JP2004209406A - 複合半透膜及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】優れた透水性及び耐酸化剤性と実用的な塩阻止性を併せ持つ複合半透膜を短時間かつ簡易処理により作製する複合半透膜の製造方法、及びその製造方法によって得られる複合半透膜を提供すること。
【解決手段】主鎖及び/又は側鎖にSP3 軌道を有する炭素原子を含有するポリアミド系樹脂を含む薄膜と、これを支持する多孔性支持膜とからなる複合半透膜を酸塩化物ガスと接触させる接触工程を含むことを特徴とする複合半透膜の製造方法。
【選択図】 なし
【解決手段】主鎖及び/又は側鎖にSP3 軌道を有する炭素原子を含有するポリアミド系樹脂を含む薄膜と、これを支持する多孔性支持膜とからなる複合半透膜を酸塩化物ガスと接触させる接触工程を含むことを特徴とする複合半透膜の製造方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液状混合物の成分を選択的に分離するための複合半透膜、及びその製造方法に関し、詳しくは、多孔性支持体上にポリアミドを主成分とする薄膜を備え、優れた透水性と実用的な塩阻止性を有する複合半透膜及びその製造方法に関する。
【0002】
かかる複合半透膜は、超純水の製造、かん水または海水の脱塩などに好適であり、また染色排水や電着塗料排水などの公害発生原因である汚れなどから、その中に含まれる汚染源あるいは有効物質を除去・回収し、排水のクローズ化に寄与することができる。また、食品用途などで有効成分の濃縮などにも用いることができる。
【0003】
【従来の技術】
上記の如き用途に使用される半透膜としては、相分離法等により非対称構造が同一素材で形成された非対称膜と、多孔性支持体上に選択分離性を有する薄膜を異なる素材で形成してなる複合半透膜とが知られている。
【0004】
現在、後者の半透膜として、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸ハロゲン化物との界面重合によって得られるポリアミドからなる薄膜が、多孔性支持体上に形成されたものが多く提案されている(例えば、特許文献1〜4)。また、多官能芳香族アミンと多官能脂環式酸ハロゲン化物との界面重合によって得られるポリアミドからなる薄膜が多孔性支持体上に形成されたものも提案されている(例えば、特許文献5)。
【0005】
また、上記複合半透膜の水透過性をさらに向上させるための添加剤が提案されており、水酸化ナトリウムやリン酸三ナトリウムなど、界面反応にて生成するハロゲン化水素を除去しうる物質や、公知のアシル化触媒、また界面反応時の反応場の界面張力を減少させる化合物などが知られている(例えば、特許文献6〜8)。
【0006】
しかし、これらの半透膜は、造水プラントなどをはじめ各種水処理におけるより安定した運転性や簡易な操作性および膜寿命の長期化による低コストの追求から、各種の酸化剤、特に塩素による洗浄に耐えうる耐久性が求められるが、いずれも長期的に耐え得るだけのレベルの耐久性を有しているとはいえない。このため、より高い耐久性を持つ半透膜が望まれている。
【0007】
前記課題を解決するため、2級アミノ基のみを有するジアミンから得た複合膜(特許文献9)、脂肪族ジアミンもしくは脂環式ジアミンを用いて得た複合膜(特許文献10、11)、ジフェニルスルホン構造を有する複合膜(特許文献12)、さらには後処理によって耐酸化剤性を付与したもの(特許文献13)が提案されている。
【0008】
また、本出願人は、ポリアミド系樹脂を含む薄膜と、これを支持する多孔性支持膜とからなる複合半透膜を酸化剤水溶液と接触させる複合半透膜の製造方法について出願済みである(本願出願時に未公開)。
【0009】
さらに、本出願人は、ポリアミド系樹脂を含む薄膜と、これを支持する多孔性支持膜とからなる複合半透膜を酸化剤水溶液及びアルカリ性水溶液と接触させる複合半透膜の製造方法について出願済みである(本願出願時に未公開)。
【0010】
【特許文献1】
特開昭55−147106号公報
【特許文献2】
特開昭62−121603号公報
【特許文献3】
特開昭63−218208号公報
【特許文献4】
特開平2−187135号公報
【特許文献5】
特開昭61−42308号公報
【特許文献6】
特開昭63−12310号公報
【特許文献7】
特開平6−47260号公報
【特許文献8】
特開平8−224452号公報
【特許文献9】
特開昭55−139802号公報
【特許文献10】
特開平1−180208号公報
【特許文献11】
特開平2−78428号公報
【特許文献12】
特開昭62−282603号公報
【特許文献13】
特開平5−96140号公報
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記複合半透膜は優れた透水性、塩阻止性、及び耐酸化剤性をすべて合わせ持つものではなく、より高い特性が望まれている。また、前記複合半透膜の製造方法では、透水性を向上させるのに長時間の処理工程を要し、優れた透水性を短時間かつ簡易処理で得る方法が望まれていた。
【0011】
本発明の目的は、優れた透水性及び耐酸化剤性と実用的な塩阻止性を併せ持つ複合半透膜を短時間かつ簡易処理により作製する複合半透膜の製造方法、及びその製造方法によって得られる複合半透膜を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定構造の複合半透膜を酸塩化物ガスと接触させることにより、簡易かつ短時間で各種溶質の阻止性能を低下させることなく透水性を飛躍的に向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明の複合半透膜の製造方法は、主鎖及び/又は側鎖にSP3 軌道を有する炭素原子を含有するポリアミド系樹脂を含む薄膜と、これを支持する多孔性支持膜とからなる複合半透膜を酸塩化物ガスと接触させる接触工程を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明においては、前記ポリアミド系樹脂が下記一般式(I)及び/又は(II)で表される構成単位を有するポリアミド系樹脂であることが好ましい。
【0015】
【化3】
(但し、R11は炭素数2〜10の−O−、−S−、又は−NR−(Rは水素原子または低級アルキル基)を含んでいてもよいアルキレン基を示し、R12およびR13はそれぞれ独立に置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または水素原子であり、かつR12またはR13の少なくともどちらか一方は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基である。R14は2価の有機基を示す。)
【化4】
(但し、R21は炭素数2〜10の−O−、−S−、又は−NR−(Rは水素原子または低級アルキル基)を含んでいてもよいアルキレン基を示し、R22およびR23はそれぞれ独立に置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または水素原子であり、かつR22またはR23の少なくともどちらか一方は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基である。R24は3価の有機基を示す。)
上記において、R11及びR21がエチレン基であり、R12及びR22がフェニル基であり、且つ、R13及びR23が水素原子であることが好ましい。
【0016】
また、前記酸塩化物ガスが、オキサリルクロライドであることが好ましい。
【0017】
本発明においては、前記接触工程を5〜30℃の温度条件下で行うことが好ましい。また、前記接触工程における接触時間が2〜20分であることが好ましい。
【0018】
一方、本発明の複合半透膜は、上記いずれかに記載の製造方法によって製造された複合半透膜である。前記複合半透膜は、0.15%のNaCl水溶液を用い、圧力1.5MPa、温度25℃、及びpH7の条件下で透過試験した際の透過流束が1m3 /(m2 ・日)以上、且つ、NaCl阻止率が90%以上であることが好ましい。
【0019】
[作用効果]
本発明の複合半透膜の製造方法によると、特定構造の複合半透膜を酸塩化物ガスと接触させることで、実施例の結果が示すように、溶質の阻止性能を低下させることなく透水性を飛躍的に向上できる。前記接触工程を行うことにより、このような顕著な効果が発現する理由は定かではないが、ポリアミド系樹脂と酸塩化物ガスとが反応し、SP3 軌道を有する炭素原子上にカルボニル基が導入されることにより膜の親水性が増加したこと、又はアミンと酸塩化物ガスとの反応により新たにアミド結合とカルボニル基が導入され、膜の透水性が増加したことなどに起因していると考えられる。
【0020】
また、アミド結合の窒素原子の置換基中に芳香環を有することにより、塩阻止性を向上させることができる。このような効果が発現する理由は定かではないが、芳香環があることでポリアミド系樹脂の結晶性、平面性、及び配向性が向上したことなどに起因していると考えられる。
【0021】
また、アルキレンジアミンを含有してなるポリアミド系樹脂を用いることにより優れた耐酸化剤性も発現させることができる。
【0022】
一方、本発明の複合半透膜によると、上記の如き製造方法により、優れた透水性及び耐酸化剤性と実用的な塩阻止性を併せ持つことができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の複合半透膜の製造方法は、特定構造の複合半透膜を酸塩化物ガスと接触させる接触工程を含むことを特徴とする。まず、当該複合半透膜について説明する。
【0024】
本発明における複合半透膜は、主鎖及び/又は側鎖にSP3 軌道を有する炭素原子を含有するポリアミド系樹脂を含む薄膜と、これを支持する多孔性支持膜とからなる。前記ポリアミド系樹脂は、主鎖及び/又は側鎖にSP3 軌道を有する炭素原子を含有するものであれば特に制限されるものではないが、例えば、アミン成分と多官能性酸ハロゲン化物とを共重合させることにより得ることができる。
【0025】
アミン成分とは、2つ以上の反応性のアミノ基を有する多官能アミンであり、、芳香族、脂肪族、又は脂環式の多官能アミンが挙げられる。芳香族多官能アミンとしては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミン等が挙げられる。脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン等が挙げられる。脂環式多官能アミンとしては、例えば、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、4−アミノメチルピペラジン等が挙げられる。これらの多官能アミンは1種で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0026】
多官能性酸ハロゲン化物としては、芳香族、脂肪族、又は脂環式の多官能性酸ハロゲン化物が挙げられる。芳香族多官能性酸ハロゲン化物としては、例えば、トリメシン酸クロライド、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、ビフェニルジカルボン酸クロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸クロライド、ベンゼンジスルホン酸クロライド、クロロスルホニルベンゼンジカルボン酸クロライド等が挙げられる。脂肪族多官能性酸ハロゲン化物としては、例えば、プロパンジカルボン酸クロライド、ブタンジカルボン酸クロライド、ペンタンジカルボン酸クロライド、プロパントリカルボン酸クロライド、ブタントリカルボン酸クロライド、ペンタントリカルボン酸クロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライド等が挙げられる。脂環式多官能性酸ハロゲン化物としては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸クロライド、シクロブタンテトラカルボン酸クロライド、シクロペンタントリカルボン酸クロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸クロライド、シクロヘキサントリカルボン酸クロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸クロライド、シクロペンタンジカルボン酸クロライド、シクロブタンジカルボン酸クロライド、シクロヘキサンジカルボン酸クロライド、テトラハイドロフランジカルボン酸クロライド等が挙げられる。これら多官能性酸ハロゲン化物は1種で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0027】
また、ポリアミド系樹脂を含む薄膜の性能を向上させるために、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などのポリマー、ソルビトール、グリセリンなどの多価アルコールなどを共重合させてもよい。
【0028】
ただし、前記ポリアミド系樹脂は、主鎖及び/又は側鎖にSP3 軌道を有する炭素原子を含有することが必要であり、前記アミン成分、多官能性酸ハロゲン化物、及び他の共重合成分の少なくとも1成分が、その分子内にSP3 軌道を有する炭素原子を有していることが必要である。SP3 軌道を有する炭素原子を有する有機基としては、例えば、アルキル基、アルキレン基などが挙げられる。
【0029】
本発明においては、前記ポリアミド系樹脂が、上記一般式(I)及び/又は(II)で表される構成単位を有するポリアミド系樹脂であることが好ましい。
【0030】
一般式(I)〜(II)におけるR11及びR21は、炭素数2〜10の−O−、−S−、又は−NR−(Rは水素原子または低級アルキル基(炭素数1〜4))を含んでいてもよいアルキレン基を示す。具体的には、−C2 H4 −、−C3 H6 −、−C4 H8 −、−C5 H10−、−C6 H12−、−C7 H14−、−C8 H16−、−C9 H18−、−C10H20−、−CH2 OCH2 −、−CH2 OCH2 OCH2 −、−C2 H4 OCH2 −、−C2 H4 OC2 H4 −、−CH2 SCH2 −、−CH2 SCH2 SCH2 −、−C2 H4 SCH2 −、−C2 H4 SC2 H4 −、−C2 H4 NHC2 H4 −、−C2 H4 N(CH3 )C2 H4 −などがあげられる。なかでも、耐久性をさらに向上させること、膜形成時の反応性、成膜の塩阻止性などの観点から、複素原子を含まないアルキレン基が好ましく、特にエチレン基であることが好ましい。
【0031】
また、R12、R13、R22、及びR23はそれぞれ独立に置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は水素原子である。但しR12又はR13の少なくともどちらか一方は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であり、これはR22又はR23についても同様である。芳香族炭化水素基とは、例えば、−C6 H5 、−CH2 C6 H5 、−C6 H4 OH、−C6 H4 CH3 、−C6 H4 NO2 、及び−C6 H4 Clなどがあげられ、成膜の透水性や塩阻止性などの観点から、−C6 H5 が好ましい。
【0032】
一方、一般式(I)〜(II)におけるR14及びR24は、2価又は3価の有機基であり、R12HNR11NR13Hで表されるジアミン成分と縮合反応により本発明の薄膜を形成する2価以上の多官能酸ハロゲン化物の残基に相当するものである。当該多官能酸ハロゲン化物としては、特に限定されるものではなく、前記記載のものが挙げられる。但し、反応性、成膜の塩阻止性、透水性などの観点から、多官能芳香族酸ハロゲン化物であることが好ましい。
【0033】
一方、本発明におけるポリアミド系樹脂は、架橋構造を有することが好ましく、その場合、3価以上の多官能酸ハロゲン化物を使用することが好ましい。3価以上の多官能酸ハロゲン化物を使用する場合、架橋部分では一般式(II)で表される構成単位となるが、未架橋部分が存在する場合には、一般式(I)で表される構成単位となり、R14はカルボキシル基やその塩などが残存する2価の有機基となる。
【0034】
上記薄膜を形成するポリアミド系樹脂は、単独重合体でもよいが、上記の如き構成単位の複数や他の構成単位を含む共重合体や、単独重合体を複数混合したブレンド体でもよい。例えば、一般式(I)で表される構成単位、及び一般式(II)で表される構成単位を有するポリアミド系樹脂が挙げられる。上記の他の構成単位としては、主鎖に芳香環を含むジアミン成分や側鎖に芳香環を含まないジアミン成分、その他ポリアミド系半透膜に使用されるジアミン成分などが挙げられる。
【0035】
本発明におけるポリアミド系樹脂には、一般式(I)及び/又は(II)で表される構成単位を50モル%以上含むことが好ましく、80モル%以上含むことがより好ましい。50モル%未満であると、アミド結合の窒素原子の置換基中の芳香環の効果が小さくなり、優れた透水性及び実用的な塩阻止性を同時に満足しにくくなる傾向がある。
【0036】
本発明における薄膜(分離活性層)の厚みは、薄膜の製法等にもよるが、0.01〜100μmが好ましく、0.1〜10μmがより好ましい。当該厚みが薄い方が透過流束の面で優れるが、薄くなりすぎると薄膜の機械的強度が低下して欠陥が生じ易く、塩阻止性能に悪影響を及ぼす傾向があるからである。
【0037】
本発明において上記薄膜を支持する多孔性支持膜は、薄膜を支持しうるものであれば特に限定されず、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンのようなポリアリールエーテルスルホン、ポリイミド、ボリフッ化ビニリデンなど種々のものをあげることができるが、特に化学的、機械的、熱的に安定である点からポリスルホン、ポリアリールエーテルスルホンからなる多孔性支持膜が好ましく用いられる。かかる多孔性支持膜は、通常約25〜125μm、好ましくは約40〜75μmの厚みを有するが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0038】
また、多孔性支持膜は、対称構造でも非対称構造でもよいが、薄膜の支持機能と通液性を両立させる上で、非対称構造が好ましい。なお、多孔性支持膜の薄膜形成側面の平均孔径は、1〜1000nmが好ましい。
【0039】
本発明における薄膜を多孔質支持膜上に形成させる際に、その方法については何ら制限なく、あらゆる公知の手法を用いることができる。例えば、界面縮合法、相分離法、薄膜塗布法などが挙げられる。中でも、多孔質支持膜上にジアミン成分を含有した水溶液を塗布した後に、かかる多孔質支持膜を多官能酸ハロゲン化物を含有した非水溶性溶液に接触させることにより多孔質支持膜上に薄膜を形成させる界面縮合法が好ましい。かかる界面縮合法の条件等の詳細は、特開昭58−24303号公報、特開平1−180208号公報等に記載されており、それらの公知技術を適宜採用することができる。
【0040】
また、その反応場に、製膜を容易にし、あるいは得られる複合半透膜の性能を向上させるための目的で、各種の試薬を存在させることが可能である。これらの試薬として、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などの重合体、ソルビトール、グリセリンなどのような多価アルコール、特開平2−187135号公報に記載のテトラアルキルアンモニウムハライドやトリアルキルアンモニウムと有機酸の塩などのアミン塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤、縮重合反応にて生成するハロゲン化水素を除去しうる水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、トリエチルアミン、カンファースルホン酸、あるいは公知のアシル化触媒、また、特開平8−224452号公報に記載の溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3 )1/2 の化合物などがあげられる。
【0041】
本発明の製造方法は、以上のような複合半透膜を、酸塩化物ガスと接触させる接触工程を含むものである。酸塩化物ガスは、通常に酸化作用を有する物質であれば特に制限されず、例えば、オキサリルクロライド〔(COCl)2 〕が挙げられる。
【0042】
本発明において、前記複合半透膜に酸塩化物ガスを接触させる方法は特に制限されず、例えば、デシケータなどの容器に複合半透膜を入れ、そこに窒素バブリングによって気化させた酸塩化物を導入する方法が挙げられる。
【0043】
接触工程は、減圧下、常圧下、又は加圧下のいずれで行ってもよいが、酸塩化物ガスの腐食性のため常圧下で行うことが好ましい。なお、酸塩化物が常圧で容易に気体にならない場合には、減圧下で行ってもよい。
【0044】
また、接触工程における温度及び接触時間は、短時間の接触で透過流束を増加させる効果に鑑みて定めることができるが、5〜30℃の温度条件下で行うことが好ましく、さらに好ましくは10〜20℃であり、接触時間は2〜20分であることが好ましく、さらに好ましくは5〜15分である。温度が5℃未満の場合、求める効果を得るために要する時間がかかりすぎ製造上実用的ではない。接触時間が2分未満の場合には、求める効果が十分に得られない傾向にある。一方、温度が30℃を超える場合又は接触時間が20分を超える場合には、塩阻止性能が低下するなどの膜の劣化が生じる傾向にある。なお、酸塩化物が常温で容易に気体にならない場合には、加熱して接触工程を行ってもよい。
【0045】
接触工程をおこなう際に複合半透膜はその形状になんら制限を受けるものではない。すなわち平膜状、あるいはスパイラルエレメント状など、あらゆる膜形状において処理を施すことが可能である。
【0046】
このような製造方法により作製された複合半透膜は、優れた透水性及び耐酸化剤性と実用的な塩阻止性を併せ持つ。
【0047】
前記複合半透膜は、0.15%のNaCl水溶液を用い、圧力1.5MPa、温度25℃、及びpH7の条件下で透過試験した際の透過流束が1m3 /(m2 ・日)以上、且つ、NaCl阻止率が90%以上であることが好ましく、さらに好ましくは透過流束が1.5m3 /(m2 ・日)以上、且つ、NaCl阻止率が95%以上である。透過流束が1m3 /(m2 ・日)未満の場合には、所定の水量を得るために圧力を高くしなければならず実用性に劣る。また、NaCl阻止率が90%未満の場合には、要求される水質の透過水が得られないため実用的でない。
【0048】
【実施例】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。
【0049】
実施例1
N−フェニルエチレンジアミン2.5重量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.15重量%、トリエチルアミン3重量%、カンファースルホン酸6重量%を含有した水溶液を多孔性ポリスルホン支持膜(薄膜形成側平均孔径20nm、非対称膜)に接触させた後、余分の水溶液を除去した。ついでかかる支持膜の表面にトリメシン酸クロライド0.1重量%、イソフタル酸クロライド0.2重量%を含有するイソオクタン溶液を接触させて界面縮重合反応を行った。その後120℃の熱風乾燥機中で3分間保持させ、多孔性支持膜上に重合体薄膜(厚み1μm)を形成して複合半透膜を得た。
得られた複合半透膜をデシケータの中に入れ、常温(23.5℃)常圧下で窒素バブリングによりオキサリルクロライド〔(COCl)2 〕を吹き込んだ。10分間接触処理した後、デシケータ内を窒素置換し、複合半透膜を取り出した。0.15%食塩水を原水として、25℃、pH7、圧力1.5MPaの条件下で透過試験をおこなった。その結果、食塩の阻止率は97%、透過流束は1.5m3 /(m2 /日)であった。
図1に、接触時間と膜性能との関係を示す。
【0050】
実施例2
接触時間を15分間にした以外は実施例1と同様の方法により複合半透膜を作製した。実施例1と同様の透過試験を行ったところ、食塩の阻止率は95%、透過流束は1m3 /(m2 /日)であった。
【0051】
比較例1
オキサリルクロライドとの接触工程を省略した以外は実施例1と同様の方法により複合半透膜を作製した。実施例1と同様の透過試験を行ったところ、食塩の阻止率は93%、透過流束は0.6m3 /(m2 /日)であった。
【0052】
比較例2
ジアミン成分として、m−フェニレンジアミンを用いた以外は実施例1と同様の方法により複合半透膜を作製した。実施例1と同様の透過試験を行ったところ、食塩の阻止率は99.4%、透過流束は0.6m3 /(m2 /日)であった。
【0053】
比較例3
ジアミン成分として、m−フェニレンジアミンを用い、オキサリルクロライドとの接触工程を省略した以外は実施例1と同様の方法により複合半透膜を作製した。実施例1と同様の透過試験を行ったところ、食塩の阻止率は99.5%、透過流束は0.9m3 /(m2 /日)であった。
【0054】
以上の結果より、主鎖及び/又は側鎖にSP3 軌道を有する炭素原子を含有するポリアミド系樹脂を含む薄膜と、これを支持する多孔性支持膜とからなる複合半透膜を酸塩化物ガスと接触させることにより、塩阻止率を低下させることなく透過流束を増大させることができる。酸塩化物ガスとの接触工程を省略した場合(比較例1)、及びSP3 軌道を有する炭素原子を含有しないポリアミド系樹脂を用いた場合(比較例2、3)には透過流束が十分でない。
【図面の簡単な説明】
【図1】接触時間と膜性能との関係を示すグラフ
【発明の属する技術分野】
本発明は、液状混合物の成分を選択的に分離するための複合半透膜、及びその製造方法に関し、詳しくは、多孔性支持体上にポリアミドを主成分とする薄膜を備え、優れた透水性と実用的な塩阻止性を有する複合半透膜及びその製造方法に関する。
【0002】
かかる複合半透膜は、超純水の製造、かん水または海水の脱塩などに好適であり、また染色排水や電着塗料排水などの公害発生原因である汚れなどから、その中に含まれる汚染源あるいは有効物質を除去・回収し、排水のクローズ化に寄与することができる。また、食品用途などで有効成分の濃縮などにも用いることができる。
【0003】
【従来の技術】
上記の如き用途に使用される半透膜としては、相分離法等により非対称構造が同一素材で形成された非対称膜と、多孔性支持体上に選択分離性を有する薄膜を異なる素材で形成してなる複合半透膜とが知られている。
【0004】
現在、後者の半透膜として、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸ハロゲン化物との界面重合によって得られるポリアミドからなる薄膜が、多孔性支持体上に形成されたものが多く提案されている(例えば、特許文献1〜4)。また、多官能芳香族アミンと多官能脂環式酸ハロゲン化物との界面重合によって得られるポリアミドからなる薄膜が多孔性支持体上に形成されたものも提案されている(例えば、特許文献5)。
【0005】
また、上記複合半透膜の水透過性をさらに向上させるための添加剤が提案されており、水酸化ナトリウムやリン酸三ナトリウムなど、界面反応にて生成するハロゲン化水素を除去しうる物質や、公知のアシル化触媒、また界面反応時の反応場の界面張力を減少させる化合物などが知られている(例えば、特許文献6〜8)。
【0006】
しかし、これらの半透膜は、造水プラントなどをはじめ各種水処理におけるより安定した運転性や簡易な操作性および膜寿命の長期化による低コストの追求から、各種の酸化剤、特に塩素による洗浄に耐えうる耐久性が求められるが、いずれも長期的に耐え得るだけのレベルの耐久性を有しているとはいえない。このため、より高い耐久性を持つ半透膜が望まれている。
【0007】
前記課題を解決するため、2級アミノ基のみを有するジアミンから得た複合膜(特許文献9)、脂肪族ジアミンもしくは脂環式ジアミンを用いて得た複合膜(特許文献10、11)、ジフェニルスルホン構造を有する複合膜(特許文献12)、さらには後処理によって耐酸化剤性を付与したもの(特許文献13)が提案されている。
【0008】
また、本出願人は、ポリアミド系樹脂を含む薄膜と、これを支持する多孔性支持膜とからなる複合半透膜を酸化剤水溶液と接触させる複合半透膜の製造方法について出願済みである(本願出願時に未公開)。
【0009】
さらに、本出願人は、ポリアミド系樹脂を含む薄膜と、これを支持する多孔性支持膜とからなる複合半透膜を酸化剤水溶液及びアルカリ性水溶液と接触させる複合半透膜の製造方法について出願済みである(本願出願時に未公開)。
【0010】
【特許文献1】
特開昭55−147106号公報
【特許文献2】
特開昭62−121603号公報
【特許文献3】
特開昭63−218208号公報
【特許文献4】
特開平2−187135号公報
【特許文献5】
特開昭61−42308号公報
【特許文献6】
特開昭63−12310号公報
【特許文献7】
特開平6−47260号公報
【特許文献8】
特開平8−224452号公報
【特許文献9】
特開昭55−139802号公報
【特許文献10】
特開平1−180208号公報
【特許文献11】
特開平2−78428号公報
【特許文献12】
特開昭62−282603号公報
【特許文献13】
特開平5−96140号公報
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記複合半透膜は優れた透水性、塩阻止性、及び耐酸化剤性をすべて合わせ持つものではなく、より高い特性が望まれている。また、前記複合半透膜の製造方法では、透水性を向上させるのに長時間の処理工程を要し、優れた透水性を短時間かつ簡易処理で得る方法が望まれていた。
【0011】
本発明の目的は、優れた透水性及び耐酸化剤性と実用的な塩阻止性を併せ持つ複合半透膜を短時間かつ簡易処理により作製する複合半透膜の製造方法、及びその製造方法によって得られる複合半透膜を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定構造の複合半透膜を酸塩化物ガスと接触させることにより、簡易かつ短時間で各種溶質の阻止性能を低下させることなく透水性を飛躍的に向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明の複合半透膜の製造方法は、主鎖及び/又は側鎖にSP3 軌道を有する炭素原子を含有するポリアミド系樹脂を含む薄膜と、これを支持する多孔性支持膜とからなる複合半透膜を酸塩化物ガスと接触させる接触工程を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明においては、前記ポリアミド系樹脂が下記一般式(I)及び/又は(II)で表される構成単位を有するポリアミド系樹脂であることが好ましい。
【0015】
【化3】
(但し、R11は炭素数2〜10の−O−、−S−、又は−NR−(Rは水素原子または低級アルキル基)を含んでいてもよいアルキレン基を示し、R12およびR13はそれぞれ独立に置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または水素原子であり、かつR12またはR13の少なくともどちらか一方は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基である。R14は2価の有機基を示す。)
【化4】
(但し、R21は炭素数2〜10の−O−、−S−、又は−NR−(Rは水素原子または低級アルキル基)を含んでいてもよいアルキレン基を示し、R22およびR23はそれぞれ独立に置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または水素原子であり、かつR22またはR23の少なくともどちらか一方は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基である。R24は3価の有機基を示す。)
上記において、R11及びR21がエチレン基であり、R12及びR22がフェニル基であり、且つ、R13及びR23が水素原子であることが好ましい。
【0016】
また、前記酸塩化物ガスが、オキサリルクロライドであることが好ましい。
【0017】
本発明においては、前記接触工程を5〜30℃の温度条件下で行うことが好ましい。また、前記接触工程における接触時間が2〜20分であることが好ましい。
【0018】
一方、本発明の複合半透膜は、上記いずれかに記載の製造方法によって製造された複合半透膜である。前記複合半透膜は、0.15%のNaCl水溶液を用い、圧力1.5MPa、温度25℃、及びpH7の条件下で透過試験した際の透過流束が1m3 /(m2 ・日)以上、且つ、NaCl阻止率が90%以上であることが好ましい。
【0019】
[作用効果]
本発明の複合半透膜の製造方法によると、特定構造の複合半透膜を酸塩化物ガスと接触させることで、実施例の結果が示すように、溶質の阻止性能を低下させることなく透水性を飛躍的に向上できる。前記接触工程を行うことにより、このような顕著な効果が発現する理由は定かではないが、ポリアミド系樹脂と酸塩化物ガスとが反応し、SP3 軌道を有する炭素原子上にカルボニル基が導入されることにより膜の親水性が増加したこと、又はアミンと酸塩化物ガスとの反応により新たにアミド結合とカルボニル基が導入され、膜の透水性が増加したことなどに起因していると考えられる。
【0020】
また、アミド結合の窒素原子の置換基中に芳香環を有することにより、塩阻止性を向上させることができる。このような効果が発現する理由は定かではないが、芳香環があることでポリアミド系樹脂の結晶性、平面性、及び配向性が向上したことなどに起因していると考えられる。
【0021】
また、アルキレンジアミンを含有してなるポリアミド系樹脂を用いることにより優れた耐酸化剤性も発現させることができる。
【0022】
一方、本発明の複合半透膜によると、上記の如き製造方法により、優れた透水性及び耐酸化剤性と実用的な塩阻止性を併せ持つことができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の複合半透膜の製造方法は、特定構造の複合半透膜を酸塩化物ガスと接触させる接触工程を含むことを特徴とする。まず、当該複合半透膜について説明する。
【0024】
本発明における複合半透膜は、主鎖及び/又は側鎖にSP3 軌道を有する炭素原子を含有するポリアミド系樹脂を含む薄膜と、これを支持する多孔性支持膜とからなる。前記ポリアミド系樹脂は、主鎖及び/又は側鎖にSP3 軌道を有する炭素原子を含有するものであれば特に制限されるものではないが、例えば、アミン成分と多官能性酸ハロゲン化物とを共重合させることにより得ることができる。
【0025】
アミン成分とは、2つ以上の反応性のアミノ基を有する多官能アミンであり、、芳香族、脂肪族、又は脂環式の多官能アミンが挙げられる。芳香族多官能アミンとしては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミン等が挙げられる。脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン等が挙げられる。脂環式多官能アミンとしては、例えば、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、4−アミノメチルピペラジン等が挙げられる。これらの多官能アミンは1種で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0026】
多官能性酸ハロゲン化物としては、芳香族、脂肪族、又は脂環式の多官能性酸ハロゲン化物が挙げられる。芳香族多官能性酸ハロゲン化物としては、例えば、トリメシン酸クロライド、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、ビフェニルジカルボン酸クロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸クロライド、ベンゼンジスルホン酸クロライド、クロロスルホニルベンゼンジカルボン酸クロライド等が挙げられる。脂肪族多官能性酸ハロゲン化物としては、例えば、プロパンジカルボン酸クロライド、ブタンジカルボン酸クロライド、ペンタンジカルボン酸クロライド、プロパントリカルボン酸クロライド、ブタントリカルボン酸クロライド、ペンタントリカルボン酸クロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライド等が挙げられる。脂環式多官能性酸ハロゲン化物としては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸クロライド、シクロブタンテトラカルボン酸クロライド、シクロペンタントリカルボン酸クロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸クロライド、シクロヘキサントリカルボン酸クロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸クロライド、シクロペンタンジカルボン酸クロライド、シクロブタンジカルボン酸クロライド、シクロヘキサンジカルボン酸クロライド、テトラハイドロフランジカルボン酸クロライド等が挙げられる。これら多官能性酸ハロゲン化物は1種で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0027】
また、ポリアミド系樹脂を含む薄膜の性能を向上させるために、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などのポリマー、ソルビトール、グリセリンなどの多価アルコールなどを共重合させてもよい。
【0028】
ただし、前記ポリアミド系樹脂は、主鎖及び/又は側鎖にSP3 軌道を有する炭素原子を含有することが必要であり、前記アミン成分、多官能性酸ハロゲン化物、及び他の共重合成分の少なくとも1成分が、その分子内にSP3 軌道を有する炭素原子を有していることが必要である。SP3 軌道を有する炭素原子を有する有機基としては、例えば、アルキル基、アルキレン基などが挙げられる。
【0029】
本発明においては、前記ポリアミド系樹脂が、上記一般式(I)及び/又は(II)で表される構成単位を有するポリアミド系樹脂であることが好ましい。
【0030】
一般式(I)〜(II)におけるR11及びR21は、炭素数2〜10の−O−、−S−、又は−NR−(Rは水素原子または低級アルキル基(炭素数1〜4))を含んでいてもよいアルキレン基を示す。具体的には、−C2 H4 −、−C3 H6 −、−C4 H8 −、−C5 H10−、−C6 H12−、−C7 H14−、−C8 H16−、−C9 H18−、−C10H20−、−CH2 OCH2 −、−CH2 OCH2 OCH2 −、−C2 H4 OCH2 −、−C2 H4 OC2 H4 −、−CH2 SCH2 −、−CH2 SCH2 SCH2 −、−C2 H4 SCH2 −、−C2 H4 SC2 H4 −、−C2 H4 NHC2 H4 −、−C2 H4 N(CH3 )C2 H4 −などがあげられる。なかでも、耐久性をさらに向上させること、膜形成時の反応性、成膜の塩阻止性などの観点から、複素原子を含まないアルキレン基が好ましく、特にエチレン基であることが好ましい。
【0031】
また、R12、R13、R22、及びR23はそれぞれ独立に置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は水素原子である。但しR12又はR13の少なくともどちらか一方は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であり、これはR22又はR23についても同様である。芳香族炭化水素基とは、例えば、−C6 H5 、−CH2 C6 H5 、−C6 H4 OH、−C6 H4 CH3 、−C6 H4 NO2 、及び−C6 H4 Clなどがあげられ、成膜の透水性や塩阻止性などの観点から、−C6 H5 が好ましい。
【0032】
一方、一般式(I)〜(II)におけるR14及びR24は、2価又は3価の有機基であり、R12HNR11NR13Hで表されるジアミン成分と縮合反応により本発明の薄膜を形成する2価以上の多官能酸ハロゲン化物の残基に相当するものである。当該多官能酸ハロゲン化物としては、特に限定されるものではなく、前記記載のものが挙げられる。但し、反応性、成膜の塩阻止性、透水性などの観点から、多官能芳香族酸ハロゲン化物であることが好ましい。
【0033】
一方、本発明におけるポリアミド系樹脂は、架橋構造を有することが好ましく、その場合、3価以上の多官能酸ハロゲン化物を使用することが好ましい。3価以上の多官能酸ハロゲン化物を使用する場合、架橋部分では一般式(II)で表される構成単位となるが、未架橋部分が存在する場合には、一般式(I)で表される構成単位となり、R14はカルボキシル基やその塩などが残存する2価の有機基となる。
【0034】
上記薄膜を形成するポリアミド系樹脂は、単独重合体でもよいが、上記の如き構成単位の複数や他の構成単位を含む共重合体や、単独重合体を複数混合したブレンド体でもよい。例えば、一般式(I)で表される構成単位、及び一般式(II)で表される構成単位を有するポリアミド系樹脂が挙げられる。上記の他の構成単位としては、主鎖に芳香環を含むジアミン成分や側鎖に芳香環を含まないジアミン成分、その他ポリアミド系半透膜に使用されるジアミン成分などが挙げられる。
【0035】
本発明におけるポリアミド系樹脂には、一般式(I)及び/又は(II)で表される構成単位を50モル%以上含むことが好ましく、80モル%以上含むことがより好ましい。50モル%未満であると、アミド結合の窒素原子の置換基中の芳香環の効果が小さくなり、優れた透水性及び実用的な塩阻止性を同時に満足しにくくなる傾向がある。
【0036】
本発明における薄膜(分離活性層)の厚みは、薄膜の製法等にもよるが、0.01〜100μmが好ましく、0.1〜10μmがより好ましい。当該厚みが薄い方が透過流束の面で優れるが、薄くなりすぎると薄膜の機械的強度が低下して欠陥が生じ易く、塩阻止性能に悪影響を及ぼす傾向があるからである。
【0037】
本発明において上記薄膜を支持する多孔性支持膜は、薄膜を支持しうるものであれば特に限定されず、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンのようなポリアリールエーテルスルホン、ポリイミド、ボリフッ化ビニリデンなど種々のものをあげることができるが、特に化学的、機械的、熱的に安定である点からポリスルホン、ポリアリールエーテルスルホンからなる多孔性支持膜が好ましく用いられる。かかる多孔性支持膜は、通常約25〜125μm、好ましくは約40〜75μmの厚みを有するが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0038】
また、多孔性支持膜は、対称構造でも非対称構造でもよいが、薄膜の支持機能と通液性を両立させる上で、非対称構造が好ましい。なお、多孔性支持膜の薄膜形成側面の平均孔径は、1〜1000nmが好ましい。
【0039】
本発明における薄膜を多孔質支持膜上に形成させる際に、その方法については何ら制限なく、あらゆる公知の手法を用いることができる。例えば、界面縮合法、相分離法、薄膜塗布法などが挙げられる。中でも、多孔質支持膜上にジアミン成分を含有した水溶液を塗布した後に、かかる多孔質支持膜を多官能酸ハロゲン化物を含有した非水溶性溶液に接触させることにより多孔質支持膜上に薄膜を形成させる界面縮合法が好ましい。かかる界面縮合法の条件等の詳細は、特開昭58−24303号公報、特開平1−180208号公報等に記載されており、それらの公知技術を適宜採用することができる。
【0040】
また、その反応場に、製膜を容易にし、あるいは得られる複合半透膜の性能を向上させるための目的で、各種の試薬を存在させることが可能である。これらの試薬として、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などの重合体、ソルビトール、グリセリンなどのような多価アルコール、特開平2−187135号公報に記載のテトラアルキルアンモニウムハライドやトリアルキルアンモニウムと有機酸の塩などのアミン塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤、縮重合反応にて生成するハロゲン化水素を除去しうる水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、トリエチルアミン、カンファースルホン酸、あるいは公知のアシル化触媒、また、特開平8−224452号公報に記載の溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3 )1/2 の化合物などがあげられる。
【0041】
本発明の製造方法は、以上のような複合半透膜を、酸塩化物ガスと接触させる接触工程を含むものである。酸塩化物ガスは、通常に酸化作用を有する物質であれば特に制限されず、例えば、オキサリルクロライド〔(COCl)2 〕が挙げられる。
【0042】
本発明において、前記複合半透膜に酸塩化物ガスを接触させる方法は特に制限されず、例えば、デシケータなどの容器に複合半透膜を入れ、そこに窒素バブリングによって気化させた酸塩化物を導入する方法が挙げられる。
【0043】
接触工程は、減圧下、常圧下、又は加圧下のいずれで行ってもよいが、酸塩化物ガスの腐食性のため常圧下で行うことが好ましい。なお、酸塩化物が常圧で容易に気体にならない場合には、減圧下で行ってもよい。
【0044】
また、接触工程における温度及び接触時間は、短時間の接触で透過流束を増加させる効果に鑑みて定めることができるが、5〜30℃の温度条件下で行うことが好ましく、さらに好ましくは10〜20℃であり、接触時間は2〜20分であることが好ましく、さらに好ましくは5〜15分である。温度が5℃未満の場合、求める効果を得るために要する時間がかかりすぎ製造上実用的ではない。接触時間が2分未満の場合には、求める効果が十分に得られない傾向にある。一方、温度が30℃を超える場合又は接触時間が20分を超える場合には、塩阻止性能が低下するなどの膜の劣化が生じる傾向にある。なお、酸塩化物が常温で容易に気体にならない場合には、加熱して接触工程を行ってもよい。
【0045】
接触工程をおこなう際に複合半透膜はその形状になんら制限を受けるものではない。すなわち平膜状、あるいはスパイラルエレメント状など、あらゆる膜形状において処理を施すことが可能である。
【0046】
このような製造方法により作製された複合半透膜は、優れた透水性及び耐酸化剤性と実用的な塩阻止性を併せ持つ。
【0047】
前記複合半透膜は、0.15%のNaCl水溶液を用い、圧力1.5MPa、温度25℃、及びpH7の条件下で透過試験した際の透過流束が1m3 /(m2 ・日)以上、且つ、NaCl阻止率が90%以上であることが好ましく、さらに好ましくは透過流束が1.5m3 /(m2 ・日)以上、且つ、NaCl阻止率が95%以上である。透過流束が1m3 /(m2 ・日)未満の場合には、所定の水量を得るために圧力を高くしなければならず実用性に劣る。また、NaCl阻止率が90%未満の場合には、要求される水質の透過水が得られないため実用的でない。
【0048】
【実施例】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。
【0049】
実施例1
N−フェニルエチレンジアミン2.5重量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.15重量%、トリエチルアミン3重量%、カンファースルホン酸6重量%を含有した水溶液を多孔性ポリスルホン支持膜(薄膜形成側平均孔径20nm、非対称膜)に接触させた後、余分の水溶液を除去した。ついでかかる支持膜の表面にトリメシン酸クロライド0.1重量%、イソフタル酸クロライド0.2重量%を含有するイソオクタン溶液を接触させて界面縮重合反応を行った。その後120℃の熱風乾燥機中で3分間保持させ、多孔性支持膜上に重合体薄膜(厚み1μm)を形成して複合半透膜を得た。
得られた複合半透膜をデシケータの中に入れ、常温(23.5℃)常圧下で窒素バブリングによりオキサリルクロライド〔(COCl)2 〕を吹き込んだ。10分間接触処理した後、デシケータ内を窒素置換し、複合半透膜を取り出した。0.15%食塩水を原水として、25℃、pH7、圧力1.5MPaの条件下で透過試験をおこなった。その結果、食塩の阻止率は97%、透過流束は1.5m3 /(m2 /日)であった。
図1に、接触時間と膜性能との関係を示す。
【0050】
実施例2
接触時間を15分間にした以外は実施例1と同様の方法により複合半透膜を作製した。実施例1と同様の透過試験を行ったところ、食塩の阻止率は95%、透過流束は1m3 /(m2 /日)であった。
【0051】
比較例1
オキサリルクロライドとの接触工程を省略した以外は実施例1と同様の方法により複合半透膜を作製した。実施例1と同様の透過試験を行ったところ、食塩の阻止率は93%、透過流束は0.6m3 /(m2 /日)であった。
【0052】
比較例2
ジアミン成分として、m−フェニレンジアミンを用いた以外は実施例1と同様の方法により複合半透膜を作製した。実施例1と同様の透過試験を行ったところ、食塩の阻止率は99.4%、透過流束は0.6m3 /(m2 /日)であった。
【0053】
比較例3
ジアミン成分として、m−フェニレンジアミンを用い、オキサリルクロライドとの接触工程を省略した以外は実施例1と同様の方法により複合半透膜を作製した。実施例1と同様の透過試験を行ったところ、食塩の阻止率は99.5%、透過流束は0.9m3 /(m2 /日)であった。
【0054】
以上の結果より、主鎖及び/又は側鎖にSP3 軌道を有する炭素原子を含有するポリアミド系樹脂を含む薄膜と、これを支持する多孔性支持膜とからなる複合半透膜を酸塩化物ガスと接触させることにより、塩阻止率を低下させることなく透過流束を増大させることができる。酸塩化物ガスとの接触工程を省略した場合(比較例1)、及びSP3 軌道を有する炭素原子を含有しないポリアミド系樹脂を用いた場合(比較例2、3)には透過流束が十分でない。
【図面の簡単な説明】
【図1】接触時間と膜性能との関係を示すグラフ
Claims (8)
- 主鎖及び/又は側鎖にSP3 軌道を有する炭素原子を含有するポリアミド系樹脂を含む薄膜と、これを支持する多孔性支持膜とからなる複合半透膜を酸塩化物ガスと接触させる接触工程を含むことを特徴とする複合半透膜の製造方法。
- 前記ポリアミド系樹脂が、下記一般式(I)及び/又は(II)で表される構成単位を有するポリアミド系樹脂である請求項1記載の複合半透膜の製造方法。
- R11及びR21がエチレン基であり、R12及びR22がフェニル基であり、且つ、R13及びR23が水素原子である請求項2記載の複合半透膜の製造方法。
- 前記酸塩化物ガスが、オキサリルクロライドである請求項1〜3のいずれかに記載の複合半透膜の製造方法。
- 前記接触工程を5〜30℃の温度条件下で行う請求項1〜4のいずれかに記載の複合半透膜の製造方法。
- 前記接触工程における接触時間が2〜20分である請求項1〜5のいずれかに記載の複合半透膜の製造方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法によって製造される複合半透膜。
- 0.15%のNaCl水溶液を用い、圧力1.5MPa、温度25℃、及びpH7の条件下での透過試験における透過流束が1m3 /(m2 ・日)以上、且つ、NaCl阻止率が90%以上である請求項7記載の複合半透膜。
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