JP4637460B2 - 燃料電池の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料電池に関し、さらに詳しく述べると、固体高分子からなる電解質層を、燃料を酸化する負極と、少なくとも酸素を活物質として還元する正極との間に備えた固体高分子型燃料電池に関する。本発明はまた、かかる燃料電池の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば携帯電話、PDA、ノート型パソコンなどの携帯型電子機器において、小型化、軽量化、そして高機能化が進んでいることは周知の通りである。また、これらの電子機器の進展に伴い、駆動電源やメモリ保持電源となる電池も、小型化、軽量化、そして高容量化が確実に進んでいる。現在の携帯型電子機器においては、従来のニッケル・カドミウム電池や、ニッケル水素電池に代えて、リチウムイオン電池が駆動電源等として最も一般的に用いられている。リチウムイオン電池は、実用化の当初から、高い駆動電圧と電池容量をもち、携帯電子機器の進歩にあわせるように性能改善が図られてきた。しかし、リチウムイオン電池の性能改善にも限界があり、今後も高機能化が進む携帯型電子機器の駆動電源等としての要求を、リチウムイオン電池は満足できなくなりつつある。
【0003】
このような状況のもと、リチウムイオン電池に代わる新たな発電デバイスの開発が行われた結果、リチウムイオン電池の数倍の高容量化が期待される燃料電池が提案されるに至った。燃料電池は、触媒を含むアノード電極(負極)及びカソード電極(正極)と、これらの間において所定のイオンの移動を許容する電解質とからなる構造を有する。燃料電池においては、アノード電極に燃料ないし水素を供給するとともにカソード電極に空気ないし酸素を供給すると、電極に含まれる触媒の作用により各電極にて電気化学的な反応が起こり、燃料を供給源とする電子による直流電流を取り出すことができる。このようなメカニズムで発電する燃料電池においては、燃料及び酸素を供給し続けることにより連続発電が可能となる。したがって、燃料電池は、燃料及び酸素を補給することにより、充電操作により反復使用される二次電池と同様に、携帯型電子機器類の電源へと応用可能である。
【0004】
燃料電池は、その電解質の種類に基づいて、リン酸型、固体高分子型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型などに類別される。携帯型電子機器類の電源としては、室温付近の低温にて作動可能であること、小型に構成可能であること、振動に強く大量生産が容易な固体電解質を備えることなどから、固体高分子型の燃料電池(PEFC)が適している。
【0005】
固体高分子型燃料電池においては、燃料供給方法として、水素ガスを貯留して当該水素ガスをアノード電極に接触させる手法、有機燃料を貯留して当該有機燃料を改質することによって生ずる水素ガスをアノード電極に接触させる手法、水素を供給可能な液体燃料を貯留して当該液体燃料をアノード電極に対して直接に供給する手法などが知られている。水素ガスを使用する手法は、水素ガスの取り扱いが困難であったり、燃料を改質するための装置が必要であったりするため、携帯型電子機器等の小型電源としては適さない。そのため、携帯型電子機器等の小型電源を構成するという観点からは、液体燃料をアノード電極に直接に供給する方式を採用する燃料電池が注目を集めている。特に、液体燃料としてのメタノール水溶液を燃料極に対して直接に供給するダイレクトメタノール方式の燃料電池(DMFC)が注目を集めている。
【0006】
ダイレクトメタノール方式によると、メタノール水溶液が供給されたアノード電極では、下記の式(1)に示すように、メタノールと水が反応して、二酸化炭素(CO2 )、プロトン(H+ )及び電子(e- )が生ずる。すなわち、燃料電池ではメタノールが酸化分解される。アノード電極で生じたプロトンは高分子電解質膜を通ってカソード電極に向かい、電子は、アノード電極に接続された外部回路に流れる。外部回路にて仕事を終えた電子はカソード電極に向かう。また、二酸化炭素は系外に排出される。
【0007】
【化1】
Figure 0004637460
【0008】
カソード電極では、下記の式(2)に示すように、空気から得られる酸素(O2 )と、アノード電極から電解質膜を経て到来したプロトン(H+ )と、カソード電極から外部回路を経て到来した電子(e- )とが反応して水(H2 O)が生成する。
【0009】
【化2】
Figure 0004637460
【0010】
ダイレクトメタノール方式の固体高分子型燃料電池においては、アノード電極での式(1)の反応及びカソード電極での式(2)の反応が同時的に進行することによって、直流電流を取り出すことができる。また、メタノール水溶液及び酸素を供給し続けることにより、連続発電が可能である。
【0011】
固体高分子型燃料電池の具体例についてみると、例えば、固体高分子電解質膜と、燃料電極触媒層と、酸化剤電極触媒層とを有するセルを含むとともに、固体高分子電解質膜上に電極触媒層を形成する際、化学めっき法を用いて電極触媒塩を高分子粒子とともに形成させた後、酸性溶液にて高分子粒子を除去して、多孔性電極触媒層を形成したことを特徴とする、出力特性に優れた固体高分子型燃料電池が公知である(特許文献1)。
【0012】
また、含まれる電極触媒層において、触媒担持カーボン粒子と1種以上のポリマとを含む触媒−ポリマ複合体が、3次元方向に網目状の微多孔質構造を有していることを特徴とする、出力特性に優れた固体高分子型燃料電池も公知である(特許文献2)。
【0013】
【特許文献1】
特開平8−138715号公報(特許請求の範囲、段落0019、図1)
【特許文献2】
特開2000−353528号公報(特許請求の範囲、段落0025〜0029)
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
従来の固体高分子型燃料電池でも、上記したように出力特性の向上のためにたゆまぬ研究が進められている。しかし、携帯用電子機器における最近の高機能化の要求を十分に満足させるため、出力特性をより向上させ、大電流を流せるようにすることが課題としてある。
【0015】
本発明の目的は、したがって、構造が簡単で出力特性に優れた燃料電池の製造方法を提供することにある。
【0016】
また、本発明の目的は、上記のような燃料電池を容易にかつ歩留まりよく製造する方法を提供することにある。
【0017】
本発明の上記した目的やその他の目的は、以下の詳細な説明から容易に理解することができるであろう。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究した結果、燃料電池に組み込まれる電極構造体において、固体高分子からなる電解質層に隣接して設けられる電極触媒層を改良し、触媒が効率よく作動できるようにし、よって燃料の供給量を十分に高めることが大電流の供給に繋がることを発見し、本発明を完成した。
【0019】
本発明は、その1つの面において、燃料を収容した燃料貯留部と、該燃料貯留部に隣接して配置された電極構造体とを含む燃料電池であって、
前記電極構造体が、固体高分子からなる電解質層上にマイクロチャネル構造をもった多孔質の触媒層を有しており、かつ前記マイクロチャネル構造が、前記触媒層の形成後にその触媒層において脱ガス反応を行うことによって付与されたものであることを特徴とする燃料電池の製造方法にある。
【0020】
また、本発明は、そのもう1つの面において、燃料を収容した燃料貯留部と、該燃料貯留部に隣接して配置された電極構造体とを含む燃料電池を製造する方法であって、
前記電極構造体の製造において、固体高分子から電解質層を形成した後、その電解質層において脱ガス反応を引き起こしてマイクロチャネル構造を付与する工程を含むことを特徴とする燃料電池の製造方法にある。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明は、上記したように、燃料電池の製造方法にある。以下、これらの発明を添付の図面を参照しながら、特にダイレクトメタノール方式の燃料電池(DMFC)に関して説明する。なお、本発明は、下記の実施の形態に限定されるものではない。
【0022】
本発明による燃料電池の製造方法において用いられる電極構造体は、固体高分子からなる電解質層上にマイクロチャネル構造をもった多孔質の触媒層を有しており、かつ前記マイクロチャネル構造が、前記触媒層の形成後にその触媒層において脱ガス反応を行うことによって付与されたものであることを特徴とする。ここで、「マイクロチャネル構造」とは、触媒層における脱ガス反応の結果として形成されたものであり、触媒層に多数の微細な細孔が3次元的に形成されており、細孔どうしが互いに連通している構造を指している。電極構造体は、好ましくは、燃料を酸化する負極(アノード電極)と、少なくとも酸素を活物質として還元する正極(カソード電極)と、これらの電極の間に配置された触媒層付きの電解質層とを含むようにして構成される。このような電極構造体の構成は、従来技術の項で一般的に説明した通りである。
【0023】
図1は、本発明で用いられる電極構造体の好ましい1実施形態を示した断面図である。電極構造体10は、特にDMFC用に設計されたもので、燃料極11、空気極12及び電解質層13ならびに集電体20A及び20Bからなっている。また、燃料極11は、触媒層11a及び拡散層11bによる積層構造を有し、触媒層11aの側で電解質層13と接合している。触媒層11aは、本発明に従いマイクロチャネル構造を有している。また、空気極12は、触媒層12a及び拡散層12bによる積層構造を有し、触媒層12aの側で電解質層13と接合している。
【0024】
電極構造体10の構成についてさらに説明すると、燃料極11の触媒層11aは、前述の式(1)で表されるように、メタノールを酸化してプロトンと電子を取り出すためのものであり、導電粒子に触媒を担持させてなる触媒性粒子と、電解質層形成用の後述するプロトン伝導性高分子材料との混合物を含み、多孔質であり、マイクロチャネル構造を有している。導電粒子としては、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラックなどの炭素粒子が挙げられる。触媒としては、白金(Pt)−ルテニウム(Ru)合金などを採用することができる。導電粒子の粒径は、通常、約0.01〜0.1μmの範囲であり、また、触媒の粒径は、通常、約2〜5nmの範囲である。さらに、触媒層11aの厚さは、通常、約2〜30μmの範囲である。
【0025】
図示の電極構造体10の場合、燃料極11の触媒層11aの形成に特徴がある。すなわち、触媒層11aの形成後にその触媒層11aにおいて脱ガス反応を行わせ、マイクロチャネル構造をもった多孔質の触媒層11aを形成しているからである。マイクロチャネル構造を得るための脱ガス反応は、任意の方法で惹起することができるが、好ましくは、過酸化水素水を用いて成膜後の触媒層11aを処理する方法、あるいは過酸化水素ナトリウムの水溶液を用いて成膜後の触媒層11aを処理する方法で惹起することができる。かかる処理は、好ましくは、適当な処理液を触媒層11aに噴霧したり塗布したりすることによって実施してもよく、さもなければ、触媒層11aを形成後の電極構造体10を処理液に浸漬することによって実施してもよい。また、このようにして現場で多孔質の触媒層11aを形成する方法に代えて、別の場所で予め多孔質の触媒層11aを形成しておいて、それを製造中の電極構造体10に積層する方法などを採用してもよい。さらに、必要ならば、過酸化水素水や過酸化水素ナトリウムの水溶液に代えて、触媒層11aの構成成分と反応して脱ガス反応を惹起し得る反応性化合物もしくはそれを含む溶液を処理液として使用してもよい。
【0026】
得られる触媒層11aのマイクロチャネル構造において、多数含まれる細孔の孔径は、特に限定されるものではないけれども、通常、約0.05〜5.0μmの範囲であり、さらに好ましくは、約0.1〜1.0μmの範囲である。また、マイクロチャネル構造の空孔率(触媒層の全体積から触媒性粒子とプロトン伝導性高分子材料の占める体積を減じたものを、触媒層の全体積で除した百分率、%)は、特に限定されるものではないけれども、通常、約10〜95%の範囲であり、好ましくは、約50〜95%の範囲である。
【0027】
燃料極11の拡散層11bは、燃料極11に供給された液体燃料であるメタノール水溶液が触媒層11aに至る前に拡散する場を提供するためのものであり、多孔質導電膜よりなる。拡散層11bの多孔質導電膜は、いろいろな材料から形成することができるけれども、好ましくは、導電性粒子を含む導電性シート又はフィルムから形成することができる。導電性粒子は、好ましくは導電性の無機材料粒子であり、さらに好ましくは、繊維状もしくは粒子状のカーボンである。特に、カーボンペーパーやカーボンクロスがこの目的に好適である。燃料極11に供給されたメタノール水溶液は、拡散層11bにて拡散することにより、触媒層11aへと効率良く行き渡ることとなる。拡散層11bの厚さは、通常、約100〜400μmの範囲である。
【0028】
燃料極11の作製においては、まず、触媒性粒子とプロトン伝導性高分子材料とを、水溶媒系、アルコール溶媒系、または、水−アルコール溶媒系にて混合し、これを脱泡して電極ペーストを調製する。次に、拡散層11bの上に電極ペーストを塗布ないし充填した後、例えば100℃にて加熱乾燥する。拡散層11bである多孔質導電膜の上における電極ペーストのみに由来する材料厚さは、通常、約5〜50μmの範囲である。拡散層11bの硬化が完了した後、マイクロチャネル構造を付与するため、過酸化水素水や過酸化水素ナトリウムの水溶液で処理する。処理方法としては、処理液の噴霧や塗布、処理液中での浸漬などがある。このようにして、触媒層11a及び拡散層11bによる積層構造を有する多孔質性の燃料極11が得られる。
【0029】
空気極12の触媒層12aは、前述の式(2)で表されるように、空気中の酸素の還元反応を進行させるためのものであり、導電粒子に触媒を担持させてなる触媒性粒子と、電解質層形成用の後述するプロトン伝導性高分子材料との混合物を含み、多孔質である。触媒については、白金(Pt)や白金(Pt)−ルテニウム(Ru)合金などを採用することができる。触媒の粒径は、通常、約2〜5nmの範囲である。導電粒子については、触媒層11aの形成に使用したものと同様のものを使用することができる。触媒層12aの厚さは、通常、約2〜30μmの範囲である。
【0030】
空気極12の拡散層12bは、空気極12に流通接触する空気が触媒層12aに至る前に拡散する場を提供するためのものであり、上記した拡散層11bと同様に、好ましくはカーボンペーパー、カーボンクロスなどの多孔質導電膜よりなる。拡散層12bにて空気が拡散することにより、当該空気ひいては酸素は、触媒層12aへと効率良く行き渡ることとなる。拡散層12bの厚さは、通常、約100〜400μmの範囲である。
【0031】
触媒層12a及び拡散層12bによる積層構造を有する多孔質性の空気極12は、燃料極11に関して上述した方法と同様な方法で作製することができる。
【0032】
電解質層13は、燃料極11におけるメタノール酸化反応で生成したプロトンを空気極12に輸送するための媒体であり、電子伝導性を有さずにプロトン伝導性を有する高分子材料よりなる。そのような高分子材料の好適な例としては、パーフルオロスルホン酸膜などが挙げられる。パーフルオロスルホン酸膜としては、例えば、Nafion膜(DuPont社製)、フレミオン膜(旭硝子製)、アシプレックス膜(旭化成工業製)、ダウ膜(ダウケミカル社製)などが挙げられる。電解質層13の厚さは、通常、約50〜250μmの範囲である。
【0033】
電極構造体10は、いろいろな手法によって作製することができる。好ましい一例を示すと、まず、電解質層13を、燃料極11及び空気極12により挟む。このとき、電解質層13に対して、燃料極11は触媒層11aを介して電解質層13に貼り合わせるとともに、空気極12は触媒層12aを介して電解質層13に貼り合わせる。次に、加熱条件下、当該貼合せ体を積層方向に加圧して接合する。
【0034】
集電体20Aは、燃料極11におけるメタノール酸化反応で発生する電子をシャッター層14を介して取り出すためのものであり、例えばSUS製やNi製の金属メッシュである。集電体20Aとしては、液体燃料であるメタノール水溶液が容易に通過可能なメッシュ開口径ないしメッシュ開口率を有するものを採用する。集電体20Aは、図2及び図3に示す電池筐体40の表面に設けられた外部接続用端子(図示せず)と電気的に接続している。集電体20Aと電気的に接続する端子は、燃料電池50の負極である。
【0035】
集電体20Bは、触媒層12aに対して効率的に電子を供給するためのものであり、例えばSUS製やNi製の金属メッシュである。集電体20Bは、電極構造体10の空気極12と接合ないし面接触するとともに電気的に接続している。集電体20Bとしては、空気極12に対して空気ないし酸素が自然拡散により充分に接触可能であるとともに、空気極12における酸素還元反応で生成する水を適切に蒸散排出可能なメッシュ開口径ないしメッシュ開口率を有するものを採用する。集電体20Bは、図2及び図3に示す電気筐体40の表面に設けられた更なる外部接続用端子(図示せず)と電気的に接続している。集電体20Bと電気的に接続する端子は、燃料電池50の正極である。
【0036】
図2は、本発明による燃料電池の好ましい1実施形態を示した斜視図であり、また、図3は、図2に示した燃料電池の線分III−IIIにそった断面図である。これらの図面に示されるように、燃料電池50は、電極構造体10と、燃料貯留部30と、これらを収容する電池筐体40とを備える。また、電極構造体10は、図1を参照して先に説明したように、燃料極11、空気極12及び電解質層13からなる燃料電池本体と、集電体20A及び20Bとからなっている。また、燃料極11は、触媒層11a及び拡散層11bによる積層構造を有し、触媒層11aの側で電解質層13と接合している。触媒層11aは、本発明に従いマイクロチャネル構造を有している。さらに、燃料極11と集電体20Aの間には、省略してもよいシャッター層14が設けられている。さらにまた、空気極12は、触媒層12a及び拡散層12bによる積層構造を有し、触媒層12aの側で電解質層13と接合している。
【0037】
電極構造体10(集電体20A及び20Bを含む)による積層構造は、図3に示すように、スペーサ41及びパッキング材42及び43とともに電池筐体40に収容されている。収容状態において、電池筐体40の内部には燃料貯留部30が規定される。スペーサ41には、所定の開口部41aが設けられている。開口部41aは、円形であってもよいし、スリット状であってもよい。この開口部41aを介して、集電体20Aは燃料貯留部30に露出している。パッキング材42は、電極構造体10による積層構造における周縁部の略全体と電池筐体40との間の隙間を封止するためのものである。また、パッキング材43は、燃料貯留部30を規定しつつ、燃料貯留部30からの燃料漏れを防止するためのものである。
【0038】
燃料貯留部30は、メタノール水溶液(図示せず)が直接的に貯留される小型タンクとして構成されており、メタノール水溶液またはメタノールを適宜補充するための注入口(図示せず)を有する。本発明の実施において、メタノール水溶液は、いろいろなメタノール濃度で使用することができるけれども、通常、10体積%もしくはそれ以上のメタノール濃度が好ましく、さらに好ましくは、約10〜30体積%の範囲である。このようなメタノール水溶液は、高い発電効率を達成するための液体燃料として好適である。また、図示の例はDMFCであり、燃料としてメタノール水溶液を使用しているが、異なるタイプのPEFCの場合、メタノール水溶液以外の燃料を使用してもよい。
【0039】
電池筐体40は、開口部40aを有する。この開口部40aを介して、集電体20Bは燃料電池50の外部に露出している。また、電池筐体40において燃料貯留部30を規定する所定の箇所には、燃料貯留部30と電池外部との間の隔壁として、二酸化炭素透過膜(図示せず)が配設されている。二酸化炭素透過膜は、液体燃料を実質的に透過させずに二酸化炭素を選択的に透過させる膜であり、この膜を介して、燃料極11における電池反応で生成する二酸化炭素は排出される。二酸化炭素透過膜を構成する材料としては、例えば、シリコーンゴムやフッ素系樹脂、ポリイミドなどが挙げられる。
【0040】
燃料電池50においては、燃料貯留部30に液体燃料すなわちメタノール水溶液が貯留されていると、当該メタノール水溶液は、スペーサ41の開口部41aを介して燃料貯留部30から燃料極11に至る。そして、燃料極11では、メタノール水溶液は、メッシュ状の集電体20Aを通過して触媒層11aに至る。これとともに、電池筐体40の開口部40aを介して外気に触れる空気極12には、空気に含まれる酸素が常時的に接触する。空気極12では、酸素は、メッシュ状の集電体20Bを通過して触媒層12aに至る。燃料極11に対してメタノール水溶液が供給されるとともに空気極12に対して酸素が供給されると、燃料極11の触媒層11aでは、触媒の作用により、前述の式(1)で表されるメタノール酸化反応が起こり、二酸化炭素、プロトン及び電子が発生する。また、空気極12の触媒層12aでは、触媒の作用により、前述の式(2)で表される酸素還元反応が起こり、水が生成する。この水は、自然蒸散する。両極において、このような電気化学反応が進行することにより、燃料電池50が発電する。
【0041】
以上のような構成を有する燃料電池50において、燃料貯留部30から拡散層11bを経て触媒層11aに供給されたメタノールのうち触媒層11aで分解されなかったメタノールが電解質層13を介して触媒層12aに到達するおそれがある場合、空気極12と電解質層13との間に撥水層を挟み込むのが好ましい。撥水層は、好ましくは、撥水性を有する粒子と、プロトン伝導性高分子とから構成することができる。撥水性を有する粒子としては、例えば、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック等の炭素粒子、上述した触媒性粒子、ポリスチレン等の高分子粒子などの粒子表面をシリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、シラン系樹脂などの撥水性樹脂でコーティングすることにより撥水処理を施した粒子、あるいはシリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、シラン系樹脂などの撥水性樹脂からなる粒子などが挙げられる。また、プロトン伝導性高分子としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系高分子などが挙げられる。パーフルオロスルホン酸系高分子としては、例えば、Nafion(DuPont社製)などが挙げられる。撥水層の厚さは、通常、約5〜50μmの範囲である。
【0042】
撥水層の存在によってメタノールのクロスオーバを抑制することができ、したがって、クロスオーバしたメタノールが部分的に触媒層12aでの触媒反応により分解されて空気極12側の電位が低下することに起因する燃料電池50の出力の低下、及びクロスオーバしたメタノールが部分的に空気極12で揮発してメタノールが急速に減少することに起因する燃料電池50の放電容量の低下を、効果的に抑制することができる。
【0043】
【実施例】
引き続いて、本発明をその実施例を参照して説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
実施例1
燃料電池の作製:
まず、燃料極及び空気極を作製した。燃料極の作製のため、一次粒子径40nm程度のケッチェンブラック粒子(商品名:EC、ライオン社製)に、触媒としての粒径2〜5nm程度の白金−ルテニウム合金(Pt:Ru=1:1.5、重量%比)を担持させた触媒性カーボン粒子(商品名:TEC61E54E、田中貴金属製)200mgと、20重量%のNafion溶液(商品名:Nafion SE20042、DuPont社製)1gとを、水0.5gの水溶媒系にて混合し、これを脱泡して電極ペーストを調製した。
【0044】
次に、拡散層として用意したカーボンペーパー(商品名:TGP−H−090、東レ製、膜厚290μm)の上に当該電極ペーストを塗布ないし充填した後、100℃にて加熱乾燥した。カーボンペーパー上における電極ペーストのみに由来する材料厚さ、すなわち触媒層厚さは、30μmとした。
【0045】
上記のようにして燃料極触媒層を作製した後、10mlの33%過酸化水素水にこれを浸漬し、浸漬状態を約10分間保持した。発泡をともなって触媒層の多孔化が発生した。発泡反応の終了後、純水で水洗を行い、加熱乾燥した。
【0046】
さらに、上記燃料極の作製と同様な手法で空気極を作製した。但し、空気極の場合、白金−ルテニウム合金を担持する触媒性カーボン粒子に代えて、一次粒子径40nm程度のケッチェンブラック粒子(商品名:EC、ライオン社製)に、触媒としての粒径4nmの白金を担持させた触媒性カーボン粒子(商品名:TEC10E50E、田中貴金属製)を使用した。触媒性カーボン粒子における白金の含有率は、50重量%であった。
【0047】
引き続いて燃料電池を作製した。電解質層を構成するため、膜厚175μmのプロトン伝導性高分子電解質膜(商品名:Nafion NF117、DuPont社製)を用意した。このプロトン伝導性高分子電解質膜を上述のようにして作製した燃料極及び空気極により挟持した。このとき、空気極は、触媒層を介して当該プロトン伝導性高分子電解質膜に貼り合わせ、燃料極は、触媒層を介して当該プロトン伝導性高分子電解質膜に貼り合わせた。次に、得られた貼り合わせ体を積層方向に130℃で2分間熱プレスし、接合した。
【0048】
上記のようにして電極構造体の本体を作製した後、燃料極及び空気極におけるカーボンペーパー露出面側に対して、集電体としてSUS製の金属メッシュ(厚さ:0.1mm、開口部形〔対角線3mm×1.5mm〕、開口率:70%、商品名:エキスパンドメタル、サンク株式会社製)を積層した。
【0049】
得られた電極構造体を、先に図2及び図3を参照して説明した、空気極側に開口部を有する電池筐体に収容した。電池筐体の内部に規定された燃料貯留部には、液体燃料として、メタノール濃度が20体積%のメタノール水溶液を2.5mlの量で注入した。図3に構成を示した燃料電池が得られた。
出力電流の測定:
2枚のプロトン伝導性高分子電解質膜(Nafion NF117)を重ね合わせて電解質層を形成した違いを除いて、上記と同様な手法に従って供試燃料電池を作製した。
【0050】
次いで、得られた供試燃料電池において、多孔質の触媒層の比表面積をKr−BET多点法で測定したところ、37.6m/gであった。なお、Kr−BET多点法は、次の手順:
1)試験片(幅約7mm×長さ約40mm)の切り出し、
2)試料管に充填、
3)試料管を高精度全自動ガス吸着装置(BELSORP36、日本ベル社製)に装填、
4)室温で真空脱気、
5)Krの吸着等温線の測定(77K)、及び
6)BET法による等温線の解析
で実施した。
【0051】
引き続いて、次のような手順で供試燃料電池の出力電流を測定した。まず、0.3Vで10分間エージングを行った後、0.55Vで5分間、0.5Vで5分間、0.45Vで5分間、0.4Vで5分間、0.35Vで5分間、0.3Vで5分間、0.25Vで5分間、0.2Vで5分間、0.15Vで5分間、0.1Vで5分間、そして0.05Vで5分間、各電圧ごとに定電圧連続放電を行い、所定の放電時間に対する出力電流を測定した。得られた測定結果を放電時間に対する電圧及び出力電流としてプロットしたところ、図4に示すグラフが得られた。
比較例1
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、比較のため、過酸化水素水の処理により触媒層においてマイクロチャネル構造を形成する工程を省略した。
【0052】
得られた供試燃料電池について、前記実施例1に記載の手法に従って触媒層の比表面積を測定したところ、33.7m/gであった。すなわち、この供試燃料電池の場合、実施例1の供試燃料電池に比較して触媒層の多孔性が劣っている。
【0053】
次いで、前記実施例1に記載の手法に従って出力電圧の測定を行った。得られた測定結果を放電時間に対する電圧及び出力電流としてプロットしたところ、図5に示すグラフが得られた。
[評価]
図5の測定結果を図4の測定結果と対比すると、燃料極触媒層を過酸化水素水で処理することによって、低電圧での出力(電流)が飛躍的に向上したことがわかる。これは、過酸化水素水が燃料極上のPt−Ruと反応して、HO+Oとなることにより、燃料触媒付近にマイクロチャネルが形成して、燃料であるメタノールと水の供給がスムーズになることにより、飛躍的に出力が向上したためであると考えられる。
実施例2
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、燃料として使用したメタノール水溶液の濃度を20体積%から10体積%に減少させた。
【0054】
得られた供試燃料電池について、前記実施例1に記載の手法に従って出力電圧の測定を行った。得られた測定結果を放電時間に対する電圧及び出力電流としてプロットしたところ、図6に示すグラフが得られた。
比較例2
前記実施例2に記載の手法を繰り返したが、本例では、比較のため、過酸化水素水の処理によりマイクロチャネル構造を形成する工程を省略した。
【0055】
得られた供試燃料電池について、前記実施例1に記載の手法に従って出力電圧の測定を行った。得られた測定結果を放電時間に対する電圧及び出力電流としてプロットしたところ、図7に示すグラフが得られた。
[評価]
図7の測定結果を図6の測定結果と対比すると、燃料極触媒層を過酸化水素水で処理することによって、低電圧での出力(電流)が飛躍的に向上したことがわかる。これは、過酸化水素水が燃料極上のPt−Ruと反応して、HO+Oとなることにより、燃料触媒付近にマイクロチャネルが形成して、燃料であるメタノールと水の供給がスムーズになることにより、飛躍的に出力が向上したためであると考えられる。
【0057】
【発明の効果】
以上に詳細に説明したように、本発明方法によれば、携帯電話等の携帯用電子機器において駆動電源等として使用した時に、出力特性に優れかつ大電流を流せるような燃料電池や、そのような燃料電池の作製に有用な電極構造体を提供することができる。
【0058】
また、本発明方法で得られる燃料電池は、構造が簡単であり、容易にかつ歩留まりよく製造可能である。従来の燃料電池の製造ラインを大幅に変更することなく燃料電池を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による燃料電池において用いられる電極構造体の好ましい1実施形態を示した断面図である。
【図2】本発明による燃料電池の好ましい1実施形態を示した斜視図である。
【図3】図2に示した燃料電池の線分III−IIIにそった断面図である。
【図4】過酸化水素処理を併用して触媒層を作製した燃料電池(実施例1)の負荷特性をプロットしたグラフである。
【図5】過酸化水素処理を併用しないで触媒層を作製した燃料電池(比較例1)の負荷特性をプロットしたグラフである。
【図6】過酸化水素処理を併用して触媒層を作製した燃料電池(実施例2)の負荷特性をプロットしたグラフである。
【図7】過酸化水素処理を併用しないで触媒層を作製した燃料電池(比較例2)の負荷特性をプロットしたグラフである。
【符号の説明】
10…電極構造体
11…燃料極
11a…触媒層
11b…拡散層
12…空気極
12a…触媒層
12b…拡散層
13…固体電解質層
14…シャッター層
20A…燃料極集電体
20B…空気極集電体
30…燃料貯留部
40…電池筐体
41…スペーサ
42…パッキング材
43…パッキング材
50…燃料電池

Claims (4)

  1. 燃料を収容した燃料貯留部と、該燃料貯留部に隣接して配置された電極構造体とを含む燃料電池を製造する方法であって、
    前記電極構造体の製造において、固体高分子から触媒層を形成した後、その触媒層において脱ガス反応を引き起こしてマイクロチャネル構造を付与する工程を含むことを特徴とする燃料電池の製造方法。
  2. 前記脱ガス反応が、過酸化水素水を用いた前記触媒層の処理に由来することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池の製造方法。
  3. 前記脱ガス反応が、過酸化水素ナトリウムの水溶液を用いた前記触媒層の処理に由来することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池の製造方法。
  4. 前記燃料がメタノールの水溶液であり、かつ該燃料電池が、ダイレクトメタノール方式の燃料電池であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池の製造方法。
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