JP2004292435A - キシリレンジアミンの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ジシアノベンゼン化合物の水素化反応によりキシリレンジアミンを製造するに際し、未反応ジシアノベンゼン化合物の残存や中間体シアノベンジルアミンの生成を低めつつ、収率よくキシリレンジアミンを合成し、さらに特別な精製処理を行うことなく簡便な方法でシアノベンジルアミン含量の少ない高純度キシリレンジアミンを効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】触媒の存在下、ニトリル転化率が90mol%以上99.9mol%未満の範囲となるまで水素化反応を進行させる工程(a)、および工程(a)より10℃以上高い反応温度でニトリル転化率が工程(a)の転化率よりも高く、かつ、99.5mol%以上となるまで水素化反応を進行させる工程(b)、の2つの工程を有することを特徴とするキシリレンジアミンの製造方法。
【選択図】 無

Description

本発明は、ジシアノベンゼン化合物の連続的2段階水素化反応によりキシリレンジアミンを製造する方法に関する。
ジシアノベンゼン化合物を触媒の存在下で水素化して対応するキシリレンジアミンを製造する方法はよく知られている。例えば、ジシアノベンゼン化合物をアルコール類中で微量の苛性アルカリ剤と共にラネーニッケルやラネーコバルトを用い、オートクレーブによる回分水素化反応を行い対応するジアミンを得ることが開示されている(特許文献1参照。)。また、ジシアノベンゼン化合物をアルカリまたはアルカリ土類金属の水酸化物またはアルコラートとラネーニッケルまたはラネーコバルト触媒の存在下、低級アルコールと環式炭化水素との混合溶媒中でオートクレーブによる回分水素化反応により対応するジアミンを得ることが開示されている(特許文献2参照。)。また、イソジシアノベンゼン化合物をRh-Co系触媒によりメタノール、アンモニア溶媒中でオートクレーブによる回分水素化反応を行い対応するジアミンを得ることが開示されている(特許文献3参照。)。
また、Ni-Cu-Mo系触媒によりジシアノベンゼン化合物を液相下水素で接触還元することが提案されており、固定床方式による連続水素化が例示されている(特許文献4参照。)。また、Rh-Co系触媒の懸濁床方式による触媒を利用したジアミンの製造方法が提案されている(特許文献5参照。)。また、キシリレンジアミンの工業的プロセスを開示しており、原料ニトリルは溶媒および触媒と一緒に水素化反応器に導入されスラリー下で水素化反応が行うことが開示されている(非特許文献1参照。)。
水素化においてキシリレンジアミンを効率よく生成させるためには、ニトリル基のアミノメチル基への水素化反応の進行度合い(ニトリル基の転化率)を高め、未反応のジシアノベンゼン化合物の残存や片方のニトリル基のみが水素化された中間体であるシアノベンジルアミンの生成を少なくする必要がある。またシアノベンジルアミンは一般に対応するキシリレンジアミンとの沸点差が小さく通常の蒸留による分離が困難であるため、水素化反応後に得られる液組成物中のシアノベンジルアミン濃度が低い方が好ましい。よってキシリレンジアミンを効率よく生産するにあたっては、水素化においてキシリレンジアミンを効率よく生成させ、さらにキシリレンジアミンの精製を容易にするために、ニトリル基の転化率を高めて水素化反応後におけるシアノベンジルアミンの濃度を低めるのが好ましい。
ニトリル基の転化率を高める一つの方法として触媒との接触時間を長くとる方法が挙げられるが、これはすなわち固定床反応においては、通液量は一定のまま反応器サイズを大きくとり大量の触媒を使用することを意味し、また回分反応においては反応時間を長く設定することを意味する。このような方法は触媒の使用効率が悪く、反応器や触媒のコストの増大や生産能力の低下を招くので、工業生産において得策とはいい難い。
ニトリル基の転化率を高めるもう一つの方法として反応温度を高く設定する方法が挙げられ、反応温度を高めることでジシアノベンゼン化合物の残存やシアノベンジルアミンの生成を抑制することができる。しかし反応温度が高いとしばしば脱アミノ反応や縮合反応等の好ましくない副反応が増加し収率が低下する問題がある。
すなわち従来の方法ではジシアノベンゼン化合物の水素化に際して、触媒の使用効率や収率を損なわずにシアノベンジルアミンの生成を十分に抑制することは困難であった。よって工業的にジシアノベンゼン化合物の水素化を実施する場合、シアノベンジルアミン生成を完全に抑制するのは実質的に不可能であり、シアノベンジルアミン含量の低い高純度キシリレンジアミンを得るためには、ジシアノベンゼン化合物の水素化で得られたキシリレンジアミンからアルカリ剤を用いた処理(特許文献6参照。)や鉄系触媒を用いた処理(特許文献7参照。)などの特別な方法によって蒸留分離困難なシアノベンジルアミンを除去した後、さらに蒸留するという複数の精製工程が必要となっているのが実情であった。
近年、特にイソシアネート原料としての用途において、シアノベンジルアミン含量が少ない高純度のキシリレンジアミンが求められている。このような用途においてはシアノベンジルアミン含量が0.02wt%以下の高純度キシリレンジアミンが要求されるので、シアノベンジルアミン含量の低い高純度キシリレンジアミンを工業的に有利に製造する方法が求められている。
特公昭38−8719号公報 特開昭54−41804号公報 特開平6−121929号公報 特公昭53−20969号公報 特開昭56−83451号公報 特公昭45−14777号公報 特開昭57−27098号公報 「プロセスハンドブック」、石油学会、1978年
以上述べたように、ジシアノベンゼン化合物の水素化反応によりキシリレンジアミンを製造するに際して、触媒の使用効率や収率を損なわずにシアノベンジルアミンの生成を十分に抑制することは困難であった。そのため特にシアノベンジルアミン含量の低い高純度キシリレンジアミンを製造するためには、シアノベンジルアミン除去のための特別な処理を行ったあとにさらに蒸留するという複数の精製工程が必要であった。
従って、本発明の目的はジシアノベンゼン化合物の水素化反応によりキシリレンジアミンを製造するに際し、上記課題を解決して未反応ジシアノベンゼン化合物の残存や中間体シアノベンジルアミンの生成を低めつつ、収率よくキシリレンジアミンを合成し、さらに特別な精製処理を行うことなく簡便な方法でシアノベンジルアミン含量の少ない高純度キシリレンジアミンを効率よく製造する方法を提供することである。
本発明者らはキシリレンジアミンの製造方法について鋭意検討した結果、水素化反応が行われる工程として条件の異なる2つの工程を設け、かつ2つの工程におけるニトリル基の転化率を特定の範囲に制御することによって上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
即ち本発明は、触媒の存在下、ジシアノベンゼン化合物の水素化によりキシリレンジアミンを製造する方法であって、ニトリル転化率が90mol%以上99.9mol%未満の範囲となるまで水素化反応を進行させる工程(a)、および工程(a)より10℃以上高い反応温度でニトリル転化率が、工程(a)の転化率よりも高く、かつ、99.5mol%以上となるまで水素化反応を進行させる工程(b)、の2つの工程を有することを特徴とするキシリレンジアミンの製造方法である。
本発明によればジシアノベンゼン化合物の水素化によりキシリレンジアミンを製造するに際して、未反応ジシアノベンゼン化合物の残存や中間体シアノベンジルアミンの生成を低めつつ、収率よくキシリレンジアミンを合成することが出来る。さらに特別な精製処理を行うことなく簡便な方法でシアノベンジルアミン含量の少ない高純度キシリレンジアミンを効率よく製造することが可能となる。よって本発明の工業的意義は大きい。
以下、本発明を具体的に説明する。本発明におけるジシアノベンゼン化合物とはベンゼン環にニトリル基が2個置換しているものを指し、例えばイソフタロニトリル、テレフタロニトリル等が挙げられる。またニトリル基の他にフッ素、塩素などのハロゲン原子、メチル基、エチル基等のアルキル基、またはメトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基が置換している化合物、例えば2−クロロテレフタロニトリル、5−メチルイソフタロニトリル、4−メチルイソフタロニトリルなども使用することができる。これらを水素化反応させることにより対応するキシリレンジアミンが得られる。これらの中でもイソフタロニトリルとテレフタロニトリルが本発明に適している。またこれらのジシアノベンゼン化合物から2種類以上を選択して同時に反応させることもできる。
本発明では、工程(a)および(b)の水素化反応を液相条件下で行い、その際、反応溶媒を用いることが好ましい。反応溶媒としては水素化反応条件下で安定な種々の溶媒を使用することができる。具体的にはトルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の低級脂肪族アミド系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、アンモニア等が挙げられる。またこれらの溶媒から2種類以上を選択して併用してもよい。アンモニアを用いることで収率を高めることができるため、溶媒の一部にアンモニアを選択するのが好ましい。工程(a)および(b)での溶媒の使用量は、工程(a)で初期に仕込まれたジシアノベンゼン化合物1重量部に対して、好ましくは1〜99重量部、より好ましくは2〜99重量部、特に好ましくは5〜99重量部である。
ジシアノベンゼン化合物の水素化反応に用いられる水素は反応に関与しない不純物、例えばメタン、窒素等を含んでいても良いが、不純物濃度が高いと必要な水素分圧を確保するために反応全圧を高める必要があり工業的に不利となるため、水素濃度は50mol%以上が好ましい。工程(a)および(b)での水素化反応の水素圧力は水素化温度において、好ましくは0.5〜30MPa、より好ましくは1〜20MPaである。
工程(a)および(b)の水素化で使用する触媒としては、公知の担持および非担持金属触媒、ラネー触媒等が使用できるが、活性金属成分としてニッケル、コバルト、パラジウム、ルテニウムおよびロジウムからなる群より選ばれた一種以上の金属を含有する触媒が好ましく、中でもニッケルおよび/またはコバルト含有触媒が好適に用いられ、ニッケル含有触媒が特に好ましい。担持触媒の場合使用される担体としては、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア等が挙げられる。触媒は必要に応じてLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Ca、Ba、Ti、Cu、Cr、Zn、Mn、Mg、Fe、Ga、Ge、Nb、Ir、Pt、Bi、Al、Si、In、Sr、CeおよびMoからなる群より選ばれた一種以上の成分を添加してもよい。
工程(a)および(b)での触媒の使用量は、触媒の種類や反応条件によって異なるが、懸濁床式水素化の場合、原料ジシアノベンゼン化合物初期仕込み量100重量部に対して好ましくは0.1〜200重量部、より好ましくは0.2〜100重量部である。固定床式水素化の場合の触媒の使用量は、工程(a)においては、原料ジシアノベンゼン化合物の供給速度1重量部/時間に対して、好ましくは0.1〜10000重量部、より好ましくは0.2〜5000重量部である。工程(b)における触媒の使用量は、工程(a)における原料ジシアノベンゼン化合物の供給速度1重量部/時間に対して好ましくは0.1〜5000重量部、より好ましくは0.2〜2000重量部である。
また、本発明においては、水素化反応に際し、反応促進や収率向上等の目的で添加剤を加えてもよい。添加剤としては、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物やアルコラート等が挙げられ、具体的には水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
本発明においてはニトリル転化率が90mol%以上99.9mol%未満の範囲となるまで水素化反応を進行させる工程(a)、および工程(a)より10℃以上高い反応温度でニトリル転化率が99.5mol%以上となるまで水素化反応を進行させる工程(b)、の2つの工程を設ける。ニトリル転化率とは原料中のニトリル基総数に対する消費ニトリル基総数の割合を指し、式(1)によって定義される。
ニトリル転化率(%)=((供給ジシアノベンゼン化合物モル数×2)−(残存ジシアノベンゼン化合物モル数×2)−(生成シアノベンジルアミンモル数))/(供給ジシアノベンゼン化合物モル数×2)×100 …(1)
工程(a)においてニトリル転化率が90mol%以上99.9mol%未満の範囲、好ましくは90〜99.5mol%の範囲となるまで水素化反応を進行させる。工程(a)の反応温度は、触媒、反応溶媒や原料ジシアノベンゼン化合物の種類によるが、高温による好ましくない副反応を回避するよう適当な温度を選択する。好ましくは、20〜200℃、より好ましくは20〜180℃、特に好ましくは30〜160℃である。
工程(b)においては工程(a)よりも10℃以上高い反応温度で、ニトリル転化率が工程(a)の転化率よりも高くなるまで水素化反応を進行させる。工程(b)で到達すべき転化率は、99.5mol%以上、好ましくは99.9mol%以上、さらに好ましくは99.99mol%以上である。工程(b)においては、最高、99.9995mol%の転化率を達成することも可能である。尚、工程(a)の反応温度が前記範囲内で変動する場合、工程(b)の反応温度は、工程(a)においてニトリル転化率が90mol%に達するまでの反応温度の最高値と最低値の中間値よりも10℃以上高い温度に設定する。工程(b)の反応温度は、触媒、反応溶媒や原料ジシアノベンゼン化合物の種類にもよるが、好ましくは80〜250℃、より好ましくは80〜200℃、特に好ましくは80〜180℃の範囲から選ばれる。
工程(a)においてニトリル転化率が90mol%以上99.9mol%未満の範囲となるまで水素化反応を進行させた後、反応温度が高い工程(b)で水素化反応を更に進行させることにより、反応温度の高さに起因する好ましくない副反応が工程(a)において起こるのを抑制することができ、かつ工程(b)においてニトリル転化が十分に進んで未反応ジシアノベンゼン化合物の残存や中間体シアノベンジルアミンの生成を低めることが可能となる。本発明者らの検討によれば、驚くべきことに、工程(a)よりも高い反応温度で実施されるにもかかわらず、工程(b)においては反応温度の高さに起因する好ましくない副反応はほとんど起こらず、水素化反応を工程(a)および工程(b)の2段階の工程で行うことで良好な収率と十分なニトリル転化の両方が同時に達成されることがわかった。
工程(b)を設けずに工程(a)のみで反応を行う場合、反応温度が低い場合には所定のニトリル転化率を得るためには長い接触時間が必要となり効率が悪く、反応温度が高い場合には副反応が増大してキシリレンジアミン収率の低下を招く。
水素化反応の形式は固定床、懸濁床のいずれも可能であり、また回分式、連続式の何れの方式も可能であるが、固定床連続流通式が簡便であり好ましい。採用する水素化反応の形式によって、工程(a)と工程(b)の実施の形態は種々考えられ、たとえば以下(1)〜(3)に示すような形態が例示される。
(1)懸濁床回分式反応においてニトリル転化率が90mol%以上99.9mol%未満の範囲となるまで水素化反応を進行させ(工程(a))、さらにそのまま反応器を加熱して10℃以上高い温度に設定してニトリル転化率が99.5mol%以上となるまで水素化反応を進行させる(工程(b))形態。
(2)懸濁床または固定床連続流通式反応において2基の反応器を使用し、1基目の反応器でニトリル転化率が90mol%以上99.9mol%未満の範囲となるまで水素化反応を進行させ(工程(a))、さらに2基目の反応器に導いて1基目の反応器より10℃以上高い温度に設定してニトリル転化率が99.5mol%以上となるまで水素化反応を進行させる(工程(b))形態。
(3)固定床連続流通式反応において1基の反応器内に温度分布を持たせて、ニトリル転化率が90mol%以上99.9mol%未満となるまで反応を進行させる領域(工程(a))と、この領域よりも10℃以上高い反応温度でニトリル転化率が99.5mol%以上となるまで水素化反応を進行させる領域(工程(b))を設ける形態。
工程(a)と工程(b)の温度差形成は、工程(a)と工程(b)の間、あるいは工程(b)に公知の熱交換設備を設置することで容易に可能である。また、発熱反応であるジシアノベンゼン化合物の水素化反応の反応熱を工程(a)と工程(b)の温度差形成に適宜利用することも可能である。すなわち工程(a)においてはニトリル転化率が90mol%以上となるまで水素化反応を進行させるので反応熱が発生する。この反応熱は除熱されなければ結果として工程(a)後の反応混合物の温度を上げることにつながるので、工程(a)と工程(b)の温度差形成に利用することが可能であり、この場合エネルギー消費量や熱交換設備の面から有利になりうる。発生する反応熱量は、反応液の量、単位量の反応液中に含有されるニトリル基の量および単位量ニトリル基あたりの水素化反応熱から算出することができる。
本発明によって未反応ジシアノベンゼン化合物の残存や中間体シアノベンジルアミンの生成を低めつつ、収率よくキシリレンジアミンを製造することが可能となり、工程(b)後のキシリレンジアミンに対するシアノベンジルアミンのモル比が0.01以下、さらに適当な条件を選択すれば0.002以下、特に適当な条件を選択すれば0.0002以下のシアノベンジルアミン含量の少ないキシリレンジアミンを得ることが可能であり、最小で0.00001(ガスクロマトフィーでの通常の検出限界)にまで下げることも可能である。工程(b)後のキシリレンジアミンに対するシアノベンジルアミンのモル比を低めるためには工程(b)における反応条件選択が重要であり、特に工程(b)における反応温度や触媒との接触時間を調整することで工程(b)後のキシリレンジアミンに対するシアノベンジルアミンのモル比を低めることができる。従来の方法ではジシアノベンゼン化合物の水素化に際して、触媒の使用効率や収率を損なわずにシアノベンジルアミンの生成を十分に抑制することは困難であり、特にキシリレンジアミンに対するシアノベンジルアミンのモル比を0.0002以下と極めて低くするのは実質的に不可能であった。本発明によれば触媒の使用効率や収率を損なわずにキシリレンジアミンに対するシアノベンジルアミンのモル比を極めて低くすることが可能である。
工程(b)後の反応後組成物からガス成分を除去した液成分を適当な精製手段により精製することでキシリレンジアミンが回収され、この際に工程(b)後のキシリレンジアミンに対するシアノベンジルアミンのモル比が0.01以下であればキシリレンジアミンの精製が比較的容易である。求められるキシリレンジアミン品質に応じて適当な精製手段が選択されるが、通常は蒸留による精製が適している。シアノベンジルアミンはキシリレンジアミンと蒸留分離が困難であるので、特にシアノベンジルアミン含量の低い高純度キシリレンジアミンを得る場合は、所望する品質(シアノベンジルアミン含量の上限)に応じて、工程(b)後のキシリレンジアミンに対するシアノベンジルアミンのモル比を低くする必要がある。本発明によれば、工程(b)後のキシリレンジアミンに対するシアノベンジルアミンのモル比を0.0002以下とすることも可能であり、蒸留精製だけの簡便な精製プロセスでシアノベンジルアミン含量が0.02wt%以下、好ましくは0.001〜0.01wt%の高純度キシリレンジアミンを回収することも可能である。このような高純度キシリレンジアミンはイソシアネート原料など、微量のシアノベンジルアミンの存在が問題となるような用途においても好適に使用可能である。
シアノベンジルアミンの除去のために、前述したアルカリ剤を用いた処理(例えば、特許文献6)や鉄系触媒を用いた処理(例えば、特許文献7)などの特別な処理を併用することも可能である。
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。但し本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
<実施例1>
<触媒調製>
硝酸ニッケル6水和物Ni(NO3)2・6H2O 305.0g、硝酸銅3水和物Cu(NO3)2・3H2O 6.5gおよび硝酸クロム9水和物Cr(NO3)3・9H2O 7.1gを40℃の純水1kgに溶解し、さらに珪藻土29.6gをこの水溶液に懸濁させながら40℃で撹拌した。この溶液に、炭酸ナトリウムNa2CO3 128.6gを40℃の純水1kgに溶解した水溶液をよく撹拌しながら注加して沈殿スラリーを調製した。このスラリーを80℃まで昇温し、30分同温度で保持した。こうして得られた沈殿スラリーを濾過洗浄し、沈殿物を得た。この沈殿物を110℃で15h乾燥し、380℃で18時間空気雰囲気下で焼成した。この焼成粉に3重量%相当のグラファイトを混合し、3.0mmφ×2.5mmに打錠成形した。この成型品を水素気流中400℃で還元した。還元後の成型品を希薄酸素ガス(酸素/窒素=1/99(体積比))流通下、室温〜40℃以下の温度で15h酸化処理して安定化させた。さらに成形品を破砕して12〜28meshに粒度を揃えた破砕触媒を得た。これを触媒Aとした。
<水素化反応試験>
反応器として内径10mm管状反応管二機を縦に接続した上節(工程(a))と下節(工程(b))の二節の触媒層を有する固定床反応器を使用した。反応温度制御用のヒーターをそれぞれの節ごとに設置し、二節の反応温度を独立して制御できるようにした。上節下節二機の反応管に触媒Aを5gずつ充填した(それぞれ充填高さ65mm)。触媒を水素気流下200℃で還元して活性化させた後、イソフタロニトリル(IPNと称す)、メタキシレン(MXと称す)、アンモニア(NH3と称す)の混合液で、組成がIPN:MX:NH3=10:10:80(重量比)である水素化原料液と水素ガスを、反応管上方から供給しながら、反応圧力12MPa上節の反応温度70℃、下節の反応温度110℃で水素化反応を行った。上節出口でのニトリル転化率が90mol%以上99.9mol%未満、下節出口でのニトリル転化率が上節出口よりも高く、かつ、99.5mol%以上になるように、水素化原料液は60g/hの速度で、水素ガスは20Nl/hの速度で供給した。上節出口、および下節出口から採取した反応液をガスクロマトグラフィーで分析した。上節出口においては、ニトリル転化率が91.6mol%、イソフタロニトリルの残存率は0.3mol%、メタキシリレンジアミン収率は76.0mol%、3−シアノベンジルアミンの収率は16.3mol%であり、下節出口においては、ニトリル転化率が99.995mol%、イソフタロニトリルの残存率は0.0mol%、メタキシリレンジアミン収率は91.3mol%、3−シアノベンジルアミンの収率は0.01mol%であった。
<キシリレンジアミンの回収>
反応器出口組成物からガス成分を除去した液成分を徐々に減圧してアンモニアが除去された粗キシリレンジアミン液を得た。この液をガラス製フラスコに仕込み減圧下回分蒸留を実施した。10kPaでメタキシレンを留去した後、1kPaで蒸留を行い、主留にメタキシリレンジアミンを得た。このメタキシリレンジアミンの純度は99.9wt%以上、3−シアノベンジルアミンの濃度は0.01wt%以下であった。
<実施例2>
上節の反応温度を80℃、下節の反応温度を110℃に設定する以外は実施例1とおなじ方法で水素化反応を実施した。上節出口、および下節出口から採取した反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、上節出口におけるイソフタロニトリルの残存率は0.0mol%、メタキシリレンジアミン収率は91.5mol%、3−シアノベンジルアミンの収率は0.9mol%(ニトリル転化率99.55mol%)であり、下節出口におけるイソフタロニトリルの残存率は0.0mol%、メタキシリレンジアミン収率は92.4mol%、3−シアノベンジルアミンの収率は0.004mol%(ニトリル転化率99.99mol%以上)であった。
<比較例1>
<水素化反応試験>
上節および下節の反応温度をともに70℃に設定する以外は実施例1とおなじ方法で水素化反応を実施した。上節出口、および下節出口から採取した反応液をガスクロマトグラフィーで分析した。上節出口におけるイソフタロニトリルの残存率は0.3mol%、メタキシリレンジアミン収率は73.2mol%、3−シアノベンジルアミンの収率は18.4mol%(ニトリル転化率90.5mol%)であり、下節出口におけるイソフタロニトリルの残存率は0.0mol%、メタキシリレンジアミン収率は89.9mol%、3−シアノベンジルアミンの収率は1.3mol%(ニトリル転化率99.4mol%)であった。
<キシリレンジアミンの回収>
実施例1と同様の方法で反応器出口組成物からガス成分およびアンモニアを除去して得られた粗キシリレンジアミン液の蒸留を実施したが、得られたキシリレンジアミンには1wt%以上のシアノベンジルアミンが含有されていた。そこで、粗キシリレンジアミン液に水酸化ナトリウムおよび水を添加して180℃で3時間熱処理を施した後、蒸留したところシアノベンジルアミン含量0.01wt%以下のキシリレンジアミンが得られた。シアノベンジルアミン含量の低いキシリレンジアミンを得るためには蒸留のほかに特別な精製工程が必要であった。
<比較例2>
上節および下節の反応温度をともに110℃に設定する以外は実施例1とおなじ方法で水素化反応を実施した。上節出口、および下節出口から採取した反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、上節出口におけるイソフタロニトリルの残存率は0.0mol%、メタキシリレンジアミン収率は89.7mol%、3−シアノベンジルアミンの収率は0.01mol%(ニトリル転化率99.9mol%)であり、下節出口におけるイソフタロニトリルの残存率は0.0mol%、メタキシリレンジアミン収率は89.2mol%、3−シアノベンジルアミンの収率は0.00mol%(ニトリル転化率99.995mol%)であった。
<実施例3>
<水素化反応試験>
容量1Lの電磁攪拌式オートクレーブにラネーニッケル触媒(川研ファインケミカル社製 NDHT)を4g仕込み、さらにテレフタロニトリル60g、MX60g、メタノール120gを仕込んだ後にオートクレーブの内部を窒素で置換した。さらにオートクレーブにNH3を120g導入し、オートクレーブを80℃に加熱した。オートクレーブに水素を導入し8MPaG,80℃の条件で反応を行った。反応開始後、反応液を一定の時間間隔で採取しガスクロマトグラフィーで分析した。反応開始から3時間後、ニトリル転化率が97.9mol%に達した。このときのテレフタロニトリルの残存率は0.0mol%、パラキシリレンジアミン収率は79.0mol%、4−シアノベンジルアミンの収率は4.3mol%であった。反応開始3時間後に反応温度を120℃に設定してさらに反応を1.5時間継続した(合計反応時間4.5時間)。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、ニトリル転化率は99.99mol%、テレフタロニトリルの残存率は0.0mol%、パラキシリレンジアミン収率は83.9mol%、4−シアノベンジルアミンの収率は0.015mol%であった。
<キシリレンジアミンの回収>
オートクレーブを落圧後、得られた反応液からロータリーエバポレーターでMXおよびメタノールを留去した。得られた液を0.5kPaで蒸留し、主留にパラキシリレンジアミンを得た。このパラキシリレンジアミンの純度は99.9wt%以上、4−シアノベンジルアミンの濃度は0.016wt%であった。
<比較例3>
<水素化反応試験>
反応温度80℃のまま6時間反応を継続する以外は実施例3と同様に反応を行った。反応開始から6時間後に反応液を分析したところテレフタロニトリルの残存率は0.0mol%、パラキシリレンジアミン収率は82.2mol%、4−シアノベンジルアミンの収率は0.4mol%であった。実施例3より反応時間が長いにも関わらず4−シアノベンジルアミンが相当量残存していた。
<キシリレンジアミンの回収>
オートクレーブを落圧後、得られた反応液からロータリーエバポレーターでMXおよびメタノールを留去した。得られた液を0.5kPaで蒸留し、主留にパラキシリレンジアミンを得た。このパラキシリレンジアミン中には4−シアノベンジルアミンが0.4wt%含有されていた。
<比較例4>
<水素化反応試験>
反応温度120℃、反応時間を4.5時間とする以外は実施例3と同様に反応を行った。反応液を分析したところ、テレフタロニトリルの残存率は0.0mol%、パラキシリレンジアミン収率は74.2mol%、4−シアノベンジルアミンの収率は0.01mol%であった。
<実施例4>
<水素化反応試験>
容量1Lの電磁攪拌式オートクレーブに380℃で水素還元した、けいそう土担持コバルト触媒(日産ガードラー触媒社製 G−67、コバルト含量56wt%)8gを仕込み、さらにIPN60g、MX60g、メタノール120gを仕込んだ後にオートクレーブの内部を窒素で置換した。さらにオートクレーブにNH3を120g導入し、オートクレーブを95℃に加熱した。オートクレーブに水素を導入し12MPaG,95℃の条件で反応を行った。反応開始から3時間後に反応液の一部を採取してガスクロマトグラフィーで分析したところイソフタロニトリルの残存率は0.0mol%、メタキシリレンジアミン収率は77.5mol%、3−シアノベンジルアミンの収率は8.9mol%(ニトリル転化率95.6mol%)であった。反応開始3時間後に反応温度を130℃に設定してさらに反応を1.5時間継続した(合計反応時間4.5時間)。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、イソフタロニトリルの残存率は0.0mol%、メタキシリレンジアミン収率は86.7mol%、3−シアノベンジルアミンの収率は0.01mol%(ニトリル転化率99.99mol%)であった。
<比較例5>
<水素化反応試験>
反応温度95℃のまま6時間反応を継続する以外は実施例4と同様に反応を行った。反応開始から6時間後に反応液を分析したところイソフタロニトリルの残存率は0.0mol%、メタキシリレンジアミン収率は84.4mol%、3−シアノベンジルアミンの収率は1.1mol%であった。実施例4より反応時間が長いにも関わらずシアノベンジルアミンが相当量残存していた。
<比較例6>
<水素化反応試験>
反応温度130℃、反応時間を4.5時間とする以外は実施例4と同様に反応を行った。反応液を分析したところ、イソフタロニトリルの残存率は0.0mol%、メタキシリレンジアミン収率は81.2mol%、3−シアノベンジルアミンの収率は0.01mol%であった。
本発明で得られるキシリレンジアミンは、樹脂硬化剤、ナイロン、ポリウレタン、ゴム薬品、紙加工剤、繊維処理剤など幅広い工業分野で使用されている有用な化合物である。

Claims (14)

  1. 触媒の存在下、ジシアノベンゼン化合物の水素化によりキシリレンジアミンを製造する方法であって、ニトリル転化率が90mol%以上99.9mol%未満の範囲となるまで水素化反応を進行させる工程(a)、および工程(a)より10℃以上高い反応温度でニトリル転化率が工程(a)の転化率よりも高く、かつ、99.5mol%以上となるまで水素化反応を進行させる工程(b)、の2つの工程を有することを特徴とするキシリレンジアミンの製造方法。
  2. 工程(b)で到達するニトリル転化率が99.9mol%以上であることを特徴とする請求項1に記載のキシリレンジアミンの製造方法。
  3. 工程(b)で到達するニトリル転化率が99.99mol%以上であることを特徴とする請求項1に記載のキシリレンジアミンの製造方法。
  4. 工程(b)後のキシリレンジアミンに対するシアノベンジルアミンのモル比が0.01以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のキシリレンジアミンの製造方法。
  5. 工程(b)後のキシリレンジアミンに対するシアノベンジルアミンのモル比が0.002以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のキシリレンジアミンの製造方法。
  6. 工程(b)後のキシリレンジアミンに対するシアノベンジルアミンのモル比が0.0002以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のキシリレンジアミンの製造方法。
  7. 工程(b)で得られたキシリレンジアミンを精製し、シアノベンジルアミン含量が0.02wt%以下の精製キシリレンジアミンを得る工程をさらに有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のキシリレンジアミンの製造方法。
  8. 工程(b)の反応温度が80〜250℃である請求項1〜7のいずれかに記載のキシリレンジアミンの製造方法。
  9. ジシアノベンゼン化合物の水素化を固定床反応器で行う請求項1〜8のいずれかに記載のキシリレンジアミンの製造方法。
  10. ジシアノベンゼン化合物水素化反応の反応熱を工程(a)と工程(b)の温度差形成に利用することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のキシリレンジアミンの製造方法。
  11. 触媒がニッケルおよび/またはコバルト含有触媒である請求項1〜10のいずれかに記載のキシリレンジアミンの製造方法。
  12. 触媒がニッケル含有触媒である請求項1〜10のいずれかに記載のキシリレンジアミンの製造方法。
  13. ジシアノベンゼン化合物がイソフタロニトリルおよび/またはテレフタロニトリルである請求項1〜12のいずれかに記載のキシリレンジアミンの製造方法。
  14. 反応溶媒の一部にアンモニアを用いることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載のキシリレンジアミンの製造方法。
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