本発明の製造方法は、原料としてカテコール誘導体を用い、酸化剤として超原子価ヨウ素反応剤を用いて該カテコール誘導体を反応させることによって、カテコール誘導体の三量化反応を行うとともに、カテコール誘導体のヒドロキシル基を保護している保護基の脱保護反応も同時に進行し、直接HHTP類を製造することを特徴とする。以下に、本発明の製造方法について詳述する。
本発明の製造方法に係る一般式(2)で示されるカテコール誘導体は、HHTP類を製造するための原料として用いられる。
(式中、2つのRはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基を表し、A
1は、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、A
2は、炭素数1〜20のアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。なお、A
1とA
2とで環状構造を形成していてもよい。)
一般式(2)におけるRで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、なかでも、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく、そのなかでも、塩素原子、臭素原子がより好ましい。
一般式(2)におけるRで示される炭素数1〜3のアルキル基としては、直鎖状もしくは分枝状のいずれでもよく、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等が挙げられ、なかでも、メチル基、エチル基が好ましく、そのなかでも、メチル基がより好ましい。なお、上述の具体例において、n−はnormal−体を表す。
一般式(2)におけるRで示される炭素数1〜3のアルコキシ基としては、直鎖状もしくは分枝状のいずれでもよく、具体的には、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基等が挙げられ、なかでも、メトキシ基、エトキシ基が好ましく、そのなかでも、メトキシ基がより好ましい。なお、上述の具体例において、n−はnormal−体を表す。
一般式(2)におけるRとしては、水素原子がより好ましい。
一般式(2)におけるA1及びA2で示される炭素数1〜20のアルキル基としては、直鎖状、分枝状もしくは分枝状のいずれでもよく、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、s−ペンチル基、t−ペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、s−ヘキシル基、t−ヘキシル基、ネオヘキシル基、2−メチルペンチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、s−ヘプチル基、t−ヘプチル基、ネオヘプチル基、シクロヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、s−オクチル基、t−オクチル基、ネオオクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロオクチル基、n−ノニル基、イソノニル基、s−ノニル基、t−ノニル基、ネオノニル基、シクロノニル基、n−デシル基、イソデシル基、s−デシル基、t−デシル基、ネオデシル基、シクロデシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−イコシル基、ボルニル基、メンチル基、アダマンチル基、メチルアダマンチル基、デカヒドロナフチル基等が挙げられ、なかでも、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、s−ペンチル基、t−ペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、s−ヘキシル基、t−ヘキシル基、ネオヘキシル基、2−メチルペンチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、シクロヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、そのなかでも、炭素数1〜2のアルキル基であるメチル基、エチル基が好ましく、炭素数1のアルキル基であるメチル基が特に好ましい。なお、上述の具体例において、n−はnormal−体を表し、s−はsec−体を表し、t−はtert−体を表す。
一般式(2)におけるA1及びA2で示される置換基を有していてもよいアリール基におけるアリール基の具体例としては、単環式、縮合多環式のいずれであってもよく、例えばフェニル基、ナフチル基、アズレニル基、ビフェニリル基、インダセニル基、アセナフチレニル基、フェナントリル基、アントリル基(アントラセニル基)等が挙げられ、なかでも、フェニル基が好ましい。
一般式(2)におけるA1及びA2で示される置換基を有していてもよいアリール基における置換基の具体例としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基、例えば例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基等の炭素数1〜3のアルコキシ基、例えばニトロ基が挙げられる。
一般式(2)におけるA1及びA2とで環状構造を形成していてもよいとは、A1、A2並びにA1及びA2と結合する炭素原子とともに炭素数5〜6の環状構造を形成していてもよいことを意味する。このような炭素数5〜6の環状構造を形成する場合の当該環状構造の具体例としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環等が挙げられる。
一般式(2)におけるA1及びA2としては、炭素数1〜20のアルキル基がより好ましく、なかでも、炭素数1〜6のアルキル基がより好ましく、そのなかでも、炭素数1〜2のアルキル基がさらに好ましく、炭素数1のアルキル基であるメチル基が特に好ましい。
本発明の製造方法においては、一般式(2)で示されるカテコール誘導体のうち、一般式(2)における2つのRがともに水素原子であるカテコール誘導体を用いることが好ましい。
一般式(2)における2つのRがともに水素原子であるカテコール誘導体の好ましい具体例としては、式(2−1')〜(2−18')で示されるものが挙げられ、なかでも、式(2−1')で示される2,2−ジメチル−1,3−ベンゾジオキソールがより好ましい。なお、以下の化学式で示した具体例はあくまで一例であって、一般式(2)で示されるカテコール誘導体は、ここで例示される具体例に限定されない。
これらの一般式(2)で示されるカテコール誘導体は、市販のものを用いてもよいし、この分野で行われる一般的な方法により適宜合成したものを用いてもよい。例えば式(2−1')〜(2−18')で示されるカテコール誘導体は、パラトルエンスルホン酸等の触媒の存在下、カテコールをアセトン等のケトン類やアルデヒド類と反応させることにより合成すればよい(例えばTetrahedron Lett., 2011, 52, 4371等)。
本発明の製造方法によって得られるHHTP類は、下記一般式(1)で示されるものである。
(式中、6つのRはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。)
一般式(1)におけるRで示されるハロゲン原子としては、一般式(2)におけるRで示されるハロゲン原子と同様のものが挙げられ、好ましいハロゲン原子も同様のものが挙げられる。
一般式(1)におけるRで示される炭素数1〜3のアルキル基としては、一般式(2)におけるRで示される炭素数1〜3のアルキル基と同様のものが挙げられ、好ましいアルキル基も同様のものが挙げられる。
一般式(1)におけるRで示される炭素数1〜3のアルコキシ基としては、一般式(2)におけるRで示される炭素数1〜3のアルコキシ基と同様のものが挙げられ、好ましいアルコキシ基も同様のものが挙げられる。
一般式(1)におけるRとしては、水素原子がより好ましい。
上述のとおり、本発明の製造方法においては、一般式(2)で示されるカテコール誘導体のうち、一般式(2)における2つのRがともに水素原子であるカテコール誘導体を用いることが好ましく、原料として一般式(2)における2つのRがともに水素原子であるカテコール誘導体を用いることにより、一般式(1)における6つのRがすべて水素原子であるHHTPが得られる。
本発明の製造方法に係る超原子価ヨウ素反応剤とは、3価又は5価の超原子価状態にあるヨウ素原子を含む反応剤のことをいう。超原子価ヨウ素反応剤は、酸化作用を有するため、重金属酸化剤と同様の反応性を示し、重金属酸化剤と比較して低毒性であり、安全性に優れるという特徴を有する。
本発明の製造方法に係る超原子ヨウ素反応剤は、通常この分野で用いられるものであれば特に限定されない。3価の超原子価ヨウ素反応剤としては、例えばヨードベンゼン系の超原子価ヨウ素反応剤、アダマンタン骨格を有する超原子価ヨウ素反応剤、テトラフェニルメタン骨格を有する超原子価ヨウ素反応剤等が挙げられる。ヨードベンゼン系の超原子価ヨウ素反応剤としては、例えばフェニルイオジンジアセタート[ジアセトキシヨードベンゼン](以下、PIDAと略記する場合がある。)、フェニルイオジンビス(トリフルオロアセタート)[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨードベンセン](以下、PIFAと略記する場合がある。)、ヒドロキシ(トシルオキシ)ヨードベンゼン(以下、HTIBと略記する場合がある。)、ヨードシルベンゼン等が挙げられる。以下に、これらの超原子価ヨウ素反応剤の構造式を示す。PIDA:式[A1]、PIFA:式[A2]、HTIB:式[A3]、ヨードシルベンゼン:式[A4]。
アダマンタン骨格を有する超原子価ヨウ素反応剤の具体例としては、例えば1,3,5,7−テトラキス−[4−(ジアセトキシヨード)フェニル]アダマンタン、1,3,5,7−テトラキス−[(4−(ヒドロキシ)トシルオキシヨード)フェニル]アダマンタン、1,3,5,7−テトラキス−[4−ビス(トリフルオロアセトキシヨード)フェニル]アダマンタン等が挙げられる。テトラフェニルメタン骨格を有する超原子価ヨウ素反応剤の具体例としては、例えばテトラキス−4−(ジアセトキシヨード)フェニルメタン、テトラキス−4−ビス(トリフルオロアセトキシヨード)フェニルメタン等が挙げられる。これらの超原子価ヨウ素反応剤は、安定で取り扱い易く、高い酸化能を有する上に、脂溶性が高く、回収、再利用が可能である。
また、5価の超原子価ヨウ素反応剤としては、例えばデスマーチンペルヨージナン[Dess-Martin periodinane](以下、DMPと略記する場合がある。)、o−ヨードキシ安息香酸[o−iodoxybenzoic acid](以下、IBXと略記する場合がある。)等が挙げられる。以下に、これらの超原子価ヨウ素反応剤の構造式を示す。DMP:式[B1]、IBX:式[B2]。
本発明の製造方法においては、上述の超原子価ヨウ素反応剤のうち、3価の超原子価ヨウ素反応剤が好ましく、なかでも、ヨードベンセン系の超原子価ヨウ素反応剤がより好ましく、そのなかでも、PIDAがさらに好ましい。PIDAは、安定で取り扱い易く、十分な高い酸化能を有するという特徴がある。
このように、本発明の製造方法においては、塩化鉄、酸化鉄、酸化モリブデン等の重金属酸化剤を使用しないため、重金属を全く含まないHHTP類を容易に製造することができる。なお、上述の超原子価ヨウ素反応剤は、これらのうちの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上述の超原子価ヨウ素反応剤は、市販のものを用いてもよいし、この分野で行われる一般的な方法により適宜合成したものを用いてもよい。PIDAは、例えば酢酸中、ヨードベンゼンをペルオキソホウ酸ナトリウム(4水和物)(NaBO3・4H2O)を用いて酸化するか(例えばTetrahedron, 1989, 45, 3299、Chem. Rev., 1996, 96, 1123等)又はm−クロロ安息香酸(mCPBA)を用いて酸化する(例えばAngew. Chem. Int. Ed., 2004, 43, 3595等)ことにより合成すればよい。また、PIFAは、例えばPIDAをトリフルオロ酢酸と反応させることにより合成すればよい(例えばJ. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1985, 757等)。さらに、1,3,5,7−テトラキス−[4−(ジアセトキシヨード)フェニル]アダマンタン、1,3,5,7−テトラキス−[(4−(ヒドロキシ)トシルオキシヨード)フェニル]アダマンタン、1,3,5,7−テトラキス−[4−ビス(トリフルオロアセトキシヨード)フェニル]アダマンタン、テトラキス−4−(ジアセトキシヨード)フェニルメタン、テトラキス−4−ビス(トリフルオロアセトキシヨード)フェニルメタンは、例えば特開2005−220122に記載の方法等で合成すればよい。
本発明の製造方法において、上述した超原子価ヨウ素反応剤の使用量としては、実用的な量であれば特に制限されず、例えば一般式(2)で示されるカテコール誘導体のmol数に対して、通常0.8〜10当量、好ましくは0.9〜5当量、より好ましくは1〜2当量である。超原子価ヨウ素反応剤の使用量が極めて少ない場合には、一般式(1)で示されるHHTP類の収率が低下する傾向にある。一方で、超原子価ヨウ素反応剤の使用量が非常に多い場合には、酸化反応が過剰に進行し、後述するキノン類が副生し易くなる傾向にある。
本発明の製造方法においては、プロトン酸の存在下で反応を行うことが好ましい。プロトン酸を用いることにより、反応速度が向上する傾向にある。このようなプロトン酸としては、炭素数1〜20のスルホン酸、炭素数1〜10のカルボン酸、高分子系のプロトン酸等が挙げられる。このようなプロトン酸の具体例としては、例えばメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸等の炭素数1〜20のスルホン酸、例えば酢酸、トリフルオロ酢酸、安息香酸等の炭素数1〜10のカルボン酸、例えばアンバ−ライト等の高分子系のプロトン酸等が挙げられ、なかでも、炭素数1〜20のスルホン酸が好ましく、そのなかでも、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸がより好ましい。このように、本発明の製造方法においては、硫酸のような鉱酸を使用しないため、大量の廃酸が生じることもなく、さらには、反応後の固液分離を行う必要もない。なお、これらのプロトン酸は、これらのうちの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の製造方法において、上述したプロトン酸の使用量としては、実用的な量であれば特に制限されず、例えば一般式(2)で示されるカテコール誘導体のmol数に対して、通常0.8〜10当量、好ましくは0.9〜5当量、より好ましくは1〜2当量である。プロトン酸の使用量が極めて少ない場合には、反応速度があまり向上しない傾向にある。
本発明の製造方法は、通常、有機溶媒中で実施される。本発明の製造方法において用いられる有機溶媒としては、原料であるカテコール誘導体、生成物であるHHTP類、超原子価ヨウ素反応剤、並びにプロトン酸等に悪影響を及ぼさない有機溶媒であればよい。このような有機溶媒としては、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、例えばクロロメタン(塩化メチル)、ジクロロメタン(塩化メチレン)、トリクロロメタン(クロロホルム)、テトラクロロメタン(四塩化炭素)等のハロゲン系溶媒、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、2−メトキシエタノール等のアルコール系溶媒、例えば2,2,2−トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール等の含フッ素アルコール系溶媒、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール等のグリコール系溶媒、例えばジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル系溶媒、例えばエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルアセテート系溶媒、例えばアセトン、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、例えば酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸s−ブチル、酢酸t−ブチル、酪酸エチル、酪酸イソアミル等のエステル系溶媒、例えばN−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリジノン(N−メチルピロリドン)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(ジメチルエチレン尿素)等のアミド系溶媒、例えばジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、例えばアセトニトリル等のニトリル系溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒のなかでも、例えば2,2,2−トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール等の含フッ素アルコール系溶媒が好ましく、そのなかでも、2,2,2−トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノールがより好ましい。これらの含フッ素アルコール系溶媒は、超原子価ヨウ素反応剤と併用することにより、目的物であるHHTP類の収率を向上させることができるばかりでなく、超原子価ヨウ素反応剤の使用量を減らすことができる。なお、上述の具体例において、n−はnormal−体を表し、s−はsec−体を表し、t−はtert−体を表す。
これらの有機溶媒は、上述した有機溶媒の1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いる場合には、少なくとも含フッ素アルコール系溶媒を用いることが好ましい。含フッ素アルコール系溶媒と組み合わせる他の溶媒としては、上述した有機溶媒のうち、本発明の製造方法に係るカテコール誘導体、超原子価ヨウ素反応剤及びプロトン酸の有機溶媒に対する溶解性や分散性、さらには、当該カテコール誘導体の反応性を考慮して適宜選択すればよい。
本発明の製造方法において、上述の有機溶媒の使用量としては、実用的な量であれば特に制限されず、例えば一般式(2)で示されるカテコール誘導体1mmol数に対して、通常0.1〜100mL、好ましくは0.2〜50mLである。
本発明の製造方法において、含フッ素アルコール系溶媒を用いる場合の含フッ素アルコール系溶媒の使用量としては、有機溶媒全量を100重量部とした場合に、通常1〜100重量部、好ましくは2〜100重量部、より好ましくは5〜100重量である。
本発明の製造方法における反応時の温度(反応温度)は、原料である一般式(2)で示されるカテコール誘導体の三量化反応が効率よく進行し、一般式(1)で示されるHHTP類が収率よく得られる温度に設定することが望ましい。具体的な反応温度としては、通常−50〜100℃、好ましくは0〜40℃である。反応温度が−50℃未満の場合には、反応速度が極めて遅くなる傾向があり、さらには、有機溶媒の種類によっては、該有機溶媒が−50℃未満で凍結する場合があるため、一般式(1)で示されるHHTP類の収率が低下するおそれがある。一方で、反応温度が100℃を超える場合には、酸化反応が過剰に進行し、後述するキノン類が副生する傾向にある。
本発明の製造方法における反応時の圧力は、原料である一般式(2)で示されるカテコール誘導体の三量化反応が効率よく進行し、一般式(1)で示されるHHTP類が収率よく得られる圧力に設定することが望ましいが、三量化反応は、常圧下、加圧下、減圧下のいずれの圧力でも問題なく進行する。通常は、特別な設備を必要としない常圧(0.09〜0.11MPa)条件下で反応を行う。
本発明の製造方法における反応時間は、超原子価ヨウ素反応剤の種類、一般式(2)で示されるカテコール誘導体に対する超原子価ヨウ素反応剤の使用量、プロトン酸の有無、種類及びその使用量、有機溶媒の種類及びその使用量、反応温度、並びに反応時の圧力等に影響を受ける場合がある。このため、望ましい反応時間は、一概に言えるものではないが、例えば通常0.1〜120時間、好ましくは1〜48時間である。
本発明の製造方法では、原料として一般式(2)で示されるカテコール誘導体を用いることによって、カテコール誘導体の三量化反応とともに、カテコール誘導体のヒドロキシル基を保護している保護基の脱保護反応も同時に進行するため、直接HHTP類を製造することができる。このため、本発明の製造方法では、従来法にあるような、ヒドロキシル基の脱保護反応を必要としない優れた方法である。
本発明の製造方法では、目的物である一般式(1)で示されるHHTP類のほかにHHTP類の過剰酸化によってキノン類が副生する場合がある。そのため、要すれば、副生したキノン類を還元して、当該キノン類をHHTP類に変換する操作を行ってもよい。より具体的には、キノン類をHHTP類に変換する操作とは、上述した本発明の製造方法、すなわち、一般式(2)で示されるカテコール誘導体を超原子価ヨウ素反応剤の存在下で反応させる工程によって得られた反応液を還元剤で処理して、副生成物であるキノン類をHHTP類に還元する操作(工程)である(以下、還元工程と略記する場合がある)。次に、還元工程について詳述する。
還元工程は、一般式(2)で示されるカテコール誘導体を超原子価ヨウ素反応剤の存在下で反応させる工程によって得られた反応液を還元剤で処理する工程であるが、当該還元工程は、反応液中に含まれるキノン類をHHTP類に還元できればよいため、該反応液には、副生成物であるキノン類のほか、本発明の製造方法によって得られるHHTP類や本発明の製造方法に係る超原子価ヨウ素反応剤、プロトン酸、有機溶媒等の本発明の製造方法で使用した原料や反応剤以外のものが含まれていてもよい。
還元工程に係る還元剤の好ましい具体例としては、例えばマグネシウム、アルミニウム等の金属、水素、硫化水素、二酸化硫黄、ハイドロサルファイトナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、ギ酸、アスコルビン酸等が挙げられ、なかでも、ハイドロサルファイトナトリウムが好ましい。このように、還元工程においては、亜鉛、塩化スズ等の重金属還元剤を使用しないため、重金属を全く含まないHHTP類を容易に製造することができる。なお、これらの還元剤は、これらのうちの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
還元工程において、上述した還元剤の使用量としては、実用的な量であれば特に制限されず、例えば一般式(2)で示されるカテコール誘導体100mgに対して、通常12mmol以下、好ましくは0.5〜10mmol、より好ましくは1〜5mmolである。還元剤の使用量が極めて少ない場合には、還元反応が十分に進行せず、一般式(1)で示されるHHTP類の収率が低下する傾向にある。
還元工程においては、上述した還元剤の効果を高めるために、3級アミンを還元処理系内に共存させてもよい。このような3級アミンとしては、例えばトリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ピリジン等が挙げられる。また、これらの3級アミンの使用量としては、実用的な量であれば特に制限されず、例えば還元剤のmol数に対して、通常0.25〜5当量、好ましくは0.4〜2当量、より好ましくは0.5〜1.5当量である。
上述した還元剤や3級アミンは、反応液に直接加えてもよいし、溶媒に溶解させたものを加えてもよい。当該還元剤や3級アミンを溶媒に溶解させる場合の溶媒としては、本発明の製造方法において用いられる有機溶媒と同様のものが挙げられるほか、水を挙げることができる。
還元工程において、上述の溶媒の使用量としては、実用的な量であれば特に制限されず、例えば上述した還元剤や3級アミンを溶媒に溶解させたもの(溶液)の濃度が0.01〜5Mとなるようにその使用量を適宜決定すればよい。
還元工程における反応時の温度(反応温度)は、本発明の製造方法において副生するキノン類の還元反応が効率よく進行し、一般式(1)で示されるHHTP類が収率よく得られる温度に設定することが望ましい。具体的な反応温度としては、通常0〜100℃、好ましくは0〜40℃である。反応温度が0℃未満の場合には、反応速度が極めて遅くなる傾向があり、さらには、溶媒の種類によっては、該溶媒が0℃未満で凍結する場合があるため、一般式(1)で示されるHHTP類の収率が低下するおそれがある。
還元工程における反応時の圧力は、本発明の製造方法において副生するキノン類の還元反応が効率よく進行し、一般式(1)で示されるHHTP類が収率よく得られる圧力に設定することが望ましいが、還元反応は、常圧下、加圧下、減圧下のいずれの圧力でも問題なく進行する。通常は、特別な設備を必要としない常圧(0.09〜0.11MPa)条件下で反応を行う。
還元工程における反応時間は、還元剤の種類、一般式(2)で示されるカテコール誘導体に対する還元剤の使用量、溶媒の種類及びその使用量、反応温度、並びに反応時の圧力等に影響を受ける場合がある。このため、望ましい反応時間は、一概に言えるものではないが、例えば通常0.01〜72時間、好ましくは0.1〜24時間である。
還元工程は、上述したように、還元剤の種類及びその使用量等によって反応時間を分単位とすることもできるので、当該還元工程を、例えば本発明の製造方法の後処理操作と一緒に行ってもよい。具体的には、例えば本発明の製造方法で得られた反応液を0.1Mのハイドロサルファイトナトリウム水溶液を用いて分液抽出する操作を還元工程に代えてもよい。
本発明の製造方法によって得られたHHTP類は、通常この分野で行われる一般的な後処理操作及び精製操作により単離することができる。単離方法の具体例としては、例えば反応液に、メチルエチルケトン、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水等を用いて抽出操作を行い、次いで抽出液中の抽出溶媒を留去した後、得られた結晶をろ取し、この結晶を例えばヘキサン、メタノール、ジエチルエーテル、アセトン等の適当な有機溶媒で洗浄するか、あるいはヘキサン、メタノール、ジエチルエーテル、アセトン等の適当な有機溶媒と水とで練り洗等を行うことにより、HHTP類を単離することができる。また、抽出液中の抽出溶媒を留去した後、熱時ろ過を行うことにより、より高純度のHHTP類を単離することができる。なお、熱時ろ過の際には、例えば珪藻土、活性炭等のろ過助剤を併用してもよい。
以上述べてきたように、本発明者らは、カテコール誘導体を用いて直接HHTP類を製造する方法において、酸化剤として超原子価ヨウ素反応剤を用いてカテコール誘導体の三量化反応を行うことにより、当該三量化反応と同時に、カテコール誘導体のヒドロキシル基を保護している保護基の脱保護反応も同時に進行することを見出し、直接HHTP類を製造することができることを明らかにした。本発明の製造方法は、重金属や硫酸等の鉱酸を使用しない等の環境負荷低減を考慮しつつ収率よくHHTP類を得ることができる優れた方法である。すなわち、本発明の製造方法は、重金属フリーの方法であるため、重金属を全く含まないHHTP類を容易に製造することができる。さらには、従来法にあるような固液分離を行わなくてもHHTP類を単離できるため、工業的スケールでも、練り洗等の簡便な方法で安定してHHTP類を製造することができる。
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
実施例1 本発明の製造方法によるHHTPの合成
室温下、ジクロロメタン50mLと1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール10mLの混合溶媒中に、2,2−ジメチル−1,3−ベンゾジオキソール750mg(5mmol;東京化成工業株式会社製)を加える。さらに、フェニルイオジンジアセタート(PIDA)1.61g(5mmol;東京化成工業株式会社製)とメタンスルホン酸720mg(7.5mmol;ナカライテスク株式会社製)の1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール10mLの溶液を別途調製する。先の2,2−ジメチル−1,3−ベンゾジオキソールを溶解させた溶液中に、別途調製したPIDAとメタンスルホン酸を溶解させた溶液を加え、室温下で24時間攪拌した。反応終了後、反応液に水50mLを加え、さらに5分間攪拌した。ここで得られた溶液をメチルエチルケトン100mLを用いて抽出後、得られた有機層を重曹水(pH約9に調整したもの)200mLを用いて洗浄し、次いで水200mLで洗浄した。洗浄後の有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、乾燥後の有機層を減圧留去して得られた結晶をヘキサン及びジクロロメタンで洗浄し、2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレン290mg(0.9mmol:収率54%)を得た。以下に1H−NMRの測定結果を示す。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)δ(ppm):7.74(s,Ar),9.30(s,OH)
以上の結果から、メタンスルホン酸等の有機プロトン酸の存在下、酸化剤として超原子価ヨウ素反応剤を用いて2,2−ジメチル−1,3−ベンゾジオキソールの三量化反応を行うことにより、カテコールのヒドロキシル基を保護しているアセトナイド基の脱保護も同時に進行し、一段階で一般式(1)で示されるHHTP類を収率よく製造できることを明らかにした。このように、本発明の製造方法は、酸化剤として超原子価ヨウ素反応剤を用いて、一般式(2)で示されるカテコール誘導体の三量化反応を行うことにより、カテコール誘導体のヒドロキシル基を保護している保護基の脱保護反応も同時に進行することが分かった。これにより、本発明の製造方法で、すなわち、一段階で直接HHTPを製造できることを明らかにした。また、本発明の製造方法は、従来法とは異なり、重金属や硫酸等の鉱酸を使用しないため、再結晶等の通常の操作で簡便にHHTP類を単離することができる。このような本発明の製造方法は、グリーンケミストリーの観点からも有用であり、環境負荷低減を考慮した実用的な製造方法であることを明らかにした。