JP2004301191A - 車両用摩擦クラッチ - Google Patents

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Abstract

【課題】プレッシャプレートから規制装置のピンが突出する場合にピンの移動を規制し、ダイアフラムスプリングのオーバーアジャストを防止する。
【解決手段】フライホイール2に固定されるカバー7に、プレッシャプレート6が支持され、プレッシャプレート6押圧力を付与して摩擦プレート3をフライホイール2に摩擦係合させるダイアフラムスプリング5と、摩擦プレート3の摩耗量を補償する調整装置10と、プレッシャプレート6から突出し一方向のみに移動する規制ピン24を有しプレッシャプレート6の軸方向の移動量を規制する規制装置16とを備えた車両用摩擦クラッチ1において、規制ピン24の一端がカバー7により移動規制されるストッパリング40を設け、ストッパリング40をカバー7とダイアフラムスプリング5との間に着脱自在に配設した。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、摩擦プレートの摩耗量を補償する調整装置を備えた車両用摩擦クラッチに関するものであり、特に、車両用摩擦クラッチをフライホイールに組付け、更にクラッチカバーを取り付けるまでの調整装置の有するピンの位置を所定位置にて規制する車両用摩擦クラッチの着脱自在の移動規制部材に係わる。
【0002】
【従来の技術】
従来、車両用摩擦クラッチは、エンジンと変速機との間に配設され、エンジンから変速機への動力伝達系を接続したり、遮断したりする摩擦クラッチが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
ここに示される車両用摩擦クラッチは、エンジン側のクランクシャフトに固定されたフライホイールに対して、外径にリング状の摩擦プレートを備えたクラッチディスクが対向配置されている。摩擦プレートはダイアフラムスプリングによって付勢力をプレッシャプレートに対して与え、プレッシャプレートにより押圧される。例えば、ダイアフラムスプリングの中央の内周部が外力により押圧されていない状態(例えば、クラッチペダルの操作力が作用していない状態)においては、変速機に接続された摩擦プレートとフライホイールとの係合が確立してクラッチ接続状態となり、フライホイールの回転(回転トルク)がクラッチディスクを介して、変速機の入力軸に伝達する。一方、ダイアフラムスプリングの中央の内周部が外力により押圧されている状態(例えば、クラッチペダルの操作力が作用している状態)では、変速機に接続された摩擦プレートとフライホイールとの係合が絶たれクラッチ開放(クラッチ遮断)状態となり、フライホイールの回転(回転トルク)がクラッチディスクを介して、変速機の入力軸に伝達されない状態となる。
【0004】
この様に、クラッチディスクの接続/遮断の操作が繰り返し行われると、摩擦プレートが摩耗する。これに伴ってダイアフラムスプリングのプレッシャプレート側への押圧点の位置が軸方向に変化することにより、初期状態に比べてダイアフラムスプリングの姿勢変化が発生し、これが原因でクラッチディスクの摩擦プレートの経年変化により、クラッチを操作する操作位置が変化してしまう。この為、この問題点を解決するためにダイアフラムスプリングのプレッシャプレート側への押圧点の位置が常に一定となる様、くさび部を共に有した一対のリングを備えた調整装置、及び、摩耗量に応じて一方向のみに移動するピンを有する規制装置が付加されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−336544号公報(第1頁、図1)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記した車両用摩擦クラッチにおいて、フライホイールに対してリング状の摩擦プレートを備えたクラッチディスクを取り付け、更に、カバーに一体でプレッシャプレート、ダイアフラムスプリング(押圧部材)、調整装置および規制装置等を備えたクラッチカバーが取り付けられる。
【0007】
この場合において、一方向(カバー側)のみに移動するピンを用いて、摩擦クラッチの摩耗量を補償する際、プレッシャプレートの端面からピンが軸方向に突出し、ピンがカバ一方向に移動自在な状態であると、次の様な問題が生じる。
【0008】
つまり、クラッチカバーをフライホイールに対して取り付けられる前において、特に、クラッチカバーを搬送時や組付け時に、プレッシャプレートから一方向に移動自在となるピンが突出している為、作業者はピンを触ってしまうことが起こりやすい。そこで、作業者はピンをカバー側に移動させてしまうと、ピンが所望の位置からずれてしまう。例えば、ピンはプレッシャプレートを軸方向において貫通し、プレッシャプレート内にフライホイール側がカバー側に比べて小径となったテーパ面を有する中空スリーブ上にボールを介して配設される構成であると、フライホイール側にはボールが入り込んでピンの移動が規制されるが、その反対方向の力にはテーパ面に沿ってボールが移動するので、ピンはカバー側のみに移動するワンウェイ構造となる。
【0009】
従って、プレッシャプレートからカバー側に外力が作用して、ピンをカバー側に移動させてしまった場合には、カバー側に移動してしまったピンは簡単には戻せないものとなってしまう。それ故に、この様にピンが所望の位置よりカバー側に移動した状態でフライホイールに固定されると、ダイアフラムスプリングのばね性を有する内周部はクラッチディスクの軸と垂直になる状態ではなく、クラッチディスク側に入り込んだ状態(オーバーアジャスト状態)となってしまうことから、ダイアフラムスプリングの不具合が生じ、カバー側へのピンのずれを防止する必要が発生する。
【0010】
よって、本発明は上記した問題点に鑑みてなされたものであり、押圧部材の不具合を防止すること、プレッシャプレートから規制装置のピンが突出する場合にピンの移動を規制し、押圧部材のオーバーアジャストを防止することを技術的課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記した課題を解決するために講じた第1の技術的手段は、エンジン側のフライホイールに対向した摩擦プレートを備えたクラッチディスクと、前記フライホイールに固定されたカバーと、該カバーと前記摩擦プレートとの間に配設されて軸方向に移動自在なプレッシャプレートと、該プレッシャプレートに押圧力を付与して前記摩擦プレートを前記フライホイールに摩擦係合させる押圧部材と、該押圧部材と前記プレッシャプレートとの間に配設されて前記摩擦プレートの摩耗量を補償する調整装置と、前記プレッシャプレートから突出し一方向のみに移動するピンを有し前記プレッシャプレートの軸方向の移動量を規制する規制装置とを備えた車両用摩擦クラッチにおいて、前記ピンの一端が前記カバーにより移動規制される移動規制部材を、前記カバーと前記押圧部材との間に着脱自在に配設したことである。
【0012】
上記した手段によれば、ピンの一端がカバーにより移動規制される移動規制部材を、カバーと押圧部材との間に着脱自在に配設したことにより、搬送時や作業時に移動規制部材を取り付ける場合、作業者等がプレッシャプレートから突出するピンを触ってもピンがカバー側に当たって軸方向には移動しない様、移動規制部材によりピンの一端をカバー側に当接させて軸方向の移動を規制することにより、ピンのカバー側への入り込みを防止することが可能となる。車両用摩擦クラッチのフライホイールへの組付け後に、移動規制部材をカバーから外せば、押圧部材のオーバーアジャストを防止することが可能である。
【0013】
また、上記した課題を解決するために講じた第2の技術的手段は、エンジン側のフライホイールに対向した摩擦プレートを備えたクラッチディスクと、前記フライホイールに固定されたカバーと、該カバーと前記摩擦プレートとの間に配設されて軸方向に移動自在なプレッシャプレートと、該プレッシャプレートに押圧力を付与して前記摩擦プレートを前記フライホイールに摩擦係合させる押圧部材と、該押圧部材と前記プレッシャプレートとの間に配設されて前記摩擦プレートの摩耗量を補償する調整装置と、前記プレッシャプレートの軸方向の移動量を規制する規制装置とを備えた車両用摩擦クラッチにおいて、前記規制装置の移動が規制される移動規制部材を、前記カバーと前記押圧部材との間に着脱自在に配設したことである。
【0014】
上記した手段によれば、規制装置の移動が規制される移動規制部材を、カバーと押圧部材との間に着脱自在に配設したことにより、プレッシャプレートの軸方向の移動量を規制する規制部材の移動が移動規制部材により規制されるので、移動規制部材がカバーと押圧部材との間に配設されている状態では、押圧部材の不具合(例えば、押圧部材にダイアフラムスプリングを使用する場合には、ばね部の不揃い等)が移動規制部材による規制装置の規制によって防止される。
【0015】
この場合、カバーの内径端部に、外側に開口した係止部が周方向に形成され、係止部に移動規制部材が配設される構成とすれば、移動規制部材はカバーの内径端部の外側に開口した複数の周方向に形成された係止部によって係止されるが、移動規制部材が嵌着される係止部は外側に開口しているので移動規制部材を脱着する際、移動規制部材の脱着が容易となる。
【0016】
また、移動規制部材は、径方向に伸縮自在なスプリングであり、係止部に嵌着されると、カバーの内径端部の周方向に形成された複数の係止部に対し、スプリングを径方向に撓ませて容易に脱着させることが可能となる。
【0017】
更に、移動規制部材は、略C字状のスプリングであり、周方向の端部にレバーを有すればレバーにより略C字状のスプリングを撓ませ、移動規制部材をカバーに対して容易に脱着させることが可能である。
【0018】
更にその上、移動規制部材には径を保持させる保持部が設けられ、係止部に対して移動規制部材を嵌着した場合、保持部がレバー部に当接し、移動規制部材の径が確実に保持され、移動規制部材の係止部からの外れを防止することが可能である。
【0019】
一方、移動規制部材を前記係止部から外す場合には、保持部をレバーに対して相対移動させれば、移動規制部材は径が縮小するので、保持部をレバーに対して相対移動させる簡単な操作によって、係止部から移動規制部材を簡単に外すことが可能である。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、車両用摩擦クラッチ1のクラッチカバー20に本発明の移動規制部材(以下、ストッパリングと称す)40を嵌着させた状態を示した正面図であり、図2はストッパリング40をクラッチカバー20に嵌着させた状態で車両用摩擦クラッチ1の径方向の断面図、図3は図2に示す状態からストッパリング40を外した状態での断面図である。そこで、まず、車両用摩擦クラッチ1の構成について、図3を参照して説明する。
【0022】
エンジン側のクランクシャフト19にフライホイール2が固定され、フライホイール2に対向して、円盤状のクラッチディスク4が配設されている。クラッチディスク4は、図示しない変速機側のシャフトにつながれ、外径には環状の摩擦プレート3を有する。摩擦プレート3にはプレッシャプレート6が対向して配設されており、プレッシャプレート6の軸方向の移動により摩擦プレート3がフライホイール2との間で挟まれて摩擦係合する構成となっており、プレッシャプレート6により押圧された場合には、フライホイール2の回転(回転トルク)をクラッチディスク4に伝達させ、エンジン側の回転が変速機に伝達される。尚、図3に示す状態は、クラッチ接続状態を示す。
【0023】
プレッシャプレート6には、プレッシャプレート6の軸方向に配設された押圧部材であるダイアフラムスプリング5により押圧力が与えられる構成となっている。ダイアフラムスプリング5は、径方向途中の支点8を介してカバー7に支持され、プレッシャプレート6は、ダイアフラムスプリング5によりフライホイール側に押し付けられる。ダイアフラムスプリング5は周囲がばね部9となっており、ダイアフラムスプリング5による押圧力は、調整装置10を介して、プレッシャプレート6に作用する。
【0024】
調整装置10は、一対のリング状の調整部材12、13と、その調整部材12、13に対して周方向の付勢力を与えて、調整部材12,13を軸方向に拡張させる付勢部材である調整スプリング14で構成されている。調整部材12、13は、調整スプリング14によって互いに相対移動が可能な状態で、クラッチディスク4と同軸に配設される。調整部材12、13は、図5に示す様にそれぞれ周方向において複数の傾斜面28,29を有し、傾斜面28,29は互いに当接している。傾斜面28,29によってくさび部11が当接面に形成されており、このくさび部11が調整スプリング14の付勢力によって周方向にずらされることにより、調整部材12,13を線方向に拡張させることができる。
【0025】
カバー側の調整部材12はリング状を呈すると共に、その径方向に延在した延出部21を有している。この延出部21とカバー7の開口との間には、すきまs2が形成されている。調整部材12のカバー側の端部は、ダイアフラムスプリング5と当接する押圧点15となる。
【0026】
一方、プレッシャプレート側の調整部材13は、開口部27が形成されたC字リング状を呈する。組み付け前の調整部材13は、径が若干大きめ(開口部27がより開いた状態)で成形されており、押し縮められて、調整部材13の径方向外側の外面が、プレッシャプレート6の軸方向に形成された内壁17に当接する様、組み付けられる。即ち、調整部材12,13に軸方向の押圧力が付与されていないときに、調整スプリング14 の付勢力による調整部材12,13のそれぞれに対して相対的に回転が妨げられない程度の弱い力が内壁17に付与されている。また、カバー7の回転時には、調整部材13は遠心力によって内壁17に径方向外側に押し付けられ、調整部材12、13に軸方向の押圧力が付与されていないときでも、調整スプリング14の付勢力による調整部材12,13の相対的な回転を妨げることが可能な摩擦力が発生するようになっている。
【0027】
ダイアフラムスプリング5によるプレッシャプレート6への押圧力が解放されたときのプレッシャプレート6の外側(図3において右側)への戻りは、図4に示すカバー7とプレッシャプレート6との間にリベット22により保持されたストラップ23により行われる。
【0028】
調整スプリング14の付勢力による調整部材12,13が軸方向に拡張させられる力は、ダイアフラムスプリング5の付勢力やストラップ23の付勢力よりも小さくなるよう、調整スプリング14の付勢力や傾斜面28,29の傾きが設定されている。
【0029】
図3に示す構成において、カバー7とフライホイール2との間には、プレッシャプレート6の軸方向の動きを規制する規制装置16が周方向において3ヶ所に設けられている。規制装置16は、摩擦プレート3の摩耗量を補償するものであり、規制ピン(ピン)24とワンウェイ部材30を有する。
【0030】
規制ピン24は、図3に示すクラッチ接続状態で、一端がフライホイール2に接し、他端がカバー7に設けられたストッパ38に対して、すきまs1を残す形でプレッシャプレート6を貫通してプレッシャプレート6に対して一方向のみに摺動自在に支持され、ワンウェイ部材30の働きにより、移動方向の動きが規制されている。即ち、プレッシャプレート6のフライホイール2側への移動に関しては、規制ピン24がカバー側に突出するようプレッシャプレート6に対してワンウェイ部材30が許容して摺動するが、その逆方向の動きはワンウェイ部材30により規制するようになっている。尚、クラッチの接続状態では、すきまs1とすきまs2とが同寸法となるように設定される。
【0031】
規制装置16について、詳細に説明すると、ワンウェイ部材30は、プレッシャプレート6を貫通する規制ピン24の周囲に設けられ、カバー側に対向するプレッシャプレート6の側面に形成された凹部(周方向に3箇所)の円柱状の溝に、中空スリーブ31が配設される。中空スリーブ31の内周面は円錐状(テーパ状)となっており、カバー側では大径となりフライホイール側で小径で形成されている。この中空スリーブ31の中央に軸方向から規制ピン24が配設されており、規制ピン24の外周面と中空スリーブ31のテーパ状となった内周面との間には周方向に3つのボール32が配設されている。ボール32は硬度が硬い硬球から成りたっている。また、ボール34とカバー7との間には軸方向に付勢力を与える付勢装置33が配設され、ボール34は常時フライホイール2側へと付勢される。
【0032】
中空スリーブ31の内周面は、ボール受け円弧状溝34がボール32の数に対応した数だけ設けられており、溝34は中空スリーブ31 の内周面の軸方向に同じ深さで延在し、ボール32の動きを案内するようにボール径以上の径を持っている。また、規制ピン24の外周面にも、ボール受け円弧状溝35がボール32の数だけ設けられており、溝35も溝34と同様にボール径以上の径の円弧面となっている。この溝35は、規制ピン24の軸線方向に、プレッシャプレート6と規制ピン24との間の面の一部迄延在し、プレッシャプレート6の外部までは延在していない。これは、ボール32の案内をすると共に、規制ピン24に対して応力集中を避ける機能と、摩耗粉の入り込みを防止する機能を有する。
【0033】
付勢装置33は、コイルスプリング36とフランジを有する座金37とから構成される。座金37は軸方向からボール32に当接し、座金37はカバー7の側面に一端を当接させているコイルスプリング36の他端を受け、プレッシャプレート側に取り付けられている。これによって、コイルスプリング36の付勢力をボール32へと伝達し、ボール32を規制ピン24の外周面と中空スリーブ31の内周面との間に押し込んでいる。
【0034】
このコイルスプリング36の付勢力と、中空スリーブ31のテーパ状の内周面は、規制ピン24のフライホイール側への動きに対しは、ボール32と中空スリーブ31との接触部の摩擦力およびボール32と規制ピン24との接触部の摩擦力を増大させてその動きを規制すると共に、カバー側への動きに対しはその摩擦力を減少させて、プレッシャプレート6に対して規制ピン24の軸方向の動きを許容する。即ち、摩擦プレート3が摩耗すると、摩擦プレート3の摩耗量相当分だけ、プレッシャプレート6をフライホイール側へと移動させるが、この場合、摩擦プレート3に摩耗が生じても、規制ピン24の移動により摩擦プレート3の摩耗には追従するが、フライホイール2に対するプレッシャプレート6の軸方向(レリーズ時の方向)の動き量を規制し、調整部材12,13が互いに相対回転することで傾斜面28,29の傾き高さが変化する。これにより調整部材12,13は軸方向に拡張され、押圧点15が常に一定となることから、ダイアフラムスプリング5の姿勢は常に一定の状態となる。この場合、ボール32の規制ピン24の外周面への食い込み又はその外周面からの遊離方向への荷重の変化により得られる。
【0035】
以上、説明した様に、ワンウェイ機能を有する規制ピン24がプレッシャプレート6から軸方向に突出した状態のものをフライホール2に対して組付けられる場合、つまり、上記したプレッシャプレート6、ダイアフラムスプリング5、カバー7、調整装置10および規制装置16がサブアッシー化されて一体となったクラッチカバー20をフライホイール2に組付ける場合、サブアッシー化されたクラッチカバー20を作業者は組付けラインまで搬送し、組付けラインでフライホイール2に組み付ける作業を行う。この様に、規制ピン24が突出したクラッチカバー20をフライホイール2に組付けるまでは、規制ピン24を作業者が触れ易くなる。この場合、規制ピン24に触れ、規制ピン24をカバー側に押し込んでしまった場合には、所望の位置で規制ピン24を配置させることができなくなる。この為、フライホイール2に組付ける前までは、図1に示す様に、ストッパリング40をクラッチカバー20の一部品であるカバー7に嵌着させることにより、規制ピン24のカバー側への移動を規制する。
【0036】
即ち、カバー7は、図1に示す如く、内径に波状の係止部45を周方向に少なくとも1つ以上(例えば、図1では11個)有し、係止部45の端部46は外側へと広がっている。
【0037】
この係止部45に嵌るストッパリング40は、図1に示す様、カバー7の係止部45に嵌められるが、係止部45に嵌着されていない状態(嵌着前の状態)では、図6に示す形状を呈する。即ち、ストッパリング40は1本のばね材より成る、ストッパ機能を有するリングであり、円弧面42から内側に突出した対のレバー部41を有し、対のレバー部41が円弧部42によりつながっている。レバー部41は円弧部42を含む面に対して、図7に示す如く一方の側(図1では紙面手前)に突出し、作業者が操作し易い略ロ字状に形成されている。また、ストッパリング40は、図6に示す左側のレバー部41から右側のレバー部41に向かって円弧部42と同径の円弧状の延在部43が延在し、レバー部41が周方向に押し縮められ、レバー部間の距離が縮められた場合、一方のレバー部41の根元(レバー部41と円弧部42との間)の当接部48に延在部43が当接する。ストッパリング40は、保持部44と当接部48とが当接した場合には所定径を保持できる。尚、この場合、レバー部41間にねじり力を付与してストッパリング40の径を縮めた場合には、延在部43は円弧部42と重なる状態となる。ストッパリング40は、この様に対のレバー部41の距離を周方向に押し縮めることにより、ストッパリング40の周方向の大きさを保持部44が当接部48に当接する状態まで押し縮められるか、若しくは、レバー部41間にねじり力を付与してストッパリング40の径を縮めた場合に延在部43が円弧部42と重なる状態まで押し縮めた状態からレバー部41間の操作力を開放すると、ストッパリング40の復元力によりストッパリング40は周方向に拡張しようとするが、ストッパリング40の復元力とダイアスプリング40の付勢力とによって両者のバランスがとれ、保持部44が当接部48に当接した状態となって、周方向に形成された複数の係止部45に係止され、カバー7とダイアフラムスプリング5との間に嵌る。この様に、ストッパリング40が係止部45に嵌着される場合に、係止部45の端部46を外側(図2に示す右側)に広げているので、ストッパリング40が係止部45に対して嵌め易い状態を作っている。
【0038】
ストッパリング40が係止部45に装着されて嵌着された状態では、図2に示す如く、規制ピン24のカバー側の端部はカバー7に固定されるストッパ38により規制される。この状態ではダイアフラムスプリング5は調整部材12により押圧されてレリーズ状態となる。しかし、規制ピン24のカバー側への移動はストッパリング40の嵌着によって、規制ピン24の端部をストッパ38に当接させることで、規制ピン24の移動が規制される。この為、クラッチカバー20の搬送時やフライホイール2への組付け時等において、規制ピン24がカバー側に押し込まれることを防止することができる。
【0039】
従って、図1に示す状態のクラッチカバー20をフライホイール2に対して組付けを行った後、ストッパリング40の保持部44をレバー部41の一方の根元の当接部48からずらし、保持部44を当接部48に対して相対移動させることにより、ダイアフラムスプリング5の復帰力も付加され、ストッパリング40は径が係止部45の径よりも小さく縮小されると共に周方向にも押し縮められ、係止部45から外し易くなる。この様な状態でストッパリング40を係止部45から外すと、図3に示す様、クラッチ接続状態となる。よって、クラッチカバー20を組み付け時に規制ピン24がカバー側に移動して、調整装置10の不具合となるオーバーアジャスト状態となることを防止することができる。
【0040】
この様な方法を採用することにより、以下に示す別の効果も奏する。即ち、フライホイール2への組付け時にはダイアフラムスプリング5の荷重負荷がなくいなるので、カバー7の変形を防止することができ、ダイアフラムスプリング5の内径部の不揃い悪化を防止することができ、ジャダーの発生を防止することもできる。
【0041】
次に、摩擦プレート3の摩耗量における補償について説明する。摩擦プレート3の摩擦によりプレッシャプレート6がフライホイール2側の該摩耗量相当だけ移動した後に、カバー7の回転が停止しているときにクラッチが切られると、ダイアフラムスプリング5の内周部がフライホイール2側に押圧されてダイアフラムスプリング5の押圧力は解放され、ストラップ23の付勢力によりプレッシャプレート6はフライホイール2から離間する方向へ移動する。この場合、すきまs2は摩耗量相当だけすきまs1より大きくなっているため、延出部21がカバー7に当接する前に、規制ピン24がストッパ38に当接し、プレッシャプレート6の移動が止まる。このとき、延出部21とカバー7との間に摩耗量相当分のすきまが残っている。この状態で更にクラッチの解放方向にダイアフラムスプリング5が変位させられると、ダイアフラムスプリング5が調整部材12から離れる方向に変位するため、調整部材12,13には軸線方向の拘束力がかからなくなる。従って、調整スプリング14の付勢力が調整部材12,13に有効に作用し、そのくさび部11は周方向にずらされて調整部材12,13が軸方向に拡大させられる。調整部材12の軸方向の動きは、その延出部21がカバー7 に当接した時点で止まる。その結果、プレッシャプレート6、調整部材12 、13の合計の軸線方向寸法は、初期の寸法に対し摩耗量相当分だけ増加し、ダイアフラムスプリング5のプレッシャプレート6 への押圧点15の位置を一定に保つことができる。つまり、クラッチ接続時にダイアフラムスプリング5が調整部材12を押圧している押圧点15の軸方向の位置を実質的に不変とすることができる。
【0042】
【発明の効果】
本発明によれば、ピンの一端がカバーにより移動規制される移動規制部材を、カバーと押圧部材との間に着脱自在に配設したことにより、搬送時や作業時には、作業者がプレッシャプレートから突出するピンを触ってもピンがカバー側に当たって軸方向には移動せず、ピンのカバー側への入り込みを防止することができる。搬送時等に移動規制部材を係止部に取り付けるだけで、ダイアフラムスプリングのオーバーアジャストを防止することができる。
【0043】
また、規制装置の移動が規制される移動規制部材を、カバーと押圧部材との間に着脱自在に配設したことにより、プレッシャプレートの軸方向の移動量を規制する規制部材の移動が移動規制部材により規制される。このため、移動規制部材がカバーと押圧部材との間に配設されている状態では、押圧部材の不具合を移動規制部材による規制装置の規制によって防止することができる。
【0044】
この場合、カバーの内径端部に、外側に開口した係止部が周方向に形成され、係止部に移動規制部材が配設される構成とすれば、移動規制部材の脱着が容易にできる。
【0045】
また、移動規制部材は、径方向に伸縮自在なスプリングであり、係止部に嵌着されると、カバーの内径端部の周方向に形成された複数の係止部に対し、スプリングを径方向に撓ませて容易に脱着させることができる。
【0046】
更に、移動規制部材は、略C字状のスプリングであり、周方向の端部にレバーを有すればレバーにより略C字状のスプリングを撓ませ、移動規制部材をカバーに対して容易に脱着させることができる。
【0047】
更にその上、移動規制部材には径を保持させる保持部が設けられ、係止部に対して移動規制部材を嵌着した場合、保持部がレバー部に当接し、移動規制部材の径が確実に保持され、移動規制部材の係止部からの外れを防止することができる。
【0048】
一方、移動規制部材を前記係止部から外す場合には、保持部をレバーに対して相対移動させれば、移動規制部材は径が縮小するので、保持部をレバーに対して相対移動させる簡単な操作によって、係止部から移動規制部材を簡単に外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態における車両用摩擦クラッチに状態保持部材を嵌めた状態での車両用摩擦クラッチの正面図である。
【図2】図1に示す車両用摩擦クラッチの径方向断面図である。
【図3】図1に示す車両用摩擦クラッチから状態保持部材を外し、クラッチを接続状態にした場合の状態を示した車両用摩擦クラッチの径方向断面図である。
【図4】図1に示す調整装置の構成を説明するための要所部分拡大図である。
【図5】図1に示す調整装置の形状を示した調整装置の要所部分拡大図である。
【図6】図1に示す移動規制部材の形状を示した正面図である。
【図7】図6に示すレバー部の形状を示した要所部分拡大図である。
【符号の説明】
1 車両用摩擦クラッチ
2 フライホイール
3 摩擦プレート
4 クラッチディスク
5 ダイアフラムスプリング(押圧部材)
6 プレッシャプレート
7 カバー
10 調整装置
16 規制装置
20 クラッチカバー
24 規制ピン(ピン)
40 ストッパリング(移動規制部材)
41 レバー部(レバー)
42 円弧部
43 延在部
44 保持部
45 係止部
48 当接部

Claims (7)

  1. エンジン側のフライホイールに対向した摩擦プレートを備えたクラッチディスクと、前記フライホイールに固定されたカバーと、該カバーと前記摩擦プレートとの間に配設されて軸方向に移動自在なプレッシャプレートと、該プレッシャプレートに押圧力を付与して前記摩擦プレートを前記フライホイールに摩擦係合させる押圧部材と、該押圧部材と前記プレッシャプレートとの間に配設されて前記摩擦プレートの摩耗量を補償する調整装置と、前記プレッシャプレートから突出して一方向のみに移動するピンを有し前記プレッシャプレートの軸方向の移動量を規制する規制装置とを備えた車両用摩擦クラッチにおいて、
    前記ピンの一端が前記カバーにより移動規制される移動規制部材を、前記カバーと前記押圧部材との間に着脱自在に配設したことを特徴とする車両用摩擦クラッチ。
  2. エンジン側のフライホイールに対向した摩擦プレートを備えたクラッチディスクと、前記フライホイールに固定されたカバーと、該カバーと前記摩擦プレートとの間に配設されて軸方向に移動自在なプレッシャプレートと、該プレッシャプレートに押圧力を付与して前記摩擦プレートを前記フライホイールに摩擦係合させる押圧部材と、該押圧部材と前記プレッシャプレートとの間に配設されて前記摩擦プレートの摩耗量を補償する調整装置と、前記プレッシャプレートの軸方向の移動量を規制する規制装置とを備えた車両用摩擦クラッチにおいて、
    前記規制装置の移動が規制される移動規制部材を、前記カバーと前記押圧部材との間に着脱自在に配設したことを特徴とする車両用摩擦クラッチ。
  3. 前記カバーの内径端部に、外側に開口した係止部が周方向に形成され、該係止部に前記移動規制部材が配設されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用摩擦クラッチ。
  4. 前記移動規制部材は、径方向に伸縮自在なスプリングであり、前記係止部に嵌着されることを特徴とする請求項3に記載の車両用摩擦クラッチ。
  5. 前記移動規制部材は、略C字状のスプリングであり、周方向の端部にレバーを有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用摩擦クラッチ。
  6. 前記移動規制部材には径を保持させる保持部が設けられ、前記係止部に対して前記移動規制部材を嵌着した場合、前記保持部が前記レバー部に当接し、前記移動規制部材の径が保持されることを特徴とする請求項4に記載の車両用摩擦クラッチ。
  7. 前記移動規制部材を前記係止部から外す場合、前記保持部を前記レバーに対して相対移動させることにより、前記移動規制部材は径が縮小することを特徴とする請求項4に記載の車両用摩擦クラッチ。
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