JP2005029571A - DNA合成酵素λ阻害作用を有する化合物とその利用 - Google Patents

DNA合成酵素λ阻害作用を有する化合物とその利用 Download PDF

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Abstract

【課題】 DNA合成酵素λ阻害物質を用いた抗癌剤、抗炎症剤などを提供すること。
【解決手段】 DNA合成酵素λ阻害作用を有する物質として今回新たにクルクミン及びその誘導体などを見出した。クルクミンはDNA合成酵素λを選択的に阻害し、同様にDNA合成酵素λを選択的に阻害するペタシフェノールはクルクミンと共に抗炎症作用を有していた。ペタシフェノール及びクルクミンはまた、複数のヒト癌細胞株に対する細胞増殖抑制効果を示した。したがって、これらDNA合成酵素λ阻害物質は、DNA合成酵素λ阻害剤としての用途のほか、抗癌剤および抗炎症剤として医薬品等へ利用可能である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、DNA合成酵素λ阻害作用を有する化合物とその利用に関する。これらの化合物は、DNA合成酵素λ阻害剤として例えば生化学試薬などに利用できるほか、抗癌剤、抗炎症剤、又はこれらのリード化合物として利用し得るものである。
真核生物のDNA合成酵素(DNAポリメラーゼ)は、これまでα、β、γ、δ、ε、ζ、η、θ、ι、κ、λ、及びμの12種類のDNA合成酵素が知られている。これらのDNA合成酵素群は、細胞の増殖、分裂、分化などに関与しているが、α型はDNA複製、β型は修復と組換え、λ型は修復、δ型及びε型は複製と修復の双方を担うといった具合にタイプによって異なる機能を有することが知られている。
このようにDNA合成酵素は細胞の増殖等に関与することから、その酵素活性を阻害するDNA合成酵素阻害剤は、例えば、癌に対して癌細胞の増殖抑制作用を示し、エイズに対してHIV由来逆転写酵素に対する阻害作用を示し、免疫疾患に対して抗原に対する特異的抗体産生を抑制する免疫抑制作用を示すことが考えられる。このため、DNA合成酵素阻害剤を用いた癌、エイズ等のウイルス疾患、免疫疾患の予防・治療に効果のある医薬品の開発が期待されている。
例えば、DNA合成酵素阻害活性を有する糖脂質が、制癌剤、HIV由来逆転写酵素阻害剤、免疫抑制剤として有用であることが報告されている(下記特許文献1参照)。現在、DNA合成酵素阻害剤として、ジデオキシTTP(ddTTP)、N−メチルマレイミド、ブチルフェニル−dGTPなどが知られている(下記非特許文献1参照)。また植物由来の糖脂質であるスルホキノボシルアシルグリセリドにもDNA合成酵素阻害作用が見出されている(下記特許文献2参照)。
最近、本発明者は、日本産高等植物ふきのとう(Petasites japonicus)から単離・精製した物質ペタシフェノール(petasiphenol)が、in vitroにおいてDNA合成酵素λを選択的に阻害する活性を有することを明らかにした(下記非特許文献2参照)。さらに解析の結果、このペタシフェノールはDNA合成酵素λのN末端側に在るBRCTドメインに結合し、同酵素の立体構造を変化させることで酵素活性を阻害するものと推測された。
クルクミン(curcumin (diferuloylmethane))は、上記ペタシフェノールと同じフェノール化合物であり、抗炎症作用および抗酸化作用を有することが知られている(例えば下記非特許文献3参照)。
特開平11−106395号公報 特開平2000−143516号公報 Annual Review of Biochemistry, 1991, 60, 513-552頁 Biochemistry, 2002, 41, 14463-14471頁 Planta Med., 1991, 57, 1-7頁
上述のように、ペタシフェノールは、DNA合成酵素λのBRCTドメインに結合することで、その酵素活性を阻害するものと考えられる。とすれば、ペタシフェノールと類似の化学構造を持つ物質(特にフェノール化合物)もまた、同酵素のBRCTドメインに結合し、DNA合成酵素λ阻害作用を有する可能性がある。実際にこのようなDNA合成酵素λ阻害作用を示す物質が得られれば、同物質はDNA合成酵素λの機能解析に使用する生化学試薬として有用であるばかりでなく、前述した抗癌剤などへの医薬品応用が期待できる。
また今回、本発明者は特にDNA合成酵素λ阻害作用、抗炎症作用および抗発癌作用の関連性について調査し、DNA合成酵素λ阻害物質の抗炎症剤・抗発癌剤への応用、並びに、抗炎症作用を有する物質のDNA合成酵素λ阻害作用の有無について検討を行った。
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、λ型のDNA合成酵素阻害作用を有する化合物を見出すと共に、同化合物を利用した新たなDNA合成酵素λ阻害剤、抗癌剤および抗炎症剤を提供することにある。
本発明者は、上記の課題に鑑み鋭意研究を進めた結果、(1)上記ペタシフェノールと同じフェノール化合物であり、構造が類似するクルクミンがDNA合成酵素λを選択的に阻害する阻害活性を有すること、(2)上記クルクミンの複数の誘導体についても、阻害の程度は異なるものの、DNA合成酵素λ阻害作用が認められること、(3)上記クルクミンは抗炎症作用を有するが、同じDNA合成酵素λ阻害剤であるペタシフェノールもまた抗炎症作用(および抗発癌作用)を有すること、(4)抗炎症作用を有する物質(後述のMAA、TA及びEA)に、いずれもDNA合成酵素λ阻害作用が認められたこと、(5)DNA合成酵素λ阻害剤であるペタシフェノールおよびクルクミンは、いずれも実際に複数の癌細胞株に対する細胞増殖抑制効果を発揮したこと、等を見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、医学上及び産業上有用な下記A)〜I)の発明を含むものである。
A) 下記の式(1)により表される化合物、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする抗癌剤。
Figure 2005029571

B) 下記の式(1)により表される化合物、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする抗炎症剤。
Figure 2005029571

C) 下記の式(2)〜(15)の何れかにより表される化合物、又はその薬理上許容される塩を有効成分とするDNA合成酵素λ阻害剤。
Figure 2005029571

Figure 2005029571

D) 上記C)記載の式(3)〜(15)の何れかにより表される化合物、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする抗癌剤。
E) 上記C)記載の式(3)〜(15)の何れかにより表される化合物、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする抗炎症剤。
F) 下記の式(16)〜(18)の何れかにより表される化合物、又はその薬理上許容される塩を有効成分とするDNA合成酵素λ阻害剤。
Figure 2005029571

G) 上記F)記載の式(16)〜(18)の何れかにより表される化合物、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする抗癌剤。
H) DNA合成酵素λに対する阻害活性を調べることにより、抗癌剤または抗炎症剤の候補化合物をスクリーニングする方法。
I) 上記G)記載のスクリーニング方法を用いて選ばれた化合物を有効成分とする医薬組成物。
本発明に係る化合物は、DNA合成酵素λ阻害作用を有し、DNA合成酵素λ阻害剤として例えば生化学試薬などに利用できるほか、抗癌剤、抗炎症剤、又はこれらのリード化合物として利用することができる。
以下、本発明の具体的態様、技術的範囲等について詳しく説明する。
(1)ペタシフェノール及びその構造類似物質のDNA合成酵素λ阻害作用
前述のように、本発明者は、ふきのとう(Petasites japonicus)からフェノール化合物であるペタシフェノールを単離・精製すると共に、同物質が選択的にDNA合成酵素λを阻害することを明らかにした(詳細は、Biochemistry, 2002, 41, 14463-14471頁参照)。
図1(a)は、ペタシフェノールのDNA合成酵素λ選択的阻害作用を示すグラフである。グラフ中、黒丸印はλ型のDNA合成酵素に対する阻害結果を示し、菱形印、四角印、三角印、逆三角印は、それぞれα型、β型、δ型、ε型のDNA合成酵素に対する阻害結果を示す。ペタシフェノールは濃度依存的にDNA合成酵素λを阻害し、その50%阻害濃度(IC50)は約7.8μMであった。
解析の結果、このペタシフェノールはDNA合成酵素λのBRCTドメインに結合し、同酵素の立体構造を変化させることで酵素活性を阻害するものと推測された。それ故、本発明者は、ペタシフェノールと類似の化学構造を持つ物質(特にフェノール化合物)もまた、同酵素のBRCTドメインに結合し、DNA合成酵素λ阻害作用を有するのではないかと考えた。ペタシフェノールは前記式(1)により表される化学構造を有する。本発明者は、このペタシフェノールと同じフェノール化合物であり、構造が極めて類似する物質クルクミン(その化学構造は前記式(2)により表される)に着目し、そのDNA合成酵素λ阻害作用を調べた。
その結果、図1(b)のグラフに示すように、クルクミンもまたペタシフェノールと同様にDNA合成酵素λを選択的に阻害した。グラフ中、黒丸印はλ型のDNA合成酵素に対する阻害結果を示し、菱形印、四角印、三角印、逆三角印は、それぞれα型、β型、δ型、ε型のDNA合成酵素に対する阻害結果を示す。クルクミンは濃度依存的にDNA合成酵素λを阻害し、その50%阻害濃度(IC50)は約7.0μMであった。
さらに植物や原核生物のDNA合成酵素、その他のDNA代謝系酵素に対する酵素活性阻害作用についても調査した。その結果、図2に示すように、ペタシフェノール及びクルクミンは、いずれもin vitroにおいてヒトDNA合成酵素λのみを特異的に阻害し、他の哺乳類DNA合成酵素、植物や原核生物のDNA合成酵素、その他のDNA代謝系酵素に対する阻害作用を有しなかった。
次に、クルクミンの誘導体、具体的には前記式(3)〜(15)により表される各化合物についてもDNA合成酵素λ阻害作用を調べた。
図3に示すように、上記クルクミン誘導体はDNA合成酵素λ阻害作用を示した。図中、化合物1はペタシフェノール、化合物2はクルクミン、化合物3〜15はそれぞれ前記式(3)〜(15)により表される化合物を意味する(以下、便宜上ペタシフェノール及びクルクミンをそれぞれ「化合物1」「化合物2」と称することがある)。化合物3は、ペタシフェノール及びクルクミンよりもDNA合成酵素λを強く阻害した。また、化合物10は、化合物1〜15の中で最も強くDNA合成酵素λを阻害した。
以上のように、本発明者は、(1)ペタシフェノールのみならず、その構造類似物質クルクミンもDNA合成酵素λを選択的に阻害し、DNA合成酵素λ阻害剤として利用し得ること、及び(2)クルクミンの誘導体もDNA合成酵素λ阻害作用を有し、DNA合成酵素λ阻害剤として利用し得ること、を見出した。
(2)ペタシフェノールの抗炎症作用および抗発癌作用と抗炎症物質のDNA合成酵素λ阻害作用
DNA合成酵素λを特異的に阻害する上記クルクミンは、抗炎症作用を有することが知られており、TPA(12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate)によって誘発される慢性炎症を抑制するが、その分子機構は不明である。一方、TPAは、慢性炎症を誘発するのみならず、発癌プロモーターとして哺乳類の細胞増殖を促進する。こうした知見から、本発明者は、DNA合成酵素λ阻害作用、抗炎症作用および抗発癌プロモーター活性の間には互いに関連性があるのではないかと考えた。そこで、DNA合成酵素λを特異的に阻害する上記ペタシフェノールが、クルクミンと同様に抗炎症活性を有するかどうかを調べた。その結果を下記の表1に示す。
Figure 2005029571
実験では、マウス耳に予め所定量のペタシフェノール(化合物1)又はクルクミン(化合物2)を塗布後、TPAによって誘発される炎症性浮腫の重量を測定することで各阻害効果を算出した(詳細は後述する)。表1に示すように、クルクミン(化合物2)は塗布量200μg・500μgのいずれの場合も炎症を抑制し(阻害効果83%)、ペタシフェノール(化合物1)は塗布量500μgの場合に強い抗炎症活性を示した(阻害効果42%)。この実験結果から、ペタシフェノールは抗炎症作用を有するものと認められた。
また、この実験結果から、ペタシフェノールは、発癌プロモーターTPAの働きを抑制する抗発癌プロモーター活性(換言すれば、抗発癌作用)を有するものと認められた。
次に、抗炎症作用を有することが知られている3種類の化合物、具体的には前記式(16)〜(18)により表される各化合物についてDNA合成酵素λ阻害作用を調べた。なお、式(16)の化合物は、テルペノ安息香酸(terpeno benzoic acid)であるmyrsinoic acid A(5-geranyl-4-hydroxy-5-(3’-methyl-2’-butenyl)-benzoic acid:以下、「MAA」という)、式(17)の化合物は、トリテルペン(triterpene)であるtormentic acid(以下、「TA」という)、式(18)の化合物は、同じくトリテルペンのeuscaphic acid(以下、「EA」という)である。
その結果、図2に示すように、これら3種類の化合物(即ち、MAA、TA及びEA)は、いずれもヒトDNA合成酵素λ阻害作用を示した。これらの化合物は、他の哺乳類のDNA合成酵素阻害作用も有していたが、今回調べた範囲ではDNA合成酵素λを最も強く阻害した。また、植物や原核生物のDNA合成酵素、その他のDNA代謝系酵素に対する阻害作用は有していなかった。
このように、今回の実験結果から、DNA合成酵素λ阻害作用、抗炎症作用および抗発癌作用の間には互いに関連性が認められ、(1)ペタシフェノールは抗炎症剤および抗発癌剤として有用であること、及び(2)抗炎症作用を有する上記3種類の化合物(MAA、TA及びEA)は、DNA合成酵素λ阻害剤としても利用し得ること、が示された。
(3)ペタシフェノール及びクルクミンの癌細胞増殖抑制効果
本発明者はさらに、ペタシフェノール及びクルクミンが癌細胞増殖抑制作用を有するかどうか検討した。その結果、図4〜図6に示すように、これらのフェノール化合物はいずれも3種類のヒト癌細胞株に対して強力な細胞増殖抑制効果を発揮した。図4は、ヒト胃癌細胞株であるNUGC−3細胞に対する増殖抑制効果を調べた結果(黒四角印はペタシフェノール、黒丸印はクルクミンの結果)であり、図5は、ペタシフェノール(化合物1)のヒト末梢血癌細胞に対する増殖抑制効果を調べた結果(白丸印はヒトB細胞由来末梢血癌細胞株であるBALL−1細胞、黒丸印はヒトT細胞由来末梢血癌細胞株であるMOLT−4細胞の結果)であり、図6は、クルクミン(化合物2)のヒト末梢血癌細胞に対する増殖抑制効果を調べた結果(白丸印はヒトB細胞由来末梢血癌細胞株であるBALL−1細胞、黒丸印はヒトT細胞由来末梢血癌細胞株であるMOLT−4細胞の結果)である。
下記の表2は、上記実験結果をまとめたものであり、化合物1・2の各癌細胞に対する50%抑制濃度(LD50)の値が示される。
Figure 2005029571
また、ペタシフェノール及びクルクミンの細胞周期に対する影響をフローサイトメトリー解析によって調べたところ、ペタシフェノールはNUGC−3細胞をG1期に停滞させ、クルクミンは同細胞をG2/M期に停滞させた(図7参照)。
以上のように、今回の実験結果から、DNA合成酵素λを特異的に阻害するペタシフェノール及びクルクミンが、いずれも実際に複数のヒト癌細胞株に対する細胞増殖抑制効果を発揮し、抗癌剤として利用し得ることが示された。
(4)本発明の利用分野(有用性)
本発明者がふきのとうから単離・精製したペタシフェノール、即ち、前記式(1)により表される化合物は、前述のように、DNA合成酵素λ選択的阻害剤としての利用に止まらず、抗癌剤および抗炎症剤として医薬品等への応用が可能であり、その薬理上許容される塩についても同様に医薬品等への応用が可能である。
なお、従来の抗癌剤は、その多くが発生した癌細胞を殺すこと並びに癌細胞の増殖抑制作用を有するものであったが、近年発癌防止を目的とした抗発癌剤の開発も進められている。この点について、特開平9−176184号公報に記載されるように、正常細胞の癌化のステップにおいて、「イニシエーター」と「プロモーター」とが関係しており、正常細胞の癌化は「(1)正常細胞の染色体がイニシエーターによりDNAレベルでの障害を受けて潜在的腫瘍細胞に変化する。(2)潜在的腫瘍細胞にプロモーターが作用して腫瘍細胞に変化させる。」の2段階を経て起こるという発癌2段階説が一般化しつつある。 このプロモーターとしての作用を持つ化合物の代表として前記TPA等が知られており、癌研究の場でこのような発癌プロモーターを用いた発癌実験が行われると共に、発癌予防及び抗発癌剤の探索においてこのような発癌プロモーターの作用を阻害する抗発癌プロモーターの探索が進められている。
本発明のペタシフェノールは、前述のように、TPAによって誘発される炎症を抑制する作用を有しており、発癌プロモーターTPAの働きを抑制する作用を有するものと認められる。したがって、本発明のペタシフェノール、並びに同様の作用を有する他の化合物は、発癌プロモーター抑制剤および抗発癌剤(換言すれば、発癌防止剤・発癌抑制剤)として有用であり、本発明における「抗癌剤」は、このような発癌プロモーター抑制作用を有する抗発癌剤を含む意味で用いている。
また、本発明における「その薬理上許容される塩」の塩としては、フッ化水素酸塩、塩酸塩などのハロゲン化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの無機酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、スルホン酸塩、有機酸塩、及び、アミノ酸塩が挙げられ、好適には塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩を挙げることができる。
ペタシフェノールと構造が類似するクルクミン及びその誘導体(即ち、前記式(2)及び式(3)〜(15)により表される化合物)、並びにその薬理上許容される塩についても、DNA合成酵素λ阻害剤として、さらにこのような阻害能をもつ生化学試薬として、また、抗癌剤あるいは抗炎症剤として医薬品等への利用が可能である。
前記MAA、TA及びEAの3種類の化合物(即ち、前記式(16)〜(18)により表される化合物)、並びにその薬理上許容される塩についても、DNA合成酵素λ阻害剤として、さらにこのような阻害能をもつ生化学試薬として、また、抗癌剤として医薬品等への利用が可能である。
本発明の各化合物、及びその薬理上許容される塩は、植物などから単離・精製した天然物であってもよいし、公知の合成方法により合成したものであってもよい。例えば、ペタシフェノールは、文献Biochemistry, 2002, 41, 14463-14471頁記載の方法によって単離・精製することができるが、この方法に限定されるものではなく、適宜改変・改良を加えた方法やさらに別工程を付加した方法であってもよく、また、合成したものであってもよい。化合物3〜15の製造方法についても特に限定されるものではないが、後述の実施例において使用したこれら化合物の合成方法を例示すれば次のとおりである。
化合物3の合成:市販のクルクミン(化合物2)200mgをピリジン5mlに溶解し、室温で無水酢酸を0.2ml加えて1時間撹拌した。反応液を酢酸エチルで希釈し、飽和酢酸ナトリウム水溶液を加え有機層を分取した。水層を酢酸エチルで2回抽出した。有機層と一緒にして飽和食塩水で洗い、乾燥、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し185mgを得た。
化合物4,5の合成:市販のクルクミン(化合物2)500mgをアセトン15mlに溶解し、炭酸カリウム1.88gとヨードメタン1.69mlを加え、一晩加熱還流した。固形物をろ過、ろ液を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物4,5を得た。
化合物6の合成:市販のクルクミン(化合物2)200mgをテトラヒドロフラン5mlに溶解し、水素化ホウ素ナトリウム41mgを加え、室温で一晩撹拌した。メタノールで希釈し、1時間撹拌後、反応液を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し86mgを得た。
化合物7,8,9の合成:市販のクルクミン(化合物2)100mgを酢酸エチルに溶解し、10%パラジウムカーボン5mgを加え、反応容器内を水素で置換し、室温で4時間撹拌した。反応液をセライト層を通してろ過し、ろ液を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物7を44.5mg、化合物8を27.3mg、化合物9を16.1mg得た。
化合物10,11の合成:市販のクルクミン(化合物2)500mgをジメチルホルムアミド10mlに溶解しイミダゾール278mgとtert-ブチルクロロジメチルシラン225mgを加え、室温で90分撹拌した後、さらに、tert-ブチルクロロシラン103mgを加え、10分間室温で撹拌した。反応液に水を加え、酢酸エチルで有機層を分取した。水層を酢酸エチルで2回抽出した。有機層と一緒にして飽和食塩水で洗い、乾燥、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製しモノTBS(tert-ブチルジメチルシリル基)体243mgを得た。モノTBS体20mgをジメチルホルムアミド400μlに溶解し、トリエチルアミン20μl、塩化アセチル5μlを順に加え、室温で30分撹拌した。反応液に水を加え、有機層を酢酸エチルで分取した。水層を酢酸エチルで2回抽出した。有機層と一緒にして飽和食塩水で洗い、乾燥、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製しアセチル体6.5mgを得た。アセチル体6.5mgをテトラヒドロフラン1mlに溶解し、テトラ-n-ブチルアンモニウムフルオリド4.2mgを加え、3分間撹拌した後、緩衝液を加え、酢酸エチルで有機層を分取した。水槽を酢酸エチルで抽出した。有機層と一緒にして飽和食塩水で洗い、乾燥、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物10を2mg得た。
モノTBS体20mgをテトラヒドロフラン10mlに溶解し、メタノール5μl、トリフェニルホスフィン27.8mg、アゾジカルボン酸ジイソプロピル(40%トルエン溶液)57μlを順に加え、室温で一晩撹拌した。反応液を減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィーで精製し、トリメチル体を2.5mg得た。トリメチル体2.5mgをテトラヒドロフラン200μlに溶解し、テトラ-n-ブチルアンモニウムフルオリド1.3mgを加え、3分間撹拌した後、緩衝液を加え、酢酸エチルで有機層を分取した。水槽を酢酸エチルで抽出した。有機層と一緒にして飽和食塩水で洗い、乾燥、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物11を0.8mg得た。
化合物12,13,14の合成:化合物3 20mgを酢酸エチル5mlに溶解し、10%パラジウムカーボン2mgを加え、反応容器内を水素で置換し、室温で1時間撹拌した。反応液をセライト層を通してろ過し、ろ液を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物12を10.6mg、化合物13を1.1mg、化合物14を2.8mg得た。
化合物15の合成:化合物3 50mgをアセトン5mlに溶解し、炭酸カリウム153mgとヨードメタン138μlを加え、一晩加熱還流した。固形物をろ過、ろ液を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物15を32.3mg得た。
本発明の医薬品への利用には、本発明の化合物を医薬品開発過程におけるリード化合物として利用することも含まれる。なお、本発明の化合物を体内投与する際は経口投与よりも非経口投与が好ましく、またリポソームなどの運搬体に封入して投与することが好ましい。このとき癌細胞を特異的に認識する運搬体などを利用すれば、標的部位(病変部位)に本発明の化合物を効率よく運ぶことができ効果的である。
また本発明の化合物は、医薬品への利用以外に、飲食品へ添加・配合することにより抗癌効果、抗発癌効果、あるいは抗炎症効果をもった健康食品として利用することも可能である。
次に、本発明の化合物を配合してなる医薬用組成物および食用組成物について説明する。本発明の化合物を有効成分とする抗癌剤および抗炎症剤は、これをそのまま、あるいは慣用の医薬製剤担体とともに医薬用組成物となし、動物およびヒトに投与することができる。医薬用組成物の剤形としては特に制限されるものではなく必要に応じて適宜選択すればよいが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤が挙げられ、好適には非経口剤を挙げることができる。
本発明において錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤としての経口剤は、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。これらの製剤中の本発明の化合物の配合量は特に限定されるものではなく適宜設計できる。この種の製剤には本発明の化合物の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を適宜に使用することができる。
ここに、結合剤としてデンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等を例示できる。崩壊剤としてはデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース等を例として挙げることができる。界面活性剤の例としてラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、蔗糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等を挙げることができる。滑沢剤では、タルク、ロウ類、水素添加植物油、蔗糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール等を例示できる。流動性促進剤では、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等を例として挙げることができる。また、本発明の化合物は懸濁液、エマルション剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができ、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有させてもよい。
非経口剤として本発明の所望の効果を発現せしめるには、患者の年齢、体重、疾患の程度により異なるが、通常、成人で本発明の化合物の重量として1日あたり1〜60mgの静注、点滴静注、皮下注射、筋肉注射が適当である。この非経口投与剤は常法に従って製造され、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、ラッカセイ油、大豆油、トウモロコシ油、プロピレングリコール等を用いることができる。さらに必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤を加えてもよい。また、この非経口剤は安定性の点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥処理により水分を除き、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。さらに必要に応じて、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤を加えてもよい。これら製剤中の本発明の化合物の配合量は特に限定されるものではなく任意に設定できる。その他の非経口剤の例として、外用液剤、軟膏等の塗布剤、直腸内投与のための坐剤等が挙げられ、これらも常法に従って製造される。
本発明の他の組成物の好適な態様は食用組成物である。即ち、本発明の化合物は、これをそのまま液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキー等に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦形剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、またゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品や栄養補助食品等として利用できる。
なお、ヒトと他の哺乳動物のDNA合成酵素の構造は殆ど同じであるため、本発明のDNA合成酵素λ阻害剤は、ヒト以外の哺乳動物由来のDNA合成酵素λ阻害剤としても利用可能である。
また、前述のように、DNA合成酵素λ阻害作用、抗炎症作用および抗発癌作用の間には互いに関連性が認められ、DNA合成酵素λを特異的に阻害するペタシフェノールは、TPAによって誘発される慢性炎症を抑制した。この結果は、TPAによる慢性炎症の発症においてDNA合成酵素λが重要な役割を担っている可能性を示すものである。また、TPAは、慢性炎症を誘発するのみならず、発癌プロモーターとして哺乳類の細胞増殖を促進する。DNA合成酵素λ特異的阻害剤であるペタシフェノールは、このような発癌プロモーターTPAの働きを抑制する抗発癌作用を示した。したがって、DNA合成酵素λに対する阻害活性を調べることにより、抗癌剤または抗炎症剤の候補化合物の効率的なスクリーニングが期待できる。本発明には、このようなスクリーニング方法、及び同スクリーニング方法を用いて選ばれた化合物を有効成分とする医薬組成物(抗癌剤・抗炎症剤)も含まれる。なお、本スクリーニング方法において、DNA合成酵素λに対する阻害活性を調べる方法は後述の実施例記載の方法に限定されるものではなく、公知の試験方法の中から適した方法を選択すればよい。
以下図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
〔実施例1:ペタシフェノール及びその構造類似物質のDNA合成酵素λ阻害作用〕
ペタシフェノール及びクルクミンのDNA合成酵素群に対する活性を以下の方法で測定した。
ペタシフェノールは、Biochemistry, 2002, 41, 14463-14471頁記載の方法によりふきのとう(Petasites japonicus)から単離・精製したものを使用し、クルクミンは市販のものを使用した。
DNA合成酵素として哺乳動物由来のDNA合成酵素α、β、δ、εおよびλについて試験を行った。ウシDNA合成酵素αおよびδは、牛胸腺から常法により抽出精製した標品を、ラットDNA合成酵素βおよびヒトDNA合成酵素λは、大腸菌発現系を用いて生産し抽出精製した標品を、ヒトDNA合成酵素εはヒト子宮癌(HeLa)細胞の抽出液からサブユニットカラムクロマトグラフィー、抗体カラムクロマトグラフィーで精製した標品を用いた。
これらのDNA合成酵素に対するペタシフェノール及びクルクミンの阻害作用の測定には、一般的なDNA合成酵素反応系(日本生化学会編、新生化学実験講座2,核酸IV、東京化学同人、第63頁〜66頁)を用いた。すなわち、放射性同位元素で標識した[3H]-TTPを含む系においてDNA合成反応を行い、放射比活性を生成物(合成DNA鎖)量の指標とするものである。阻害率は、(a)コントロールでの合成DNA量、(b) ペタシフェノールまたはクルクミン存在下での合成DNA量について、
(a - b) / a × 100 = 阻害率(%)
として評価した。得られた結果を図1(a)(b)の各グラフに示す。グラフ中、黒丸印はλ型のDNA合成酵素に対する阻害結果を示し、菱形印、四角印、三角印、逆三角印は、それぞれα型、β型、δ型、ε型のDNA合成酵素に対する阻害結果を示す。同図に示すように、ペタシフェノール及びクルクミンはDNA合成酵素α、β、δ、εおよびλのうち、DNA合成酵素λを選択的に阻害した。ペタシフェノール及びクルクミンは濃度依存的にDNA合成酵素λを阻害し、その50%阻害濃度(IC50)はそれぞれ約7.8μM、7.0μMであった。
また同様の方法で、各種DNA合成酵素およびDNA代謝系酵素に対する酵素活性阻害作用についても調査した。その結果、図2に示すように、ペタシフェノール及びクルクミンは、いずれもin vitroにおいてヒトDNA合成酵素λのみを特異的に阻害し、他の哺乳類DNA合成酵素、植物や原核生物のDNA合成酵素、その他のDNA代謝系酵素に対する阻害作用を有しなかった。
次に、クルクミンの誘導体、具体的には前記式(3)〜(15)により表される各化合物を化学合成し、各化合物のDNA合成酵素阻害活性を調査した。その結果を図3に示す。実験では、哺乳動物由来のDNA合成酵素α、βおよびλに対する阻害を調査した。同図に示すように、上記クルクミン誘導体はDNA合成酵素λ阻害作用を示した。図中、化合物1はペタシフェノール、化合物2はクルクミン、化合物3〜15はそれぞれ前記式(3)〜(15)により表される化合物を意味する。化合物3は、化合物1(ペタシフェノール)及び化合物2(クルクミン)よりもDNA合成酵素λを強く阻害した。また、化合物10は、化合物1〜15の中で最も強くDNA合成酵素λを阻害した。
〔実施例2:ペタシフェノールの抗炎症作用と抗炎症物質のDNA合成酵素λ阻害作用〕
ペタシフェノールがクルクミンと同様に抗炎症活性を有するかどうかを、TPAを用いたマウス耳炎症試験によって調査した。試験は、基本的にCancer Lett. 1984, 25, 177-85頁記載の方法にしたがって行い、マウスの一方の耳にペタシフェノール(化合物1)又はクルクミン(化合物2)を200μgもしくは500μg塗布し、30分後、同じ箇所と反対側の耳にTPAを0.5μg塗布する。7時間後、TPAによって誘発される炎症性浮腫の重量を測定し、コントロール(反対側の耳)と比較することで各阻害効果を算出した。
その結果、前記表1に示すように、クルクミン(化合物2)は塗布量200μg・500μgのいずれの場合も炎症を抑制し(阻害効果83%)、ペタシフェノール(化合物1)は塗布量500μgの場合に強い抗炎症活性を示した(阻害効果42%)。
次に、抗炎症作用を有することが知られている前記MAA、TA及びEAの3種類の化合物についてDNA合成酵素λ阻害作用を調べた。MAAは、Biochim Biophys Acta 2000, 1475, 1-4頁記載の方法によりタイミンタチバナ(Myrsine seguinii)から単離・精製したものを使用し、TA及びEAは、Biochim Biophys Acta 2002, 1596, 193-200頁記載の方法によりホウロクイチゴ(Rubus sieboldii)から単離・精製したものを使用した。また、阻害作用の測定は、実施例1と同様に行った。
その結果、図2に示すように、これら3種類の化合物(即ち、MAA、TA及びEA)は、いずれもヒトDNA合成酵素λ阻害作用を示した。これらの化合物は、他の哺乳類のDNA合成酵素阻害作用も有していたが、今回調べた範囲ではDNA合成酵素λを最も強く阻害した。また、植物や原核生物のDNA合成酵素、その他のDNA代謝系酵素に対する阻害作用は有していなかった。
〔実施例3:ペタシフェノール及びクルクミンの癌細胞増殖抑制効果〕
次に、ペタシフェノール及びクルクミンが癌細胞増殖抑制作用を有するかどうか検討した。実験では、ヒト胃癌細胞株であるNUGC−3細胞、ヒトB細胞由来末梢血癌細胞株であるBALL−1細胞、ヒトT細胞由来末梢血癌細胞株であるMOLT−4細胞の3種類の癌細胞を使用し、種々の濃度のペタシフェノール又はクルクミンを添加してインキュベーションし、48時間後、各癌細胞の生存率をMTTアッセイにより決定した。
その結果、図4〜図6に示すように、ペタシフェノール及びクルクミンはいずれも3種類のヒト癌細胞株に対して濃度依存的に強力な細胞増殖抑制効果を発揮した。図4は、NUGC−3細胞に対する増殖抑制効果を調べた結果(黒四角印はペタシフェノール、黒丸印はクルクミンの結果)であり、図5は、ペタシフェノール(化合物1)のヒト末梢血癌細胞に対する増殖抑制効果を調べた結果(白丸印はBALL−1細胞、黒丸印はMOLT−4細胞の結果)であり、図6は、クルクミン(化合物2)のヒト末梢血癌細胞に対する増殖抑制効果を調べた結果(白丸印はBALL−1細胞、黒丸印はMOLT−4細胞の結果)である。
また、ペタシフェノール及びクルクミンの細胞周期に対する影響をフローサイトメトリー解析によって調べた。その結果を図7に示す。
66μMのペタシフェノールで48時間インキュベーションするとNUGC−3細胞はG1期に停滞した(コントロールと比較してG1期は14.9%増加、G2/M期は4.3%減少)。一方、13μMのクルクミンで48時間インキュベーションすると同細胞はG2/M期により多く分布した(コントロールと比較してG2/M期は25.6%増加、G1期は0.4%減少)。また、これらの分布傾向はインキュベーション時間に依存しており、NUGC−3細胞の代わりにHeLa細胞を用いた実験でもペタシフェノール及びクルクミンはそれぞれ細胞を細胞周期のG1期とG2/M期とに停滞させた(データ示さず)。
これらの実験結果から、DNA合成酵素λを特異的に阻害するペタシフェノール及びクルクミンが、いずれも実際に複数のヒト癌細胞株に対する細胞増殖抑制効果を発揮し、抗癌剤として利用し得ることが示された。
以上のように、本発明は、ペタシフェノール、クルクミン及びその誘導体などDNA合成酵素λ阻害作用を有する化合物に関するものであり、前述したとおり、DNA合成酵素λ阻害剤として、生化学試薬として、さらには抗癌剤および抗炎症剤として医薬品等へ利用できるほか種々の有用性を有するものである。
(a)は、ペタシフェノールのDNA合成酵素λ選択的阻害作用を示すグラフであり、(b)は、クルクミンのDNA合成酵素λ選択的阻害作用を示すグラフである。 ペタシフェノール、クルクミン、MAA、TAおよびEAの哺乳類DNA合成酵素、植物や原核生物のDNA合成酵素、その他のDNA代謝系酵素に対する阻害作用を調べた結果を示す図である。 DNA合成酵素α、β、λに対するペタシフェノール、クルクミンおよびクルクミン誘導体の阻害作用を調べた結果を示すグラフである。 NUGC−3細胞に対するペタシフェノール及びクルクミンの増殖抑制効果を調べた結果を示すグラフである。 ペタシフェノールのヒト末梢血癌細胞に対する増殖抑制効果を調べた結果を示すグラフである。 クルクミンのヒト末梢血癌細胞に対する増殖抑制効果を調べた結果を示すグラフである。 ペタシフェノール及びクルクミンの細胞周期に対する影響をフローサイトメトリー解析によって調べた結果を示す図である。

Claims (9)

  1. 下記の式(1)により表される化合物、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする抗癌剤。
    Figure 2005029571
  2. 下記の式(1)により表される化合物、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする抗炎症剤。
    Figure 2005029571
  3. 下記の式(2)〜(15)の何れかにより表される化合物、又はその薬理上許容される塩を有効成分とするDNA合成酵素λ阻害剤。
    Figure 2005029571

    Figure 2005029571
  4. 請求項3記載の式(3)〜(15)の何れかにより表される化合物、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする抗癌剤。
  5. 請求項3記載の式(3)〜(15)の何れかにより表される化合物、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする抗炎症剤。
  6. 下記の式(16)〜(18)の何れかにより表される化合物、又はその薬理上許容される塩を有効成分とするDNA合成酵素λ阻害剤。
    Figure 2005029571
  7. 請求項6記載の式(16)〜(18)の何れかにより表される化合物、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする抗癌剤。
  8. DNA合成酵素λに対する阻害活性を調べることにより、抗癌剤または抗炎症剤の候補化合物をスクリーニングする方法。
  9. 請求項8記載のスクリーニング方法を用いて選ばれた化合物を有効成分とする医薬組成物。

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