JP2004002381A - エンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬 - Google Patents
エンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】下記式(I):
(式中、R1は、水素原子、アリール基、アルキル基等を表わし;R2は、水素原子、アリールオキシ基等を表し;あるいは、R1及びR2は、共同してアルキレン基を表わし;R3は、水素原子、アルキル基、等からなる群から選ばれる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)で示されるピラゾロン誘導体を有効成分として含むエンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬。
【効果】本発明の医薬はエンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療に有用である。特に、本発明の医薬はエンドトキシン血症に伴って発生する肝障害を予防又は改善し、炎症性サイトカインのうち、TNF−α、IL−6、インターフェロン−γなどの発現を顕著に抑制することができる。
【選択図】 なし
(式中、R1は、水素原子、アリール基、アルキル基等を表わし;R2は、水素原子、アリールオキシ基等を表し;あるいは、R1及びR2は、共同してアルキレン基を表わし;R3は、水素原子、アルキル基、等からなる群から選ばれる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)で示されるピラゾロン誘導体を有効成分として含むエンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬。
【効果】本発明の医薬はエンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療に有用である。特に、本発明の医薬はエンドトキシン血症に伴って発生する肝障害を予防又は改善し、炎症性サイトカインのうち、TNF−α、IL−6、インターフェロン−γなどの発現を顕著に抑制することができる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含むエンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
エンドトキシンは細菌毒素の一種で、グラム陰性菌が壊れてその細胞壁の構成成分であるリポ多糖(LPS)が遊離し、毒性を発揮する。その毒作用は外毒素より弱いが、発熱、ショック、致死毒性、血液凝固、白血球数増加を招く。エンドトキシン血症や敗血症は、エンドトキシンの作用によって血行動態に異常をきたす病態であり、肝障害を引き起こす。内因性エンドトキシンの供給源である消化器を対象とする医療分野においては、エンドトキシン血症は重大な病態であり、その治療は主病巣の治療に影響を与えるため患者の予後に直接関与する。現在、その治療方法としては、(i) 急性期においてはエンドトキシンを消去する目的でポリミキシンBを使用したカラムによる血液濾過、(ii) 好中球の活性化を抑制する目的でウリナスタチン(商品名:ミラクリッド)、メシル酸ガベキセート(商品名:FOY)の投与、(iii) 広域スペクトルを有する抗菌剤の投与、(i) 手術、内視鏡、カテーテルによるドレナージ術などがある。
【0003】
エンドトキシン血症においては大量のフリーラジカルが産生されることが知られている。このフリーラジカルは、直接的な組織障害を起こすのみならず、転写因子NF−κBを活性化することで炎症性サイトカインカスケードを活性化し、高サイトカイン血症を引き起こし、間接的に肝障害を誘発する事実が報告されている。しかしながら、かかる肝傷害に対してこれまでフリーラジカル消去を目的とした直接的な治療方法は存在していなかった。
【0004】
一方、下記の一般式(I):
【化2】
(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)で表されるピラゾロン誘導体については、医薬の用途として、脳機能正常化作用(特公平5−31523号公報)、過酸化脂質生成抑制作用(特公平5−35128号公報、例1の化合物)、抗潰瘍作用(特開平3−215425号公報)、及び血糖上昇抑制作用(特開平3−215426号公報)等が知られている。
【0005】
また、上記式(I)の化合物のうち、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを有効成分とする製剤は、2001年6月以来、脳保護剤(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)として上市されている。この「エダラボン」は、TPA(12−O−テトラデカノイル−フォルボール−13−酢酸塩)−白血球系において酸素−誘導フリーラジカルによって生じる化学発光に対して完全な消光活性を有すること(Murota, S., Morita, I., Suda, N., Ann. New York Acad. Sci., 598, 182−187, 1990)、ヒドロキシル化サリチル酸塩形成を阻害することからヒドロキシラジカル捕捉作用を有することが知られている(Watanabe, T., Yuki, S., Egawa, M., Nishi, H., J. Parmacol. Exp. Ther., 268, 1597−1604, 1993)。このように、エダラボンは活性酸素をはじめとする種々のフリーラジカルを消去することで、細胞障害などを防ぐ働きをするフリーラジカルスカベンジャーである。しかしながら、エダラボンがエンドトキシン血症に起因する肝障害に対して有効であるか否かについては従来全く報告がない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、エンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療に有用な医薬を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々の検討を行った結果、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物がLPSで誘発したエンドトキシン血症のモデル動物の肝障害を顕著に改善することを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成された。
【0008】
即ち、本発明によれば、下記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含むエンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬が提供される。
【0009】
【化3】
【0010】
(式中、R1は、水素原子、アリール基、炭素数1〜5のアルキル基又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基を表わし;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレン基を表わし;R3は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物である上記医薬が提供される。
【0012】
本発明の別の側面によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の予防及び/又は治療有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、エンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療方法が提供される。本発明のさらに別の側面によれば、上記医薬の製造のための式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の使用が提供される。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明のエンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬は、本明細書に定義する式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む。
【0014】
本発明で用いる式(I)で示される化合物は、互変異性により、以下の式(I’)又は(I”)で示される構造をもとりうる。本明細書の式(I)には、便宜上、互変異性体のうちの1つを示したが、当業者には下記の互変異性体の存在は自明である。本発明の医薬の有効成分としては、下記の式(I’)又は(I”)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を用いてもよい。
【0015】
【化4】
【0016】
式(I)において、R1の定義におけるアリール基は単環性又は多環性アリール基のいずれでもよい。例えば、フェニル基、ナフチル基などのほか、メチル基、ブチル基などのアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、塩素原子などのハロゲン原子、又は水酸基等の置換基で置換されたフェニル基等が挙げられる。アリール部分を有する他の置換基(アリールオキシ基など)におけるアリール部分についても同様である。
【0017】
R1、R2及びR3の定義における炭素数1〜5のアルキル基は直鎖状、分枝鎖状のいずれでもよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。アルキル部分を有する他の置換基(アルコキシカルボニルアルキル基)におけるアルキル部分についても同様である。
【0018】
R1の定義における総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基としては、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、プロポキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルエチル基、メトキシカルボニルプロピル基等が挙げられる。
【0019】
R2の定義におけるアリールオキシ基としては、p−メチルフェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、p−ヒドロキシフェノキシ基等が挙げられ、アリールメルカプト基としては、フェニルメルカプト基、p−メチルフェニルメルカプト基、p−メトキシフェニルメルカプト基、p−クロロフェニルメルカプト基、p−ヒドロキシフェニルメルカプト基等が挙げられる。
【0020】
R2及びR3の定義における炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。R3の定義における炭素数5〜7のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
【0021】
R3の定義において、フェニル基の置換基における炭素数1〜5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられ、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が挙げられ、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基としては、メチルメルカプト基、エチルメルカプト基、プロピルメルカプト基等が挙げられ、炭素数1〜4のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基等が挙げられ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等が挙げられる。
【0022】
本発明の医薬の有効成分として好適に用いられる化合物(I)として、例えば、以下に示す化合物が挙げられる。
3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(2−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3,4−ジメチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロピルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0023】
1−(4−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジメトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロポキシフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジクロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0024】
1−(4−ブロモフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−フルオロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(3−メチル−5−オキソ−2−ピラゾリン−1−イル)安息香酸;
1−(4−エトキシカルボニルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ニトロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−エチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−3−プロピル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0025】
1,3−ジフェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−フェニル−1−(p−トリル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3,4−ジメチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−イソブチル−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェノキシ−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェニルメルカプト−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0026】
3,3’,4,5,6,7−ヘキサヒドロ−2−フェニル−2H−インダゾール−3−オン;
3−(エトキシカルボニルメチル)−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1,3−ジメチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−エチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ブチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキエチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−シクロヘキシル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ベンジル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0027】
1−(α−ナフチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−メチル−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0028】
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−アミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ジメチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(アセトアミドフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;及び
1−(4−シアノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
【0029】
本発明の医薬の有効成分としては、式(I)で表される遊離形態の化合物のほか、生理学的に許容される塩を用いてもよい。生理学的に許容される塩としては、塩酸、硫酸、臭化水素塩、リン酸等の鉱酸との塩;メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、グリコール酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、アスコルビン酸、クエン酸、サリチル酸、ニコチン酸、酒石酸等の有機酸との塩;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニア、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、N−メチルグルタミン、L−グルタミン等のアミンとの塩が挙げられる。また、グリシンなどのアミノ酸の塩を用いてもよい。
【0030】
本発明の医薬の有効成分としては、上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩の水和物、又は上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩の溶媒和物を用いてもよい。溶媒和物を形成する有機溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどを例示することができる。また、上記式(I)で表される化合物は、置換基の種類により1以上の不斉炭素を有する場合があり、光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する場合がある。本発明の医薬の有効成分としては、純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などを用いてもよい。
【0031】
式(I)で表される化合物はいずれも公知の化合物であり、特公平5−31523号公報などに記載された方法により当業者が容易に合成できる。
【0032】
本発明の医薬の投与量は特に限定されないが、通常は、有効成分である式(I)で示される化合物の重量として一般に経口投与の場合には一日あたり0.1〜1000mg/kg、好ましくは一日あたり0.5〜50mg/kgであり、非経口投与の場合には一日あたり0.01〜100mg/kg、好ましくは0.1〜10mg/kgである。上記投与量は1日1回又は2〜3回に分けて投与するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減してもよい。
【0033】
本発明の医薬としては、上記一般式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物をそのまま投与してもよいが、一般的には、有効成分である上記の物質と薬理学的及び製剤学的に許容される添加物を含む医薬組成物を調製して投与することが好ましい。
【0034】
薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を用いることができる。
【0035】
経口投与に適する医薬組成物には、添加物として、例えば、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、デンプン、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤を用いることができる。
【0036】
注射あるいは点滴用に適する医薬組成物には、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D−マンニトール、グリセリン等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤等の添加物を用いることができる。
【0037】
本発明の医薬の形態は特に限定されず、当業者に利用可能な種々の形態をとることができる。経口投与に適する医薬として、例えば、固体の製剤用添加物を用いて錠剤、散剤、顆粒剤、硬ゼラチンカプセル剤、坐剤、又はトローチ剤などを調製することができ、液状の製剤用添加物を用いてシロップ剤、乳剤、軟ゼラチンカプセル剤などを調製することができる。また、非経口投与に適する医薬として、注射剤、点滴剤、吸入剤、坐剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤などを調製することができる。なお、上記の式(I)の化合物を有効成分とする脳保護剤(点滴剤)が、すでに臨床において使用されているので(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)、本発明のエンドトキシン血症に起因する肝障害の予防・治療剤として、上記市販製剤をそのまま用いることができる。
【0038】
本発明の医薬は、エンドトキシン血症に起因する肝障害に有効である。エンドトキシン血症を誘発する原因としては、臓器穿孔による汎発性腹膜炎(急性虫垂炎、胃・十二指腸潰瘍穿孔など)、腹腔内膿傷、肝膿傷、総胆管結石による急性閉塞性化膿性胆管炎、急性胆嚢炎、急性胆管炎、腸閉塞症(単純性イレウス、絞扼性イレウス、麻痺性イレウス、痙攣性イレウス)、各種の消化器手術後の感染症などが挙げられる。
【0039】
本発明の医薬の投与経路は特に限定されず、経口的または非経口的に投与することができる。例えば、感染症の治療に先立って予防的に本発明の医薬を経口投与しておくことができ、注射若しくは点滴などの非経口的投与によって手術中又はその前後に予防的に投与することもできる。また、エンドトキシン血症に起因する肝障害を発症した患者に対しては、症状の悪化の防止ないしは症状の軽減などを目的として、静脈内、動脈内、又は心臓内に注射により投与することもできる。
【0040】
本発明の医薬は、エンドトキシン血症に起因する肝障害を防止する予防剤としての作用、及びエンドトキシン血症に起因する肝障害を正常な状態に回復させる治療剤としての作用を有している。本明細書において、エンドトキシン血症に起因する肝障害とは、グラム陰性菌の菌体内から血中に放出されたエンドトキシン(LPS)の作用によって惹起される肝障害のことをいう。この用語は、上記の定義に合致するかぎり最も広義に解釈されるべきであり、疾患名の異同に拘泥して解釈されるべきではない。なお、エンドトキシン血症に起因する肝障害に相当する疾患であるか否かは熟練した医師ならば容易に診断可能である。
【0041】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
【0042】
合成例:3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン(以下、MCI−186と称す)の合成
エタノール50ml中にアセト酢酸エチル13.0g及びフェニルヒドラジン10.8gを加え、3時間還流攪拌した。反応液を放冷後、析出した結晶をろ取し、エタノールより再結晶して、表題の化合物11.3gを無色結晶として得た。
収率 67%
融点 127.5〜128.5℃
【0043】
実施例1:
(実験方法)
(1)エンドトキシン血症モデルの作成
雄性Sprague−Dawleyラット(250g体重)に、致死量のリポ多糖(LPS, 10mg/kg, Escherichia coli serotype 0111:B4;Sigma, St.Louis, MO)を経尾静脈に投与し、致死量エンドトキシン血症モデルを作成した。また、同ラットにLPSの代わりに生理食塩水を投与し、対照モデルとした。
(2)肝障害改善の評価
(1)で作成したエンドトキシン血症モデル及び対照モデルにそれぞれMCI−186(3mg/kg)又は生理食塩水をLPS投与直前とLPS投与後2時間毎に投与した。LPS投与後9時間で動物を犠牲死させ、肝障害の程度を血清中のALT値、TNF−α値、IL−6値と病理組織像によって評価した。また、LPS投与後のMCI−186投与効果を評価する目的でLPS投与後1時間、2時間、3時間でMCI−186の投与を開始する群(後投与群)についても同様に肝障害の程度をALT値によって評価した。
(3)各種炎症性サイトカインの発現
LPS投与後90分での末梢血中TNF−αを測定した。肝臓での各種炎症性サイトカインmRNA(TNF−α、IL−6、インターフェロン−γ、IL−10)の発現をReal time RT−PCR法を用いて測定した。
【0044】
(実験結果)
エンドトキシン血症モデル(LPS)及び対照モデル(CL)について、MCI前投与群(Pre)、MCI後投与群(1,2,3時間)、MCI非投与群(生理食塩水投与群)(VEH:vehicle control)の末梢血中ALT値を図1に示す。
MCI前投与群(Pre)は、MCI非投与群(VEH:vehicle control)と比較してALT値は有意に減少し、MCI後投与群(1時間、2時間)でもALT値は減少が認められたが、MCI後投与群(3時間)ではALT値が高いままであった。
また、エンドトキシン血症モデル(LPS)及び対照モデル(CL)について、MCI投与群(MCI)、MCI非投与群(VEH)の血清中のTNF−α及びIL−6値を図2に示す。
MCI投与群(MCI)は、MCI非投与群(VEH)と比較してTNF−α値、IL−6値とも有意に減少した。
【0045】
図3、図4にエンドトキシン血症モデル(LPS)及び対照モデル(CL)について、MCI投与群(MCI)、MCI非投与群(VEH)の肝臓の病理組織像を示す(図3:HE染色、図4:HNE(4−Hydroxy−2−nonenal)染色)。
エンドトキシン血症モデル(LPS)ではHE染色によって核が青く染色されないことから肝細胞の破壊が進んでいることがわかる(図3C、白い部分)。MCI投与群(MCI)はMCI非投与群(VEH)と比較して上記障害の改善が認められた(図3D)。
また、エンドトキシン血症モデル(LPS)ではHNE染色により細胞内全体に薄茶色に染色されている部分が広がっていることから細胞内に脂質過酸化物が多数存在することがわかる(図4C)。一方、MCI投与群(MCI)はMCI非投与群(VEH)と比較して上記障害の改善が認められた(図4D)。
【0046】
エンドトキシン血症モデル(LPS)及び対照モデル(CL)について、MCI投与群(MCI)、MCI非投与群(VEH)の肝における各種炎症性サイトカイン(TNF−α、IL−6、インターフェロン−γ、IL−10)のmRNA発現量を図5示す。
図5に示されるように、炎症性サイトカインのうち、TNF−α、IL−6、インターフェロン−γmRNAの発現の増加は、MCI投与群(MCI)はMCI非投与群(VEH)と比較して有意に抑制されたが、IL−10の発現は抑制されていなかった。
【0047】
【発明の効果】
本発明の医薬はエンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療に有用である。特に、本発明の医薬はエンドトキシン血症に伴って発生する肝障害を予防又は改善し、炎症性サイトカインのうち、TNF−α、IL−6、インターフェロン−γなどの発現を顕著に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】エンドトキシン血症モデル(LPS)及び対照モデル(CL)について、MCI前投与群(Pre)、MCI後投与群(1,2,3時間)、MCI非投与群(生理食塩水投与群)(VEH:vehicle control)の末梢血中ALT値を示す。
【図2】エンドトキシン血症モデル(LPS)及び対照モデル(CL)について、MCI投与群(MCI)、MCI非投与群(VEH)の血清中のTNF−α及びIL−6値を示す。
【図3】エンドトキシン血症モデル(LPS)及び対照モデル(CL)について、MCI投与群(MCI)、MCI非投与群(VEH)の肝臓の病理組織像(HE染色)写真を示す。
【図4】エンドトキシン血症モデル(LPS)及び対照モデル(CL)について、MCI投与群(MCI)、MCI非投与群(VEH)の肝臓の病理組織像(HNE染色)写真を示す。
【図5】エンドトキシン血症モデル(LPS)及び対照モデル(CL)について、MCI投与群(MCI)、MCI非投与群(VEH)の肝における各種炎症性サイトカイン(TNF−α、IL−6、インターフェロン−γ、IL−10)のmRNA発現量を示す。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含むエンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
エンドトキシンは細菌毒素の一種で、グラム陰性菌が壊れてその細胞壁の構成成分であるリポ多糖(LPS)が遊離し、毒性を発揮する。その毒作用は外毒素より弱いが、発熱、ショック、致死毒性、血液凝固、白血球数増加を招く。エンドトキシン血症や敗血症は、エンドトキシンの作用によって血行動態に異常をきたす病態であり、肝障害を引き起こす。内因性エンドトキシンの供給源である消化器を対象とする医療分野においては、エンドトキシン血症は重大な病態であり、その治療は主病巣の治療に影響を与えるため患者の予後に直接関与する。現在、その治療方法としては、(i) 急性期においてはエンドトキシンを消去する目的でポリミキシンBを使用したカラムによる血液濾過、(ii) 好中球の活性化を抑制する目的でウリナスタチン(商品名:ミラクリッド)、メシル酸ガベキセート(商品名:FOY)の投与、(iii) 広域スペクトルを有する抗菌剤の投与、(i) 手術、内視鏡、カテーテルによるドレナージ術などがある。
【0003】
エンドトキシン血症においては大量のフリーラジカルが産生されることが知られている。このフリーラジカルは、直接的な組織障害を起こすのみならず、転写因子NF−κBを活性化することで炎症性サイトカインカスケードを活性化し、高サイトカイン血症を引き起こし、間接的に肝障害を誘発する事実が報告されている。しかしながら、かかる肝傷害に対してこれまでフリーラジカル消去を目的とした直接的な治療方法は存在していなかった。
【0004】
一方、下記の一般式(I):
【化2】
(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)で表されるピラゾロン誘導体については、医薬の用途として、脳機能正常化作用(特公平5−31523号公報)、過酸化脂質生成抑制作用(特公平5−35128号公報、例1の化合物)、抗潰瘍作用(特開平3−215425号公報)、及び血糖上昇抑制作用(特開平3−215426号公報)等が知られている。
【0005】
また、上記式(I)の化合物のうち、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを有効成分とする製剤は、2001年6月以来、脳保護剤(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)として上市されている。この「エダラボン」は、TPA(12−O−テトラデカノイル−フォルボール−13−酢酸塩)−白血球系において酸素−誘導フリーラジカルによって生じる化学発光に対して完全な消光活性を有すること(Murota, S., Morita, I., Suda, N., Ann. New York Acad. Sci., 598, 182−187, 1990)、ヒドロキシル化サリチル酸塩形成を阻害することからヒドロキシラジカル捕捉作用を有することが知られている(Watanabe, T., Yuki, S., Egawa, M., Nishi, H., J. Parmacol. Exp. Ther., 268, 1597−1604, 1993)。このように、エダラボンは活性酸素をはじめとする種々のフリーラジカルを消去することで、細胞障害などを防ぐ働きをするフリーラジカルスカベンジャーである。しかしながら、エダラボンがエンドトキシン血症に起因する肝障害に対して有効であるか否かについては従来全く報告がない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、エンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療に有用な医薬を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々の検討を行った結果、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物がLPSで誘発したエンドトキシン血症のモデル動物の肝障害を顕著に改善することを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成された。
【0008】
即ち、本発明によれば、下記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含むエンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬が提供される。
【0009】
【化3】
【0010】
(式中、R1は、水素原子、アリール基、炭素数1〜5のアルキル基又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基を表わし;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレン基を表わし;R3は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物である上記医薬が提供される。
【0012】
本発明の別の側面によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の予防及び/又は治療有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、エンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療方法が提供される。本発明のさらに別の側面によれば、上記医薬の製造のための式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の使用が提供される。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明のエンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬は、本明細書に定義する式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む。
【0014】
本発明で用いる式(I)で示される化合物は、互変異性により、以下の式(I’)又は(I”)で示される構造をもとりうる。本明細書の式(I)には、便宜上、互変異性体のうちの1つを示したが、当業者には下記の互変異性体の存在は自明である。本発明の医薬の有効成分としては、下記の式(I’)又は(I”)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を用いてもよい。
【0015】
【化4】
【0016】
式(I)において、R1の定義におけるアリール基は単環性又は多環性アリール基のいずれでもよい。例えば、フェニル基、ナフチル基などのほか、メチル基、ブチル基などのアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、塩素原子などのハロゲン原子、又は水酸基等の置換基で置換されたフェニル基等が挙げられる。アリール部分を有する他の置換基(アリールオキシ基など)におけるアリール部分についても同様である。
【0017】
R1、R2及びR3の定義における炭素数1〜5のアルキル基は直鎖状、分枝鎖状のいずれでもよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。アルキル部分を有する他の置換基(アルコキシカルボニルアルキル基)におけるアルキル部分についても同様である。
【0018】
R1の定義における総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基としては、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、プロポキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルエチル基、メトキシカルボニルプロピル基等が挙げられる。
【0019】
R2の定義におけるアリールオキシ基としては、p−メチルフェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、p−ヒドロキシフェノキシ基等が挙げられ、アリールメルカプト基としては、フェニルメルカプト基、p−メチルフェニルメルカプト基、p−メトキシフェニルメルカプト基、p−クロロフェニルメルカプト基、p−ヒドロキシフェニルメルカプト基等が挙げられる。
【0020】
R2及びR3の定義における炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。R3の定義における炭素数5〜7のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
【0021】
R3の定義において、フェニル基の置換基における炭素数1〜5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられ、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が挙げられ、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基としては、メチルメルカプト基、エチルメルカプト基、プロピルメルカプト基等が挙げられ、炭素数1〜4のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基等が挙げられ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等が挙げられる。
【0022】
本発明の医薬の有効成分として好適に用いられる化合物(I)として、例えば、以下に示す化合物が挙げられる。
3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(2−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3,4−ジメチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロピルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0023】
1−(4−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジメトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロポキシフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジクロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0024】
1−(4−ブロモフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−フルオロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(3−メチル−5−オキソ−2−ピラゾリン−1−イル)安息香酸;
1−(4−エトキシカルボニルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ニトロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−エチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−3−プロピル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0025】
1,3−ジフェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−フェニル−1−(p−トリル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3,4−ジメチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−イソブチル−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェノキシ−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェニルメルカプト−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0026】
3,3’,4,5,6,7−ヘキサヒドロ−2−フェニル−2H−インダゾール−3−オン;
3−(エトキシカルボニルメチル)−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1,3−ジメチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−エチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ブチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキエチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−シクロヘキシル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ベンジル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0027】
1−(α−ナフチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−メチル−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0028】
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−アミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ジメチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(アセトアミドフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;及び
1−(4−シアノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
【0029】
本発明の医薬の有効成分としては、式(I)で表される遊離形態の化合物のほか、生理学的に許容される塩を用いてもよい。生理学的に許容される塩としては、塩酸、硫酸、臭化水素塩、リン酸等の鉱酸との塩;メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、グリコール酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、アスコルビン酸、クエン酸、サリチル酸、ニコチン酸、酒石酸等の有機酸との塩;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニア、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、N−メチルグルタミン、L−グルタミン等のアミンとの塩が挙げられる。また、グリシンなどのアミノ酸の塩を用いてもよい。
【0030】
本発明の医薬の有効成分としては、上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩の水和物、又は上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩の溶媒和物を用いてもよい。溶媒和物を形成する有機溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどを例示することができる。また、上記式(I)で表される化合物は、置換基の種類により1以上の不斉炭素を有する場合があり、光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する場合がある。本発明の医薬の有効成分としては、純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などを用いてもよい。
【0031】
式(I)で表される化合物はいずれも公知の化合物であり、特公平5−31523号公報などに記載された方法により当業者が容易に合成できる。
【0032】
本発明の医薬の投与量は特に限定されないが、通常は、有効成分である式(I)で示される化合物の重量として一般に経口投与の場合には一日あたり0.1〜1000mg/kg、好ましくは一日あたり0.5〜50mg/kgであり、非経口投与の場合には一日あたり0.01〜100mg/kg、好ましくは0.1〜10mg/kgである。上記投与量は1日1回又は2〜3回に分けて投与するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減してもよい。
【0033】
本発明の医薬としては、上記一般式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物をそのまま投与してもよいが、一般的には、有効成分である上記の物質と薬理学的及び製剤学的に許容される添加物を含む医薬組成物を調製して投与することが好ましい。
【0034】
薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を用いることができる。
【0035】
経口投与に適する医薬組成物には、添加物として、例えば、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、デンプン、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤を用いることができる。
【0036】
注射あるいは点滴用に適する医薬組成物には、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D−マンニトール、グリセリン等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤等の添加物を用いることができる。
【0037】
本発明の医薬の形態は特に限定されず、当業者に利用可能な種々の形態をとることができる。経口投与に適する医薬として、例えば、固体の製剤用添加物を用いて錠剤、散剤、顆粒剤、硬ゼラチンカプセル剤、坐剤、又はトローチ剤などを調製することができ、液状の製剤用添加物を用いてシロップ剤、乳剤、軟ゼラチンカプセル剤などを調製することができる。また、非経口投与に適する医薬として、注射剤、点滴剤、吸入剤、坐剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤などを調製することができる。なお、上記の式(I)の化合物を有効成分とする脳保護剤(点滴剤)が、すでに臨床において使用されているので(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)、本発明のエンドトキシン血症に起因する肝障害の予防・治療剤として、上記市販製剤をそのまま用いることができる。
【0038】
本発明の医薬は、エンドトキシン血症に起因する肝障害に有効である。エンドトキシン血症を誘発する原因としては、臓器穿孔による汎発性腹膜炎(急性虫垂炎、胃・十二指腸潰瘍穿孔など)、腹腔内膿傷、肝膿傷、総胆管結石による急性閉塞性化膿性胆管炎、急性胆嚢炎、急性胆管炎、腸閉塞症(単純性イレウス、絞扼性イレウス、麻痺性イレウス、痙攣性イレウス)、各種の消化器手術後の感染症などが挙げられる。
【0039】
本発明の医薬の投与経路は特に限定されず、経口的または非経口的に投与することができる。例えば、感染症の治療に先立って予防的に本発明の医薬を経口投与しておくことができ、注射若しくは点滴などの非経口的投与によって手術中又はその前後に予防的に投与することもできる。また、エンドトキシン血症に起因する肝障害を発症した患者に対しては、症状の悪化の防止ないしは症状の軽減などを目的として、静脈内、動脈内、又は心臓内に注射により投与することもできる。
【0040】
本発明の医薬は、エンドトキシン血症に起因する肝障害を防止する予防剤としての作用、及びエンドトキシン血症に起因する肝障害を正常な状態に回復させる治療剤としての作用を有している。本明細書において、エンドトキシン血症に起因する肝障害とは、グラム陰性菌の菌体内から血中に放出されたエンドトキシン(LPS)の作用によって惹起される肝障害のことをいう。この用語は、上記の定義に合致するかぎり最も広義に解釈されるべきであり、疾患名の異同に拘泥して解釈されるべきではない。なお、エンドトキシン血症に起因する肝障害に相当する疾患であるか否かは熟練した医師ならば容易に診断可能である。
【0041】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
【0042】
合成例:3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン(以下、MCI−186と称す)の合成
エタノール50ml中にアセト酢酸エチル13.0g及びフェニルヒドラジン10.8gを加え、3時間還流攪拌した。反応液を放冷後、析出した結晶をろ取し、エタノールより再結晶して、表題の化合物11.3gを無色結晶として得た。
収率 67%
融点 127.5〜128.5℃
【0043】
実施例1:
(実験方法)
(1)エンドトキシン血症モデルの作成
雄性Sprague−Dawleyラット(250g体重)に、致死量のリポ多糖(LPS, 10mg/kg, Escherichia coli serotype 0111:B4;Sigma, St.Louis, MO)を経尾静脈に投与し、致死量エンドトキシン血症モデルを作成した。また、同ラットにLPSの代わりに生理食塩水を投与し、対照モデルとした。
(2)肝障害改善の評価
(1)で作成したエンドトキシン血症モデル及び対照モデルにそれぞれMCI−186(3mg/kg)又は生理食塩水をLPS投与直前とLPS投与後2時間毎に投与した。LPS投与後9時間で動物を犠牲死させ、肝障害の程度を血清中のALT値、TNF−α値、IL−6値と病理組織像によって評価した。また、LPS投与後のMCI−186投与効果を評価する目的でLPS投与後1時間、2時間、3時間でMCI−186の投与を開始する群(後投与群)についても同様に肝障害の程度をALT値によって評価した。
(3)各種炎症性サイトカインの発現
LPS投与後90分での末梢血中TNF−αを測定した。肝臓での各種炎症性サイトカインmRNA(TNF−α、IL−6、インターフェロン−γ、IL−10)の発現をReal time RT−PCR法を用いて測定した。
【0044】
(実験結果)
エンドトキシン血症モデル(LPS)及び対照モデル(CL)について、MCI前投与群(Pre)、MCI後投与群(1,2,3時間)、MCI非投与群(生理食塩水投与群)(VEH:vehicle control)の末梢血中ALT値を図1に示す。
MCI前投与群(Pre)は、MCI非投与群(VEH:vehicle control)と比較してALT値は有意に減少し、MCI後投与群(1時間、2時間)でもALT値は減少が認められたが、MCI後投与群(3時間)ではALT値が高いままであった。
また、エンドトキシン血症モデル(LPS)及び対照モデル(CL)について、MCI投与群(MCI)、MCI非投与群(VEH)の血清中のTNF−α及びIL−6値を図2に示す。
MCI投与群(MCI)は、MCI非投与群(VEH)と比較してTNF−α値、IL−6値とも有意に減少した。
【0045】
図3、図4にエンドトキシン血症モデル(LPS)及び対照モデル(CL)について、MCI投与群(MCI)、MCI非投与群(VEH)の肝臓の病理組織像を示す(図3:HE染色、図4:HNE(4−Hydroxy−2−nonenal)染色)。
エンドトキシン血症モデル(LPS)ではHE染色によって核が青く染色されないことから肝細胞の破壊が進んでいることがわかる(図3C、白い部分)。MCI投与群(MCI)はMCI非投与群(VEH)と比較して上記障害の改善が認められた(図3D)。
また、エンドトキシン血症モデル(LPS)ではHNE染色により細胞内全体に薄茶色に染色されている部分が広がっていることから細胞内に脂質過酸化物が多数存在することがわかる(図4C)。一方、MCI投与群(MCI)はMCI非投与群(VEH)と比較して上記障害の改善が認められた(図4D)。
【0046】
エンドトキシン血症モデル(LPS)及び対照モデル(CL)について、MCI投与群(MCI)、MCI非投与群(VEH)の肝における各種炎症性サイトカイン(TNF−α、IL−6、インターフェロン−γ、IL−10)のmRNA発現量を図5示す。
図5に示されるように、炎症性サイトカインのうち、TNF−α、IL−6、インターフェロン−γmRNAの発現の増加は、MCI投与群(MCI)はMCI非投与群(VEH)と比較して有意に抑制されたが、IL−10の発現は抑制されていなかった。
【0047】
【発明の効果】
本発明の医薬はエンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療に有用である。特に、本発明の医薬はエンドトキシン血症に伴って発生する肝障害を予防又は改善し、炎症性サイトカインのうち、TNF−α、IL−6、インターフェロン−γなどの発現を顕著に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】エンドトキシン血症モデル(LPS)及び対照モデル(CL)について、MCI前投与群(Pre)、MCI後投与群(1,2,3時間)、MCI非投与群(生理食塩水投与群)(VEH:vehicle control)の末梢血中ALT値を示す。
【図2】エンドトキシン血症モデル(LPS)及び対照モデル(CL)について、MCI投与群(MCI)、MCI非投与群(VEH)の血清中のTNF−α及びIL−6値を示す。
【図3】エンドトキシン血症モデル(LPS)及び対照モデル(CL)について、MCI投与群(MCI)、MCI非投与群(VEH)の肝臓の病理組織像(HE染色)写真を示す。
【図4】エンドトキシン血症モデル(LPS)及び対照モデル(CL)について、MCI投与群(MCI)、MCI非投与群(VEH)の肝臓の病理組織像(HNE染色)写真を示す。
【図5】エンドトキシン血症モデル(LPS)及び対照モデル(CL)について、MCI投与群(MCI)、MCI非投与群(VEH)の肝における各種炎症性サイトカイン(TNF−α、IL−6、インターフェロン−γ、IL−10)のmRNA発現量を示す。
Claims (3)
- 下記式(I):
で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含むエンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬。 - 式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンである請求項1に記載のエンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬。
- エンドトキシン血症が、臓器穿孔による汎発性腹膜炎、腹腔内膿傷、肝膿傷、総胆管結石による急性閉塞性化膿性胆管炎、急性胆嚢炎、急性胆管炎、腸閉塞症、及び各種の消化器手術後の感染症により誘発されたエンドトキシン血症である請求項1又は2に記載のエンドトキシン血症に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬。
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Cited By (3)
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WO2007080962A1 (ja) * | 2006-01-13 | 2007-07-19 | Meiji Dairies Corporation | 抗炎症組成物および抗炎症組成物の製造法 |
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-
2003
- 2003-04-15 JP JP2003110066A patent/JP2004002381A/ja active Pending
Cited By (4)
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