本発明の請求項1に記載の断熱材の発明は、少なくとも、乾式シリカ粉体と無機繊維と導電性粉体とを含む、粉体と繊維材との混合物からなる成形体であり、その表面層の密度が内部層の密度よりも大きいことを特徴とする断熱材である。
我々は、導電性粉体が、乾式シリカ粉体や湿式シリカ粉体のような分子間相互作用により凝集を形成する粉体の凝集粒子を解砕する特性を持つことを確認した。この凝集粒子の解砕作用により成形体の空隙径が小さくなり、その結果、気体熱伝導率が低減する。また、凝集粒子が解砕されることにより微細化され、個々の粒子の接触面積が低減するため固体の熱伝導率が低下する。これらの相互作用によって優れた断熱効果を発現するものである。
ここで、乾式シリカを特定するのは、導電性粉体により凝集粒子が解砕される効果が高く、より優れた断熱効果を発現するためである。
混合する無機繊維は、骨材として作用するため一般的な圧縮成形により容易に断熱成形体を形成できるようになる。
更に、その表面層の密度が内部層の密度よりも大きいために表面層が高強度な外殻作用を有し、断熱材の折れや曲がり及び粉立ちを防止又は抑制でき、取り扱い性に優れるとともに、内部層は微小な空隙が破壊されることなく断熱性に優れた断熱材を提供できるものである。
また、断熱材の温度が上昇するほど断熱性能が低下する度合いが、乾式シリカのみの場合よりも改善されていることを確認した。これは、内部層における空隙径が、解砕された凝集粒子が形成するもので大変微細なため、温度上昇に伴う気体分子の運動量の増加を抑制して気体熱伝導率の劣化を防止できるためと考える。
したがって、導電性粉体が、乾式シリカ粉体のような分子間相互作用により凝集を形成する粉体の凝集粒子を解砕することにより優れた断熱性能を有し、無機繊維の骨材作用により低密度でありながら成形体強度が大きく、折れや曲がり、及び粉立ちのない取り扱い性に優れた断熱材を提供するものである。
請求項2に記載の断熱材の発明は、少なくとも、乾式シリカ粉体と無機繊維と導電性粉体とを含む、粉体と繊維材との混合物からなる成形体と、前記成形体の厚み方向の表面を覆うように設けられた面材とからなる断熱材である。
乾式シリカに導電性粉体を混合すると、乾式シリカのみで構成される場合よりも断熱性能が向上する。これは、導電性粉体によりシリカの凝集粒子が解砕されることで、固体接触面積の減少による固体熱伝導率の低下と、空隙径の微細化による気体熱伝導率の低下が起こることによる。また、乾式シリカは、導電性粉体により凝集粒子が解砕されやすい。
さらに、面材には成形体の強度を向上する作用と粉落ちを防止するという作用がある。面材を備える面が1面であると、工数やコストの削減になる。また、上下両面に面材を備えると、反りが発生することがなく、1面に面材を備えた場合に比べ、強度が向上する。
請求項3に記載の断熱材の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明における成形体の表面層にバインダー成分を含むことを特徴とする。
表面層にバインダー成分を含むことにより、より高強度な外殻作用を発現するため、断熱材の折れや曲がり及び粉立ちを抑制又は防止でき、取り扱い性に優れるとともに、断熱材の薄肉化及び大型化が可能となる。
また、成形体の表面層にバインダー成分を含むことは、成形体全体に渡ってバインダー成分を含んだ場合に比べ、成形体内部の微細な空隙を維持することができるため、優れた断熱性能を発現する。
成形体の表面を面材で覆う場合は、バインダーにより、成形体と面材との接着性がより強固となる。
請求項4に記載の断熱材の発明は、請求項1から請求項3のうちいずれか一項記載の発明における成形体の曲げ強度が0.3MPa以上であることを特徴とする。
曲げ強度が0.3MPa以上あると、例えば、断熱材の面積が1平方メートルで厚さが4mmの平板状であっても、折れや曲がりを抑制又は防止できるので、断熱材の面積が大きく、かつ、薄い平板状であっても、取り扱い性に優れる。
請求項5に記載の断熱材の発明は、請求項1から請求項4のうちいずれか一項記載の発明における成形体は、無機繊維の含有率が1wt%以上で、導電性粉体の含有率が0.5wt%以上で、かつ、乾式シリカの含有率が30wt%以上98.5wt%以下であることを特徴とし、混合した材料それぞれの作用が効果的に発揮され、優れた断熱性能を有し、かつ、低密度でありながら成形体強度が大きく、折れや曲がり、及び粉立ちのない取り扱い性に優れた断熱材が提供できる。
なお、無機繊維の含有率は、大きいほど無機繊維自体の固体熱伝導の影響が大きくなるとともに、繊維間に生じる大きな空隙が気体熱伝導率の増大をも招くことにより断熱材の性能を悪化させてしまうもので、好ましくは50wt%以下であり、より望ましくは30wt%以下である。また、導電性粉体の含有率は、大きいほど導電性粉体自体の固体熱伝導の影響が大きくなることにより断熱材の性能を悪化させてしまうもので、好ましくは60wt%以下であり、より望ましくは50wt%以下である。それらのなかでも、乾式シリカはより微細な空隙径を保持するためにも30wt%以上は必要であり、より望ましくは45wt%以上である。特に、導電性粉体と乾式シリカの比率がおよそ2対7のときに熱伝導率としては最も良好となる。
請求項6に記載の断熱材の発明は、請求項1から請求項5のうちいずれか一項記載の発明における無機繊維がガラス繊維であることを特徴とする。
ガラス繊維はその表面に水酸基を有しているため、乾式シリカ粉体表面に存在する水酸基との親和相互作用により骨材としての作用が高まり、より強固な断熱成形体を形成することができる。
請求項7に記載の断熱材の発明は、請求項1から請求項6のうちいずれか一項記載の発明における導電性粉体が粉末状カーボンであることを特徴とする。
導電性の尺度である粉体比抵抗値が、粉体状カーボンでは0.1Ω/cmから5Ω/cm程度と小さく、乾式シリカの凝集粒子解砕効果に優れ、断熱性能の改善効果が大きい。また、工業的にも安価なものが選択できるため非常に有用である。
請求項8に記載の断熱材の発明は、請求項2記載の発明における面材が、不織布であるものである。
面材として不織布を使用すると、不織布は比表面積が高いので、より成形体との接着強度が増す。また、不織布は通気性が高いので、この断熱材を真空断熱材の芯材に適用する場合は、真空排気の障害とならない。
請求項9に記載の断熱材の発明は、請求項8記載の発明における不織布が、ガラス不織布であるものである。
ガラス不織布は耐熱性に優れているために、高温域での使用が可能である。また、成形体と親和性が高いために、成形体との接着力、接着強度が向上する。また、成形体と面材が同じ無機材料であるため、廃棄時に分別する必要がないという利点もある。
請求項10に記載の断熱材の発明は、請求項1から請求項9のうちいずれか一項記載の発明において、断熱材の厚さが0.2mm以上4mm以下であるものである。
断熱材の厚さが4mm以下の薄さであると、ノート型パソコンに代表される携帯機器や精密機器及び各種事務機器など、断熱に要するスペースの限られた機器に、従来仕様からの大きな設計変更なしに適用することが可能である。なお、断熱材の厚さが0.2mm以上なければ、所定の断熱効果が期待できない。
請求項11に記載の断熱材の発明は、請求項1から請求項10のうちいずれか一項記載の発明における断熱材を芯材とし、この芯材を外気の侵入を遮断する被覆材で覆って内部を減圧した断熱材である。
よって、凝集粒子の解砕作用を利用して気体熱伝導率も固体熱伝導率も低下した、優れた断熱材を芯材とし、更にその空隙を減圧して気体熱伝導率を極限まで低減したので、より優れた断熱性能を有する。
特に、本発明の断熱材を真空断熱材の芯材にすることは、袋形状にした被覆材に挿入する際に強度とともに粉立ちのなさで取り扱い性に優れるものであり、被覆材に挿入して減圧下で封止する際に、封止口に粉が付着して封止を阻害することがなく、徐々に空気が内部へ侵入する現象(スローリーク)を防止できるため、真空断熱材の長期信頼性を確保できる。また、断熱面積が大きく、厚みが4mm以下というような薄さであっても、表面性に優れ、均一な厚さを有する真空断熱材を提供することができるものである。ここにおいても、優れた断熱性を発現するために芯材としての断熱材の密度は100kg/m3から240kg/m3が適している。
また、真空断熱材を作製した際の熱伝導率の内圧依存性が、乾式シリカのみを芯材として用いた際よりも改善されていることを確認した。これも、導電性粉体の、乾式シリカ粉体のような分子間相互作用により凝集を形成する粉体に対する凝集粒子の解砕作用によるもので、断熱材の空隙径が低減したことによる気体熱伝導率の低減効果によるものと考える。これは、真空断熱材の経時的な断熱性能の維持における信頼性の向上にも貢献する。
特に、成形体の表面を面材で覆った断熱材を真空断熱材の芯材にする場合は、表面を面材で覆っていない断熱材を真空断熱材の芯材にする場合に比べて、外被材(被覆材)に封入する際の取り扱い性に優れ、また粉落ちを防止する構成であるため、芯材を外被材(被覆材)に挿入する際、封止口に粉が付着することを防止できるために封止を確実に行うことができ、長期に渡って断熱性能を維持することができる。また、表面性に優れた均一な厚さを有する真空断熱材を提供できる。
請求項12に記載の産業用設備の発明は、請求項1から請求項11のうちいずれか一項記載の断熱材を、熱の遮断部材又は保温部材として使用したものである。
本発明の断熱材は、比較的高温で使用できるとともに、形状も成形により自由度があり、しかも優れた断熱性能を有し、低密度でありながら成形体強度が大きく、折れや曲がり、及び粉立ちのない取り扱い性に優れているので、その断熱材を産業用設備の要所に具備することにより、省エネルギー化に貢献できる。また、断熱材が真空断熱材である場合は、所定の温度を超えない範囲での使用ならば、より省エネルギー化に貢献できる産業用設備が構築できるものである。
請求項13に記載の建築部材の発明は、請求項1から請求項11のうちいずれか一項記載の断熱材を、熱の遮断部材又は保温部材として使用したものである。
本発明の断熱材を、壁面を構成する建築部材に一体で埋め込んだり、建築段階で配設したりすることにより、建物内部の冷房又は暖房の室温を保温して消費電力の削減に貢献するとともに、冬期には外気の低温を遮断して内部での結露を防止することができる。
請求項14に記載の車両の発明は、請求項1から請求項11のうちいずれか一項記載の断熱材を、熱の遮断部材又は保温部材として使用したものである。
自動車や列車の車両において、人が乗る客室の空調負荷や、貨物を乗せるコンテナの冷却負荷は通常の建築物や箱体と比較してもかなり大きいものであり、周囲の壁や箱体を断熱することにより空調負荷や冷却負荷を減らし大きな省エネルギー効果が得られる。特に、炎天下で直射日光に晒された部分からの熱の浸入を遮断することは、より大きな効果が得られる。また、例えば、自動車においては、エンジンの熱から電装部品を保護したり、マフラーを断熱したり、更には、今後の発展が見込まれる蓄電池や燃料電池の保温や断熱など、あらゆるところで活用ができる。
請求項15に記載の事務機器の発明は、請求項1から請求項11のうちいずれか一項記載の断熱材を、熱の遮断部材又は保温部材として使用したものである。
事務機器としては、パソコンや印刷装置及び複写機などに代表される精密機器や、ノート型パソコンに代表される携帯機器などがあるが、いずれも内部に高温になる発熱体を有しながら、同時に熱に弱い部品や材料を有している。すなわち、優れた断熱性能を有し、かつ、低密度でありながら芯材成形体強度が大きく、断熱面積が大きくて厚みが4mm以下というような薄さであっても表面性に優れ、均一な厚さを有する本発明の断熱材を具備することにより、これらの熱に弱い部品や材料部品等を熱から保護することができる。また、ノート型パソコンにおいては、利用者の身体に熱を伝達して不快感を与えることを防止することができる。
請求項16に記載の燃料電池システムの発明は、請求項1から請求項11のうちいずれか一項記載の断熱材を備えたものである。
システムの比較的高温部には成形した断熱材を使用して保温し、低温部には真空断熱材を使用して保温することにより、放熱ロス又は吸熱ロスを低減して効率が高い運転を実現することができる。
請求項17に記載の保温保冷機器の発明は、請求項1から請求項11のうちいずれか一項記載の断熱材を備えたものである。
本発明の断熱材は、優れた断熱性能を有し、かつ、低密度でありながら芯材成形体強度が大きく、断熱厚みが4mm以下というような薄さであっても表面性に優れ、均一な厚さを有するので、省エネルギーに貢献できるとともに、機器の外観品質を向上したり、小型化や内容積アップを図ったりすることができる。
請求項18に記載の機器の発明は、本体又は本体の内部に発熱体と、前記発熱体の温度により悪影響を受ける被保護部材と、前記発熱体から前記被保護部材への熱影響を遮断する断熱材とを有し、前記断熱材が請求項1から請求項11のうちいずれか一項記載のものであることを特徴とするものである。
発熱体の熱影響を遮断するために分厚い断熱材を配設したり、構造的に大きなスペースを設けたり、更には、風路を設けて送風を行ったりすることなく、薄いスペースで効果的に熱による悪影響を排除できる。
請求項19に記載の機器の発明は、本体又は本体の内部に加熱された被保温部と、前記被保温部の温度状態を保つための断熱材とを有し、前記断熱材が請求項1から請求項11のうちいずれか一項記載のものであることを特徴とするものである。
高温に加熱された被保温部を保温するために、分厚い断熱材を配設したり、頻繁な加熱制御により大きなエネルギーを消費したりすることなく、薄いスペースで効果的に保温することができる。
請求項20に記載の機器の発明は、請求項18記載の発明において、本体は印刷装置で、本体の内部に加熱定着手段を有する定着装置と、前記定着装置により記録紙に溶融定着されるトナーを収容するトナー収容部と、トナーを記録紙に転写するための転写装置と、印刷を制御する制御装置とを備え、少なくとも、前記定着装置、又は前記トナー収容部、又は前記制御装置のいずれかの外周近傍に設けられ、前記定着装置から前記トナー収容部又は前記制御装置への熱影響を遮断する断熱材を有することを特徴とするものである。
本発明の断熱材は、いずれも所定の耐熱性を有するものであり、150℃程度になっている定着装置の断熱材として配設しても長期間断熱性能を維持することができる。これにより定着装置からの熱が効果的に遮断されるため、定着装置の周辺にトナー収容部や感光ドラム等のトナーを転写するための転写装置、及び制御装置などの外部からの熱により悪影響を受け易い部品や装置を近接して配設することが可能となり、この定着装置を使用した印刷装置の小型化や品質向上等に寄与することができる。
請求項21に記載の機器の発明は、請求項19記載の発明において、本体は、印刷装置の内部に設けられた、記録紙にトナーを溶融定着するための定着装置で、前記定着装置は、加熱手段により加熱される熱定着ローラーと、前記熱定着ローラーに記録紙を圧接する加圧ローラーと、少なくとも、前記熱定着ローラー又は前記加圧ローラーを囲むように配設された保温用断熱材とを有することを特徴とするものである。
本発明の断熱材は、いずれも所定の耐熱性を有するものであり、およそ120℃になる加圧ローラーを囲むように配設したり、真空断熱材を除いて、およそ200℃になっている熱定着ローラーを囲むように配設したりすることができ、断熱の対象が高温であっても長期間断熱性能を維持することができる。これにより、薄い断熱材で熱定着ローラーと加圧ローラーの温度を安定して保つことができ、熱定着ローラーを加熱するためのエネルギーが少なくて済み、印刷装置の小型化や品質向上、及び装置立ち上がりの時間短縮、並びに省エネルギー化等に寄与することができる。
請求項22に記載の機器の発明は、請求項18記載の発明において、本体は給湯装置で、本体の内部に貯湯容器と、前記貯湯容器を加熱可能に前記貯湯容器に近接して設けられた湯沸しヒーターと、前記貯湯容器を包むように配設した断熱材とを備え、前記湯沸しヒーターに近接する部位にも断熱材を配設したことを特徴とするものである。
貯湯容器の側面周囲は沸騰したお湯の温度でせいぜい100℃が最高使用温度であり、従来から真空断熱材が使用されてきたが、湯沸しヒーターが配設された底面には高温のため適用できなかった。本発明の断熱材は、いずれも所定の耐熱性を有するものであり、湯沸しヒーターを囲むように配設すれば、又は、真空断熱材の場合は湯沸しヒーターの近傍でも150℃を越えないように配設すれば、お湯が冷めにくく消費電力を削減できるとともに、貯湯容器より下部の体積を小さくすることができ、給湯装置を小型化することができる。
請求項23に記載の断熱材の製造方法の発明は、少なくとも、乾式シリカと無機繊維と導電性粉体とを混合する混合ステップと、混合された粉体と繊維との混合物を成形冶具に充填し、圧縮成形する成形ステップと、成形体の表面層へ液体をスプレーコーティングするコーティングステップと、コーティングした液体を乾燥する乾燥ステップとを有することを特徴とする。
スプレーされた液体が、浸透後、乾燥した表面層では、乾燥過程において、粉体の微細孔が応力収縮するため、密度が増大し、内部層の密度よりも大きくなるため、高強度な外殻作用を有し、断熱材の折れ、曲がり、粉立ちを抑制・防止でき、取り扱い性に優れる断熱材を提供できるものである。
一方で、スプレー法により液体を噴霧しているため、液体は表面層に均一に供給されるが、内部層までは到達することがないため、内部層の微小な空隙は破壊されず、その結果、断熱性に優れた断熱材を提供できるものである。優れた断熱性を発現するために、断熱材の密度は、100kg/m3から240kg/m3が適している。
我々は、導電性粉体が、乾式シリカ粉体のような、分子間相互作用により凝集を形成する粉体の凝集粒子を解砕する特性を持つことを確認した。この凝集粒子径の低減作用により、断熱材の空隙径が低減し、その結果、気体熱伝導率が低減する。また、凝集粒子が解砕されることにより微細化され、個々の粒子の接触面積が低減するため、固体熱抵抗が高くなり、固体の熱伝導率が低下するものと考える。よって、優れた断熱効果を発現するものである。
また、乾式シリカを特定するのは、導電性粉体による凝集粒子が解砕される効果が高く、より優れた断熱効果を発現するためである。
また、無機繊維は、骨材として作用するため、一般的な圧縮成形により、容易に断熱成形体を形成できる。
また、断熱性能の温度依存が、乾式シリカのみの場合よりも、改善されていることを確認した。これは、内部層において、解砕された凝集粒子が形成する微細な空隙が存在しているため、温度上昇による気体分子の運動量の増大に起因する気体熱伝導率の増加を抑制できるためであると考える。
請求項24に記載の断熱材の製造方法の発明は、請求項23に記載の発明の混合ステップにおける導電性粉体が、粉末状カーボンであることを特徴とする。
粉体状カーボンでは、導電性の尺度である粉体比抵抗値が、0.1Ω/cmから5Ω/cm程度と小さく、乾式シリカの凝集粒子解砕効果、すなわち断熱性能改善効果に優れている。また、工業的にも安価なものが選択できるため、非常に有用であり、優れた断熱性能を有し、かつ、低密度でありながら成形体強度が大きく、折れ、および、曲がり、粉立ちのない取り扱い性に優れた断熱材が提供できるものである。
請求項25に記載の断熱材の製造方法の発明は、請求項23または請求項24に記載の発明の混合ステップにおける無機繊維が、ガラス繊維であることを特徴とする。
ガラス繊維は、その表面に水酸基を有しているため、乾式シリカ粉体表面に存在する水酸基との親和相互作用により、骨材としての作用が高まり、より強固な断熱成形体を成形でき、優れた断熱性能を有し、かつ、低密度でありながら成形体強度が大きく、折れ、および、曲がり、粉立ちのない取り扱い性に優れた断熱材が提供できるものである。
請求項26に記載の断熱材の製造方法の発明は、請求項23から請求項25のうちいずれか一項に記載の発明の混合ステップにおける導電性粉体の混合率が、0.5wt%以上50wt%未満であることを特徴とする。
これにより、乾式シリカの凝集粒子解砕による断熱性能向上効果が得られ、また、導電性粉体自体の固体熱伝導の影響による断熱材の性能悪化のない、優れた断熱性能を有し、かつ、低密度でありながら成形体強度が大きく、折れ、および、曲がり、粉立ちのない取り扱い性に優れた断熱材が提供できるものである。
なお、導電性粉体の混合率が、50wt%以上の場合は、導電性粉体自体の固体熱伝導の影響が大きく発現し、断熱材の性能を悪化させてしまう。よって、適切な導電性粉体の混合率は、50wt%未満である。さらに、好ましくは、30wt%未満である。
請求項27に記載の断熱材の製造方法の発明は、請求項23から請求項26のうちいずれか一項に記載の発明の混合ステップにおける無機繊維の混合率が、1wt%以上50wt%未満であることを特徴とする。
これにより、バインダー作用が得られ、無機繊維自体の固体熱伝導の影響、および、繊維間に生じる大きな空隙による気体熱伝導率の増大のない、優れた断熱性能を有し、かつ、低密度でありながら成形体強度が大きく、折れ、および、曲がり、粉立ちのない取り扱い性に優れた断熱材が提供できるものである。
無機繊維の混合率が、50wt%以上の場合は、無機繊維自体の固体熱伝導の影響が大きく発現し、また、繊維間に生じる大きな空隙が、気体熱伝導率の増大を招くため、適切な無機繊維の混合率は、50wt%未満である。さらに、好ましくは、30wt%未満である。
請求項28に記載の断熱材の製造方法の発明は、請求項23から請求項27のうちいずれか一項に記載の発明のコーティングステップにおける、液体が水であることを特徴とする。
これにより、スプレーされた水が、浸透後、乾燥した表面層では、乾燥過程において、粉体の微細孔が応力収縮するため、密度が増大し、内部層の密度よりも大きくなるため、高強度な外殻作用を有し、折れ、曲がり、粉立ちを抑制・防止でき、取り扱い性に優れる断熱材を提供できるものである。一方で、スプレー法により水を噴霧しているため、液体は表面層に均一に供給されるが、内部層までは到達することがないため、内部層の微小な空隙は破壊されず、その結果、断熱性に優れた断熱材を提供できるものである。
請求項29に記載の断熱材の製造方法の発明は、請求項23から請求項28のうちいずれか一項に記載の発明のコーティングステップにおける、液体がバインダー水溶液であることを特徴とする。
スプレーされたバインダー水溶液が、浸透後、乾燥した表面層では、乾燥過程において、粉体の微細孔が応力収縮するため、密度が増大すると共に、バインダーによる硬化が加わり、より高強度な外殻作用を有し、折れ、曲がり、粉立ちを抑制・防止でき、取り扱い性に優れるものである。
一方で、スプレー法によりバインダー水溶液を噴霧しているため、液体は表面層に均一に供給されるが、内部層までは到達することがないため、内部層の微小な空隙は破壊されず、その結果、断熱性に優れた断熱材を提供できるものである。
請求項30に記載の断熱材の製造方法の発明は、請求項29に記載の発明におけるバインダーが、でんぷんを含むものであることを特徴とする。
これにより、より高強度な外殻作用を有し、折れ、曲がり、粉立ちを抑制・防止でき、取り扱い性に優れるものであるとともに、人体に悪影響を及ぼすことがなく、使用後の廃棄においても環境適合性が高い。
請求項31に記載の真空断熱材の製造方法の発明は、請求項23から請求項30のうちいずれか一項に記載の製造方法により作製された断熱材を芯材とし、減圧下において被覆材に封止する真空封止ステップを含むことを特徴とする。
これにより、気体熱伝導率、および固体熱伝導率が低下した、優れた断熱材を芯材としたために、優れた断熱性能を有する真空断熱材を提供できるものである。
また、その表面層の密度が、内部層の密度よりも大きい表面層が高強度な外殻作用を有した断熱材を芯材としているため、被覆材に挿入する際に、断熱材の折れ、曲がりを、抑制・防止でき、製造上取り扱い性に優れる。また、粉立ちがないため、被覆材に挿入し減圧下で封止する際に、封止口に粉が付着し、封止を一部阻害することにより、徐々に空気が内部へ侵入する現象(スローリーク)を防止できるため、真空断熱材の長期信頼性を確保できる。また、断熱面積が増大、および、断熱厚みが数mmのオーダーの薄さであっても、表面性に優れ、均一な厚さを有する真空断熱材を提供することができるものである。
また、凝集粒子の解砕作用により、断熱材の空隙径が低減し、その結果、気体熱伝導率が小さく、また、個々の粒子の接触面積が低減するため、固体の熱伝導率が低下した、優れた断熱材を芯材としたために、優れた断熱性能を有するものである。
また、断熱面積が増大、および、断熱厚みが数mmのオーダーの薄さであっても、表面性に優れ、均一な厚さを有する真空断熱材を提供することができるものである。また、優れた断熱性を発現するために、断熱材の密度は、100kg/m3から240kg/m3が適している。
また、真空断熱材を作製した際の熱伝導率の内圧依存性が、乾式シリカのみを芯材として用いた際よりも、改善されていることを確認した。これは、導電性粉体が、乾式シリカ粉体のような、分子間相互作用により凝集を形成する粉体の凝集粒子を解砕する特性を持つために、この凝集粒子の解砕作用により、断熱材の空隙径が低減したためであると考える。そのため、真空断熱材の経時的な断熱性能の信頼性は向上する。
また、同様に断熱性能の温度依存性の改善も確認した。これは、温度上昇による気体分子の運動量の増大に起因する気体熱伝導率の増加を、内部層の微細な空隙が抑制しているためであると考える。
以上、本発明の製造方法により製造された断熱材、および、真空断熱材を具備することにより、各種産業設備や、燃料電池システム、保温保冷機器、住宅部材、事務機器などの省エネルギーに貢献できるものである。また、事務機器に内在する発熱源から生じる望ましくない発熱を、熱に弱い内部精密部品に伝達し劣化させたり、機器利用者の身体に伝達し不快感を与えることも防止できるものである。
以下、本発明による断熱材の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1による断熱材の断面図である。
図1において、断熱材1は、乾式シリカ粉体を85wt%と、無機繊維を10wt%と、導電性粉体を5wt%とを混合した材料を成形治具にて成形し、水又はバインダー水溶液を塗布することにより、表面層2の密度が内部層3の密度よりも大きくなるように形成したものである。
ここで、乾式シリカ粉体の材料をアエロジル380(日本アエロジル社製)とし、混合比率を変えず、無機繊維及び導電性粉体に種々の材料を適用したものを実施例1から実施例5で示し、その断熱材の性能及び物性評価を行った結果を(表1)に示す。
(実施例1)
無機繊維としてロックウールを用い、導電性粉体として酸化チタンを用いた。スプレー液体には水を用いた。
ロックウールが骨材として作用するため、一般的な圧縮成形により容易に断熱材1を形成でき、表面層2の密度はおよそ210kg/m3で、内部層3の密度はおよそ160kg/m3であり、平均密度は180kg/m3であった。曲げ強度は0.31MPaあり、粉落ちもなく取り扱い性も良好であった。これは、断熱材1の表面層2の密度が高いために高強度な外殻作用を発揮し、折れや曲がり及び粉立ちを抑制又は防止できるものである。
また、本実施例1の断熱材1の熱伝導率は、24℃において0.0225W/mK、350℃において0.0340W/mKと優れた熱伝導率を示した。ちなみに、一般に用いられているグラスウール断熱材の熱伝導率は、それぞれ0.0275W/mK、0.0430W/mKである。これは、導電性粉体である酸化チタンが、乾式シリカの凝集粒子を解砕して断熱材内部の空隙径が縮小し、その結果、気体熱伝導率が低下する効果と、微細化された個々の粒子の接触面積が低減し、固体の熱伝導率が低下する効果により優れた断熱効果を発現したものである。
また、高温になるほど熱伝導率が上昇する度合いが低い。これは、内部層において凝集粒子間に形成される微細な空隙径が残存しているため、温度上昇による気体分子の運動量の増大に起因する気体熱伝導率の増加を、内部層の微細な空隙が抑制しているためと考える。
また、本発明の断熱材1がより優れた断熱性を発現するためには、断熱材1の平均密度は、おおよそ100kg/m3から240kg/m3が適している。100kg/m3より小さいと、表面層3の密度が比較的高くても強度が得られず成形体としての保持が困難であり、240kg/m3より大きいと、全体的に高密度になるため固体熱伝導率が増大して断熱性能が悪化するためである。
本発明の乾式シリカとしては、アーク法により製造されたケイ酸、熱分解により製造されたケイ酸などの乾式により製造された種々の粒径を有する酸化珪素化合物が使用可能である。これら乾式シリカは、凝集粒子間の静電力が比較的弱く、導電性粉体を添加した際の凝集解砕効果が高い。また、断熱性能が優れていることから一次粒子径が50nm以下のものが好ましく、特に高断熱性能を必要とする場合には一次粒子径が10nm以下のものが望ましい。
また、種々の粒径が混在した乾式シリカも利用可能である。例えば、粒径を規定した量産品Aと量産品Bの生産切り替えの際に生成する粒径がAからBの間で制御されていない正規ロット外品であっても利用することが可能であり、通常これらはより低コストで入手が可能である。
本発明の無機繊維としては、セラミック繊維としてアルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、シリカ繊維等が使用でき、また、ガラス繊維としてグラスウール、グラスファイバー、ジルコニア繊維、ロックウール、硫酸カルシウム繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、硫酸マグネシウム繊維等、特に限定することなく公知の材料を使用することができる。好ましくはシリカと親和性がよい、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、シリカ繊維、グラスウール、グラスファイバー等である。また、これらの繊維表面にフェノール等による表面処理を施していないものが望ましい。
本発明の導電性粉体としては、導電性を有する粉体であればいかなる粉体でも利用できる。およその目安としては、粉体比抵抗値が1×1013cm/Ω以下のものであり、例えば、無機粉体であれば、金属粉体、金属酸化物粉体、炭酸化物粉体、塩化物粉体、粉体状カーボンなどが好ましく、また有機粉体であれば、金属ドープ粉体などが好ましい。粉体比抵抗値が1×108cm/Ω以下であればより好ましい。更に高断熱性能を求める場合は、10cm/Ω以下が望ましい。
また、母材と均一混合することを考慮すると、粉体径は細かい方が好ましいといえる。更に、導電性粉体の含有率は60wt%以下であることが望ましく、60wt%を超える場合は導電性粉体自体の固体熱伝導の影響が大きく発現し、断熱材の性能を悪化させてしまうおそれがある。また、添加する粉体種により最適添加量はある程度異なるが、60%以上添加してもその効果は飽和に達することが多い。よって、適切な導電性粉体の含有率は60wt%以下である。更に、望ましくは45wt%以下である。
(実施例2)
無機繊維としてグラスウールを用い、その他は実施例1と同様である。
本実施例2では曲げ強度が0.35MPaとなり、実施例1よりも向上した。これは、ガラス繊維であるグラスウールが表面に水酸基を有しているため、乾式シリカ粉体表面に存在する水酸基との親和相互作用により、より強固な断熱成形体を成形することができたと考える。
本発明のガラス繊維としては、ガラス組成により構成される繊維質のものであれば、短繊維又は長繊維のいずれでも使用可能である。特に、遠心法によって製造される短繊維はリサイクル原料使用の実績があり、コスト的にも安価なため望ましい材料である。
(実施例3)
導電性粉体として酸化錫を用い、その他は実施例2と同様である。
本実施例3では、熱伝導率が24℃において0.020W/mK、350℃において0.030W/mKまで低下した。これは、導電性粉体として粉体比抵抗値が酸化チタンより小さい酸化錫を用いたため、乾式シリカの凝集粒子を解砕する効果がより高まり、気体熱伝導率及び固体熱伝導率が更に低減したためである。粉体比抵抗値は酸化チタンが12Ω/cm、酸化錫が1.4Ω/cmである。
(実施例4)
実施例3の材料で、スプレー液体に水ガラスを用いた。すなわち、アエロジル380と、グラスウールと、酸化錫とを混合して圧縮成形した成形体の表面層に水ガラスバインダーを含むことを特徴とする。
本実施例4では、曲げ強度が0.5MPaまで向上し、取り扱い性も更に良好となった。これは、水ガラスをバインダーとして表面層に含むことにより、高密度である表面層が更に高強度となって外殻作用が高まったものである。
本発明におけるバインダーとしては、有機又は無機に関わらず公知のバインダーが利用できる。有機バインダーには、水溶性のでんぷんを原料として含むもの、ポリビニルアルコール、メチルセルロースなどがあり、無機バインダーには、水ガラスやコロイダルシリカなどの他にも多くの種類がある。
(実施例5)
実施例2から実施例4におけるアエロジル380とグラスウールは同様とし、導電性粉体として粉末状カーボンのカーボンブラックを用いた。更に、スプレー液体をでんぷん水溶液とし、成形体の表面層にはでんぷんバインダーを含むことを特徴とする。
本実施例5では、更に熱伝導率が低減でき、24℃において0.0196W/mKが得られた。これは、導電性粉体として更に粉体比抵抗値が小さいカーボンブラックを用いたことにより、乾式シリカの凝集粒子を解砕する効果が高まり、気体熱伝導率及び固体熱伝導率が更に低減したためである。カーボンブラックの粉体比抵抗値は0.6Ω/cmである。
更に、でんぷんをバインダーとして表面層に含むことにより、実施例4と同様に表面層が高強度となり取り扱い性も良好となった。曲げ強度は0.5MPaであり、表面層2の密度はおよそ235kg/m3で、内部層3の密度はおよそ150kg/m3であり、平均密度は185kg/m3であった。
でんぷんは人体に悪影響を及ぼすことがなく、使用後の廃棄においても環境適合性が高い。
本発明においてはカーボンブラックのほか、黒鉛化炭素粉末、活性炭、アセチレンブラックなど、粉体状のカーボン材料であれば使用可能である。特にカーボンブラックは汎用性があり安価であることから使用が簡便であるが、経時的なガス発生を制御して長期間にわたって優れた断熱性能を維持するため、比表面積は100m2/g未満のものが好ましい。また、同様の理由により、黒鉛化炭素粉末の利用も好ましい。また、これらを2種、あるいは3種以上混合して使用することも可能である。
本発明におけるでんぷんは、未加工のでんぷん、あるいは化工でんぷんとして分解、酵素変性等のデキストリン、酸変性でんぷん、酸化でんぷん、アルファー化でんぷん等の公知のものが使用でき、特に指定するものではない。また、これらを2種、あるいは3種以上混合して使用することも可能である。
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2による断熱材の断面図である。この断熱材は真空断熱材4であり、芯材5は本発明の断熱材であればいずれでもよく、この芯材5をガスバリア性を有する被覆材6で覆い、内部を減圧して熱溶着により封止したものである。
本構成の真空断熱材4は、凝集粒子の解砕作用により空隙径が低減して微細となることにより気体熱伝導率が小さく、また、個々の粒子の接触面積が低減して固体の熱伝導率が低下した、優れた本発明の断熱材1を芯材6とし、更にその空隙内も減圧して気体熱伝導率を極限まで低減したものであり、大変優れた断熱性能を有するものである。
また、芯材6の表面層7aの密度を内部層7bより大きくして高強度な外殻作用をもたせているため、袋状とした被覆材6に挿入する際に、芯材6の折れや曲がりを抑制又は防止でき、取り扱い性に優れるものである。また、粉立ちがないため、被覆材6に挿入して減圧下で封止する際に封止口に粉が付着して封止を阻害することがなく、徐々に空気が内部へ侵入する現象(スローリーク)を防止でき、真空断熱材の長期信頼性を確保できる。また、断熱面積が大きいものや、厚みが4mm以下の薄さであっても、表面性に優れ、均一な厚さを有する真空断熱材を提供することができるものである。
本実施の形態2による真空断熱材4において、被覆材6は、芯材6と外気とを遮断することが可能なガスバリア性を有するものであればよく、公知のものが利用できる。例えば、ステンレススチール、アルミニウム、鉄などの金属薄板や、金属薄板とプラスチックフィルムとのラミネート材などである。
また、本実施の形態2の真空断熱材4が優れた断熱性を発現するための芯材6の密度は、実施の形態1における断熱材同様、100kg/m3から240kg/m3が適している。
なお、芯材から長期的に発生したり、被覆材から浸入したりする防ぎようがないわずかなガスについては、合成ゼオライト、活性炭、活性アルミナ、シリカゲル、ドーソナイト、ハイドロタルサイトなどの物理吸着剤、及び、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物などの化学吸着剤などの、水分吸着剤やガス吸着剤等を使用することにより、より長期的に信頼性を確保することも可能である。
(実施例6)
芯材を、グラスウール含有率を10wt%に固定し、残りの90wt%をアエロジル380とカーボンブラックとの含有率を9通りに変化させて作製し、それを用いて真空断熱材を作製した。いずれの場合においてもスプレー液にはでんぷんの水溶液を用いた。図3は、実施の形態2の実施例6による熱伝導率の特性図で、これらの真空断熱材の24℃における熱伝導率をカーボンブラック等の含有率との関係で示した。
図3より、本実施の形態2における真空断熱材4の熱伝導率は、カーボンブラック含有率がおよそ60wt%までは含有率0wt%のときより小さい。これは、カーボンブラックが乾式シリカの凝集粒子を解砕する効果により凝集粒子が微細化され、気体熱伝導率及び固体熱伝導率ともに低下する効果によるものと考える。しかしながら、カーボンブラックの含有率がおよそ60wt%を超えると、カーボンブラック自体の固体熱伝導の影響が大きくなり、真空断熱材としての熱伝導率が大きくなるものと考える。
また、これらの芯材は、グラスウールを骨材として用い、更に、でんぷんのバインダー作用により表面層密度が内部層よりも大きく、高強度な外殻作用を発揮するため、曲げ強度はいずれの含有率においても0.4MPa以上あり、折れ曲がりや粉落ちもなく取り扱い性に優れるものであった。
また、表面に凹凸がほとんどないきれいな状態で、更に厚みも均一な真空断熱材が得られた。
(実施例7)
芯材を、カーボンブラック含有率を5wt%に固定し、残りの95wt%をアエロジル380とグラスウールとの含有率を9通りに変化させて作製し、それを用いて真空断熱材を作製した。いずれの場合においてもスプレー液にはでんぷんの水溶液を用いた。図4は、実施の形態2の実施例7による熱伝導率の特性図で、これらの真空断熱材の24℃における熱伝導率をグラスウール等の含有率との関係で示した。
図4より、本実施例7における真空断熱材4の曲げ強度は、グラスウール含有率が10wt%までは急激に増加する傾向であり、以降わずかな増加に転じて、50wt%以上ではほぼ飽和か、むしろ減少気味の傾向になっている。
一方、熱伝導率はグラスウールの含有率の増加によりわずかづつ増大の傾向があるが、50wt%を超えるとおよそ60wt%まで急激に増大している。すなわち、グラスウールの含有率が50wt%を超えるとグラスウール自体の固体熱伝導の影響が大きく発現すると考えられ、適切な含有率は、1wt%以上50wt%以下である。
(実施例8)
図5は、実施の形態2の実施例8による熱伝導率の特性図で、グラスウール含有量が10wt%、30wt%、及び50wt%の芯材を使用して、真空断熱材の内圧を変化させたときの24℃の熱伝導率を示す。
図5より、グラスウール添加率が10wt%と30wt%とでは内圧の増大に伴う熱伝導率の増大の傾向に大きな差異はないが、50wt%の場合には熱伝導率はより低い内圧から増大していることがわかる。これは、グラスウール含有率が50wt%を超えると、繊維間に生じる大きな空隙が気体熱伝導率の増大を招くものと考えられる。この傾向からも、グラスウールの適切な含有率は50wt%以下である。
(実施の形態3)
本発明による断熱材の産業用設備や装置への適用の一例として、電気工業炉について説明する。
図6は、本発明の実施の形態3による電気工業炉の断面図である。図6において、本体である電気炉8の内部に発熱体9と電気炉制御用熱電対10を備え、本体を構成する壁11及び扉12の内部に本発明の実施の形態1における実施例4に示した断熱材13を具備している。
この電気炉8の内部を350℃に設定して、本体外郭の温度と消費電力とを測定したところ、壁11及び扉12内部の断熱材がグラスウールである従来のものより、外郭温度はおよそ20℃低下し、消費電力は約20%減少して、断熱効果及び省エネルギー効果を確認した。
本実施の形態3は、動作温度帯である常温から350℃付近までの範囲で断熱を必要とする産業用設備や装置の代表として記したものであり、本発明による断熱材の産業用設備や装置等への適用は工業炉に限るものではなく、例えば、半導体製造設備や超伝導に関わる設備の断熱などにも同様に利用できるものである。また、産業用設備に限らず、トースター、ホームベーカリー、IHクッキングヒーターなどのほか、インバーターが組み込まれた蛍光灯の制御部の断熱など、同等の温度領域で発熱が生じる機器への適用も有用である。更には、電気機器に限らず、ガスコンロなどのガス機器にも有用である。
(実施の形態4)
本発明による断熱材の他の適用例として、燃料電池システムについて説明する。図7は、本発明の実施の形態4による燃料電池コジェネレーションシステムの概略図である。
図7において、改質部15は、本発明の実施の形態1による実施例4の断熱材14を壁面に備えている。炭化水素などの燃料電池の原料は、改質部15において水蒸気により改質されて水素リッチなガスとなる。この時、改質部15での反応は所定の温度まで上昇しないと起こらないため、バーナー16により改質部15の温度を上昇させる必要があが、この断熱材14を適用して保温することにより、従来のグラスウールによる断熱よりも放熱ロスが20%低減し、バーナー16による加熱エネルギーが18%低減できることを確認した。また、本発明の断熱材14は取り扱い性に優れるため、取り付けも容易であった。
改質部15を出た水素リッチなガスは一酸化炭素を含んでおり、このまま燃料電池17に供給すると一酸化炭素被毒により発電効率が悪くなるとともに、触媒が劣化してしまう。これを防ぐため、変成部18及び浄化部19で一酸化炭素濃度を低くする。
燃料電池17においては、変成部18及び浄化部19により一酸化炭素濃度を低下させた水素リッチなガスと、ブロワ20により供給される空気中の酸素とにより発電する。
燃料電池17の壁面には、実施の形態1に実施例5における、アエロジル380を85wt%、カーボンブラックを5wt%、グラスウールを10wt%含有した真空断熱材21を備えている。本発明における優れた断熱効果を有する真空断熱材21の適用により放熱ロスが20%低減し、更に、発電反応に適した一定温度が維持できるため電池反応が安定化し、発電効率が5%向上した。
発電の際の反応熱は、電池冷却水系22を流れる冷却水により冷却される。温度が上昇した冷却水は、壁面に真空断熱材21を適用した熱回収系23により熱回収され再利用される。
熱回収系23は、例えば、給湯器や暖房器具などとして廃熱利用される機器であり、真空断熱材を効果的に適用すれば放熱ロスを30%程度改善することが可能である。このようにして、本発明による断熱材、及び真空断熱材を適用することにより、より効率的な熱の回収及び有効利用が可能となるため、より省エネルギーを達成したシステムを確立することができる。
なお、本実施の形態4に限ることなく、燃料電池システムにおける断熱や保温を必要とするあらゆる箇所に対して、本発明の断熱材及び真空断熱材の適用は有用である。
(実施の形態5)
本発明による断熱材の適用について、保温保冷機器の一例を示す。図8は、本発明の実施の形態5による冷凍冷蔵庫の側面断面図である。
図8において、冷凍冷蔵庫24はABS樹脂を成形してなる内箱25と、薄い鋼板を折り曲げてなる外箱26とで構成される空間に、あらかじめ実施の形態1の実施例5における、アエロジル380を85wt%、カーボンブラックを5wt%、グラスウールを10wt%含有した芯材を有する厚さ12mmの真空断熱材27を配設し、残りの空間に硬質ウレタンフォーム40を発泡充填したものである。冷凍冷蔵庫24の上部は冷蔵室29で、下部は冷凍室30を有し、その後部に冷凍サイクルを構成する冷却器31と、冷却器31による除霜水を受けるドレンパン32と配水管33を配設している。更に、配水管33が埋め込まれた近傍の内箱25には、同じく上記に示す構成の芯材を有し、厚さが4mmの真空断熱材34を配設している。
配水管33が冷凍室30を構成する箱体に埋め込まれるときには、配水管33内で除霜水が氷結することを防ぐ必要があるが、従来の真空断熱材は10mm以上の厚みがあるため硬質ウレタンフォームが充分に充填できないため使用できなかった。そのために、ヒーターを付加して暖める必要があった。
本発明による断熱材である真空断熱材は、表面層の密度が高く強度があるため4mm以下の薄さでも作成でき、硬質ウレタンフォームの充填を阻害するような個所にも使用できる。
本実施の形態5による冷凍冷蔵庫24においては、配水管33のほか、制御用配線(図示せず)が埋め込まれた近傍にも本発明の真空断熱材を使用することができ、薄い真空断熱材34以外は同等の真空断熱材が使用された冷蔵庫と比較して、消費電力量は約2%低減することができた。
なお、本発明の保温保冷機器とは、動作温度帯である−30℃から150℃付近までの範囲で断熱や保温を必要とする保温保冷機器をさしており、例えば、炊飯器、食器洗浄乾燥器、電気湯沸かし器、自動販売機などで厚みのスペースがない個所や、断熱スペースをより薄くして効率的な利用を図る場合にも同様に有用である。
(実施の形態6)
図9は、本発明の実施の形態6による断熱材を備えた建築部材を利用した建築物の断面図である。
図9において、住宅41の外壁42と内壁43との空間及び屋根材45の下部に、実施の形態1の実施例5における、アエロジル380を85wt%、カーボンブラックを5wt%、グラスウールを10wt%含有した芯材を有する厚さ12mmの真空断熱材46を配設した。また、床材44の下部には、同じ構成で厚さ4mmの真空断熱材46を配設した。この場合、住宅41の床材44及び屋根45を含めた全外壁面積に対して真空断熱材を適用する面積の割合は40%である。
このように構成された住宅41の年間の空調機、及び、保温機器に要する消費電力量を測定したところ、真空断熱材を適用していない際よりも10%低下し、優れた保温及び省エネルギー効果を示した。特に、本発明による断熱材は4mm以下の薄い構成が可能なため、床材44の下部の使用において、床材44を不必要に持ち上げないことが有用である。更に、床暖房機器を配設した下部に適用した場合には、断熱材の薄さと優れた断熱性能が特に有用である。
なお、本発明における建築部材としては、一般住宅の壁面、床材、屋根材に限らず、集合住宅やビルの断熱を必要とする部位や、自動車内も居住空間として考えられ、更に、断熱材を硬質ウレタンフォーム等で所定の形状に埋設しておけば、運搬及び取り扱いにおいて、より簡便なものとすることができる。
(実施の形態7)
次に、車両の一例として、自動車に本発明による断熱材を適用した例について説明する。図10は、本発明の実施の形態7による自動車の断面図である。
図10において、自動車47の屋根部48に設置した上部真空断熱材49、床部50に設置した下部真空断熱材51、エンジン室52と車内空間53を仕切る前部構造部材54に設置した前部真空断熱材55、トランク室56と車内空間53を仕切る後部構造部材57に設置した後部真空断熱材58で囲むように構成されている。上部真空断熱材49、下部真空断熱材51、前部真空断熱材55、後部真空断熱材59の芯材は、いずれも、実施の形態1の実施例5における、アエロジル380を85wt%、カーボンブラックを5wt%、グラスウールを10wt%含有したものである。
このように構成された自動車47は、真夏の炎天下での駐車などで、直射日光により屋根部の外装鉄板が非常に高温になる場合でも、屋根部の外装鉄板の熱が車内空間に伝わり難く、車内空間の温度上昇を抑制することができる。また、エアコンで車内空間を冷暖房する際にも保温性が良く、エンジンに負担をかけることが少なく、年間を通じて省エネルギーを実現できる。この自動車の年間のエアコンに要する消費電力量を測定したところ、真空断熱材を適用していないものと比較して18%低減することができた。
なお、本発明の断熱材を適用する車両としては、内燃機関を有する自動車のみだけではなく、電気自動車や、実施の形態4に示した燃料電池を利用したものにも有用である。更に、冷凍運搬車のコンテナには実施の形態7で示した建築部材が有用で、冷凍機を運転する補助エンジンの削減など、大変優れた省エネルギー効果を示すものである。更には、これらは自動車に限らず、列車車両の客車や貨物車両にも同様に有用である。
(実施の形態8)
次に、事務機器の一例として、ノート型パソコンへ本発明の断熱材を適用した例について説明する。図11は、本発明の実施の形態8によるノート型パソコンの断面図である。
図11において、ノート型パソコン59は本体内にプリント基板60を有し、CPU61及びその他各チップを実装している。CPU61の冷却装置62は、CPU61に接する伝熱ブロック63と、熱を移送するヒートパイプ64とにより構成される。放熱板65は内部の熱を拡散し、かつパソコン底面66に伝えて放熱する。真空断熱材67は、実施の形態1の実施例5における、アエロジル380を85wt%、カーボンブラックを5wt%、グラスウールを10wt%含有した芯材を有し、厚さを2mmとしたもので、CPU61真下のパソコン底面66の内側、及びCPU61真上のキーボード68の裏面に接着剤で密着させて装着している。
これにより、パソコン底面66及びCPU61真上のキーボード68表面の高温部において、最大6℃低下することができた。すなわち、パソコンの表面の一部が異常に熱せられることを防ぎ、利用者に不快感を与えることがない。
また、真空断熱材67の芯材は、グラスウールを骨材として用い、更に、高密度な表面層にでんぷんバインダーを含み、芯材が高強度な外殻作用を発揮するため、真空断熱材を作製する際の被覆材への挿入時にも、折れや曲がりを防止でき、その結果、厚みの均一な、表面性にも優れた、2mmという非常に薄い真空断熱材を適用することができた。
なお、本発明による真空断熱材は、ノート型パソコンに内蔵されたハードディスク装置等を高温から断熱保護するために使用することもでき、ほかにも、断熱材を適用する空間が限られているなかで小型化や薄型化が求められる製品に対して適用することができるものである。
また、本発明における事務機器とは、ノート型パソコンに限るものではなく、事務機器において断熱を必要とする機器の代表として記したものである。例えば、コピー機や印刷装置などの印刷装置内の発熱部分とトナーとの断熱や、液晶パネルを有するカーナビゲーションシステムの液晶部分とCPUによる発熱部分の断熱にも利用可能である。
(実施の形態9)
図12は、本発明の実施の形態9による印刷装置の断面図である。
図12において、定着装置69を有する印刷装置70における記録紙71への印刷は、感光ドラム72の表面に静電荷画像を形成し、そこにトナー収容部73からトナーを吸着させた後、転写ドラム74を介して記録紙71に転写する。このトナー像が転写された記録紙71を定着装置69に搬入し、高温に保たれた熱定着ローラー75と加圧ローラー76の間に記録紙71を通過させることによりトナーを溶融定着させる。
熱定着ローラー75と加圧ローラー76の周囲には、所定の高い温度を保つために近接して設置できるよう、断熱材77を切れ目のある筒状に成形して配設した。また、定着装置69の外枠には、周囲に熱影響を与えないように遮断用の真空断熱材78を側面全体及び上面に配設した。遮断用には真空断熱材79のように配設してもよい。これらの断熱材77、及び真空断熱材78,79の芯材は、実施の形態1の実施例5に示す構成とした。
これにより、印字品質が向上するとともに、制御装置(図示せず)やトナー収容部73及び感光ドラム72等の転写装置は、トナーに悪影響が及ばない45℃以下に長期間維持することができた。
なお、印刷装置である複写機やレーザープリンタの定着装置以外にも、本発明による断熱材は350℃程度までの断熱や保温、また、真空断熱材は150℃以下の発熱体を断熱したり、保温したりする必要がある製品においても使用することができる。
(実施の形態10)
図13は、本発明の実施の形態10による電気湯沸し器の断面図である。
図13において、電気湯沸し器80は本体の内部に湯を沸かすとともに貯湯する貯湯容器81を有し、上部を開閉可能な上蓋82で覆っている。
貯湯容器81の底面にはドーナツ状のヒーター83が密接して装着されており、湯温は制御装置84が温度検知器85からの信号を取り込み、ヒーター83を制御して所定の温度を保つ。また、同じく底面に設けた吸込口86からモーター87により駆動されるポンプ88を経て、お湯の出口である吐出口89までが出湯管90により連通しており、出湯は押しボタン91を押してモーター87を起動することにより行う。
更に、貯湯容器81の側面には真空断熱材92が巻かれており、同じく底面のヒーター83の外側には断熱材93が配設され、貯湯容器81の熱が逃げて湯温が低下することを抑えている。側面の真空断熱材92の芯材、及び底面の断熱材93は、実施の形態1の実施例5に示した構成のものとした。
従来から高温となるために断熱材を配設できなかった底面を断熱することにより、約3%の消費電力量の低減が図れ、その性能を長期間維持することができた。また、本体底面においても空間を設けて断熱する必要がなくなり、貯湯容器より下部の体積を小さくすることができ、給湯装置を小型化することができた。
次に本発明の断熱材に対する比較例を示す。比較例1から比較例3までのそれぞれの結果を、(表2)に示す。
(比較例1)
微粒子状アルミナ62wt%と、赤外線不透過材として酸化チタン32wt%と、繊維補強材としてバルク状セラミックファイバー6wt%を混合してなる断熱体を成形した。この構成では、密度が大きいため熱伝導率が大きくなった。また、粉落ちも発生し、精密機器への適用、及び真空断熱材の芯材への適用は不向きである。
(比較例2)
微粒状金属酸化物として高分散珪酸78wt%と、繊維として紡織ガラス繊維3wt%、乳白剤として炭化珪素12wt%、耐火材料としてバーミキュライト7wt%を混合し、微孔性成形体を圧縮成形した。この構成では、低密度で圧縮成形のみの成形体であるため熱伝導率は低いが、曲げ強度が小さく、取り扱い性が悪かった。また、粉落ちも発生し、精密機器への適用、及び真空断熱材の芯材への適用は不向きである。
(比較例3)
膨張したバーミキュライト46wt%と、無機結合材として水ガラス24wt%と、微孔性物質としてヒュームドシリカ26wt%、ガラス強化繊維4wt%を混合して、500℃にて乾燥した断熱成形体である。この構成では、無機結合材適用と高密度での圧縮成形により、十分な曲げ強度が得られているが、無機結合材の影響、及び高密度による熱伝導率が大きくなり、優れた断熱性能が得られなかった。
(比較例4)
不透明材としてカーボンブラック5wt%を含むシリカエアロゾルを乾燥し、得られた無機ゲル粒状組成物を芯材とした真空断熱成形体の断熱性能、及び物性を評価した。24℃での熱伝導率は、0.0043W/mKであり、実施の形態2の実施例7におけるカーボンブラック添加量が同等の断熱材の熱伝導率と比較すると若干大きく、また、芯材が粉体であるため粉立ちがあり、取り扱い性が悪かった。真空断熱材の芯材として、大きな面積としたり厚さを薄くしたりする場合には、袋状とした被覆材への挿入が困難であり、適さない。また、なんとか真空断熱材として作製しても、表面の凹凸が大きく、厚みの不均一が目立って精密事務機器への適用は不向きである。
(実施の形態11)
以下、本発明による断熱材の製造方法の一実施の形態について説明する。本発明は、以下に示す形態に限られるものではない。
まず、混合ステップにおいて、規定量の乾式シリカと、無機繊維と、導電性粉体とを混合し、次の成形ステップにおいて、この混合物を成形冶具に充填し、圧縮成形する。さらに、次のコーティングステップにおいて、成形体の表面層へ液体をスプレーコーティングし、乾燥ステップにおいて、コーティングした液体を乾燥し断熱材を製造する。
本製造方法により、導電性粉体が、分子間相互作用により凝集を形成する乾式シリカの凝集粒子を解砕し、凝集粒子径を低減する作用により、断熱材の空隙径が低減し、その結果、気体熱伝導率が低減し、また、個々の粒子の接触面積が低減するため、固体の熱伝導率が低下した、優れた断熱効果を有する断熱材を提供できる。
また、スプレーされた液体が、浸透後、乾燥した表面層では、乾燥過程において、粉体の微細孔が応力収縮するため、密度が増大し、内部層の密度よりも大きくなるため、高強度な外殻作用を有し、折れ、曲がり、粉立ちを抑制・防止でき、取り扱い性に優れるものである。
一方で、スプレー法により液体を噴霧しているため、液体は表面層に均一に供給されるが、内部層までは到達することがないため、内部層の微小な空隙は破壊されず、その結果、断熱性に優れた断熱材を提供できるものである。
また、本発明の断熱材が、優れた断熱性を発現するために、断熱材の密度は、100kg/m3から240kg/m3が適している。
本発明の乾式シリカとしては、アーク法により製造されたケイ酸、熱分解により製造されたケイ酸などの乾式により製造された種々の粒径を有する酸化珪素化合物が使用可能である。これら乾式シリカは、凝集粒子間の静電力が比較的弱く、導電性粉体を添加した際の凝集解砕効果が高い。また、断熱性能が優れていることから一次粒子径が50nm以下のものが好ましく、特に高断熱性能を必要とする場合には、一次粒子径が10nm以下が望ましい。
また、種々の粒径の乾式シリカの混合物も利用可能である。例えば、粒径を規定した量産品Aと量産品Bの生産切り替えの際に生成する粒径がAからBの間で制御されていない正規ロット外品であっても利用することが可能であり、より低コストで断熱材を製造することが可能である。
本発明の無機繊維は、セラミック繊維としてアルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、シリカ繊維、あるいはガラス繊維としてグラスウール、グラスファイバー、あるいはジルコニア繊維、ロックウール、硫酸カルシウム繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、硫酸マグネシウム繊維等、特に限定するものではなく、公知の材料を使用することができるが、好ましくはシリカと親和性がよいと思われるガラス繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、シリカ繊維、グラスウール、グラスファイバー等がよい。またさらに好ましくは、これらの繊維表面にフェノール処理等をしていないものがよい。
本発明の導電性粉体は、導電性を有する粉体であればいかなる粉体でも利用できる。およその目安としては、粉体比抵抗値が1×1013cm/Ω以下のものである。無機粉体であれば、例えば、金属粉体、金属酸化物粉体、炭酸化物粉体、塩化物粉体、粉体状カーボンなど、また有機粉体であれば、金属ドープ粉体などである。粉体比抵抗値が、1×108cm/Ω以下であれば、より好ましい。
さらに高断熱性能を求める場合は、10cm/Ω以下が望ましい。また、母材と均一混合することを考慮すると、粉体径は細かい方が好ましいといえる。さらに、導電性粉体の含有率は、50wt%未満であることが望ましい。添加する粉体種により最適添加量は異なるが、50%以上添加しても、その効果は飽和に達することが多い。50wt%以上の場合は、導電性粉体自体の固体熱伝導の影響が大きく発現し、断熱材の性能を悪化させてしまう。よって、適切な導電性粉体の含有率は、50wt%未満である。さらに、好ましくは、30wt%未満である。
また、本発明の成形ステップにおける圧縮成形の方法としては、公知の方法が利用できるものである。
また、本発明のコーティングステップにおけるスプレー方法としては、スプレー塗装などの公知の方法が利用できるものである。
また、本発明の乾燥ステップにおける乾燥方法は、公知の乾燥装置や乾燥手段が利用でき、スプレーする液体の種類により適切な温度、条件を選択するものである。
(実施の形態12)
次に、本発明の真空断熱材の製造方法の一実施の形態を説明する。
まず、混合ステップにおいて、規定量の乾式シリカと、無機繊維と、導電性粉体とを混合し、次の成形ステップにおいて、この混合物を成形冶具に充填し、圧縮成形する。さらに、次のコーティングステップにおいて、成形体の表面層へ液体をスプレーコーティングし、乾燥ステップにおいて、コーティングした液体を乾燥し得られた断熱材を、次の真空封止ステップにおいて、減圧下で被覆材に封止し、真空断熱材を作製するものである。
本製造方法により、凝集粒子の解砕作用により、断熱材の空隙径が低減し、その結果、気体熱伝導率が小さく、また、個々の粒子の接触面積が低減するため、固体の熱伝導率が低下した、優れた断熱材を芯材としたために、優れた断熱性能を有するものである。
また、その表面層の密度が、内部層の密度よりも大きく、表面層が高強度な外殻作用を有した断熱材を芯材としているため、被覆材に挿入する際に、断熱材の折れ、曲がりを、抑制・防止でき、取り扱い性に優れるものである。
また、粉立ちがないため、被覆材に挿入し減圧下で封止する際に、封止口に粉が付着し、封止を一部阻害することにより、徐々に空気が内部へ侵入する現象(スローリーク)を防止できるため、真空断熱材の長期信頼性を確保できる。また、断熱面積が増大、および、断熱厚みが数mmのオーダーの薄さであっても、表面性に優れ、均一な厚さを有する真空断熱材を提供することができるものである。
本発明の真空断熱材は、芯材と被覆材とからなり、減圧下で芯材を被覆材に封入したものである。また、合成ゼオライト、活性炭、活性アルミナ、シリカゲル、ドーソナイト、ハイドロタルサイトなどの物理吸着剤、および、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物および水酸化物などの化学吸着剤などの、水分吸着剤やガス吸着剤を使用しても良い。また、真空封止前に、芯材の乾燥工程を加えても良い。
本発明の被覆材は、芯材と外気とを遮断することが可能な公知のものが利用できる。例えば、ステンレススチール、アルミニウム、鉄などの金属薄板や、金属薄板とプラスチックフィルムとのラミネート材などである。
また、本発明の真空断熱材が優れた断熱性を発現するために、芯材の断熱材の密度は、100kg/m3から240kg/m3が適している。
(実施の形態13)
図14は、本発明の実施の形態13による断熱材の断面図である。本実施の形態の断熱材100は本発明の実施の形態11の断熱材の製造方法により作製されたものである。
乾式シリカ粉体として、アエロジル380(日本アエロジル社製)を85wt%、ガラス繊維としてグラスウールを10wt%、導電性粉体として酸化錫を5wt%含み、表面層101に水ガラスバインダーを含み、表面層101の密度が、内部層102よりも大きいことを特徴とするものである。このようにして得られた断熱材の熱伝導率は、24℃において0.0201W/mK、350℃において0.0302W/mKと良好な断熱性能を示した。
これは、酸化錫が、分子間相互作用により凝集を形成する乾式シリカの凝集粒子を解砕し、凝集粒子径を低減する作用により、断熱材100の空隙径が低減し、その結果、気体熱伝導率が低減させ、また、個々の粒子の接触面積の低減により固体の熱伝導率を低減させたため、優れた断熱効果が発現可能となったものである。
また、密度は180kg/m3と低いにもかかわらず、曲げ強度は0.5Paと十分な強度を示しており、取り扱い性が良好であり、粉落ちもなかった。
これは、ガラス繊維であるグラスウールを含有しているため、グラスウール表面の水酸基によって、乾式シリカ粉体表面に存在する水酸基との親和相互作用が生じ、より強固な断熱成形体を成形することができ、その結果、曲げ強度が向上したと考える。さらに、水ガラスをバインダーとして表面層101に含むことにより、高密度である表面層101が、さらに高強度となり、外殻作用が高まるため、さらに曲げ強度が向上したものであり、取り扱い性も向上した。
本発明のガラス繊維は、短繊維、長繊維によらず、ガラス組成により構成される繊維質のものであれば、使用可能である。特に、遠心法によって製造される短繊維は、リサイクル原料使用の実績があり、コスト的にも安価なため、望ましい。
本発明のバインダーとしては、公知の有機、および、無機バインダーが利用できる。有機バインダーとしては、水溶性のでんぷんを原料として含むもの、ポリビニルアルコール、メチルセルロースなど、無機バインダーとしては、水ガラスやコロイダルシリカなどである。
(実施の形態14)
図15は、本発明の実施の形態14による断熱材の断面図である。本実施の形態の断熱材103は本発明の実施の形態12の断熱材の製造方法により作製されたものである。
乾式シリカ粉体として、アエロジル380(日本アエロジル社製)を85wt%、無機繊維としてグラスウールを10wt%、導電性粉体としてカーボンブラックを5wt%含み、表面層104にでんぷんバインダーを含み、表面層104の密度が、内部層105よりも大きいことを特徴とする芯材を、被覆材106にて被覆したものである。
このようにして得られた真空断熱材103の熱伝導率は、24℃において0.0030W/mKであった。これは、カーボンブラックが、乾式シリカの凝集粒子を解砕する効果により、凝集粒子径が低減し、その結果、真空断熱材103の芯材の空隙径が低減し、気体熱伝導率が低減する効果によるものと考える。また、凝集粒子が解砕されることにより微細化され、個々の粒子の接触面積が低減するため、固体の熱伝導率が低下する効果によるものと考える。よって、優れた断熱効果が発現するものである。
また、芯材曲げ強度は、0.52Paであった。これは、グラスウールを骨材として用い、さらに、真空断熱材103の芯材の表面層104密度が、内部層105よりも大きく、でんぷんのバインダー作用により、高強度な外殻作用を発揮するためであり、取り扱い性に優れるものである。また、粉落ちもないため、スローリークによる熱伝導率の悪化もない。
また、真空断熱材103を作製する際の被覆材106への挿入時にも、折れ、曲がりを防止でき、その結果、表面性に優れ、厚みを均一とすることができるため、数mmオーダーの非常に薄い真空断熱材103を作製することが可能である。ノート型コンピュータのような事務機器において、小型化、薄型化の求められる、断熱材を適用する空間が限られている製品に対しても、適用が可能である。
本発明のでんぷんは、未加工のでんぷん、あるいは化工でんぷんとして分解、酵素変性等のデキストリン、酸変性でんぷん、酸化でんぷん、アルファー化でんぷん等であり、公知のものが使用でき、特に指定するものではない。また、これらを2種、あるいは3種以上混合して使用することも可能である。
次に本発明に対する比較例の物性評価結果をを(表3)示す。
(比較例5)
微粒子状アルミナ62wt%と、赤外線不透過材として酸化チタン32wt%と、繊維補強材としてバルク状セラミックファイバー6wt%を混合してなる断熱成形体の断熱性能、および、物性評価結果を(表3)に示す。比較例5の構成では、密度が大きいため、熱伝導率が大きく、優れた断熱性能が得られないことがわかる。また、粉落ちも確認でき、精密機器への適用は不可能である。
(比較例6)
微粒状金属酸化物して高分散珪酸78wt%と、繊維として紡織ガラス繊維3wt%、乳白剤として炭化珪素12wt%、耐火材料としてバーミキュライト7wt%を混合し、圧縮成形した微孔性成形体の断熱性能、および、物性評価結果を(表3)に示す。比較例6の構成では、低密度で圧縮成形のみの成形体であるため、熱伝導率は低いが、曲げ強度が小さく、取り扱い性が悪かった。また、粉落ちも確認でき、精密機器への適用は不可能である。
(比較例7)
膨張したバーミキュライト46wt%と、無機結合材として水ガラス24wt%と、微孔性物質としてヒュームドシリカ26wt%、ガラス強化繊維4wt%を混合して、500℃にて乾燥した断熱成形体の断熱性能、および、物性評価結果を(表3)に示す。比較例7の構成では、無機結合材適用と、高密度での圧縮成形により、十分な曲げ強度が得られているが、無機結合材の影響、および、高密度に起因する熱伝導率が大きく、優れた断熱性能が得られないことがわかる。
(比較例8)
不透明材としてカーボンブラック5wt%を含むシリカエアロゾルを乾燥し、得られた無機ゲル粒状組成物を芯材とした真空断熱成形体の断熱性能、および、物性を評価した。24℃での熱伝導率は、0.0043W/mKであり、本発明の実施の形態8におけるカーボンブラック添加量が同等の熱伝導率と比較すると、若干大きく、また、芯材が粉体であるため、粉立ちがあり、取り扱い性が悪かった。真空断熱材の面積が増大、および、厚さを薄肉化する場合には、粉体を充填した袋の被覆材への挿入が困難であり、適さないと考える。また、大型化した場合には、真空断熱材表面の凹凸が大きく、厚みの不均一が目立ち、精密事務機器への適用は不可能である。
(実施の形態15)
図16は本発明の実施の形態15における断熱材111の断面図である。
図16に示すように、本実施の形態の断熱材111は、乾式シリカ85%とガラス繊維10%とカーボンブラック5%からなる密度190kg/m3の成形体112の上下面に面材113としてポリエステル不織布を備えている。また、成形体112の表面にバインダー114としてデンプンを含んでいる。
以上のように構成された断熱材111の熱伝導率は24℃で0.0205W/mKであった。
一般に用いられているグラスウール断熱材の熱伝導率は、24℃で0.0275W/mKであるのに対し、本実施の形態の断熱材111は、優れた熱伝導率を示すことがわかる。
また、曲げ強度は0.5MPaと高強度であり、粉落ちがなく、取り扱い性も良好であった。表面平滑性も優れていた。
なお、本実施の形態では成形体112の上下2面に面材113を備えているが、工数やコスト削減のために面材113を1面のみに備えることも可能である。また、さらなる強度の向上のためには2面以上の使用も可能であり、本実施の形態のように成形体112が6面体の場合は6面すべてに面材113を備えることも可能である。また、7面体,8面体などのように成形体112の形状によっては、面材113を7面以上使用することも可能である。
以下、本発明の構成材料について説明する。
本発明の乾式シリカは、アーク法により製造されたケイ酸、熱分解により製造されたケイ酸などの乾式により製造された種々の粒径を有する酸化珪素化合物が使用可能である。これら乾式シリカは、凝集粒子間の静電力が比較的弱く、導電性粉体を添加した際の凝集解砕効果が高い。また、断熱性能が優れていることから一次粒子径が50nm以下のものが好ましく、特に高断熱性能を必要とする場合には、一次粒子径が10nm以下が望ましい。また、種々の粒径の乾式シリカの混合物も利用可能である。例えば、粒径を規定した量産品Aと量産品Bの生産切り替えの際に生成する粒径がAからBの間で制御されていない正規ロット外品であっても使用することが可能であり、より低コストで断熱材を製造することが可能である。
また、本発明のガラス繊維は、短繊維、長繊維によらず、ガラス組成により構成される繊維質のものであれば使用可能である。
また、本発明の導電性物質は、カーボンブラックに限らず、導電性を有する粉体であればいかなる粉体でも使用可能である。例えば、無機粉体であれば、金属粉体、金属酸化物粉体、炭酸化物粉体、塩化物粉体、粉末状カーボンなど、有機粉体であれば、金属ドープ粉体などである。
また、本発明の面材113は、シート状のものが使用可能である。例えば、プラスチックフィルム、紙、布、金属箔、ネット、不織布などである。また、面材113の厚さは特に限定するものではないが、断熱材111の熱伝導率に影響を与えない厚さであることが望ましい。
また、本発明の不織布は、ポリエステルに限らず公知の有機または無機不織布が使用可能である。有機不織布としてはアクリル、キュプラ、レーヨン、ポリプロピレン、ナイロンなど、無機不織布としては、ガラス、セラミックなどである。また、これら2種類以上から構成される不織布も使用可能である。
また、本発明のバインダーは、公知の有機または無機バインダーが使用可能である。有機バインダーとしてはフェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂など、無機バインダーとしては、ホウ酸、酸化ホウ素、リン酸、コロイダルシリカ、水ガラス、アルミナゾル、セッコウ、ケイ酸ナトリウム、アルキルシリケートなどである。
(実施の形態16)
図17は本発明の実施の形態16における断熱材115の断面図である。
図17に示すように、本実施の形態の断熱材115は、乾式シリカ85%とガラス繊維10%と酸化スズ5%からなる密度190kg/m3の成形体116の上下面に面材117としてガラス不織布を備えている。また、成形体116の表面にバインダー118としてコロイダルシリカを含んでいる。
以上のように構成された断熱材115の熱伝導率は24℃で0.0205W/mKであり、実施の形態15同様、優れた断熱性能を示した。また、曲げ強度は0.5MPaと高強度であり、粉落ちがなく、取り扱い性も良好であった。表面平滑性も優れていた。
また、面材117として無機不織布を使用すると有機不織布よりも耐熱性が向上するために高温での使用が可能となる。また、無機不織布の中でもガラス不織布は、乾式シリカやガラス繊維との親和性が高く、成形体116との接着力が高いので、より取り扱い性に優れた断熱材115となる。
(実施の形態17)
図18は本発明の実施の形態17における真空断熱材119の断面図である。
図3に示すように、本実施の形態の真空断熱材119は、実施の形態15の断熱材111を芯材として備えている。
外被材(被覆材)120は、熱溶着層、ガスバリア層、表面保護層を有する2枚のラミネートフィルムからなり、芯材(断熱材111)を挿入する一辺を残した三辺を熱溶着して製袋する。
真空断熱材119は、外被材(被覆材)120の開口部から断熱材111を挿入し、内部を真空排気した後、開口部を熱溶着にて封止して得る。
以上のようにして得た真空断熱材119の熱伝導率は24℃で0.0055W/mKであり、また内圧は20Paであった。
本実施の形態の真空断熱材119は、実施の形態15の断熱材111を真空断熱材119の芯材として使用することにより、優れた断熱性能を有するだけでなく、真空断熱材119を作製する際に、外被材(被覆材)120への挿入を容易に行うことができ、また、粉落ちがないために、封止口の封止を確実に行うことができた。
また、面材113として不織布を使用することにより、成形体112の通気性を保つことができるために、真空断熱材119の作製時の排気に影響することがない。このために、低い内圧を得ることができた。このように初期により低い内圧を得ることができると、長期に渡って優れた断熱性能を維持するという点からも有利であり、また、排気抵抗が小さいということは、真空排気を行うのに要する時間が少なくて済むことから、真空断熱材作製の作業効率が上がる。
以下、本発明の構成材料について説明する。
本発明の外被材(被覆材)120は、少なくともガスバリア層及び熱溶着層を有するものである。ガスバリア層としては、金属箔や、金属,無機酸化物或いはダイヤモンドライクカーボンを蒸着したプラスチックフィルムなど、気体透過を低減する目的で用いるものであれば、特に指定するものではない。
上記金属箔は、アルミニウム、ステンレス、鉄など、特に指定するものではない。上記蒸着の基材となるプラスチックフィルムの材料は、ポリエチレンテレフタレート、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、ポリエチレンナフタレート、ナイロン、ポリアミド、ポリイミドなど特に指定するものではない。
金属蒸着の材料は、アルミニウム、コバルト、ニッケル、亜鉛、銅、銀、あるいはそれらの混合物など、また、無機酸化物蒸着の材料は、シリカ、アルミナなど、特に指定するものではない。
熱溶着層としては、低密度ポリエチレンフィルム、鎖状低密度ポリエチレンフィルム、高密度ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、無延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルム、あるいはそれらの混合体など、特に指定するものではない。さらに、必要に応じてガスバリア層の外面に表面保護層を設けることも可能である。
表面保護層としては、ナイロンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルムの延伸加工品など特に指定するものではなく、さらにその外側にナイロンフィルムなどを設けると可とう性が向上し、耐折り曲げ性などが向上する。
また、外被材(被覆材)120の袋形状は、四方シール袋、ガゼット袋、L字袋、ピロー袋、センターテープシール袋など、特に指定するものではない。
なお、外被材(被覆材)120としては、鉄板、ステンレス板、亜鉛板などの金属板を成形した金属容器を使用することも可能である。
また、真空断熱材119の信頼性をより向上させる場合は、ガス吸着剤や水分吸着剤等のゲッター物質を使用することも可能である。
(実施の形態18)
図19は、本発明の産業用設備の一例である、工業炉として用いられている電気炉121の断面図であり、発熱体122、および、電気炉制御用熱電対123を備え、本体の壁124内、および、蓋125内に、実施の形態16の断熱材115を備えている。
この電気炉の350℃における放熱量を測定したところ、優れた断熱性能を有する断熱材115を適用したことにより、本断熱材115を適用していない際よりも20%低下しており、断熱効果および省エネルギー効果を確認した。
また、断熱材115が高強度であるため、断熱材115の取り付けも容易であった。
また、本発明の産業用設備は、工業炉に限るものではなく、動作温度帯である常温から350℃付近までの範囲で断熱を必要とする産業用設備の代表として記したものであり、例えば、半導体製造設備などにも同様に利用できるものである。また、産業用設備に限らず、トースター、ホームベーカリー、IHクッキングヒーターなど同等の温度領域で発熱が生じる機器への適用も有用である。
(実施の形態19)
図20は、本発明の燃料電池システムの一例である、燃料電池コジェネレーションシステムの概略図である。
図20において、壁面に実施の形態17における真空断熱材119を備えた燃料電池126は、水素と酸素を原料として発電を行う。優れた断熱性能を有する真空断熱材119を適用したことにより、放熱ロスが20%低減し、さらに、発電反応に適した一定温度が維持できるため、電池反応が安定化し、発電効率が5%向上した。
炭化水素などの燃料電池126の原料は、壁面に実施の形態16の断熱材115を備えた改質部127で水蒸気により改質され水素リッチなガスとなる。この時、改質部127での反応は温度がある程度上昇しないと起こらないため、バーナー128により改質部127の温度を上昇させる。断熱材115の適用により、放熱ロスが20%低減したため、バーナー128による加熱エネルギーの18%低減を確認した。
また、高強度であるため、断熱材115の取り付けも容易であった。
改質部127を出た水素リッチなガスは、一酸化炭素を含んでおり、このまま燃料電池126に供給すると効率が悪くなり(一酸化炭素被毒)、劣化してしまう。これを防ぐため、変成部129及び浄化部130で一酸化炭素濃度を低くする。
変成部129及び浄化部130により一酸化炭素濃度を低下させた水素リッチなガスと、ブロワ131により供給される空気により燃料電池126は発電する。
発電の際の反応熱は電池冷却水系132を流れる冷却水により冷却され、温度上昇した冷却水は、壁面に真空断熱材119を適用した熱回収系133により熱回収され、熱利用される。熱回収系133は、例えば、給湯器などとして、廃熱利用される機器である。真空断熱材119の適用により、熱回収系133における放熱ロスが30%改善された。回収された熱を逃すことなく、有効利用が可能となるため、省エネルギーシステムが確立された。
また、本実施の形態に限ることなく燃料電池システムにおける、断熱を必要とするいかなる箇所にも、本発明の断熱材115、及び、真空断熱材119の適用は有用である。例えば、電池冷却水系への配管断熱や、メタノールの改質により原料となる水素を得る改質装置の断熱などにも有用である。
(実施の形態20)
図21は、本発明の保温保冷機器の一例である、冷凍冷蔵庫134の断面図であり、内箱135と外箱136とで構成される箱体内部に、あらかじめ実施の形態17における真空断熱材119を配置し、真空断熱材119以外の空間部を硬質ウレタンフォーム137で発泡充填している。この場合の冷凍冷蔵庫134の全表面積に対して真空断熱材119を適用する面積の割合は、50%である。このように構成された冷凍冷蔵庫134は、優れた断熱性能を有する真空断熱材119を適用したことにより、優れた省エネルギー効果を示す。この冷凍冷蔵庫134の消費電力量を測定したところ、真空断熱材119を適用していない際よりも15%低下した。
本発明の保温保冷機器とは、動作温度帯である−30から150℃付近までの範囲で断熱を必要とする保温保冷機器を指しており、例えば、炊飯器、食器洗浄乾燥器、電気湯沸かし器、自動販売機などにも同様に利用できる。また、電気機器に限ったものではなく、ガス機器なども含む。
(実施の形態21)
図22は、本発明の住宅部材の一例である、住宅138の断面図である。外壁139と内壁140との間や、床板141に接する床下や、屋根材142に接した屋根裏に、実施の形態17における真空断熱材119を配置したものである。この場合、住宅138の全壁面積に対して真空断熱材119を適用する面積の割合は、40%である。このように構成された住宅138は、優れた断熱性能を有する真空断熱材119を適用したことにより、優れた保温、および、省エネルギー効果を示す。この住宅138の年間の空調機、および、保温機器に要する消費電力量を測定したところ、真空断熱材119を適用していない際よりも10%低下した。
本発明の住宅設備とは、居住空間などで断熱を必要とする設備を指しており、一般住宅の壁面、床面、屋根材に限らず、集合住宅の断熱を必要とする部位や、自動車内も居住空間として考えられる。
(実施の形態22)
図23は、本発明の住宅部材の一例である、自動車143の断面図である。屋根部144、床部145、エンジン室146と車内空間147を仕切る構造部材148、トランク室149と車内空間147を仕切る構造部材150に、実施の形態17の真空断熱材119を配置したものである。このように構成された自動車143は、優れた断熱性能を有する真空断熱材119を適用することにより、真夏の炎天下での駐車などで、直射日光により屋根部144の外装鉄板が非常に高温になる場合でも、屋根部144の外装鉄板の熱が車内空間147に伝わり難く、車内空間147の温度上昇を抑制して、エアコンで車内空間147を冷房する際に、省エネを実現できる。また、冬場の保温効果が高まることからも年間を通じて省エネを実現できる。この結果、自動車のガソリン消費量が低減された。
また、本発明の真空断熱材119を適用する住宅設備としては、内燃機関を有する自動車のみだけではなく、電気自動車もさらに優れた省エネルギー効果を示すものである。
(実施の形態23)
図24は、本発明の事務機器の一例である、ノート型パソコン151の断面図であり、装置内部のメインボード152上の発熱部153と装置ケース154の底部との間を遮断する実施の形態17における真空断熱材119と、放熱板155とを具備し、真空断熱材119が装置ケース154の底部に密着している。
このように構成されたノート型パソコン151は、優れた断熱効果を有する真空断熱材119が、底面への熱伝導を効果的に遮断するために、装置表面の温度上昇を抑え、利用者に不快感を与えることがない。ノート型パソコン151底面の温度を測定したところ、真空断熱材119を適用していない際よりも6℃低下しており、断熱効果を確認した。
本発明の真空断熱材119は、厚みの均一な、表面性にも優れた、数mmオーダーの非常に薄い真空断熱材であることから、ノート型パソコンのような、小型化、薄型化の求められる、断熱材を適用する空間が限られている製品に対しても、高性能な断熱材を適用することができるものである。
本発明の事務機器とは、ノート型パソコンに限るものではなく、事務機器において断熱を必要とする機器の代表として記したものである。例えば、コピー機やプリンターなどの印刷装置内の発熱部分とトナーとの断熱や、液晶パネルを有するカーナビゲーションシステムの液晶部分とCPUによる発熱部分の断熱にも利用可能である。
次に本発明に対する比較例を示す。
(比較例9)
本比較例の断熱材は成形体112のみからなり、面材を備えていない。なお、成形体112は、実施の形態15の成形体112と同一構成であるので、説明は省略する。
成形体112のみの曲げ強度は0.2MPaと弱く、割れや欠けが発生しやすいため、成形体112のみでは精密機器などへの適用は不可能である。
(比較例10)
本比較例の断熱材は、実施の形態15の成形体112全体に渡ってバインダーを含んでいる。また、成形体の上下面に面材としてポリエステル不織布を、バインダーとしてデンプンを使用している。
このときの断熱材の曲げ強度は0.55MPaと高強度であるものの、熱伝導率は24℃で0.026W/mKであり、内部の微細空隙が破壊されたことにより、熱伝導率が悪化した。