JP2005080553A - 新規トランスポータタンパク質 - Google Patents

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Abstract

【課題】ヒダントイン化合物に対してトランスポータ活性を有する新規トランスポータタンパク質、および、当該トランスポータタンパク質を発現した組換え体を提供する。
【解決手段】マイクロバクテリウム リクエファシエンス Microbacterium liquefaciens AJ3912株において、機能未知の遺伝子mhpを見出し、当該遺伝子のコードするタンパク質が、ヒダントイン化合物に対するトランスポータ活性を有することを見出した。遺伝子組換え技術を用いて、本発明のヒダントイントランスポータをコードするDNAを導入発現することにより、細胞内部へのヒダントイン化合物の取り込み能力に優れた組み換え体が得られる。
【選択図】 なし

Description

本発明は、ヒダントイン化合物に対するトランスポータ活性を有する新規トランスポータタンパク質に関する。
酵素を用いたアミノ酸製法の一つとして、化学的に安価に合成される5置換ヒダントイン化合物を出発物質として、これを光学活性なアミノ酸に不斉分解する方法が知られている。この5置換ヒダントイン化合物から、光学活性アミノ酸を製造する方法は、医薬品、化学工業品、食品添加物等の製造に重要である。
5置換ヒダントイン化合物は、下記反応式(I)に示すように、(A)、(B)の酵素による加水分解反応を経てアミノ酸となる。
(A)5置換ヒダントイン化合物に作用し、当該物質を加水分解することによりN−カルバミルアミノ酸を生成する反応を触媒する酵素(ヒダントイナーゼ、以下「HHase」とも記す)。
(B)生成したN−カルバミルアミノ酸に作用し、当該物質を加水分解することにより光学活性アミノ酸を生成する反応を触媒する酵素(N−カルバミルアミノ酸ハイドロラーゼ、以下「CHase」とも記す。また、一般にカルバミルアミノ酸ハイドロラーゼはカルバミラーゼと略称される場合がある)。
5置換ヒダントイン化合物から光学活性アミノ酸を製造するためには、上記(A)ヒダントイナーゼおよび(B)N−カルバミルアミノ酸ハイドロラーゼのうち、少なくとも一方に光学特異性の酵素を用いればよい。
Figure 2005080553
5置換ヒダントイン化合物から光学活性アミノ酸を製造する方法としては、従来から微生物酵素系を用いた方法および微生物酵素系と化学反応系とを組み合わせた方法が知られているが、工業的には、上記(A)、(B)の酵素を産生する微生物または形質転換体を用いて、アミノ酸を大量生産する方法が主流である。しかし、菌体を用いた製法においては、反応を触媒する酵素の大部分は菌体内に存在するため、基質の膜透過性が悪いと、基質が菌体内の酵素に到達できず、5置換ヒダントイン化合物を効率的に光学活性アミノ酸に変換することができないといった問題があった。このため、基質の膜透過性が悪い場合には、反応前に菌体を破砕し、酵素を可溶化してから用いる必要があった。しかしながら、工業的には菌体破砕工程は手間がかかるとともに、破砕によって生じる不溶物が、反応後の生成物回収行程の障害となる可能性も考えられる。
A. Wiese, C. syldatk, R. Mattes and J. Altenbuchner (2001). Organization of genes responsible for the stereospecific conversion of hydantoins to α-amino acids in Arthrobacter aurescens DSM3747. Arch. Microbiol. 176: 187-196. K. Watabe, T. Ishikawa, Y. Mukohara and H Nakamura (1992). Cloning and sequencing of the genes involved in the conversion of 5-substituted hydantoins to the corresponding L-amino acid from the native plasmid of Pseudomonas sp. NS671. J. Bacteriol. 174: 962-969. B. Wilms, A Wiese, C. SSyldatk, R. Mattes (2001). Development of an Esherichia coli whole cell biocatalyst for the production of L-amino acids. J. Biotechnol. 86: 19-30. R. Sumrada and T. G. Cooper (1977). Allantoin transport in Saccharomyces cerevisiae. J. Bacteriol. 131: 839-847.
基質の膜透過性を向上させる手段として、上記(A)、(B)の酵素を産生する微生物または形質転換体において、基質となるヒダントイン化合物に対するトランスポータを組換え発現する方法が考えられる。トランスポータは、物質の輸送に関与するタンパク質の1種であり、その多くは生体膜上に膜タンパク質として存在し、特定の物質を生体膜を横切って輸送する。トランスポータは物質の輸送に関与しているため、これらの遺伝子の発現を改変することによって、細胞の物質輸送に関する特性を改変させることができると考えられる。すなわち、インタクトセルを用いたバイオコンバージョンプロセスにおいて、ヒダントイントランスポータータンパク質を導入することにより、従来膜透過性の悪かった基質を、細胞内に効率的に取り込ませることが可能となる。
しかしながら、膜タンパク質の取り扱い(精製、機能解析、大量発現など)は、可溶性タンパク質と比較して困難である。このため、トランスポータに関する研究は可溶性タンパク質ほどに進んでおらず、トランスポータをコードする遺伝子は未知のものが多い。
ヒダントイン化合物に対するトランスポータのアミノ酸配列および塩基配列を決定し、このヒダントイントランスポータを組換え発現できれば、基質となる5置換ヒダントイン化合物を細胞内に効率的に取り込ませることが可能となる。これによって、菌体内から酵素を取り出すための破砕あるいは溶菌処理工程が不要となり、製造工程を簡素化することになる。
5−置換ヒダントイン化合物のトランスポートに関する報告としては、5−ウレイド-ヒダントインの構造を有するアラントインのトランスポータに関する報告(上記Sumradaら)はあるものの、これ以外の5−置換ヒダントイン化合物トランスポータの報告はなく、ヒダントインからの光学活性アミノ酸製法においては、新規なヒダントイントランスポータが必要となっていた。
上記ヒダントイン水解酵素あるいはラセマーゼの研究に関する参考文献においても、ヒダントイナーゼ、カルバモイラーゼ、あるいはヒダントインラセマーゼをコードする遺伝子周辺に、機能未知のトランスポータホモログタンパク質をコードする遺伝子が見出されていたものの、その機能に関してはこれまで明らかにされていなかった。
したがって、本発明は、ヒダントイン化合物に対してトランスポータ活性を有する新規トランスポータタンパク質、および、ヒダントイントランスポータDNAが発現した形質転換体を提供することを目的とする。
本発明者らは上記問題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、マイクロバクテリウム属に属する細菌において、5-置換ヒダントイン水解酵素遺伝子群中に、機能未知のトランスポーターホモログ(MHP)を発見し、当該タンパク質が、ヒダントイン化合物に対するトランスポータ活性を有することを見出し、本発明に想到した。
また、本発明者らは、ヒダントイントランスポータDNAを組み込んだ形質転換体を作製し、当該形質転換体がヒダントイン化合物を細胞内に効率的に取り込むことを確認した。
即ち、本発明は以下の通りである。
〔1〕 アラントイン以外の少なくとも一種の5−置換ヒダントイン化合物に対してヒダントイントランスポータ活性を有することを特徴とするタンパク質。
〔2〕 下記一般式(1)で表される5−置換ヒダントイン化合物のうち少なくとも一種の5−置換ヒダントイン化合物に対してヒダントイントランスポータ活性を有することを特徴とする〔1〕に記載のタンパク質。
Figure 2005080553
(一般式(1)において、Rは、炭素数1以上8以下の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数2以上8以下の直鎖状または分岐状のアルキレン基、炭素数20以下のアリール基またはアラルキル基、炭素数1以上8以下のメルカプトアルキル基、または、炭素数2以上8以下のアルキルチオアルキル基である。)
〔3〕 上記Rが、炭素数20以下のアラルキル基であることを特徴とする〔2〕に記載のタンパク質。
〔4〕 上記Rが、インドリルメチル基またはベンジル基であることを特徴とする〔3〕に記載のタンパク質。
〔5〕 マイクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する微生物に由来することを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載のタンパク質。
〔6〕 マイクロバクテリウム リクエファシエンス(Microbacterim liquefaciens)に由来することを特徴とする〔5〕に記載のタンパク質。
〔7〕 マイクロバクテリウム リクエファシエンス(Microbacterium liquefaciens)AJ3912株に由来することを特徴とする〔6〕に記載のタンパク質。
〔8〕 下記(A)または(B)のアミノ酸配列を有し、かつ、ヒダントイントランスポータ活性を有するタンパク質。
(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を含むアミノ酸配列
〔9〕 前記タンパク質は、5−インドリルメチルヒダントインおよび5−ベンジルヒダントインのうち少なくとも一方のヒダントイン化合物を輸送することを特徴とする〔8〕に記載のタンパク質。
〔10〕 前記タンパク質は、5−置換ヒダントイン化合物に対してL体選択的に作用するヒダントイントランスポータ活性を有することを特徴とする〔8〕または〔9〕に記載のタンパク質。
〔11〕 下記(A)または(B)のアミノ酸配列を有し、かつ、ヒダントイントランスポータ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を含むアミノ酸配列
〔12〕 下記(a)または(b)の塩基配列を有し、かつ、ヒダントイントランスポータ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(a)配列表の配列番号1に記載の塩基配列
(b)配列表の配列番号1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列
〔13〕 〔11〕または〔12〕のいずれか1項に記載のDNAとベクターDNAとが接続してなる組換えDNA。
〔14〕 前記ベクターDNAが、pUC系プラスミドまたはその誘導体であることを特徴とする〔13〕に記載の組換えDNA。
〔15〕 前記ベクターDNAが、pTTQ系プラスミドまたはその誘導体であることを特徴とする〔14〕に記載の組換えDNA。
〔16〕 〔13〕〜〔15〕のいずれか一項に記載の組換えDNAによって形質転換された形質転換細胞。
〔17〕 前記形質転換細胞が、エシェリヒア コリであることを特徴とする〔16〕に記載の形質転換細胞。
〔18〕 前記エシェリヒア コリが、E. coli BLRであることを特徴とする〔17〕に記載の形質転換細胞。
本発明のヒダントイントランスポータは、ヒダントイン化合物を輸送し、生体膜に存在する場合にあっては、ヒダントイン化合物が生体膜を通過するのを仲介する。したがって、遺伝子組換え技術を用いて、本発明のヒダントイントランスポータを発現させることにより、細胞内部へのヒダントイン化合物の取り込み能力に優れた形質転換体を作製することが可能となる。
従来、微生物の産生する酵素を細胞外に取り出すため、反応を実施する前に、菌体を破砕し酵素を可溶化する必要があった。本発明のヒダントイントランスポータによれば、基質となるヒダントイン化合物を細胞内へ効率的に取り込ませることができるため、細胞内で酵素反応を効率的に行うことが可能となる。これにより、従来、細胞外に酵素を取り出すために必要とされてきた、菌体破砕処理工程が不要となる。
以下、本発明について、
[I] ヒダントイントランスポータ
(1)ヒダントイントランスポータをコードするDNA、
(2)ヒダントイントランスポータの性質、
[II] ヒダントイントランスポータDNAが発現した形質転換体の調製
の順に添付の図面を参照して詳細に説明する。
[I] ヒダントイントランスポータ
マイクロバクテリウム リクエファシエンス Microbacterium liquefaciens AJ3912株において、5−置換ヒダントイン化合物に作用するヒダントインラセマーゼ(HRase)、ヒダントイナーゼ(HHase)、カルバミラーゼ(CHase)をコードする遺伝子群中に、機能未知の遺伝子mhpを見出し、当該遺伝子のコードするタンパク質が、ヒダントイン化合物に対するトランスポータ活性を有することを見出した。
図1に、Microbacterium liquefaciens AJ3912株のヒダントイン水解酵素遺伝子群の配置を示す。図1において、各遺伝子はその翻訳方向を示す矢印によって示されている。図1に示すように、MHPをコードするmhp遺伝子は、5-置換ヒダントインを基質認識しえるヒダントインラセマーゼ、ヒダントイナーゼ、カルバミラーゼをそれぞれコードするmhr、mhh、mchの上流に位置し、同じプロモーターによって発現が同時に調節されるオペロンを形成していると考えられる。
本発明のヒダントイントランスポータは、ヒダントイン化合物を輸送するタンパク質である。本発明のトランスポータは、膜タンパク質の1種であり、生体膜に存在する場合にあっては、ヒダントイン化合物が生体膜を通過するのを仲介する。本発明のトランスポータは、能動輸送によってヒダントイン化合物を輸送すると推測され、細胞内部へのヒダントイン化合物の取り込みを促進することができる。
本発明のヒダントイントランスポータは、化学物質の輸送を行うものであり、化学反応を触媒する酵素とは厳密な意味で異なる。しかし、トランスポータは、特定の化学物質に作用してこれを輸送する基質特異性を持ち、また、基質の類似物質による拮抗阻害を受けるなど、酵素と類似した性質を有するため、本願明細書においては、トランスポータによって輸送される化学物質を「基質」と称し、また、ヒダントイン化合物を輸送する活性を「ヒダントイントランスポータ活性」と称することにする。
ヒダントイントランスポータ活性の測定は、インタクトセルを用いた取り込みアッセイによって測定することができる。インタクトセルを用いた取り込みアッセイは、West (1970)、Macpherson and Henderson (1986)の方法に従って行うことができる(I.C. West (1970). Lactose transport coupled to proton movements in Escherichia coli. Biochem. Biophys. Res. Commun. 41: 655-661.; P.J.F. Henderson and A.J.S. Macpherson (1986). Assay, genetics, proteins, and reconstitution of proton-linked galactose, arabinose, and xylose transport systems of Escherichia coli. Methods Enzymol. 125: 387-429.)。
具体的には、ヒダントイントランスポータを発現している菌体の懸濁液を用いて、RIラベルした基質(3H−BH、 3H−IMH)を添加することにより取り込み反応を行う。反応開始後経時的にサンプリングを行い、各アリコットをサンプリング後直ちに0.45μmポアサイズのフィルター(150 mM KCl、5mM MES(pH 6.6)の洗浄液にプレインキュベート)によって回収し、洗浄液によって十分に洗浄した後、フィルターに残存する放射能を液体シンチレーションカウンターにて測定することによって、菌体内に取り込まれた基質を定量し、ヒダントイントランスポータ活性を見積もることができる。
微弱な活性とバックグラウンドとの区別には、トランスポータ遺伝子を発現していない非誘導条件で培養した菌体をコントロール区として用いることにより判断することができる。
本発明においては、25℃、pH6.6、基質濃度25μMの反応液中で、細胞内への基質の取り込みが観察されることをトランスポータ活性を有するという。通常、細胞内への基質取り込み開始後は、基質の取り込み量は増加を続けるが、一定時間が経過すると、細胞内の基質濃度が飽和濃度に達し、基質の取り込み速度と排出速度とが平衡状態となる。本発明においては、飽和状態において観察される基質の取り込み量が、菌体重量あたり0.01 nmol/mg以上であることが好ましく、0.1nmol/mg以上であることが好ましい。
本発明のヒダントイントランスポータをコードするDNAを配列表の配列番号1に示す。また、配列表の配列番号2に、配列表の配列番号1の塩基配列がコードするヒダントイントランスポータのアミノ酸配列を示す。
(1)ヒダントイントランスポータをコードするDNA
配列表の配列番号1の塩基配列を有する本発明のトランスポータ遺伝子は、前述したようにMicrobacterium liquefaciens AJ 3912株の染色体DNAから単離することができる。配列表の配列番号1の塩基配列は、Arthrobacter aurescens DSM 3747株に存在するヒダントイン水解酵素遺伝子群中にコードされる機能未知トランスポーターホモログタンパク質HyuP(非特許文献1)と82%の相同性を有し、Pseudomonas sp. NS671株に存在するヒダントイン水解酵素遺伝子群中にコードされる機能未知トランスポーターホモログタンパク質ORF5タンパク質(P_ORF5)(非特許文献2)と31%の相同性を有する。
なお、ここでの相同性の解析は、遺伝子解析ソフト「FASTA」(Wisconsin-Madison Univ., USA)を用い、パラメータを初期設定値として算出した値である。
次にヒダントイントランスポータをコードするDNAを取得する方法について説明する。
本発明者らによって特定されたヒダントイントランスポータのアミノ酸配列(配列表配列番号2)に基づいてDNAの塩基配列を演繹する。DNAの塩基配列を演繹するにはユニバーサルコドンを採用する。
演繹したDNA配列に基づいて、30塩基対程度のDNA分子を合成する。該DNA分子を合成する方法はTetrahedron Letters, 22, 1859 (1981)に開示されている。また、Applied Biosystems社製のシンセサイザーを用いて該DNA分子を合成できる。該DNA分子は、ヒダントイントランスポータをコードするDNA全長を、ヒダントイントランスポータ産生菌の染色体遺伝子ライブラリーから単離する際に、プローブとして利用できる。あるいは、本発明のトランスポータをコードするDNAをPCR法で増幅する際に、プライマーとして利用できる。配列表5および6に、プライマーの一例を示す。ただし、PCR法を用いて増幅されるDNAはトランスポータをコードするDNA全長を含んでいないので、PCR法を用いて増幅されるDNAをプローブとして用いて、トランスポータをコードするDNA全長をトランスポータ産生菌染色体遺伝子ライブラリーから単離する。
ここで、ヒダントイントランスポータDNAの取得源となるヒダントイントランスポータ産生菌としては、マイクロバクテリウム属(Microbacterium)に属する細菌を用いることができ、好ましくは、マイクロバクテリウム リクエファシエンス(Microbacterium liquefaciens )、特に好ましくはマイクロバクテリウム リクエファシエンス(Microbacterium liquefaciens )AJ3912株を用いる。
マイクロバクテリウム リクエファシエンス(Microbacterium liquefaciens )AJ3912株については、下記の通り寄託されている。
Microbacterium liquefaciens AJ3912株
(i)受託番号 FERM BP-7643(2001年6月27日、FERM−P3133より移管)
(ii)受託日 1975年6月27日
(iii)寄託先 独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)
PCR法の操作については、White, T.J. et al., Trends Genet. 5, 185 (1989)等に記載されている。染色体DNAを調製する方法、さらにDNA分子をプローブとして用いて、遺伝子ライブラリーから目的とするDNA分子を単離する方法については、Molecular Cloning, 2nd edition, Cold Spring Harbor press (1989)等に記載されている。
単離されたヒダントイントランスポータをコードするDNAの塩基配列を決定する方法は、A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley & Sons, Inc. (1985)に記載されている。また、Applied Biosystems社製のDNAシークエンサーを用いて、塩基配列を決定することができる。
なお、ヒダントイン化合物に対するトランスポータ活性を有するタンパク質をコードするDNAは、配列表の配列番号1に示されるDNAだけではない。すなわち、ヒダントイントランスポータを生成するMicrobacterium属に属する細菌のうち、種および株ごとに、塩基配列の違いが観察されるはずだからである。
また、本発明のDNAは単離されたヒダントイントランスポータをコードするDNAのみではなく、当然ながら、ヒダントイントランスポータ産生菌の染色体DNAから単離されたヒダントイントランスポータをコードするDNAに人工的に変異を加えたDNAであっても、ヒダントイントランスポータをコードする場合には、本発明のDNAである。人工的に変異を加える方法として頻繁に用いられるものとして、Method. in Enzymol.,154 (1987)に記載されている部位特異的変異導入法がある。
また、配列表配列番号1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、ヒダントイントランスポータ活性を有するタンパク質をコードするDNAも本発明のDNAである。ここで「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である37℃、0.1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、さらに好ましくは65℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当するに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件があげられる。また、ここでいう「ヒダントイントランスポータ活性」とは、少なくとも一種のヒダントイン化合物に対するトランスポータ活性を有していればよい。ただし、配列表の配列番号1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列の場合には、25℃、pH6.6の条件下で配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質が5−ベンジルヒダントインに対して有するヒダントイントランスポータ活性の10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上のヒダントイントランスポータ活性を保持していることが望ましい。
さらに、配列表の配列番号1に記載のDNAがコードするヒダントントランスポータと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAも本発明のDNAである。すなわち、
(a)配列表の配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列表の配列番号2記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、ヒダントイントランスポータ活性を有するタンパク質をコードするDNA
も本発明のDNAに包含される。ここで、「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造や、トランスポータ活性を大きく損なわない範囲のものであり、具体的には、1〜50個、好ましくは1〜30個、さらに好ましくは1〜10個である。またここでいう「ヒダントイントランスポータ活性」とは、少なくとも一種のヒダントイン化合物に対するトランスポータ活性を有していればよい。ただし、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加または逆位を含むアミノ酸配列の場合には、25℃、pH6.6の条件下で配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質が5−ベンジルヒダントインに対して有するヒダントイントランスポータ活性の10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上のヒダントイントランスポータ活性を保持していることが望ましい。
(2)ヒダントイントランスポータの性質
本発明のヒダントイントランスポータは前述した遺伝子の単離と解析より明らかにされるように、代表的には配列表配列番号2のアミノ酸配列を有する。しかし、本発明は、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加または逆位を含むアミノ酸配列を有し、トランスポータ活性を有するタンパク質をも含むものである。
すなわち、本発明のヒダントイントランスポータは、下記(a)〜(b)のタンパク質である。
(a)配列表の配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列表の配列番号2記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、ヒダントイントランスポータ活性を有するタンパク質
ここで、「数個」および「ヒダントイントランスポータ活性」の定義は(1)ヒダントイントランスポータをコードするDNAの項の説明と同義である。
本発明のヒダントイントランスポータは、アラントイン以外の5−置換ヒダントイン化合物を基質として認識するトランスポータである。本発明のヒダントイントランスポータは、ヒダントイン環の5位の炭素が疎水性の強い置換基によって置換されてなる5−置換ヒダントイン化合物、なかでも、下記一般式(1)で表される5−置換ヒダントイン化合物に対してトランスポータ活性を有する。
Figure 2005080553
(一般式(1)において、Rは、炭素数1以上8以下の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数2以上8以下の直鎖状または分岐状のアルキレン基、炭素数20以下のアリール基またはアラルキル基、炭素数1以上8以下のメルカプトアルキル基、または、炭素数2以上8以下のアルキルチオアルキル基である。)
上記一般式(1)において、Rは、炭素数3以上8以下の分岐状のアルキル基、炭素数20以下のアラルキル基、メルカプトメチル基、または、メチルチオエチル基であることが好ましく、炭素数20以下のアラルキル基であることがより好ましく、特にインドリルメチル基、ベンジル基であることが好ましい。Rが、インドリルメチル基、ベンジル基の場合、上記一般式(1)の5−置換ヒダントイン化合物は、それぞれ5−インドリルメチルヒダントイン、5−ベンジルヒダントインを表す。
次に、本発明のMicrobacterium liquefaciens AJ 3912株由来のヒダントイントランスポータ(以下、MHPと略す場合がある)の酵素化学的性質を以下に述べる。
本発明のMHPは、エシェリヒア コリにおいて膜画分への発現が確認され、内膜上に特異的に局在しているものと推定される。本発明のMHPは、生体膜に存在する場合にあっては、ヒダントイン化合物が生体膜を通過するのを仲介する機能を有する。
本発明のMHPは、ヒダントイン化合物に対するトランスポータ活性を有し、特に5−インドリルメチルヒダントイン、5−ベンジルヒダントインに対して優れたトランスポータ活性を有する。また、本発明のMHPは、基質認識光学選択性を有し、ヒダントイン化合物に対してL体選択的に作用する。ここで、「L体選択的に作用する」とは、L体とR体の共存下で、L体に対して優先的に作用することを意味する。具体的には、上述のインタクトセルを用いた取り込みアッセイの手法を用いて、菌体内に取り込まれたL体量がR体量よりも多い場合は、トランスポータがL体選択的に作用しているといえる。
本発明のMHPの作用pHは、pH4〜10であり、至適pHはpH6〜8の中性領域にある。また、30℃以下で温度安定性を有し、特に25℃以下で温度安定性を有する。
[II]ヒダントイントランスポータDNAが発現した形質転換体の調製
次に本発明のヒダントイントランスポータDNAが発現した形質転換体の製造方法について説明する。組み換えDNA技術を利用して酵素、生理活性物質等の有用タンパク質を製造する例は数多く知られており、組み換えDNA技術を用いることで、天然に微量に存在する有用タンパク質を大量に産生できる。
本発明の形質転換体の製造工程のフローを説明する。先ず、本発明のヒダントイントランスポータをコードするDNAを調製する。次に、調製したヒダントイントランスポータDNAをベクターDNAと接続して組み換えDNAを作製し、該組み換えDNAによって細胞を形質転換して形質転換体を作製する。続いて、該形質転換体を培地中で培養し、ヒダントイントランスポータDNAを発現させる。
なお、ベクターDNAと接続されるDNAは、本発明のヒダントイントランスポータDNAが発現可能であればよい。
ここで、ベクターDNAに接続されるヒダントイントランスポータ遺伝子としては、上述の
(a)配列表の配列番号1記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列表の配列番号1記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、ヒダントイントランスポータ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列表の配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(d)配列表の配列番号2記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、ヒダントイントランスポータ活性を有するタンパク質をコードするDNA
などを使用できる。
本発明の形質転換体においては、ヒダントイントランスポータが、膜タンパク質として発現していることが好ましい。ただし、製造過程におけるヒダントイントランスポータの存在形態は生体膜上に限定されるものではない。すなわち、用途に応じて、可溶性タンパク質、タンパクが会合したタンパクの封入体(inclusion body)等、様々な存在形態が考えられうる。ただしこの場合、ヒダントイントランスポータを発現させた後、可溶化剤を用いて、ヒダントイントランスポータを可溶化し、さらにヒダントインの輸送障壁となっている膜上に再構成する必要がある。可溶化剤としては、n-Dodecyl-β-D-maltoside(DDM)、n-octyl-β-D-glucoside (OG)等の界面活性剤を用いることができる。
本発明のヒダントイントランスポータDNAを組み換えDNA技術を用いて発現させる場合、形質転換される宿主細胞としては、細菌細胞、放線菌細胞、酵母細胞、カビ細胞、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞等を用いることができる。このうち、宿主-ベクター系が開発されている細菌細胞としてはエシェリヒア属細菌、シュードモナス属細菌、コリネバクテリウム属細菌、バチルス属細菌などが挙げられるが、好ましくはエシェリヒア・コリが用いられる。エシェリヒア・コリを用いてタンパクを大量生産する技術について数多くの知見があるためである。以下、大腸菌を用いて形質転換体を製造する方法を説明する。
ヒダントイントランスポータをコードするDNAを発現させるプロモータとしては、通常大腸菌における異種タンパク生産に用いられるプロモータを使用することができ、例えば、T7プロモータ、trpプロモータ、lacプロモータ、tacプロモータ、PLプロモータ等の強力なプロモータが挙げられる。
また、生産量を増大させるためには、ヒダントイントランスポータ遺伝子の下流に転写終結配列であるターミネーターを連結することが好ましい。このターミネータとしては、T7ターミネータ、fdファージターミネータ、T4ターミネータ、テトラサイクリン耐性遺伝子のターミネータ、大腸菌trpA遺伝子のターミネータ等が挙げられる。
ヒダントイントランスポータをコードする遺伝子を大腸菌に導入するためのベクターとしては、いわゆるマルチコピー型のものが好ましく、Col E1由来の複製開始点を有するプラスミド、例えばpUC系のプラスミドやpBR322系のプラスミド、あるいはその誘導体が挙げられる。ここで、「誘導体」とは、塩基の置換、欠失、挿入、付加または逆位などによってプラスミドに改変を施したものを意味する。なお、ここでいう改変とは、変異剤やUV照射などによる変異処理、あるいは自然変異などによる改変をも含む。本発明においては、pUC系のプラスミドが好ましく、特に、pUC系プラスミドから誘導されるpTTQ系プラスミド(pTTQ18ベクターなど)を好ましく用いることができる。
また、形質転換体を選別するために、該ベクターがアンピシリン耐性遺伝子等のマーカーを有することが好ましい。このようなプラスミドとして、強力なプロモーターを持つ発現ベクターが市販されている(pUC系(宝酒造(株)製)、pPROK系(クローンテック製)、pKK233-2(クローンテック製)ほか)。
プロモータ、ヒダントイントランスポータをコードする遺伝子、ターミネータの順に連結したDNA断片と、ベクターDNAとを連結して組み換えDNAを得る。
該組み換えDNAを用いて宿主細胞を形質転換し、この形質転換体を培養すると、本発明のヒダントイントランスポータが生産される。形質転換される宿主は、異種遺伝子の発現に通常用いられる株を使用することができるが、特にエシェリヒア・コリ BLR株が好ましい。形質転換を行う方法、および形質転換体を選別する方法はMolecular Cloning, 2nd edition, Cold Spring Harbor press (1989)等に記載されている。
形質転換体を培養する培地としては、M9−カザミノ酸培地、LB培地など、大腸菌を培養するために通常用いる培地を用いてもよい。また、培養条件、生産誘導条件は、用いたベクターのマーカー、プロモータ、宿主菌等の種類に応じて適宜選択する。
トランスポータをコードするDNAとして、配列表配列番号1に示されるDNAを用いた場合には配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するトランスポータが生産される。
本発明の形質転換体の培養形態は液体培養、固体培養いずれも可能であるが、工業的に有利な方法は、深部通気撹拌培養法である。栄養培地の栄養源としては、微生物培養に通常用いられる炭素源、窒素源、無機塩およびその他の微量栄養源を使用できる。使用菌株が利用できる栄養源であればすべてを使用できる。
通気条件としては、好気条件を採用する。培養温度としては、菌が発育し、ヒダントイントランスポータが生産される範囲であれば良い。従って、厳密な条件は無いが、通常10〜50℃、好ましくは30〜40℃である。培養時間は、その他の培養条件に応じて変化する。例えば、ヒダントイントランスポータが最も生産される時間まで培養すれば良く、通常5時間〜7日間、好ましくは10時間〜3日間程度である。
さらに、本発明の形質転換体は、ヒダントイン化合物から有用化合物を生成する反応を触媒する酵素を産生し、かつ、その酵素の少なくとも一部を細胞内に蓄積する菌体であることが好ましい。このような形質転換体は、ヒダントイントランスポータによって、ヒダントイン化合物を細胞内に取り込んだ後、細胞内の酵素によって、取り込んだヒダントイン化合物から有用化合物を生成する。すなわち、形質転換体の細胞内が、基質と酵素が出会って酵素反応が行われる「場」となる。
このような形質転換体を作成するには、ヒダントイン化合物から有用化合物を生成する反応を触媒する酵素を産生する微生物を宿主細胞として、本発明のヒダントイントランスポータDNAを導入し形質転換体させればよい。あるいは、ヒダントイン化合物から有用化合物を生成する反応を触媒する酵素をコードするDNAを調製し、本発明のヒダントイントランスポータDNAとともに、大腸菌等の宿主細胞に導入し、共発現させてもよい。このような酵素をコードするDNAとトランスポータをコードする遺伝子とを連結して形質転換する場合には、コドンの読み取りフレームが一致するようにする。適当な制限酵素部位で連結するか、あるいは適当な配列の合成DNAを利用すればよい。
ヒダントイン化合物から有用化合物を生成する反応を触媒する酵素としては、公知の酵素を特に限定なく使用することができるが、特に好ましい酵素として、ヒダントイナーゼ(HHase)を例示することができる。すなわち、本発明の形質転換体は、本発明のヒダントイントランスポータに加え、さらにHHaseを産生する菌体であることが好ましい。このような形質転換体は、細胞外に存在する5置換ヒダントイン化合物を細胞内に効率的に取り込むとともに、細胞内において自ら産生するHHaseによって5置換ヒダントイン化合物を加水分解しN−カルバミルアミノ酸を生成する。生成したN−カルバミルアミノ酸を、カルバミラーゼ(CHase)等によってさらに加水分解することによりアミノ酸を生成することができる。したがって、当該形質転換体は、5置換ヒダントイン化合物からアミノ酸を製造する方法に好適に利用できる。
形質転換体の産生するHHaseは、光学特異性のHHase、光学特異性のないHHaseのどちらでもよい。なお、「光学特異性」とは、L体、R体のいずれか一方に対して特異的に作用することを意味し、具体的には、実質的に一方のアイソマーのみ基質として認識し、他方のアイソマーは基質として認識しないほどの強い光学選択性をいう。
光学特異性のないHHaseは、本発明のヒダントイントランスポータの取得源となったマイクロバクテリウム リクエファシエンス(Microbacterium liquefaciens)AJ3912株のほか(特願2001-298619)、例えばアースロバクター オーレセンス(Arthrobacter aurescens)にその存在が知られている(J.Biotechnol.61巻、1ページ、1998年)。
一方、光学特異性のHHaseの場合、光学活性のN−カルバミル−L−アミノ酸またはN−カルバミル−D−アミノ酸を特異的に生成させることができる。この場合は、引き続きカルバミラーゼ(CHase)を用いて光学活性アミノ酸を製造しても良いし、亜硝酸による化学的な加水分解処理を施すことにより、光学活性を維持したまま、高収率で光学活性アミノ酸を製造できる。
たとえば、N−カルバミル−D−アミノ酸を生成するD−HHaseとしては、バチルス属細菌に耐熱性の酵素の存在が知られており、例としてバチルス ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)ATCC31195等のHHaseを挙げることができる(Appl.Microbiol. Biotechnol.43巻 270ページ、1995年)。
バチルス ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)ATCC31195
(i)寄託機関の名称・あて名
名称:アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)
あて名:12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852, United States of America、
(ii)寄託番号:ATCC31195
また、L体ヒダントイン化合物に特異的に作用するL−HHaseは、例えばバチルス エスピー(Bacillus sp.)AJ12299株にその存在が知られている(特開昭63−24894号公報)。
バチルス エスピー(Bacillus sp.)AJ12299株
(i)寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
あて名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)、
(ii)寄託日:1986年7月5日
(iii)寄託番号:FERM BP-7646(FERM P−8837より2001年6月27日に国際寄託へ移管)
光学特異性のHHaseを用いて5置換ヒダントイン化合物を加水分解すると、基質とならないエナンチオマーが未反応のまま残る。すなわち、D−HHaseを用いた場合、L体ヒダントイン化合物が未反応状態で残り、D−HHaseを用いた場合、L体ヒダントイン化合物が未反応状態で残る。
基質とならないエナンチオマーを効率的にラセミ化して基質となるエナンチオマーに変換するため、本発明の形質転換体は、さらに5置換ヒダントインラセマーゼ(HRase)を産生する菌体であることが好ましい。すなわち、本発明の形質転換体は、本発明のヒダントイントランスポータに加え、さらに、HHaseとHRaseの2酵素を産生する菌体であることが好ましい。ヒダントイントランスポータ、HHase、および、HRaseを1つの細胞内で発現させることにより、基質とならないエナンチオマーを効率的にラセミ化して基質となるエナンチオマーに変化させることができ、光学活性N−カルバミルアミノ酸の生成反応を効率的に行うことができる。
このようなHRaseとしては、本発明のヒダントイントランスポータの取得源となったマイクロバクテリウム リクエファシエンス(Microbacterium liquefaciens)AJ3912株のほか(特開2002-330784)、例えば、フラボバクテリウム エスピー(Flavobacterium sp.)AJ11199(FERM−P4229)株(特願2002-013552)、パスツレラ ニューモトロピカ(Pasteurella pneumotropica)AJ11221(FERM−P4348)株(特願2002-013553)などに存在している。なお、パスツレラ ニューモトロピカ(Pasteurella pneumotropica)AJ11221は、当初モラキセラ ノンリクエファシエンス(Moraxella nonliquefaciens)として寄託されたが、再同定の結果、パスツレラ ニューモトロピカに属することが判明した微生物である。
フラボバクテリウム エスピー(Flavobacterium sp.)AJ11199
(i)寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
あて名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)、
(ii)寄託日:1981年5月1日
(iii)寄託番号:FERM BP−8063(FERM P−4229より2002年5月30日に国際寄託へ移管)
パスツレラ ニューモトロピカ(Pasteurella pneumotropica)AJ11221株
(i)寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
あて名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)、
(ii)寄託日:1981年5月1日
(iii)寄託番号:FERM BP−8064(FERM P−4348より2002年5月30日に国際寄託へ移管)
5置換ヒダントイン化合物からN−カルバミルアミノ酸を生成した後、引き続き形質転換体の細胞内でN−カルバミルアミノ酸を加水分解させて光学活性アミノ酸を製造するため、本発明の形質転換体は、さらにカルバミラーゼ(CHase)を産生する菌体であることが好ましい。すなわち、本発明の形質転換体は、本発明のヒダントイントランスポータに加え、HHaseおよびCHaseの2酵素を産生する菌体、または、HHase、HRaseおよびCHaseの3酵素を産生する菌体であることが好ましい。
ヒダントイントランスポータ、HHase、およびCHaseの3つ、あるいは、ヒダントイントランスポータ、HHase、HRase、およびCHaseの4つをひとつの細胞内で発現させた形質転換体は、細胞外に存在する5置換ヒダントイン化合物を細胞内に効率的に取り込むとともに、細胞内において自ら産生するHHaseによって5置換ヒダントイン化合物を加水分解しN−カルバミルアミノ酸を生成する。さらに、生成したN−カルバミルアミノ酸を、自ら産生するCHaseによって引き続き細胞内で加水分解し、目的物であるアミノ酸を生成する。
HHaseに光学特異的加水分解活性がなくとも、CHaseに光学特異性があれば、生成アミノ酸はD−もしくはL−の光学活性体となる。この場合、反応系には未反応のエナンチオマーであるN−カルバミルアミノ酸、すなわちCHaseがN−カルバミル−L−アミノ酸を特異的に分解し、L−アミノ酸を生成させる場合には、N−カルバミル−D−アミノ酸が、また逆にD−アミノ酸を生成させる場合には、N−カルバミル−L−アミノ酸が残存することが想定される。しかしながら、このような場合においてHHaseは、残存することになる未反応エナンチオマーのN−カルバミルアミノ酸を脱水縮合させ、再度5置換ヒダントイン化合物を生成させる逆反応をもわずかながら触媒する。したがって、HHaseに光学特異的加水分解活性がなくとも、ヒダントイントランスポータ、HHase、および、光学特異性のCHaseに、上述のHRaseを加えることにより、光学活性アミノ酸を高収率で製造することが可能となる。
N−カルバミルアミノ酸をD体特異的に加水分解するCHaseは、たとえばアグロバクテリウム エスピー AJ 11220株にその存在が知られている(特公昭56-003034号公報)。なお、アグロバクテリウム エスピー AJ 11220株は、当初、シュードモナス エスピー(Pseudomonas sp. )AJ 11220株として寄託されていたが、再同定の結果、アグロバクテリウム エスピー(Agrobacterium sp. )に属することが判明した微生物である。
アグロバクテリウム エスピー AJ 11220株
(i)寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
あて名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)、
(ii)寄託日:1977年12月20日
(iii)寄託番号:FERM BP-7645(FERM−P4347より2001年6月27日に国際寄託へ移管)
またN−カルバミルアミノ酸をL体特異的に加水分解するCHaseは、本発明のヒダントイントランスポータの取得源となったマイクロバクテリウム リクエファシエンス(Microbacterium liquefaciens)AJ3912株(特開2002-330784)のほか、L−HHaseで既述のバチルス エスピー.(Bacillus sp.)AJ12299株に存在している。
本発明のヒダントイントランスポータと、HHase、HRase、CHase等の酵素とを産生する形質転換体を用いて、5置換ヒダントイン化合物からアミノ酸を製造するには、5置換ヒダントイン化合物と形質転換体の培養液、分離菌体、洗浄菌体を含む反応液を調整する。当該反応液中に、形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機イオンなどの栄養素を添加してもよい。さらにビタミン、アミノ酸等の有機微量栄養素を添加すると望ましい結果が得られる場合が多い。反応を進行させるには、20〜30℃の適当な温度に調整し、pH4〜10に保ちつつ、8時間〜5日静置または攪拌すればよい。
基質となる5置換ヒダントイン化合物の濃度を、1μM以上、好ましくは100μM以上とすることが好ましい。基質濃度を1μM以上とすることによって、形質転換体の細胞内に基質を効率的に取り込ませることができる。反応液中の基質濃度が保たれるよう、5置換ヒダントイン化合物を分割添加してもよい。
5置換ヒダントイン化合物から生成したアミノ酸は、形質転換体の菌体内または反応液中に蓄積される。生成したアミノ酸は、公知の手法により分離精製することができる。
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
なお、5-置換ヒダントイン取り込みアッセイの基質には3Hラベル5-L-benzyl hydantoin(3H-BH, ICN)および3Hラベル5-L-indolylmethyl hydantoin (3H-IMH, ICN)を用いた。3H-BHおよび3H-IMHは、それぞれ3H-L-phenylalanineあるいは3H-L-tryptophaneとシアン酸カリウムとを原料として合成した13)。合成した3H-BHおよび3H-IMHは-20℃に保存し、使用のため作成した溶液中の濃度は、溶液の吸光度から算出した(BH; ε257nm = 184/M/cm、IMH; ε280nm = 5440/M/cm)。
実施例1 MHP組換え体の調製
1.1. 菌株と培養方法
MHP解析にはE. coli BLR株を用いた。以下、E. coli BLR株の遺伝子型を示す(表1)。
Figure 2005080553
1.2. プラスミド
トランスポーター発現用プラスミドとして、pTTQ18を用いた。また、トランスポータの発現を確認するため、およびその後の精製を容易にするため、Hendersonらの方法に従いトランスポータC末端にRGSHis6-Tagが挿入されるようプラスミドを構築した。このプラスミドのマルチクローニングサイト中EcoRI、PstI間に、PCRによって増幅したMHPを挿入し、C末端にRGSHis6-Tagが付加されたタンパク質(;MHPH6(配列番号3))発現プラスミドpSHP11Hを構築し、用いた。このプラスミドを用いてE. coli BLR株を形質転換し、MHP発現株E. coli BLR/pSHP11Hとして用いた。
発現プラスミドpTTQ18の構造を図2に、本研究に用いたプラスミドのリストを表2に、およびpSHP11H構築に用いたPCRプライマーを表3(配列番号5、6)に、それぞれ示した(pTTQ18については、M.J.R. Stark (1987). Multicopy expression vectors carrying the lac repressor gene for regulated high-level expression of genes in Escherichia coli. Gene 51: 255-267.を、pTTQ18へのRGSHis6の挿入に関してはP.J. Henderson, C.K. Hoyle and A. Ward (2000). Expression, purification and properties of multidrug efflux proteins. Biochem. Soc. Trans. 28: 513-517.をそれぞれ参照)。
Figure 2005080553
Figure 2005080553
1.3. 培地と培養方法
各保存菌株を、Luria Bertani(LB)寒天培地(必要に応じて0.1 mg/mlのcarbenicillinを添加)上、37℃、16 hr程度培養することによりリフレッシュした。得られたプレートよりコロニーを単離し、以下の方法により培養した。
リフレッシュしたプレートから単離したE. coli BLR/pSHP11Hを、0.1 mg/ml carbenicillinを含むLB培地中で種培養した後、20 mM Glycerol, 0.2% (w/v) casamino acidを補填した50 mlのM9最少培地(6 g/l Na2HPO4, 3 g/l KH2HPO4, 1 g/l NH4Cl, 0.5 g/l NaCl, 2 mM MgSO4, 0.2 mM CaCl2)を含む2 l三角フラスコに5 mlシードし、37℃で680 nmにおける吸光度が0.3〜0.4程度になるまで培養し、終濃度0.2 mMのIsopropyl-β-D-thiogalactoside(以下、IPTG)を添加後、27℃にて更に12 hrローターリーシェカーにて培養した(200 rpm)。ここで得られる菌体を基質取り込みアッセイに用いた。
実施例2 膜画分の調製
フレンチプレス法は、M. Futai (1978). Experimental systems for the study of active transport in bacteria. In Bacterial Transport (Rosen, B.P., ed.) pp. 7-41, Marcel Dekker Inc., New York.を参照して行った。
Aminco社(American Instrument Company, Illinois, USA)製のフレンチプレスを用いた。培養、集菌した菌体を15 mM Tris-HCl (pH 7.5)に再懸濁し、20,000 psi圧力下、フレンチプレスに供した。5,000g、20 minの遠心によりセルデブリスと未破砕細胞を除去し、この遠心上清を次に150,000g、60 min遠心し、全膜画分を沈殿させ回収した。内膜、外膜、それぞれの画分への分画が必要な場合は、この全膜画分を20 mM Tris-HCl (pH 7.5), 0.5mM EDTA, 10% glycerol(;Tris-EDTA緩衝液)に再懸濁し、30、35、40、45、50および55% (w/w)溶液から成るショ糖密度勾配に供し、105,000g、16 hrの遠心により両画分をそれぞれ分離、回収した。得られた両膜画分はTris-EDTA緩衝液に懸濁、150,000g、60 minの遠心、という操作を3度繰り返して洗浄した。得られた溶液を適量に分注後、エタノールバスにてスナップフリーズし、使用まで-70℃にて保存した。
2.3. MHPH6の発現
E. coli BLR/pSHP11H株を用いたMHPH6の大量発現を、培養後フレンチプレス法で調製した全膜画分のSDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングにより観察した(図3、レーン2,3)。
E. coli BLR/pSHP11H株の全膜画分では、IPTGによる誘導区(図3レーン3)においてMHPと見られる分子量36 kDaと見積もられるタンパク質の発現が、SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングにおいて確認された。
実施例3 MHPH6の局在の確認と可溶化、精製
3.1. MHPH6の可溶化と精製
MHPH6可溶化のための界面活性剤としてn-Dodecyl-β-D-maltoside (DDM)を用い、精製にはNi-NTA Agarose(QIAGEN)を用いた。
フレンチプレス法にて調製した内膜画分を、可溶化緩衝液(20 mM Tris-HCl (pH 8.0), 20 mM Imidazole (pH 8.0), 20% (v/v) glycerol, 0.3 M NaCl, 1% (w/v) DDM)中に終タンパク濃度4.6 mg/mlとなるよう懸濁し、氷上で60 min緩やかに攪拌した後、160,000g、30 min遠心した。この遠心操作で得られた上清を可溶化画分、沈殿を上清と等容の緩衝液に懸濁したものを非可溶化画分とした。得られた可溶化画分を、洗浄用緩衝液(20 mM Tris-HCl (pH 8.0), 20 mM Imidazole (pH 8.0), 10% (v/v) glycerol, 0.05% (w/v) DDM)により予め平衡化したNi-NTA agarose (QIAGEN) を加え、4℃で3 hr静置後、遠心により上清(非結合画分)とresinを分離した。得られたタンパク質結合resinを、洗浄用緩衝液で洗浄後カラムに充填し、次に溶出用緩衝液(0.2 M Imidazole (pH 8.0), 20% (v/v) glycerol, 0.05% (w/v) DDM)でresinに結合したタンパク質を溶出した。
3.2. Protein assay
Schaffner and Weissman法を用いた(W. Schaffner and C. Weissman (1973). A rapid, sensitive, and specific method for the determination of protein in dilute solution. Anal. Biochem. 56: 502-514.)。濃度スタンダードにはBSAを使用した。
3.3. SDS-PAGE
Laemmli法を用い(U.K. Laemmli (1970). Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4. Nature 227: 680-685.)、泳動後の染色にはCoomasie Brilliant Blue Rを用いた。分子量マーカーには、BSA(66 kDa)、Ovalbumin(45 kDa)、Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(36 kDa)、Carbonic anhydrase(29 kDa)、Tripsinogen(24 kDa)、Trypsin Inhibitor(20 kDa)、およびα-Lactalbumin(14.2 kDa)を用いた(Sigma)。
3.4. ウエスタンブロッティング
タンパク質のブロッティングにはセミドライ方式を採用し、転写膜にはPVDF膜を用いた。RGSH6タグ保持タンパク質の検出は、1次抗体にはマウスanti-RGSH4(QIAGEN)を、2次抗体にはヤギanti-マウスIgG(BIO-RAD)をそれぞれ用い、可視化にはケミルミネッセンス法を用いた。ウエスタンブロッティング時の分子量マーカーとして6xHis Protein Ladder(分子量100, 75, 50, 30, 15 kDa、QIAGEN)を用いた。
3.5. MHPH6の局在の確認と可溶化、精製
フレンチプレス法により調製した各分画画分、DDMによる可溶化とニッケルNTAカラムによる精製の際の各分画画分をSDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングによって観察した(図3(A)および(B))。
調製したE. coli BLR/pSHP11H株、IPTG誘導区の全膜画分とサイトゾル画分の観察結果では、MHPH6の可溶性画分での局在は全く観察されず、MHPH6が膜画分に局在して発現していることが確認された(図3(A)および(B)における lane 3 および lane 4)。更に、全膜画分を内膜画分と外膜画分に分離した場合、MHPH6の存在は主に内膜画分に確認された(図3(A)および(B)における lane 5 および lane 6)。
1% DDMによる可溶化では、MHPH6のほとんどが可溶化されていることが確認された(図3(A)および(B)における lane 7 および lane 8)。
ニッケルNTAカラムにより、MHPH6はSDS-PAGEによる観察で分子量36 kDaと見積もられる電気泳動的に単一のバンドとして精製された(図3(A)および(B)における lane 9)。
実施例4 MHPH6のN末端アミノ酸配列の解析
精製したMHPH6 5 μgをSDS-PAGEに供し、PVDF膜にブロット後、バンドをSulforodamine染色により可視化、切り出しし、プロテインシーケンサーにて解析した。確認された配列は
MNSTPIEEAR(配列番号7)
で、これはMHPのN末端アミノ酸配列(MSTTPIEEAR)、および発現ベクター構築の際の塩基配列置換(ORFの5'側からATGTCGACGACA… → ATGAATTCGACA…)から期待されるMHPH6のN末端アミノ酸配列と一致した。
発現したMHPH6のSDS-PAGE上での分子量は36 kDaであり(図3A)、配列から計算される分子量54.6 kDaと大きく異なったが、精製したMHPH6のN末端アミノ酸配列の解析結果、および発現タンパク質がC末端にRGSH6タグを保持していることが抗RGSH6抗体を用いたウエスタンブロッティングにより確認された(図3B)ことから、発現生産されたMHPH6は、配列表4記載のアミノ酸配列全長を保持していることが示唆された。観察された分子量の差異は、MHPH6が強い疎水性を有するため、SDS-PAGEに供する条件においても完全には変性せず、ある程度の高次構造を保持するために生じた観察結果であると考えられた。
実施例5 MHPH6のCDスペクトル解析と温度安定性
5.1. Circular Dichroism (CD) spectroscopy
精製したMHPH6を限外ろ過器(Centricon C50, Millipore)を用いて10 mM Sodium phosphate (pH 7.6), 0.05% (w/v) DDMに緩衝液置換した。この緩衝液により、タンパク質濃度を50 μg/mlに調製し、10℃にてCDスペクトルを測定した(JASCO J-715 Spectropolarimeter)。測定は波長190-260 nm間で行い、20回の測定値を積算、平均したものをデータとした。また、試料の温度を10℃→90℃→10℃(温度変化は10℃刻み、各温度での滞留時間はおよそ10 min)と変化させた際の波長222 nmにおけるCDユニット値の変化を測定することにより、MHPH6の2次構造の変化(温度安定性)を測定した。
5.2. MHPH6のCDスペクトル解析と温度安定性
精製したMHPH6のCDスペクトル解析を行った結果、そのスペクトルよりMHPH6が可溶化、精製後も高次構造を保持していることが観察された(図4−1)。また温度安定性の測定では、MHPH6の高次構造が30℃以上で壊れ始め、70℃でほぼ完全に崩壊することが観察された(図4−2)。この熱変性は不可逆的なものであり、90℃までの温度上昇の後に再度試料の温度を低下させても、MHPH6の高次構造の崩壊は回復しなかった(図4−1、図4−2)。
実施例6 インタクトセルを用いた取り込みアッセイ
6.1. アッセイ法
West (1970)(I.C. West (1970). Lactose transport coupled to proton movements in Escherichia coli. Biochem. Biophys. Res. Commun. 41: 655-661.)、Macpherson and Henderson (1986)の方法(P.J.F. Henderson and A.J.S. Macpherson (1986). Assay, genetics, proteins, and reconstitution of proton-linked galactose, arabinose, and xylose transport systems of Escherichia coli. Methods Enzymol. 125: 387-429.)に従った。
集菌した菌体を150 mM KCl, 5 mM MES (2-[N-Morpholino]ethanesulphonic acid) (pH 6.6)を用いて3度洗浄した後、アッセイに用いた。基本とした反応条件は、終濃度20 mMのglycerolを吸光度でA680 = 2〜4程度の菌体懸濁液に添加し、25℃、3 min通気を行った後、終濃度25 μMのRIラベルした基質(RI比活性、3H-BH 107 Bq/nmol, 3H-IMH 241 Bq/nmol)を添加することにより取り込み反応を開始させた。反応開始後(通気は継続)経時的にサンプリングを行い、各アリコットはサンプリング後直ちに0.45 μmポアサイズのフィルター(150 mM KCl, 5 mM MES (pH 6.6)の洗浄液にプレインキュベート)によって回収し、洗浄液によって十分に洗浄した後、フィルターに残存する放射能を液体シンチレーションカウンターにて測定した。取り込み活性は吸光度A680 = 1を乾燥菌体濃度で0.68 mg/mlとする換算(Ashworth and Kornberg, 1966)を用いて、乾燥菌体質量あたりで表記した。また、取り込みの初速度は、基質添加後15 sec後のデータを用い、1 minあたりの取り込み量で表記した。
インヒビターの阻害活性を測定する場合には、インヒビターを通気開始時に添加、すなわち基質添加前に3 min菌体とプレインキュベートした。用いた阻害剤は2,4-dinitrophenol (DNP)で、反応時の終濃度は20 mMとした。
反応液のpHを変化させる場合には、10 mM 酢酸カリウム (pH 4.0)、5 mM MES (pH 4.9, 6.1, 6.6, 7.1, 7.9)、10 mM Tris-HCl (pH 8.0)、10 mM glycin-NaOH (pH 10.0)を適宜用いた。
6.2. E. coli BLR/pSHP11H株インタクトセルによる5-置換ヒダントインの取り込み
E. coli BLR/pSHP11H株インタクトセルのL-BH(△、黒△)あるいはL-IMH(○、黒○)の取り込み能を測定した。
E. coli BLR/pSHP11H株では、L-BH、L-IMHのいずれを基質とした場合にも、誘導区(黒○、黒△)では非誘導区(○、△)に比べ高い取り込み能が観察された(図5)。どちらの基質を用いた場合でも、取り込み量は基質添加後5 minまでは増加を続け、それぞれ0.27 nmol/mg (L-BH)、0.91 nmol/mg (L-IMH)に達した。取り込み初速度はそれぞれ0.64 nmol/mg/min (L-BH)、2.5 nmol/mg/min (L-IMH)と算出された。両基質の比較としては、基質添加後5 min後の取り込み量でL-IMHを基質とした場合の方がL-BHを基質とした場合の3.4倍、取り込みの初速度でもL-IMHを基質とした場合の方が3.9倍早かった。
6.3. E. coli BLR/pSHP11H株のL-IMH取り込みに及ぼすナトリウムイオンとDNPの効果
E. coli BLR/pSHP11H株のL-IMH取り込みに及ぼすナトリウムイオンとDNPの効果を測定した(図6)。
L-IMH取り込みアッセイの反応液に10 mMのナトリウムイオンを添加したが、誘導区(黒△)および非誘導区(△)のいずれにおいても、L-IMH取り込みには影響を与えなかった。一方、DNPを添加した場合、非誘導区(□)では、L-IMH取り込みにはほとんど影響を与えなかったが、誘導区(黒□)では、L-IMH取り込み量の低下が観察された。
6.5. E. coli BLR/pSHP11H株のL-IMH取り込みのpH依存性
E. coli BLR/pSHP11H株のL-IMH取り込み反応時の溶液pHをpH4.0〜10.0の間で変化させ、各pHにおけるL-IMH取り込み初速度を測定した(図7)。結果、誘導区(黒○)および非誘導区(○)のいずれにおいても、取り込み初速度はpH 6.6で最大となり、L-IMHの取り込み反応の至適は中性域(pH 6〜8)であった。酸性域、アルカリ性域ともpHが中性域から離れるに連れ取り込み初速度は低下し、pH 4.0あるいは10.0での取り込み初速度は、pH 6.6での初速度に比べ、いずれも10%程度にまで低下した。
実施例7 MHPの基質のスクリーニング
7.1. スクリーニング法
上記インタクトセルを用いた反応においてRIラベル基質を25 μM 3H-L-BHとし、候補基質(コールド)を250 μM添加した反応液を作成した。個々の3H-L-BH添加後3 min後の取り込み量を、候補基質無添加の場合と比較し、各候補基質のL-BHに対する競合阻害能により、それぞれの候補基質のMHPに対する基質可能性を評価した。
7.2. MHPH6の基質スクリーニング
E. coli BLR/pSHP11H株のL-BHの取り込みに対する競合阻害能から、各種化合物のMHPH6に対する親和性を測定し、MHPH6の基質を探索した(図8)。コールドのL-BHを含む候補とした18種の化合物のうち、強い競合阻害活性が示されたのはL-BH、D-BH、L-IMHおよびD-IMHの4化合物であり、また、5-DL-methyl hydantoin、5-DL-isopropyl hydantoin、5-L-isopropyl hydantoin、5-DL-isobutyl hydantoin、5-L-isobutyl hydantoin、5-DL-p-hydroxybenzyl hydantoin等の5-置換ヒダントイン化合物の添加によっても若干の阻害活性が認められ、MHPH6が、多くの5-置換ヒダントイン化合物のトランスポート活性を有する可能性が示された。この結果より、MHPH6は芳香族アミノ酸に対応する5-置換ヒダントイン化合物に対して特に強い、また、その他アミノ酸に対応する5-置換ヒダントイン化合物に対しては、疎水性の高いアミノ酸に対応する5-置換ヒダントイン化合物に対して強いトランスポート活性を有する傾向が見られた。特に強い阻害活性を示した4化合物を添加した場合の3H-L-BHの取り込み活性(化合物無添加時を100%とした時の相対活性)は、それぞれ7% (L-BH, 理論値9%)、47%(D-BH)、3%(L-IMH)、および24%(D-IMH)で、最も高い阻害活性を示したのはL-IMHであった。
一方、アラントインの添加によってはMHPH6によるL-BHの取り込みは全く阻害を受けなかったため、MHPH6はアラントイントランスポート活性を有しておらず、従来知られていたアラントイントランスポータとは、その性質を異とする新規なトランスポータであることが示された。
7.3. MHPH6の基質認識光学特異性
3H-L-BH取り込み活性の競合阻害活性からの基質スクリーニングの結果としてD-およびL-体のBHおよびIMHがMHPH6の基質候補物質として選抜されたため、MHPH6の基質光学特異性を精査した(図9)。
上記基質スクリーニングと同様の競合阻害実験を、基質濃度を変化させて測定した結果、D-, L-BHおよびD-, L-IMHのMHPH6への親和性には違いが見られ、親和性が強い方からL-IMH(黒△)、L-BH(黒○)、D-IMH(△)、D-BH(○)の順となった。3H-L-BHと添加したコールド化合物が単純な競合阻害をしていると仮定して実験結果にカーブフィットを行うと、L-BHとMHPHの親和性を1として、それぞれの化合物との親和性は、5.32 (L-IMH)、1.05 (L-BH、実験値)、0.96 (D-IMH)、および0.20 (D-BH)と算出され、最も高い親和性を示したL-IMHはL-BHのおよそ5倍の親和性を有していると見積もられた。
本発明のヒダントイントランスポータは、ヒダントイン化合物を輸送する新規トランスポータであり、生体膜に存在する場合にあっては、ヒダントイン化合物が生体膜を通過するのを仲介する。したがって、遺伝子組換え技術を用いて、本発明のヒダントイントランスポータを発現させることにより、細胞内部へのヒダントイン化合物の取り込み能力に優れた形質転換体を作製することが可能となる。
従来、微生物の産生する酵素を細胞外に取り出すため、反応を実施する前に、菌体を破砕し酵素を可溶化する必要があった。しかし本発明のヒダントイントランスポータによれば、基質となるヒダントイン化合物を細胞内へ効率的に取り込ませることができるため、細胞内で酵素反応を効率的に行うことが可能となる。これにより、従来、細胞外に酵素を取り出すために必要とされてきた、菌体破砕処理工程が不要となる。
かかる特徴を有する本発明のヒダントイントランスポータは、インタクトセルを用いたバイオコンバージョンプロセスによって、ヒダントイン化合物を基質とする酵素反応を実施する場合に、好適に利用することができる。
Microbacterium liquefaciens AJ3912株のヒダントイン水解酵素遺伝子群の配置図である。 実施例で用いたプラスミドpTTQ18の構造を示す図である。 各分画画分の(A)SDS-PAGE、(B)ウエスタンブロッティングの結果を示す図である。 MHPH6のCDスペクトルを示す図である。 MHPH6の温度安定性を示す図である。 E. coli BLR/pSHP11H株のインタクトセルによる5置換ヒダントインの取り込み実験の結果を示す図である。 E. coli BLR/pSHP11H株のL−IMH取り込みに及ぼすナトリウムとDNPの効果を示す図である。 E. coli BLR/pSHP11H株によるL−IMH取り込みのpH依存性を示す図である。 MHPH6の基質スクリーニング結果を示す図である。 MHPH6の基質認識光学特異性結果を示す図である。

Claims (18)

  1. アラントイン以外の少なくとも一種の5−置換ヒダントイン化合物に対してヒダントイントランスポータ活性を有することを特徴とするタンパク質。
  2. 下記一般式(1)で表される5−置換ヒダントイン化合物のうち少なくとも一種の5−置換ヒダントイン化合物に対してヒダントイントランスポータ活性を有することを特徴とする請求項1に記載のタンパク質。
    Figure 2005080553
    (一般式(1)において、Rは、炭素数1以上8以下の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数2以上8以下の直鎖状または分岐状のアルキレン基、炭素数20以下のアリール基またはアラルキル基、炭素数1以上8以下のメルカプトアルキル基、または、炭素数2以上8以下のアルキルチオアルキル基である。)
  3. 上記Rが、炭素数20以下のアラルキル基であることを特徴とする請求項2に記載のタンパク質。
  4. 上記Rが、インドリルメチル基またはベンジル基であることを特徴とする請求項3に記載のタンパク質。
  5. マイクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する微生物に由来することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のタンパク質。
  6. マイクロバクテリウム リクエファシエンス(Microbacterim liquefaciens)に由来することを特徴とする請求項5に記載のタンパク質。
  7. マイクロバクテリウム リクエファシエンス(Microbacterium liquefaciens)AJ3912株に由来することを特徴とする請求項6に記載のタンパク質。
  8. 下記(A)または(B)のアミノ酸配列を有し、かつ、ヒダントイントランスポータ活性を有するタンパク質。
    (A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列
    (B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を含むアミノ酸配列
  9. 前記タンパク質は、5−インドリルメチルヒダントインおよび5−ベンジルヒダントインのうち少なくとも一方のヒダントイン化合物を輸送することを特徴とする請求項8に記載のタンパク質。
  10. 前記タンパク質は、5−置換ヒダントイン化合物に対してL体選択的に作用するヒダントイントランスポータ活性を有することを特徴とする請求項8または9に記載のタンパク質。
  11. 下記(A)または(B)のアミノ酸配列を有し、かつ、ヒダントイントランスポータ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
    (A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列
    (B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を含むアミノ酸配列
  12. 下記(a)または(b)の塩基配列を有し、かつ、ヒダントイントランスポータ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
    (a)配列表の配列番号1に記載の塩基配列
    (b)配列表の配列番号1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列
  13. 請求項11または12のいずれか1項に記載のDNAとベクターDNAとが接続してなる組換えDNA。
  14. 前記ベクターDNAが、pUC系プラスミドまたはその誘導体であることを特徴とする請求項13に記載の組換えDNA。
  15. 前記ベクターDNAが、pTTQ系プラスミドまたはその誘導体であることを特徴とする請求項14に記載の組換えDNA。
  16. 請求項13〜15のいずれか一項に記載の組換えDNAによって形質転換された形質転換細胞。
  17. 前記形質転換細胞が、エシェリヒア コリであることを特徴とする請求項16に記載の形質転換細胞。
  18. 前記エシェリヒア コリが、E. coli BLRであることを特徴とする請求項17に記載の形質転換細胞。
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