JP2004143149A - 膵疾患の予防及び/又は治療のための医薬 - Google Patents
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Abstract
【課題】急性膵炎などの膵疾患の予防及び/又は治療に有用な医薬を提供する。
【解決手段】下記式(I):
【化1】
(式中、R1は、水素原子、アリール基、アルキル基又はアルコキシカルボニルアルキル基を表し;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、アルキル基又はヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同してアルキレン基を表し;R3は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又はアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシカルボニル基、アルキルメルカプト基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基からなる群から選ばれる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む膵疾患の予防及び/又は治療のための医薬。
【選択図】 なし
【解決手段】下記式(I):
【化1】
(式中、R1は、水素原子、アリール基、アルキル基又はアルコキシカルボニルアルキル基を表し;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、アルキル基又はヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同してアルキレン基を表し;R3は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又はアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシカルボニル基、アルキルメルカプト基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基からなる群から選ばれる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む膵疾患の予防及び/又は治療のための医薬。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む膵疾患の予防及び/又は治療のための医薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
代表的な膵疾患としては膵炎があり、急性膵炎と慢性膵炎に分類される。膵炎は日常診療の中では一般的な疾患のうちの一つであるが、急性膵炎は、膵臓の内部及び周囲組織に急性病変を生じ、激しい上腹部痛を伴って発症する急性腹症である。急性膵炎は、多様な臨床像を呈し、軽度な臨床症状で容易に治療しうる軽症例から、発症早期からショックや多臓器不全(Multiple Organ Failure : MOF)へと進展し、致死的経過をとる重症例まで様々である。急性膵炎の成因にはアルコール摂取(アルコール性膵炎)、胆石(胆石性膵炎)、内視鏡的逆行性膵管胆管造影(ERCP)や内視鏡的乳頭切開(EST)(ERCP後膵炎、EST後膵炎)、手術(術後膵炎)、薬剤投与(薬剤性膵炎)、高脂血症、外傷、原因が全く不明な特発性などが知られている。
【0003】
現在、急性膵炎モデルとして、逆行性膵管注入膵炎、Closed duodenal loop膵炎、膵管結紮膵炎、セルレイン誘発膵炎、股輪欠乏エチオニン添加食誘発膵炎等がある。後記実施例において検討したClosed duodenal loop膵炎は、1910年にSeidelによって最初に記述された膵炎モデルである。Closed duodenal loop膵炎モデルは十二指腸内でエンテロキナーゼによって活性化された膵酵素が十二指腸内圧の亢進により膵管内に逆流することにより発症し、26時間でほとんどの個体が死亡するという極めて強力な膵炎モデルである。Peralta等は、superoxide dismutase(SOD)がこのモデルに対して治療効果を示すことを見出し、このモデルと活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)の関係を示唆した(Peralta, J. et al., Int J Pancreatol, 19, 61−69, 1996)。以降、このモデルとROSの関係を検討した研究はない。
【0004】
一方、下記式(I):
【化4】
(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)で表されるピラゾロン誘導体については、医薬の用途として、脳機能正常化作用(特公平5−31523号公報)、過酸化脂質生成抑制作用(特公平5−35128号公報、例1の化合物)、抗潰瘍作用(特開平3−215425号公報)、及び血糖上昇抑制作用(特開平3−215426号公報)等が知られている。
【0005】
また、上記式(I)の化合物のうち、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを有効成分とする製剤は、2001年6月以来、脳保護剤(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)として上市されている。この「エダラボン」は、活性酸素に対して高い反応性を有することが報告されている(Kawai, H., et al., J. Phamacol. Exp. Ther., 281(2), 921, 1997; Wu, TW. et al., Life Sci, 67(19), 2387, 2000)。しかしながら、エダラボンが急性膵炎などの膵疾患に対して有効であるか否かの検討については従来全く報告がない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、急性膵炎などの膵疾患の予防及び/又は治療に有用な医薬を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々の検討を行った結果、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物が、激烈な症状を呈するClosed duodenal loop膵炎モデル動物において血中アミラーゼ値の上昇を有意に抑制し、膵腺房細胞保護作用を有することを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成された。
【0008】
即ち、本発明によれば、下記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む膵疾患の予防及び/又は治療のための医薬が提供される。
【0009】
【化5】
【0010】
(式中、R1は、水素原子、アリール基、炭素数1〜5のアルキル基又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基を表し;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレン基を表し;R3は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物である上記医薬が提供される。
【0012】
本発明の別の局面によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む膵腺房細胞保護剤;式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む膵疾患に起因する血中アミラーゼ上昇抑制剤が提供される。
【0013】
本発明のさらに別の側面によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の予防及び/又は治療有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、膵疾患の予防及び/又は治療方法が提供される。本発明のさらに別の側面によれば、上記医薬の製造のための式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の使用が提供される。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の膵疾患の予防及び/又は治療のための医薬、膵腺房細胞保護剤、及び膵疾患に起因する血中アミラーゼ上昇抑制剤(以下、これらを総称して本発明の医薬という)は、本明細書に定義する式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む。
【0015】
本発明で用いる式(I)で示される化合物は、互変異性により、以下の式(I’)又は(I”)で示される構造をもとりうる。本明細書の式(I)には、便宜上、互変異性体のうちの1つを示したが、当業者には下記の互変異性体の存在は自明である。本発明の医薬の有効成分としては、下記の式(I’)又は(I”)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を用いてもよい。
【0016】
【化6】
【0017】
式(I)において、R1の定義におけるアリール基は単環性又は多環性アリール基のいずれでもよい。例えば、フェニル基、ナフチル基などのほか、メチル基、ブチル基などのアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、塩素原子などのハロゲン原子、又は水酸基等の置換基で置換されたフェニル基等が挙げられる。アリール部分を有する他の置換基(アリールオキシ基など)におけるアリール部分についても同様である。
【0018】
R1、R2及びR3の定義における炭素数1〜5のアルキル基は直鎖状、分枝鎖状のいずれでもよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。アルキル部分を有する他の置換基(アルコキシカルボニルアルキル基)におけるアルキル部分についても同様である。
【0019】
R1の定義における総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基としては、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、プロポキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルエチル基、メトキシカルボニルプロピル基等が挙げられる。
【0020】
R2の定義におけるアリールオキシ基としては、p−メチルフェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、p−ヒドロキシフェノキシ基等が挙げられ、アリールメルカプト基としては、フェニルメルカプト基、p−メチルフェニルメルカプト基、p−メトキシフェニルメルカプト基、p−クロロフェニルメルカプト基、p−ヒドロキシフェニルメルカプト基等が挙げられる。
【0021】
R2及びR3の定義における炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。R3の定義における炭素数5〜7のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
【0022】
R3の定義において、フェニル基の置換基における炭素数1〜5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられ、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が挙げられ、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基としては、メチルメルカプト基、エチルメルカプト基、プロピルメルカプト基等が挙げられ、炭素数1〜4のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基等が挙げられ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等が挙げられる。
【0023】
本発明の医薬の有効成分として好適に用いられる化合物(I)として、例えば、以下に示す化合物が挙げられる。
3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(2−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3,4−ジメチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロピルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0024】
1−(4−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジメトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロポキシフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジクロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0025】
1−(4−ブロモフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−フルオロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(3−メチル−5−オキソ−2−ピラゾリン−1−イル)安息香酸;
1−(4−エトキシカルボニルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ニトロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−エチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−3−プロピル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0026】
1,3−ジフェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−フェニル−1−(p−トリル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3,4−ジメチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−イソブチル−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェノキシ−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェニルメルカプト−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0027】
3,3’,4,5,6,7−ヘキサヒドロ−2−フェニル−2H−インダゾール−3−オン;
3−(エトキシカルボニルメチル)−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1,3−ジメチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−エチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ブチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキエチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−シクロヘキシル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ベンジル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0028】
1−(α−ナフチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−メチル−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0029】
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−アミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ジメチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(アセトアミドフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;及び
1−(4−シアノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
【0030】
本発明の医薬の有効成分としては、式(I)で表される遊離形態の化合物のほか、生理学的に許容される塩を用いてもよい。生理学的に許容される塩としては、塩酸、硫酸、臭化水素塩、リン酸等の鉱酸との塩;メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、グリコール酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、アスコルビン酸、クエン酸、サリチル酸、ニコチン酸、酒石酸等の有機酸との塩;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニア、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、N−メチルグルタミン、L−グルタミン等のアミンとの塩が挙げられる。また、グリシンなどのアミノ酸との塩を用いてもよい。
【0031】
本発明の医薬の有効成分としては、上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩の水和物、又は上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩の溶媒和物を用いてもよい。溶媒和物を形成する有機溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどを例示することができる。また、上記式(I)で表される化合物は、置換基の種類により1以上の不斉炭素を有する場合があり、光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する場合がある。本発明の医薬の有効成分としては、純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などを用いてもよい。
【0032】
式(I)で表される化合物はいずれも公知の化合物であり、特公平5−31523号公報などに記載された方法により当業者が容易に合成できる。
【0033】
本発明の医薬の投与量は特に限定されないが、通常は、有効成分である式(I)で示される化合物の重量として一般に経口投与の場合には一日あたり0.1〜1000mg/kg体重、好ましくは一日あたり0.5〜50mg/kg体重、であり、非経口投与の場合には一日あたり0.01〜100mg/kg体重、好ましくは0.1〜10mg/kg体重である。上記投与量は1日1回又は2〜3回に分けて投与するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減してもよい。
【0034】
本発明の医薬としては、上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物をそのまま投与してもよいが、一般的には、有効成分である上記の物質と薬理学的及び製剤学的に許容される添加物を含む医薬組成物を調製して投与することが好ましい。
【0035】
薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を用いることができる。
【0036】
経口投与に適する医薬組成物には、添加物として、例えば、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、デンプン、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤を用いることができる。
【0037】
注射あるいは点滴用に適する医薬組成物には、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D−マンニトール、グリセリン等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤等の添加物を用いることができる。
【0038】
本発明の医薬の形態は特に限定されず、当業者に利用可能な種々の形態をとることができる。経口投与に適する医薬として、例えば、固体の製剤用添加物を用いて錠剤、散剤、顆粒剤、硬ゼラチンカプセル剤、坐剤、又はトローチ剤などを調製することができ、液状の製剤用添加物を用いてシロップ剤、乳剤、軟ゼラチンカプセル剤などを調製することができる。また、非経口投与に適する医薬として、注射剤、点滴剤、吸入剤、坐剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤などを調製することができる。なお、上記の式(I)の化合物を有効成分とする脳保護剤(点滴剤)が、すでに臨床において使用されているので(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)、本発明の医薬において上記市販製剤をそのまま用いることができる。
【0039】
本発明の医薬は、膵疾患に有効である。すなわち、本発明の医薬は、膵疾患を防止する予防剤としての作用、及び/又は膵疾患を正常な状態に回復させる治療剤としての作用を有している。
本発明の医薬はまた、膵腺房細胞保護ならびに膵疾患に起因する血中アミラーゼ上昇の抑制に有効である。
【0040】
本明細書において、膵疾患としては、急性膵炎、慢性膵炎、膵腺房細胞壊死、膵浮腫、膵管閉塞、膵由来アミラーゼ上昇に起因する高アミラーゼ血症などが挙げられる。
【0041】
本発明の医薬の投与経路は特に限定されず、経口的または非経口的に投与することができる。例えば、上記各疾患の治療に先立って予防的に本発明の医薬を経口投与しておくことができ、注射若しくは点滴などの非経口的投与によって手術中又はその前後に予防的に投与することもできる。また、上記各疾患の患者に対しては、症状の悪化の防止ないしは症状の軽減などを目的として、静脈内、動脈内(特に、重傷膵炎に対してカテーテルによる動注療法)に注射により投与することもできる。
【0042】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
【0043】
合成例:3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン(以下、エダラボンと称す)の合成
エタノール50ml中にアセト酢酸エチル13.0g及びフェニルヒドラジン10.8gを加え、3時間還流攪拌した。反応液を放冷後、析出した結晶をろ取し、エタノールより再結晶して、表題の化合物11.3gを無色結晶として得た。
収率 67%
融点 127.5〜128.5℃
【0044】
実施例1
(1)実験方法
▲1▼材料
上記のようにして合成したエダラボンは少量の1N水酸化ナトリウム溶液に溶解後、pHを中性付近に調整した。
【0045】
▲2▼急性膵炎作製法
10週齢Sprague−Dawley系雄性ラット(日本クレア)を用い、既報の方法に準じて(Nevalainen, TJ., et al., Scand J Gastroenterol, 10, 521−527, 1975 ; Pozsar, J., et al., Pancreas, 12, 159−164, 1996)、以下のようにして急性膵炎を惹起させた。まず、ラットを一晩絶食させた後、ペントバルビタール(40mg/kg)にて麻酔をかけた。エダラボン群にはそれぞれ100mg/kg、10mg/kg、5mg/kgのエダラボンを、コントロール群には生理食塩水を尾静脈より静脈注射を行った。その直後正中切開を行い、十二指腸の幽門輪直下部とそこから3cm肛門側部を3/0絹糸にて結紮した。その後、腹壁を3/0絹糸にて結紮し開腹した。これにより膵管と胆管の共通管はこの3cmの閉鎖された十二指腸内に貯留し、急性膵炎が発生する(closed duodenal loop膵炎)。
【0046】
▲3▼肉眼的組織学的膵炎評価法
7時間後、ラットを解剖した。それぞれ腹水量と全膵臓の湿重量を測定した。膵臓の一部をカルノア液で3時間固定後、パラフィン包埋を行った。その後5μm厚の組織切片を作製し、ヘマトキシリン−エオジン染色を行った。急性膵炎の評価は、既報の方法に従った(Demols, A., et al., Gastroenterology, 118, 582−590, 2000)。即ち、浮腫、膵腺房細胞の壊死及び炎症細胞湿潤の程度を以下のように評価し、点数付けを行った。浮腫については0:無し、1:葉間に限局的に認める、2:葉間に広汎に認める、3:膵腺房破壊並びに剥離。膵腺房細胞の壊死については0:無し、1:膵管周囲のみ壊死(≦5%)、2:限局した壊死(5%〜20%)、3:広汎な壊死(20%〜50%)。炎症細胞湿潤については0:無し、1:膵管周囲のみ湿潤、2:限局した湿潤(<50%)、3:広汎な湿潤(>50%)。
【0047】
▲4▼血中アミラーゼ値
血中アミラーゼ値は市販されているキットを用いて測定した(ネオ・アミラーゼテスト、第一化学薬品株式会社製)。
【0048】
▲5▼膵組織内malondialdehyde (MDA), 4−hydroxy−2(E)−nonenal(4−HNE)濃度
膵組織の一部を9倍量の0.5%のTriton X−100を含む50mmol/lのTris−buffer(pH8.0)でホモジネートし、アッセイキット(Lipid peroxidation assay kit,Calbiochem, La, Jolla, CA, U.S.A.)を用いて膵組織内のMDA及び4−HNE濃度を測定した。脂質過酸化は組織障害の重要な機序の一つであり、MDA及び4−HNEは組織内の多価不飽和脂肪酸の過酸化により産生されるので、測定により得られた当該値は組織内活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)の状態の指標とすることができる(Matsumura, N., et al., Pancreas, 22, 53−7, 2001)。
【0049】
▲6▼統計処理
結果はMean±SEMで表した。群間比較はFisher’s PLSD testで行った。ノンパラメトリックなデータの比較はKruskal−Wallis testとDunn’s Procedure As A Multiple Comparison Procedureで行った。p値が0.05未満を有意差ありとした。
【0050】
(2)実験結果
▲1▼肉眼的膵炎評価
エダラボン群、コントロール群ともに急性膵炎が惹起された。エダラボン100mg/kg投与群、10mg/kg投与群、5mg/kg投与群及びコントロール群の腹水量は概ね近似しており、これら群問に有意差を認めなかった(表1)。エダラボン100mg/kg投与群、10mg/kg投与群、5mg/kg投与群及びコントロール群の全膵臓の湿重量も概ね近似しており、これら群間に有意差を認めなかった(表1)。
【0051】
【表1】
【0052】
▲2▼組織学的膵炎評価
図1に膵組織の像を示す。(A)エダラボン10mg/kg投与群(×100)、(B)エダラボン100mg/kg投与群(×100)、(C)コントロール群(×100)である。エダラボン100mg/kg投与群、10mg/kg投与群、5mg/kg投与群の膵組織内ダメージスコアは、いずれもコントロール群の値に比べ低下した(表2)。ここで、ダメージスコアとは前記(1)実験方法、▲3▼肉眼的組織学的膵炎評価法の項に記載した浮腫、膵腺房細胞の壊死及び炎症細胞湿潤の各点数の和をとり、個体数で割った平均値を表す。
【0053】
【表2】
【0054】
▲3▼血中アミラーゼ値
無処置ラットの血中アミラーゼ値は8440IU/Lであった(n=3)。コントロール群において急性膵炎の惹起により血中アミラーゼ値の顕著な上昇が認められた。
しかしエダラボン100mg/kg投与群、10mg/kg投与群、5mg/kg投与群においてはこの上昇は顕著に抑制され、エダラボン投与群とコントロール群との間には統計学的に有意差が認められた(図2)。
【0055】
▲4▼膵組織内malondialdehyde (MDA), 4−hydroxy−2(E)−nonenal(4−HNE)濃度
エダラボン100mg/kg投与群、10mg/kg投与群、5mg/kg投与群の膵組織内MDAと4−HNE濃度は、いずれもコントロール群の値に比べ低下した。特にエダラボン100mg/kg群と10mg/kg群は、5mg/kg群とコントロール群に比べ、有意な低下を示した(図2)。
【0056】
【発明の効果】
本発明の医薬は膵疾患の予防及び/又は治療に有用である。特に、本発明の医薬は臨床上問題となっている胆石症による急性膵炎に近いclosed duodenal loop膵炎モデルにおいてその血中アミラーゼ値の上昇を有意に抑制したことから、重症急性膵炎に対する治療効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)エダラボン10mg/kg投与群(×100)、(B)エダラボン投与100mg/kg群(×100)、(C)コントロール群(×100)の各試験群ラットにおける膵組織の像を示す。
【図2】(A)各試験群ラットにおける血中アミラーゼ値を示す。(B)各試験群ラットにおける膵組織内malondialdehyde (MDA)+4−hydroxy−2(E)−nonenal(4−HNE)濃度を示す。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む膵疾患の予防及び/又は治療のための医薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
代表的な膵疾患としては膵炎があり、急性膵炎と慢性膵炎に分類される。膵炎は日常診療の中では一般的な疾患のうちの一つであるが、急性膵炎は、膵臓の内部及び周囲組織に急性病変を生じ、激しい上腹部痛を伴って発症する急性腹症である。急性膵炎は、多様な臨床像を呈し、軽度な臨床症状で容易に治療しうる軽症例から、発症早期からショックや多臓器不全(Multiple Organ Failure : MOF)へと進展し、致死的経過をとる重症例まで様々である。急性膵炎の成因にはアルコール摂取(アルコール性膵炎)、胆石(胆石性膵炎)、内視鏡的逆行性膵管胆管造影(ERCP)や内視鏡的乳頭切開(EST)(ERCP後膵炎、EST後膵炎)、手術(術後膵炎)、薬剤投与(薬剤性膵炎)、高脂血症、外傷、原因が全く不明な特発性などが知られている。
【0003】
現在、急性膵炎モデルとして、逆行性膵管注入膵炎、Closed duodenal loop膵炎、膵管結紮膵炎、セルレイン誘発膵炎、股輪欠乏エチオニン添加食誘発膵炎等がある。後記実施例において検討したClosed duodenal loop膵炎は、1910年にSeidelによって最初に記述された膵炎モデルである。Closed duodenal loop膵炎モデルは十二指腸内でエンテロキナーゼによって活性化された膵酵素が十二指腸内圧の亢進により膵管内に逆流することにより発症し、26時間でほとんどの個体が死亡するという極めて強力な膵炎モデルである。Peralta等は、superoxide dismutase(SOD)がこのモデルに対して治療効果を示すことを見出し、このモデルと活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)の関係を示唆した(Peralta, J. et al., Int J Pancreatol, 19, 61−69, 1996)。以降、このモデルとROSの関係を検討した研究はない。
【0004】
一方、下記式(I):
【化4】
(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)で表されるピラゾロン誘導体については、医薬の用途として、脳機能正常化作用(特公平5−31523号公報)、過酸化脂質生成抑制作用(特公平5−35128号公報、例1の化合物)、抗潰瘍作用(特開平3−215425号公報)、及び血糖上昇抑制作用(特開平3−215426号公報)等が知られている。
【0005】
また、上記式(I)の化合物のうち、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを有効成分とする製剤は、2001年6月以来、脳保護剤(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)として上市されている。この「エダラボン」は、活性酸素に対して高い反応性を有することが報告されている(Kawai, H., et al., J. Phamacol. Exp. Ther., 281(2), 921, 1997; Wu, TW. et al., Life Sci, 67(19), 2387, 2000)。しかしながら、エダラボンが急性膵炎などの膵疾患に対して有効であるか否かの検討については従来全く報告がない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、急性膵炎などの膵疾患の予防及び/又は治療に有用な医薬を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々の検討を行った結果、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物が、激烈な症状を呈するClosed duodenal loop膵炎モデル動物において血中アミラーゼ値の上昇を有意に抑制し、膵腺房細胞保護作用を有することを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成された。
【0008】
即ち、本発明によれば、下記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む膵疾患の予防及び/又は治療のための医薬が提供される。
【0009】
【化5】
【0010】
(式中、R1は、水素原子、アリール基、炭素数1〜5のアルキル基又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基を表し;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレン基を表し;R3は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物である上記医薬が提供される。
【0012】
本発明の別の局面によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む膵腺房細胞保護剤;式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む膵疾患に起因する血中アミラーゼ上昇抑制剤が提供される。
【0013】
本発明のさらに別の側面によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の予防及び/又は治療有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、膵疾患の予防及び/又は治療方法が提供される。本発明のさらに別の側面によれば、上記医薬の製造のための式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の使用が提供される。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の膵疾患の予防及び/又は治療のための医薬、膵腺房細胞保護剤、及び膵疾患に起因する血中アミラーゼ上昇抑制剤(以下、これらを総称して本発明の医薬という)は、本明細書に定義する式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む。
【0015】
本発明で用いる式(I)で示される化合物は、互変異性により、以下の式(I’)又は(I”)で示される構造をもとりうる。本明細書の式(I)には、便宜上、互変異性体のうちの1つを示したが、当業者には下記の互変異性体の存在は自明である。本発明の医薬の有効成分としては、下記の式(I’)又は(I”)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を用いてもよい。
【0016】
【化6】
【0017】
式(I)において、R1の定義におけるアリール基は単環性又は多環性アリール基のいずれでもよい。例えば、フェニル基、ナフチル基などのほか、メチル基、ブチル基などのアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、塩素原子などのハロゲン原子、又は水酸基等の置換基で置換されたフェニル基等が挙げられる。アリール部分を有する他の置換基(アリールオキシ基など)におけるアリール部分についても同様である。
【0018】
R1、R2及びR3の定義における炭素数1〜5のアルキル基は直鎖状、分枝鎖状のいずれでもよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。アルキル部分を有する他の置換基(アルコキシカルボニルアルキル基)におけるアルキル部分についても同様である。
【0019】
R1の定義における総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基としては、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、プロポキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルエチル基、メトキシカルボニルプロピル基等が挙げられる。
【0020】
R2の定義におけるアリールオキシ基としては、p−メチルフェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、p−ヒドロキシフェノキシ基等が挙げられ、アリールメルカプト基としては、フェニルメルカプト基、p−メチルフェニルメルカプト基、p−メトキシフェニルメルカプト基、p−クロロフェニルメルカプト基、p−ヒドロキシフェニルメルカプト基等が挙げられる。
【0021】
R2及びR3の定義における炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。R3の定義における炭素数5〜7のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
【0022】
R3の定義において、フェニル基の置換基における炭素数1〜5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられ、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が挙げられ、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基としては、メチルメルカプト基、エチルメルカプト基、プロピルメルカプト基等が挙げられ、炭素数1〜4のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基等が挙げられ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等が挙げられる。
【0023】
本発明の医薬の有効成分として好適に用いられる化合物(I)として、例えば、以下に示す化合物が挙げられる。
3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(2−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3,4−ジメチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロピルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0024】
1−(4−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジメトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロポキシフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジクロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0025】
1−(4−ブロモフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−フルオロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(3−メチル−5−オキソ−2−ピラゾリン−1−イル)安息香酸;
1−(4−エトキシカルボニルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ニトロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−エチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−3−プロピル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0026】
1,3−ジフェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−フェニル−1−(p−トリル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3,4−ジメチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−イソブチル−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェノキシ−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェニルメルカプト−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0027】
3,3’,4,5,6,7−ヘキサヒドロ−2−フェニル−2H−インダゾール−3−オン;
3−(エトキシカルボニルメチル)−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1,3−ジメチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−エチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ブチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキエチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−シクロヘキシル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ベンジル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0028】
1−(α−ナフチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−メチル−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0029】
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−アミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ジメチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(アセトアミドフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;及び
1−(4−シアノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
【0030】
本発明の医薬の有効成分としては、式(I)で表される遊離形態の化合物のほか、生理学的に許容される塩を用いてもよい。生理学的に許容される塩としては、塩酸、硫酸、臭化水素塩、リン酸等の鉱酸との塩;メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、グリコール酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、アスコルビン酸、クエン酸、サリチル酸、ニコチン酸、酒石酸等の有機酸との塩;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニア、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、N−メチルグルタミン、L−グルタミン等のアミンとの塩が挙げられる。また、グリシンなどのアミノ酸との塩を用いてもよい。
【0031】
本発明の医薬の有効成分としては、上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩の水和物、又は上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩の溶媒和物を用いてもよい。溶媒和物を形成する有機溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどを例示することができる。また、上記式(I)で表される化合物は、置換基の種類により1以上の不斉炭素を有する場合があり、光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する場合がある。本発明の医薬の有効成分としては、純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などを用いてもよい。
【0032】
式(I)で表される化合物はいずれも公知の化合物であり、特公平5−31523号公報などに記載された方法により当業者が容易に合成できる。
【0033】
本発明の医薬の投与量は特に限定されないが、通常は、有効成分である式(I)で示される化合物の重量として一般に経口投与の場合には一日あたり0.1〜1000mg/kg体重、好ましくは一日あたり0.5〜50mg/kg体重、であり、非経口投与の場合には一日あたり0.01〜100mg/kg体重、好ましくは0.1〜10mg/kg体重である。上記投与量は1日1回又は2〜3回に分けて投与するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減してもよい。
【0034】
本発明の医薬としては、上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物をそのまま投与してもよいが、一般的には、有効成分である上記の物質と薬理学的及び製剤学的に許容される添加物を含む医薬組成物を調製して投与することが好ましい。
【0035】
薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を用いることができる。
【0036】
経口投与に適する医薬組成物には、添加物として、例えば、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、デンプン、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤を用いることができる。
【0037】
注射あるいは点滴用に適する医薬組成物には、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D−マンニトール、グリセリン等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤等の添加物を用いることができる。
【0038】
本発明の医薬の形態は特に限定されず、当業者に利用可能な種々の形態をとることができる。経口投与に適する医薬として、例えば、固体の製剤用添加物を用いて錠剤、散剤、顆粒剤、硬ゼラチンカプセル剤、坐剤、又はトローチ剤などを調製することができ、液状の製剤用添加物を用いてシロップ剤、乳剤、軟ゼラチンカプセル剤などを調製することができる。また、非経口投与に適する医薬として、注射剤、点滴剤、吸入剤、坐剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤などを調製することができる。なお、上記の式(I)の化合物を有効成分とする脳保護剤(点滴剤)が、すでに臨床において使用されているので(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)、本発明の医薬において上記市販製剤をそのまま用いることができる。
【0039】
本発明の医薬は、膵疾患に有効である。すなわち、本発明の医薬は、膵疾患を防止する予防剤としての作用、及び/又は膵疾患を正常な状態に回復させる治療剤としての作用を有している。
本発明の医薬はまた、膵腺房細胞保護ならびに膵疾患に起因する血中アミラーゼ上昇の抑制に有効である。
【0040】
本明細書において、膵疾患としては、急性膵炎、慢性膵炎、膵腺房細胞壊死、膵浮腫、膵管閉塞、膵由来アミラーゼ上昇に起因する高アミラーゼ血症などが挙げられる。
【0041】
本発明の医薬の投与経路は特に限定されず、経口的または非経口的に投与することができる。例えば、上記各疾患の治療に先立って予防的に本発明の医薬を経口投与しておくことができ、注射若しくは点滴などの非経口的投与によって手術中又はその前後に予防的に投与することもできる。また、上記各疾患の患者に対しては、症状の悪化の防止ないしは症状の軽減などを目的として、静脈内、動脈内(特に、重傷膵炎に対してカテーテルによる動注療法)に注射により投与することもできる。
【0042】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
【0043】
合成例:3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン(以下、エダラボンと称す)の合成
エタノール50ml中にアセト酢酸エチル13.0g及びフェニルヒドラジン10.8gを加え、3時間還流攪拌した。反応液を放冷後、析出した結晶をろ取し、エタノールより再結晶して、表題の化合物11.3gを無色結晶として得た。
収率 67%
融点 127.5〜128.5℃
【0044】
実施例1
(1)実験方法
▲1▼材料
上記のようにして合成したエダラボンは少量の1N水酸化ナトリウム溶液に溶解後、pHを中性付近に調整した。
【0045】
▲2▼急性膵炎作製法
10週齢Sprague−Dawley系雄性ラット(日本クレア)を用い、既報の方法に準じて(Nevalainen, TJ., et al., Scand J Gastroenterol, 10, 521−527, 1975 ; Pozsar, J., et al., Pancreas, 12, 159−164, 1996)、以下のようにして急性膵炎を惹起させた。まず、ラットを一晩絶食させた後、ペントバルビタール(40mg/kg)にて麻酔をかけた。エダラボン群にはそれぞれ100mg/kg、10mg/kg、5mg/kgのエダラボンを、コントロール群には生理食塩水を尾静脈より静脈注射を行った。その直後正中切開を行い、十二指腸の幽門輪直下部とそこから3cm肛門側部を3/0絹糸にて結紮した。その後、腹壁を3/0絹糸にて結紮し開腹した。これにより膵管と胆管の共通管はこの3cmの閉鎖された十二指腸内に貯留し、急性膵炎が発生する(closed duodenal loop膵炎)。
【0046】
▲3▼肉眼的組織学的膵炎評価法
7時間後、ラットを解剖した。それぞれ腹水量と全膵臓の湿重量を測定した。膵臓の一部をカルノア液で3時間固定後、パラフィン包埋を行った。その後5μm厚の組織切片を作製し、ヘマトキシリン−エオジン染色を行った。急性膵炎の評価は、既報の方法に従った(Demols, A., et al., Gastroenterology, 118, 582−590, 2000)。即ち、浮腫、膵腺房細胞の壊死及び炎症細胞湿潤の程度を以下のように評価し、点数付けを行った。浮腫については0:無し、1:葉間に限局的に認める、2:葉間に広汎に認める、3:膵腺房破壊並びに剥離。膵腺房細胞の壊死については0:無し、1:膵管周囲のみ壊死(≦5%)、2:限局した壊死(5%〜20%)、3:広汎な壊死(20%〜50%)。炎症細胞湿潤については0:無し、1:膵管周囲のみ湿潤、2:限局した湿潤(<50%)、3:広汎な湿潤(>50%)。
【0047】
▲4▼血中アミラーゼ値
血中アミラーゼ値は市販されているキットを用いて測定した(ネオ・アミラーゼテスト、第一化学薬品株式会社製)。
【0048】
▲5▼膵組織内malondialdehyde (MDA), 4−hydroxy−2(E)−nonenal(4−HNE)濃度
膵組織の一部を9倍量の0.5%のTriton X−100を含む50mmol/lのTris−buffer(pH8.0)でホモジネートし、アッセイキット(Lipid peroxidation assay kit,Calbiochem, La, Jolla, CA, U.S.A.)を用いて膵組織内のMDA及び4−HNE濃度を測定した。脂質過酸化は組織障害の重要な機序の一つであり、MDA及び4−HNEは組織内の多価不飽和脂肪酸の過酸化により産生されるので、測定により得られた当該値は組織内活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)の状態の指標とすることができる(Matsumura, N., et al., Pancreas, 22, 53−7, 2001)。
【0049】
▲6▼統計処理
結果はMean±SEMで表した。群間比較はFisher’s PLSD testで行った。ノンパラメトリックなデータの比較はKruskal−Wallis testとDunn’s Procedure As A Multiple Comparison Procedureで行った。p値が0.05未満を有意差ありとした。
【0050】
(2)実験結果
▲1▼肉眼的膵炎評価
エダラボン群、コントロール群ともに急性膵炎が惹起された。エダラボン100mg/kg投与群、10mg/kg投与群、5mg/kg投与群及びコントロール群の腹水量は概ね近似しており、これら群問に有意差を認めなかった(表1)。エダラボン100mg/kg投与群、10mg/kg投与群、5mg/kg投与群及びコントロール群の全膵臓の湿重量も概ね近似しており、これら群間に有意差を認めなかった(表1)。
【0051】
【表1】
【0052】
▲2▼組織学的膵炎評価
図1に膵組織の像を示す。(A)エダラボン10mg/kg投与群(×100)、(B)エダラボン100mg/kg投与群(×100)、(C)コントロール群(×100)である。エダラボン100mg/kg投与群、10mg/kg投与群、5mg/kg投与群の膵組織内ダメージスコアは、いずれもコントロール群の値に比べ低下した(表2)。ここで、ダメージスコアとは前記(1)実験方法、▲3▼肉眼的組織学的膵炎評価法の項に記載した浮腫、膵腺房細胞の壊死及び炎症細胞湿潤の各点数の和をとり、個体数で割った平均値を表す。
【0053】
【表2】
【0054】
▲3▼血中アミラーゼ値
無処置ラットの血中アミラーゼ値は8440IU/Lであった(n=3)。コントロール群において急性膵炎の惹起により血中アミラーゼ値の顕著な上昇が認められた。
しかしエダラボン100mg/kg投与群、10mg/kg投与群、5mg/kg投与群においてはこの上昇は顕著に抑制され、エダラボン投与群とコントロール群との間には統計学的に有意差が認められた(図2)。
【0055】
▲4▼膵組織内malondialdehyde (MDA), 4−hydroxy−2(E)−nonenal(4−HNE)濃度
エダラボン100mg/kg投与群、10mg/kg投与群、5mg/kg投与群の膵組織内MDAと4−HNE濃度は、いずれもコントロール群の値に比べ低下した。特にエダラボン100mg/kg群と10mg/kg群は、5mg/kg群とコントロール群に比べ、有意な低下を示した(図2)。
【0056】
【発明の効果】
本発明の医薬は膵疾患の予防及び/又は治療に有用である。特に、本発明の医薬は臨床上問題となっている胆石症による急性膵炎に近いclosed duodenal loop膵炎モデルにおいてその血中アミラーゼ値の上昇を有意に抑制したことから、重症急性膵炎に対する治療効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)エダラボン10mg/kg投与群(×100)、(B)エダラボン投与100mg/kg群(×100)、(C)コントロール群(×100)の各試験群ラットにおける膵組織の像を示す。
【図2】(A)各試験群ラットにおける血中アミラーゼ値を示す。(B)各試験群ラットにおける膵組織内malondialdehyde (MDA)+4−hydroxy−2(E)−nonenal(4−HNE)濃度を示す。
Claims (7)
- 下記式(I):
で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む膵疾患の予防及び/又は治療のための医薬。 - 式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンである請求項1に記載の医薬。
- 膵疾患が、急性膵炎、慢性膵炎、膵腺房細胞壊死、膵浮腫、膵管閉塞、及び膵由来アミラーゼ上昇に起因する高アミラーゼ血症から成る群から選ばれる疾患である請求項1又は2に記載の医薬。
- 下記式(I):
で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む膵腺房細胞保護剤。 - 式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンである請求項4に記載の膵腺房細胞保護剤。
- 下記式(I):
で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む膵疾患に起因する血中アミラーゼ上昇抑制剤。 - 式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンである請求項6に記載の膵疾患に起因する血中アミラーゼ上昇抑制剤。
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JP2003209228A JP2004143149A (ja) | 2002-08-29 | 2003-08-28 | 膵疾患の予防及び/又は治療のための医薬 |
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-
2003
- 2003-08-28 JP JP2003209228A patent/JP2004143149A/ja active Pending
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