JP3851549B2 - 液滴吐出ヘッド、インクカートリッジ、インクジェット記録装置、マイクロアクチュエータ、マイクロポンプ、光学デバイス、画像形成装置、液滴を吐出する装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は液滴吐出ヘッド、インクカートリッジ、インクジェット記録装置、マイクロアクチュエータ、マイクロポンプ、光学デバイス、画像形成装置、液滴を吐出する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像記録装置或いは画像形成装置として用いるインクジェット記録装置において使用する液滴吐出ヘッドであるインクジェットヘッドは、インク滴を吐出する単一又は複数のノズル孔と、このノズル孔が連通する吐出室(インク室、液室、加圧液室、圧力室、インク流路等とも称される。)と、吐出室内のインクを加圧する圧力を発生する圧力発生手段とを備えて、圧力発生手段で発生した圧力で吐出室内インクを加圧することによってノズル孔からインク滴を吐出させる。
【0003】
なお、液滴吐出ヘッドとしては、例えば液体レジストを液滴として吐出する液滴吐出ヘッド、DNAの試料を液滴として吐出する液滴吐出ヘッドなどもあるが、以下ではインクジェットヘッドを中心に説明する。また、液滴吐出ヘッドのアクチュエータ部分を構成するマイクロアクチュエータ、例えばマイクロポンプ、マイクロ光変調デバイスなどの光学デバイス、マイクロスイッチ(マイクロリレー)、マルチ光学レンズのアクチュエータ(光スイッチ)、マイクロ流量計、圧力センサなどにも適用することができる。
【0004】
ところで、液滴吐出ヘッドとしては、圧力発生手段として圧電素子などの電気機械変換素子を用いて吐出室の壁面を形成している振動板を変形変位させることでインク滴を吐出させるピエゾ型のもの、吐出室内に配設した発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いてインクの膜沸騰でバブルを発生させてインク滴を吐出させるバブル型(サーマル型)のもの、吐出室の壁面を形成する振動板を静電力で変形させることでインク滴を吐出させる静電型のものなどがある。
【0005】
近年、環境問題から鉛フリーであるバブル型、静電型が注目を集め、鉛フリーに加え、低消費電力の観点からも環境に影響が少ない、静電型のものが複数提案されている。
【0006】
この静電型ヘッドの中には、振動板をインク室側に押し込みインク室内の内容積を小さくすることでインク滴を吐出させる押し打ち法で駆動するものと、振動板をインク室の外側方向の力で変形させインク室内の内容積を広げた状態から元の内容積になるように振動板の変位を元に戻すことでインク滴を吐出させる引き打ち法で駆動するものとがある。
【0007】
押し打ち法タイプの静電型ヘッドとしては、例えば特開平2−266943号公報に記載されているように、一対の電極対の間にインクが充填されており、片方あるいは両方の電極が振動板として働く形態で、電極間に電圧を印加することによって電極間に静電引力が働き、電極(振動板)が変形しそれによってインクが押し出され吐出するものがある。また、特開2000−15805号公報に記載されているように、シリコン基板からなる振動板表面に突起部を設け、この突起部に電極を形成し、電極に電圧を印加することによって突起部間に作用するという静電力によって振動板を変形させ、インクを吐出するものもある。
【0008】
引き打ち法としては、例えば特開平6−71882号公報に記載されているように、一対の電極対がエアギャップを介して設けられており、片方の電極が振動板として働き、振動板の対向する電極と反対側にインクが充填されるインク室が形成され、電極間(振動板−電極間)に電圧を印加することによって電極間に静電引力が働き、電極(振動板)が変形し、電圧を除去すると振動板が弾性力によってもとの状態に戻り、その力を用いてインクを吐出するものがある。また、特開2001−47624号公報に記載されているように、櫛歯状に形成され互いに入れ子になった電極対の片方に振動板を備え、電極対に電圧を印加することによって櫛歯間に静電力引力を発生させ、電極の変位により振動板を変形させ、電圧を切った時に振動板の弾性力でインクを吐出するものもある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記特開平2−266943号公報記載の液滴吐出ヘッドにあっては、電極間にインクを充填しているので必然的に電極間距離が大きくなる。電極間に働く静電力は電極間距離の2乗に反比例するので電極間距離が大きくなると必要な電圧が非常に大きくなってしまうという問題がある。この場合、インクの誘電率によってある程度電圧を下げることはできるが、電極間距離の影響が大きいのであまり効果がない。また、インクの誘電率を大きくする必要がある、あるいはインクに電界がかかることよりインクの自由度は小さくなる。そのため、インクの色、pH、粘度などのインク物性に制限が加わり、高画質化が困難であるという課題がある。
【0010】
また、前記特開平6−71882号公報記載の液滴吐出ヘッドにあっては、電極間にインクを充填していないのでインクに対する制限が少なく高画質化には有利である。しかしながら、低電圧化のためには電極間のエアギャップを非常に小さくしなければならず、そのような微小なギャップを精度良く、バラツキ少なく形成するのは非常に困難であり、歩留まりが上がらないといった問題がある。また振動板の弾性力によってインクを吐出する、いわゆる引き打ちの方法であるので、振動板はインクを吐出するだけの剛性が必要であり、そのような剛性の振動板を静電力で引き付けるため電圧が高くなってしまうといった課題がある。
【0011】
さらに、前記特開2001−47624号公報記載の液滴吐出ヘッドにあっては、櫛歯状電極を用いているので変位量は大きくすることができるが、発生力は非常に小さく、インクを吐出するだけの発生力を得ようとした場合、非常に電圧が高くなってしまう。しかも、構造が複雑であるので作製が困難であり、コスト高となってしまうという課題がある。
【0012】
また、前記特開2000−15805号公報記載の液滴吐出ヘッドにあっては、導電性を有するシリコン基板で形成した振動板に突起部を設けて、この突起部に導電性部材の電極を形成しているので、シリコン振動板を介して各電極間が同電位になって静電力が発生せず、振動板を変形できないという課題がある。しかも、振動板に突起部を形成して、この突起部に電極を付けなければならず、そのような立体微細構造の表面に電極を付けるのは困難であり、電極がうまく形成されない部分ができたり、バラツキが生じたりで、安定して製造できなく歩留まりが悪いという課題がある。さらに、低電圧化のためには突起間の間隔は狭くしなければならないが、そのような狭い間隔の中に電極を形成するのは困難であり、また狭い突起間に電極を形成するとショートしてしまうという不良が生じたりする。また、突起部に電極を形成することは、立体構造でのフォトリソ工程はレジストコート、露光などが困難であることから、一般的な方法では不可能であり、そのため特別な装置を使用したり、製造工程が長くなったりしてコスト高となってしまうという課題がある。
【0013】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、低コストで、滴吐出効率が高く、高画質印字が可能な液滴吐出ヘッド、このヘッドを一体化したインクカートリッジ、高画質記録が可能なインクジェット記録装置、低コストで、駆動効率が高いマイクロアクチュエータ、マイクロポンプ、光学デバイス、高画質記録が可能な画像形成装置、滴吐出効率が高い液滴を吐出する装置を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、振動板の両面、または、片方の面に絶縁膜を設け、この絶縁膜を介して振動板と対向する位置に複数の構造体を設け、構造体間に静電力を発生させることによって振動板を変形させる構成とした。
【0015】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、振動板の両面、または、片方の面に絶縁膜を設け、この絶縁膜を介して振動板と対向する位置に構造体を少なくとも1つ設けるとともに、構造体に対して所定の間隔を置いて対向する電極を固定部に設け、構造体と電極の間に静電力を発生させることによって振動板を変形させる構成とした。
【0016】
これらの本発明に係る液滴吐出ヘッドにおいては、構造体が導電材料で形成されている構成とできる。また、複数の構造体を設ける液滴吐出ヘッドにおいては、互いに隣り合う構造体に電位差を生じる電圧を印加して隣り合う構造体間で静電力を発生させることがこのましい。また、これらの本発明に係る液滴吐出ヘッドにおいては、構造体と同一材料の層が、構造体の形成される面と略同一平面で振動板以外の領域に形成されていることが好ましい。この場合、構造体と同一材料の層の厚さが構造体の厚さよりも厚いことが好ましい。
【0017】
また、構造体はポリシリコン或いは単結晶シリコンからなることが好ましい。この場合、電極は伝導型がn型またはp型の不純物原子を含むことができる。また、絶縁膜はシリコン熱酸化膜であること、シリコン熱酸化膜の膜厚が50〜1000nmであることが好ましい。或いは、絶縁膜はシリコン窒化膜であること、シリコン窒化膜の膜厚が50〜1000nmであることが好ましい。
【0018】
さらに、構造体の表面に絶縁膜が形成されていることが好ましい。この場合、絶縁膜は熱酸化膜、或いは堆積膜、特にCVD法により形成された膜であることが好ましい。また、構造体表面に導電性膜を形成することができる。
【0019】
本発明に係るインクカートリッジは、インク滴を吐出する本発明に係る液滴吐出ヘッドとこの液滴吐出ヘッドにインクを供給するインクタンクを一体化したものである。
【0020】
本発明に係るインクジェット記録装置は、インク滴を吐出するインクジェットヘッドが本発明に係る液滴吐出ヘッド又はインクカートリッジであるものである。
本発明に係る画像形成装置、液滴を吐出する装置は、本発明に係る液滴吐出ヘッドを備えたものである。
【0021】
本発明に係るマイクロアクチュエータは、可動部分の両面、または、片方の面に絶縁膜を設け、この絶縁膜を介して可動部と対向する位置に複数の構造体を設け、構造体間に静電力を発生させることによって可動部分を変形させるものである。
【0022】
本発明に係るマイクロアクチュエータは、可動部分の両面、または、片方の面に絶縁膜を設け、この絶縁膜を介して可動部分と対向する位置に構造体を少なくとも1つ設けるとともに、固定部に構造体に所定の間隔を置いて対向する電極を設け、構造体と電極の間に静電力を発生させることによって可動部分を変形させるものである。
【0023】
本発明に係るマイクロポンプは、可動部分の変形によって液体を輸送するマイクロポンプであって、可動部分の両面、または、片方の面に絶縁膜を設け、この絶縁膜を介して可動部分と対向する位置に複数の構造体を設け、構造体間に静電力を発生させることによって可動部分を変形させるものである。
【0024】
本発明に係る光学デバイスは、可動部分に形成したミラーの変位によって光の反射方向を変化させる光学デバイスであって、可動部分の両面、または、片面に絶縁膜を設け、この絶縁膜を介して可動部と対向する位置に複数の構造体を設け、構造体間に静電力を発生させることによって可動部分を変形させるものである。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の液滴吐出ヘッドの第1実施形態に係るインクジェットヘッドの分解斜視図で、一部断面図で示している。図2は同ヘッドの振動板長手方向の断面説明図、図3は同ヘッドの振動板短手方向の断面説明図、図4は同ヘッドの電極配置パターンを示す平面説明図である。
【0026】
このインクジェットヘッドは、インク液滴を基板の面部に設けたノズル孔から吐出させるサイドシュータタイプのものであり、下記に詳述する構造を持つ3枚の第1、第2、第3基板1、2、3を重ねて接合した積層構造となっており、インク滴を吐出する複数のノズル孔4、各ノズル孔4が連通する吐出室6、各吐出室6に流体抵抗部7を介してインクを供給する共通液室(共通インク室)8などを形成している。
【0027】
中間の第1基板1は、シリコン基板からなり、底壁を振動板10とする吐出室6を形成するための凹部と、各々の吐出室6にインクを供給するための共通液室8を形成するための凹部を有する。
【0028】
振動板10の下面には、熱酸化膜、シリコン窒化膜などの絶縁膜11を形成して設け、この絶縁膜11表面に、つまり、絶縁膜11を介して振動板10と対向する位置に複数の構造体である電極14を所定の間隔を置いて形成して、振動板10と各電極14とを電気的に分離して設けるとともに各電極14のうちの相隣り合う2つの電極(これを相対的に電極14a、14bという。)は相互に電気的に分離している。なお、電極14は、例えばポリシリコン、或いは単結晶シリコンから形成している。この振動板10と複数の構造体である電極14によって可動部分である振動板10を変形させる本発明に係るマイクロアクチュエータを構成している。
【0029】
ここで、図4は第1基板1の電極14側から見た場合の一つの振動板に対する電極配置パターンの一例を示すものである。同図に示すように、互いに電気的に分離した相隣り合う電極14aと電極14bには、駆動回路(ここでは発信回路で図示)15から互いに電位差を生じる駆動電圧(異なる電位の電圧)が印加されるようになっている。
【0030】
この第1基板1の下面に接合される第2基板2は、電極14を外部からの衝撃やホコリなどから保護したり、第1基板1の強度を補強したりするための保護基板である。この第2基板2には、ガラス、金属、シリコン、樹脂などからなる基板などを使用し、この基板2には各振動板10に対応する位置に例えば0.1mmの深さの凹部16を形成している。ただし、必ずしも振動板10ごとに凹部16を形成する必要はなく、振動板配列を囲む凹部、あるいはチップの縁のみ接合される凹部を形成する構成でも良い。
【0031】
また、第1基板1の上面に接合される第3基板3には、例えば厚さ50μmのニッケル基板を用い、第3基板3の面部に、吐出室6と連通するようにそれぞれノズル孔4、共通液室8と吐出室6を連通させる流体抵抗部7となる溝を設け、また共通液室8と連通するようにインク供給口9を設けている。
【0032】
このように構成したインクジェットヘッドの動作を説明する。例えば図4の構成において、電極14aに発振回路15により0Vから40Vのパルス電位を印加すると、電極14aの表面がプラスに帯電し、パルス電位を印加していない隣り合う電極14bとの間で、図5に示すように、静電力が発生して、静電気の吸引作用が働き、電極14の自由端(振動板10側が固定端)が引き合って電極14が変位し、これらの電極14の自由端側が変位することで、電極14の固定端側である振動板10が上方へたわむことになる。その結果、吐出室6内の圧力が急激に上昇し、図3に示すように、ノズル孔4よりインク液滴22を記録紙23に向けて吐出する。
【0033】
そして、電極14aの電位が0Vに戻ると、電極14bとの間に電位差はなくなり、振動板10は元の状態に復元する。振動板10が復元することにより、インクが共通液室8より流体抵抗部7を通じて吐出室6内に補給される。すなわち、この実施形態では押し打ち法でインク滴を吐出させる。
【0034】
ここで、電極間に働く力Fは、次の(1)式に示すように電極間距離dの2乗に反比例して大きくなる。低電圧で駆動するためには、電極14aと電極14bとの間隔、つまり電極14間の溝を狭く形成することが重要となる。
【0035】
【数1】
【0036】
なお、(1)式において、F:電極間に働く力、ε:誘電率、S:電極の対向する面の面積、d:電極間距離、 V:印加電圧である。
【0037】
このように、このインクジェットヘッドにおいては、振動板10の一方の面に絶縁膜11を介してそれぞれ電気的に分離独立した電極14を設け、電極14の対向する電極14aと電極14b間に電位差を生じる電圧を印加することによって、隣り合う電極14aと電極14bとの間で静電引力が発生し、電極14のわずかな変位により振動板10の大きな変位を得ることができ、滴吐出効率が向上し、高画質記録が可能になる。
【0038】
そして、このヘッドのマイクロアクチュエータにおいては、振動板10に設けた構造体自体が電極14として働くので、従前のようにシリコン構造体に電極を成膜などの方法により形成するという困難な工程の必要がなく、コストダウンを図ることが可能であり、また、構造体間の非常に狭い間隔に電極を形成することによって生じるショートなどの不良も低減できる。さらに、構造体に電極を形成した後に電極を櫛の歯状に分離するという工程も必要がなく、低コスト化、大量生産が容易である。
【0039】
さらに、振動板10と電極14は絶縁膜11などで電気的に分離しているので、従来のように電極に電圧を印加しても振動板を介してすべての電極が同電位になって作動不良になることもなく、電極14に印加した電圧が振動板10側にリークすることもなく、効率良く電極14に電圧を印加することができる。この場合、振動板10と電極14を電気的に分離する一例として振動板10と電極14の間に絶縁膜11を形成することによって、容易に絶縁することができ信頼性の高い液滴吐出ヘッドを得ることができる。なお、振動板自体を絶縁性部材で形成すれば、絶縁膜を設けないでも良い。
【0040】
次に、第2実施形態に係るインクジェットヘッドについて図6を参照して説明する。なお、同図は同ヘッドの振動板短手方向に沿う断面説明図である。
この実施形態においては、電極14と同一材料の層又は構造体であるスペーサ25を振動板10以外の領域で電極14を形成する面と略同一平面に形成している。このスペーサ25は電極14と同時に形成することができ、振動板領域以外の電極材料を除去しないことで形成することができる。
【0041】
このようなスペーサ25を設けることにより第1基板1を第2基板2に接合する前の工程において、微小な構造体である電極14を保護することができ、製造工程においてウェハ搬送や、プロセス中における電極14の破損による不良を低減することができる。
【0042】
次に、第3実施形態に係るインクジェットヘッドについて図7を参照して説明する。なお、同図は同ヘッドの振動板短手方向に沿う断面説明図である。
この実施形態においては、電極14と同一材料の層又は構造体であるスペーサ25を振動板10以外の領域で電極14を形成する面と略同一平面に形成するとともに、このスペーサ25の厚さを電極14の厚さよりも厚く形成している。この場合、第2基板2は平板板基板をそのまま用いることができ凹部を形成する必要がなくなる。
【0043】
このような構造とすることによって第2実施形態よりもさらに電極14はスペーサ25のために接触して破損することが少なくなり、電極破損による不良を低減することができる。また、第1基板1の下に保護基板(第2基板2)を接合する場合、保護基板に凹部を形成しなくても良いという利点もある。
【0044】
次に、上述した第2実施形態に係るインクジェットヘッドの製造工程について図8及び図9を参照して説明する。
ここでは、電極14をポリシリコン(多結晶シリコン)で形成している。すなわち、図8(a)に示すように、第1基板1となる(110)を面方位とする厚さ400μmのシリコン基板をベース基板31とし、酸化膜32を介して(100)面方位の厚さ1μmのシリコン基板である活性層33を接合したSOI(Silicon on Insulator)ウェハ30を用意する。なお、第1基板1となる基板としては、(110)面方位のシリコン基板に代えて、(100)面方位のシリコン基板を用いても良い。
【0045】
そして、同図(b)に示すように、SOIウエハ30に900℃/5分のウェット酸化により絶縁膜11となる熱酸化膜34を50nm厚みで形成する。ここで、酸化膜の成膜方法としては、プラズマCVD、スパッタ、HTO、TEOSなどがあるが、絶縁耐圧、欠陥、残留電荷、耐久性などの点で熱酸化膜が好ましい。
【0046】
次いで、同図(c)に示すように、表面にポリシリコン層35を5μm厚みで成膜し、上面のポリシリコン層35をエッチング除去して、活性層33側に熱酸化膜34を介してポリシリコン層35を形成する。
【0047】
その後、同図(d)に示すように、フォトリソによりポリシリコン層35上にレジストパターンを形成し、ドライエッチングによりポリシリコン層35を間隔1μm、0.5μmの線幅でエッチングして、電極14を形成するとともに、スペーサ25を形成する。このとき、酸化膜34がエッチングストップ層をなす。電極14の配置パターン形状は例えば前述した図4に示すように櫛の歯形状となっている。
【0048】
次に、図9(a)に示すように、全体にLP−CVDで水酸化カリウムエッチングのマスクとなるシリコン窒化膜36を形成する。そして、同図(b)に示すように、シリコン窒化膜36上に吐出室6や共通液室8などの形状のレジストパターンを得て、レジストの開口部のシリコン窒化膜36と熱酸化膜34をドライエッチによりエッチング除去し、レジストを除去する。
【0049】
そして、同図(c)に示すように、例えば80℃の25wt%の水酸化カリウム水溶液でシリコン窒化膜36および酸化膜34の開口部からベース基板31をエッチングする。エッチングが酸化膜32に達すると酸化膜32はほとんどエッチングされないのでエッチングは停止する。この場合、ベース基板31には(110)面のシリコンウェハを用いているので、水酸化カリウムによる異方性エッチングによって(111)面の垂直壁が形成される。(110)面のウェハを用いることによって垂直壁が得られるので吐出室6を高密度に並べることができる。
【0050】
なお、ここでは水酸化カリウム水溶液を用いたが、TMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド溶液)、EDP(エチレンジアミンピロカテコール)、水酸化リチウムなどのアルカリ液でも良い。
【0051】
その後、同図(d)に示すように、シリコン窒化膜36は熱リン酸、フッ酸などによって、熱酸化膜34および酸化膜32の露出している部分をフッ酸などで除去して、吐出室6及び吐出室6の底壁をなす1μmの厚さのシリコンの振動板10を形成する。
【0052】
このように、電極14をポリシリコンで形成することにより、比較的厚い電極14を容易に形成することができ、また、ドライエッチングにより電極14間の細い溝を形成することができる。つまり、電極14間の距離(ギャップ)を小さくできるので、前述したように大きな力を発生することができ、低電圧で駆動することが可能となる。
【0053】
また、ここでは、振動板10と電極14の間の絶縁膜11に熱酸化膜34を用いているので、絶縁性が良く高耐圧なので、信頼性の高い液滴吐出ヘッドが得られる。ここで、絶縁性を確保するためには、熱酸化膜34の厚みとしては50nm以上の膜厚が必要である。また、量産工程で現実的に形成できる厚さは1000nm以下である。したがって、熱酸化膜34の厚さは50nm〜1000nmの範囲内であることが好ましい。
【0054】
さらに、多数の吐出室6を配列して高速印字可能な液滴吐出ヘッドを実現する場合、電極14から振動板10へのカップリングが問題となることがある。そのような場合には熱酸化膜は300nm以上の膜厚とすることが好ましい。他方、シリコンの振動板10が薄い場合(2μm以下の場合)、熱酸化膜の圧縮応力により、振動板10が座屈するという問題が生じることがある。その場合、熱酸化膜の厚さは薄いほうが良く、800nm以下とすることが好ましい。したがって、熱酸化膜34の膜厚は、より好ましくは、300nm〜800nmの範囲内である。
【0055】
また、熱酸化膜以外にも絶縁性にすぐれたシリコン窒化膜を用いることもできる。シリコン窒化膜も熱酸化膜同様、絶縁性が良く高耐圧であり、信頼性の高い液滴吐出ヘッドが得られる。シリコン窒化膜の膜厚も熱酸化膜と同様の理由により50nm〜1000nmの範囲内であることが好ましい。。
【0056】
また、電極14から振動板10へのカップリングが問題となる場合には、シリコン窒化膜の膜厚は300nm以上であることが好ましい。シリコン窒化膜は、熱酸化膜と反対に引っ張り応力の膜であるので、シリコン窒化膜の応力により振動板が座屈することはないが、引っ張り応力によって振動板10を変形させることができないことがある。そのような場合には、シリコン窒化膜にボロン、リン、水素などの不純物をドープして応力緩和することができる。
【0057】
次に、上述した第2実施形態に係るインクジェットヘッドの製造工程の他の例について図10乃至図12を参照して説明する。
ここでは、電極14を単結晶シリコンで形成している。また、振動板10は、高濃度p型不純物層、例えば高濃度ボロン拡散層であって、高濃度p型不純物層は所望の振動板厚と同じだけの厚さ、ここでは1μmを有している。
【0058】
すなわち、図10(a)に示すように第1基板1となる(110)を面方位とする厚さ400μmのシリコン基板41にイオン注入法によりボロンを拡散し、高濃度ボロン拡散層42を形成する。ここでは、深さ1μmの高濃度ボロン拡散層42を形成した。高濃度ボロン拡散層42の表面にはシリコンとボロンの化合物層が形成されるが、この層を除去するためには、化合物層を熱酸化し、フッ酸系エッチング液によりエッチングすることによって除去できる。シリコンの拡散した面は面荒れが生じ、後の直接接合で強固な接合が得られないことがある。そのために拡散面をポリッシュして平滑な面を形成しておく。なお、第1基板1となる基板としては、(110)面方位のシリコン基板に代えて、(100)面方位のシリコン基板を用いても良い。
【0059】
次いで、同図(b)に示すように化合物層を除去しポリッシュした後に900℃/5分のウェット酸化により絶縁膜11となる熱酸化膜43を50nm厚みで形成する。ここで、酸化膜の成膜方法としては、プラズマCVD、スパッタ、HTO、TEOSなどがあるが、絶縁耐圧、欠陥、残留電荷、耐久性などの点で熱酸化膜が好ましい。
【0060】
そして、同図(c)に示すように、電極14を形成するための別のシリコン基板44を用意し、このシリコン基板44をシリコン基板41の高濃度ボロン拡散層42側に直接接合する。ここでは、シリコン基板44として(100)面方位のシリコンウェハを用いた。表面性の良いシリコンウェハを貼り合わせ高温加熱することによって2枚のウェハは強固に接合される。ここでは1000℃/2時間の加熱処理をした。
【0061】
その後、同図(d)に示すように、シリコン基板44を所望の電極14の長さ(高さ)となる厚さ20μmまで研磨する。
【0062】
次いで、図11(a)に示すように、フォトリソにより研磨したシリコン基板44上にレジストパターンを形成し、ドライエッチングによりシリコン基板44を間隔0.5μm、幅0.5μmの線幅でエッチングし電極14を形成するとともに、スペーサ25を形成する。電極14の形状は、例えば図4のように櫛の歯形状となっている。エッチングは酸化膜43がストップ層となる。非常に深い溝を細くエッチングする必要があるのでドライエッチングはICPが有効である。
【0063】
そして、同図(b)に示すようにLP−CVDで水酸化カリウムエッチングのマスクとなるシリコン窒化膜46を形成する。その後、同図(c)に示すように、シリコン窒化膜46上に吐出室6や共通液室8などの形状のレジストパターンを得て、レジストの開口部のシリコン窒化膜46と酸化膜43をドライエッチによりエッチング除去し、レジストを除去する。
【0064】
その後、図12(a)に示すように、例えば80℃の25wt%の水酸化カリウム水溶液でシリコン窒化膜46および酸化膜43の開口部からシリコン基板41を高濃度ボロン拡散層42に達する直前(残り10μm程度)まで、エッチングを行う。次に、エッチング液をIPAを過飽和状態にした80℃の30wt%の水酸化カリウム水溶液に変え、エッチングを継続して、高濃度ボロン拡散層42に達するとエッチングは自発的に停止する。25wt%の水酸化カリウム水溶液ではエッチレートが大きく、また安定したエッチングが得られる。またIPA添加30wt%の水酸化カリウム水溶液ではシリコン基板と高濃度ボロン層のエッチング選択比が大きく、精度よくエッチングストップができる。IPAは沸点が低く熱を加えると蒸発が激しいので、蒸気を冷却して液化しエッチング槽に戻してやる環流装置を付けるのが好ましい。高濃度ボロン拡散層のエッチング選択比を大きくできるエッチング液としてはIPA添加の水酸化カリウム以外では、3wt%〜10wt%程度の低濃度の水酸化カリウム水溶液やEDPなどでも良い。
【0065】
その後、同図(b)に示すように、シリコン窒化膜46は熱リン酸、フッ酸などによって、熱酸化膜43をフッ酸などで除去して、吐出室6及び吐出室6の底壁をなす1μmの厚さのシリコンの振動板10を形成する。
【0066】
ここでは、電極14を単結晶シリコンで形成しているので、ウェハ貼り合わせ後の研磨により電極14の厚さ(長さ)を決めることができ、成膜では不可能な厚さの厚い電極を形成することができる。電極が厚い(高さが高い)と小さな力で振動板を変形させることができ、低電圧で駆動することが可能となる。また、貼り合わせたシリコンウェハ44の電極として用いていない領域を利用して、液滴吐出ヘッドの駆動回路を集積化することも可能である。シリコンウェハ44は半導体素子形成に用いるものそのものなので駆動回路を形成するのに好適である。
【0067】
また、高濃度ボロン拡散層の形成にはイオン注入のほかに固体拡散、塗布拡散やボロンをドープしたエピタキシャル層によっても形成することもできる。イオン注入では浅い拡散層を精度良く形成することができるので、薄い振動板を形成するのに好適である。また、エピタキシャル層では、シリコン基板の上にボロンをドープした層を成長させるので、固体拡散、イオン注入、塗布拡散に比べ、高濃度ボロン領域の境界が明確になり、急峻なエッチングストップを実現できより精度の良い振動板を形成することができる。
【0068】
さらに、高濃度ボロンストップ以外には、P型シリコン基板にN型層あるいはN型シリコン基板のP型層を形成して電気化学エッチングストップを行う方法などを用いることもできる。
【0069】
また、上述したように電極14にポリシリコンや単結晶シリコンなどの半導体を用いた場合には、高周波数駆動、多チャンネル駆動を行うと電極の電気抵抗値が問題となることがある。この場合には、n型又はp型の伝導型を有する不純物原子、例えばn型であればリン、砒素、p型であればボロンやアンチモン等を導入することが好ましい。
【0070】
次に、第4実施形態に係るインクジェットヘッドについて図13を参照して説明する。なお、同図は同ヘッドの振動板短手方向に沿う断面説明図である。
この実施形態では、電極14の表面に絶縁膜26を形成している。すなわち、前述したように、駆動電圧を低くするためには、電極14の間隔を小さくしなければならないが、そのような微小な間隔で電極14を形成した場合、小さなダストであってもが電極14上に載るとショートの原因となり、動作不良を起こすことがあり、また、非常に微小な間隔なので、空気の湿度によって電極14表面に微小な水滴が発生した場合にも、ショートの原因となる。
【0071】
そこで、電極14の表面に絶縁膜26を設けることによって、電極14間のショートによる動作不良を低減することができる。また、電圧を印加した時の電極間14の放電により動作不良を起こすことがあるが、これに対して絶縁膜26を設けることによって、耐圧も向上することができ、信頼性の高い液滴吐出ヘッドが得られる。
【0072】
次に、第5実施形態に係るインクジェットヘッドについて図14を参照して説明する。なお、同図は同ヘッドの振動板短手方向に沿う電極部分の要部断面説明図である。
ここでは、第4実施形態の絶縁膜26として熱酸化膜27を用いている。すなわち、電極14に単結晶シリコンやポリシリコンを用いた場合、熱酸化膜は電極表面に均一に精度良く形成することができる。また、熱酸化膜は機械的、電気的な信頼性が高く、信頼性の高い液滴吐出ヘッドが実現できる。
【0073】
この場合、熱酸化膜27は約44%のシリコンを消費しながら成長する。図14を参照して説明すると、酸化前の電極14は点線Aで示す状態にあり、ギャップG1の間隔を隔てて設けられている。これに厚さtの熱酸化膜27を形成すると、約0.44tの厚さのシリコンが消費され、電極14の間隔はG3、空間間隔はG2となる。
【0074】
熱酸化膜27を形成する前の電気的な電極間間隔である実効ギャップGは、G=G1であり、厚さtの熱酸化膜27形成した場合の実効ギャップG’は、熱酸化膜の誘電率をεとすると、次の(2)式で表される。
【0075】
【数2】
【0076】
ここで、熱酸化膜の誘電率εは3.7〜3.9であるので、G’<G、となり、熱酸化膜を形成することによって、実効ギャップを小さくすることができる。前述したように、電極14、14間に働く力は実効ギャップが小さいほど大きくでき、電極14、14間に働く静電力は実効ギャップの2乗に反比例する。したがって、熱酸化膜を形成して実行ギャップを小さくすることによって力を大きくする、あるいは駆動電圧を低くすることができる。電極を加工して狭い間隔を形成するのには限界があり、ドライエッチングで溝を形成した場合には0.5μm程度が限界である。電極表面に絶縁膜を形成することによって、この限界値よりもさらに小さい実効ギャップを形成し、駆動電圧を下げることができる。
【0077】
具体的に、ここで用いた熱酸化膜の誘電率は3.8であった。G1を0.5μm、絶縁膜厚さtを0.4μmとすると、実行ギャップG’は0.26μmとなり、実効ギャップを約1/2に小さくできる。前述した(1)式より、電極間に働く静電力に換算すると3.7倍となり、同じ静電力を得ようとした場合、電圧は約1/2に低電圧化することができる。
【0078】
すなわち、G1=0.55μm(ε=3.8)のとき
t=0.2μmの場合:G2=0.28μm、G’=0.38μm
t=0.4μmの場合:G2=0.06μm、G’=0.26μm
となる。
【0079】
なお、シリコンを消費して成長する膜としては、熱酸化膜以外に熱窒化膜もあり、この熱窒化膜も機械的、電気的に信頼性が高く絶縁膜として用いることができる。
【0080】
次に、第6実施形態に係るインクジェットヘッドについて図15を参照して説明する。なお、同図は同ヘッドの振動板短手方向に沿う電極部分の要部断面説明図である。
ここでは、第4実施形態の電極14表面に形成する絶縁膜26として堆積絶縁膜28を用いている。上記実施形態の熱酸化膜27ではシリコンを消費して膜が形成されるが、本実施形態ではシリコンを消費せずに膜を堆積させるものである。例えば、高温熱CVD、低温熱CVDによるシリコン酸化膜、PE−CVDによるシリコン酸化膜やシリコン窒化膜、LP−CVDによるシリコン窒化膜、スパッタによるシリコン酸化膜、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化タングステンなどの金属酸化膜、あるいは真空蒸着による金属膜を酸化した膜などがあげられる。構造体表面にも均一に成膜できるという点でCVDによる成膜が好ましい。
【0081】
ここでは、堆積絶縁膜28の例として高温CVDによるシリコン酸化膜を成膜している。高温CVDによるシリコン酸化膜は被成膜表面に堆積して成膜されるので、成膜する前の電極面と成膜後の電極面は変化しない。したがって、厚さtだけ成膜した場合、成膜前後の電極間隔G1は変化せず、空間間隔は膜厚分だけ狭くなったG2となる。
【0082】
ここで、堆積絶縁膜(酸化膜)28を形成する前の電気的な電極間間隔である実効ギャップGは、G=G1である。厚さtの酸化膜28形成した場合の実効ギャップG’は、酸化膜の誘電率をε1とすると、次の(3)式で表される。
【0083】
【数3】
【0084】
高温CVDによるシリコン酸化膜の誘電率ε1は4.0〜4.5であるので、G’<G、となり、酸化膜(堆積絶縁膜)を形成することによって、実効ギャップを小さくすることができる。しかも、第5実施形態の熱酸化膜のように電極の材料を消費せずに成膜することができるので、第5実施形態に示したものよりもさらに実効ギャップを小さくすることが可能であり、さらなる低電圧化が可能となる。ここで用いた酸化膜の誘電率は4.0であった。G1を0.5μm、tを0.2μmとすると、G’は0.2μmとなり実効ギャップを2/5に小さくできる。前述した(1)式より電極間に働く静電力に換算すると6倍となり、同じ静電力を得ようとした場合、電圧は2/5に低電圧化できる。
【0085】
すなわち、G1=0.5μm(ε=4.0)のとき
t=0.2μmの場合:G2=0.1μm、G’=0.2μm
となる。
【0086】
誘電率が高いほど実効ギャップを小さくする効果は大きく、その他、PE−CVDのシリコン酸化膜などさらに大きな誘電率の膜を使うことによって実効ギャップを小さくする効果が大きくなる。
【0087】
次に、第7実施形態に係るインクジェットヘッドについて図16を参照して説明する。なお、同図は同ヘッドの振動板短手方向に沿う電極部分の要部断面説明図である。
この実施形態では、電極14の表面に導電性の膜29を形成した。導電性の膜29を電極表面に成膜することによって、成膜前に電極間隔がG1であったのに対し、厚さtの成膜後電極間隔は成膜厚さの2倍だけ小さいG2となる。これにより、電極間隔を導電性膜の成膜により小さくすることができ、静電力の向上、駆動電圧の低電圧化が可能となる。また、上記第5、第6実施形態で説明した電極表面に絶縁膜を形成する方法と併用して、信頼性の向上、更なる低電圧化も実現することができる。
【0088】
成膜する導電性膜としてはポリシリコン、あるいはスパッタや真空蒸着によるアルミニウム、ニッケル、タングステン金などの金属膜を用いることができるが、構造体である電極表面に均一に成膜できるポリシリコンがもっとも好ましい。この場合、ポリシリコン中にはn型又はp型の伝導型を有する不純物原子、例えばn型であればリン、砒素、p型であればボロンやアンチモン等を導入することが好ましい。
【0089】
次に、第8実施形態に係るインクジェットヘッドについて図17を参照して説明する。なお、同図は同ヘッドの振動板短手方向に沿う断面説明図である。
この実施形態においては、第2基板2の凹部16の壁面部分に電極(これを、固定電極という。)54を設けるとともに、振動板10の短手方向端部側に絶縁膜11を介して固定電極54から複数の電極(これを、可動電極という。)55をそれぞれ所定の間隔を置いて設けている。つまり、ここでは、振動板10の片方の面に絶縁膜11を設け、この絶縁膜11を介して振動板10と対向する位置に構造体である可動電極55を設けるとともに、構造体である可動電極55に対して所定の間隔を置いて対向する固定電極54を固定部としての壁面部分に設けた構成としている。
【0090】
このように構成したインクジェットヘッドの動作を説明する。固定電極54及び1つおきの可動電極55に駆動回路により0Vから40Vのパルス電位を印加すると、固定電極54及び1つおきの可動電極55の表面がプラスに帯電し、パルス電位を印加していない隣り合う可動電極55との間で、図18に示すように、静電気の吸引作用が働き、振動板10が下方へたわむ。その結果、吐出室6の内容積が増加するので、インクが共通液室8より流体抵抗部7を通じて吐出室6内に補給される。
【0091】
そして、電極54、55の電位が0Vに戻ると、電極54、55間、55、55間に電位差はなくなり、振動板10は元の状態に復元する。振動板10が復元することにより、吐出室6内の圧力が急激に上昇し、ノズル孔4よりインク液滴が吐出される。すなわち、この実施形態では引き打ち法でインク滴を吐出させることができる。
【0092】
次に、第9実施形態に係るインクジェットヘッドについて図19を参照して説明する。なお、同図は同ヘッドの振動板短手方向に沿う断面説明図である。
この実施形態においては、前記第1実施形態と前記第8実施形態とを組合せ、第2基板2の凹部16の壁面部分に固定電極54を設けるとともに、振動板10に絶縁膜11を介して固定電極54から複数の可動電極55をそれぞれ所定の間隔を置いて設けている。
【0093】
このように構成したインクジェットヘッドの動作を説明すると、固定電極54及び振動板短手方向端部側の可動電極55の群(端部側可動電極群)の1つおきの可動電極55に駆動回路により0Vから40Vのパルス電位を印加すると、固定電極54、及び端部側可動電極群の1つおきの可動電極55の表面がプラスに帯電し、パルス電位を印加していない隣り合う可動電極55との間で、前記図18と同様に、静電気の吸引作用が働き振動板10が下方へたわむ。その結果、吐出室6の内容積が増加するので、インクが共通液室8より流体抵抗部7を通じて吐出室6内に補給される。
【0094】
そこで、固定電極55への電圧印加を解除するとともに、中央部の可動電極55を含めて、すべての可動電極55に対して、1つおきに0Vから40Vのパルス電位を印加すると、電圧印加した可動電極55の表面がプラスに帯電し、パルス電位を印加していない隣り合う電極55との間で、前述した図5に示すと同様に、静電気の吸引作用が働き、振動板10が上方へたわむ。その結果、吐出室6内の圧力が急激に上昇し、ノズル孔4よりインク液滴が吐出される。すなわち、この実施形態では、引き−押し打ち法でインク滴を吐出させることができる。
【0095】
次に、第10実施形態に係るインクジェットヘッドについて図20を参照して説明する。なお、同図は同ヘッドの振動板短手方向に沿う断面説明図である。
この実施形態においては、前記複数の電極14を吐出室6側に設けたものである。この場合、第1基板1には前述したSOI基板を用いて絶縁膜11をSOI基板の酸化膜32で振動板10と電極14とを電気的に分離する絶縁膜を兼用している。また、電極14がインクによって腐食等されるのを防止するため、電極14の表面には耐液性膜(ここでは耐インク性膜)として窒化膜等の絶縁膜57を形成している。
【0096】
このように構成した場合、複数の電極14に1つおきにパルス電位を印加することで、振動板10が吐出室6と反対側に変形して、吐出室6内にインクが補給され、この状態から複数の電極14に対するパルス電位の印加を停止することで振動板10が復元してインク滴が吐出される。すなわち、この場合は、引き打ち法と同様にしてインク滴を吐出させることができる。
【0097】
次に、第11実施形態に係るインクジェットヘッドについて図21を参照して説明する。なお、同図は同ヘッドの振動板短手方向に沿う断面説明図である。
この実施形態においては、振動板10の短手方向中央部では吐出室6と反対側の面に前記複数の電極55を設け、振動板10の短手方向両端部では吐出室6側に前記複数の電極55を設けるとともに、吐出室6側の最端部の電極55に対向して固定電極54を配置したものである。
【0098】
ここでも、第1基板1には前述したSOI基板を用いて、振動板10の吐出室側の絶縁膜11をSOI基板の酸化膜32で振動板10と電極14とを電気的に分離する絶縁膜を兼用し、振動板10の吐出室6側と反対側には絶縁膜11を形成している。また、電極54、55がインクによって腐食等されるのを防止するため、電極54、55の表面には耐液性膜(ここでは耐インク性膜)として窒化膜等の絶縁膜57を形成している。
【0099】
このように構成したので、固定電極54と振動板10の両端部側の電極55に対して1つおきにパルス状電位を印加して静電力を発生させるとともに、振動板10の中央部側の電極55に対しても1つおきにパルス状電位を印加して静電力を発生させると、振動板10は上下の電極55の変位によって吐出室6側に変形する。この場合、振動板10の両端部と中央部で異なる変形を受けることになり、振動板10の変形形状を理想的なガウシャン形状に近くすることができ、より滴吐出特性が向上する。
【0100】
次に、本発明に係るインクカートリッジについて図22を参照して説明する。このインクカートリッジ100は、ノズル孔101等を有する上記各実施形態のいずれかのインクジェットヘッド101と、このインクジェットヘッド101に対してインクを供給するインクタンク102とを一体化したものである。
【0101】
このようにインクタンク一体型のヘッドの場合、ヘッドの低コスト化、信頼性は、ただちにインクカートリッジ全体の低コスト化、信頼性につながるので、上述したように低コスト化、高信頼性化、製造不良低減することで、インクカートリッジの歩留まり、信頼性が向上し、ヘッド一体型インクカートリッジの低コスト化を図れる。
【0102】
本発明に係るインクジェットヘッド又はインクカートリッジを搭載した、本発明に係る液滴を吐出する装置を含む画像形成装置としてのインクジェット記録装置の一例について図23及び図24を参照して説明する。なお、図23は同記録装置の斜視説明図、図24は同記録装置の機構部の側面説明図である。
【0103】
このインクジェット記録装置は、記録装置本体111の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ、キャリッジに搭載した本発明に係るインクジェットヘッドからなる記録ヘッド、記録ヘッドへインクを供給するインクカートリッジ等で構成される印字機構部112等を収納し、装置本体111の下方部には前方側から多数枚の用紙113を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)114を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙113を手差しで給紙するための手差しトレイ115を開倒することができ、給紙カセット114或いは手差しトレイ115から給送される用紙113を取り込み、印字機構部112によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ116に排紙する。
【0104】
印字機構部112は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド121と従ガイドロッド122とでキャリッジ123を主走査方向(図24で紙面垂直方向)に摺動自在に保持し、このキャリッジ123にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係る液滴吐出ヘッドであるインクジェットヘッドからなるヘッド124を複数のインク吐出口を主走査方向と交叉する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。またキャリッジ123にはヘッド124に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ125を交換可能に装着している。なお、本発明に係るヘッド一体型のインクカートリッジを搭載するようにすることもできる。
【0105】
インクカートリッジ125は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力によりインクジェットヘッドへ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。
【0106】
また、記録ヘッドとしてここでは各色のヘッド124を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
【0107】
ここで、キャリッジ123は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド121に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド122に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ123を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ127で回転駆動される駆動プーリ128と従動プーリ129との間にタイミングベルト130を張装し、このタイミングベルト130をキャリッジ123に固定しており、主走査モーター127の正逆回転によりキャリッジ123が往復駆動される。
【0108】
一方、給紙カセット114にセットした用紙113をヘッド124の下方側に搬送するために、給紙カセット114から用紙113を分離給装する給紙ローラ131及びフリクションパッド132と、用紙113を案内するガイド部材133と、給紙された用紙113を反転させて搬送する搬送ローラ134と、この搬送ローラ134の周面に押し付けられる搬送コロ135及び搬送ローラ134からの用紙113の送り出し角度を規定する先端コロ136とを設けている。搬送ローラ134は副走査モータ137によってギヤ列を介して回転駆動される。
【0109】
そして、キャリッジ123の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ134から送り出された用紙113を記録ヘッド124の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材139を設けている。この印写受け部材139の用紙搬送方向下流側には、用紙113を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ141、拍車142を設け、さらに用紙113を排紙トレイ116に送り出す排紙ローラ143及び拍車144と、排紙経路を形成するガイド部材145,146とを配設している。
【0110】
記録時には、キャリッジ123を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド124を駆動することにより、停止している用紙113にインクを吐出して1行分を記録し、用紙113を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙113の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙113を排紙する。この場合、ヘッド124を構成する本発明に係るインクジェットヘッドはインク滴噴射の制御性が向上し、特性変動が抑制されているので、安定して高い画像品質の画像を記録することができる。
【0111】
また、キャリッジ123の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、ヘッド124の吐出不良を回復するための回復装置147を配置している。回復装置147はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ123は印字待機中にはこの回復装置147側に移動されてキャッピング手段でヘッド124をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0112】
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド124の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0113】
このように、このインクジェット記録装置においては本発明を実施したインクジェットヘッド又はインクカートリッジを搭載しているので、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上する。また、低電圧で駆動できるヘッドを搭載するので、インクジェット記録装置全体の消費電力も低減できる。
【0114】
次に、本発明に係るマイクロポンプについて図25を参照して説明する。なお、同図は同マイクロポンプの要部断面説明図である。
このマイクロポンプは、流路基板201と保護基板202とを重ねて接合した積層構造となっており、流路基板201には流体が流れる流路203を形成するとともに、流路203の一壁面を形成する変形可能な可動板204(ヘッドの振動板に相当する。)を設け、可動板204の保護基板202と接合固定しない部分は可動部分205となっている。
【0115】
そして、可動部分205には絶縁膜206を介して外面側に、前記インクジェットヘッドと同様に、複数の電極207を所定の間隔を置いて設けている。保護基板202は前記ヘッドの第2基板2と同様な機能を有するものであり、電極207を配置するための凹部208を形成している。ここでは、保護基板202は平板板基板にスペーサ部209を設けることで凹部208を形成している。
【0116】
このマイクロポンプの動作原理を説明すると、前述したように複数の電極207に対して1つおきにパルス電位を与えることによって電極207間で静電吸引力が生じるので、可動部分205が流路203側に変形する。ここで、可動部分205を図中右側から順次駆動することによって流路203内の流体は、矢印方向へ流れが生じ、流体の輸送が可能となる。
【0117】
なお、この実施形態では可動部分を複数設けた例を示したが、可動部分は1つでも良い。また、輸送効率を上げるために、可動部分間に1又は複数の弁、例えば逆止弁などを設けることもできる。
【0118】
次に、本発明に係る光学デバイスの実施形態について図26を参照して説明する。なお、同図は同デバイスの概略構成図である。
この光学デバイスは、変形可能なミラー301と保護基板302とを重ねて接合しており、ミラー301の保護基板302と接合固定しない部分は可動部分305となっている。そして、可動部分305には絶縁膜306を介して外面側に複数の電極307を所定の間隔を置いて設けている。保護基板302は前記ヘッドの第2基板2と同様な機能を有するものであり、電極307を配置するための凹部308を形成している。ここでは、保護基板302は平板板基板にスペーサ部309を設けることで凹部308を形成している。なお、ミラー301表面は反射率を増加させるため誘電体多層膜や金属膜を形成すると良い。
【0119】
この光学デバイスの原理を説明すると、ミラー301の可動部分305に設けた複数の電極307に対して1つおきにパルス電位を与えることによって、電極307間で静電吸引力が生じるので、可動部分305が凸状に変形して凸面ミラーとなる。したがって、光源310からの光がレンズ311を介してミラー301に照射した場合、ミラー301を駆動しないときには、光は入射角と同じ角度で反射するが、ミラー301を可動部分305を駆動した場合はその可動部分305が凸面ミラーとなるので反射光は発散光となる。これにより光変調デバイスが実現できる。
【0120】
そこで、この光学デバイスを応用した例を図27及び図28をも参照して説明する。この例は、上述した光学デバイスを2次元に配列し、各ミラーの可動部分305を独立して駆動するようにしたものである。なお、ここでは、4×4の配列を示しているが、これ以上配列することも可能である。
【0121】
したがって、前述した図26と同様に、光源310からの光はレンズ311を介してミラー301に照射され、ミラー301を駆動していないところに入射した光は、投影用レンズ312へ入射する。一方、電極307に電圧を印加してミラー301の可動部分305を変形させているところは凸面ミラーとなるので光は発散し投影用レンズ312にほとんど入射しない。この投影用レンズ312に入射した光はスクリーン(図示しない)などに投影され、スクリーンに画像を表示することができる。
【0122】
これらのマイクロポンプや光学デバイスの実施形態においては、第1実施形態に係るインクジェットヘッドと同様な構成のアクチュエータとしたが、第2実施形態以降の実施形態に係るインクジェットヘッドと同様な構成のアクチュエータとすることもできる。
【0123】
なお、上記実施形態においては、液滴吐出ヘッドとしてインクジェットヘッドに適用した例で説明したが、インクジェットヘッド以外の液滴吐出ヘッドとして、例えば、液体レジストを液滴として吐出する液滴吐出ヘッド、DNAの試料を液滴として吐出する液滴吐出ヘッドなどの他の液滴吐出ヘッドにも適用できる。また、マイクロアクチュエータは、マイクロポンプ、光学デバイス(光変調デバイス)以外にも、マイクロスイッチ(マイクロリレー)、マルチ光学レンズのアクチュエータ(光スイッチ)、マイクロ流量計、圧力センサなどにも適用することができる。また、前述したようにプリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像形成装置及び液滴を吐出する装置にも本発明を適用することができる。
【0124】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る液滴吐出ヘッドによれば、振動板の両面、または、片方の面に絶縁膜を設け、この絶縁膜を介して振動板と対向する位置に複数の構造体を設け、構造体間に静電力を発生させることによって振動板を変形させる構成としたので、低コストで、滴吐出効率が高く、高画質印字が可能なヘッドが得られる。
【0125】
本発明に係る液滴吐出ヘッドによれば、振動板の両面、または、片方の面に絶縁膜を設け、この絶縁膜を介して振動板と対向する位置に構造体を少なくとも1つ設けるとともに、構造体に対して所定の間隔を置いて対向する電極を固定部に設け、構造体と電極の間に静電力を発生させることによって振動板を変形させる構成としたので、低コストで、滴吐出効率が高く、高画質印字が可能なヘッドが得られる。
【0126】
これらの本発明に係る液滴吐出ヘッドにおいては、構造体が導電材料で形成されている構成とすることで、容易に構造体間に静電力を発生させることができる。また、複数の構造体を設ける液滴吐出ヘッドにおいては、互いに隣り合う構造体に電位差を生じる電圧を印加して隣り合う構造体間で静電力を発生させることで、電極のわずかな変位により振動板の大きな変形ないし変位を得ることができる。
【0127】
また、これらの本発明に係る液滴吐出ヘッドにおいては、構造体と同一材料の層が、構造体の形成される面と略同一平面で振動板以外の領域に形成されていることで、プロセスにおいて微小な構造体である電極を保護することができ、製造工程におけるウェハ搬送や、プロセス中における構造体の破損による不良を低減できる。この場合、構造体と同一材料の層の厚さが構造体の厚さよりも厚いことで、構造体の破損をより低減することができる。
【0128】
また、構造体をポリシリコンで形成することにより、比較的厚い構造体を容易に形成することができ、またドライエッチングにより構造体間の細い溝を形成することができる、つまり構造体間の距離を小さくできるので大きな力を発生することができ、低電圧駆動化を図れる。或いは、構造体を単結晶シリコンで形成することで、研磨により構造体の厚さを決めることができ、成膜では不可能な厚い構造体を形成することができ、低電圧駆動化を図れる。
【0129】
この場合、構造体は伝導型がn型またはp型の不純物原子を含むことで、構造体の電気抵抗値を小さくすることができ、高周波数駆動、多チャンネル駆動が可能になる。
【0131】
また、絶縁膜はシリコン熱酸化膜であること、シリコン熱酸化膜の膜厚が50〜1000nmであること、或いは、絶縁膜はシリコン窒化膜であること、シリコン窒化膜の膜厚が50〜1000nmであることで、信頼性を向上することができるとともに、低コストで安定して製造することが可能になる。
【0132】
さらに、構造体の表面に絶縁膜が形成されていることで、構造体のショートによる動作不良を低減することができ、耐圧も向上して、信頼性が向上する。この場合、絶縁膜を熱酸化膜とすることで、信頼性の向上、実効ギャップの狭小化による低電圧駆動化を図れ、堆積膜とすることで、更に実効ギャップを小さくして低電圧駆動化を図れ、特にCVD法により形成された膜を用いることで、均一な膜厚で成膜できて、バラツキや不良を低減できる。また、構造体表面に導電性膜を形成することで、構造体間間隔を小さくして低電圧駆動化を図れる。
【0133】
本発明に係るインクカートリッジによれば、インク滴を吐出する本発明に係る液滴吐出ヘッドとこの液滴吐出ヘッドにインクを供給するインクタンクを一体化したので、製造不良が減少し、低コスト化を図れる。
【0134】
本発明に係るインクジェット記録装置によれば、インク滴を吐出するインクジェットヘッドとして本発明に係る液滴吐出ヘッド又はインクカートリッジを搭載するので、装置の低コスト化を図れる。本発明に係る画像形成装置によれば、本発明に係る液滴吐出ヘッドを備えたので、低コスト化を図ることができる。本発明に係る液滴を吐出する装置によれば、本発明に係る液滴吐出ヘッドを備えたので、低コスト化を図れる。
【0135】
本発明に係るマイクロアクチュエータによれば、可動部分の両面、または、片方の面に絶縁膜を設け、この絶縁膜を介して可動部と対向する位置に複数の構造体を設け、構造体間に静電力を発生させることによって可動部分を変形させるので、低コストで、動作効率が高いアクチュエータが得られる。
【0136】
本発明に係るマイクロアクチュエータによれば、可動部分の両面、または、片方の面に絶縁膜を設け、この絶縁膜を介して可動部分と対向する位置に構造体を少なくとも1つ設けるとともに、固定部に構造体に所定の間隔を置いて対向する電極を設け、構造体と電極の間に静電力を発生させることによって可動部分を変形させるので、低コストで、動作効率が高いアクチュエータが得られる。
【0137】
本発明に係るマイクロポンプによれば、可動部分の変形によって液体を輸送するマイクロポンプであって、可動部分の両面、または、片方の面に絶縁膜を設け、この絶縁膜を介して可動部分と対向する位置に複数の構造体を設け、構造体間に静電力を発生させることによって可動部分を変形させるので、小型で、低消費電力化を図れるとともに、低コスト化を図れる。
【0138】
本発明に係る光学デバイスによれば、可動部分に形成したミラーの変位によって光の反射方向を変化させる光学デバイスであって、可動部分の両面、または、片面に絶縁膜を設け、この絶縁膜を介して可動部と対向する位置に複数の構造体を設け、構造体間に静電力を発生させることによって可動部分を変形させるので、小型で、低消費電力化を図れるとともに、低コスト化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の液滴吐出ヘッドの第1実施形態に係るインクジェットヘッドの分解斜視説明図
【図2】同ヘッドの振動板長手方向の断面説明図
【図3】同ヘッドの振動板短手方向の要部拡大断面説明図
【図4】同ヘッドの電極配置パターンを説明する平面説明図
【図5】同ヘッドの作用説明に供する要部拡大断面説明図
【図6】同第2実施形態に係るインクジェットヘッドの振動板短手方向に沿う要部断面説明図
【図7】同第3実施形態に係るインクジェットヘッドの振動板短手方向に沿う要部断面説明図
【図8】同第2実施形態に係るインクジェットヘッドの製造工程の一例を説明する説明図
【図9】図8に続く工程を説明する説明図
【図10】同第2実施形態に係るインクジェットヘッドの製造工程の他の例を説明する説明図
【図11】図10に続く工程を説明する説明図
【図12】図11に続く工程を説明する説明図
【図13】同第4実施形態に係るインクジェットヘッドの振動板短手方向に沿う要部断面説明図
【図14】同第5実施形態に係るインクジェットヘッドの振動板短手方向に沿う電極部分の拡大説明図
【図15】同第6実施形態に係るインクジェットヘッドの振動板短手方向に沿う電極部分の拡大説明図
【図16】同第7実施形態に係るインクジェットヘッドの振動板短手方向に沿う電極部分の拡大説明図
【図17】同第8実施形態に係るインクジェットヘッドの振動板短手方向に沿う要部拡大断面説明図
【図18】同第8実施形態の作用説明に供する断面説明図
【図19】同第9実施形態に係るインクジェットヘッドの振動板短手方向に沿う要部拡大断面説明図
【図20】同第10実施形態に係るインクジェットヘッドの振動板短手方向に沿う要部拡大断面説明図
【図21】同第11実施形態に係るインクジェットヘッドの振動板短手方向に沿う要部拡大断面説明図
【図22】本発明に係るインクカートリッジの説明に供する斜視説明図
【図23】本発明に係るインクジェット記録装置の一例を説明する斜視説明図
【図24】同記録装置の機構部の説明図
【図25】本発明に係るマイクロポンプの実施形態を説明する断面説明図
【図26】本発明に係る光学デバイスの実施形態を説明する断面説明図
【図27】同光学デバイスを用いた光変調デバイスの一例を説明する斜視説明図
【図28】同光変調デバイスの要部斜視説明図
【符号の説明】
1…第1基板、2…第2基板、3…ノズル板、4…ノズル孔、6…吐出室、7…流体抵抗部、8…共通液室、10…振動板、14…電極、26…絶縁膜、54…固定電極、55…可動電極、100…インクカートリッジ、201…流路基板、203…流路、205…可動部分、207…電極、301…ミラー、305…可動部分、307…電極。
Claims (26)
- 液滴を吐出する単一又は複数のノズル孔と、前記ノズル孔のそれぞれに連通する吐出室と、前記吐出室の少なくとも一方の壁を構成する振動板とを備え、前記振動板を変形させることによって液に圧力を加え液滴を吐出する液滴吐出ヘッドにおいて、前記振動板の両面、または、片方の面に絶縁膜を設け、この絶縁膜を介して振動板と対向する位置に複数の構造体を設け、前記構造体間に静電力を発生させることによって前記振動板を変形させることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 液滴を吐出する単一又は複数のノズル孔と、前記ノズル孔のそれぞれに連通する吐出室と、前記吐出室の少なくとも一方の壁を構成する振動板とを備え、前記振動板を変形させることによって液に圧力を加え液滴を吐出する液滴吐出ヘッドにおいて、前記振動板の両面、または、片方の面に絶縁膜を設け、この絶縁膜を介して振動板と対向する位置に構造体を少なくとも1つ設けるとともに、前記構造体に対して所定の間隔を置いて対向する電極を固定部に設け、前記構造体と前記電極の間に静電力を発生させることによって前記振動板を変形させることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項1又は2に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記構造体が導電材料で形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項1に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、互いに隣り合う構造体に電位差を生じる電圧を印加して隣り合う構造体間で静電力を発生させることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項1乃至4のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記構造体と同一材料の層が、前記構造体の形成される面と略同一平面で前記振動板以外の領域に形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項5に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記構造体と同一材料の層の厚さが前記構造体の厚さよりも厚いことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項1ないし6のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記構造体はポリシリコンからなることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項1ないし6のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記構造体は単結晶シリコンからなることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項7又は8に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記構造体は伝導型がn型またはp型の不純物原子を含むことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項1ないし9のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記絶縁膜はシリコン熱酸化膜であることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項10に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記シリコン熱酸化膜の膜厚が50〜1000nmであることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項1ないし9のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記絶縁膜はシリコン窒化膜であることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項12に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記シリコン窒化膜の膜厚が50〜1000nmであることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項1ないし13のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記構造体の表面に絶縁膜が形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項14に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記絶縁膜は熱酸化膜であることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項14に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記絶縁膜は堆積膜であることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項16に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記絶縁膜はCVD法により形成された膜であることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項1ないし17のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記構造体表面に導電性膜が形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- インク滴を吐出する液滴吐出ヘッドとこの液滴吐出ヘッドにインクを供給するインクタンクを一体化したインクカートリッジにおいて、前記液滴吐出ヘッドが請求項1ないし18のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドであることを特徴とするインクカートリッジ。
- インク滴を吐出するインクジェットヘッドを搭載したインクジェット記録装置において、前記インクジェットヘッドが請求項1ないし18のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド又は請求項19に記載のインクカートリッジであることを特徴とするインクジェット記録装置。
- 可動部分を変形させるマイクロアクチュエータであって、前記可動部分の両面、または、片方の面に絶縁膜を設け、この絶縁膜を介して前記可動部と対向する位置に複数の構造体を設け、前記構造体間に静電力を発生させることによって前記可動部分を変形させることを特徴とするマイクロアクチュエータ。
- 可動部分を変形させるマイクロアクチュエータであって、前記可動部分の両面、または、片方の面に絶縁膜を設け、この絶縁膜を介して可動部分と対向する位置に構造体を少なくとも1つ設けるとともに、固定部に前記構造体に所定の間隔を置いて対向する電極を設け、前記構造体と前記電極の間に静電力を発生させることによって前記可動部分を変形させることを特徴とするマイクロアクチュエータ。
- 可動部分の変形によって液体を輸送するマイクロポンプであって、前記可動部分の両面、または、片方の面に絶縁膜を設け、この絶縁膜を介して前記可動部分と対向する位置に複数の構造体を設け、前記構造体間に静電力を発生させることによって前記可動部分を変形させることを特徴とするマイクロポンプ。
- 可動部分に形成したミラーの変位によって光の反射方向を変化させる光学デバイスであって、前記可動部分の両面、または、片面に絶縁膜を設け、この絶縁膜を介して前記可動部と対向する位置に複数の構造体を設け、前記構造体間に静電力を発生させることによって前記可動部分を変形させることを特徴とする光学デバイス。
- 液滴吐出ヘッドを備えて画像を形成する画像形成装置において、前記液滴吐出ヘッドが請求項1ないし18のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドであることを特徴とする画像形成装置。
- 液滴吐出ヘッドから液滴を吐出する装置において、前記液滴吐出ヘッドが請求項1ないし18のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドであることを特徴とする液滴を吐出する装置。
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