JP2004067585A - 虚血性脊髄損傷による障害の予防及び/又は治療のための医薬 - Google Patents
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Abstract
【課題】虚血性脊髄損傷による障害の予防及び/又は治療に有用な医薬の提供。
【解決手段】式(I):
(式中、R1は、水素原子、アリール基、アルキル基又はアルコキシカルボニルアルキル基を表し;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、アルキル基又はヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同してアルキレン基を表し;R3は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又はハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基などからなる群から選ばれる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む医薬。
【選択図】 なし
【解決手段】式(I):
(式中、R1は、水素原子、アリール基、アルキル基又はアルコキシカルボニルアルキル基を表し;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、アルキル基又はヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同してアルキレン基を表し;R3は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又はハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基などからなる群から選ばれる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む医薬。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む虚血性脊髄損傷による障害の予防及び/又は治療のための医薬、並びに虚血性脊髄損傷に対する脊髄神経細胞保護剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
脊髄は細長い円柱状の神経索で、その上部は大孔のところで延髄に連続し、下部は上位腰椎で終わる。脊髄は中心から外側へ向かって中心管、H字形の灰白質、及び白質の3つの層から構成される。灰白質には前柱、側柱、後柱があり、前柱には運動性の神経細胞が集まり、前根を経て神経線維を骨格筋に送り、後柱には後根を経て知覚神経線維が入る。従って、脊髄は運動、感覚、反射、自律などを支配する重要な役割を担っている。
交通事故、転落事故による外傷(骨折、脱臼、捻挫等)、脊椎変形などの脊椎疾患、腫瘍、炎症、血管障害などの種々の原因で脊髄が損傷されると、損傷部を通過する刺激伝導に障害が起き、四肢の運動麻痺や失行などの運動障害や知覚麻痺をきたす。
脊髄損傷は上記のような原因のほか、胸腹部大動脈瘤手術などによっても発生する。胸腹部大動脈瘤手術では基本的には中枢側遮断を下行大動脈領域で行うため、大動脈瘤の遮断時から腹部分枝の再建が完了し血流再開をするまでの間、脊髄、腹部臓器が虚血状態におかれることが避けられない。その結果、胸腹部大動脈瘤手術の合併症として脊髄麻痺などの重篤な障害が起こることが問題視されており、これをいかに防止するかが該手術を行う上で最大の課題となっている。
【0003】
胸腹部大動脈瘤手術に合併する脊髄麻痺は、該手術操作の間に何らかの因子が脊髄血行の維持に悪い影響を与えていることが考えられる。例えば、それらの因子として術中、術後の血圧変動などに起因する低灌流、大動脈遮断に伴う末梢側の灌流不全、肋間動脈や左鎖骨動脈遮断などに起因する直接的な原因などが挙げられる。かかる因子を排除するための手段として、術中、術後の輸液や輸血などに関する考慮、人口血管や遠心ポンプなどを用いるバイパス法、肋間動脈灌流などの補助手段のほか、大動脈遮断時の脊髄機能モニタリング(高木治、麻酔と蘇生、26、15−26、1990;Grundy, BL., Anesthesiology, 58, 72−87, 1983)、脊髄根動脈同定法(Svensson, LG., et al., Ann Thorac Surg, 49, 528−536, 1990)、超低体温循環停止下の肋間動脈再建法(Kouchoukos, NT., et al., J Thorac Cardiovasc Surg, 99, 659−664, 1990)、段階的大動脈遮断法による肋間動脈再建法(中島伸之、手術、4、269−276、1990)などが提唱されている。しかしながら、これらはいずれも複雑な手技や大掛かりな装置が必要であったり、また患者に対する侵襲が多大であるなどの問題があって有効な手段ではない。
【0004】
一方、下記式(I):
【化3】
(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)で表されるピラゾロン誘導体については、医薬の用途として、脳機能正常化作用(特公平5−31523号公報)、過酸化脂質生成抑制作用(特公平5−35128号公報、例1の化合物)、抗潰瘍作用(特開平3−215425号公報)、及び血糖上昇抑制作用(特開平3−215426号公報)等が知られている。
【0005】
また、上記式(I)の化合物のうち、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを有効成分とする製剤は、2001年6月以来、脳保護剤(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)として上市されている。この「エダラボン」は、活性酸素に対して高い反応性を有することが報告されている(Kawai, H., et al., J. Phamacol. Exp. Ther., 281(2), 921, 1997; Wu, TW. et al., Life Sci, 67(19), 2387, 2000)。
このように、エダラボンは活性酸素をはじめとする種々のフリーラジカルを消去することで、細胞障害などを防ぐ働きをするフリーラジカルスカベンジャーである。これまでネコ脊髄損傷モデルでメチルプレドニゾロンの有効性を示す知見はあるが(E.D.Meams, et al., J.Neurosurg., 55, 200, 1981)、エダラボンが脊髄損傷に対して有効であるか否かの検討については従来全く報告がない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、虚血性脊髄損傷による障害の予防及び/又は治療に有用な医薬、並びに虚血性脊髄損傷に対する脊髄神経細胞保護剤を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々の検討を行った結果、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物が、虚血により脊髄損傷をもたらしたモデル動物において下肢の運動障害を軽減させ、脊髄の病理組織学的評価でも細胞レベルで損傷の軽減が認められ、脊髄神経保護作用を有することを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成された。
【0008】
即ち、本発明によれば、下記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む虚血性脊髄損傷による障害の予防及び/又は治療のための医薬が提供される。
【0009】
【化4】
【0010】
(式中、R1は、水素原子、アリール基、炭素数1〜5のアルキル基又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基を表し;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレン基を表し;R3は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物である上記医薬が提供される。
【0012】
本発明の別の局面によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む虚血性脊髄損傷に対する脊髄神経細胞保護剤が提供される。
【0013】
本発明のさらに別の側面によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の予防及び/又は治療有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、虚血性脊髄損傷による障害の予防及び/又は治療方法が提供される。本発明のさらに別の側面によれば、上記医薬の製造のための式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の使用が提供される。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の虚血性脊髄損傷による障害の予防及び/又は治療のための医薬、及び虚血性脊髄損傷に対する脊髄神経保護剤(以下、これらを総称して本発明の医薬という)は、本明細書に定義する式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む。
【0015】
本発明で用いる式(I)で示される化合物は、互変異性により、以下の式(I’)又は(I”)で示される構造をもとりうる。本明細書の式(I)には、便宜上、互変異性体のうちの1つを示したが、当業者には下記の互変異性体の存在は自明である。本発明の医薬の有効成分としては、下記の式(I’)又は(I”)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を用いてもよい。
【0016】
【化5】
【0017】
式(I)において、R1の定義におけるアリール基は単環性又は多環性アリール基のいずれでもよい。例えば、フェニル基、ナフチル基などのほか、メチル基、ブチル基などのアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、塩素原子などのハロゲン原子、又は水酸基等の置換基で置換されたフェニル基等が挙げられる。アリール部分を有する他の置換基(アリールオキシ基など)におけるアリール部分についても同様である。
【0018】
R1、R2及びR3の定義における炭素数1〜5のアルキル基は直鎖状、分枝鎖状のいずれでもよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。アルキル部分を有する他の置換基(アルコキシカルボニルアルキル基)におけるアルキル部分についても同様である。
【0019】
R1の定義における総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基としては、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、プロポキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルエチル基、メトキシカルボニルプロピル基等が挙げられる。
【0020】
R2の定義におけるアリールオキシ基としては、p−メチルフェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、p−ヒドロキシフェノキシ基等が挙げられ、アリールメルカプト基としては、フェニルメルカプト基、p−メチルフェニルメルカプト基、p−メトキシフェニルメルカプト基、p−クロロフェニルメルカプト基、p−ヒドロキシフェニルメルカプト基等が挙げられる。
【0021】
R2及びR3の定義における炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。R3の定義における炭素数5〜7のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
【0022】
R3の定義において、フェニル基の置換基における炭素数1〜5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられ、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が挙げられ、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基としては、メチルメルカプト基、エチルメルカプト基、プロピルメルカプト基等が挙げられ、炭素数1〜4のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基等が挙げられ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等が挙げられる。
【0023】
本発明の医薬の有効成分として好適に用いられる化合物(I)として、例えば、以下に示す化合物が挙げられる。
3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(2−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3,4−ジメチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロピルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0024】
1−(4−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジメトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロポキシフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジクロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0025】
1−(4−ブロモフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−フルオロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(3−メチル−5−オキソ−2−ピラゾリン−1−イル)安息香酸;
1−(4−エトキシカルボニルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ニトロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−エチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−3−プロピル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0026】
1,3−ジフェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−フェニル−1−(p−トリル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3,4−ジメチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−イソブチル−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェノキシ−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェニルメルカプト−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0027】
3,3’,4,5,6,7−ヘキサヒドロ−2−フェニル−2H−インダゾール−3−オン;
3−(エトキシカルボニルメチル)−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1,3−ジメチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−エチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ブチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキエチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−シクロヘキシル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ベンジル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0028】
1−(α−ナフチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−メチル−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0029】
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−アミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ジメチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(アセトアミドフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;及び1−(4−シアノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
【0030】
本発明の医薬の有効成分としては、式(I)で表される遊離形態の化合物のほか、生理学的に許容される塩を用いてもよい。生理学的に許容される塩としては、塩酸、硫酸、臭化水素塩、リン酸等の鉱酸との塩;メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、グリコール酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、アスコルビン酸、クエン酸、サリチル酸、ニコチン酸、酒石酸等の有機酸との塩;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニア、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、N−メチルグルタミン、L−グルタミン等のアミンとの塩が挙げられる。また、グリシンなどのアミノ酸との塩を用いてもよい。
【0031】
本発明の医薬の有効成分としては、上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩の水和物、又は上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩の溶媒和物を用いてもよい。溶媒和物を形成する有機溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどを例示することができる。また、上記式(I)で表される化合物は、置換基の種類により1以上の不斉炭素を有する場合があり、光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する場合がある。本発明の医薬の有効成分としては、純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などを用いてもよい。
【0032】
式(I)で表される化合物はいずれも公知の化合物であり、特公平5−31523号公報などに記載された方法により当業者が容易に合成できる。
【0033】
本発明の医薬の投与量は特に限定されないが、通常は、有効成分である式(I)で示される化合物の重量として一般に経口投与の場合には一日あたり0.1〜1000mg/kg体重、好ましくは一日あたり0.5〜50mg/kg体重、であり、非経口投与の場合には一日あたり0.01〜100mg/kg体重、好ましくは0.1〜10mg/kg体重である。上記投与量は1日1回又は2〜3回に分けて投与するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減してもよい。
【0034】
本発明の医薬としては、上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物をそのまま投与してもよいが、一般的には、有効成分である上記の物質と薬理学的及び製剤学的に許容される添加物を含む医薬組成物を調製して投与することが好ましい。
【0035】
薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を用いることができる。
【0036】
経口投与に適する医薬組成物には、添加物として、例えば、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、デンプン、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤を用いることができる。
【0037】
注射あるいは点滴用に適する医薬組成物には、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D−マンニトール、グリセリン等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤等の添加物を用いることができる。
【0038】
本発明の医薬の形態は特に限定されず、当業者に利用可能な種々の形態をとることができる。経口投与に適する医薬として、例えば、固体の製剤用添加物を用いて錠剤、散剤、顆粒剤、硬ゼラチンカプセル剤、坐剤、又はトローチ剤などを調製することができ、液状の製剤用添加物を用いてシロップ剤、乳剤、軟ゼラチンカプセル剤などを調製することができる。また、非経口投与に適する医薬として、注射剤、点滴剤、吸入剤、坐剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤などを調製することができる。なお、上記の式(I)の化合物を有効成分とする脳保護剤(点滴剤)が、すでに臨床において使用されているので(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)、本発明の医薬において上記市販製剤をそのまま用いることができる。
【0039】
本発明の医薬は、虚血性脊髄損傷による障害に有効である。すなわち、本発明の医薬は、虚血性脊髄損傷による障害を防止する予防剤としての作用、及び/又は虚血性脊髄損傷による障害を正常な状態に回復させる治療剤としての作用を有している。
本発明の医薬はまた、虚血性脊髄損傷に対する脊髄神経細胞保護に有効である。
【0040】
本明細書において「虚血性脊髄損傷」とは、脊髄が虚血状態におかれることによって脊髄実質に虚血性壊死(浮腫)が進行し、その結果損傷部を通過する刺激伝導に障害が起き、運動障害や感覚障害をもたらす病態をいう。
【0041】
本発明の医薬の投与経路は特に限定されず、経口的または非経口的に投与することができる。例えば、虚血性脊髄損傷による障害の治療に先立って予防的に本発明の医薬を経口投与しておくことができ、注射若しくは点滴などの非経口的投与によって手術中又はその前後に予防的に投与することもできる。特に、胸腹部大動脈瘤手術に先立って、または胸腹部大動脈瘤手術中、好ましくは大動脈遮断解除時、あるいは手術後の複数回反復投与するのが最も効果的である。また、虚血性脊髄損傷による障害を有する患者に対しては、症状の悪化の防止ないしは症状の軽減などを目的として、静脈内、動脈内に注射により投与することもできる。
【0042】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
【0043】
合成例:3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン(以下、エダラボンと称す)の合成
エタノール50ml中にアセト酢酸エチル13.0g及びフェニルヒドラジン10.8gを加え、3時間還流攪拌した。反応液を放冷後、析出した結晶をろ取し、エタノールより再結晶して、表題の化合物11.3gを無色結晶として得た。
収率 67%
融点 127.5〜128.5℃
【0044】
実施例1
(1)実験方法
▲1▼実験モデル作成方法
実験動物はNew Zealand White Rabbit(オス、2.5kg〜3.5kg)を使用し、A群:エダラボン(5mg/kg)術中及び術後投与群、B群:エダラボン非投与群(コントロール群)の2群に無作為に分けて実験を施行した。
上記実験動物を全身麻痩下に開腹した。麻酔は初めにケタミン50mg/kgを筋注し、吸入麻酔は1%ハロセンと99%酸素を使用し、自発呼吸管理とした。仰臥位にウサギを固定し耳介の動静脈に24−gauge針をそれぞれ留置した。術中は動脈血圧、心拍数、直腸温を持続モニターし、実験中は加温パッドを使用し直腸温を38℃から40℃に保つように努めた。
手術は腹部正中切開で行い、腎動脈下腹部大動脈、分岐部直上、後腸間膜動脈を剥離した。全身ヘパリン化(Heparin sulfate 60U/kg静注)の後、それぞれ剥離した血管を遮断し、15分間の脊髄虚血を行った。15分後にそれぞれ遮断を解除し、血流を再開させた後、腹壁を2層で閉腹して手術を終了した。術後は実験動物をそれぞれのゲージに戻し、水分と食物を自由に摂取できるようにした。
【0045】
▲2▼薬物投与
エダラボンを1NのNaOHで溶解した後、1NのHClでpHを7に調整して3mg/m1溶
液とし生理食塩水で希釈した。投与は全てのウサギに対し経静脈的に全身投与で行った。
A群(n=9)では大動脈遮断解除時及びその30分後、更に12時間後の合計3回5mg/kgのエダラボンを投与した。B群(n=7)では大動脈遮断解除時及びその30分後、更に12時間後の合計3回、溶解液のみを投与した。
▲3▼統計学的解析
各グループの術後の神経学的評価、正常脊髄灰白質の前角運動神経細胞数の比較はMann−Whitney U Testを、各群の平均動脈圧、心拍数、体温の比較にはStudent−t Testを用い、危険率5%以下をもって有意差ありとした。
【0046】
(2)実験結果
▲1▼循環動態
大動脈遮断直前に耳介の動脈ラインによる平均動脈圧、心拍数、直腸温を測定したが、平均動脈圧、心拍数、直腸温ともに、A,B両群間に有意差は認められなかった。
【0047】
▲2▼神経学的評価
下肢の神経学的所見を手術後12,24,48,168時間後において覚醒下modified Tarlov score(モディファイドタルロフスコア)に従い評価し、5:nomal hop、4:weak hop、3:sits alone、2:sits with assistance、1:slight movement、0:no movementの5段階のスコアをつけた。
12時間後、24時間後におけるTarlov scoreを比較すると、A群とB群間に統計学的有意差はなかった。しかし、48時間後(図1)、168時間後(図2)におけるTarlov scoreを比較すると、A群(4.55±0.52)、(4.57±0.78)に対し、B群は(0.85±1.06)、(0.71±0.95)であり、A群はB群に比較して統計学的に有意に高かった(p<0.05)。
【0048】
▲3▼組織学的評価
手術後168時間後の時点で全身麻酔下に開腹し、ペントバルビタール200mg/kg投与で犠牲死せしめた。その後、10%ホルムアルデヒドを上記と同様にして遮断した腹部大動脈に注入し脊髄を灌流固定した。摘出した脊髄は更に1週間10%ホルムアルデヒド溶液内で固定し、馬尾より頭側に向かって10mmから50mmの間、10mm間隔で切り出した脊髄ブロックより切片を作製し、hematoxylin−eosinで染色(以下、HE染色という)後、光学顕微鏡で脊髄灰白質の正常な前角運動神経細胞数及びその形態より病理組織学的評価を行った。
A群はB群より有意に正常細胞数が多かった。また、A群では神経細胞の形態が正常に保たれていたが(図3、矢印)、B群では神経細胞の形態が保たれておらず、炎症細胞が多数浸潤していた(図4、矢印)。
【0049】
【発明の効果】
本発明の医薬は虚血性脊髄損傷による障害の予防及び/又は治療に有用である。特に、本発明の医薬は胸腹部大動脈瘤手術などによってもたらされる虚血性脊髄損傷に対して用いると、運動障害などの障害を有意に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】手術後48時間後におけるTarlov scoreによる神経学的評価を示す図である。
【図2】手術後168時間後におけるTarlov scoreによる神経学的評価を示す図である。
【図3】手術後168時間後におけるA群の脊髄ブロック切片をHE染色した病理組織像写真を示す図である。
【図4】手術後168時間後におけるB群の脊髄ブロック切片をHE染色した病理組織像写真を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む虚血性脊髄損傷による障害の予防及び/又は治療のための医薬、並びに虚血性脊髄損傷に対する脊髄神経細胞保護剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
脊髄は細長い円柱状の神経索で、その上部は大孔のところで延髄に連続し、下部は上位腰椎で終わる。脊髄は中心から外側へ向かって中心管、H字形の灰白質、及び白質の3つの層から構成される。灰白質には前柱、側柱、後柱があり、前柱には運動性の神経細胞が集まり、前根を経て神経線維を骨格筋に送り、後柱には後根を経て知覚神経線維が入る。従って、脊髄は運動、感覚、反射、自律などを支配する重要な役割を担っている。
交通事故、転落事故による外傷(骨折、脱臼、捻挫等)、脊椎変形などの脊椎疾患、腫瘍、炎症、血管障害などの種々の原因で脊髄が損傷されると、損傷部を通過する刺激伝導に障害が起き、四肢の運動麻痺や失行などの運動障害や知覚麻痺をきたす。
脊髄損傷は上記のような原因のほか、胸腹部大動脈瘤手術などによっても発生する。胸腹部大動脈瘤手術では基本的には中枢側遮断を下行大動脈領域で行うため、大動脈瘤の遮断時から腹部分枝の再建が完了し血流再開をするまでの間、脊髄、腹部臓器が虚血状態におかれることが避けられない。その結果、胸腹部大動脈瘤手術の合併症として脊髄麻痺などの重篤な障害が起こることが問題視されており、これをいかに防止するかが該手術を行う上で最大の課題となっている。
【0003】
胸腹部大動脈瘤手術に合併する脊髄麻痺は、該手術操作の間に何らかの因子が脊髄血行の維持に悪い影響を与えていることが考えられる。例えば、それらの因子として術中、術後の血圧変動などに起因する低灌流、大動脈遮断に伴う末梢側の灌流不全、肋間動脈や左鎖骨動脈遮断などに起因する直接的な原因などが挙げられる。かかる因子を排除するための手段として、術中、術後の輸液や輸血などに関する考慮、人口血管や遠心ポンプなどを用いるバイパス法、肋間動脈灌流などの補助手段のほか、大動脈遮断時の脊髄機能モニタリング(高木治、麻酔と蘇生、26、15−26、1990;Grundy, BL., Anesthesiology, 58, 72−87, 1983)、脊髄根動脈同定法(Svensson, LG., et al., Ann Thorac Surg, 49, 528−536, 1990)、超低体温循環停止下の肋間動脈再建法(Kouchoukos, NT., et al., J Thorac Cardiovasc Surg, 99, 659−664, 1990)、段階的大動脈遮断法による肋間動脈再建法(中島伸之、手術、4、269−276、1990)などが提唱されている。しかしながら、これらはいずれも複雑な手技や大掛かりな装置が必要であったり、また患者に対する侵襲が多大であるなどの問題があって有効な手段ではない。
【0004】
一方、下記式(I):
【化3】
(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)で表されるピラゾロン誘導体については、医薬の用途として、脳機能正常化作用(特公平5−31523号公報)、過酸化脂質生成抑制作用(特公平5−35128号公報、例1の化合物)、抗潰瘍作用(特開平3−215425号公報)、及び血糖上昇抑制作用(特開平3−215426号公報)等が知られている。
【0005】
また、上記式(I)の化合物のうち、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを有効成分とする製剤は、2001年6月以来、脳保護剤(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)として上市されている。この「エダラボン」は、活性酸素に対して高い反応性を有することが報告されている(Kawai, H., et al., J. Phamacol. Exp. Ther., 281(2), 921, 1997; Wu, TW. et al., Life Sci, 67(19), 2387, 2000)。
このように、エダラボンは活性酸素をはじめとする種々のフリーラジカルを消去することで、細胞障害などを防ぐ働きをするフリーラジカルスカベンジャーである。これまでネコ脊髄損傷モデルでメチルプレドニゾロンの有効性を示す知見はあるが(E.D.Meams, et al., J.Neurosurg., 55, 200, 1981)、エダラボンが脊髄損傷に対して有効であるか否かの検討については従来全く報告がない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、虚血性脊髄損傷による障害の予防及び/又は治療に有用な医薬、並びに虚血性脊髄損傷に対する脊髄神経細胞保護剤を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々の検討を行った結果、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物が、虚血により脊髄損傷をもたらしたモデル動物において下肢の運動障害を軽減させ、脊髄の病理組織学的評価でも細胞レベルで損傷の軽減が認められ、脊髄神経保護作用を有することを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成された。
【0008】
即ち、本発明によれば、下記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む虚血性脊髄損傷による障害の予防及び/又は治療のための医薬が提供される。
【0009】
【化4】
【0010】
(式中、R1は、水素原子、アリール基、炭素数1〜5のアルキル基又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基を表し;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレン基を表し;R3は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物である上記医薬が提供される。
【0012】
本発明の別の局面によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む虚血性脊髄損傷に対する脊髄神経細胞保護剤が提供される。
【0013】
本発明のさらに別の側面によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の予防及び/又は治療有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、虚血性脊髄損傷による障害の予防及び/又は治療方法が提供される。本発明のさらに別の側面によれば、上記医薬の製造のための式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の使用が提供される。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の虚血性脊髄損傷による障害の予防及び/又は治療のための医薬、及び虚血性脊髄損傷に対する脊髄神経保護剤(以下、これらを総称して本発明の医薬という)は、本明細書に定義する式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む。
【0015】
本発明で用いる式(I)で示される化合物は、互変異性により、以下の式(I’)又は(I”)で示される構造をもとりうる。本明細書の式(I)には、便宜上、互変異性体のうちの1つを示したが、当業者には下記の互変異性体の存在は自明である。本発明の医薬の有効成分としては、下記の式(I’)又は(I”)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を用いてもよい。
【0016】
【化5】
【0017】
式(I)において、R1の定義におけるアリール基は単環性又は多環性アリール基のいずれでもよい。例えば、フェニル基、ナフチル基などのほか、メチル基、ブチル基などのアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、塩素原子などのハロゲン原子、又は水酸基等の置換基で置換されたフェニル基等が挙げられる。アリール部分を有する他の置換基(アリールオキシ基など)におけるアリール部分についても同様である。
【0018】
R1、R2及びR3の定義における炭素数1〜5のアルキル基は直鎖状、分枝鎖状のいずれでもよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。アルキル部分を有する他の置換基(アルコキシカルボニルアルキル基)におけるアルキル部分についても同様である。
【0019】
R1の定義における総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基としては、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、プロポキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルエチル基、メトキシカルボニルプロピル基等が挙げられる。
【0020】
R2の定義におけるアリールオキシ基としては、p−メチルフェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、p−ヒドロキシフェノキシ基等が挙げられ、アリールメルカプト基としては、フェニルメルカプト基、p−メチルフェニルメルカプト基、p−メトキシフェニルメルカプト基、p−クロロフェニルメルカプト基、p−ヒドロキシフェニルメルカプト基等が挙げられる。
【0021】
R2及びR3の定義における炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。R3の定義における炭素数5〜7のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
【0022】
R3の定義において、フェニル基の置換基における炭素数1〜5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられ、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が挙げられ、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基としては、メチルメルカプト基、エチルメルカプト基、プロピルメルカプト基等が挙げられ、炭素数1〜4のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基等が挙げられ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等が挙げられる。
【0023】
本発明の医薬の有効成分として好適に用いられる化合物(I)として、例えば、以下に示す化合物が挙げられる。
3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(2−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3,4−ジメチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロピルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0024】
1−(4−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジメトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロポキシフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジクロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0025】
1−(4−ブロモフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−フルオロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(3−メチル−5−オキソ−2−ピラゾリン−1−イル)安息香酸;
1−(4−エトキシカルボニルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ニトロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−エチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−3−プロピル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0026】
1,3−ジフェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−フェニル−1−(p−トリル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3,4−ジメチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−イソブチル−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェノキシ−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェニルメルカプト−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0027】
3,3’,4,5,6,7−ヘキサヒドロ−2−フェニル−2H−インダゾール−3−オン;
3−(エトキシカルボニルメチル)−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1,3−ジメチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−エチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ブチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキエチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−シクロヘキシル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ベンジル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0028】
1−(α−ナフチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−メチル−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0029】
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−アミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ジメチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(アセトアミドフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;及び1−(4−シアノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
【0030】
本発明の医薬の有効成分としては、式(I)で表される遊離形態の化合物のほか、生理学的に許容される塩を用いてもよい。生理学的に許容される塩としては、塩酸、硫酸、臭化水素塩、リン酸等の鉱酸との塩;メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、グリコール酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、アスコルビン酸、クエン酸、サリチル酸、ニコチン酸、酒石酸等の有機酸との塩;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニア、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、N−メチルグルタミン、L−グルタミン等のアミンとの塩が挙げられる。また、グリシンなどのアミノ酸との塩を用いてもよい。
【0031】
本発明の医薬の有効成分としては、上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩の水和物、又は上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩の溶媒和物を用いてもよい。溶媒和物を形成する有機溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどを例示することができる。また、上記式(I)で表される化合物は、置換基の種類により1以上の不斉炭素を有する場合があり、光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する場合がある。本発明の医薬の有効成分としては、純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などを用いてもよい。
【0032】
式(I)で表される化合物はいずれも公知の化合物であり、特公平5−31523号公報などに記載された方法により当業者が容易に合成できる。
【0033】
本発明の医薬の投与量は特に限定されないが、通常は、有効成分である式(I)で示される化合物の重量として一般に経口投与の場合には一日あたり0.1〜1000mg/kg体重、好ましくは一日あたり0.5〜50mg/kg体重、であり、非経口投与の場合には一日あたり0.01〜100mg/kg体重、好ましくは0.1〜10mg/kg体重である。上記投与量は1日1回又は2〜3回に分けて投与するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減してもよい。
【0034】
本発明の医薬としては、上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物をそのまま投与してもよいが、一般的には、有効成分である上記の物質と薬理学的及び製剤学的に許容される添加物を含む医薬組成物を調製して投与することが好ましい。
【0035】
薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を用いることができる。
【0036】
経口投与に適する医薬組成物には、添加物として、例えば、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、デンプン、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤を用いることができる。
【0037】
注射あるいは点滴用に適する医薬組成物には、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D−マンニトール、グリセリン等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤等の添加物を用いることができる。
【0038】
本発明の医薬の形態は特に限定されず、当業者に利用可能な種々の形態をとることができる。経口投与に適する医薬として、例えば、固体の製剤用添加物を用いて錠剤、散剤、顆粒剤、硬ゼラチンカプセル剤、坐剤、又はトローチ剤などを調製することができ、液状の製剤用添加物を用いてシロップ剤、乳剤、軟ゼラチンカプセル剤などを調製することができる。また、非経口投与に適する医薬として、注射剤、点滴剤、吸入剤、坐剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤などを調製することができる。なお、上記の式(I)の化合物を有効成分とする脳保護剤(点滴剤)が、すでに臨床において使用されているので(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)、本発明の医薬において上記市販製剤をそのまま用いることができる。
【0039】
本発明の医薬は、虚血性脊髄損傷による障害に有効である。すなわち、本発明の医薬は、虚血性脊髄損傷による障害を防止する予防剤としての作用、及び/又は虚血性脊髄損傷による障害を正常な状態に回復させる治療剤としての作用を有している。
本発明の医薬はまた、虚血性脊髄損傷に対する脊髄神経細胞保護に有効である。
【0040】
本明細書において「虚血性脊髄損傷」とは、脊髄が虚血状態におかれることによって脊髄実質に虚血性壊死(浮腫)が進行し、その結果損傷部を通過する刺激伝導に障害が起き、運動障害や感覚障害をもたらす病態をいう。
【0041】
本発明の医薬の投与経路は特に限定されず、経口的または非経口的に投与することができる。例えば、虚血性脊髄損傷による障害の治療に先立って予防的に本発明の医薬を経口投与しておくことができ、注射若しくは点滴などの非経口的投与によって手術中又はその前後に予防的に投与することもできる。特に、胸腹部大動脈瘤手術に先立って、または胸腹部大動脈瘤手術中、好ましくは大動脈遮断解除時、あるいは手術後の複数回反復投与するのが最も効果的である。また、虚血性脊髄損傷による障害を有する患者に対しては、症状の悪化の防止ないしは症状の軽減などを目的として、静脈内、動脈内に注射により投与することもできる。
【0042】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
【0043】
合成例:3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン(以下、エダラボンと称す)の合成
エタノール50ml中にアセト酢酸エチル13.0g及びフェニルヒドラジン10.8gを加え、3時間還流攪拌した。反応液を放冷後、析出した結晶をろ取し、エタノールより再結晶して、表題の化合物11.3gを無色結晶として得た。
収率 67%
融点 127.5〜128.5℃
【0044】
実施例1
(1)実験方法
▲1▼実験モデル作成方法
実験動物はNew Zealand White Rabbit(オス、2.5kg〜3.5kg)を使用し、A群:エダラボン(5mg/kg)術中及び術後投与群、B群:エダラボン非投与群(コントロール群)の2群に無作為に分けて実験を施行した。
上記実験動物を全身麻痩下に開腹した。麻酔は初めにケタミン50mg/kgを筋注し、吸入麻酔は1%ハロセンと99%酸素を使用し、自発呼吸管理とした。仰臥位にウサギを固定し耳介の動静脈に24−gauge針をそれぞれ留置した。術中は動脈血圧、心拍数、直腸温を持続モニターし、実験中は加温パッドを使用し直腸温を38℃から40℃に保つように努めた。
手術は腹部正中切開で行い、腎動脈下腹部大動脈、分岐部直上、後腸間膜動脈を剥離した。全身ヘパリン化(Heparin sulfate 60U/kg静注)の後、それぞれ剥離した血管を遮断し、15分間の脊髄虚血を行った。15分後にそれぞれ遮断を解除し、血流を再開させた後、腹壁を2層で閉腹して手術を終了した。術後は実験動物をそれぞれのゲージに戻し、水分と食物を自由に摂取できるようにした。
【0045】
▲2▼薬物投与
エダラボンを1NのNaOHで溶解した後、1NのHClでpHを7に調整して3mg/m1溶
液とし生理食塩水で希釈した。投与は全てのウサギに対し経静脈的に全身投与で行った。
A群(n=9)では大動脈遮断解除時及びその30分後、更に12時間後の合計3回5mg/kgのエダラボンを投与した。B群(n=7)では大動脈遮断解除時及びその30分後、更に12時間後の合計3回、溶解液のみを投与した。
▲3▼統計学的解析
各グループの術後の神経学的評価、正常脊髄灰白質の前角運動神経細胞数の比較はMann−Whitney U Testを、各群の平均動脈圧、心拍数、体温の比較にはStudent−t Testを用い、危険率5%以下をもって有意差ありとした。
【0046】
(2)実験結果
▲1▼循環動態
大動脈遮断直前に耳介の動脈ラインによる平均動脈圧、心拍数、直腸温を測定したが、平均動脈圧、心拍数、直腸温ともに、A,B両群間に有意差は認められなかった。
【0047】
▲2▼神経学的評価
下肢の神経学的所見を手術後12,24,48,168時間後において覚醒下modified Tarlov score(モディファイドタルロフスコア)に従い評価し、5:nomal hop、4:weak hop、3:sits alone、2:sits with assistance、1:slight movement、0:no movementの5段階のスコアをつけた。
12時間後、24時間後におけるTarlov scoreを比較すると、A群とB群間に統計学的有意差はなかった。しかし、48時間後(図1)、168時間後(図2)におけるTarlov scoreを比較すると、A群(4.55±0.52)、(4.57±0.78)に対し、B群は(0.85±1.06)、(0.71±0.95)であり、A群はB群に比較して統計学的に有意に高かった(p<0.05)。
【0048】
▲3▼組織学的評価
手術後168時間後の時点で全身麻酔下に開腹し、ペントバルビタール200mg/kg投与で犠牲死せしめた。その後、10%ホルムアルデヒドを上記と同様にして遮断した腹部大動脈に注入し脊髄を灌流固定した。摘出した脊髄は更に1週間10%ホルムアルデヒド溶液内で固定し、馬尾より頭側に向かって10mmから50mmの間、10mm間隔で切り出した脊髄ブロックより切片を作製し、hematoxylin−eosinで染色(以下、HE染色という)後、光学顕微鏡で脊髄灰白質の正常な前角運動神経細胞数及びその形態より病理組織学的評価を行った。
A群はB群より有意に正常細胞数が多かった。また、A群では神経細胞の形態が正常に保たれていたが(図3、矢印)、B群では神経細胞の形態が保たれておらず、炎症細胞が多数浸潤していた(図4、矢印)。
【0049】
【発明の効果】
本発明の医薬は虚血性脊髄損傷による障害の予防及び/又は治療に有用である。特に、本発明の医薬は胸腹部大動脈瘤手術などによってもたらされる虚血性脊髄損傷に対して用いると、運動障害などの障害を有意に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】手術後48時間後におけるTarlov scoreによる神経学的評価を示す図である。
【図2】手術後168時間後におけるTarlov scoreによる神経学的評価を示す図である。
【図3】手術後168時間後におけるA群の脊髄ブロック切片をHE染色した病理組織像写真を示す図である。
【図4】手術後168時間後におけるB群の脊髄ブロック切片をHE染色した病理組織像写真を示す図である。
Claims (5)
- 下記式(I):
で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む虚血性脊髄損傷による障害の予防及び/又は治療のための医薬。 - 式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンである請求項1に記載の医薬。
- 虚血性脊髄損傷が、胸腹部血管手術、胸腹部大動脈瘤手術、又は胸部下行手術に起因する請求項1又は2に記載の医薬。
- 下記式(I):
で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む虚血性脊髄損傷に対する脊髄神経細胞保護剤。 - 式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンである請求項4に記載の脊髄神経細胞保護剤。
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JP2002228819A JP2004067585A (ja) | 2002-08-06 | 2002-08-06 | 虚血性脊髄損傷による障害の予防及び/又は治療のための医薬 |
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JP2023151880A (ja) * | 2022-04-01 | 2023-10-16 | 健裕生技股▲分▼有限公司 | 神経損傷の予防及び神経を保護する化合物、その調製方法、その医薬組成物、及びそれらの使用 |
-
2002
- 2002-08-06 JP JP2002228819A patent/JP2004067585A/ja active Pending
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