JP7335269B2 - クエン酸第二鉄水和物の製造方法 - Google Patents

クエン酸第二鉄水和物の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、クエン酸第二鉄水和物の新規な製造方法に関する。
クエン酸第二鉄は、三価の鉄である第二鉄とクエン酸由来の分子構造とを含む化合物であり、クエン酸第二鉄中の第二鉄に対するクエン酸由来の分子構造のモル比率は、一定の値を採らないとされている。また、一定量の水を含むことから、クエン酸第二鉄水和物とも呼ばれる。当該クエン酸第二鉄水和物は、試薬や食品添加物の他に、腎不全患者における高リン血症の治療薬として好適に利用できることが知られている。このような医薬品用途のクエン酸第二鉄水和物は、食品添加物用途のクエン酸第二鉄水和物と比較して、BET比表面積が大きく、溶解性に優れることが好ましく、具体的にはBET比表面積が16m2/g以上であることが好ましいことが知られている。(特許文献1又は2参照)。
BET比表面積が16m2/g以上のクエン酸第二鉄水和物の製造方法として、特許文献1において、塩化第二鉄・六水和物と水酸化ナトリウム等の塩基とを反応させ、水酸化第二鉄を得、得られた水酸化第二鉄を遠心分離し、次いで水中で水酸化第二鉄とクエン酸とを反応させ、クエン酸第二鉄を含有する溶液を得、該溶液をアセトン等の水溶性有機溶媒に滴下し、クエン酸第二鉄水和物を固体として析出させて製造する方法が開示されている。また、特許文献2において、上記製造方法における水酸化ナトリウムを加える際の温度、時間を所定の範囲とすることで、製造されるクエン酸第二鉄水和物中のβ酸化水酸化鉄の含有量を抑制できることが開示されている。なお、引用文献2においては得られた水酸化第二鉄をろ過によって分離している。
その他の製造方法として、特許文献3において、以下の製造方法が開示されている。クエン酸、塩化第二鉄及び水酸化ナトリウムを水中、加熱下で混合し、クエン酸第二鉄を含有する溶液を得る。該溶液をメタノール等のアルコール類に加えて、クエン酸第二鉄水和物を固体として析出させてBET比表面積が1~15m2/gのクエン酸第二鉄水和物を製造する。ここで、クエン酸及び水酸化ナトリウムは、クエン酸ナトリウムを代用してもよい。
特許第4964585号公報 特許第5944077号公報 国際公開第2015/110968号
特許文献1及び2の製造方法は、BET比表面積が16m2/g以上のクエン酸第二鉄水和物を製造することができるが、水酸化第二鉄及びクエン酸第二鉄水和物の固液分離性が著しく悪く、操作性の観点で課題がある。さらに、水酸化第二鉄の合成時に副生塩として生成する塩化ナトリウムを除去するために、水酸化第二鉄を多量の水を用いて複数回洗浄する必要があり、原材料の使用量や操作の煩雑さが課題であった。特許文献3の製造方法は、水酸化第二鉄が系中で析出しないため、操作性は比較的簡便であるが、副生する塩化ナトリウムの除去が困難であり、得られるクエン酸第二鉄水和物中に塩化ナトリウムが他の製造方法と比較して多く残存する。さらに、特許文献3に記載の製造方法により製造されるクエン酸第二鉄水和物のBET比表面積は1~15m2/gであって、16m2/g以上ではないため、医薬品用途として用いることが困難である等の課題があった。即ち、簡便な操作により、塩化ナトリウム等の副生塩等の他の成分を含まず、より正確には、塩化ナトリウム等の副生塩等の他の成分が含まれない又は少なく(以下も同様)、且つ、大きなBET比表面積を有する高品質なクエン酸第二鉄水和物を簡便に製造できる方法が望まれていた。
上記課題に対し本発明者らは、クエン酸第二鉄水和物の製造方法を鋭意検討した結果、クエン酸、塩化第二鉄、及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属がリチウム又はマグネシウムであるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩(リチウムの水酸化物若しくは炭酸塩又はマグネシウムの水酸化物若しくは炭酸塩の少なくとも1つ)(以下、単に「塩基」ともいう。)を用いてクエン酸第二鉄水和物を製造することにより、副生塩等の他の成分を含まないクエン酸第二鉄水和物が簡便に得られること、さらに、塩化第二鉄に対する塩基の当量(モル当量、以下も同様)を0.30~0.95当量とすることで、製造されるクエン酸第二鉄水和物のBET比表面積を16m2/g以上とすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
上記の塩基を用いた場合、塩化リチウムや塩化マグネシウムが副生塩として生成するが、該副生塩を含まないクエン酸第二鉄水和物が得られるのは、該副生塩のアルコール等の有機溶媒への溶解性が高いことに起因して、それらの除去効率が高く、結果、製造されるクエン酸第二鉄水和物中の副生塩の残留量を高度に低減できるためと考えられる。また、塩化第二鉄に対する塩基の当量数を0.30~0.95当量とすることで、製造されるクエン酸第二鉄水和物のBET比表面積を16m2/g以上とすることができる理由は、明らかではないが、次のように推測される。クエン酸第二鉄製造の反応は、上記塩基が水酸化リチウムの場合、下記式(1)の化学式
により示されるように、理論的には塩化第二鉄に対して塩基を1当量必要とする。ここで、塩化第二鉄に対する塩基の当量数は、塩化第二鉄の価数及び塩基の価数を考慮した数値である。具体的には、上記式(1)において、塩基が水酸化リチウムの場合、塩化第二鉄1モルに対して塩基を3モル必要とするが、当該塩基のモル数に塩基の価数である1を乗じた数値を、塩化第二鉄のモル数に塩化第二鉄の鉄イオンの価数である3を乗じた数値で除すことにより、塩化第二鉄に対する塩基の当量数が算出される。即ち、上記式(1)における塩化第二鉄に対する塩基の当量数は、上記の通り、1となる。一方、本発明における当該当量数は0.3~0.95当量であり、上記の理論量と比較して小さいことが特徴である。このように塩基に対して過剰の塩化第二鉄を使用することにより、未反応の塩化第二鉄が系内に共存することがクエン酸第二鉄水和物のBET比表面積の向上に寄与すると考えられる。
即ち、本発明の一態様は、水中で、クエン酸、塩化第二鉄、及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩を混合し、混合物を得た後、該混合物を有機溶媒と混合することによりクエン酸第二鉄水和物を製造するクエン酸第二鉄水和物の製造方法であって、アルカリ金属又はアルカリ土類金属がリチウム又はマグネシウムであり、塩化第二鉄に対してアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩が0.30~0.95当量である、クエン酸第二鉄水和物の製造方法である。
本発明の一態様は上記クエン酸1gに対して上記水の量が2.0~8.5mLである、上記クエン酸第二鉄水和物の製造方法である。これにより、より高度に副生塩が除去されたクエン酸第二鉄水和物を製造することができる。さらに、本発明の一態様は上記クエン酸に対して1.0~2.5当量の塩化第二鉄を用いる上記クエン酸第二鉄水和物の製造方法である。これにより、クエン酸第二鉄水和物の製造収率をより向上させることができる。
本発明の製造方法によれば、簡便な操作により、副生塩を含まず、且つ、16m2/g以上の大きなBET比表面積を有するクエン酸第二鉄水和物を高純度・高収率で得ることができる。そのため、本発明によれば医薬品原薬としても好適に使用できることが期待される品質のクエン酸第二鉄水和物を、公知の製造方法と比較して簡便に製造することができる。
実施例2において得られたクエン酸第二鉄水和物のX線回折チャートである。 実施例15において得られたクエン酸第二鉄水和物のX線回折チャートである。 比較例4において得られたクエン酸第二鉄水和物のX線回折チャートである。 比較例5において得られたクエン酸第二鉄水和物のX線回折チャートである。
本発明は、水中で、クエン酸、塩化第二鉄、及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩の少なくとも1つを混合し、混合物を得た後、該混合物を有機溶媒と混合することによりクエン酸第二鉄水和物を製造するクエン酸第二鉄水和物の製造方法であって、アルカリ金属又はアルカリ土類金属がリチウム又はマグネシウムであり、塩化第二鉄に対してアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩が0.30~0.95当量である、クエン酸第二鉄水和物の製造方法である。以下本発明の製造方法について詳述する。
(クエン酸)
本発明において、クエン酸は、試薬や工業品等、特に制限されることなく使用することができる。また、その形態についても特に制限されず、固体形態の他、水溶液等の形態を使用してもよい。また、固体形態の場合、クエン酸は無水物の他に、水和物の形態のものがあるが、何れの形態であってもよい。
本発明において、塩化第二鉄等の他の原材料の使用量は、クエン酸の使用量を基準にして算出する。そのため、クエン酸の使用量は、クエン酸第二鉄水和物の製造スケールにより適宜決定すればよい。なお、水和物や水溶液等の形態を用いる場合、それらに含まれるクエン酸の純分に換算した量(以下、「クエン酸の純分換算量」と称す)を基準とする。また、クエン酸並びにその水和物及び水溶液等を併用する場合、クエン酸の使用量と上記クエン酸の純分換算量の合計を基準とする。さらに、当該形態に含まれる水の量は、本発明における水の使用量に含める。クエン酸の純分換算量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や滴定装置等を用いた定量法等の公知の方法により算出すればよい。又は、カールフィッシャー滴定法(KF)等により当該形態中の水の量を測定し、当該形態の全量から該水の量を差し引くことで、クエン酸の純分換算量を算出してもよい。
クエン酸は、製造条件等によっては、クエン酸の分解に由来するアコニット酸やシトラコン酸等の不純物を含む場合がある。製造されるクエン酸第二鉄水和物の純度をより高めるために、当該不純物の含有量が少ないクエン酸を使用することが好ましい。具体的には、実施例に記載のHPLCによる分析において、クエン酸の純度は98.0~99.9%であることが好ましく、アコニット酸やシトラコン酸等の不純物はそれぞれが0.01~1.0%であることが好ましい。
(塩化第二鉄)
本発明において、塩化第二鉄は、試薬や工業品等、特に制限されることなく使用することができる。また、その形態についても特に制限されず、固体形態の他、水溶液等の形態を使用してもよい。また、固体形態の場合、塩化第二鉄は無水物の他に、水和物の形態のものがあるが、何れの形態であってもよい。
塩化第二鉄の使用量は、クエン酸に対して塩化第二鉄が1.0~2.5当量であることが好ましい。当該範囲とすることで、クエン酸第二鉄水和物の製造収量をより高めることができる。さらに、当該範囲において、その使用量によって、得られるクエン酸第二鉄水和物中のクエン酸由来の分子構造(上記式(1)中のFe(C6H5O7)の(C6H5O73-)及び第二鉄の含有量の比、即ち、クエン酸第二鉄水和物中の第二鉄に対するクエン酸由来の分子構造のモル比率を調整することができる。具体的には、通常、クエン酸に対して塩化第二鉄が1.0当量の場合、得られるクエン酸第二鉄水和物中の第二鉄に対するクエン酸由来の分子構造のモル比率は0.8~1.1であり、1.5当量の場合0.7~1.0であり、2.0当量の場合0.6~0.9となる。よって、所望のクエン酸第二鉄水和物の上記モル比率に応じて、塩化第二鉄の使用量を適宜決定すればよい。なお、当該使用量は、水和物や水溶液等の形態を用いる場合、それらに含まれる塩化第二鉄の純分に換算した量(塩化第二鉄の純分換算量)を基準とする。さらに、当該形態に含まれる水の量は、本発明における水の使用量に含める。
なお、上記当量数は、クエン酸及び塩化第二鉄の価数がいずれも3であるため、単に各モル数を用いて算出すればよい。即ち、使用するクエン酸が1モル、塩化第二鉄が1モルの場合、クエン酸に対する塩化第二鉄の当量数は1となる。
(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩)
本発明において、塩基としてアルカリ金属又はアルカリ土類金属がリチウム又はマグネシウムであるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩(リチウムの水酸化物若しくは炭酸塩、又はマグネシウムの水酸化物若しくは炭酸塩)を使用するが、具体的には、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、炭酸リチウム及び炭酸マグネシウムである。これら塩基は、単一種を使用してもよく、複数種を使用してもよい。また、これらは、試薬や工業品等、特に制限されることなく使用することができる。これらの中でも、反応性を考慮すると、水酸化リチウム、水酸化マグネシウムがより好ましい。
上記塩基の使用量は、塩化第二鉄に対して0.30~0.95当量、すなわちクエン酸に対して0.30~2.38当量である。当該範囲とすることで、クエン酸第二鉄水和物のBET比表面積を16m2/g以上とすることができる。当該範囲において、塩基の使用量が少なくなるにつれ、クエン酸第二鉄水和物のBET比表面積は大きくなる傾向がある。一方、塩基の使用量が大きくなるにつれ、クエン酸第二鉄水和物の製造収率が高くなる傾向がある。よって、所望のBET比表面積等に応じて、上記範囲の中で、塩基の使用量を適宜決定すればよいが、BET比表面積及び製造収率の観点から、塩基の使用量は塩化第二鉄に対して0.40~0.90当量、すなわちクエン酸に対して0.40~2.25当量がより好ましく、0.50~0.85当量、すなわちクエン酸に対して0.50~2.13当量がさらに好ましい。上記塩基の内、水酸化リチウムは無水物の他に、一水和物の形態が存在するが、その形態は特に制限されず、さらに、水溶液等の溶液形態であってもよい。ただし、塩基の使用量は、水和物や水溶液等の形態を用いる場合、それらに含まれる塩基の純分に換算した量(塩基の純分換算量)を基準とする。さらに、当該形態に含まれる水の量は、本発明における水の使用量に含める。
なお、上記当量数は、塩化第二鉄の鉄イオンの価数及び使用する塩基の価数を考慮して決定する必要がある。即ち、使用する塩基のモル数に塩基の価数で乗じた数値を、塩化第二鉄のモル数に塩化第二鉄の鉄イオンの価数である3を乗じた数値で除すことにより、塩化第二鉄に対する塩基の当量を算出する。具体的には、アルカリ金属がリチウムであれば、その価数は1であり、アルカリ土類金属がマグネシウムであれば、価数は2であるため、例えば、塩化第二鉄1モルを使用し、塩基を1モル使用した場合、アルカリ金属がリチウムであれば塩化第二鉄に対する塩基の当量数は0.33となり、アルカリ土類金属がマグネシウムであれば0.67となる。
(水)
本発明において、水は、特に制限されることなく、水道水、イオン交換水、蒸留水等を使用することができる。水の使用量は、クエン酸1gに対して、2.0~8.5mLであることが好ましい。クエン酸1gに対して、2.0mL以上の水を用いることで、生成する副生塩を十分に除去でき、製造されるクエン酸第二鉄水和物中の副生塩の残量を低減できる。一方、8.5mL以下の水を用いることで、母液(後述するクエン酸第二鉄水和物を含有する懸濁液中の分散溶媒)へのクエン酸第二鉄水和物の溶解量が低減し、クエン酸第二鉄水和物の製造収率を高めることができる。当該副生塩の除去効率や製造収率、操作性等を考慮すると、クエン酸1gに対して、2.5~7.5mLがより好ましく、3.0~6.5mLがさらに好ましい。特に、2.5mL未満の水を用いた場合に得られるクエン酸第二鉄水和物が粒状になる傾向があるが、2.5mL以上の場合、得られるクエン酸第二鉄水和物は粉末状になる傾向がある。この形状の違いにより、クエン酸第二鉄水和物中への副生塩の取り込みが低減され、副生塩の残留量をより高度に低減できると考えられる。なお、上記したように、原材料を水和物や水溶液等の形態で用いる場合、当該形態に含まれる水の量は、本発明における水の使用量に含める。
(混合物の調製)
本発明において、水中で、クエン酸、塩化第二鉄、及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩を混合し、混合物を得る。当該混合操作は、特に制限されず、公知の方法により実施すればよいが、ガラス製、ステンレス製、テフロン(登録商標)製、グラスライニング等の容器を用い、さらに、メカニカルスターラー、マグネティックスターラー等を用いて、各原料を撹拌下で混合することが、均一性や操作性の観点で好ましい。また、各原料の混合順序は、特に制限されないが、クエン酸を除く、他の原料のみを混合した場合、水酸化第二鉄が一旦系内で析出する。その場合、水の使用量や混合時の温度によっては、混合によって得られた懸濁液の粘性が高く、撹拌不良が発生する場合がある。また、水酸化第二鉄は、温度等によっては、α、β、又は、γ酸化水酸化鉄、酸化鉄等の他の鉄化合物へと変換される場合がある。当該鉄化合物は、水やクエン酸水溶液に対する溶解性が、水酸化第二鉄と比較して著しく低く、その結果、続くクエン酸の添加後も、不溶性固体として残存し、製造されるクエン酸第二鉄水和物の製造収率の低下やクエン酸第二鉄水和物中への当該鉄化合物の残存が生じる場合がある。そのため、各原料の混合順序として、塩化第二鉄、及び、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩が混合される以前に、水とクエン酸とを混合させることが好ましい。さらに、塩化第二鉄を含む混合物にアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩を混合した場合、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩が塊状となり、溶解に長時間を要する場合があるため、塩化第二鉄が混合される以前に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩を混合させることがより好ましい。以上を考慮すると具体的には、クエン酸、水、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩、塩化第二鉄の順序で混合することがより好ましい。なお、当該混合順序において、クエン酸と水の混合順序は逆であっても何ら問題無い。
上記混合操作の温度は、全ての原料を混合した時点では、35~80℃であることが好ましい。全ての原料を混合した時点では、各固体の原料は水中に溶解して反応し、クエン酸第二鉄水和物が生成するが、35℃未満の場合、水の使用量が少ないと、溶液中の固体濃度が高いために、クエン酸第二鉄水和物が析出する場合がある。35℃以上とすることで、クエン酸第二鉄水和物の析出を回避し、溶液状態を安定的に維持できる。一方、80℃以下であれば、クエン酸第二鉄水和物及び/又はクエン酸の分解を抑制でき、製造されるクエン酸第二鉄水和物の純度をより高めることができる。上記範囲の中でも、操作性や製造されるクエン酸第二鉄水和物の品質の観点から、37.5~75℃がより好ましく、40~70℃がさらに好ましい。なお、一部の原料のみを混合する段階では、上記の温度範囲とする必要は無い。例えば、塩化第二鉄を最後に混合する場合であれば、塩化第二鉄の混合後の時点で、上記範囲とすればよく、塩化第二鉄を除く原料の混合段階では、その温度は特に制限されない。
各原料が水中に溶解すれば、クエン酸第二鉄水和物の生成は瞬時に進行するため、全ての原料を混合した後、各固体の溶解を目視等で確認して、混合させる時間を適宜決定すればよい。通常、最後の原材料を加えた後、5分間以上混合すれば十分である。ただし、混合温度によっては、混合時間が延びるにつれて、クエン酸第二鉄水和物及び/又はクエン酸の分解が進行する傾向にあるため、溶解を確認次第、次操作である有機溶媒との混合操作を実施することが好ましい。
(有機溶媒)
本発明において、上記のようにして得られた混合物と有機溶媒とを混合する。当該混合操作により、クエン酸第二鉄水和物が析出し、クエン酸第二鉄水和物を含む懸濁液を得ることができる。当該有機溶媒とは、上記混合物との混合により、クエン酸第二鉄水和物が析出する有機溶媒であれば、特に制限されないが、通常、上記混合物は固体濃度が高いために、有機溶媒の種類によっては、混合物と混合した際に、有機溶媒と分層して均一に混合せず、クエン酸第二鉄水和物が析出しない場合がある。混合物の製造条件によらず、クエン酸第二鉄水和物が析出する有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールが挙げられる。これらは単一種を使用してもよく、複数種を使用してもよい。これらの中でも、操作性やクエン酸第二鉄水和物の製造収率等を考慮すると、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールがより好ましく、1-プロパノール、2-プロパノールがさらに好ましい。当該有機溶媒の使用量は、クエン酸1gに対して、3~20mLであることが好ましい。当該範囲とすることで、有機溶媒との混合後にクエン酸第二鉄水和物が析出する。上記範囲の中でも、クエン酸第二鉄水和物の製造収率や操作性等を考慮すると、当該有機溶媒の使用量は、クエン酸1gに対して4~15mLがより好ましく、5~13mLがさらに好ましい。
また、上記の有機溶媒をクエン酸1gに対して3~20mLを使用する場合、当該有機溶媒1mLに対して含有量が1mL以下であれば、上記以外の有機溶媒を含んでも構わない。上記以外の有機溶媒とは、上記有機溶媒及び水と混和する有機溶媒であり、具体的には、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール、プロパルギルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の含窒素化合物、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物等が挙げられる。これらは単一種を使用してもよく、複数種を使用してもよい。また、これらの中でも、沸点が比較的低く、除去が容易である点や製造収率等を考慮すると、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール、プロパルギルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類がより好ましく、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール等のケトン類がさらに好ましい。
(混合物と有機溶媒との混合)
本発明において、混合物と有機溶媒との混合は、当該混合操作を実施できればよく、その実施方法は特に制限されないが、上記の混合物の調製と同様に、ガラス製、ステンレス製、テフロン(登録商標)製、グラスライニング等の容器を用い、さらに、メカニカルスターラー、マグネティックスターラー等を用いて、混合物と有機溶媒を撹拌下で混合することが、均一性や操作性の観点で好ましい。また、混合物と有機溶媒との混合順序についても特に制限されず、混合物を製造後、これに有機溶媒を添加してもよいし、又は、有機溶媒中に、混合物を添加してもよい。ただし、クエン酸第二鉄水和物が析出する際に、塊状になりやすく、撹拌が困難になる場合や析出したクエン酸第二鉄水和物が容器壁面に固着し、製造収率が低下する場合があることから、操作性や製造収率の観点から有機溶媒中に、混合物を滴下する方法が好ましい。上記混合物の滴下速度は、作業時間や析出するクエン酸第二鉄水和物の溶媒中への分散具合等を確認しながら適宜決定すればよいが、通常5分間~5時間の範囲で決定すればよい。
また、混合時の温度は、使用する有機溶媒の沸点等を考慮して適宜決定すればよいが、あまり低すぎるとクエン酸第二鉄水和物が塊状になりやすく、高すぎるとクエン酸第二鉄水和物及び/又はクエン酸の分解により、アコニット酸等の不純物の副生が懸念されることから、20~80℃の範囲で行うことが好ましい。特に析出したクエン酸第二鉄水和物の固液分離等の操作性や有機溶媒の揮発等を考慮すると、25~70℃がより好ましく、30~60℃がさらに好ましい。
上記混合物と有機溶媒を混合させた後、クエン酸第二鉄水和物を十分に析出させるために、撹拌したまま一定時間保持することが好ましい。保持時間は、混合時の温度等によって異なるが、通常15分間~50時間保持すれば十分である。また、当該操作における温度は、上記混合時と同様の理由から、混合時と同様の範囲が好ましい。以上のようにして、クエン酸第二鉄水和物を含有する懸濁液を得ることができる。
(クエン酸第二鉄水和物の湿体の単離)
上記本発明の製造方法により得られたクエン酸第二鉄水和物は、上記懸濁液より減圧濾過や加圧濾過、遠心分離等を用いて固液分離により、クエン酸第二鉄水和物と有機溶媒を含むクエン酸第二鉄水和物の湿体として単離することができる。当該操作において、単離したクエン酸第二鉄水和物の湿体は、有機溶媒、又は、有機溶媒と水との混合溶媒で洗浄することが好ましい。この洗浄により、湿体に残存する母液(上記懸濁液中の分散溶媒)を除去でき、クエン酸第二鉄水和物中の副生塩の残留量をより低減できる。上記の中でも、有機溶媒と水との混合溶媒で洗浄することで、洗浄時に湿体に残存する母液から副生塩等が析出しないため、より好ましい。その混合比率は、洗浄液へのクエン酸第二鉄水和物の溶解による製造収率の低下や副生塩の析出を抑制できる点から、有機溶媒1mLに対して、水が0.2~2mLであることが好ましい。また、その使用量は、原料のクエン酸1gに対して、洗浄液が0.5~5mLであることが、洗浄効率の点から好ましい。
上記のようにして、固液分離後の湿体を洗浄しても、固液分離の方法や製造スケール等によっては、湿体に母液が残留する場合があるため、固液分離後の湿体と有機溶媒及び水からなる混合溶媒とを混合し、再度懸濁液(以下、「再懸濁液」という)を調製した後、固液分離することによって洗浄を行ってもよい。当該操作によれば、湿体中の母液の残存をより低減でき、結果的に製造されるクエン酸第二鉄水和物中の副生塩の残留量をより低減できる。
当該再懸濁液を調製することによる洗浄に使用する混合溶媒における有機溶媒は、25℃の水1gに対して、溶解度が0.2g以上の有機溶媒である。具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、アリルアルコール等のアルコール類、酢酸メチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール等のケトン類、アセトニトリル等のニトリル類が挙げられる。これらの中でも、洗浄液に対するクエン酸第二鉄水和物の溶解性や除去の容易さの観点から、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、アリルアルコール等のアルコール類及びアセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール等のケトン類がより好ましく、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトンがさらに好ましい。なお、これらは単一種を使用してもよく、複数種を使用してもよい。
有機溶媒と水との混合比率は、有機溶媒1mLに対して、水が0.1~2mLであることが好ましい。また、当該混合溶媒の使用量は、原料のクエン酸1gに対して0.5~20mLであることが、操作性や洗浄効率の点から好ましく、これらの中でも、1.0~15mLがより好ましく、1.5~10mLがさらに好ましい。
当該再懸濁液の調製は、再懸濁液が調製できれば、その実施方法は特に制限されること無いが、混合物の調製や有機溶媒との混合と同様に、湿体と有機溶媒及び水の混合溶媒とを撹拌下で混合すればよい。ただし、有機溶媒及び水の混合溶媒は、湿体との混合前に調製することが好ましい。また、当該混合操作の温度は、撹拌効率や製造収率を考慮すると、-20~75℃の範囲が好ましく、当該混合操作及び混合後の固液分離操作の操作性や有機溶媒の沸点を考慮すると、0~70℃がより好ましく、10~60℃がさらに好ましい。また、混合後は、当該温度範囲で一定時間以上、撹拌下で混合することが均一性等の観点から好ましい。製造スケール等によるため、一概に規定できないが、通常、15分間~2時間混合状態を保持すれば十分である。
以上のようにして調製した再懸濁液は、上記懸濁液と同様にして、減圧濾過や加圧濾過、遠心分離等を用いて固液分離により、クエン酸第二鉄水和物の湿体を単離すればよい。当該固液分離操作においても、固液分離後の湿体は、有機溶媒、又は、有機溶媒と水との混合溶媒で洗浄することが好ましい。
このようにして単離されたクエン酸第二鉄水和物の湿体は、後述のように乾燥させることにより、有機溶媒等が除去されたクエン酸第二鉄水和物とすることができるが、当該乾燥操作において、湿体中に水を多く含む場合、乾燥操作時にクエン酸第二鉄水和物の固体表面が湿体に含まれる水に溶解して、クエン酸第二鉄水和物のBET比表面積が低下する場合がある。そのため、乾燥前の湿体中の水の含有量を低減させることが好ましい。具体的には、湿体に含まれるクエン酸第二鉄水和物の無水物に換算した量(以下、「クエン酸第二鉄水和物の無水物換算量」と称す)1gに対して、水の含有量が0.05~0.5gであることが好ましい。ここで、湿体に含まれるクエン酸第二鉄水和物の無水物換算量は、湿体中の水及び有機溶媒の含有量をKFやガスクロマトグラフィー(GC)等により測定し、当該水及び有機溶媒の含有量を湿体重量から差し引くことにより算出される。湿体中の水の含有量を上記範囲とするためには、上記の固液分離時の洗浄は、最終的には有機溶媒のみで実施することが好ましい。当該範囲とするために、有機溶媒による洗浄を複数回行ってもよく、又は、固液分離後の湿体と有機溶媒とから再度懸濁液を調製することによって洗浄してもよい。
(クエン酸第二鉄水和物の単離)
上記の固液分離操作により、製造されたクエン酸第二鉄水和物の湿体を乾燥させ、湿体に含まれる過剰な水や有機溶媒を除去することで、クエン酸第二鉄水和物として単離できる。当該乾燥操作は、公知の方法により実施すればよく、例えば、棚式乾燥機やコニカル乾燥機を用いて、真空下、乾燥空気雰囲気下、又は窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下にて、実施すればよい。また、当該乾燥操作の温度は、クエン酸第二鉄水和物の安定性を考慮すると、-80~80℃が好ましい。この範囲の中で、乾燥操作に使用する設備や圧力、有機溶媒の沸点等を考慮して適宜決定すればよいが、乾燥効率やクエン酸第二鉄水和物の安定性を考慮すると、-40~70℃がより好ましく、0~60℃がさらに好ましい。また、乾燥時間は有機溶媒等の残留量を確認しながら適宜決定すればよいが、通常、0.5~100時間である。さらに、乾燥過程において、塊状となり、有機溶媒の低減効率が低い場合は、ハンマーミルやピンミル等を用いて粉末状とすることで、より効率的に乾燥することができる。
以上のようにして、本発明により製造されたクエン酸第二鉄水和物は、クエン酸第二鉄及び/又はクエン酸の分解に由来する有機不純物の含有量が少なく、また、副生塩等に由来する無機不純物の含有量も少なく、高純度である。さらに、該クエン酸第二鉄水和物は16m2/gを超えるBET比表面積を有するため、本発明の製造方法によれば医薬品原薬としても好適に使用できることが期待される品質のクエン酸第二鉄水和物を、公知の製造方法と比較して簡便に製造することができる。
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等制限されることはない。
なお、実施例、比較例のクエン酸第二鉄水和物の純度及びクエン酸由来の分子構造の含有量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により後述の条件で測定した。また、実施例、比較例のクエン酸第二鉄水和物のBET比表面積は、後述の窒素吸着法により測定した。さらに、実施例、比較例のクエン酸第二鉄水和物中の副生塩の含有の有無は、後述の粉末X線回折(XRD)により評価し、また、当該副生塩に由来するアルカリ金属又はアルカリ土類金属のクエン酸第二鉄水和物中の残留量は、後述の誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)により測定した。また、クエン酸第二鉄水和物の水分量は後述のカールフィッシャー滴定法(KF)、鉄含有量は酸化還元滴定法により測定した。なお、クエン酸第二鉄水和物中の鉄に対するクエン酸由来の分子構造のモル比率は、上記の方法により測定した鉄及びクエン酸由来の分子構造の含有量と鉄及びクエン酸の分子量(55.84及び192.12)を用いて下記式により算出した。
(モル比率)=(クエン酸由来の分子構造の含有量)/(クエン酸由来の分子構造の分子量)/(鉄含有量)×(鉄分子量)
=(クエン酸含有量)/(クエン酸分子量)/(鉄含有量)×(鉄分子量)
(純度及びクエン酸含有量)
HPLCによるクエン酸第二鉄水和物の純度の測定は以下の条件にて行った。当該条件によるHPLC分析では、クエン酸第二鉄水和物中のクエン酸由来の分子構造の保持時間は6.6分付近である。以下の実施例、比較例において、クエン酸第二鉄水和物の純度は、当該条件で測定される全ピーク(鉄及び溶媒由来のピークを除く)の面積値の合計に対するクエン酸由来の分子構造のピーク面積値の割合である。また、クエン酸第二鉄水和物中のクエン酸由来の分子構造の含有量は、当該条件で測定されるクエン酸由来の分子構造のピーク面積値を、標準物質であるクエン酸の検量線に当てはめてクエン酸含有量に換算して算出した。このクエン酸含有量を上記モル比率の計算式の第二式に代入してモル比率を算出した。
装置:液体クロマトグラフ装置(Waters Corporation製)
検出器:紫外吸光光度計(Waters Corporation製)
測定波長:210nm
カラム:内径4.6mm、長さ250mmのステンレス管に、5μmの液体クロマトグ
ラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルが充填されたもの。
移動相:りん酸二水素ナトリウム12.0gを水2000mLに添加し溶解させた後、
りん酸を加えて、pH2.2に調整した混合液。
流量:毎分1.0mL
カラム温度:30℃付近の一定温度
測定時間:30分
(BET比表面積)
窒素吸着法によるクエン酸第二鉄水和物のBET比表面積の測定は以下の条件にて行った。当該条件で窒素の分散圧が0.1~0.3の範囲で各分散圧での窒素吸着量を測定し、分散圧と窒素吸着量からBET法により解析し算出した。
装置:比表面積測定装置(MicrotracBEL製)
測定方法:定容量式窒素吸着法
試料量:約100mg
前処理温度:40℃
前処理時間:1時間
(副生塩等の含有の有無)
XRDによるクエン酸第二鉄水和物中の副生塩の含有の有無の評価は以下の条件にて行った。なお、1.541858オングストロームの波長を有するCuKα放射線を使用した。
装置:粉末X線回折装置(Rigaku製)
電圧:40kV
電流:30mA
サンプリング幅:0.020°
スキャンスピード:1.0°/分
スキャン範囲:始角は5°、終了角は60°
(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の残留量)
ICP-OESによるクエン酸第二鉄水和物中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の残留量の測定は以下の条件にて行った。以下の実施例、比較例において、クエン酸第二鉄水和物中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の残留量は、当該条件で測定されるアルカリ金属又はアルカリ土類金属のピーク面積値から検量線法により算出した、クエン酸第二鉄水和物の質量に対するアルカリ金属又はアルカリ土類金属の質量の割合である。
装置:誘導結合プラズマ発光分光分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)
RFパワー:1150W
ネプライザーガス流量:0.70L/分
(水分量)
KFによるクエン酸第二鉄水和物の水分量は、下記条件で測定した。以下の実施例、比較例において、クエン酸第二鉄水和物の水分量は、当該条件で測定される、クエン酸第二鉄水和物の質量に対する水の質量の割合である。なお、水分量は、当該条件にて3回測定した平均値を採用した。
装置:水分測定装置(三菱化学製)
測定方法:カールフィッシャー滴定容量法
滴定剤:SS-Z(三菱化学製)
溶剤:無水メタノール
試料量:約50mg
(鉄含有量)
酸化還元滴定法によるクエン酸第二鉄水和物の鉄含有量は、下記条件で測定した。以下の実施例、比較例において、クエン酸第二鉄水和物の鉄含有量は、当該条件で測定される、クエン酸第二鉄水和物の質量に対する鉄の質量の割合である。
装置:滴定用ビュレット(アズワン製)
測定方法:酸化還元滴定法
滴定剤:チオ硫酸ナトリウム溶液
指示薬:デンプン
試料量:約1g
[実施例1]
撹拌翼、温度計を取り付けた500mLの四つ口フラスコに、クエン酸一水和物40.0g(190.3mmol)と水140mL(クエン酸1gに対して3.8mL)を加え撹拌し、クエン酸水溶液を調製した。次いで、水酸化マグネシウム17.7g(303.3mmol、塩化第二鉄に対して0.85当量)を15分間かけて加えた後、40℃付近まで加温し、水酸化マグネシウムが溶解したことを確認した。塩化第二鉄六水和物64.3g(237.9mmol、クエン酸に対して1.25当量)を40℃以上で加えた後、55℃付近まで加温し、50~60℃で1時間撹拌し、塩化第二鉄六水和物が溶解したことを確認した。(当該溶液中の水の総量は169mLであり、クエン酸1gに対して4.6mLであった。)得られた溶液を、2-プロパノール300mLに、35~45℃で15分間かけて滴下した。35~45℃で1時間撹拌し、析出したクエン酸第二鉄水和物を含む懸濁液を得た。得られた懸濁液を加圧濾過により濾過し、2-プロパノール60mLと水20mLとの混合溶媒で濾過後の固体を2回洗浄した。
撹拌翼、温度計を取り付けた500mLの四つ口フラスコに、得られた湿体とアセトン250mLを加え、25~35℃で30分間撹拌した。得られた懸濁液を加圧濾過により濾過し、アセトン80mLで濾過後の固体を2回洗浄した。得られた湿体を、30℃で15時間減圧乾燥し、クエン酸第二鉄水和物41.1g(クエン酸一水和物の重量を基準とした製造収率102.8%)を得た。
得られたクエン酸第二鉄水和物の窒素吸着法によるBET比表面積は17.8m2/gであり、HPLCによる純度は99.84%であった。また、クエン酸第二鉄水和物中の鉄及びクエン酸の含有量はそれぞれ19.4%、54.0%であり、鉄に対するクエン酸由来の分子構造のモル比率は0.81であった。また、ICP-OESでの分析により、副生塩由来の元素であるマグネシウムの残留量は2.4%であった。また、KFでの分析により、クエン酸第二鉄水和物の水分量は16.0%であった。
[実施例2]
撹拌翼、温度計を取り付けた500mLの四つ口フラスコに、クエン酸一水和物40.0g(190.3mmol)と水140mL(クエン酸1gに対して3.8mL)を加え撹拌し、クエン酸水溶液を調製した。次いで、水酸化マグネシウム17.7g(303.3mmol、塩化第二鉄に対して0.85当量)を15分間かけて加えた後、40℃付近まで加温し、水酸化マグネシウムが溶解したことを確認した。塩化第二鉄六水和物64.3g(237.9mmol、クエン酸に対して1.25当量)を40℃以上で加えた後、55℃付近まで加温し、50~60℃で1時間撹拌し、塩化第二鉄六水和物が溶解したことを確認した。(当該溶液中の水の総量は169mLであり、クエン酸1gに対して4.6mLであった。)得られた溶液を、2-プロパノール300mLに、35~45℃で15分間かけて滴下した。35~45℃で1時間撹拌し、析出したクエン酸第二鉄水和物を含む懸濁液を得た。得られた懸濁液を加圧濾過により濾過し、2-プロパノール60mLと水20mLとの混合溶媒で濾過後の固体を2回洗浄した。
撹拌翼、温度計を取り付けた500mLの四つ口フラスコに、得られた湿体とアセトン200mL及び水100mLから調製した混合溶媒を加え、40℃付近まで加温した後、35~45℃で30分間撹拌した。得られた懸濁液を加圧濾過により濾過し、アセトン60mLと水20mLとの混合溶媒で濾過後の固体を2回洗浄した。さらに、撹拌翼、温度計を取り付けた500mLの四つ口フラスコに、得られた湿体とアセトン250mLを加え、25~35℃で30分間撹拌した。得られた懸濁液を加圧濾過により濾過し、アセトン80mLで濾過後の固体を2回洗浄した。得られた湿体を、30℃で15時間減圧乾燥し、クエン酸第二鉄水和物40.0g(クエン酸一水和物の重量を基準とした製造収率100.0%)を得た。
得られたクエン酸第二鉄水和物の窒素吸着法によるBET比表面積は18.2m2/gであり、HPLCによる純度は99.85%であった。また、クエン酸第二鉄水和物中の鉄及びクエン酸の含有量はそれぞれ19.8%、54.9%であり、鉄に対するクエン酸由来の分子構造のモル比率は0.81であった。また、XRDでの分析により、図1に示すX線回折チャートが得られ、クエン酸第二鉄水和物に特有のハローパターンのみを示し、クエン酸や塩化第二鉄等の各原材料及び副生塩である塩化マグネシウム等に由来するピークは検出されなかった。さらに、ICP-OESでの分析により、副生塩由来の元素であるマグネシウムの残留量は1.1%であった。また、KFでの分析により、クエン酸第二鉄水和物の水分量は16.9%であった。
[実施例3~10、比較例1~3]
水酸化マグネシウム及び塩化第二鉄六水和物の使用量を変更したこと以外は、実施例2と同様にして実施した。条件と結果を表1に示した。
[実施例11~14]
水の使用量を変更したこと以外は、実施例2と同様にして実施した。条件と結果を表2に示した。
[実施例15]
水酸化マグネシウムの代わりに水酸化リチウム一水和物24.0g(572.0mmol、塩化第二鉄に対して0.80当量)を使用したこと以外は、実施例2と同様にして実施し、クエン酸第二鉄水和物39.8g(クエン酸一水和物の重量を基準とした製造収率99.5%)を得た。なお、2-プロパノールに滴下する前の溶液中の水の総量は180mLであり、クエン酸1gに対して4.9mLであった。
得られたクエン酸第二鉄水和物の窒素吸着法によるBET比表面積は18.0m2/gであり、HPLCによる純度は99.82%であった。また、クエン酸第二鉄水和物中の鉄及びクエン酸の含有量はそれぞれ20.1%、57.3%であり、鉄に対するクエン酸由来の分子構造のモル比率は0.83であった。また、XRDでの分析により、図2に示すX線回折チャートが得られ、クエン酸第二鉄水和物に特有のハローパターンのみを示し、クエン酸や塩化第二鉄等の各原材料及び副生塩である塩化リチウム等に由来するピークは検出されなかった。さらに、ICP-OESでの分析により、副生塩由来の元素であるリチウムの残留量は1.3%であった。また、KFでの分析により、クエン酸第二鉄水和物の水分量は16.3%であった。
[実施例16]
撹拌翼、温度計を取り付けた500mLの四つ口フラスコに、クエン酸無水物40.0g(208.2mmol)と水116mL(クエン酸1gに対して2.9mL)を加え撹拌し、クエン酸水溶液を調製した。次いで、水酸化マグネシウム18.2g(312.3mmol、塩化第二鉄に対して0.67当量)を15分間かけて加えた後、45℃付近まで加温し、水酸化マグネシウムが溶解したことを確認した。塩化第二鉄六水和物84.4g(312.3mmol、クエン酸に対して1.5当量)を40℃以上で加えた後、55℃付近まで加温し、50~60℃で30分間撹拌し、塩化第二鉄六水和物が溶解したことを確認した。(当該溶液中の水の総量は150mLであり、クエン酸1gに対して3.7mLであった。)得られた溶液を、2-プロパノール300mLに、35~45℃で15分間かけて滴下した。35~45℃で1時間撹拌し、析出したクエン酸第二鉄水和物を含む懸濁液を得た。得られた懸濁液を加圧濾過により濾過し、2-プロパノール60mLと水20mLとの混合溶媒で濾過後の固体を2回洗浄した。
撹拌翼、温度計を取り付けた500mLの四つ口フラスコに、得られた湿体とアセトン180mLを加え、40℃付近まで加温した後、35~45℃で30分間撹拌した。次いで、水140mLを加え、35~45℃で30分間撹拌した。得られた懸濁液を加圧濾過により濾過し、アセトン60mLと水20mLとの混合溶媒で濾過後の固体を2回洗浄し、さらに、アセトン80mLで濾過後の固体を1回洗浄した。得られた湿体を、45℃で15時間減圧乾燥し、クエン酸第二鉄水和物46.0g(クエン酸無水物の重量を基準とした製造収率115.0%)を得た。
得られたクエン酸第二鉄水和物の窒素吸着法によるBET比表面積は19.8m2/gであり、HPLCによる純度は99.85%であった。また、クエン酸第二鉄水和物中の鉄及びクエン酸の含有量はそれぞれ20.5%、54.6%であり、鉄に対するクエン酸由来の分子構造のモル比率は0.77であった。また、ICP-OESでの分析により、副生塩由来の元素であるマグネシウムの残留量は0.9%であった。また、KFでの分析により、クエン酸第二鉄水和物の水分量は19.8%であった。
[比較例4](特許文献3に記載の製造方法)
撹拌翼、温度計を取り付けた500mLの四つ口フラスコに、クエン酸ナトリウム二水和物40.0g(136.0mmol)と水48mLを加え撹拌し、クエン酸ナトリウム水溶液を調製した。次いで、塩化第二鉄六水和物36.8g(136.1mmol)を40℃以上で加えた後、85℃付近まで加温し、80~90℃で1時間撹拌し、塩化第二鉄六水和物が溶解したことを確認した。(当該溶液中の水の総量は68mLであり、クエン酸ナトリウム1gに対して1.9mLであり、換算したクエン酸1gに対して2.6mLあった。)30℃付近に冷却した後、得られた溶液を、メタノール300mLに、20~30℃で15分間かけて滴下した。20~30℃で1時間撹拌し、析出したクエン酸第二鉄水和物を含む懸濁液を得た。得られた懸濁液を加圧濾過により濾過し、メタノール30mLで濾過後の固体を2回洗浄した。
撹拌翼、温度計を取り付けた500mLの四つ口フラスコに、得られた湿体とアセトン250mLを加え、25~35℃で30分間撹拌した。得られた懸濁液を加圧濾過により濾過し、アセトン80mLで濾過後の固体を2回洗浄した。得られた湿体を、30℃で15時間減圧乾燥し、クエン酸第二鉄水和物33.2g(クエン酸ナトリウム二水和物の重量を基準とした製造収率83.0%)を得た。
得られたクエン酸第二鉄水和物の窒素吸着法によるBET比表面積は1.9m2/gであり、HPLCによる純度は98.77%であった。また、クエン酸第二鉄水和物中の鉄及びクエン酸の含有量はそれぞれ13.8%、48.9%であり、鉄に対するクエン酸由来の分子構造のモル比率は1.03であった。また、XRDでの分析により、図3に示すX線回折チャートが得られ、クエン酸第二鉄水和物に特有のハローパターン以外に、回折角2θが27.5°及び31.8°、45.5°、54.0°、56.6°にピークを示した。当該ピークは、副生塩である塩化ナトリウムの特徴的なピークである。さらに、ICP-OESでの分析により、副生塩由来の元素であるナトリウムの残留量は15.3%であった。また、KFでの分析により、クエン酸第二鉄水和物の水分量は10.1%であった。
[比較例5](特許文献3に記載の製造方法)
撹拌翼、温度計を取り付けた500mLの四つ口フラスコに、水酸化ナトリウム22.8g(570.0mmol)と水100mLを加え撹拌し、水酸化ナトリウム水溶液を調製した。次いで、クエン酸一水和物40.0g(190.3mmol)加え30分間撹拌し、クエン酸一水和物が溶解したことを確認した。塩化第二鉄六水和物51.4g(190.2mmol)を加えた後、55℃付近まで加温し、50~55℃で1時間撹拌し、塩化第二鉄六水和物が溶解したことを確認した。(当該溶液中の水の総量は124mLであり、クエン酸1gに対して3.4mLであった。)30℃付近に冷却した後、得られた溶液を、メタノール600mLに、20~30℃で15分間かけて滴下した。20~30℃で1時間撹拌し、析出したクエン酸第二鉄水和物を含む懸濁液を得た。得られた懸濁液を加圧濾過により濾過し、メタノール60mLで濾過後の固体を2回洗浄した。
撹拌翼、温度計を取り付けた500mLの四つ口フラスコに、得られた湿体とアセトン250mLを加え、25~35℃で30分間撹拌した。得られた懸濁液を加圧濾過により濾過し、アセトン80mLで濾過後の固体を2回洗浄した。得られた湿体を、30℃で15時間減圧乾燥し、クエン酸第二鉄水和物35.9g(クエン酸ナトリウム二水和物の重量を基準とした製造収率89.8%)を得た。
得られたクエン酸第二鉄水和物の窒素吸着法によるBET比表面積は4.5m2/gであり、HPLCによる純度は98.26%であった。また、クエン酸第二鉄水和物中の鉄及びクエン酸の含有量はそれぞれ15.1%、52.2%であり、鉄に対するクエン酸由来の分子構造のモル比率は1.00であった。また、XRDでの分析により、図4に示すX線回折チャートが得られ、クエン酸第二鉄水和物に特有のハローパターン以外に、回折角2θが31.8°及び45.6°、56.6°にピークを示した。当該ピークは、副生塩である塩化ナトリウムの特徴的なピークである。さらに、ICP-OESでの分析により、副生塩由来の元素であるナトリウムの残留量は7.7%であった。また、KFでの分析により、クエン酸第二鉄水和物の水分量は11.3%であった。

Claims (3)

  1. 水酸化リチウム、炭酸リチウム、水酸化物マグネシウム及び炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一つの塩基、クエン酸、並びに塩化第二鉄を水の中で混合して混合物を得、該混合物を有機溶媒と混合することによりクエン酸第二鉄水和物を製造するクエン酸第二鉄水和物の製造方法であって、前記塩化第二鉄に対して前記塩基が0.30~0.95当量である、クエン酸第二鉄水和物の製造方法。
  2. 前記クエン酸1gに対して前記水の量が2.0~8.5mLである、請求項1に記載のクエン酸第二鉄水和物の製造方法。
  3. 前記クエン酸に対して前記塩化第二鉄が1.0~2.5当量である、請求項1又は2に記載のクエン酸第二鉄水和物の製造方法。
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