JP2005012481A - 通信装置および通信素子の識別番号設定方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】複数の通信素子を備えた通信装置において、通信素子のグローバルな識別番号を動的に設定する方法を提供する。
【解決手段】本発明による通信装置700は複数の通信素子800を備え、各通信素子800は、2以上の通信素子で共用するローカル識別番号を有している。各通信素子800が、他の通信素子からグローバル識別番号を設定するための信号を受信し、その信号に含まれる他の通信素子のローカル識別番号およびグローバル識別番号をもとに自身のグローバル識別番号を設定し、他の通信素子とは別の通信素子に対して、自身のローカル識別番号および設定したグローバル識別番号を含めた信号を送信することで、各通信素子のグローバル識別番号を順次設定する。
【選択図】 図23
【解決手段】本発明による通信装置700は複数の通信素子800を備え、各通信素子800は、2以上の通信素子で共用するローカル識別番号を有している。各通信素子800が、他の通信素子からグローバル識別番号を設定するための信号を受信し、その信号に含まれる他の通信素子のローカル識別番号およびグローバル識別番号をもとに自身のグローバル識別番号を設定し、他の通信素子とは別の通信素子に対して、自身のローカル識別番号および設定したグローバル識別番号を含めた信号を送信することで、各通信素子のグローバル識別番号を順次設定する。
【選択図】 図23
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数の通信素子を備えた環境における通信技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
LAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)などの通信ネットワークにおいて、複数の通信端末が同軸ケーブルや光ファイバなどにより接続されている。これらの通信端末は、ネットワーク中のアドレスを指定することにより、所望の通信端末に信号を伝達する。従来のネットワークは、通信端末同士を有線にて接続することが一般であり、近年では、これを無線で接続するシステムも提案されている。例えば、移動デバイスであるノードの全てが所定の伝送半径をもち、ノード間で無線通信を行うアドホックネットワークが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開2001−268127号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
通信ネットワークや実装基板においては端末や素子などを個別配線により一対一の関係で物理的に接続しているため、仮に配線が切断された場合には信号を伝達することができなくなり、通信機能が停止する事態も生じうる。
【0005】
そこで本発明は、このような従来の問題を解決するべく、通信装置に関する新規な通信技術を提供し、さらには通信装置における通信素子の識別番号の設定技術を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は、複数の通信素子を備える通信装置であって、各通信素子の通信距離は周辺に配置された他の通信素子と局所的な通信を行える程度に設定されており、それぞれの通信素子は、2以上の通信素子で共用する第1の識別番号を有し、各通信素子の通信距離内に存在する1以上の通信素子の第1識別番号が互いに異なるように、通信素子が配置されていることを特徴とする通信装置を提供する。なお第1の識別番号は、2以上の通信素子で共用され、ある一定の狭い領域において識別子として機能することから、ローカル識別番号と呼んでもよい。
【0007】
本発明の別の態様は、複数の通信素子を備える通信装置であって、各通信素子の通信距離は周辺に配置された他の通信素子と局所的な通信を行える程度に設定されており、それぞれの通信素子は、2以上の通信素子で共用する第1の識別番号を有し、複数の通信素子は、第1の識別番号の配列が周期的となるように配置されていることを特徴とする通信装置を提供する。
【0008】
上記2つの態様において、各通信素子は、通信素子間で座標決定信号を順次伝達することにより、通信装置における第2の識別番号を取得することができる。各通信素子は、座標決定信号を送信した通信素子の第1識別番号をもとに第2識別番号を決定してもよい。なお第2の識別番号は、通信装置全体において他の通信素子と区別するために割り当てられる識別子であることから、グローバル識別番号と呼んでもよい。
【0009】
本発明のさらに別の態様は、複数の通信素子で共用され、相対的な位置関係を示す第1識別番号が各通信素子に付与された通信環境において、通信素子が、通信装置内で一意に設定される第2識別番号と、第1識別番号を含んだ信号を受信することで、自身の第2識別番号を設定することを特徴とする識別番号設定方法を提供する。
【0010】
本発明のさらに別の態様は、複数の通信素子を備える通信装置において、各通信素子にグローバル識別番号を設定する方法であって、各通信素子は、2以上の通信素子で共用するローカル識別番号を有し、ローカル識別番号をもとに自身の相対的な位置関係を把握するように構成されており、各通信素子が、他の通信素子からグローバル識別番号を設定するための信号を受信し、その信号に含まれる他の通信素子のローカル識別番号およびグローバル識別番号をもとに自身のグローバル識別番号を設定し、他の通信素子とは別の通信素子に対して、自身のローカル識別番号および設定したグローバル識別番号を含めた信号を送信することで、各通信素子のグローバル識別番号を順次設定することを特徴とする識別番号設定方法を提供する。
【0011】
なお、本発明の表現を装置、方法、システムまたはプログラムの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【0012】
【発明の実施の形態】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る通信技術の方式を説明するための図である。図1には、小さな円で示す複数の通信素子が空間内に分散して配置されている状態が示される。各通信素子は、その周辺に配置された他の通信素子に対して信号を伝達する局所的な通信機能を有する。この局所的な通信により隣り合う通信素子間で信号を順次連鎖的に中継し、最終目的地である通信素子まで信号を伝達する。この通信方式を連鎖伝達型の通信方式と呼ぶ。
【0013】
信号の送信元が通信素子200aであり、最終目的地が通信素子200bである場合、連鎖伝達型通信方式によると、信号が通信素子200aから通信素子200cおよび200dを介して通信素子200bに伝達される。信号の伝達方法としては、例えば通信素子200aが、信号が届く範囲にある周辺の全ての通信素子に信号を伝達し、この信号を受けた全ての通信素子が更に周辺の通信素子に信号を伝達することによって、信号を最終目的地まで同心円状に伝達させてもよい。さらに好ましい方法としては、通信素子200aおよび200b間の経路を予めまたはリアルタイムで設定し、この経路により特定の通信素子のみを介して信号を伝達してもよい。特に後者の方法を採用する場合には、信号伝達に必要な通信素子のみが発信するため、電力消費を少なくすることができ、また他の通信素子の通信に対する干渉を低減することも可能となる。連鎖伝達型の通信方式における信号伝達の方法の一例は後述する。
【0014】
本発明による通信装置は、空間内に複数の通信素子を配置し、この空間内には通信素子間を物理的に接続するための個別配線が形成されていないことが好ましい。例えば、これらの通信素子は、平坦な導電層または導電性基板、交流信号を伝達可能な電磁作用伝達層などに接続され、これらの層または基板を介して通信素子間における信号の伝達が行われてもよい。導電層や電磁作用伝達層は、シリコンウェハ上に形成されてもよい。信号の送信は、導電層における電荷の放出により実現されてもよい。ここで通信素子は、チップとして構成されるものに限定されず、本発明の実施の形態において説明する通信機能を備えたものを含む概念であり、その形態および形状は問わない。
【0015】
各通信素子は、信号の伝達可能な距離(以下、「有効通信距離」とも呼ぶ)を比較的短く設定されていることが好ましい。信号の通信距離を長くすることは、それだけ電力消費量を大きくし且つ通信に寄与しない他の通信素子に対して悪影響を及ぼす可能性がある。連鎖伝達型の通信方式によると、自身の近傍に存在する通信素子に信号を伝達できれば十分であるため、有効通信距離は周辺の通信素子までの平均距離に応じて設定されることが好ましい。
【0016】
本発明の通信技術は、様々な用途に応用することができる。例えば、LSIやメモリなどの電子部品(回路素子)に本発明の通信機能をもたせることによって、各電子部品を個別に配線することなく、複数の電子部品を基板実装する技術を提供することが可能である。また、近年、皮膚の感覚を持つロボットの研究が盛んに行われているが、ロボットの触覚センサに本発明の通信機能をもたせ、触覚センサの検知情報をロボットの頭脳コンピュータに送信する技術を提供することも可能である。また建物の床に本発明の通信機能を有するセンサを点在させることにより、一人暮らしの老人の行動を監視したり、留守中の防犯に役立てることも可能である。また、発光素子に本発明の通信機能をもたせることにより、布状の表示装置などを製造することも可能となる。また、タグに本発明の通信機能をもたせることにより、安価で精度のよい情報の読み取りを可能とするタグを作製することも可能となる。さらに無線通信素子に本発明の通信機能をもたせて例えばコンピュータにそれを装備させ、無線通信素子の近傍に相手方のコンピュータの無線通信素子を配置することによって、コンピュータ間の情報の送受信を容易に行うことも可能となる。また自動車の導電性内壁に本発明の通信機能を備えた通信素子を埋め込み、煩わしい個別配線を不要とした通信装置を実現することも可能となる。
【0017】
この通信技術は、比較的短い距離に配置された通信素子間で信号を伝達するため、距離による信号の減衰および劣化が少なく、高いスループットでノード数によらない高速伝送を可能とする。また空間内に多くの通信素子を分散して配置させることにより、センサなどの所定の機能をもつチップとの情報交換媒体として広範囲の信号伝達領域を実現する。また、通信素子を比較的自由な位置に配置することができるため、簡易な設計により所望の機能を備えた人工皮膚や表示装置などを生成することも可能である。また配線などの基板回路設計を不要とし、少ないプロセスで基板回路を製造することも可能である。通信素子を導電層で挟持する場合には電磁ノイズ放射がなくなるため、特に病院などの公共性の高い場所においてはその有用性が高い。さらに、導電層などに障害が生じた場合であっても、チップ間の経路を再設定することができ、新たな通信経路を確立することができるという自己修復機能もあわせ持つ。
【0018】
図2は、本発明の第1の実施の形態にかかる通信装置100の外観構成の一例を示す。この通信装置100においては、複数の通信素子200が2枚の導電層16および18によって挟持されている。各通信素子200は、この2枚の導電層16および18に電磁的に接続される。導電層16および18は、単層構造を有していても、また多層構造を有していてもよく、この例では二次元的に一面に広がった構成を有している。図2は、通信素子200が挟持されていることを説明するために、導電層16と導電層18とが開いた状態を示す。
【0019】
例えば、本発明による通信装置100をロボットの表面を覆う人工皮膚として応用する場合、導電層16および18を導電性のゴム材料により形成する。可撓性のあるゴム材料で人工皮膚を形成することにより、この人工皮膚はロボットの動作に合せて自在に伸縮することが可能となる。また、個別配線が存在せず、伸縮性のある導電層16および18を介して信号を伝達するため、断線などにより通信機能に障害が生じる可能性を低減し、安定した通信能力を提供できる。また本発明による通信装置100を回路基板として応用する場合、導電層16および18を導電性のゴム材料で形成することによって、フレキシブルな回路基板を実現することも可能となる。
【0020】
各通信素子200は通信機能以外に、さらに他の機能を有していてもよい。通信装置100をロボットの人工皮膚として応用する場合には、通信素子200のいくつかが触覚センサとしての機能も有し、外部から受けた刺激を検出した後、他の通信素子と協同して検出した信号を目的の通信素子まで伝達する。また通信装置100を基板の実装技術として応用する場合には、通信素子200が、例えばLSIやメモリなどの回路素子としての機能を有してもよい。このように、本明細書において「通信装置」は少なくとも通信機能を有する装置の意味で用い、これに付加した他の機能、例えば人工皮膚としてのセンサ機能や電子回路としての演算機能などを有してもよいことは、当業者に理解されるところである。
【0021】
図3は、通信素子200の機能ブロック図である。通信素子200は、通信部50、処理部60およびメモリ70を備える。通信部50は、導電層16および18(図2参照)を介して、他の通信素子との間で信号の送受を行ってもよい。また、図2に示していないが、通信装置100は、通信素子200の周囲に配置されて、導電層16および18に挟持される誘電層を備え、通信部50が、この誘電層に発生する電場または電磁場により他の通信素子200との間で信号の送受を行ってもよい。処理部60は、通信素子200の通信機能を制御する。具体的に処理部60は、周囲の信号の監視、受信信号の解析や、送信信号の生成および送信タイミングの制御など、他の通信素子200との間の信号伝達に関する処理を行う。また処理部60は、センサ機能や演算機能など通信機能以外の他の機能を実現してもよい。メモリ70は、通信機能や他の機能を実現するために必要な情報を予め記録し、また必要に応じて記録していく。
【0022】
図4(a)は、通信装置100の断面を示し、局所的通信を実現する通信デバイス300の構造の一例を説明するための図である。本明細書において「通信デバイス」は、局所的な通信機能を実現する構造の意味で用いる。
【0023】
この例において通信デバイス300は、第1信号層20および第2信号層30と、第1信号層20および第2信号層30に電磁的に接続する通信素子200と、第1信号層20および第2信号層30の間に配置される誘電層22とを備える。図示のごとく、第1信号層20および第2信号層30は、誘電層22および複数の通信素子200を挟持する。通信素子200と誘電層22は、電磁的に接続する。第2信号層30は接地されたグランド層であってもよい。
【0024】
通信デバイス300は、信号を発信するために、第1信号層20および第2信号層30の通信素子200側の表面から、電荷の吸出しおよび放出を繰り返し、交流電流Iを発生させる。層厚などの条件を適宜定めることにより、交流電流Iにより発生する電場や電磁場を誘電層22に閉じ込めることができ、電磁波動を誘電層22内で2次元放射状に伝達させることができる。第1信号層20および第2信号層30に流れる電流は、誘電層22側の表面付近のみを流れ、第1信号層20および第2信号層30の電気伝導率によって、電磁波動の伝達距離がきまる。これらの電気伝導率が大きいほど、減衰は小さく、伝達距離、すなわち有効通信距離が長くなる。
【0025】
第1信号層20および第2信号層30は、金属や導電性ゴム材料などの導体により構成されてよいが、誘電体により構成されてもよい。第1信号層20および第2信号層30が誘電体で構成される場合、第1信号層20および第2信号層30は、誘電層22の誘電率よりも小さい誘電率を有する材料から構成される。これにより、誘電層22内に電場や電磁場を閉じ込めることが可能となる。なお、第1信号層20および第2信号層30は、空気や真空のような構成をとってもよい。
【0026】
また電場や電磁場を発生させる交流電流Iは、均一な電流であってもよいが、変位電流であってもよい。なお電磁場を発生させるために、レーザーやLEDによる光などの電磁波を用いることも可能である。
【0027】
図4(b)は、局所的通信を実現する通信デバイス300の構造の別の例を説明するための図である。この例では、通信デバイス300が、第1信号層20および第2信号層30と、第1信号層20および第2信号層30に電磁的に接続する通信素子200と、第1信号層20および第2信号層30の間に配置される誘電層22aおよび22bと、誘電層22aと誘電層22bとの間に配置される導電層24を備える。通信デバイス300がこのような構造をとった場合であっても、通信素子200中に交流電流を発生させることにより、電場または電磁場を利用した通信が可能となる。
【0028】
図5(a)は、実施の形態における通信デバイス300が信号を発信する基本原理を説明するための図である。通信デバイス300は、スイッチ26を交互に切り替えて、第1信号層20および第2信号層30の間で電荷の吸出し、放出を行い、交流電流を生じさせることにより、電磁場を発生させる。この電磁場は、第1信号層20および第2信号層30に挟持される誘電層22中を伝わって、近傍に位置する通信デバイス300まで伝達される。
【0029】
図5(b)は、通信デバイス300が信号を発信する原理の別の例を説明するための図である。通信デバイス300は、一組のスイッチ26aおよびスイッチ26bを同時に交互に切り替えることにより、第1信号層20および第2信号層30の間に交流電流を発生させ、電磁場を発生させる。
【0030】
図6は、通信素子200を備えた通信デバイス300の具体的な実現例を示す。この通信デバイス300は、グランド層である第2信号層30および電源層44と、第2信号層30および電源層44に電磁的に接続する通信素子200と、第2信号層30および電源層44の間に積層された誘電層22、第1信号層20、誘電層43を備える。図示のごとく、第2信号層30、誘電層22、第1信号層20、誘電層43および電源層44は、この順に積層される。通信素子200は、誘電層22および誘電層43に、電場または電磁場を発生させることにより信号を発信する。通信素子200は、第2信号層30および電源層44に挟持され、周囲を誘電層22、第1信号層20および誘電層43に囲まれて構成される。誘電層22、第1信号層20および誘電層43は、通信素子200に電磁的に接続している。この構造により、通信素子200は、誘電層22および誘電層43における電場または電磁場をそれぞれ検出し、誘電層22および誘電層43における電場または電磁場の差分を検出することによって、信号を高い精度で検出することが可能となる。差分をとることにより、外部から混入するノイズの影響を最小とすることができ、SN比をあげることができる。第1信号層20と、電源層44および第2信号層30の間に図5(a)のようなスイッチ26を設けることにより、第1信号層20と電源層44、および第1信号層20と第2信号層30の間をショートすることができ、第1信号層20の電位をふりやすくなる。これは、通信素子200が電源層44およびグランド層である第2信号層30に接続したことの利点である。
【0031】
図7(a)は、通信デバイス300を実現する回路動作の概要を示す。通信デバイス300は半導体製造技術を用いてシリコン上に形成されてもよい。通信デバイス300は、pMOSとnMOSを並列接続したMOSスイッチなどのスイッチ26を有し、スイッチ26は、通信素子200と、グランド層である第2信号層30および電源層44との電磁的な接続を交互に切り替える。具体的には、スイッチ26が、送信すべき信号の論理値に応じて、第1信号層20および第2信号層30の接続と、第1信号層20および電源層44の接続とを切り替え、電磁波動として信号を発信する。なお、既述のごとく、第1信号層20と第2信号層30の間には誘電層22が設けられ、また、同様に、第1信号層20と電源層44との間には、別の誘電層43が設けられる。入力部52には、送信すべき信号の論理値に応じた電圧が印加され、スイッチ26によるスイッチング動作が実行される。通信素子200内の処理部60(図3参照)が入力部52に入力信号を供給する。
【0032】
スイッチ26によるスイッチング動作の結果、第1信号層20から第2信号層30に、また電源層44から第1信号層20に電流が発生し、第1信号層20と第2信号層30の間に存在する誘電層22、および電源層44と第1信号層20の間に存在する誘電層43において、2次元放射状に広がる電場または電磁場が発生する。この電場または電磁場は、隣接する通信素子200に伝播される。
【0033】
隣接する通信素子200は、電場または電磁場の変化を観測し、信号を検出する。隣接する通信素子200は、誘電層22において発生した電場または電磁場から信号を検出してもよく、また誘電層43において発生した電場または電磁場から信号を検出してもよい。なお、既述のごとく、通信素子200は、誘電層22および誘電層43の両方において発生した電場または電磁場から信号を検出してもよい。誘電層22および誘電層43における電場または電磁場をそれぞれ検出し、誘電層22および誘電層43における電場または電磁場の差分を検出することによって、外部から混入するノイズの影響を最小とすることができ、SN比をあげることができる。
【0034】
図7(b)は、第1信号層20に印加する交流電圧の振幅を制限する回路の例を示す。電源層44および第2信号層30から第1信号層20に電圧を印加する電力経路のそれぞれに、電圧を制限するための電圧制限素子54、この例ではダイオード列を配置させる。電圧制限素子54として、1個または複数個のダイオードを順方向にそれぞれの電力経路に挿入することにより、第1信号層20に印加する電圧を制限することができる。電圧制限素子54を設けない場合、第2信号層30からのグランド電圧(0[V])と、電源層44からの電源電圧(E[V])とが交互に第1信号層20に印加されるが、第2信号層30からの電力経路と電源層44からの電力経路にそれぞれn個のダイオード列を順方向に挿入した場合には、第1信号層20には、ne[V]と(E−ne)[V]の電圧が交互に印加されることになる。ここでe[V]は、ダイオードの順方向電圧を示す。
【0035】
電圧制限素子54を設けることにより、電源電圧が信号発信に必要な電圧よりも十分高い場合であっても、印加電圧を必要なレベルにまで下げることが可能となる。また、電圧制限素子54を電力経路に挿入することによって、電流量が減るため、消費電力を下げることができ、通信デバイス300の省電力化に寄与することになる。なお、第2信号層30と第1信号層20の間に設けられる電圧制限素子54aと、電源層44と第1信号層20の間に設けられる電圧制限素子54bの抵抗値は異なってもよい。
【0036】
図8(a)は、通信素子200の具体的な構成例を示す。通信素子200は、上述の通信機能を備えたLSIとして構成され、図8(a)は、第1信号層20に接触するLSIの上面を示している。通信素子200は、図3に示した処理部60およびメモリ70の各機能を備えたデジタル回路202を有する。円形の電極204は通信部50として作用する。なお、通信素子200の実装に際して、電極204は小さく形成されることが好ましい。図示しないLSIの裏面の電極は、第2信号層30と電磁的に接続されている。電極204は、スイッチ26(図5または図7参照)のスイッチング動作により、第1信号層20を介して電源層44から電源電圧を印加され、また裏面の第2信号層30からグランド電圧を印加される。既述のごとく、通信素子200は、スイッチ26を交互にスイッチして、交流電流を発生することで、電場または電磁場を変化させ、信号を発信する。
【0037】
図8(b)および図8(c)は、通信素子200による信号発信の原理を説明するための図である。図中、Sで示す領域は、通信素子200の電極204を示す。第1信号層20および第2信号層30の導電率をσとし、誘電層22の誘電率をε0とする。既述のごとく、誘電層22が、第1信号層20および第2信号層30に挟まれた構造につき考察する。なお、図8(b)および図8(c)では、誘電層22の図示を省略している。この構造において、電磁波動を発生し、発生した電磁波動を、誘電層22中に伝達させる。
【0038】
図示のごとく、円柱座標をとり、各層に垂直方向のz軸まわりの解を求める。円柱座標の原点を、円形の電極204の中心点の垂直下方向であって、且つ第1信号層20の下面と第2信号層30の上面との中間点にとる。第1信号層20と第2信号層30の間隔、すなわち誘電層22の厚さを2d、電極204の半径をr0とする。z軸に対称な解においては、磁場ベクトルBはθ成分のみをもち、それをB(r,z)と表現する。このような構造において、通信素子200内において、第1信号層20から第2信号層30に、半径r0の円柱表面に沿って電流を流すものとする。なお、電流経路は厳密な円柱形状である必要はなく、また厳密に均一な電流が流れることまでは必要としない。z軸を対称軸とする半径rの円柱面を外に向かって横切る表皮電流の総和をI(r)と表現する。電磁波動の周波数をωとすると、一般解は、以下のように表現される。なお、第1信号層20および第2信号層30ともに導体とし、以下の発信原理の説明において、それぞれの層を区別せずに、導体層と呼ぶ。
【数1】
B0は磁場の強さを表す定数である。ここで、上記一般解における各パラメータの値を、以下のように設定する。
【数2】
Re[k]は、誘電層22中の電磁波動の波数であり、cは誘電層22における光速である。Im[k]は伝播する電磁波動の減衰を与えるパラメータである。Re[p]は表皮深さを与えるパラメータである。
【0039】
また、
H1 (2)(z)≡J1(z)−jN1(z)
である(ハンケル関数)。
なお、マイクロ波を伝達し、上記の解が成立するためには、以下の条件を満たす必要がある。
1)|σ/ω|>>ε0(σは導体層の導電率)を満たすこと。
2)表皮深さが導電層の厚みよりも小さいこと。
3)減衰距離が、その周波数に対応する真空中の電磁波長よりも大きいこと。すなわち、−Im[k]がRe[k]と同程度か、それより小さいこと。
4)導電層の間隔が、
【数3】
を満たすこと。
なお、透磁率は誘電層22、導体層ともにμであることと仮定した。
【0040】
以上の伝達条件を満たすことにより、誘電層22において2次元放射状にマイクロ波を伝達させることが可能となる。例えば、周波数を10〜100GHz程度、伝達距離を10cm程度、d=1〜0.1mm程度とすることにより、以上のマイクロ波伝達条件を満足するような導電率の材料を容易に見つけることができる。なお、表皮深さが導電層の厚みよりも大きい場合であっても電磁作用は伝達するが、その場合には、電磁波は、導電層の外にも漏出することになる。
【0041】
電磁波動をマイクロ波として伝達することにより信号伝達速度は光速となる。このように、本実施の形態における通信装置100は、1ビットの情報を送るのに1波長分程度の幅をもったリング状の電磁場を生成し、この電磁場を利用して通信を行うため、少ない消費電力で1GHzをこえる信号伝達を行うことが可能となる。これにより、通信装置100は、コンピュータなどのクロックと同期して高周波数の論理信号を伝送可能となる。
【0042】
中心から距離rの点における上側導体層表面、すなわち第1信号層20表面と、下側導体層表面、すなわち第2信号層30表面との電位差をV(r)とすると、半径rの円柱面を横切って流れる電流I(r)とV(r)(その地点での電極間の電位差2dEz)の比は、
【数4】
で与えられる。この値は、通信素子200からみた出力インピーダンスに相当する。ここで、関数P(x)を
【数5】
と設定する。
【0043】
図9は、実数xに対するP(x)のプロットを示す。P(x)の虚部(Im[P(x)])はリアクタンス成分を意味し、原点近くで対数的に発散する。このことは、電流経路となる円柱の半径r0が小さくなると、リアクタンス成分が増大し、電圧を印加しても電磁波のエネルギーに有効に変換されないことを意味している。そのため、この構造をとる場合には、半径r0、すなわち円形の電極204の半径を小さく構成することが難しくなる。
【0044】
図10は、電極204の半径を小さく形成することに考慮した通信デバイス300の構成例を示す。通信デバイス300は、通信素子200を駆動するための駆動回路82と、通信素子200と第1信号層20とを接続するコンデンサ80を備える。駆動回路82は通信素子200内に存在してもよい。既述のごとく、駆動回路82はスイッチ26を有する。電極204の半径r0が小さいときに生じるリアクタンス成分(図9に示すIm)は誘導性である。半径r0の円形電極204のスイッチングによって電磁波動を放出する場合、第1信号層20のインピーダンスは、抵抗とインダクタンスを直列接続した回路のそれと等価であるから、通信素子200をコンデンサ80を介して第1信号層20に接続することにより、リアクタンス成分を低くすることが可能となる。コンデンサ80は、通信素子200の内部において構成することができる。容量Cは、
【数6】
となるように選べばよい。これにより、回路の直列共振状態をつくることができ、インピーダンスを最小に設定することができる。
【0045】
例えば、周波数を10GHz、2d=1mm、r0=0.1mmとすると、kr0=0.02であるため、Im[P(x)]=4.0となり、リアクタンス成分は抵抗成分より3倍近く大きくなる。このときのリアクタンスは50Ωであるから、C=0.3pFの容量をもつコンデンサ80を付加して駆動することにより、駆動回路82からみたインピーダンスは実数、すなわち抵抗となり、そこで消費されるエネルギーは2次元的に放射される電場または電磁場のエネルギーに効率的に変換されることになる。
【0046】
図11は、電極204の半径を小さく形成することに考慮した通信デバイス300の構成の変形例を示す。この変形例では、通信素子200の電極204を絶縁層210を介して第1信号層20に接続する。図10に関連して説明したように、コンデンサ80は通信素子200の内部に構成されてもよいが、図11に示すように、絶縁層210として通信素子200の外部に設けられてもよい。この場合、通信素子200と第1信号層20との接続に非導電性の接着剤を利用することができ、製造工程を簡略化することができる。いずれの場合であっても、電極204と第1信号層20とを容量を介して結合させることにより、電流経路の円柱半径を小さく構成した場合におけるリアクタンス成分を低減することができる。そのため、電極204の小規模化を実現することができ、通信素子200を容易に実装して、通信装置100を作成することが可能となる。
【0047】
図12は、実施の形態に係る通信装置100における信号伝達方法の説明図を示す。実施の形態においては、各通信素子200が、空間内の自身の位置を示す座標をアドレスとしてメモリに保持する。座標は、2次元座標であっても3次元座標であってもよい。通信素子200の座標は外部のコンピュータなどにより設定されてもよく、各々で自律的に設定してもよい。この例では、座標(1,1)に位置する通信素子から、座標(7,7)に位置する通信素子まで信号を伝達することを目的とする。以下、座標(M,N)に位置する通信素子を「通信素子(M,N)」と表現する。なお図示の例では、説明の便宜上、通信素子が規則的に配列されているが、この配列形態はランダムであってよい。
【0048】
図13は、送信元の通信素子により生成される信号のパケットを示す。このパケットには、コマンド、送信元アドレス、送信先アドレスおよび送信データの項目が設けられる。この信号はデータを通信素子(7,7)に転送するためのものであり、コマンドには転送パケットであることを指示するコードが記述される。送信元アドレスには、送信元通信素子の座標である(1,1)が記述され、送信先アドレスには、送信先通信素子の座標である(7,7)が記述される。送信データは、伝達すべきデータである。このように、通信素子(1,1)は送信元座標と送信先座標とを含んだ信号のパケットを生成する。パケットの生成は処理部60(図3参照)により行われる。
【0049】
図12に戻って、送信元の通信素子(1,1)が信号を送信すると、その信号は周辺の通信素子、すなわち座標(0,0)、(2,0)、(3,1)、(2,2)、(0,2)、(−1,1)に位置する通信素子に伝達される。これらの通信素子は、信号を受け取ると、自身が位置する座標をもとに信号を中継するか否かを決定する。この決定は、送信元座標(1,1)と送信先座標(7,7)との間に、空間的に自身が位置するか否かを判定することにより行われ、具体的には、送信元の通信素子(1,1)と、送信先の通信素子(7,7)とを結ぶ経路上に自身が位置するか否かを判定することにより行われる。
【0050】
この例では、通信素子(2,2)が、通信素子(1,1)と通信素子(7,7)を結ぶ経路上に位置することを判定し、信号を中継することを決定する。通信素子(2,2)は、受け取った信号を送信し、それ以外の通信素子は応答しない。以後、信号は、通信素子(3,3)、通信素子(4,4)、通信素子(5,5)、通信素子(6,6)により中継されて通信素子(7,7)に伝達される。
【0051】
本実施の形態においては、各通信素子が、自身の座標と、送信元および送信先の座標との関係により、信号を中継すべきか否かを判断する。通信経路を予め定めておく必要はなく、単純なアルゴリズムで動的に最短経路を設定し、信号を伝達することが可能となる。
【0052】
以上のように、通信装置100は、通信素子200間で信号を伝達することが可能となる。各通信素子200の有効通信距離の範囲内には、既述のような通信素子200間で要求される通信機能を有しないシンプルな他の通信素子を配置してもよい。このシンプルな通信素子は、通信素子200の管理下におかれる。この関係から、通信素子200を親素子と呼び、その管理下にある通信素子を子素子と呼ぶ。上記のごとく、親素子となり、信号伝達に寄与する通信素子200は、自身の二次元座標などのIDを有している。
【0053】
この親子関係は、親素子が応答要求を定期的に発行し、それに子素子が応答することで動的に形成される。具体的にはまず親素子は自分のIDをパケットに埋め込んだ「応答要求コマンド」を送信する。すでに親素子が確定している子素子はそれに応答することはなく、まだ親素子が確定していない子素子は、乱数による待機時間の後、自分がその親素子に子供になることを意思表示するパケットを発行する。このパケットを受け取った親素子は直ちにID確定コマンドを送出し、その子素子に、自分の管轄内でのIDを割り当てる。このようにして任意の子素子は動的に近傍の1次素子とユニークな親子関係を確立する。なお子素子は組み込みの素子でもよいし、コネクタを介して信号層に接続された情報機器であってもよい。
【0054】
通信装置100において、子素子は、親素子との間でのみ通信を可能とする。親素子である通信素子200は、子素子から発信された信号を、周辺の通信素子200に伝達する役割と、また別の通信素子200から送信された信号を、子素子に伝達する役割をもつ。親素子は、複数の子素子を管理してもよく、割り当てたIDにより、管理下の子素子を特定する。
【0055】
<第2の実施の形態>
図14は、本発明の第2の実施の形態に係る通信装置400の構成を示す。通信装置400には、信号を伝達する複数の信号層410a、410b、410c、410d、410e、410f、410g、410h、410i(以下、総称する場合は「信号層410」と呼ぶ)が形成される。信号層410は導電性材料により形成され、近傍の信号層410とは互いに絶縁される。隣り合う信号層410の間には高抵抗層420が設けられてもよく、また各信号層410は、互いに離間して高抵抗層420上に設けられてもよい。
【0056】
通信装置400には、2つ以上の信号層410に接続して、当該2つ以上の信号層410間における信号の送受信を行う計12の通信素子500e、500f、500h、500i、500j、500l、500m、500o、500p、500q、500s、500tが設けられる。図14の例では、縦横3×3個の信号層410が形成されているが、中央の信号層410eを除く周囲の信号層410には、1つの信号層410にのみ接続する計12の通信素子500a、500b、500c、500d、500g、500k、500n、500r、500u、500v、500w、500xが設けられる。以下、通信素子を総称する場合は「通信素子500」と呼ぶ。通信素子500は、第1の実施の形態で説明した通信素子200と同様の機能を有してもよく、また同様の構成を有してもよい。このように、通信装置400においては、信号層410内または信号層410間における信号の送受信を担うべく、計24の通信素子500が設けられている。図14においては、計12の通信素子500が、隣り合う2つの信号層410を接続するべく設けられているが、別の例においては、そのうちの一部の通信素子500が省略されてもよい。また図示の例では、信号層410の個数が少ないため、通信素子500の全体の個数(計24)に対して、複数の信号層410にまたがる通信素子500の個数(計12)の占める割合が50%に過ぎないが、信号層410の個数が増えるにつれて、その割合は高くなる。説明の便宜上、以下では、特に断らない限り、通信素子500が、複数の信号層410に接続する場合を想定して、第2の実施の形態に係る通信装置400の説明を行う。
【0057】
第2の実施の形態において通信素子500は、隣り合う2つの信号層410に電気的に接続し、接続する信号層410内に設けられた他の通信素子500との間で信号を送受信する機能を有し、また接続する2つの信号層410間において信号を送受信する機能も有する。信号層410内における通信機能として、例えば通信素子500eは信号層410aと信号層410bとに接続するが、信号層410a内に設けられた他の通信素子500a、500dおよび500hとの間で信号を送受信することができ、また信号層410b内に設けられた他の通信素子500b、500fおよび500iとの間でも信号を送受信することができる。この信号層410内における通信を、内方向の通信と呼ぶ。また、信号層410間における通信機能として、通信素子500eは、信号層410aを伝達される信号を信号層410bに伝達することができ、また信号層410bを伝達される信号を信号層410aに伝達することもできる。この信号層410間における通信を、外方向の通信と呼ぶ。例えば通信素子500eは、信号層410aにおける通信素子500aから信号を受信して、信号層410bにおける通信素子500fに送信することができ、また、その逆も可能とする。各通信素子500が上記のような機能をもつことにより、第2の実施の形態における通信装置400は、配線を形成することなく、任意の通信素子500間における通信を実現することができる。
【0058】
通信装置400における信号伝達方法を、通信素子500dから通信素子500fに信号を伝達する場合を例に説明する。ここでは、通信素子500dが信号の送信元であり、通信素子500fが信号の最終目的地であることを仮定する。この場合、まず通信素子500dが、信号層410aを介して通信素子500eに信号を伝達し、通信素子500eが、信号層410bを介して通信素子500fに信号を転送する。通信素子500eに注目すると、通信素子500eは、通信素子500dとの間で信号層410a内通信を行い、また通信素子500fとの間で信号層410b内通信を行うことによって、結果として信号層410bと信号層410cの間の通信を実現することになる。このように各通信素子500が、互いに絶縁された複数の信号層410に接続して、信号層410間の通信を行うことにより、信号を送信元の信号層410から所期の目的地となる信号層410まで順次伝達することができ、送信元および最終目的地間の信号伝達を実現することが可能となる。
【0059】
各信号層410には、センシングユニット、パワーユニット、また表示ユニットなど、各種機能を実現するための構成が備えられてもよい。特に、これらのユニットを容易に置換可能とすることで、応用性の高い通信装置400を実現することができる。また、各通信素子500はコネクタなどの機能を備え、外部機器との接続を可能としてもよい。通信素子500に外部機器とのインタフェース機能をもたせることにより、通信装置400を様々な環境で利用することが可能となる。
【0060】
図15(a)は通信装置400の断面の一例を示し、この例では、隣り合う信号層410が高抵抗層420により絶縁されている。隣り合う信号層410間は、通信素子500により接続され、信号層410間の通信が実現される。
【0061】
図15(b)は通信装置400の断面の別の例を示し、この例では、隣り合う信号層410が互いに離間して高抵抗層420上に設けられる。隣り合う信号層410間は、通信素子500により接続され、信号層410間の通信が実現される。
【0062】
図16(a)は、通信装置400の構成の変形例を示す。この通信装置400は、6角形の複数の信号層410と、信号層410間における信号の送受信を行う複数の通信素子500とを有する。図15に示す通信装置400と同様に、各信号層410は、高抵抗層420により絶縁されている。
【0063】
図16(b)は、通信装置400の構成の変形例を示す。この通信装置400では、信号層410内に高抵抗領域430が形成されて、信号層410内の導電領域が部分的に形成されている。なお、図15に示す通信装置400と同様に、各信号層410は、高抵抗層420により絶縁されている。
【0064】
図16(c)は、通信装置400の構成の変形例を示す。この通信装置400は、4角形の複数の信号層410と、4つの信号層410に接続する複数の通信素子500とを有する。信号層410の形状は、図15に示す通信装置400における信号層410の形状と同様であるが、通信素子500の配置位置が異なっている。なお、各信号層410は、高抵抗層420により絶縁されている。
【0065】
以上のように、通信装置400は様々な形状および構造の信号層410を備えることができ、また通信素子500が接続する信号層410の個数は任意であってもよい。上記した例において、信号層410の形状は正多角形であるが、これに限定するものではない。通信装置400において、各通信素子500は、送信するパケットに最終目的地となる信号層410の識別番号を含めることにより、そのパケットを最終目的地まで伝達する。第2の実施の形態において、信号層410は平面上に形成されているため、各信号層410の識別番号として、各信号層410の2次元座標を利用することとする。なお、別の例においては、識別番号として、信号層410に固有のシリアル番号を割り振ることも可能であり、また信号層410が3次元的に形成される場合には、信号層410の識別番号を3次元座標で表現することも可能である。
【0066】
図17は、図14に示した通信装置400の模式図を示す。図17において、各通信素子500を結ぶように描かれている実線は、隣り合う信号層410が絶縁されている状態を意味する。信号層410aを原点とするXY軸を設定することにより、信号層410aの座標すなわち識別番号を(0,0)、信号層410bの識別番号を(1,0)、信号層410cの識別番号を(2,0)、信号層410dの識別番号を(0,1)、信号層410eの識別番号を(1,1)、信号層410fの識別番号を(2,1)、信号層410gの識別番号を(0,2)、信号層410hの識別番号を(1,2)、信号層410iの識別番号を(2,2)と定めることができる。信号層410の識別番号は、通信装置400の製造時に予め設定してもよく、また後述するアルゴリズムにより自律的に設定してもよい。信号層410間の信号の伝達は、信号層410の識別番号を利用して実現される。以下、信号層410の識別番号を、「信号層ID」と呼ぶ。なお、各通信素子500は、自身が接続する信号層410の信号層IDを記憶しており、したがって複数の信号層410に接続する場合は、複数の信号層IDを記憶することになる。
【0067】
各通信素子500には、自身が接続する信号層410ごとに、信号層410内のローカルな識別番号が割り振られる。図示の例では、信号層410が四角形に形成されており、信号層410において、右側に位置する通信素子500のローカル識別番号が「1」、上側に位置する通信素子500のローカル識別番号が「2」、下側に位置する通信素子500のローカル識別番号が「3」、左側に位置する通信素子500のローカル識別番号が「4」に設定される。信号層410内の信号の伝達は、このローカル識別番号を利用して実現される。例えば、通信素子500eに注目すると、信号層ID(0,0)の信号層410aにおいては、右側に位置しているためローカル識別番号「1」を有し、一方で、信号層ID(1,0)の信号層410bにおいては、左側に位置しているためローカル識別番号「4」が割り当てられている。以下、通信素子500のローカル識別番号を「ローカルID」と呼ぶ。
【0068】
以上のように、各通信素子500は、自身が接続する信号層410の信号層IDと、各信号層410におけるローカルIDとを保持する。この前提のもと、第2の実施の形態における通信方法を説明する。この通信方法においては、3種類のパケットを使用する。
【0069】
(1)RTS(request to send−stream)パケット
信号層410内の通信素子500に対してコネクションの確立を要求するパケット
(2)CTS(clear to send−stream)パケット
RTS送信元に対してコネクションの確立許可を示すパケット
(3)DT(data transmission−stream)パケット
データ転送のパケット
【0070】
図18(a)は、RTSパケットのデータフォーマットを示す。RTSパケットは3つのフィールドを有する。以下、各フィールドの項目を示す。
第1フィールド:反応すべき通信素子500のローカルID
第2フィールド:コマンド(RTS)
第3フィールド:RTSパケットの送信元の通信素子500のローカルID
【0071】
図18(b)は、CTSパケットのデータフォーマットを示す。CTSパケットは2つのフィールドを有する。以下、各フィールドの項目を示す。
第1フィールド:反応すべき通信素子500のローカルID
第2フィールド:コマンド(CTS)
【0072】
図18(c)は、DTパケットのデータフォーマットを示す。以下、各フィールドの項目を示す。
第1フィールド:反応すべき通信素子500のローカルID
第2フィールド:コマンド(DT)
第3フィールド:ホップリミット、すなわち通信素子500の中継回数の上限値
第4フィールド:データ長
第5フィールド:最終目的地のX座標
第6フィールド:最終目的地のY座標
第7フィールド:送信元のX座標
第8フィールド:送信元のY座標
第9フィールド:目的地でのアプリケーション
第10フィールド以降:データ
なお、図18(a)〜(c)の例では、各フィールドが8ビットで構成されている。
【0073】
図19は、通信装置400における通信方法を説明するための図を示す。図19では、送信元である通信素子500dから最終目的地である通信素子500gに信号を伝達する場合を例にとる。
【0074】
(ステップ1)
通信素子500dは、自身の信号層ID(0,0)と、最終目的地である通信素子500gの信号層ID(2,0)の位置関係から、DTパケットを送信する方向を計算し、信号層410a内でDTパケットを伝達すべき通信素子を決定する。すなわち通信素子500dは、通信素子500gまでの最短経路を演算し、DTパケットを、信号層410a、410bを経由して信号層410cに伝達するルートが最短であることを判定する。この経路上に存在する素子は通信素子500eであるため、通信素子500dは、通信素子500eとコネクションを確立するべく、通信素子500eに対してRTSパケットを送信する。このとき、RTSパケットの第1フィールドは「1」に設定される。なお、通信素子500dは、信号の衝突を避けるため、信号層410a内で他の通信素子が通信を行っているか否かを監視し、通信が行われていない場合にRTSパケットを送信することが好ましい。
【0075】
(ステップ2)
通信素子500eは、RTSパケットに含まれる第1フィールドを参照し、RTSパケットが自身宛てであることを判定すると、通信素子500dに対してCTSパケットを送信する。このとき、CTSパケットの第1フィールドは「4」に設定される。
【0076】
(ステップ3)
通信素子500dは、一定時間内に自身宛てのCTSパケットを受け取ると、DTパケットを送信する。DTパケットの第1フィールドは「1」に設定される。通信素子500eは、DTパケットを受け取る。通信素子500dが一定時間内にCTSパケットを受け取れない場合は、ステップ1に戻って、再度RTSパケットを送信する。なお、複数回にわたり通信素子500eからの応答がない場合には、送信先を変更したRTSパケットを送信してもよい。これにより、通信経路を自律的に変更することが可能となる。図17に戻って、この場合は、RTSパケットの第1フィールドを「2」に設定することが好ましい。
【0077】
(ステップ4)
通信素子500eは、DTパケットを受け取ると、DTパケットを転送する方向を決定する。この場合、通信素子500eは、DTパケットを信号層410a側の通信素子500dより受け取ったため、転送する方向が信号層410b側であること、すなわち外方向であることを決定する。これにより、続くDTパケットの送信を、信号層410bにおいて行うことが定められる。
【0078】
通信素子500eは、自身の信号層ID(1,0)と、最終目的地である通信素子500gの信号層ID(2,0)の位置関係から、信号層410b内でDTパケットを伝達すべき通信素子を決定する。最短経路上に存在する素子は通信素子500fであるため、通信素子500eは、通信素子500fとコネクションを確立するべく、通信素子500fに対してRTSパケットを送信する。このとき、RTSパケットの第1フィールドは「1」に設定される。通信素子500eは、信号の衝突を避けるため、信号層410b内で他の通信素子が通信を行っているか否かを監視し、通信が行われていない場合にRTSパケットを送信してもよい。
【0079】
(ステップ5)
通信素子500fは、RTSパケットに含まれる第1フィールドを参照し、RTSパケットが自身宛てであることを判定すると、通信素子500eに対してCTSパケットを送信する。このとき、CTSパケットの第1フィールドは「4」に設定される。
【0080】
(ステップ6)
通信素子500eは、一定時間内に自身宛てのCTSパケットを受け取ると、DTパケットを送信する。DTパケットの第1フィールドは「1」に設定される。通信素子500fは、DTパケットを受け取る。
【0081】
(ステップ7)
通信素子500fは、DTパケットを受け取ると、DTパケットを転送する方向を決定する。通信素子500fは、DTパケットを信号層410b側の通信素子500eより受け取ったため、転送する方向が信号層410c側であること、すなわち外方向であることを決定する。これにより続くDTパケットの送信を、信号層410cにおいて行うことが定められる。
【0082】
通信素子500fは、DTパケットの第5および第6フィールドの目的地座標から、最終目的地が信号層410cにおける通信素子500gであることを認識する。なお、第5および第6フィールドの目的地座標には、信号層410cを特定する座標と、通信素子500gを特定するローカルIDとが含まれるものとする。これにより、通信素子500fは、通信素子500gとコネクションを確立するべく、通信素子500gに対してRTSパケットを送信する。このとき、RTSパケットの第1フィールドは「1」に設定される。
【0083】
(ステップ8)
通信素子500gは、RTSパケットに含まれる第1フィールドを参照し、RTSパケットが自身宛てであることを判定すると、通信素子500fに対してCTSパケットを送信する。このとき、CTSパケットの第1フィールドは「4」に設定される。
【0084】
(ステップ9)
通信素子500fは、一定時間内に自身宛てのCTSパケットを受け取ると、DTパケットを送信する。DTパケットの第1フィールドは「1」に設定される。これにより、最終目的地である通信素子500gは、DTパケットを受け取ることができる。例えば、通信素子500gに外部機器が接続されている場合は、DTパケットに含まれるデータを外部に送信することが可能となる。
【0085】
以上の通信方法によると、信号の送信元から最終目的地までの経路を予め設定することなく、信号を中継する各通信素子500が信号層IDをもとに、動的に経路を設定することが可能となる。そのため、通信装置400においては、例えば一部の通信素子500が故障した場合であっても、その通信素子500を回避して、最終目的地までDTパケットを伝送することが可能となる。
【0086】
なお、図19の例では、信号を一軸方向すなわちX軸方向に伝達する場合を示すが、信号は、斜め方向であっても当然に伝達することができる。例えば、信号層ID(0,0)の信号層410aから信号層ID(1,1)の信号層410eに信号を伝達する場合、途中の経路として、信号層ID(1,0)の信号層410bまたは信号層ID(0,1)の信号層410dのいずれを経由することも可能である。いずれの経路を選択するかは、ランダムに決定されてもよく、また例えばX軸方向への信号伝達をY軸方向への信号伝達よりも優先的に行うなどの所定の規則に沿って決定されてもよい。
【0087】
図20(a)は、信号層410を流れる信号の波形フォーマットを示す。各パケットの先頭には、スタートビットと、フィールド開始を示すデータが付加される。スタートビットは、一定時間、ここではデジタル回路の動作クロック周期の30倍の時間、「01」のパターンが周期的に繰り返される。この周期パターンにより、サンプリング時間を決定する。通信データは10ビットをひとまとまりとして取り扱い、これを1フレームと呼ぶ。
【0088】
図20(b)は、1フレームの構成を示す。1フレームは、8ビットの実データと2ビットのフレーム区切りからなる。例えば、10進数のデータ「10」を出力する場合には、フレーム区切り「10」を先頭に付加して、フレームは、1000001010として表現される。また、信号には20フレームごとに、ビット列11111111を挿入する。このとき、フレーム区切りは挿入しない。フィールド開始指示用データは、フィールド区切り「10」にビット列11111111を付加した1011111111として表現される。スタートビット後に必ずこのデータ列が挿入され、このデータ列の後が、各パケットの先頭となる。
【0089】
図21は、通信素子500のデジタル回路の実現例を示す。デジタル回路におけるポート定義は以下のとおりである。
(入力ポート)
Ainp_a:入力信号(常時観測型コンパレータからの出力)
Ainp_b:入力信号(常時観測型コンパレータからの出力)
Init_flg:初期化フラグ
clk:マスタークロック
in:サンプリングされた信号
ms:信号層選択
selectID: 0:ローカルID_a=1 1:ローカルID_a=2
sleepmode: 0:スリープモードなし
tSite_x:信号層X座標
tSite_y:信号層Y座標
【0090】
(出力ポート)
Inp_a:信号層内方向入力判定フラグ 0:入力なし 1:入力あり
Inp_b:信号層外方向入力判定フラグ 0:入力なし 1:入力あり
OutBit_a:信号層内方向出力データ
OutBit_b:信号層外方向出力データ
OutBit_na:OutBit_aの反転
OutBit_nb:OutBit_bの反転
ena_AppL:アプリケーション層プロセスイネーブル
ena_dwnDatL:データリンク層プロセスイネーブル
ena_dwnNetL:ネットワーク層プロセスイネーブル
ena_upDatL:データリンク層プロセスイネーブル
ena_upNetL:ネットワーク層プロセスイネーブル
inmonitor:物理層プロセス監視フラグ 1:スタートビット検出
【0091】
図22は、通信素子500のデジタル回路におけるプロセスの状態遷移図を示す。通信素子500は、以下に示す各状態をとることができる。
(状態0)開始・初期化
各レイヤのプロセスを初期化したのち、状態1へ遷移する。このとき、通信素子500はいずれの方向からの入力も受け入れることができる。
【0092】
(状態1)RTS待ち・受け入れ
信号層410の内方向または外方向の通信のうち、早く到達した方向のデータを受け入れるように、Inp_a、Inp_bのいずれかを1にする。以後1になった方のデータをサンプリングする。なお信号層410の内方向の通信とは、信号層410内の他の通信素子500とのデータの送受信を意味し、信号層410の外方向の通信とは、その信号層410とは異なる信号層における通信素子との間のデータの送受信を意味する。
【0093】
入力データの第1フィールドより順にRTSフォーマットに準じた判定を行い、コネクションを確立するかどうか決定する。RTSパケットを正しく受け取った場合は状態2へ遷移する。プロセスエラーを検出した場合は状態0へ戻る。
【0094】
(状態2)CTS出力
CTSパケットを出力する。出力方向はRTSパケットを受け取った方向と同じである。このとき、他の方向からの信号がきてもすべて無視される。出力中にエラーが生じた場合は状態0へ遷移する。出力が完了したら状態3へ遷移する。
【0095】
(状態3)DT待ち・受け入れ
DTパケットを受け入れる。受け入れ方向はCTSパケット出力の方向と同じ方向である。一定時間内(100T:Tはマスタークロック周期)にDTパケットがこない場合はエラーとし、状態0へ遷移する。DTパケットを取得中にエラーが発生した場合、すでに10バイト以上データを取得した場合は状態4へ遷移し、それ以外の場合は状態0へ遷移する。
【0096】
(状態4)ルーティング
ネットワーク層のプロセスであり、DTパケットのヘッダ部より、目的地の座標を取得する。取得データと、自身の座標と比較して、目的地が、自身の信号層410の座標と一致していればアプリケーション層へプロセスを渡す。目的地ではない場合は次のコネクション先(方向、ローカルID)を決定する。このとき、DTパケットのヘッダ部の第1フィールド(反応すべきローカルID)と第3フィールド(ホップリミット)を書き換え、状態5へ遷移する。ホップリミットの書き換えは、中継数の上限値を1デクリメントすることにより行う。
【0097】
(状態5)RTS出力
次のコネクション先へRTSパケットを出力する。このとき物理層では出力方向のネットワークの占有状況を監視し、時間16T(2バイト)の間に周囲の素子が通信を行っていなければ、出力を開始する。RTSパケットの出力が完了すると、状態6へ遷移する。周囲の素子が通信を行っていて、一定時間(100T)まっても出力が開始されない場合は状態8へ遷移する。
【0098】
(状態6)CTS待ち・受け入れ
自身宛のCTSパケットを待ちうける。一定時間(100T)内にCTSパケットを受け取ると、状態7へ遷移する。一定時間内にCTSパケットを受け取らなければ、状態8へ遷移する。
【0099】
(状態7)DT出力
DTパケットを出力する。出力方向はRTS出力方向と同じである。データが正しく出力できたら状態9へ遷移する。途中、エラーを検出したら状態8へ遷移する。
【0100】
(状態8)再ルーティング
コネクションが正しく確立できなかった場合、5回までは同じ通信素子に対してコネクションを確立しようとする。5回の挑戦でもコネクションが確立されなかった場合、ネットワーク層で別なルートを計算する。ルートを再計算後、状態5へ遷移する。
【0101】
(状態9)終了・初期化
全てのフラグを初期化して状態0へ遷移する。
【0102】
以上、第2の実施の形態においては、各信号層410に予め信号層IDが付与されていることを前提としてきたが、各信号層410に含まれる通信素子500は、自身の接続する信号層IDを動的に取得することも可能である。
【0103】
以下に「ID決定コマンド」を使用する例を示す。ID決定コマンドには、信号層410の座標(X,Y)が記述される。ID決定コマンドを受け取った通信素子500は、自身の属する信号層410の座標が(X,Y)であることを認識する。
【0104】
各通信素子500は、ID決定コマンドを、同一信号層410内におけるローカルIDが「1」および「2」の通信素子500に送信する。このとき、送信先の通信素子500が通信中である場合は、ID決定コマンドの送信を停止する。ID決定コマンドを受信した通信素子500は、受信した方向とは別の方向、すなわち内方向とは逆向きの外方向に存在する別の信号層410にID決定コマンドを送信する。具体的に、「1」のローカルIDでID決定コマンドを受信した通信素子500は、隣り合う信号層410において、「4」のローカルIDをもつ通信素子500として座標(X+1,Y)を記述したID決定コマンドを送信する。また、「2」のローカルIDでID決定コマンドを受信した通信素子500は、隣り合う信号層410において、「3」のローカルIDをもつ通信素子500として座標(X,Y+1)を記述したID決定コマンドを送信する。
【0105】
以上のように通信素子500が機能することにより、通信装置400への電源投入後に、左下隅の信号層410aの座標を(0,0)として、信号層410aに属する通信素子500からID決定コマンドを送信することによって、全ての信号層410に信号層IDを動的に割り振ることが可能となる。
【0106】
このように、少なくとも一つの信号層410、この例では信号層410aに基準となる信号層ID(0,0)を予め設定し、その基準となる信号層IDをもとに、他の信号層410の識別番号を順次設定することにより、通信装置400内の信号層410の信号層IDを設定することが可能となる。基準となる信号層IDは、通信装置400における左下隅の信号層410aに限らず、他の信号層410に設定してもよい。例えば、図17の通信装置400において、中央の信号層410eを信号層IDを決定するための基準信号層として定めた場合には、信号層410eに属する通信素子500m、500p、500i、500lが、外方向にID決定コマンドを送信して、周囲の信号層410の信号層IDを順次設定していけばよい。このアルゴリズムにおいては、通信素子500は、自身が接続する信号層410の信号層IDを含んだ信号(ID決定コマンド)を受け取ると、その信号を伝達した信号層410の信号層IDを保持し、続いて自身が接続する他の信号層410の信号層IDを設定して、設定した信号層IDを含むID決定コマンドを、当該他の信号層410に送信する。第2の実施の形態における通信装置400によると、通信素子500がローカルIDを保持し、信号層410における自身の位置関係を把握することによって、座標で表現する信号層IDを簡易なアルゴリズムによって自律的に設定することが可能となる。
【0107】
また、第2の実施の形態では、通信素子500が、一旦信号を受信してから転送することとしたが、信号の受信が完了する前に、信号の転送を開始してもよい。DTパケットにおいては、パケットの先頭にコマンドや目的地の座標などのヘッダ項目が記述されているため、ヘッダ項目を受け取った時点から、信号の転送先となる通信素子500を特定して、コネクションの確立を行い、DTパケットを受信しながら、そのDTパケットを転送先となる通信素子500に順次転送することが可能である。これにより、データが最終目的地に到達するまでの遅延時間を減らすことができ、またスループットを向上することが可能となる。
【0108】
<第3の実施の形態>
第3の実施の形態では、複数の通信素子が存在する環境において、各通信素子にグローバルな識別番号を動的に設定する通信装置について説明する。グローバル識別番号は、通信素子ごとに通信装置において一意に設定され、通信素子間で信号を伝送するために用いられる。すなわち、グローバル識別番号は、通信装置内において重複しない。上記した第1および第2の実施の形態で説明したように、各通信素子の通信距離は周辺に配置された他の通信素子と局所的な通信を行える程度に設定されている。これにより、無用な信号の衝突を防止することができ、消費電力を低減することもできる。
【0109】
第1の実施の形態で説明した通信装置100および通信素子200、さらに第2の実施の形態で説明した通信装置400および通信素子500は、第3の実施の形態における通信装置および通信素子として利用することができる。第3の実施の形態において、通信素子はローカル識別番号を有している。なお、第2の実施の形態においてローカル識別番号は、信号層410内での識別子として通信素子500に割り当てられたが、第3の実施の形態では、ローカル識別番号が、通信装置内の一定の領域における識別子として各通信素子に割り当てられる。第3の実施の形態において、ローカル識別番号は2以上の通信素子で共用され、したがって複数の通信素子に対して同一のローカル識別番号が割り振られる点で、通信装置内に一意に設定されるグローバル識別番号と異なる。なお、第3の実施の形態では、第2の実施の形態のように、複数の信号層410が高抵抗層などにより電気的に絶縁され、通信素子が信号層410間で信号を伝送するように構成されてもよく、また第1の実施の形態のように、個別の配線が形成されない導電層上に通信素子が分散して配置されてもよい。また、第3の実施の形態で提供する通信技術は、各通信素子が個別配線で接続され、その状態において各通信素子のグローバルな識別番号を設定する場合にも利用することができる。
【0110】
図23は、第3の実施の形態における通信装置700の概念図を示す。図中、○で示す構成は通信素子800であり、ここでは複数の通信素子800が、6×6のマトリックス状に配列されている。点線は、通信中に各通信素子800間に設定される通信経路である。既述のごとく、通信経路は、通信素子間において個別配線を設けなくても確立することができるが、第3の実施の形態におけるグローバル識別番号の設定技術は、個別配線を設けた場合であっても利用できる。なお、個別配線を設けないことの利点は前述のとおりであり、第3の実施の形態におけるグローバル識別番号設定技術を、個別配線を有しない通信装置700に利用することで、より一層柔軟性の高い通信装置を実現することができる。
【0111】
複数の通信素子800が、近傍に存在する通信素子とほぼ均等な距離に存在するように配置される。この例では、複数の通信素子800がマトリックス状、具体的には格子状に配置されており、前後左右に存在する他の通信素子800との間の距離を等しくされている。各通信素子800の通信可能な有効通信距離、すなわち通信範囲は、前後左右の通信素子800との間で通信が可能な範囲に設定され、それ以外の通信素子800には信号が到達しないものとする。このように通信可能距離を設定することで、点線で示すように隣接通信素子800間で通信経路を設定することができる。1つの通信素子800に対して4つの隣接通信素子が存在することから、図23に示す通信装置700を四叉路型通信装置と呼ぶ。
【0112】
多数の通信素子800が集合し、隣接する通信素子800間で信号を順次伝達していく通信装置700においては、その空間座標値などのグローバルな識別番号を各通信素子800が保持することで、信号の発信元から最終目的地までの最短通信経路の選択が容易となる。経路の選択方法については、例えば図12に関連して説明したとおりである。しかしながら、膨大な数の通信素子800に個別に座標値すなわちグローバル識別番号を付与し、付与した座標値に従ってそれらを通信装置700上の所定の位置に配置することは、その作業工程を非常に複雑にする。第3の実施の形態では、このような複雑な作業工程を不要とし、各通信素子800に、2以上の通信素子で共用するローカルな識別番号を付与して、それをもとにグローバルな識別番号を動的に設定することのできる技術を提供する。以下、ローカル識別番号を「ローカルID」、グローバル識別番号を「グローバルID」と呼ぶ。
【0113】
通信装置700においては、1つの通信素子800の通信範囲内に、同一のローカルIDを有する通信素子が存在することのないように、複数の通信素子800が配置される。すなわち、各通信素子800の通信距離内に存在する1以上の通信素子、多くの場合は2以上の通信素子のローカルIDが互いに異なるように、複数の通信素子800が配置される。マトリックス状に配置する場合、ローカルIDの数を少なくし、また後述するグローバルIDの設定制御を簡易にするためには、ローカルIDの配列が周期的となるように、複数の通信素子800が配置されることが好ましい。
【0114】
図24は、1つの通信素子800に隣接する通信素子のローカルIDを示す。対象とする通信素子800を対象通信素子と呼ぶと、所定のローカルIDをもつ対象通信素子の前後左右に存在する隣接通信素子のローカルIDは図示のとおりになる。通信装置700において、複数の通信素子800を、そのローカルIDに応じて周期的に配列することにより、隣接通信素子のローカルIDを異ならせることができ、したがって、同一のローカルIDを有する複数の通信素子が、対象通信素子の通信範囲内に存在しない状況を作ることができる。この周期性により、ローカルIDは、近傍すなわち隣接する通信素子のローカルIDとの間の相対的な位置関係を示すことになる。また、ローカルIDの個数を少なくするという所定の規則をもとに通信素子800を配置することで、ローカルIDを効率よく重複させて通信素子800に割り振ることができる。対象通信素子の接続方向の候補数プラス1の個数のローカルIDが最低限必要になると考えられるが、通信装置700に搭載される通信素子800が多数であることを鑑みると、ローカルIDを効率よく割り振ることで、ローカルIDの個数を接続方向の候補数プラス1程度に抑えることができ、用意するローカルIDを少なくすることが可能となる。
【0115】
例えば、図23に示すような四叉路型の通信装置700であれば、5種類のローカルID(1〜5)を用意し、5列ごと又は5行ごとに同一のローカルIDのパターンが生じるように通信素子800を搭載すればよい。図示の例では、5列ごとおよび5行ごとに周期的に通信素子800が配置される。ローカルIDのパターンに周期性をもたせることで、ローカルIDは、近傍の他のローカルIDとの間の相対的な位置関係を示すことになる。なお、ローカルIDは予め通信素子800に付与され、通信素子800は、自身のローカルIDと、自身を対象通信素子とした場合の隣接通信素子の接続方向とローカルIDとの関係、すなわち図24に示した関係を自身のメモリに記録しておく。
【0116】
例えば、チップマウンタなどの装置を用いて通信素子800を導電性基板などに搭載する場合、チップマウンタは、5種類の通信素子を区別できればよいため、実装処理の制御が容易となる。この場合、チップマウンタは、通信素子800の相対的な位置関係を維持することに注意すればよい。通信素子800にグローバルIDを予め付与した場合は、各通信素子800を所定の位置に配置する必要があるため、チップマウンタは、定められた絶対的な位置関係を維持するように通信素子800を搭載していく必要がある。例えば、搭載中に通信素子800に不良が発生した場合、同一のグローバルIDを有する通信素子800は他に存在しないため実装処理が中断し、または、実装後の経路選択や信号伝達処理などの制御が複雑になるという欠点がある。一方、第3の実施の形態によると、通信素子800はローカルIDを保持するのみであり、搭載処理中は、同一の通信素子800が多数用意されており、すなわち不良発生時でも代わりとなるものが存在するため、実装処理を円滑に実現できるという利点がある。
【0117】
図25は、通信装置700で確立される通信経路の変形例を示す。図中、実線は通信経路を示し、実線の交点には、通信素子800が存在しているものとする。図25(a)は、各通信素子が他の3つの通信素子との間で通信経路を確立する通信装置700を示す。このタイプの通信装置700を、三叉路型の通信装置と呼ぶ。図25(b)は、各通信素子が他の6つの通信素子との間で通信経路を確立する通信装置700を示す。このタイプの通信装置700を、六叉路型の通信装置と呼ぶ。図25(c)は、三叉路型と四叉路型の通信装置を組み合わせて構成した通信装置700を示す。なお、通信装置700において確立される通信経路には、他にも様々な形態のものが存在する。
【0118】
以下、一例として、図23に示した四叉路型の通信装置700においてグローバルIDを設定する方法を説明する。前提として、通信装置700において一つの通信素子800を基準素子として決定し、その基準素子のグローバルIDを(0,0)と設定する。なお基準素子に対して設定するグローバルID(0,0)は一例であり、他の座標値を与えてもよい。第3の実施の形態において、グローバルIDを2次元の座標値として設定するが、例えば通信装置700が高さ方向に通信素子800を配列した層を複数有している場合には、グローバルIDは3次元の座標値として設定されてもよい。基準素子は、各通信素子800の座標値、すなわちグローバルIDを決定するために、座標決定コマンドを生成して、隣接する通信素子に発信する。
【0119】
図26(a)は座標決定コマンドのパケットフォーマットの一例を示す。座標決定コマンドのフィールドには、コマンド、コマンド送信元、ホップリミット、2次元座標値の項目が設けられる。以下、各フィールドの項目を示す。
第1フィールド:コマンド(座標決定)
第2フィールド:座標決定コマンドの送信元の通信素子のローカルID
第3フィールド:ホップリミット、すなわち通信素子の中継回数の上限値
第4フィールド:2次元座標値、すなわちグローバルID
【0120】
基準素子が発信する座標決定コマンドでは、第2フィールドに基準素子のローカルID、第3フィールドにホップリミットの初期値(HL)、第4フィールドに2次元座標(0,0)が記述されている。ホップリミットは、通信エラーなどにより無期限に座標決定コマンドが伝送されることを防止するために必要な要素である。ホップリミットの初期値HLは、想定される座標決定コマンドの最大中継回数をもとに定められる。
【0121】
図26(b)は、対象とする通信素子800が隣接する通信素子から受信した座標決定コマンドを示す。第2フィールドには、この座標決定コマンドを送信した隣接通信素子のローカルIDが記述され、第3フィールドには、この座標決定コマンドの残りの中継回数が記述され、第4フィールドには、隣接通信素子のグローバルID、すなわち2次元座標が記述されている。受信した通信素子800は、この座標決定コマンドのフィールドに記述された情報をもとに、自身のグローバルIDを設定する。
【0122】
図27は、自身のグローバルIDを設定するための座標値変換データを示す。この座標値変換データは、各通信素子800のメモリに記憶されている。図27では汎用的に隣接素子の方向として前後左右の4方向を示しているが、各通信素子800は、自身の前後左右のそれぞれの方向に位置する隣接通信素子のローカルIDを予め把握しているため、記憶する座標値変換データを、前後左右という方向に対応付けるのではなく、隣接通信素子のローカルIDと直接対応付けて記憶することが好ましい。
【0123】
まず、通信素子800は、座標決定コマンドを受信すると、第2フィールドを参照して、座標決定コマンドがどの方向から送信されてきたかを判定する。図24に戻って、ローカルIDが「1」である対象通信素子800を例にとると、受け取った座標決定コマンドの第2フィールドの値が「4」である場合には、後方向から座標決定コマンドが送信されてきたことを判定し、第2フィールドの値が「5」である場合には、左方向から座標決定コマンドが送信されてきたことを判定する。
【0124】
通信素子800は、方向を判定すると、図27に示す座標値変換データを参照して、第4フィールドに記述されている座標値を変換する。例えば、座標決定コマンドが左方向から送信されたことを判定すると、第4フィールドに記述されている座標値(x,y)を、座標値(x+1,y)に変換する。変換した座標値は、対象通信素子800の座標値、すなわちグローバルIDとなる。この処理により、各通信素子800は、自身のグローバルIDを決定していく。自身のグローバルIDを決定すると、通信素子800は、隣接する他の通信素子に座標決定コマンドを送信し、その座標決定コマンドを受け取った隣接通信素子は、上記処理を同様に行うことで、自身のグローバルIDを決定する。
【0125】
図26(c)は、図26(b)に示す座標決定コマンドを受信した通信素子800が、所定のフィールド値を更新した後、自身に隣接する通信素子に送信する座標決定コマンドを示す。第2フィールドには自身のローカルIDが記述され、第3フィールドには、残りの中継回数を1デクリメントした値が記述され、第4フィールドには、自身に設定したグローバルIDが記述されている。第3フィールドの値が0になった場合、通信素子800は座標決定コマンドを送信しない。なお、一旦グローバルIDを設定した後は、各通信素子800は、隣接する通信素子から送信される座標決定コマンドを無視してもよい。
【0126】
図28は、グローバルIDの設定方法を示すフローチャートである。ここでは、任意の通信素子800における座標決定コマンドの処理を示す。まず、通信素子800は、隣接する通信素子から座標決定コマンドを受信する(S10)。通信素子800は、フィールドに含まれるローカルIDをもとに、座標決定コマンドを送信してきた隣接通信素子の方向を特定する(S12)。方向を特定すると、通信素子800は自身のグローバルIDを決定し(S14)、所定のフィールド値を更新して(S16)、隣接通信素子に座標決定コマンドを送信する(S18)。この処理機能は、通信素子800に予め組み込まれている。この処理を各通信素子800が順次連鎖的に行うことで、通信装置700内の通信素子800のそれぞれが自身のグローバルIDを動的に設定することが可能となる。
【0127】
図29は、各通信素子に設定したグローバルIDを示す。図23に示す通信装置700において、左下の通信素子を基準素子として設定し、X軸を横軸、Y軸を縦軸として、座標決定コマンドを隣接通信素子の間で順次伝達することで、図29に示すように、各通信素子800が、通信装置700内で一意に設定されるグローバルIDを保持することができる。基準素子は任意に選択することができ、左下の通信素子に限定するものではない。なお基準素子を常に固定とすることで、通信装置700における絶対座標を固定することができる。そのため、絶対座標を生成した状態において、任意の通信素子の絶対座標を外部から取得することが可能となる。例えば通信装置700に複数の外部機器接続用の端子を形成する場合には、その端子に直接的または間接的に接続する通信素子の不変の座標値を取得することができる。したがって、通信装置700における信号伝送は、端子に接続する通信素子の座標値をもとに実現することができ、絶対座標が固定である限りは、その座標値を変更する必要がない。なお基準素子が変わる場合には、絶対座標を形成した後、通信装置700に接続する各端子の座標値を取得し、その後、その座標値をもとに通信装置700における信号伝送を実現することになる。
【0128】
図30は、第3の実施の形態における通信装置700の変形例を示す。図23と同様に、図中、○で示す構成は通信素子800であり、複数の通信素子800は所定の周期性をもって配列されている。点線は、通信中に各通信素子800間に設定される通信経路である。この通信装置700は三叉路型であり、5種類のローカルID(1〜5)を有する通信素子800が、隣接通信素子に同一のローカルIDを有するものが存在しないように周期的に配列されている。三叉路型通信装置700において、1つの対象通信素子をみると、隣接通信素子との接続方向は3つであるが、対象通信素子の配置箇所によって、接続方向の候補としては前後左右の4方向あり、したがって、用意するローカルIDの個数は、5つとなっている。
【0129】
図31は、三叉路型通信装置700における1つの通信素子800に隣接する通信素子のローカルIDを示す。対象通信素子の前後左右に存在する隣接通信素子のローカルIDは図示のとおりになる。この関係は、図23に示した四叉路型の通信装置における関係と同じとなる。なお、左方向は左上、左下方向を含み、右方向は右上、右下方向を含む。三叉路型の通信装置700においては、左右方向の両方に隣接通信素子が存在し、また上下方向の一方に隣接通信素子が存在することになる。四叉路型の通信装置700について説明したように、図31に示す関係を用いて、三叉路型通信装置700においても、容易にグローバルIDを設定することができる。なお、他の形態の通信経路をもつ通信装置700においても、ローカルIDを周期的に配列することで、ローカルID間の相対的な位置関係を設定することができ、この相対的な位置関係を利用して、グローバルIDを設定することが可能である。図32は、六叉路型通信装置における1つの通信素子に隣接する通信素子のローカルIDを示す。六叉路型の通信装置においては、接続方向の候補数(6つ)プラス1の計7つのローカルIDを用意することで、ローカルIDを最も効率よく配置することが可能となる。
【0130】
また、実施の形態では、通信素子800がローカルIDを予め有している場合について説明したが、例えば通信素子800が配置される空間にローカルIDを示す目印を付与しておき、通信素子800の配置後、通信素子800がその目印を読み取って、自身のローカルIDを設定するようにしてもよい。グローバルIDを示す目印を空間に付与する場合と比較して、ローカルIDの個数が少ないため、限られたスペースに目印を記述することが可能である。
【0131】
以上、本発明をいくつかの実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、実施の形態の組み合わせ、またそれらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0132】
【発明の効果】
本発明によれば、新規な通信技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態に係る通信技術の方式を説明するための図である。
【図2】実施の形態にかかる通信装置の外観構成を示す図である。
【図3】通信素子の機能ブロック図である。
【図4】(a)は通信装置の断面図であり、(b)は通信装置の別の例を示す断面図である。
【図5】(a)は通信デバイスが信号を発信する基本原理を説明するための図であり、(b)は通信デバイスが信号を発信する原理の別の例を説明するための図である。
【図6】通信素子を備えた通信デバイスを示す図である。
【図7】(a)は通信デバイスを実現する回路動作の概要を示す図であり、(b)は第1信号層に印加する交流電圧の振幅を制限する回路の例を示す図である。
【図8】(a)は通信素子の具体的な構成例を示す図であり、(b)および(c)は、通信素子による信号発信の原理を説明するための図である。
【図9】P(x)のプロットを示す図である。
【図10】電極の半径を小さく形成することに考慮した通信デバイスの構成例を示す図である。
【図11】電極の半径を小さく形成することに考慮した通信デバイスの構成の変形例を示す図である。
【図12】通信装置における信号伝達方法の説明図である。
【図13】送信元の通信素子により生成される信号のパケットを示す図である。
【図14】第2の実施の形態に係る通信装置の構成を示す図である。
【図15】(a)は通信装置の断面の一例を示す図であり、(b)は通信装置の断面の別の例を示す図である。
【図16】(a)は通信装置の構成の変形例を示す図であり、(b)は通信装置の構成のさらなる変形例を示す図であり、(c)は通信装置の構成のさらなる変形例を示す図である。
【図17】通信装置の模式図である。
【図18】(a)はRTSパケットのデータフォーマットを示す図であり、(b)はCTSパケットのデータフォーマットを示す図であり、(c)はDTパケットのデータフォーマットを示す図である。
【図19】通信装置における通信方式を説明するための説明図である。
【図20】(a)は信号層を流れる信号の波形フォーマットを示す図であり、(b)は1フレームの構成を示す図である。
【図21】通信素子のデジタル回路の実現例を示す図である。
【図22】通信素子のデジタル回路におけるプロセスの状態遷移図である。
【図23】第3の実施の形態における通信装置の概念図である。
【図24】1つの通信素子に隣接する通信素子のローカルIDを示す図である。
【図25】通信装置で確立される通信経路の変形例を示す図である。
【図26】(a)は座標決定コマンドのパケットフォーマットの一例を示す図であり、(b)は対象とする通信素子が隣接する通信素子から受信した座標決定コマンドを示す図であり、(c)は、所定のフィールド値を更新した後、隣接通信素子に送信する座標決定コマンドを示す図である。
【図27】自身のグローバルIDを設定するための座標値変換データを示す図である。
【図28】グローバルIDの設定方法を示すフローチャートである。
【図29】各通信素子に設定したグローバルIDを示す図である。
【図30】通信装置の変形例を示す図である。
【図31】三叉路型通信装置において1つの通信素子に隣接する通信素子のローカルIDを示す図である。
【図32】六叉路型通信装置における1つの通信素子に隣接する通信素子のローカルIDを示す図である。
【符号の説明】
16、18・・・導電層、20・・・第1信号層、22・・・誘電層、24・・・導電層、26・・・スイッチ、30・・・第2信号層、43・・・誘電層、44・・・電源層、50・・・通信部、52・・・入力部、54・・・電圧制限素子、60・・・処理部、70・・・メモリ、80・・・コンデンサ、82・・・駆動回路、100・・・通信装置、200・・・通信素子、202・・・デジタル回路、204・・・電極、210・・・絶縁層、300・・・通信デバイス、400・・・通信装置、410・・・信号層、420・・・高抵抗層、430・・・高抵抗領域、500・・・通信素子、700・・・通信装置、800・・・通信素子。
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数の通信素子を備えた環境における通信技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
LAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)などの通信ネットワークにおいて、複数の通信端末が同軸ケーブルや光ファイバなどにより接続されている。これらの通信端末は、ネットワーク中のアドレスを指定することにより、所望の通信端末に信号を伝達する。従来のネットワークは、通信端末同士を有線にて接続することが一般であり、近年では、これを無線で接続するシステムも提案されている。例えば、移動デバイスであるノードの全てが所定の伝送半径をもち、ノード間で無線通信を行うアドホックネットワークが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開2001−268127号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
通信ネットワークや実装基板においては端末や素子などを個別配線により一対一の関係で物理的に接続しているため、仮に配線が切断された場合には信号を伝達することができなくなり、通信機能が停止する事態も生じうる。
【0005】
そこで本発明は、このような従来の問題を解決するべく、通信装置に関する新規な通信技術を提供し、さらには通信装置における通信素子の識別番号の設定技術を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は、複数の通信素子を備える通信装置であって、各通信素子の通信距離は周辺に配置された他の通信素子と局所的な通信を行える程度に設定されており、それぞれの通信素子は、2以上の通信素子で共用する第1の識別番号を有し、各通信素子の通信距離内に存在する1以上の通信素子の第1識別番号が互いに異なるように、通信素子が配置されていることを特徴とする通信装置を提供する。なお第1の識別番号は、2以上の通信素子で共用され、ある一定の狭い領域において識別子として機能することから、ローカル識別番号と呼んでもよい。
【0007】
本発明の別の態様は、複数の通信素子を備える通信装置であって、各通信素子の通信距離は周辺に配置された他の通信素子と局所的な通信を行える程度に設定されており、それぞれの通信素子は、2以上の通信素子で共用する第1の識別番号を有し、複数の通信素子は、第1の識別番号の配列が周期的となるように配置されていることを特徴とする通信装置を提供する。
【0008】
上記2つの態様において、各通信素子は、通信素子間で座標決定信号を順次伝達することにより、通信装置における第2の識別番号を取得することができる。各通信素子は、座標決定信号を送信した通信素子の第1識別番号をもとに第2識別番号を決定してもよい。なお第2の識別番号は、通信装置全体において他の通信素子と区別するために割り当てられる識別子であることから、グローバル識別番号と呼んでもよい。
【0009】
本発明のさらに別の態様は、複数の通信素子で共用され、相対的な位置関係を示す第1識別番号が各通信素子に付与された通信環境において、通信素子が、通信装置内で一意に設定される第2識別番号と、第1識別番号を含んだ信号を受信することで、自身の第2識別番号を設定することを特徴とする識別番号設定方法を提供する。
【0010】
本発明のさらに別の態様は、複数の通信素子を備える通信装置において、各通信素子にグローバル識別番号を設定する方法であって、各通信素子は、2以上の通信素子で共用するローカル識別番号を有し、ローカル識別番号をもとに自身の相対的な位置関係を把握するように構成されており、各通信素子が、他の通信素子からグローバル識別番号を設定するための信号を受信し、その信号に含まれる他の通信素子のローカル識別番号およびグローバル識別番号をもとに自身のグローバル識別番号を設定し、他の通信素子とは別の通信素子に対して、自身のローカル識別番号および設定したグローバル識別番号を含めた信号を送信することで、各通信素子のグローバル識別番号を順次設定することを特徴とする識別番号設定方法を提供する。
【0011】
なお、本発明の表現を装置、方法、システムまたはプログラムの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【0012】
【発明の実施の形態】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る通信技術の方式を説明するための図である。図1には、小さな円で示す複数の通信素子が空間内に分散して配置されている状態が示される。各通信素子は、その周辺に配置された他の通信素子に対して信号を伝達する局所的な通信機能を有する。この局所的な通信により隣り合う通信素子間で信号を順次連鎖的に中継し、最終目的地である通信素子まで信号を伝達する。この通信方式を連鎖伝達型の通信方式と呼ぶ。
【0013】
信号の送信元が通信素子200aであり、最終目的地が通信素子200bである場合、連鎖伝達型通信方式によると、信号が通信素子200aから通信素子200cおよび200dを介して通信素子200bに伝達される。信号の伝達方法としては、例えば通信素子200aが、信号が届く範囲にある周辺の全ての通信素子に信号を伝達し、この信号を受けた全ての通信素子が更に周辺の通信素子に信号を伝達することによって、信号を最終目的地まで同心円状に伝達させてもよい。さらに好ましい方法としては、通信素子200aおよび200b間の経路を予めまたはリアルタイムで設定し、この経路により特定の通信素子のみを介して信号を伝達してもよい。特に後者の方法を採用する場合には、信号伝達に必要な通信素子のみが発信するため、電力消費を少なくすることができ、また他の通信素子の通信に対する干渉を低減することも可能となる。連鎖伝達型の通信方式における信号伝達の方法の一例は後述する。
【0014】
本発明による通信装置は、空間内に複数の通信素子を配置し、この空間内には通信素子間を物理的に接続するための個別配線が形成されていないことが好ましい。例えば、これらの通信素子は、平坦な導電層または導電性基板、交流信号を伝達可能な電磁作用伝達層などに接続され、これらの層または基板を介して通信素子間における信号の伝達が行われてもよい。導電層や電磁作用伝達層は、シリコンウェハ上に形成されてもよい。信号の送信は、導電層における電荷の放出により実現されてもよい。ここで通信素子は、チップとして構成されるものに限定されず、本発明の実施の形態において説明する通信機能を備えたものを含む概念であり、その形態および形状は問わない。
【0015】
各通信素子は、信号の伝達可能な距離(以下、「有効通信距離」とも呼ぶ)を比較的短く設定されていることが好ましい。信号の通信距離を長くすることは、それだけ電力消費量を大きくし且つ通信に寄与しない他の通信素子に対して悪影響を及ぼす可能性がある。連鎖伝達型の通信方式によると、自身の近傍に存在する通信素子に信号を伝達できれば十分であるため、有効通信距離は周辺の通信素子までの平均距離に応じて設定されることが好ましい。
【0016】
本発明の通信技術は、様々な用途に応用することができる。例えば、LSIやメモリなどの電子部品(回路素子)に本発明の通信機能をもたせることによって、各電子部品を個別に配線することなく、複数の電子部品を基板実装する技術を提供することが可能である。また、近年、皮膚の感覚を持つロボットの研究が盛んに行われているが、ロボットの触覚センサに本発明の通信機能をもたせ、触覚センサの検知情報をロボットの頭脳コンピュータに送信する技術を提供することも可能である。また建物の床に本発明の通信機能を有するセンサを点在させることにより、一人暮らしの老人の行動を監視したり、留守中の防犯に役立てることも可能である。また、発光素子に本発明の通信機能をもたせることにより、布状の表示装置などを製造することも可能となる。また、タグに本発明の通信機能をもたせることにより、安価で精度のよい情報の読み取りを可能とするタグを作製することも可能となる。さらに無線通信素子に本発明の通信機能をもたせて例えばコンピュータにそれを装備させ、無線通信素子の近傍に相手方のコンピュータの無線通信素子を配置することによって、コンピュータ間の情報の送受信を容易に行うことも可能となる。また自動車の導電性内壁に本発明の通信機能を備えた通信素子を埋め込み、煩わしい個別配線を不要とした通信装置を実現することも可能となる。
【0017】
この通信技術は、比較的短い距離に配置された通信素子間で信号を伝達するため、距離による信号の減衰および劣化が少なく、高いスループットでノード数によらない高速伝送を可能とする。また空間内に多くの通信素子を分散して配置させることにより、センサなどの所定の機能をもつチップとの情報交換媒体として広範囲の信号伝達領域を実現する。また、通信素子を比較的自由な位置に配置することができるため、簡易な設計により所望の機能を備えた人工皮膚や表示装置などを生成することも可能である。また配線などの基板回路設計を不要とし、少ないプロセスで基板回路を製造することも可能である。通信素子を導電層で挟持する場合には電磁ノイズ放射がなくなるため、特に病院などの公共性の高い場所においてはその有用性が高い。さらに、導電層などに障害が生じた場合であっても、チップ間の経路を再設定することができ、新たな通信経路を確立することができるという自己修復機能もあわせ持つ。
【0018】
図2は、本発明の第1の実施の形態にかかる通信装置100の外観構成の一例を示す。この通信装置100においては、複数の通信素子200が2枚の導電層16および18によって挟持されている。各通信素子200は、この2枚の導電層16および18に電磁的に接続される。導電層16および18は、単層構造を有していても、また多層構造を有していてもよく、この例では二次元的に一面に広がった構成を有している。図2は、通信素子200が挟持されていることを説明するために、導電層16と導電層18とが開いた状態を示す。
【0019】
例えば、本発明による通信装置100をロボットの表面を覆う人工皮膚として応用する場合、導電層16および18を導電性のゴム材料により形成する。可撓性のあるゴム材料で人工皮膚を形成することにより、この人工皮膚はロボットの動作に合せて自在に伸縮することが可能となる。また、個別配線が存在せず、伸縮性のある導電層16および18を介して信号を伝達するため、断線などにより通信機能に障害が生じる可能性を低減し、安定した通信能力を提供できる。また本発明による通信装置100を回路基板として応用する場合、導電層16および18を導電性のゴム材料で形成することによって、フレキシブルな回路基板を実現することも可能となる。
【0020】
各通信素子200は通信機能以外に、さらに他の機能を有していてもよい。通信装置100をロボットの人工皮膚として応用する場合には、通信素子200のいくつかが触覚センサとしての機能も有し、外部から受けた刺激を検出した後、他の通信素子と協同して検出した信号を目的の通信素子まで伝達する。また通信装置100を基板の実装技術として応用する場合には、通信素子200が、例えばLSIやメモリなどの回路素子としての機能を有してもよい。このように、本明細書において「通信装置」は少なくとも通信機能を有する装置の意味で用い、これに付加した他の機能、例えば人工皮膚としてのセンサ機能や電子回路としての演算機能などを有してもよいことは、当業者に理解されるところである。
【0021】
図3は、通信素子200の機能ブロック図である。通信素子200は、通信部50、処理部60およびメモリ70を備える。通信部50は、導電層16および18(図2参照)を介して、他の通信素子との間で信号の送受を行ってもよい。また、図2に示していないが、通信装置100は、通信素子200の周囲に配置されて、導電層16および18に挟持される誘電層を備え、通信部50が、この誘電層に発生する電場または電磁場により他の通信素子200との間で信号の送受を行ってもよい。処理部60は、通信素子200の通信機能を制御する。具体的に処理部60は、周囲の信号の監視、受信信号の解析や、送信信号の生成および送信タイミングの制御など、他の通信素子200との間の信号伝達に関する処理を行う。また処理部60は、センサ機能や演算機能など通信機能以外の他の機能を実現してもよい。メモリ70は、通信機能や他の機能を実現するために必要な情報を予め記録し、また必要に応じて記録していく。
【0022】
図4(a)は、通信装置100の断面を示し、局所的通信を実現する通信デバイス300の構造の一例を説明するための図である。本明細書において「通信デバイス」は、局所的な通信機能を実現する構造の意味で用いる。
【0023】
この例において通信デバイス300は、第1信号層20および第2信号層30と、第1信号層20および第2信号層30に電磁的に接続する通信素子200と、第1信号層20および第2信号層30の間に配置される誘電層22とを備える。図示のごとく、第1信号層20および第2信号層30は、誘電層22および複数の通信素子200を挟持する。通信素子200と誘電層22は、電磁的に接続する。第2信号層30は接地されたグランド層であってもよい。
【0024】
通信デバイス300は、信号を発信するために、第1信号層20および第2信号層30の通信素子200側の表面から、電荷の吸出しおよび放出を繰り返し、交流電流Iを発生させる。層厚などの条件を適宜定めることにより、交流電流Iにより発生する電場や電磁場を誘電層22に閉じ込めることができ、電磁波動を誘電層22内で2次元放射状に伝達させることができる。第1信号層20および第2信号層30に流れる電流は、誘電層22側の表面付近のみを流れ、第1信号層20および第2信号層30の電気伝導率によって、電磁波動の伝達距離がきまる。これらの電気伝導率が大きいほど、減衰は小さく、伝達距離、すなわち有効通信距離が長くなる。
【0025】
第1信号層20および第2信号層30は、金属や導電性ゴム材料などの導体により構成されてよいが、誘電体により構成されてもよい。第1信号層20および第2信号層30が誘電体で構成される場合、第1信号層20および第2信号層30は、誘電層22の誘電率よりも小さい誘電率を有する材料から構成される。これにより、誘電層22内に電場や電磁場を閉じ込めることが可能となる。なお、第1信号層20および第2信号層30は、空気や真空のような構成をとってもよい。
【0026】
また電場や電磁場を発生させる交流電流Iは、均一な電流であってもよいが、変位電流であってもよい。なお電磁場を発生させるために、レーザーやLEDによる光などの電磁波を用いることも可能である。
【0027】
図4(b)は、局所的通信を実現する通信デバイス300の構造の別の例を説明するための図である。この例では、通信デバイス300が、第1信号層20および第2信号層30と、第1信号層20および第2信号層30に電磁的に接続する通信素子200と、第1信号層20および第2信号層30の間に配置される誘電層22aおよび22bと、誘電層22aと誘電層22bとの間に配置される導電層24を備える。通信デバイス300がこのような構造をとった場合であっても、通信素子200中に交流電流を発生させることにより、電場または電磁場を利用した通信が可能となる。
【0028】
図5(a)は、実施の形態における通信デバイス300が信号を発信する基本原理を説明するための図である。通信デバイス300は、スイッチ26を交互に切り替えて、第1信号層20および第2信号層30の間で電荷の吸出し、放出を行い、交流電流を生じさせることにより、電磁場を発生させる。この電磁場は、第1信号層20および第2信号層30に挟持される誘電層22中を伝わって、近傍に位置する通信デバイス300まで伝達される。
【0029】
図5(b)は、通信デバイス300が信号を発信する原理の別の例を説明するための図である。通信デバイス300は、一組のスイッチ26aおよびスイッチ26bを同時に交互に切り替えることにより、第1信号層20および第2信号層30の間に交流電流を発生させ、電磁場を発生させる。
【0030】
図6は、通信素子200を備えた通信デバイス300の具体的な実現例を示す。この通信デバイス300は、グランド層である第2信号層30および電源層44と、第2信号層30および電源層44に電磁的に接続する通信素子200と、第2信号層30および電源層44の間に積層された誘電層22、第1信号層20、誘電層43を備える。図示のごとく、第2信号層30、誘電層22、第1信号層20、誘電層43および電源層44は、この順に積層される。通信素子200は、誘電層22および誘電層43に、電場または電磁場を発生させることにより信号を発信する。通信素子200は、第2信号層30および電源層44に挟持され、周囲を誘電層22、第1信号層20および誘電層43に囲まれて構成される。誘電層22、第1信号層20および誘電層43は、通信素子200に電磁的に接続している。この構造により、通信素子200は、誘電層22および誘電層43における電場または電磁場をそれぞれ検出し、誘電層22および誘電層43における電場または電磁場の差分を検出することによって、信号を高い精度で検出することが可能となる。差分をとることにより、外部から混入するノイズの影響を最小とすることができ、SN比をあげることができる。第1信号層20と、電源層44および第2信号層30の間に図5(a)のようなスイッチ26を設けることにより、第1信号層20と電源層44、および第1信号層20と第2信号層30の間をショートすることができ、第1信号層20の電位をふりやすくなる。これは、通信素子200が電源層44およびグランド層である第2信号層30に接続したことの利点である。
【0031】
図7(a)は、通信デバイス300を実現する回路動作の概要を示す。通信デバイス300は半導体製造技術を用いてシリコン上に形成されてもよい。通信デバイス300は、pMOSとnMOSを並列接続したMOSスイッチなどのスイッチ26を有し、スイッチ26は、通信素子200と、グランド層である第2信号層30および電源層44との電磁的な接続を交互に切り替える。具体的には、スイッチ26が、送信すべき信号の論理値に応じて、第1信号層20および第2信号層30の接続と、第1信号層20および電源層44の接続とを切り替え、電磁波動として信号を発信する。なお、既述のごとく、第1信号層20と第2信号層30の間には誘電層22が設けられ、また、同様に、第1信号層20と電源層44との間には、別の誘電層43が設けられる。入力部52には、送信すべき信号の論理値に応じた電圧が印加され、スイッチ26によるスイッチング動作が実行される。通信素子200内の処理部60(図3参照)が入力部52に入力信号を供給する。
【0032】
スイッチ26によるスイッチング動作の結果、第1信号層20から第2信号層30に、また電源層44から第1信号層20に電流が発生し、第1信号層20と第2信号層30の間に存在する誘電層22、および電源層44と第1信号層20の間に存在する誘電層43において、2次元放射状に広がる電場または電磁場が発生する。この電場または電磁場は、隣接する通信素子200に伝播される。
【0033】
隣接する通信素子200は、電場または電磁場の変化を観測し、信号を検出する。隣接する通信素子200は、誘電層22において発生した電場または電磁場から信号を検出してもよく、また誘電層43において発生した電場または電磁場から信号を検出してもよい。なお、既述のごとく、通信素子200は、誘電層22および誘電層43の両方において発生した電場または電磁場から信号を検出してもよい。誘電層22および誘電層43における電場または電磁場をそれぞれ検出し、誘電層22および誘電層43における電場または電磁場の差分を検出することによって、外部から混入するノイズの影響を最小とすることができ、SN比をあげることができる。
【0034】
図7(b)は、第1信号層20に印加する交流電圧の振幅を制限する回路の例を示す。電源層44および第2信号層30から第1信号層20に電圧を印加する電力経路のそれぞれに、電圧を制限するための電圧制限素子54、この例ではダイオード列を配置させる。電圧制限素子54として、1個または複数個のダイオードを順方向にそれぞれの電力経路に挿入することにより、第1信号層20に印加する電圧を制限することができる。電圧制限素子54を設けない場合、第2信号層30からのグランド電圧(0[V])と、電源層44からの電源電圧(E[V])とが交互に第1信号層20に印加されるが、第2信号層30からの電力経路と電源層44からの電力経路にそれぞれn個のダイオード列を順方向に挿入した場合には、第1信号層20には、ne[V]と(E−ne)[V]の電圧が交互に印加されることになる。ここでe[V]は、ダイオードの順方向電圧を示す。
【0035】
電圧制限素子54を設けることにより、電源電圧が信号発信に必要な電圧よりも十分高い場合であっても、印加電圧を必要なレベルにまで下げることが可能となる。また、電圧制限素子54を電力経路に挿入することによって、電流量が減るため、消費電力を下げることができ、通信デバイス300の省電力化に寄与することになる。なお、第2信号層30と第1信号層20の間に設けられる電圧制限素子54aと、電源層44と第1信号層20の間に設けられる電圧制限素子54bの抵抗値は異なってもよい。
【0036】
図8(a)は、通信素子200の具体的な構成例を示す。通信素子200は、上述の通信機能を備えたLSIとして構成され、図8(a)は、第1信号層20に接触するLSIの上面を示している。通信素子200は、図3に示した処理部60およびメモリ70の各機能を備えたデジタル回路202を有する。円形の電極204は通信部50として作用する。なお、通信素子200の実装に際して、電極204は小さく形成されることが好ましい。図示しないLSIの裏面の電極は、第2信号層30と電磁的に接続されている。電極204は、スイッチ26(図5または図7参照)のスイッチング動作により、第1信号層20を介して電源層44から電源電圧を印加され、また裏面の第2信号層30からグランド電圧を印加される。既述のごとく、通信素子200は、スイッチ26を交互にスイッチして、交流電流を発生することで、電場または電磁場を変化させ、信号を発信する。
【0037】
図8(b)および図8(c)は、通信素子200による信号発信の原理を説明するための図である。図中、Sで示す領域は、通信素子200の電極204を示す。第1信号層20および第2信号層30の導電率をσとし、誘電層22の誘電率をε0とする。既述のごとく、誘電層22が、第1信号層20および第2信号層30に挟まれた構造につき考察する。なお、図8(b)および図8(c)では、誘電層22の図示を省略している。この構造において、電磁波動を発生し、発生した電磁波動を、誘電層22中に伝達させる。
【0038】
図示のごとく、円柱座標をとり、各層に垂直方向のz軸まわりの解を求める。円柱座標の原点を、円形の電極204の中心点の垂直下方向であって、且つ第1信号層20の下面と第2信号層30の上面との中間点にとる。第1信号層20と第2信号層30の間隔、すなわち誘電層22の厚さを2d、電極204の半径をr0とする。z軸に対称な解においては、磁場ベクトルBはθ成分のみをもち、それをB(r,z)と表現する。このような構造において、通信素子200内において、第1信号層20から第2信号層30に、半径r0の円柱表面に沿って電流を流すものとする。なお、電流経路は厳密な円柱形状である必要はなく、また厳密に均一な電流が流れることまでは必要としない。z軸を対称軸とする半径rの円柱面を外に向かって横切る表皮電流の総和をI(r)と表現する。電磁波動の周波数をωとすると、一般解は、以下のように表現される。なお、第1信号層20および第2信号層30ともに導体とし、以下の発信原理の説明において、それぞれの層を区別せずに、導体層と呼ぶ。
【数1】
B0は磁場の強さを表す定数である。ここで、上記一般解における各パラメータの値を、以下のように設定する。
【数2】
Re[k]は、誘電層22中の電磁波動の波数であり、cは誘電層22における光速である。Im[k]は伝播する電磁波動の減衰を与えるパラメータである。Re[p]は表皮深さを与えるパラメータである。
【0039】
また、
H1 (2)(z)≡J1(z)−jN1(z)
である(ハンケル関数)。
なお、マイクロ波を伝達し、上記の解が成立するためには、以下の条件を満たす必要がある。
1)|σ/ω|>>ε0(σは導体層の導電率)を満たすこと。
2)表皮深さが導電層の厚みよりも小さいこと。
3)減衰距離が、その周波数に対応する真空中の電磁波長よりも大きいこと。すなわち、−Im[k]がRe[k]と同程度か、それより小さいこと。
4)導電層の間隔が、
【数3】
を満たすこと。
なお、透磁率は誘電層22、導体層ともにμであることと仮定した。
【0040】
以上の伝達条件を満たすことにより、誘電層22において2次元放射状にマイクロ波を伝達させることが可能となる。例えば、周波数を10〜100GHz程度、伝達距離を10cm程度、d=1〜0.1mm程度とすることにより、以上のマイクロ波伝達条件を満足するような導電率の材料を容易に見つけることができる。なお、表皮深さが導電層の厚みよりも大きい場合であっても電磁作用は伝達するが、その場合には、電磁波は、導電層の外にも漏出することになる。
【0041】
電磁波動をマイクロ波として伝達することにより信号伝達速度は光速となる。このように、本実施の形態における通信装置100は、1ビットの情報を送るのに1波長分程度の幅をもったリング状の電磁場を生成し、この電磁場を利用して通信を行うため、少ない消費電力で1GHzをこえる信号伝達を行うことが可能となる。これにより、通信装置100は、コンピュータなどのクロックと同期して高周波数の論理信号を伝送可能となる。
【0042】
中心から距離rの点における上側導体層表面、すなわち第1信号層20表面と、下側導体層表面、すなわち第2信号層30表面との電位差をV(r)とすると、半径rの円柱面を横切って流れる電流I(r)とV(r)(その地点での電極間の電位差2dEz)の比は、
【数4】
で与えられる。この値は、通信素子200からみた出力インピーダンスに相当する。ここで、関数P(x)を
【数5】
と設定する。
【0043】
図9は、実数xに対するP(x)のプロットを示す。P(x)の虚部(Im[P(x)])はリアクタンス成分を意味し、原点近くで対数的に発散する。このことは、電流経路となる円柱の半径r0が小さくなると、リアクタンス成分が増大し、電圧を印加しても電磁波のエネルギーに有効に変換されないことを意味している。そのため、この構造をとる場合には、半径r0、すなわち円形の電極204の半径を小さく構成することが難しくなる。
【0044】
図10は、電極204の半径を小さく形成することに考慮した通信デバイス300の構成例を示す。通信デバイス300は、通信素子200を駆動するための駆動回路82と、通信素子200と第1信号層20とを接続するコンデンサ80を備える。駆動回路82は通信素子200内に存在してもよい。既述のごとく、駆動回路82はスイッチ26を有する。電極204の半径r0が小さいときに生じるリアクタンス成分(図9に示すIm)は誘導性である。半径r0の円形電極204のスイッチングによって電磁波動を放出する場合、第1信号層20のインピーダンスは、抵抗とインダクタンスを直列接続した回路のそれと等価であるから、通信素子200をコンデンサ80を介して第1信号層20に接続することにより、リアクタンス成分を低くすることが可能となる。コンデンサ80は、通信素子200の内部において構成することができる。容量Cは、
【数6】
となるように選べばよい。これにより、回路の直列共振状態をつくることができ、インピーダンスを最小に設定することができる。
【0045】
例えば、周波数を10GHz、2d=1mm、r0=0.1mmとすると、kr0=0.02であるため、Im[P(x)]=4.0となり、リアクタンス成分は抵抗成分より3倍近く大きくなる。このときのリアクタンスは50Ωであるから、C=0.3pFの容量をもつコンデンサ80を付加して駆動することにより、駆動回路82からみたインピーダンスは実数、すなわち抵抗となり、そこで消費されるエネルギーは2次元的に放射される電場または電磁場のエネルギーに効率的に変換されることになる。
【0046】
図11は、電極204の半径を小さく形成することに考慮した通信デバイス300の構成の変形例を示す。この変形例では、通信素子200の電極204を絶縁層210を介して第1信号層20に接続する。図10に関連して説明したように、コンデンサ80は通信素子200の内部に構成されてもよいが、図11に示すように、絶縁層210として通信素子200の外部に設けられてもよい。この場合、通信素子200と第1信号層20との接続に非導電性の接着剤を利用することができ、製造工程を簡略化することができる。いずれの場合であっても、電極204と第1信号層20とを容量を介して結合させることにより、電流経路の円柱半径を小さく構成した場合におけるリアクタンス成分を低減することができる。そのため、電極204の小規模化を実現することができ、通信素子200を容易に実装して、通信装置100を作成することが可能となる。
【0047】
図12は、実施の形態に係る通信装置100における信号伝達方法の説明図を示す。実施の形態においては、各通信素子200が、空間内の自身の位置を示す座標をアドレスとしてメモリに保持する。座標は、2次元座標であっても3次元座標であってもよい。通信素子200の座標は外部のコンピュータなどにより設定されてもよく、各々で自律的に設定してもよい。この例では、座標(1,1)に位置する通信素子から、座標(7,7)に位置する通信素子まで信号を伝達することを目的とする。以下、座標(M,N)に位置する通信素子を「通信素子(M,N)」と表現する。なお図示の例では、説明の便宜上、通信素子が規則的に配列されているが、この配列形態はランダムであってよい。
【0048】
図13は、送信元の通信素子により生成される信号のパケットを示す。このパケットには、コマンド、送信元アドレス、送信先アドレスおよび送信データの項目が設けられる。この信号はデータを通信素子(7,7)に転送するためのものであり、コマンドには転送パケットであることを指示するコードが記述される。送信元アドレスには、送信元通信素子の座標である(1,1)が記述され、送信先アドレスには、送信先通信素子の座標である(7,7)が記述される。送信データは、伝達すべきデータである。このように、通信素子(1,1)は送信元座標と送信先座標とを含んだ信号のパケットを生成する。パケットの生成は処理部60(図3参照)により行われる。
【0049】
図12に戻って、送信元の通信素子(1,1)が信号を送信すると、その信号は周辺の通信素子、すなわち座標(0,0)、(2,0)、(3,1)、(2,2)、(0,2)、(−1,1)に位置する通信素子に伝達される。これらの通信素子は、信号を受け取ると、自身が位置する座標をもとに信号を中継するか否かを決定する。この決定は、送信元座標(1,1)と送信先座標(7,7)との間に、空間的に自身が位置するか否かを判定することにより行われ、具体的には、送信元の通信素子(1,1)と、送信先の通信素子(7,7)とを結ぶ経路上に自身が位置するか否かを判定することにより行われる。
【0050】
この例では、通信素子(2,2)が、通信素子(1,1)と通信素子(7,7)を結ぶ経路上に位置することを判定し、信号を中継することを決定する。通信素子(2,2)は、受け取った信号を送信し、それ以外の通信素子は応答しない。以後、信号は、通信素子(3,3)、通信素子(4,4)、通信素子(5,5)、通信素子(6,6)により中継されて通信素子(7,7)に伝達される。
【0051】
本実施の形態においては、各通信素子が、自身の座標と、送信元および送信先の座標との関係により、信号を中継すべきか否かを判断する。通信経路を予め定めておく必要はなく、単純なアルゴリズムで動的に最短経路を設定し、信号を伝達することが可能となる。
【0052】
以上のように、通信装置100は、通信素子200間で信号を伝達することが可能となる。各通信素子200の有効通信距離の範囲内には、既述のような通信素子200間で要求される通信機能を有しないシンプルな他の通信素子を配置してもよい。このシンプルな通信素子は、通信素子200の管理下におかれる。この関係から、通信素子200を親素子と呼び、その管理下にある通信素子を子素子と呼ぶ。上記のごとく、親素子となり、信号伝達に寄与する通信素子200は、自身の二次元座標などのIDを有している。
【0053】
この親子関係は、親素子が応答要求を定期的に発行し、それに子素子が応答することで動的に形成される。具体的にはまず親素子は自分のIDをパケットに埋め込んだ「応答要求コマンド」を送信する。すでに親素子が確定している子素子はそれに応答することはなく、まだ親素子が確定していない子素子は、乱数による待機時間の後、自分がその親素子に子供になることを意思表示するパケットを発行する。このパケットを受け取った親素子は直ちにID確定コマンドを送出し、その子素子に、自分の管轄内でのIDを割り当てる。このようにして任意の子素子は動的に近傍の1次素子とユニークな親子関係を確立する。なお子素子は組み込みの素子でもよいし、コネクタを介して信号層に接続された情報機器であってもよい。
【0054】
通信装置100において、子素子は、親素子との間でのみ通信を可能とする。親素子である通信素子200は、子素子から発信された信号を、周辺の通信素子200に伝達する役割と、また別の通信素子200から送信された信号を、子素子に伝達する役割をもつ。親素子は、複数の子素子を管理してもよく、割り当てたIDにより、管理下の子素子を特定する。
【0055】
<第2の実施の形態>
図14は、本発明の第2の実施の形態に係る通信装置400の構成を示す。通信装置400には、信号を伝達する複数の信号層410a、410b、410c、410d、410e、410f、410g、410h、410i(以下、総称する場合は「信号層410」と呼ぶ)が形成される。信号層410は導電性材料により形成され、近傍の信号層410とは互いに絶縁される。隣り合う信号層410の間には高抵抗層420が設けられてもよく、また各信号層410は、互いに離間して高抵抗層420上に設けられてもよい。
【0056】
通信装置400には、2つ以上の信号層410に接続して、当該2つ以上の信号層410間における信号の送受信を行う計12の通信素子500e、500f、500h、500i、500j、500l、500m、500o、500p、500q、500s、500tが設けられる。図14の例では、縦横3×3個の信号層410が形成されているが、中央の信号層410eを除く周囲の信号層410には、1つの信号層410にのみ接続する計12の通信素子500a、500b、500c、500d、500g、500k、500n、500r、500u、500v、500w、500xが設けられる。以下、通信素子を総称する場合は「通信素子500」と呼ぶ。通信素子500は、第1の実施の形態で説明した通信素子200と同様の機能を有してもよく、また同様の構成を有してもよい。このように、通信装置400においては、信号層410内または信号層410間における信号の送受信を担うべく、計24の通信素子500が設けられている。図14においては、計12の通信素子500が、隣り合う2つの信号層410を接続するべく設けられているが、別の例においては、そのうちの一部の通信素子500が省略されてもよい。また図示の例では、信号層410の個数が少ないため、通信素子500の全体の個数(計24)に対して、複数の信号層410にまたがる通信素子500の個数(計12)の占める割合が50%に過ぎないが、信号層410の個数が増えるにつれて、その割合は高くなる。説明の便宜上、以下では、特に断らない限り、通信素子500が、複数の信号層410に接続する場合を想定して、第2の実施の形態に係る通信装置400の説明を行う。
【0057】
第2の実施の形態において通信素子500は、隣り合う2つの信号層410に電気的に接続し、接続する信号層410内に設けられた他の通信素子500との間で信号を送受信する機能を有し、また接続する2つの信号層410間において信号を送受信する機能も有する。信号層410内における通信機能として、例えば通信素子500eは信号層410aと信号層410bとに接続するが、信号層410a内に設けられた他の通信素子500a、500dおよび500hとの間で信号を送受信することができ、また信号層410b内に設けられた他の通信素子500b、500fおよび500iとの間でも信号を送受信することができる。この信号層410内における通信を、内方向の通信と呼ぶ。また、信号層410間における通信機能として、通信素子500eは、信号層410aを伝達される信号を信号層410bに伝達することができ、また信号層410bを伝達される信号を信号層410aに伝達することもできる。この信号層410間における通信を、外方向の通信と呼ぶ。例えば通信素子500eは、信号層410aにおける通信素子500aから信号を受信して、信号層410bにおける通信素子500fに送信することができ、また、その逆も可能とする。各通信素子500が上記のような機能をもつことにより、第2の実施の形態における通信装置400は、配線を形成することなく、任意の通信素子500間における通信を実現することができる。
【0058】
通信装置400における信号伝達方法を、通信素子500dから通信素子500fに信号を伝達する場合を例に説明する。ここでは、通信素子500dが信号の送信元であり、通信素子500fが信号の最終目的地であることを仮定する。この場合、まず通信素子500dが、信号層410aを介して通信素子500eに信号を伝達し、通信素子500eが、信号層410bを介して通信素子500fに信号を転送する。通信素子500eに注目すると、通信素子500eは、通信素子500dとの間で信号層410a内通信を行い、また通信素子500fとの間で信号層410b内通信を行うことによって、結果として信号層410bと信号層410cの間の通信を実現することになる。このように各通信素子500が、互いに絶縁された複数の信号層410に接続して、信号層410間の通信を行うことにより、信号を送信元の信号層410から所期の目的地となる信号層410まで順次伝達することができ、送信元および最終目的地間の信号伝達を実現することが可能となる。
【0059】
各信号層410には、センシングユニット、パワーユニット、また表示ユニットなど、各種機能を実現するための構成が備えられてもよい。特に、これらのユニットを容易に置換可能とすることで、応用性の高い通信装置400を実現することができる。また、各通信素子500はコネクタなどの機能を備え、外部機器との接続を可能としてもよい。通信素子500に外部機器とのインタフェース機能をもたせることにより、通信装置400を様々な環境で利用することが可能となる。
【0060】
図15(a)は通信装置400の断面の一例を示し、この例では、隣り合う信号層410が高抵抗層420により絶縁されている。隣り合う信号層410間は、通信素子500により接続され、信号層410間の通信が実現される。
【0061】
図15(b)は通信装置400の断面の別の例を示し、この例では、隣り合う信号層410が互いに離間して高抵抗層420上に設けられる。隣り合う信号層410間は、通信素子500により接続され、信号層410間の通信が実現される。
【0062】
図16(a)は、通信装置400の構成の変形例を示す。この通信装置400は、6角形の複数の信号層410と、信号層410間における信号の送受信を行う複数の通信素子500とを有する。図15に示す通信装置400と同様に、各信号層410は、高抵抗層420により絶縁されている。
【0063】
図16(b)は、通信装置400の構成の変形例を示す。この通信装置400では、信号層410内に高抵抗領域430が形成されて、信号層410内の導電領域が部分的に形成されている。なお、図15に示す通信装置400と同様に、各信号層410は、高抵抗層420により絶縁されている。
【0064】
図16(c)は、通信装置400の構成の変形例を示す。この通信装置400は、4角形の複数の信号層410と、4つの信号層410に接続する複数の通信素子500とを有する。信号層410の形状は、図15に示す通信装置400における信号層410の形状と同様であるが、通信素子500の配置位置が異なっている。なお、各信号層410は、高抵抗層420により絶縁されている。
【0065】
以上のように、通信装置400は様々な形状および構造の信号層410を備えることができ、また通信素子500が接続する信号層410の個数は任意であってもよい。上記した例において、信号層410の形状は正多角形であるが、これに限定するものではない。通信装置400において、各通信素子500は、送信するパケットに最終目的地となる信号層410の識別番号を含めることにより、そのパケットを最終目的地まで伝達する。第2の実施の形態において、信号層410は平面上に形成されているため、各信号層410の識別番号として、各信号層410の2次元座標を利用することとする。なお、別の例においては、識別番号として、信号層410に固有のシリアル番号を割り振ることも可能であり、また信号層410が3次元的に形成される場合には、信号層410の識別番号を3次元座標で表現することも可能である。
【0066】
図17は、図14に示した通信装置400の模式図を示す。図17において、各通信素子500を結ぶように描かれている実線は、隣り合う信号層410が絶縁されている状態を意味する。信号層410aを原点とするXY軸を設定することにより、信号層410aの座標すなわち識別番号を(0,0)、信号層410bの識別番号を(1,0)、信号層410cの識別番号を(2,0)、信号層410dの識別番号を(0,1)、信号層410eの識別番号を(1,1)、信号層410fの識別番号を(2,1)、信号層410gの識別番号を(0,2)、信号層410hの識別番号を(1,2)、信号層410iの識別番号を(2,2)と定めることができる。信号層410の識別番号は、通信装置400の製造時に予め設定してもよく、また後述するアルゴリズムにより自律的に設定してもよい。信号層410間の信号の伝達は、信号層410の識別番号を利用して実現される。以下、信号層410の識別番号を、「信号層ID」と呼ぶ。なお、各通信素子500は、自身が接続する信号層410の信号層IDを記憶しており、したがって複数の信号層410に接続する場合は、複数の信号層IDを記憶することになる。
【0067】
各通信素子500には、自身が接続する信号層410ごとに、信号層410内のローカルな識別番号が割り振られる。図示の例では、信号層410が四角形に形成されており、信号層410において、右側に位置する通信素子500のローカル識別番号が「1」、上側に位置する通信素子500のローカル識別番号が「2」、下側に位置する通信素子500のローカル識別番号が「3」、左側に位置する通信素子500のローカル識別番号が「4」に設定される。信号層410内の信号の伝達は、このローカル識別番号を利用して実現される。例えば、通信素子500eに注目すると、信号層ID(0,0)の信号層410aにおいては、右側に位置しているためローカル識別番号「1」を有し、一方で、信号層ID(1,0)の信号層410bにおいては、左側に位置しているためローカル識別番号「4」が割り当てられている。以下、通信素子500のローカル識別番号を「ローカルID」と呼ぶ。
【0068】
以上のように、各通信素子500は、自身が接続する信号層410の信号層IDと、各信号層410におけるローカルIDとを保持する。この前提のもと、第2の実施の形態における通信方法を説明する。この通信方法においては、3種類のパケットを使用する。
【0069】
(1)RTS(request to send−stream)パケット
信号層410内の通信素子500に対してコネクションの確立を要求するパケット
(2)CTS(clear to send−stream)パケット
RTS送信元に対してコネクションの確立許可を示すパケット
(3)DT(data transmission−stream)パケット
データ転送のパケット
【0070】
図18(a)は、RTSパケットのデータフォーマットを示す。RTSパケットは3つのフィールドを有する。以下、各フィールドの項目を示す。
第1フィールド:反応すべき通信素子500のローカルID
第2フィールド:コマンド(RTS)
第3フィールド:RTSパケットの送信元の通信素子500のローカルID
【0071】
図18(b)は、CTSパケットのデータフォーマットを示す。CTSパケットは2つのフィールドを有する。以下、各フィールドの項目を示す。
第1フィールド:反応すべき通信素子500のローカルID
第2フィールド:コマンド(CTS)
【0072】
図18(c)は、DTパケットのデータフォーマットを示す。以下、各フィールドの項目を示す。
第1フィールド:反応すべき通信素子500のローカルID
第2フィールド:コマンド(DT)
第3フィールド:ホップリミット、すなわち通信素子500の中継回数の上限値
第4フィールド:データ長
第5フィールド:最終目的地のX座標
第6フィールド:最終目的地のY座標
第7フィールド:送信元のX座標
第8フィールド:送信元のY座標
第9フィールド:目的地でのアプリケーション
第10フィールド以降:データ
なお、図18(a)〜(c)の例では、各フィールドが8ビットで構成されている。
【0073】
図19は、通信装置400における通信方法を説明するための図を示す。図19では、送信元である通信素子500dから最終目的地である通信素子500gに信号を伝達する場合を例にとる。
【0074】
(ステップ1)
通信素子500dは、自身の信号層ID(0,0)と、最終目的地である通信素子500gの信号層ID(2,0)の位置関係から、DTパケットを送信する方向を計算し、信号層410a内でDTパケットを伝達すべき通信素子を決定する。すなわち通信素子500dは、通信素子500gまでの最短経路を演算し、DTパケットを、信号層410a、410bを経由して信号層410cに伝達するルートが最短であることを判定する。この経路上に存在する素子は通信素子500eであるため、通信素子500dは、通信素子500eとコネクションを確立するべく、通信素子500eに対してRTSパケットを送信する。このとき、RTSパケットの第1フィールドは「1」に設定される。なお、通信素子500dは、信号の衝突を避けるため、信号層410a内で他の通信素子が通信を行っているか否かを監視し、通信が行われていない場合にRTSパケットを送信することが好ましい。
【0075】
(ステップ2)
通信素子500eは、RTSパケットに含まれる第1フィールドを参照し、RTSパケットが自身宛てであることを判定すると、通信素子500dに対してCTSパケットを送信する。このとき、CTSパケットの第1フィールドは「4」に設定される。
【0076】
(ステップ3)
通信素子500dは、一定時間内に自身宛てのCTSパケットを受け取ると、DTパケットを送信する。DTパケットの第1フィールドは「1」に設定される。通信素子500eは、DTパケットを受け取る。通信素子500dが一定時間内にCTSパケットを受け取れない場合は、ステップ1に戻って、再度RTSパケットを送信する。なお、複数回にわたり通信素子500eからの応答がない場合には、送信先を変更したRTSパケットを送信してもよい。これにより、通信経路を自律的に変更することが可能となる。図17に戻って、この場合は、RTSパケットの第1フィールドを「2」に設定することが好ましい。
【0077】
(ステップ4)
通信素子500eは、DTパケットを受け取ると、DTパケットを転送する方向を決定する。この場合、通信素子500eは、DTパケットを信号層410a側の通信素子500dより受け取ったため、転送する方向が信号層410b側であること、すなわち外方向であることを決定する。これにより、続くDTパケットの送信を、信号層410bにおいて行うことが定められる。
【0078】
通信素子500eは、自身の信号層ID(1,0)と、最終目的地である通信素子500gの信号層ID(2,0)の位置関係から、信号層410b内でDTパケットを伝達すべき通信素子を決定する。最短経路上に存在する素子は通信素子500fであるため、通信素子500eは、通信素子500fとコネクションを確立するべく、通信素子500fに対してRTSパケットを送信する。このとき、RTSパケットの第1フィールドは「1」に設定される。通信素子500eは、信号の衝突を避けるため、信号層410b内で他の通信素子が通信を行っているか否かを監視し、通信が行われていない場合にRTSパケットを送信してもよい。
【0079】
(ステップ5)
通信素子500fは、RTSパケットに含まれる第1フィールドを参照し、RTSパケットが自身宛てであることを判定すると、通信素子500eに対してCTSパケットを送信する。このとき、CTSパケットの第1フィールドは「4」に設定される。
【0080】
(ステップ6)
通信素子500eは、一定時間内に自身宛てのCTSパケットを受け取ると、DTパケットを送信する。DTパケットの第1フィールドは「1」に設定される。通信素子500fは、DTパケットを受け取る。
【0081】
(ステップ7)
通信素子500fは、DTパケットを受け取ると、DTパケットを転送する方向を決定する。通信素子500fは、DTパケットを信号層410b側の通信素子500eより受け取ったため、転送する方向が信号層410c側であること、すなわち外方向であることを決定する。これにより続くDTパケットの送信を、信号層410cにおいて行うことが定められる。
【0082】
通信素子500fは、DTパケットの第5および第6フィールドの目的地座標から、最終目的地が信号層410cにおける通信素子500gであることを認識する。なお、第5および第6フィールドの目的地座標には、信号層410cを特定する座標と、通信素子500gを特定するローカルIDとが含まれるものとする。これにより、通信素子500fは、通信素子500gとコネクションを確立するべく、通信素子500gに対してRTSパケットを送信する。このとき、RTSパケットの第1フィールドは「1」に設定される。
【0083】
(ステップ8)
通信素子500gは、RTSパケットに含まれる第1フィールドを参照し、RTSパケットが自身宛てであることを判定すると、通信素子500fに対してCTSパケットを送信する。このとき、CTSパケットの第1フィールドは「4」に設定される。
【0084】
(ステップ9)
通信素子500fは、一定時間内に自身宛てのCTSパケットを受け取ると、DTパケットを送信する。DTパケットの第1フィールドは「1」に設定される。これにより、最終目的地である通信素子500gは、DTパケットを受け取ることができる。例えば、通信素子500gに外部機器が接続されている場合は、DTパケットに含まれるデータを外部に送信することが可能となる。
【0085】
以上の通信方法によると、信号の送信元から最終目的地までの経路を予め設定することなく、信号を中継する各通信素子500が信号層IDをもとに、動的に経路を設定することが可能となる。そのため、通信装置400においては、例えば一部の通信素子500が故障した場合であっても、その通信素子500を回避して、最終目的地までDTパケットを伝送することが可能となる。
【0086】
なお、図19の例では、信号を一軸方向すなわちX軸方向に伝達する場合を示すが、信号は、斜め方向であっても当然に伝達することができる。例えば、信号層ID(0,0)の信号層410aから信号層ID(1,1)の信号層410eに信号を伝達する場合、途中の経路として、信号層ID(1,0)の信号層410bまたは信号層ID(0,1)の信号層410dのいずれを経由することも可能である。いずれの経路を選択するかは、ランダムに決定されてもよく、また例えばX軸方向への信号伝達をY軸方向への信号伝達よりも優先的に行うなどの所定の規則に沿って決定されてもよい。
【0087】
図20(a)は、信号層410を流れる信号の波形フォーマットを示す。各パケットの先頭には、スタートビットと、フィールド開始を示すデータが付加される。スタートビットは、一定時間、ここではデジタル回路の動作クロック周期の30倍の時間、「01」のパターンが周期的に繰り返される。この周期パターンにより、サンプリング時間を決定する。通信データは10ビットをひとまとまりとして取り扱い、これを1フレームと呼ぶ。
【0088】
図20(b)は、1フレームの構成を示す。1フレームは、8ビットの実データと2ビットのフレーム区切りからなる。例えば、10進数のデータ「10」を出力する場合には、フレーム区切り「10」を先頭に付加して、フレームは、1000001010として表現される。また、信号には20フレームごとに、ビット列11111111を挿入する。このとき、フレーム区切りは挿入しない。フィールド開始指示用データは、フィールド区切り「10」にビット列11111111を付加した1011111111として表現される。スタートビット後に必ずこのデータ列が挿入され、このデータ列の後が、各パケットの先頭となる。
【0089】
図21は、通信素子500のデジタル回路の実現例を示す。デジタル回路におけるポート定義は以下のとおりである。
(入力ポート)
Ainp_a:入力信号(常時観測型コンパレータからの出力)
Ainp_b:入力信号(常時観測型コンパレータからの出力)
Init_flg:初期化フラグ
clk:マスタークロック
in:サンプリングされた信号
ms:信号層選択
selectID: 0:ローカルID_a=1 1:ローカルID_a=2
sleepmode: 0:スリープモードなし
tSite_x:信号層X座標
tSite_y:信号層Y座標
【0090】
(出力ポート)
Inp_a:信号層内方向入力判定フラグ 0:入力なし 1:入力あり
Inp_b:信号層外方向入力判定フラグ 0:入力なし 1:入力あり
OutBit_a:信号層内方向出力データ
OutBit_b:信号層外方向出力データ
OutBit_na:OutBit_aの反転
OutBit_nb:OutBit_bの反転
ena_AppL:アプリケーション層プロセスイネーブル
ena_dwnDatL:データリンク層プロセスイネーブル
ena_dwnNetL:ネットワーク層プロセスイネーブル
ena_upDatL:データリンク層プロセスイネーブル
ena_upNetL:ネットワーク層プロセスイネーブル
inmonitor:物理層プロセス監視フラグ 1:スタートビット検出
【0091】
図22は、通信素子500のデジタル回路におけるプロセスの状態遷移図を示す。通信素子500は、以下に示す各状態をとることができる。
(状態0)開始・初期化
各レイヤのプロセスを初期化したのち、状態1へ遷移する。このとき、通信素子500はいずれの方向からの入力も受け入れることができる。
【0092】
(状態1)RTS待ち・受け入れ
信号層410の内方向または外方向の通信のうち、早く到達した方向のデータを受け入れるように、Inp_a、Inp_bのいずれかを1にする。以後1になった方のデータをサンプリングする。なお信号層410の内方向の通信とは、信号層410内の他の通信素子500とのデータの送受信を意味し、信号層410の外方向の通信とは、その信号層410とは異なる信号層における通信素子との間のデータの送受信を意味する。
【0093】
入力データの第1フィールドより順にRTSフォーマットに準じた判定を行い、コネクションを確立するかどうか決定する。RTSパケットを正しく受け取った場合は状態2へ遷移する。プロセスエラーを検出した場合は状態0へ戻る。
【0094】
(状態2)CTS出力
CTSパケットを出力する。出力方向はRTSパケットを受け取った方向と同じである。このとき、他の方向からの信号がきてもすべて無視される。出力中にエラーが生じた場合は状態0へ遷移する。出力が完了したら状態3へ遷移する。
【0095】
(状態3)DT待ち・受け入れ
DTパケットを受け入れる。受け入れ方向はCTSパケット出力の方向と同じ方向である。一定時間内(100T:Tはマスタークロック周期)にDTパケットがこない場合はエラーとし、状態0へ遷移する。DTパケットを取得中にエラーが発生した場合、すでに10バイト以上データを取得した場合は状態4へ遷移し、それ以外の場合は状態0へ遷移する。
【0096】
(状態4)ルーティング
ネットワーク層のプロセスであり、DTパケットのヘッダ部より、目的地の座標を取得する。取得データと、自身の座標と比較して、目的地が、自身の信号層410の座標と一致していればアプリケーション層へプロセスを渡す。目的地ではない場合は次のコネクション先(方向、ローカルID)を決定する。このとき、DTパケットのヘッダ部の第1フィールド(反応すべきローカルID)と第3フィールド(ホップリミット)を書き換え、状態5へ遷移する。ホップリミットの書き換えは、中継数の上限値を1デクリメントすることにより行う。
【0097】
(状態5)RTS出力
次のコネクション先へRTSパケットを出力する。このとき物理層では出力方向のネットワークの占有状況を監視し、時間16T(2バイト)の間に周囲の素子が通信を行っていなければ、出力を開始する。RTSパケットの出力が完了すると、状態6へ遷移する。周囲の素子が通信を行っていて、一定時間(100T)まっても出力が開始されない場合は状態8へ遷移する。
【0098】
(状態6)CTS待ち・受け入れ
自身宛のCTSパケットを待ちうける。一定時間(100T)内にCTSパケットを受け取ると、状態7へ遷移する。一定時間内にCTSパケットを受け取らなければ、状態8へ遷移する。
【0099】
(状態7)DT出力
DTパケットを出力する。出力方向はRTS出力方向と同じである。データが正しく出力できたら状態9へ遷移する。途中、エラーを検出したら状態8へ遷移する。
【0100】
(状態8)再ルーティング
コネクションが正しく確立できなかった場合、5回までは同じ通信素子に対してコネクションを確立しようとする。5回の挑戦でもコネクションが確立されなかった場合、ネットワーク層で別なルートを計算する。ルートを再計算後、状態5へ遷移する。
【0101】
(状態9)終了・初期化
全てのフラグを初期化して状態0へ遷移する。
【0102】
以上、第2の実施の形態においては、各信号層410に予め信号層IDが付与されていることを前提としてきたが、各信号層410に含まれる通信素子500は、自身の接続する信号層IDを動的に取得することも可能である。
【0103】
以下に「ID決定コマンド」を使用する例を示す。ID決定コマンドには、信号層410の座標(X,Y)が記述される。ID決定コマンドを受け取った通信素子500は、自身の属する信号層410の座標が(X,Y)であることを認識する。
【0104】
各通信素子500は、ID決定コマンドを、同一信号層410内におけるローカルIDが「1」および「2」の通信素子500に送信する。このとき、送信先の通信素子500が通信中である場合は、ID決定コマンドの送信を停止する。ID決定コマンドを受信した通信素子500は、受信した方向とは別の方向、すなわち内方向とは逆向きの外方向に存在する別の信号層410にID決定コマンドを送信する。具体的に、「1」のローカルIDでID決定コマンドを受信した通信素子500は、隣り合う信号層410において、「4」のローカルIDをもつ通信素子500として座標(X+1,Y)を記述したID決定コマンドを送信する。また、「2」のローカルIDでID決定コマンドを受信した通信素子500は、隣り合う信号層410において、「3」のローカルIDをもつ通信素子500として座標(X,Y+1)を記述したID決定コマンドを送信する。
【0105】
以上のように通信素子500が機能することにより、通信装置400への電源投入後に、左下隅の信号層410aの座標を(0,0)として、信号層410aに属する通信素子500からID決定コマンドを送信することによって、全ての信号層410に信号層IDを動的に割り振ることが可能となる。
【0106】
このように、少なくとも一つの信号層410、この例では信号層410aに基準となる信号層ID(0,0)を予め設定し、その基準となる信号層IDをもとに、他の信号層410の識別番号を順次設定することにより、通信装置400内の信号層410の信号層IDを設定することが可能となる。基準となる信号層IDは、通信装置400における左下隅の信号層410aに限らず、他の信号層410に設定してもよい。例えば、図17の通信装置400において、中央の信号層410eを信号層IDを決定するための基準信号層として定めた場合には、信号層410eに属する通信素子500m、500p、500i、500lが、外方向にID決定コマンドを送信して、周囲の信号層410の信号層IDを順次設定していけばよい。このアルゴリズムにおいては、通信素子500は、自身が接続する信号層410の信号層IDを含んだ信号(ID決定コマンド)を受け取ると、その信号を伝達した信号層410の信号層IDを保持し、続いて自身が接続する他の信号層410の信号層IDを設定して、設定した信号層IDを含むID決定コマンドを、当該他の信号層410に送信する。第2の実施の形態における通信装置400によると、通信素子500がローカルIDを保持し、信号層410における自身の位置関係を把握することによって、座標で表現する信号層IDを簡易なアルゴリズムによって自律的に設定することが可能となる。
【0107】
また、第2の実施の形態では、通信素子500が、一旦信号を受信してから転送することとしたが、信号の受信が完了する前に、信号の転送を開始してもよい。DTパケットにおいては、パケットの先頭にコマンドや目的地の座標などのヘッダ項目が記述されているため、ヘッダ項目を受け取った時点から、信号の転送先となる通信素子500を特定して、コネクションの確立を行い、DTパケットを受信しながら、そのDTパケットを転送先となる通信素子500に順次転送することが可能である。これにより、データが最終目的地に到達するまでの遅延時間を減らすことができ、またスループットを向上することが可能となる。
【0108】
<第3の実施の形態>
第3の実施の形態では、複数の通信素子が存在する環境において、各通信素子にグローバルな識別番号を動的に設定する通信装置について説明する。グローバル識別番号は、通信素子ごとに通信装置において一意に設定され、通信素子間で信号を伝送するために用いられる。すなわち、グローバル識別番号は、通信装置内において重複しない。上記した第1および第2の実施の形態で説明したように、各通信素子の通信距離は周辺に配置された他の通信素子と局所的な通信を行える程度に設定されている。これにより、無用な信号の衝突を防止することができ、消費電力を低減することもできる。
【0109】
第1の実施の形態で説明した通信装置100および通信素子200、さらに第2の実施の形態で説明した通信装置400および通信素子500は、第3の実施の形態における通信装置および通信素子として利用することができる。第3の実施の形態において、通信素子はローカル識別番号を有している。なお、第2の実施の形態においてローカル識別番号は、信号層410内での識別子として通信素子500に割り当てられたが、第3の実施の形態では、ローカル識別番号が、通信装置内の一定の領域における識別子として各通信素子に割り当てられる。第3の実施の形態において、ローカル識別番号は2以上の通信素子で共用され、したがって複数の通信素子に対して同一のローカル識別番号が割り振られる点で、通信装置内に一意に設定されるグローバル識別番号と異なる。なお、第3の実施の形態では、第2の実施の形態のように、複数の信号層410が高抵抗層などにより電気的に絶縁され、通信素子が信号層410間で信号を伝送するように構成されてもよく、また第1の実施の形態のように、個別の配線が形成されない導電層上に通信素子が分散して配置されてもよい。また、第3の実施の形態で提供する通信技術は、各通信素子が個別配線で接続され、その状態において各通信素子のグローバルな識別番号を設定する場合にも利用することができる。
【0110】
図23は、第3の実施の形態における通信装置700の概念図を示す。図中、○で示す構成は通信素子800であり、ここでは複数の通信素子800が、6×6のマトリックス状に配列されている。点線は、通信中に各通信素子800間に設定される通信経路である。既述のごとく、通信経路は、通信素子間において個別配線を設けなくても確立することができるが、第3の実施の形態におけるグローバル識別番号の設定技術は、個別配線を設けた場合であっても利用できる。なお、個別配線を設けないことの利点は前述のとおりであり、第3の実施の形態におけるグローバル識別番号設定技術を、個別配線を有しない通信装置700に利用することで、より一層柔軟性の高い通信装置を実現することができる。
【0111】
複数の通信素子800が、近傍に存在する通信素子とほぼ均等な距離に存在するように配置される。この例では、複数の通信素子800がマトリックス状、具体的には格子状に配置されており、前後左右に存在する他の通信素子800との間の距離を等しくされている。各通信素子800の通信可能な有効通信距離、すなわち通信範囲は、前後左右の通信素子800との間で通信が可能な範囲に設定され、それ以外の通信素子800には信号が到達しないものとする。このように通信可能距離を設定することで、点線で示すように隣接通信素子800間で通信経路を設定することができる。1つの通信素子800に対して4つの隣接通信素子が存在することから、図23に示す通信装置700を四叉路型通信装置と呼ぶ。
【0112】
多数の通信素子800が集合し、隣接する通信素子800間で信号を順次伝達していく通信装置700においては、その空間座標値などのグローバルな識別番号を各通信素子800が保持することで、信号の発信元から最終目的地までの最短通信経路の選択が容易となる。経路の選択方法については、例えば図12に関連して説明したとおりである。しかしながら、膨大な数の通信素子800に個別に座標値すなわちグローバル識別番号を付与し、付与した座標値に従ってそれらを通信装置700上の所定の位置に配置することは、その作業工程を非常に複雑にする。第3の実施の形態では、このような複雑な作業工程を不要とし、各通信素子800に、2以上の通信素子で共用するローカルな識別番号を付与して、それをもとにグローバルな識別番号を動的に設定することのできる技術を提供する。以下、ローカル識別番号を「ローカルID」、グローバル識別番号を「グローバルID」と呼ぶ。
【0113】
通信装置700においては、1つの通信素子800の通信範囲内に、同一のローカルIDを有する通信素子が存在することのないように、複数の通信素子800が配置される。すなわち、各通信素子800の通信距離内に存在する1以上の通信素子、多くの場合は2以上の通信素子のローカルIDが互いに異なるように、複数の通信素子800が配置される。マトリックス状に配置する場合、ローカルIDの数を少なくし、また後述するグローバルIDの設定制御を簡易にするためには、ローカルIDの配列が周期的となるように、複数の通信素子800が配置されることが好ましい。
【0114】
図24は、1つの通信素子800に隣接する通信素子のローカルIDを示す。対象とする通信素子800を対象通信素子と呼ぶと、所定のローカルIDをもつ対象通信素子の前後左右に存在する隣接通信素子のローカルIDは図示のとおりになる。通信装置700において、複数の通信素子800を、そのローカルIDに応じて周期的に配列することにより、隣接通信素子のローカルIDを異ならせることができ、したがって、同一のローカルIDを有する複数の通信素子が、対象通信素子の通信範囲内に存在しない状況を作ることができる。この周期性により、ローカルIDは、近傍すなわち隣接する通信素子のローカルIDとの間の相対的な位置関係を示すことになる。また、ローカルIDの個数を少なくするという所定の規則をもとに通信素子800を配置することで、ローカルIDを効率よく重複させて通信素子800に割り振ることができる。対象通信素子の接続方向の候補数プラス1の個数のローカルIDが最低限必要になると考えられるが、通信装置700に搭載される通信素子800が多数であることを鑑みると、ローカルIDを効率よく割り振ることで、ローカルIDの個数を接続方向の候補数プラス1程度に抑えることができ、用意するローカルIDを少なくすることが可能となる。
【0115】
例えば、図23に示すような四叉路型の通信装置700であれば、5種類のローカルID(1〜5)を用意し、5列ごと又は5行ごとに同一のローカルIDのパターンが生じるように通信素子800を搭載すればよい。図示の例では、5列ごとおよび5行ごとに周期的に通信素子800が配置される。ローカルIDのパターンに周期性をもたせることで、ローカルIDは、近傍の他のローカルIDとの間の相対的な位置関係を示すことになる。なお、ローカルIDは予め通信素子800に付与され、通信素子800は、自身のローカルIDと、自身を対象通信素子とした場合の隣接通信素子の接続方向とローカルIDとの関係、すなわち図24に示した関係を自身のメモリに記録しておく。
【0116】
例えば、チップマウンタなどの装置を用いて通信素子800を導電性基板などに搭載する場合、チップマウンタは、5種類の通信素子を区別できればよいため、実装処理の制御が容易となる。この場合、チップマウンタは、通信素子800の相対的な位置関係を維持することに注意すればよい。通信素子800にグローバルIDを予め付与した場合は、各通信素子800を所定の位置に配置する必要があるため、チップマウンタは、定められた絶対的な位置関係を維持するように通信素子800を搭載していく必要がある。例えば、搭載中に通信素子800に不良が発生した場合、同一のグローバルIDを有する通信素子800は他に存在しないため実装処理が中断し、または、実装後の経路選択や信号伝達処理などの制御が複雑になるという欠点がある。一方、第3の実施の形態によると、通信素子800はローカルIDを保持するのみであり、搭載処理中は、同一の通信素子800が多数用意されており、すなわち不良発生時でも代わりとなるものが存在するため、実装処理を円滑に実現できるという利点がある。
【0117】
図25は、通信装置700で確立される通信経路の変形例を示す。図中、実線は通信経路を示し、実線の交点には、通信素子800が存在しているものとする。図25(a)は、各通信素子が他の3つの通信素子との間で通信経路を確立する通信装置700を示す。このタイプの通信装置700を、三叉路型の通信装置と呼ぶ。図25(b)は、各通信素子が他の6つの通信素子との間で通信経路を確立する通信装置700を示す。このタイプの通信装置700を、六叉路型の通信装置と呼ぶ。図25(c)は、三叉路型と四叉路型の通信装置を組み合わせて構成した通信装置700を示す。なお、通信装置700において確立される通信経路には、他にも様々な形態のものが存在する。
【0118】
以下、一例として、図23に示した四叉路型の通信装置700においてグローバルIDを設定する方法を説明する。前提として、通信装置700において一つの通信素子800を基準素子として決定し、その基準素子のグローバルIDを(0,0)と設定する。なお基準素子に対して設定するグローバルID(0,0)は一例であり、他の座標値を与えてもよい。第3の実施の形態において、グローバルIDを2次元の座標値として設定するが、例えば通信装置700が高さ方向に通信素子800を配列した層を複数有している場合には、グローバルIDは3次元の座標値として設定されてもよい。基準素子は、各通信素子800の座標値、すなわちグローバルIDを決定するために、座標決定コマンドを生成して、隣接する通信素子に発信する。
【0119】
図26(a)は座標決定コマンドのパケットフォーマットの一例を示す。座標決定コマンドのフィールドには、コマンド、コマンド送信元、ホップリミット、2次元座標値の項目が設けられる。以下、各フィールドの項目を示す。
第1フィールド:コマンド(座標決定)
第2フィールド:座標決定コマンドの送信元の通信素子のローカルID
第3フィールド:ホップリミット、すなわち通信素子の中継回数の上限値
第4フィールド:2次元座標値、すなわちグローバルID
【0120】
基準素子が発信する座標決定コマンドでは、第2フィールドに基準素子のローカルID、第3フィールドにホップリミットの初期値(HL)、第4フィールドに2次元座標(0,0)が記述されている。ホップリミットは、通信エラーなどにより無期限に座標決定コマンドが伝送されることを防止するために必要な要素である。ホップリミットの初期値HLは、想定される座標決定コマンドの最大中継回数をもとに定められる。
【0121】
図26(b)は、対象とする通信素子800が隣接する通信素子から受信した座標決定コマンドを示す。第2フィールドには、この座標決定コマンドを送信した隣接通信素子のローカルIDが記述され、第3フィールドには、この座標決定コマンドの残りの中継回数が記述され、第4フィールドには、隣接通信素子のグローバルID、すなわち2次元座標が記述されている。受信した通信素子800は、この座標決定コマンドのフィールドに記述された情報をもとに、自身のグローバルIDを設定する。
【0122】
図27は、自身のグローバルIDを設定するための座標値変換データを示す。この座標値変換データは、各通信素子800のメモリに記憶されている。図27では汎用的に隣接素子の方向として前後左右の4方向を示しているが、各通信素子800は、自身の前後左右のそれぞれの方向に位置する隣接通信素子のローカルIDを予め把握しているため、記憶する座標値変換データを、前後左右という方向に対応付けるのではなく、隣接通信素子のローカルIDと直接対応付けて記憶することが好ましい。
【0123】
まず、通信素子800は、座標決定コマンドを受信すると、第2フィールドを参照して、座標決定コマンドがどの方向から送信されてきたかを判定する。図24に戻って、ローカルIDが「1」である対象通信素子800を例にとると、受け取った座標決定コマンドの第2フィールドの値が「4」である場合には、後方向から座標決定コマンドが送信されてきたことを判定し、第2フィールドの値が「5」である場合には、左方向から座標決定コマンドが送信されてきたことを判定する。
【0124】
通信素子800は、方向を判定すると、図27に示す座標値変換データを参照して、第4フィールドに記述されている座標値を変換する。例えば、座標決定コマンドが左方向から送信されたことを判定すると、第4フィールドに記述されている座標値(x,y)を、座標値(x+1,y)に変換する。変換した座標値は、対象通信素子800の座標値、すなわちグローバルIDとなる。この処理により、各通信素子800は、自身のグローバルIDを決定していく。自身のグローバルIDを決定すると、通信素子800は、隣接する他の通信素子に座標決定コマンドを送信し、その座標決定コマンドを受け取った隣接通信素子は、上記処理を同様に行うことで、自身のグローバルIDを決定する。
【0125】
図26(c)は、図26(b)に示す座標決定コマンドを受信した通信素子800が、所定のフィールド値を更新した後、自身に隣接する通信素子に送信する座標決定コマンドを示す。第2フィールドには自身のローカルIDが記述され、第3フィールドには、残りの中継回数を1デクリメントした値が記述され、第4フィールドには、自身に設定したグローバルIDが記述されている。第3フィールドの値が0になった場合、通信素子800は座標決定コマンドを送信しない。なお、一旦グローバルIDを設定した後は、各通信素子800は、隣接する通信素子から送信される座標決定コマンドを無視してもよい。
【0126】
図28は、グローバルIDの設定方法を示すフローチャートである。ここでは、任意の通信素子800における座標決定コマンドの処理を示す。まず、通信素子800は、隣接する通信素子から座標決定コマンドを受信する(S10)。通信素子800は、フィールドに含まれるローカルIDをもとに、座標決定コマンドを送信してきた隣接通信素子の方向を特定する(S12)。方向を特定すると、通信素子800は自身のグローバルIDを決定し(S14)、所定のフィールド値を更新して(S16)、隣接通信素子に座標決定コマンドを送信する(S18)。この処理機能は、通信素子800に予め組み込まれている。この処理を各通信素子800が順次連鎖的に行うことで、通信装置700内の通信素子800のそれぞれが自身のグローバルIDを動的に設定することが可能となる。
【0127】
図29は、各通信素子に設定したグローバルIDを示す。図23に示す通信装置700において、左下の通信素子を基準素子として設定し、X軸を横軸、Y軸を縦軸として、座標決定コマンドを隣接通信素子の間で順次伝達することで、図29に示すように、各通信素子800が、通信装置700内で一意に設定されるグローバルIDを保持することができる。基準素子は任意に選択することができ、左下の通信素子に限定するものではない。なお基準素子を常に固定とすることで、通信装置700における絶対座標を固定することができる。そのため、絶対座標を生成した状態において、任意の通信素子の絶対座標を外部から取得することが可能となる。例えば通信装置700に複数の外部機器接続用の端子を形成する場合には、その端子に直接的または間接的に接続する通信素子の不変の座標値を取得することができる。したがって、通信装置700における信号伝送は、端子に接続する通信素子の座標値をもとに実現することができ、絶対座標が固定である限りは、その座標値を変更する必要がない。なお基準素子が変わる場合には、絶対座標を形成した後、通信装置700に接続する各端子の座標値を取得し、その後、その座標値をもとに通信装置700における信号伝送を実現することになる。
【0128】
図30は、第3の実施の形態における通信装置700の変形例を示す。図23と同様に、図中、○で示す構成は通信素子800であり、複数の通信素子800は所定の周期性をもって配列されている。点線は、通信中に各通信素子800間に設定される通信経路である。この通信装置700は三叉路型であり、5種類のローカルID(1〜5)を有する通信素子800が、隣接通信素子に同一のローカルIDを有するものが存在しないように周期的に配列されている。三叉路型通信装置700において、1つの対象通信素子をみると、隣接通信素子との接続方向は3つであるが、対象通信素子の配置箇所によって、接続方向の候補としては前後左右の4方向あり、したがって、用意するローカルIDの個数は、5つとなっている。
【0129】
図31は、三叉路型通信装置700における1つの通信素子800に隣接する通信素子のローカルIDを示す。対象通信素子の前後左右に存在する隣接通信素子のローカルIDは図示のとおりになる。この関係は、図23に示した四叉路型の通信装置における関係と同じとなる。なお、左方向は左上、左下方向を含み、右方向は右上、右下方向を含む。三叉路型の通信装置700においては、左右方向の両方に隣接通信素子が存在し、また上下方向の一方に隣接通信素子が存在することになる。四叉路型の通信装置700について説明したように、図31に示す関係を用いて、三叉路型通信装置700においても、容易にグローバルIDを設定することができる。なお、他の形態の通信経路をもつ通信装置700においても、ローカルIDを周期的に配列することで、ローカルID間の相対的な位置関係を設定することができ、この相対的な位置関係を利用して、グローバルIDを設定することが可能である。図32は、六叉路型通信装置における1つの通信素子に隣接する通信素子のローカルIDを示す。六叉路型の通信装置においては、接続方向の候補数(6つ)プラス1の計7つのローカルIDを用意することで、ローカルIDを最も効率よく配置することが可能となる。
【0130】
また、実施の形態では、通信素子800がローカルIDを予め有している場合について説明したが、例えば通信素子800が配置される空間にローカルIDを示す目印を付与しておき、通信素子800の配置後、通信素子800がその目印を読み取って、自身のローカルIDを設定するようにしてもよい。グローバルIDを示す目印を空間に付与する場合と比較して、ローカルIDの個数が少ないため、限られたスペースに目印を記述することが可能である。
【0131】
以上、本発明をいくつかの実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、実施の形態の組み合わせ、またそれらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0132】
【発明の効果】
本発明によれば、新規な通信技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態に係る通信技術の方式を説明するための図である。
【図2】実施の形態にかかる通信装置の外観構成を示す図である。
【図3】通信素子の機能ブロック図である。
【図4】(a)は通信装置の断面図であり、(b)は通信装置の別の例を示す断面図である。
【図5】(a)は通信デバイスが信号を発信する基本原理を説明するための図であり、(b)は通信デバイスが信号を発信する原理の別の例を説明するための図である。
【図6】通信素子を備えた通信デバイスを示す図である。
【図7】(a)は通信デバイスを実現する回路動作の概要を示す図であり、(b)は第1信号層に印加する交流電圧の振幅を制限する回路の例を示す図である。
【図8】(a)は通信素子の具体的な構成例を示す図であり、(b)および(c)は、通信素子による信号発信の原理を説明するための図である。
【図9】P(x)のプロットを示す図である。
【図10】電極の半径を小さく形成することに考慮した通信デバイスの構成例を示す図である。
【図11】電極の半径を小さく形成することに考慮した通信デバイスの構成の変形例を示す図である。
【図12】通信装置における信号伝達方法の説明図である。
【図13】送信元の通信素子により生成される信号のパケットを示す図である。
【図14】第2の実施の形態に係る通信装置の構成を示す図である。
【図15】(a)は通信装置の断面の一例を示す図であり、(b)は通信装置の断面の別の例を示す図である。
【図16】(a)は通信装置の構成の変形例を示す図であり、(b)は通信装置の構成のさらなる変形例を示す図であり、(c)は通信装置の構成のさらなる変形例を示す図である。
【図17】通信装置の模式図である。
【図18】(a)はRTSパケットのデータフォーマットを示す図であり、(b)はCTSパケットのデータフォーマットを示す図であり、(c)はDTパケットのデータフォーマットを示す図である。
【図19】通信装置における通信方式を説明するための説明図である。
【図20】(a)は信号層を流れる信号の波形フォーマットを示す図であり、(b)は1フレームの構成を示す図である。
【図21】通信素子のデジタル回路の実現例を示す図である。
【図22】通信素子のデジタル回路におけるプロセスの状態遷移図である。
【図23】第3の実施の形態における通信装置の概念図である。
【図24】1つの通信素子に隣接する通信素子のローカルIDを示す図である。
【図25】通信装置で確立される通信経路の変形例を示す図である。
【図26】(a)は座標決定コマンドのパケットフォーマットの一例を示す図であり、(b)は対象とする通信素子が隣接する通信素子から受信した座標決定コマンドを示す図であり、(c)は、所定のフィールド値を更新した後、隣接通信素子に送信する座標決定コマンドを示す図である。
【図27】自身のグローバルIDを設定するための座標値変換データを示す図である。
【図28】グローバルIDの設定方法を示すフローチャートである。
【図29】各通信素子に設定したグローバルIDを示す図である。
【図30】通信装置の変形例を示す図である。
【図31】三叉路型通信装置において1つの通信素子に隣接する通信素子のローカルIDを示す図である。
【図32】六叉路型通信装置における1つの通信素子に隣接する通信素子のローカルIDを示す図である。
【符号の説明】
16、18・・・導電層、20・・・第1信号層、22・・・誘電層、24・・・導電層、26・・・スイッチ、30・・・第2信号層、43・・・誘電層、44・・・電源層、50・・・通信部、52・・・入力部、54・・・電圧制限素子、60・・・処理部、70・・・メモリ、80・・・コンデンサ、82・・・駆動回路、100・・・通信装置、200・・・通信素子、202・・・デジタル回路、204・・・電極、210・・・絶縁層、300・・・通信デバイス、400・・・通信装置、410・・・信号層、420・・・高抵抗層、430・・・高抵抗領域、500・・・通信素子、700・・・通信装置、800・・・通信素子。
Claims (6)
- 複数の通信素子を備える通信装置であって、各通信素子の通信距離は周辺に配置された他の通信素子と局所的な通信を行える程度に設定されており、それぞれの通信素子は、2以上の通信素子で共用する第1の識別番号を有し、各通信素子の通信距離内に存在する1以上の通信素子の第1識別番号が互いに異なるように、通信素子が配置されていることを特徴とする通信装置。
- 複数の通信素子を備える通信装置であって、各通信素子の通信距離は周辺に配置された他の通信素子と局所的な通信を行える程度に設定されており、それぞれの通信素子は、2以上の通信素子で共用する第1の識別番号を有し、複数の通信素子は、第1の識別番号の配列が周期的となるように配置されていることを特徴とする通信装置。
- 各通信素子は、通信素子間で座標決定信号を順次伝達することにより、通信装置における第2の識別番号を取得することを特徴とする請求項1または2に記載の通信装置。
- 各通信素子は、座標決定信号を送信した通信素子の第1識別番号をもとに第2識別番号を決定することを特徴とする請求項3に記載の通信装置。
- 複数の通信素子で共用され、相対的な位置関係を示す第1識別番号が各通信素子に付与された通信環境において、通信素子が、通信装置内で一意に設定される第2識別番号と、第1識別番号を含んだ信号を受信することで、自身の第2識別番号を設定することを特徴とする識別番号設定方法。
- 複数の通信素子を備える通信装置において、各通信素子にグローバル識別番号を設定する方法であって、各通信素子は、2以上の通信素子で共用するローカル識別番号を有し、ローカル識別番号をもとに自身の相対的な位置関係を把握するように構成されており、
各通信素子が、他の通信素子からグローバル識別番号を設定するための信号を受信し、その信号に含まれる他の通信素子のローカル識別番号およびグローバル識別番号をもとに自身のグローバル識別番号を設定し、他の通信素子とは別の通信素子に対して、自身のローカル識別番号および設定したグローバル識別番号を含めた信号を送信することで、各通信素子のグローバル識別番号を順次設定することを特徴とする識別番号設定方法。
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