新規トランスポータタンパク質
技術分野
本発明は、ヒダントインィ匕合物に対するトランスポータ活性を有する新規トランスポ ータタンパク質に関する。
背景技術
[0002] 酵素を用いたアミノ酸製法の一つとして、化学的に安価に合成される 5置換ヒダント インィ匕合物を出発物質として、これを光学活性なアミノ酸に不斉分解する方法が知ら れている。この 5置換ヒダントイン化合物から、光学活性アミノ酸を製造する方法は、 医薬品、化学工業品、食品添加物等の製造に重要である。
[0003] 5置換ヒダントインィ匕合物は、下記反応式 (I)に示すように、 (A)、 (B)の酵素による 加水分解反応を経てアミノ酸となる。
(A) 5置換ヒダントインィ匕合物に作用し、当該物質を加水分解することにより N—カル バミルアミノ酸を生成する反応を触媒する酵素(ヒダントイナーゼ、以下「HHase」とも 記す)。
(B)生成した N—力ルバミルアミノ酸に作用し、当該物質を加水分解することにより光 学活性アミノ酸を生成する反応を触媒する酵素 (N—力ルバミルアミノ酸ハイド口ラー ゼ、以下「CHase」とも記す。また、一般に力ルバミルアミノ酸ハイド口ラーゼはカルバ ミラーゼと略称される場合がある)。
5置換ヒダントインィ匕合物力も光学活性アミノ酸を製造するためには、上記 (A)ヒダ ントイナーゼおよび(B) N—力ルバミルアミノ酸ハイド口ラーゼのうち、少なくとも一方に 光学特異性の酵素を用いればょ 、。
[0004] [化 1]
[0005] 5置換ヒダントインィ匕合物力も光学活性アミノ酸を製造する方法としては、従来から
微生物酵素系を用いた方法および微生物酵素系と化学反応系とを組み合わせた方 法が知られているが、工業的には、上記 (A)、(B)の酵素を産生する微生物または 形質転換体を用いて、アミノ酸を大量生産する方法が主流である。しかし、菌体を用 いた製法においては、反応を触媒する酵素の大部分は菌体内に存在するため、基 質の膜透過性が悪いと、基質が菌体内の酵素に到達できず、 5置換ヒダントインィ匕合 物を効率的に光学活性アミノ酸に変換することができないといった問題があった。こ のため、基質の膜透過性が悪い場合には、反応前に菌体を破砕し、酵素を可溶化し て力も用いる必要があった。し力しながら、工業的には菌体破砕工程は手間が力かる とともに、破砕によって生じる不溶物が、反応後の生成物回収行程の障害となる可能 性も考えられる。
[0006] 非特許文献 1 :A. Wiese, C. syldatk, R. Mattes and J. Altenbuchner (2001).
Organization of genes responsible for the stereospecific conversion of hydantoins to a -amino acids in Arthrobacter aurescens DSM3747. Arch. Microbiol. 176: 187-196.
非特許文献 2 : K. Watabe, T. Ishikawa, Y. Mukohara and H Nakamura (1992). Cloning and sequencing of the genes involved in the conversion of 5— substituted hydantoins to the corresponding L— amino acid from the native plasmid of Pseudomonas sp. NS671. J. Bacteriol. 174: 962—969.
非特許文献 3 : B. Wilms, A Wiese, C. SSyldatk, R. Mattes (2001).
Development of an Esherichia coli whole cell biocatalyst for the production of L— amino acids. J. Biotechnol. 86: 19—30.
非特許文献 4 : R. Sumrada and T. G. Cooper (1977). Allantoin transport in Saccharomyces cerevisiae. J. Bacteriol. 131: 839—847.
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0007] 基質の膜透過性を向上させる手段として、上記 (A)、 (B)の酵素を産生する微生物 または形質転換体において、基質となるヒダントイン化合物に対するトランスポータを 組換え発現する方法が考えられる。トランスポータは、物質の輸送に関与するタンパ
ク質の 1種であり、その多くは生体膜上に膜タンパク質として存在し、特定の物質を生 体膜を横切って輸送する。トランスポータは物質の輸送に関与しているため、これら の遺伝子の発現を改変することによって、細胞の物質輸送に関する特性を改変させ ることができると考えられる。すなわち、インタタトセルを用いたノィォコンバージョン プロセスにおいて、ヒダントイントランスポータータンパク質を導入することにより、従来 膜透過性の悪力つた基質を、細胞内に効率的に取り込ませることが可能となる。
[0008] し力しながら、膜タンパク質の取り扱 ヽ (精製、機能解析、大量発現など)は、可溶 性タンパク質と比較して困難である。このため、トランスポータに関する研究は可溶性 タンパク質ほどに進んでおらず、トランスポータをコードする遺伝子は未知のものが多 い。
[0009] ヒダントイン化合物に対するトランスポータのアミノ酸配列および塩基配列を決定し 、このヒダントイントランスポータを糸且換え発現できれば、基質となる 5置換ヒダントイン 化合物を細胞内に効率的に取り込ませることが可能となる。これによつて、菌体内か ら酵素を取り出すための破砕あるいは溶菌処理工程が不要となり、製造工程を簡素 ィ匕すること〖こなる。
[0010] 5—置換ヒダントインィ匕合物のトランスポートに関する報告としては、 5—ウレイド-ヒダ ントインの構造を有するアラントインのトランスポータに関する報告(上記 Sumradaら) はあるものの、これ以外の 5—置換ヒダントイン化合物トランスポータの報告はなぐヒ ダントインカもの光学活性アミノ酸製法にぉ 、ては、新規なヒダントイントランスポータ が必要となっていた。
[0011] 上記ヒダントイン水解酵素あるいはラセマーゼの研究に関する参考文献においても 、ヒダントイナーゼ、力ルバモイラーゼ、あるいはヒダントインラセマーゼをコードする遺 伝子周辺に、機能未知のトランスポータホモログタンパク質をコードする遺伝子が見 出されていたものの、その機能に関してはこれまで明らかにされていな力つた。
[0012] したがって、本発明は、ヒダントインィ匕合物に対してトランスポータ活性を有する新 規トランスポータタンパク質、および、ヒダントイントランスポータ DNAが発現した形質 転換体を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0013] 本発明者らは上記問題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、マイクロパクテリゥム属に属 する細菌において、 5-置換ヒダントイン水解酵素遺伝子群中に、機能未知のトランス ポーターホモログ (MHP)を発見し、当該タンパク質力 ヒダントインィ匕合物に対するト ランスポータ活性を有することを見出し、本発明に想到した。
[0014] また、本発明者らは、ヒダントイントランスポータ DNAを組み込んだ形質転換体を作 製し、当該形質転換体がヒダントイン化合物を細胞内に効率的に取り込むことを確認 した。
[0015] 即ち、本発明は以下の通りである。
[0016] 〔1〕 アラントイン以外の少なくとも一種の 5 置換ヒダントインィ匕合物に対してヒダント イントランスポータ活性を有することを特徴とするタンパク質。
[0017] 〔2〕 下記一般式(1)で表される 5 置換ヒダントインィ匕合物のうち少なくとも一種の 5 置換ヒダントインィ匕合物に対してヒダントイントランスポータ活性を有することを特徴 とする〔1〕に記載のタンパク質。
(一般式(1)において、 Rは、炭素数 1以上 8以下の直鎖状または分岐状のアルキル 基、炭素数 2以上 8以下の直鎖状または分岐状のアルキレン基、炭素数 20以下のァ リール基またはァラルキル基、炭素数 1以上 8以下のメルカプトアルキル基、または、 炭素数 2以上 8以下のアルキルチオアルキル基である。 )
[0018] 〔3〕 上記尺が、炭素数 20以下のァラルキル基であることを特徴とする〔2〕に記載の タンパク質。
[0019] 〔4〕 上記尺が、インドリルメチル基またはべンジル基であることを特徴とする〔3〕に記 載のタンパク質。
[0020] 〔5〕 マイクロバタテリゥム(Microbacterium)属に属する微生物に由来することを特徴 とする〔1〕一〔4〕の 、ずれか一項に記載のタンパク質。
[0021] 〔6〕 マイクロバタテリゥム リクエファシエンス(Microbacterim liquefaciens)に由来す
ることを特徴とする〔5〕に記載のタンパク質。
[0022] 〔7〕 マイクロバタテリゥム リクエファシエンス(Microbacterium liquefaciens) AJ3912 株に由来することを特徴とする〔6〕に記載のタンパク質。
[0023] 〔8〕 下記 (A)または(B)のアミノ酸配列を有し、かつ、ヒダントイントランスポータ活性 を有するタンパク質。
(A)配列表の配列番号 2に記載のアミノ酸配列
(B)配列表の配列番号 2に記載のアミノ酸配列において 1若しくは数個のアミノ酸残 基の置換、欠失、挿入、付加および Zまたは逆位を含むアミノ酸配列
[0024] 〔9〕 前記タンパク質は、 5—インドリルメチルヒダントインおよび 5—ベンジルヒダントイ ンのうち少なくとも一方のヒダントインィ匕合物を輸送することを特徴とする〔8〕に記載の タンパク質。
[0025] 〔10〕 前記タンパク質は、 5—置換ヒダントインィ匕合物に対して L体選択的に作用する ヒダントイントランスポータ活性を有することを特徴とする〔8〕または〔9〕に記載のタン パク質。
[0026] 〔11〕 下記 (A)または(B)のアミノ酸配列を有し、かつ、ヒダントイントランスポータ活 性を有するタンパク質をコードする DNA。
(A)配列表の配列番号 2に記載のアミノ酸配列
(B)配列表の配列番号 2に記載のアミノ酸配列において 1若しくは数個のアミノ酸残 基の置換、欠失、挿入、付加および Zまたは逆位を含むアミノ酸配列
[0027] 〔12〕 下記 (a)または (b)の塩基配列を有し、かつ、ヒダントイントランスポータ活性を 有するタンパク質をコードする DNA。
(a)配列表の配列番号 1に記載の塩基配列
(b)配列表の配列番号 1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列力 なる DNAとスト リンジヱントな条件でノヽイブリダィズする塩基配列
[0028] 〔13〕 〔11〕または〔12〕のいずれか 1項に記載の DNAとベクター DNAとが接続して なる糸且換え DNA。
[0029] 〔14〕 前記ベクター DNAが、 pUC系プラスミドまたはその誘導体であることを特徴と する〔13〕に記載の糸且換え DNA。
[0030] [15] 前記ベクター DNAが、 pTTQ系プラスミドまたはその誘導体であることを特徴 とする〔14〕に記載の糸且換え DNA。
[0031] 〔16〕 〔13〕一〔15〕のいずれか一項に記載の組換え DNAによって形質転換された 形質転換細胞。
[0032] 〔17〕 前記形質転換細胞が、ェシエリヒア コリであることを特徴とする〔16〕に記載の 形質転換細胞。
[0033] 〔18〕 前記ェシエリヒア コリが、 E. coli BLRであることを特徴とする〔17〕に記載の 形質転換細胞。
発明の効果
[0034] 本発明のヒダントイントランスポータは、ヒダントインィ匕合物を輸送し、生体膜に存在 する場合にあっては、ヒダントインィ匕合物が生体膜を通過するのを仲介する。したが つて、遺伝子組換え技術を用いて、本発明のヒダントイントランスポータを発現させる ことにより、細胞内部へのヒダントインィ匕合物の取り込み能力に優れた形質転換体を 作製することが可能となる。
[0035] 従来、微生物の産生する酵素を細胞外に取り出すため、反応を実施する前に、菌 体を破砕し酵素を可溶ィ匕する必要があった。本発明のヒダントイントランスポータによ れば、基質となるヒダントインィ匕合物を細胞内へ効率的に取り込ませることができるた め、細胞内で酵素反応を効率的に行うことが可能となる。これにより、従来、細胞外に 酵素を取り出すために必要とされてきた、菌体破砕処理工程が不要となる。
図面の簡単な説明
[0036] [図 1]図 1は、 Microbacterium liquefaciens AJ3912株のヒダントイン水解酵素遺伝 子群の配置図である。
[図 2]図 2は、実施例で用いたプラスミド pTTQ 18の構造を示す図である。
[図 3]図 3は、各分画画分の(A) SDS-PAGE、(B)ウェスタンブロッテイングの結果 を示す図である。
[図 4-1]図 4—1は、 MHPHの CDスペクトルを示す図である。
6
[図 4-2]図 4 2は、 MHPHの温度安定性を示す図である。
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[図 5]図 5は、 E. coli BLR/pSHPllH株のインタタトセルによる 5置換ヒダントインの取
り込み実験の結果を示す図である。
[図 6]図 6は、 E. coli BLR/pSHPl lH株の L IMH取り込みに及ぼすナトリウムと DN Pの効果を示す図である。
[図 7]図 7は、 E. coli BLR/pSHPl lH株による L IMH取り込みの pH依存性を示す 図である。
[図 8]図 8は、 MHPHの基質スクリーニング結果を示す図である。
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[図 9]図 9は、 MHPHの基質認識光学特異性結果を示す図である。
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発明を実施するための最良の形態
[0037] 以下、本発明につ 、て、
[I] ヒダントイントランスポータ
(1)ヒダントイントランスポータをコードする DNA、
(2)ヒダントイントランスポータの性質、
[II] ヒダントイントランスポータ DNAが発現した形質転換体の調製
の順に添付の図面を参照して詳細に説明する。
[0038] [I] ヒダントイントランスポータ
マイクロバタテリゥム リクエファシエンス Microbacterium liquefaciens AJ3912株 において、 5—置換ヒダントイン化合物に作用するヒダントインラセマーゼ(HRase)、ヒ ダントイナーゼ (HHase)、力ルバミラーゼ (CHase)をコードする遺伝子群中に、機能 未知の遺伝子 mhpを見出し、当該遺伝子のコードするタンパク質力 ヒダントインィ匕合 物に対するトランスポータ活性を有することを見出した。
[0039] 図 1に、 Microbacterium liquefaciens AJ3912株のヒダントイン水解酵素遺伝子群 の配置を示す。図 1において、各遺伝子はその翻訳方向を示す矢印によって示され ている。図 1に示すように、 MHPをコードする mhp遺伝子は、 5-置換ヒダントインを基 質認識しえるヒダントインラセマーゼ、ヒダントイナーゼ、力ルバミラーゼをそれぞれコ ードする mhr、 mhh、 mchの上流に位置し、同じプロモーターによって発現が同時に調 節されるオペロンを形成して 、ると考えられる。
[0040] 本発明のヒダントイントランスポータは、ヒダントインィ匕合物を輸送するタンパク質で ある。本発明のトランスポータは、膜タンパク質の 1種であり、生体膜に存在する場合
にあっては、ヒダントイン化合物が生体膜を通過するのを仲介する。本発明のトランス ポータは、能動輸送によってヒダントインィ匕合物を輸送すると推測され、細胞内部へ のヒダントインィ匕合物の取り込みを促進することができる。
[0041] 本発明のヒダントイントランスポータは、化学物質の輸送を行うものであり、化学反応 を触媒する酵素とは厳密な意味で異なる。しかし、トランスポータは、特定の化学物 質に作用してこれを輸送する基質特異性を持ち、また、基質の類似物質による拮抗 阻害を受けるなど、酵素と類似した性質を有するため、本願明細書においては、トラ ンスポータによって輸送される化学物質を「基質」と称し、また、ヒダントイン化合物を 輸送する活性を「ヒダントイントランスポータ活性」と称することにする。
[0042] ヒダントイントランスポータ活性の測定は、インタタトセルを用いた取り込みアツセィ によって測定することができる。インタタトセルを用いた取り込みアツセィは、 West (1970)、 Macpherson and Henderson (1986)の方法に従って行うことができる(I.C. West (1970). Lactose transport coupled to proton movements in Escherichia coli. Biochem. Biophys. Res. Commun. 41: 655— 661. ; P.J.F. Henderson and A.J.S. Macpherson (1986). Assay, genetics, proteins, and reconstitution of proton-linked galactose, arabinose, and xylose transport systems of
Escherichia coli. Methods Enzymol. 125: 387—429 。
[0043] 具体的には、ヒダントイントランスポータを発現している菌体の懸濁液を用いて、 RI ラベルした基質 ( BH、 3H— IMH)を添加することにより取り込み反応を行う。反 応開始後経時的にサンプリングを行い、各ァリコットをサンプリング後直ちに 0. 45 μ mポアサイズのフィルター(150 mM KC1、 5mM MES (pH 6. 6)の洗浄液に プレインキュペート)によって回収し、洗浄液によって十分に洗浄した後、フィルター に残存する放射能を液体シンチレーシヨンカウンタ一にて測定することによって、菌 体内に取り込まれた基質を定量し、ヒダントイントランスポータ活性を見積もることがで きる。
微弱な活性とバックグラウンドとの区別には、トランスポータ遺伝子を発現して 、な い非誘導条件で培養した菌体をコントロール区として用いることにより判断することが できる。
[0044] 本発明においては、 25°C、 pH6.6、基質濃度 25 μ Μの反応液中で、細胞内への基 質の取り込みが観察されることをトランスポータ活性を有するという。通常、細胞内へ の基質取り込み開始後は、基質の取り込み量は増加を続けるが、一定時間が経過す ると、細胞内の基質濃度が飽和濃度に達し、基質の取り込み速度と排出速度とが平 衡状態となる。本発明においては、飽和状態において観察される基質の取り込み量 力 菌体重量あたり 0.01 nmol/mg以上であることが好ましぐ 0.1nmol/mg以上である ことが好ましい。
[0045] 本発明のヒダントイントランスポータをコードする DNAを配列表の配列番号 1に示 す。また、配列表の配列番号 2に、配列表の配列番号 1の塩基配列がコードするヒダ ントイントランスポータのアミノ酸配列を示す。
[0046] (1)ヒダントイントランスポータをコードする DNA
配列表の配列番号 1の塩基配列を有する本発明のトランスポータ遺伝子は、前述し たように Microbacterium liquefaciens AJ 3912株の染色体 DNAから単離すること ができる。配列表の配列番号 1の塩基配列は、 Arthrobacter aurescens DSM3747 株に存在するヒダントイン水解酵素遺伝子群中にコードされる機能未知トランスポー ターホモログタンパク質 HyuP (非特許文献 1)と 82%の相同性を有し、 Pseudomonas sp.
NS671株に存在するヒダントイン水解酵素遺伝子群中にコードされる機能未知トラン スポーターホモログタンパク質 ORF5タンパク質(PJDRF5) (非特許文献 2)と 31%の 相同性を有する。
[0047] なお、ここでの相同性の解析は、遺伝子解析ソフト「FASTA」(Wisconsin- Madison
Univ., USA)を用い、パラメータを初期設定値として算出した値である。
[0048] 次にヒダントイントランスポータをコードする DNAを取得する方法について説明する
[0049] 本発明者らによって特定されたヒダントイントランスポータのアミノ酸配列(配列表配 列番号 2)に基づいて DNAの塩基配列を演繹する。 DNAの塩基配列を演繹するに はユニバーサルコドンを採用する。
[0050] 演繹した DNA配列に基づ!/、て、 30塩基対程度の DNA分子を合成する。該 DNA
分子を合成する方法は Tetrahedron Letters, 22, 1859 (1981)に開示されている。 また、 Applied Biosystems社製のシンセサイザーを用いて該 DNA分子を合成できる 。該 DNA分子は、ヒダントイントランスポータをコードする DNA全長を、ヒダントイント ランスポータ産生菌の染色体遺伝子ライブラリ一力 単離する際に、プローブとして 利用できる。あるいは、本発明のトランスポータをコードする DNAを PCR法で増幅す る際に、プライマーとして利用できる。配列表 5および 6に、プライマーの一例を示す。 ただし、 PCR法を用いて増幅される DNAはトランスポータをコードする DNA全長を 含んでいないので、 PCR法を用いて増幅される DNAをプローブとして用いて、トラン スポータをコードする DNA全長をトランスポータ産生菌染色体遺伝子ライブラリーか ら単離する。
[0051] ここで、ヒダントイントランスポータ DNAの取得源となるヒダントイントランスポータ産 生菌としては、マイクロバタテリゥム属(Microbacterium)に属する細菌を用いることが でき、好ましくは、マイクロバタテリゥム リクエファシエンス(Microbacterium liquefaciens )、特に好ましくはマイクロバタテリゥム リクエファシエンス(
Microbacterium liquefaciens ノ AJ3912株を用 ヽる。
[0052] マイクロバタテリゥム リクエファシエンス(Microbacterium liquefaciens ) AJ3912 株については、下記の通り寄託されている。
Microbacterium liquefaciens AJ3912株
(0受託番号 FERM BP- 7643 (2001年 6月 27日、 FERM— P3133より移管) (ii)受託日 1975年 6月 27日
Gii)寄託先 独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター (日本国 茨城県つくば巿東 1丁目 1番地 1中央第 6)
[0053] PCR法の操作については、 White, T.J. et al., Trends Genet. 5, 185 (1989) 等に記載されている。染色体 DNAを調製する方法、さらに DNA分子をプローブとし て用いて、遺伝子ライブラリーから目的とする DNA分子を単離する方法については 、 Molecular し loning, 2ηα edition, し old Spring Harbor press (1989)等【こ ci載 れている。
[0054] 単離されたヒダントイントランスポータをコードする DNAの塩基配列を決定する方法
【ま、 A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley & Sons, Inc. (1985) に記載されている。また、 Applied Biosystems社製の DNAシークェンサ一を用いて、 塩基配列を決定することができる。
[0055] なお、ヒダントインィ匕合物に対するトランスポータ活性を有するタンパク質をコードす る DNAは、配列表の配列番号 1に示される DNAだけではない。すなわち、ヒダントイ ントランスポータを生成する Microbacterium属に属する細菌のうち、種および株ごとに 、塩基配列の違 、が観察されるはずだ力 である。
[0056] また、本発明の DNAは単離されたヒダントイントランスポータをコードする DNAの みではなぐ当然ながら、ヒダントイントランスポータ産生菌の染色体 DNAから単離さ れたヒダントイントランスポータをコードする DNAに人工的に変異を加えた DNAであ つても、ヒダントイントランスポータをコードする場合には、本発明の DNAである。人 ェ的に変異をカ卩える方法として頻繁に用いられるものとして、 Method, in
Enzymol.,154 (1987)に記載されている部位特異的変異導入法がある。
[0057] また、配列表配列番号 1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列力 なる DNAとス トリンジェントな条件でノヽイブリダィズし、ヒダントイントランスポータ活性を有するタン パク質をコードする DNAも本発明の DNAである。ここで「ストリンジェントな条件」とは 、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない 条件をいう。この条件を明確に数値ィ匕することは困難であるが、一例を示せば、相同 性が高い DNA同士、例えば 50%以上、より好ましくは 80%以上、さらに好ましくは 9 0%以上、特に好ましくは 95%以上の相同性を有する DNA同士がハイブリダィズし 、それより相同性が低い DNA同士がハイブリダィズしない条件、あるいは通常のサザ ンハイブリダィゼーシヨンの洗いの条件である 37°C、 0. 1 X SSC、0. 1% SDS、好 ましくは 60°C、0. 1 X SSC、0. 1% SDS、さらに好ましくは 65°C、 0. 1 X SSC、0. 1% SDSに相当するに相当する塩濃度でハイブリダィズする条件があげられる。ま た、ここでいう「ヒダントイントランスポータ活性」とは、少なくとも一種のヒダントインィ匕合 物に対するトランスポータ活性を有していればよい。ただし、配列表の配列番号 1に 記載の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジ ントな条件でハイブリダィズする塩 基配列の場合には、 25°C、 pH6.6の条件下で配列表の配列番号 2に記載のァミノ
酸配列を有するタンパク質が 5—ベンジルヒダントインに対して有するヒダントイントラン スポータ活性の 10%以上、好ましくは 30%以上、より好ましくは 50%以上、さらに好 ましくは 70%以上のヒダントイントランスポータ活性を保持して 、ることが望まし 、。
[0058] さらに、配列表の配列番号 1に記載の DNAがコードするヒダントントランスポータと 実質的に同一のタンパク質をコードする DNAも本発明の DNAである。すなわち、
(a)配列表の配列番号 2記載のアミノ酸配列力 なるタンパク質をコードする DNA
(b)配列表の配列番号 2記載のアミノ酸配列において 1若しくは数個のアミノ酸残基 の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、ヒダントイント ランスポータ活性を有するタンパク質をコードする DNA
も本発明の DNAに包含される。ここで、「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパ ク質の立体構造や、トランスポータ活性を大きく損なわない範囲のものであり、具体的 には、 1一 50個、好ましくは 1一 30個、さらに好ましくは 1一 10個である。またここでい う「ヒダントイントランスポータ活性」とは、少なくとも一種のヒダントインィ匕合物に対する トランスポータ活性を有していればよい。ただし、配列表の配列番号 2に記載のァミノ 酸配列において 1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加または逆位を 含むアミノ酸配列の場合には、 25°C、 pH6.6の条件下で配列表の配列番号 2に記 載のアミノ酸配列を有するタンパク質が 5—ベンジルヒダントインに対して有するヒダン トイントランスポータ活性の 10%以上、好ましくは 30%以上、より好ましくは 50%以上 、さらに好ましくは 70%以上のヒダントイントランスポータ活性を保持していることが望 ましい。
[0059] (2)ヒダントイントランスポータの性質
本発明のヒダントイントランスポータは前述した遺伝子の単離と解析より明らかにさ れるように、代表的には配列表配列番号 2のアミノ酸配列を有する。しかし、本発明は 、配列表の配列番号 2に記載のアミノ酸配列にぉ 、て 1または数個のアミノ酸残基の 置換、欠失、挿入、付加または逆位を含むアミノ酸配列を有し、トランスポータ活性を 有するタンパク質をも含むものである。
[0060] すなわち、本発明のヒダントイントランスポータは、下記 (a)— (b)のタンパク質である
(a)配列表の配列番号 2記載のアミノ酸配列力 なるタンパク質
(b)配列表の配列番号 2記載のアミノ酸配列において 1若しくは数個のアミノ酸残基 の
置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、ヒダントイントラ ンスポータ活性を有するタンパク質
ここで、「数個」および「ヒダントイントランスポータ活性」の定義は(1)ヒダントイントラ ンスポータをコードする DNAの項の説明と同義である。
[0061] 本発明のヒダントイントランスポータは、アラントイン以外の 5—置換ヒダントインィ匕合 物を基質として認識するトランスポータである。本発明のヒダントイントランスポータは
、ヒダントイン環の 5位の炭素が疎水性の強い置換基によって置換されてなる 5—置換 ヒダントインィ匕合物、なかでも、下記一般式(1)で表される 5—置換ヒダントインィ匕合物 に対してトランスポータ活性を有する。
[0062] [化 3]
(一般式(1)において、 Rは、炭素数 1以上 8以下の直鎖状または分岐状のアルキル 基、炭素数 2以上 8以下の直鎖状または分岐状のアルキレン基、炭素数 20以下のァ リール基またはァラルキル基、炭素数 1以上 8以下のメルカプトアルキル基、または、 炭素数 2以上 8以下のアルキルチオアルキル基である。 )
[0063] 上記一般式(1)において、 Rは、炭素数 3以上 8以下の分岐状のアルキル基、炭素 数 20以下のァラルキル基、メルカプトメチル基、または、メチルチオェチル基であるこ とが好ましぐ炭素数 20以下のァラルキル基であることがより好ましぐ特にインドリル メチル基、ベンジル基であることが好ましい。 Rが、インドリルメチル基、ベンジル基の 場合、上記一般式(1)の 5-置換ヒダントイン化合物は、それぞれ 5-インドリルメチル ヒダントイン、 5—ベンジルヒダントインを表す。
[0064] 次に、本発明の Microbacterium liquefaciens AJ 3912株由来のヒダントイントラン スポータ(以下、 MHPと略す場合がある)の酵素化学的性質を以下に述べる。
[0065] 本発明の MHPは、ェシエリヒア コリにおいて膜画分への発現が確認され、内膜上 に特異的に局在しているものと推定される。本発明の MHPは、生体膜に存在する場 合にあっては、ヒダントイン化合物が生体膜を通過するのを仲介する機能を有する。
[0066] 本発明の MHPは、ヒダントインィ匕合物に対するトランスポータ活性を有し、特に 5—ィ ンドリルメチルヒダントイン、 5—ベンジルヒダントインに対して優れたトランスポータ活 性を有する。また、本発明の MHPは、基質認識光学選択性を有し、ヒダントインィ匕合 物に対して L体選択的に作用する。ここで、「L体選択的に作用する」とは、 L体と R体 の共存下で、 L体に対して優先的に作用することを意味する。具体的には、上述のィ ンタクトセルを用いた取り込みアツセィの手法を用いて、菌体内に取り込まれた L体量 が R体量よりも多 、場合は、トランスポータカ SL体選択的に作用して 、ると 、える。
[0067] 本発明の MHPの作用 pHは、 pH4— 10であり、至適 pHは pH6— 8の中性領域にある 。また、 30°C以下で温度安定性を有し、特に 25°C以下で温度安定性を有する。
[0068] [II]ヒダントイントランスポータ DNAが発現した形質転換体の調製
次に本発明のヒダントイントランスポータ DNAが発現した形質転換体の製造方法に つ
いて説明する。組み換え DNA技術を利用して酵素、生理活性物質等の有用タンパ ク質を製造する例は数多く知られており、組み換え DNA技術を用いることで、天然に 微量に存在する有用タンパク質を大量に産生できる。
[0069] 本発明の形質転換体の製造工程のフローを説明する。先ず、本発明のヒダントイン トランスポータをコードする DNAを調製する。次に、調製したヒダントイントランスポー タ DNAをベクター DNAと接続して組み換え DNAを作製し、該組み換え DNAによ つて細胞を形質転換して形質転換体を作製する。続いて、該形質転換体を培地中で 培養し、ヒダントイントランスポータ DNAを発現させる。
[0070] なお、ベクター DNAと接続される DNAは、本発明のヒダントイントランスポータ DN Aが発現可能であればよ 、。
[0071] ここで、ベクター DNAに接続されるヒダントイントランスポータ遺伝子としては、上述 の
(a)配列表の配列番号 1記載の塩基配列力 なる DNA
(b)配列表の配列番号 1記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなる DNAとストリ ンジェントな条件でノヽイブリダィズし、かつ、ヒダントイントランスポータ活性を有するタ ンパク質をコードする DNA
(c)配列表の配列番号 2記載のアミノ酸配列力 なるタンパク質をコードする DNA
(d)配列表の配列番号 2記載のアミノ酸配列において 1若しくは数個のアミノ酸残基 の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、ヒダントイント ランスポータ活性を有するタンパク質をコードする DNAなどを使用できる。
[0072] 本発明の形質転換体においては、ヒダントイントランスポータが、膜タンパク質として 発現していることが好ましい。ただし、製造過程におけるヒダントイントランスポータの 存在形態は生体膜上に限定されるものではない。すなわち、用途に応じて、可溶性 タンパク質、タンパクが会合したタンパクの封入体 (inclusion body)等、様々な存在 形態が考えられうる。ただしこの場合、ヒダントイントランスポータを発現させた後、可 溶化剤を用いて、ヒダントイントランスポータを可溶化し、さらにヒダントインの輸送障 壁となっている膜上に再構成する必要がある。可溶化剤としては、 n-Dodecy卜 |8 -D-maltoside (DDM)、 n-octyl- β - D- glucoside (OG)等の界面活性剤を用いること ができる。
[0073] 本発明のヒダントイントランスポータ DNAを組み換え DNA技術を用いて発現させる 場合、形質転換される宿主細胞としては、細菌細胞、放線菌細胞、酵母細胞、カビ細 胞、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞等を用いることができる。このうち、宿主-ベクタ 一系が開発されている細菌細胞としてはェシエリヒア属細菌、シユードモナス属細菌、 コリネバタテリゥム属細菌、バチルス属細菌などが挙げられる力 好ましくはェシエリヒ ァ 'コリが用いられる。ェシエリヒア 'コリを用いてタンパクを大量生産する技術につ ヽ て数多くの知見があるためである。以下、大腸菌を用いて形質転換体を製造する方 法を説明する。
[0074] ヒダントイントランスポータをコードする DNAを発現させるプロモータとしては、通常 大腸菌における異種タンパク生産に用いられるプロモータを使用することができ、例 えば、 T7プロモータ、 trpプロモータ、 lacプロモータ、 tacプロモータ、 PLプロモータ 等の強力なプロモータが挙げられる。
[0075] また、生産量を増大させるためには、ヒダントイントランスポータ遺伝子の下流に転 写終結配列であるターミネータ一を連結することが好まし 、。このターミネータとして は、 T7ターミネータ、 fdファージターミネータ、 T4ターミネータ、テトラサイクリン耐性 遺伝子のターミネータ、大腸菌 trpA遺伝子のターミネータ等が挙げられる。
[0076] ヒダントイントランスポータをコードする遺伝子を大腸菌に導入するためのベクターと しては、いわゆるマルチコピー型のものが好ましぐ Col El由来の複製開始点を有 するプラスミド、例えば pUC系のプラスミドや pBR322系のプラスミド、あるいはその 誘導体が挙げられる。ここで、「誘導体」とは、塩基の置換、欠失、挿入、付加または 逆位などによってプラスミドに改変を施したものを意味する。なお、ここでいう改変とは 、変異剤や UV照射などによる変異処理、あるいは自然変異などによる改変をも含む 。本発明においては、 pUC系のプラスミドが好ましぐ特に、 pUC系プラスミド力も誘 導される pTTQ系プラスミド (PTTQ18ベクターなど)を好ましく用いることができる。
[0077] また、形質転換体を選別するために、該ベクターがアンピシリン耐性遺伝子等のマ 一力一を有することが好ましい。このようなプラスミドとして、強力なプロモーターを持 つ発現ベクターが市販されて 、る (pUC系(宝酒造 (株)製)、 pPROK系(クローンテ ック製)、 PKK233— 2 (クローンテック製)ほ力)。
[0078] プロモータ、ヒダントイントランスポータをコードする遺伝子、ターミネータの順に連 結した DNA断片と、ベクター DNAとを連結して組み換え DNAを得る。
[0079] 該組み換え DNAを用いて宿主細胞を形質転換し、この形質転換体を培養すると、 本発明のヒダントイントランスポータが生産される。形質転換される宿主は、異種遺伝 子の発現に通常用いられる株を使用することができる力 特にェシエリヒア'コリ BLR 株が好ましい。形質転換を行う方法、および形質転換体を選別する方法は Molecular し lonmg,
2nd edition, Cold Spring Harbor press (1989)等に記載されている。
[0080] 形質転換体を培養する培地としては、 M9—力ザミノ酸培地、 LB培地など、大腸菌 を培養するために通常用いる培地を用いてもよい。また、培養条件、生産誘導条件 は、用いたベクターのマーカー、プロモータ、宿主菌等の種類に応じて適宜選択する
[0081] トランスポータをコードする DNAとして、配列表配列番号 1に示される DNAを用い た場合には配列番号 2に記載のアミノ酸配列を有するトランスポータが生産される。
[0082] 本発明の形質転換体の培養形態は液体培養、固体培養 ヽずれも可能であるが、 工業的に有利な方法は、深部通気撹拌培養法である。栄養培地の栄養源としては、 微生物培養に通常用いられる炭素源、窒素源、無機塩およびその他の微量栄養源 を使用できる。使用菌株が利用できる栄養源であればすべてを使用できる。
[0083] 通気条件としては、好気条件を採用する。培養温度としては、菌が発育し、ヒダント イントランスポータが生産される範囲であれば良い。従って、厳密な条件は無いが、 通常 10— 50°C、好ましくは 30— 40°Cである。培養時間は、その他の培養条件に応 じて変化する。例えば、ヒダントイントランスポータが最も生産される時間まで培養す れば良ぐ通常 5時間一 7日間、好ましくは 10時間一 3日間程度である。
[0084] さらに、本発明の形質転換体は、ヒダントイン化合物から有用化合物を生成する反 応を触媒する酵素を産生し、かつ、その酵素の少なくとも一部を細胞内に蓄積する 菌体であることが好ましい。このような形質転換体は、ヒダントイントランスポータによつ て、ヒダントインィ匕合物を細胞内に取り込んだ後、細胞内の酵素によって、取り込んだ ヒダントインィ匕合物から有用化合物を生成する。すなわち、形質転換体の細胞内が、 基質と酵素が出会って酵素反応が行われる「場」となる。
[0085] このような形質転換体を作成するには、ヒダントイン化合物力 有用化合物を生成 する反応を触媒する酵素を産生する微生物を宿主細胞として、本発明のヒダントイン トランスポータ DNAを導入し形質転換体させればよい。あるいは、ヒダントインィ匕合物 から有用化合物を生成する反応を触媒する酵素をコードする DNAを調製し、本発明 のヒダントイントランスポータ DNAとともに、大腸菌等の宿主細胞に導入し、共発現さ せてもよい。このような酵素をコードする DNAとトランスポータをコードする遺伝子とを 連結して形質転換する場合には、コドンの読み取りフレームが一致するようにする。 適当な制限酵素部位で連結するか、ある ヽは適当な配列の合成 DNAを利用すれ ばよい。
[0086] ヒダントイン化合物から有用化合物を生成する反応を触媒する酵素としては、公知 の酵素を特に限定なく使用することができるが、特に好ましい酵素として、ヒダントイナ
ーゼ (HHase)を例示することができる。すなわち、本発明の形質転換体は、本発明 のヒダントイントランスポータに加え、さらに HHaseを産生する菌体であることが好まし い。このような形質転換体は、細胞外に存在する 5置換ヒダントイン化合物を細胞内 に効率的に取り込むとともに、細胞内において自ら産生する HHaseによって 5置換ヒ ダントイン化合物を加水分解し N—力ルバミルアミノ酸を生成する。生成した N カル バミルアミノ酸を、力ルバミラーゼ (CHase)等によってさらに加水分解することにより アミノ酸を生成することができる。したがって、当該形質転換体は、 5置換ヒダントイン 化合物からアミノ酸を製造する方法に好適に利用できる。
[0087] 形質転換体の産生する HHaseは、光学特異性の HHase、光学特異性のな!、HH aseのどちらでもよい。なお、「光学特異性」とは、 L体、 R体のいずれか一方に対して 特異的に作用することを意味し、具体的には、実質的に一方のァイソマーのみ基質 として認識し、他方のアイソマ一は基質として認識しな 、ほどの強 、光学選択性を!ヽ
[0088] 光学特異性のない HHaseは、本発明のヒダントイントランスポータの取得源となつ たマイクロバタテリゥム リクエファシエンス(Microbacterium liquefaciens) AJ3912株 のほ力 (特願 2001-298619)、例えばアースロバクタ一 オーレセンス(Arthrobacter aurescens)にその存在が知られている(J.Biotechnol.61卷、 1ページ、 1998年)。
[0089] 一方、光学特異性の HHaseの場合、光学活性の N—力ルバミル L アミノ酸または N—力ルバミル D アミノ酸を特異的に生成させることができる。この場合は、引き続 き力ルバミラーゼ (CHase)を用いて光学活性アミノ酸を製造しても良 、し、亜硝酸に よる化学的な加水分解処理を施すことにより、光学活性を維持したまま、高収率で光 学活性アミノ酸を製造できる。
[0090] たとえば、 N—力ルノ ミル D アミノ酸を生成する D— HHaseとしては、バチルス属 細菌に耐熱性の酵素の存在が知られており、例としてバチルス ステアロサーモフィ ラス (Bacillus stearothermophilus)ATCC31195等の HHaseを挙げることができる (Appl.Microbiol. Biotechnol.43卷 270ページ、 1995年)。
[0091] バチノレス ステアロサーモフィラス (Bacillus stearothermophilus)ATCC31195
(0寄託機関の名称'あて名
名称:アメリカン'タイプ'カルチャー 'コレクション(American Type Culture collection;
あて名:アメリカ合衆国 ヴァージ-ァ州 20110— 2209 マナサス 1080 1 ュ-ノ一シティブノレノ ード、ゝ
(ii)寄託番号: ATCC31195
[0092] また、 L体ヒダントインィ匕合物に特異的に作用する L HHaseは、例えばバチルス ェ スピー(Bacillus 3 .) 12299株にその存在が知られてぃる(特開昭63—24894号 公報)。
[0093] バチルス エスピー(Bacillus sp.)AJ12299株
(0寄託機関の名称'あて名
名称:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター あて名:日本国茨城県つくば巿東 1丁目 1番地 1 中央第 6 (郵便番号 305 -
8566)、
(ii)寄託日: 1986年 7月 5日
(iii)寄託番号: FERM BP-7646 (FERM P— 8837より 2001年 6月 27日 に国際寄託へ移管)
[0094] 光学特異性の HHaseを用いて 5置換ヒダントインィ匕合物を加水分解すると、基質と ならないェナンチォマーが未反応のまま残る。すなわち、 D HHaseを用いた場合、 L体ヒダントイン化合物が未反応状態で残り、 D— HHaseを用いた場合、 L体ヒダント イン化合物が未反応状態で残る。
[0095] 基質とならな 、ェナンチォマーを効率的にラセミ化して基質となるェナンチォマー に変換するため、本発明の形質転換体は、さらに 5置換ヒダントインラセマーゼ (HRa se)を産生する菌体であることが好ましい。すなわち、本発明の形質転換体は、本発 明のヒダントイントランスポータに加え、さらに、 HHaseと HRaseの 2酵素を産生する 菌体であることが好ましい。ヒダントイントランスポータ、 HHase,および、 HRaseを 1 つの細胞内で発現させることにより、基質とならないェナンチォマーを効率的にラセミ 化して基質となるェナンチォマーに変化させることができ、光学活性 N—力ルバミルァ ミノ酸の生成反応を効率的に行うことができる。
[0096] このような HRaseとしては、本発明のヒダントイントランスポータの取得源となったマ イクロバクテリウム リクエファシエンス(Microbacterium liquefaciens) AJ3912株のほ 力 (特開 2002- 330784)、例えば、フラボバタテリゥム エスピー (Flavobacterium sp.)A J11199 (FERM—P4229)株(特願 2002- 013552)、パスッレラ ニューモトロピカ (Pasteurella pneumotropica)AJ11221 (FERM— P4348)株(特願 2002- 013553)な どに存在している。なお、パスッレラ ニューモトロピカ (Pasteurella pneumotropica)A J11221は、当初モラキセラ ノンリクエファシエンス (Moraxella nonliquefaciens)として 寄託されたが、再同定の結果、パスッレラ
ニューモトロピ力に属することが判明した微生物である。
[0097] フラボバタテリゥム エスピー (Flavobacterium sp.)AJ11199
(0寄託機関の名称'あて名
名称:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター あて名:日本国茨城県つくば巿東 1丁目 1番地 1 中央第 6 (郵便番号 305 -
8566)、
(ii)寄託日: 1981年 5月 1日
(iii)寄託番号: FERM BP-8063 (FERM P— 4229より 2002年 5月 30日 に国際寄託へ移管)
[0098] ノ スッレラ ニューモトロピカ (Pasteurella pneumotropica)AJ11221株
(0寄託機関の名称'あて名
名称:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター あて名:日本国茨城県つくば巿東 1丁目 1番地 1 中央第 6 (郵便番号 305 -
8566)、
(ii)寄託日: 1981年 5月 1日
(iii)寄託番号: FERM BP-8064 (FERM P— 4348より 2002年 5月 30日 に国際寄託へ移管)
[0099] 5置換ヒダントインィ匕合物力 N—力ルバミルアミノ酸を生成した後、引き続き形質転 換体の細胞内で N—力ルバミルアミノ酸を加水分解させて光学活性アミノ酸を製造す るため、本発明の形質転換体は、さらに力ルバミラーゼ (CHase)を産生する菌体で
あることが好ましい。すなわち、本発明の形質転換体は、本発明のヒダントイントランス ポータに加え、 HHaseおよび CHaseの 2酵素を産生する菌体、または、 HHase、 H Raseおよび CHaseの 3酵素を産生する菌体であることが好ましい。
[0100] ヒダントイントランスポータ、 HHase,および CHaseの 3つ、あるいは、ヒダントイント ランスポータ、 HHase, HRase、および CHaseの 4つをひとつの細胞内で発現させ た形質転換体は、細胞外に存在する 5置換ヒダントイン化合物を細胞内に効率的に 取り込むとともに、細胞内にぉ 、て自ら産生する HHaseによって 5置換ヒダントインィ匕 合物を加水分解し N—力ルバミルアミノ酸を生成する。さら〖こ、生成した N—力ルバミル アミノ酸を、自ら産生する CHaseによって引き続き細胞内で加水分解し、 目的物であ るアミノ酸を生成する。
[0101] HHaseに光学特異的加水分解活性がなくとも、 CHaseに光学特異性があれば、 生成アミノ酸は D もしくは L一の光学活性体となる。この場合、反応系には未反応の ェナンチォマーである N—力ルバミルアミノ酸、すなわち CHaseが N—力ルバミル L— アミノ酸を特異的に分解し、 L アミノ酸を生成させる場合には、 N—力ルバミル D—ァ ミノ酸が、また逆に D アミノ酸を生成させる場合には、 N—力ルバミル L アミノ酸が 残存することが想定される。しかしながら、このような場合において HHaseは、残存す ることになる未反応ェナンチォマーの N—力ルバミルアミノ酸を脱水縮合させ、再度 5 置換ヒダントインィ匕合物を生成させる逆反応をもわず力ながら触媒する。したがって、 HHaseに光学特異的加水分解活性がなくとも、ヒダントイントランスポータ、 HHase, および、光学特異性の CHaseに、上述の HRaseを加えることにより、光学活性アミノ 酸を高収率で製造することが可能となる。
[0102] N—力ルバミルアミノ酸を D体特異的に加水分解する CHaseは、たとえばァグロバタ テリゥム エスピー AJ 11220株にその存在が知られている (特公昭 56-003034号 公報)。なお、ァグロバタテリゥム エスピー AJ 11220株は、当初、シユードモナス エスピー(Pseudomonas sp. ) AJ 11220株として寄託されていたが、再同定の結 果、ァグロバタテリゥム エスピー(Agrobacterium sp. )に属することが判明した微生 物である。
[0103] ァグロバタテリゥム エスピー AJ 11220株
(0寄託機関の名称'あて名
名称:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター あて名:日本国茨城県つくば巿東 1丁目 1番地 1 中央第 6 (郵便番号 305 -
8566)、
(ii)寄託日: 1977年 12月 20日
(iii)寄託番号: FERM BP- 7645 (FERM— P4347より 2001年 6月 27日に 国際寄託へ移管)
[0104] また N—力ルバミルアミノ酸を L体特異的に加水分解する CHaseは、本発明のヒダ ントイントランスポータの取得源となったマイクロバタテリゥム リクエファシエンス ( Microbacterium liquefaciens) AJ3912株(特開 2002- 330784)のほか、 L HHaseで 既述のバチルス エスピー. (Bacillus sp.)AJ12299株に存在している。
[0105] 本発明のヒダントイントランスポータと、 HHase, HRase、 CHase等の酵素とを産生 する形質転換体を用いて、 5置換ヒダントインィ匕合物力 アミノ酸を製造するには、 5 置換ヒダントイン化合物と形質転換体の培養液、分離菌体、洗浄菌体を含む反応液 を調整する。当該反応液中に、形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機ィ オンなどの栄養素を添加してもよい。さらにビタミン、アミノ酸等の有機微量栄養素を 添加すると望ましい結果が得られる場合が多い。反応を進行させるには、 20— 30°C の適当な温度に調整し、 pH4— 10に保ちつつ、 8時間一 5日静置または攪拌すれ ばよい。
[0106] 基質となる 5置換ヒダントイン化合物の濃度を、 1 μ Μ以上、好ましくは 100 μ Μ以 上とすることが好ましい。基質濃度を 1 μ Μ以上とすることによって、形質転換体の細 胞内に基質を効率的に取り込ませることができる。反応液中の基質濃度が保たれる よう、 5置換ヒダントインィ匕合物を分割添加してもよ 、。
[0107] 5置換ヒダントインィ匕合物力 生成したアミノ酸は、形質転換体の菌体内または反応 液中に蓄積される。生成したアミノ酸は、公知の手法により分離精製することができる 実施例
[0108] 以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例
のみに限定されるものではない。
[0109] なお、 5-置換ヒダントイン取り込みアツセィの基質には3 Hラベル 5-L-benzyl
hydantoin(3H-BH, ICN)および3 Hラベル 5— L— indolylmethyl hydantoin (3H— IMH, ICN)を用いた。 3H- BHおよび3 H- IMHは、それぞれ3 H-L- phenylalanineあるいは3 H-L-tryptophaneとシアン酸カリウムとを原料として合成した 13)。合成した3 H-BHおよ び3 H-IMHは- 20°Cに保存し、使用のため作成した溶液中の濃度は、溶液の吸光度 から算出した(BH; ε = 184/M/cm, IMH; ε = 5440/M/cm) o
257nm 280nm
[0110] 実施例 1 MHP組換え体の調製
1.1. 菌株と培養方法
MHP解析には E. coli BLR株を用いた。以下、 E. coli BLR株の遺伝子型を示す
(表 1)。
[0111] [表 1]
Straits Genotype Source/Reference
Bし R F一, ompT, hsdS B(r„"m„"), gal. Novagen
dcm Δ (5r/-rec>4)306::TN10
[0112] 1.2. プラスミド
トランスポーター発現用プラスミドとして、 pTTQ18を用いた。また、トランスポータの 発現を確認するため、およびその後の精製を容易にするため、 Hendersonらの方法 に従 ヽトランスポータ C末端に RGSHis6-Tagが挿入されるようプラスミドを構築した。こ のプラスミドのマルチクロー-ングサイト中 EcoRI、 Pstl間に、 PCRによって増幅した MHPを挿入し、 C末端に RGSHis6-Tagが付カ卩されたタンパク質(; MHPH (配列番号 3
6
;) )発現プラスミド pSHPllHを構築し、用いた。このプラスミドを用いて E. coli BLR株 を形質転換し、 MH
P発現株 E. coli BLR/pSHPllHとして用いた。
[0113] 発現プラスミド pTTQ18の構造を図 2に、本研究に用いたプラスミドのリストを表 2に、 および pSHPllH構築に用いた PCRプライマーを表 3 (配列番号 5、 6)に、それぞれ示 した(PTTQ18については、 M.J.R. Stark (1987). Multicopy expression vectors carrying the lac repressor gene for regulated high-level exDression or genes
in Escherichia coli. Gene 51: 255- 267.を、 pTTQ18への RGSHis6の挿入に関し ては P.J. Henderson, C.K. Hoyle and A. Ward (2000). Expression,
purification and properties of multidrug efflux proteins. Biochem. Soc. Trans. 28: 513-517.をそれぞれ参照)。
[0114] [表 2]
Plasmids Relevant genes Reference
pTTQ18 一 Stark 1987
pSHP11 H /? -RGSH6+ This work
[0115] [表 3]
Plasmids Position Primer sequences
pSHP1 1 H 5' end CGTCAATGAATTCGACACCCATCGAAGAGGCT pSHPH H 3' end TCCTTCTCCTGCAGGGTACTGCTTCTCGGTGGG
[0116] 1.3. 培地と培養方法
各保存菌株を、 Luria Bertani (LB)寒天培地(必要に応じて 0.1 mg/mlの carbenicillinを添加)上、 37°C、 16 hr程度培養することによりリフレッシュした。得られ たプレートよりコロニーを単離し、以下の方法により培養した。
[0117] リフレッシュしたプレートから単離した E. coli BLR/pSHPl lHを、 0.1 mg/ml
carbenicillinを含む LB培地中で種培養した後、 20 mM Glycerol, 0.2% (w/v) casamino acidを補填した 50 mlの M9最少培地(6 g/1 Na HPO , 3 g/1 KH HPO ,
1 g/1 NH CI, 0.5 g/1 NaCl, 2 mM MgSO , 0.2 mM CaCl )を含む 2 1三角 フラスコに 5 mlシードし、 37°Cで 680 nmにおける吸光度が 0.3— 0.4程度になるまで 培養し、終濃度 0.2 mMの Isopropy卜 j8 - D- thiogalactoside (以下、 IPTG)を添カロ後、 27°Cにて更に 12 hrローターリーシェカーにて培養した(200 rpm)。ここで得られる菌 体を基質取り込みアツセィに用 ヽた。
[0118] 実施例 2 膜画分の調製
フレンチプレス法は、 M. Futai (1978). Experimental systems for the study of active transport in bacteria. In Bacterial Transport (Rosen, B.P., ed.) pp. 7-41, Marcel Dekker Inc., New York.を参照して行った。
[0119] Aminco社(American Instrument Company, Illinois, USA)製のフレンチプレスを 用いた。培養、集菌した菌体を 15 mM Tris-HCl (pH 7.5)に再懸濁し、 20,000 psi 圧力下、フレンチプレスに供した。 5,000g、 20 minの遠心によりセルデブリスと未破砕 細胞を除去し、この遠心上清を次に 150,000g、 60 min遠心し、全膜画分を沈殿させ 回収した。内膜、外膜、それぞれの画分への分画が必要な場合は、この全膜画分を 20 mM Tris-HCl (pH 7.5), 0.5mM EDTA, 10% glycerol ( ; Tris-EDTA緩衝液) に再懸濁し、 30
、 35、 40、 45、 50および 55% (w/w)溶液から成るショ糖密度勾配に供し、 105,000g、 16 hrの遠心により両画分をそれぞれ分離、回収した。得られた両膜画分は Tris-EDTA 緩衝液に懸濁、 150,000g、 60 minの遠心、という操作を 3度繰り返して洗浄した。得ら れた溶液を適量に分注後、エタノールバスにてスナップフリーズし、使用まで- 70°Cに て保存した。
[0120] 2.3. MHPHの発現
6
E. coli BLR/pSHPllH株を用いた MHPHの大量発現を、培養後フレンチプレス
6
法で調製した全膜画分の SDS-PAGEおよびウェスタンブロッテイングにより観察した( 図 3、レーン 2, 3)。
E. coli BLR/pSHPllH株の全膜画分では、 IPTGによる誘導区(図 3レーン 3)にお いて MHPと見られる分子量 36 kDaと見積もられるタンパク質の発現力 SDS-PAGE およびウェスタンブロッテイングにおいて確認された。
[0121] 実施例 3 MHPHの局在の確認と可溶化、精製
6
3.1. MHPHの可溶化と精製
6
MHPH可溶化のための界面活性剤として n- Dodecy卜 j8 - D- maltoside (DDM)を用
6
い、精製には Ni- NTA Agarose (QIAGEN)を用いた。
[0122] フレンチプレス法にて調製した内膜画分を、可溶ィ匕緩衝液 (20 mM Tris-HCl
(pH 8.0), 20 mM Imidazole (pH 8.0), 20% (v/v) glycerol, 0.3 M NaCl, 1% (w/v) DDM)中に終タンパク濃度 4.6 mg/mlとなるよう懸濁し、氷上で 60 min緩やか に攪拌した後、 160,000g、 30 min遠心した。この遠心操作で得られた上清を可溶ィ匕 画分、沈殿を上清と等容の緩衝液に懸濁したものを非可溶化画分とした。得られた
可溶化画分を、洗浄用緩衝液(20 mM Tris-HCl (pH 8.0), 20 mM Imidazole (pH 8.0), 10% (v/v) glycerol, 0.05% (w/v) DDM)により予め平衡化した Ni- NTA agarose (QIAGEN) をカ卩え、 4°Cで 3 hr静置後、遠心により上清(非結合画分)と resinを分離した。得られたタンパク質結合 resinを、洗浄用緩衝液で洗浄後カラムに 充填し、次に溶出用緩衝液(0.2 M Imidazole (pH 8.0), 20% (v/v) glycerol, 0.05% (w/v) DDM)で resinに結合したタンパク質を溶出した。
[0123] 3.2. Protein assay
Schaffher and Weissman法を用い 7こ (W. chaffher and C. Weissman (1973). A rapid, sensitive, and specific method for the determination of protein in dilute solution. Anal. Biochem. 56: 502- 514.)。濃度スタンダードには BSAを使用 した。
[0124] 3.3. SDS- PAGE
Laemmli法を用い (U.K. Laemmli (1970). Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4. Nature 227:
680-685.)、泳動後の染色には Coomasie Brilliant Blue Rを用いた。分子量マーカ ~~には、 BSA (66 kDa)、 Ovalbumin(45 kDa)、 Glyceraldehyde— 3— phosphate dehydrogenase(36 kDa入し arbonic anhydrase(29 kDa)、 Tnpsinogen(24 kDa)、 Trypsin Inhibitor(20 kDa)、および a— Lactalbumin(14.2 kDa)を用いた(Sigma)。
[0125] 3.4. ウェスタンブロッテイング
タンパク質のブロッテイングにはセミドライ方式を採用し、転写膜には PVDF膜を用 いた。 RGSH6タグ保持タンパク質の検出は、 1次抗体にはマウス anti- RGSH4 ( QIAGEN)を、 2次抗体にはャギ anti-マウス IgG (BIO- RAD)をそれぞれ用い、可視化 にはケミルミネッセンス法を用いた。ウェスタンブロッテイング時の分子量マーカーとし て 6xHis Protein
Ladder (分子量 100, 75, 50, 30, 15 kDa、 QIAGEN)を用いた。
[0126] 3.5. MHPHの局在の確認と可溶化、精製
6
フレンチプレス法により調製した各分画画分、 DDMによる可溶化とニッケル NTA力 ラムによる精製の際の各分画画分を SDS-PAGEおよびウェスタンブロッテイングによ
つて観察した(図 3 (A)および (B) )。
[0127] 調製した E. coli BLR/pSHPllH株、 IPTG誘導区の全膜画分とサイトゾル画分の観 察結果では、 MHPHの可溶性画分での局在は全く観察されず、 MHPHが膜画分に
6 6
局在して発現していることが確認された(図 3 (A)および(B)における lane 3 およ び lane 4)。更に、全膜画分を内膜画分と外膜画分に分離した場合、 MHPHの存
6 在は主に内膜画分に確認された(図 3 (A)および (B)における lane 5 および lane 6)。
[0128] 1% DDMによる可溶化では、 MHPHのほとんどが可溶化されていることが確認され
6
た(図 3 (A)および(B)における lane 7 および lane 8)。
ニッケル NTAカラムにより、 MHPHは SDS-PAGEによる観察で分子量 36 kDaと見積
6
もられる電気泳動的に単一のバンドとして精製された(図 3 (A)および (B)における lane
9)。
[0129] 実施例 4 MHPHの N末端アミノ酸配列の解析
6
精製した MHPH 5 μ gを SDS- PAGEに供し、 PVDF膜にプロット後、バンドを
6
Sulforodamine染色により可視化、切り出しし、プロテインシーケンサ一にて解析した。 確認された配列は
MNSTPIEEAR (配列番号 7)
で、これは MHPの N末端アミノ酸配列(MSTTPIEEAR)、および発現ベクター構築の 際の塩基配列置換(ORFの 5'側から ATGTCGACGACA"' → ATGAATTCGACA • · ·)カゝら期待される MHPHの N末端アミノ酸配列と一致した。
6
[0130] 発現した MHPHの SDS-PAGE上での分子量は 36 kDaであり(図 3A)、配列から計
6
算される分子量 54.6 kDaと大きく異なった力 精製した MHPHの N末端アミノ酸配列
6
の解析結果、および発現タンパク質力 SC末端に RGSH6タグを保持して 、ることが抗 RGSH6抗体を用いたウェスタンブロッテイングにより確認された(図 3B)ことから、発現 生産された MHPHは、配列表 4記載のアミノ酸配列全長を保持していることが示唆さ
6
れた。観察された分子量の差異は、 MHPHが強い疎水性を有するため、 SDS-PAGE
6
に供する条件においても完全には変性せず、ある程度の高次構造を保持するため
に生じた観察結果であると考えられた。
[0131] 実施例 5 MHPHの CDスペクトル解析と温度安定性
6
5.1. Circular Dichroism (CD) spectroscopy
精製した MHPHを限外ろ過器(Centricon C50, Millipore)を用いて 10 mM
6
bodium
phosphate (pH 7.6), 0.05% (w/v) DDMに緩衝液置換した。この緩衝液により、タ ンパク質濃度を 50 g/mlに調製し、 10°Cにて CDスペクトルを測定した (JASCO J-715 Spectropolarimeter) 0測定は波長 190- 260 nm間で行い、 20回の測定値を積 算、平均したものをデータとした。また、試料の温度を 10°C→90°C→10°C (温度変化 は 10°C刻み、各温度での滞留時間はおよそ 10 min)と変化させた際の波長 222 nm における CDユニット値の変化を測定することにより、 MHPHの 2次構造の変化 (温度
6
安定性)を測定した。
[0132] 5.2. MHPHの CDスペクトル解析と温度安定性
6
精製した MHPHの CDスペクトル解析を行った結果、そのスペクトルより MHPHが可
6 6 溶化、精製後も高次構造を保持していることが観察された (図 4-1)。また温度安定 性の測定では、 MHPHの高次構造が 30°C以上で壊れ始め、 70°Cでほぼ完全に崩壊
6
することが観察さ
れた(図 4 2)。この熱変性は不可逆的なものであり、 90°Cまでの温度上昇の後に再 度試料の温度を低下させても、 MHPHの高次構造の崩壊は回復しな力つた(図 4 1
6
、図 4 2)。
[0133] 実施例 6 インタクトセルを用いた取り込みアツセィ
6.1. アツセィ法
West (1970) (I·し. West (1970). Lactose transport coupled to proton movements in Eschericnia coli. Biochem. Biophys. Res. Commun. 41:
655-6D1.) Macpherson and Henderson (1986)の方法 (P.J.F. Henderson and A.J.S. Macpherson (198b;. Assay, genetics, proteins, and reconstitution of proton-linked galactose, arabinose, and xylose transport systems of
Escherichia coli. Methods Enzymol. 125: 387-429.)に従った。
[0134] 集菌した菌体を 150 mM KC1, 5 mM MES (2-[N-Morpholino]ethanesulphonic acid) (pH 6.6)を用いて 3度洗浄した後、アツセィに用いた。基本とした反応条件は、 終濃度 20 mMの glycerolを吸光度で A = 2— 4程度の菌体懸濁液に添加し、 25°C
680
、 3 min通気を行った後、終濃度 25 μ Μの RIラベルした基質(RI比活性、 3Η-ΒΗ 107 Bq/nmol,
3H-IMH 241 Bq/nmol)を添加することにより取り込み反応を開始させた。反応開始 後(通気は継続)経時的にサンプリングを行い、各ァリコットはサンプリング後直ちに 0.45
/z mポアサイズのフィルター(150 mM KC1, 5 mM MES (pH 6.6)の洗浄液にプ レインキュベート)によって回収し、洗浄液によって十分に洗浄した後、フィルターに 残存する放射能を液体シンチレーシヨンカウンタ一にて測定した。取り込み活性は吸 光度 A
680
= 1を乾燥菌体濃度で 0.68 mg/mlとする換算(Ashworth and Kornberg, 1966)を 用いて、乾燥菌体質量あたりで表記した。また、取り込みの初速度は、基質添加後 15 sec後のデータを用い、 1 minあたりの取り込み量で表記した。
[0135] インヒビターの阻害活性を測定する場合には、インヒビターを通気開始時に添加、 すなわち基質添加前に 3 min菌体とプレインキュペートした。用いた阻害剤は 2,4-dinitrophenol (DNP)で、反応時の終濃度は 20 mMとした。
反応液の pHを変化させる場合には、 10 mM 酢酸カリウム (pH 4.0)、 5 mM MES (pH 4.9, 6.1, 6.6, 7.1, 7.9)、 10 mM Tris— HC1 (pH 8.0)、 10 mM glycin-NaOH (pH 10.0)を適宜用いた。
[0136] 6.2. E. coli BLR/pSHPllH株インタタトセルによる 5-置換ヒダントインの取り込み
E. coli BLR/pSHPllH株インタタトセルの L- ΒΗ (Δ、黒△)あるいは L- IMH (〇、 黒〇)の取り込み能を測定した。
[0137] E. coli BLR/pSHPllH株では、 L- BH、 L-IMHのいずれを基質とした場合にも、誘 導区 (黒〇、黒△)では非誘導区(〇、△)に比べ高い取り込み能が観察された(図 5 )。どちらの基質を用いた場合でも、取り込み量は基質添加後 5 minまでは増加を続 け、それぞれ 0.27 nmol/mg (L- BH)、 0.91 nmol/mg (L- IMH)に達した。取り込み初
速度はそれぞれ 0.64 nmol/mg/min (L— BH)、 2.5 nmol/mg/min (L— IMH)と算出さ れた。両基質の比較としては、基質添加後 5 min後の取り込み量で L-IMHを基質とし た場合の方が L-BHを基質とした場合の 3.4倍、取り込みの初速度でも L-IMHを基質 とした場合の方が 3.9倍早力つた。
[0138] 6.3. E. coli BLR/pSHPl lH株の L- IMH取り込みに及ぼすナトリウムイオンと DNPの 効果
E. coli BLR/pSHPl lH株の L- IMH取り込みに及ぼすナトリウムイオンと DNPの効 果を測定した (図 6)。
L-IMH取り込みアツセィの反応液に 10 mMのナトリウムイオンを添カ卩した力 誘導 区(黒△)および非誘導区(△)のいずれにおいても、 L-IMH取り込みには影響を与 えなかつ
た。一方、 DNPを添加した場合、非誘導区(口)では、 L-IMH取り込みにはほとんど影 響を与えな力つた力 誘導区(黒口)では、 L-IMH取り込み量の低下が観察された。
[0139] 6.5. E. coli BLR/pSHPl lH株の L- IMH取り込みの pH依存性
E. coli BLR/pSHPl lH株の L-IMH取り込み反応時の溶液 pHを pH4.0— 10.0の間 で変化させ、各 pHにおける L-IMH取り込み初速度を測定した(図 7)。結果、誘導区( 黒〇)および非誘導区(〇)のいずれにおいても、取り込み初速度は pH 6.6で最大と なり、 L-IMHの取り込み反応の至適は中性域 (pH 6— 8)であった。酸性域、アルカリ 性域とも pHが中性域力も離れるに連れ取り込み初速度は低下し、 pH 4.0あるいは 10.0での取り込み初速度は、 pH 6.6での初速度に比べ、いずれも 10%程度にまで低 下した。
[0140] 実施例 7 MHPの基質のスクリーニング
7.1. スクリーニング法
上記インタタトセルを用いた反応において RIラベル基質を 25 ju M 3H-L-BHとし、 候補基質(コールド)を 250 μ Μ添カ卩した反応液を作成した。個々の3 H-L-BH添カロ 後 3 min後の取り込み量を、候補基質無添加の場合と比較し、各候補基質の L-BH に対する競合阻害能により、それぞれの候補基質の MHPに対する基質可能性を評 価し 7こ。
[0141] 7.2. MHPHの基質スクリーニング
6
E. coli BLR/pSHPllH株の L-BHの取り込みに対する競合阻害能から、各種ィ匕合 物の MHPHに対する親和性を測定し、 MHPHの基質を探索した(図 8)。コールドの
6 6
L-BHを含む候補とした 18種の化合物のうち、強い競合阻害活性が示されたのは L- BH、 D- BH、 L- IMHおよび D- IMHの 4化合物であり、また、 5- DL- methyl hydantoin、 5— DL— isopropyl hydantoin、 5— L— isopropyl hydantoin、 5— DL— isobutyl hydantoin、 5- L- isobutyl hydantoin、 5- DL- p- hydroxybenzyl hydantoin等の 5- ¾換 ヒダントインィ匕合物の添カ卩によっても若干の阻害活性が認められ、 MHPH力 多くの
6
5-置換ヒダントインィ匕合物のトランスポート活性を有する可能性が示された。この結果 より、 MHPHは芳香族アミノ酸に対応する 5-置換ヒダントインィ匕合物に対して特に強
6
い、また、その他アミノ酸に対応する 5-置換ヒダントイン化合物に対しては、疎水性の 高いアミノ酸に対応する 5-置換ヒダントインィ匕合物に対して強いトランスポート活性を 有する傾向が見られた。特に強い阻害活性を示した 4化合物を添加した場合の3 H-L-BHの取り込み活性 (ィ匕合物無添力卩時を 100%とした時の相対活性)は、それぞれ 7% (L-BH, 理論値 9%)、 47% (D- BH)、 3% (L- IMH)、および 24% (D- IMH)で、最も高 V、阻害活性を示したのは L-IMHであった。
[0142] 一方、アラントインの添カ卩によっては MHPHによる L-BHの取り込みは全く阻害を受
6
けなかったため、 MHPHはアラントイントランスポート活性を有しておらず、従来知ら
6
れて 、たアラントイントランスポータとは、その性質を異とする新規なトランスポータで あることが示された。
[0143] 7.3. MHPHの基質認識光学特異性
6
3H-L-BH取り込み活性の競合阻害活性からの基質スクリーニングの結果として D- および L-体の BHおよび IMHが MHPHの基質候補物質として選抜されたため、
6
MHPHの基質光学特異性を精査した (図 9)。
6
上記基質スクリーニングと同様の競合阻害実験を、基質濃度を変化させて測定した 結果、 D- , L- BHおよび D- , L-IMHの MHPHへの親和性には違いが見られ、親和
6
性が強!、方力ら L- IMH (黒△)、 L- BH (黒〇)、 D- IMH (△)、 D- BH (〇)の順となった 。 3H-L-BHと添加したコールドィ匕合物が単純な競合阻害をして 、ると仮定して実験
結果にカーブフィットを行うと、 L-BHと MHPHの親和性を 1として、それぞれの化合物 との親和性は、 5.32 (L- IMH)、 1.05 (L-BH,実験値)、 0.96 (D- IMH)、および 0.20 (D-BH)と算出され、最も高い親和性を示した L-IMHは L-BHのおよそ 5倍の親和性を 有していると見積もられた。
産業上の利用可能性
[0144] 本発明のヒダントイントランスポータは、ヒダントインィ匕合物を輸送する新規トランスポ ータであり、生体膜に存在する場合にあっては、ヒダントインィ匕合物が生体膜を通過 するのを仲介する。したがって、遺伝子組換え技術を用いて、本発明のヒダントイント ランスポータを発現させることにより、細胞内部へのヒダントイン化合物の取り込み能 力に優れた形質転換体を作製することが可能となる。
[0145] 従来、微生物の産生する酵素を細胞外に取り出すため、反応を実施する前に、菌 体を破砕し酵素を可溶ィ匕する必要があった。しかし本発明のヒダントイントランスポー タによれば、基質となるヒダントインィ匕合物を細胞内へ効率的に取り込ませることがで きるため、細胞内で酵素反応を効率的に行うことが可能となる。これにより、従来、細 胞外に酵素を取り出すために必要とされてきた、菌体破砕処理工程が不要となる。
[0146] 力かる特徴を有する本発明のヒダントイントランスポータは、インタタトセルを用いた バイオコンバージョンプロセスによって、ヒダントイン化合物を基質とする酵素反応を 実施する場合に、好適に利用することができる。