JP2004168144A - ラックピニオン式舵取装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ラックガイド3の外周面に、ラック軸1の移動方向に沿う中心線上に位置して弾接突起5,5を設け、保持孔30の内周面に設けた係合溝6,6に弾接状態にて係合させる。これにより保持孔30との間の隙間範囲内にて生じるラックガイド3の径方向移動を同側の弾接突起5の弾性に抗して生ぜしめ、ラック軸1に所定の摺動抵抗を加えて、径方向移動終了後との間の操舵感の急変を防止する。また保持孔30内でのラックガイド3の回転を阻止し、この回転に伴う不具合の発生を防止する。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用の舵取装置の一形式として広く利用されているラックピニオン式舵取装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ラックピニオン式舵取装置は、車体の左右方向に延設されたラックハウジングの内部に軸長方向への移動自在に支持されたラック軸と、前記ラックハウジングの中途部に軸心を交叉させて連設されたピニオンハウジングの内部に軸回りでの回動自在に支持されたピニオン軸とを備え、該ピニオン軸に一体形成されたピニオンを前記ラック軸の周面の一部に形成されたラック歯に噛合させると共に、ラックハウジングの両側に突出するラック軸の両端を左右の操向車輪(一般的には前輪)に夫々連結し、またピニオンハウジングから突出するピニオン軸の先端を操舵部材(ステアリングホイール)に連結して、操舵部材の操作に応じて生じるピニオン軸の回動をラック軸の軸長方向の移動に変換し、左右の操向車輪を操向せしめて舵取りを行わせる構成となっている。
【0003】
このようなラックピニオン式舵取装置においては、ラック軸に形成されたラック歯とピニオン軸に一体形成されたピニオンとの噛合部に適正な予圧を加え、左右両方向の舵取りを遅れを伴わずに高精度に行わせるために、ラック軸の周面をピニオン軸との噛合部の逆側から押圧し、該噛合部に予圧を加えつつ前記ラック軸を移動案内するラックガイドが用いられている。
【0004】
ラックガイドは、円柱状の部材であり、ラックハウジングのピニオンハウジングとの交叉部に、これらのハウジングと略直交するように連設されたガイドハウジングに設けた保持孔に内嵌保持されており、一側端面に設けた凹部をラック軸の背面に当接させ、他側端面に弾接する押しばねのばね力により前記凹部をラック軸に押し付けて前記予圧を加える構成となっている。前記凹部には、低摩擦係数を有するラック受けシートが被着されており、ラックガイドによるラック軸の移動案内は、ラック受けシートとの間の摺動抵抗下にてなされる。
【0005】
このように移動案内されるラック軸には、ピニオン軸との噛合部に発生する噛合反力が、ピニオン軸から離反する向きにラックガイドの押し付けに抗する力として作用する。ラックガイドを押圧付勢する押しばねは、前記噛合反力の作用によるラックガイドの軸長方向変位を許容し、ラック受けシートを介してラック軸に加わる摺動抵抗を略一定に保つ作用をなす。これにより、操舵部材を操作する運転者に良好な操舵感を体感させることができる。
【0006】
以上の如きラックガイドの変位を可能とするために、ラックガイドと保持孔との間には、所定の嵌め合い隙間が確保されている。しかしながらラックガイドにより案内されるラック軸には、前記噛合反力の外に、両端に連結された操向車輪に加わる路面反力等の種々の外力が加わっており、これらの作用によるラックガイドのガタ付きを抑えるために、ラックガイドと保持孔との嵌合隙間を埋める緩衝部材を備えるラックピニオン式舵取装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】
実開昭58−19873号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
さて以上の如きラックガイドを備えるラックピニオン式舵取装置においては、例えば、中立位置から一方向への操舵がなされた場合、又は操舵の方向が一方向から他方向へ転換された場合に、ラック軸と共にラックガイドが、保持孔との間に確保された嵌合隙間の範囲内にて径方向に移動し、この径方向移動の影響により、操舵部材を操作する運転者に体感される操舵感が急激に変化するという不具合があった。
【0009】
図6は、ラックガイドの径方向移動の発生メカニズムの説明図であり、保持孔30に内嵌保持された円柱形のラックガイド3と、該ラックガイド3の押し付けにより移動案内されるラック軸1とが模式的に示されている。
【0010】
図6(a)に示す如く、ラック軸1が白抜矢符により示す向きに移動している場合、ラックガイド3は、ラック軸1への押し付け部に加わる摺動抵抗の反作用により保持孔30の一側(移動方向の下流側)内面に当接した状態にあり、ラック軸1には、移動の方向と逆向きに安定した摺動抵抗が加わる。
【0011】
この状態からラック軸1の移動方向が、図6(b)中に白抜矢符にて示す向きに転換された場合、図中に2点鎖線に示す位置にあるラックガイド3は、まず、保持孔30の他側内面との間に生じている隙間G(図6(a)参照)の間をラック軸1と共に径方向に移動し、図6(b)中に実線により示す如く保持孔30他側内面に当接した状態となり、この当接下にてラック軸1との間に摺動抵抗を発生してラック軸1を移動案内する作用をなす。なお図6(a)には、隙間Gを拡大して示してある。
【0012】
即ち、ラック軸1の移動方向が転換された場合、転換直後のラック軸1には、ラックガイド3からの摺動抵抗が殆ど加わらず、この摺動抵抗は、前記隙間Gの間をラックガイド3が径方向に移動して保持孔30の他側内面に当接した後に発生し、操舵部材を操作する運転者に反力として体感される。従って、操舵方向の転換操作を行った運転者には、ラックガイド3の径方向移動の前後において急変する操舵感覚が体感されることとなる。同様の操舵感覚の急変は、直進走行状態から左右いずれかに操舵がなされた場合にも発生する。
【0013】
前記特許文献1の第4、第5図には、ラックガイドの周面に巻装された弾性材料製の帯体又は環体を、保持孔との間を埋める緩衝部材として備える構成が開示されている。これらの緩衝部材は、前述した嵌合隙間の範囲内にて移動するラックガイドと保持孔との間にて弾性変形し、ラックガイドに弾性反力を加える作用をなし、このときラック軸には、弾性反力に対応する摺動抵抗が加わるため、操舵感の急変を緩和することができる。
【0014】
しかしながら、十分な緩和効果を得るためには、緩衝部材の弾性反力を高める必要があり、このようにした場合、ラックガイドの全周における弾性反力の作用により、噛合反力の作用によるラックガイドの軸長方向変位が阻害され、噛合反力の吸収が十分になされず、安定した操舵感が得られなくなるという新たな問題が発生する。
【0015】
また一方、前述の如きラックガイドを備えるラックピニオン式舵取装置においては、ラック軸を移動案内するラックガイドが保持孔の内部において軸回りに回転し、該ラックガイド先端の凹部がラック軸の周面に均等に押し付けられない状態、所謂、片当り状態が発生し、ラック受けシートの偏摩耗、摺動抵抗の不安定化による操舵感の悪化等の不具合を招来するという問題がある。
【0016】
図7は、ラックガイドの回転発生のメカニズムの説明図であり、円柱形のラックガイド3と、該ラックガイド3の押し付けにより移動案内されるラック軸1とが模式的に示されている。
【0017】
本図に示す如くラック軸1に形成されたラック歯10は、その負荷能力を高めるべく、軸長方向に対して傾斜した歯面を有する斜歯とされることが多く、ラック軸1には、ピニオンとの噛合反力の分力が定常的な径方向力(図中に白抜矢符にて示す)として加わる。従って、ラック軸1を移動案内するラックガイド3に加わる押し付け力は、ラック軸1の軸心線の両半部において異なり、ラックガイド3は、押し付け力に比例する両半部の摺動抵抗(図中に破線の矢符により示す)の差をモーメント力として軸回りに回転する。このような回転が生じた場合、ラックガイド3は、ラック軸1に対して、図中のA点において片当りする。
【0018】
更にラック軸1には、両端に連結された操向車輪に加わる路面反力等の種々の外力が作用しており、これらの外力もまたラックガイド3の回転を生じさせる一因となる。
【0019】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、操舵方向の転換時又は操舵の開始時にラック軸と共に保持孔内にて生じるラックガイドの径方向移動を、保持孔内でのラックガイドの軸長方向の移動を阻害することなく抑制し、更に、ラック軸を介して加わる外力の作用によるラックガイドの軸回りの回転を有効に防止して、これらに起因する違和感を解消して良好な操舵感が得られるラックピニオン式舵取装置を提供することを目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1発明に係るラックピニオン式舵取装置は、操舵のために軸長方向に移動するラック軸と、操舵部材の操作に応じて回転し前記ラック軸に噛合するピニオン軸と、ハウジングに設けた保持孔に内嵌保持され、前記ラック軸に一端面を押し付け、該ラック軸を、前記ピニオン軸との噛合部に予圧を付与しつつ軸長方向に移動案内するラックガイドとを備えるラックピニオン式舵取装置において、前記ラックガイド又は保持孔の嵌合周面の前記ラック軸の移動方向に沿う中心線の近傍に突設され、前記保持孔又はラックガイドの嵌合周面に弾接する弾接突起を備えることを特徴とする。
【0021】
本発明においては、操舵方向の転換時又は操舵の開始時に、ラック軸の軸長方向移動に伴って保持孔との間の隙間範囲内にて生じるラックガイドの径方向移動する際に、この移動の方向に位置する前記弾接突起が弾性変形し、この弾性変形の反力がラック軸に付与されて、操舵部材を操作する運転者に所定の反力が体感される。これにより、ラックガイドが径方向移動を終え、ラック軸に摺動抵抗が加わり始めた後の操舵感の急変を抑制する。弾接突起は、保持孔又はラックガイドの周面に局所的に弾接しており、保持孔内でのラックガイドの軸長方向の移動を殆ど阻害しない。
【0022】
また本発明の第2発明に係るラックピニオン式舵取装置は、第1発明における弾接突起が、ラックガイドの周面に設けた支持孔に、該支持孔の底面との間に介装された支持ばねにより支えて収納された弾接球を備えることを特徴とする。
【0023】
この発明においては、支持孔内に収納された弾接球を支持ばねのばね力によりラックガイド又は保持孔の嵌合周面から突出させ、保持孔又はラックガイドの嵌合周面に点接触状態にて弾接させて、ラックガイドの軸長方向移動の阻害程度を一層緩和する。
【0024】
更に本発明の第3発明に係るラックピニオン式舵取装置は、前記保持孔又はラックガイドの嵌合周面に、該保持孔又はラックガイドの軸長方向に延設され、前記弾接突起が係合する係合溝を備えることを特徴とする。
【0025】
この発明においては、ラックガイド又は保持孔の嵌合周面に突出する弾接突起を、保持孔又はラックガイドの嵌合周面に設けた係合溝に係合させて、この係合によりラックガイドの軸回りの回転を抑え、この回転により発生する不具合を緩和する。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。図1は、本発明に係る従来のラックピニオン式舵取装置の要部の縦断面図である。
【0027】
図中1は、ラック軸であり、筒形をなすラックハウジングH1 の内部に軸長方向への移動自在に支承されている。ラックハウジングH1 の一側には、これと軸心を交叉させてピニオンハウジングH2 が連設され、同じく他側には、ラックハウジングH1 及びピニオンハウジングH2 の夫々と略直交する向きにガイドハウジングH3 が連設されている。
【0028】
ラック軸1は、ピニオンハウジングH2 との連通部を臨む側の周面に適長に亘って形成されたラック歯10を備えている。ラック軸1の両端は、ラックハウジングH1 の両側に突設され、図示しない左右の操向車輪に各別に連結されており、これらの操向車輪が、ラックハウジングH1 内でのラック軸1の移動に応じて操向されるようになしてある。
【0029】
ピニオンハウジングH2 の内部には、ピニオン軸2が配してある。ピニオン軸2は、下半部を拡径して一体形成され、ラックハウジングH1 との連通部において前記ラック歯10に噛合されたピニオン20を備えており、該ピニオン20の両側の一対のアンギュラ玉軸受21,22により、ピニオンンハウジングH2 の内部に同軸上での回動自在に支持されている。またピニオンハウジングH2 の外部に突出するピニオン軸2の上端部は、ステアリングホイール等の操舵部材(図示せず)に連結されており、ピニオン軸2は、操舵のための操舵部材の操作に応じてピニオンハウジングH2 の内部にて回動する。
【0030】
ガイドハウジングH3 には、ラック軸1の背面側(ピニオン20との噛合部の逆側)からラックハウジングH1 の内部に連通する円形断面の保持孔30が貫通形成されており、該保持孔30には、円柱形をなすラックガイド3が、所定の嵌合隙間を有して内嵌され、保持孔30の軸長方向への移動自在に保持されている。
【0031】
ラックガイド3は、ラックハウジングH1 との連通部を臨む先端部にラック軸1の外形に対応するようにアーチ形に凹ませた凹部31を備えており、この凹部31は、ラック軸1の背面側(ピニオン20との噛合部の逆側)の周面にラック受けシート4を介して当接させてある。またラックガイド3の他端面は、保持孔30の他側開口部にねじ込まれ、ロックナット33により位置決め固定された押えキャップ32に臨ませてあり、該押えキャップ32との間に介装された押しばね34によりラック軸1に向けて押圧付勢されている。
【0032】
このようなラックガイド3は、押しばね34のばね力により、先端の凹部31をラック受けシート4を介してラック軸1の背面に押し付け、該ラック軸1をピニオン軸2に向けて押圧して、ラック歯10とピニオン20との噛合部に予圧を付与すると共に、ラック受けシート4の摺動抵抗下にてラック軸1の軸長方向の移動を案内する作用をなす。前記予圧の強さは、押えキャップ32のねじ込み量を増減し、ロックナット33の締め付けにより適宜のねじ込み位置にて押えキャップ32を固定することにより適正に設定される。
【0033】
図2は、図1のII−II線による断面図であり、ラックガイド3及び保持孔30の横断面が示されている。
【0034】
本図に示す如くラックガイド3は、ラック軸1の軸長方向、即ち、ラック軸1への押し付けのための凹部31の延設方向の中心線上に突設された弾接突起5,5を備えている。図示の弾接突起5,5は、ラックガイド3の外周面に開口を有して径方向内向きに穿設された支持孔50,50に、夫々の底面との間に介装された支持ばね51,51により支えて、外周面から一部を突き出すように弾接球52,52を装着せしめて構成されている。
【0035】
一方、ラックガイド3を内嵌保持する保持孔30の内周面には、ラックガイド3の外周面に突設された弾接突起5,5に対応するように、ラック軸1の軸長方向の両側に円弧形の断面を有する係合溝6,6が形成されており、ラックガイド3の外周面に突出する弾接球52,52は、これらの係合溝6,6に係合せしめられ、支持ばね51,51のばね力により弾接されている。
【0036】
以上の如く構成された本発明に係るラックピニオン式舵取装置において、操舵のために操舵部材の操作がなされた場合、操舵部材に連結されたピニオン軸2が回動し、この回動が、ラックガイド3により付与される適正な予圧下にて噛合するピニオン20とラック歯10とによりラック軸1の軸長方向の移動に変換され、この移動が左右の操向車輪に伝達されて操舵がなされる。
【0037】
このように動作するラック軸1には、ラック歯10と噛合するピニオン20からの噛合反力が加わる。この噛合反力により図1中に白抜矢符にて示す向きに押圧されるラックガイド3は、押しばね34のばね力との力バランスに応じて保持孔30内にて軸長方向に変位しつつ、ラック軸1を移動案内する作用をなす。
【0038】
また、中立位置から一方向への操舵の開始時、又は操舵の方向の転換時には、前述の如く、ラック軸1を移動案内するラックガイド3は、ラック軸1の移動開始、又は移動方向の転換に伴って保持孔30との間に確保された嵌合隙間の範囲内にて径方向に移動しようとするが、この移動に際し、ラックガイド3に設けられた弾接突起5,5が以下の如く動作し、径方向移動の影響による操舵感の変化を緩和する作用をなす。
【0039】
図3は、弾接突起5,5の動作説明図であり、保持孔30に内嵌保持されたラックガイド3と、該ラックガイド3の押し付けにより移動案内されるラック軸1とが模式的に示されている。
【0040】
図3(a)に示す如く、ラック軸1が白抜矢符により示す向きに連続して移動している間、ラックガイド3は、ラック軸1への押し付け部に加わる摺動抵抗の反作用により保持孔30の一側(移動方向の下流側)内面に当接した状態にあり、ラック軸1は、移動の方向と逆向きに加わる摺動抵抗下にて軸長方向に安定して移動し、操舵部材を操作する運転者に良好な操舵感を体感させることができる。
【0041】
このときラックガイド3に設けられた弾接突起5,5のうち、ラック軸1の移動方向下流側に位置する一方の弾接突起5は、支持ばね51の縮短により弾接球52を支持孔50内に埋没させた状態にあり、上流側に位置する他方の弾接突起5は、支持ばね51の伸長により支持孔50からの弾接球52の突出量を増し、保持孔30内面との弾接状態を保っている。
【0042】
この状態からラック軸1の移動方向が転換された場合、図3(b)中に2点鎖線により示す位置にあるラックガイド3は、まず、ラック軸1の移動に伴って保持孔30の他側内面との間に生じている隙間G(図3(a)参照)の間をラック軸1と共に径方向に移動し、図3(b)中に実線により示す如く、保持孔30の他側内面に当接した状態となり、この状態で白抜矢符にて示す向きに移動するラック軸1を移動案内する作用をなす。なお図3(a)には、ラックガイド3の動きを明示するために、保持孔30との間の隙間Gを実際よりも大きくして示してある。
【0043】
以上の如きラックガイド3の径方向移動は、同側の弾接突起5の弾性変形、より具体的には、同側の保持孔30の内面に弾接する弾接球52の支持ばね51の縮短に抗して生じるから、この間ラック軸1には、前記弾性変形の反力がラックガイド3との間の摺動抵抗として加わる。このように径方向に移動するラックガイド3が保持孔30の他側内面に当接した後は、移動不可に拘束されたラックガイド3に対する摺動抵抗が加わることとなり、これらの摺動抵抗が運転者により操作される操舵部材に反力として付与される。
【0044】
以上のラックガイド3の動作は、直進走行状態から左右いずれかに操舵がなされた場合にも全く同様に発生し、操舵部材には、操舵方向の転換直後及び操舵の開始直後におけるラックガイド3の径方向移動の間にも弾接突起5の弾性変形に抗するための反力が加わることとなり、ラックガイド3が径方向移動を終え、保持孔30の内面に当接した状態にて加わる反力への移行が滑らかに生じ、ステアリングホイールを操作する運転者に体感される操舵感覚の急変を緩和することができる。
【0045】
図4は、以上の如き操舵感覚の変化の様子を示す説明図である。図の横軸は、操舵開始後の操舵角度の変化を示し、縦軸は、操舵部材に付与される操舵反力を示している。本図に示す如く操舵反力は、操舵開始の直後には弾接突起5の弾性抵抗に対応する略一定の変化率にて比例的に上昇し、前記隙間Gに対応する操舵角度θG に達し、ラックガイド3の当接が生じた後は変化率を増して上昇する。この移行の前後における変化率の差は小さく、操舵部材を介して運転者に体感される操舵感の変化はわずかである。
【0046】
これに対し、弾接突起5を備えていない場合、操舵部材に加わる操舵反力は、前記隙間Gに対応する操舵角度θG に達するまでの間は略零であり、ラックガイド3の当接が生じた後、図中に破線により示す如く急増することとなり、操舵部材を操作する運転者に操舵感の急変が体感されることとなる。
【0047】
一方、弾接突起5,5は、ラック軸1の移動方向両側において保持孔30の内面に局所的に弾接するのみであり、これらが前述した噛合反力の作用によるラックガイド3の軸長方向変位を阻害する虞れは殆どなく、ラック歯10とピニオン20とを常に適正な予圧下にて噛合させることができ、ラック軸1の軸長方向移動による舵取りを滑らかに行わせることができる。
【0048】
また一方、ラック軸1を移動案内するラックガイド3は、ラック軸1から加わる種々の外力の作用により、図2中に矢符にて示す如く、保持孔30内において軸回りに回転しようとする。本発明に係るラックピニオン式舵取装置においては、ラックガイド3に突設された弾接突起5,5、より具体的には、ラックガイド3の外周面に一部を突出させた弾接球52,52が、保持孔30の内周面に設けられた係合溝6,6に係合しており、これらがラックガイド3の回転止めの作用をなし、ラックガイド3の軸回りの回転を有効に防止することができる。
【0049】
このような回転止めの作用によりラックガイド3は、ラック軸1の周面にラック受けシート4を介して均等に押し付けられ、片当り状態が発生せず、ラック受けシート4の偏摩耗、摺動抵抗の不安定化による操舵感の悪化等の不具合の発生を未然に防止することができる。
【0050】
図5は、本発明に係るラックピニオン式舵取装置の他の実施の形態を示す図であり、前記図2と同様、ラックガイド3及び保持孔30の横断面が示されている。本図においては、ラックガイド3に設けられる弾接突起5,5は、ラックガイド3の外周面に開口を有して径方向内向きに穿設された支持孔53,53に、弾性材料製の柱状をなす弾接体54,54の基部を嵌合保持させて構成れている。これらの弾接体54,54は、半球形に成形され、ラックガイド3の外周面から突出する先端部を備えており、これらの先端部を保持孔30の内周面に前述の如く形成された係合溝6,6に係合せしめてある。
【0051】
以上の如く構成された弾接突起5,5は、保持孔30との間の隙間範囲内でのラックガイド3の径方向移動に対し、対応する側の弾接体54,54の弾性変形により抵抗し、またラックガイド3の軸回りの回転を、弾接体54,54と係合溝6,6との係合により阻止する作用をなし、ラックガイド3の径方向移動及び軸回りの回転に伴う不具合の発生を効果的に緩和することができる。
【0052】
一方、ラックガイド3の軸長方向変位は、係合溝6,6内での弾接体54,54の先端部の摺動を伴って生じるが、弾接体54,54の先端が半球形をなし、保持孔30の内面に局所的に弾接していることから、これらがラックガイド3の軸長方向変位を阻害する虞れは殆どなく、ラック歯10とピニオン20との噛合部に常に適正な予圧を加え、ラック軸1の軸長方向移動による舵取りを滑らかに行わせることが可能である。
【0053】
なお弾接体54,54は、PTFE(ポリエチレンテレフタレート)、POM(炭素繊維強化ポリアセタノール)等、耐摩耗性に優れ、低摩擦係数を有する高強度の合成樹脂製とするのが望ましく、各別の支持孔53,53に嵌め込まれ、接着等の固定手段により固定されている。
【0054】
なお以上の実施の形態においては、ラックガイド3の周面のラック軸1の移動方向に沿う中心線上に弾接突起5,5を配設してあるが、これらの配設位置は、前記中心線の近傍であればよく、また夫々の配設位置に各複数の弾接突起5,5…を設けてもよい。また弾接突起5,5を保持孔30の内面に設け、係合溝6,6をラックガイド3の外周面に設ける構成も可能であり、略同様の効果を得ることができる。
【0055】
【発明の効果】
以上詳述した如く本発明に係るラックピニオン式舵取装置においては、ラックガイド又は保持孔に設けた弾接突起の作用により、操舵方向の転換時におけるラックガイドの径方向移動に起因する操舵感の悪化を有効に緩和することが可能となる。
【0056】
また、支持ばねにより支えた弾接球を支持孔内から突出せしめて弾接突起を構成したから、ラックガイドの軸長方向移動を阻害することがなく、ラック軸とピニオン軸との噛合状態を適正に維持し、良好な操舵感が得られる。
【0057】
更に、弾接突起を係合溝に係合させてラックガイドの軸回りの回転を阻止したから、この回転に伴う片当り等の不具合が解消され、良好な操舵感を安定して実現することが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るラックピニオン式舵取装置の要部の縦断面図である。
【図2】図1のII−II線による横断面図である。
【図3】弾接突起の動作説明図である。
【図4】操舵感覚の変化の様子を示す説明図である。
【図5】本発明に係るラックピニオン式舵取装置の他の実施の形態を示す図である。
【図6】ラックガイドの径方向移動の発生メカニズムの説明図である。
【図7】ラックガイドの回転発生のメカニズムの説明図である。
【符号の説明】
1 ラック軸
2 ピニオン軸
3 ラックガイド
4 ラック受けシート
5 弾接突起
6 係合溝
10 ラック歯
20 ピニオン
30 保持孔
50 支持孔
51 支持ばね
52 弾接球
H1 ラックハウジング
H2 ピニオンハウジング
H3 ガイドハウジング
Claims (3)
- 操舵のために軸長方向に移動するラック軸と、操舵部材の操作に応じて回転し前記ラック軸に噛合するピニオン軸と、ハウジングに設けた保持孔に内嵌保持され、前記ラック軸に一端面を押し付け、該ラック軸を、前記ピニオン軸との噛合部に予圧を付与しつつ軸長方向に移動案内するラックガイドとを備えるラックピニオン式舵取装置において、
前記ラックガイド又は保持孔の嵌合周面の前記ラック軸の移動方向に沿う中心線の近傍に突設され、前記保持孔又はラックガイドの嵌合周面に弾接する弾接突起を備えることを特徴とするラックピニオン式舵取装置。 - 前記弾接突起は、ラックガイドの周面に設けた支持孔に、該支持孔の底面との間に介装された支持ばねにより支えて収納された弾接球を備える請求項1記載のラックピニオン式舵取装置。
- 前記保持孔又はラックガイドの嵌合周面に、該保持孔又はラックガイドの軸長方向に延設され、前記弾接突起が係合する係合溝を備える請求項1又は請求項2記載のラックピニオン式舵取装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
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Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2008044487A (ja) * | 2006-08-14 | 2008-02-28 | Oiles Ind Co Ltd | ラックガイド及びこのラックガイドを備えるラックピニオン式ステアリング装置 |
JP2012214192A (ja) * | 2011-03-31 | 2012-11-08 | Honda Motor Co Ltd | 車両用ステアリング装置 |
JP2021142809A (ja) * | 2020-03-11 | 2021-09-24 | 日本精工株式会社 | ラックアンドピニオン式ステアリングギアユニット |
-
2002
- 2002-11-19 JP JP2002335168A patent/JP2004168144A/ja active Pending
Cited By (4)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2008044487A (ja) * | 2006-08-14 | 2008-02-28 | Oiles Ind Co Ltd | ラックガイド及びこのラックガイドを備えるラックピニオン式ステアリング装置 |
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