JP2004217785A - ポリイミドフィルム - Google Patents
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Abstract
【課題】従来の技術では実現できなかった結晶微細構造制御による機械的性質、特に可撓性に優れヤング率の改善されたポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】p−フェニレンジアミン成分が80モル%を超え100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上20モル%未満からなるジアミン成分と、ピロメリット酸が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分とから実質的になるポリイミドからなり、そしてX線回折法により測定される(001)面の結晶サイズが5〜30ナノメータであり、(001)面の結晶格子歪が0.5〜2.0%であることを特徴とするポリイミドフィルム。
【選択図】 なし
【解決手段】p−フェニレンジアミン成分が80モル%を超え100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上20モル%未満からなるジアミン成分と、ピロメリット酸が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分とから実質的になるポリイミドからなり、そしてX線回折法により測定される(001)面の結晶サイズが5〜30ナノメータであり、(001)面の結晶格子歪が0.5〜2.0%であることを特徴とするポリイミドフィルム。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はX線回折法により測定される(001)面の特定の結晶サイズ、および(001)面の特定の結晶格子歪の値を有するポリイミドフィルムに関するものである。さらに詳しくはX線回折法により測定される(001)面の特定の結晶サイズ、および(001)面の特定の結晶格子歪の値を有し、優れたヤング率、引張り強度、可撓性、および靭性を有するポリイミドフィルムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
全芳香族ポリイミドはその優れた耐熱性や機械物性から幅広く工業的に利用され、特にそのフィルムは電子実装用途をはじめとする薄層電子部品の基材として重要な位置を占めるにいたっている。近年電子部品の小型化への強い要請から、より厚さの薄いポリイミドフィルムが要求されているが、厚みの減少にともない高い剛性を有すると同時に、曲げに耐える可撓性を有することがフィルムの実用上あるいはハンドリング上不可欠の条件となる。全芳香族ポリイミドフィルムは剛直な構造を有するものの、例えば全芳香族ポリアミドフィルムと比較して必ずしも高ヤング率が実現されているとはいえず、市販される最高のヤング率のポリイミドフィルムでさえたかだか9GPaのレベルにとどまるのが現状である。
【0003】
従来の技術では,全芳香族ポリイミドフィルムで高ヤング率を実現する方法として、(1)ポリイミドを構成する分子骨格を剛直かつ直線性の高い化学構造とすること、(2)ポリイミドを物理的な方法で分子配向させること、が考えられる。(1)の化学構造としては酸成分としてピロメリット酸あるいは3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、アミン成分としてパラフェニレンジアミン、ベンジジンあるいはそれらの核置換体のさまざまな組合せで素材検討がなされてきた。このなかでポリパラフェニレンピロメリットイミドは最も理論弾性率が高くかつ原料が安価であることから高ヤング率フィルム素材として最も期待される素材である(例えば、非特許文献1参照)。しかしそのポテンシャルにもかかわらず、これまでポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムとしては極めて脆く可撓性に欠くものしか得られておらず、またバランスのとれた高ヤング率フィルムとしても実現にいたっていないのが現状である。また、これを克服する方法として、パラフェニレンジアミンとピロメリット酸無水物の反応で得られたポリアミド酸溶液を化学環化することによる方法が提案されているが、これで得られたポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムのヤング率は高々8.5GPaにすぎない(例えば、特許文献1参照)。さらに、核置換パラフェニレンジアミンとピロメリット酸無水物の反応で得られたポリアミド酸溶液に無水酢酸を大量に添加したドープを流延し、低温で減圧下に乾燥したのち熱処理することにより、ヤング率20.1GPaのフィルムが得られることが報告されている。しかしこの方法は低温で数時間の乾燥処理を必要とすることから工業的には非現実的な技術であり、またこの技術をポリパラフェニレンピロメリットイミドに適用した場合には機械測定すら不可能な脆弱なフィルムしか得られないことが記載されていることから、その効果は限定されたものである(特許文献2参照)。
【0004】
剛直な芳香族ポリイミドに広く適用可能な高ヤング率フィルムの実現技術は未完成であり、特に高ヤング率かつ実用的な靭性を有するポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムは知られていなかったが、これらを解決する方法として、我々はキャストしたゲル状フィルムを脱水反応剤である無水酢酸と脱水反応触媒である有機アミン化合物と溶媒からなるイソイミド化溶液中に浸漬し、次に膨潤状態で二軸延伸してイミド化する製造方法、いわゆる湿式製膜法を開示した(特許文献3参照)。
【0005】
一方、ポリイミドを延伸配向させる方法として、ポリパラフェニレンピロメリットイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液を製膜後乾燥し、得られたポリアミド酸フィルムを溶剤中で一軸に延伸したのちイミド化する方法が提案されている(非特許文献2参照)。また、長鎖(炭素数10〜18)のエステル基をポリマー鎖に導入した前駆体ポリアミドエステルを湿式紡糸したものを延伸配向したのち加熱によりイミド化する方法が提案されている(非特許文献3参照)。しかしながら、いずれも面内にバランスのとれた二軸延伸については記述されていない。
【0006】
したがって、面内のバランスのとれた高ヤング率を保持し、かつ実用的な可撓性と靭性を有するポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムはいまだ知られていない。
【0007】
【特許文献1】
特開平1−282219号公報
【0008】
【特許文献2】
特開平6−172529号公報
【0009】
【特許文献3】
WO01/81456号
【0010】
【非特許文献1】
田代ら、繊維学会誌43巻、78頁 (1987)
【0011】
【非特許文献2】
高分子論文集Vol.65,No.5,PP282−290
【0012】
【非特許文献3】
Polymer Preprint Japan,Vol41,No.9 (1992) 3752
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、本発明はX線回折法により測定される(001)面の特定の結晶サイズ、および(001)面の特定の結晶格子歪の値を有するポリイミドフィルムを提供することにある。本発明の他の課題は、機械的性質、特にヤング率、引張り強度、および可撓性に優れたポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムを提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、
1. p−フェニレンジアミン成分が80モル%を超え100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上20モル%未満からなるジアミン成分と、ピロメリット酸が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分とから実質的になるポリイミドからなり、そしてX線回折法により測定される(001)面の結晶サイズが5〜30ナノメータであり、(001)面の結晶格子歪が0.5〜2.0%であることを特徴とするポリイミドフィルムである。
【0015】
2.ポリイミドが、p−フェニレンジアミン成分100モル%からなるジアミン成分と、ピロメリット酸成分100モル%とからなる上記に記載のポリイミドフィルムである。
【0016】
3.X線回折法により測定される(001)面の結晶サイズが8〜20ナノメータであることを特徴とする上記に記載のポリイミドフィルムである。
【0017】
4.X線回折法により測定される(001)面の結晶格子歪が0.8〜1.5%であることを特徴とする上記に記載のポリイミドフィルムである。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明のポリイミドフィルムについて以下に説明する。
【0019】
本発明のポリイミドフィルムはこれまでにない高いヤング率と可撓性、ヤング率のフィルム面内におけるバランスに優れるという実用的に優れた特性を有する。すなわちヤング率がいずれも10GPaを超える直交する2方向がフィルム面内に存在する。
【0020】
このような高いヤング率を有しかつ従来知られているポリパラフェニレンピロメリットイミドの脆さを克服し可撓性を保持することを、本発明者らは特殊な微細構造を該ポリイミドフィルムに付与することで解決できることを見出すに至った。
【0021】
すなわち本発明のポリイミドフィルムは、剛直な分子骨格により高ヤング率を発現すると同時に、分子鎖の結晶サイズと結晶格子の大きさを制御することによりフィルムの可撓性をもつというものである。
【0022】
本発明のポリイミドフィルムでは、X線回折法により測定される(001)面の結晶サイズが5〜30ナノメータであり、(001)面の結晶格子歪が0.5〜2.0%である。結晶サイズが8〜20ナノメータであることが好ましい。また結晶格子歪が0.8〜1.5%であることが好ましい。
【0023】
X線回折法では結晶サイズの効果と結晶格子の歪によって回折線が幅を持っている。結晶サイズL(ナノメータ)は結晶サイズによる回折線の広がりの半値幅βC(ラジアン単位)を用いて以下のScherrerの式(A)によって与えられる。
【0024】
【数1】
【0025】
(λはX線波長、θはブラッグ角、Kは定数で0.9である。)
一方、格子定数dを持つ結晶格子歪Δd/dは、結晶格子歪による回折線の広がりの半値幅βD(ラジアン単位)を用いて以下の式(B)によって与えられる(カリティ著「X線回折要論」松村源太郎訳、アグネ承風社刊、1980年6月20日、261頁)。
【0026】
【数2】
【0027】
(βDは結晶格子歪による回折線の広がりの半値幅、θはブラッグ角である)
従って、測定される回折線の半値幅β(ラジアン単位)は結晶サイズと結晶格子歪による広がりのたたみ込みとなり、両者の強度曲線をガウス関数として以下の式(C)で表される。
【0028】
【数3】
【0029】
(βCは結晶サイズ歪による回折線の広がりの半値幅、βDは結晶格子歪による回折線の広がりの半値幅)
式(A)(B)(C)から下記式(D)
【0030】
【数4】
【0031】
(βは回折線の半値幅、θはブラッグ角、λはX線波長、Kは定数で0.9、Lは結晶サイズ(ナノメータ)、Δd/dは結晶格子歪である)
の関係が成り立つ。この関係式(D)を用いて、ポリイミド結晶(001)面からの次数の異なる複数の回折線のブラッグ角θと半値幅βを式(D)に代入して(sinθ/λ)2対(βcosθ/λ)2をプロットし、最小二乗法による回帰直線の縦軸切片から結晶サイズL(ナノメータ)を求め、傾きから結晶格子歪Δd/d(%)を求めることができる。
【0032】
結晶サイズはポリイミドフィルムの構造規則性の尺度であり、結晶サイズは5〜20ナノメータであることが好ましい。より好ましい結晶サイズは、8〜20ナノメータである。結晶サイズが5ナノメータ以下では構造規則性が不十分なためヤング率や強度が低くなり、結晶サイズが30ナノメータ以上では構造規則性は高いものの結晶の剛直性が機械特性に直接的に反映してフィルムの可撓性や靭性が損なわれる。
【0033】
結晶格子歪は結晶格子の乱れの大きさを測る尺度であり、結晶格子歪みは0.5〜2.0%であることが好ましい。より好ましい結晶格子歪は0.8〜1.5%である。結晶格子歪が0.5%未満では格子の乱れが小さいため分子鎖の剛直な構造が機械特性に直接的に反映してフィルムの可撓性や靭性がそこなわれ、結晶格子歪が2.0%以上では格子の乱れが大きいためポリイミドの分子骨格が本来有する剛直性が損なわれヤング率や強度が低下する。
【0034】
ポリイミドを構成するジアミン成分はp−フェニレンジアミンおよびそれとは異なる芳香族ジアミンである。
【0035】
p−フェニレンジアミンと異なる芳香族ジアミン成分としては、例えばm−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノアントラセン、2,7−ジアミノアントラセン、1,8−ジアミノアントラセン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノ(m−キシレン)、2,5−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノピリジン、3,5−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノトルエンベンジジン、3,3’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラエチルジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルメタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、1,4−ビス(3−アミノフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、ビス(4−アミノフェニル)アミンビス(4−アミノフェニル)−N−メチルアミンビス(4−アミノフェニル)−N−フェニルアミンビス(4−アミノフェニル)ホスフィンオキシド、1,1−ビス(3−アミノフェニル)エタン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)エタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3,5−ジブロモ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等およびそれらのハロゲン原子あるいはアルキル基による芳香核置換体が挙げられる。
【0036】
ジアミン成分は、p−フェニレンジアミン単独からなるかあるいはp−フェニレンジアミンおよび上記の如きそれと異なる芳香族ジアミンとの組合せからなる。後者の組合せの場合、p−フェニレンジアミンは、全ジアミン成分に基づき、80モル%を超える割合、好ましくは90モル%を超える割合すなわちそれと異なる芳香族ジアミンが20モル%未満、好ましくは10モル%未満からなる。
【0037】
また、ポリイミドを構成するテトラカルボン酸成分は、ピロメリット酸およびそれと異なる芳香族テトラカルボン酸である。
【0038】
ピロメリット酸と異なる芳香族テトラカルボン酸成分としては、例えば1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−チオフェンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,6,7−フェナンスレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナンスレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,9,10−フェナンスレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−テトラクロロナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,6−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ピリジン二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン二無水物等が挙げられる。
【0039】
テトラカルボン酸成分は、ピロメリット酸単独からなるかあるいはピロメリット酸および上記の如きそれと異なる芳香族テトラカルボン酸との組合せからなる。後者の組合せの場合、ピロメリット酸は、全テトラカルボン酸成分に基づき、80モル%を超える割合、好ましくは90モル%を超える割合すなわちそれと異なる芳香族テトラカルボン酸が20モル%未満、好ましくは10モル%未満からなる。
【0040】
p−フェニレンジアミン成分が100モル%からなるジアミン成分と、ピロメリット酸成分100モル%からなるポリイミドからなる本発明のフィルムは、より好ましいヤング率および可撓性を発現する。
【0041】
またp−フェニレンジアミン成分が100モル%からなるジアミン成分と、ピロメリット酸成分100モル%からなるポリイミドからなる場合、上述のように結晶サイズとして、8〜20ナノメータのものがより好ましい。またp−フェニレンジアミン成分が100モル%からなるジアミン成分と、ピロメリット酸成分100モル%からなるポリイミドからなる場合、結晶格子歪として0.8〜1.5%のものがより好ましい。
【0042】
次に、本発明のポリイミドフィルムの結晶微細構造を達成する方法として、例えば以下の製造法が上げられる。ただし、本発明のポリイミドフィルムを製造する方法は、下記に限定されるものではない。
【0043】
本発明のポリイミドフィルムを製造する製造法の第1例は下記の工程(1)〜(5)からなる。
(1)ポリアミック酸の溶媒中溶液を調製し、ここでポリアミック酸はp−フェニレンジアミンが80モル%を超え100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上20モル%未満からなるジアミン成分と、ピロメリット酸が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分からなり、そして溶媒はN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジノンよりなる群から選ばれる少なくとも一種からなり;
(2)上記溶媒から選ばれる少なくとも一種にジシクロヘキシルカルボジイミドを溶解してなるイソイミド化溶液中に、上記工程(1)で調製した溶液を支持体上に流延して得られたフィルムを該支持体と一緒に浸漬してポリアミック酸の少なくとも一部がポリイソイミドに変換されたゲル状フィルムを形成し;
(3)得られたゲル状フィルムを支持体から分離し、必要に応じ洗浄した後、二軸延伸し、
(4)得られた二軸延伸フィルムを、水と共沸する溶媒で洗浄して上記工程(1)で使用した溶媒と水分を除去し;
次いで
(5)得られた二軸延伸フィルムを、熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成する。
【0044】
工程(1)では、ポリアミック酸の溶媒中溶液が調製される。ポリアミック酸は、上記の如きジアミン成分とテトラカルボン酸成分からなる。ジアミン成分を構成するp−フェニレンジアミンと異なる芳香族ジアミンおよびピロメリット酸と異なる芳香族テトラカルボン酸としては、ポリイミドについて前記したと同じ具体例を挙げることができる。ポリアミック酸のジアミン成分は、p−フェニレンジアミン単独からなるかあるいはp−フェニレンジアミンおよび上記の如きそれと異なる芳香族ジアミンとの組合せからなる。後者の組合せの場合、p−フェニレンジアミンは、全ジアミン成分に基づき、80モル%を超える割合、好ましくは90モル%を超える割合すなわちそれと異なる芳香族ジアミンが20モル%未満、好ましくは10モル%未満からなる。
【0045】
また、ポリアミック酸のテトラカルボン酸成分は、ピロメリット酸単独からなるかあるいはピロメリット酸および上記の如きそれと異なる芳香族テトラカルボン酸との組合せからなる。後者の組合せの場合、ピロメリット酸は、全テトラカルボン酸成分に基づき、80モル%を超える割合、好ましくは90モル%を超える割合すなわちそれと異なる芳香族テトラカルボン酸が20モル%未満、好ましくは10モル%未満からなる。
【0046】
また、ポリアミック酸を製造する際、これらのジアミンと酸無水物は、ジアミン対酸無水物のモル比として好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05で、用いることが好ましい。
【0047】
このポリアミド酸の末端は封止されることが好ましい。末端封止剤を用いて封止する場合、その末端封止剤としては、例えば無水フタル酸およびその置換体、ヘキサヒドロ無水フタル酸およびその置換体、無水コハク酸およびその置換体、アミン成分としてはアニリンおよびその置換体が挙げられる。
【0048】
溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジノンが用いられる。これらの溶媒は、単独であるいは2種以上組合せて使用することができる。
【0049】
工程(1)によれば、好ましくは、固形分濃度0.5〜30重量%、より好ましくは2〜15重量%のポリアミック酸の溶媒中溶液が調製される。
【0050】
次いで、工程(2)において、上記工程(1)で調製した溶液を支持体上に流延して得られたフィルムを支持体と一緒に、イソイミド化溶液中に浸漬する。
【0051】
上記工程(1)で得られた溶液を支持体上に流延するには、一般に知られている湿式ならびに乾湿式成形方法等のいかなる製膜方法を用いてもよい。この製膜方法としてはダイ押し出しによる工法、アプリケーターを用いたキャスティング、コーターを用いる方法などが例示される。ポリアミド酸の流延に際して支持体として金属性のベルト、キャステイングドラムなどを用いることができる。またポリエステルやポリプロピレンのような有機高分子フィルム上に流延しそのまま縮合剤溶液に導入することもできる。これらの工程は低湿度雰囲気下で行うことが好ましい。イソイミド化溶液は工程(1)で用いたと同じ溶媒から選ばれる溶媒の少なくとも1種にジシクロヘキシルカルボジイミドを溶解せしめて調製される。
【0052】
イソイミド化溶液中のヘキシルカルボジイミドの濃度は特定するものではないが、反応を十分に進行させるためには、好ましくは0.5重量%以上99重量%以下である。また反応温度は、特に規定するものではないが、イソイミド化溶液の凝固点以上、沸点以下の温度を用いることができる。
【0053】
この工程(2)において、ポリアミック酸の少なくとも1部がポリイソイミドに変換されたゲル状フィルムが形成される。ゲル状フィルムのイソイミド基分率が90%以上であるとき高い延伸倍率が得られ好ましい。
【0054】
第1製造法は、この工程(2)において、均質かつ高度に膨潤した延伸性に富む未延伸ゲル状フィルムを得るところに最大の特徴の1つを有すると言える。
【0055】
工程(3)では、工程(2)で得られた未延伸ゲル状フィルムを支持体から分離したのち二軸延伸に付す。二軸延伸は、未延伸フィルムを支持体から分離したのち、洗浄してから行っても、未洗浄のまま行ってもよい。洗浄には、例えば工程(1)で用いられた溶媒と同様の溶媒が用いられる。
【0056】
延伸は、縦横それぞれの方向に1.1〜6.0倍の倍率で行うことができる。延伸温度は、特に限定するものではないが、溶剤が揮発し延伸性が低下しない程度であればよく、例えば−20℃〜+80℃が好ましい。なお、延伸は逐次あるいは同時二軸延伸のいずれの方式で行ってもよい。延伸は溶剤中、空気中、不活性雰囲気中、また低温加熱した状態でもよい。
【0057】
工程(3)で二軸延伸に付すゲル状フィルムは300〜5,000%の膨潤度を持つことが好ましい。これにより高い延伸倍率が得られる。300%以下では延伸性が不十分であり、5,000%以上ではゲルの強度が低下しハンドリングが困難となる。
【0058】
工程(4)では、熱処理前に二軸延伸フィルムを水と共沸する溶媒で洗浄して上記工程(1)で使用した溶媒と水分を除去する。洗浄としては、水と共沸する溶媒で工程(1)で使用した溶媒を溶解しうる例えばイソプロパノールの如き低級アルコール、オクチルアルコールの如き高級アルコール、トルエン、キシレンの如き芳香族炭化水素、ジオキシサンの如きエーテル系溶媒およびアセトン、メチルエチルケトンの如きケトン系溶媒、クロロホルムの如きハロゲン系溶媒等を挙げることができる。または、これらの溶媒を混合した溶媒を用いてもよい。
【0059】
二軸延伸フィルムを水と共沸する溶媒で洗浄することにより、工程(1)で使用した溶媒と水分を同時にフィルムから除去し、次工程の熱処理において結晶サイズおよび結晶格子歪を好ましい範囲に制御することができる。すなわち、工程(1)で使用した溶媒をフィルムから除去することにより、ポリイミド結晶化における溶媒可塑化効果を抑制して結晶の粗大化を抑えるとともに結晶格子歪を保持し、好ましい結晶サイズと結晶格子歪を達成できる。さらに、フィルム中の水分を除去することにより、工程中でのポリイミドの劣化を抑制することができる。
【0060】
最後に、工程(5)では、工程(4)で得られた二軸延伸フィルムを熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成する。
【0061】
熱処理方法としては熱風加熱、真空加熱、赤外線加熱、マイクロ波加熱の他、熱板、ホットロールを用いた接触による加熱などが例示できる。この際段階的に温度をあげることでイミド化を進行させることが好ましい。
【0062】
この熱処理は定長ないし緊張下に300〜550℃の温度で実施することが好ましい。これにより95%を超えるイミド基分率を、配向緩和を抑制して実現しうる。
【0063】
次に、本発明のポリイミドフィルムを製造する製造法の第2例を説明する。第2例の製造法は下記工程(1)〜(5)からなる。
(1)ポリアミック酸の溶媒中溶液を調製し、ここでポリアミック酸はp−フェニレンジアミンが80モル%を超え100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上20モル%未満からなるジアミン成分と、ピロメリット酸が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分からなり、そして溶媒はN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジノンよりなる群から選ばれる少なくとも一種からなり;
(2)上記溶媒から選ばれる少なくとも一種に、無水酢酸と有機アミン化合物を溶解してなる溶液中に、上記工程(1)で調製した溶液を支持体上に流延して得られたフィルムを該支持体と一緒に浸漬してポリアミック酸の少なくとも一部がポリイミドまたはポリイソイミドに変換されたゲル状フィルムを形成し;
(3)得られたゲル状フィルムを支持体から分離し、必要に応じ洗浄した後、二軸延伸し、次いで
(4)得られた二軸延伸フィルムを、必要に応じ洗浄して溶媒を除去した後、熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成する。
【0064】
工程(1)は第1製造法の工程(1)と同じである。
【0065】
次いで、工程(2)において、上記(1)で調製した溶液を支持体上に流延して得られたフィルムを支持体と一緒に、無水酢酸と有機アミンを溶解してなる溶液中に浸漬する。この溶液を調製するための溶媒としては、工程(1)で用いられたと同じ溶媒から選ばれる少なくとも1種の溶媒が用いられる。
【0066】
用いられる有機アミン化合物は無水酢酸とポリアミック酸の反応触媒として働くものであり、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチレンジアミンといった三級脂肪族アミン;N,N−ジメチルアニリン、1,8−ビス(N,N−ジメチルアミノ)ナフタレンの如き芳香族アミン、ピリジンおよびその誘導体、ピコリンおよびその誘導体、ルチジン、キノリン、イソキノリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン、N,N−ジメチルアミノピリジンの如き複素環式化合物を用いることができる。このなかで経済性からはピリジンおよびピコリンが好ましい。またトリエチレンジアミンおよびN,N−ジメチルアミノピリジンは無水酢酸との組合せにおいて、極めて高いイミド基分率が実現可能であり、水に対する耐性の高いゲルフィルムを与えることから好ましく用いられる。この際有機アミン化合物の無水酢酸に対する量としては特に既定するものではないが、0.5モル%以上より好ましくは10モル%以上である。
【0067】
混合溶液中の無水酢酸の濃度は特定するものではないが、反応を十分に進行させるためには、好ましくは0.5重量%以上99重量%以下である。さらに好ましくは30重量%以上99重量%である。また反応温度は、特に規定するものではないが、混合溶液中の凝固点以上、沸点以下の温度を用いることができる。
【0068】
第2例の製造法では次いで工程(3)、工程(4)および工程(5)が順次実施されるが、これらの工程は第1製造法の工程(3)、工程(4)および工程(5)と同じである。
【0069】
【発明の効果】
本発明のポリイミドフィルムは、X線回折法により測定される(001)面の結晶サイズが8〜30ナノメータ、(001)面の結晶格子歪が0.5〜2.0%であることを特徴とする。本発明のポリイミドフィルムにより、優れた可撓性を有する高ヤング率ポリイミドフィルムが提供でき、実施例において定義されている耐折強さが1.0以上、より好適には2.0以上の可撓性を有するポリイミドフィルムが提供できる。また本発明により一方向における引張り強度が0.3GPa以上、より好適には0.4GPa以上のポリイミドフィルムが提供できる。このような高ヤング率かつ実用的な可撓性と靭性を有するポリイミドフィルムは厚みが10μm以下の薄いフィルムであっても電子用途、例えば銅薄が積層された電気配線板の支持体などに好適に用いることができる。またフレキシブル回路基板、TAB(テープオートメイテッドボンディング)用テープ、LOC(リードオンチップ)用テープの支持体としても用いることができる。また磁気記録テープのベースフィルムとして用いることができる。
【0070】
【実施例】
以下、実施例により本発明方法をさらに詳しく具体的に説明する。ただしこれらの実施例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0071】
なお、実施例の特性値は、以下の測定または評価方法による。
(1)X線回折測定は、X線発生装置(理学電機社製)を用い、回転対陰極式Cuターゲット、電圧45kV、電流70mA、X線波長0.1542ナノメータの条件で、入射X線は多層膜ミラー(オスミック社製)により集光および単色化した。試料のポリイミドフィルムは、厚さ1mmとなるように積層し、フィルム面法線方向からX線を入射して垂直透過法によりカメラ長250mmで測定した。回折X線の検出にはイメージングプレート(富士写真フィルム製)を使用した。ポリイミドフィルムの結晶サイズと結晶格子歪は以下の方法で求めた。結晶サイズL(ナノメータ)は結晶サイズによる回折線の広がりの半値幅βC(ラジアン単位)を用いて以下のScherrerの式(A)によって与えられる。
【0072】
【数5】
【0073】
(λはX線波長、θはブラッグ角、Kは定数で0.9である。)
一方、格子定数dを持つ結晶格子歪Δd/dは、結晶格子歪による回折線の広がりの半値幅βD(ラジアン単位)を用いて以下の式(B)によって与えられる(カリティ著「X線回折要論」松村源太郎訳、アグネ承風社刊、1980年6月20日、261頁)。
【0074】
【数6】
【0075】
(βDは結晶格子歪による回折線の広がりの半値幅、θはブラッグ角である)
従って、測定される回折線の半値幅β(ラジアン単位)は結晶サイズと結晶格子歪による広がりのたたみ込みとなり、両者の強度曲線をガウス関数として以下の式(C)で表される。
【0076】
【数7】
【0077】
(βCは結晶サイズ歪による回折線の広がりの半値幅、βDは結晶格子歪による回折線の広がりの半値幅)
式(A)(B)(C)から下記式(D)
【0078】
【数8】
【0079】
(βは回折線の半値幅、θはブラッグ角、λはX線波長、Kは定数で0.9、Lは結晶サイズ(ナノメータ)、Δd/dは結晶格子歪である)
の関係が成り立つ。この関係式(D)を用いて、ポリイミド結晶(001)面からの次数の異なる複数の回折線のブラッグ角θと半値幅βを式(D)に代入して(sinθ/λ)2対(βcosθ/λ)2をプロットし、最小二乗法による回帰直線の縦軸切片から結晶サイズL(ナノメータ)を求め、傾きから結晶格子歪Δd/d(%)を求めた。ただし、半値幅βは、測定装置固有の回折線の広がりをシリコン粉末標準試料(NIST640c)により補正した値を用いた。
(2)強伸度測定は50mm×10mmのサンプルを用い、引張り速度5mm/minで行いオリエンテックUCT−1Tによって測定を行った。
(3)ポリイミドフィルムの可撓性の評価は、日本工業規格P8115(紙及び板紙−耐折強さ試験方法−MIT試験機法)に準拠してフィルムの耐折強さを測定した。フィルムの耐折強さは、試験片が破断するまでの往復折曲げ回数をN回として、
【0080】
【数9】
耐折強さ = log10N
として算出した。
【0081】
[実施例1]
温度計・攪拌装置および原料投入口を備えた反応容器に、窒素雰囲気下モレキュラーシーブスで脱水したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)910mlを入れ、さらにパラフェニルジアミン19.9gを加えた後に完全に溶解し、その後、氷浴下冷却した。この冷却したジアミン溶液に無水ピロメリット酸二無水物40.1gを添加し一時間反応させ、さらに室温下2時間反応後、アニリン0.011gを添加しさらに30分反応させた。このアミド酸溶液をガラス板上に厚み2.0mmのドクターブレードを用いてキャストし、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)濃度28wt%のN−メチル−2−ピロリドン溶液からなるDCC浴に導入し8分反応固化させたのちガラス板から剥離し、さらに12分反応させ、ゲル状フィルムを得た。
【0082】
ポリイミド前駆体を膨潤溶媒であるNMPに室温下15分浸漬させた後、フィルムをチャックで固定し直交する二方向にそれぞれ2.2倍の倍率で同時二軸延伸した。
【0083】
延伸後フィルムを、水との共沸温度が80.1℃のイソプロパノールで30分間浸漬・洗浄し、イミド前駆体フィルムから膨潤溶媒のNMPと水分を抽出した。
【0084】
延伸後のフィルムは枠固定した後200℃で乾燥した。さらに段階的に熱処理イミド化を行い最終的には450℃まで昇温させ、ポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムを得た。得られたポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムの厚みは10μmであった。得られたポリイミドフィルムのX線回折パターンを、図1に示す。ポリパラフェニレンピロメリットイミド結晶の(001)面からの各回折線の半値幅を(D)式でプロットした結果を図2に示す。このプロットから求めたポリパラフェニレンピロメリットイミドの結晶サイズは16ナノメータ、結晶格子歪は1.1%であった。引張り弾性率は直交する延伸方向について18.4GPaおよび20.1GPa、引張り強度はそれぞれ0.34GPaおよび0.43Gpa、伸度はそれぞれ2.7%および3.4%であった。耐折強さは2.6であった。
【0085】
[実施例2〜4]
同時二軸延伸後のフィルムの洗浄溶媒を水との共沸温度が85.0℃のトルエンを用い最終の熱処理温度をそれぞれ470℃、400℃、350℃に変えたことをのぞいて実施例1と同様の方法でポリイミドフィルムを得た。その結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
[実施例5]
実施例1と同様の方法を用いてポリアミック酸溶液を調製した。このポリアミック酸溶液を、ガラス基板上に厚み2.0mmのドクターブレードを用いてキャストし、NMP800ml、無水酢酸600mlおよびピリジン300mlからなる脱水縮合浴に導入し10分間浸漬してゲル化させた。その後ガラス基板から剥離しゲル状フィルムを得た。
【0088】
得られたゲルフィルムをNMPに室温下15分浸漬させた後、両端をチャックで固定し、室温下2軸方向に各1.9倍に5mm/secの速度で同時二軸延伸した。延伸後フィルムを、トルエンで30分間浸漬・洗浄し、イミド前駆体フィルムから膨潤溶媒のNMPと水分を抽出した。
【0089】
次いでフィルムを枠固定し熱風循環式オーブンを用い160℃と450℃の間で段階的に温度を上げ乾燥および熱処理を行い、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの厚みは9μmであった。得られたポリイミドフィルムのX線回折パターンを、図3に示す。(001)面からの各回折線の半値幅を(D)式でプロットした結果を図4に示す。このプロットから求めたポリパラフェニレンピロメリットイミドの結晶サイズは17ナノメータ、結晶格子歪は1.0%であった。面内の直交する二方向に測定した引張り弾性率は17.9GPaおよび16.0GPa、引張り強度は0.39GPaおよび0.35GPa、伸度は5.1%および4.9%であった。耐折強さは、3.1であった。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られたポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムのX線回折パターンを示す。
【図2】実施例1で得られた結晶サイズと結晶格子歪を算出するための回折線半値幅のプロットを示す。
【図3】実施例5で得られたポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムのX線回折パターンを示す。
【図4】実施例5で得られた結晶サイズと結晶格子歪を算出するための回折線半値幅のプロットを示す。
【発明の属する技術分野】
本発明はX線回折法により測定される(001)面の特定の結晶サイズ、および(001)面の特定の結晶格子歪の値を有するポリイミドフィルムに関するものである。さらに詳しくはX線回折法により測定される(001)面の特定の結晶サイズ、および(001)面の特定の結晶格子歪の値を有し、優れたヤング率、引張り強度、可撓性、および靭性を有するポリイミドフィルムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
全芳香族ポリイミドはその優れた耐熱性や機械物性から幅広く工業的に利用され、特にそのフィルムは電子実装用途をはじめとする薄層電子部品の基材として重要な位置を占めるにいたっている。近年電子部品の小型化への強い要請から、より厚さの薄いポリイミドフィルムが要求されているが、厚みの減少にともない高い剛性を有すると同時に、曲げに耐える可撓性を有することがフィルムの実用上あるいはハンドリング上不可欠の条件となる。全芳香族ポリイミドフィルムは剛直な構造を有するものの、例えば全芳香族ポリアミドフィルムと比較して必ずしも高ヤング率が実現されているとはいえず、市販される最高のヤング率のポリイミドフィルムでさえたかだか9GPaのレベルにとどまるのが現状である。
【0003】
従来の技術では,全芳香族ポリイミドフィルムで高ヤング率を実現する方法として、(1)ポリイミドを構成する分子骨格を剛直かつ直線性の高い化学構造とすること、(2)ポリイミドを物理的な方法で分子配向させること、が考えられる。(1)の化学構造としては酸成分としてピロメリット酸あるいは3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、アミン成分としてパラフェニレンジアミン、ベンジジンあるいはそれらの核置換体のさまざまな組合せで素材検討がなされてきた。このなかでポリパラフェニレンピロメリットイミドは最も理論弾性率が高くかつ原料が安価であることから高ヤング率フィルム素材として最も期待される素材である(例えば、非特許文献1参照)。しかしそのポテンシャルにもかかわらず、これまでポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムとしては極めて脆く可撓性に欠くものしか得られておらず、またバランスのとれた高ヤング率フィルムとしても実現にいたっていないのが現状である。また、これを克服する方法として、パラフェニレンジアミンとピロメリット酸無水物の反応で得られたポリアミド酸溶液を化学環化することによる方法が提案されているが、これで得られたポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムのヤング率は高々8.5GPaにすぎない(例えば、特許文献1参照)。さらに、核置換パラフェニレンジアミンとピロメリット酸無水物の反応で得られたポリアミド酸溶液に無水酢酸を大量に添加したドープを流延し、低温で減圧下に乾燥したのち熱処理することにより、ヤング率20.1GPaのフィルムが得られることが報告されている。しかしこの方法は低温で数時間の乾燥処理を必要とすることから工業的には非現実的な技術であり、またこの技術をポリパラフェニレンピロメリットイミドに適用した場合には機械測定すら不可能な脆弱なフィルムしか得られないことが記載されていることから、その効果は限定されたものである(特許文献2参照)。
【0004】
剛直な芳香族ポリイミドに広く適用可能な高ヤング率フィルムの実現技術は未完成であり、特に高ヤング率かつ実用的な靭性を有するポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムは知られていなかったが、これらを解決する方法として、我々はキャストしたゲル状フィルムを脱水反応剤である無水酢酸と脱水反応触媒である有機アミン化合物と溶媒からなるイソイミド化溶液中に浸漬し、次に膨潤状態で二軸延伸してイミド化する製造方法、いわゆる湿式製膜法を開示した(特許文献3参照)。
【0005】
一方、ポリイミドを延伸配向させる方法として、ポリパラフェニレンピロメリットイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液を製膜後乾燥し、得られたポリアミド酸フィルムを溶剤中で一軸に延伸したのちイミド化する方法が提案されている(非特許文献2参照)。また、長鎖(炭素数10〜18)のエステル基をポリマー鎖に導入した前駆体ポリアミドエステルを湿式紡糸したものを延伸配向したのち加熱によりイミド化する方法が提案されている(非特許文献3参照)。しかしながら、いずれも面内にバランスのとれた二軸延伸については記述されていない。
【0006】
したがって、面内のバランスのとれた高ヤング率を保持し、かつ実用的な可撓性と靭性を有するポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムはいまだ知られていない。
【0007】
【特許文献1】
特開平1−282219号公報
【0008】
【特許文献2】
特開平6−172529号公報
【0009】
【特許文献3】
WO01/81456号
【0010】
【非特許文献1】
田代ら、繊維学会誌43巻、78頁 (1987)
【0011】
【非特許文献2】
高分子論文集Vol.65,No.5,PP282−290
【0012】
【非特許文献3】
Polymer Preprint Japan,Vol41,No.9 (1992) 3752
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、本発明はX線回折法により測定される(001)面の特定の結晶サイズ、および(001)面の特定の結晶格子歪の値を有するポリイミドフィルムを提供することにある。本発明の他の課題は、機械的性質、特にヤング率、引張り強度、および可撓性に優れたポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムを提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、
1. p−フェニレンジアミン成分が80モル%を超え100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上20モル%未満からなるジアミン成分と、ピロメリット酸が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分とから実質的になるポリイミドからなり、そしてX線回折法により測定される(001)面の結晶サイズが5〜30ナノメータであり、(001)面の結晶格子歪が0.5〜2.0%であることを特徴とするポリイミドフィルムである。
【0015】
2.ポリイミドが、p−フェニレンジアミン成分100モル%からなるジアミン成分と、ピロメリット酸成分100モル%とからなる上記に記載のポリイミドフィルムである。
【0016】
3.X線回折法により測定される(001)面の結晶サイズが8〜20ナノメータであることを特徴とする上記に記載のポリイミドフィルムである。
【0017】
4.X線回折法により測定される(001)面の結晶格子歪が0.8〜1.5%であることを特徴とする上記に記載のポリイミドフィルムである。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明のポリイミドフィルムについて以下に説明する。
【0019】
本発明のポリイミドフィルムはこれまでにない高いヤング率と可撓性、ヤング率のフィルム面内におけるバランスに優れるという実用的に優れた特性を有する。すなわちヤング率がいずれも10GPaを超える直交する2方向がフィルム面内に存在する。
【0020】
このような高いヤング率を有しかつ従来知られているポリパラフェニレンピロメリットイミドの脆さを克服し可撓性を保持することを、本発明者らは特殊な微細構造を該ポリイミドフィルムに付与することで解決できることを見出すに至った。
【0021】
すなわち本発明のポリイミドフィルムは、剛直な分子骨格により高ヤング率を発現すると同時に、分子鎖の結晶サイズと結晶格子の大きさを制御することによりフィルムの可撓性をもつというものである。
【0022】
本発明のポリイミドフィルムでは、X線回折法により測定される(001)面の結晶サイズが5〜30ナノメータであり、(001)面の結晶格子歪が0.5〜2.0%である。結晶サイズが8〜20ナノメータであることが好ましい。また結晶格子歪が0.8〜1.5%であることが好ましい。
【0023】
X線回折法では結晶サイズの効果と結晶格子の歪によって回折線が幅を持っている。結晶サイズL(ナノメータ)は結晶サイズによる回折線の広がりの半値幅βC(ラジアン単位)を用いて以下のScherrerの式(A)によって与えられる。
【0024】
【数1】
【0025】
(λはX線波長、θはブラッグ角、Kは定数で0.9である。)
一方、格子定数dを持つ結晶格子歪Δd/dは、結晶格子歪による回折線の広がりの半値幅βD(ラジアン単位)を用いて以下の式(B)によって与えられる(カリティ著「X線回折要論」松村源太郎訳、アグネ承風社刊、1980年6月20日、261頁)。
【0026】
【数2】
【0027】
(βDは結晶格子歪による回折線の広がりの半値幅、θはブラッグ角である)
従って、測定される回折線の半値幅β(ラジアン単位)は結晶サイズと結晶格子歪による広がりのたたみ込みとなり、両者の強度曲線をガウス関数として以下の式(C)で表される。
【0028】
【数3】
【0029】
(βCは結晶サイズ歪による回折線の広がりの半値幅、βDは結晶格子歪による回折線の広がりの半値幅)
式(A)(B)(C)から下記式(D)
【0030】
【数4】
【0031】
(βは回折線の半値幅、θはブラッグ角、λはX線波長、Kは定数で0.9、Lは結晶サイズ(ナノメータ)、Δd/dは結晶格子歪である)
の関係が成り立つ。この関係式(D)を用いて、ポリイミド結晶(001)面からの次数の異なる複数の回折線のブラッグ角θと半値幅βを式(D)に代入して(sinθ/λ)2対(βcosθ/λ)2をプロットし、最小二乗法による回帰直線の縦軸切片から結晶サイズL(ナノメータ)を求め、傾きから結晶格子歪Δd/d(%)を求めることができる。
【0032】
結晶サイズはポリイミドフィルムの構造規則性の尺度であり、結晶サイズは5〜20ナノメータであることが好ましい。より好ましい結晶サイズは、8〜20ナノメータである。結晶サイズが5ナノメータ以下では構造規則性が不十分なためヤング率や強度が低くなり、結晶サイズが30ナノメータ以上では構造規則性は高いものの結晶の剛直性が機械特性に直接的に反映してフィルムの可撓性や靭性が損なわれる。
【0033】
結晶格子歪は結晶格子の乱れの大きさを測る尺度であり、結晶格子歪みは0.5〜2.0%であることが好ましい。より好ましい結晶格子歪は0.8〜1.5%である。結晶格子歪が0.5%未満では格子の乱れが小さいため分子鎖の剛直な構造が機械特性に直接的に反映してフィルムの可撓性や靭性がそこなわれ、結晶格子歪が2.0%以上では格子の乱れが大きいためポリイミドの分子骨格が本来有する剛直性が損なわれヤング率や強度が低下する。
【0034】
ポリイミドを構成するジアミン成分はp−フェニレンジアミンおよびそれとは異なる芳香族ジアミンである。
【0035】
p−フェニレンジアミンと異なる芳香族ジアミン成分としては、例えばm−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノアントラセン、2,7−ジアミノアントラセン、1,8−ジアミノアントラセン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノ(m−キシレン)、2,5−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノピリジン、3,5−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノトルエンベンジジン、3,3’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラエチルジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルメタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、1,4−ビス(3−アミノフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、ビス(4−アミノフェニル)アミンビス(4−アミノフェニル)−N−メチルアミンビス(4−アミノフェニル)−N−フェニルアミンビス(4−アミノフェニル)ホスフィンオキシド、1,1−ビス(3−アミノフェニル)エタン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)エタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3,5−ジブロモ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等およびそれらのハロゲン原子あるいはアルキル基による芳香核置換体が挙げられる。
【0036】
ジアミン成分は、p−フェニレンジアミン単独からなるかあるいはp−フェニレンジアミンおよび上記の如きそれと異なる芳香族ジアミンとの組合せからなる。後者の組合せの場合、p−フェニレンジアミンは、全ジアミン成分に基づき、80モル%を超える割合、好ましくは90モル%を超える割合すなわちそれと異なる芳香族ジアミンが20モル%未満、好ましくは10モル%未満からなる。
【0037】
また、ポリイミドを構成するテトラカルボン酸成分は、ピロメリット酸およびそれと異なる芳香族テトラカルボン酸である。
【0038】
ピロメリット酸と異なる芳香族テトラカルボン酸成分としては、例えば1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−チオフェンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,6,7−フェナンスレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナンスレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,9,10−フェナンスレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−テトラクロロナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,6−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ピリジン二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン二無水物等が挙げられる。
【0039】
テトラカルボン酸成分は、ピロメリット酸単独からなるかあるいはピロメリット酸および上記の如きそれと異なる芳香族テトラカルボン酸との組合せからなる。後者の組合せの場合、ピロメリット酸は、全テトラカルボン酸成分に基づき、80モル%を超える割合、好ましくは90モル%を超える割合すなわちそれと異なる芳香族テトラカルボン酸が20モル%未満、好ましくは10モル%未満からなる。
【0040】
p−フェニレンジアミン成分が100モル%からなるジアミン成分と、ピロメリット酸成分100モル%からなるポリイミドからなる本発明のフィルムは、より好ましいヤング率および可撓性を発現する。
【0041】
またp−フェニレンジアミン成分が100モル%からなるジアミン成分と、ピロメリット酸成分100モル%からなるポリイミドからなる場合、上述のように結晶サイズとして、8〜20ナノメータのものがより好ましい。またp−フェニレンジアミン成分が100モル%からなるジアミン成分と、ピロメリット酸成分100モル%からなるポリイミドからなる場合、結晶格子歪として0.8〜1.5%のものがより好ましい。
【0042】
次に、本発明のポリイミドフィルムの結晶微細構造を達成する方法として、例えば以下の製造法が上げられる。ただし、本発明のポリイミドフィルムを製造する方法は、下記に限定されるものではない。
【0043】
本発明のポリイミドフィルムを製造する製造法の第1例は下記の工程(1)〜(5)からなる。
(1)ポリアミック酸の溶媒中溶液を調製し、ここでポリアミック酸はp−フェニレンジアミンが80モル%を超え100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上20モル%未満からなるジアミン成分と、ピロメリット酸が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分からなり、そして溶媒はN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジノンよりなる群から選ばれる少なくとも一種からなり;
(2)上記溶媒から選ばれる少なくとも一種にジシクロヘキシルカルボジイミドを溶解してなるイソイミド化溶液中に、上記工程(1)で調製した溶液を支持体上に流延して得られたフィルムを該支持体と一緒に浸漬してポリアミック酸の少なくとも一部がポリイソイミドに変換されたゲル状フィルムを形成し;
(3)得られたゲル状フィルムを支持体から分離し、必要に応じ洗浄した後、二軸延伸し、
(4)得られた二軸延伸フィルムを、水と共沸する溶媒で洗浄して上記工程(1)で使用した溶媒と水分を除去し;
次いで
(5)得られた二軸延伸フィルムを、熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成する。
【0044】
工程(1)では、ポリアミック酸の溶媒中溶液が調製される。ポリアミック酸は、上記の如きジアミン成分とテトラカルボン酸成分からなる。ジアミン成分を構成するp−フェニレンジアミンと異なる芳香族ジアミンおよびピロメリット酸と異なる芳香族テトラカルボン酸としては、ポリイミドについて前記したと同じ具体例を挙げることができる。ポリアミック酸のジアミン成分は、p−フェニレンジアミン単独からなるかあるいはp−フェニレンジアミンおよび上記の如きそれと異なる芳香族ジアミンとの組合せからなる。後者の組合せの場合、p−フェニレンジアミンは、全ジアミン成分に基づき、80モル%を超える割合、好ましくは90モル%を超える割合すなわちそれと異なる芳香族ジアミンが20モル%未満、好ましくは10モル%未満からなる。
【0045】
また、ポリアミック酸のテトラカルボン酸成分は、ピロメリット酸単独からなるかあるいはピロメリット酸および上記の如きそれと異なる芳香族テトラカルボン酸との組合せからなる。後者の組合せの場合、ピロメリット酸は、全テトラカルボン酸成分に基づき、80モル%を超える割合、好ましくは90モル%を超える割合すなわちそれと異なる芳香族テトラカルボン酸が20モル%未満、好ましくは10モル%未満からなる。
【0046】
また、ポリアミック酸を製造する際、これらのジアミンと酸無水物は、ジアミン対酸無水物のモル比として好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05で、用いることが好ましい。
【0047】
このポリアミド酸の末端は封止されることが好ましい。末端封止剤を用いて封止する場合、その末端封止剤としては、例えば無水フタル酸およびその置換体、ヘキサヒドロ無水フタル酸およびその置換体、無水コハク酸およびその置換体、アミン成分としてはアニリンおよびその置換体が挙げられる。
【0048】
溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジノンが用いられる。これらの溶媒は、単独であるいは2種以上組合せて使用することができる。
【0049】
工程(1)によれば、好ましくは、固形分濃度0.5〜30重量%、より好ましくは2〜15重量%のポリアミック酸の溶媒中溶液が調製される。
【0050】
次いで、工程(2)において、上記工程(1)で調製した溶液を支持体上に流延して得られたフィルムを支持体と一緒に、イソイミド化溶液中に浸漬する。
【0051】
上記工程(1)で得られた溶液を支持体上に流延するには、一般に知られている湿式ならびに乾湿式成形方法等のいかなる製膜方法を用いてもよい。この製膜方法としてはダイ押し出しによる工法、アプリケーターを用いたキャスティング、コーターを用いる方法などが例示される。ポリアミド酸の流延に際して支持体として金属性のベルト、キャステイングドラムなどを用いることができる。またポリエステルやポリプロピレンのような有機高分子フィルム上に流延しそのまま縮合剤溶液に導入することもできる。これらの工程は低湿度雰囲気下で行うことが好ましい。イソイミド化溶液は工程(1)で用いたと同じ溶媒から選ばれる溶媒の少なくとも1種にジシクロヘキシルカルボジイミドを溶解せしめて調製される。
【0052】
イソイミド化溶液中のヘキシルカルボジイミドの濃度は特定するものではないが、反応を十分に進行させるためには、好ましくは0.5重量%以上99重量%以下である。また反応温度は、特に規定するものではないが、イソイミド化溶液の凝固点以上、沸点以下の温度を用いることができる。
【0053】
この工程(2)において、ポリアミック酸の少なくとも1部がポリイソイミドに変換されたゲル状フィルムが形成される。ゲル状フィルムのイソイミド基分率が90%以上であるとき高い延伸倍率が得られ好ましい。
【0054】
第1製造法は、この工程(2)において、均質かつ高度に膨潤した延伸性に富む未延伸ゲル状フィルムを得るところに最大の特徴の1つを有すると言える。
【0055】
工程(3)では、工程(2)で得られた未延伸ゲル状フィルムを支持体から分離したのち二軸延伸に付す。二軸延伸は、未延伸フィルムを支持体から分離したのち、洗浄してから行っても、未洗浄のまま行ってもよい。洗浄には、例えば工程(1)で用いられた溶媒と同様の溶媒が用いられる。
【0056】
延伸は、縦横それぞれの方向に1.1〜6.0倍の倍率で行うことができる。延伸温度は、特に限定するものではないが、溶剤が揮発し延伸性が低下しない程度であればよく、例えば−20℃〜+80℃が好ましい。なお、延伸は逐次あるいは同時二軸延伸のいずれの方式で行ってもよい。延伸は溶剤中、空気中、不活性雰囲気中、また低温加熱した状態でもよい。
【0057】
工程(3)で二軸延伸に付すゲル状フィルムは300〜5,000%の膨潤度を持つことが好ましい。これにより高い延伸倍率が得られる。300%以下では延伸性が不十分であり、5,000%以上ではゲルの強度が低下しハンドリングが困難となる。
【0058】
工程(4)では、熱処理前に二軸延伸フィルムを水と共沸する溶媒で洗浄して上記工程(1)で使用した溶媒と水分を除去する。洗浄としては、水と共沸する溶媒で工程(1)で使用した溶媒を溶解しうる例えばイソプロパノールの如き低級アルコール、オクチルアルコールの如き高級アルコール、トルエン、キシレンの如き芳香族炭化水素、ジオキシサンの如きエーテル系溶媒およびアセトン、メチルエチルケトンの如きケトン系溶媒、クロロホルムの如きハロゲン系溶媒等を挙げることができる。または、これらの溶媒を混合した溶媒を用いてもよい。
【0059】
二軸延伸フィルムを水と共沸する溶媒で洗浄することにより、工程(1)で使用した溶媒と水分を同時にフィルムから除去し、次工程の熱処理において結晶サイズおよび結晶格子歪を好ましい範囲に制御することができる。すなわち、工程(1)で使用した溶媒をフィルムから除去することにより、ポリイミド結晶化における溶媒可塑化効果を抑制して結晶の粗大化を抑えるとともに結晶格子歪を保持し、好ましい結晶サイズと結晶格子歪を達成できる。さらに、フィルム中の水分を除去することにより、工程中でのポリイミドの劣化を抑制することができる。
【0060】
最後に、工程(5)では、工程(4)で得られた二軸延伸フィルムを熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成する。
【0061】
熱処理方法としては熱風加熱、真空加熱、赤外線加熱、マイクロ波加熱の他、熱板、ホットロールを用いた接触による加熱などが例示できる。この際段階的に温度をあげることでイミド化を進行させることが好ましい。
【0062】
この熱処理は定長ないし緊張下に300〜550℃の温度で実施することが好ましい。これにより95%を超えるイミド基分率を、配向緩和を抑制して実現しうる。
【0063】
次に、本発明のポリイミドフィルムを製造する製造法の第2例を説明する。第2例の製造法は下記工程(1)〜(5)からなる。
(1)ポリアミック酸の溶媒中溶液を調製し、ここでポリアミック酸はp−フェニレンジアミンが80モル%を超え100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上20モル%未満からなるジアミン成分と、ピロメリット酸が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分からなり、そして溶媒はN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジノンよりなる群から選ばれる少なくとも一種からなり;
(2)上記溶媒から選ばれる少なくとも一種に、無水酢酸と有機アミン化合物を溶解してなる溶液中に、上記工程(1)で調製した溶液を支持体上に流延して得られたフィルムを該支持体と一緒に浸漬してポリアミック酸の少なくとも一部がポリイミドまたはポリイソイミドに変換されたゲル状フィルムを形成し;
(3)得られたゲル状フィルムを支持体から分離し、必要に応じ洗浄した後、二軸延伸し、次いで
(4)得られた二軸延伸フィルムを、必要に応じ洗浄して溶媒を除去した後、熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成する。
【0064】
工程(1)は第1製造法の工程(1)と同じである。
【0065】
次いで、工程(2)において、上記(1)で調製した溶液を支持体上に流延して得られたフィルムを支持体と一緒に、無水酢酸と有機アミンを溶解してなる溶液中に浸漬する。この溶液を調製するための溶媒としては、工程(1)で用いられたと同じ溶媒から選ばれる少なくとも1種の溶媒が用いられる。
【0066】
用いられる有機アミン化合物は無水酢酸とポリアミック酸の反応触媒として働くものであり、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチレンジアミンといった三級脂肪族アミン;N,N−ジメチルアニリン、1,8−ビス(N,N−ジメチルアミノ)ナフタレンの如き芳香族アミン、ピリジンおよびその誘導体、ピコリンおよびその誘導体、ルチジン、キノリン、イソキノリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン、N,N−ジメチルアミノピリジンの如き複素環式化合物を用いることができる。このなかで経済性からはピリジンおよびピコリンが好ましい。またトリエチレンジアミンおよびN,N−ジメチルアミノピリジンは無水酢酸との組合せにおいて、極めて高いイミド基分率が実現可能であり、水に対する耐性の高いゲルフィルムを与えることから好ましく用いられる。この際有機アミン化合物の無水酢酸に対する量としては特に既定するものではないが、0.5モル%以上より好ましくは10モル%以上である。
【0067】
混合溶液中の無水酢酸の濃度は特定するものではないが、反応を十分に進行させるためには、好ましくは0.5重量%以上99重量%以下である。さらに好ましくは30重量%以上99重量%である。また反応温度は、特に規定するものではないが、混合溶液中の凝固点以上、沸点以下の温度を用いることができる。
【0068】
第2例の製造法では次いで工程(3)、工程(4)および工程(5)が順次実施されるが、これらの工程は第1製造法の工程(3)、工程(4)および工程(5)と同じである。
【0069】
【発明の効果】
本発明のポリイミドフィルムは、X線回折法により測定される(001)面の結晶サイズが8〜30ナノメータ、(001)面の結晶格子歪が0.5〜2.0%であることを特徴とする。本発明のポリイミドフィルムにより、優れた可撓性を有する高ヤング率ポリイミドフィルムが提供でき、実施例において定義されている耐折強さが1.0以上、より好適には2.0以上の可撓性を有するポリイミドフィルムが提供できる。また本発明により一方向における引張り強度が0.3GPa以上、より好適には0.4GPa以上のポリイミドフィルムが提供できる。このような高ヤング率かつ実用的な可撓性と靭性を有するポリイミドフィルムは厚みが10μm以下の薄いフィルムであっても電子用途、例えば銅薄が積層された電気配線板の支持体などに好適に用いることができる。またフレキシブル回路基板、TAB(テープオートメイテッドボンディング)用テープ、LOC(リードオンチップ)用テープの支持体としても用いることができる。また磁気記録テープのベースフィルムとして用いることができる。
【0070】
【実施例】
以下、実施例により本発明方法をさらに詳しく具体的に説明する。ただしこれらの実施例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0071】
なお、実施例の特性値は、以下の測定または評価方法による。
(1)X線回折測定は、X線発生装置(理学電機社製)を用い、回転対陰極式Cuターゲット、電圧45kV、電流70mA、X線波長0.1542ナノメータの条件で、入射X線は多層膜ミラー(オスミック社製)により集光および単色化した。試料のポリイミドフィルムは、厚さ1mmとなるように積層し、フィルム面法線方向からX線を入射して垂直透過法によりカメラ長250mmで測定した。回折X線の検出にはイメージングプレート(富士写真フィルム製)を使用した。ポリイミドフィルムの結晶サイズと結晶格子歪は以下の方法で求めた。結晶サイズL(ナノメータ)は結晶サイズによる回折線の広がりの半値幅βC(ラジアン単位)を用いて以下のScherrerの式(A)によって与えられる。
【0072】
【数5】
【0073】
(λはX線波長、θはブラッグ角、Kは定数で0.9である。)
一方、格子定数dを持つ結晶格子歪Δd/dは、結晶格子歪による回折線の広がりの半値幅βD(ラジアン単位)を用いて以下の式(B)によって与えられる(カリティ著「X線回折要論」松村源太郎訳、アグネ承風社刊、1980年6月20日、261頁)。
【0074】
【数6】
【0075】
(βDは結晶格子歪による回折線の広がりの半値幅、θはブラッグ角である)
従って、測定される回折線の半値幅β(ラジアン単位)は結晶サイズと結晶格子歪による広がりのたたみ込みとなり、両者の強度曲線をガウス関数として以下の式(C)で表される。
【0076】
【数7】
【0077】
(βCは結晶サイズ歪による回折線の広がりの半値幅、βDは結晶格子歪による回折線の広がりの半値幅)
式(A)(B)(C)から下記式(D)
【0078】
【数8】
【0079】
(βは回折線の半値幅、θはブラッグ角、λはX線波長、Kは定数で0.9、Lは結晶サイズ(ナノメータ)、Δd/dは結晶格子歪である)
の関係が成り立つ。この関係式(D)を用いて、ポリイミド結晶(001)面からの次数の異なる複数の回折線のブラッグ角θと半値幅βを式(D)に代入して(sinθ/λ)2対(βcosθ/λ)2をプロットし、最小二乗法による回帰直線の縦軸切片から結晶サイズL(ナノメータ)を求め、傾きから結晶格子歪Δd/d(%)を求めた。ただし、半値幅βは、測定装置固有の回折線の広がりをシリコン粉末標準試料(NIST640c)により補正した値を用いた。
(2)強伸度測定は50mm×10mmのサンプルを用い、引張り速度5mm/minで行いオリエンテックUCT−1Tによって測定を行った。
(3)ポリイミドフィルムの可撓性の評価は、日本工業規格P8115(紙及び板紙−耐折強さ試験方法−MIT試験機法)に準拠してフィルムの耐折強さを測定した。フィルムの耐折強さは、試験片が破断するまでの往復折曲げ回数をN回として、
【0080】
【数9】
耐折強さ = log10N
として算出した。
【0081】
[実施例1]
温度計・攪拌装置および原料投入口を備えた反応容器に、窒素雰囲気下モレキュラーシーブスで脱水したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)910mlを入れ、さらにパラフェニルジアミン19.9gを加えた後に完全に溶解し、その後、氷浴下冷却した。この冷却したジアミン溶液に無水ピロメリット酸二無水物40.1gを添加し一時間反応させ、さらに室温下2時間反応後、アニリン0.011gを添加しさらに30分反応させた。このアミド酸溶液をガラス板上に厚み2.0mmのドクターブレードを用いてキャストし、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)濃度28wt%のN−メチル−2−ピロリドン溶液からなるDCC浴に導入し8分反応固化させたのちガラス板から剥離し、さらに12分反応させ、ゲル状フィルムを得た。
【0082】
ポリイミド前駆体を膨潤溶媒であるNMPに室温下15分浸漬させた後、フィルムをチャックで固定し直交する二方向にそれぞれ2.2倍の倍率で同時二軸延伸した。
【0083】
延伸後フィルムを、水との共沸温度が80.1℃のイソプロパノールで30分間浸漬・洗浄し、イミド前駆体フィルムから膨潤溶媒のNMPと水分を抽出した。
【0084】
延伸後のフィルムは枠固定した後200℃で乾燥した。さらに段階的に熱処理イミド化を行い最終的には450℃まで昇温させ、ポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムを得た。得られたポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムの厚みは10μmであった。得られたポリイミドフィルムのX線回折パターンを、図1に示す。ポリパラフェニレンピロメリットイミド結晶の(001)面からの各回折線の半値幅を(D)式でプロットした結果を図2に示す。このプロットから求めたポリパラフェニレンピロメリットイミドの結晶サイズは16ナノメータ、結晶格子歪は1.1%であった。引張り弾性率は直交する延伸方向について18.4GPaおよび20.1GPa、引張り強度はそれぞれ0.34GPaおよび0.43Gpa、伸度はそれぞれ2.7%および3.4%であった。耐折強さは2.6であった。
【0085】
[実施例2〜4]
同時二軸延伸後のフィルムの洗浄溶媒を水との共沸温度が85.0℃のトルエンを用い最終の熱処理温度をそれぞれ470℃、400℃、350℃に変えたことをのぞいて実施例1と同様の方法でポリイミドフィルムを得た。その結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
[実施例5]
実施例1と同様の方法を用いてポリアミック酸溶液を調製した。このポリアミック酸溶液を、ガラス基板上に厚み2.0mmのドクターブレードを用いてキャストし、NMP800ml、無水酢酸600mlおよびピリジン300mlからなる脱水縮合浴に導入し10分間浸漬してゲル化させた。その後ガラス基板から剥離しゲル状フィルムを得た。
【0088】
得られたゲルフィルムをNMPに室温下15分浸漬させた後、両端をチャックで固定し、室温下2軸方向に各1.9倍に5mm/secの速度で同時二軸延伸した。延伸後フィルムを、トルエンで30分間浸漬・洗浄し、イミド前駆体フィルムから膨潤溶媒のNMPと水分を抽出した。
【0089】
次いでフィルムを枠固定し熱風循環式オーブンを用い160℃と450℃の間で段階的に温度を上げ乾燥および熱処理を行い、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの厚みは9μmであった。得られたポリイミドフィルムのX線回折パターンを、図3に示す。(001)面からの各回折線の半値幅を(D)式でプロットした結果を図4に示す。このプロットから求めたポリパラフェニレンピロメリットイミドの結晶サイズは17ナノメータ、結晶格子歪は1.0%であった。面内の直交する二方向に測定した引張り弾性率は17.9GPaおよび16.0GPa、引張り強度は0.39GPaおよび0.35GPa、伸度は5.1%および4.9%であった。耐折強さは、3.1であった。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られたポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムのX線回折パターンを示す。
【図2】実施例1で得られた結晶サイズと結晶格子歪を算出するための回折線半値幅のプロットを示す。
【図3】実施例5で得られたポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムのX線回折パターンを示す。
【図4】実施例5で得られた結晶サイズと結晶格子歪を算出するための回折線半値幅のプロットを示す。
Claims (4)
- p−フェニレンジアミン成分が80モル%を超え100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上20モル%未満からなるジアミン成分と、ピロメリット酸が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分とから実質的になるポリイミドからなり、そしてX線回折法により測定される(001)面の結晶サイズが5〜30ナノメータであり、(001)面の結晶格子歪が0.5〜2.0%であることを特徴とするポリイミドフィルム。
- ポリイミドが、p−フェニレンジアミン成分100モル%からなるジアミン成分と、ピロメリット酸成分100モル%とからなる請求項1に記載のポリイミドフィルム。
- X線回折法により測定される(001)面の結晶サイズが8〜20ナノメータであることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
- X線回折法により測定される(001)面の結晶格子歪が0.8〜1.5%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
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