JP2004256743A - 熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、ゲル含有量50〜98質量%、平均粒子径100〜550nmのゴム質重合体40〜80質量%に、シアン化ビニル単量体0〜18質量%と芳香族ビニル単量体とを含む単量体成分20〜60質量%を含浸する含浸工程と、その後、油溶性熱分解系開始剤を用いて、ゴム質重合体にグラフトした単量体成分の質量平均分子量が50000〜200000となるように、ゴム質重合体に単量体成分をグラフト重合させて(A)ゴム補強スチレン系樹脂を製造する重合工程と、(A)ゴム補強スチレン系樹脂1〜50質量%と、(B)ポリカーボネート樹脂30〜94質量%と、(C)耐衝撃性ポリスチレン樹脂5〜60質量%とを配合する配合工程とを有する。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂とを含有する熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリカーボネート樹脂は、優れた耐熱性、耐衝撃性、電気的特性、寸法安定性、透明性、光沢を有していることから、OA機器、自動車部品、電気・電子機器など様々な分野で幅広く用いられている一方で、溶融温度が高く溶融流動性が低いために高い製造コストを要するという問題点を有している。また、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)は、優れた成形加工性、機械的特性バランスにより、OA機器、自動車部品、家電機器などの幅広い分野で用いられている一方で、耐熱性が低いなどの問題点を有している。
かかる両者の問題点を解決し、両者の優れた特性を併せ持つような材料として、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂とのポリマーアロイが知られており(例えば、特許文献1〜3参照)、これまでにも各用途に使用されている。
【0003】
【特許文献1】
特開昭38−15225号公報
【特許文献2】
特開平8−34915号公報
【特許文献3】
特開平11−310694号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂とのポリマーアロイは、成形加工性、機械的特性、耐熱性などには優れるものの、一般にポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂の相容性が乏しいために、低温における衝撃強度やウエルド強度などが低いという問題点があった。特に、近年では、成形体の形状が複雑化しており、射出成形品のウエルド強度については重要視されているため、ウエルド強度が低いと大きな問題になる。また、PC/HIPSなどでは、HIPSの製造方法に由来した高ゴム含有量化、粒子径の制御(特に数μm程度から数百nmへの小粒子径化)ができないことから、組成比の変更、特性の改良にも制限があった。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂とを含有し、耐衝撃性、流動性、成形加工性、光沢に優れ、かつウエルド強度に優れる熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリカーボネート樹脂と耐衝撃性ポリスチレン樹脂とからなる熱可塑性樹脂組成物に対して、特定のゴム補強スチレン系樹脂を特定の割合で添加することにより、ポリカーボネート樹脂と耐衝撃性ポリスチレン樹脂との相容性が向上して、目的とする性能を発揮する熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出し、以下の熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法を発明した。
すなわち、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、ゲル含有量50〜98質量%、平均粒子径100〜550nmのゴム質重合体40〜80質量%に、シアン化ビニル単量体0〜18質量%と芳香族ビニル単量体とを含む単量体成分20〜60質量%を含浸(オクルード)する含浸工程と、
その後、油溶性熱分解系開始剤を用いて、ゴム質重合体にグラフトした単量体成分の質量平均分子量が50000〜200000となるように、ゴム質重合体に単量体成分をグラフト重合させて(A)ゴム補強スチレン系樹脂を製造する重合工程と、
前記(A)ゴム補強スチレン系樹脂1〜50質量%と、(B)ポリカーボネート樹脂30〜94質量%と、(C)耐衝撃性ポリスチレン樹脂5〜60質量%とを配合する配合工程とを有することを特徴としている。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記の製造方法で製造されたものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法を実施の形態により詳細に説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、ゴム質重合体に、シアン化ビニル単量体と芳香族ビニル単量体とを含有する単量体成分を含浸する含浸工程と、
油溶性熱分解系開始剤を添加し、ゴム質重合体に単量体成分をグラフト重合させて(A)ゴム補強スチレン系樹脂を製造する重合工程と、
前記(A)ゴム補強スチレン系樹脂と、(B)ポリカーボネート樹脂と、(C)耐衝撃性ポリスチレン樹脂とを配合する配合工程とを有する。
【0007】
含浸工程において、単量体成分が含浸されるゴム質重合体としては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴム、スチレン−酢酸ビニル共重合体、ジエン系重合体の水素添加ゴムなどを用いることができる。これらの中でも、最終的に得られる熱可塑性樹脂組成物の物性が高くなることから、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴムを用いることが好ましい。
【0008】
ゴム質重合体のゲル含有量は50〜98質量%である。ゴム質重合体のゲル含有量が、50%未満であると、最終的に得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性と成形品の表面外観が悪化し、ゲル含有量が98質量%よりも多いと、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が悪化する。ここでいうゲル含有量とは、粉体状のゴム質重合体をトルエン中に80℃で24時間浸漬した後、200メッシュ金網で濾過した際のトルエン不溶分の質量割合(%)を意味している。
また、ゴム質重合体の平均粒子径は100〜550nm、好ましくは150〜350nmである。平均粒子径が100nm未満であると、耐衝撃性が低下し、一方、550nmを超えると、光沢や耐衝撃性が低下するばかりか、グラフト重合時の重合安定性が低下する。なお、ゴム質重合体の粒子径の分布は単一の分布を有していてもよいし、複数の分布を有していてもよい。
さらに、ゴム質重合体のモルフォロジーとしては、ゴム質重合体が上記粒子径とゲル含有量であれば特に制限はなく、各ゴム粒子が単一の相をなすものであってもよいし、オクルード構造を有するものであってもよい。
【0009】
単量体成分は、シアン化ビニル単量体と芳香族ビニル単量体との混合物であり、シアン化ビニル単量体は単量体成分中の0〜18質量%、好ましくは0.1〜5質量%、更に好ましくは0.1〜3質量%である。シアン化ビニル単量体の含有量がこの範囲から外れると、樹脂改質効果を十分に発揮できない。なお、シアン化ビニル単量体は任意成分であり、(C)耐衝撃性ポリスチレン樹脂の種類によっては、含有しなくてもよい場合がある。
単量体成分中のシアン化ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を用いることができ、これらの1種または2種以上用いることができるが、入手容易であることから、特にアクリロニトリルを用いることが好ましい。
【0010】
また、単量体成分中の芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−,m−もしくはp−メチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン、p−tert−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン等を用いることができ、これらの中でも、入手容易であることから、特にスチレンを用いることが好ましい。これら芳香族ビニル単量体は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0011】
さらに、単量体成分中には、本発明の目的に対して支障のない範囲で、芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体と共重合可能な他の単量体を含有させることができる。他の単量体としては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレートなどのアクリル酸エステル;メチルメタクレート、エチルメタクレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレートなどのメタクリル酸エステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などの不飽和酸無水物;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和酸;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−(p−メチルフェニル)マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのα−またはβ−不飽和ジカルボン酸のイミド化合物(マレイミド系単量体ともいう);グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ化合物;アクリルアミド、メタクリルアミドなどの不飽和カルボン酸アミド;アクリルアミン、メタクリル酸アミノメチル、メタクリル酸アミノエチル、メタクリル酸アミノプロピル、アミノスチレンなどのアミノ基含有不飽和化合物、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水酸基含有不飽和化合物;ビニルオキサゾリンなどのオキサゾリン基含有不飽和化合物などが挙げられる。また、これらの単量体は1種または2種以上で使用される。
【0012】
ゴム質重合体に単量体成分を含浸する際のゴム質重合体の割合は40〜80質量%、好ましくは45〜70質量%である(すなわち、単量体成分の割合は60〜20質量%、好ましくは55〜30質量%である)。このような範囲にすることで、最終的に得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、ウエルド強度を向上させることができる。
【0013】
含浸工程においては、ゴム質重合体の内部に単量体成分を含浸させる際に、含浸温度が40〜80℃であることが好ましく、50〜70℃であることがより好ましい。また、含浸時間については、15〜90分間であることが好ましく、30〜60分間であることがより好ましい。含浸時間が15分より短いと、最終的に得られる熱可塑性樹脂組成物が十分な補強効果を発揮しない可能性があり、90分を超えると、生産性に支障をきたす傾向にある。また、含浸温度が40℃未満の場合、生産性に支障をきたす傾向にあり、80℃を超えると重合安定性が劣る傾向にある。
【0014】
重合工程においては、ゴム質重合体に単量体成分を含浸させた後、油溶性熱分解系開始剤を用いて、グラフト重合を行う。その重合方法としては、公知の付加重合法、例えば、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法、塊状懸濁重合法などの各種方法を採用できるが、特に、重合を容易に制御できることから、乳化重合法が好適である。また、上記の重合は、一段であってもよいし、多段であってもよい。
【0015】
グラフト重合の際に使用される油溶性熱分解系開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイドなどが挙げられる。
油溶性熱分解系開始剤の中でも10時間半減期温度が30〜90℃のものが好ましく、40〜80℃のものがより好ましい。油溶性熱分解系開始剤の10時間半減期温度が30℃では、安全性上問題があり、90℃を超えるものでは、十分な耐衝撃性補強効果が得られない傾向にある。さらに、10時間半減期温度が上記範囲を外れると、実際の生産において支障を来たすことがある上に、質量平均分子量が50000〜200000の(A)ゴム補強スチレン系樹脂を得ることが困難になる。
【0016】
上述した含浸工程および重合工程によって以下の(A)ゴム補強スチレン系樹脂を製造することができる。
[(A)ゴム補強スチレン系樹脂]
(A)ゴム補強スチレン系樹脂は、ゴム質重合体に単量体成分がグラフト重合したグラフト体と、ゴム質重合体にグラフト重合していない単量体成分の重合体からなる未グラフト体とで構成されている。
【0017】
グラフト体において、ゴム質重合体にグラフトした単量体成分の重合体の質量平均分子量が50000〜200000である。質量平均分子量がその範囲から外れた場合には衝撃強度や流動性が低下する。
ゴム質重合体にグラフトした単量体成分の重合体の質量平均分子量を測定するには、まず、(A)ゴム補強スチレン系樹脂をテトラヒドロフラン(以下、THFと略す)中に投入して一晩放置したものを30分間超音波洗浄器にかけて、未グラフト体を完全に溶離させた後、遠心分離機を用いて12,000rpm で1時間遠心分離して不溶分(グラフト体)を得る。次いで、この不溶分をクロロホルム中に分散させ、オゾン分解によりゴムを分解してグラフト鎖を回収してから蒸発乾固し、これをTHFに溶解してTHF溶液を得る。そして、このTHF溶液を試料として用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によってスチレン換算の分子量を測定する。
【0018】
(A)ゴム補強スチレン系樹脂のゴム質重合体の内部には、単量体成分の重合体が内部存在率10〜60質量%の範囲で形成されていることが好ましく、20〜50質量%の範囲で形成されていることがさらに好ましい。内部存在率が10質量%未満であると、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が向上しないことがあり、一方、60質量%を超えると、光沢が低下することがある。ここで、内部存在率とは、ゴム質重合体に対するゴム質重合体内部に位置する単量体成分の重合体量のことであり、下記式(1)で求められる値のことである。なお、ゴム質重合体の内部に位置する単量体成分の重合体は、ゴム質重合体にグラフト結合していなくてもよい。
【0019】
【数1】
【0020】
(A)ゴム補強スチレン系樹脂のグラフト率は10〜200質量%が好ましく、20〜180質量%であることがより好ましく、20〜100質量%であることがさらに好ましく、25〜60質量%であることが特に好ましい。グラフト率が10質量%未満であると衝撃強度が低くなることがあり、200質量%を超えると流動性、光沢が低下することがある。ここで、グラフト率とは、下記式(2)で求められる値のことである。
【0021】
【数2】
【0022】
次に、配合工程において、上述した(A)ゴム補強スチレン系樹脂に配合される(B)ポリカーボネート樹脂および(C)耐衝撃性ポリスチレン樹脂について説明する。
[(B)ポリカーボネート樹脂(PC)]
(B)ポリカーボネート樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、1種以上のビスフェノール類とホスゲン又は炭酸ジエステルとの反応によって製造するものが挙げられる。ビスフェノール類の具体例としては、例えば、ハイドロキノン、4,4−ジヒドロキシフェニル、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−アルカン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロアルカン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−スルフィド、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−エーテル、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−ケトン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−スルホン、あるいはこれらのアルキル置換体、アリール置換体、ハロゲン置換体等が挙げられ、これらは1種又は2種以上組み合わせて用いられる。
ポリカーボネート樹脂の中でも、好ましいものとして、市場で容易に入手できるという点から、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、いわゆるビスフェノールAを原料としたビスフェノールA系ポリカーボネートを挙げることができる。
【0023】
[(C)耐衝撃性ポリスチレン樹脂]
(C)耐衝撃性ポリスチレン樹脂は、芳香族ビニル系重合体よりなるマトリックス中に、ゴム質重合体が粒子状に分散している重合体のことであり、一部の芳香族ビニル系重合体はゴム質重合体にグラフト結合している。このような(C)耐衝撃性ポリスチレン樹脂は、芳香族ビニル単量体にゴム質重合体を溶解または混合し、重合して得られる。
ここで、ゴム質重合体としては、(A)ゴム補強スチレン系樹脂を構成する上記ゴム質重合体と同じものを使用できるが、これらの中でも、樹脂物性に優れることから、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体が好ましい。また、これらのゴム質重合体は、1種または2種以上を使用することができる。
また、芳香族ビニル単量体についても、(A)ゴム補強スチレン系樹脂を構成する上記芳香族ビニル単量体と同じものを使用できるが、これらの中でも、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0024】
(C)耐衝撃性ポリスチレン樹脂において、ゴム質重合体と芳香族ビニル単量体との配合比には特に制限はなく、用途に応じて適宜に配合される。
また、(C)耐衝撃性ポリスチレン樹脂の製造方法としては特に制限はなく、塊状重合法、溶液重合法、塊状懸濁重合法、懸濁重合法、乳化重合法等、従来公知の方法を採用できる。
【0025】
配合工程における(A)〜(C)成分の配合割合については、(A)ゴム補強スチレン系樹脂は1〜50質量%であり、好ましくは5〜45質量%である。上記範囲から外れると目的とする改良効果が十分に発揮されない。
また、(B)ポリカーボネート樹脂は30〜94質量%であり、好ましくは35〜85質量%である。(B)ポリカーボネート樹脂の配合量が30質量%未満であるとウエルド強度を含む耐衝撃性が劣り、一方、94質量%を超えると流動性が低くなる。
さらに、(C)耐衝撃性ポリスチレン樹脂は5〜60質量%であり、好ましくは10〜55質量%である。(C)耐衝撃性ポリスチレン樹脂が5質量%未満であると流動性等の性能が不十分になり、一方、60質量%を超えるとウエルド強度が低くなるほか、衝撃強度が低下する。
【0026】
上記(A)〜(C)成分の他にも、必要に応じて、さらに他の任意成分を配合することもできる。他の任意成分としては、例えば、脂肪族カルボン酸エステル系やパラフィン等の外部滑剤、離型剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードフェノール系の光安定剤、ガラス繊維、難燃剤、着色剤などが挙げられる。任意成分の添加量は、熱可塑性樹脂組成物の特性が維持される範囲であれば、特に制限はない。
【0027】
上記(A)〜(C)成分、さらに必要に応じて添加される各種任意成分を配合する際に用いられる機器としては、例えば、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサーなどが挙げられる。
また、配合工程では、配合した後に溶融混練することもできる。溶融混練に用いられる機器としては、例えば、単軸スクリュー押出機、ニ軸スクリュー押出機、ローラー、ニーダーなどが挙げられる。溶融混練の際の加熱温度は、通常は240〜300℃の範囲で適宜選択される。この熱可塑性樹脂組成物の製造は、回分式又は連続式のいずれでもよく、また各成分の混練順序には特に限定はない。
【0028】
以上のような熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法では、(B)ポリカーボネート樹脂によって耐衝撃性、光沢が向上し、(C)耐衝撃性ポリスチレン樹脂によって成形加工性が高くなる。しかも、(A)ゴム補強スチレン系樹脂によって(B)ポリカーボネート樹脂と(C)耐衝撃性ポリスチレン樹脂との相容性が向上するので、低温における衝撃強度、ウエルド強度が向上する。
【0029】
【実施例】
以下、本発明を実施例および比較例を示してより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中に示される「部」および「%」は断らない限り質量基準である。
また、実施例および比較例における各測定法は次の通りである。
[ゴム質重合体のゲル含有量]
粉体状のゴム質重合体をトルエン中に80℃で24時間浸漬した。その後、200メッシュ金網で濾過し、トルエン不溶分の割合(%)を求めて、これをゲル含有量とした。
[ゴム質重合体の平均粒子径]
含浸前のゴム質重合体の分散粒子の粒径を、ベックマン・コールター社製粒度分布測定装置LS230(レーザー散乱・回折法)を用いて測定した。
【0030】
[質量平均分子量]
(A)ゴム補強スチレン系樹脂をTHF中に投入して一晩放置したものを30分間超音波洗浄器にかけて、未グラフト体を完全に溶離させた後、遠心分離機を用いて12,000rpm で1時間遠心分離して、不溶分(グラフト体)を得た。次いで、この不溶分をクロロホルム中に分散させ、オゾン分解によりゴムを分解してグラフト鎖を回収してから蒸発乾固し、これをTHFに溶解してTHF溶液を得た。そして、このTHF溶液を試料として用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によってスチレン換算の分子量を測定した。
【0031】
[アイゾット(Izod)衝撃強度]
ASTM D256に準じて測定した(ノッチ付き、測定温度23℃および−30℃、試験片厚みは3.2mm)。
[メルトフローレート(MFR)]
JIS K 7210に準じて測定した。その際、測定温度を240℃とし、荷重を10kgとした。MFRの単位はg/10分である。
[光沢]
JIS K 7105に準じて測定した。
[ウエルド強度]
ASTM1号ダンベルの中央にウエルドが形成する金型(2点両側ゲート)にて成形した試験片の引張強度(T1)と、ウエルドが形成しない金型(1点片側ゲート)にて成形した試験片の引張強度(T0)を求め、次式で示されるウエルド強度保持率を算出した。保持率が高いものがウエルド強度に優れることを意味する。なお、引張り試験は、ASTM D−638に準じて測定した。
保持率(%)=(T1/T0)×100
【0032】
(実施例1)
[(A)ゴム補強スチレン系樹脂]
グラフト共重合体(A−1);まず、含浸工程において、オートクレーブに、表1に示す配合量の蒸留水、不飽和脂肪酸ナトリウム、水酸化ナトリウム及びポリブタジエン・ラテックス(ゲル含有量;90%、平均粒子径;290nm)を仕込み、それを60℃に加熱後、スチレン(ST)、アクリロニトリル(AN、単量体成分中の5%)、ターシャリドデシルメルカプタン(t−DM、単量体成分100部に対し0.1部)添加し、60分間放置して含浸(オクルード)させた。その後、重合工程において、油溶性熱分解系開始剤であるベンゾイルパーオキサイド(BPO)を一括添加して重合を始め、70℃に昇温してから1時間保って反応を完結した。かかる反応によって得たABSラテックスに酸化防止剤を添加し、次いで、塩化カルシウムにより凝固させ、その凝固物を十分水洗後、乾燥して、ゴム補強スチレン系樹脂であるグラフト共重合体(A−1)を得た。なお、グラフト重合の条件、ゴム質重合体にグラフトした単量体成分の質量平均分子量について表2に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
[(B)ポリカーボネート樹脂]
ポリカーボネート樹脂として、帝人化成(株)製のパンライトL−1250を用いた。
[(C)耐衝撃性ポリスチレン樹脂]
耐衝撃性ポリスチレン樹脂として、出光石油化学(株)製のHIPS(HT50)を用いた。
【0036】
配合工程において、上述した(A)〜(C)成分を、表2に示す割合で混合し、ニ軸押出し機により溶融混練してペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。得られたペレット状の熱可塑性樹脂組成物を射出成形機(日本製鋼所(株)製J75E−P型)を用いて試験片を作製し、上述した測定法により物性を評価した。各物性値を表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
(実施例2)
スチレン45部、アクリロニトリル5部(単量体成分中のアクリロニトリルの割合:10%)としたこと以外はグラフト共重合体(A−1)と同様にしてグラフト共重合体(A−2)を得て、これをグラフト共重合体(A−1)の代わりに配合したこと以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物の評価結果を表3に示す。
【0039】
(実施例3)
スチレンおよびアクリロニトリルの含浸(オクルード)時間を5分間にしたこと以外は(A−1)と同様にしてグラフト共重合体(A−3)を得て、これをグラフト共重合体(A−1)の代わりに配合したこと以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物の評価結果を表3に示す。
【0040】
(実施例4)
スチレン50部、アクリロニトリル0部(単量体成分中のアクリロニトリルの割合:0%)としたこと以外はグラフト共重合体(A−1)と同様にしてグラフト共重合体(A−4)を得て、これをグラフト共重合体(A−1)の代わりに配合したこと以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物の評価結果を表3に示す。
【0041】
(比較例1)
スチレン37.5部、アクリロニトリル12.5部(単量体成分中のアクリロニトリルの割合:25%)としたこと以外はグラフト共重合体(A−1)と同様にしてグラフト共重合体(A−5)を得て、これをグラフト共重合体(A−1)の代わりに配合したこと以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物の評価結果を表3に示す。
【0042】
(比較例2)
ゲル含有量が45%のポリブタジエン・ラテックスを用いたこと以外はグラフト共重合体(A−1)と同様にしてグラフト共重合体(A−6)を得て、これをグラフト共重合体(A−1)の代わりに配合したこと以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物の評価結果を表3に示す。
【0043】
(比較例3)
重合開始剤として過硫酸カリウム(PPS)を用いたこと以外はグラフト共重合体(A−1)と同様にしてグラフト共重合体(A−7)を得て、これをグラフト共重合体(A−1)の代わりに配合したこと以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物の評価結果を表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
(比較例4)
t−DM量を0.45部にしたこと以外はグラフト共重合体(A−1)と同様にしてグラフト共重合体(A−8)を得て、これをグラフト共重合体(A−1)の代わりに配合したこと以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物の評価結果を表4に示す。
【0046】
(比較例5)
平均粒子径700nmのポリブタジエン・ラテックスを用いたこと以外はグラフト共重合体(A−1)と同様にしてグラフト共重合体(A−9)を得て、これをグラフト共重合体(A−1)の代わりに配合したこと以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物の評価結果を表4に示す。
【0047】
(比較例6)
平均粒子径80nmのポリブタジエン・ラテックスを用いたこと以外はグラフト共重合体(A−1)と同様にしてグラフト共重合体(A−10)を得て、これをグラフト共重合体(A−1)の代わりに配合したこと以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物の評価結果を表4に示す。
【0048】
(比較例7)
グラフト共重合体(A−1)を60部とし、(B)ポリカーボネート樹脂を30部としたこと以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物の評価結果を表4に示す。
【0049】
(比較例8)
(A)ゴム補強スチレン系樹脂を配合せず、(B)ポリカーボネート樹脂60部と(C)耐衝撃性ポリスチレン樹脂40部とからなる熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物の評価結果を表4に示す。
【0050】
実施例1〜4は、本願請求項1の範囲を満たしていたので、アイゾット衝撃強度、MFR、光沢、ウエルド強度保持率のバランスに優れていた。さらに、実施例1,2では、特にウエルド強度保持率が高かった。
比較例1は、(A)ゴム補強スチレン系樹脂のアクリロニトリル組成が0〜18%の範囲外であったため、特に低温のアイゾット衝撃強度が低かった。
比較例2は、ゴム質重合体であるポリブタジエンのゲル含有量が50%未満であったので、アイゾット衝撃強度、光沢が低かった。
比較例3は、(A)ゴム補強スチレン系樹脂を製造する際に用いた重合開始剤の種類が水溶性であったため、アイゾット衝撃強度、ウエルド強度保持率、光沢が低かった。
比較例4は、ゴム質重合体にグラフトした単量体成分の質量平均分子量が5万未満であったので、ウエルド強度保持率が低かった。
比較例5は、ゴム質重合体の平均粒子径が550nmを超えていたので、ウエルド強度保持率が低かった上に、流動性が低かった。
比較例6は、ゴム質重合体の平均粒子径が100nm未満であったので、アイゾット衝撃強度が低かった。
比較例7は、(A)〜(C)成分の配合比率が本願請求項1の範囲外であったため、アイゾット衝撃強度が低かった。
比較例8は、(A)ゴム補強スチレン系樹脂が配合されていなかったため、アイゾット衝撃強度が低かった上に、ウエルド強度も低かった。
【0051】
【発明の効果】
以上の通り、本発明によれば、耐衝撃性、流動性、成形加工性、光沢を高くでき、かつ、ウエルド部の強度を高くできるので、広範囲の用途、例えば、電化製品、通信機器、雑貨等のパーツ、ハウジング等として好適に使用できる。
Claims (3)
- ゲル含有量50〜98質量%、平均粒子径100〜550nmのゴム質重合体40〜80質量%に、シアン化ビニル単量体0〜18質量%と芳香族ビニル単量体とを含む単量体成分20〜60質量%を含浸(オクルード)する含浸工程と、
その後、油溶性熱分解系開始剤を用いて、ゴム質重合体にグラフトした単量体成分の質量平均分子量が50000〜200000となるように、ゴム質重合体に単量体成分をグラフト重合させて(A)ゴム補強スチレン系樹脂を製造する重合工程と、
前記(A)ゴム補強スチレン系樹脂1〜50質量%と、(B)ポリカーボネート樹脂30〜94質量%と、(C)耐衝撃性ポリスチレン樹脂5〜60質量%とを配合する配合工程とを有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。 - 請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法で製造されたことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
- (A)ゴム補強スチレン系樹脂のゴム質重合体の内部に、単量体成分の重合体が内部存在率10〜60質量%の範囲で形成されていることを特徴とする請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
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