JP2005028644A - インクジェットヘッド及びその製造方法、インクジェット記録装置 - Google Patents

インクジェットヘッド及びその製造方法、インクジェット記録装置 Download PDF

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Kazufumi Otani
和史 大谷
Katsuharu Arakawa
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Abstract

【課題】低電圧で駆動することができるインクジェットヘッド及びこのインクジェットヘッドの生産性の高い製造方法、このインクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】ノズル孔4と、吐出室5と、振動板8と、該振動板8に対して長手方向及び短手方向のいずれか一方又は両方で非平行な状態となって対向する電極12と、該電極12が形成される電極基板2とを備えたインクジェットヘッドであって、(111)結晶面が基板表面に対して所定の角度に傾いた単結晶シリコン基板に、振動板8と電極12との間のギャップの形状に対応する凹部11を形成して電極基板2が作成され、該凹部11の底面の一部又は全部が、基板表面に対して所定の角度に傾いた(111)結晶面からなるものである。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、静電駆動方式のインクジェットヘッド及びその製造方法、インクジェット記録装置に関し、特に、低電圧で駆動することのできるインクジェットヘッド及びこのインクジェットヘッドの安価で生産性の高い製造方法、このインクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置、プロッタ等の画像記録装置(画像形成装置)として用いるインクジェット記録装置において使用するインクジェットヘッドは、インク等の液滴を吐出するノズル孔と、このノズル孔が連通する吐出室(圧力室、加圧液室、液室、インク流路とも称される)と、この吐出室内の液滴を加圧するエネルギーを発生するエネルギー発生手段(アクチュエータ)とを備え、エネルギー発生手段を駆動することで吐出室内の液滴を加圧してノズル孔から液滴を吐出するものであり、記録に必要なときにのみ液滴を吐出するインク・オン・デマンド方式のものが主流である。
【0003】
従来、吐出室内の液滴を加圧するエネルギーを発生するエネルギー発生手段として圧電素子を用いて吐出室の壁面を形成する振動板を変形させて吐出室内の容積を変化させて液滴を吐出させるようにしたもの、或いは、発熱抵抗体を用いて吐出室内で液滴を加熱して気泡を発生させることによる圧力で液滴を吐出させるようにしたものなどが知られている。
しかしながら、前者の圧電素子を用いる方式においては、振動板に圧電素子のチップを貼り付ける工程が複雑であり、後者のインクを加熱する方式においては、圧電素子を用いる場合の問題は生じないものの、発熱抵抗体の急速な加熱、冷却の繰り返し、気泡消滅時の衝撃によって、発熱抵抗体がダメージを受けるために、総じてインクジェットヘッドの寿命が短くなるなどの不都合がある。
【0004】
そこで、こうした問題を解決するものとして、吐出室の壁面を形成する振動板と電極を平行に配置し(これにより形成されるギャップを「平行ギャップ」と称する)、振動板と電極との間に発生させる静電力によって振動板を変形させることで、吐出室内の容積を変化させて液滴を吐出させる、いわゆる静電駆動方式のインクジェットヘッドが提案されている(例えば、特許文献1参照)
ところで、このような静電駆動方式のインクジェットヘッドにおいて、振動板の変位量は、振動板のノズル配列方向(短辺方向)の長さの4乗に比例する。従って、高速、高画質印字を行うためにノズルを高密度で配置すると、振動板のノズル配列方向(短辺方向)の長さが短くなるため振動板の変位量が小さくなることとなる。
【0005】
そこで、振動板の変位量を確保して必要とする吐出する液滴の量を得ようとすると、振動板の厚さを薄くするか、振動板と電極とのギャップ長(寸法)を狭くするか、駆動電圧を大きくすることが必要になる。
しかしながら、振動板の厚さを薄くすることは振動板の剛性が低下して液滴の吐出力の低下を招くことになり、振動板と電極のギャップ長(寸法)を狭くすることは振動板の最大変位量が小さくなり、液滴の吐出量が減少してインクかすれ等の原因になり、駆動電圧を大きくすることは消費電力が高くなることとなる。
【0006】
そこで振動板と電極との間のギャップを階段状にして、ギャップ寸法が段階的に変化するようにすることにより低電圧駆動の実現を図るインクジェットヘッドがあった(例えば、特許文献2参照)。
また、振動板と電極との間のギャップの断面形状が台形状になるようにして、振動板に対して電極を斜めに傾斜して配置することにより、振動板と電極が非平行な状態で対向するようにし(このようなギャップを「非平行ギャップ」と称する)、低電圧駆動を実現するようにしたインクジェットヘッドがあった(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
【特許文献1】
特開平6−71882号公報(図1、図2)
【特許文献2】
特開平9−39235号公報(図1、図4、図5)
【特許文献3】
特開2001−47628号公報(図1、図3)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の非平行ギャップを有するインクジェットヘッドでは(例えば、特許文献3参照)、非平行ギャップとなる凹部を異方性ドライエッチングで形成しているため加工精度が悪く、電極を形成する部分の表面が荒れてしまうという問題点があった。
また、従来の非平行ギャップを有するインクジェットヘッドの製造方法では(例えば、特許文献3参照)、電極を形成するシリコン基板にフォトレジスト層を積層し、このフォトレジスト層を露光、現像等した後に異方性ドライエッチングにより電極を形成する凹部を形成するため、製造工程が複雑となり製造コストが高くなるという問題点があった。
【0009】
本発明は、低電圧で駆動することができ、高精度に形成された非平行ギャップを有するインクジェットヘッド及びこのインクジェットヘッドの安価で生産性の高い製造方法、このインクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るインクジェットヘッドは、液滴を吐出するノズル孔と、該ノズル孔と連通する吐出室と、該吐出室の壁面の一部を形成する振動板と、該振動板に対して長手方向及び短手方向のいずれか一方又は両方で非平行な状態となって対向する電極と、該電極が形成される電極基板とを備え、振動板と電極との間の静電力で振動板を変位させてノズル孔から液滴を吐出するインクジェットヘッドであって、(111)結晶面が基板表面に対して所定の角度に傾いた単結晶シリコン基板に、振動板と電極との間のギャップの形状に対応する凹部を形成して電極基板が作成され、該凹部の底面の一部又は全部が、基板表面に対して所定の角度に傾いた(111)結晶面からなるものである。
電極基板に、(111)結晶面が基板表面に対して所定の角度に傾いた単結晶シリコン基板を使用することにより、異方性ウェットエッチングによって容易に非平行ギャップとなる凹部を形成することができる。また、このようにして得られた電極基板の凹部は、加工精度及び表面状態が良好なものである。
【0011】
また本発明に係るインクジェットヘッドは、上記の凹部が、異方性ウェットエッチングによって形成されるものである。
上記のような(111)結晶面が基板表面に対して所定の角度に傾いた単結晶シリコン基板に、異方性ウェットエッチングによって容易に凹部を形成することができる。また、この異方性ウェットエッチングによって形成された凹部は加工精度及び表面状態が良好なものである。また、異方性ウェットエッチングは一度に加工できる基板枚数が多いため、生産性の高いインクジェットヘッドを得ることができる。
【0012】
また本発明に係るインクジェットヘッドは、上記の異方性ウェットエッチングにおいて、水酸化カリウム水溶液を使用して凹部が形成されるものである。
異方性ウェットエッチングにおいて水酸化カリウム水溶液を使用すれば、(111)結晶面がほとんどエッチングされないため、高精度の凹部を容易に形成することができる。また、水酸化カリウム水溶液はエッチング速度が速いため、短時間で凹部を形成することができる。さらに水酸化カリウム水溶液は安価なため、コストが低く生産性の高いインクジェットヘッドを得ることができる。
【0013】
本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、液滴を吐出するノズル孔と、該ノズル孔と連通する吐出室と、該吐出室の壁面の一部を形成する振動板と、該振動板に対して長手方向及び短手方向のいずれか一方又は両方で非平行な状態となって対向する電極と、該電極が取り付けられる電極基板とを備え、前記振動板と前記電極との間の静電力で前記振動板を変位させて前記ノズル孔から液滴を吐出するインクジェットヘッドの製造方法であって、(111)結晶面が基板表面に対して所定の角度に傾いた単結晶シリコン基板に、振動板と電極との間のギャップの形状に対応する凹部を形成して電極基板を作成するものである。
電極基板に、(111)結晶面が基板表面に対して所定の角度に傾いた単結晶シリコン基板を使用することにより、異方性ウェットエッチングによって容易に非平行ギャップとなる凹部を形成することができる。また、このようにして得られた電極基板の凹部は、加工精度及び表面状態が良好なものである。
【0014】
また本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、上記の凹部を、異方性ウェットエッチングによって形成するものである。
上記のような(111)結晶面が基板表面に対して所定の角度に傾いた単結晶シリコン基板に、異方性ウェットエッチングによって容易に凹部を形成することができる。また、この異方性ウェットエッチングによって形成された凹部は加工精度及び表面状態が良好なものである。また、異方性ウェットエッチングは一度に加工できる基板枚数が多いため、生産性の高いインクジェットヘッドの製造方法である。
【0015】
また本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、上記の凹部を異方性ウェットエッチングで形成するときに、水酸化カリウム水溶液を使用するものである。
異方性ウェットエッチングにおいて水酸化カリウム水溶液を使用すれば、(111)結晶面がほとんどエッチングされないため、高精度の凹部を容易に形成することができる。また、水酸化カリウム水溶液はエッチング速度が速いため、短時間で凹部を形成することができる。さらに水酸化カリウム水溶液は安価なため、コストが低く生産性の高いインクジェットヘッドの製造方法である。
【0016】
また本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、上記の凹部を形成する前において、単結晶シリコン基板に熱酸化膜を形成し、該熱酸化膜にフォトリソグラフィーにより凹部に対応する部分をパターニングした後に、凹部に対応する部分の熱酸化膜を除去するものである。
凹部を形成する前に、熱酸化膜でエッチングマスクを形成すれば、安価でかつ容易に凹部を形成することができる。また、フォトリソグラフィーによりパターニングした後に凹部に対応する部分の熱酸化膜を除去すれば、フォトレジスト層を露光、現像等するのに比べて低コストで凹部を形成することができる。
【0017】
また本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、上記の振動板が形成される部材が、単結晶シリコン基板から作成されるものである。
振動板が形成される部材(キャビティ基板)には、吐出室、リザーバー等が形成されるが、この部材を単結晶シリコン基板から作成することにより、ウェットエッチングによって容易に吐出室等を形成することができる。また、単結晶シリコン基板同士は直接接合によって接合できるため、振動板が形成される部材と電極基板とを接着剤等を用いずに容易にかつ高精度に接合することができる。
【0018】
また本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、上記の振動板が形成される部材と電極基板を、直接接合により接合したものである。
単結晶シリコン基板同士は直接接合によって接合できるため、振動板が形成される部材と電極基板を接着剤等を用いずに容易にかつ高精度に接合することができる。
【0019】
本発明に係るインクジェット記録装置は、上記のいずれかのインクジェットヘッドを搭載したものである。
上記のインクジェットヘッドは高精度なため、これを備えたインクジェット記録装置は吐出精度が高いものである。また、インクジェットヘッドが低コストで製造できるため、インクジェット記録装置の製造コストも抑えることができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
実施形態1.
図1は本発明の実施形態1に係るインクジェットヘッドの短手方向の断面図であり、図2はこのインクジェットヘッドの長手方向の断面図である。なお、インクジェットヘッドの短手方向及び長手方向とは、振動板及びそれに対向する電極の短手方向及び長手方向のことをいう。図1に示すインクジェットヘッドは、単結晶シリコン基板からなるキャビティ基板1と、このキャビティ基板1の下側に設けられた単結晶シリコン基板からなる電極基板2と、キャビティ基板1の上側に設けられたノズル板3から構成されている。ノズル板3には複数のノズル孔4が設けられており、各ノズル孔4に連通し液滴の流路となる吐出室5、各吐出室5にオリフィス6(図2参照)を介してインク等の液滴を供給するリザーバー7(図2参照)などが形成されている。なおキャビティ基板1は、単結晶シリコン基板でなく、多結晶シリコン基板、SOI(Silicon On Insulator、絶縁体上シリコン)基板等から作成してもよい。
【0021】
キャビティ基板1には、吐出室5となる凹部、オリフィス6となる凹部、リザーバー7となる凹部が形成されており、オリフィス6となる凹部は、吐出室5となる凹部、リザーバー7となる凹部よりも浅く形成されている。また、キャビティ基板1の、吐出室5となる凹部の底面は振動板8となっている。振動板8の厚さは使用目的、変位範囲、駆動電圧等に基づき最適な厚さを選択するが、通常1.0μmから20μmの範囲内で設定することが多い。
なお図1では、短手方向にノズル孔4及び吐出室5が1つだけ形成されたインクジェットヘッドを示しているが、一般的には多数のノズル孔4及び吐出室5が設けられる。また図1は便宜上、短手方向の縮尺を大きくしている。
【0022】
本実施形態1では、キャビティ基板1を単結晶シリコン基板から形成しているが、キャビティ基板1となる単結晶シリコン基板の下面側に予め振動板8の厚さにボロン等の不純物を拡散してエッチングストップ層となる高濃度不純物拡散層を形成している。そしてキャビティ基板1と電極基板2を接合した後に、吐出室5となる凹部、オリフィス6となる凹部及びリザーバー7となる凹部を、水酸化カリウム水溶液等のエッチング液を用いて異方性エッチングすることで形成する。このとき高濃度不純物拡散層がエッチングストップ層となって高濃度不純物拡散層からなる振動板8が形成される。このとき高濃度不純物拡散層はほとんどエッチングされないため、所望の厚さの振動板8を得ることができる。
なお、キャビティ基板1をSOI基板から作成する場合には、酸化シリコン層をエッチングストップ層として振動板8を形成することができる。また、CVD(Chemical Vapor Deposition,化学蒸着法)装置等を使用して多結晶シリコン薄膜を形成し、この多結晶シリコン薄膜を振動板8としてもよい。
【0023】
なお図1及び図2では、振動板8と吐出室5となる凹部をキャビティ基板1に形成しているが、振動板8となる部材と吐出室5の側壁となる部材を別部材としてもよい。例えば、単結晶シリコン基板を電極基板2と接合し、その後、振動板の厚さとなるまで単結晶シリコン基板を研磨して振動板を形成し、これに吐出室5の側壁となる部材(液室隔壁部材)を接合することができる。
振動板8には、後に示すように電圧が印加されるが、別途電極膜を設けることもできる。また、振動板8の下面には絶縁膜を形成してもよい。この絶縁膜は熱酸化による酸化シリコン膜や、CVD装置を使用した窒化シリコン膜により形成することができる。
【0024】
電極基板2には、全面に酸化シリコンからなる絶縁膜10が形成されている。また、電極基板2には凹部11が形成されており、この凹部11の底面には電極12が設けられている。さらに、電極基板2の上面全体には電極12を覆うように電極保護膜13が形成されている。このように、凹部11の底面に電極12が設けられ、振動板8と対向することにより駆動機構(アクチュエータ)が形成されることとなる。この駆動機構の作用については後に詳述する。電極基板2の上面の電極保護膜13は、CVD装置によって酸化シリコン膜や窒化シリコン膜を成膜することにより形成することができる。なお、この電極保護膜13に代えて上記のように振動板8の下面に絶縁膜を形成してもよく、振動板8の下面の絶縁膜と電極保護膜13の両方を形成してもよい。
【0025】
電極基板2として用いる単結晶シリコン基板は、直径が4インチのシリコンウエハであれば厚さが500μm程度、直径が6インチのシリコンウエハであれば厚さが600μm程度であることが多い。
キャビティ基板1及び電極基板2が単結晶シリコン基板である場合には、キャビティ基板1と電極基板2との接合は、接着剤による接合も可能であるが、より信頼性の高い物理的な接合、例えば酸化膜を介した直接接合法を用いることができる。また、陽極接合を用いる場合にはキャビティ基板1と電極基板2との間にホウ珪酸ガラスを成膜して、この膜を介して陽極接合を行うこともできる。
【0026】
電極基板2の凹部11の底面に設けられる電極12は、通常の半導体素子の形成プロセスで用いられるITO(Indium Tin Oxide、インジウム錫酸化物)等の金属材料、又は不純物により低抵抗化した多結晶シリコン材料等を用いることができる。また、電極12として不純物拡散領域を用いることもできる。例えば、電極基板2にP型のシリコン基板を用い、電極12の部分を不純物を拡散することによりN型にしてPN接合を形成し、電極基板2と電極12を空乏層で電気的に絶縁することができる。
【0027】
電極12は、振動板8に対して短手方向の一部で非平行になっており、その残りの部分で平行な状態で対向している。また長手方向には、この短手方向の断面形状が続く状態で電極12が延びている(図1、図2参照)。すなわち、凹部11が電極12と振動板8との間のギャップを形成し、短手方向における断面形状で一方の端部から振動板8に対して傾斜した傾斜領域と、この傾斜領域に連続して振動板8とほぼ平行な平行領域を持って他方の端部へ延びている。電極12の傾斜領域の始点14は、電極保護膜13を介して振動板8と接触する状態になっている。
なお本実施形態1では、凹部11を短手方向に非平行な部分と平行な部分からなるように形成し、長手方向でこの断面形状が続くようにしているが、凹部11を短手方向に平行な状態にして長手方向で非平行になるように傾斜させてもよい。また、短手方向と長手方向の両方が非平行になるように傾斜させてもよい。
【0028】
電極基板2の凹部11の短手方向及び長手方向の長さ、ギャップの深さ等の寸法は、使用目的、振動板8の変位範囲、駆動電圧等により選択されるが、一般的には、短手方向の長さが60〜500μm、長手方向の長さが200〜4000μm、ギャップの深さが0.1〜5.0μmの範囲で設定される。
なお、電極12の傾斜領域の始点14を、電極保護膜13を介して振動板8と接触するようにしているが、始点14が振動板8から多少離れるようにしてもよい。
【0029】
ノズル板3には複数のノズル孔4と共にリザーバー7に外部からインク等の液滴を供給するための液滴供給穴15が形成されている。このノズル板3の上面には撥水性を有する表面処理が施されている。なお、本実施形態1ではノズル板3の上面にノズル孔4を形成することで振動板8の変位方向に液滴を吐出するフェイスイジェクト方式を採用している。
【0030】
図1及び図2に示すインクジェットヘッドでは、振動板8と電極12との間に駆動電圧を印加することによって静電力を発生させ、振動板8を電極12側に変位させる。振動板8が変位することにより吐出室5の容積及び圧力が変化してノズル孔4から液滴が吐出される。この際電極保護膜13は、振動板8と電極12がショートしないように絶縁膜として機能する。振動板8の変位量は、電極12と当接するようにしてもよく、電極12と当接しないようにしてもよい。
振動板8が電極12側に変位するときに、電極12の傾斜領域の始点14の位置で電極12と振動板8とのギャップがほとんど0であるため、極めて低い電圧で振動板8が変位を開始する。振動板8と電極12の間に発生する静電力は、これらの間の距離の2乗に反比例するため、電極12の傾斜領域の始点14から変位を開始した振動板8は、順次離れた部分(図1の右側)が変位していく。このように、低い電圧で振動板8が変位を開始するため、振動板8全体の変位も低電圧で行うことができる。また振動板8は、電極12の傾斜領域の始点14から変位を開始し、順次離れた部分が変位していくため、変位のバラツキも低減されることとなる。
【0031】
図3は、電極基板2の製造工程を示す短手方向の断面図である。なお、図3では、凹部11が1つのものを示しているが、一般的には凹部11が複数形成されることが多い。まず、電極基板2となる単結晶シリコン基板2aの全面にエッチングマスクとなる酸化シリコン膜20を形成し、電極基板2の上面の凹部11の開口部21となる部分をフォトリソグラフィーによりパターニングして、この部分の酸化シリコン膜を除去する(図3(a))。次に、水酸化カリウム溶液を使用して異方性ウェットエッチングを行い、単結晶シリコン基板2aに、振動板8と電極12との間の非平行ギャップの形状に対応した凹部11を形成する(図3(b))。
なお、図3(b)の工程において、水酸化カリウム水溶液でなく、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)水溶液等を使用して異方性ウェットエッチングを行うこともできるが、水酸化カリウム水溶液はエッチング速度が速く、異方性の高いエッチングが可能なため、水酸化カリウム水溶液を使用するのが望ましい。
【0032】
図4は、図3(a)から図3(b)までの単結晶シリコン基板2aの状態変化を示した図である。単結晶シリコン基板2aは、基板表面に対して(111)結晶面30が所定の角度に傾いたものを準備し、図3(a)の処理を行う(図4(a))。ここで、水酸化カリウム水溶液で異方性ウェットエッチングを開始すると、開口部21の端部21aから(111)結晶面30が残る状態でエッチングが進む(図4(b))。さらにエッチングを進めると、エッチングが非常に遅い(111)結晶面30が露出し、それ以外の部分は深さ方向にエッチングされていく(図4(c))。そして、所望の深さまでエッチングが進んだ時点でエッチングを終了することにより、非平行ギャップの形状に対応した凹部11が得られる(図4(d))。このとき、凹部11の底面をすべて傾斜領域とし、平行領域が残らないようにしてもよい。
なお、基板表面に対して(111)結晶面30が所定の角度に傾いた単結晶シリコン基板2aは、(111)結晶面30が凹部11の傾斜領域として適当な角度になるように単結晶シリコンから切り出して準備すればよい。
【0033】
ここで図3に示す製造工程に戻り、図3(b)(図4(d)と同じ)で得られた単結晶シリコン基板2aに残った酸化シリコン膜20をフッ酸水溶液によってすべて除去する(図3(c))。そして、改めて単結晶シリコン基板2aの全面に酸化シリコンからなる絶縁膜10を熱酸化により形成する(図3(d))。その後、凹部11の底面にITO等からなる電極12をスパッタにより形成し(図3(e))、最後に酸化シリコン、窒化シリコン等からなる電極保護膜13をCVD装置で形成して電極基板2が完成する(図3(f))。
【0034】
次に、本実施形態1に係るインクジェットヘッドの具体例について説明する。キャビティ基板1には、結晶面方位(110)のシリコンウエハを用いて、上記のように高濃度にボロンを拡散させて、35重量%の水酸化カリウム水溶液によるウェットエッチングと3重量%の水酸化カリウム水溶液による表面処理を行うことで厚さ2μmの振動板8、吐出室5となる凹部、オリフィス6となる凹部及びリザーバー7となる凹部を形成した。
電極基板2は、図3及び図4に示す製造工程で作成している。図3(a)の工程ではエッチングマスクとして1.2μmの酸化シリコン膜20を形成し、図3(b)の工程では35重量%の水酸化カリウム水溶液による異方性ウェットエッチングと3重量%の水酸化カリウム水溶液による表面処理を行い最大深さ0.7μmの凹部11を形成した。図3(e)の工程では凹部11の底面にスパッタによりITOからなる厚さ0.2μmの電極12を形成し、図3(f)の工程では熱CVDにより酸化シリコンからなる厚さ0.25μmの電極保護膜13を形成した。
【0035】
またキャビティ基板1と電極基板2とは、酸化膜(電極保護膜13)を介した直接接合法で接合した。ここでは、例えば、キャビティ基板1と電極基板2を洗浄し、アライメントして重ね合わせ、加熱炉で1000℃に加熱して接合した。なお、キャビティ基板1の異方性エッチングは電極基板2と接合した後に行っている。
ノズル板3には、結晶面方位(100)のシリコンウエハを用いてICP放電(誘導結合放電)による異方性ドライエッチングにより直径25μmのノズル孔4と直径0.5mmの液滴供給穴15を形成した。また、ノズル板3の上面には撥水処理が施されており、ノズル板3とキャビティ基板1とは接着剤により接合した。
このとき形成した吐出室5は、短手方向の長さが130μm、長手方向の長さが3500μm、高さが100μmである。またオリフィス6は断面積が1200μm、長さが200μm、リザーバー7は長手方向の長さが1500μmである。
【0036】
本実施形態1では、電極基板2を、(111)結晶面が基板表面に対して所定の角度に傾いた単結晶シリコン基板2aから作成することにより、異方性ウェットエッチングによって容易かつ安価に非平行ギャップとなる凹部を形成することができ、このようにして得られた電極基板の凹部は、加工精度及び表面状態が良好なものとなる。
また、凹部11を水酸化カリウム水溶液による異方性ウェットエッチングにより形成しているため、容易かつ安価に加工精度及び表面状態が良好な凹部11を形成することができる。
さらに、熱酸化とフォトリソグラフィーによりエッチングマスクを形成しているため、製造工程が簡素化され低コスト化を図ることができる。
また、振動板8が形成される部材(キャビティ基板1)と電極基板2を単結晶シリコン基板から作成し、直接接合法で接合しているため、容易にかつ精度の高い接合を行うことができる。
【0037】
実施形態2.
図5は本発明の実施形態2に係るインクジェットヘッドの短手方向の断面図であり、図6はこのインクジェットヘッドの長手方向の断面図である。なお、本実施形態2に係るインクジェットヘッドは、インク孔4をノズル板3の横側から吐出するサイドイジェクトタイプのものである。ノズル孔4以外の部分の構造は、実施形態1のインクジェットヘッドと同様であり、作用、製造工程等も実施形態1のインクジェットヘッドとほぼ同様である。図5及び図6において、実施形態1と同じ部分は同一の符号を用いる。
【0038】
本実施形態2に係るインクジェットヘッドのノズル板3には、結晶面方位(100)のシリコンウエハを用いている。このシリコンウエハに、25重量%の水酸化カリウム水溶液で異方性ウェットエッチングを行って、振動板8の変位方向と直交する方向(横方向)に液滴を吐出するインク孔4aを形成した。
本実施形態2では、インク孔4aを横方向に設けることで、使用目的に応じたインクジェットヘッドを得ることができる。
【0039】
実施形態3.
図7は本発明の実施形態3に係るインクジェットヘッドの分解斜視図であり、図8はこのインクジェットヘッドの短手方向の断面図である。なお本実施形態3に係るインクジェットヘッドは、実施形態1のキャビティ基板1の代わりに、振動板となる部材と吐出室等の側壁となる部材を設けたものである。その他の部分は、実施形態1のインクジェットヘッドと同様であり、作用、製造工程等も実施形態1のインクジェットヘッドとほぼ同様である。図5及び図6において、実施形態1と同じ部分は同一の符号を用いる。
【0040】
図7では、振動板部材8aが設けられており、吐出室5となる空洞5a、オリフィス6を構成する隔壁6a及びリザーバー7となる空洞7aを有する液室隔壁部材1aが別部材として設けられている。
このインクジェットヘッドは、例えば、単結晶シリコン基板を電極基板2と接合し、その後、振動板部材8aの厚さとなるまで単結晶シリコン基板を研磨して振動板部材8aを形成し、これに液室隔壁部材1aを接合して作成することができる。
本実施形態3に係るインクジェットヘッドも、実施形態1のインクジェットヘッドと同様の効果が得られる。
【0041】
実施形態4.
図9は、実施形態1、実施形態2及び実施形態3のインクジェットヘッドを搭載したインクジェット記録装置の1例を示した斜視図である。インクジェット記録装置100は、一般的なインクジェットプリンタである。なお、実施形態1から3までのインクジェットヘッドは、例えば、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、生体液体の吐出等にも適用することができる。
【0042】
本実施形態4のインクジェット記録装置は、実施形態1から3に示したインクジェットヘッドを搭載しているため、吐出精度が高く、低製造コストのものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態1に係るインクジェットヘッドの短手方向の断面図。
【図2】実施形態1に係るインクジェットヘッドの長手方向の断面図。
【図3】電極基板の製造工程を示す短手方向の断面図。
【図4】図3(a)〜(b)の単結晶シリコン基板の状態変化を示す図。
【図5】実施形態2に係るインクジェットヘッドの短手方向の断面図。
【図6】実施形態2に係るインクジェットヘッドの長手方向の断面図。
【図7】実施形態3に係るインクジェットヘッドの分解斜視図。
【図8】実施形態3に係るインクジェットヘッドの短手方向の断面図。
【図9】実施形態1〜3のインクジェットヘッドを搭載したインクジェット記録装置の1例を示した斜視図。
【符号の説明】
1 キャビティ基板、2 電極基板、3 ノズル板、4 ノズル孔、5 吐出室、6 オリフィス、7 リザーバー、8 振動板、10 絶縁膜、11 凹部、12 電極、13 電極保護膜、14 始点、15 液滴供給穴、100 インクジェット記録装置。

Claims (10)

  1. 液滴を吐出するノズル孔と、該ノズル孔と連通する吐出室と、該吐出室の壁面の一部を形成する振動板と、該振動板に対して長手方向及び短手方向のいずれか一方又は両方で非平行な状態となって対向する電極と、該電極が形成される電極基板とを備え、前記振動板と前記電極との間の静電力で前記振動板を変位させて前記ノズル孔から液滴を吐出するインクジェットヘッドであって、
    (111)結晶面が基板表面に対して所定の角度に傾いた単結晶シリコン基板に、前記振動板と前記電極との間のギャップの形状に対応する凹部を形成して前記電極基板が作成され、
    該凹部の底面の一部又は全部が、前記基板表面に対して所定の角度に傾いた(111)結晶面からなることを特徴とするインクジェットヘッド。
  2. 前記凹部が、異方性ウェットエッチングによって形成されることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
  3. 前記異方性ウェットエッチングにおいて、水酸化カリウム水溶液を使用して前記凹部が形成されることを特徴とする請求項2記載のインクジェットヘッド。
  4. 液滴を吐出するノズル孔と、該ノズル孔と連通する吐出室と、該吐出室の壁面の一部を形成する振動板と、該振動板に対して長手方向及び短手方向のいずれか一方又は両方で非平行な状態となって対向する電極と、該電極が形成される電極基板とを備え、前記振動板と前記電極との間の静電力で前記振動板を変位させて前記ノズル孔から液滴を吐出するインクジェットヘッドの製造方法であって、
    (111)結晶面が基板表面に対して所定の角度に傾いた単結晶シリコン基板に、前記振動板と前記電極との間のギャップの形状に対応する凹部を形成して前記電極基板を作成することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
  5. 前記凹部を、異方性ウェットエッチングによって形成することを特徴とする請求項4記載のインクジェットヘッドの製造方法。
  6. 前記凹部を異方性ウェットエッチングで形成するときに、水酸化カリウム水溶液を使用することを特徴とする請求項5記載のインクジェットヘッドの製造方法。
  7. 前記凹部を形成する前において、前記単結晶シリコン基板に熱酸化膜を形成し、該熱酸化膜にフォトリソグラフィーにより前記凹部に対応する部分をパターニングした後に、前記凹部に対応する部分の前記熱酸化膜を除去することを特徴とする請求項5又は6記載のインクジェットヘッドの製造方法。
  8. 前記振動板が形成される部材が、単結晶シリコン基板から作成されることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
  9. 前記振動板が形成される部材と前記電極基板を、直接接合により接合したことを特徴とする請求項8記載のインクジェットヘッドの製造方法。
  10. 請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェットヘッドを搭載したことを特徴とするインクジェット記録装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2006295009A (ja) * 2005-04-13 2006-10-26 Dainippon Printing Co Ltd 荷電粒子線用転写マスクの作製方法及び荷電粒子線用転写マスク
JP2008265338A (ja) * 2007-04-18 2008-11-06 Samsung Electro Mech Co Ltd インクジェットヘッド及びその製造方法

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