JP2005032520A - 燃料電池及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】メタノールのクロスオーバーを生じない燃料電池を提供すること。
【解決手段】燃料を収容した燃料貯留部(30)と、燃料貯留部(30)に隣接して配置された電極構造体(10)とを含む燃料電池(50)において、その電極構造体(10)が、固体高分子からなる電解質層(13)を、燃料を酸化する負極と少なくとも酸素を活物質として還元する正極との間に備えた構造を有しており、かつ電解質層(13)が、その表面及び(又は)内部に、燃料が透過し得ない金属からなるバリア層(15)をさらに有しているように構成する。
【選択図】 図4
【解決手段】燃料を収容した燃料貯留部(30)と、燃料貯留部(30)に隣接して配置された電極構造体(10)とを含む燃料電池(50)において、その電極構造体(10)が、固体高分子からなる電解質層(13)を、燃料を酸化する負極と少なくとも酸素を活物質として還元する正極との間に備えた構造を有しており、かつ電解質層(13)が、その表面及び(又は)内部に、燃料が透過し得ない金属からなるバリア層(15)をさらに有しているように構成する。
【選択図】 図4
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料電池に関し、さらに詳しく述べると、固体高分子からなる電解質層を、燃料を酸化する負極と、少なくとも酸素を活物質として還元する正極との間に備えた固体高分子型燃料電池に関する。本発明はまた、かかる燃料電池の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば携帯電話、PDA、ノート型パソコンなどの携帯型電子機器において、小型化、軽量化、そして高機能化が進んでいることは周知の通りである。また、これらの電子機器の進展に伴い、駆動電源やメモリ保持電源となる電池も、小型化、軽量化、そして高容量化が確実に進んでいる。現在の携帯型電子機器においては、従来のニッケル・カドミウム電池や、ニッケル水素電池に代えて、リチウムイオン電池が駆動電源等として最も一般的に用いられている。リチウムイオン電池は、実用化の当初から、高い駆動電圧と電池容量をもち、携帯電子機器の進歩にあわせるように性能改善が図られてきた。しかし、リチウムイオン電池の性能改善にも限界があり、今後も高機能化が進む携帯型電子機器の駆動電源等としての要求を、リチウムイオン電池は満足できなくなりつつある。
【0003】
このような状況のもと、リチウムイオン電池に代わる新たな発電デバイスの開発が行われた結果、リチウムイオン電池の数倍の高容量化が期待される燃料電池が提案されるに至った。燃料電池は、触媒を含むアノード電極(負極)及びカソード電極(正極)と、これらの間において所定のイオンの移動を許容する電解質とからなる構造を有する。燃料電池においては、アノード電極に燃料ないし水素を供給するとともにカソード電極に空気ないし酸素を供給すると、電極に含まれる触媒の作用により各電極にて電気化学的な反応が起こり、燃料を供給源とする電子による直流電流を取り出すことができる。このようなメカニズムで発電する燃料電池においては、燃料及び酸素を供給し続けることにより連続発電が可能となる。したがって、燃料電池は、燃料及び酸素を補給することにより、充電操作により反復使用される二次電池と同様に、携帯型電子機器類の電源へと応用可能である。
【0004】
燃料電池は、その電解質の種類に基づいて、リン酸型、固体高分子型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型などに類別される。携帯型電子機器類の電源としては、室温付近の低温にて作動可能であること、小型に構成可能であること、振動に強く大量生産が容易な固体電解質を備えることなどから、固体高分子型の燃料電池(PEFC)が適している。
【0005】
固体高分子型燃料電池においては、燃料供給方法として、水素ガスを貯留して当該水素ガスをアノード電極に接触させる手法、有機燃料を貯留して当該有機燃料を改質することによって生ずる水素ガスをアノード電極に接触させる手法、水素を供給可能な液体燃料を貯留して当該液体燃料をアノード電極に対して直接に供給する手法などが知られている。水素ガスを使用する手法は、水素ガスの取り扱いが困難であったり、燃料を改質するための装置が必要であったりするため、携帯型電子機器等の小型電源としては適さない。そのため、携帯型電子機器等の小型電源を構成するという観点からは、液体燃料をアノード電極に直接に供給する方式を採用する燃料電池が注目を集めている。特に、液体燃料としてのメタノール水溶液を燃料極に対して直接に供給するダイレクトメタノール方式の燃料電池(DMFC)が注目を集めている。
【0006】
現在、多数のDMFCが公知となっている。例えば、水素イオン伝導性高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜を挟む一対の電極と、前記電極の一方に燃料を供給し他方の電極に酸化剤を供給する手段とを具備した燃料電池であって、前記電極が、前記高分子電解質膜に接合された触媒層を有し、その触媒層が、表面の少なくとも一部に電子伝導性の高分子化合物を担持した触媒粒子を含むことを特徴とする燃料電池が公知である(特許文献1)。
【0007】
また、固体高分子電解質膜の両面に、拡散層及び触媒層からなる燃料極及び空気極を接合した膜電極接合体を備えた直接メタノール型燃料電池であって、前記燃料極の拡散層が、燃料の下流側に行くほど、そのメタノール透過係数が大きくなっていることを特徴とする直接メタノール型燃料電池も公知である(特許文献2)。
【0008】
【特許文献1】
特開2002−110190号公報(特許請求の範囲、段落0016〜0019、図3)
【特許文献2】
特開2002−110191号公報(特許請求の範囲、段落0017〜0023、図1)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
従来の固体高分子型の燃料電池(PEFC)において、燃料極で発生した水素イオン(プロトン)を空気極に輸送するための隔壁として固体高分子電解質膜が使用されており、また、かかる固体高分子電解質膜の形成のため、パーフルオロ系ポリマーあるいはパーフルオロエーテル系ポリマーが主鎖骨格を構成した固体高分子電解質材料が広く使用されている。実際に、パーフルオロ系ポリマーあるいはパーフルオロエーテル系ポリマーは、電気化学的に安定であり、耐熱性も高いので、固体高分子電解質膜の材料としては主流である。
【0010】
しかしながら、メタノールなどのアルコール系燃料を直接燃料極で反応させて発電を行うダイレクトメタノール方式の燃料電池(DMFC)にあっては、燃料極に供給された燃料が、燃料極に隣接して配置された固体高分子電解質膜を透過して空気極に達するという問題(いわゆる「クロスオーバー」)が新たな問題を引き起こしている。なぜなら、例えばメタノールのような燃料が空気極に達した場合、そこで空気と反応することの結果、出力電圧の低下、容量の損失など、燃料電池として好ましくない悪影響が引き起こされるからである。さらには、空気極に到達した燃料が、反応の結果として発熱を生じたりする可能性もある。
【0011】
本発明の目的は、したがって、メタノールのクロスオーバーを生じないようなダイレクトメタノール方式の燃料電池を提供することにある。
【0012】
また、本発明の目的は、上記のような燃料電池を容易にかつ歩留まりよく製造する方法を提供することにある。
【0013】
本発明のこれらの目的やその他の目的は、以下の詳細な説明から容易に理解することができるであろう。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究した結果、燃料電池に組み込まれる電極構造体において、固体高分子からなる電解質層の構成を改良し、メタノールが電解質層を透過し得ないように調整することが有効であることを発見し、本発明を完成した。
【0015】
本発明は、その1つの面において、燃料を収容した燃料貯留部と、該燃料貯留部に隣接して配置された電極構造体とを含む燃料電池であって、
前記電極構造体が、固体高分子からなる電解質層を、前記燃料を酸化する負極と少なくとも酸素を活物質として還元する正極との間に備えた構造を有しており、かつ前記電解質層が、その表面及び(又は)内部に、前記燃料が透過し得ない金属からなるバリア層をさらに有していることを特徴とする燃料電池にある。
【0016】
また、本発明は、そのもう1つの面において、燃料を収容した燃料貯留部と、該燃料貯留部に隣接して配置された電極構造体とを含む燃料電池を製造する方法であって、
前記燃料を酸化する負極と少なくとも酸素を活物質として還元する正極との間に固体高分子からなる電解質層を配置することによって前記電極構造体を構築すること、及び、その際、前記電解質層の表面及び(又は)内部に、前記燃料が透過し得ない金属からなるバリア層をさらに設けることを特徴とする燃料電池の製造方法にある。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明は、上記したように、燃料電池とその製造方法にある。以下、これらの発明を添付の図面を参照しながら、特にダイレクトメタノール方式の燃料電池(DMFC)に関して説明する。なお、本発明は、下記の実施の形態に限定されるものではなく、必要ならば、DMFC以外の燃料電池に適用してもよい。
【0018】
本発明による燃料電池は、燃料を収容した燃料貯留部と、該燃料貯留部に組み合わせて配置された電極構造体とを含むように構成される。また、この燃料電池の電極構造体は、固体高分子からなる電解質層を、燃料を酸化する負極(アノード電極)と、少なくとも酸素を活物質として還元する正極(カソード電極)との間に備えるように構成される。固体高分子電解質層は、さらに触媒層を有している。
【0019】
このような構成のダイレクトメタノール方式の燃料電池(DMFC)において、メタノール水溶液が供給されたアノード電極では、下記の式(1)に示すように、メタノールと水が反応して、二酸化炭素(CO2 )、プロトン(H+ )及び電子(e− )が生ずる。すなわち、燃料電池ではメタノールが酸化分解される。アノード電極で生じたプロトンは高分子電解質膜を通ってカソード電極に向かい、電子は、アノード電極に接続された外部回路に流れる。外部回路にて仕事を終えた電子はカソード電極に向かう。また、二酸化炭素は系外に排出される。
【0020】
【化1】
【0021】
カソード電極では、下記の式(2)に示すように、空気から得られる酸素(O2 )と、アノード電極から電解質膜を経て到来したプロトン(H+ )と、カソード電極から外部回路を経て到来した電子(e− )とが反応して水(H2 O)が生成する。
【0022】
【化2】
【0023】
ダイレクトメタノール方式の固体高分子型燃料電池においては、アノード電極での式(1)の反応及びカソード電極での式(2)の反応が同時的に進行することによって、全体として、下記の式(3)の反応が進行する。
【0024】
【化3】
【0025】
上記の反応において、発生した電子(e− )から電流を直接に取り出すことができる。また、メタノール水溶液及び酸素を供給し続けることにより、連続発電が可能である。
【0026】
図1は、本発明の燃料電池で用いられる電極構造体の好ましい1実施形態を示した断面図である。電極構造体10は、特にDMFC用に設計されたもので、燃料極11、空気極12及び電解質層13ならびに集電体20A及び20Bからなっている。また、燃料極11は、図示しないが、触媒層及び拡散層による積層構造を有し、触媒層の側で電解質層13と接合している。また、空気極12は、図示しないが、触媒層及び拡散層による積層構造を有し、触媒層の側で電解質層13と接合している。
【0027】
電極構造体10の構成についてさらに説明すると、燃料極11の触媒層は、前述の式(1)で表されるように、メタノールを酸化してプロトンと電子を取り出すためのものであり、導電粒子に触媒を担持させてなる触媒性粒子と、電解質層形成用の後述するプロトン伝導性高分子材料との混合物を含み、多孔質である。導電粒子としては、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラックなどの炭素粒子が挙げられる。触媒としては、白金(Pt)−ルテニウム(Ru)合金などを採用することができる。導電粒子の粒径は、通常、約0.01〜0.1μmの範囲であり、また、触媒の粒径は、通常、約2〜5nmの範囲である。さらに、触媒層11aの厚さは、通常、約2〜30μmの範囲である。
【0028】
燃料極11の拡散層は、燃料極11に供給された液体燃料であるメタノール水溶液が触媒層に至る前に拡散する場を提供するためのものであり、多孔質導電膜よりなる。拡散層の多孔質導電膜は、いろいろな材料から形成することができるけれども、好ましくは、導電性粒子を含む導電性シート又はフィルムから形成することができる。導電性粒子は、好ましくは導電性の無機材料粒子であり、さらに好ましくは、繊維状もしくは粒子状のカーボンである。特に、カーボンペーパーやカーボンクロスがこの目的に好適である。燃料極11に供給されたメタノール水溶液は、拡散層にて拡散することにより、触媒層へと効率良く行き渡ることとなる。拡散層の厚さは、通常、約100〜400μmの範囲である。
【0029】
燃料極11の作製においては、まず、触媒性粒子とプロトン伝導性高分子材料とを、水溶媒系、アルコール溶媒系、または、水−アルコール溶媒系にて混合し、これを脱泡して電極ペーストを調製する。次に、拡散層の上に電極ペーストを塗布ないし充填した後、例えば100℃にて加熱乾燥する。拡散層である多孔質導電膜の上における電極ペーストのみに由来する材料厚さは、通常、約5〜50μmの範囲である。このようにして拡散層の硬化が完了した後、必要ならば、マイクロチャネル構造を付与するため、過酸化水素水や過酸化水素ナトリウムの水溶液で処理してもよい。処理方法としては、処理液の噴霧や塗布、処理液中での浸漬などがある。このようにして、触媒層及び拡散層による積層構造を有する多孔質性の燃料極11が得られる。
【0030】
空気極12の触媒層は、前述の式(2)で表されるように、空気中の酸素の還元反応を進行させるためのものであり、導電粒子に触媒を担持させてなる触媒性粒子と、電解質層形成用の後述するプロトン伝導性高分子材料との混合物を含み、多孔質である。触媒については、白金(Pt)や白金(Pt)−ルテニウム(Ru)合金などを採用することができる。触媒の粒径は、通常、約2〜5nmの範囲である。導電粒子については、燃料極11の触媒層の形成に使用したものと同様のものを使用することができる。触媒層の厚さは、通常、約2〜30μmの範囲である。
【0031】
空気極12の拡散層は、空気極12に流通接触する空気が触媒層に至る前に拡散する場を提供するためのものであり、上記した燃料極11の拡散層と同様に、好ましくはカーボンペーパー、カーボンクロスなどの多孔質導電膜よりなる。拡散層にて空気が拡散することにより、当該空気ひいては酸素は、触媒層へと効率良く行き渡ることとなる。拡散層の厚さは、通常、約100〜400μmの範囲である。
【0032】
触媒層及び拡散層による積層構造を有する多孔質性の空気極12は、燃料極11に関して上述した方法と同様な方法で作製することができる。
【0033】
本発明による燃料電池では、その電極構造体10の電解質層13の構成が重要である。すなわち、電解質層13は、以下に具体的に説明するように、燃料が透過し得ない金属からなるバリア層をさらに有していることを必須とする。バリア層は、単層であってもよく、さもなければ、2層以上の多層であってもよい。また、バリア層は、電解質層13の任意の位置に配置することができ、例えば、電解質層13の片面もしくは両面にあってもよく、さもなければ、電解質層13の内部に中間層としてあってもよい。
【0034】
本発明の実施においては、燃料電池を作製するに当たって、バリア層の作用効果が最もよく発揮されるような位置に、単層もしくはそれ以上のバリア層を配置することが好ましい。例えば、図1の電極構造体10では、電解質層13のそれぞれの表面にバリア層15a及びバリア層15bが配置されている。また、図2の電極構造体10では、電解質層13の中央部にバリア層15が配置されている。すなわち、この電極構造体10では、電解質層13a及び13bでバリア層15をサンドイッチした積層構成を採用している。
【0035】
図1の電解質層13(あるいは、図2の電解質層13a及び13b)は、燃料極11におけるメタノール酸化反応で生成したプロトン(H+ )を空気極12に輸送するための媒体であり、電子伝導性を有さずにプロトン伝導性を有する高分子材料よりなる。そのような高分子材料の好適な例としては、従来電解質層の形成に一般的に使用されている固体高分子電解質材料、典型的には、パーフルオロ系ポリマーあるいはパーフルオロエーテル系ポリマーが主鎖骨格を構成した固体高分子電解質材料を挙げることできる。すでに説明したように、パーフルオロ系ポリマーあるいはパーフルオロエーテル系ポリマーは、電気化学的に安定であり、しかも耐熱性に優れているからである。また、パーフルオロ系ポリマーあるいはパーフルオロエーテル系ポリマーは、その一部にイオン解離可能な官能基をさらに含むことが好ましい。かかる官能基は、プロトン(H+ )の容易な透過に貢献できるからである。適当な官能基としては、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基などを挙げることができる。したがって、本発明の実施において有利に使用することのできる電解質層は、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、パーフルオロスルホン酸膜などを包含する。パーフルオロスルホン酸膜としては、例えば、Nafion膜(DuPont社製)、フレミオン膜(旭硝子製)、アシプレックス膜(旭化成工業製)、ダウ膜(ダウケミカル社製)などが挙げられる。電解質層の厚さは、それが2層以上で含まれる場合の厚さの合計も含めて、通常、約50〜250μmの範囲であることが好ましい。このような範囲の時、プロトンの伝導性がよく、得られる性能もよく、しかも、クラックやピンホールが生じない程度の機械的強度が得られるからである。電解質層の厚さは、さらに好ましくは、約80〜200μmの範囲である。
【0036】
電解質層と組み合わせて用いられる図1のバリア層15a及び15b(あるいは、図2のバリア層15)は、メタノールのようなアルコール系燃料が電解質層を透過しようとした時にその透過を防止するためのものであり、そのような燃料が透過し得ない金属から薄膜の形で形成される。燃料電池の電極構造体に薄膜状のバリア層を介在させることによって、燃料分子(例えば、メタノール分子)をブロックするとともに、プロトン(H+ )の透過を妨げることなく、高い出力と容量特性を実現することができる。これは、空気極での不要な化学反応(アルコールの化学酸化反応)が低減せしめられるため、出力電圧が向上するとともに、燃料の損失が減少するため、発電効率が向上するからである。
【0037】
バリア層の形成には、上記したような燃料に関して選択透過性を有するいろいろな金属を使用することができる。好ましい金属は、イオン化傾向が小さい金属、特にイオン化傾向が水素よりも小さい金属である。これは、バリア層の形成に使用した金属のイオン化傾向が水素よりも大きい場合、燃料電池の使用中にバリア金属が溶解し、燃料電池の特性に悪影響がでる可能性があるからである。イオン化傾向が小さい金属としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウムなどの貴金属を挙げることができる。これらの金属は、単体で使用してもよく、2種以上を組み合わせて合金として使用してもよい。
【0038】
バリア層は、いろいろな技法で形成することができるけれども、湿式法によって有利に形成することができる。湿式法は、例えばCVD法のような乾式法に比較して電解質層とバリア層の接合強度を高めることができるからである。湿式法の適当な例としては、例えば、めっき法、電着法などを挙げることができる。めっき法やその他の湿式法は、いずれも常法に従って実施することができる。得られるバリア層の厚さは、それが2層以上で含まれる場合の厚さの合計も含めて、通常、約0.5nm〜1μmの範囲であることが好ましい。このような範囲の時、メタノールのブロック効果が得られ、かつ動作に支障を生じることなくプロトンを伝導させることができるからである。バリア層の厚さは、さらに好ましくは、約1nm〜0.5μmの範囲である。なお、バリア層は、完全に均一な膜でなくてもよく、必要ならば、多孔質膜として形成してもよい。微細な細孔に燃料を溜めておく機能なども発揮されるからである。
【0039】
図1及び図2に示した電極構造体10は、いろいろな手法によって作製することができる。好ましい一例を示すと、まず、バリア層を備えた電解質層を作製する。電解質層に対するバリア層の付与は、いろいろな技法に従って行うことができるというものの、好ましくは湿式法、例えばめっき法である。例えば図1のように電解質層13の両面にバリア層15a及び15bを形成する場合には、適当なめっき浴に電解質層13を浸漬することによって両面バリア層を形成することができる。また、図2のように電解質層13a及び13bでバリア層15を挟み込んだ複合体を形成する場合には、電解質層の片面にバリア層を形成した後、得られた複合体のバリア層側に別の電解質層を積層することができる。
【0040】
次いで、バリア層付きの電解質層を燃料極11と空気極12により挟む。このとき、電解質層に対して、燃料極11はその触媒層を介して貼り合わせ、また、空気極12はその触媒層を介して貼り合わせる。その後、加熱条件下、得られた積層体(燃料極+バリア層付き電解質層+空気極)を積層方向に加圧して接合する。
【0041】
集電体20Aは、燃料極11におけるメタノール酸化反応で発生した電子をシャッター層14を介して取り出すためのものであり、例えばステンレス鋼(SUS)製やニッケル(Ni)鋼製の金属メッシュである。集電体20Aとしては、液体燃料であるメタノール水溶液が容易に通過可能なメッシュ開口径ないしメッシュ開口率を有するものを採用する。集電体20Aは、図3及び図4に示す電池筐体40の表面に設けられた外部接続用端子(図示せず)と電気的に接続している。集電体20Aと電気的に接続する端子は、燃料電池50の負極である。
【0042】
集電体20Bは、空気極の触媒層に対して効率的に電子を供給するためのものであり、例えばSUS製やNi鋼製の金属メッシュである。集電体20Bは、電極構造体10の空気極12と接合ないし面接触するとともに電気的に接続している。集電体20Bとしては、空気極12に対して空気ないし酸素が自然拡散により充分に接触可能であるとともに、空気極12における酸素還元反応で生成した水を適切に蒸散排出可能なメッシュ開口径ないしメッシュ開口率を有するものを採用する。集電体20Bは、図3及び図4に示す電気筐体40の表面に設けられた更なる外部接続用端子(図示せず)と電気的に接続している。集電体20Bと電気的に接続する端子は、燃料電池50の正極である。
【0043】
図3は、本発明による燃料電池の好ましい1実施形態を示した斜視図であり、また、図4は、図3に示した燃料電池の線分IV−IVにそった断面図である。これらの図面に示されるように、燃料電池50は、電極構造体10と、燃料貯留部30と、これらを収容する電池筐体40とを備える。また、電極構造体10は、燃料極11、空気極12及びバリア層15a及び15b付きの電解質層13からなる燃料電池本体と、集電体20A及び20Bとからなっている。また、燃料極11は、触媒層及び拡散層による積層構造を有し、触媒層の側で電解質層13と接合している。さらに、空気極12は、触媒層及び拡散層による積層構造を有し、触媒層の側で電解質層13と接合している。
【0044】
電極構造体10(集電体20A及び20Bを含む)による積層構造は、図4に示すように、スペーサ41及びパッキング材42及び43とともに電池筐体40に収容されている。収容状態において、電池筐体40の内部には燃料貯留部30が規定される。スペーサ41には、所定の開口部41aが設けられている。開口部41aは、円形であってもよいし、スリット状であってもよい。この開口部41aを介して、集電体20Aは燃料貯留部30に露出している。パッキング材42は、電極構造体10による積層構造における周縁部の略全体と電池筐体40との間の隙間を封止するためのものである。また、パッキング材43は、燃料貯留部30を規定しつつ、燃料貯留部30からの燃料漏れを防止するためのものである。
【0045】
燃料貯留部30は、メタノール水溶液(図示せず)が直接的に貯留される小型タンクとして構成されており、メタノール水溶液またはメタノールを適宜補充するための注入口(図示せず)を有する。本発明の実施において、メタノール水溶液は、いろいろなメタノール濃度で使用することができるけれども、通常、10体積%もしくはそれ以上のメタノール濃度が好ましく、さらに好ましくは、約10〜30体積%の範囲である。このようなメタノール水溶液は、高い発電効率を達成するための液体燃料として好適である。また、図示の例はDMFCであり、燃料としてメタノール水溶液を使用しているが、異なるタイプのPEFCの場合、メタノール水溶液以外の燃料を使用してもよい。
【0046】
電池筐体40は、開口部40aを有する。この開口部40aを介して、集電体20Bは燃料電池50の外部に露出している。また、電池筐体40において燃料貯留部30を規定する所定の箇所には、燃料貯留部30と電池外部との間の隔壁として、二酸化炭素透過膜(図示せず)が配設されている。二酸化炭素透過膜は、液体燃料を実質的に透過させずに二酸化炭素を選択的に透過させる膜であり、燃料極11における電池反応で生成した二酸化炭素はこの膜を介して排出される。二酸化炭素透過膜を構成する材料としては、例えば、シリコーンゴムやフッ素系樹脂、ポリイミドなどが挙げられる。
【0047】
燃料電池50においては、燃料貯留部30に液体燃料すなわちメタノール水溶液が貯留されていると、当該メタノール水溶液は、スペーサ41の開口部41aを介して燃料貯留部30から燃料極11に至る。そして、燃料極11では、メタノール水溶液は、メッシュ状の集電体20Aを通過して触媒層に至る。これとともに、電池筐体40の開口部40aを介して外気に触れる空気極12には、空気に含まれる酸素が常時的に接触する。空気極12では、酸素は、メッシュ状の集電体20Bを通過して触媒層に至る。燃料極11に対してメタノール水溶液が供給されるとともに空気極12に対して酸素が供給されると、燃料極11の触媒層では、触媒の作用により、前述の式(1)で表されるメタノール酸化反応が起こり、二酸化炭素、プロトン及び電子が発生する。また、空気極12の触媒層では、触媒の作用により、前述の式(2)で表される酸素還元反応が起こり、水が生成する。この水は、自然蒸散する。両極において、このような電気化学反応が進行することにより、燃料電池50が発電する。
【0048】
以上のような構成を有する燃料電池50において、燃料貯留部30から燃料極の拡散層を経て触媒層に供給されたメタノールのうち触媒層で分解されなかったメタノールが電解質層13を介して空気極の触媒層に到達するのを本発明の電解質層13によって防止することができる。なお、本発明の実施において、空気極12と電解質層13との間に撥水層を挟み込むのが好ましい。撥水層は、好ましくは、撥水性を有する粒子と、プロトン伝導性高分子とから構成することができる。撥水性を有する粒子としては、例えば、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック等の炭素粒子、上述した触媒性粒子、ポリスチレン等の高分子粒子などの粒子表面をシリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、シラン系樹脂などの撥水性樹脂でコーティングすることにより撥水処理を施した粒子、あるいはシリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、シラン系樹脂などの撥水性樹脂からなる粒子などが挙げられる。また、プロトン伝導性高分子としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系高分子などが挙げられる。パーフルオロスルホン酸系高分子としては、例えば、Nafion(DuPont社製)などが挙げられる。撥水層の厚さは、通常、約5〜50μmの範囲である。
【0049】
撥水層の存在によってメタノールのクロスオーバーをさらに効果的に抑制することができ、したがって、クロスオーバーしたメタノールが部分的に空気極の触媒層での触媒反応により分解されて空気極側の電位が低下することに起因する燃料電池の出力の低下、及びクロスオーバーしたメタノールが部分的に空気極で揮発してメタノールが急速に減少することに起因する燃料電池の放電容量の低下を、効果的に抑制することができる。
【0050】
【実施例】
引き続いて、本発明をその実施例を参照して説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
実施例1
燃料電池の作製:
まず、燃料極及び空気極を作製した。燃料極の作製のため、約40nmの一次粒子径のケッチェンブラック粒子(商品名:EC、ライオン社製)に、触媒としての約3nmの粒径の白金−ルテニウム合金(Pt:Ru=1:1.5、重量%比)を重量比60%で担持させた触媒性カーボン粒子(商品名:TEC61E54E、田中貴金属製)200mgと、20重量%のNafion溶液(商品名:Nafion SE20042、DuPont社製)1gとを、水0.5gの水溶媒系にて混合し、これを脱泡して電極ペーストを調製した。
【0051】
次に、拡散層として用意したカーボンペーパー(商品名:TGP−H−090、東レ製、膜厚290μm)の上に上記の電極ペーストを10mg/cm2の塗布量で塗布した後、100℃で30分間にわたって加熱し、乾燥した。カーボンペーパー上における電極ペーストのみに由来する材料厚さ、すなわち触媒層厚さは、30μmとした。
【0052】
次いで、上記燃料極の作製と同様な手法で空気極を作製した。但し、空気極の場合、白金−ルテニウム合金を担持する触媒性カーボン粒子に代えて、約40nmの一次粒子径のケッチェンブラック粒子(商品名:EC、ライオン社製)に、触媒としての約3nmの粒径の白金を重量比50%で担持させた触媒性カーボン粒子(商品名:TEC10E50E、田中貴金属製)を使用した。
【0053】
さらに続けて、バリア層付きの電解質層を作製した。膜厚175μmのパーフロロ系固体高分子電解質膜(商品名:Nafion NF117、DuPont社製)を電解質層として用意した。この電解質層を塩化パラジウムベースの無電解パラジウムめっき液(商品名:パラトップ、奥野製薬工業製)に5分間浸漬してメーカー指定の条件で無電解めっきを行い、100℃で30分間乾燥した。この無電解めっき工程を3回繰り返したところ、固体高分子電解質膜の両面にそれぞれ約0.1μmの膜厚でパラジウム薄膜が形成された。
【0054】
引き続いて、図1に示したような構成の電極構造体を有する燃料電池を作製した。パラジウム薄膜付きの固体高分子電解質膜を上述のようにして作製した燃料極及び空気極により挟持した。このとき、空気極は、触媒層を介して固体高分子電解質膜に貼り合わせ、燃料極は、触媒層を介して固体高分子電解質膜に貼り合わせた。次いで、得られた貼り合わせ体をホットプレスにかけ、積層方向に160℃及び100kgf/cm2の温度及び圧力で2分間熱プレスし、接合した。固体高分子電解質膜と燃料極及び空気極が一体化した膜電極複合体(MEA)が得られた。
【0055】
上記のようにしてMEAを作製した後、燃料極及び空気極におけるカーボンペーパー露出面側に対して、集電体としてSUS製の金属メッシュ(厚さ:0.1mm、開口部形〔対角線3mm×1.5mm〕、開口率:70%、商品名:エキスパンドメタル、サンク株式会社製)を積層した。
【0056】
得られた電極構造体を、先に図3及び図4を参照して説明した、空気極側に開口部を有するアクリル樹脂製の電池筐体に収容した。電池筐体の内部に規定された燃料貯留部には、液体燃料として、メタノール濃度が20体積%のメタノール水溶液を2.5mlの量で注入した。図4に構成を示した燃料電池が得られた。
【0057】
次いで、得られた燃料電池の発電特性を(1)平均出力電圧及び(2)発電容量に関して測定したところ、下記の第1表に記載するような測定結果が得られた。なお、表中の発電容量は、下記の比較例1の測定結果を100とみなして、比較例1との関係で記載してある。
実施例2
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、パラジウムに代えて金からバリア層を形成するため、膜厚175μmのパーフロロ系固体高分子電解質膜(商品名:Nafion NF117、DuPont社製)を塩化金ベースの無電解金めっき液(商品名:パラトップ、奥野製薬工業製)に5分間浸漬してメーカー指定の条件で無電解めっきを行い、100℃で30分間乾燥した。この無電解めっき工程を3回繰り返したところ、固体高分子電解質膜の両面にそれぞれ約0.1μmの膜厚で金薄膜が形成された。
【0058】
引き続いて、金薄膜付きの固体高分子電解質膜を燃料極及び空気極により挟持し、前記実施例1に記載の手法に従って燃料電池を作製した。得られた燃料電池について、前記実施例1に記載の手法に従って発電特性を測定したところ、下記の第1表に記載のような測定結果が得られた。
実施例3
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、電解質層の内部にバリア層を組み込んだ構成を有する燃料電池を作製した。
【0059】
まず、燃料極及び空気極を前記実施例1に記載の手法に従って作製した。
【0060】
次いで、バリア層付きの電解質層を作製した。膜厚175μmのパーフロロ系固体高分子電解質膜(商品名:Nafion NF117、DuPont社製)を電解質層として用意した。この電解質層の片面に、塩化パラジウムベースの無電解パラジウムめっき液(商品名:パラトップ、奥野製薬工業製)を湿潤時の膜厚が50μmとなるようにブレードコーターで塗布し、5分間静置した後に100℃で30分間乾燥した。このめっき液塗布工程を3回繰り返したところ、固体高分子電解質膜の片面に約0.1μmの膜厚でパラジウム薄膜が形成された。
【0061】
次いで、上記のようにして作製したパラジウム薄膜付きの固体高分子電解質膜に、そのパラジウム薄膜を覆うようにしてもう1枚の固体高分子電解質膜(膜厚175μm、Nafion NF117)を重ね合わせた後、ホットプレスを用いて130℃及び100kgf/cm2の温度及び圧力で1分間熱プレスした。膜厚0.1μmのパラジウム中間層を有する固体高分子電解質膜が得られた。
【0062】
引き続いて、パラジウム中間層付きの固体高分子電解質膜を燃料極及び空気極により挟持し、前記実施例1に記載の手法に従って燃料電池を作製した。得られた燃料電池について、前記実施例1に記載の手法に従って発電特性を測定したところ、下記の第1表に記載のような測定結果が得られた。
実施例4
前記実施例3に記載の手法を繰り返したが、本例では、パラジウムに代えて金からバリア層を形成するため、膜厚175μmのパーフロロ系固体高分子電解質膜(商品名:Nafion NF117、DuPont社製)の片面に塩化金ベースの無電解金めっき液(商品名:パラトップ、奥野製薬工業製)を湿潤時の膜厚が50μmとなるようにブレードコーターで塗布し、5分間静置した後に100℃で30分間乾燥した。このめっき液塗布工程を3回繰り返したところ、固体高分子電解質膜の片面に約0.1μmの膜厚で金薄膜が形成された。
【0063】
次いで、上記のようにして作製した金薄膜付きの固体高分子電解質膜に、その金薄膜を覆うようにしてもう1枚の固体高分子電解質膜(膜厚175μm、Nafion NF117)を重ね合わせた後、ホットプレスを用いて130℃及び100kgf/cm2の温度及び圧力で1分間熱プレスした。膜厚0.1μmの金中間層を有する固体高分子電解質膜が得られた。
【0064】
引き続いて、金中間層付きの固体高分子電解質膜を燃料極及び空気極により挟持し、前記実施例1に記載の手法に従って燃料電池を作製した。得られた燃料電池について、前記実施例1に記載の手法に従って発電特性を測定したところ、下記の第1表に記載のような測定結果が得られた。
比較例1
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、比較のため、電解質層にバリア層を設ける工程を省略した。すなわち、本例では、膜厚175μmのパーフロロ系固体高分子電解質膜(商品名:Nafion NF117、DuPont社製)をそのまま電解質層として使用した。
【0065】
得られた燃料電池について、前記実施例1に記載の手法に従って発電特性を測定したところ、下記の第1表に記載のような測定結果が得られた。
【0066】
【表1】
【0067】
上記第1表の発電特性の測定結果から理解されるように、本発明によると、従来に較べて高出力電圧で高発電容量の燃料電池を得ることができる。
【0068】
以上、本発明を特にその実施の形態について説明した。最後のまとめとして、本発明の構成及びそのバリエーションを以下に付記として列挙する。
(付記1)燃料を収容した燃料貯留部と、該燃料貯留部に隣接して配置された電極構造体とを含む燃料電池であって、
前記電極構造体が、固体高分子からなる電解質層を、前記燃料を酸化する負極と少なくとも酸素を活物質として還元する正極との間に備えた構造を有しており、かつ前記電解質層が、その表面及び(又は)内部に、前記燃料が透過し得ない金属からなるバリア層をさらに有していることを特徴とする燃料電池。
(付記2)前記バリア層が、イオン化傾向が水素よりも小さな金属の単体もしくはそのような金属の合金からなることを特徴とする付記1に記載の燃料電池。
(付記3)前記バリア層の金属が、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム又はその合金であることを特徴とする付記1又は2に記載の燃料電池。
(付記4)前記バリア層の膜厚が、0.5nm〜1μmの範囲であることを特徴とする付記1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池。
(付記5)前記電解質層の膜厚が、50〜250μmの範囲であることを特徴とする付記1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池。
(付記6)前記電解質層と前記負極との間にさらに燃料極が配置されていることを特徴とする付記1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池。
(付記7)前記電解質層と前記正極との間にさらに空気極が配置されていることを特徴とする付記1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池。
(付記8)前記燃料がメタノールの水溶液であり、かつ該燃料電池が、ダイレクトメタノール方式の燃料電池であることを特徴とする付記1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池。
(付記9)前記メタノールの水溶液において、メタノールの濃度が10体積%以上であることを特徴とする付記8に記載の燃料電池。
(付記10)燃料を収容した燃料貯留部と、該燃料貯留部に隣接して配置された電極構造体とを含む燃料電池を製造する方法であって、
前記燃料を酸化する負極と少なくとも酸素を活物質として還元する正極との間に固体高分子からなる電解質層を配置することによって前記電極構造体を構築すること、及び、その際、前記電解質層の表面及び(又は)内部に、前記燃料が透過し得ない金属からなるバリア層をさらに設けることを特徴とする燃料電池の製造方法。
(付記11)前記バリア層が、イオン化傾向が水素よりも小さな金属の単体もしくはそのような金属の合金からなることを特徴とする付記10に記載の燃料電池の製造方法。
(付記12)前記バリア層の金属が、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム又はその合金であることを特徴とする付記10又は11に記載の燃料電池の製造方法。
(付記13)前記バリア層を湿式法によって薄膜で形成することを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項に記載の燃料電池の製造方法。
(付記14)前記湿式法がめっき法であることを特徴とする請求項13に記載の燃料電池の製造方法。
(付記15)前記バリア層を0.5nm〜1μmの膜厚で形成することを特徴とする付記10〜14のいずれか1項に記載の燃料電池。
【0069】
【発明の効果】
以上に詳細に説明したように、本発明によれば、従来に較べて高出力電圧で高発電容量の燃料電池用固体高分子膜を簡便に作製することができる。また、かかる固体高分子膜を使用することで、携帯電話等の携帯用電子機器において駆動電源等として有利に使用することのできる、小型軽量で、出力電圧の低下、容量の損失などを生じない燃料電池を提供することができる。
【0070】
また、本発明によれば、小型軽量の燃料電池を容易にかつ歩留まりよく製造可能である。従来の燃料電池の製造ラインを大幅に変更することなく本発明の燃料電池を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による燃料電池において用いられる電極構造体の好ましい1実施形態を示した断面図である。
【図2】本発明による燃料電池において用いられる電極構造体のもう1つの好ましい実施形態を示した断面図である。
【図3】本発明による燃料電池の好ましい1実施形態を示した斜視図である。
【図4】図3に示した燃料電池の線分IV−IVにそった断面図である。
【符号の説明】
10…電極構造体
11…燃料極
12…空気極
13…固体電解質層
14…シャッター層
15…バリア層
20A…燃料極集電体
20B…空気極集電体
30…燃料貯留部
40…電池筐体
41…スペーサ
42…パッキング材
43…パッキング材
50…燃料電池
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料電池に関し、さらに詳しく述べると、固体高分子からなる電解質層を、燃料を酸化する負極と、少なくとも酸素を活物質として還元する正極との間に備えた固体高分子型燃料電池に関する。本発明はまた、かかる燃料電池の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば携帯電話、PDA、ノート型パソコンなどの携帯型電子機器において、小型化、軽量化、そして高機能化が進んでいることは周知の通りである。また、これらの電子機器の進展に伴い、駆動電源やメモリ保持電源となる電池も、小型化、軽量化、そして高容量化が確実に進んでいる。現在の携帯型電子機器においては、従来のニッケル・カドミウム電池や、ニッケル水素電池に代えて、リチウムイオン電池が駆動電源等として最も一般的に用いられている。リチウムイオン電池は、実用化の当初から、高い駆動電圧と電池容量をもち、携帯電子機器の進歩にあわせるように性能改善が図られてきた。しかし、リチウムイオン電池の性能改善にも限界があり、今後も高機能化が進む携帯型電子機器の駆動電源等としての要求を、リチウムイオン電池は満足できなくなりつつある。
【0003】
このような状況のもと、リチウムイオン電池に代わる新たな発電デバイスの開発が行われた結果、リチウムイオン電池の数倍の高容量化が期待される燃料電池が提案されるに至った。燃料電池は、触媒を含むアノード電極(負極)及びカソード電極(正極)と、これらの間において所定のイオンの移動を許容する電解質とからなる構造を有する。燃料電池においては、アノード電極に燃料ないし水素を供給するとともにカソード電極に空気ないし酸素を供給すると、電極に含まれる触媒の作用により各電極にて電気化学的な反応が起こり、燃料を供給源とする電子による直流電流を取り出すことができる。このようなメカニズムで発電する燃料電池においては、燃料及び酸素を供給し続けることにより連続発電が可能となる。したがって、燃料電池は、燃料及び酸素を補給することにより、充電操作により反復使用される二次電池と同様に、携帯型電子機器類の電源へと応用可能である。
【0004】
燃料電池は、その電解質の種類に基づいて、リン酸型、固体高分子型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型などに類別される。携帯型電子機器類の電源としては、室温付近の低温にて作動可能であること、小型に構成可能であること、振動に強く大量生産が容易な固体電解質を備えることなどから、固体高分子型の燃料電池(PEFC)が適している。
【0005】
固体高分子型燃料電池においては、燃料供給方法として、水素ガスを貯留して当該水素ガスをアノード電極に接触させる手法、有機燃料を貯留して当該有機燃料を改質することによって生ずる水素ガスをアノード電極に接触させる手法、水素を供給可能な液体燃料を貯留して当該液体燃料をアノード電極に対して直接に供給する手法などが知られている。水素ガスを使用する手法は、水素ガスの取り扱いが困難であったり、燃料を改質するための装置が必要であったりするため、携帯型電子機器等の小型電源としては適さない。そのため、携帯型電子機器等の小型電源を構成するという観点からは、液体燃料をアノード電極に直接に供給する方式を採用する燃料電池が注目を集めている。特に、液体燃料としてのメタノール水溶液を燃料極に対して直接に供給するダイレクトメタノール方式の燃料電池(DMFC)が注目を集めている。
【0006】
現在、多数のDMFCが公知となっている。例えば、水素イオン伝導性高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜を挟む一対の電極と、前記電極の一方に燃料を供給し他方の電極に酸化剤を供給する手段とを具備した燃料電池であって、前記電極が、前記高分子電解質膜に接合された触媒層を有し、その触媒層が、表面の少なくとも一部に電子伝導性の高分子化合物を担持した触媒粒子を含むことを特徴とする燃料電池が公知である(特許文献1)。
【0007】
また、固体高分子電解質膜の両面に、拡散層及び触媒層からなる燃料極及び空気極を接合した膜電極接合体を備えた直接メタノール型燃料電池であって、前記燃料極の拡散層が、燃料の下流側に行くほど、そのメタノール透過係数が大きくなっていることを特徴とする直接メタノール型燃料電池も公知である(特許文献2)。
【0008】
【特許文献1】
特開2002−110190号公報(特許請求の範囲、段落0016〜0019、図3)
【特許文献2】
特開2002−110191号公報(特許請求の範囲、段落0017〜0023、図1)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
従来の固体高分子型の燃料電池(PEFC)において、燃料極で発生した水素イオン(プロトン)を空気極に輸送するための隔壁として固体高分子電解質膜が使用されており、また、かかる固体高分子電解質膜の形成のため、パーフルオロ系ポリマーあるいはパーフルオロエーテル系ポリマーが主鎖骨格を構成した固体高分子電解質材料が広く使用されている。実際に、パーフルオロ系ポリマーあるいはパーフルオロエーテル系ポリマーは、電気化学的に安定であり、耐熱性も高いので、固体高分子電解質膜の材料としては主流である。
【0010】
しかしながら、メタノールなどのアルコール系燃料を直接燃料極で反応させて発電を行うダイレクトメタノール方式の燃料電池(DMFC)にあっては、燃料極に供給された燃料が、燃料極に隣接して配置された固体高分子電解質膜を透過して空気極に達するという問題(いわゆる「クロスオーバー」)が新たな問題を引き起こしている。なぜなら、例えばメタノールのような燃料が空気極に達した場合、そこで空気と反応することの結果、出力電圧の低下、容量の損失など、燃料電池として好ましくない悪影響が引き起こされるからである。さらには、空気極に到達した燃料が、反応の結果として発熱を生じたりする可能性もある。
【0011】
本発明の目的は、したがって、メタノールのクロスオーバーを生じないようなダイレクトメタノール方式の燃料電池を提供することにある。
【0012】
また、本発明の目的は、上記のような燃料電池を容易にかつ歩留まりよく製造する方法を提供することにある。
【0013】
本発明のこれらの目的やその他の目的は、以下の詳細な説明から容易に理解することができるであろう。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究した結果、燃料電池に組み込まれる電極構造体において、固体高分子からなる電解質層の構成を改良し、メタノールが電解質層を透過し得ないように調整することが有効であることを発見し、本発明を完成した。
【0015】
本発明は、その1つの面において、燃料を収容した燃料貯留部と、該燃料貯留部に隣接して配置された電極構造体とを含む燃料電池であって、
前記電極構造体が、固体高分子からなる電解質層を、前記燃料を酸化する負極と少なくとも酸素を活物質として還元する正極との間に備えた構造を有しており、かつ前記電解質層が、その表面及び(又は)内部に、前記燃料が透過し得ない金属からなるバリア層をさらに有していることを特徴とする燃料電池にある。
【0016】
また、本発明は、そのもう1つの面において、燃料を収容した燃料貯留部と、該燃料貯留部に隣接して配置された電極構造体とを含む燃料電池を製造する方法であって、
前記燃料を酸化する負極と少なくとも酸素を活物質として還元する正極との間に固体高分子からなる電解質層を配置することによって前記電極構造体を構築すること、及び、その際、前記電解質層の表面及び(又は)内部に、前記燃料が透過し得ない金属からなるバリア層をさらに設けることを特徴とする燃料電池の製造方法にある。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明は、上記したように、燃料電池とその製造方法にある。以下、これらの発明を添付の図面を参照しながら、特にダイレクトメタノール方式の燃料電池(DMFC)に関して説明する。なお、本発明は、下記の実施の形態に限定されるものではなく、必要ならば、DMFC以外の燃料電池に適用してもよい。
【0018】
本発明による燃料電池は、燃料を収容した燃料貯留部と、該燃料貯留部に組み合わせて配置された電極構造体とを含むように構成される。また、この燃料電池の電極構造体は、固体高分子からなる電解質層を、燃料を酸化する負極(アノード電極)と、少なくとも酸素を活物質として還元する正極(カソード電極)との間に備えるように構成される。固体高分子電解質層は、さらに触媒層を有している。
【0019】
このような構成のダイレクトメタノール方式の燃料電池(DMFC)において、メタノール水溶液が供給されたアノード電極では、下記の式(1)に示すように、メタノールと水が反応して、二酸化炭素(CO2 )、プロトン(H+ )及び電子(e− )が生ずる。すなわち、燃料電池ではメタノールが酸化分解される。アノード電極で生じたプロトンは高分子電解質膜を通ってカソード電極に向かい、電子は、アノード電極に接続された外部回路に流れる。外部回路にて仕事を終えた電子はカソード電極に向かう。また、二酸化炭素は系外に排出される。
【0020】
【化1】
【0021】
カソード電極では、下記の式(2)に示すように、空気から得られる酸素(O2 )と、アノード電極から電解質膜を経て到来したプロトン(H+ )と、カソード電極から外部回路を経て到来した電子(e− )とが反応して水(H2 O)が生成する。
【0022】
【化2】
【0023】
ダイレクトメタノール方式の固体高分子型燃料電池においては、アノード電極での式(1)の反応及びカソード電極での式(2)の反応が同時的に進行することによって、全体として、下記の式(3)の反応が進行する。
【0024】
【化3】
【0025】
上記の反応において、発生した電子(e− )から電流を直接に取り出すことができる。また、メタノール水溶液及び酸素を供給し続けることにより、連続発電が可能である。
【0026】
図1は、本発明の燃料電池で用いられる電極構造体の好ましい1実施形態を示した断面図である。電極構造体10は、特にDMFC用に設計されたもので、燃料極11、空気極12及び電解質層13ならびに集電体20A及び20Bからなっている。また、燃料極11は、図示しないが、触媒層及び拡散層による積層構造を有し、触媒層の側で電解質層13と接合している。また、空気極12は、図示しないが、触媒層及び拡散層による積層構造を有し、触媒層の側で電解質層13と接合している。
【0027】
電極構造体10の構成についてさらに説明すると、燃料極11の触媒層は、前述の式(1)で表されるように、メタノールを酸化してプロトンと電子を取り出すためのものであり、導電粒子に触媒を担持させてなる触媒性粒子と、電解質層形成用の後述するプロトン伝導性高分子材料との混合物を含み、多孔質である。導電粒子としては、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラックなどの炭素粒子が挙げられる。触媒としては、白金(Pt)−ルテニウム(Ru)合金などを採用することができる。導電粒子の粒径は、通常、約0.01〜0.1μmの範囲であり、また、触媒の粒径は、通常、約2〜5nmの範囲である。さらに、触媒層11aの厚さは、通常、約2〜30μmの範囲である。
【0028】
燃料極11の拡散層は、燃料極11に供給された液体燃料であるメタノール水溶液が触媒層に至る前に拡散する場を提供するためのものであり、多孔質導電膜よりなる。拡散層の多孔質導電膜は、いろいろな材料から形成することができるけれども、好ましくは、導電性粒子を含む導電性シート又はフィルムから形成することができる。導電性粒子は、好ましくは導電性の無機材料粒子であり、さらに好ましくは、繊維状もしくは粒子状のカーボンである。特に、カーボンペーパーやカーボンクロスがこの目的に好適である。燃料極11に供給されたメタノール水溶液は、拡散層にて拡散することにより、触媒層へと効率良く行き渡ることとなる。拡散層の厚さは、通常、約100〜400μmの範囲である。
【0029】
燃料極11の作製においては、まず、触媒性粒子とプロトン伝導性高分子材料とを、水溶媒系、アルコール溶媒系、または、水−アルコール溶媒系にて混合し、これを脱泡して電極ペーストを調製する。次に、拡散層の上に電極ペーストを塗布ないし充填した後、例えば100℃にて加熱乾燥する。拡散層である多孔質導電膜の上における電極ペーストのみに由来する材料厚さは、通常、約5〜50μmの範囲である。このようにして拡散層の硬化が完了した後、必要ならば、マイクロチャネル構造を付与するため、過酸化水素水や過酸化水素ナトリウムの水溶液で処理してもよい。処理方法としては、処理液の噴霧や塗布、処理液中での浸漬などがある。このようにして、触媒層及び拡散層による積層構造を有する多孔質性の燃料極11が得られる。
【0030】
空気極12の触媒層は、前述の式(2)で表されるように、空気中の酸素の還元反応を進行させるためのものであり、導電粒子に触媒を担持させてなる触媒性粒子と、電解質層形成用の後述するプロトン伝導性高分子材料との混合物を含み、多孔質である。触媒については、白金(Pt)や白金(Pt)−ルテニウム(Ru)合金などを採用することができる。触媒の粒径は、通常、約2〜5nmの範囲である。導電粒子については、燃料極11の触媒層の形成に使用したものと同様のものを使用することができる。触媒層の厚さは、通常、約2〜30μmの範囲である。
【0031】
空気極12の拡散層は、空気極12に流通接触する空気が触媒層に至る前に拡散する場を提供するためのものであり、上記した燃料極11の拡散層と同様に、好ましくはカーボンペーパー、カーボンクロスなどの多孔質導電膜よりなる。拡散層にて空気が拡散することにより、当該空気ひいては酸素は、触媒層へと効率良く行き渡ることとなる。拡散層の厚さは、通常、約100〜400μmの範囲である。
【0032】
触媒層及び拡散層による積層構造を有する多孔質性の空気極12は、燃料極11に関して上述した方法と同様な方法で作製することができる。
【0033】
本発明による燃料電池では、その電極構造体10の電解質層13の構成が重要である。すなわち、電解質層13は、以下に具体的に説明するように、燃料が透過し得ない金属からなるバリア層をさらに有していることを必須とする。バリア層は、単層であってもよく、さもなければ、2層以上の多層であってもよい。また、バリア層は、電解質層13の任意の位置に配置することができ、例えば、電解質層13の片面もしくは両面にあってもよく、さもなければ、電解質層13の内部に中間層としてあってもよい。
【0034】
本発明の実施においては、燃料電池を作製するに当たって、バリア層の作用効果が最もよく発揮されるような位置に、単層もしくはそれ以上のバリア層を配置することが好ましい。例えば、図1の電極構造体10では、電解質層13のそれぞれの表面にバリア層15a及びバリア層15bが配置されている。また、図2の電極構造体10では、電解質層13の中央部にバリア層15が配置されている。すなわち、この電極構造体10では、電解質層13a及び13bでバリア層15をサンドイッチした積層構成を採用している。
【0035】
図1の電解質層13(あるいは、図2の電解質層13a及び13b)は、燃料極11におけるメタノール酸化反応で生成したプロトン(H+ )を空気極12に輸送するための媒体であり、電子伝導性を有さずにプロトン伝導性を有する高分子材料よりなる。そのような高分子材料の好適な例としては、従来電解質層の形成に一般的に使用されている固体高分子電解質材料、典型的には、パーフルオロ系ポリマーあるいはパーフルオロエーテル系ポリマーが主鎖骨格を構成した固体高分子電解質材料を挙げることできる。すでに説明したように、パーフルオロ系ポリマーあるいはパーフルオロエーテル系ポリマーは、電気化学的に安定であり、しかも耐熱性に優れているからである。また、パーフルオロ系ポリマーあるいはパーフルオロエーテル系ポリマーは、その一部にイオン解離可能な官能基をさらに含むことが好ましい。かかる官能基は、プロトン(H+ )の容易な透過に貢献できるからである。適当な官能基としては、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基などを挙げることができる。したがって、本発明の実施において有利に使用することのできる電解質層は、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、パーフルオロスルホン酸膜などを包含する。パーフルオロスルホン酸膜としては、例えば、Nafion膜(DuPont社製)、フレミオン膜(旭硝子製)、アシプレックス膜(旭化成工業製)、ダウ膜(ダウケミカル社製)などが挙げられる。電解質層の厚さは、それが2層以上で含まれる場合の厚さの合計も含めて、通常、約50〜250μmの範囲であることが好ましい。このような範囲の時、プロトンの伝導性がよく、得られる性能もよく、しかも、クラックやピンホールが生じない程度の機械的強度が得られるからである。電解質層の厚さは、さらに好ましくは、約80〜200μmの範囲である。
【0036】
電解質層と組み合わせて用いられる図1のバリア層15a及び15b(あるいは、図2のバリア層15)は、メタノールのようなアルコール系燃料が電解質層を透過しようとした時にその透過を防止するためのものであり、そのような燃料が透過し得ない金属から薄膜の形で形成される。燃料電池の電極構造体に薄膜状のバリア層を介在させることによって、燃料分子(例えば、メタノール分子)をブロックするとともに、プロトン(H+ )の透過を妨げることなく、高い出力と容量特性を実現することができる。これは、空気極での不要な化学反応(アルコールの化学酸化反応)が低減せしめられるため、出力電圧が向上するとともに、燃料の損失が減少するため、発電効率が向上するからである。
【0037】
バリア層の形成には、上記したような燃料に関して選択透過性を有するいろいろな金属を使用することができる。好ましい金属は、イオン化傾向が小さい金属、特にイオン化傾向が水素よりも小さい金属である。これは、バリア層の形成に使用した金属のイオン化傾向が水素よりも大きい場合、燃料電池の使用中にバリア金属が溶解し、燃料電池の特性に悪影響がでる可能性があるからである。イオン化傾向が小さい金属としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウムなどの貴金属を挙げることができる。これらの金属は、単体で使用してもよく、2種以上を組み合わせて合金として使用してもよい。
【0038】
バリア層は、いろいろな技法で形成することができるけれども、湿式法によって有利に形成することができる。湿式法は、例えばCVD法のような乾式法に比較して電解質層とバリア層の接合強度を高めることができるからである。湿式法の適当な例としては、例えば、めっき法、電着法などを挙げることができる。めっき法やその他の湿式法は、いずれも常法に従って実施することができる。得られるバリア層の厚さは、それが2層以上で含まれる場合の厚さの合計も含めて、通常、約0.5nm〜1μmの範囲であることが好ましい。このような範囲の時、メタノールのブロック効果が得られ、かつ動作に支障を生じることなくプロトンを伝導させることができるからである。バリア層の厚さは、さらに好ましくは、約1nm〜0.5μmの範囲である。なお、バリア層は、完全に均一な膜でなくてもよく、必要ならば、多孔質膜として形成してもよい。微細な細孔に燃料を溜めておく機能なども発揮されるからである。
【0039】
図1及び図2に示した電極構造体10は、いろいろな手法によって作製することができる。好ましい一例を示すと、まず、バリア層を備えた電解質層を作製する。電解質層に対するバリア層の付与は、いろいろな技法に従って行うことができるというものの、好ましくは湿式法、例えばめっき法である。例えば図1のように電解質層13の両面にバリア層15a及び15bを形成する場合には、適当なめっき浴に電解質層13を浸漬することによって両面バリア層を形成することができる。また、図2のように電解質層13a及び13bでバリア層15を挟み込んだ複合体を形成する場合には、電解質層の片面にバリア層を形成した後、得られた複合体のバリア層側に別の電解質層を積層することができる。
【0040】
次いで、バリア層付きの電解質層を燃料極11と空気極12により挟む。このとき、電解質層に対して、燃料極11はその触媒層を介して貼り合わせ、また、空気極12はその触媒層を介して貼り合わせる。その後、加熱条件下、得られた積層体(燃料極+バリア層付き電解質層+空気極)を積層方向に加圧して接合する。
【0041】
集電体20Aは、燃料極11におけるメタノール酸化反応で発生した電子をシャッター層14を介して取り出すためのものであり、例えばステンレス鋼(SUS)製やニッケル(Ni)鋼製の金属メッシュである。集電体20Aとしては、液体燃料であるメタノール水溶液が容易に通過可能なメッシュ開口径ないしメッシュ開口率を有するものを採用する。集電体20Aは、図3及び図4に示す電池筐体40の表面に設けられた外部接続用端子(図示せず)と電気的に接続している。集電体20Aと電気的に接続する端子は、燃料電池50の負極である。
【0042】
集電体20Bは、空気極の触媒層に対して効率的に電子を供給するためのものであり、例えばSUS製やNi鋼製の金属メッシュである。集電体20Bは、電極構造体10の空気極12と接合ないし面接触するとともに電気的に接続している。集電体20Bとしては、空気極12に対して空気ないし酸素が自然拡散により充分に接触可能であるとともに、空気極12における酸素還元反応で生成した水を適切に蒸散排出可能なメッシュ開口径ないしメッシュ開口率を有するものを採用する。集電体20Bは、図3及び図4に示す電気筐体40の表面に設けられた更なる外部接続用端子(図示せず)と電気的に接続している。集電体20Bと電気的に接続する端子は、燃料電池50の正極である。
【0043】
図3は、本発明による燃料電池の好ましい1実施形態を示した斜視図であり、また、図4は、図3に示した燃料電池の線分IV−IVにそった断面図である。これらの図面に示されるように、燃料電池50は、電極構造体10と、燃料貯留部30と、これらを収容する電池筐体40とを備える。また、電極構造体10は、燃料極11、空気極12及びバリア層15a及び15b付きの電解質層13からなる燃料電池本体と、集電体20A及び20Bとからなっている。また、燃料極11は、触媒層及び拡散層による積層構造を有し、触媒層の側で電解質層13と接合している。さらに、空気極12は、触媒層及び拡散層による積層構造を有し、触媒層の側で電解質層13と接合している。
【0044】
電極構造体10(集電体20A及び20Bを含む)による積層構造は、図4に示すように、スペーサ41及びパッキング材42及び43とともに電池筐体40に収容されている。収容状態において、電池筐体40の内部には燃料貯留部30が規定される。スペーサ41には、所定の開口部41aが設けられている。開口部41aは、円形であってもよいし、スリット状であってもよい。この開口部41aを介して、集電体20Aは燃料貯留部30に露出している。パッキング材42は、電極構造体10による積層構造における周縁部の略全体と電池筐体40との間の隙間を封止するためのものである。また、パッキング材43は、燃料貯留部30を規定しつつ、燃料貯留部30からの燃料漏れを防止するためのものである。
【0045】
燃料貯留部30は、メタノール水溶液(図示せず)が直接的に貯留される小型タンクとして構成されており、メタノール水溶液またはメタノールを適宜補充するための注入口(図示せず)を有する。本発明の実施において、メタノール水溶液は、いろいろなメタノール濃度で使用することができるけれども、通常、10体積%もしくはそれ以上のメタノール濃度が好ましく、さらに好ましくは、約10〜30体積%の範囲である。このようなメタノール水溶液は、高い発電効率を達成するための液体燃料として好適である。また、図示の例はDMFCであり、燃料としてメタノール水溶液を使用しているが、異なるタイプのPEFCの場合、メタノール水溶液以外の燃料を使用してもよい。
【0046】
電池筐体40は、開口部40aを有する。この開口部40aを介して、集電体20Bは燃料電池50の外部に露出している。また、電池筐体40において燃料貯留部30を規定する所定の箇所には、燃料貯留部30と電池外部との間の隔壁として、二酸化炭素透過膜(図示せず)が配設されている。二酸化炭素透過膜は、液体燃料を実質的に透過させずに二酸化炭素を選択的に透過させる膜であり、燃料極11における電池反応で生成した二酸化炭素はこの膜を介して排出される。二酸化炭素透過膜を構成する材料としては、例えば、シリコーンゴムやフッ素系樹脂、ポリイミドなどが挙げられる。
【0047】
燃料電池50においては、燃料貯留部30に液体燃料すなわちメタノール水溶液が貯留されていると、当該メタノール水溶液は、スペーサ41の開口部41aを介して燃料貯留部30から燃料極11に至る。そして、燃料極11では、メタノール水溶液は、メッシュ状の集電体20Aを通過して触媒層に至る。これとともに、電池筐体40の開口部40aを介して外気に触れる空気極12には、空気に含まれる酸素が常時的に接触する。空気極12では、酸素は、メッシュ状の集電体20Bを通過して触媒層に至る。燃料極11に対してメタノール水溶液が供給されるとともに空気極12に対して酸素が供給されると、燃料極11の触媒層では、触媒の作用により、前述の式(1)で表されるメタノール酸化反応が起こり、二酸化炭素、プロトン及び電子が発生する。また、空気極12の触媒層では、触媒の作用により、前述の式(2)で表される酸素還元反応が起こり、水が生成する。この水は、自然蒸散する。両極において、このような電気化学反応が進行することにより、燃料電池50が発電する。
【0048】
以上のような構成を有する燃料電池50において、燃料貯留部30から燃料極の拡散層を経て触媒層に供給されたメタノールのうち触媒層で分解されなかったメタノールが電解質層13を介して空気極の触媒層に到達するのを本発明の電解質層13によって防止することができる。なお、本発明の実施において、空気極12と電解質層13との間に撥水層を挟み込むのが好ましい。撥水層は、好ましくは、撥水性を有する粒子と、プロトン伝導性高分子とから構成することができる。撥水性を有する粒子としては、例えば、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック等の炭素粒子、上述した触媒性粒子、ポリスチレン等の高分子粒子などの粒子表面をシリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、シラン系樹脂などの撥水性樹脂でコーティングすることにより撥水処理を施した粒子、あるいはシリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、シラン系樹脂などの撥水性樹脂からなる粒子などが挙げられる。また、プロトン伝導性高分子としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系高分子などが挙げられる。パーフルオロスルホン酸系高分子としては、例えば、Nafion(DuPont社製)などが挙げられる。撥水層の厚さは、通常、約5〜50μmの範囲である。
【0049】
撥水層の存在によってメタノールのクロスオーバーをさらに効果的に抑制することができ、したがって、クロスオーバーしたメタノールが部分的に空気極の触媒層での触媒反応により分解されて空気極側の電位が低下することに起因する燃料電池の出力の低下、及びクロスオーバーしたメタノールが部分的に空気極で揮発してメタノールが急速に減少することに起因する燃料電池の放電容量の低下を、効果的に抑制することができる。
【0050】
【実施例】
引き続いて、本発明をその実施例を参照して説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
実施例1
燃料電池の作製:
まず、燃料極及び空気極を作製した。燃料極の作製のため、約40nmの一次粒子径のケッチェンブラック粒子(商品名:EC、ライオン社製)に、触媒としての約3nmの粒径の白金−ルテニウム合金(Pt:Ru=1:1.5、重量%比)を重量比60%で担持させた触媒性カーボン粒子(商品名:TEC61E54E、田中貴金属製)200mgと、20重量%のNafion溶液(商品名:Nafion SE20042、DuPont社製)1gとを、水0.5gの水溶媒系にて混合し、これを脱泡して電極ペーストを調製した。
【0051】
次に、拡散層として用意したカーボンペーパー(商品名:TGP−H−090、東レ製、膜厚290μm)の上に上記の電極ペーストを10mg/cm2の塗布量で塗布した後、100℃で30分間にわたって加熱し、乾燥した。カーボンペーパー上における電極ペーストのみに由来する材料厚さ、すなわち触媒層厚さは、30μmとした。
【0052】
次いで、上記燃料極の作製と同様な手法で空気極を作製した。但し、空気極の場合、白金−ルテニウム合金を担持する触媒性カーボン粒子に代えて、約40nmの一次粒子径のケッチェンブラック粒子(商品名:EC、ライオン社製)に、触媒としての約3nmの粒径の白金を重量比50%で担持させた触媒性カーボン粒子(商品名:TEC10E50E、田中貴金属製)を使用した。
【0053】
さらに続けて、バリア層付きの電解質層を作製した。膜厚175μmのパーフロロ系固体高分子電解質膜(商品名:Nafion NF117、DuPont社製)を電解質層として用意した。この電解質層を塩化パラジウムベースの無電解パラジウムめっき液(商品名:パラトップ、奥野製薬工業製)に5分間浸漬してメーカー指定の条件で無電解めっきを行い、100℃で30分間乾燥した。この無電解めっき工程を3回繰り返したところ、固体高分子電解質膜の両面にそれぞれ約0.1μmの膜厚でパラジウム薄膜が形成された。
【0054】
引き続いて、図1に示したような構成の電極構造体を有する燃料電池を作製した。パラジウム薄膜付きの固体高分子電解質膜を上述のようにして作製した燃料極及び空気極により挟持した。このとき、空気極は、触媒層を介して固体高分子電解質膜に貼り合わせ、燃料極は、触媒層を介して固体高分子電解質膜に貼り合わせた。次いで、得られた貼り合わせ体をホットプレスにかけ、積層方向に160℃及び100kgf/cm2の温度及び圧力で2分間熱プレスし、接合した。固体高分子電解質膜と燃料極及び空気極が一体化した膜電極複合体(MEA)が得られた。
【0055】
上記のようにしてMEAを作製した後、燃料極及び空気極におけるカーボンペーパー露出面側に対して、集電体としてSUS製の金属メッシュ(厚さ:0.1mm、開口部形〔対角線3mm×1.5mm〕、開口率:70%、商品名:エキスパンドメタル、サンク株式会社製)を積層した。
【0056】
得られた電極構造体を、先に図3及び図4を参照して説明した、空気極側に開口部を有するアクリル樹脂製の電池筐体に収容した。電池筐体の内部に規定された燃料貯留部には、液体燃料として、メタノール濃度が20体積%のメタノール水溶液を2.5mlの量で注入した。図4に構成を示した燃料電池が得られた。
【0057】
次いで、得られた燃料電池の発電特性を(1)平均出力電圧及び(2)発電容量に関して測定したところ、下記の第1表に記載するような測定結果が得られた。なお、表中の発電容量は、下記の比較例1の測定結果を100とみなして、比較例1との関係で記載してある。
実施例2
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、パラジウムに代えて金からバリア層を形成するため、膜厚175μmのパーフロロ系固体高分子電解質膜(商品名:Nafion NF117、DuPont社製)を塩化金ベースの無電解金めっき液(商品名:パラトップ、奥野製薬工業製)に5分間浸漬してメーカー指定の条件で無電解めっきを行い、100℃で30分間乾燥した。この無電解めっき工程を3回繰り返したところ、固体高分子電解質膜の両面にそれぞれ約0.1μmの膜厚で金薄膜が形成された。
【0058】
引き続いて、金薄膜付きの固体高分子電解質膜を燃料極及び空気極により挟持し、前記実施例1に記載の手法に従って燃料電池を作製した。得られた燃料電池について、前記実施例1に記載の手法に従って発電特性を測定したところ、下記の第1表に記載のような測定結果が得られた。
実施例3
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、電解質層の内部にバリア層を組み込んだ構成を有する燃料電池を作製した。
【0059】
まず、燃料極及び空気極を前記実施例1に記載の手法に従って作製した。
【0060】
次いで、バリア層付きの電解質層を作製した。膜厚175μmのパーフロロ系固体高分子電解質膜(商品名:Nafion NF117、DuPont社製)を電解質層として用意した。この電解質層の片面に、塩化パラジウムベースの無電解パラジウムめっき液(商品名:パラトップ、奥野製薬工業製)を湿潤時の膜厚が50μmとなるようにブレードコーターで塗布し、5分間静置した後に100℃で30分間乾燥した。このめっき液塗布工程を3回繰り返したところ、固体高分子電解質膜の片面に約0.1μmの膜厚でパラジウム薄膜が形成された。
【0061】
次いで、上記のようにして作製したパラジウム薄膜付きの固体高分子電解質膜に、そのパラジウム薄膜を覆うようにしてもう1枚の固体高分子電解質膜(膜厚175μm、Nafion NF117)を重ね合わせた後、ホットプレスを用いて130℃及び100kgf/cm2の温度及び圧力で1分間熱プレスした。膜厚0.1μmのパラジウム中間層を有する固体高分子電解質膜が得られた。
【0062】
引き続いて、パラジウム中間層付きの固体高分子電解質膜を燃料極及び空気極により挟持し、前記実施例1に記載の手法に従って燃料電池を作製した。得られた燃料電池について、前記実施例1に記載の手法に従って発電特性を測定したところ、下記の第1表に記載のような測定結果が得られた。
実施例4
前記実施例3に記載の手法を繰り返したが、本例では、パラジウムに代えて金からバリア層を形成するため、膜厚175μmのパーフロロ系固体高分子電解質膜(商品名:Nafion NF117、DuPont社製)の片面に塩化金ベースの無電解金めっき液(商品名:パラトップ、奥野製薬工業製)を湿潤時の膜厚が50μmとなるようにブレードコーターで塗布し、5分間静置した後に100℃で30分間乾燥した。このめっき液塗布工程を3回繰り返したところ、固体高分子電解質膜の片面に約0.1μmの膜厚で金薄膜が形成された。
【0063】
次いで、上記のようにして作製した金薄膜付きの固体高分子電解質膜に、その金薄膜を覆うようにしてもう1枚の固体高分子電解質膜(膜厚175μm、Nafion NF117)を重ね合わせた後、ホットプレスを用いて130℃及び100kgf/cm2の温度及び圧力で1分間熱プレスした。膜厚0.1μmの金中間層を有する固体高分子電解質膜が得られた。
【0064】
引き続いて、金中間層付きの固体高分子電解質膜を燃料極及び空気極により挟持し、前記実施例1に記載の手法に従って燃料電池を作製した。得られた燃料電池について、前記実施例1に記載の手法に従って発電特性を測定したところ、下記の第1表に記載のような測定結果が得られた。
比較例1
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、比較のため、電解質層にバリア層を設ける工程を省略した。すなわち、本例では、膜厚175μmのパーフロロ系固体高分子電解質膜(商品名:Nafion NF117、DuPont社製)をそのまま電解質層として使用した。
【0065】
得られた燃料電池について、前記実施例1に記載の手法に従って発電特性を測定したところ、下記の第1表に記載のような測定結果が得られた。
【0066】
【表1】
【0067】
上記第1表の発電特性の測定結果から理解されるように、本発明によると、従来に較べて高出力電圧で高発電容量の燃料電池を得ることができる。
【0068】
以上、本発明を特にその実施の形態について説明した。最後のまとめとして、本発明の構成及びそのバリエーションを以下に付記として列挙する。
(付記1)燃料を収容した燃料貯留部と、該燃料貯留部に隣接して配置された電極構造体とを含む燃料電池であって、
前記電極構造体が、固体高分子からなる電解質層を、前記燃料を酸化する負極と少なくとも酸素を活物質として還元する正極との間に備えた構造を有しており、かつ前記電解質層が、その表面及び(又は)内部に、前記燃料が透過し得ない金属からなるバリア層をさらに有していることを特徴とする燃料電池。
(付記2)前記バリア層が、イオン化傾向が水素よりも小さな金属の単体もしくはそのような金属の合金からなることを特徴とする付記1に記載の燃料電池。
(付記3)前記バリア層の金属が、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム又はその合金であることを特徴とする付記1又は2に記載の燃料電池。
(付記4)前記バリア層の膜厚が、0.5nm〜1μmの範囲であることを特徴とする付記1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池。
(付記5)前記電解質層の膜厚が、50〜250μmの範囲であることを特徴とする付記1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池。
(付記6)前記電解質層と前記負極との間にさらに燃料極が配置されていることを特徴とする付記1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池。
(付記7)前記電解質層と前記正極との間にさらに空気極が配置されていることを特徴とする付記1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池。
(付記8)前記燃料がメタノールの水溶液であり、かつ該燃料電池が、ダイレクトメタノール方式の燃料電池であることを特徴とする付記1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池。
(付記9)前記メタノールの水溶液において、メタノールの濃度が10体積%以上であることを特徴とする付記8に記載の燃料電池。
(付記10)燃料を収容した燃料貯留部と、該燃料貯留部に隣接して配置された電極構造体とを含む燃料電池を製造する方法であって、
前記燃料を酸化する負極と少なくとも酸素を活物質として還元する正極との間に固体高分子からなる電解質層を配置することによって前記電極構造体を構築すること、及び、その際、前記電解質層の表面及び(又は)内部に、前記燃料が透過し得ない金属からなるバリア層をさらに設けることを特徴とする燃料電池の製造方法。
(付記11)前記バリア層が、イオン化傾向が水素よりも小さな金属の単体もしくはそのような金属の合金からなることを特徴とする付記10に記載の燃料電池の製造方法。
(付記12)前記バリア層の金属が、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム又はその合金であることを特徴とする付記10又は11に記載の燃料電池の製造方法。
(付記13)前記バリア層を湿式法によって薄膜で形成することを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項に記載の燃料電池の製造方法。
(付記14)前記湿式法がめっき法であることを特徴とする請求項13に記載の燃料電池の製造方法。
(付記15)前記バリア層を0.5nm〜1μmの膜厚で形成することを特徴とする付記10〜14のいずれか1項に記載の燃料電池。
【0069】
【発明の効果】
以上に詳細に説明したように、本発明によれば、従来に較べて高出力電圧で高発電容量の燃料電池用固体高分子膜を簡便に作製することができる。また、かかる固体高分子膜を使用することで、携帯電話等の携帯用電子機器において駆動電源等として有利に使用することのできる、小型軽量で、出力電圧の低下、容量の損失などを生じない燃料電池を提供することができる。
【0070】
また、本発明によれば、小型軽量の燃料電池を容易にかつ歩留まりよく製造可能である。従来の燃料電池の製造ラインを大幅に変更することなく本発明の燃料電池を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による燃料電池において用いられる電極構造体の好ましい1実施形態を示した断面図である。
【図2】本発明による燃料電池において用いられる電極構造体のもう1つの好ましい実施形態を示した断面図である。
【図3】本発明による燃料電池の好ましい1実施形態を示した斜視図である。
【図4】図3に示した燃料電池の線分IV−IVにそった断面図である。
【符号の説明】
10…電極構造体
11…燃料極
12…空気極
13…固体電解質層
14…シャッター層
15…バリア層
20A…燃料極集電体
20B…空気極集電体
30…燃料貯留部
40…電池筐体
41…スペーサ
42…パッキング材
43…パッキング材
50…燃料電池
Claims (5)
- 燃料を収容した燃料貯留部と、該燃料貯留部に隣接して配置された電極構造体とを含む燃料電池であって、
前記電極構造体が、固体高分子からなる電解質層を、前記燃料を酸化する負極と少なくとも酸素を活物質として還元する正極との間に備えた構造を有しており、かつ前記電解質層が、その表面及び(又は)内部に、前記燃料が透過し得ない金属からなるバリア層をさらに有していることを特徴とする燃料電池。 - 前記バリア層が、イオン化傾向が水素よりも小さな金属の単体もしくはそのような金属の合金からなることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
- 前記バリア層の金属が、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム又はその合金であることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池。
- 前記燃料がメタノールの水溶液であり、かつ該燃料電池が、ダイレクトメタノール方式の燃料電池であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池。
- 燃料を収容した燃料貯留部と、該燃料貯留部に隣接して配置された電極構造体とを含む燃料電池を製造する方法であって、
前記燃料を酸化する負極と少なくとも酸素を活物質として還元する正極との間に固体高分子からなる電解質層を配置することによって前記電極構造体を構築すること、及び、その際、前記電解質層の表面及び(又は)内部に、前記燃料が透過し得ない金属からなるバリア層をさらに設けることを特徴とする燃料電池の製造方法。
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