JP4775258B2 - L−フクロースの製造方法およびl−フコースの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、L−フクロースの製造方法およびL−フコースの製造方法に関し、より詳しくは、簡便で効率の良いL−フクロースの製造方法およびL−フコースの製造方法に関するものである。
L−フコース(L−6−デオキシガラクトース)は、種々の糖質の主として非還元末端糖として広く生物界に存在している。L―フコースを構成成分とする多糖として、海草類中のフコダイン(fucoidan)などが知られている。L−フコースの生体内おける役割としては、肝臓への血清糖タンパク質の取り込み、マクロファージ遊走素子因子の受容体などに関与していると考えられている。L−フコースは疾病との関連についても研究が進められており、L−フコースを例えば医薬中間体などとして利用することなどについて研究が進められている。例えば、癌患者の糖タンパク質や糖脂質中のL−フコース構成比や尿中の遊離L−フコース量の変化などを指標とする癌診断、癌転移阻害剤もしくは抗ウイルス剤の開発、白血球のコントロール、リウマチ関節炎の治療などへの利用が期待されるところである。
上記のようにL−フコースについては今後の様々な利用の開発が期待されているところであり、L−フコースの入手方法、製造方法についてはいくつかの方法が開発されている。例えば、モズクに含まれるフコダインを抽出する方法(特許文献1)、モズク由来のフコダインからL−フコースを単離する方法(特許文献2)が知られている。しかしながら、これらの方法は大量のモズクが必要になる上、単離精製は実際には困難なものといわざるをえず、また収量が少ないという問題点があった。
また、微生物が産生する多糖類を加水分解し分解物からL−フコースを単離するという方法も試みられている(特許文献3)。しかし、この方法も、単離精製が実際には技術的に困難であり、また収量も極めて少ない。さらに、D−ガラクトースを原料とした化学合成法が知られている(非特許文献1)。しかし、この方法は、ステップ数が多く、収率が低いため、工業的な生産として実用的ではない。
また、酵素を用いた合成法として、L−フクロース−1−リン酸から産生ホスファターゼを用いてL−フコースに転換し、さらにL−フコースイソメラーゼを用いてL−フコースへと転換させる製造方法が知られている(特許文献4)。しかし、この方法で出発物質として用いられるL−フコース−1−リン酸は高価であり、より低コストに生産可能な方法が求められる。
さらに、植物(紅色植物、赤藻類;red alage)由来のNAD−依存型デヒドロゲナーゼを用いたL−フシトールの酸化について報告がされている(例えば特許文献5、非特許文献5など)。しかし、L―フシトールのどの部位を酸化しているのかについては明らかではなく、得られる生成物についてははっきり確認されていない。また一般に、植物由来の酵素は、工業的に利用可能なほど大量に生産することが困難であり、植物由来の酵素であるが故の取り扱いの不便さが伴う。
さらに、微生物を用いたL―フシトールの酸化として、酢酸菌を用いた実験報告がなされている(例えば、非特許文献2、非特許文献3)。しかしながら、これらの報告では酵素の同定はされていない。また、L―フシトールを酸化することにより得られる生成物は、L―フシトールの酸化される部位によって異なるものとなる。この実験報告においては、得られた酸化物の主成分は、L―フコースやL−フクロースではなく、L―フシトールの4位の酸化物(非特許文献2中、L-fuco-4-ketose)であることを報告している。また、糖を基質とする酵素に関し、酢酸菌については様々な研究がなされている(例えば、特許文献6、非特許文献3、非特許文献4など)。
特開昭61−57520号公報 特開平11−35591号公報 特開昭59−51798号公報 国際公開第97/15683号パンフレット 国際公開第02/06506号パンフレット 特開平8−242850号公報 Carbohydrate research 270; 93-96(1995) Journal of American Chemical Society; 4934-4937(1950) Canadian Journal of Chemistry 45: 741-744(1967) Biosci. Biotechnol. Biochem. 65: 2755-2762(2001) Planta 202: 487-493(1997)
上記のように、L−フコースは様々な利用法が期待されているにもかかわらず、工業生産として実用に足るような製造方法は確立されていない。本発明は、簡便性およびコストなどの点において工業的な製法として好適なL−フコースの製造方法を提供することを課題とするものである。
本発明者らは、以下に詳述する実施例のように研究を進めたところ、微生物由来のフシトールデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質の存在を突きとめ、かつL−フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースを生成する活性を有するタンパク質が存在しない或いは活性を抑制させる条件下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる様々な手法を見出し、L−フコース生産における中間体であるL−フクロースの工業的にも好適な製造方法を完成させ、さらに工業的に有利なL−フコースの製造方法を完成させた。すなわち、本発明は、下記のL−フクロースの製造方法およびL−フコースの製造方法を提供するものである。
〔1〕L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有する微生物由来タンパク質の存在下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロースの製造方法。
〔2〕前記微生物が酢酸菌である、上記〔1〕に記載のL−フクロースの製造方法。
〔3〕L−フシトールからL−フクロースを生成し、L―フクロース生成量をL−フシトール酸化物中の50wt%以上にする能力を有する微生物、当該微生物の培養物および当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上の存在下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロースの製造方法。
〔4〕グルコノバクター・キシリナス・サブスピーシーズ・キシリナスおよびグルコノバクター・オキシダンスのうちの少なくとも一方の微生物、当該微生物の培養物、並びに当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上の存在下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロースの製造方法。
〔5〕L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を有し、かつ、L−フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースを生成する能力を実質的に有しない非遺伝子操作微生物、当該非遺伝子操作微生物の培養物および当該非遺伝子操作微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上の存在下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロースの製造方法。〔6〕L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有する微生物由来の第1のタンパク質を有し、かつ、L−フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースを生成する活性を有する第2のタンパク質をコードする遺伝子が破壊された微生物、当該微生物の培養物および当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上の存在下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロースの製造方法。
〔7〕L−フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースを生成する能力を実質的に有せず、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有する微生物由来の第1のタンパク質を発現可能に形質転換された微生物、当該微生物の培養物および当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上の存在下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロースの製造方法。
〔8〕前記微生物が、L−フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースを生成する活性を有する第2のタンパク質をコードする遺伝子が破壊された微生物である、上記〔7〕に記載のL−フクロースの製造方法。
〔9〕L−フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースの生成が抑制される反応条件下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、上記〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載のL−フクロースの製造方法。
〔10〕L−フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースの生成が抑制されるpH条件下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、上記〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載のL−フクロースの製造方法。
〔11〕2価イオンキレート剤が共存し、L−フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースの生成が抑制される条件下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、請求項1から4のいずれか一項に記載のL−フクロースの製造方法。
〔12〕NADHからNADを生成する活性を有するタンパク質の存在下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、上記〔1〕から〔8〕のいずれか一項に記載のL−フクロースの製造方法。
〔13〕L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有する微生物由来タンパク質の存在下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめるL−フクロース生成工程と、
L−フクロースからL−フコースを生成する活性を有するタンパク質の存在下で、L−フクロースからL−フコースを生成せしめるL−フコース生成工程と、
を含む、L−フコースの製造方法。
〔14〕L−フシトールからL−フクロースを生成し、L―フクロース生成量をL−フシトール酸化物中の50wt%以上にする能力を有する微生物、当該微生物の培養物および当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上の存在下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめるL−フクロース生成工程と、
L−フクロースからL−フコースを生成する活性を有するタンパク質の存在下で、L−フクロースからL−フコースを生成せしめるL−フコース生成工程と、
を含む、L−フコースの製造方法。
〔15〕L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を有し、かつ、L−フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースを生成する能力を実質的に有しない非遺伝子操作微生物、当該非遺伝子操作微生物の培養物および当該非遺伝子操作微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上の存在下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめるL−フクロース生成工程と、
L−フクロースからL−フコースを生成する活性を有するタンパク質の存在下で、L−フクロースからL−フコースを生成せしめるL−フコース生成工程と、
を含む、L−フコースの製造方法。
〔16〕L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を有し、かつ、L−フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースを生成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が破壊された微生物、当該微生物の培養物および当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上の存在下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめるL−フクロース生成工程と、
L−フクロースからL−フコースを生成する活性を有するタンパク質の存在下で、L−フクロースからL−フコースを生成せしめるL−フコース生成工程と、
を含む、L−フコースの製造方法。
〔17〕L−フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースを生成する能力を実質的に有せず、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有する微生物由来タンパク質を発現可能に形質転換された微生物、当該微生物の培養物および当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上の存在下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめるL−フクロース生成工程と、
L−フクロースからL−フコースを生成する活性を有するタンパク質の存在下で、L−フクロースからL−フコースを生成せしめるL−フコース生成工程と、
を含む、L−フコースの製造方法。
〔18〕L−フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースを生成する能力を実質的に有せず、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有する微生物由来タンパク質およびL−フクロースからL−フコースを生成する活性を有するタンパク質を発現可能に形質転換された微生物、当該微生物の培養物ならびに当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上の存在下で、L−フシトールからL−フコースを生成せしめる、L−フコースの製造方法。
〔19〕下記(A)または(B)のタンパク質。
(A)配列番号16に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号16に記載のアミノ酸配列において、置換、欠失、挿入、付加および逆位からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸の変異を含むアミノ酸配列を有し、かつ、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質
〔20〕上記〔19〕に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
〔21〕下記(a)または(b)に示すポリヌクレオチド。
(a)配列番号15に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(b)配列番号15に記載の塩基配列と相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下においてハイブリダイズし、かつL−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド〔22〕下記(C)または(D)のタンパク質。
(C)配列番号18に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(D)配列番号18に記載のアミノ酸配列において、置換、欠失、挿入、付加および逆位からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸の変異を含むアミノ酸配列を有し、かつ、NADHオキシダーゼ活性を有するタンパク質
〔23〕上記〔22〕に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
〔24〕下記(c)または(d)に示すポリヌクレオチド。
(c)配列番号17に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(d)配列番号17に記載の塩基配列と相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下においてハイブリダイズし、かつNADHからNADを生成する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
〔25〕上記〔20〕に記載のポリヌクレオチドが組み込まれた組換えポリヌクレオチド。
〔26〕上記〔23〕に記載のポリヌクレオチドが組み込まれた組換えポリヌクレオチド。
〔27〕上記〔20〕に記載のポリヌクレオチドおよび請求項23に記載のポリヌクレオチドが組み込まれた組換えポリヌクレオチド。
〔28〕上記〔25〕に記載の組換えポリヌクレオチドが導入され、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を発現する、形質転換体。
〔29〕上記〔28〕に記載された形質転換体が微生物であり、当該微生物を培地中で培養し、培地中および/または微生物中に、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を蓄積させることを特徴とする、タンパク質の製造方法。
〔30〕上記〔28〕に記載された形質転換体が微生物であり、
当該微生物、当該微生物の培養物および当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上を、L−フシトールを含む反応系に添加し、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロースの製造方法。
〔31〕上記〔28〕に記載された形質転換体が微生物であり、当該微生物、当該微生物の培養物および当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上を、L−フシトールを含む反応系に添加し、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロース生成工程と、
L−フクロースからL−フコースを生成する活性を有するタンパク質の存在下で、L−フクロースからL−フコースを生成せしめるL−フコース生成工程と、
を含む、L−フコースの製造方法。
〔32〕上記〔25〕に記載の組換えポリヌクレオチドおよび請求項26に記載の組換えポリヌクレオチドが導入され、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質およびNADHからNADを生成する活性を有するタンパク質を発現する、形質転換体。
〔33〕上記〔26〕に記載の組換えポリヌクレオチドが導入され、NADHからNADを生成する活性を有するタンパク質を発現する形質転換微生物を培地中で培養し、培地中および/または微生物中に、NADHからNADを生成する活性を有するタンパク質を蓄積させることを特徴とする、タンパク質の製造方法。
〔34〕上記〔32〕に記載された形質転換体が微生物であり、
当該微生物、当該微生物の培養物および当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上を、L−フシトールを含む反応系に添加し、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロースの製造方法。
〔35〕上記〔32〕に記載された形質転換体が微生物であり、当該微生物、当該微生物の培養物および当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上を、L−フシトールを含む反応系に添加し、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロース生成工程と、
L−フクロースからL−フコースを生成する活性を有するタンパク質の存在下で、L−フクロースからL−フコースを生成せしめるL−フコース生成工程と、
を含む、L−フコースの製造方法。
〔36〕上記〔27〕に記載の組換えポリヌクレオチドが導入され、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質およびNADHからNADを生成する活性を有するタンパク質を発現する、形質転換体。
〔37〕上記〔36〕に記載された形質転換体が微生物であり、当該微生物を培地中で培養し、培地中および/または微生物中に、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質およびNADHからNADを生成する活性を有するタンパク質を蓄積させることを特徴とする、タンパク質の製造方法。
〔38〕上記〔36〕に記載された形質転換体が微生物であり、
当該微生物、当該微生物の培養物および当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上を、L−フシトールを含む反応系に添加し、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロースの製造方法。
〔39〕上記〔36〕に記載された形質転換体が微生物であり、当該微生物、当該微生物の培養物および当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上を、L−フシトールを含む反応系に添加し、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロース生成工程と、
L−フクロースからL−フコースを生成する活性を有するタンパク質の存在下で、L−フクロースからL−フコースを生成せしめるL−フコース生成工程と、
を含む、L−フコースの製造方法。
なお、本明細書中の配列番号に示す配列は、特に断らない限り、配列表に記載の配列を指す。
本発明によれば、工業的生産としても好適なL−フクロースの製造方法およびL−フコースの製造方法が提供される。本発明の製造方法は、工業生産として簡便である。また、本発明の製造方法は、副産物の生成を抑制またはなくすことが可能であり、効率の良い製造方法である。また、本発明の製造方法は、D−ガラクトースという低単価の原料を出発物質とすることができるため、製造コストを低減させることができ、工業生産上極めて有利である。
図1は、D−ガラクトースからL−フコースまでの反応工程を示す図である。 図2は、FucI発現酢酸菌によるL−フシトール変換量を示す図である。 図3は、異なるpH条件下でのL−フシトールからのL−フクロース生成時の副生物(BP)の生成量を示す図である。 図4は、EDTAを加えた場合のL−フシトールからのL−フクロース生成時の副生物(BP)の生成量を示す図である。 図5は、sldA遺伝子を破壊した場合のL−フシトールからのL−フクロース生成時の副生物(BP)の生成量を示す図である。 図6は、精製したFcDHのSDS-PAGEの結果を示す図である。 図7は、精製したNOXのSDS-PAGEの結果を示す図である。 図8は、精製FcDHの反応至適pHを測定した結果を示す図である。 図9は、精製FcDHのpH安定性を測定した結果を示す図である。 図10は、精製FcDHの反応至適温度を測定した結果を示す図である。 図11は、精製FcDHの温度安定性を測定した結果を示す図である。 図12は、精製FcDHの(A)D−アラビトール、(B) L−フシトールの濃度に対する比活性を測定した結果を示す図である。 図13は、FcDHによるD−アラビトール、D−マンニトールおよびD−ソルビトールの酸化生成物をHPLC解析によって調べた結果を示す図である。 図14は、精製FcDHのNAD濃度に対する比活性を測定した結果を示す図である 図15は、精製NOXの反応至適pHを測定した結果を示す図である。 図16は、精製NOXのpH安定性を測定した結果を示す図である。 図17は、精製NOXの反応至適温度を測定した結果を示す図である。 図18は、精製NOXの温度安定性を測定した結果を示す図である。 図19は、精製NOXのフラビン補酵素(FAD、リボフラビンおよびFMN)濃度に対する比活性を測定した結果を示す図である。 図20は、精製NOXのNADH濃度に対する比活性を測定した結果を示す図である(図20(A))。図20(B)は、(A)の結果をLineweaver-Burkプロットにて示したものである。 図21は、E. coli/pUC18、E. coli/pIEX11、E. coli/pFEX3052、E. coli/pFNEX4105およびE. coli/pFNIEX5706よりそれぞれ調製した無細胞抽出液のSDS-PAGEによる観察結果を示す図である。 図22は、E. coli/pFEX3052より精製したrFcDHのSDS-PAGE観察結果を示す図である。 図23は、E.coli/pFNEX4105より精製したrNOXのSDS-PAGE観察結果を示す図である。 図24は、G. oxydansより精製したFcDHおよびNOXを用いたL−フシトールの変換時間経過を示した図である。 組換えE. coliより調製したrFcDHおよびrNOXを用いたL−フシトールの変換時間経過を示したものである。 図26は、組換えE. coliインタクトセルによるL−フシトールの変換時間経過を示した図である。 図27は、カタラーゼ存在下でのL−フシトールの変換時間経過を示した図である。
以下、本発明の実施の形態について、その最良の形態を含め、説明する。なお、以下に挙げる種々の遺伝子工学的な技法については、Molecular Cloning, 2nd edition, Cold Spring Harbor press (1989)、細胞工学ハンドブック、黒木登志夫ら編、羊土社(1992)、新遺伝子工学ハンドブック改訂第3版、村松ら編、羊土社(1999)など、多くの当業者にとって標準的な実験マニュアルがあり、これらマニュアルおよび本明細書を参照することにより当業者が実施可能である。
1.L−フクロースの製造方法
1−1 微生物由来タンパク質を用いる形態
本発明のフクロースの製造方法では、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有する微生物由来タンパク質を用いてL−フシトールからL−フクロースを生成する。下記実施例において詳説されるが、本発明者らは、微生物において、L−フシトールからL−フクロースを生成する活性を有するタンパク質と、L−フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースを生成する活性を有するタンパク質とが別個に存在することを見出した。したがって、L−フクロースからL−フクロースを生成する活性を有するタンパク質を、所定の微生物から得ることにより、L−フクロース以外の副産物の生成を低減またはなくすことができる。また、微生物由来のタンパク質であるため、植物、動物などの細胞に由来するタンパク質より、単離、精製等の取り扱いが簡便であり、酵素の大量生産を行うための微生物での異種組換え大量発現を考える際でも、宿主との相性の点で有利である。また微生物を培養することは、植物、動物細胞の培養より容易であり、工業的生産を行うために要する量を十分に得ることも容易である。
なお、下記に別途詳説するが、本発明者らは、Gluconobacter oxydansから単離されたタンパク質に基づき、そのアミノ酸配列および塩基配列を特定した。
さらに、L―フシトールはL−ガラクトースという安価な原料から容易に得られるため、本発明のL―フクロースの製造方法は、コストの低減を図ることができ、工業生産として有利である。D―ガラクトースからL―フシトールを得る方法に方法については、例えば非特許文献1などに記載されている。
用いられるタンパク質は、微生物由来であって、かつ、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するものであればよい。なお、本明細書においては、微生物には、原核微生物、真核微生物およびウイルスが含まれるが、藻類を含む植物細胞は含まない。このようなタンパク質を得ることができる微生物としては、例えば、酢酸菌などが挙げられる。酢酸菌としてより具体的には、グルコノバクター属に属する細菌およびアセトバクター属に属する細菌などが挙げられ、より具体的には、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)、グルコノバクター・フラテウリ(Gluconobacter frateurii)、アセトバクター・メラノゲナス(Acetobacter melanogenus)、グルコノバクター・ロセウス(Gluconobacter roseus)、グルコノバクター・セリナス(Gluconobacter cerinus)、グルコノバクター・オキシダンス・サブスピーシーズ・サブオキシダンス(Gluconobacter oxydans subsp. suboxydans)、アセトバクター・タービダンス(Acetobacter melanogenus)、グルコノバクター・キシリナス・サブスピーシーズ・キシリナス(Gluconobacter xylinus subsp. xylinus)、アセトバクター・オーランティウス(Acetobacter aurantius)、グルコノバクター・メラノゲナス(Gluconobacter
melanogenus)、グルコノバクター・スクレロイデウス(Gluconobacter scleroideus)、グルコノバクター・サブオキシダンス(Gluconobacter suboxydans)等が例示される。より具体的には、例えば、下記表1に記載の各種菌株から、上記タンパク質を得ることができる。
このような微生物を十分な量得るには、これらの微生物を種類に応じて適当な培地で培養増殖せしめるとよい。このための培地はその微生物が増殖し得るものであれば特に制限はなく、通常の炭素源、窒素源、リン源、硫黄源、無機イオン、更に必要に応じ有機栄養源を含む通常の培地でよい。
例えば、炭素源としては上記微生物が利用可能であればいずれも使用でき、具体的には、グルコース、フラクトース、マルトース、アミロース等の糖類、ソルビトール、エタノール、グリセロール等のアルコール類、フマル酸、クエン酸、酢酸、プロピオン酸などの有機酸類及びこれらの塩類、パラフィンなどの炭化水素類あるいはこれらの混合物などを使用することができる。
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどの無機酸のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウムなどの有機酸のアンモニウム塩、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの硝酸塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの有機窒素化合物あるいはこれらの混合物を使用することができる。
他に無機塩類、微量金属塩、ビタミン類等、通常の培地に用いられる栄養源を適宜混合して用いることができる。
培養条件にも格別の制限はなく、例えば、好気的条件下にてpH5〜8、温度15〜40℃の範囲でpHおよび温度を適当に制限しつつ12〜70時間程度培養を行えばよい。
微生物由来のタンパク質の精製には、通常タンパク質の精製を行うために用いられる全ての定法、例えば硫安塩析法、ゲル濾過法、イオン交換クロマトグラフィー法、疎水クロマトグラフィー法等を採用し得る。精製する際には、菌体抽出液を出発材料として精製することになるが、未破砕あるいは未溶菌残査が存在するようであれば、可溶化液を再度遠心分離操作に供し、沈殿する残査を除いた方が、精製に有利である。
L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有する微生物由来タンパク質を用いてL−フシトールからL−フクロースを生成するには、L−フシトールと上記微生物由来タンパク質とを媒体中で接触させるなどすればよく、例えば、緩衝溶液中などにL−フシトールと上記微生物由来の精製タンパク質を添加するなどして反応させればよい。pH、温度、反応時間、酵素添加量等の時間は、上記微生物由来タンパク質の種類などに応じて適宜変更してよい。例を挙げると、pHについては、好ましくは5〜11、より好ましくは7〜10である。また、温度については、好ましくは、20〜50℃、より好ましくは25〜40℃である。
1−2 微生物、その培養物または菌体処理物を用いる形態
次に、微生物、微生物の培養物または微生物の菌体処理物を用いた方法について説明する。上記のような微生物由来タンパク質を用いてL−フクロースを生成する形態として、上記のような微生物由来タンパク質を有する微生物、その培養物または微生物の菌体処理物を用いることもできる。しかし、微生物そのものを用いる場合、その微生物がL−フクロース以外のケトヘキソース(以下、副産物ともいう)を生成する能力も有する場合があるため、微生物そのものを用いる場合には、副産物の生成が少ないものを用いることが好ましい。すなわち、用いられる微生物の特徴として、(i)L−フシトールからL−フクロースを生成する能力を有すること、(ii)さらにL―フクロース生成量として、L−フシトールを酸化して得られる酸化物中の、好ましくは50wt%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上をL−フクロースがしめるように、L−フクロースを生成する能力を有することの少なくとも2つの性質を兼ね備えた微生物が用いられることが好ましい。
上記(i)および(ii)の条件を兼ね備えた微生物として、好ましくはグルコノバクター・キシリナス・サブスピーシーズ・キシリナスおよびグルコノバクター・オキシダンスなどが挙げられ、より好ましくはグルコノバクター・キシリナス・サブスピーシーズ・キシリナス ATCC53582株、あるいはATCC23767株、およびグルコノバクター・オキシダンス IFO 3189株などが挙げられ、さらに好ましくはグルコノバクター・キシリナス・サブスピーシーズ・キシリナス ATCC53582株が挙げられる。これらの微生物は、下記に示すような遺伝子操作等をしなくても、L−フクロース以外のケトヘキソースを実質的に生成しない、または生成量が少ない微生物である。
すなわち、本発明の好ましい他の実施形態として、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を有し、かつ、L−フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースを生成する能力を実質的に有しない非遺伝子操作微生物等を用いるという形態も提供される。実質的に有しないとは、下記実施例1に示す条件において、副産物の生成量が検出限界以下であることをいい、数値により具体的に例示すると、約1mM以下であることをいう。
なお、遺伝子操作微生物とは、遺伝子工学的な手法を用いて人為的に遺伝子を操作された微生物のことをいい、自然界において発生した突然変異体などは含まない。非遺伝子操作微生物とは、遺伝子操作微生物ではないもののことをいう。
微生物の培養物とは、微生物を培養して得られる物のことであり、より具体的には、微生物菌体、その微生物の培養に用いた培地および培養された微生物により生成された物質の混合物、さらにその上清などを含む。
菌体処理物とは、微生物の菌体すなわち微生物の細胞に何らかの人為的操作を加えたものをいい、例えば、菌体処理物には、菌体を破砕、溶菌、凍結乾燥したものなどが含まれる。また、菌体処理物には、菌体などを処理して回収される粗タンパク質、さらに精製した精製タンパク質なども含まれる。精製処理されたタンパク質としては、各種精製法によって得られる部分精製タンパク質等を使用してもよいし、これらを共有結合法、吸着法、包括法等によって固定化した固定化タンパク質としてもよい。
上記のように、菌体処理物には、微生物細胞が有する細胞内容物が混在した状態のものが含まれる。したがって、菌体処理物を用いる場合、副産物を生成してしまう他のタンパク質が混在している場合があり得るため、菌体処理物を用いる場合にもL―フクロース生成量をL−フシトール酸化物中の50wt%以上にする能力を有する微生物を用いることが好ましい。なお、微生物からL−フシトールからL−フクロースを生成する活性を有するタンパク質を十分に精製し、この精製タンパク質を用いる場合には、微生物は単なる由来元であり、既に上記にて説明したとおり、微生物が副産物を生成するか否かによって制限されるものではない。
微生物を用いてL−フクロースを生成する場合、微生物を培養し、微生物の培養物中にL−フシトールを添加するなど、微生物に由来するL−フクロース生成活性を有するタンパク質がL−フシトールを基質として反応が行われるようにすればよい。また、菌体処理物を用いる場合にも、同様に、菌体処理物とL−フシトールとを混合し、微生物に由来するL−フクロース生成活性を有するタンパク質がL−フシトールを基質とする反応が行われるようにすればよい。すなわち、酵素や生体活性物質などを利用した反応系に準じて反応系を構築すればよい。
1−3 遺伝子操作株を用いる形態
本発明の他の実施形態として、L−フクロース生成活性を有する第1のタンパク質を有する一方で、副産物を生成する活性を有する第2のタンパク質をコードする遺伝子が破壊された微生物を用いる形態が提供される。本来は副産物を生成してしまう微生物であっても、副産物を生成する原因となる酵素遺伝子等を破壊することにより、L−フクロースの製造に適した微生物とすることができ、副産物の生成が実質的になく効率のよいL−フクロース生産を行うことができる。
遺伝子破壊とは、標的とするタンパク質の遺伝子に改変が加えられ、そのタンパク質本来の機能を低下または失わせることをいう。遺伝子とは、遺伝情報をコードする媒体のことをいい、媒体としては、例えば、DNA、RNAおよびこれらのハイブリッド分子もしくはキメラ分子などのポリヌクレオチドが含まれる。遺伝子破壊には、例えば、タンパク質自体を変性させるように、欠失、置換、挿入および逆位などの変異を導入したり、転写阻害、翻訳阻害等によりそのタンパク質の発現を阻害するなどの手法が含まれる。
遺伝子を破壊する方法には特に制限はない。遺伝子を破壊する方法としては、例えば、遺伝子を突然変異させるか、あるいは、同遺伝子を欠損すればよい。遺伝子の不活性化はUV照射やニトロソグアニンジン(N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine)による変異処理、部位特異的変異法、相同組み換え、または「Red-driven integration」とも呼ばれる挿入−欠失変異法(Datsenko K.A. and Wanner B.L.、 Proc. Natl. Acad. Sci. USA、 2000年, 第97巻、第12号、p6640-45)による遺伝子破壊などの一般的な方法によって行うことができる。
例えば、相同組み換えによる遺伝子の破壊をする場合、標的とする遺伝子の一部を欠失し、正常に機能するペプチダーゼを産生しないように改変した欠失型遺伝子を含むDNA(組み換え体)を調製する。欠失型遺伝子を含むDNAで微生物を形質転換し、欠失型ペプチダーゼ遺伝子と染色体上のペプチダーゼ遺伝子との間で組換えを起こさせることにより、染色体上のペプチダーゼ遺伝子を欠損した微生物が得られる。
遺伝子破壊の対象となる第2のタンパク質としては、L―フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースの生成する活性が高いタンパク質が好適である。
また、遺伝子操作を加えた微生物を用いる他の実施形態として、L−フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースを生成する能力を実質的に有せず、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有する微生物由来の第1のタンパク質を発現可能に形質転換された微生物等を用いる形態が提供される。本来L−フクロース生成活性を有するタンパク質を保有していなくても、このようなタンパク質を発現するように遺伝子を導入した形質転換体を作製することにより、L−フクロースの製造に適した微生物を得ることができる。また、形質転換体を作製する場合、元々副産物を生成する能力を持たないものを選択することにより、副産物を生成せずL−フクロースを効率よく生成する微生物を容易に得ることができる。
なお、L−フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースを生成する能力を実質的に有しない微生物としては、元来そのような能力を有しないもののほか、L−フクロース以外のケトヘキソースを生成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が破壊された微生物を用いることもできる。遺伝子破壊の対象とするタンパク質としては、上記と同様に、例えばD−アラビトールからD−キシルロースを生成する活性を有するタンパク質などが挙げられる。
形質転換体の作製は、定法に従って行うことができる。例えば、次のようにして形質転換体を得ることができる。上記の微生物からL―フコース生成活性を有するタンパク質などの目的タンパク質を得て、精製された目的タンパク質のアミノ酸配列を決定する。エドマン法(Edman,P., Acta Chem. Scand. 4, 227 (1950))を用いてアミノ酸配列を決定することができる。またApplied Biosystems社製などのシークエンサーを用いてアミノ酸配列を決定することができる。精製されたタンパク質について、N末端から30残基のアミノ酸配列を決定し、明らかとなったアミノ酸配列に基づいて、これをコードするDNAの塩基配列を演繹できる。DNAの塩基配列を演繹するには、ユニバーサルコドンを採用する。
演繹された塩基配列に基づいて、30塩基対程度のDNA分子を合成する。DNA分子を合成する方法はTetrahedron Letters, 22, 1859 (1981)に開示されている。また、Applied Biosystems社製などのシンセサイザーを用いてDNA分子を合成できる。このようにして合成されたDNA分子は、目的タンパク質をコードするDNA全長を、微生物の染色体遺伝子ライブラリーから単離する際に、プローブとして利用できる。あるいは、目的タンパク質をコードするDNAを、PCR法で増幅する際にプライマーとして利用できる。
PCR法の操作については、White, T.J. et al., Trends Genet. 5, 185 (1989)等に記載されている。染色体DNAを調製する方法、さらにDNA分子をプローブとして用いて、遺伝子ライブラリーから目的とするDNA分子を単離する方法については、Molecular Cloning, 2nd edition, Cold Spring Harbor press(1989)等に記載されている。
単離された目的タンパク質をコードするDNAの塩基配列を決定する方法は、A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley & Sons, Inc. (1985)に記載されている。また、Applied Biosystems社製などのDNAシークエンサーを用いて、塩基配列を決定することができる。
次に、目的タンパク質を発現する形質転換体の作製について説明する。組み換えDNA技術を利用して酵素、生理活性物質等の有用タンパク質を製造する例は数多く知られており、組み換えDNA技術を用いることで、天然に微量に存在する有用タンパク質であっても大量生産できる。
目的タンパク質を発現する形質転換体を作製するためには、上記のようにして単離されたDNAを宿主細胞に導入すればよい。すなわち、単離されたDNAを宿主細胞で発現可能な発現ベクターに組み込み、これを宿主細胞に導入する。
タンパク質を組み換えDNA技術を用いて大量生産する場合、形質転換される宿主細胞としては、細菌細胞、放線菌細胞、酵母細胞、カビ細胞、植物細胞、動物細胞等を用いることができるが、一般に腸内細菌、好ましくは大腸菌(エシェリヒア・コリ、Escherichia coli)などが好適である。大腸菌などの腸内細菌を用いてタンパクを大量生産する技術について数多くの知見があるためである。以下、形質転換された大腸菌を用いて導入されたタンパク質を製造する方法について説明する。
目的タンパク質をコードするDNAを発現させるプロモータとしては、通常大腸菌における異種タンパク質生産に用いられるプロモータを使用することができ、例えば、T7プロモータ、lacプロモータ、trpプロモータ、trcプロモータ、tacプロモータ、ラムダファージのPRプロモータ、PLプロモータ等の強力なプロモータが挙げられる。
これらの目的タンパク質をコードする遺伝子とを連結する際には、コドンの読み取りフレームが一致するようにする。適当な制限酵素部位で連結するか、あるいは適当な配列の合成DNAを利用すればよい。
また、生産量を増大させるためには、タンパク質遺伝子の下流に転写終結配列であるターミネータを連結することが好ましい場合がある。このターミネータとしては、T7ターミネータ、fdファージターミネータ、T4ターミネータ、テトラサイクリン耐性遺伝子のターミネータ、大腸菌trpA遺伝子のターミネータ等が挙げられる。
目的タンパク質をコードする遺伝子を大腸菌に導入するためのベクターとしては、いわゆるマルチコピー型のものが好ましく、ColE1由来の複製開始点を有するプラスミド、例えばpUC系のプラスミドやpBR322系のプラスミドあるいはその誘導体が挙げられる。ここで、「誘導体」とは、塩基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位などによってプラスミドに改変を施したものを意味する。なお、ここでいう改変とは、変異剤やUV照射などによる変異処理、あるいは自然変異などによる改変をも含む。より具体的には、ベクターとしては、例えば、pUC19、pUC18、pBR322、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218等を用いることができる。他にもファージDNA、トランスポゾンDNAのベクターも利用できる。
また、形質転換体を選別するために、該ベクターがアンピシリン耐性遺伝子等のマーカーを有することが好ましい。このようなプラスミドとして、強力なプロモータを持つ発現ベクターが市販されている(pUC系(宝酒造(株)製)、pPROK系(クローンテック製)、pKK233−2(クローンテック製)ほか)。
プロモータ、ペプチド生成酵素またはペプチド生成酵素と他のタンパク質との融合タンパク質をコードする遺伝子、ターミネータの順に連結したDNA断片と、ベクターDNAとを連結して組み換えDNAを得る。
得られた組み換えDNAを用いて大腸菌を形質転換し、この大腸菌を培養すると、目的タンパク質が発現生産される。形質転換される宿主は、異種遺伝子の発現に通常用いられる株を使用することができるが、例えば、大腸菌K12亜種の一種であるエシェリヒア・コリ JM109株が好ましい。形質転換を行う方法、および形質転換体を選別する方法はMolecular Cloning, 2nd edition, Cold Spring Harbor press (1989)等に記載されている。
生産培地としては、M9−カザミノ酸培地、LB培地など、大腸菌を培養するために通常用いる培地を用いてもよい。また、培養条件、生産誘導条件は、用いたベクターのマーカー、プロモータ、宿主菌等の種類に応じて適宜選択する。
目的タンパク質の回収は、上記にて説明したタンパク質の分離、精製と同様の手法により行うことができる。
1−4 副産物生成を抑制する反応条件下で製造する形態
L―フシトールからL―フクロース以外の副産物を生成してしまう微生物等を用いた場合であっても、副産物の生成を抑制する条件下でL―フシトールの酸化反応を行うことにより、工業的な生産方法として耐えうるL―フクロースの製法とすることができる。副産物の生成を抑制するためには、例えば、pH条件を調整する、副産物生成を司る酵素を選択的に阻害する阻害剤を加えるなどの手法をとり得る。
副産物の生成を抑制し得るpH条件は、微生物の種類等によって異なるため、微生物の種類に応じて予備実験を行う。予備実験は、例えば下記実施例に示すような条件にて行うことができ、下記実施例に基づけば当業者は容易に副産物を抑制するpH条件を設定し得る。
副産物の生成を抑制するために、反応系に、副産物の生成阻害剤を添加してもよい。阻害剤は、L―フシトールからのL―フクロースの生成はまったく阻害しないものが望ましいが、相対的に副産物の生成に比べてL―フクロースを十分に生成し得るものであれば、使用可能である。副産物の生成阻害剤としては、例えば、2価イオンキレート剤などが挙げられ、好ましくは、EDTA(エチレンジアミン四酢酸塩)などが挙げられる。
1−5 NAD供給系
下記実施例に示されるように、L―フシトールからL−フクロースを生成する活性を有するタンパク質は、NAD依存性を有することが示された。この場合、NADは生成するL−フクロースとモル数で等量必要となるが、NADは高価であり、工業的生産を考える場合、等量のNADの添加はその生産価格の点で不利である。係る知見に基づき、L−フクロース生成の際にNADから変換生成するNADHから、NADを再生成する活性を有するタンパク質の存在下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロースの製造方法が提供される。NADが供給される反応系とすることにより、連続的に効率よくL―フクロースの生産が可能であり、工業生産として極めて有利である。
NADHからNADを生成する活性を有するタンパク質は、L―フシトールからL―フクロースを生成する能力を有する微生物が有している場合があり、この場合その微生物またはその微生物の菌体処理物を反応系に加えればよいことになる。また、反応系にNADHからNADを生成する活性を有するタンパク質が存在しない場合には、この活性を有するタンパク質を添加すればよい。NADHからNADを生成する活性は、多くのデヒドロゲナーゼ類が有しており、これらデヒドロゲナーゼの還元活性を利用すれば良いが、この場合、NADHは補酵素として利用されるため、他にこの反応の基質も併せて添加する必要がある。これらデヒドロゲナーゼ類の他、NADHをNADに酸化するオキシダーゼやペルオキシダーゼを用いることもできる。NADHオキシダーゼでは反応に必要な基質は酸素であり、ペルオキシダーゼでは過酸化水素である。前者の場合は、反応液を攪拌する等によって反応液中に容易に供給することができるし、後者の場合でも過酸化水素は非常に安価であり、費用の点で有利である。これらオキシダーゼ、ペルオキシダーゼは、公知のものを用いることができ、市販品も存在する。
2.L−フコースの製造方法
次に、本発明のL―フコースの製造方法について説明する。本発明のL―フコースの製造方法は、上記本発明のL―フクロースの製造方法に従い、L―フクロースを生成するL―フクロース生成工程と、L―フクロースからL―フコースを生成する、L―フコース生成工程とを含むものである。上記各行程は、別個の反応系において行っても、同一反応系において行ってもよい。L―フクロースの原料となるL―フシトールは、上記で説明したとおり、D―ガラクトースという安価な材料から容易に得られ、また本発明の方法は簡便であることから、本発明のL―フコースの製造方法は、簡便で、コストを低減することができる工業的優れた方法である。
L―フクロース生成工程は、上記「1.L―フクロースの製造方法」の欄にて説明したとおりである。本発明のL―フクロースの製造方法においても、上記の様々な実施形態が採用され得る。
次に、L―フコース生成工程について説明する。L―フクロースからL―フコースを生成する方法は、例えば、特許文献5などに示されている。より具体的には、好ましくはL―フコースイソメラーゼが用いて、L―フコースを得る。L―フコースイソメラーゼは、例えば、National Center for Biotechnology Information等のデータベースに配列が登録されている。
L―フコースイソメラーゼを用いる場合、L−フコースイソメラーゼを発現するように形質転換された微生物を作製してL―フコースイソメラーゼを生成させ、L―フコースイソメラーゼを単離して用いてもよいし、L−フコースイソメラーゼを発現するように形質転換された微生物またはこの微生物の菌体処理物を用いてもよい。形質転換体の作製は、上記「1―3 遺伝子操作株を用いる実施形態」の欄で説明した手法と同様にして行うことができる。
本発明のL―フコースを製造する方法の好ましい一実施形態として、共発現体を作製し、これを用いて一つの反応系においてL―フシトールからL―フコースを生成する形態が挙げられる。すなわち、L−フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースを生成する能力を実質的に有せず、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有する微生物由来タンパク質およびL−フクロースからL−フコースを生成する活性を有するタンパク質を発現可能に形質転換された微生物ならびに当該微生物の菌体処理物のうちの少なくとも一方の存在下で、L−フシトールからL−フコースを生成せしめる。上記のような共発現体を作製して、これを用いることにより、工程を簡略化することができ、工業的生産として極めて有用である。
3.L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質およびこれをコードするポリヌクレオチド
L−フシトールからL−フクロース以外のケトヘキソースを生成する能力を実質的に有せず、かつL−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質として具体的には下記(A)または(B)のタンパク質が挙げられる。
(A)配列番号16に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号16に記載のアミノ酸配列において、置換、欠失、挿入、付加および逆位からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸の変異を含むアミノ酸配列を有し、かつ、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質
上記(A)のタンパク質は、Gluconobacter oxydans IFO 3255などから単離し得る。本発明のタンパク質としては(A)と実質的に同一のタンパク質も含まれ、具体的には(B)のタンパク質がこれに該当する。さらに、表1に記載の各菌株等からも実質的に同一のタンパク質は単離し得る。しかしながら、上記配列によって特定される本発明のタンパク質等は、その単離由来等に限定されるものではない。下記に詳説するように、上記の配列に基づき遺伝子組換え技術を用いて形質転換微生物等を作製し、上記タンパク質を製造することができる。
ここで、「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造や活性を大きく損なわない範囲のものであり、具体的には、2〜100個、好ましくは2〜50個、さらに好ましくは2〜30個、さらに好ましくは2〜10個である。ただし、(B)タンパク質のアミノ酸配列において1または数個の置換、欠失、挿入、付加および逆位からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸の変異を含むアミノ酸配列の場合には、30℃、pH9.5の条件下で、(A)のタンパク質の半分程度以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の酵素活性を保持していることが望ましい。
上記(B)に示されるようなアミノ酸の変異は、例えば部位特異的変異法によって、本タンパク質をコードする遺伝子の特定部位のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加などされるように塩基配列を改変することによって得られる。また、上記のような改変された塩基配列を有するポリペプチドは、従来知られている突然変異処理によっても取得され得る。突然変異処理としては、(A)をコードするDNAをヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、及び(A)をコードするDNAを保持するエシェリヒア属細菌を、紫外線照射またはN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくは亜硝酸等の通常人工突然変異に用いられている変異剤によって処理する方法が挙げられる。
また、上記のような塩基改変に伴うアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、および逆位等の変異には、微生物の種あるいは菌株による差等、天然に生じる変異も含まれる。上記のような変異を有するDNAを適当な細胞で発現させ、発現産物の本酵素活性を調べることにより、配列番号16に記載のタンパク質と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは得られる。
本発明の製造方法で用いられるタンパク質をコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号16に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。コドンの縮重により、1つのアミノ酸配列を規定する塩基配列は複数あり得る。すなわち、本発明のポリヌクレオチドには下記のタンパク質をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドが含まれる。
(A)配列番号16に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号16に記載のアミノ酸配列において、置換、欠失、挿入、付加および逆位からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸の変異を含むアミノ酸配列を有し、かつ、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を有するタンパク質
配列番号16に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列として配列番号15に記載の塩基配列が例示される。さらに、配列番号15に示す塩基配列を有するDNAと実質的に同一のポリヌクレオチドとして次のようなポリヌクレオチドが挙げられる。配列番号15に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドまたはこれを保持する細胞などから、配列番号15に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドもしくは同塩基配列から調製されるプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを単離することによって、配列番号15に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドと実質的に同一のポリヌクレオチドが得られる。
すなわち、本発明のポリヌクレオチドとして好ましくは、具体例として下記(a)または(b)に示すポリヌクレオチドが挙げられる。
(a)配列番号15に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(b)配列番号15に記載の塩基配列と相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつL−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
プローブは、例えば配列番号15に記載の塩基配列に基づいて定法により作製することができる。また、プローブを用いてこれとハイブリダイズするポリヌクレオチドをつり上げ、目的とするポリヌクレオチドを単離する方法も、定法に従って行えばよい。例えば、DNAプローブはプラスミドやファージベクターにクローニングされた塩基配列を増幅し、プローブとして用いたい塩基配列を制限酵素により切り出し、抽出して調製することができる。切り出す箇所は、目的とするDNAに応じて調節することができる。
ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。このような条件でハイブリダイズする遺伝子の中には途中にストップコドンが発生したものや、活性中心の変異により活性を失ったものも含まれるが、それらについては、市販の発現ベクターにつなぎ、適当な宿主で発現させて、発現産物の酵素活性を下記実施例に記載の方法で測定することによって容易に取り除くことができる。
なお、上記のように、(B)のタンパク質をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドおよび上記(b)のポリヌクレオチドの場合には、30℃、pH9.5の条件下で、配列番号1の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質の半分程度以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上のL−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を保持しているタンパク質をコードしていることが望ましい。
配列番号15の塩基配列を有するDNAは、例えば、Gluconobacter oxydans IFO 3255またはIFO 3171の染色体DNA、もしくはDNAライブラリーから、PCR(polymerase
chain reaction、White,T.J. et al ;Trends Genet., 5, 185(1989)参照)またはハイブリダイゼーションによって取得することができる。PCRに用いるプライマーは、例えばペプチド生成活性を有する精製タンパク質に基づいて決定された内部アミノ酸配列に基づいて設計することができる。PCR用のプライマーとして、5'非翻訳領域及び3'非翻訳領域に対応する配列を有するプライマーを用いると、本タンパク質のコード領域全長を増幅することができる。
プライマーの合成は、例えば、Applied Biosystems社製DNA合成機 model 380Bを使用し、ホスホアミダイト法を用いて(Tetrahedron Letters(1981),22,1859参照)常法に従って合成できる。PCR反応は、例えばGene Amp PCR System 9600(PERKIN ELMER社製)及びTaKaRa LA PCR in vitro Cloning Kit(Takara Bio Inc.製)を用い、各メーカーなど供給者により指定された方法に従って行うことができる。
上記のポリヌクレオチドを用いて、発現ベクターなどの組換えポリヌクレオチドおよび形質転換体を作製する方法については、上記「1−3 遺伝子操作株を用いる形態」の欄にて説明したとおりである。
4.NADHオキシダーゼ活性を有するタンパク質およびこれをコードするポリヌクレオチド
上記のように、本発明のフクロースの製造方法の好ましい形態一形態としてはNADHオキシダーゼを反応系内に添加する形態が挙げられる。ここで用いられるNADHオキシダーゼの具体例としては下記(C)または(D)のタンパク質が例示される。
(C)配列番号18に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(D)配列番号18に記載のアミノ酸配列において、置換、欠失、挿入、付加および逆位からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸の変異を含むアミノ酸配列を有し、かつ、NADHオキシダーゼ活性を有するタンパク質
上記(C)のタンパク質は、Gluconobacter oxydans IFO 3255などから単離し得る。本発明のタンパク質としては(C)と実質的に同一のタンパク質も含まれ、具体的には(D)のタンパク質がこれに該当する。さらに、表1に記載の各菌株等からも実質的に同一のタンパク質は単離し得る可能性もある。
上記にいう「数個」の意義、変異の導入方法や種類等は、上記「3.L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質およびこれをコードするポリヌクレオチド」における説明と同様である。しかしながら、上記配列によって特定される本発明のタンパク質等は、その単離由来等に限定されるものではない。
本発明の製造方法で用いられるタンパク質をコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号18に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが例示される。コドンの縮重により、1つのアミノ酸配列を規定する塩基配列は複数あり得る。すなわち、本発明のポリヌクレオチドには下記のタンパク質をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドが含まれる。
(C)配列番号18に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(D)配列番号18に記載のアミノ酸配列において、置換、欠失、挿入、付加および逆位からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸の変異を含むアミノ酸配列を有し、かつ、NADHデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質
配列番号18に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列として配列番号17に記載の塩基配列が例示される。すなわち、本発明のポリヌクレオチドとして好ましくは、具体例として下記(c)または(d)に示すポリヌクレオチドが挙げられる。
(c)配列番号17に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(d)配列番号17に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつNADHデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
「ストリンジェントな条件」、単離のためのプローブやプライマーの作製方法、これらを利用したDNAの単離方法などは、上記「3.L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質およびこれをコードするポリヌクレオチド」における説明と同様である。
NADHオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドを発現ベクターなどの組換えポリヌクレオチドに組み込む場合、上記のポリヌクレオチドを単独で組み込んだ組換え体を作製してもよいし、あるいは、「L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質」をコードするポリヌクレオチドと共に同じ組換え体に組み込んでもよい。さらに、形質転換体を作製する場合においても、上記NADHオキシダーゼを発現する形質転換体と、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を発現する形質転換体とを別個に作製してもよいし、あるいは同じ微生物内で共発現するように設計してもよい。但し、本発明のように他のデヒドロゲナーゼと共に用いて、NADの再生系として用いる場合には、デヒドロゲナーゼ、NADHオキシダーゼ、およびNADは同じ反応場に存在することが必要であり、生産された酵素を用いる酵素反応、細胞膜を破砕した菌体処理物を用いる場合は、デヒドロゲナーゼとNADHオキシダーゼをそれぞれ別の宿主で生産しても良いが、未処理の菌体を触媒として用いる場合には、両酵素を同一の宿主内に共発現させることが望ましい。
以下、実施例を挙げ、本発明についてより詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
実施例1:L−フシトール(L-fucitol)を酸化し、L−フクロース(L-fuculose)を生成する微生物の探索1
YPG寒天培地(10 g/l glycerol, 0.3 g/l yeast extract, 0.3 g/l peptone, 20 g/l agar, pH 6.5)で30℃、18〜66時間培養することによりリフレッシュした酢酸菌菌株を、120℃、20分のオートクレーブにより滅菌した10 g/l (61 mM) L−フシトール, 10 g/l glycerol, 3 g/l yeast extract, 3 g/l peptone, 20 g/l CaCO3, pH 6.5からなる液体培地0.5 mlに1白金耳シードし、30℃で42時間振盪培養した。培養は1ウェルあたり2 ml容の96穴マイクロプレートを用いた。培養液から遠心操作により菌体を除去し、遠心上清を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)解析にて分析し、生成したL−フクロース濃度を定量した。HPLC分析条件は、
カラム:Shodex製 Sugar SC1011、直径10 mm、長さ300 mm
カラム温度:75℃
移動相:50 ppm Ca-EDTA in H2O
流速:1.2 ml/min
検出:示差屈折(RI)検出器
である。
この分析により、L−フコースは分析時間約7.6分、L−フシトールは分析時間約11.9分、L−フクロースは分析時間約13.6分にそれぞれ溶出した。L−フシトールおよびL−フコースはSigma社製の市販標品を標準化合物として用いることにより、その溶出位置確認と分析標品中の濃度算出を行った。L−フクロース標準標品は市販品を入手することができないため、下記詳細するL−フコースイソメラーゼによってL−フコースから生成する物質をL−フクロースとみなした。また、この場合、残存L−フコースと生成L−フクロースのチャート上での両ピークの積分値(ピークエリア値)の和は、L−フコースイソメラーゼの作用の前後でほぼ変化なく一定であったため、単位濃度あたりのL−フクロースの示すピークエリア値は、同L−フコースの示すそれと同じとみなし、分析標品中のL−フクロース濃度を算出した。なお、検出限界はいずれも、下記実施例の分析の場合には1 mM程度である。また多くの分析において、そのピークエリアの大きさからL-フシトール由来の変換物と思われる未同定ピークが分析時間約8.0分に観察された。この分析時間約8.0分に溶出する未同定物質(以下BPと呼ぶ)の濃度検定は、便宜上、L−フクロース同様、L−フコースの単位濃度あたりのピークエリア値を用いて算出した。分析結果を表1に示す。なお、以下、「Gluconobacter」は、「G.」と、また「Acetobacter」は「A.」と略記する場合がある。
上記菌株のうち、ATCC番号が記載されているものは、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(P.O.Box 1549 Manassas, VA 20110, the United States of America)に寄託されており、各番号を参照して分譲を受けることができる。上記菌株のうち、IFO番号が記載されているものは、財団法人発酵研究所(日本国大阪市淀川区十三本町2丁目17−85)に寄託されたものであるが、平成14年6月30日以降、その業務は独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)・バイオテクノロジー本部(DOB)・生物遺伝資源部門(NBRC)に移管され、NBRCより上記IFO番号を参照して分譲を受けることができる。
実施例2:L−フシトールを酸化し、L−フクロースを生成する微生物の探索2
L−フシトールに構造の類似したズルシトール(dulcitol)によるL−フシトール酸化酵素の発現誘導を試みる意味で、YP-dulcitol寒天培地(10 g/l dulcitol, 0.3 g/l yeast extract, 0.3 g/l peptone, 20 g/l agar, pH 6.5)で30℃、18〜66時間培養することによりリフレッシュした酢酸菌の菌株を、120℃、20分のオートクレーブにより滅菌した10 g/l L−フシトール, 3 g/l yeast extract, 3 g/l peptone, pH 6.5からなる液体培地0.5 mlに1白金耳シードし、30℃で42時間振盪培養した。この培養液を実施例1と同様に分析を行った。分析結果を表2に示す。
実施例1、2のいずれにおいてもL−フシトールを原料にL−フクロースを生成するグルコノバクター(Gluconobacter)属あるいはアセトバクター(Acetobacter)属に属する酢酸菌が複数見出されたが、その多くはL−フクロース以外のBPをも同時に生じ、L−フクロースのみを生成する微生物はグルコノバクター・キシリナス・サブスピーシシーズ・キシリナス(Gluconobacter xylinus subsp. xylinus)ATCC53582株の1株のみであった。グルコノバクター・キシリナス・サブスピーシーズ・キシリナスATCC53582株の他、グルコノバクター・キシリナス・サブスピーシーズ・キシリナスATCC23767株、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)IFO 3189株は、L−フクロースおよびBPの合計生成量に対し、L−フクロースの生成量が50%以上となることが示された。
実施例3:HPLC解析でL−フクロースと想定された物質の同定
HPLC解析でL−フクロースと想定された物質の同定を行うため、L−フコースイソメラーゼ(L-fucose isomerase)を用いたバイオアッセイを検討した。
L−フコースイソメラーゼ(EC 5.3.1.3. 以下「FucI」と記載する)はL−フクロースとL−フコース(L-fucose)間の異性化を触媒する酵素であり、実施例1あるいは2でL−フクロースと想定された化合物がL−フクロースであれば、FucIの添加によりL−フコースに変換されると考えられた。L−フコースは市販品(例えばSigma社製など)が存在し、これを標準化合物として用いたHPLC解析、あるいは特許3132913号公報記載のL−フコースデヒドロゲナーゼ(L-fucose dehydrogenase)を用いた比色定量が可能である。
まず、FucIを以下のように調製した。FucIはE. coli K12株由来のFucIを用いることとした。本酵素はNational Center for Biotechnology InformationのデータベースにAccession number AAC75844株として登録されている。本酵素をE. coliにて大量発現させる目的で、またこの際、精製を容易にする目的で、FucIのN末端にヒスチジン−タグを挿入させることを目的として、FucIの発現ベクターとしてQIAGEN社より発売されているpQE30を用いることとした。pQE30のマルチクローニングサイト中のSphI及びHindIIIサイト間にFucI遺伝子(fucI)を挿入するため、下記のPCRプライマー1(配列番号1)、PCRプライマー2(配列番号2)を作成し、常法により得たE. coli W3110株由来のゲノミックDNAをテンプレートとしたPCRを行い、約1.8 kbp長のフラグメントを得た。このフラグメントおよびpQE30ベクターをSphIおよびHindIIIで消化、精製後、ライゲーションし、N末端にHis-Tag配列を有するFucIタンパク質(以下、FucIH6と記載する)発現用のプラスミドpQE30FucIH6を作成した。このプラスミド上にコードされる遺伝子によって形成されるfucIH6の全塩基配列および予想されるアミノ酸配列を以下の配列番号3、4にそれぞれ記す。本プラスミドを用いてE. coli JM109株を形質転換し、FucIH6発現株E. coli JM109/pQE30FucIH6を作成した。
本菌株を、LB培地を用いて37℃で培養し、培養途中その培養液の600nmにおける吸光度がおよそ0.4となったところで終濃度1 mMのIPTGを添加することによりfucIH6の発現誘導を行った。誘導後2時間培養を継続した後、得られた培養液を遠心操作により集菌し、得られた菌体を50 mM Tris-HCl (pH 8.0)で洗浄した。得られた洗浄菌体を200 W、10分の超音波処理にて破砕し、この破砕物の遠心上清を粗酵素溶液とした。この粗酵素溶液に、それぞれ終濃度で10 mMのImidazoleと0.3 MのNaClを加え、50 mM Tris-HCl (pH 8.0), 10 mM Imidazole, 0.3 M NaCl(これを緩衝液Wと呼ぶ)にて平衡化した1ml容のNi-NTA resin(QIAGEN社製)と混合し、一晩振盪することによりHis-Tag配列を有するタンパク質をレジン(resin)に結合させた。振盪後、遠心操作によってレジンを回収し、更に緩衝液Wによって数回レジンを洗浄した後、レジンをカラムに移した。次に0.2 M Imidazoleの添加により吸着タンパク質をレジンから溶出した。得られた溶出画分は50 mM Tris-HCl (pH 8.0)、1 mM 2-mercaptoethanol、0.1 mM MnCl2に対して透析し、更に必要に応じて膜濃縮して後の実験に用いた。得られた酵素溶液をSDS-PAGEに供したところ、FucIH6と思われる分子量およそ67 kDaのバンドがほぼ単一の状態で観察された。
L−フシトールの酢酸菌による変換実験に用いる供試菌株として、下記表3に掲げる菌株を用いた。リフレッシュした各菌株を0.5 mlの滅菌した10 g/l L−フシトール, 10 g/l glycerol, 3 g/l yeast extract, 3 g/l peptone, pH 6.5からなる液体培地0.5 mlに1白金耳シードし、30℃で42時間振盪培養した。但しこの際、グルコノバクター・キシリナス・サブスピーシーズ・キシリナス(Gluconobacter xylinus subsp. xylinus)ATCC53582株の場合のみ、培地組成からグリセロール(glycerol)を除いた培養液を用いた。培養は1ウェルあたり2 ml容の96穴マイクロプレートを用いた。
得られた培養液から遠心操作により菌体を除去し、等容の0.2 M リン酸カリウム緩衝液
(pH 7.0), 2 mM 2-mercaptoethanol, 0.2 mM MnCl2, 0.4 mg/ml FucIH6溶液を加え(終濃度は各2分の1)、37℃で2時間反応させた。この際、FucIH6を加えない実験区も同時に作成し、コントロールとした。
反応終了後、反応液をHPLCにて分析した。L−フコースとBPが同時に生成する場合、互いの溶出位置が近くHPLCでの厳密な定量が困難であったため、このような場合L−フコースはL−フコースデヒドロゲナーゼを用いた比色法によっても定量を行った。定量は、適宜希釈したFucIH6反応溶液に、終濃度で0.2 mg/ml L−フコースデヒドロゲナーゼ(キッコーマン社製、NADP依存型), 1 mM NADP, 0.1 M Glycine-NaOH buffer (pH 9.5)となるよう加え、37℃、30分反応し、NADPHの生成に伴う吸光度の変化を340nmにて測定することにより行った。測定結果を表3に示す。
結果、HPLC解析にてL−フクロースと想定された物質は、FucIH6との反応によりL−フコースへと変換され、この結果より、予想通りL−フクロースであると確認された。同時に、本実験結果は、酢酸菌によってL−フシトールから生成せしめたL−フクロースに、さらにL−フコースイソメラーゼを作用させることにより、L−フコースを生成せしめることが可能であることを示している。また、BPとL−フコースのHPLC上での分離の悪さより、L−フコース定量性が問題となったが、L−フコースデヒドロゲナーゼを用いた比色法による定量結果と良い相関が得られ、HPLCを用いてもほぼ問題なく定量がなされていることが確認された。一方、副生物と考えられるBPは、FucIH6の添加によっても変換されず、FucIH6の基質となるL−フクロース、L−フコースとは異なる化合物であることが確認された。
配列番号1:fucI遺伝子取得用5'プライマー塩基配列
GAAGCATGCATGAAAAAAATCAGCTTACCG
配列番号2:fucI遺伝子取得用3'プライマー塩基配列
TGTTCAGGCCCGGAAGCTTGAGCGACCGGG
配列番号3:fucIH6遺伝子塩基配列
atgagaggatcgcatcaccatcaccatcacggatccgcatgcatgaaaaaaatcagcttaccgaaaattggtatccgcccggttattgacggtcgtcgcatgggtgttcgtgagtcgcttgaagaacaaacaatgaatatggcgaaagctacggccgcactgctgaccgagaaactgcgccatgcctgcggagctgccgtcgagtgtgtcatttccgatacctgtatcgcgggtatggctgaagccgctgcttgcgaagaaaaattcagcagtcagaatgtaggcctcaccattacggtaacgccttgctggtgctatggcagtgaaaccatcgacatggatccaacccgcccgaaggccatttggggctttaacggcactgaacgccccggcgctgtttacctggcagcggctctggcagctcacagccagaaaggcatcccagcattctccatttacggtcatgacgttcaggatgccgatgacacatcgattcctgccgatgttgaagaaaaactgctgcgctttgcccgcgccggtttggccgtcgccagcatgaaaggtaaaagctatctgtcgctgggcggcgtttcgatgggtatcgccggttccattgttgatcacaacttctttgaatcctggctgggaatgaaagtccaggcggtggatatgaccgaactgcgtcgccgtatcgatcagaagatttacgacgaagccgaattggaaatggcactggcctgggctgataaaaacttccgctatggcgaagatgaaaataacaaacagtatcaacgtaatgccgagcaaagccgcgcagttctgcgcgaaagtttactgatggcgatgtgtatccgcgacatgatgcaaggcaacagcaaactggccgatattggtcgcgtggaagaatcacttggctacaacgccatcgctgcgggcttccaggggcaacgtcactggaccgatcaatatcccaatggtgacaccgccgaagcgatcctcaacagttcatttgactggaatggcgtgcgcgaaccctttgtcgtggcgaccgaaaacgacagtcttaacggcgtggcaatgctaatgggtcaccagctcaccggcaccgctcaggtatttgccgatgtgcgtacctactggtcaccagaagcaattgagcgtgtaacggggcataaactggatggactggcagaacacggcatcatccatttgatcaactccggttctgctgcgctggacggttcctgtaaacaacgcgacagcgaaggtaacccgacgatgaagccacactgggaaatctctcagcaagaggctgacgcttgcctcgccgctaccgaatggtgcccggcgatccacgaatacttccgtggcggcggttactcttcccgcttccttaccgaaggcggcgtcccgttcaccatgactcgtgtcaacatcatcaaaggcctgggaccggtactgcaaatcgcggaaggctggagcgtggaattgccgaaggatgtgcatgacatcctcaacaaacgcaccaactcaacctggccaaccacctggtttgcaccgcgcctcaccggtaaagggccgtttacggatgtgtactcggtaatggcgaactggggcgctaaccatggggttctgaccatcggccacgttggcgcagactttatcactctcgcctccatgctgcgtatcccggtatgtatgcacaacgttgaagagaccaaagtgtatcgtccttctgcctgggctgcgcacggcatggatattgaaggccaggattaccgcgcttgccagaactacggtccgttgtacaagcgttaa
配列番号4:fucIH6アミノ酸配列
MRGSHHHHHHGSACMKKISLPKIGIRPVIDGRRMGVRESLEEQTMNMAKATAALLTEKLRHACGAAVECVISDTCIAGMAEAAACEEKFSSQNVGLTITVTPCWCYGSETIDMDPTRPKAIWGFNGTERPGAVYLAAALAAHSQKGIPAFSIYGHDVQDADDTSIPADVEEKLLRFARAGLAVASMKGKSYLSLGGVSMGIAGSIVDHNFFESWLGMKVQAVDMTELRRRIDQKIYDEAELEMALAWADKNFRYGEDENNKQYQRNAEQSRAVLRESLLMAMCIRDMMQGNSKLADIGRVEESLGYNAIAAGFQGQRHWTDQYPNGDTAEAILNSSFDWNGVREPFVVATENDSLNGVAMLMGHQLTGTAQVFADVRTYWSPEAIERVTGHKLDGLAEHGIIHLINSGSAALDGSCKQRDSEGNPTMKPHWEISQQEADACLAATEWCPAIHEYFRGGGYSSRFLTEGGVPFTMTRVNIIKGLGPVLQIAEGWSVELPKDVHDILNKRTNSTWPTTWFAPRLTGKGPFTDVYSVMANWGANHGVLTIGHVGADFITLASMLRIPVCMHNVEETKVYRPSAWAAHGMDIEGQDYRACQNYGPLYKR*
実施例4:FucI発現酢酸菌によるL−フシトール変換
実施例3において、酢酸菌によるL−フシトールからのL−フクロースの生成と、FucIを用いたL−フクロースのL−フコースへの変換が可能であることが示された。L−フシトールを原料とするL−フコースの生産を考えた場合、実施例3のようにL−フシトールからのL−フクロースの生産と、L−フクロースからのL−フコースへの生産を分離して行うことも可能であるが、同反応が同時に行えることは実生産を考えた場合、工程を簡略化できる点で有利である。特に、酢酸菌自体にL−フクロースからL−フコースへの変換能を保持させることができれば、単一の菌株によってL−フシトールからL−フコースの生産が可能となり、有利な方法であると考えられた。
この目的のため、L−フシトールからL−フクロース生成能を有するG. oxydans IFO3171株を代表として、E. coli由来のFucIを発現する株の構築を行うこととした。酢酸菌における特定タンパク質発現系の例として、例えばBiosci. Biotechnol. Biochem., 67: 584-591 (2003)に記載のプラスミドpSA19を利用する方法の利用が可能である。実施例3に記載の方法と同様にPCRによってE. coli由来のFucI全長をコードする遺伝子断片を得て、これをpSAのマルチクローニングサイトに挿入することにより酢酸菌用のFucI発現プラスミドpSA19FucIを作成した。但し、実施例3とは異なり、FucIにHis-Tagは挿入せず、野生型のFucIを発現させることとし、E. coliからのPCRクローニングの際に用いるプライマーとしては配列番号5、6記載のものを用いた。これにより、予想される発現FucIのアミノ酸配列およびpSA19FucI上に挿入されるfucI遺伝子は野生型酵素と同じとなる。得られたpSA19FucIによるG. oxydans IFO3171株の形質転換法も前述の文献を参考に行った。
配列番号5:fucI遺伝子取得用5'プライマー塩基配列
AACTGAATTCATTTTCCGAATAAAGTGAGG
配列番号6:fucI遺伝子取得用3'プライマー塩基配列
GTTCAGGCCCTGCAGCCGGAGCGACCGGGC
得られた形質転換体G. oxydans IFO3171/pSA19FucIをYPG寒天培地上でリフレッシュした後、10 g/l L−フシトール, 10 g/l glycerol, 3 g/l yeast extract, 3 g/l peptone, pH 6.5からなる液体培地3 mlに1白金耳シードし、30℃で18時間振盪培養した。得られた培養液を1 ml分から遠心操作操作により菌体を得た後、0.1 M トリス塩酸緩衝液 (pH 8.0)を用いて洗浄した。洗浄菌体を0.5 mlの同緩衝液に再懸濁し、終濃度10 g/lとなるようL−フシトールを加え、1ウェルあたり2 ml容の96穴マイクロプレートを用いて30℃、90時間反応させた。反応後、反応液から遠心操作により菌体を除去し、上清をHPLC解析した。なお、算出された生成物および残存基質濃度の総和は、変換反応開始時の基質濃度を上回ったが、これは変換反応中の反応溶液の蒸発に由来するものと考えられた。解析結果を図2に示す。図2中、WTは野生株を、+FucIはFucI発現株を示す。
結果、野生株を用いた変換で生成していたL−フクロースは、FucI発現株ではL−フコースにまで変換されるという予想通りの効果が見られた。これにより、酢酸菌単独の変換によるL−フシトールからのL−フコースの生産が可能となった。
実施例5:L−フシトールからのL−フクロース生成時の副生物(BP)低減の試み1;反応pHのコントロール
L−フシトールを原料とするL−フクロース生産における問題点であるBPの生成を抑制する目的で、反応pHの検討を行った。
供試菌株としてG. oxydans IFO3255株, G. oxydans IFO3171株, G. roseus AJ2840株およびA. turbidans AJ2908株を用いた。YPG寒天培地上でリフレッシュした菌株を滅菌した10 g/l glycerol, 10 g/l L−フシトール, 0.3 g/l yeast extract, 0.3 g/l peptone, 20 g/l CaCO3, pH 6.5からなる液体培地に1白金耳シードし、試験管で30℃、42時間培養した。得られた培養液を1 mlずつ分注し、遠心操作操作により菌体を得た後、0.1 M リン酸カリウム緩衝液(pH 6.0)、0.1 M トリス塩酸緩衝液 (pH 8.0)、または0.1 M グリシンNaOH緩衝液 (pH 8.8)を用いて洗浄した。洗浄菌体を0.5 mlのそれぞれの洗浄液に再懸濁し、終濃度10 g/lとなるようL−フシトールを加え、1ウェルあたり2 ml容の96穴マイクロプレートを用いて30℃、66時間反応させた。反応後、反応液から遠心操作により菌体を除去し、上清をHPLC解析した。解析結果を図3に示す。図中NTは実験未実施を示す。
結果、いずれの菌株を用いた場合においても、反応pHの上昇に伴いL−フクロースの生成量は増大したが、BPの生成量はpH8において極小化した。
実施例6:L−フシトールからのL−フクロース生成時の副生物(BP)低減の試み2;EDTAの添加
L−フシトールを原料とするL−フクロース生産における問題点であるBPの生成を抑制する目的で、反応液中へのEDTAの添加効果を検討した。
供試菌株としてG. oxydans IFO3255株を用いた。実施例5と同様に得た培養液(但し培養時にCaCO3は無添加)を1 mlずつ分注し、遠心操作操作により菌体を得た後、0.1 M リン酸カリウム緩衝液(pH 6.0)を用いて洗浄した。洗浄菌体を0.5 mlの同緩衝液に再懸濁し、終濃度10 g/lとなるL−フシトール、および終濃度10 mMとなるEDTAまたはMgCl2を加え、1ウェルあたり2 ml容の96穴マイクロプレートを用いて30℃、90時間反応させた。反応後、反応液から遠心操作により菌体を除去し、上清をHPLC解析した。解析結果を図4に示す。
結果、EDTA添加により、L−フクロース生成量は影響を受けないものの、一方で副生物BP生成量は著しく減少し、ほぼゼロとなった。
実施例7:L−フシトールからのL−フクロース生成時の副生物(BP)低減の試み3;sldA遺伝子の破壊
実施例5、6で示した方法は、L−フシトールを原料とするL−フクロース生産時のBPの生成抑制に効果的であることが示された。
実施例5、6の結果から、L−フシトールからL−フクロースを生成する酵素とBPを生成する酵素がそれぞれ独立して存在する可能性が示されたため、BPの発生を抜本的に解決するための他の手法として、BP生成を司る酵素を欠損させることが有効であると考えられた。
酢酸菌を用いたL−フシトールの変換に関わる先行文献として、例えばJournal of American Chemical Society 72: 4934-4937 (1950)(非特許文献2)やCanadian Journal of
Chemistry 45: 741-744 (1967)(非特許文献3)がある。これらの中では、酢酸菌よってL−フシトールが酸化され、結果、L−フクロースと1−デオキシ−D−グリセロ−3−ヘクスロース(1-deoxy-D-glycero-3-hexulose)が生成すると記載されている。我々が行った結果においてもL−フクロースと未同定物質(BP)が酢酸菌によるL−フシトール酸化物として検出されたことから、未同定物質(BP)は、先行文献に記載の1−デオキシ−D−グリセロ−3−ヘクスロース(1-deoxy-D-glycero-3-hexulose)である可能性が強く示唆される。先行文献の中でも、これら物質を生成する酵素は独立して存在している可能性が議論されているが、独立存在の証明、あるいはそれぞれの反応を司る酵素の同定はなされていない。
別の先行文献として、Biosci. Biotechnol. Biochem. 65: 2755-2762 (2001)には、酢酸菌の膜上に存在するD-アラビトールデヒドロゲナーゼが、多くの糖化合物の酸化を司っていると報告されている。この文献においては、L−フシトールの酸化に関する記載がないものの、その基質特異性の広さから、L−フシトールの酸化をも触媒し、L−フクロースあるいは1−デオキシ−D−グリセロ−3−ヘクスロース(1-deoxy-D-glycero-3-hexulose)と考えられるBPを生成する可能性を考慮し、後者の場合には、このD-アラビトールデヒドロゲナーゼを欠損させることにより、BPの生成を抜本的になくすことができると考えた。この仮説に基づき、以下、上記のD-アラビトールデヒドロゲナーゼを欠損させた菌株の作成を試みた。
細胞膜上に存在するD-アラビトールデヒドロゲナーゼは、その基質特異性の広さからグリセロールデヒドロゲナーゼあるいはD-ソルビトールデヒドロゲナーゼなどの別名で呼ばれることもあった。先行文献のうち、例えば特開平8-242850号公報(特許文献6)においては、D-ソルビトールデヒドロゲナーゼの名で呼ばれ、その遺伝子クローニング、塩基配列の決定がなされている。この文献情報に基づいて、当該D-アラビトールデヒドロゲナーゼ触媒サブユニットをコードする遺伝子をsldA、コードされるタンパク質をSldAと以下表記する。SldA欠損株作成の方法として、sldAの内部部分配列を欠失したDNAフラグメントを作成し、これを酢酸菌に導入した後、相同組み換えにより染色体DNA上のsldAと相同組換えさせる方法を用いることとした。また、相同組換えが生じた変異株の検出のため、sldAの内部配列欠失フラグメント作成時に、欠失と同時にカナマイシン耐性遺伝子Kmrを導入し、カナマイシン含有培地上での生育によって、変異株を容易に検出できるようにした。
まず、相同組換え領域を含むフラグメントを作成するため、sldA内部部分配列を含むフラグメントを、配列番号7、8に示すプライマー(それぞれKpnI、PstI認識部位を持つ)を用いて、PCRによって得た。テンプレートはsldAの塩基配列が報告されているGluconobacter oxydans IFO3255株から調製したゲノミックDNAの他、配列の相同性が高いことに由来すると思われるが、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)IFO3171株から調製したゲノミックDNAを用いた場合にも、予想された長さのフラグメントの増幅が認められた。いずれの場合も、制限酵素処理による解析により、BamHIとBglIIの認識部位が各1箇所ずつ存在することが示されたため、この両サイト間のsldA部分配列を欠損させ、かわりにKmr遺伝子をこの部位に挿入することとした。Kmr遺伝子は、Kmrを持つプラスミドpHSG298(Takara Bio Inc.製)をテンプレートに、配列番号9、10に示すプライマーを用いてPCRによって得た。
酢酸菌ゲノミックDNAをテンプレートとするPCRによって得られた断片を、KpnIとPstIで消化、精製し、同じくKpnI、PstIで消化常法によって消化、精製したpUC18(Takara Bio
Inc.製)にサブクローニングした。このプラスミドで形質転換したE. coli JM109株を作成し、培養後、プラスミドを抽出、精製し、BamHI、BglIIにて消化後、精製した。ここに、Kmrを含むpHSG298よりPCRにて調製したフラグメントをライゲーションし、新規プラスミドを得た。このプラスミドによりE. coli JM109株を形質転換し、培養後プラスミドを抽出、精製し、更にKpnI、PstIにて消化、精製することにより、Kmr遺伝子挿入sldA部分配列フラグメントを得た。IFO3255株とIFO3171株のそれぞれに由来するKmr遺伝子挿入sldA部分配列フラグメントをエレクトロポレーション(電極間隔0.5 mm、14.0 kV/cm)にて、それぞれIFO3255株、IFO3171株に導入し、カナマイシン含有プレート上に生育可能な株を選抜することにより、G. oxydans IFO3255 sldA:Kmr株、G. oxydans IFO3171 sldA:Kmr株を得た。
ここで得た両変異株、G. oxydans IFO3255 sldA:Kmr株、G. oxydans IFO3171 sldA:Kmr株を供試菌株として、L−フシトール変換反応を行った。実施例6と同様に得た培養液を1 mlずつ分注し、遠心操作操作により菌体を得た後、0.1 M グリシン-NaOH緩衝液(pH 8.8)を用いて洗浄した。洗浄菌体を0.5 mlの同緩衝液に再懸濁し、終濃度10 g/lとなるL−フシトール、および終濃度10 mMとなるMgCl2を加え、1ウェルあたり2 ml容の96穴マイクロプレートを用いて30℃、66時間反応させた。反応後、反応液から遠心操作により菌体を除去し、上清をHPLC解析した。解析結果を図5に示す。図5中、WTは野生株を、ΔSldAはSlda遺伝子破壊株を示す。
結果、得られた変異株はL−フクロースは生成するものの、BPは全く生成しないことが認められた。この結果から、L−フシトールからのBP生成はSldAによって触媒されていることが示され、また、SldAとは別にL−フシトールからL−フクロースを生成する酵素が存在することが示された。SldAの欠損株の利用は、pHのコントロールやEDTAの添加などの操作を必要とせず、L−フシトールから副生物を生じることなくL−フクロースを生産するのに有効であることが示された。
配列番号7:sldA内部配列取得用5'プライマー塩基配列
gccggcggtaccttctagcaacagccgcaggactc
配列番号8:sldA内部配列取得用3'プライマー塩基配列
acaccttgtctgcagcatcactacgcagggcgctg
配列番号9:Kmr遺伝子取得用5'プライマー塩基配列
taaaactggatccttacataaacagtaatacaagg
配列番号10:Kmr遺伝子取得用3'プライマー塩基配列
atgctctgccagatctacaaccaattaaccaattc
実施例8:L−フシトールからのL−フクロースを生成する酵素活性の探索1
L−フシトールからL−フクロースを生成する酵素がSldA以外に存在することが実施例7において示されたため、本活性を触媒する酵素活性を探索することとした。
L−フシトールからL−フクロースを生成する反応は酸化反応であるため、当該酵素の候補としてNAD(P)依存性デヒドロゲナーゼを考えた。NAD(P)依存性のデヒドロゲナーゼがL−フシトールの酸化を触媒する例としては、紅色藻類(red algae);ガルデイエリア・スルフュラリア(Galdieria sulphuraria)由来のD-アラビトールデヒドロゲナーゼがNAD依存的にL−フシトールを酸化するという報告がある(Planta 202: 487-493 (2003);非特許文献5)が、活性が微弱でその生成物は同定されておらず、L−フクロース-formingであるか、あるいはSldAのようにL−フクロース以外の生成物を生じるのかは調べられていない。
まず、酢酸菌にNAD(P)依存的にL−フシトールを酸化する活性が存在するかどうかを調べることとした。G. oxydans IFO3255株由来のsldA:Kmr変異株をYPG寒天培地上でリフレッシュした後、10 g/l glycerol, 0.3 g/l yeast extract, 0.3 g/l peptone, pH 6.5からなる液体培地に1白金耳シードし、試験管で30℃、24時間培養した。得られた培養液を1 mlを、同液体培地50 mlに加え、500 ml容の坂口フラスコを用いて30℃、18時間培養した。得られた培養液から遠心操作によって菌体を得、9 g/l NaClを用いて洗浄した後、200W、10分の超音波処理にて菌体破砕物を得た。更に15,000 g、15分の遠心を行い、この遠心上清を無細胞抽出液とした。この無細胞抽出液を酵素源として、終濃度0.1 Mグリシン-NaOH緩衝液(pH 8.8)または0.1 M リン酸カリウム緩衝液(pH 6.0)の存在下、終濃度10 mM L−フシトール、1 mM NAD(P)と30℃で反応させることにより、L−フシトール酸化活性を測定した。測定時にはL−フシトールを添加しない実験区も作成し、コントロールとした。酸化活性はNAD(P)Hの生成に伴う340nmにおける吸光度上昇により定量し、活性の単位は、1分間に1μmolの基質を酸化する活性を1 Uとして算出した。測定結果を表4に示す。
結果、NADを補酵素とするL−フシトールデヒドロゲナーゼ活性が検出された。本活性はpH 6.0よりも8.8の方が強く、生成物がL−フクロースであることは確認できていないものの、実施例5において観察された高pHほどL−フクロース生成量が増加するという結果と一致し、本活性がL−フクロース生成を担っている可能性が示された。
実施例9:酢酸菌無細胞抽出液を用いたL−フシトール変換反応
酢酸菌の無細胞抽出液中にL−フシトール酸化活性が存在することから、本活性を用いたL−フシトール変換反応を試みることとした。
実施例8で得た無細胞抽出液を酵素源とし、その添加量を終タンパク濃度で0、0.8、1.6、4.0となるよう反応液に加え、10 g/l L−フシトール、0.1 M Glycine-NaOH (pH 8.8)、0.03 mM FAD、1 mg/ml BSA、2 mM NADと共に30℃で90時間静置した後、生成物をHPLC解析した。L−フシトール変換反応のNAD依存性を確認するため、反応の際にはNAD無添加区、および反応進行時に消費されるNADを補うことを目的としてNADHオキシダーゼ添加区を作成しコントロールとした。用いたNADHオキシダーゼはNADHと酸素分子からNADと過酸化水素を生成する酵素(ナカライテスク社製、Bacillus liqueniformis由来)であり、この添加によって反応中に生成したNADHがNADに再変換され、L−フシトール酸化に再利用されることを期待した。添加NADHオキシダーゼ量は終濃度で0.1 U/mlとし、生じる過酸化水素を消費する目的で終濃度で10 U/mlのカタラーゼも併せて添加した。結果を表5に示す。
酢酸菌無細胞抽出液によるL−フシトールの変換は、NADを添加している区のいずれにおいても抽出液の添加量に応じて観察されたが、NAD無添加の区では全く観察されず、本変換がNAD依存的に進行することが確認され、実施例8の結果を支持した。このため、本変換を担っている活性は、実施例8で認められたデヒドロゲナーゼであることが示唆された。本変換における生成物はL−フクロースとL−フコースであり、BPは全く観察されなかった。よって、本無細胞抽出液中に存在するL−フシトール酸化酵素は、L−フクロース生成(L-fuculose-forming)酵素であることが確認された。また、本変換においては微量ながらL−フコースの生成も認められたため、無細胞抽出液中にL−フクロースからL−フコースを生成するL−フコースイソメラーゼ活性、あるいはL−フシトールから直接L−フコースを生成するL−フシトールオキシダーゼなどの酵素の存在が示唆された。更に、L−フクロース生成量は、NADオキシダーゼの添加によらず、添加NAD量を上回った。この結果は、酸化反応によってNADから生じたNADHを再度NADに変換する活性が無細胞抽出液中にも存在することを示唆していると考えられた。この活性は、たとえばNADHオキシダーゼ(NADH oxidase)活性と考えられる。
実施例10:酢酸菌無細胞抽出液中のNADHオキシダーゼ活性
実施例9において酢酸菌無細胞抽出液中におけるNADHオキシダーゼ活性(NADH酸化活性)の存在が示唆されたため、本酵素活性の検出を試みた。
実施例8で得た無細胞抽出液を酵素源とし、終濃度0.1 Mトリス-HCl緩衝液(pH 8.0)または0.1 Mグリシン-NaOH緩衝液(pH 8.8)の存在下、終濃度0.2 mM NADH、±0.03 mM FADと30℃で反応させることにより、NADH酸化活性を測定した。測定時には抽出液を添加しない実験区も作成し、コントロールとした。酸化活性はNADHのNADへの変換に伴う340nmにおける吸光度減少により定量し、活性の単位は、30℃、1分間に1μmolのNADHを酸化する活性を1Uとして算出した。測定結果を表6に示す。
結果、pH 8.0、8.8のいずれにおいてもNADH酸化活性が検出された。pH 8.0における測定では、本活性がFADの添加によって促進されることも併せて示された。既知の多くのNADHオキシダーゼが、その活性発現がFADに依存することが報告されていることから、本実験に用いた抽出液中に存在するNADH酸化活性も、同様なNADHオキシダーゼによって担われている可能性が示された。
実施例11:酵素源菌体および酵素生産培養条件の決定
L−フクロース産生型L−フシトールデヒドロゲナーゼ (FcDH)の単離精製に向け、酵素源菌株およびその培養条件の検討を行った。
菌株:Gluconobacter oxydans IFO 3255またはIFO 3171
培地:10 g/l 炭素源、5 g/l yeast extract、5 g/l peptone (pH 6.5)
炭素源:グリセロール(glycerol)、D−マンニトール(D-mannitol)、D−アラビトール(D-arabitol)、キシリトール(xylitol)
培養温度:30℃
培養時間:20時間または66時間
方法:
保存菌株を、20 g/l 寒天を含むYPG培地(3 g/l peptone, 3 g/l yeast extract, 1 g/l glycerol, pH 6.5)を用いて30℃で2晩培養することによりリフレッシュした。このリフレッシュ菌体を、オートクレーブしたそれぞれの培地を3 ml含む試験管に接種し、30℃で24あるいは66時間振盪培養した。培養終了後、3 mlの培養液から遠心操作により集菌し、25 mM Tris-HCl (pH 8.0)で菌体を洗浄後、0.3 mlの同緩衝液を加え懸濁した。これを超音波破砕装置に供し菌体を破砕後、200,000xg、30分minの遠心操作により得た遠心上清を得、これを酵素活性測定用サンプルとした。
FcDHの酵素活性測定は、標準条件として;0.2 M Gly-NaOH (pH 9.5), 1 mM MgCl2, 10 mM L−フシトール, 1 mM NADに適宜酵素溶液を加え、30℃の条件にて反応を行い、活性定量として;酸化に伴うNADからのNADH の生成を340 nmにおける吸光度変化をモニターすることにより行った。測定はNADの添加によりスタートし、活性は初発1分間の吸光度変化を初速度とし、ここから算出した。測定時にはL−フシトールを添加しない実験区も作成し、これブランク値とした。FcDH活性として、30℃で1分間に1μmolのL−フシトールを酸化する活性を1 Unit (U)として定義した。NADHの吸光係数はe340=0.63 mM-1cm-1として計算した。測定は、原則として3回連続で行い、測定結果はその平均値を用い、図中には標準偏差と共に示した。
結果:
測定結果を表7に示す。単位タンパク質量当たりのFcDH比活性および、単位培養液量から得られる活性量の両者を指標にして、FcDH生産菌株としてG. oxydans IFO 3255、その培養条件として、培地:10 g/l D-mannitol、5 g/l yeast extract、5 g/l peptone (pH 6.5)、培養時間として24時間を採択することとした。
実施例12:FcDHの精製
G. oxydans IFO 3255保存菌株をYPG寒天培地を用いて30℃で2晩培養することによりリフレッシュした。このリフレッシュ菌体を、オートクレーブしたそれぞれの培地を3 ml含む試験管に接種し、30℃で18時間振盪培養した。これを更に、オートクレーブした同培地100 mlを含む500 ml容の坂口フラスコに1% (v/v)シードし、30℃で24時間培養した。培養終了後、遠心操作により集菌し、25 mM Tris-HCl (pH 8.0)で菌体を洗浄後、培養液の25分の1容の同緩衝液を加え懸濁した。これを超音波破砕装置に供し菌体を破砕後、200,000xg、30 minの遠心操作により得た遠心上清を得た(粗抽出液:Crude extract)。およそ3 lの培養液より得た粗抽出液中に934 mgのタンパク質を得た。
次にこの粗抽出液の30%−60%飽和硫安分画画分を得、緩衝液1(50 mM Tris-HCl (pH 8.0), 1.2 M (NH4)2SO4, 1 mM MnCl2)に対して一晩透析した。ここで得たサンプルを緩衝液1で平衡化したPhenyl Sepharose HP 26/10 (Amersham Biosciences社)に供し、緩衝液中の(NH4)2SO4濃度を1.2 Mから0 Mに減少させることにより、担体に吸着したタンパク質を溶出させた。この操作で、FcDH活性は(NH4)2SO4濃度およそ0.2 M近傍に検出された。FcDH活性を含む分画画分を回収し、濃縮後、50 mM リン酸カリウム (pH 6.0)に対して透析した後、同緩衝液にて平衡化したQ-Sepharose 16/10 (Amersham Biosciences社)に供し、緩衝液中のNaCl濃度を0 Mから0.5 Mに増加させることにより、担体に吸着したタンパク質を溶出させた。この操作で、FcDH活性はNaCl濃度およそ0.4 M近傍に検出された。FcDH活性を含む分画画分を回収し、濃縮後、50 mM リン酸カリウム (pH 6.0)で平衡化したSuperdex 200 16/60 (Amersham Biosciences社)に供した。この操作により、FcDHは分子量102 kDaと見積もられる溶出位置に溶出した。FcDH活性を含む画分を回収し、濃縮後、SDS-PAGEにてその純度を確認した結果、FcDHは分子量約27 kDaと見積もられる単一バンドとして認められた(図6)。この一連の精製操作により、FcDHの比活性は粗抽出液の0.015 U/mgから7.8 U/mgに520倍に上昇した。また、得られた精製FcDH量は0.60 mgで、活性の回収率は34%であった(表8)。
実施例13:NOXの精製
G. oxydans IFO 3255保存菌株をYPG寒天培地を用いて30℃で2晩培養することによりリフレッシュした。このリフレッシュ菌体を、オートクレーブしたそれぞれの培地を3 ml含む試験管に接種し、30℃で18時間振盪培養した。これを更に、オートクレーブした同培地100 mlを含む500 ml容の坂口フラスコに1% (v/v)シードし、30℃で24時間培養した。培養終了後、遠心操作により集菌し、25 mM Tris-HCl (pH 8.0)で菌体を洗浄後、培養液の25分の1容の同緩衝液を加え懸濁した。これを超音波破砕装置に供し菌体を破砕後、200,000xg、30 minの遠心操作により得た遠心上清を得た(粗抽出液)。およそ4 lの培養液より得た粗抽出液中に1253 mgのタンパク質を得た。
次にこの粗抽出液の30%−60%飽和硫安分画画分を得、緩衝液2(50 mM リン酸カリウム (pH 6.0), 1 mM DTT, 0.5 mM EDTA)に対して一晩透析した。ここで得たサンプルを緩衝液2で平衡化したQ-Sepharose 26/10に供し、緩衝液中のNaCl濃度を0 Mから0.5 Mに増加させることにより、担体に吸着したタンパク質を溶出させた。この操作で、NOX活性はNaCl濃度およそ0.25 M近傍に検出された。NOX活性を含む分画画分を回収し、濃縮後、緩衝液3(50 mM Tris-HCl (pH 8.0), 0.6 M (NH4)2SO4)に対して透析した後、同緩衝液にて平衡化したPhenyl-Sepharose 16/10に供し、緩衝液中の(NH4)2SO4濃度を0.6 Mから0 Mに減少させることにより、担体に吸着したタンパク質を溶出させた。この操作でNOX活性は(NH4)2SO4およそ0.2 M近傍に検出された。NOX活性を含む分画画分を回収し、濃縮後、50 mM Tris-HCl (pH 8.0)に対して透析し、濃縮後、同緩衝液で平衡化した1.5 ml容のFAD-agarose resin (Sigma社)に供した。非吸着タンパク質を同緩衝液で十分に洗浄後、50 mM Tris-HCl (pH 8.0), 1 mM FADからなる緩衝液にて吸着タンパク質を溶出させた。この操作により、NOXは特異的に前記resinに吸着後、FADを含む緩衝液の添加により溶出した。この溶出画分を回収し、濃縮後、SDS-PAGEにてその純度を確認した結果、NOXは分子量約15 kDaと見積もられる単一バンドとして認められた(図7)。
上記一連の精製操作により、NOXの比活性は粗抽出物の0.029 U/mgから196 U/mgに6763倍に上昇した。また、得られた精製NOX量は0.014 mgで、活性の回収率は7.3%であった(表9)。
また、精製NOX溶液を、50 mM Tris-HCl (pH 8.0)で平衡化したSuperdex 200 16/60に供した結果、NOXは分子量34 kDaと見積もられる溶出位置に溶出した。後の実験には、SDS-PAGEで単一バンドに精製後、更にSuperdex 200 16/60処理を行ったサンプルを精製酵素標品として用いた。
なお、NOX活性の測定は、標準条件として以下の要領にて行った。0.1 M Tris-HCl (pH 8.0), 30 μM FAD, 5 mM EDTA, 2 mM DTT, 0.2 mM NADHに適宜酵素溶液を加え、30℃で反応を行った。活性定量は、NADHからのNAD生成に伴う340 nmにおける吸光度減少をモニターすることにより行った。測定はNADHの添加によりスタートし、活性は初発1分間の吸光度変化を初速度とし、ここから算出した。測定時には酵素源を添加しない実験区も作成し、これをブランク値とした。NOX活性として、30℃、1分間に1μmolのNADHを酸化する活性を1 Uとして定義した。測定は、原則として3回連続で行い、測定結果はその平均値を用い、図中には標準偏差と共に示した。
実施例14:FcDHの諸性質把握
実施例12の精製したFcDH標品を酵素源として、その諸性質を調べた。
4−1)反応至適pH
0.1 M pH buffer, 1 mM MgCl2, 10 mM L−フシトール, 1 mM NADおよび1.1 μg/ml 精製FcDHからなる溶液にて30℃で反応を行い、NADHの生成をA340の測定値から見積もった。用いたpH bufferとして、酢酸ナトリウム(pH 4.8, 5.7)、リン酸カリウム (pH 6.4, 7.2)、Tris-HCl (pH 6.7, 7.6, 8.5)、CAPS-NaOH(Sodium cyclohexylaminopropanesulfonate)(pH 8.3, 9.5)、および炭酸ナトリウム(pH 10.1, 10.7, 11.2)を用いた。測定から得た各pHにおけるFcDHの比活性を、最大比活性を示したpH 9.5での比活性に対する百分率として図8に示した。
4−2)pH安定性
0.1 M pH buffer, 80 μg/ml 精製FcDHを含む溶液を氷上30分静置した後、FcDHが終濃度で1.6 μg/mlとなるよう希釈し、標準条件で反応を行い、残存するFcDH活性を測定した。用いたpH bufferとして、クエン酸ナトリウム(pH 2.6, 3.7, 5.1)、酢酸ナトリウム(pH 4.7, 5.8)、リン酸カリウム (pH 6.1, 7.2)、Tris-HCl (pH 7.0, 7.8, 8.8)、CAPS-NaOH(pH 8.8, 9.5)、および炭酸ナトリウム (pH 10.1, 10.6, 11.2)を用いた。測定から得た各pHにおけるFcDHの残存活性を、最大安定性を示したpH 7.2での残存活性に対する百分率として図9に示した。pHおよそ5から10で80%以上の残存活性が認められた。
4−3)反応至適温度
Gly-NaOH (pH 9.5), MgCl2, Fucitolおよび精製FcDHからなる溶液を各反応温度(25, 30, 37, 45, 55および65℃)にて3分間のプレインキュベーションを行った後、別途各温度でプレインキュベーションを行ったNADを添加し、反応を開始した。反応液中の終濃度は、標準活性測定条件となるように調製し、FcDH終濃度は1.6 μg/mlとした。測定から得た各温度におけるFcDHの比活性を、最大比活性を示した37℃での比活性に対する百分率として図10に示した。
4−4)温度安定性
0.1 M Gly-NaOH (pH 9.5), 80 μg/ml 精製FcDHを含む溶液を0, 25, 30, 37, 50および60℃で30 min静置した後、FcDHが終濃度で1.6 μg/mlとなるよう希釈し、標準条件で反応を行い、残存するFcDH活性を測定した。測定から得た各温度におけるFcDHの残存活性を、0℃での静置時の残存活性に対する百分率として図11に示した。30℃まで、80%以上の残存活性が認められた。
4−5)基質特異性
L−フシトールを含む各種糖アルコールに対するFcDHの反応性を測定した。さまざまな基質濃度下において反応初速度を測定し、この結果をLineweaver-Burkプロットすることにより、それぞれの基質に対するkcatおよびKm値を求めた。結果を表10に示す。結果、FcDHには、L−フシトールの他種々糖アルコール酸化活性が認められ、kcat/Km値はD−アラビトール > L−フシトール > キシリトール > D−ソルビトール > D−マンニトール > リビトール(Ribitol) > ズシトール(Dulcitol) > グリセロールの順であった。
また、図12に、精製FcDHの比活性を測定した結果を示す。D−アラビトールおよびL−フシトールに対しては、基質高濃度時において基質による反応阻害が認められた。D−アラビトールでは濃度5 mM以上で(A)、L−フシトールでは濃度100 mM以上で(B)、それぞれ比活性の低下が認められた。図12(C)および(D)には、それぞれ(A)および(B)の結果をLineweaver-Burkプロットにて示した。Kmおよびkcat値は、基質阻害が見られない範囲から、すなわち、図12(C)および(D)において破線で示した直線から求めた。このため、これらの基質の場合には、この阻害効果が認められない基質濃度内でkcatおよびKm値を求めた。その他の糖アルコール類に対しては、基質濃度100 mMまでで、基質による阻害効果は認められなかった。
FcDHの認識が認められた基質の内、L−フシトールからの酸化生成物はL−フクロースであるが、その他の基質の酸化生成物について調べた。用いた基質はD−アラビトール、D−マンニトールおよびD−ソルビトールで、0.5 g/dl 基質, 50 mM Gly-NaOH (pH 9.5), 1 mM NAD, 30 mM FAD, 5 mM MgCl2, 0.6 U/ml 精製FcDH, 0.2 U/ml NOX, 0.1 mg/ml カタラーゼからなる反応液を30℃で16時間反応後、HPLCで解析を行った(図13)。結果、D−アラビトールからはD−リブロース(D-Ribulose)およびD−キシルロース(D-Xylulose)と思われる生成物が、D−マンニトールからはD−フルクトース(D-Fructose)と思われる生成物が、そしてD−ソルビトールからはL−ソルボース(L-Sorbose)と思われる生成物が確認された。
4−6)2価金属イオン特異性
FcDHの活性発現には2価イオンの添加が必要であることが認められたため、FcDHの各種2価金属イオン利用性を測定した。測定は、Gly-NaOH (pH 9.5), 精製FcDHおよび各種2価金属イオン(あるいはEDTA)からなる溶液を氷上30 min静置した後、L−フシトールおよびNADを添加して反応を開始した。反応液中の2価金属イオンまたはEDTA終濃度は5 mM、FcDH濃度は1.6 μg/ml、その他は標準活性測定条件となるように調製した。測定から得たFcDHの各比活性を、最大比活性を示したMnCl2添加時の比活性に対する百分率として表11に示す。結果、FcDHに対する賦活化効果は、Mn2+、Mg2+、Ca2+イオンにほぼ同程度認められ、Ni2+、Co2+イオンには効果がなく、Zn2+、Cu2+イオンには逆に阻害効果が認められた。EDTAで2価金属イオンをキレートした場合、FcDHの活性はほぼ消失した。
4−7)NADおよびNADP特異性
FcDHはNADを補酵素とすることが認められたため、NADおよびNADPの利用性を測定した。活性測定は、標準条件下、さまざまな濃度のNADあるいはNADP添加の下行った。この結果をLineweaver-Burkプロットすることにより(図14(B))、それぞれの補酵素に対するKm値を求めた。結果、図14に示すように、NADに対するKm値は0.20mMと見積もられた。一方、NADPを補酵素とした場合には、有意な活性は認められなかった(不図示)。
実施例15:NOXの諸性質把握
実施例13において精製したNOX標品を酵素源として、その諸性質を調べた。
15−1)反応至適pH
0.1 M pH buffer, 30 μM FAD, 5 mM EDTA, 2 mM DTT, 0.2 mM NADHおよび0.055 μg/ml 精製NOXからなる溶液にて30℃で反応を行い、NADHの減少をA340の測定値から見積もった。用いたpH bufferとして、クエン酸ナトリウム (pH 3.6, 4.7, 5.7)、酢酸ナトリウム (pH 4.8, 5.7)、リン酸カリウム (pH 6.4, 7.2)、Tris-HCl (pH 6.7, 7.6, 8.5)およびCAPS-NaOH (pH 8.3, 9.5)を用いた。測定から得た各pHにおけるNOXの比活性を、最大比活性を示したpH 5.7での比活性に対する百分率として図15に示した。
15−2)pH安定性
0.1 M pH buffer, 30 μM FAD, 5 mM EDTA, 2 mM DTT, 100 μg/ml 精製NOXを含む溶液を氷上30 min静置した後、NOXが終濃度で0.055 μg/mlとなるよう希釈し、標準条件で反応を行い、残存するNOX活性を測定した。用いたpH bufferとして、クエン酸ナトリウム (pH 2.6, 3.7, 5.1)、酢酸ナトリウム (pH 4.7, 5.8)、リン酸カリウム (pH 6.1, 7.2)、Tris-HCl (pH 7.0, 7.8, 8.8)、CAPS-NaOH (pH 8.8, 9.5)、および炭酸ナトリウム (pH 10.1, 10.6, 11.2)を用いた。測定から得た各pHにおけるNOXの残存活性を、最大安定性を示したpH 8.8での残存活性に対する百分率として図16に示した。pHおよそ6から11で80%以上の残存活性が認められた。
15−3)反応至適温度
Tris−HCl(pH 8.0), FAD, EDTA, DTTおよび精製NOXからなる溶液を各反応温度(25,30,37,45,55および65℃)にて3分間のプレインキュベーションを行った後、別途各温度でプレインキュベーションを行ったNADHを添加し、反応を開始した。反応液中の終濃度は、標準活性測定条件となるように調整し、NOX終濃度は0.055μg/mlとした。測定から得た各温度におけるNOXの比活性を、最大比活性を示した37℃での比活性に対する百分率として図17に示した。
15−4)温度安定性
0.1 M Tris-HCl (pH 8.0), 30 μM FAD, 5 mM EDTA, 2 mM DTT, 100 μg/ml 精製NOXを含む溶液を0, 25, 30, 37, 50および60℃で30 min静置した後、NOXが終濃度で0.055 μg/mlとなるよう希釈し、標準条件で反応を行い、残存するNOX活性を測定した。測定から得た各温度におけるNOXの残存活性を、0℃での静置時の残存活性に対する百分率として図18に示した。50℃まで、80%以上の残存活性が認められた。
15−5)フラビン補酵素特異性
NOXの活性発現にはフラビン補酵素の添加が必要であることが認められたため、NOXの各種フラビン補酵素利用性を測定した。測定は、Tris-HCl (pH 8.0), FAD, EDTA, DTTおよび精製NOXからなる溶液をTris-HCl (pH 8.0), 精製NOXおよび各種フラビン補酵素からなる溶液を氷上30 min静置した後、NADHを添加して反応を開始した。反応液中のフラビン濃度は0 − 300 μMとし、その他は標準活性測定条件となるように調製した。結果を図19に示す。結果、用いたFAD、Riboflavin、FMNのいずれにもNOX賦活化効果が認められたが、その効果はFADとRiboflavinではほぼ同程度で、FMNでは相対的に弱かった。
15−6)NADHおよびNADPH特異性
NOXにNADH酸化活性が認められたため、NADHおよびNADPHに対する基質特異性を測定した。標準条件下、基質濃度を変化させて活性測定を行い、結果をLineweaver-Burkプロットすることにより、基質に対するKm値を求めた。結果、NADHに対するKm値は29 μMと見積もられた(図20)。一方、NADPHを基質とした場合には、有意な活性は認められなかった(不図示)。
実施例16:FcDH、NOXの部分アミノ酸配列の決定
精製したFcDHおよびNOXを材料にその部分アミノ酸配列の決定を行った。両酵素をSDS-PAGEに供し、バンドの認められる位置のゲルを切り出し、ここに含まれるタンパク質を試料とし、常法に従いトリプシン処理によるフラグメント化と逆相HPLCによる分離を経て、得られた分画の内、幾つかをプロテインシーケンサーに供した。得られた配列を、配列番号11から14に示す。
実施例17:FcDH、NOXをコードする遺伝子のクローニング
FcDH、NOXをコードする遺伝子クローニングのため、実施例16で得られたペプチド配列から、それらに相当するDNAミックスプライマーを合成した。G. oxydans IFO 3255から常法により調製したゲノミックDNAを鋳型とし、PCR反応を行った。得られたフラグメントを精製の後、DNAシーケンサーでその塩基配列を解析した結果、得られたPCR産物中に、実施例16で得られたペプチド配列をコードするDNA配列が認められた。
次に、このDNAフラグメントをプローブとしたサザンハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーションを常法に従い、ポジティブクローンを得た。得られたクローンからプラスミドを調製し、そのDNA配列を解析し、配列番号15に示す774 base(終止コドン含む)から成るFcDHコード遺伝子(fcdh)および配列番号17に示す474 base(終止コドン含む)から成るNOXコード遺伝子(nox)を得た。また、この塩基配列より配列番号16に示す257残基から成るFcDH、および配列番号18に示す157残基から成るNOXの全アミノ酸配列が決定された。この中には、実施例6で決定されたペプチド配列が含まれていた。アミノ酸配列から見積もられる分子量はFcDHが27.522 Da、NOXが16,777 Daで、SDS-PAGEで見積もられた分子量とそれぞれほぼ一致した。
実施例18:FcDH、FcDH+NOX、FcDH+NOX+FucI発現株の作成とその培養
FcDH発現のため、G. oxydans IFO 3255株のゲノミックDNAをテンプレートとし、配列番号19および20に示す合成プライマーを用いてPCRを行い、fcdh遺伝子を含む858 bpの断片を得た。得られたPCR産物をEcoRI、PstIで消化後、プラスミドpUC18(Takara Bio Inc.社)の相当する位置に挿入し、FcDH発現用プラスミドpFEX3052を作成した。
次にnox遺伝子を得るため、G. oxydans IFO 3255株のゲノミックDNAをテンプレートとし、配列番号21および22に示す合成プライマーを用いてPCRを行いnox遺伝子を含む605 bpの断片を得た。得られたPCR産物をPstI、HindIIIで消化後、プラスミドpFEX3052の相当する位置に挿入し、FcDHおよびNOX共発現用プラスミドpFNEX4105を作成した。
更にこのプラスミドpFNEX4105をテンプレートとし、配列番号19および23に示す合成プライマーを用いてPCRを行い、fcdh遺伝子とnox遺伝子がタンデムにつながれた遺伝子断片を含む1390 bpの断片を得た。得られたPCR産物をEcoRI、KpnIで消化後、プラスミドpUC18の相当する位置に挿入し、pFNEX4502を作成した。
次にFucIをコードするfucI遺伝子を得るため、E. coli W3110株から常法によって得たゲノミックDNAをテンプレートとし、Accession No. NC_000913記載のfucI遺伝子配列に基づいて、配列番号24および25に示した合成プライマーを用いてPCRを行い、fucI遺伝子を含む1873 bpの断片を得た。得られたPCR産物をKpnI、SalIで消化後、プラスミドpFNEX4502の相当する位置に挿入し、FcDH、NOXおよびFucI共発現用プラスミドpFNIEX5706を作成した。また後の実験に供試する必要から、FucI単独発現用プラスミドpIEX11を作成した。これは、配列番号26および27に示した合成プライマーを用いて、上記同様PCRによってFucI遺伝子を得、得られた産物をEcoRI、PstIで消化後、プラスミドpUC18の相当する位置に挿入することによって作成した。
構築したプラスミドpFEX3052、pFNEX4105、pFNIEX5706およびpIEX11をそれぞれを用いてEscherichia coli JM 109(Takara Bio Inc.製)を形質転換し、FcDH発現株E. coli/pFEX3052、FcDH・NOX共発現株E. coli/pFNEX4105、FcDH・NOX・FucI共発現株E. coli/pFNIEX5706及びFucI発現株E. coli/pIEX11をそれぞれ作成した。
得られた発現株、及び、対照として用いる挿入遺伝子を含まないpUC18にて形質転換したE. coli/pUC18は、LB/Ampプレート上37℃で培養することによりリフレッシュした。液体培養にはLB/Amp液体培地を用い37℃で培養した。リフレッシュした菌体を接種した後、終濃度1 mMのIPTGを添加し、6〜18時間培養を行った後、遠心操作により集菌した。集菌した菌体は、25 mMのTris-HCl buffer (pH 8.0)で洗浄し、後の実験に用いた。また、LB培地の替わりにTB培地(12 g/l trypton, 24 g/l yeast extract, 4 g/l glycerol, 2.3 g/l KH2PO4, 12.5 g/l K2HPO4)を用いた場合もあるが、菌体量が多く得られる点以外、本質的に変わりはなかった。
実施例19:無細胞抽出液の調製と発現タンパク質の精製
(19−1) 無細胞抽出液の調製
洗浄菌体を25 mM Tris-HCl (pH 8.0)に再懸濁し、超音波処理(200W, 10分)にて破砕し、14,000 gで15分遠心した上清を得、これを無細胞抽出液として各種実験に用いた。E.
coli/pUC18、E. coli/pIEX11、E. coli/pFEX3052、E. coli/pFNEX4105およびE. coli/pFNIEX5706よりそれぞれ得た無細胞抽出液のSDS-PAGE解析結果を図21に示す。E. coli/pIEX11ではFucIが、E. coli/pFEX3052ではFcDHが、E. coli/pFNEX4105ではFcDHとNOXが、そしてE. coli/pFNIEX5706ではFucI、FcDHおよびNOXがそれぞれ生産され、相当する分子量の位置にバンドが観察された。発現タンパク質を精製する場合、この無細胞抽出液を、さらに200,000 gで30 minの超遠心操作にかけ、得られた上清を材料とした。
(19−2) 組換え発現FcDH(rFcDH)の精製
E. coli/pFEX3052の無細胞抽出液の超遠心上清より精製した。粗酵素溶液を50 mM リン酸カリウム (pH 6.0)に対して透析した後、同緩衝液にて平衡化したQ-Sepharose 16/10に供し、緩衝液中のNaCl濃度を0 Mから0.5 Mに増加させることにより、担体に吸着したタンパク質を溶出させた。FcDH活性を含む分画画分を回収し、濃縮後、50 mM リン酸カリウム
(pH 6.0)で平衡化したSuperdex 200 16/60に供した。FcDH活性を含む画分を回収し、濃縮後、SDS-PAGEにてその純度を確認した結果、rFcDHは分子量約27 kDaと見積もられる単一バンドとして認められた(図22)。
(19−3) 組換え発現NOX(rNOX)の精製
E. coli/pFEX4105の無細胞抽出液の超遠心上清より精製した。粗酵素溶液を、50 mM Tris-HCl (pH 8.0)で平衡化したFAD-agarose resin に供し、非吸着タンパク質を同緩衝液で十分に洗浄後、50 mM Tris-HCl (pH 8.0), 1 mM FADからなる緩衝液にて吸着タンパク質を溶出させた。この操作により、NOXは特異的にresinに吸着後、FADを含む緩衝液の添加により溶出した。NOX活性を含む画分を回収し、濃縮後、50 mM Tris-HCl (pH 8.0)で平衡化したSuperdex 200 16/60に供し、NOX活性を含む画分を回収した。これを濃縮後、SDS-PAGEにてその純度を確認した結果、rNOXは分子量約15 kDaと見積もられる単一バンドとして認められた(図23)。
(19−4) 酵素活性測定
E. coli/pUC18、E. coli/pIEX11、E. coli/pFEX3052、E. coli/pFNEX4105およびE. coli/pFNIEX5706よりそれぞれ得た無細胞抽出液中のFcDH、NOXおよびFucI活性を測定した(表12)。また上記のように精製したrFcDHおよびrNOX精製標品についても活性測定を行い、rFcDHの比活性は11.1 U/mg、rNOXの比活性は175 U/mgであった。この値はG. oxydansより調製した精製FcDHの比活性7.8 U/mg、精製NOXの比活性196 U/mgとそれぞれほぼ同程度とみなせた。
なおFucI活性は以下のように測定した。0.1 M L−フコース, 0.1 M Tris-HCl (pH 8.0), 5 mM MgCl2に適宜酵素溶液を加え、30℃で反応を行い、活性定量は、L−フコースの異性化によって生成するL−フクロース量をHPLCにて測定することにより算出した。活性は生成L−フクロース量が3 mMを超えない範囲での初速度から求めた。FucI活性として、30℃、1分間に1μmolのL−フコースを異性化してL−フクロースを生成する活性を1 Uとして定義した。
発現を試みた遺伝子と測定された酵素活性の関係はそれぞれ妥当であり、クローニングしたfcdhおよびnox遺伝子は、それぞれFcDHおよびNOXをコードするものと考えられた。また、noxを発現させない実験区においてもわずかなNOX活性が認められたが、これは宿主E.
coli由来の活性と考えられた。
実施例20:酵素反応によるL−フシトールの変換
(20−1) G. oxydans IFO3255より調製した精製酵素による変換
G. oxydansより調製した精製FcDHおよびNOXを用いて、L−フシトールからL−フクロースあるいはL−フコースへの変換を試みた。L−フクロースからL−フコースへの酵素変換には、L−フコースイソメラーゼが必要であるため、これにはE. coli/pQE30FucIH6より調製したFucIH6を用いた。また、NOX活性を有する酵素には、H2O生成型とH2O2生成型が報告されており、H2O2生成方の場合、NADHの酸化に伴いH2O2が生成し、一般にH2O2は多くの酵素活性を阻害する性質があるため、これを回避する目的でH2O2をH2Oに変換する酵素カタラーゼの添加も併せて行った。カタラーゼは市販酵素標品(Nacalai Tesque製、Bovine Liver由来)を用いた。標準反応条件として、62 mM L−フシトール, 0.1 M Gly-NaOH (pH 9.5), 2 mM NAD, 30 μM FAD, 1 mM MgCl2, 0.1 U/ml 精製FcDH, 0.1 U/ml 精製NOX, 0.2 mg/ml 精製FucIH6, 0.1 mg/ml カタラーゼからなる反応液を30℃で振盪反応し、適宜サンプリングを行い、L−フシトール、L−フクロースおよびL−フコースをHPLCにて定量した。実験区および反応48時間後の解析結果を以下表13に示す。各実験区における変換時間経過は図24に示す。
図24内の各プロット中、○:白丸はL−フコース、●:黒丸はL−フクロース、△:白三角はL−フシトール濃度を示す。(B)が標準条件(62 mM L-Fucitol, 0.1 M Gly-NaOH (pH 9.5), 2 mM NAD, 30 μM FAD, 1 mM MgCl2, 0.1 U/ml 精製FcDH, 0.1 U/ml 精製NOX, 0.2 mg/ml 精製FucIH6, 0.1 mg/ml カタラーゼ)における結果である。(A)では酵素無添加、(C)ではFucIH6無添加、(D)ではFcDH無添加、(E)ではNOX無添加、および(F)ではカタラーゼ無添加での結果をそれぞれ示す。
表13および図24に示される結果より、FcDHとNOXの両酵素の存在によってNAD(H)のリサイクルが可能であり、添加2 mMのNADで50 mM以上のL−フクロースのL−フシトールからの生成が可能であった。また、FucI酵素が更に存在することにより、生成したL−フクロースはL−フコースに変換され、結果、L−フシトールからL−フコースの生成が可能であった。カタラーゼ無添加区では変換阻害が見られたことから、今回用いたNOXはH2O2生成型であること、H2O2はL−フシトール酸化反応を阻害すること、生成するH2O2はカタラーゼ添加によって除去可能であること、が推察された。
(20−2) E. coliから調製した組換え発現酵素による変換
E. coliで組換え発現の後に精製したrFcDHおよびrNOXを用いて、20−1と同様にL−フシトールの酵素的変換を試みた。標準反応条件として、120 mM L−フシトール, 0.1 M
Gly-NaOH (pH 9.5), 2 mM NAD, 30 μM FAD, 1 mM MgCl2, 1 U/ml 精製rFcDH, 1 U/ml 精製rNOX, 0.2 mg/ml 精製FucIH6, 0.1 mg/ml カタラーゼからなる反応液を30℃で振盪反応し、適宜サンプリングを行い、L−フシトール、L−フクロースおよびL−フコースをHPLCにて定量した。実験区および反応40時間後の解析結果を以下表14に示す。各実験区における変換時間経過は図25に示す。
図25内の各プロット中、○:白丸はL−フコース、●:黒丸はLフクロース、△:白三角はL−フシトール濃度を示す。(A)が標準条件(120 mML−フシトール, 0.1 M Gly-NaOH (pH 9.5), 2 mM NAD, 30 μM FAD, 1 mM MgCl2, 1 U/ml 精製rFcDH, 1 U/ml 精製rNOX, 0.2 mg/ml 精製FucIH6, 0.1 mg/ml カタラーゼ)における結果である。(B)ではNAD無添加、(C)ではFAD無添加、(D)ではカタラーゼ無添加、および(E)ではFucIH6無添加での結果をそれぞれ示す。
表14および図25に示される結果より、G. oxydansより調製したFcDHとNOX同様、E. coliで組換え生産されたrFcDHとrNOXの両酵素の作用によってNAD(H)のリサイクルが可能であり、添加2 mMのNADでおよそ100 mMのL−フクロースのL−フシトールからの生成が可能であった。また、FucI酵素を更に共存させることにより、生成したL−フクロースはL−フコースに変換され、結果、L−フシトールからL−フコースの生成が可能であった。カタラーゼ添加効果は、上記20−1と同様に認められた。また、本実験では、補酵素NADおよびFADの添加必要性の確認を併せて行った。NAD無添加区では、FcDHとNOXの両酵素が存在していても、L−フシトールの変換は全く進行せず、変換には少なくとも触媒量のNADの添加が必要であると考えられた。FAD無添加区では、変換は進行するものの、添加区に比べその進行に遅延が見られ、実施例15−5で示したように、フラビン補酵素添加によるNOXの活性化が、変換には有効であることが示された。
実施例21:組換えE. coli菌体反応によるL−フシトールの変換
生産された酵素を菌体から取り出すことなく、インタクトセルによるL−フシトールの変換を目的として実験を行った。用いた菌株は、E. coli/pUC18、E. coli/pIEX11、E. coli/pFEX3052、E. coli/pFNEX4105およびE. coli/pFNIEX5706で、単独、あるいは組み合わせて行った。標準反応条件として、120 mM L−フシトール, 0.2 M Gly-NaOH (pH 9.5), 50 μM Riboflavin, 1 mM MgCl2および洗浄菌体(反応液中の終濃度が、A610=5.0となるように調製)からなる反応液を30℃で振盪反応し、適宜サンプリングを行い、L−フシトール、L−フクロースおよびL−フコースをHPLCにて定量した。1種類の菌体での反応には、E. coli/pUC18、E. coli/pFEX3052、E. coli/pFNEX4105およびE. coli/pFNIEX5706を用い、E. coli/pIEX11は2種類目の添加菌体としてのみ利用し、この場合、1種類目の菌体の終濃度はA610=5.0とし、E. coli//pIEX11は終濃度A610=2.5となるように調製した。実験区および反応40時間後の解析結果を以下表15に示す。各実験区における変換時間経過は図26に示す。
図26内の各プロット中、○:白丸はL−フコース、●:黒丸はL−フクロース、△:白三角はL−フシトール濃度を示す。反応液組成は、120 mM L−フシトール, 0.2 M Gly-NaOH (pH 9.5), 50 μM リボフラビン(Riboflavin), 1 mM MgCl2およびA610=5.0となるよう調製した洗浄菌体である。(A)および(D)ではE.coli/pUC18を、(B)および(E)ではE. coli/pFEX3052を、(C)および(F)ではE. coli/pFNEX4105を、(G)ではE. coli/pFNIEX5706をそれぞれ用いた結果であり、(D)、(E)およびFでは上記組成に加え、A610=2.5となるよう調製したE. coli/pIEX11の洗浄菌体も添加した。
結果、実験区(A)に示すように対照区E. coli/pUC18によってはL−フシトールは全く変換されないのに対し、FcDH発現株E. coli/pFEX3052によっては実験区(B)に示すようにL−フクロースの生成が認められた。このことから、インタクトセルによる反応では、宿主菌体内に存在するNADが補酵素として機能し得ること、および若干のNOX活性を宿主が有することが示された。実験区(C)に示すFcDHおよびNOX発現株E. coli/pFNEX4105によっては、FcDH発現株に比べL−フクロース生産性が向上しており、NOXの発現により、NAD(H)のリサイクルが効率的に行われるようになっていると考えられた。E. coli/pFEX3052あるいはE. coli/pFNEX4105による変換時に、FucI発現株E.coli/pIEX11を共存させることにより、実験区(E)、(F)にそれぞれ示すように、生成するL−フクロースはL−フコースに変換されることがそれぞれ認められた。更に、FcDH、NOXおよびFucI3酵素発現株E. coli/pFNIEX5706を用いた変換では、実験区(G)に示すように単一菌株によりL−フシトールがL−フコースに変換可能なことが示された。
実施例22:FcDH+NOX+FucI+KatE発現株の作成とその培養
NOX活性に由来すると思われるH2O2生成が、L-Fucitolの変換を阻害することが酵素反応の結果から認められ、また、カタラーゼの添加によりその阻害を除去することが可能であったため、FcDH+NOX+FucI共発現菌に、更にカタラーゼをも共発現する菌株を作成した。カタラーゼはE.coli由来カタラーゼであるKatEタンパク質を用いることとした。本酵素をコードする遺伝子はNational Center for Biotechnology InformationのデータベースにAccession number M55161として登録されている。本酵素をE. coliに大量発現させる目的で、下記のPCRプライマー(配列番号28、配列番号29)を作成し、常法により得たE. coli W3110株由来のゲノミックDNAをテンプレートとしたPCRを行い、約2.5 kbp長のフラグメントを得た。得られたPCR産物をSalI、PstIで消化後、プラスミドpSTV28(Takara Bio Inc.製)の相当する位置に挿入し、KatE発現用プラスミドpKEX5804を作成した。更に本プラスミドでE.coli/pFNIEX5706株を形質転換し、pFNIEX5706およびpCEX8401両プラスミドを保持する菌株E.coli/FNIC7001株を作成した。
配列28:KatE取得用5'プライマー
GGCTTCACTAGTCGACTATTAAAAATCAGAAAAAC
配列29:KatE取得用3'プライマー
ATGTAAATCCTGCAGGCGGCGCAATTGCGCGCTCC
本株は、LB/Amp+Cm(クロラムフェニコール、0.03 mg/ml)プレート上37℃で培養することによりリフレッシュした。液体培養にはLB/Amp+Cm液体培地を用い37℃で培養した。リフレッシュした菌体を接種した後、終濃度1 mMのIPTGを添加し、6〜18 h時間培養を行った後、遠心操作により集菌した。集菌した菌体は、25 mMのTris-HCl buffer (pH 8.0)で洗浄し、後の実験に用いた。また、LB培地の替わりにTB培地(12 g/l trypton, 24 g/l yeast extract, 4 g/l glycerol, 2.3 g/l KH2PO4, 12.5 g/l K2HPO4)を用いた場合もあるが、菌体量が多く得られる点以外、本質的に変わりはなかった。
実施例23:E.coli/FNIC7001株無細胞抽出液中の酵素活性測定
TB培地を用い、30℃あるいは37℃で培養した後、集菌、洗浄した菌体を25 mM Tris-HCl
(pH 8.0)に再懸濁し、超音波処理(200W, 10 min)にて破砕し、14,000 gで15 min遠心した上清を得、これを無細胞抽出液として、酵素活性測定の酵素源とした。対照としてE.coli/pFNIEX5706株も用いた。
KatE活性の測定は、標準条件として以下の要領にて行った。0.1 M Tris-HCl (pH 8.0)で適宜希釈した酵素溶液1容に、0.5容の59 mMのH2O2を加え、30℃で反応を行い、活性定量は、H2O2の減少に伴う240 nmにおける吸光度減少をモニターすることにより行った。H2O2の吸光係数はe240=43.6M-1cm-1を用いた。測定はH2O2の添加によりスタートし、活性は初発1分間の吸光度変化を初速度とし、ここから算出した。測定時には酵素源を添加しない実験区も作成し、これをブランク値とした。KatE活性として、30℃で1分間に1μmolのH2O2を消費する活性を1 Uとして定義した。測定した酵素活性を表16に示す。30℃、37℃のいずれの培養温度においても、pKEX5804を有するE.coli/FNIC7001株の方がE.coli/pFNIEX5706に比べ、高いKatE活性を有することが認められた。
実施例24:E.coli/FNIC7001株によるL−フシトールの変換
TB/Amp+Cm培地を用いて、27、30、33、あるいは37℃で培養したE.coli/FNIC7001株の洗浄インタクトセルによるL−フシトールの変換実験を行った。反応は、380 mM L-Fucitol, 0.2 M Gly-NaOH (pH 9.5), 50 μM リボフラビン, 1 mM MnCl2, 0.1 mg/ml Amp, 0.03mg/ml Cmおよび洗浄菌体(反応液中の終濃度が、A610=10.0となるように調製)からなる反応液を30℃で振盪反応することにより行い、適宜サンプリングを行い、L−フシトール、L−フクロースおよびL−フコースをHPLCにて定量した。実験区および反応45時間後の解析結果を以下表17に、各実験区における変換時間経過は図27に示す。また、各培養温度より得た菌体から調製した無細胞抽出液中の酵素活性を表18に示す。
図27内の各プロット中、○:白丸はL−フコース、●:黒丸はL−フクロース、△:白三角はL−フシトール濃度を示す。反応液組成は、380 mM L−フシトール, 0.2 M Gly-NaOH (pH 9.5), 50 μM リボフラビン, 1 mM MnCl2, 0.1 mg/ml Amp, 0.03mg/ml CmおよびA610=10.0となるよう調製した洗浄菌体である。変換反応に用いた菌体は、27(図A)、30(図B)、33(図C)あるいは37℃(図D)にて培養したものを用いた。
結果、菌体培養温度が高いほど単位タンパク質量当たりの酵素活性は高い傾向があったが、インタクトセルを用いた変換反応では、菌体培養温度が37℃の場合よりも27、30あるいは33℃の場合の方が、変換速度が速かった。
本発明は、L−フコースの工業的生産に好適である。本発明は、L−フコースを利用する様々な分野に寄与することが期待される。
配列番号1;fucI遺伝子取得用5’プライマー
配列番号2;fucI遺伝子取得用3’プライマー
配列番号3;E. coli由来fucI遺伝子塩基配列
配列番号4;E. coli由来FucIアミノ酸配列
配列番号5;fucI遺伝子取得用PCRプライマー
配列番号6;fucI遺伝子取得用PCRプライマー
配列番号7;sldA遺伝子取得用5’プライマー
配列番号8;sldA遺伝子取得用3’プライマー
配列番号9;Kmr遺伝子取得用5’プライマー
配列番号10;Kmr遺伝子取得用3’プライマ
配列番号11;FcDH由来ペプチドフラグメントF1のアミノ酸配列
配列番号12;FcDH由来ペプチドフラグメントF2のアミノ酸配列
配列番号13;NOX由来ペプチドフラグメントN1のアミノ酸配列
配列番号14;NOX由来ペプチドフラグメントN2のアミノ酸配列
配列番号15;FcDHコード遺伝子fcdhの塩基配列
配列番号16;FcDHアミノ酸配列
配列番号17;NOXコード遺伝子noxの塩基配列
配列番号18;NOXアミノ酸配列
配列番号19:fcdh取得用5'プライマー
配列番号20:fcdh取得用3'プライマー
配列番号21:nox取得用5'プライマー
配列番号22:nox取得用3'プライマー
配列番号23:fcdh+nox取得用3'プライマー
配列番号24:fucI取得用5'プライマー
配列番号25:fucI取得用3'プライマー
配列番号26:fucI取得(単独発現用)5'プライマー
配列番号27:fucI取得(単独発現用)3'プライマー
配列番号28:KatE取得用5'プライマー
配列番号29:KatE取得用3'プライマー

Claims (23)

  1. グルコノバクター・キシリナス・サブスピーシーズ・キシリナスおよびグルコノバクター・オキシダンスのうちの少なくとも一方の微生物、当該微生物の培養物、並びに当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上の存在下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロースの製造方法。
  2. L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有する微生物由来タンパク質の存在下で、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめるL−フクロース生成工程と、
    L−フクロースからL−フコースを生成する活性を有するタンパク質の存在下で、L−フクロースからL−フコースを生成せしめるL−フコース生成工程とを含み、
    前記L−フクロース生成工程における微生物が、グルコノバクター・キシリナス・サブスピーシーズ・キシリナスおよび/またはグルコノバクター・オキシダンスである、
    L−フコースの製造方法。
  3. 下記(A)または(B)のタンパク質。
    (A)配列番号16に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
    (B)配列番号16に記載のアミノ酸配列において、置換、欠失、挿入、付加および逆位からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸の変異を含むアミノ酸配列を有し、かつ、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質
  4. 請求項3に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
  5. 下記(a)または(b)に示すポリヌクレオチド。
    (a)配列番号15に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド
    (b)配列番号15に記載の塩基配列と相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下においてハイブリダイズし、かつL−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
  6. 下記(C)または(D)のタンパク質。
    (C)配列番号18に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
    (D)配列番号18に記載のアミノ酸配列において、置換、欠失、挿入、付加および逆位からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸の変異を含むアミノ酸配列を有し、かつ、NADHオキシダーゼ活性を有するタンパク質
  7. 請求項6に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
  8. 下記(c)または(d)に示すポリヌクレオチド。
    (c)配列番号17に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド
    (d)配列番号17に記載の塩基配列と相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下においてハイブリダイズし、かつNADHからNADを生成する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
  9. 請求項4に記載のポリヌクレオチドが組み込まれた組換えポリヌクレオチド。
  10. 請求項7に記載のポリヌクレオチドが組み込まれた組換えポリヌクレオチド。
  11. 請求項4に記載のポリヌクレオチドおよび請求項7に記載のポリヌクレオチドが組み込まれた組換えポリヌクレオチド。
  12. 請求項9に記載の組換えポリヌクレオチドが導入され、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を発現する、形質転換体。
  13. 請求項12に記載された形質転換体が微生物であり、当該微生物を培地中で培養し、培地中および/または微生物中に、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を蓄積させることを特徴とする、タンパク質の製造方法。
  14. 請求項12に記載された形質転換体が微生物であり、
    当該微生物、当該微生物の培養物および当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上を、L−フシトールを含む反応系に添加し、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロースの製造方法。
  15. 請求項12に記載された形質転換体が微生物であり、当該微生物、当該微生物の培養物および当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上を、L−フシトールを含む反応系に添加し、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロース生成工程と、
    L−フクロースからL−フコースを生成する活性を有するタンパク質の存在下で、L−フクロースからL−フコースを生成せしめるL−フコース生成工程と、
    を含む、L−フコースの製造方法。
  16. 請求項9に記載の組換えポリヌクレオチドおよび請求項10に記載の組換えポリヌクレオチドが導入され、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質およびNADHからNADを生成する活性を有するタンパク質を発現する、形質転換体。
  17. 請求項10に記載の組換えポリヌクレオチドが導入され、NADHからNADを生成する活性を有するタンパク質を発現する形質転換微生物を培地中で培養し、培地中および/または微生物中に、NADHからNADを生成する活性を有するタンパク質を蓄積させることを特徴とする、タンパク質の製造方法。
  18. 請求項16に記載された形質転換体が微生物であり、
    当該微生物、当該微生物の培養物および当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上を、L−フシトールを含む反応系に添加し、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロースの製造方法。
  19. 請求項16に記載された形質転換体が微生物であり、当該微生物、当該微生物の培養物および当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上を、L−フシトールを含む反応系に添加し、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロース生成工程と、
    L−フクロースからL−フコースを生成する活性を有するタンパク質の存在下で、L−フクロースからL−フコースを生成せしめるL−フコース生成工程と、
    を含む、L−フコースの製造方法。
  20. 請求項11に記載の組換えポリヌクレオチドが導入され、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質およびNADHからNADを生成する活性を有するタンパク質を発現する、形質転換体。
  21. 請求項20に記載された形質転換体が微生物であり、当該微生物を培地中で培養し、培地中および/または微生物中に、L−フシトールからL−フクロースを生成するデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質およびNADHからNADを生成する活性を有するタンパク質を蓄積させることを特徴とする、タンパク質の製造方法。
  22. 請求項20に記載された形質転換体が微生物であり、
    当該微生物、当該微生物の培養物および当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上を、L−フシトールを含む反応系に添加し、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロースの製造方法。
  23. 請求項20に記載された形質転換体が微生物であり、当該微生物、当該微生物の培養物および当該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上を、L−フシトールを含む反応系に添加し、L−フシトールからL−フクロースを生成せしめる、L−フクロース生成工程と、
    L−フクロースからL−フコースを生成する活性を有するタンパク質の存在下で、L−フクロースからL−フコースを生成せしめるL−フコース生成工程と、
    を含む、L−フコースの製造方法。
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