JP2004232030A - ダイヤモンド様炭素膜の除去方法、装飾品および時計 - Google Patents
ダイヤモンド様炭素膜の除去方法、装飾品および時計 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法は、部材10Aの表面の少なくとも一部(1d)に、マスキング5を形成する工程(1e)と、基材2から下地層40を剥離し得る剥離剤を、ダイヤモンド様炭素膜3上から付与することにより、マスキング5が被覆されていない部位の下地層40およびダイヤモンド様炭素膜3を除去する工程(1f)と、マスキング5を除去する工程(1h)とを有する。本発明は、前記剥離剤をダイヤモンド様炭素膜3中に浸透させることにより、下地層40を基材2から剥離し、それとともに、ダイヤモンド様炭素膜3を除去する点に特徴を有する。
【選択図】図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ダイヤモンド様炭素膜の除去方法、装飾品および時計に関する。
【0002】
【従来の技術】
ダイヤモンド様炭素(DLC)は、硬度が高く、耐磨耗性に優れ、摩擦係数が小さく、耐食性にも優れている。このため、種々の部材へのコーティング材として注目されている。その一方で、ダイヤモンド様炭素は上記のような特性を有しているため、ダイヤモンド様炭素の膜が形成された部材から当該膜を研磨等の機械的方法により除去するのは困難であった。
【0003】
このような問題を解決する目的で、ダイヤモンド様炭素の膜をグロー放電またはアーク放電により除去する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このような方法では、ダイヤモンド様炭素の膜を除去する際に、当該膜が形成された基材に対するダメージを回避するのは、極めて困難であり、特に、基材の表面を不均一に荒らしてしまうという問題点があった。このような傾向は、基材が比較的やわらかい材料(例えば、Cu、Alまたはこれらのうち少なくとも1種を含む合金等)においてさらに顕著となり、特に審美的外観が求められる装飾品等には実質的に適用することができなかった。また、このような方法では、ダイヤモンド様炭素の膜の一部のみを選択的に除去するのが実質的に不可能であった。また、このような方法では、特別な装置が必要となり、また、装置の条件設定が複雑で、生産コストの面からも不利である。
【0004】
【特許文献1】
特開平5−339758号公報(特許請求の範囲)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ダイヤモンド様炭素膜が形成された基材に、実質的にダメージを与えることなく、ダイヤモンド様炭素膜の少なくとも一部を除去する方法を提供すること、また、前記方法によりダイヤモンド様炭素膜の少なくとも一部が除去された装飾品を提供すること、前記装飾品を備えた時計を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法は、基材と、
前記基材上の少なくとも一部に形成された少なくとも1層の下地層と、
前記下地層上の少なくとも一部に形成され、主としてダイヤモンド様炭素(DLC)で構成されたダイヤモンド様炭素膜とを有する部材から、前記ダイヤモンド様炭素膜の少なくとも一部を除去する方法であって、
前記基材から前記下地層を剥離し得る剥離剤を、前記ダイヤモンド様炭素膜上から付与することにより、前記剥離剤を前記ダイヤモンド様炭素膜中に浸透させ、前記下地層の少なくとも一部とともに、前記ダイヤモンド様炭素膜の少なくとも一部を除去することを特徴とする。
これにより、ダイヤモンド様炭素膜が形成された基材に、実質的にダメージを与えることなく、ダイヤモンド様炭素膜の少なくとも一部を除去することができる。
【0007】
本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法では、前記剥離剤の付与は、液状の前記剥離剤中に前記部材を浸漬することにより行うことが好ましい。
これにより、比較的短時間で、確実にダイヤモンド様炭素膜を除去することができる。
本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法では、前記部材の前記剥離剤への浸漬時間は、10〜60分であることが好ましい。
これにより、ダイヤモンド様炭素膜をより確実に除去することができる。
【0008】
本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法では、雰囲気の圧力を8×104Pa以下とした状態で、前記部材を前記剥離剤中に浸漬することが好ましい。
これにより、ダイヤモンド様炭素膜を、比較的短時間でより確実に除去することができる。
本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法では、雰囲気の圧力を1.1×105Pa以上とした状態で、前記部材を前記剥離剤中に浸漬することが好ましい。
これにより、ダイヤモンド様炭素膜を、比較的短時間でより確実に除去することができる。
【0009】
本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法では、前記部材に前記剥離剤を付与する際における前記剥離剤の温度は、25〜40℃であることが好ましい。
これにより、基材へのダメージを十分防止しつつ、ダイヤモンド様炭素膜を、比較的短時間でより確実に除去することができる。
本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法では、前記剥離剤は、主として無機材料で構成されたものであることが好ましい。
これにより、ダイヤモンド様炭素膜を、比較的短時間でより確実に除去することができる。また、剥離剤の再利用も容易で、環境に対しても優しい。
【0010】
本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法では、前記ダイヤモンド様炭素膜のうち一部が前記下地層上に残存するように、前記部材に前記剥離剤を付与することが好ましい。
これにより、得られる部材(装飾品)の審美性の向上、操作性の向上等を図ることができる。
【0011】
本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法では、前記部材に前記剥離剤を付与した後に残存する前記ダイヤモンド様炭素膜は、前記部材の摺動部に形成されたものであることが好ましい。
これにより、得られる部材(装飾品)の操作性を十分に高めることができる。また、得られる部材(装飾品)の審美性のさらなる向上を図ることができる。
【0012】
本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法では、前記部材に前記剥離剤を付与した後に残存する前記ダイヤモンド様炭素膜は、前記部材のネジ部に形成されたものであることが好ましい。
これにより、得られる部材(装飾品)の操作性を十分に高めることができる。また、得られる部材(装飾品)の審美性のさらなる向上を図ることができる。
【0013】
本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法では、前記ダイヤモンド様炭素膜上の一部に、マスキングを被覆した状態で、前記部材に前記剥離剤を付与することが好ましい。
これにより、所望の形状のダイヤモンド様炭素膜を有する部材(装飾品)を、より確実に得ることができる。
【0014】
本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法では、前記ダイヤモンド様炭素膜は、気相成膜法により形成されたものであることが好ましい。
これにより、ダイヤモンド様炭素膜を、容易かつ確実に除去することができる。
本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法では、前記ダイヤモンド様炭素膜は、0.05〜30μm/hの成膜速度で形成されたものであることが好ましい。
これにより、ダイヤモンド様炭素膜を、容易かつ確実に除去することができる。
【0015】
本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法では、前記ダイヤモンド様炭素膜の平均厚さは、0.5〜2.0μmであることが好ましい。
これにより、ダイヤモンド様炭素膜を、容易かつ確実に除去することができる。また、ダイヤモンド様炭素膜の一部を残存させる場合においては、最終的に得られる部材(装飾品)において、ダイヤモンド様炭素の有する特性を十分に発揮させることができる。
【0016】
本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法では、ボールオンディスク法により測定される前記ダイヤモンド様炭素膜の摩擦係数μは、0.05〜0.7であることが好ましい。
これにより、得られる部材(装飾品)は、十分な摺動性を有するものとなる。
本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法では、前記ダイヤモンド様炭素膜のビッカース硬度Hvは、800〜5000であることが好ましい。
これにより、得られる部材(装飾品)は、特に優れた耐擦傷性、耐磨耗性を有するものとなる。
【0017】
本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法では、前記部材は、前記下地層として、Cu、Cr、Au、Si、Ag、WおよびTiからなる群より選択される少なくとも1種を含む材料で構成された層を有するものであることが好ましい。
これにより、ダイヤモンド様炭素膜を、比較的短時間でより確実に除去することができる。また、剥離剤等の影響により、基材がダメージを受けるのをより確実に防止することができる。
【0018】
本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法では、前記基材は、Fe、Cu、Zn、Ni、Ti、AlおよびMg、Si、Zr、Wからなる群より選択される少なくとも1種の金属または該金属を含む合金を主とする材料で構成されるものであることが好ましい。
これにより、基材と下地層との密着性をより優れたものとすることができる。また、基材の加工性が向上し、成形の自由度が増す。
【0019】
本発明の装飾品は、本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法により、前記ダイヤモンド様炭素膜の少なくとも一部が除去されることにより得られたことを特徴とする。
これにより、基材が実質的なダメージを受けることなく、ダイヤモンド様炭素膜の少なくとも一部が除去された装飾品を得ることができる。
【0020】
本発明の装飾品は、時計用外装部品であることが好ましい。
このように、装飾品としての外観の美しさとともに、実用品としての耐久性、耐食性、耐磨耗性等が求められる時計用外装部品に、本発明は好適に適用することができる。
本発明の時計は、本発明の装飾品を備えたことを特徴とする。
これにより、基材が実質的なダメージを受けることなく、ダイヤモンド様炭素膜の少なくとも一部が除去された装飾品を備えた時計を得ることができる。また、本発明は、外観の美しさとともに、実用品としての耐久性、耐食性、耐磨耗性等が求められる時計に、より好適に適用することができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法、装飾品および時計の好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
まず、本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法、装飾品および時計の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法に適用される部材の製造方法の一例を示す断面図、図2は、本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法の第1実施形態を示す断面図である。
【0022】
まず、ダイヤモンド様炭素膜の除去方法の説明に先立ち、部材10Aおよび部材10Aの製造方法について説明する。
図1に示すように、部材10Aは、基材2の表面の少なくとも一部(1a)に、下地層40を形成する工程(1b)と、下地層40の表面の少なくとも一部に、主としてダイヤモンド様炭素(DLC)で構成されるダイヤモンド様炭素膜3を形成する工程(1c)とを有する方法により、製造することができる。
【0023】
[基材]
基材2は、いかなる材料で構成されるものであってもよく、金属材料で構成されるものであっても、非金属材料で構成されるものであってもよい。
基材2が金属材料で構成される場合、特に優れた強度特性を有する部材10A(装飾品1A)を提供することができる。また、基材2が金属材料で構成される場合、基材2の表面粗さが比較的大きい場合であっても、後述する下地層40、ダイヤモンド様炭素膜3を形成する際のレベリング効果により、得られる部材10A(装飾品1A)の表面粗さを小さくすることができる。例えば、基材2の表面に対する切削加工、研磨加工などによる機械加工を省略しても、鏡面仕上げを行うことが可能となったり、基材2がMIM法により成形されたもので、その表面が梨地面である場合でも、容易に鏡面にすることができる。これにより、光沢に優れた装飾品を得ることができる。
【0024】
基材2が非金属材料で構成される場合、比較的軽量で携帯し易く、かつ、重厚な外観を有する部材10A(装飾品1A)を提供することができる。また、基材2が非金属材料で構成される場合、比較的容易に、所望の形状に成形することができる。また、基材2が非金属材料で構成される場合、電磁ノイズを遮蔽する効果も得られる。
【0025】
基材2を構成する金属材料としては、例えば、Fe、Cu、Zn、Ni、Mg、Cr、Mn、Mo、Nb、Al、V、Zr、Sn、Au、Pd、Pt、Ag等の各種金属や、これらのうち少なくとも1種を含む合金等が挙げられる。この中でも特に、Fe、Cu、Zn、Ni、Ti、Al、Mg、Si、ZrおよびWからなる群より選択される少なくとも1種の金属または該金属を含む合金を主とする材料であるのが好ましい。基材2が前述したような材料で構成されることにより、基材2と、後述する下地層40との密着性が特に優れたものとなる。また、基材2が、Cu、ZnおよびNiからなる群より選択される少なくとも1種の金属または該金属を含む合金で構成されたものであると、基材2と、後述する下地層40との密着性が特に優れたものとなるとともに、基材2の加工性が向上し、基材2の成形の自由度がさらに増す。
【0026】
また、基材2を構成する非金属材料としては、例えば、プラスチックやセラミックス、石材、木材等が挙げられる。
プラスチックとしては、各種熱可塑性樹脂、各種熱硬化性樹脂が挙げられる。
基材2がプラスチックで構成される場合、比較的軽量で携帯し易く、かつ、重厚な外観を有する装飾品1A(部材10A)を得ることができる。また、基材2がプラスチックで構成される場合、比較的容易に、所望の形状に成形することができる。このため、複雑な形状を有する部材10A(装飾品1A)であっても、比較的容易に製造することができる。また、基材2がプラスチックで構成される場合、電磁ノイズを遮蔽する効果が得られる。
【0027】
セラミックスとしては、例えば、Al2O3、SiO2、TiO2、Ti2O3、ZrO2、Y2O3、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等の酸化物系セラミックス、AlN、Si3N4、SiN、TiN、BN、ZrN、HfN、VN、TaN、NbN、CrN、Cr2N等の窒化物系セラミックス、グラファイト、SiC、ZrC、Al4C3、CaC2、WC、TiC、HfC、VC、TaC、NbC等の炭化物系のセラミックス、ZrB2、MoB等のホウ化物系のセラミックス、あるいは、これらのうちの2以上を任意に組み合わせた複合セラミックスが挙げられる。
基材2が前記のようなセラミックスで構成される場合、高強度、高硬度の装飾品1A(部材10A)を得ることができる。
【0028】
基材2の製造方法は、特に限定されない。
基材2が金属材料で構成される場合、その製造方法としては、例えば、プレス加工、切削加工、鍛造加工、鋳造加工、粉末冶金焼結、金属粉末射出成形(MIM)、ロストワックス法等が挙げられるが、この中でも特に、鋳造加工または金属粉末射出成形(MIM)が好ましい。鋳造加工、金属粉末射出成形(MIM)は、特に、加工性に優れている。このため、これらの方法を用いた場合、複雑な形状の基材2を比較的容易に得ることができる。
【0029】
金属粉末射出成形(MIM)は、通常、以下のようにして行われる。
まず、金属粉と有機バインダーとを含む材料を混合、混練して混練物を得る。
次に、この混練物を射出成形することにより成形体を形成する。
その後、この成形体に対して、脱脂処理(脱バインダー処理)を施し、脱脂体を得る。この脱脂処理は、通常、減圧条件下で、加熱することにより行われる。
さらに、得られた脱脂体を焼結することにより、焼結体を得る。この焼結処理は、通常、前記脱脂処理より高温で加熱することにより行われる。
本発明では、以上のようにして得られる焼結体を基材として用いることができる。
【0030】
また、基材2が前記のようなプラスチックで構成される場合、その製造方法としては、例えば、圧縮成形、押出成形、射出成形、光造形等が挙げられる。
また、基材2が前記のようなセラミックスで構成される場合、その製造方法は、特に限定されないが、金属粉末射出成形(MIM)であるのが好ましい。金属粉末射出成形(MIM)は、特に、加工性に優れているため、複雑な形状の基材2を比較的容易に得ることができる。
【0031】
また、基材2の表面に対しては、例えば、鏡面加工、スジ目加工、梨地加工等の表面加工が施されているのが好ましい。これにより、得られる部材10A(装飾品1A)の表面の光沢具合にバリエーションを持たせることが可能となり、装飾品1A(部材10A)の装飾性をさらに向上させることができる。
また、このような表面加工を施した基材2を用いて製造される装飾品1A(部材10A)は、ダイヤモンド様炭素膜3に対して前記表面加工を直接施すことにより得られるものに比べて、ダイヤモンド様炭素膜3のギラツキ等が抑制されたものとなり、特に美的外観に優れたものとなる。
【0032】
また、基材2と下地層40との密着性の向上等を目的として、後述する下地層40の形成に先立ち、基材2に対して、前処理を施してもよい。前処理としては、例えば、ブラスト処理、アルカリ洗浄、酸洗浄、水洗、有機溶剤洗浄、ボンバード処理等の清浄化処理、エッチング処理等が挙げられるが、この中でも特に、清浄化処理が好ましい。基材2の表面に、清浄化処理を施すことにより、基材2と下地層40との密着性が特に優れたものとなる。
【0033】
[下地層の形成]
基材2の表面に、下地層40を形成する(1b)。
下地層40は、その少なくとも一部が、後述する剥離剤により除去されるものである。このような下地層40が設けられることにより、ダイヤモンド様炭素膜3を容易かつ確実に除去することが可能になる。
また、下地層40は、例えば、基材2とダイヤモンド様炭素膜3との密着性を向上させる機能や、基材2の孔、キズ等をレベリング(ならし)により補修する機能、保管時(ダイヤモンド様炭素膜3の形成の工程までの間)等に腐食が発生するのを防止する機能等を有するものであってもよい。
【0034】
下地層40の形成方法としては、例えば、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射、金属箔の接合等が挙げられるが、この中でも特に、湿式メッキ法または乾式メッキ法が好ましい。
下地層40の形成方法として、湿式メッキ法または乾式メッキ法を用いることにより、形成される下地層40は、基材2との密着性に特に優れたものとなる。その結果、得られる装飾品1A(部材10A)の長期耐久性は、特に優れたものとなる。
また、下地層40は、例えば、基材2の表面に、酸化処理、窒化処理、クロメート処理、炭化処理、酸浸漬、酸電解処理、アルカリ浸漬処理、アルカリ電解処理等の化学処理を施すことにより形成された被膜、特に、不動態膜であってもよい。
【0035】
下地層40の構成材料としては、例えば、Cu、Co、Pd、Au、Ag、In、Sn、Ni、Ti、Zn、Cr、Al、Fe、W、Si、Ge等の金属材料や、前記金属材料のうち少なくとも1種を含む合金、前記金属材料のうち少なくとも1種による金属化合物(例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等)、各種樹脂材料またはこれらを2種以上組み合わせたもの等が挙げられる。
また、下地層40の構成材料は、基材2を構成する材料またはダイヤモンド様炭素膜3を構成する材料のうち少なくとも1種を含むものであるのが好ましい。これにより、基材2、ダイヤモンド様炭素膜3との密着性がさらに向上する。
【0036】
下地層40の平均厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1〜20.0μmであるのが好ましく、0.5〜10.0μmであるのがより好ましい。下地層40の平均厚さが前記下限値未満であると、下地層40の効果が十分に発揮されない可能性がある。一方、下地層40の平均厚さが前記上限値を超えると、下地層40の各部位における膜厚のバラツキが大きくなる傾向を示す。また、下地層40の内部応力が高くなり、クラックが発生し易くなる。
【0037】
以上説明したように、基材2の表面に、下地層40を形成することにより、基材2とダイヤモンド様炭素膜3との密着性、装飾品1A(部材10A)の耐食性がさらに優れたものとなる。その結果、装飾品1A(部材10A)は、特に耐久性に優れたものとなる。
なお、下地層40は、図示の構成では基材2の全面に形成されているが、基材2の表面の少なくとも一部に形成されるものであればよい。また、下地層40の各部位における組成は、一定であっても、一定でなくてもよい。例えば、下地層40は、その厚さ方向に沿って、組成が順次変化するもの(傾斜材料)であってもよい。
【0038】
また、下地層40とダイヤモンド様炭素膜3との密着性の向上等を目的として、後述するダイヤモンド様炭素膜3の形成に先立ち、下地層40に対して、前処理を施してもよい。前処理としては、例えば、ブラスト処理、アルカリ洗浄、酸洗浄、水洗、有機溶剤洗浄、ボンバード処理等の清浄化処理、エッチング処理等が挙げられるが、この中でも特に、清浄化処理が好ましい。下地層40の表面に、清浄化処理を施すことにより、下地層40とダイヤモンド様炭素膜3との密着性が特に優れたものとなる。
【0039】
[ダイヤモンド様炭素膜の形成]
下地層40の表面に、主としてダイヤモンド様炭素(DLC)で構成されたダイヤモンド様炭素膜3を形成する(1c)。
ダイヤモンド様炭素膜3は、優れた光沢を有する。このため、装飾品1A(部材10A)全体としての美的外観を特に優れたものとすることができる。
また、ダイヤモンド様炭素膜3は、高硬度で、優れた耐磨耗性・耐擦傷性を有している。このため、ダイヤモンド様炭素膜3を有することにより、部材10A(装飾品1A)の破損、損傷等を効果的に防止することができる。
【0040】
また、ダイヤモンド様炭素膜3は、優れた潤滑性を有する。このため、ダイヤモンド様炭素膜3が形成された部位における摩擦を有効に低減させることができる。その結果、例えば、装飾品1A(部材10A)が、摺動させて用いるようなもの(例えば、ネジ部を有するようなものや、後述するような回転ベゼル、ボタン、ネジロック式りゅうず、歯車、輪列受け等)であって、その摺動部にダイヤモンド様炭素膜3を有するものである場合、その摺動操作を円滑に行うことができる。また、摩擦による装飾品1A(部材10A)の破損、故障等も、効果的に防止することができる。
【0041】
潤滑性を示す指標としては、例えば、JIS R 1613に準じて測定されるボールオンディスク法での摩擦係数μ等が挙げられる。ボールオンディスク法により測定されるダイヤモンド様炭素膜3の摩擦係数μは、0.05〜0.7程度であるのが好ましく、0.1〜0.5程度であるのがより好ましく、0.1〜0.35程度であるのがさらに好ましい。ダイヤモンド様炭素膜3の摩擦係数μがこのような範囲の値であると、ダイヤモンド様炭素膜3が形成された部位における摩擦をより有効に低減させることができ、装飾品1Aの摺動操作をより円滑に行うことができる。また、ダイヤモンド様炭素膜3の摩擦係数μがこのような範囲の値であると、装飾品1A(部材10A)の滑り性が向上し、ザラツキ感を軽減、防止することができ、装飾品1A(部材10A)が皮膚等に接触したときの違和感、不快感を軽減、防止することができる。
【0042】
また、ダイヤモンド様炭素膜3は、高硬度で、優れた耐摩耗性・耐擦傷性を有する。このため、繰り返し摩擦が起こる部位に設けられても、前述したような効果を長期間にわたって維持することができる。したがって、ダイヤモンド様炭素膜3を有する装飾品1A(部材10A)は、優れた耐久性を有する。また、ダイヤモンド様炭素膜3が優れた耐擦傷性を有することにより、装飾品1A(部材10A)は、より長期間にわたって、優れた美的外観を保持することができる。
【0043】
ダイヤモンド様炭素膜3のビッカース硬度Hvは、700以上であるのが好ましく、800〜5000であるのがより好ましく、2000〜5000であるのがさらに好ましい。ダイヤモンド様炭素膜3のビッカース硬度Hvがこのような範囲の値であると、上述した効果がさらに顕著なものとなる。
また、ダイヤモンド様炭素膜3は、汚れが付着し難い性質、すなわち、優れた防汚性を有している。また、汚れが付着した場合であっても、その汚れを容易に除去することが可能である。したがって、ダイヤモンド様炭素膜3を有する装飾品1A(部材10A)は、長期間にわたって、優れた美的外観を保持することができる。
【0044】
ダイヤモンド様炭素膜3は、いかなる方法で形成されたものであってもよいが、気相成膜法で形成されたものであるのが好ましく、この中でも特に、熱CVD、プラズマCVD(RFプラズマCVD、ECRプラズマCVD等)、レーザーCVDなどの化学蒸着法(CVD)、化学スパッタリング、物理スパッタリングなどのスパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティングのうちいずれかの方法で形成されたものであるのが好ましい。このような方法を用いることにより、ムラの少ない均質なダイヤモンド様炭素膜3を比較的容易に得ることができる。また、このような方法によれば、基材2、下地層40との密着性に優れたダイヤモンド様炭素膜3を形成することができる。その結果、得られる装飾品1Aは、耐食性、耐久性に優れたものとなる。
【0045】
また、上記のような乾式メッキ法を用いてダイヤモンド様炭素膜3を形成することにより、以下のような効果が得られる。
すなわち、後述するスパッタリングの説明で代表されるように、雰囲気ガスの組成を適宜選択することにより、容易に、所望の組成を有するダイヤモンド様炭素膜3を形成することができる。このように、ダイヤモンド様炭素膜3の組成を容易に調整することにより、ダイヤモンド様炭素膜3の特性(例えば、色、光沢度、硬度等)を調整することが可能となる。
【0046】
以下、スパッタリングによるマスキング5の形成方法の一例について説明する。
スパッタリングは、通常、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを主とする雰囲気ガス中で行われるが、雰囲気ガス中には、メタンガス、エタンガス等の炭化水素ガスや水素ガス等が含まれているのが好ましい。これにより、形成されるダイヤモンド様炭素膜3を、水素添加されたDLCで構成されたものとすることができる。ダイヤモンド様炭素膜3が水素添加されたDLCで構成されたものであると、ダイヤモンド様炭素膜3の摩擦係数が低下し、潤滑性がさらに向上する。
【0047】
雰囲気ガス中における炭化水素ガスおよび水素ガスの総含有率は、10vol%以上であることが好ましい。これにより、DLCへの水素添加をより効果的に行うことが可能となる。
なお、雰囲気ガス中には、例えば、O2、N2、NH3等の反応性ガスが含まれていてもよい。このような反応性ガスを含む雰囲気ガス中で、スパッタリングを行うことにより、C、H以外の元素が添加されたダイヤモンド様炭素膜3を形成することができる。これにより、ダイヤモンド様炭素膜3と下地層40との密着性を高めたり、ダイヤモンド様炭素膜3の硬度等を調整することができる。
【0048】
また、ターゲットとしては、通常、グラファイト等が用いられる。
なお、ターゲットとして、C、H以外の元素(例えば、N、O、Ti、Al、Cr、Si、Zr、Mo、W、B、P、F等)を含む材料を用いたり、このような材料とグラファイトとの混合物を用いてもよい。これにより、C、H以外の元素が添加されたダイヤモンド様炭素膜3を形成することができる。その結果、ダイヤモンド様炭素膜3と下地層40との密着性を高めたり、ダイヤモンド様炭素膜3の硬度等を調整することが可能となる。
また、このようなスパッタリングは、高周波(RF)放電により行うのが好ましい。これにより、プラズマ密度を高くすることができ、またアーク放電を効果的に防止することができる。
【0049】
ダイヤモンド様炭素膜3の成膜速度は、特に限定されないが、0.05〜30μm/hであるのが好ましく、0.1〜20μm/hであるのがより好ましい。ダイヤモンド様炭素膜3の成膜速度が前記下限値未満であると、形成されるダイヤモンド様炭素膜3中の空孔率が低くなりすぎ(ダイヤモンド様炭素膜3が緻密なものとなり)、後述する工程において、ダイヤモンド様炭素膜3を効率良く除去するのが困難となる場合がある。また、ダイヤモンド様炭素膜3の成膜速度が前記下限値未満であると、成膜に時間がかかり、部材10A(装飾品1A)の生産性が低下する。一方、ダイヤモンド様炭素膜3の成膜速度が前記上限値を超えると、ダイヤモンド様炭素膜3の厚さのバラツキが大きくなり易い。
【0050】
ダイヤモンド様炭素膜3の平均厚さは、特に限定されないが、0.1〜5.0μmであるのが好ましく0.5〜2.0μmであるのがより好ましい。ダイヤモンド様炭素膜3の平均厚さをこのような範囲の値にすることにより、前述したダイヤモンド様炭素膜3の効果をより顕著に発揮させることができる。
これに対し、ダイヤモンド様炭素膜3の平均厚さが前記下限値未満であると、基材2、下地層40の構成材料、厚さ等によっては、前述したダイヤモンド様炭素膜3の効果を十分に発揮させるのが困難となる場合がある。また、ダイヤモンド様炭素膜3の平均厚さが前記上限値を超えると、ダイヤモンド様炭素膜3の内部応力が高くなり、ダイヤモンド様炭素膜3と下地層40との密着性が低下したり、クラックが発生し易くなる。その結果、装飾品1Aの耐久性が低下し、安定した美的外観が得られなくなる。また、ダイヤモンド様炭素膜3の平均厚さが前記上限値を超えると、後述する工程において、ダイヤモンド様炭素膜3を効率良く除去するのが困難となる場合がある。
【0051】
なお、ダイヤモンド様炭素膜3の各部位における組成は、一定であっても、一定でなくてもよい。例えば、ダイヤモンド様炭素膜3は、その厚さ方向に沿って、組成が順次変化するもの(傾斜材料)であってもよい。また、ダイヤモンド様炭素膜3は、図示の構成では下地層40の全面に形成されているが、下地層40の表面の一部に形成されているものであってもよい。また、ダイヤモンド様炭素膜3は、その少なくとも一部が下地層40の表面に形成されていればよく、例えば、ダイヤモンド様炭素膜3は、その一部が、下地層40を介さずに、基材2の表面に直接形成されたものであってもよい。
【0052】
次に、上述した部材10Aからダイヤモンド様炭素膜3の少なくとも一部を除去する方法について説明する。
図2に示すように、本実施形態のダイヤモンド様炭素膜の除去方法は、部材10Aの表面の少なくとも一部(1c)に、マスキング5を形成する工程(1d)と、剥離剤を用いて、マスキング5が被覆されていない部位の下地層40およびダイヤモンド様炭素膜3を除去する工程(1e)と、マスキング5を除去する工程(1f)とを有する。
【0053】
[マスキングの被覆]
まず、ダイヤモンド様炭素膜3の表面の一部(1c)に、マスキング5を被覆する(1d)。このマスキング5は、後述する下地層40およびダイヤモンド様炭素膜3を除去する工程において、被覆した部位の下地層40およびダイヤモンド様炭素膜3を保護するマスクとして機能する。
【0054】
本実施形態のように、マスキング5を形成することにより、後述する工程において、下地層40およびダイヤモンド様炭素膜3の選択的な除去を、容易かつ確実に行うことができる。これにより、微細なパターンのダイヤモンド様炭素膜3を有する装飾品1Aを容易に得ることができる。また、これにより、前述したようなダイヤモンド様炭素膜の特性を、最終的に得られる装飾品1Aにおいても、十分に発揮することができる。また、下地層40およびダイヤモンド様炭素膜3を選択的に除去することにより、最終的に得られる部材10A(装飾品1A)は、その各部位において求められる機能を、それぞれ十分に発揮することができ、操作性や審美性がさらに向上したものとなる。例えば、最終的に得られる部材10A(装飾品1A)の摺動部等にはダイヤモンド様炭素膜3が残存するようにし、それ以外の部位にはダイヤモンド様炭素膜3が残存しないようにすることにより、操作時における手元の滑りを十分に防止しつつ、部材10A(装飾品1A)の摺動操作を容易に行うことができる。また、ダイヤモンド様炭素膜3の一部を残存させることにより、例えば、ダイヤモンド様炭素膜3が残存する部位と、ダイヤモンド様炭素膜3が除去された部位とで、凹凸のパターンを形成したり、色彩の違いが顕著なものとなる。その結果、装飾品1Aの美的外観を、さらに優れたものとすることができる。
【0055】
マスキング5としては、下地層40およびダイヤモンド様炭素膜3を除去する工程において、被覆した部位の下地層40およびダイヤモンド様炭素膜3を保護する機能を有するものであればいかなるものでもよいが、後述するマスキング5を除去する工程において、容易に除去することができるものであるのが好ましい。
このようなマスキング5を構成する材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、エポキシ系、フッ素系等の樹脂材料やAu、Ni、Pd、Cu、Ag、Ti、Cr等の金属材料を用いることができる。
【0056】
マスキング5の形成方法は、特に限定されず、例えば、ディッピング、刷毛塗り、噴霧塗装、静電塗装、電着塗装等の塗装、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射等が挙げられる。
【0057】
マスキング5の平均厚さは、特に限定されないが、例えば、100〜2000μmであるのが好ましく、500〜1000μmであるのがより好ましい。マスキング5の平均厚さが前記下限値未満であると、マスキング5にピンホールが発生し易くなる傾向がある。このため、後述するダイヤモンド様炭素膜3、下地層40の除去の工程において、マスキング5としての機能(下地層40およびダイヤモンド様炭素膜3を保護するマスクとしての機能)を十分に発揮するのが困難となり、得られる装飾品1Aの美的外観が低下する可能性がある。一方、マスキング5の平均厚さが前記上限値を超えると、マスキング5の各部位における膜厚のバラツキが大きくなる傾向を示す。また、マスキング5の内部応力が高くなり、結果として、マスキング5とダイヤモンド様炭素膜3との密着性が低下したり、クラックが発生し易くなる。
【0058】
また、マスキング5は透明であることが好ましい。これにより、ダイヤモンド様炭素膜3との密着状態を外部から視認することが可能となる。
マスキング5は、ダイヤモンド様炭素膜3の表面に、直接、所望の形状となるように形成されるものに限定されない。例えば、ダイヤモンド様炭素膜3の表面のほぼ全面に、マスキング5の構成材料を被覆した後、その一部を除去することにより、所望のパターンを有するマスキング5としてもよい。
【0059】
ダイヤモンド様炭素膜3の表面のほぼ全面に被覆されたマスキング5の一部を除去する方法としては、例えば、除去したい部位のマスキング5に、レーザー光を照射する方法等が挙げられる。このとき用いられるレーザーとしては、例えば、Ne−Heレーザー、Arレーザー、CO2レーザー等の気体レーザーや、ルビーレーザー、半導体レーザー、YAGレーザー、ガラスレーザー、YVO4レーザー、エキシマレーザー等が挙げられる。
【0060】
また、上記のようなマスキング5の形成に先立ち、ダイヤモンド様炭素膜3に対して、下地処理を施してもよい。下地処理の目的は、いかなるものであってもよいが、例えば、下地処理により、ダイヤモンド様炭素膜3とマスキング5との密着性の向上等を図ることができる。前処理としては、例えば、ブラスト処理、アルカリ洗浄、酸洗浄、水洗、有機溶剤洗浄、ボンバード処理等の清浄化処理、エッチング処理等が挙げられるが、この中でも特に、清浄化処理が好ましい。下地層40の表面に、清浄化処理を施すことにより、下地層40とダイヤモンド様炭素膜3との密着性が特に優れたものとなる。
【0061】
[下地層およびダイヤモンド様炭素膜の除去]
次に、マスキング5が被覆されていない部位のダイヤモンド様炭素膜3および下地層40を除去する(1e)。
本発明では、ダイヤモンド様炭素膜を、該ダイヤモンド様炭素膜が形成された部位の下地層とともに、除去(剥離)する点に特徴を有する。より詳しく言うと、ダイヤモンド様炭素膜上から剥離剤を付与することにより、前記剥離剤をダイヤモンド様炭素膜中に浸透させ、下地層とともにダイヤモンド様炭素膜を除去する点に特徴を有する。なお、本明細書中で、下地層の剥離とは、下地層の少なくとも一部を基材上から除去することを言う。本明細書中において、「下地層の剥離」には、例えば、基材と下地層との密着性を低下させることにより、下地層を基材の表面から別離させることや、下地層の厚さ方向の少なくとも一部を剥離剤(剥離液)に、溶解させること等が含まれるものとする。
剥離剤は、特に限定されないが、液体、気体等の流体であるのが好ましく、その中でも特に、液体であるのが好ましい。これにより、ダイヤモンド様炭素膜3、下地層40の除去をさらに容易かつ確実に行うことが可能となる。
【0062】
剥離剤を部材10A(マスキング5が形成された部材10A)に付与する方法としては、例えば、浸漬法(液状の剥離剤中に部材10Aを浸漬する方法であって、液状の剥離剤に浸漬した状態で電解する方法等を含む)、スプレー法、刷毛塗り、インクジェット法、タコ印刷法、スクリーン印刷法等が挙げられる。この中でも、浸漬法は、比較的短時間で、容易かつ確実にダイヤモンド様炭素膜3を除去できるという点で優れている。また、浸漬法では、部材10Aに付与される剥離剤の温度、組成等を容易に管理することができ、また、部材10Aと剥離剤との接触時間(部材10Aの剥離剤中への浸漬時間)を制御し易いという点でも優れている。
【0063】
浸漬法により剥離剤を部材10Aに付与する場合、部材10Aの剥離剤中への浸漬時間は、剥離剤の組成、下地層40の組成、ダイヤモンド様炭素膜3の厚さ等により異なるが、10〜60分であるのが好ましく、20〜30分であるのがより好ましい。部材10Aの剥離剤中への浸漬時間がこのような範囲の値であると、基材2へのダメージを十分に防止しつつ、比較的短時間で、ダイヤモンド様炭素膜3、下地層40をより確実に除去することができる。
【0064】
また、部材10Aを剥離剤中に浸漬する際、必要に応じて、雰囲気の温度、圧力等を調整することができる。
例えば、剥離剤中に部材10Aを浸漬する際に(浸漬している間)、雰囲気の圧力を大気圧より低い圧力となるようにする(減圧する)ことにより、ダイヤモンド様炭素膜3の空孔内に存在する気体、剥離剤中に溶存する気体等を効率良く除去することができる。これにより、剥離剤のダイヤモンド様炭素膜3中への浸透が促進され、ダイヤモンド様炭素膜3および下地層40の除去の効率を高めることができる。
このような場合、浸漬時(浸漬中)における雰囲気の圧力は、8×104Pa以下であるのが好ましく、1×102〜5×104Paであるのがより好ましい。雰囲気圧がこのような範囲の値であると、前述した効果がさらに顕著なものとなる。
【0065】
また、剥離剤中に部材10Aを浸漬する際に(浸漬している間)、雰囲気の圧力を大気圧より高い圧力となるようにする(加圧する)こともできる。これにより、ダイヤモンド様炭素膜3の空孔内に剥離剤を強制的に送り込むことができる。その結果、剥離剤のダイヤモンド様炭素膜3中への浸透が促進され、ダイヤモンド様炭素膜3および下地層40の除去の効率を高めることができる。
このような場合、浸漬時(浸漬中)における雰囲気の圧力は、1.1×105Pa以上であるのが好ましく、1.5×105〜5×107Paであるのがより好ましい。雰囲気圧がこのような範囲の値であると、前述した効果がさらに顕著なものとなる。
【0066】
また、部材10Aの剥離剤中への浸漬時における雰囲気の圧力は、その途中で、連続的または断続的(非連続的)に変化させてもよい。例えば、浸漬の初期の段階では、雰囲気の圧力を大気圧より低くし(減圧し)、その後、雰囲気の圧力を高めていき、大気圧とほぼ同じ圧力または大気圧より高い圧力にしてもよい。このように、雰囲気の圧力を調整することにより、前述した効果はさらに顕著なものとなる。
【0067】
また、部材10Aに付与される剥離剤の温度は、その付与方法、剥離剤の組成、下地層40の組成、ダイヤモンド様炭素膜3の厚さ等により異なるが、20〜60℃であるのが好ましく、25〜40℃であるのがより好ましい。剥離剤の温度がこのような範囲の値であると、基材2へのダメージを十分に防止しつつ、比較的短時間で、ダイヤモンド様炭素膜3、下地層40をより確実に除去することができる。
また、剥離剤は、例えば、部材10Aに付与される際に、ミスト状(霧状)のものであってもよいし、加熱等により気化された気体状(ガス状)のものであってもよい。
【0068】
この工程で用いる剥離剤は、マスキング5を実質的に溶解、剥離せずに、マスキング5が被覆されていない部位の下地層40およびダイヤモンド様炭素膜3のみを選択的に除去することが可能なものを用いるのが好ましい。
また、剥離剤の具体的な組成は、下地層の組成等により異なるが、剥離剤は、一般に、主として無機材料で構成されたもの(具体的には、剥離剤中に占める無機材料の割合が80wt%以上)であるのが好ましい。これにより、ダイヤモンド様炭素膜3を、比較的短時間でより確実に除去することができる。また、無機材料は、ダイヤモンド様炭素との親和性に優れるため、部材10A(マスキング5が形成された部材10A)への剥離剤の付与条件を比較的温和なものとしても、比較的短時間でより確実に、ダイヤモンド様炭素膜3を除去することができる。
上述したように、剥離剤の組成は、下地層40の組成等により異なるが、以下、下地層40の組成と剥離剤の組成との具体的な組合せの例を示す。なお、本発明で用いる剥離剤が、これらに限定されないことは言うまでもない。
【0069】
下地層40が主としてCuで構成されるもの(Cu系合金等を含む)である場合、剥離剤は、硝酸を含むものであるのが好ましい。剥離剤中における硝酸濃度は、30〜90wt%であるのが好ましく、40〜60wt%であるのがより好ましい。また、特に、浸漬法によりダイヤモンド様炭素膜3の除去を行う場合、部材10Aの浸漬時間は、20〜120分であるのが好ましく、40〜60分 であるのがより好ましい。また、剥離剤の温度は、15〜50℃であるのが好ましく、20〜30℃であるのがより好ましい。
【0070】
下地層40が主としてCrで構成されるもの(Cr系合金等を含む)である場合、剥離剤は、炭酸ナトリウムを含むものであるのが好ましい。剥離剤中における炭酸ナトリウム濃度は、1〜20wt%であるのが好ましく、5〜10wt%であるのがより好ましい。また、炭酸ナトリウムを含む剥離剤を用いる場合、通常、部材10Aを剥離剤中に浸漬した状態で、陽極電解を行うことにより、ダイヤモンド様炭素膜3を除去する。陽極電解時における電流密度は、1〜10A/dm2であるのが好ましく、3〜7A/dm2であるのがより好ましい。また、部材10Aの浸漬時間は、10〜60分であるのが好ましく、20〜30分であるのがより好ましい。また、剥離剤の温度は、20〜60℃であるのが好ましく、25〜40℃であるのがより好ましい。
【0071】
下地層40が主としてTiNで構成されるものである場合、剥離剤は、フッ化水素酸(フッ化水素)および硝酸を含むものであるのが好ましい。剥離剤中におけるフッ化水素濃度は、10〜40wt%であるのが好ましく、20〜30wt%であるのがより好ましい。また、剥離剤中における硝酸濃度は、30〜60wt%であるのが好ましく、40〜50wt%であるのがより好ましい。また、特に、浸漬法によりダイヤモンド様炭素膜3の除去を行う場合、部材10Aの浸漬時間は、1〜60分であるのが好ましく、10〜20分であるのがより好ましい。また、剥離剤の温度は、15〜50℃であるのが好ましく、20〜30℃であるのがより好ましい。
【0072】
下地層40が主としてSiで構成されるもの(Si系合金等を含む)である場合、剥離剤は、フッ化水素酸(フッ化水素)および硝酸を含むものであるのが好ましい。剥離剤中におけるフッ化水素濃度は、10〜40wt%であるのが好ましく、20〜30wt%であるのがより好ましい。また、剥離剤中における硝酸濃度は、30〜60wt%であるのが好ましく、40〜50wt%であるのがより好ましい。また、特に、浸漬法によりダイヤモンド様炭素膜3の除去を行う場合、部材10Aの浸漬時間は、1〜60分であるのが好ましく、10〜20分であるのがより好ましい。また、剥離剤の温度は、15〜50℃であるのが好ましく、20〜30℃であるのがより好ましい。
【0073】
下地層40が主としてAuで構成されるもの(Au系合金等を含む)である場合、剥離剤は、シアン系剥離剤を好適に用いることができる。また、特に、浸漬法によりダイヤモンド様炭素膜3の除去を行う場合、部材10Aの浸漬時間は、5〜60分であるのが好ましく、20〜30分であるのがより好ましい。また、剥離剤の温度は、15〜50℃であるのが好ましく、20〜30℃であるのがより好ましい。
【0074】
下地層40が主としてAgで構成されるもの(Ag系合金等を含む)である場合、剥離剤は、シアン系剥離剤を好適に用いることができる。また、特に、浸漬法によりダイヤモンド様炭素膜3の除去を行う場合、部材10Aの浸漬時間は、5〜60分であるのが好ましく、20〜30分であるのがより好ましい。また、剥離剤の温度は、15〜50℃であるのが好ましく、20〜30℃であるのがより好ましい。
【0075】
なお、図示の構成では、本工程において除去されるダイヤモンド様炭素膜3が形成されていた部位の下地層40は、全て除去されているが、例えば、下地層40は、その厚さ方向の一部(ダイヤモンド様炭素膜3と接触する面側付近)のみが除去されるものであってもよい。これにより、得られる装飾品1Aの装飾性をさらに高めることができる。下地層40の厚さ方向の除去量は、例えば、部材10Aへの浸漬液の付与条件等を制御することによりコントロールすることができる。
【0076】
[マスキングの除去]
その後、マスキング5を除去することにより、装飾品1Aが得られる(1f)。
マスキング5の除去は、いかなる方法で行ってもよいが、マスキング5を除去することが可能であり、かつ基材2およびダイヤモンド様炭素膜3に対して(より好ましくは、下地層40に対しても)、実質的にダメージを与えないマスキング除去剤を用いて行うのが好ましい。
このようなマスキング除去剤を用いることにより、マスキング5の除去を容易かつ確実に行うことができる。
【0077】
マスキング5の除去に用いられるマスキング除去剤は、特に限定されないが、液体、気体等の流体であるのが好ましく、その中でも特に、液体であるのが好ましい。これにより、マスキング5の除去をさらに容易かつ確実に行うことが可能となる。
マスキング除去剤としては、例えば、硝酸、硫酸、アンモニア、過酸化水素、水、二硫化炭素、四塩化炭素等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルテトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、グリセリン等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒等の有機溶媒等から選択される1種または2種以上を混合したものや、これらに、硝酸、硫酸、塩化水素、フッ化水素、リン酸等の酸性物質、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、アンモニア等のアルカリ性物質、過マンガン酸カリウム(KMnO4)、二酸化マンガン(MnO2)、二クロム酸カリウム(K2Cr2O7)、オゾン、濃硫酸、硝酸、サラシ粉、過酸化水素、キノン類等の酸化剤、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)、硫化水素、過酸化水素、ヒドロキノン類等の還元剤を混合したもの等が挙げられる。
【0078】
マスキング5を除去する方法としては、例えば、マスキング除去剤を噴霧する方法(スプレー法)、液体状態のマスキング除去剤に浸漬する方法(液体状態のマスキング除去剤に浸漬した状態で電解する方法等を含む)、インクジェット法等が挙げられるが、この中でも特に、液体状態のマスキング除去剤に浸漬する方法が好ましい。これにより、マスキング5の除去をさらに容易かつ確実に行うことが可能となる。
【0079】
マスキング5の除去を、液体状態のマスキング除去剤に浸漬することにより行う場合、マスキング除去剤の温度は、特に限定されないが、例えば、15〜100℃であるのが好ましく、30〜50℃であるのがより好ましい。マスキング除去剤の温度が前記下限値未満であると、マスキング5の厚さ等によっては、マスキング5を十分に除去するのに要する時間が長くなり、装飾品1Aの生産性が低下する場合がある。一方、マスキング除去剤の温度が前記上限値を超えると、マスキング除去剤の蒸気圧、沸点等によっては、マスキング除去剤の揮発量が多くなり、マスキング5の除去に必要なマスキング除去剤の量が多くなる傾向を示す。
【0080】
また、マスキング除去剤への浸漬時間は、特に限定されないが、例えば、5〜60分間であるのが好ましく、5〜30分間であるのがより好ましい。マスキング除去剤への浸漬時間が前記下限値未満であると、マスキング5の厚さ、マスキング除去剤の温度等によっては、マスキング5を十分に除去するのが困難となる場合がある。一方、マスキング除去剤への浸漬時間が前記上限値を超えると、装飾品1Aの生産性が低下する。
【0081】
以上説明したように、本発明では、基材に対して、実質的にダメージを与えることなくダイヤモンド様炭素膜を除去することができる。
これにより、例えば、下地層を有する基材(装飾品)に対して、ダイヤモンド様炭素膜を形成する際に、被覆不良(例えば、不均一な膜厚、色調のばらつき等)を生じた場合であっても、基材からダイヤモンド様炭素膜を、容易かつ確実に除去することができ、基材の再利用が可能となる。その結果、装飾品(部材)の歩留りが向上する。
【0082】
本発明によれば、特別な装置を用いることなく安価に、ダイヤモンド様炭素膜の除去を行うことができる。また、本発明は、生産コストの面からも有利である。
また、前述したように、ダイヤモンド様炭素膜3は、優れた光沢を有する。このため、装飾品1A(部材10A)全体としての美的外観を特に優れたものとすることができる。
また、ダイヤモンド様炭素膜3は、高硬度で、優れた耐磨耗性・耐擦傷性を有している。このため、ダイヤモンド様炭素膜3を有することにより、部材10A(装飾品1A)の破損、損傷等を効果的に防止することができる。
【0083】
また、ダイヤモンド様炭素膜3は、優れた潤滑性を有する。このため、ダイヤモンド様炭素膜3が形成された部位における摩擦を有効に低減させることができる。その結果、例えば、装飾品1A(部材10A)が、摺動させて用いるようなもの(例えば、ネジ部を有するようなものや、後述するような回転ベゼル、ボタン、ネジロック式りゅうず、歯車、輪列受け等)であって、その摺動部にダイヤモンド様炭素膜3を有するものである場合、その摺動操作を円滑に行うことができる。また、摩擦による装飾品1A(部材10A)の破損、故障等も、効果的に防止することができる。
【0084】
また、ダイヤモンド様炭素膜形成時における雰囲気ガスの組成を適宜選択することにより、容易に、所望の組成、特性を有するダイヤモンド様炭素膜を形成することができる。
また、基材の構成材料等を選択することにより、複雑な形状を有する装飾品を容易に製造することが可能となり、また、装飾品の軽量化、製造コストの低減等を達成することができる。
【0085】
なお、本実施形態では、部材10Aにマスキング5を被覆した後、剥離剤を用いてダイヤモンド様炭素膜3を除去する構成について説明したが、マスキング5は、形成しなくてもよい。例えば、マスキング5を形成せずに、ダイヤモンド様炭素膜3のほぼ全面に剥離剤を付与することにより、部材10Aのダイヤモンド様炭素膜3の全てを除去することができる。このように、本発明では、ダイヤモンド様炭素膜3の一部を除去するものであっても、ダイヤモンド様炭素膜3の全てを除去するものであってもよい。
【0086】
また、前述したように、本発明においては、剥離剤の付与方法は、特に限定されるものではない。例えば、剥離剤は、インクジェット法等により、部材10Aに付与してもよい。インクジェット法によれば、剥離剤(剥離液)を付与する部位を容易かつ確実に制御することができるため、前述したようなマスキングの形成の工程を省略または簡略化することができる。
【0087】
次に、装飾品1Aについて説明する。
装飾品1Aは、装飾性を備えた物品であればいかなるものでもよいが、例えば、置物等のインテリア、エクステリア用品、宝飾品、時計ケース(胴、裏蓋等)、時計バンド(バンド中留、バンド・バングル着脱機構等を含む)、文字盤、時計用針、ベゼル(例えば、回転ベゼル等)、りゅうず(例えば、ネジロック式りゅうず等)、ボタン等の時計用外装部品、ムーブメントの地板、歯車、輪列受け、回転錘等の時計用内装部品、メガネ、ネクタイピン、カフスボタン、指輪、ネックレス、ブレスレット、アンクレット、ブローチ、ペンダント、イヤリング、ピアス等の装身具、ライターまたはそのケース、自動車のホイール、ゴルフクラブ等のスポーツ用品、銘板、パネル、賞杯、その他ハウジング等を含む各種機器部品、各種容器等が挙げられる。この中でも特に、少なくともその一部が皮膚に接触して用いられるものが好ましく、時計用外装部品がより好ましい。時計用外装部品は、装飾品として外観の美しさが要求されるとともに、実用品として、耐久性、耐食性、耐摩耗性や、優れた触感等が要求されるが、本発明によればこれらの要件を全て満足することができる。
【0088】
また、特に、本発明を回転ベゼルに適用した場合、クリック部のすべりが良くなり、ベゼルの回転が滑らかになる。その結果、回転ベゼルの実用性が向上し、また、装飾品としての高級感も向上する。また、ベゼルの回転機構部のみぞ・突起部の磨耗等も好適に防止・抑制される。また、回転ベゼルを量産した際における、各個体間でのベゼルの回転トルク値のばらつきを抑制することができ、全体としての品質が安定する。
【0089】
また、本発明をネジロック式りゅうずに適用した場合、ネジ回し時における、いわゆるゴリ感(ネジが噛むような感触)を好適に防止することができる。また、ネジロック式りゅうずを量産した際における、各個体間でのネジの回転トルク値のばらつきを抑制することができ、全体としての品質が安定する。
また、本発明をバンド中留バンドエンドピース、バンド・バングル着脱機構、裏蓋等に適用した場合、長期間にわたって、安定した留め力を確保することができる。特に、本発明を裏蓋に適用した場合には、時計の防水性をより確実に発揮することが可能になる。
また、本発明をボタンに適用した場合、ボタンの押し込み感が滑らかになる。その結果、ボタンの実用性が向上し、また、装飾品としての高級感も向上する。
【0090】
また、本発明の時計は、上述したような本発明の装飾品を有するものである。上述したように、本発明の装飾品は、高硬度で、耐擦傷性(耐磨耗性)、耐食性に優れ、長期間にわたって優れた美的外観を保持することができるものである。このため、このような装飾品を備えた本発明の時計は、時計としての求められる要件を十分に満足することができる。すなわち、本発明の時計は、特に優れた審美性を長期間にわたって保持することができる。また、変色を生じにくいため、視認しやすい状態を長期間にわたって維持することができる。特に、本発明によれば、特別な気密構造を必要とすることなく、上記のような効果が得られる点に特徴を有する。なお、本発明の時計を構成する前記装飾品以外の部品としては、公知のものを用いることができる。
なお、本実施形態では、本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法により装飾品を得る方法について説明したが、本発明は、例えば、金型(型)、工具、電子部品等のように装飾性があまり求められないような物品(部材)に対しても適用できることは、言うまでもない。
【0091】
次に、本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法、装飾品および時計の第2実施形態について説明する。
図3は、本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法に適用される部材の製造方法の一例を示す断面図、図4は、本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法の第2実施形態を示す断面図である。
【0092】
以下、第2実施形態のダイヤモンド様炭素膜の除去方法および該方法を用いて製造される第2実施形態の装飾品について、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明については、その説明を省略する。
図3に示すように、部材10Bは、基材2の表面の少なくとも一部(2a)に、下地層(基材側から順に、第1の下地層41、第2の下地層42、第3の下地層43)を形成する工程(2b、2c、2d)と、前記下地層の表面の少なくとも一部に、主としてダイヤモンド様炭素(DLC)で構成されるダイヤモンド様炭素膜3を形成する工程(2e)とを有する方法により、製造することができる。
以下、第1の下地層41、第2の下地層42および第3の下地層43について、順に説明する。
【0093】
[第1の下地層]
基材2の表面に、第1の下地層41を形成する。
第1の下地層41は、例えば、基材2と第2の下地層42との密着性を向上させる機能や、基材2の孔、キズ等をレベリング(ならし)により補修する機能等を有する。
【0094】
第1の下地層41の形成方法としては、例えば、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射、金属箔の接合、基材2の表面に対する化学処理(例えば、酸化処理、窒化処理)等が挙げられるが、この中でも特に、湿式メッキ法または乾式メッキ法が好ましい。
【0095】
第1の下地層41の形成方法として、湿式メッキ法または乾式メッキ法を用いることにより、形成される第1の下地層41は、基材2との密着性に特に優れたものとなる。その結果、得られる装飾品1Bの長期耐久性は、特に優れたものとなる。
また、第1の下地層41は、例えば、基材2の表面に、酸化処理、窒化処理、クロメート処理、炭化処理、酸浸漬、酸電解処理、アルカリ浸漬処理、アルカリ電解処理等の化学処理を施すことにより形成された被膜、特に、不動態膜であってもよい。
【0096】
第1の下地層41の構成材料としては、例えば、Cu、Sn、Ni、Zn、Fe、In、Co、Al等の金属材料や、前記金属材料のうち少なくとも1種を含む合金、前記金属材料のうち少なくとも1種による金属化合物(例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等)、またはこれらを2種以上組み合わせたもの等が挙げられる。
また、第1の下地層41の構成材料は、基材2を構成する材料または第2の下地層42を構成する材料のうち少なくとも1種を含むものであるのが好ましい。これにより、基材2、第2の下地層42との密着性がさらに向上する。
【0097】
第1の下地層41の平均厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1〜20.0μmであるのが好ましく、0.5〜10.0μmであるのがより好ましい。第1の下地層41の平均厚さが前記下限値未満であると、第1の下地層41の効果が十分に発揮されない可能性がある。一方、第1の下地層41の平均厚さが前記上限値を超えると、第1の下地層41の各部位における膜厚のバラツキが大きくなる傾向を示す。また、第1の下地層41の内部応力が高くなり、クラックが発生し易くなる。
【0098】
なお、図示の構成では、第1の下地層41は、基材2の全面に形成されているが、基材2の表面の少なくとも一部に形成されるものであればよい。また、第1の下地層41の各部位における組成は、一定であっても、一定でなくてもよい。例えば、第1の下地層41は、その厚さ方向に沿って、組成が順次変化するもの(傾斜材料)であってもよい。
【0099】
[第2の下地層]
次に、第1の下地層41の表面に、第2の下地層42を形成する。
第2の下地層42は、例えば、その一方の面側(第1の下地層41)と他方の面側(第3の下地層43)との電位差を緩和する緩衝層として機能する。これにより、第2の下地層42の一方の面側(第1の下地層41)と他方の面側(第3の下地層43)との電位差による腐食(異種金属接触腐食)の発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0100】
第2の下地層42の形成方法としては、例えば、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射、金属箔の接合、第1の下地層41の表面に対する化学処理(例えば、酸化処理、窒化処理)等が挙げられるが、この中でも特に、湿式メッキ法または乾式メッキ法が好ましい。
【0101】
第2の下地層42の形成方法として、湿式メッキ法または乾式メッキ法を用いることにより、形成される第2の下地層42は、第1の下地層41との密着性に特に優れたものとなる。その結果、得られる装飾品1Bの長期耐久性は、特に優れたものとなる。
また、第2の下地層42は、例えば、第1の下地層41の表面に、酸化処理、窒化処理、クロメート処理、炭化処理、酸浸漬、酸電解処理、アルカリ浸漬処理、アルカリ電解処理等の化学処理を施すことにより形成された被膜、特に、不動態膜であってもよい。
【0102】
第2の下地層42の標準電位は、第1の下地層41の標準電位と、第3の下地層43の標準電位との間の値であるのが好ましい。すなわち、第2の下地層42は、その標準電位が、第1の下地層41の構成材料の標準電位と、第3の下地層43の構成材料の標準電位との間の値である材料で構成されたものであるのが好ましい。これにより、第2の下地層42の一方の面側(第1の下地層41)と他方の面側(第3の下地層43)との電位差による腐食(異種金属接触腐食)の発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0103】
第2の下地層42の構成材料としては、例えば、Cu、Sn、Zn、Fe、In、Ag、Au、Pd、Ti、Cr等の金属材料や、前記金属材料のうち少なくとも1種を含む合金、前記金属材料のうち少なくとも1種による金属化合物(例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等)、またはこれらを2種以上組み合わせたもの等が挙げられる。
【0104】
また、第2の下地層42の構成材料は、第1の下地層41を構成する材料または第3の下地層43を構成する材料のうち少なくとも1種を含むものであるのが好ましい。言い換えると、隣接する2つの下地層は、互いに共通の元素を含む材料で構成されたものであるのが好ましい。これにより、隣接する下地層(第1の下地層41、第3の下地層43)との密着性がさらに向上する。特に、前記共通の元素がCuであると、隣接する下地層との密着性は、特に優れたものとなる。
【0105】
第2の下地層42の平均厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1〜20.0μmであるのが好ましく、0.5〜10.0μmであるのがより好ましい。第2の下地層42の平均厚さが前記下限値未満であると、第2の下地層42の効果が十分に発揮されない可能性がある。一方、第2の下地層42の平均厚さが前記上限値を超えると、第2の下地層42の各部位における膜厚のバラツキが大きくなる傾向を示す。また、第2の下地層42の内部応力が高くなり、クラックが発生し易くなる。
【0106】
なお、図示の構成では、第2の下地層42は、第1の下地層41の全面に形成されているが、第1の下地層41の表面の少なくとも一部に形成されるものであればよい。また、第2の下地層42の各部位における組成は、一定であっても、一定でなくてもよい。例えば、第2の下地層42は、その厚さ方向に沿って、組成が順次変化するもの(傾斜材料)であってもよい。
【0107】
[第3の下地層]
さらに、第2の下地層42の表面に、第3の下地層43を形成する。
第3の下地層43は、その少なくとも一部が、後述する剥離剤により除去されるものである。このような第3の下地層43が設けられることにより、ダイヤモンド様炭素膜3を容易かつ確実に除去することが可能になる。
また、第3の下地層43は、例えば、第2の下地層42とダイヤモンド様炭素膜3との密着性を向上させる機能や、保管時(ダイヤモンド様炭素膜3の形成の工程までの間)等に腐食が発生するのを防止する機能等を有するものであってもよい。
【0108】
第3の下地層43の形成方法としては、例えば、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射、金属箔の接合、第2の下地層42の表面に対する化学処理(例えば、酸化処理、窒化処理)等が挙げられるが、この中でも特に、湿式メッキ法または乾式メッキ法が好ましい。
【0109】
第3の下地層43の形成方法として、湿式メッキ法または乾式メッキ法を用いることにより、形成される第3の下地層43は、第2の下地層42との密着性に特に優れたものとなる。その結果、得られる装飾品1Bの長期耐久性は、特に優れたものとなる。
また、第3の下地層43は、例えば、第2の下地層42の表面に、酸化処理、窒化処理、クロメート処理、炭化処理、酸浸漬、酸電解処理、アルカリ浸漬処理、アルカリ電解処理等の化学処理を施すことにより形成された被膜、特に、不動態膜であってもよい。
【0110】
第3の下地層43の構成材料としては、前述した実施形態での下地層40の構成材料を用いることができる。
また、第3の下地層43の構成材料は、第2の下地層42を構成する材料またはダイヤモンド様炭素膜3を構成する材料のうち少なくとも1種を含むものであるのが好ましい。これにより、第2の下地層42、ダイヤモンド様炭素膜3との密着性がさらに向上する。
【0111】
第3の下地層43の平均厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1〜20.0μmであるのが好ましく、1.0〜3.0μmであるのがより好ましい。第3の下地層43の平均厚さが前記下限値未満であると、第3の下地層43の効果が十分に発揮されない可能性がある。一方、第3の下地層43の平均厚さが前記上限値を超えると、第3の下地層43の各部位における膜厚のバラツキが大きくなる傾向を示す。また、第3の下地層43の内部応力が高くなり、クラックが発生し易くなる。
【0112】
図3に示すように、本実施形態では、第3の下地層43は、第2の下地層42の表面の一部にのみ形成されている。このような構成とすることにより、後述する工程において、マスキングを用いなくても、ダイヤモンド様炭素膜3を好適に除去することができる。
第3の下地層43は、第2の下地層42の表面に、直接、所望の形状となるように形成されるものに限定されない。例えば、第2の下地層42の表面のほぼ全面に、第3の下地層43の構成材料を被覆した後、その一部を除去することにより、所望のパターンを有する第3の下地層43としてもよい。また、フォトリソグラフィー法等により所望の形状のマスク(レジスト)を形成し、所望のパターンを有する第3の下地層43を形成し、その後、該マスク(レジスト)を除去してもよい。
なお、第3の下地層43は、第2の下地層42のほぼ全面に形成されていてもよい。
また、第3の下地層43の各部位における組成は、一定であっても、一定でなくてもよい。例えば、第3の下地層43は、その厚さ方向に沿って、組成が順次変化するもの(傾斜材料)であってもよい。
【0113】
以上説明したように、基材2の表面に、第1の下地層41と、第2の下地層42と、第3の下地層43とを、この順に積層することにより、基材2とダイヤモンド様炭素膜3との密着性、装飾品1Bの耐食性がさらに優れたものとなる。その結果、装飾品1Bは、特に耐久性に優れたものとなる。
なお、第1の下地層41、第2の下地層42、第3の下地層43は、それぞれ前述したような機能を有するものに限定されず、他の効果を有するものであってもよい。
【0114】
次に、上述した部材10Bからダイヤモンド様炭素膜3の少なくとも一部を除去する方法について、前述した実施形態との相違点を中心に説明する。
図4に示すように、本実施形態のダイヤモンド様炭素膜の除去方法は、上記のような部材10Bの表面(2e)に、剥離剤を付与することにより、第3の下地層43およびダイヤモンド様炭素膜3を除去する工程(2f)を有している。すなわち、前述した実施形態のように、部材上にマスキングを形成する工程、および、マスキングを除去する工程を有していない。
【0115】
前述したように、部材10Bにおいて、第3の下地層43は、第2の下地層42の表面の一部にのみ形成されている。このため、例えば、剥離剤として、第3の下地層43を除去することが可能であり、かつ、第2の下地層42を除去することが実質的に不可能であるものを用いることにより、前述したようなマスキングを用いなくても、ダイヤモンド様炭素膜3のうち、第3の下地層43上に形成された部位のみを除去することができる。
【0116】
また、剥離剤として、第2の下地層42を除去することが可能であり、かつ、第3の下地層43を除去することが実質的に不可能であるものを用いることにより、図5に示すように、前述したようなマスキングを用いなくても、ダイヤモンド様炭素膜3のうち、第2の下地層42の表面に直接形成された部位のみを除去することができる。
【0117】
以上、本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法、装飾品および時計の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、前述した第1実施形態において、部材は1層の下地層を有しており、また、第2実施形態において、部材は3層の下地層(第1の下地層、第2の下地層、第3の下地層)を有しているが、下地層は、2層または4層以上であってもよい。この場合、下地層の少なくとも1層がその片方の面側と他方側との電位差を緩和する作用を有するものであるのが好ましい。
【0118】
また、下地層が2層または4層以上の場合であっても、前述したように、隣接する2つの下地層は、互いに共通の元素を含む材料で構成されたものであるのが好ましい。これにより、隣接する下地層同士の密着性がさらに向上する。また、前記共通の元素がCuであると、隣接する下地層同士の密着性は、特に優れたものとなる。
また、装飾品の表面の少なくとも一部には、耐食性、耐候性、耐水性、耐油性、耐摩耗性、耐変色性等を付与し、防錆、防汚、防曇、防傷等の効果を向上する保護層等が形成されていてもよい。
【0119】
【実施例】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.装飾品の製造
(実施例1)
以下に示すような方法により、装飾品(腕時計ケース(裏蓋))を製造した。
【0120】
[A1] まず、ステンレス鋼(SUS304)を用いて、鋳造により、腕時計ケース(裏蓋)の形状を有する基材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。
[A2] 次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
【0121】
[A3] このようにして洗浄を行った基材の表面に、Crで構成される下地層を形成した。
下地層の形成は、湿式メッキにより、浴温:45℃、電流密度:4A/dm2、時間:5分間という条件で行った。
このようにして形成された下地層の平均厚さは、1.0μmであった。
[A4] 次に、下地層が積層された基材を洗浄した。この洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
【0122】
[A5] このようにして洗浄を行った下地層の表面に、主としてダイヤモンド様炭素で構成されるダイヤモンド様炭素膜を形成し、部材を得た。
ダイヤモンド様炭素膜の形成は、スパッタリングにより行った。
このスパッタリングは、真空装置を用いて以下のようにして行った。
まず、真空装置内をアルゴンガス:60vol%と、メタンガス:40vol%との混合ガスで置換した。その後、混合ガスの流量、排気量を調整することにより、雰囲気圧を0.6Paとした。
真空装置内の雰囲気圧を調整した後、ターゲットとしてグラファイトを用い、高周波放電を行うことにより、ダイヤモンド様炭素膜を形成した。
なお、スパッタリング時における混合ガスの流量は60SCCMであり、雰囲気圧が0.6Paとなるようにした。高周波電力は、500Wであった。また、成膜速度は、0.4μm/hであった。
このようにして形成されたダイヤモンド様炭素膜の平均厚さは、0.5μmであった。
【0123】
[A6] 前記[A5]の工程で得られた部材を、大気圧の雰囲気中で、剥離液中に浸漬し、陽極電解を行うことにより、下地層とともに、ダイヤモンド様炭素膜を除去した。剥離液としては、7wt%の炭酸ナトリウム水溶液を用いた。また、部材の剥離液中への浸漬時間は、25分とした。浸漬時における、剥離液の温度は30℃、電流密度は5A/dm2であった。
【0124】
[A7] その後、前記[A2]〜[A6]の一連の工程を3回繰り返し行い、装飾品を得た。すなわち、ダイヤモンド様炭素膜の形成−除去の処理を4回繰り返し行った。
また、装飾品の製造に用いた基材および得られた装飾品について、JIS B0601で規定される表面粗さRmaxを測定した。
基材の研磨を行った箇所の表面粗さRmaxは、0.2〜0.4μmであった。最終的に得られた装飾品においては、これに対応する箇所の表面粗さRmaxは、0.2〜0.45μmとなっていた。このことから、本実施例では、ダイヤモンド様炭素膜の形成−除去の処理を繰り返し行っても、基材の表面がほとんど荒らされていないことがわかる。
【0125】
(実施例2)
以下に示すような方法により、装飾品(腕時計用文字盤)を製造した。
[B1] まず、ステンレス鋼(SUS304)を用いて、鋳造により、腕時計用文字盤の形状を有する基材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。
[B2] 以上のようにして得られた基材について、その必要箇所を切削、研磨した後、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
【0126】
[B3] このようにして洗浄を行った基材の表面に、TiNで構成される下地層を形成した。
下地層の形成は、以下に説明するようなイオンプレーティングにより行った。
まず、下地層が形成された基材を、イオンプレーティング装置内に取付け、その後、装置内を予熱しながら、イオンプレーティング装置内を3×10−3Paまで排気(減圧)した。
【0127】
次に、アルゴンガス流量100ml/分で、ボンバード処理を3分間行った。ボンバード処理におけるイオンプレーティング装置内の圧力は、9×10−2Paであった。
次に、イオンプレーティング装置内を2×10−3Paまで排気(減圧)した後、窒素ガスを導入し、イオンプレーティング装置内の圧力を3×10−1Paとした。このような状態で、ターゲットとしてTiを用い、イオン化電圧:30V、イオン化電流:140Aに設定することにより、TiNで構成される下地層を形成した。
このようにして形成された下地層の平均厚さは、5μmであった。
【0128】
[B4] 次に、下地層が形成された基材を洗浄した。この洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
[B5] このようにして洗浄を行った下地層の表面に、主としてダイヤモンド様炭素で構成されるダイヤモンド様炭素膜を形成し、部材を得た。
ダイヤモンド様炭素膜の形成は、前記実施例1と同様の条件のスパッタリングにより行った。
【0129】
[B6] 次に、前記[B5]の工程で得られた部材のダイヤモンド様炭素膜の表面の一部に、マスキングを所定の形状に形成した。
マスキングの形成は、以下のようにして行った。
まず、ゴム系樹脂を刷毛塗りすることにより、ダイヤモンド様炭素膜の全面を被覆し、その後、180〜200℃で、30分間乾燥した。
その後、レーザー光(YAGレーザー)を照射し、マスキングの一部を除去することにより、所定のパターンに成形した。このようにして形成されたマスキングの平均厚さは、500μmであった。
【0130】
[B7] 次に、マスキングが被覆されていない部位のダイヤモンド様炭素膜の除去を行った。
[B8] マスキングで被覆された部材を、剥離液中に浸漬することにより、下地層とともに、ダイヤモンド様炭素膜を除去した。剥離液としては、フッ化水素:30wt%、硝酸:40wt%、水:30wt%を含む溶液を用いた。また、部材の剥離液中への浸漬時間は、15分とした。浸漬時における剥離液の温度は25℃であった。また、部材の剥離液中への浸漬時における雰囲気(空気)圧力は、初期の段階では、1×103Paとし、部材を剥離液に浸漬してから5分経過した後に、雰囲気圧を高めていき、それから2分後に、1×107Paとなるようにした。
【0131】
[B9] その後、ハロゲン化合物系溶媒、ケトン系溶媒よりなるマスキング除去剤に浸漬することにより、マスキングを除去し、装飾品を得た。また、本工程におけるマスキング除去剤の温度、マスキング除去剤への浸漬時間は、それぞれ30℃、30分であった。
また、装飾品の製造に用いた基材および得られた装飾品について、JIS B0601で規定される表面粗さRmaxを測定した。
【0132】
装飾品の基材が露出している部位の表面粗さRmaxは、0.2〜0.4μmであった。また、装飾品の製造に用いた基材においては、これに対応する箇所の表面粗さRmaxは、0.2〜0.45μmであった。このことから、本実施例では、ダイヤモンド様炭素膜の形成−除去の処理を行っても、基材の表面がほとんど荒らされていないことがわかる。
【0133】
(実施例3)
以下に示すような方法により、装飾品(腕時計ケースおよび回転ベゼル)を製造した。
【0134】
[C1] まず、Cu−Zn系合金(合金組成:Cu60wt%−Zn40wt%)を用いて、鋳造により、腕時計ケース(胴)の形状を有する基材、回転ベゼルの形状を有する基材をそれぞれ作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。
[C2] 次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
【0135】
[C3] このようにして洗浄を行った基材の表面に、Cuで構成される第1の下地層を形成した。
第1の下地層の形成は、湿式メッキにより、浴温:60℃、電流密度:3A/dm2、時間:1分間という条件で行った。
このようにして形成された第1の下地層の平均厚さは、1μmであった。
【0136】
[C4] その後、第1の下地層の表面に、Cu−Sn系合金で構成される第2の下地層を形成した。
第2の下地層の形成は、湿式メッキにより、浴温:60℃、電流密度:3A/dm2、時間:2分間という条件で行った。
このようにして形成された第2の下地層の平均厚さは、3μmであった。
【0137】
[C5] さらに、第2の下地層の表面の一部(回転ベゼルの摺動部となるべき部位以外の部位)に、Auで構成される第3の下地層を形成した。
この工程は、まず、フォトリソグラフィー法により、所定パターンのマスク(レジスト)を形成し、その開口部にAuで構成される第3の下地層を湿式めっきにより形成し、その後、マスク(レジスト)を除去することにより行った。
湿式メッキは、浴温:60℃、電流密度:3A/dm2、時間:10分間という条件で行った。
このようにして形成された第3の下地層の平均厚さは、3μmであった。
【0138】
[C6] 次に、第1〜第3の下地層が積層された基材を洗浄した。この洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
[C7] このようにして洗浄を行った第3の下地層および第2の下地層の表面に、主としてダイヤモンド様炭素で構成されるダイヤモンド様炭素膜を形成し、部材を得た。
ダイヤモンド様炭素膜の形成は、前記実施例1と同様の条件のスパッタリングにより行った。
【0139】
[C8] 次に、前記[C7]の工程で得られた部材を、剥離液中に浸漬することにより、第3の下地層とともに、ダイヤモンド様炭素膜の一部を除去し、装飾品(腕時計ケースおよび回転ベゼル)を得た。剥離液としては、シアン系剥離剤を用いた。また、部材の剥離液中への浸漬時間は、15分とした。浸漬時における剥離液の温度は25℃であった。また、部材の剥離液中への浸漬時における雰囲気(空気)圧力は、初期の段階では、1×103Paとし、部材を剥離液に浸漬してから5分経過した後に、雰囲気圧を高めていき、それから2分後に、1×107Paとなるようにした。
[C9] その後、各装飾品(腕時計ケースおよび回転ベゼル)を組み立てた。
【0140】
(実施例4)
以下に示すような方法により、装飾品(腕時計ケースおよびネジロック式りゅうず)を製造した。
[D1] まず、黄銅(Cu65wt%、Zn35wt%)を用いて、鍛造により、腕時計ケース(胴)の形状を有する基材、ネジロック式りゅうずの形状を有する基材をそれぞれ作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。
【0141】
[D2] 次に、これらの基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
【0142】
[D3] このようにして洗浄を行った基材の表面に、Cuで構成される第1の下地層を形成した。
第1の下地層の形成は、湿式メッキにより、浴温:60℃、電流密度:3A/dm2、時間:1分間という条件で行った。
このようにして形成された第1の下地層の平均厚さは、1μmであった。
【0143】
[D4] その後、第1の下地層の表面に、Niで構成される第2の下地層を形成した。
第2の下地層の形成は、湿式メッキにより、浴温:40℃、電流密度:3A/dm2、時間:5分間という条件で行った。
このようにして形成された第2の下地層の平均厚さは2μmであった。
【0144】
[D5] さらに、第2の下地層の表面の一部(ネジロック式りゅうずのネジ部となるべき部位)に、Auで構成される第3の下地層を形成した。
この工程は、まず、フォトリソグラフィー法により、所定パターンのマスク(レジスト)を形成し、その開口部にAuで構成される第3の下地層を湿式めっきにより形成し、その後、マスク(レジスト)を除去することにより行った。
湿式メッキは、浴温:60℃、電流密度:3A/dm2、時間:10分間という条件で行った。
このようにして形成された第3の下地層の平均厚さは、3μmであった。
【0145】
[D6] 次に、第1〜第3の下地層が積層された基材を洗浄した。この洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
[D7] このようにして洗浄を行った第3の下地層および第2の下地層の表面に、主としてダイヤモンド様炭素で構成されるダイヤモンド様炭素膜を形成し、部材を得た。
ダイヤモンド様炭素膜の形成は、前記実施例1と同様の条件のスパッタリングにより行った。
【0146】
[D8] 次に、前記[D7]の工程で得られた部材を、剥離液中に浸漬することにより、第2の下地層(第3の下地層が積層されていない部位の第2の下地層)とともに、ダイヤモンド様炭素膜の一部を除去し、装飾品(腕時計ケースおよびネジロック式りゅうず)を得た。剥離液としては、シアン系剥離剤を用いた。また、部材の剥離液中への浸漬時間は、15分とした。浸漬時における剥離液の温度は25℃であった。また、部材の剥離液中への浸漬時における雰囲気(空気)圧力は、初期の段階では、1×103Paとし、部材を剥離液に浸漬してから5分経過した後に、雰囲気圧を高めていき、それから2分後に、1×107Paとなるようにした。
[D9] その後、各装飾品(腕時計ケースおよびネジロック式りゅうず)を組み立てた。
【0147】
(実施例5)
以下に示すような方法により、装飾品(三つ折り構造のバンド中留)を製造した。
[E1] まず、ステンレス鋼(SUS316L)を用いて、鍛造により、三つ折り構造のバンド中留の各構成部品の形状を有する基材をそれぞれ作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。
[E2] 次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
【0148】
[E3] このようにして洗浄を行った基材の表面に、Crで構成される下地層を形成した。
下地層の形成は、湿式メッキにより、浴温:45℃、電流密度:4A/dm2、時間:5分間という条件で行った。
このようにして形成された下地層の平均厚さは、1μmであった。
[E4] 次に、下地層が積層された基材を洗浄した。この洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
【0149】
[E5] このようにして洗浄を行った下地層の表面に、主としてダイヤモンド様炭素で構成されるダイヤモンド様炭素膜を形成し、部材を得た。
ダイヤモンド様炭素膜の形成は、スパッタリングにより行った。
このスパッタリングは、真空装置を用いて以下のようにして行った。
まず、真空装置内をアルゴンガス:60vol%と、メタンガス:40vol%との混合ガスで置換した。その後、混合ガスの流量、排気量を調整することにより、雰囲気圧を0.6Paとした。
【0150】
真空装置内の雰囲気圧を調整した後、ターゲットとしてグラファイトを用い、高周波放電を行うことにより、ダイヤモンド様炭素膜を形成した。
なお、スパッタリング時における混合ガスの流量は60SCCMであり、雰囲気圧が0.6Paとなるようにした。高周波電力は、500Wであった。また、成膜速度は、0.4μm/hであった。
このようにして形成されたダイヤモンド様炭素膜の平均厚さは、0.5μmであった。
【0151】
[E6] 前記[E5]の工程で得られた部材を、大気圧の雰囲気中で、剥離液中に浸漬し、陽極電解を行うことにより、下地層とともに、ダイヤモンド様炭素膜を除去した。剥離液としては、7wt%の炭酸ナトリウム水溶液を用いた。また、部材の剥離液中への浸漬時間は、25分とした。浸漬時における、剥離液の温度は30℃、電流密度は5A/dm2であった。
[E7] さらに、前記[E2]〜[E5]の一連の工程を行い、その後、各部品を組み立てることにより、装飾品(三つ折り構造のバンド中留)を得た。
【0152】
(比較例1)
以下に示すような方法により、装飾品(腕時計ケース(裏蓋))を製造した。
[F1] まず、前記実施例1(工程[A1]〜[A5])と同様にして、腕時計ケース(裏蓋)の形状を有する部材を形成した。
[F2] 次に、グロー放電により、得られた部材からダイヤモンド様炭素膜を除去し、装飾品を得た。具体的には、ダイヤモンド様炭素膜を有する部材を陰極と同電位に保持し、水素と酸素との体積比が5:1の混合ガス雰囲気中で50Paの圧力下で、500mAの放電電流を流してグロー放電を発生させ、2時間の処理を行った。
その結果、得られた装飾品において、ダイヤモンド様炭素膜は、部分的に(まだらに)残存していた。また、ダイヤモンド様炭素膜が除去された部位においては、下地層が部分的に除去されており、基材が露出している部位と、下地層が残存する部位とが混在していた。
【0153】
(比較例2)
以下に示すような方法により、装飾品(腕時計ケース(裏蓋))を製造した。
[G1] まず、前記実施例1(工程[A1]〜[A5])と同様にして、腕時計ケース(裏蓋)の形状を有する部材を形成した。
[G2] 次に、アーク放電により、得られた部材からダイヤモンド様炭素膜を除去し、装飾品を得た。具体的には、ダイヤモンド様炭素膜を有する部材を、水素と酸素との体積比が5:1の混合ガス中に発生させたアーク放電プラズマ中に不動電位状態で2時間保持した。
その結果、得られた装飾品において、ダイヤモンド様炭素膜は、部分的に(まだらに)残存していた。また、ダイヤモンド様炭素膜が除去された部位においては、下地層が部分的に除去されており、基材が露出している部位と、下地層が残存する部位とが混在していた。
【0154】
(比較例3)
以下に示すような方法により、装飾品(腕時計ケースおよび回転ベゼル)を製造した。
[H1] まず、前記実施例3(工程[C1]〜[C7])と同様にして、腕時計ケースおよび回転ベゼルの形状を有する部材を形成した。
【0155】
[H2] 次に、グロー放電により、得られた部材からダイヤモンド様炭素膜を除去し、装飾品を得た。具体的には、ダイヤモンド様炭素膜を有する部材を陰極と同電位に保持し、水素と酸素との体積比が5:1の混合ガス雰囲気中で50Paの圧力下で、500mAの放電電流を流してグロー放電を発生させ、2時間の処理を行った。グロー放電は、回転ベゼルの摺動部となるべき部位以外の部位のみから、ダイヤモンド様炭素膜を除去することを試みたが、部材の各部位からほぼ均一にダイヤモンド様炭素膜が除去された。
また、以上のようにして得られた装飾品において、ダイヤモンド様炭素膜は、部分的に(まだらに)残存していた。また、ダイヤモンド様炭素膜が除去された部位においては、下地層(第3の下地層、第2の下地層、第1の下地層)が部分的に除去されており、第2の下地層、第1の下地層、基材が露出している部位と、第3の下地層が残存する部位とが混在していた。
[H3] その後、各装飾品(腕時計ケースおよび回転ベゼル)を組み立てた。
【0156】
(比較例4)
以下に示すような方法により、装飾品(腕時計ケースおよびネジロック式りゅうず)を製造した。
[I1] まず、前記実施例4(工程[D1]〜[D7])と同様にして、腕時計ケースおよびネジロック式りゅうずの形状を有する部材を形成した。
【0157】
[I2] 次に、グロー放電により、得られた部材からダイヤモンド様炭素膜を除去し、装飾品を得た。具体的には、ダイヤモンド様炭素膜を有する部材を陰極と同電位に保持し、水素と酸素との体積比が5:1の混合ガス雰囲気中で50Paの圧力下で、500mAの放電電流を流してグロー放電を発生させ、2時間の処理を行った。グロー放電は、ネジロック式りゅうずのネジ部となるべき部位以外の部位のみから、ダイヤモンド様炭素膜を除去することを試みたが、部材の各部位からほぼ均一にダイヤモンド様炭素膜が除去された。
また、以上のようにして得られた装飾品において、ダイヤモンド様炭素膜は、部分的に(まだらに)残存していた。また、ダイヤモンド様炭素膜が除去された部位においては、下地層(第3の下地層、第2の下地層、第1の下地層)が部分的に除去されており、第2の下地層、第1の下地層、基材が露出している部位と、第3の下地層が残存する部位とが混在していた。
[I3] その後、各装飾品(腕時計ケースおよびネジロック式りゅうず)を組み立てた。
【0158】
(比較例5)
以下に示すような方法により、装飾品(三つ折り構造のバンド中留)を製造した。
[J1] まず、前記実施例5(工程[E1]〜[E5])と同様にして、三つ折り構造のバンド中留の各構成部品の形状を有する部材を形成した。
【0159】
[J2] 次に、グロー放電により、得られた部材からダイヤモンド様炭素膜を除去し、装飾品を得た。具体的には、ダイヤモンド様炭素膜を有する部材を陰極と同電位に保持し、水素と酸素との体積比が5:1の混合ガス雰囲気中で50Paの圧力下で、500mAの放電電流を流してグロー放電を発生させ、2時間の処理を行った。
その結果、得られた装飾品において、ダイヤモンド様炭素膜は、部分的に(まだらに)残存していた。また、ダイヤモンド様炭素膜が除去された部位においては、下地層が部分的に除去されており、基材が露出している部位と、下地層が残存する部位とが混在していた。
【0160】
[J3] さらに、前記実施例5の[E2]〜[E5]の一連の工程を行い、その後、各部品を組み立てることにより、装飾品(三つ折り構造のバンド中留)を得た。
各実施例および各比較例における部材の構成、および、ダイヤモンド様炭素膜の除去条件を表1にまとめて示す。
【0161】
【表1】
【0162】
2.装飾品の外観評価
上記各実施例および各比較例で製造した装飾品について、目視および顕微鏡による観察を行い、これらの外観を以下の4段階の基準に従い、評価した。
◎:外観優良(表面の荒れが認められない)。
○:外観良(表面の荒れがほとんど認められない)。
△:外観やや不良(表面の荒れがはっきりと認められる)。
×:外観不良(表面の荒れが顕著に認められる)。
【0163】
3.ダイヤモンド様炭素膜の耐擦傷性評価
上記各実施例および各比較例で製造した装飾品について、以下に示すような試験を行い、耐擦傷性を評価した。
ステンレス製のブラシを、各装飾品のダイヤモンド様炭素膜が形成された部位に押し付け、50往復摺動させた。このときの押し付け荷重は、0.2kgfであった。
【0164】
その後、装飾品の表面を目視により観察し、これらの外観を以下の4段階の基準に従い、評価した。
◎:ダイヤモンド様炭素膜の表面に、傷の発生が全く認められない。
○:ダイヤモンド様炭素膜の表面に、傷の発生がほとんど認められない。
△:ダイヤモンド様炭素膜の表面に、傷の発生がわずかに認められる。
×:ダイヤモンド様炭素膜の表面に、傷の発生が顕著に認められる。
【0165】
4.装飾品の耐摩耗性評価
上記各実施例および各比較例で製造した各装飾品のダイヤモンド様炭素膜が形成された部位について、摩耗係数(耐鋼)の測定を行い、以下の3段階の基準に従い、評価した。
◎:摩耗係数が0.7未満。
○:摩耗係数が0.7以上0.8未満。
×:摩耗係数が0.8以上。
これらの結果を、ダイヤモンド様炭素膜のビッカース硬度Hv、ボールオンディスク法により測定されるダイヤモンド様炭素膜の摩擦係数μとともに表2に示す。なお、ビッカース硬度Hvとしては、各装飾品のダイヤモンド様炭素膜表面について、測定荷重25gfにて測定した値を示す。
【0166】
【表2】
【0167】
表2から明らかなように、本発明の装飾品は、いずれも優れた美的外観を有しており、耐擦傷性、耐摩耗性にも優れていた。
また、本発明の装飾品は、いずれも、ザラツキ感のない、優れた触感を有していた。
これに対し、比較例の装飾品は、美的外観に劣っていた。
【0168】
5.回転ベゼルの回転トルク
上記実施例3および比較例3で製造した装飾品(腕時計ケースおよび回転ベゼル)を用いて、時計を製造した。得られた各時計について、300gfの荷重を掛ける条件で、回転ベゼルの回転トルクの測定を行った。また、回転ベゼルを10000回回転させた後、同様の条件で回転トルクを測定した。
その結果を表3に示す。
【0169】
【表3】
【0170】
表3から明らかなように、実施例3の装飾品(腕時計ケースおよび回転ベゼル)を備えた時計では、製造直後、および、回転ベゼルの回転操作を繰り返し行った後のいずれにおいても、比較的高い回転トルクを安定して有していた。これに対し、比較例3の装飾品(腕時計ケースおよび回転ベゼル)を備えた時計では、回転トルクは小さかった。また、回転操作を繰り返し行うことにより、回転トルクはさらに低下した。
【0171】
6.ネジロック式りゅうずの着脱操作性評価
上記実施例4および比較例4で製造した装飾品(腕時計ケースおよびネジロック式りゅうず)を用いて、時計を製造した。得られた各時計について、ケースからネジロック式りゅうずを回転着脱する、回転着脱操作を行ったときの操作のし易さ(着脱操作性)を以下の4段階の基準に従い、評価した。
◎:回転着脱操作を非常にスムーズに行うことができる。
○:回転着脱操作を十分にスムーズに行うことができる。
△:回転着脱操作を行う際に、若干のゴリ感がある。
×:回転着脱操作を行う際に、顕著なゴリ感がある。
また、ネジロック式りゅうずの回転着脱操作を10000回行った後、上記と同様の基準に従い、着脱操作性を評価した。
その結果を表4に示す。
【0172】
【表4】
【0173】
表4から明らかなように、実施例4の装飾品(腕時計ケースおよびネジロック式りゅうず)を備えた時計では、製造直後、回転着脱操作を繰り返し行った後のいずれにおいても、優れた着脱操作性を示した。これに対し、比較例4の装飾品(腕時計ケースおよびネジロック式りゅうず)を備えた時計では、着脱操作性に劣っていた。また、回転着脱操作を繰り返し行うことにより、着脱操作性はさらに低下した。
【0174】
7.バンド中留の着脱性評価
上記実施例5および比較例5で製造した装飾品(バンド中留)を用いて、時計を製造した。得られた各時計について、バンド中留の着脱操作を行ったときの操作のし易さ(着脱操作性)を以下の4段階の基準に従い、評価した。
◎:着脱操作を非常にスムーズに行うことができる。
○:着脱操作を十分にスムーズに行うことができる。
△:着脱操作を行う際に、若干の引っかかりが認められる。
×:着脱操作を行う際に、顕著な引っかかりが認められる。
また、バンド中留の着脱操作を10000回行った後、上記と同様の基準に従い、着脱操作性を評価した。
その結果を表5に示す。
【0175】
【表5】
【0176】
表5から明らかなように、実施例5の装飾品(バンド中留)を備えた時計では、製造直後、着脱操作を繰り返し行った後のいずれにおいても、優れた着脱操作性を示した。これに対し、比較例5の装飾品(バンド中留)を備えた時計では、着脱操作性に劣っていた。また、回転着脱操作を繰り返し行うことにより、着脱操作性はさらに低下した。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法に適用される部材の製造方法の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法の第1実施形態を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法に適用される部材の製造方法の一例を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法の第2実施形態を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明のダイヤモンド様炭素膜の除去方法の他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
1A、1B、1B’……装飾品 2……基材 3……ダイヤモンド様炭素膜 40……下地層 41……第1の下地層 42……第2の下地層 43……第3の下地層 5……マスキング 10A、10B……部材
Claims (21)
- 基材と、
前記基材上の少なくとも一部に形成された少なくとも1層の下地層と、
前記下地層上の少なくとも一部に形成され、主としてダイヤモンド様炭素(DLC)で構成されたダイヤモンド様炭素膜とを有する部材から、前記ダイヤモンド様炭素膜の少なくとも一部を除去する方法であって、
前記基材から前記下地層を剥離し得る剥離剤を、前記ダイヤモンド様炭素膜上から付与することにより、前記剥離剤を前記ダイヤモンド様炭素膜中に浸透させ、前記下地層の少なくとも一部とともに、前記ダイヤモンド様炭素膜の少なくとも一部を除去することを特徴とするダイヤモンド様炭素膜の除去方法。 - 前記剥離剤の付与は、液状の前記剥離剤中に前記部材を浸漬することにより行う請求項1に記載のダイヤモンド様炭素膜の除去方法。
- 前記部材の前記剥離剤への浸漬時間は、10〜60分である請求項2に記載のダイヤモンド様炭素膜の除去方法。
- 雰囲気の圧力を8×104Pa以下とした状態で、前記部材を前記剥離剤中に浸漬する請求項2または3に記載のダイヤモンド様炭素膜の除去方法。
- 雰囲気の圧力を1.1×105Pa以上とした状態で、前記部材を前記剥離剤中に浸漬する請求項2ないし4のいずれかに記載のダイヤモンド様炭素膜の除去方法。
- 前記部材に前記剥離剤を付与する際における前記剥離剤の温度は、25〜40℃である請求項1ないし5のいずれかに記載のダイヤモンド様炭素膜の除去方法。
- 前記剥離剤は、主として無機材料で構成されたものである請求項1ないし6のいずれかに記載のダイヤモンド様炭素膜の除去方法。
- 前記ダイヤモンド様炭素膜のうち一部が前記下地層上に残存するように、前記部材に前記剥離剤を付与する請求項1ないし7のいずれかに記載のダイヤモンド様炭素膜の除去方法。
- 前記部材に前記剥離剤を付与した後に残存する前記ダイヤモンド様炭素膜は、前記部材の摺動部に形成されたものである請求項8に記載のダイヤモンド様炭素膜の除去方法。
- 前記部材に前記剥離剤を付与した後に残存する前記ダイヤモンド様炭素膜は、前記部材のネジ部に形成されたものである請求項8または9に記載のダイヤモンド様炭素膜の除去方法。
- 前記ダイヤモンド様炭素膜上の一部に、マスキングを被覆した状態で、前記部材に前記剥離剤を付与する請求項1ないし10のいずれかに記載のダイヤモンド様炭素膜の除去方法。
- 前記ダイヤモンド様炭素膜は、気相成膜法により形成されたものである請求項1ないし11のいずれかに記載のダイヤモンド様炭素膜の除去方法。
- 前記ダイヤモンド様炭素膜は、0.05〜30μm/hの成膜速度で形成されたものである請求項1ないし12のいずれかに記載のダイヤモンド様炭素膜の除去方法。
- 前記ダイヤモンド様炭素膜の平均厚さは、0.5〜2.0μmである請求項1ないし13のいずれかに記載のダイヤモンド様炭素膜の除去方法。
- ボールオンディスク法により測定される前記ダイヤモンド様炭素膜の摩擦係数μは、0.05〜0.7である請求項1ないし14のいずれかに記載のダイヤモンド様炭素膜の除去方法。
- 前記ダイヤモンド様炭素膜のビッカース硬度Hvは、800〜5000である請求項1ないし15のいずれかに記載のダイヤモンド様炭素膜の除去方法。
- 前記部材は、前記下地層として、Cu、Cr、Au、Si、Ag、WおよびTiからなる群より選択される少なくとも1種を含む材料で構成された層を有するものである請求項1ないし16のいずれかに記載のダイヤモンド様炭素膜の除去方法。
- 前記基材は、Fe、Cu、Zn、Ni、Ti、AlおよびMg、Si、Zr、Wからなる群より選択される少なくとも1種の金属または該金属を含む合金を主とする材料で構成されるものである請求項1ないし17のいずれかに記載のダイヤモンド様炭素膜の除去方法。
- 請求項1ないし18のいずれかに記載の方法により、前記ダイヤモンド様炭素膜の少なくとも一部が除去されることにより得られたことを特徴とする装飾品。
- 装飾品は、時計用外装部品である請求項19に記載の装飾品。
- 請求項19または20に記載の装飾品を備えたことを特徴とする時計。
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