃以上、好ましくは30℃以上、更に好ましくは40℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは70℃以下、更に好ましくは60℃以下の範囲である。反応温度が低過ぎると、反応完結までに時間がかかるというデメリットが生じる一方で、反応温度が高過ぎると、分解反応が進行するおそれがある。また、反応圧力は、通常は常圧以上、また、通常2MPa以下、好ましくは1MPa以下の範囲である。
また、反応雰囲気も特に制限されず、空気下でも行なえるが、可燃性溶媒の発火などの危険性があるため、不活性気体の雰囲気下で行なうのが好ましい。なお、反応時には攪拌等の手段を用いて、反応系が均一の状態となるように保つのが好ましい。特に、原料となるフラーレン−カルボン酸エステル付加体の一部が反応液に溶解せず、固体として残存している場合には、反応系を攪拌することにより、フラーレン−カルボン酸エステル付加体を反応液中に均一に分散させながら反応を行なうのが好ましい。
<反応時間及び反応の終了>
加水分解反応を行なう時間は特に制限されず、少なくとも反応が終点に至るまでの時間行なえばよい。なお、本発明における加水分解反応の終点とは、原料のフラーレン−カルボン酸エステル付加体が消失した状態であり、原料の消失は、薄層クロマトグラフィーによって確認することができる。反応が終点に至るまでの時間は、使用するフラーレン−カルボン酸エステル付加体、水酸化物イオン供与性物質、極性溶媒、両親媒性溶媒等の種類やその量比によって異なるが、反応の温度や圧力等の条件を調整することによってある程度は制御可能である。具体的には、通常10分以上、好ましくは20分以上、一方、通常72時間以下、好ましくは24時間以下の範囲とする。
反応により生じたフラーレン−カルボン酸付加体は、通常は反応液から析出し、反応液中に固体の懸濁物又は沈殿物の状態で存在している。フラーレン−カルボン酸付加体の用途によっては、この懸濁物・沈殿物を含む反応液をそのまま次の工程に用いても良いが、通常は、反応液から濾過や上澄み液除去等の手法を用いてこの懸濁物・沈殿物を分離することにより、フラーレン−カルボン酸付加体を含む反応生成物を回収する。
回収した反応生成物は、必要に応じて、次に述べる酸処理等の手法を用いて精製を行なう。更に、常温又は加温条件の下、常圧又は減圧下で、残存する極性溶媒や両親媒性溶媒を除去し、固体成分を乾燥させることにより、高純度のフラーレン−カルボン酸付加体を得ることができる。
<酸処理>
加水分解反応をアルカリ性条件下で行なった場合、その反応生成物の中には、目的物であるフラーレン−カルボン酸付加体の他に、副生物として生じたアルカリ金属又はアルカリ土類金属が、イオンや塩の状態で存在することになる(以下、これらの残留金属を、その存在状態によらず、適宜「残留アルカリ(土類)金属」という。)。例えば、水酸化リチウムを用いて、カルボン酸ジエチルエステルを加水分解した場合、加水分解に伴って、エタノールとカルボン酸リチウム(CO2Li)が生じ、このカルボン酸リチウム(CO2Li)や、エタノールと未反応の水酸化リチウムとから生じたリチウムエトキシド(LiOEt)が、反応生成物中にイオン又は塩の状態で残留することになる(なお、これらの式において、Etはエチル基を表わす。)。従って、反応液を酸性物質と接触させることによって、これら残留アルカリ(土類)金属に代表されるカチオンを除去し、目的物であるフラーレン−カルボン酸付加体を精製することが好ましい。
酸処理を行なう場合、使用する酸性物質の種類は特に制限されないが、塩酸、硫酸などの鉱酸;トリフルオロ酢酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸;酸性型イオン交換樹脂などの固体酸などが挙げられる。中でも、水素イオン以外のカチオンを効率的に低減できる点や、酸処理後に目的物との分離が容易である点から、酸性型イオン交換樹脂などの固体酸が好ましく、特にイオン交換樹脂が好ましい。イオン交換樹脂としては、酸性型イオン交換樹脂であれば特に限定されないが、強酸性型のイオン交換樹脂が好ましく、中でも入手の容易さの観点からは、スルホン酸基を有する強酸性型イオン交換樹脂が特に好ましい。
酸処理の手法は特に制限されず、使用する酸性物質の種類に応じて適切な手法を用い、加水分解の反応生成物を酸性物質に接触させればよい。具体的に、酸性物質として酸性型イオン交換樹脂を使用する場合には、イオン交換樹脂を充填した固定層を用意して、加水分解後の反応液を直接、又は反応液から回収した反応生成物を精製水等の溶剤を用いて溶解又は均一に分散させた溶液又は分散液を、その固定層に流通させる手法、あるいは、上述の反応生成物の溶液又は分散液を反応器内でイオン交換樹脂と混合し、懸濁状態として作用させる手法が挙げられる。中でも、酸処理後の目的物の分離が容易である点や、反応生成物中の水素イオン以外のカチオンを確実に除去できる点からは、イオン交換樹脂を充填した固定層を用いることが好ましく、また、反応液から回収した反応生成物を精製水等の溶剤に溶解させた溶液を固体層に流通させることが好ましい。
イオン交換樹脂を固定層として用いる場合、固定層内におけるイオン交換樹脂の空隙率は、体積比の値で、通常0%以上、好ましくは5%以上、また、通常50%以下、好ましくは20%以下の範囲である。イオン交換樹脂の空隙率が低過ぎると反応液を固体層に流通させる際に時間がかかるおそれがある一方で、高過ぎると反応液を固体層に流通させる際に時間がかかるおそれがある。
また、イオン交換樹脂の固定層を用いる場合に、反応生成物を溶解させる溶剤としては、反応生成物に対して溶解性を示すものであれば特に制限されないが、通常は水又は各種のアルコールを用いる。中でも水が好ましい。なお、本発明で用いる水は、精製水が好ましい。
溶剤の使用量は特に制限されず、反応生成物を溶解させることができればよいが、反応生成物中の水素イオン以外のカチオンを確実に除去するためには、使用するイオン交換樹脂の種類等に応じて、溶液中の反応生成物の濃度が適切な値となるように溶剤の量を調整することが好ましい。
反応生成物の溶液をイオン交換樹脂の固定層に流通させる際の空間速度SV(1/Hr)は、一般にイオン交換樹脂で物質を処理する場合の好ましい条件で行なえばよい。具体的には、通常0.01以上、好ましくは0.1以上、また、通常30以下、好ましくは10以下の範囲である。
一方、反応器内において懸濁状態で作用させる場合には、反応器中に上述と同様に作成した反応生成物の溶液とイオン交換樹脂とを入れ、攪拌等の手法によって混合して懸濁状態とすればよい。イオン交換樹脂の使用量は特に制限されないが、混合後の懸濁液のphが通常6.5以下、好ましくは6以下の値となるように、イオン交換樹脂の量を調節すればよい。懸濁状態で通常15分以上、好ましくは30分以上、また、通常72時間以下、好ましくは42時間以下の間、攪拌或いは放置した後、濾過等の手段によってイオン交換樹脂を除去し、精製された反応生成物の溶液を得る。
酸処理後に得られる反応生成物の溶液は、残留アルカリ(土類)金属に代表される、水素イオン以外のカチオンの含有量が極めて少なく、フラーレン−カルボン酸付加体を高い濃度で含有する材料となる。これをこのままその後の用途に用いてもよいが、常温又は加温条件の下、常圧又は減圧下で溶剤を留去して濃縮し、又は溶剤を完全に除去して沈殿物を乾燥させることにより、極めて純度の高いフラーレン−カルボン酸付加体を得ることができる。
<フラーレン−カルボン酸付加体>
以上、説明した本発明の製造方法により、目的物であるフラーレン−カルボン酸付加体が得られる。
本発明の製造方法によるフラーレン−カルボン酸付加体の収率は、原料として用いたフラーレン−カルボン酸エステル付加体とのモル比の値で、通常85モル%以上、好ましくは88モル%以上、更に好ましくは90モル%以上の範囲である。これは、従来のNaH法による収率と比較すると、より高い値である。一方、収率の上限には特に制限はないが、通常は99モル%以下である。なお、フラーレン−カルボン酸付加体の収率は、得られた生成物の純度を100%と仮定して、その重量から算出した値である。
なお、本発明の製造方法により得られる反応生成物中には、目的とするフラーレン−カルボン酸付加体の他に、加水分解反応によって生じる各種の副生物や、使用した試薬等に元来含まれていた不純物等の不純物成分が含有される(本発明においては、目的とするフラーレン−カルボン酸付加体を除く、これらの副生物や試薬等由来の不純物を、適宜「不純物成分」という。)。本発明の製造方法により得られる反応生成物中の不純物成分のうち、トルエンやキシレンなどの芳香族系溶媒に不溶な成分については、反応生成物を乾燥した後にこれを芳香族系溶媒に溶解させることによって取り除くことが可能であるが、芳香族系溶媒に溶解する不純物成分については、この手法では取り除くことができない。しかし、本発明の製造方法により得られる反応生成物中には、芳香族系溶媒に溶解するこのような不純物成分の含有量が極めて少ない。
本発明の製造方法によって得られるフラーレン−カルボン酸付加体は、原料として用いたフラーレン−カルボン酸エステル付加体のカルボン酸エステル基から、加水分解によってアルコキシル基が脱離し、ここに水酸基(−OH)が結合してカルボキシル基となった構造、又は水酸基における水素イオンの代わりに各種のカチオンが結合した構造を取る。特に、アルカリ性条件下で加水分解反応を行なった場合、反応生成物をそのまま乾燥して得られるフラーレン−カルボン酸付加体は、カルボキシル基の水素イオンがアルカリ性物質に含まれていたアルカリ(土類)金属イオン等のカチオンによって置換されたカチオン塩の状態となる。しかし、加水分解反応に続いて上述の酸処理を行なうことにより水素イオン以外のカチオンを除去すれば、水素イオンが結合してカルボキシル基となった状態のフラーレン−カルボン酸付加体が得られる。なお、反応生成物に含まれるフラーレン−カルボン酸付加体等の各化合物の構造は、赤外分光分析法(IR法)、核磁気共鳴吸収法(NMR法)、結晶のX線解析等の手法によって分析することができる。
<フラーレン−カルボン酸付加体材料>
本発明の製造方法において酸処理を行なった場合、酸処理後に得られる反応生成物は、上述のようにフラーレン−カルボン酸付加体を高い純度で含んでいることから、各種の用途において有用な材料として使用できる。以下、酸処理後に得られる反応生成物の溶液や、溶剤を留去して得られる濃縮液、更には沈殿物を乾燥させて得られる固体を総称して、適宜「フラーレン−カルボン酸付加体材料」という。
酸処理後に得られるフラーレン−カルボン酸付加体材料は、乾燥状態における水素イオン以外のカチオンの含有量が、通常5重量ppm以下、好ましくは2重量ppm以下の範囲と、極めて低い値に抑えられる。これは、従来のNaH法により得られるフラーレン−カルボン酸付加体材料と比較すると、非常に低い値である。
ここで、フラーレン−カルボン酸付加体材料の水素イオン以外のカチオンの含有量は、材料が液状の場合にはこれを乾燥させ、固体の状態としてから、イオンクロマトグラフィーにより測定する。また、フラーレン−カルボン酸付加体材料と他の物質(例えば樹脂等)とが混在している場合には、混在する物質(樹脂等)が溶解せず、且つフラーレン−カルボン酸付加体材料が溶解する溶媒を用いて洗浄し、含有するフラーレン−カルボン酸付加体材料を溶解させて回収し、更に、回収されたフラーレン−カルボン酸付加体材料を水で洗浄した後、溶媒と水とを留去して乾燥させ、固体の状態としてからイオンクロマトグラフィーにより測定する。
ここで、フラーレン−カルボン酸付加体のフラーレン骨格内に他の金属原子等が内包されている形態のように、イオンクロマトグラフィーで検出されない形態のカチオンは含まないものとする。
以上説明した様に、本発明のフラーレン−カルボン酸付加体の製造方法によれば、従来のNaH法等と比較して、フラーレン−カルボン酸付加体をより高い収率で製造することが可能となる。また、従来のNaH法のように水素等の爆発性気体の発生がなく、安全に製造することが可能であることから、容易にスケールアップすることができ、工業的に有用である。
また、本発明の加水分解の反応生成物を酸性物質で処理して得られた材料(本発明のフラーレン−カルボン酸付加体材料)は、アルカリ金属等に代表される水素イオン以外のカチオンの残留が少ない。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
温度計を設置したガラス製1Lの4つ口フラスコに、C60フラーレン−マロン酸ジエチル付加体(様々な付加数の付加体の混合物:平均付加数5、平均分子量1511)8.04gを入れ、更にテトラヒドロフラン640mlを加え溶解させた。別の容器を用いて、水酸化リチウム・一水和物5.86gを精製水120mlに溶解させた。得られた水酸化リチウム水溶液を、フラスコ中のC60フラーレン−マロン酸ジエチル付加体混合物/テトラヒドロフラン溶液に加え、40〜50℃に加熱しながら2時間攪拌し、加水分解反応を行なった。反応は、空気雰囲気下で常圧で行なった。2時間後、反応液を薄層クロマトグラフィーによって測定し、原料のC60フラーレン−マロン酸ジエチル付加体がほぼ消失していること、即ち反応の終点に至っていることを確認した。その後、フラスコを静置して上澄み液を取り除くことにより、赤茶色の固体状の沈殿物(反応生成物)が得られた。
得られた沈殿物に、精製水600mlを加えて溶解させた。得られた均一溶液を、強酸性型イオン交換樹脂(ダイヤイオンSKT10L、三菱化学社製)450mlを充填したガラス製カラムに、室温下、SV0.7(1/Hr)の条件で流通させた。なお、カラム中のイオン交換樹脂の空隙率は5%であった。流通液の溶媒を留去し、40℃で2時間真空乾燥させることにより、赤茶色の粉末状の固体(酸処理後の反応生成物)5.92gが得られた。なお、以上の反応過程における観察によれば、顕著な気体の発生や発熱等の反応は見られなかった。よって、反応時に水素等の爆発性気体の発生は無かったものと考えられる。
原料のC60フラーレン−マロン酸ジエチル付加体と、酸処理後の反応生成物の双方について、IRスペクトルの測定を行ない、その比較を行なった。原料のIRスペクトルを図1に、反応生成物のIRスペクトルを図2にそれぞれ示す。酸処理後の反応生成物では、1240、1730、3450cm-1に吸収が存在し、カルボン酸が存在していることが認められた。また、酸処理後の反応生成物では、原料におけるエステルのエチル基由来である2900〜3000cm-1のCH吸収が消失していることを確認した。その他のピークについてはほぼ一致していたことから、酸処理後の反応生成物の主成分が、C60フラーレン−マロン酸付加体混合物(平均付加数5、平均分子量1231)であることが確認された。
また、純度100%と仮定して、C60フラーレン−マロン酸付加体混合物の収率を算出したところ、(5.92/1231)/(8.04/1511)×100=90%であった。
また、酸処理後の反応生成物について、イオンクロマト分析により、水素イオン以外のカチオンの含有量を測定した。イオンクロマト分析は、酸処理後の反応生成物を精製水(Mili−Q水)に溶解させて0.3重量%の水溶液を調製し、Dionex IonPacカラム(CS12G+CS12A)を用いて、20mMメタンスルホン酸水溶液を溶離液として実施した。その結果、水素イオン以外のカチオンの含有量は、反応生成物に対する重量比の値で、検出限界である2重量ppm以下であった。
(実施例2)
温度計、冷却管を設置したガラス製300mLの4つ口フラスコに、C60フラーレン−マロン酸ジエチル6付加体(Th対称)(分子量1670)、1.00gを入れ、更にジクロロメタン100mlを加え溶解させた(なお、「Th対称」とは、「Tetrahedral−hexa―adducts」を表わす。)。別の容器を用いて、水酸化リチウム・一水和物0.73gをメタノール40mlに溶解させた。得られた水酸化リチウム/メタノール溶液を、フラスコ中のC60フラーレン−マロン酸ジエチル6付加体/ジクロロメタン溶液に加え、40℃に加熱しながら1.5時間攪拌し、空気雰囲気下で常圧で加水分解反応を行なった。1.5時間後、反応液を薄層クロマトグラフィーによって測定し、原料のC60フラーレン−マロン酸ジエチル6付加体がほぼ消失していること、即ち反応の終点に至っていることを確認した。その後、フラスコを静置して上澄み液を取り除くことにより、濃橙色の固体状の沈殿物(反応生成物)が得られた。
得られた沈殿物に、精製水75mlを加えて溶解させた。得られた均一溶液を、強酸性型イオン交換樹脂(ダイヤイオンSKT10L、三菱化学社製)55mlを充填したガラス製カラムに、室温下SV1.7(1/Hr)の条件で流通させた。カラム中のイオン交換樹脂の空隙率は5%であった。流通液の溶媒を留去し、40℃で2時間真空乾燥させることにより、濃橙色の粉末状の固体(酸処理後の反応生成物)0.78gが得られた。なお、以上の反応過程における観察によれば、顕著な気体の発生や発熱等の反応は見られなかった。よって、反応時に水素等の爆発性気体の発生は無かったものと考えられる。
酸処理後の反応生成物について、13C−NMRスペクトルを測定した。測定は、サンプル(酸処理後の反応生成物)51mgを0.6mlの重アセトンに溶解させて行なった。得られた13C−NMRスペクトルを図3に示す。溶媒(重アセトン)由来のシグナル以外に、48.1(6C)、70.6(12C)、142.6(24C)、146.4(24C)、164.9(12C)の5本のシグナルのみが観測され、対称性を維持したまま加水分解されていることが明らかとなった。また、エチル基領域の2本のシグナル(Journal of American Chemical Society、1994年、9385頁より、62.8及び14.0)が検出されなかったことから、原料が存在しないことも確認された。以上の結果から、酸処理後の反応生成物の主成分が、C60フラーレン−マロン酸6付加体(Th対称)(分子量1333)であることが確認された。
また、純度100%と仮定してC60フラーレン−マロン酸6付加体の収率を算出したところ、(0.78/1333)/(1.00/1670)×100=98%であった。
また、酸処理後の反応生成物について、実施例1と同様の条件でイオンクロマト分析を行なうことにより、水素イオン以外のカチオンの含有量を測定した。その結果、水素イオン以外のカチオンの含有量は、反応生成物に対する重量比の値で、検出限界である2重量ppm以下であった。
(比較例1)
温度計を設置したガラス製200mLの3つ口フラスコに、C60フラーレン−マロン酸ジエチル付加体混合物(平均付加数5、平均分子量1511)0.50gを入れ、更に脱水トルエン50mlを加え溶解させた。更に水素化ナトリウム(和光純薬製、純度60%品)0.61gを加えて懸濁し、得られた懸濁液を窒素雰囲気下で常圧で60℃で3時間加熱攪拌した。その後、30℃まで冷却し、更にメタノール5mlを添加した。この際、激しく発熱し、340mLの水素が発生するとともに、赤茶色の固体が析出した。この固体を濾別し、トルエン、1N硫酸の順に洗浄し、最後に精製水で洗浄したところ、固体は全て精製水に溶解した。得られた水溶液から溶媒を留去し、40℃で2時間真空乾燥させることにより、C60フラーレン−マロン酸付加体混合物0.25g(平均付加数5としての平均分子量1231)が、赤茶色の粉末状の固体として得られた。
また、純度100%と仮定して、C60フラーレン−マロン酸付加体混合物の収率を算出したところ、(0.25/1231)/(0.50/1511)×100=61%であった。
本発明のフラーレン−カルボン酸付加体の製造方法によれば、従来のNaH法等と比較して、フラーレン−カルボン酸付加体をより高い収率で製造することが可能となる。また、従来のNaH法の様に水素の発生がなく、安全に製造することが可能であることから、容易にスケールアップすることができ、工業的に有用である。
また、本発明の加水分解の反応生成物を酸性物質で処理して得られた材料(本発明のフラーレン−カルボン酸付加体材料)は、アルカリ金属等に代表される水素イオン以外のカチオンの残留が少なく、フラーレン−カルボン酸付加体の純度が極めて高い。フラーレン−カルボン酸付加体は親水性及び水溶性を有するので、医農薬や化粧品や染料の中間体として有用である他、ポリマーの粗原料、各種電子材料としても有用である。
実施例2において使用した原料(C60フラーレン−マロン酸ジエチル付加体)のIRスペクトルである。 実施例2において得られた反応生成物(主成分:C60フラーレン−マロン酸6付加体)のIRスペクトルである。 実施例2において得られた反応生成物(主成分:C60フラーレン−マロン酸6付加体)の13C−NMRスペクトルである。

Claims (5)

  1. フラーレン−カルボン酸エステル付加体を加水分解することを特徴とする、フラーレン−カルボン酸付加体の製造方法。
  2. 前記加水分解を両親媒性溶媒の存在下で行なうことを特徴とする、請求項1記載のフラーレン−カルボン酸付加体の製造方法。
  3. フラーレン−ポリカルボン酸エステル付加体を原料として前記加水分解を行なうことにより、フラーレン−ポリカルボン酸付加体を製造することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のフラーレン−カルボン酸付加体の製造方法。
  4. 前記加水分解により得られた生成物をイオン交換樹脂で処理することを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載のフラーレン−カルボン酸付加体の製造方法。
  5. 主にフラーレン−カルボン酸付加体からなる材料であって、乾燥状態におけるプロトン以外のカチオンの含有率が5重量ppm以下であることを特徴とする、フラーレン−カルボン酸付加体材料。
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