JP2005046036A - プロモーターdna断片及び遺伝子発現の制御方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】双子葉植物及び単子葉植物の根において、目的とする遺伝子の発現を制御することができるプロモーターDNA配列、そのDNA配列を含むプラスミド、ならびに、そのプラスミドにより形質転換されてなる植物体を提供する。
【解決手段】リン酸トランスポーターPHT1タンパク質をコードする遺伝子の上流に存在する3888塩基のヌクレオチド配列の少なくとも一部を含むプロモーターDNA断片。該プロモーターDNA断片およびそれに連結された遺伝子を有する形質転換体において、該遺伝子発現をリン酸により制御する遺伝子発現の制御方法。
【選択図】 なし
【解決手段】リン酸トランスポーターPHT1タンパク質をコードする遺伝子の上流に存在する3888塩基のヌクレオチド配列の少なくとも一部を含むプロモーターDNA断片。該プロモーターDNA断片およびそれに連結された遺伝子を有する形質転換体において、該遺伝子発現をリン酸により制御する遺伝子発現の制御方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は遺伝子工学の分野、特に遺伝子工学を用いた植物細胞の形質転換に関する。特には、根組織における遺伝子発現を特異的に制御する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
植物細胞で外来遺伝子を発現させる方法としては、CaMV 35Sプロモーターやノパリン合成酵素遺伝子プロモーター等の下流に外来遺伝子を接続して、植物細胞に導入する方法が挙げられる。これらのプロモーターは植物細胞の様々な組織で恒常的に発現することが知られてきた。植物の分子育種を行う上では器官特異性が高い遺伝子発現系の開発が望まれている。特に、根は植物が土壌環境と接する器官として分子育種による改良の対象となっているが、根特異的なプロモーターはそれほど知られていない。これまで知られている根で特異性の高いプロモーターとしては、ジャガイモのα−アミラーゼ遺伝子プロモーター(例えば、特許文献1)、トマトのエクステンシン様蛋白質遺伝子プロモーター(例えば、特許文献2)、タバコのTobRD2遺伝子プロモーター(例えば、特許文献3)、ルーピンの酸性フォスファターゼ遺伝子プロモーター(例えば、特許文献4)などの報告があるが、発現量が低いこと、単子葉植物では発現量が低い等の問題があった。
【0003】
一方、植物生理学の分野では、植物にとってリン酸が重要な栄養素であり、根からのリン酸吸収が植物体の成長を大きく左右することが知られている。植物根でリン酸を細胞内へ吸収する役割を果たすリン酸トランスポーター遺伝子がジャガイモ(例えば、非特許文献1)などの植物で知られていた。リン酸トランスポーター遺伝子の一種のプロモーターがリン酸に応答して発現することが知られている(例えば、特許文献5)が、根での器官特異的な高発現や単子葉植物での発現解析はなされていない。
【0004】
【特許文献1】
特表平10−507913
【特許文献2】
特表2002−530075
【特許文献3】
特表平11−510056
【特許文献4】
特開2002−142766
【特許文献5】
特開平9−252782
【非特許文献1】
Leggewiら(1995), Abstracts of 10th International Workshop on Plant Membrane Biology p.R32
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、双子葉植物及び単子葉植物の根において、目的とする遺伝子の発現を制御することができるプロモーターDNA配列、そのDNA配列を含むプラスミド、ならびに、そのプラスミドにより形質転換されてなる植物体を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、根において特異的に発現するプロモーターを単離するための一つの手段として、リン酸の細胞内への取り込みに関わるタンパク質をコードする遺伝子の上流域を単離することを構想した。そして、リン酸を細胞内へ吸収する役割を果たす輸送タンパク質(リン酸トランスポーター)が植物でいくつか知られていることから、シロイヌナズナのリン酸トランスポーター遺伝子の上流領域(プロモーター領域)にレポーター遺伝子を連結し、双子葉植物、単子葉植物で発現解析を行った。その結果、リン酸トランスポーター遺伝子の一つがリン酸濃度に応答して、根において強く発現することを見出し、これにより本発明を完成した。即ち、本発明は以下(1)〜(7)の発明から構成される。
【0007】
(1) 下記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列からなるプロモーターDNA断片。
(a)配列番号1に示す塩基配列。
(b)塩基配列(a)に対して、該塩基配列(a)のプロモーターとしての機能を損なわない範囲内で、1もしくは数塩基の欠失、置換または付加して得られた変異配列。
(c)塩基配列(a)の一部を含み、かつプロモーターとしての機能を有する塩基配列。
(2)上記(1)に記載のプロモーターDNA断片の塩基配列を含む、発現ベクター。
(3) 上記(2)に記載の発現ベクターが導入された形質転換植物細胞。
(4) 上記(3)に記載の形質転換植物細胞を保持する形質転換植物。
(5) 該植物は双子葉植物である(4)に記載の形質転換植物。
(6) 該植物は単子葉植物である(4)に記載の形質転換植物。
(7) 上記(4)に記載の形質転換植物における該プロモーターDNA断片に連結された遺伝子の発現をリン酸により制御することを特徴とする遺伝子発現の制御方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。「プロモーター」とは、DNAを鋳型としたmRNAの合成(転写)の開始に必要な特定塩基配列を含むDNAを意味し、これには自然界に存在するDNAの他、組換えなどの人工的な改変操作により作成されたDNAが含まれる。
本発明にかかるDNAプロモーターは、下記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列からなるプロモーターDNA断片である。
(a)配列番号1に示す塩基配列。
(b)塩基配列(a)に対して、該塩基配列(a)のプロモーターとしての機能を損なわない範囲内で、1もしくは数塩基の欠失、置換または付加して得られた変異配列。
(c)塩基配列(a)の一部を含み、かつプロモーターとしての機能を有する塩基配列。
【0009】
本発明の「組換えベクター」は、上記の構成のプロモーターと、これに結合したベクターとを有するものである。この組換えベクターのベクター部分を構成するベクターとしては、pUC誘導体などの大腸菌で増幅可能なベクター、pBI101(クロンテック社)などのように大腸菌とアグロバクテリウムの双方で増幅可能なシャトルベクターなどが挙げられる。また、植物ウイルス、例えば、カリフラワーモザイクウイルスをベクターとして利用することもできる。ベクターは、各々の宿主細胞に応じて選択する。本発明の発現ベクターは、例えば、ベクターの所定の部分に上記構成のDNAプロモーターを結合あるいは挿入して得ることができる。なお、プロモーターをベクターに挿入する方法は、通常の遺伝子をベクターに挿入する方法に従う。この組換えベクターのプロモーターDNAに所望の遺伝子を機能的に接続することで遺伝子発現用の発現ベクターを得ることができる。
【0010】
本発明の「形質転換細胞」とは、上記発現ベクターを宿主細胞に導入して得られた形質転換細胞である。宿主植物細胞としては、形質転換可能であれば制限はないが、例えば、イネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ライムギ、ジャガイモ、タバコ、サトウダイコン、サトウキビ、ナタネ、ダイズ、ヒマワリ、ワタ、オレンジ、ブドウ、モモ、ナシ、リンゴ、トマト、ハクサイ、キャベツ、ダイコン、ニンジン、カボチャ、キュウリ、メロン、パセリ、ラン、キク、ユリ、サフラン、ユーカリ、マツ、ユーカリ、アカシヤ、ポプラ、スギ、ヒノキ、タケ、イチイなどの植物の細胞が挙げられる。
【0011】
上記発現ベクターを宿主植物細胞中に導入するために、さまざまな手法を用いることができる。これらの手法には、形質転換因子としてアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)または、アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)を用いたT−DNAによる植物細胞の形質転換方法のほかに、プロトプラストへの直接導入(プロトプラストに電気パルス処理してDNAを植物細胞へ導入するエレクトロポレーション法や、リポソームなどとプロトプラストとの融合法、マイクロインジェクション法、ポリエチレングリコール法など)、パーティクルガン法などが挙げられる。
【0012】
また、植物ウイルスをベクターとして利用することによって、目的遺伝子を植物体に導入することができる。利用可能な植物ウイルスとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルスが挙げられる。すなわち、まず、ウイルスゲノムを大腸菌由来のベクターなどに挿入して組換え体を調製した後、ウイルスのゲノム中に、これらの目的遺伝子を挿入する。このようにして修飾されたウイルスゲノムを制限酵素によって該組換え体から切り出し、植物体に接種することによって、これらの目的遺伝子を植物体に導入することができる(Hohnら(1982)、Molecular Biology of Plant Tumors(Academic Press、New York)pp549、米国特許第4,407,956号明細書)。植物細胞や植物体へのベクター導入の手法は、これらのみに限定されず、その他の可能性も含まれる。
【0013】
プロトプラストへの直接導入では、特別に必要とされるベクターはない。例えば、pUC誘導体のような単純なプラスミドを用いることができる。目的の遺伝子を植物細胞に導入する方法によっては、他のDNA配列が必要になることもある。例えば、TiまたはRiプラスミドを植物細胞の形質転換に用いる場合には、TiおよびRiプラスミドのT−DNA領域の少なくとも右の端の配列、大抵は両側の端の配列を、導入されるべき遺伝子の隣接領域となるように接続しなければならない。
【0014】
アグロバクテリウム属菌を形質転換に用いる場合には、導入すべき遺伝子を、特別のプラスミド、すなわち中間ベクターまたはバイナリーベクターの中にクローニングする必要がある。中間ベクターはアグロバクテリウム属菌の中では複製されない。中間ベクターは、ヘルパープラスミドあるいはエレクトロポレーションによってアグロバクテリウム属菌の中に移行される。中間ベクターは、T−DNAの配列と相同な領域をもつため、相同的組換えによって、アグロバクテリウム属菌のTiまたはRiプラスミド中に取り込まれる。宿主として使われるアグロバクテリウム属菌には、vir領域が含まれている必要がある。通常TiまたはRiプラスミドにvir領域が含まれており、その働きにより、T−DNAを植物細胞に移行させることができる。
【0015】
一方、バイナリーベクターはアグロバクテリウム属菌の中で複製、維持され得るので、ヘルパープラスミドあるいはエレクトロポレーション法によってアグロバクテリウム属菌中に取り込まれると、宿主のvir領域の働きによって、バイナリーベクター上のT−DNAを植物細胞に移行させることができる。
【0016】
なお、このようにして得られた中間ベクターまたはバイナリーベクター、及びこれを含む大腸菌やアグロバクテリウム属菌等の微生物も本発明の対象である。
【0017】
本発明の「形質転換植物体」とは、上述した形質転換植物細胞を有する植物体であり、例えば、上記形質転換細胞から再生された形質転換植物体がこれに含まれる。形質転換された植物細胞から個体を再生する方法は植物細胞の種類により異なるが、例えばイネではFujimuraら(Fujimuraら(1995), Plant Tissue Culture Lett., vol.2:p74−)の方法、トウモロコシでは、Shillitoら(Shillitoら(1989), Bio/Technology, vol.7:p581−)の方法、ジャガイモでは、Visserら(Visserら(1989), Theor. Appl. Genet., vol.78:p589−)の方法、シロイヌナズナではAkamaらの方法(Akamaら(1992), Plant Cell Rep., vol.12:p7−)ユーカリでは土肥らの方法(特願平11−127025)が挙げられる。これらの方法により作出された形質転換植物体またはその繁殖媒体(例えば種子、塊茎、切穂など)から得た形質転換植物体は本発明の対象である。
【0018】
本発明は、上記プロモーターを有する発現ベクターを宿主細胞に導入して形質転換細胞を得て、該形質転換細胞から形質転換植物体を再生し、得られた形質転換植物体から植物種子を得て、該植物種子から植物体を生産する工程を含む。
【0019】
形質転換植物体から植物種子を得る工程とは、例えば、形質転換植物体を発根培地から採取し、水を含んだ土を入れたポットに移植し、一定温度下で生育させて、花を形成させ、最終的に種子を形成させる工程を指す。また、種子から植物体を生産する工程とは、例えば、形質転換植物体上で形成された種子が成熟したところで、単離して、水を含んだ土に播種し、一定温度、照度下で生育させることにより、植物体を生産する工程をいう。
【0020】
本発明は、上記構成の本発明にかかるプロモーターの制御下で所望の植物組織で遺伝子の発現量を制御する方法を含む。この発現の制御には、このプロモーターの活性を調節することによって、発現を増加させる場合、発現を抑制する場合などを含む。その発現を本発明のプロモーターの制御下に置くことのできる遺伝子としては、根で発現させることによって産業上の効果が期待できる遺伝子であり、例えば、無機栄養素の取り込みに関するリン酸トランスポーター遺伝子、クエン酸合成酵素遺伝子、リンゴ酸チャネル遺伝子、酸性フォスファターゼ遺伝子等がある。また、重金属やイオンストレスを排除あるいは耐性を付与する遺伝子として、メタロチオネイン遺伝子、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ遺伝子、ATPアーゼ遺伝子等がある。さらに、根に生じる活性酸素を消去する遺伝子としてカタラーゼ遺伝子、アスコルビン酸ペルオキシダーゼ遺伝子等や適合溶質の合成に関わるプロリン合成遺伝子、ベタイン合成遺伝子等、ポリアミンの合成に関わる遺伝子等、多種多様の遺伝子群の発現に利用できる。
【0021】
本発明にかかる発現制御方法を利用することで、例えば以下のような効果を得ることができる。
【0022】
植物細胞に遺伝子を導入し、その遺伝子産物であるタンパク質やその働きによって細胞内で生じる物質を生産させようとする場合には、この遺伝子産物や物質によって細胞の生育が阻害され、生産効率が向上しないことがある。その際に、本発明のプロモーターの制御下に目的の遺伝子を置けば、根細胞において目的の遺伝子を発現させて所望の生産が可能となる。この生産には、形質転換細胞あるいはその細胞からなる毛状根など組織の培養物、あるいは形質転換植物体の栽培収穫物が用いられる。
【0023】
本発明において使用されるプロモーターは、上記リン酸トランスポーターPHT1タンパク質をコードする遺伝子の上流に存在する3888塩基のヌクレオチド配列の少なくとも一部を含むものである。「少なくとも一部」とは、該配列のうち本発明のプロモーターとしての機能領域を含めば良く、好ましくは下流側である。より好ましくは下流側の2800塩基以上を含むものであり、最も好ましくは3888塩基である。
また、該「少なくとも一部」に対して、1または数塩基のヌクレオチドが欠失、置換及び/又は付加された配列であって、根細胞で遺伝子発現し得る本発明のプロモーターとしての機能を有する配列であっても同様に好適に用いることができる。ここで、「数塩基」とは、部位特異的突然変異誘発法等の周知の方法によって欠失、置換及び/又は付加が可能な程度のヌクレオチド数を意味する。
【0024】
該プロモーター配列は、シロイヌナズナ等の植物由来のものを直接利用しても良く、GenBank、EMBL、DDBJ等のDNAデータベースに対して既知のPHT1遺伝子配列またはPHT1遺伝子と80%以上、好ましくは90%以上の相同性を有する遺伝子配列の上流を検索することによって得られるものであっても良い。配列が得られた後は、当分野において通常用いられる化学合成、あるいはPCR反応等の技術を使用して、目的とするプロモーター配列を得ることができる。
【0025】
本発明のプロモーターは、発現を誘導すべき外来性遺伝子と共に機能的に連結して発現ベクターに組み込んで宿主となる細胞に導入するか、または外来性遺伝子と別個に細胞に導入することができる。また、細胞が本来有する内在性遺伝子を誘導的に発現させるために、該遺伝子の上流に組み込むこともできる。当業者であれば、プロモーターと遺伝子の機能的連結は通常行うことであるが、具体的には下流に配置する遺伝子の翻訳開始コドンがプロモーターの下流にくる最初のATGになるように行う。発現ベクターにプロモーター及び遺伝子を挿入するには、まず、プロモーター及び遺伝子に場合によって適当な制限酵素部位を付加した後に制限酵素で切断し、発現ベクターの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入して連結する方法等が採用される。
【0026】
上記の配列のプロモーター活性については、以下のようにして解析することが可能である。例えば、pBI101などレポーター遺伝子を含むベクターを用い、そのレポーター遺伝子の上流に上記の配列を連結するようにサブクローニングする。pBI101ベクターにはレポーター遺伝子として、大腸菌のβグルクロニダーゼ(GUS)が使用されている。この遺伝子産物は基質として5−bromo−4−chloro−3−β−D−glucronic acid(X−gluc)を用いると、これを分解して青色の沈澱物であるindigotinを生ずるため、遺伝子発現を組織レベルでモニターすることが可能である。また、基質として4−methyl −umbelliferyl−β−D−glucronide(4MUG)を用いると、遺伝子産物の働きによって生じる蛍光によって遺伝子発現を定量することが可能である。なお、レポーター遺伝子としては、GUS遺伝子の他にクロラムフェニコール アセチルトランスフェラーゼ遺伝子や、ルシフェラーゼ遺伝子、グリーンフルオロセインプロテイン遺伝子なども利用が可能である。
【0027】
上記のようにして作成されたキメラ遺伝子構築物は、例えば、アグロバクテリウムを介してシロイヌナズナなどの植物に導入してその機能を解析することが可能である。pBI101をベクターとして用いた場合は、キメラ遺伝子を含む組換えプラスミドを、例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンスのEHA101株にエレクトロポレーション法を用いて導入し、得られた形質転換菌を、例えば、フローラルディップ法(島本功ら監修、「モデル植物の実験プロトコール」(植物細胞工学別冊、植物細胞工学シリーズ4)秀潤社1996年4月発行)によりシロイヌナズナ植物体に感染させる。感染処理した植物より得られた種子を、用いたベクターに基づいてカナマイシンなどの薬剤を含む培地に播種し、遺伝子導入により薬剤耐性となった形質転換植物体を得る。この形質転換植物体を用いてレポーターGUS遺伝子の発現について解析する。用いた上流配列にプロモーター活性が存在する場合は、GUS活性が、根組織においてリン酸欠乏環境下で特異的に検出されることが期待される。
【0028】
本発明のプロモーターまたはそれを含む発現ベクターは、以下のようにして利用することが可能である。本発明のプロモーターの下流に目的の遺伝子、例えば、リン酸その他の栄養吸収関連遺伝子を連結したキメラ遺伝子を、例えば、pBI101ベクターに挿入し発現ベクターを構築する。このベクターをアグロバクテリウムを介して、例えば、タバコ植物体に導入する。得られた形質転換植物においては、本発明のプロモーターの働きにより、根で発現することが期待される。この場合、35Sプロモーターのように不要な組織においても発現する現象がないため、他の好ましくない形質が現れないことが期待される。
【0029】
本発明のプロモーターで制御可能な遺伝子としては、上述した特定の遺伝子に限定されない。根で特異的に発現させることに意義のあるあらゆる遺伝子に応用が可能である。このような遺伝子としては、無機栄養素の取り込みに関するリン酸トランスポーター遺伝子、クエン酸合成酵素遺伝子、リンゴ酸チャネル遺伝子、酸性フォスファターゼ遺伝子等がある。また、重金属やイオンストレスを排除あるいは耐性を付与する遺伝子として、メタロチオネイン遺伝子、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ遺伝子、ATPアーゼ遺伝子等がある。さらに、根に生じる活性酸素を消去する遺伝子としてカタラーゼ遺伝子、アスコルビン酸ペルオキシダーゼ遺伝子等や適合溶質の合成に関わるプロリン合成遺伝子、ベタイン合成遺伝子等、ポリアミンの合成に関わる遺伝子等、産業上有用な遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
【実施例】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
<実施例1>リン酸トランスポーター遺伝子プロモーター領域の単離
シロイヌナズナ由来リン酸トランスポーター遺伝子PHT1のプロモーター領域を以下に示す手順で単離した。
【0032】
GenBankよりPHT1遺伝子(accession No. D86608; Mitsukawaら(1997), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.94:p7098−)を検索し、PHT1ゲノム配列情報の一部(5796bp)を得た。このゲノム配列情報からコーディング配列(CDS)に相当する配列(2219−2619, 2771−3944)を抽出し、この配列に対してBLAST検索を行い、PHT1遺伝子の上流配列(プロモーター領域)を含むP1クローンを特定し、このクローンからPHT1プロモーター配列情報 1〜3888を得た。
【0033】
PHT1プロモーターのDNA断片を単離するためにシロイヌナズナのゲノムDNAを鋳型としてPCR反応を行い、DNA断片(1〜3888)を増幅した。その際、プライマーのフォワードとリバース側にそれぞれ制限酵素サイトNotIとBamHIを付加した。このPCR産物をpBluescript SK−の同制限酵素サイトに連結し、得られたプラスミドをpPHT1Pとした(図1)。
【0034】
pBI221のGUSからnosターミネーターを含む断片をpBluescript SK−のBamHI、EcoRIサイトに連結し、得られたプラスミドをpGUS−nosとした。次に、プロモーター領域の下流にGUSを接続するため、pPHT1Pのプロモーター領域を含む断片をpGUS−nosのNotI、BamHIサイトに連結し、得られたプラスミドをpP1PGとした。pP1PGをNotI消化してプロモーター−GUS−ターミネーターからなる融合遺伝子を切り出した後、klenow処理により平滑末端化し、さらにHindIIIリンカーにより同制限酵素サイトを付加した断片をアグロバクテリウム感染用ベクターpGAHのHindIIIサイトに連結してpGAH−PHT1−GUSを得た(図1)。得られたバイナリーベクターpGAH−PHT1−GUSをエレクトロポレーション法によりアグロバクテリウム(EHA101)へ導入した。
【0035】
<実施例2>リン酸トランスポータープロモーターのシロイヌナズナでの部位特異的発現
pGAH−PHT1−GUSを導入したアグロバクテリウムをフローラルディップ法によりシロイヌナズナに感染させ、リン酸トランスポータープロモーター−GUS融合遺伝子をシロイヌナズナに導入し、形質転換体種子を採った。
【0036】
得られた種子を吸水後2日間、4℃で低温処理した後、15mg/lハイグロマイシンBと100mg/lカルベニシリンを含む1/2×MS(Murashige and Skoog (1962), Physiol. Plant, vol.15:p473−)寒天培地に播種し、形質転換体植物を選抜した。選抜した形質転換体から次世代の種子を採り、分離比を調べて導入された本発明遺伝子の数が1コピーの植物体からさらにホモ系統を選抜した。
【0037】
組織化学的解析(GUS染色)には植物体をすべて25℃、連続光照射下で栽培し、初めに2日間の低温処理を行った後、滅菌水を入れたエッペンドルフチューブ中で1週間回転させて栽培したもの、1×MS寒天培地で4週間栽培したもの、Todaらの方法(Todaら(1999), Biosci. Biotechnol. Biochem, vol.63:p210−)に準じて1/10×MGRL液体培地の入ったプラントボックスにナイロンメッシュ(50mesh)を挟んだプラスチックフィルムマウントを浮かべ、その上で4週間栽培したものを用いた。
【0038】
GUS染色の方法は基本的にJeffersonらの方法(Jeffersonら(1987), EMBO J, vol.6:p3901−)に従い、植物体を90%冷アセトンに浸水させて約20分間減圧下で固定した後、X−Glucを基質とした染色液で染色を行った。根横断面はGUS染色を行った後、エポキシ樹脂(Quetol812)に包埋し、ミクロトームで5μmの切片を作製して観察した。
【0039】
GUS染色の結果を図2〜図4に示した。本発明プロモーター−GUS融合遺伝子を導入したシロイヌナズナ形質転換体は根で強いGUS活性が検出された。胚軸と子葉におけるGUSの発現は根に比べかなり弱いものであった(図2)。本葉、茎、花でのGUS活性も根に比べるとかなり弱く、根で最も強いGUS活性が検出された(図3)。根の横断面を観察したところ根全体で強いGUS活性が検出された(図4)。
【0040】
GUS活性測定に用いた植物体は、種子を2日間の低温処理した後、リン酸濃度200μMに調製した寒天培地(1/2×MGRL salt, 1/2×MS vitamin, 0.5g/l MES, 1.6% agar)に播種し、25℃、連続光照射下で、培地を垂直に立てて栽培した。14日間栽培した後に、植物体をリン酸濃度0μM、10μM、50μM、200μM、1000μMに調製した寒天培地に移植し、さらに7日間栽培を続けた。
【0041】
抽台直後の植物体の地上部と地下部からそれぞれタンパク質を抽出し、Jeffersonらの方法に従いGUS活性を測定した。なお、タンパク濃度の測定はBradford法により行い、BSAをスタンダードとした。
【0042】
GUS活性の結果を図5に示した。いずれのリン酸濃度でも地下部(根)のGUS活性は地上部に比べて高い値を示した。リン酸欠乏状態では地下部のGUS活性は地上部に比べ約20倍と、高い器官特異性を示した。また、リン酸濃度を変化させることで本発明プロモーターの発現を調節できることが示された。
【0043】
<実施例3>リン酸トランスポータープロモーターのイネでの部位特異的発現
実施例1で作製したバイナリーベクターpGAH−PHT1−GUSを導入したアグロバクテリウムを用いてアグロバクテリウム法(Hieiら(1994), Plant J, vol.6 :p271−)により、イネにリン酸トランスポータープロモーター−GUS融合遺伝子を導入した。得られたイネ形質転換当代の植物体から次世代種子を採った。
【0044】
組織化学的解析(GUS染色)を行ったサンプルはT2世代(形質転換次世代)あるいはT3世代のイネ植物体を使用した。栽培は28℃、連続光照射の条件で行い、イネ形質転換体を播種後3〜5日目までは水を含ませた濾紙の上で栽培し、その後、イネ水耕栽培溶液(0.36mM (NH4)2 SO4, 0.18mM KNO3, 0.18mM KH2PO4, 0.09mM K2SO4, 0.54mM MgSO47H 2O, 0.24mM Ca(NO3)2, 0.06mM C5H9FeO7, 0.05mM H3BO4, 0.006mM MgCl24H2O, 0.0008mM ZnSO47H2O, 0.0003mM CuSO45H2O, 0.0005mM Na2MoO42H2O, pH5.4)で生育させた。イネ水耕栽培溶液は1〜2日ごとに新しいものに取り替えた。
【0045】
GUS染色の方法は基本的にJeffersonらの方法に従い、植物体を90%冷アセトンに浸水させて約20分間減圧下で固定した後、X−Glucを基質とした染色液で染色を行った。根のGUS染色はイネ水耕栽培溶液へ移植する直前の植物体を用いて行った。葉のGUS染色は播種後約2ヶ月の植物体を用いて行った。根横断面はGUS染色を行った後、エポキシ樹脂(Quetol812)に包埋し、ミクロトームで10μmの切片を作製して観察した。
【0046】
GUS染色の結果を図6〜図8に示した。本発明プロモーター−GUS融合遺伝子を導入したイネ形質転換体の根は根冠付近を除き、ほぼ全体で強いGUS活性が検出され、根毛では特に強いGUS活性が検出された(図6)。また、根の横断面を観察したところ、皮層で強いGUS活性が検出された(図7)。葉でのGUS活性はほとんど検出できなかった。
【0047】
GUS活性測定は水耕と土壌で栽培したイネ形質転換体(T2あるいはT3世代)の根と葉でそれぞれ行った。水耕栽培は基本的に組織化学的解析と同様にイネ水耕栽培溶液で行い、リン酸に対する応答性を調べるため、植物体を播種2ヶ月後にリン酸が豊富な水耕液(リン酸濃度0.18mM)とリン酸を欠乏させた培地(リン酸濃度0mM)に移し変え、さらに6日間栽培を続けた。土壌栽培はイネ形質転換体を播種後3〜5日目までは水を含ませた濾紙の上で栽培し、その後、JAくみあい粒状培土クリーン2号を充填させたワグネルポットに移植し、ガラス温室で約2ヶ月間生育させた。
【0048】
GUS活性の測定はJeffersonらの方法に従って行った。なお、タンパク濃度の測定はBradford法により行い、BSAをスタンダードとした。
【0049】
GUS活性測定の結果を表1および表2に示した。GUS活性値はT2世代目、T3世代目共に同程度の値であることから、本発明遺伝子が安定的に染色体に組込まれていることが示された。いずれの条件においても、根のGUS活性は葉より高い値を示し、部位特異的発現を確認することができた。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
<参考実験>
実施例1と同様の方法でPHT1プロモーターとして配列表の2889〜3888(1.0kb)までの領域をレポーター遺伝子GUSに連結してシロイヌナズナに導入し、実施例1で使用した配列表1〜3888(3.9kb)までのプロモーターとの発現量を、GUS活性を測定することにより比較し、表3に記載した。その際、培地中のリン酸有無それぞれについての発現量を測定した。この結果、本発明のプロモーターによる遺伝子発現を制御するためには、配列番号1に記載の塩基配列のうち、下流側1kbだけでは不十分であることが確認された。
【0053】
【表3】
【0054】
【発明の効果】
本発明のプロモーター領域を利用することにより、植物の根組織において、目的とするタンパク質を特異的かつ効率的に発現させることが可能になった。
【0055】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明リン酸トランスポーター遺伝子プロモーターの下流にGUS遺伝子を繋ぎ、この融合遺伝子を植物感染用ベクターpGAHに連結するまでのベクター構築の流れを示す図である。
【図2】リン酸トランスポータープロモーター−GUS融合遺伝子を導入したシロイヌナズナを、リン酸欠乏状態で7日間栽培してからGUS染色を行った図である。
【図3】リン酸トランスポータープロモーター−GUS融合遺伝子を導入したシロイヌナズナを、リン酸を含む培地で1ヶ月間栽培してからGUS染色を行った図である。
【図4】リン酸トランスポータープロモーター−GUS融合遺伝子を導入したシロイヌナズナをGUS染色し、その根の横断面を示した図である。
【図5】リン酸トランスポータープロモーター−GUS融合遺伝子を導入したシロイヌナズナのGUS活性測定を示す図である。
【図6】リン酸トランスポータープロモーター−GUS融合遺伝子を導入したイネの根をGUS染色した図である。
【図7】リン酸トランスポータープロモーター−GUS融合遺伝子を導入したイネをGUS染色し、その根の横断面を示した図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は遺伝子工学の分野、特に遺伝子工学を用いた植物細胞の形質転換に関する。特には、根組織における遺伝子発現を特異的に制御する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
植物細胞で外来遺伝子を発現させる方法としては、CaMV 35Sプロモーターやノパリン合成酵素遺伝子プロモーター等の下流に外来遺伝子を接続して、植物細胞に導入する方法が挙げられる。これらのプロモーターは植物細胞の様々な組織で恒常的に発現することが知られてきた。植物の分子育種を行う上では器官特異性が高い遺伝子発現系の開発が望まれている。特に、根は植物が土壌環境と接する器官として分子育種による改良の対象となっているが、根特異的なプロモーターはそれほど知られていない。これまで知られている根で特異性の高いプロモーターとしては、ジャガイモのα−アミラーゼ遺伝子プロモーター(例えば、特許文献1)、トマトのエクステンシン様蛋白質遺伝子プロモーター(例えば、特許文献2)、タバコのTobRD2遺伝子プロモーター(例えば、特許文献3)、ルーピンの酸性フォスファターゼ遺伝子プロモーター(例えば、特許文献4)などの報告があるが、発現量が低いこと、単子葉植物では発現量が低い等の問題があった。
【0003】
一方、植物生理学の分野では、植物にとってリン酸が重要な栄養素であり、根からのリン酸吸収が植物体の成長を大きく左右することが知られている。植物根でリン酸を細胞内へ吸収する役割を果たすリン酸トランスポーター遺伝子がジャガイモ(例えば、非特許文献1)などの植物で知られていた。リン酸トランスポーター遺伝子の一種のプロモーターがリン酸に応答して発現することが知られている(例えば、特許文献5)が、根での器官特異的な高発現や単子葉植物での発現解析はなされていない。
【0004】
【特許文献1】
特表平10−507913
【特許文献2】
特表2002−530075
【特許文献3】
特表平11−510056
【特許文献4】
特開2002−142766
【特許文献5】
特開平9−252782
【非特許文献1】
Leggewiら(1995), Abstracts of 10th International Workshop on Plant Membrane Biology p.R32
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、双子葉植物及び単子葉植物の根において、目的とする遺伝子の発現を制御することができるプロモーターDNA配列、そのDNA配列を含むプラスミド、ならびに、そのプラスミドにより形質転換されてなる植物体を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、根において特異的に発現するプロモーターを単離するための一つの手段として、リン酸の細胞内への取り込みに関わるタンパク質をコードする遺伝子の上流域を単離することを構想した。そして、リン酸を細胞内へ吸収する役割を果たす輸送タンパク質(リン酸トランスポーター)が植物でいくつか知られていることから、シロイヌナズナのリン酸トランスポーター遺伝子の上流領域(プロモーター領域)にレポーター遺伝子を連結し、双子葉植物、単子葉植物で発現解析を行った。その結果、リン酸トランスポーター遺伝子の一つがリン酸濃度に応答して、根において強く発現することを見出し、これにより本発明を完成した。即ち、本発明は以下(1)〜(7)の発明から構成される。
【0007】
(1) 下記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列からなるプロモーターDNA断片。
(a)配列番号1に示す塩基配列。
(b)塩基配列(a)に対して、該塩基配列(a)のプロモーターとしての機能を損なわない範囲内で、1もしくは数塩基の欠失、置換または付加して得られた変異配列。
(c)塩基配列(a)の一部を含み、かつプロモーターとしての機能を有する塩基配列。
(2)上記(1)に記載のプロモーターDNA断片の塩基配列を含む、発現ベクター。
(3) 上記(2)に記載の発現ベクターが導入された形質転換植物細胞。
(4) 上記(3)に記載の形質転換植物細胞を保持する形質転換植物。
(5) 該植物は双子葉植物である(4)に記載の形質転換植物。
(6) 該植物は単子葉植物である(4)に記載の形質転換植物。
(7) 上記(4)に記載の形質転換植物における該プロモーターDNA断片に連結された遺伝子の発現をリン酸により制御することを特徴とする遺伝子発現の制御方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。「プロモーター」とは、DNAを鋳型としたmRNAの合成(転写)の開始に必要な特定塩基配列を含むDNAを意味し、これには自然界に存在するDNAの他、組換えなどの人工的な改変操作により作成されたDNAが含まれる。
本発明にかかるDNAプロモーターは、下記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列からなるプロモーターDNA断片である。
(a)配列番号1に示す塩基配列。
(b)塩基配列(a)に対して、該塩基配列(a)のプロモーターとしての機能を損なわない範囲内で、1もしくは数塩基の欠失、置換または付加して得られた変異配列。
(c)塩基配列(a)の一部を含み、かつプロモーターとしての機能を有する塩基配列。
【0009】
本発明の「組換えベクター」は、上記の構成のプロモーターと、これに結合したベクターとを有するものである。この組換えベクターのベクター部分を構成するベクターとしては、pUC誘導体などの大腸菌で増幅可能なベクター、pBI101(クロンテック社)などのように大腸菌とアグロバクテリウムの双方で増幅可能なシャトルベクターなどが挙げられる。また、植物ウイルス、例えば、カリフラワーモザイクウイルスをベクターとして利用することもできる。ベクターは、各々の宿主細胞に応じて選択する。本発明の発現ベクターは、例えば、ベクターの所定の部分に上記構成のDNAプロモーターを結合あるいは挿入して得ることができる。なお、プロモーターをベクターに挿入する方法は、通常の遺伝子をベクターに挿入する方法に従う。この組換えベクターのプロモーターDNAに所望の遺伝子を機能的に接続することで遺伝子発現用の発現ベクターを得ることができる。
【0010】
本発明の「形質転換細胞」とは、上記発現ベクターを宿主細胞に導入して得られた形質転換細胞である。宿主植物細胞としては、形質転換可能であれば制限はないが、例えば、イネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ライムギ、ジャガイモ、タバコ、サトウダイコン、サトウキビ、ナタネ、ダイズ、ヒマワリ、ワタ、オレンジ、ブドウ、モモ、ナシ、リンゴ、トマト、ハクサイ、キャベツ、ダイコン、ニンジン、カボチャ、キュウリ、メロン、パセリ、ラン、キク、ユリ、サフラン、ユーカリ、マツ、ユーカリ、アカシヤ、ポプラ、スギ、ヒノキ、タケ、イチイなどの植物の細胞が挙げられる。
【0011】
上記発現ベクターを宿主植物細胞中に導入するために、さまざまな手法を用いることができる。これらの手法には、形質転換因子としてアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)または、アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)を用いたT−DNAによる植物細胞の形質転換方法のほかに、プロトプラストへの直接導入(プロトプラストに電気パルス処理してDNAを植物細胞へ導入するエレクトロポレーション法や、リポソームなどとプロトプラストとの融合法、マイクロインジェクション法、ポリエチレングリコール法など)、パーティクルガン法などが挙げられる。
【0012】
また、植物ウイルスをベクターとして利用することによって、目的遺伝子を植物体に導入することができる。利用可能な植物ウイルスとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルスが挙げられる。すなわち、まず、ウイルスゲノムを大腸菌由来のベクターなどに挿入して組換え体を調製した後、ウイルスのゲノム中に、これらの目的遺伝子を挿入する。このようにして修飾されたウイルスゲノムを制限酵素によって該組換え体から切り出し、植物体に接種することによって、これらの目的遺伝子を植物体に導入することができる(Hohnら(1982)、Molecular Biology of Plant Tumors(Academic Press、New York)pp549、米国特許第4,407,956号明細書)。植物細胞や植物体へのベクター導入の手法は、これらのみに限定されず、その他の可能性も含まれる。
【0013】
プロトプラストへの直接導入では、特別に必要とされるベクターはない。例えば、pUC誘導体のような単純なプラスミドを用いることができる。目的の遺伝子を植物細胞に導入する方法によっては、他のDNA配列が必要になることもある。例えば、TiまたはRiプラスミドを植物細胞の形質転換に用いる場合には、TiおよびRiプラスミドのT−DNA領域の少なくとも右の端の配列、大抵は両側の端の配列を、導入されるべき遺伝子の隣接領域となるように接続しなければならない。
【0014】
アグロバクテリウム属菌を形質転換に用いる場合には、導入すべき遺伝子を、特別のプラスミド、すなわち中間ベクターまたはバイナリーベクターの中にクローニングする必要がある。中間ベクターはアグロバクテリウム属菌の中では複製されない。中間ベクターは、ヘルパープラスミドあるいはエレクトロポレーションによってアグロバクテリウム属菌の中に移行される。中間ベクターは、T−DNAの配列と相同な領域をもつため、相同的組換えによって、アグロバクテリウム属菌のTiまたはRiプラスミド中に取り込まれる。宿主として使われるアグロバクテリウム属菌には、vir領域が含まれている必要がある。通常TiまたはRiプラスミドにvir領域が含まれており、その働きにより、T−DNAを植物細胞に移行させることができる。
【0015】
一方、バイナリーベクターはアグロバクテリウム属菌の中で複製、維持され得るので、ヘルパープラスミドあるいはエレクトロポレーション法によってアグロバクテリウム属菌中に取り込まれると、宿主のvir領域の働きによって、バイナリーベクター上のT−DNAを植物細胞に移行させることができる。
【0016】
なお、このようにして得られた中間ベクターまたはバイナリーベクター、及びこれを含む大腸菌やアグロバクテリウム属菌等の微生物も本発明の対象である。
【0017】
本発明の「形質転換植物体」とは、上述した形質転換植物細胞を有する植物体であり、例えば、上記形質転換細胞から再生された形質転換植物体がこれに含まれる。形質転換された植物細胞から個体を再生する方法は植物細胞の種類により異なるが、例えばイネではFujimuraら(Fujimuraら(1995), Plant Tissue Culture Lett., vol.2:p74−)の方法、トウモロコシでは、Shillitoら(Shillitoら(1989), Bio/Technology, vol.7:p581−)の方法、ジャガイモでは、Visserら(Visserら(1989), Theor. Appl. Genet., vol.78:p589−)の方法、シロイヌナズナではAkamaらの方法(Akamaら(1992), Plant Cell Rep., vol.12:p7−)ユーカリでは土肥らの方法(特願平11−127025)が挙げられる。これらの方法により作出された形質転換植物体またはその繁殖媒体(例えば種子、塊茎、切穂など)から得た形質転換植物体は本発明の対象である。
【0018】
本発明は、上記プロモーターを有する発現ベクターを宿主細胞に導入して形質転換細胞を得て、該形質転換細胞から形質転換植物体を再生し、得られた形質転換植物体から植物種子を得て、該植物種子から植物体を生産する工程を含む。
【0019】
形質転換植物体から植物種子を得る工程とは、例えば、形質転換植物体を発根培地から採取し、水を含んだ土を入れたポットに移植し、一定温度下で生育させて、花を形成させ、最終的に種子を形成させる工程を指す。また、種子から植物体を生産する工程とは、例えば、形質転換植物体上で形成された種子が成熟したところで、単離して、水を含んだ土に播種し、一定温度、照度下で生育させることにより、植物体を生産する工程をいう。
【0020】
本発明は、上記構成の本発明にかかるプロモーターの制御下で所望の植物組織で遺伝子の発現量を制御する方法を含む。この発現の制御には、このプロモーターの活性を調節することによって、発現を増加させる場合、発現を抑制する場合などを含む。その発現を本発明のプロモーターの制御下に置くことのできる遺伝子としては、根で発現させることによって産業上の効果が期待できる遺伝子であり、例えば、無機栄養素の取り込みに関するリン酸トランスポーター遺伝子、クエン酸合成酵素遺伝子、リンゴ酸チャネル遺伝子、酸性フォスファターゼ遺伝子等がある。また、重金属やイオンストレスを排除あるいは耐性を付与する遺伝子として、メタロチオネイン遺伝子、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ遺伝子、ATPアーゼ遺伝子等がある。さらに、根に生じる活性酸素を消去する遺伝子としてカタラーゼ遺伝子、アスコルビン酸ペルオキシダーゼ遺伝子等や適合溶質の合成に関わるプロリン合成遺伝子、ベタイン合成遺伝子等、ポリアミンの合成に関わる遺伝子等、多種多様の遺伝子群の発現に利用できる。
【0021】
本発明にかかる発現制御方法を利用することで、例えば以下のような効果を得ることができる。
【0022】
植物細胞に遺伝子を導入し、その遺伝子産物であるタンパク質やその働きによって細胞内で生じる物質を生産させようとする場合には、この遺伝子産物や物質によって細胞の生育が阻害され、生産効率が向上しないことがある。その際に、本発明のプロモーターの制御下に目的の遺伝子を置けば、根細胞において目的の遺伝子を発現させて所望の生産が可能となる。この生産には、形質転換細胞あるいはその細胞からなる毛状根など組織の培養物、あるいは形質転換植物体の栽培収穫物が用いられる。
【0023】
本発明において使用されるプロモーターは、上記リン酸トランスポーターPHT1タンパク質をコードする遺伝子の上流に存在する3888塩基のヌクレオチド配列の少なくとも一部を含むものである。「少なくとも一部」とは、該配列のうち本発明のプロモーターとしての機能領域を含めば良く、好ましくは下流側である。より好ましくは下流側の2800塩基以上を含むものであり、最も好ましくは3888塩基である。
また、該「少なくとも一部」に対して、1または数塩基のヌクレオチドが欠失、置換及び/又は付加された配列であって、根細胞で遺伝子発現し得る本発明のプロモーターとしての機能を有する配列であっても同様に好適に用いることができる。ここで、「数塩基」とは、部位特異的突然変異誘発法等の周知の方法によって欠失、置換及び/又は付加が可能な程度のヌクレオチド数を意味する。
【0024】
該プロモーター配列は、シロイヌナズナ等の植物由来のものを直接利用しても良く、GenBank、EMBL、DDBJ等のDNAデータベースに対して既知のPHT1遺伝子配列またはPHT1遺伝子と80%以上、好ましくは90%以上の相同性を有する遺伝子配列の上流を検索することによって得られるものであっても良い。配列が得られた後は、当分野において通常用いられる化学合成、あるいはPCR反応等の技術を使用して、目的とするプロモーター配列を得ることができる。
【0025】
本発明のプロモーターは、発現を誘導すべき外来性遺伝子と共に機能的に連結して発現ベクターに組み込んで宿主となる細胞に導入するか、または外来性遺伝子と別個に細胞に導入することができる。また、細胞が本来有する内在性遺伝子を誘導的に発現させるために、該遺伝子の上流に組み込むこともできる。当業者であれば、プロモーターと遺伝子の機能的連結は通常行うことであるが、具体的には下流に配置する遺伝子の翻訳開始コドンがプロモーターの下流にくる最初のATGになるように行う。発現ベクターにプロモーター及び遺伝子を挿入するには、まず、プロモーター及び遺伝子に場合によって適当な制限酵素部位を付加した後に制限酵素で切断し、発現ベクターの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入して連結する方法等が採用される。
【0026】
上記の配列のプロモーター活性については、以下のようにして解析することが可能である。例えば、pBI101などレポーター遺伝子を含むベクターを用い、そのレポーター遺伝子の上流に上記の配列を連結するようにサブクローニングする。pBI101ベクターにはレポーター遺伝子として、大腸菌のβグルクロニダーゼ(GUS)が使用されている。この遺伝子産物は基質として5−bromo−4−chloro−3−β−D−glucronic acid(X−gluc)を用いると、これを分解して青色の沈澱物であるindigotinを生ずるため、遺伝子発現を組織レベルでモニターすることが可能である。また、基質として4−methyl −umbelliferyl−β−D−glucronide(4MUG)を用いると、遺伝子産物の働きによって生じる蛍光によって遺伝子発現を定量することが可能である。なお、レポーター遺伝子としては、GUS遺伝子の他にクロラムフェニコール アセチルトランスフェラーゼ遺伝子や、ルシフェラーゼ遺伝子、グリーンフルオロセインプロテイン遺伝子なども利用が可能である。
【0027】
上記のようにして作成されたキメラ遺伝子構築物は、例えば、アグロバクテリウムを介してシロイヌナズナなどの植物に導入してその機能を解析することが可能である。pBI101をベクターとして用いた場合は、キメラ遺伝子を含む組換えプラスミドを、例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンスのEHA101株にエレクトロポレーション法を用いて導入し、得られた形質転換菌を、例えば、フローラルディップ法(島本功ら監修、「モデル植物の実験プロトコール」(植物細胞工学別冊、植物細胞工学シリーズ4)秀潤社1996年4月発行)によりシロイヌナズナ植物体に感染させる。感染処理した植物より得られた種子を、用いたベクターに基づいてカナマイシンなどの薬剤を含む培地に播種し、遺伝子導入により薬剤耐性となった形質転換植物体を得る。この形質転換植物体を用いてレポーターGUS遺伝子の発現について解析する。用いた上流配列にプロモーター活性が存在する場合は、GUS活性が、根組織においてリン酸欠乏環境下で特異的に検出されることが期待される。
【0028】
本発明のプロモーターまたはそれを含む発現ベクターは、以下のようにして利用することが可能である。本発明のプロモーターの下流に目的の遺伝子、例えば、リン酸その他の栄養吸収関連遺伝子を連結したキメラ遺伝子を、例えば、pBI101ベクターに挿入し発現ベクターを構築する。このベクターをアグロバクテリウムを介して、例えば、タバコ植物体に導入する。得られた形質転換植物においては、本発明のプロモーターの働きにより、根で発現することが期待される。この場合、35Sプロモーターのように不要な組織においても発現する現象がないため、他の好ましくない形質が現れないことが期待される。
【0029】
本発明のプロモーターで制御可能な遺伝子としては、上述した特定の遺伝子に限定されない。根で特異的に発現させることに意義のあるあらゆる遺伝子に応用が可能である。このような遺伝子としては、無機栄養素の取り込みに関するリン酸トランスポーター遺伝子、クエン酸合成酵素遺伝子、リンゴ酸チャネル遺伝子、酸性フォスファターゼ遺伝子等がある。また、重金属やイオンストレスを排除あるいは耐性を付与する遺伝子として、メタロチオネイン遺伝子、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ遺伝子、ATPアーゼ遺伝子等がある。さらに、根に生じる活性酸素を消去する遺伝子としてカタラーゼ遺伝子、アスコルビン酸ペルオキシダーゼ遺伝子等や適合溶質の合成に関わるプロリン合成遺伝子、ベタイン合成遺伝子等、ポリアミンの合成に関わる遺伝子等、産業上有用な遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
【実施例】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
<実施例1>リン酸トランスポーター遺伝子プロモーター領域の単離
シロイヌナズナ由来リン酸トランスポーター遺伝子PHT1のプロモーター領域を以下に示す手順で単離した。
【0032】
GenBankよりPHT1遺伝子(accession No. D86608; Mitsukawaら(1997), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.94:p7098−)を検索し、PHT1ゲノム配列情報の一部(5796bp)を得た。このゲノム配列情報からコーディング配列(CDS)に相当する配列(2219−2619, 2771−3944)を抽出し、この配列に対してBLAST検索を行い、PHT1遺伝子の上流配列(プロモーター領域)を含むP1クローンを特定し、このクローンからPHT1プロモーター配列情報 1〜3888を得た。
【0033】
PHT1プロモーターのDNA断片を単離するためにシロイヌナズナのゲノムDNAを鋳型としてPCR反応を行い、DNA断片(1〜3888)を増幅した。その際、プライマーのフォワードとリバース側にそれぞれ制限酵素サイトNotIとBamHIを付加した。このPCR産物をpBluescript SK−の同制限酵素サイトに連結し、得られたプラスミドをpPHT1Pとした(図1)。
【0034】
pBI221のGUSからnosターミネーターを含む断片をpBluescript SK−のBamHI、EcoRIサイトに連結し、得られたプラスミドをpGUS−nosとした。次に、プロモーター領域の下流にGUSを接続するため、pPHT1Pのプロモーター領域を含む断片をpGUS−nosのNotI、BamHIサイトに連結し、得られたプラスミドをpP1PGとした。pP1PGをNotI消化してプロモーター−GUS−ターミネーターからなる融合遺伝子を切り出した後、klenow処理により平滑末端化し、さらにHindIIIリンカーにより同制限酵素サイトを付加した断片をアグロバクテリウム感染用ベクターpGAHのHindIIIサイトに連結してpGAH−PHT1−GUSを得た(図1)。得られたバイナリーベクターpGAH−PHT1−GUSをエレクトロポレーション法によりアグロバクテリウム(EHA101)へ導入した。
【0035】
<実施例2>リン酸トランスポータープロモーターのシロイヌナズナでの部位特異的発現
pGAH−PHT1−GUSを導入したアグロバクテリウムをフローラルディップ法によりシロイヌナズナに感染させ、リン酸トランスポータープロモーター−GUS融合遺伝子をシロイヌナズナに導入し、形質転換体種子を採った。
【0036】
得られた種子を吸水後2日間、4℃で低温処理した後、15mg/lハイグロマイシンBと100mg/lカルベニシリンを含む1/2×MS(Murashige and Skoog (1962), Physiol. Plant, vol.15:p473−)寒天培地に播種し、形質転換体植物を選抜した。選抜した形質転換体から次世代の種子を採り、分離比を調べて導入された本発明遺伝子の数が1コピーの植物体からさらにホモ系統を選抜した。
【0037】
組織化学的解析(GUS染色)には植物体をすべて25℃、連続光照射下で栽培し、初めに2日間の低温処理を行った後、滅菌水を入れたエッペンドルフチューブ中で1週間回転させて栽培したもの、1×MS寒天培地で4週間栽培したもの、Todaらの方法(Todaら(1999), Biosci. Biotechnol. Biochem, vol.63:p210−)に準じて1/10×MGRL液体培地の入ったプラントボックスにナイロンメッシュ(50mesh)を挟んだプラスチックフィルムマウントを浮かべ、その上で4週間栽培したものを用いた。
【0038】
GUS染色の方法は基本的にJeffersonらの方法(Jeffersonら(1987), EMBO J, vol.6:p3901−)に従い、植物体を90%冷アセトンに浸水させて約20分間減圧下で固定した後、X−Glucを基質とした染色液で染色を行った。根横断面はGUS染色を行った後、エポキシ樹脂(Quetol812)に包埋し、ミクロトームで5μmの切片を作製して観察した。
【0039】
GUS染色の結果を図2〜図4に示した。本発明プロモーター−GUS融合遺伝子を導入したシロイヌナズナ形質転換体は根で強いGUS活性が検出された。胚軸と子葉におけるGUSの発現は根に比べかなり弱いものであった(図2)。本葉、茎、花でのGUS活性も根に比べるとかなり弱く、根で最も強いGUS活性が検出された(図3)。根の横断面を観察したところ根全体で強いGUS活性が検出された(図4)。
【0040】
GUS活性測定に用いた植物体は、種子を2日間の低温処理した後、リン酸濃度200μMに調製した寒天培地(1/2×MGRL salt, 1/2×MS vitamin, 0.5g/l MES, 1.6% agar)に播種し、25℃、連続光照射下で、培地を垂直に立てて栽培した。14日間栽培した後に、植物体をリン酸濃度0μM、10μM、50μM、200μM、1000μMに調製した寒天培地に移植し、さらに7日間栽培を続けた。
【0041】
抽台直後の植物体の地上部と地下部からそれぞれタンパク質を抽出し、Jeffersonらの方法に従いGUS活性を測定した。なお、タンパク濃度の測定はBradford法により行い、BSAをスタンダードとした。
【0042】
GUS活性の結果を図5に示した。いずれのリン酸濃度でも地下部(根)のGUS活性は地上部に比べて高い値を示した。リン酸欠乏状態では地下部のGUS活性は地上部に比べ約20倍と、高い器官特異性を示した。また、リン酸濃度を変化させることで本発明プロモーターの発現を調節できることが示された。
【0043】
<実施例3>リン酸トランスポータープロモーターのイネでの部位特異的発現
実施例1で作製したバイナリーベクターpGAH−PHT1−GUSを導入したアグロバクテリウムを用いてアグロバクテリウム法(Hieiら(1994), Plant J, vol.6 :p271−)により、イネにリン酸トランスポータープロモーター−GUS融合遺伝子を導入した。得られたイネ形質転換当代の植物体から次世代種子を採った。
【0044】
組織化学的解析(GUS染色)を行ったサンプルはT2世代(形質転換次世代)あるいはT3世代のイネ植物体を使用した。栽培は28℃、連続光照射の条件で行い、イネ形質転換体を播種後3〜5日目までは水を含ませた濾紙の上で栽培し、その後、イネ水耕栽培溶液(0.36mM (NH4)2 SO4, 0.18mM KNO3, 0.18mM KH2PO4, 0.09mM K2SO4, 0.54mM MgSO47H 2O, 0.24mM Ca(NO3)2, 0.06mM C5H9FeO7, 0.05mM H3BO4, 0.006mM MgCl24H2O, 0.0008mM ZnSO47H2O, 0.0003mM CuSO45H2O, 0.0005mM Na2MoO42H2O, pH5.4)で生育させた。イネ水耕栽培溶液は1〜2日ごとに新しいものに取り替えた。
【0045】
GUS染色の方法は基本的にJeffersonらの方法に従い、植物体を90%冷アセトンに浸水させて約20分間減圧下で固定した後、X−Glucを基質とした染色液で染色を行った。根のGUS染色はイネ水耕栽培溶液へ移植する直前の植物体を用いて行った。葉のGUS染色は播種後約2ヶ月の植物体を用いて行った。根横断面はGUS染色を行った後、エポキシ樹脂(Quetol812)に包埋し、ミクロトームで10μmの切片を作製して観察した。
【0046】
GUS染色の結果を図6〜図8に示した。本発明プロモーター−GUS融合遺伝子を導入したイネ形質転換体の根は根冠付近を除き、ほぼ全体で強いGUS活性が検出され、根毛では特に強いGUS活性が検出された(図6)。また、根の横断面を観察したところ、皮層で強いGUS活性が検出された(図7)。葉でのGUS活性はほとんど検出できなかった。
【0047】
GUS活性測定は水耕と土壌で栽培したイネ形質転換体(T2あるいはT3世代)の根と葉でそれぞれ行った。水耕栽培は基本的に組織化学的解析と同様にイネ水耕栽培溶液で行い、リン酸に対する応答性を調べるため、植物体を播種2ヶ月後にリン酸が豊富な水耕液(リン酸濃度0.18mM)とリン酸を欠乏させた培地(リン酸濃度0mM)に移し変え、さらに6日間栽培を続けた。土壌栽培はイネ形質転換体を播種後3〜5日目までは水を含ませた濾紙の上で栽培し、その後、JAくみあい粒状培土クリーン2号を充填させたワグネルポットに移植し、ガラス温室で約2ヶ月間生育させた。
【0048】
GUS活性の測定はJeffersonらの方法に従って行った。なお、タンパク濃度の測定はBradford法により行い、BSAをスタンダードとした。
【0049】
GUS活性測定の結果を表1および表2に示した。GUS活性値はT2世代目、T3世代目共に同程度の値であることから、本発明遺伝子が安定的に染色体に組込まれていることが示された。いずれの条件においても、根のGUS活性は葉より高い値を示し、部位特異的発現を確認することができた。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
<参考実験>
実施例1と同様の方法でPHT1プロモーターとして配列表の2889〜3888(1.0kb)までの領域をレポーター遺伝子GUSに連結してシロイヌナズナに導入し、実施例1で使用した配列表1〜3888(3.9kb)までのプロモーターとの発現量を、GUS活性を測定することにより比較し、表3に記載した。その際、培地中のリン酸有無それぞれについての発現量を測定した。この結果、本発明のプロモーターによる遺伝子発現を制御するためには、配列番号1に記載の塩基配列のうち、下流側1kbだけでは不十分であることが確認された。
【0053】
【表3】
【0054】
【発明の効果】
本発明のプロモーター領域を利用することにより、植物の根組織において、目的とするタンパク質を特異的かつ効率的に発現させることが可能になった。
【0055】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明リン酸トランスポーター遺伝子プロモーターの下流にGUS遺伝子を繋ぎ、この融合遺伝子を植物感染用ベクターpGAHに連結するまでのベクター構築の流れを示す図である。
【図2】リン酸トランスポータープロモーター−GUS融合遺伝子を導入したシロイヌナズナを、リン酸欠乏状態で7日間栽培してからGUS染色を行った図である。
【図3】リン酸トランスポータープロモーター−GUS融合遺伝子を導入したシロイヌナズナを、リン酸を含む培地で1ヶ月間栽培してからGUS染色を行った図である。
【図4】リン酸トランスポータープロモーター−GUS融合遺伝子を導入したシロイヌナズナをGUS染色し、その根の横断面を示した図である。
【図5】リン酸トランスポータープロモーター−GUS融合遺伝子を導入したシロイヌナズナのGUS活性測定を示す図である。
【図6】リン酸トランスポータープロモーター−GUS融合遺伝子を導入したイネの根をGUS染色した図である。
【図7】リン酸トランスポータープロモーター−GUS融合遺伝子を導入したイネをGUS染色し、その根の横断面を示した図である。
Claims (7)
- 下記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列からなるプロモーターDNA断片。
(a)配列番号1に示す塩基配列。
(b)塩基配列(a)に対して、該塩基配列(a)のプロモーターとしての機能を損なわない範囲内で、1もしくは数塩基の欠失、置換または付加して得られた変異配列。
(c)塩基配列(a)の一部を含み、かつプロモーターとしての機能を有する塩基配列。 - 請求項1に記載のプロモーターDNA断片の塩基配列を含む、発現ベクター。
- 請求項2記載の発現ベクターが導入された形質転換植物細胞。
- 請求項3に記載の形質転換植物細胞を保持する形質転換植物。
- 該植物は双子葉植物である請求項4に記載の形質転換植物。
- 該植物は単子葉植物である請求項4に記載の形質転換植物。
- 請求項4に記載の形質転換植物における該プロモーターDNA断片に連結された遺伝子の発現をリン酸により制御することを特徴とする遺伝子発現の制御方法。
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---|---|---|---|
JP2003205151A JP2005046036A (ja) | 2003-07-31 | 2003-07-31 | プロモーターdna断片及び遺伝子発現の制御方法 |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2008029952A (ja) * | 2006-07-28 | 2008-02-14 | National Institute Of Advanced Industrial & Technology | ベシクルを利用した並列反応方法 |
WO2011102394A1 (ja) | 2010-02-17 | 2011-08-25 | 日本たばこ産業株式会社 | 植物内容成分の調節因子、およびその利用 |
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2003
- 2003-07-31 JP JP2003205151A patent/JP2005046036A/ja active Pending
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