JP2004172035A - 非水電解液二次電池用電極の製造方法及び該電極を用いた非水電解液二次電池 - Google Patents
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Abstract
【課題】可撓性に優れ平滑かつ均一な合剤層を有する非水電解液二次電池用電極の製造方法を提供する。
【解決手段】スラリ作製工程で、バインダ樹脂に、熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂とアクリル樹脂系可塑剤とを10:1重量比で混合した混合物を用い、溶媒に、バインダ樹脂を溶解可能なN−メチル−2−ピロリドンを用いた。合剤スラリには、直鎖の炭素数8のn−オクタノールを、活物質重量に対して2%添加し、均一になるように混練した。塗布・乾燥工程で、合剤スラリを集電体の両面に塗布し、乾燥させた。熱硬化処理工程で、乾燥された正極及び負極を熱硬化処理して、バインダ樹脂を熱硬化させた。合剤スラリの調製時に生じた気泡が消泡されると共に、活物質の凝集が抑制される。
【選択図】 図1
【解決手段】スラリ作製工程で、バインダ樹脂に、熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂とアクリル樹脂系可塑剤とを10:1重量比で混合した混合物を用い、溶媒に、バインダ樹脂を溶解可能なN−メチル−2−ピロリドンを用いた。合剤スラリには、直鎖の炭素数8のn−オクタノールを、活物質重量に対して2%添加し、均一になるように混練した。塗布・乾燥工程で、合剤スラリを集電体の両面に塗布し、乾燥させた。熱硬化処理工程で、乾燥された正極及び負極を熱硬化処理して、バインダ樹脂を熱硬化させた。合剤スラリの調製時に生じた気泡が消泡されると共に、活物質の凝集が抑制される。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は非水電解液二次電池用電極の製造方法及び非水電解液二次電池に係り、特に、活物質と、熱硬化性樹脂を用いたバインダと、選択的に導電材と、を含む合剤を集電体に塗布した非水電解液二次電池用電極の製造方法及び該電極を用いた非水電解液二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子技術の進歩により、電子機器の性能が向上して小型化、ポータブル化が進み、その電源としてエネルギー密度の高い二次電池が望まれている。従来の二次電池としては、水系の電解液を使用する鉛蓄電池、ニッケル−カドミウム電池等が挙げられるが、高エネルギー密度の電池という点では末だ不十分である。そこで、これらの電池に替わるものとして、近年エネルギー密度を大幅に向上できる非水電解液系二次電池が急速に普及している。
【0003】
このような非水電解液二次電池の電極には、正極活物質として主にリチウムコバルト複合酸化物等のリチウム含有金属複合酸化物が用いられ、負極活物質としては炭素材料が主に用いられている。バインダ樹脂にはポリフッ化ビニリデン樹脂が多用されている。
【0004】
しかし、ポリフッ化ビニリデン樹脂を使用した場合、集電体と合剤層との界面の密着性、合剤層中の活物質間の密着性のうち、特に前者の密着性が劣るため、充放電を繰り返すことにより合剤層の一部又は全部が集電体から剥離・脱落する問題があり、このような密着性不足が電池の充放電サイクルによる容量低下を招く一因となっている。
【0005】
この問題を解決するために、集電体と合剤層との密着性や耐電解液性の良好なバインダとして、ポリビニルアルコールを主体とする水素結合型バインダ樹脂があり、ポリビニルブチラールとポリビニルアルコールとのコポリマを用いる技術(例えば、特許文献1参照)、水溶性高分子であるポリビニルアルコールを負極及び正極にそれぞれ用いる技術(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)、ビニルアルコール系重合体を用いる技術(例えば、特許文献4参照)、が開示されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平9−115506号公報(段落番号「0013」「0031」)
【特許文献2】
特開平11−67215号公報(段落番号「0008」「0018」)
【特許文献3】
特開平11−67216号公報(段落番号「0008」「0017」)
【特許文献4】
特開平11−250915号公報(段落番号「0016」「0023」)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献1〜4で開示されているポリビニルアルコール系バインダ樹脂はいずれも熱可塑性で、結晶性を有する堅いポリマであるため、開示されているような単独の使用では、電極の柔軟性・可撓性が不十分であり、ロールプレス成形や捲回等の電池製造工程での合剤層の割れ、剥離・脱落が発生し正常な電池が作製しにくい、という問題がある。この問題を解決するために、2液型の熱硬化性樹脂が提案されているが、主剤と硬化剤とでは合剤スラリ作製に用いられる希釈溶媒に対する溶解度が異なるため、合剤中の主剤と硬化剤との分布に偏りが生じ、その結果本来の熱硬化が進行せず、合剤層の密着強度、電極の柔軟性、耐電解液性などのバラツキにより電極反応の不均一が生ずる。また、ポリビニルアルコール系バインダ樹脂を使用すると、合剤スラリ作製時に高速で撹拌を行うときに、発泡すると共に消泡しにくい特性を示す。発泡した状態の合剤スラリを金属箔(集電体)に塗布・乾燥すると電極表面に気泡痕が残るので、場合によっては金属箔が露出し電極反応の不均一が生ずる。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、可撓性に優れ平滑かつ均一な合剤層を有する非水電解液二次電池用電極の製造方法及びその電極を用いた非水電解液二次電池を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、活物質と、熱硬化性樹脂を用いたバインダと、選択的に導電材と、を含む合剤を集電体に塗布した非水電解液二次電池用電極の製造方法であって、前記バインダに熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂を主体として用い、前記活物質、前記バインダ、前記導電材及び高級アルコールを、前記バインダを溶解し得る溶剤で混合して得られた合剤スラリを前記集電体の両面に塗布し乾燥させ、得られた電極を加熱して前記バインダを熱硬化させる。
【0010】
第1の態様では、バインダに結着性の優れる熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂が主体として用いられるので、合剤と集電体との密着性を向上させることができ、合剤スラリに高級アルコールが混合され合剤スラリの界面エネルギーが低下するので、活物質や導電材の凝集が抑制されると共に、合剤スラリが発泡しても容易に消泡され合剤層表面の気泡痕の残存が抑制されるため、表面が平滑で活物質や導電材の分布が均一な電極を得ることができる。電極は、正極若しくは負極、又は、その両方であってもよい。
【0011】
第1の態様において、高級アルコールは、直鎖の炭素数が7〜10の脂肪族アルコールとし、活物質の重量に対し、0.5%〜5%で合剤スラリに含有させることが好ましい。また、溶剤に溶解し得るバインダに、熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂を主体としアクリル系樹脂を混合した混合体を予め加熱して該混合体の熱硬化を一部進行させたものを用いれば、集電体に塗布された合剤スラリ中で2成分の樹脂が均一に分布されるので、得られる電極の可撓性を向上させることができると共に、合剤と集電体とが確実に結着され、合剤の剥離・脱落を長期間抑制することができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、活物質と、熱硬化性樹脂を用いたバインダと、選択的に導電材と、を含む合剤が集電体に塗布された電極を用いた非水電解液二次電池であって、前記電極は、前記バインダに熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂を主体として用い、前記活物質、前記バインダ、前記導電材及び高級アルコールを、前記バインダを溶解し得る溶剤で混合して得られた合剤スラリが前記集電体の両面に塗布、乾燥され、得られた電極を加熱して前記バインダが熱硬化されたものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明をハイブリッド電気自動車の電源となる円筒型リチウムイオン電池の製造方法に適用した実施の形態について説明する。
【0014】
<製造方法>
<正極作製>
(樹脂調製工程)
図1に示すように、樹脂調製工程では、ポリビニルアルコール系樹脂に熱硬化性ユニットとしてカルボキシル基を導入した熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂と、ラウリルアクレート/アクリル酸共重合物及びエポキシ樹脂の反応物であるアクリル樹脂系可塑剤とをそれぞれ合成して用いる。熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂は、平均重合度約2000程度のポリビニルアルコール系樹脂に環状酸無水物を、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという。)等の有機溶媒中、トリエチルアミン等の触媒存在下で実質的に無水の状態で反応させて合成する。ポリビニルアルコール系樹脂と環状酸無水物との反応割合は、ポリビニルアルコール系樹脂のアルコール性ヒドロキシル基1当量に対し、環状酸無水物の無水物基が約0.1当量とした。アクリル樹脂系可塑剤は、重量平均分子量約3100の無溶剤型ラウリルアクリレート/アクリル酸共重合体のカルボキシル基1当量に対し、エポキシ基として約2当量の二官能型エポキシ樹脂を反応させて合成する。
【0015】
合成した熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂とアクリル樹脂系可塑剤とを10:1重量比の割合で混合した混合物(以下、PVAという。)をステンレス製の密閉容器内に入れ、温度60〜150°Cに設定した恒温槽内に1〜4時間放置して加熱処理を行うことで、PVAの架橋反応を一部進行させる。その後、容器を恒温槽から取り出し室温まで冷却させて、一部熱硬化させたPVAを得る。
【0016】
(スラリ作製工程)
スラリ作製工程では、正極活物質には、スピネル型結晶構造を有し、LiとMnとの原子比0.52、平均粒子径約20μmのマンガン酸リチウム(Li1+xMn2−xO4)粉末を用い、導電材には、平均粒径18μmの鱗片状黒鉛を用い、バインダ樹脂には、上述したPVA又は一部熱硬化させたPVAを用いる。正極活物質と導電材とバインダ樹脂とを85:5:10質量%で混合した正極活物質合剤に、用いるバインダ樹脂を溶解可能な分散溶媒のNMP及び直鎖の炭素数が7〜10の脂肪族アルコールの所定量を添加し、均一になるように混練して、正極合剤スラリを作製する。脂肪族アルコールの添加量は、正極活物質の重量に対し、0.5〜5%とした(図1参照)。
【0017】
(塗布・乾燥工程)
塗布・乾燥工程では、スラリ作製工程で作製した正極合剤スラリを、厚さ20μmのアルミニウム箔(正極集電体)の両面に、ロールコータを用いてほぼ均一に塗布する。アルミニウム箔片面あたりのマンガン酸リチウムの塗着量を80g/m2とした。このとき、正極長寸方向の一方の側縁に幅30mmの未塗布部を残す。その後乾燥させることで、集電体両面に正極活物質合剤層を形成させる(図1参照)。
【0018】
(プレス・裁断工程)
プレス・裁断工程では、正極活物質合剤層の空隙率が約30%となるようにプレスし、幅82mm、所定長さに裁断して、正極活物質合剤塗布部所定厚さの正極を作製する。正極活物質合剤層のかさ密度は2.65g/cm3とした。側縁に残した未塗布部に切り欠きを入れ、切り欠き残部を正極リード片とする。隣り合う正極リード片の間隔を50mm、正極リード片の幅を5mmとした(図1参照)。
【0019】
(熱硬化処理工程)
熱硬化処理工程では、プレス・裁断工程で作製した正極を熱硬化処理温度130°Cに保持された真空乾燥機内に16時間静置することで、バインダ樹脂に用いたPVA又は一部熱硬化させたPVAを全て熱硬化させる(図1参照)。
【0020】
<負極作製>
負極は、上述した正極の作製工程と同様の工程を経て作製される。以下、正極の作製工程と同一の工程についての説明を省略し、異なる箇所のみ説明する。
【0021】
スラリ作製工程では、負極活物質に平均粒子径約20μmの非晶質炭素粉末を用い、導電材にアセチレンブラックを用いる。負極活物質と導電材とバインダ樹脂とを85:5:10質量%で混合し、負極合剤スラリを作製する。塗布・乾燥工程では、集電体に厚さ10μmの圧延銅箔を用いる。プレス・裁断工程では、負極活物質合剤層の空隙率が約30%となるようにプレスし、幅86mm、所定長さに裁断する。負極活物質合剤層のかさ密度は1g/cm3とした。
【0022】
また、作製した正負極は、後述するように捲回したときに、捲回最内周では捲回方向に正極が負極からはみ出すことがなく、また最外周でも捲回方向に正極が負極からはみ出すことがないように、負極の長さは正極の長さよりも12cm長くする。また、捲回方向と垂直方向においても正極活物質合剤塗布部が負極活物質合剤塗布部からはみ出すことがないように、負極活物質合剤塗布部の幅は、正極活物質合剤塗布部の幅よりも4mm長くする。
【0023】
<電池の作製>
図2に示すように、作製した正極と負極とを、これら両極が直接接触しないように幅90mm、厚さ40μmのポリエチレン製セパレータW5と共に捲回した。捲回の中心には、ポリプロピレン製の中空円筒状の軸芯1を用いた。このとき、正極リード片と負極リード片とが、それぞれ捲回群(電極捲回群)6の互いに反対側の両端面に位置するようにした。また、正極、負極、セパレータの長さを調整し、捲回群6の直径を38±0.1mmとした。
【0024】
正極リード片2を変形させ、その全てを、捲回群6の軸芯1のほぼ延長線上にある正極集電リング4の周囲から一体に張り出している鍔部周面付近に集合、接触させた後、正極リード片2と鍔部周面とを超音波溶接して正極リード片2を鍔部周面に接続した。一方、負極集電リング5と負極リード片3との接続操作も、正極集電リング4と正極リード片2との接続操作と同様に実施した。
【0025】
その後、正極集電リング4の鍔部周面全周に絶縁被覆を施した。この絶縁被覆には、基材がポリイミドで、その片面にヘキサメタアクリレートからなる粘着剤を塗布した粘着テープを用いた。この粘着テープを鍔部周面から捲回群6外周面に亘って一重以上巻いて絶縁被覆とし、捲回群6を電池容器7内に挿入した。電池容器7には、外径は40mm、内径は39mmでニッケルメッキが施されたスチール製の容器を用いた。
【0026】
負極集電リング5には予め電気的導通のための負極リード板8を溶接しておき、電池容器7内に捲回群6を挿入後、電池容器7の底部と負極リード板8とを溶接した。
【0027】
一方、正極集電リング4には、予め複数枚のアルミニウム製のリボンを重ね合わせて構成した正極リード9の一端を溶接しておき、正極リード9の他端を、電池容器7を封口するための電池蓋の下面に溶接した。電池蓋には、円筒型リチウムイオン電池20の内圧上昇に応じて開裂する内圧開放機構としての開裂弁11が設けられている。開裂弁11の開裂圧は、約9×105Paに設定した。電池蓋は、蓋ケース12と、蓋キャップ13と、気密を保つ弁押さえ14と、開裂弁11とで構成されており、これらが積層されて蓋ケースの周縁をカシメることによって組立てられている。
【0028】
非水電解液50gを電池容器7内に注液し、その後、正極リード9を折りたたむようにして電池蓋で電池容器7に蓋をし、EPDM樹脂製ガスケット10を介してカシメて密封することにより、設計容量約4Ahの円筒型リチウムイオン電池20を完成させた。非水電解液には、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとの体積比1:1:1の混合溶媒中へ6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1モル/リットル溶解したものを用いた。なお、円筒型リチウムイオン電池20には、電池温度の上昇に応じて電気的に作動する、例えば、PTC(Positive Temperature Coefficient)素子や、電池内圧の上昇に応じて正極又は負極の電気的リードが切断される電流遮断機構は設けられていない。
【0029】
【実施例】
次に、本実施形態に従って作製した電極及び円筒型リチウムイオン電池20の実施例について説明する。高級アルコールの種類と添加量を変えて作製した電極について、実施例1〜実施例8には正極を、実施例9〜実施例16には負極をそれぞれ示す。また、実施例17〜実施例22には、PVAの一部熱硬化条件を変えて作製した電池を示す。なお、比較のために作製した比較例の電極及び電池についても併記する。
【0030】
(実施例1)
下表1に示すように、実施例1では、バインダ樹脂として一部熱硬化処理をしていないPVAを用い、正極合剤スラリに直鎖の炭素数8のn−オクタノールを0.5重量%添加して正極を作製した。
【0031】
【表1】
【0032】
(実施例2〜5)
表1に示すように、実施例2〜実施例5では、n−オクタノールの添加量を変える以外は実施例1と同様にした。実施例2では1重量%、実施例3では2重量%、実施例4では5重量%、実施例5では10重量%とした。
【0033】
(実施例6〜8)
表1に示すように、実施例6〜実施例8では、直鎖の炭素数の異なる高級アルコールを用いる以外は実施例2と同様にした。実施例6では炭素数7のn−ヘプタノールを、実施例7では炭素数9のn−ノナノールを、実施例8では炭素数10のn−デカノールをそれぞれ用いた。
【0034】
(比較例1)
表1に示すように、比較例1では、バインダ樹脂として一部熱硬化処理をしていないPVAを用い、正極合剤スラリに高級アルコールを添加せずに正極を作製した。
【0035】
(比較例2、3)
表1に示すように、比較例2、3では、n−オクタノールの添加量を変える以外は実施例1と同様にした。比較例2では0.1重量%、比較例3では0.2重量%とした。
【0036】
(比較例4、5)
表1に示すように、比較例4、5では、直鎖の炭素数の異なる高級アルコールを用いる以外は実施例2と同様にした。比較例4では炭素数6のn−ヘキサノールを、比較例5では炭素数4のn−ブタノールをそれぞれ用いた。
【0037】
(実施例9)
下表2に示すように、実施例9では、バインダ樹脂として一部熱硬化処理をしていないPVAを用い、負極合剤スラリに直鎖の炭素数8のn−オクタノールを0.5重量%添加して負極を作製した。
【0038】
【表2】
【0039】
(実施例10〜13)
表2に示すように、実施例10〜実施例13では、n−オクタノールの添加量を変える以外は実施例9と同様にした。実施例10では1重量%、実施例11では2重量%、実施例12では5重量%、実施例13では10重量%とした。
【0040】
(実施例14〜16)
表2に示すように、実施例14〜実施例16では、直鎖の炭素数の異なる高級アルコールを用いる以外は実施例10と同様にした。実施例14では炭素数7のn−ヘプタノールを、実施例15では炭素数9のn−ノナノールを、実施例16では炭素数10のn−デカノールをそれぞれ用いた。
【0041】
(比較例6)
表2に示すように、比較例6では、バインダ樹脂として一部熱硬化処理をしていないPVAを用い、負極合剤スラリに高級アルコールを添加せずに負極を作製した。
【0042】
(比較例7、8)
表2に示すように、比較例7、8では、n−オクタノールの添加量を変える以外は実施例9と同様にした。比較例7では0.1重量%、比較例8では0.2重量%とした。
【0043】
(比較例9、10)
表2に示すように、比較例9、10では、直鎖の炭素数の異なる高級アルコールを用いる以外は実施例10と同様にした。比較例9では炭素数6のn−ヘキサノールを、比較例10では炭素数4のn−ブタノールをそれぞれ用いた。
【0044】
(実施例17)
下表3に示すように、実施例17では、バインダ樹脂として60°Cで1時間加熱処理したPVAを用いる以外は、実施例3と同様にして正極を、実施例11と同様にして負極をそれぞれ作製し、電池を作製した。
【0045】
【表3】
【0046】
(実施例18〜22)
表3に示すように、実施例18〜実施例22では、PVAの加熱処理条件を変える以外は実施例17と同様にした。実施例18では100°Cで1時間、実施例19では100°Cで4時間、実施例20では120°Cで1時間、実施例21では120°Cで4時間、実施例22では150°Cで1時間とした。実施例18〜実施例22のPVAは、いずれも加熱処理により一部熱硬化させたものである。
【0047】
(比較例11)
表3に示すように、比較例11では、PVAの加熱処理を行わない以外は実施例17と同様にした。すなわち、比較例11の電池は、実施例3の正極と実施例11の負極とを用いた電池である。
【0048】
(比較例12、13)
表3に示すように、比較例12、13では、PVAの加熱処理条件を変える以外は実施例17と同様にした。比較例12では150°Cで4時間、比較例13では150°Cで12時間とした。比較例12、13のPVAは、加熱処理により全て熱硬化させたものである。
【0049】
<試験・評価>
次に、以上のようにして作製した実施例及び比較例の合剤スラリ、電極及び電池について、以下の一連の試験を行った。
【0050】
(合剤スラリ及び電極)
正極合剤スラリ及び負極合剤スラリの分散性を確認するため、グラインドメータを用いて、各スラリ中の粒子の最大粒径(凝集物も含む)を測定し、密閉容器内にて48時間静置後の容器上部及び下部の液比重と粘度とを測定して、上部と下部との比重差を求めた。また、スラリ中に混入した泡の消泡性を確認するため、高速撹拌にて発生した泡の体積及び消泡時間を測定した。更に、各電極の合剤スラリ塗布面の状態について、気泡痕の有無を目視にて確認した。
【0051】
(電池)
各電池を室温で充電した後放電し、放電容量を測定した。充電条件は、4.2V定電圧、制限電流5A、3.5時間とした。放電条件は、2A定電流、終止電圧2.7Vとした。次いで、出力特性を測定した。測定は、試験電池を約1時間で放電することができる電流値(1C)で4.1V定電圧制御し、3時間充電して満充電状態とした。その満充電状態の電池を、10A、30A、90Aの電流値でそれぞれ5秒間放電し、5秒目の電池電圧を測定した。得られた電池電圧を電流値に対してプロットした直線が、2.7Vに到達するときの電流値(Ia)から、出力((W)=Ia×2.7)を算出した。また、各電池を50°Cの恒温槽に入れ、上述した条件で充放電を500回繰り返した後、同様にして出力特性を測定した。測定は、25±2°Cの雰囲気で行った。
【0052】
下表4に正極合剤スラリ及び正極の試験結果を、下表5に負極合剤スラリ及び負極の試験結果を、下表6に電池の試験結果をそれぞれ示す。
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
表4、5に示すように、高級アルコールを添加していない比較例1の正極合剤スラリ及び比較例6の負極合剤スラリでは、最大粒径、比重差が大きく、活物質や導電材の分散性が低かった。また、発泡体積も著しく大きく、消泡までに長時間を要した。更に、得られた電極の合剤塗布面には気泡痕が認められた。これに対して、直鎖の炭素数が7〜10の脂肪族アルコールを、活物質重量に対し0.5〜5重量%含有させた実施例1〜実施例8の正極合剤スラリ及び実施例9〜実施例16の負極合剤スラリでは、分散性が向上すると共に、合剤スラリ作製時の高速撹拌によって合剤スラリが発泡しても消泡時間が短く、アプリケータを用いた塗布面も気泡痕が認められず良好であった。また、脂肪族アルコールの含有量が0.5重量%未満である比較例2、3の正極合剤スラリ及び比較例7、8の負極合剤スラリでは、スラリの分散性に効果は見られず、塗布面にも気泡痕が存在していた。逆に、脂肪族アルコールの含有量が5重量%を超えると、活物質微粒子及び導電材の凝集物の生成が認められた。従って、合剤スラリ中の脂肪族アルコールの含有量は、正極及び負極のいずれについても、0.5〜5重量%が好ましく、特に1〜2重量%が好ましいことが判明した。更に、炭素数9〜10の脂肪族アルコールを用いた実施例7、8の正極合剤スラリ及び実施例15、16の負極合剤スラリでも、スラリの分散性、消泡時間、塗布面状態に優れる結果となった。炭素数7の脂肪族アルコールを用いた実施例6の正極合剤スラリ及び実施例14の負極合剤スラリでは、消泡時間が若干長くなるものの、スラリの分散性、塗布面状態に優れる結果であった。これに対して、炭素数6、4の脂肪族アルコールを用いた比較例4、5の正極合剤スラリ及び比較例9、10の負極合剤スラリでは、分散性が低く、消泡時間が長く、塗布面には気泡痕が認められた。従って、脂肪族アルコールの直鎖の炭素数は7〜10が好ましいことが判明した。
【0056】
【表6】
【0057】
表6に示すように、一部熱硬化させたPVAを用いた実施例18〜実施例22の電池では、初期の出力特性に優れ、サイクル試験後の出力特性も向上した。また、実施例17の電池では、PVAの加熱処理を行っているが、一部熱硬化の進行が不十分なためサイクル試験後の出力特性が若干低下する結果となった。しかしながら、同じバインダ樹脂であっても予め一部熱硬化させていないものを用いた比較例11の電池では、サイクル後の出力が若干低下する結果となった。また、全て熱硬化させたPVAを用いた比較例12〜比較例13の電池では、サイクル試験後の出力特性が著しく低下し、容量も低い結果であった。これは合剤スラリを金属箔両面に塗布、乾燥する際に、NMPとの溶解性の良いアクリル系樹脂が合剤表面に偏析し、その結果本来の熱硬化が進行せずに未硬化の樹脂が存在したためと考えている。この未硬化の樹脂は電解液に対する膨潤度も著しく大きいことから、電極の電子伝導性を阻害したものと考えている。
【0058】
上述したように、バインダ樹脂に結着性に優れるPVAを用いることで、合剤層と集電体との密着性を向上させることができるものの、合剤スラリが発泡し易くなると共に消泡しにくくなるため、得られる電極表面に気泡痕が残り、電極反応が不均一になる。本実施形態では、スラリ作製工程で、合剤スラリに高級アルコールが添加される。このため、合剤スラリが発泡しても消泡し易くなり、電極表面での気泡痕の残存を抑制することができる。また、活物質や導電材の粒子の凝集を抑制して分散性を向上させることができる。これは高級アルコールが合剤スラリに添加されることで、界面エネルギーが低下するためと考えている。従って、表面が平滑で活物質等の分布が均一な合剤層を有し、可撓性に優れると共に、合剤層の剥離・脱落を抑制可能な電極を作製することができる。このような電極を用いることで、特性バラツキが小さく、出力特性に優れると共に長寿命の電池を作製することができる。高級アルコールの直鎖の炭素数が6以下では、発泡を抑制することができず消泡に長時間を要し、また、炭素数が10を超えると、高級アルコールの分子量が増大することから発泡し易くなるおそれがある。このため、合剤スラリに添加する高級アルコールの直鎖の炭素数は7〜10であることが好ましい。また、高級アルコールの合剤スラリへの添加量が、0.5重量%に満たないと活物質や導電材粒子の分散性が低下し、5重量%を超えると活物質微粒子や導電材の凝集物が生成する。このため、高級アルコールの添加量は、活物質重量に対し0.5〜5重量%であることが好ましい。
【0059】
また、PVAに用いた2成分は、溶剤のNMPに対する溶解性に差があるため、アクリル系樹脂が偏析して2成分の分布に偏りが生じ、充放電の繰り返しに伴い合剤層の一部又は全部が剥離・脱落するおそれがある。本実施形態では、樹脂調製工程で、PVAを加熱処理して一部熱硬化させる。このため、塗布・乾燥工程で生じるアクリル系樹脂の偏析を抑制することができる。更に、熱硬化処理工程で、PVAを全て熱硬化させる。このため、均一な合剤層が形成され、合剤層と集電体とが確実に結着されるので、合剤層の一部又は全部が集電体から剥離・脱落することを長期間抑制することができる。このような電極を用いることで、特性バラツキが小さく、出力特性及び高温でのサイクル特性に優れた電池を作製することができる。
【0060】
なお、本実施形態では、PVAの調製に、平均重合度約2000のポリビニルアルコール系樹脂及び重量平均分子量約3100のラウリルアクリレート/アクリル酸共重合物を用いる例を示したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、平均重合度の異なるポリビニルアルコール系樹脂や重量平均分子量の異なるラウリルアクリレート/アクリル酸共重合物を用いてもよい。この場合には、合成時の当量比や反応条件により所望の物性のPVAを得ることができる。
【0061】
また、本実施形態では、スラリ作製工程で用いる溶剤としてNMPを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。本実施形態以外で用いることのできる有機溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類、N,N−ジメチルエチレンウレア、N,N−ジメチルプロピレンウレア、テトラメチルウレア等のウレア類、γ−ブチロラクトン、γ−カプロラクトン等のラクトン類、プロピレンカーボネート等のカーボネート類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、エチルセロソルブアセテート、エチルカルビトールアセテート等のエステル類、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム類、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素類、スルホラン等のスルホン類などが挙げられる。これらのうちではポリビニルアルコール系樹脂に対する高溶解性、ポリビニルアルコール系樹脂と環状酸無水物との高反応促進性等の点で含窒素系有機溶剤のアミド類、ウレア類が好ましく、ポリビニルアルコール系樹脂と環状酸無水物との反応を阻害しやすい活性水素をもっていない等の点で、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルエチレンウレア、N,N−ジメチルプロピレンウレア、テトラメチルウレアがより好ましく、中でもN−メチル−2−ピロリドンが特に好ましい。これらの溶剤は、単独又は二種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0062】
更に、本実施形態では、ハイブリッド電気自動車用の電源に用いられるリチウムイオン電池について例示したが、電池の大きさ、電池容量には限定されず、電池容量としておおむね3〜10Ah程度の電池に対して本発明は効果を著しく発揮することが確認されている。また、本実施形態では円筒型電池を例示したが、本発明は電池の形状についても限定されるものではなく、角形、その他の多角形の電池や正負極を積層した積層タイプの電池にも適用可能である。更に、本発明の適用可能な形状としては、上述した有底筒状容器(缶)に電池上蓋がカシメによって封口されている構造の電池以外であっても構わない。このような構造の一例として正負極外部端子が電池蓋を貫通し電池容器内で軸芯を介して正負極外部端子が押し合っている状態の電池を挙げることができる。
【0063】
また更に、本実施形態では、正極活物質にLi1+xMn2−xO4で表せるマンガン酸リチウムを用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。本実施形態以外で用いることのできるリチウムイオン電池用正極活物質としては、リチウムイオンを挿入・脱離可能な材料であり、予め十分な量のリチウムイオンを挿入したリチウム複合酸化物であればよく、スピネル構造を有したマンガン酸リチウム(LiMn2O4)のほか、層状岩塩型構造を有するマンガン酸リチウム(LiMnO2)、結晶中の酸素の一部をS、P等の元素でドープ又は置換した材料を用いてもよい。また、結晶中にマンガンやリチウム以外の元素をドープ又は置換した材料、例えばLi1+xMn2−x−yMyO4で表され、xが0<x≦0.1であり、yが0<y≦0.3であり、MがAl、Cr、Ni、Co、Mgなどの元素であるマンガン酸リチウムを使用すれば、容量の低下を伴うことなく出力維持率(サイクル試験後の出力特性)を向上させることができる。
【0064】
更にまた、本実施形態では、負極活物質として非晶質炭素を例示したが、本発明は、上記特許請求範囲に記載した事項以外に特に制限はない。本実施形態以外で用いることのできるリチウムイオン電池用負極活物質としては、例えば、天然黒鉛や、人造の各種黒鉛材、コークス、非晶質炭素などの炭素質材料等でよく、その粒子形状においても、鱗片状、球状、繊維状、塊状等、特に制限されるものではない。
【0065】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、バインダに結着性の優れる熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂が主体として用いられるので、合剤と集電体との密着性を向上させることができ、合剤スラリに高級アルコールが混合され合剤スラリの界面エネルギーが低下するので、活物質や導電材の凝集が抑制されると共に、合剤スラリが発泡しても容易に消泡され合剤層表面の気泡痕の残存が抑制されるため、表面が平滑で活物質や導電材の分布が均一な電極を得ることができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用可能な実施形態の円筒型リチウムイオン電池用電極の製造工程の要部を示す工程図である。
【図2】実施形態の製造工程を経て作製した円筒型リチウムイオン電池の断面図である。
【符号の説明】
20 円筒型リチウムイオン電池(非水電解液二次電池)
W2 正極合剤層
W4 負極合剤層
【発明の属する技術分野】
本発明は非水電解液二次電池用電極の製造方法及び非水電解液二次電池に係り、特に、活物質と、熱硬化性樹脂を用いたバインダと、選択的に導電材と、を含む合剤を集電体に塗布した非水電解液二次電池用電極の製造方法及び該電極を用いた非水電解液二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子技術の進歩により、電子機器の性能が向上して小型化、ポータブル化が進み、その電源としてエネルギー密度の高い二次電池が望まれている。従来の二次電池としては、水系の電解液を使用する鉛蓄電池、ニッケル−カドミウム電池等が挙げられるが、高エネルギー密度の電池という点では末だ不十分である。そこで、これらの電池に替わるものとして、近年エネルギー密度を大幅に向上できる非水電解液系二次電池が急速に普及している。
【0003】
このような非水電解液二次電池の電極には、正極活物質として主にリチウムコバルト複合酸化物等のリチウム含有金属複合酸化物が用いられ、負極活物質としては炭素材料が主に用いられている。バインダ樹脂にはポリフッ化ビニリデン樹脂が多用されている。
【0004】
しかし、ポリフッ化ビニリデン樹脂を使用した場合、集電体と合剤層との界面の密着性、合剤層中の活物質間の密着性のうち、特に前者の密着性が劣るため、充放電を繰り返すことにより合剤層の一部又は全部が集電体から剥離・脱落する問題があり、このような密着性不足が電池の充放電サイクルによる容量低下を招く一因となっている。
【0005】
この問題を解決するために、集電体と合剤層との密着性や耐電解液性の良好なバインダとして、ポリビニルアルコールを主体とする水素結合型バインダ樹脂があり、ポリビニルブチラールとポリビニルアルコールとのコポリマを用いる技術(例えば、特許文献1参照)、水溶性高分子であるポリビニルアルコールを負極及び正極にそれぞれ用いる技術(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)、ビニルアルコール系重合体を用いる技術(例えば、特許文献4参照)、が開示されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平9−115506号公報(段落番号「0013」「0031」)
【特許文献2】
特開平11−67215号公報(段落番号「0008」「0018」)
【特許文献3】
特開平11−67216号公報(段落番号「0008」「0017」)
【特許文献4】
特開平11−250915号公報(段落番号「0016」「0023」)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献1〜4で開示されているポリビニルアルコール系バインダ樹脂はいずれも熱可塑性で、結晶性を有する堅いポリマであるため、開示されているような単独の使用では、電極の柔軟性・可撓性が不十分であり、ロールプレス成形や捲回等の電池製造工程での合剤層の割れ、剥離・脱落が発生し正常な電池が作製しにくい、という問題がある。この問題を解決するために、2液型の熱硬化性樹脂が提案されているが、主剤と硬化剤とでは合剤スラリ作製に用いられる希釈溶媒に対する溶解度が異なるため、合剤中の主剤と硬化剤との分布に偏りが生じ、その結果本来の熱硬化が進行せず、合剤層の密着強度、電極の柔軟性、耐電解液性などのバラツキにより電極反応の不均一が生ずる。また、ポリビニルアルコール系バインダ樹脂を使用すると、合剤スラリ作製時に高速で撹拌を行うときに、発泡すると共に消泡しにくい特性を示す。発泡した状態の合剤スラリを金属箔(集電体)に塗布・乾燥すると電極表面に気泡痕が残るので、場合によっては金属箔が露出し電極反応の不均一が生ずる。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、可撓性に優れ平滑かつ均一な合剤層を有する非水電解液二次電池用電極の製造方法及びその電極を用いた非水電解液二次電池を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、活物質と、熱硬化性樹脂を用いたバインダと、選択的に導電材と、を含む合剤を集電体に塗布した非水電解液二次電池用電極の製造方法であって、前記バインダに熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂を主体として用い、前記活物質、前記バインダ、前記導電材及び高級アルコールを、前記バインダを溶解し得る溶剤で混合して得られた合剤スラリを前記集電体の両面に塗布し乾燥させ、得られた電極を加熱して前記バインダを熱硬化させる。
【0010】
第1の態様では、バインダに結着性の優れる熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂が主体として用いられるので、合剤と集電体との密着性を向上させることができ、合剤スラリに高級アルコールが混合され合剤スラリの界面エネルギーが低下するので、活物質や導電材の凝集が抑制されると共に、合剤スラリが発泡しても容易に消泡され合剤層表面の気泡痕の残存が抑制されるため、表面が平滑で活物質や導電材の分布が均一な電極を得ることができる。電極は、正極若しくは負極、又は、その両方であってもよい。
【0011】
第1の態様において、高級アルコールは、直鎖の炭素数が7〜10の脂肪族アルコールとし、活物質の重量に対し、0.5%〜5%で合剤スラリに含有させることが好ましい。また、溶剤に溶解し得るバインダに、熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂を主体としアクリル系樹脂を混合した混合体を予め加熱して該混合体の熱硬化を一部進行させたものを用いれば、集電体に塗布された合剤スラリ中で2成分の樹脂が均一に分布されるので、得られる電極の可撓性を向上させることができると共に、合剤と集電体とが確実に結着され、合剤の剥離・脱落を長期間抑制することができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、活物質と、熱硬化性樹脂を用いたバインダと、選択的に導電材と、を含む合剤が集電体に塗布された電極を用いた非水電解液二次電池であって、前記電極は、前記バインダに熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂を主体として用い、前記活物質、前記バインダ、前記導電材及び高級アルコールを、前記バインダを溶解し得る溶剤で混合して得られた合剤スラリが前記集電体の両面に塗布、乾燥され、得られた電極を加熱して前記バインダが熱硬化されたものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明をハイブリッド電気自動車の電源となる円筒型リチウムイオン電池の製造方法に適用した実施の形態について説明する。
【0014】
<製造方法>
<正極作製>
(樹脂調製工程)
図1に示すように、樹脂調製工程では、ポリビニルアルコール系樹脂に熱硬化性ユニットとしてカルボキシル基を導入した熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂と、ラウリルアクレート/アクリル酸共重合物及びエポキシ樹脂の反応物であるアクリル樹脂系可塑剤とをそれぞれ合成して用いる。熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂は、平均重合度約2000程度のポリビニルアルコール系樹脂に環状酸無水物を、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという。)等の有機溶媒中、トリエチルアミン等の触媒存在下で実質的に無水の状態で反応させて合成する。ポリビニルアルコール系樹脂と環状酸無水物との反応割合は、ポリビニルアルコール系樹脂のアルコール性ヒドロキシル基1当量に対し、環状酸無水物の無水物基が約0.1当量とした。アクリル樹脂系可塑剤は、重量平均分子量約3100の無溶剤型ラウリルアクリレート/アクリル酸共重合体のカルボキシル基1当量に対し、エポキシ基として約2当量の二官能型エポキシ樹脂を反応させて合成する。
【0015】
合成した熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂とアクリル樹脂系可塑剤とを10:1重量比の割合で混合した混合物(以下、PVAという。)をステンレス製の密閉容器内に入れ、温度60〜150°Cに設定した恒温槽内に1〜4時間放置して加熱処理を行うことで、PVAの架橋反応を一部進行させる。その後、容器を恒温槽から取り出し室温まで冷却させて、一部熱硬化させたPVAを得る。
【0016】
(スラリ作製工程)
スラリ作製工程では、正極活物質には、スピネル型結晶構造を有し、LiとMnとの原子比0.52、平均粒子径約20μmのマンガン酸リチウム(Li1+xMn2−xO4)粉末を用い、導電材には、平均粒径18μmの鱗片状黒鉛を用い、バインダ樹脂には、上述したPVA又は一部熱硬化させたPVAを用いる。正極活物質と導電材とバインダ樹脂とを85:5:10質量%で混合した正極活物質合剤に、用いるバインダ樹脂を溶解可能な分散溶媒のNMP及び直鎖の炭素数が7〜10の脂肪族アルコールの所定量を添加し、均一になるように混練して、正極合剤スラリを作製する。脂肪族アルコールの添加量は、正極活物質の重量に対し、0.5〜5%とした(図1参照)。
【0017】
(塗布・乾燥工程)
塗布・乾燥工程では、スラリ作製工程で作製した正極合剤スラリを、厚さ20μmのアルミニウム箔(正極集電体)の両面に、ロールコータを用いてほぼ均一に塗布する。アルミニウム箔片面あたりのマンガン酸リチウムの塗着量を80g/m2とした。このとき、正極長寸方向の一方の側縁に幅30mmの未塗布部を残す。その後乾燥させることで、集電体両面に正極活物質合剤層を形成させる(図1参照)。
【0018】
(プレス・裁断工程)
プレス・裁断工程では、正極活物質合剤層の空隙率が約30%となるようにプレスし、幅82mm、所定長さに裁断して、正極活物質合剤塗布部所定厚さの正極を作製する。正極活物質合剤層のかさ密度は2.65g/cm3とした。側縁に残した未塗布部に切り欠きを入れ、切り欠き残部を正極リード片とする。隣り合う正極リード片の間隔を50mm、正極リード片の幅を5mmとした(図1参照)。
【0019】
(熱硬化処理工程)
熱硬化処理工程では、プレス・裁断工程で作製した正極を熱硬化処理温度130°Cに保持された真空乾燥機内に16時間静置することで、バインダ樹脂に用いたPVA又は一部熱硬化させたPVAを全て熱硬化させる(図1参照)。
【0020】
<負極作製>
負極は、上述した正極の作製工程と同様の工程を経て作製される。以下、正極の作製工程と同一の工程についての説明を省略し、異なる箇所のみ説明する。
【0021】
スラリ作製工程では、負極活物質に平均粒子径約20μmの非晶質炭素粉末を用い、導電材にアセチレンブラックを用いる。負極活物質と導電材とバインダ樹脂とを85:5:10質量%で混合し、負極合剤スラリを作製する。塗布・乾燥工程では、集電体に厚さ10μmの圧延銅箔を用いる。プレス・裁断工程では、負極活物質合剤層の空隙率が約30%となるようにプレスし、幅86mm、所定長さに裁断する。負極活物質合剤層のかさ密度は1g/cm3とした。
【0022】
また、作製した正負極は、後述するように捲回したときに、捲回最内周では捲回方向に正極が負極からはみ出すことがなく、また最外周でも捲回方向に正極が負極からはみ出すことがないように、負極の長さは正極の長さよりも12cm長くする。また、捲回方向と垂直方向においても正極活物質合剤塗布部が負極活物質合剤塗布部からはみ出すことがないように、負極活物質合剤塗布部の幅は、正極活物質合剤塗布部の幅よりも4mm長くする。
【0023】
<電池の作製>
図2に示すように、作製した正極と負極とを、これら両極が直接接触しないように幅90mm、厚さ40μmのポリエチレン製セパレータW5と共に捲回した。捲回の中心には、ポリプロピレン製の中空円筒状の軸芯1を用いた。このとき、正極リード片と負極リード片とが、それぞれ捲回群(電極捲回群)6の互いに反対側の両端面に位置するようにした。また、正極、負極、セパレータの長さを調整し、捲回群6の直径を38±0.1mmとした。
【0024】
正極リード片2を変形させ、その全てを、捲回群6の軸芯1のほぼ延長線上にある正極集電リング4の周囲から一体に張り出している鍔部周面付近に集合、接触させた後、正極リード片2と鍔部周面とを超音波溶接して正極リード片2を鍔部周面に接続した。一方、負極集電リング5と負極リード片3との接続操作も、正極集電リング4と正極リード片2との接続操作と同様に実施した。
【0025】
その後、正極集電リング4の鍔部周面全周に絶縁被覆を施した。この絶縁被覆には、基材がポリイミドで、その片面にヘキサメタアクリレートからなる粘着剤を塗布した粘着テープを用いた。この粘着テープを鍔部周面から捲回群6外周面に亘って一重以上巻いて絶縁被覆とし、捲回群6を電池容器7内に挿入した。電池容器7には、外径は40mm、内径は39mmでニッケルメッキが施されたスチール製の容器を用いた。
【0026】
負極集電リング5には予め電気的導通のための負極リード板8を溶接しておき、電池容器7内に捲回群6を挿入後、電池容器7の底部と負極リード板8とを溶接した。
【0027】
一方、正極集電リング4には、予め複数枚のアルミニウム製のリボンを重ね合わせて構成した正極リード9の一端を溶接しておき、正極リード9の他端を、電池容器7を封口するための電池蓋の下面に溶接した。電池蓋には、円筒型リチウムイオン電池20の内圧上昇に応じて開裂する内圧開放機構としての開裂弁11が設けられている。開裂弁11の開裂圧は、約9×105Paに設定した。電池蓋は、蓋ケース12と、蓋キャップ13と、気密を保つ弁押さえ14と、開裂弁11とで構成されており、これらが積層されて蓋ケースの周縁をカシメることによって組立てられている。
【0028】
非水電解液50gを電池容器7内に注液し、その後、正極リード9を折りたたむようにして電池蓋で電池容器7に蓋をし、EPDM樹脂製ガスケット10を介してカシメて密封することにより、設計容量約4Ahの円筒型リチウムイオン電池20を完成させた。非水電解液には、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとの体積比1:1:1の混合溶媒中へ6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1モル/リットル溶解したものを用いた。なお、円筒型リチウムイオン電池20には、電池温度の上昇に応じて電気的に作動する、例えば、PTC(Positive Temperature Coefficient)素子や、電池内圧の上昇に応じて正極又は負極の電気的リードが切断される電流遮断機構は設けられていない。
【0029】
【実施例】
次に、本実施形態に従って作製した電極及び円筒型リチウムイオン電池20の実施例について説明する。高級アルコールの種類と添加量を変えて作製した電極について、実施例1〜実施例8には正極を、実施例9〜実施例16には負極をそれぞれ示す。また、実施例17〜実施例22には、PVAの一部熱硬化条件を変えて作製した電池を示す。なお、比較のために作製した比較例の電極及び電池についても併記する。
【0030】
(実施例1)
下表1に示すように、実施例1では、バインダ樹脂として一部熱硬化処理をしていないPVAを用い、正極合剤スラリに直鎖の炭素数8のn−オクタノールを0.5重量%添加して正極を作製した。
【0031】
【表1】
【0032】
(実施例2〜5)
表1に示すように、実施例2〜実施例5では、n−オクタノールの添加量を変える以外は実施例1と同様にした。実施例2では1重量%、実施例3では2重量%、実施例4では5重量%、実施例5では10重量%とした。
【0033】
(実施例6〜8)
表1に示すように、実施例6〜実施例8では、直鎖の炭素数の異なる高級アルコールを用いる以外は実施例2と同様にした。実施例6では炭素数7のn−ヘプタノールを、実施例7では炭素数9のn−ノナノールを、実施例8では炭素数10のn−デカノールをそれぞれ用いた。
【0034】
(比較例1)
表1に示すように、比較例1では、バインダ樹脂として一部熱硬化処理をしていないPVAを用い、正極合剤スラリに高級アルコールを添加せずに正極を作製した。
【0035】
(比較例2、3)
表1に示すように、比較例2、3では、n−オクタノールの添加量を変える以外は実施例1と同様にした。比較例2では0.1重量%、比較例3では0.2重量%とした。
【0036】
(比較例4、5)
表1に示すように、比較例4、5では、直鎖の炭素数の異なる高級アルコールを用いる以外は実施例2と同様にした。比較例4では炭素数6のn−ヘキサノールを、比較例5では炭素数4のn−ブタノールをそれぞれ用いた。
【0037】
(実施例9)
下表2に示すように、実施例9では、バインダ樹脂として一部熱硬化処理をしていないPVAを用い、負極合剤スラリに直鎖の炭素数8のn−オクタノールを0.5重量%添加して負極を作製した。
【0038】
【表2】
【0039】
(実施例10〜13)
表2に示すように、実施例10〜実施例13では、n−オクタノールの添加量を変える以外は実施例9と同様にした。実施例10では1重量%、実施例11では2重量%、実施例12では5重量%、実施例13では10重量%とした。
【0040】
(実施例14〜16)
表2に示すように、実施例14〜実施例16では、直鎖の炭素数の異なる高級アルコールを用いる以外は実施例10と同様にした。実施例14では炭素数7のn−ヘプタノールを、実施例15では炭素数9のn−ノナノールを、実施例16では炭素数10のn−デカノールをそれぞれ用いた。
【0041】
(比較例6)
表2に示すように、比較例6では、バインダ樹脂として一部熱硬化処理をしていないPVAを用い、負極合剤スラリに高級アルコールを添加せずに負極を作製した。
【0042】
(比較例7、8)
表2に示すように、比較例7、8では、n−オクタノールの添加量を変える以外は実施例9と同様にした。比較例7では0.1重量%、比較例8では0.2重量%とした。
【0043】
(比較例9、10)
表2に示すように、比較例9、10では、直鎖の炭素数の異なる高級アルコールを用いる以外は実施例10と同様にした。比較例9では炭素数6のn−ヘキサノールを、比較例10では炭素数4のn−ブタノールをそれぞれ用いた。
【0044】
(実施例17)
下表3に示すように、実施例17では、バインダ樹脂として60°Cで1時間加熱処理したPVAを用いる以外は、実施例3と同様にして正極を、実施例11と同様にして負極をそれぞれ作製し、電池を作製した。
【0045】
【表3】
【0046】
(実施例18〜22)
表3に示すように、実施例18〜実施例22では、PVAの加熱処理条件を変える以外は実施例17と同様にした。実施例18では100°Cで1時間、実施例19では100°Cで4時間、実施例20では120°Cで1時間、実施例21では120°Cで4時間、実施例22では150°Cで1時間とした。実施例18〜実施例22のPVAは、いずれも加熱処理により一部熱硬化させたものである。
【0047】
(比較例11)
表3に示すように、比較例11では、PVAの加熱処理を行わない以外は実施例17と同様にした。すなわち、比較例11の電池は、実施例3の正極と実施例11の負極とを用いた電池である。
【0048】
(比較例12、13)
表3に示すように、比較例12、13では、PVAの加熱処理条件を変える以外は実施例17と同様にした。比較例12では150°Cで4時間、比較例13では150°Cで12時間とした。比較例12、13のPVAは、加熱処理により全て熱硬化させたものである。
【0049】
<試験・評価>
次に、以上のようにして作製した実施例及び比較例の合剤スラリ、電極及び電池について、以下の一連の試験を行った。
【0050】
(合剤スラリ及び電極)
正極合剤スラリ及び負極合剤スラリの分散性を確認するため、グラインドメータを用いて、各スラリ中の粒子の最大粒径(凝集物も含む)を測定し、密閉容器内にて48時間静置後の容器上部及び下部の液比重と粘度とを測定して、上部と下部との比重差を求めた。また、スラリ中に混入した泡の消泡性を確認するため、高速撹拌にて発生した泡の体積及び消泡時間を測定した。更に、各電極の合剤スラリ塗布面の状態について、気泡痕の有無を目視にて確認した。
【0051】
(電池)
各電池を室温で充電した後放電し、放電容量を測定した。充電条件は、4.2V定電圧、制限電流5A、3.5時間とした。放電条件は、2A定電流、終止電圧2.7Vとした。次いで、出力特性を測定した。測定は、試験電池を約1時間で放電することができる電流値(1C)で4.1V定電圧制御し、3時間充電して満充電状態とした。その満充電状態の電池を、10A、30A、90Aの電流値でそれぞれ5秒間放電し、5秒目の電池電圧を測定した。得られた電池電圧を電流値に対してプロットした直線が、2.7Vに到達するときの電流値(Ia)から、出力((W)=Ia×2.7)を算出した。また、各電池を50°Cの恒温槽に入れ、上述した条件で充放電を500回繰り返した後、同様にして出力特性を測定した。測定は、25±2°Cの雰囲気で行った。
【0052】
下表4に正極合剤スラリ及び正極の試験結果を、下表5に負極合剤スラリ及び負極の試験結果を、下表6に電池の試験結果をそれぞれ示す。
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
表4、5に示すように、高級アルコールを添加していない比較例1の正極合剤スラリ及び比較例6の負極合剤スラリでは、最大粒径、比重差が大きく、活物質や導電材の分散性が低かった。また、発泡体積も著しく大きく、消泡までに長時間を要した。更に、得られた電極の合剤塗布面には気泡痕が認められた。これに対して、直鎖の炭素数が7〜10の脂肪族アルコールを、活物質重量に対し0.5〜5重量%含有させた実施例1〜実施例8の正極合剤スラリ及び実施例9〜実施例16の負極合剤スラリでは、分散性が向上すると共に、合剤スラリ作製時の高速撹拌によって合剤スラリが発泡しても消泡時間が短く、アプリケータを用いた塗布面も気泡痕が認められず良好であった。また、脂肪族アルコールの含有量が0.5重量%未満である比較例2、3の正極合剤スラリ及び比較例7、8の負極合剤スラリでは、スラリの分散性に効果は見られず、塗布面にも気泡痕が存在していた。逆に、脂肪族アルコールの含有量が5重量%を超えると、活物質微粒子及び導電材の凝集物の生成が認められた。従って、合剤スラリ中の脂肪族アルコールの含有量は、正極及び負極のいずれについても、0.5〜5重量%が好ましく、特に1〜2重量%が好ましいことが判明した。更に、炭素数9〜10の脂肪族アルコールを用いた実施例7、8の正極合剤スラリ及び実施例15、16の負極合剤スラリでも、スラリの分散性、消泡時間、塗布面状態に優れる結果となった。炭素数7の脂肪族アルコールを用いた実施例6の正極合剤スラリ及び実施例14の負極合剤スラリでは、消泡時間が若干長くなるものの、スラリの分散性、塗布面状態に優れる結果であった。これに対して、炭素数6、4の脂肪族アルコールを用いた比較例4、5の正極合剤スラリ及び比較例9、10の負極合剤スラリでは、分散性が低く、消泡時間が長く、塗布面には気泡痕が認められた。従って、脂肪族アルコールの直鎖の炭素数は7〜10が好ましいことが判明した。
【0056】
【表6】
【0057】
表6に示すように、一部熱硬化させたPVAを用いた実施例18〜実施例22の電池では、初期の出力特性に優れ、サイクル試験後の出力特性も向上した。また、実施例17の電池では、PVAの加熱処理を行っているが、一部熱硬化の進行が不十分なためサイクル試験後の出力特性が若干低下する結果となった。しかしながら、同じバインダ樹脂であっても予め一部熱硬化させていないものを用いた比較例11の電池では、サイクル後の出力が若干低下する結果となった。また、全て熱硬化させたPVAを用いた比較例12〜比較例13の電池では、サイクル試験後の出力特性が著しく低下し、容量も低い結果であった。これは合剤スラリを金属箔両面に塗布、乾燥する際に、NMPとの溶解性の良いアクリル系樹脂が合剤表面に偏析し、その結果本来の熱硬化が進行せずに未硬化の樹脂が存在したためと考えている。この未硬化の樹脂は電解液に対する膨潤度も著しく大きいことから、電極の電子伝導性を阻害したものと考えている。
【0058】
上述したように、バインダ樹脂に結着性に優れるPVAを用いることで、合剤層と集電体との密着性を向上させることができるものの、合剤スラリが発泡し易くなると共に消泡しにくくなるため、得られる電極表面に気泡痕が残り、電極反応が不均一になる。本実施形態では、スラリ作製工程で、合剤スラリに高級アルコールが添加される。このため、合剤スラリが発泡しても消泡し易くなり、電極表面での気泡痕の残存を抑制することができる。また、活物質や導電材の粒子の凝集を抑制して分散性を向上させることができる。これは高級アルコールが合剤スラリに添加されることで、界面エネルギーが低下するためと考えている。従って、表面が平滑で活物質等の分布が均一な合剤層を有し、可撓性に優れると共に、合剤層の剥離・脱落を抑制可能な電極を作製することができる。このような電極を用いることで、特性バラツキが小さく、出力特性に優れると共に長寿命の電池を作製することができる。高級アルコールの直鎖の炭素数が6以下では、発泡を抑制することができず消泡に長時間を要し、また、炭素数が10を超えると、高級アルコールの分子量が増大することから発泡し易くなるおそれがある。このため、合剤スラリに添加する高級アルコールの直鎖の炭素数は7〜10であることが好ましい。また、高級アルコールの合剤スラリへの添加量が、0.5重量%に満たないと活物質や導電材粒子の分散性が低下し、5重量%を超えると活物質微粒子や導電材の凝集物が生成する。このため、高級アルコールの添加量は、活物質重量に対し0.5〜5重量%であることが好ましい。
【0059】
また、PVAに用いた2成分は、溶剤のNMPに対する溶解性に差があるため、アクリル系樹脂が偏析して2成分の分布に偏りが生じ、充放電の繰り返しに伴い合剤層の一部又は全部が剥離・脱落するおそれがある。本実施形態では、樹脂調製工程で、PVAを加熱処理して一部熱硬化させる。このため、塗布・乾燥工程で生じるアクリル系樹脂の偏析を抑制することができる。更に、熱硬化処理工程で、PVAを全て熱硬化させる。このため、均一な合剤層が形成され、合剤層と集電体とが確実に結着されるので、合剤層の一部又は全部が集電体から剥離・脱落することを長期間抑制することができる。このような電極を用いることで、特性バラツキが小さく、出力特性及び高温でのサイクル特性に優れた電池を作製することができる。
【0060】
なお、本実施形態では、PVAの調製に、平均重合度約2000のポリビニルアルコール系樹脂及び重量平均分子量約3100のラウリルアクリレート/アクリル酸共重合物を用いる例を示したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、平均重合度の異なるポリビニルアルコール系樹脂や重量平均分子量の異なるラウリルアクリレート/アクリル酸共重合物を用いてもよい。この場合には、合成時の当量比や反応条件により所望の物性のPVAを得ることができる。
【0061】
また、本実施形態では、スラリ作製工程で用いる溶剤としてNMPを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。本実施形態以外で用いることのできる有機溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類、N,N−ジメチルエチレンウレア、N,N−ジメチルプロピレンウレア、テトラメチルウレア等のウレア類、γ−ブチロラクトン、γ−カプロラクトン等のラクトン類、プロピレンカーボネート等のカーボネート類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、エチルセロソルブアセテート、エチルカルビトールアセテート等のエステル類、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム類、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素類、スルホラン等のスルホン類などが挙げられる。これらのうちではポリビニルアルコール系樹脂に対する高溶解性、ポリビニルアルコール系樹脂と環状酸無水物との高反応促進性等の点で含窒素系有機溶剤のアミド類、ウレア類が好ましく、ポリビニルアルコール系樹脂と環状酸無水物との反応を阻害しやすい活性水素をもっていない等の点で、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルエチレンウレア、N,N−ジメチルプロピレンウレア、テトラメチルウレアがより好ましく、中でもN−メチル−2−ピロリドンが特に好ましい。これらの溶剤は、単独又は二種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0062】
更に、本実施形態では、ハイブリッド電気自動車用の電源に用いられるリチウムイオン電池について例示したが、電池の大きさ、電池容量には限定されず、電池容量としておおむね3〜10Ah程度の電池に対して本発明は効果を著しく発揮することが確認されている。また、本実施形態では円筒型電池を例示したが、本発明は電池の形状についても限定されるものではなく、角形、その他の多角形の電池や正負極を積層した積層タイプの電池にも適用可能である。更に、本発明の適用可能な形状としては、上述した有底筒状容器(缶)に電池上蓋がカシメによって封口されている構造の電池以外であっても構わない。このような構造の一例として正負極外部端子が電池蓋を貫通し電池容器内で軸芯を介して正負極外部端子が押し合っている状態の電池を挙げることができる。
【0063】
また更に、本実施形態では、正極活物質にLi1+xMn2−xO4で表せるマンガン酸リチウムを用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。本実施形態以外で用いることのできるリチウムイオン電池用正極活物質としては、リチウムイオンを挿入・脱離可能な材料であり、予め十分な量のリチウムイオンを挿入したリチウム複合酸化物であればよく、スピネル構造を有したマンガン酸リチウム(LiMn2O4)のほか、層状岩塩型構造を有するマンガン酸リチウム(LiMnO2)、結晶中の酸素の一部をS、P等の元素でドープ又は置換した材料を用いてもよい。また、結晶中にマンガンやリチウム以外の元素をドープ又は置換した材料、例えばLi1+xMn2−x−yMyO4で表され、xが0<x≦0.1であり、yが0<y≦0.3であり、MがAl、Cr、Ni、Co、Mgなどの元素であるマンガン酸リチウムを使用すれば、容量の低下を伴うことなく出力維持率(サイクル試験後の出力特性)を向上させることができる。
【0064】
更にまた、本実施形態では、負極活物質として非晶質炭素を例示したが、本発明は、上記特許請求範囲に記載した事項以外に特に制限はない。本実施形態以外で用いることのできるリチウムイオン電池用負極活物質としては、例えば、天然黒鉛や、人造の各種黒鉛材、コークス、非晶質炭素などの炭素質材料等でよく、その粒子形状においても、鱗片状、球状、繊維状、塊状等、特に制限されるものではない。
【0065】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、バインダに結着性の優れる熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂が主体として用いられるので、合剤と集電体との密着性を向上させることができ、合剤スラリに高級アルコールが混合され合剤スラリの界面エネルギーが低下するので、活物質や導電材の凝集が抑制されると共に、合剤スラリが発泡しても容易に消泡され合剤層表面の気泡痕の残存が抑制されるため、表面が平滑で活物質や導電材の分布が均一な電極を得ることができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用可能な実施形態の円筒型リチウムイオン電池用電極の製造工程の要部を示す工程図である。
【図2】実施形態の製造工程を経て作製した円筒型リチウムイオン電池の断面図である。
【符号の説明】
20 円筒型リチウムイオン電池(非水電解液二次電池)
W2 正極合剤層
W4 負極合剤層
Claims (4)
- 活物質と、熱硬化性樹脂を用いたバインダと、選択的に導電材と、を含む合剤を集電体に塗布した非水電解液二次電池用電極の製造方法であって、前記バインダに熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂を主体として用い、前記活物質、前記バインダ、前記導電材及び高級アルコールを、前記バインダを溶解し得る溶剤で混合して得られた合剤スラリを前記集電体の両面に塗布し乾燥させ、得られた電極を加熱して前記バインダを熱硬化させることを特徴とする製造方法。
- 前記高級アルコールは、直鎖の炭素数が7〜10の脂肪族アルコールであり、前記活物質の重量に対し、0.5%〜5%で合剤スラリに含有されていることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
- 前記溶剤に溶解し得るバインダは、前記熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂を主体としアクリル系樹脂を混合した混合体を予め加熱して該混合体の熱硬化を一部進行させたものであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
- 活物質と、熱硬化性樹脂を用いたバインダと、選択的に導電材と、を含む合剤が集電体に塗布された電極を用いた非水電解液二次電池であって、前記電極は、前記バインダに熱硬化性ポリビニルアルコール系樹脂を主体として用い、前記活物質、前記バインダ、前記導電材及び高級アルコールを、前記バインダを溶解し得る溶剤で混合して得られた合剤スラリが前記集電体の両面に塗布、乾燥され、得られた電極を加熱して前記バインダが熱硬化されたものであることを特徴とする非水電解液二次電池。
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-
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- 2002-11-22 JP JP2002338828A patent/JP2004172035A/ja active Pending
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