JP2004353760A - 樹脂製シールリング - Google Patents

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Abstract

【課題】シールリングにウェルド部を有さず、回転軸への組み込みの際に受ける衝撃による破損も防ぐことができる。
【解決手段】相互に対向する合口を有する矩形断面の樹脂製シールリングであって、上記合口および該合口の対向部の3点支持の状態で、シールリングの内径を押し広げるとき、該シールリングに発生するひずみが合口の対向部に発生するひずみより大きくなる領域において、該シールリングの厚みを合口の対向部の厚みよりも薄くする。
【選択図】 図3

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、オートマチックトランスミッション(AT)、無段変速機(CVT)などの油圧機構部に使用される射出成形による樹脂製シールリングに関し、特に相手軸への組み込み性に優れた外径 20mm 以下の小型シールリングに関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、AT、CVTなどでは作動油を密封するためのオイルシールリングとして、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂などに、炭素繊維などの補強材や、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂などの固体潤滑材を配合した材料をリング状に射出成形したものが多用されている。このようなオイルシールリングは、リングの一部がカットされて合口部が設けられており、通常樹脂を注入するゲート部は均一な射出成形体を得るためリングの中央部にあたる合口部の対向部(主に内径面)に設けられている。回転軸への組み込み時には、この合口同士を冶具を用いて拡張して装着される。
【0003】
樹脂製シールリングを相手軸へ組み付ける装着方法を図4により説明する。
樹脂製シールリング1aは、テーパー治具4を用いて相手軸5に組み付けられる。樹脂製シールリング1aの組み付けは、テーパー治具4の小径側4aから樹脂製シールリング1aを大径側4bまで挿入し、テーパー治具4を相手軸5に嵌挿し、その後に樹脂製シールリング1aを相手軸5のシールリング設置溝6にテーパー治具4の大径側4bから落とし込む方法でなされる。
【0004】
装着の際、強度的に弱いゲート部からシールリングが破損するおそれがある。特に近年は油圧機構の小型化に伴いシールリングが小型化する傾向にあるため、比較的柔軟な素材を用いても破損しやすくなっている。従来、この問題を解決する手段として、樹脂をカット箇所の一方の端部近傍から注入するもの(特許文献1参照)、また、ゲート位置をカット箇所のリング上での対向位置からずらした位置に設け折損し難くする方法(特許文献2参照)などが開示されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平8−233110号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献2】
特許第3299419号公報 (特許請求の範囲)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の方法では、ゲート位置からリング両端のカットされている合口部までの流動長およびその体積が同一でないため、流動長の短い方に樹脂の充填を合せると、流動長の長い側で充填不足が生じ、逆に流動長の長い側に合せると、短い側が過充填となりバリが発生しやすいという問題がある。
また、特許文献2のように、回転軸に装着の際の破損を回避する手段として、最大歪みの発生する合口対向部からずらした位置にゲート部を設けたリング状物を成形した後に、合口部を機械加工により作成する方法もあるが、この場合シールリング内に最も強度の劣るウェルド部を有することになる。このようなシールリングは、特にシールリングの外径がφ20mm 以下の場合、回転軸への組み込みの際に受ける衝撃により、ウェルド部から破損しやすくなる場合がある。
【0007】
本発明はこのような問題に対処するためになされたもので、シールリングにウェルド部を有さず、回転軸への組み込みの際に受ける衝撃による破損も防ぐことができる樹脂製シールリングの提供を目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1の樹脂製シールリングは、相互に対向する合口を有する矩形断面の樹脂製シールリングであって、上記合口および該合口対向部の3点支持の状態で、シールリングの内径を押し広げるとき、該シールリングに発生するひずみが上記合口対向部に発生するひずみより大きくなる領域において、該シールリングの外径を保持して、その厚みを合口対向部の厚みよりも薄くすることを特徴とする。
【0009】
請求項2の樹脂製シールリングは、相互に対向する合口を有する矩形断面の樹脂製シールリングであって、上記相互に対向する合口同士が衝合した合口部を角度 180 度、上記合口対向部を角度 0 度とした場合、該シールリングの外径を保持して、角度 0 度をこえて 165 度以下の範囲において、所定の領域のシールリングの厚みを合口対向部の厚みよりも薄くすることを特徴とする。
また、上記所定の領域が角度 5〜90 度であることを特徴とする。
また、上記シールリングの厚みが薄くなる領域の中心角が角度 20 度以上 130度以下であることを特徴とする。
【0010】
上記シールリングの厚みが薄くなる領域は、合口対向部または該合口の厚みの 60〜95 %の厚みであることを特徴とする。
また、そのシールリングの厚みが薄くなる領域が合口対向部を中心にして左右対称に設けられていることを特徴とする。
【0011】
テーパー治具を用いて、一定肉厚のシールリングの内径を押し広げながら相手軸に組み付ける場合に該樹脂製シールリングに発生するひずみ量を有限要素法を用いて構造解析した。その結果、テーパー治具を用いると、樹脂製シールリングは2個の合口および該合口対向部の3点にてテーパー治具の外周面に支持される状態となり、そのとき発生するひずみは、通常ゲート部となる合口対向部よりもひずみの大きい領域が存在することが分かった。そのため、このひずみが大きくなる領域の厚みをゲート部の厚みよりも薄くすることにより、この薄肉とした部分で押し広げられることになる。そのため、シールリング中央部に設けたゲート部からの折損を防ぐことが可能となることが分かった。
【0012】
また、構造解析の結果を基に実験した結果、相互に対向する合口が衝合したシールリングの合口部を角度 180 度、合口対向部(ゲート部)を角度 0 度とした場合、該角度 0 度をこえて 165 度以下の範囲、好ましくは角度 5〜90 度において、より好ましくは角度 5〜50 度において、または、中心角が角度 20 度以上 130 度以下において、所定の領域のシールリングの厚みを合口対向部の厚みよりも薄くすることにより、シールリング中央部に設けたゲート部からの折損を防ぐことができることが分かった。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0013】
また本発明では、シールリングの外径を保持して薄肉化を行なうため、すなわち、シールリングの内径拡大により厚みを薄くするため、シール性を低下させることがない。また、実際に薄肉部に発生する歪量が減少するので、結果として内径拡張量を大きくすることが可能である。
さらに薄肉部を設けたことにより、拡張時にシールリングに蓄えられるエネルギーが小さくなるため、相手軸組み込み時の衝撃力も小さくなるので衝撃割れも防ぐことができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
テーパー治具を用いて、厚みおよび幅が全円周にわたって変化しないシールリングの内径を押し広げた状態を図1に示す。図1(a)は直径方向の断面図を、図1(b)はB−B断面図をそれぞれ示す。シールリング1aは合口2a、2bおよびゲートとなる該合口対向部3によりテーパー治具4の円周上に3点支持されている。また、シールリング1aは断面矩形の厚みtおよび幅wが全円周にわたってそれぞれ同一である樹脂製シールリングである。
図1における合口2aと2bとが 2mm 開いた状態でのシールリングに発生するひずみの大きさを有限要素法を用いて、シールリング幅wが 1.4mm、1.5mm および 1.6mm の3水準で構造解析した。その結果を図2に示す。
【0015】
図2の横軸は、図1において、合口2a、2bを衝合させたときの合口部2の角度を 180 度、その合口対向部3を角度 0 度と設定した。
ひずみの発生は角度 180 度でのひずみ 0 から徐々に増大し、約 50〜60 度でピーク値を示し、角度 0 に向かって減少する。ひずみ発生のこの傾向はシールリング幅wを変化させても略同一であった。
【0016】
本発明は、この結果を基に、シールリングに発生するひずみが合口部の対向部(ゲート部;角度 0 度)に発生するひずみより大きくなる領域において、該シールリングの厚みを合口対向部の厚みtよりも薄くする。このように設定することで、テーパー治具を用いてシールリングの内径を押し広げた場合、厚みの薄い部分で内径が主に押し広げられることになり、リング中央部に設けたゲート部からの折損を防ぐことが可能となる。
【0017】
本発明の樹脂製シールリングの一例を図3を参照して説明する。図3(a)はシールリングの平面図を、図3(b)はA−A断面図をそれぞれ示す。
シールリング1は、相互に対向する合口2a、2bとからなる合口部2を有するリング状で、その断面は厚みtおよび幅wを有する矩形である。合口対向部3に樹脂の注入口となるゲートが形成されている。シールリング1の厚みtは、円周に沿って厚い部分tと、これより薄い部分tとからなる。厚い部分tは合口部2および合口対向部3の厚みと同じ厚みである。シールリング1の外径Rは、厚みtおよび厚みtの部分においても同一である。このため、薄い部分tは内径部分を削り取る形状で薄く形成される。この厚みtが形成される領域は、シールリング1の合口部2の角度を 180 度、この合口対向部3の角度を 0 度としたとき、角度 0 度をこえて 165 度以下の範囲、好ましくは角度 5〜90 度である。射出成形するときのゲート径は 0.5mm 以上の場合が多いので、ゲート部の厚肉部の円周幅vを保持するために好ましくは角度 5 度以上である。また、角度 165 度をこえると相手軸への支持が困難となる。
【0018】
ゲート部の厚肉部の円周幅vは狭いほどシールリングの組み付け時の破損を抑えることができる。このため、角度βは 30 度以下が好ましい。 30 度をこえると、ゲート部からの破損防止が十分でなくなる。なお、ゲート径の存在により角度βは 5 度以上が好ましい。
【0019】
上記角度の範囲内において、シールリングの厚みが薄くなる領域は、その中心角αが角度 20 度以上 130 度以下である。中心角αを上記範囲外にすると、軸とシールリングの位置関係を固定できないおそれがあるため、シリンダーに対して軸が偏芯するおそれがある。
【0020】
図3に示す、樹脂製シールリングにおいて、シールリングの厚みtを対向部3の厚みよりも薄くする角度の好ましい例としては、角度βが 5〜30 度、中心角αが 20 度以上 85 度以下が挙げられる。
【0021】
上記シールリングの厚みが薄くなる領域は、合口対向部または該合口部の厚みの 60〜95 %の厚みである。60 %未満の厚みにすると、シールリング面と、軸のリング溝との接触部における接触面圧の増大から異常摩擦を起こすおそれがある。また、形状上オイルシール性を損なう場合もある。
【0022】
シールリングの厚みが薄くなる領域は合口対向部を中心にして左右対称に設けられる。なお厚みの変化は、ステップ状に変化しても、連続的に変化してもよい。厚みの調整は、シールリングの外径側でなく内径側で行なう。外径側で肉厚調整を行なった場合はオイルシール性を維持できないため使用できなくなる。 シールリングの厚みが薄くなる領域の形成は、射出成形による成形でも、または一定肉厚の従来のシールリングから機械加工によって行なわれてもよい。
なお、シールリング合口部の形状はストレートカット、ステップカットなどを採用できるが、オイルシール性能に優れるステップカットが好ましい。
【0023】
射出成形による場合、ゲート位置は、成形体の中央にあたる合口対向部またはその近傍に設ける。このことにより射出成形時に樹脂の充填アンバランスが生じないため、多数個取りが可能になるなど生産性に優れるため特に好ましい。
またゲート位置を内径側に設けた場合、後加工を不要にできることからより好ましい。
ゲート形式はサイドゲートなどを採用できるが、後加工などを不要にできるピンゲートやサブマリンゲートが好ましい。
【0024】
本発明は様々なサイズのシールリングに適用可能であるが、特に回転軸への組み込み時に破損が発生しやすい外径φ20mm 以下のシールリングに適用した場合に有効である。なぜならば内径がφ20mm をこえるようなシールリングでは、組み込み時に合口対向部に発生するひずみが比較的小さいため、特に破損の問題は発生しないからである。
【0025】
本発明に用いる樹脂材料は、使用温度において耐熱性と十分な機械的強度を有するものであればよく、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂などのポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、熱可塑性ポリイミド(TPI)樹脂などのポリイミド樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂などの芳香族系ポリエステル樹脂、46ナイロン、9Tナイロンなどのポリアミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂などのポリシアノアリールエーテル樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂やPEEK樹脂などの芳香族ポリエーテルケトン系樹脂などが挙げられる、これらの混合物、例えばPPS樹脂とPAI樹脂のポリマーアロイやPEEK樹脂とポリベンゾイミダゾール樹脂の複合樹脂なども用いることができる。
これらの中で最も好ましいものとしてはPEEK樹脂、PEK樹脂、TPI樹脂が挙げられる。
【0026】
また、必要に応じて上記樹脂材料に、炭素繊維(CF)やガラス繊維などの繊維状補強材、球状シリカや球状炭素などの球状充填材、マイカやタルクなどの鱗状補強材、チタン酸カリウムウィスカなどの微小繊維補強材を配合でき、また、PTFE樹脂、グラファイト、二硫化モリブデンなどの固体潤滑材、さらにはリン酸カルシウム、硫酸カルシウムなどの摺動補強材も配合できる。これらは単独で配合することも、組み合せて配合することもできる。
【0027】
【実施例】
実施例1〜実施例4、比較例1〜比較例4
PEEK樹脂(Victrex社製PEEK150P)70 重量%に、炭素繊維(CF)(東邦レーヨン社製HTA−CMF−0160−0H)を 15 重量%、喜多村社製PTFEKTL−610を 15 重量%配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合後、二軸混練によりペレット化した射出成形用樹脂を原料として用いた。
表1に示す形状に加工した金型を用いて射出成形により図3に示す薄肉部を左右対称に有する形状のシールリングを得た。なお、各実施例および各比較例に用いたゲート径は 0.6mm である。
【0028】
長さ30cm、小径側直径 11mm、大径側直径 17.5mmのテーパー状冶具を用いた内径拡張量測定にて、得られたシールリングの評価を行なった。評価測定はシールリングを小径側から挿入し、シールリングが破断または亀裂発生した時点での内径寸法とした。また、実際の量産組み込み工程においても外径15mmのシールリングでは、15.3mm程度以上拡張しないものは組み込めない場合が多いため、合否判定としては、内径拡張径が 15.5mm 以上に達したものを○、達しなかったものを×とした。結果を表1に示す。なお、表1において、通常部厚みとは図3におけるtを、薄肉部厚みとは図3におけるtをそれぞれ表す。
【0029】
【表1】
Figure 2004353760
表1に示すように、各実施例は、シールリングの内径を押し広げて 15.5mm に達しても破断しなかった。
【発明の効果】
本発明の樹脂製シールリングは、シールリングの内径を押し広げるとき、該シールリングに発生するひずみをゲート部に発生するひずみより大きくなる領域において、該シールリングの厚みを薄くするので、回転軸への組み込み工程における破損を防ぐことができる。特にシールリングの外径がφ20mm 以下の場合であっても破損を防ぐことができるので組み込み工程の生産性を向上できる。
また、ゲート部を合口対向部に設けることができ、かつゲート部から左右対称形状に設計できるので、成形時に樹脂充填のアンバランスが発生せず、またウェルド部が発生しないため、シールリングの品質および生産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】シールリングの内径を押し広げた状態を示す図である。
【図2】シールリングに発生するひずみの大きさを表す図である。
【図3】樹脂製シールリングの一例を示す図である。
【図4】シールリングを相手軸へ組み付ける装着方法を示す図である。
【符号の説明】
1 シールリング
2 合口部
3 合口対向部
4 テーパー治具

Claims (6)

  1. 相互に対向する合口を有する矩形断面の樹脂製シールリングであって、
    前記合口および該合口対向部の3点支持の状態で、前記シールリングの内径を押し広げるとき、該シールリングに発生するひずみが前記合口対向部に発生するひずみより大きくなる領域において、該シールリングの外径を保持して、その厚みを前記合口対向部の厚みよりも薄くすることを特徴とする樹脂製シールリング。
  2. 相互に対向する合口を有する矩形断面の樹脂製シールリングであって、
    前記相互に対向する合口同士が衝合した合口部を角度 180 度、前記合口対向部を角度 0 度とした場合、該シールリングの外径を保持して、角度 0 度をこえて 165 度以下の範囲において、所定の領域のシールリングの厚みを前記合口対向部の厚みよりも薄くすることを特徴とする樹脂製シールリング。
  3. 前記所定の領域が角度 5〜90 度の範囲にあることを特徴とする請求項2記載の樹脂製シールリング。
  4. 前記シールリングの厚みが薄くなる領域の中心角が角度 20 度以上 130 度以下であることを特徴とする請求項2記載の樹脂製シールリング。
  5. 前記シールリングの厚みが薄くなる領域は、前記合口対向部または前記合口部の厚みの 60〜95 %の厚みであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の樹脂製シールリング。
  6. 前記シールリングの厚みが薄くなる領域は前記合口対向部を中心にして左右対称に設けられていることを特徴とする請求項5記載の樹脂製シールリング。
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