JP2004123716A - 化学物質に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬 - Google Patents
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Abstract
【課題】種々の薬剤や化学物質により惹起される肝障害の予防及び/又は治療に有用な医薬を提供する。
【解決手段】下記式(I):
【化1】
(式中、R1は、水素原子、アリール基、アルキル基又はアルコキシカルボニルアルキル基を表わし;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、アルキル基又はヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同してアルキレン基を表わし;R3は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又はアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシカルボニル基、アルキルメルカプト基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基からなる群から選ばれる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)で示されるピラゾロン誘導体を有効成分として含む化学物質に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬。
【選択図】 なし
【解決手段】下記式(I):
【化1】
(式中、R1は、水素原子、アリール基、アルキル基又はアルコキシカルボニルアルキル基を表わし;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、アルキル基又はヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同してアルキレン基を表わし;R3は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又はアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシカルボニル基、アルキルメルカプト基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基からなる群から選ばれる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)で示されるピラゾロン誘導体を有効成分として含む化学物質に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む化学物質に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
薬剤性肝障害は種々の薬剤や化学物質により惹起される重篤な副作用の一つである。これまでハローセン、アセトアミノフェン、四塩化炭素などが薬剤性肝障害を引き起こすことが知られている。薬剤性肝障害の予防や治療にはこれまで種々のアプローチがなされてきたが、いずれも肝障害部位に直接作用してその損傷を治癒することを企図したものではなく、満足できる効果は得られていない。
【0003】
一方、下記の一般式(I):
【化2】
【0004】
(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)で表されるピラゾロン誘導体については、医薬の用途として、脳機能正常化作用(特公平5−31523号公報)、過酸化脂質生成抑制作用(特公平5−35128号公報、例1の化合物)、抗潰瘍作用(特開平3−215425号公報)、及び血糖上昇抑制作用(特開平3−215426号公報)等が知られている。
【0005】
また、上記式(I)の化合物のうち、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを有効成分とする製剤は、2001年6月以来、脳保護剤(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)として上市されている。この「エダラボン」は、活性酸素に対して高い反応性を有することが報告される(Kawai, H., et al., J. Phamacol. Exp. Ther., 281(2), 921, 1997; Wu, TW. et al., Life Sci, 67(19), 2387, 2000)。このように、エダラボンは活性酸素をはじめとする種々のフリーラジカルを消去することで、細胞障害などを防ぐ働きをするフリーラジカルスカベンジャーである。しかしながら、エダラボンが化学物質に起因する肝障害に対して有効であるか否かについては従来全く報告がない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、化学物質に起因する肝障害の予防及び/又は治療に有用な医薬を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々の検討を行った結果、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物が、四塩化炭素(CCl4)で肝障害を誘発したモデル動物においてその肝障害を顕著に改善することを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成された。
【0008】
即ち、本発明によれば、下記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む化学物質に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬が提供される。
【0009】
【化3】
【0010】
(式中、R1は、水素原子、アリール基、炭素数1〜5のアルキル基又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基を表わし;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレン基を表わし;R3は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物である上記医薬が提供される。
【0012】
本発明の別の側面によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の予防及び/又は治療有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、化学物質に起因する肝障害の予防及び/又は治療方法が提供される。本発明のさらに別の側面によれば、上記医薬の製造のための式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の使用が提供される。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の化学物質に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬(以下、本発明の医薬という。)は、本明細書に定義する式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む。
【0014】
本発明で用いる式(I)で示される化合物は、互変異性により、以下の式(I’)又は(I”)で示される構造をもとりうる。本明細書の式(I)には、便宜上、互変異性体のうちの1つを示したが、当業者には下記の互変異性体の存在は自明である。本発明の医薬の有効成分としては、下記の式(I’)又は(I”)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を用いてもよい。
【0015】
【化4】
【0016】
式(I)において、R1の定義におけるアリール基は単環性又は多環性アリール基のいずれでもよい。例えば、フェニル基、ナフチル基などのほか、メチル基、ブチル基などのアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、塩素原子などのハロゲン原子、又は水酸基等の置換基で置換されたフェニル基等が挙げられる。アリール部分を有する他の置換基(アリールオキシ基など)におけるアリール部分についても同様である。
【0017】
R1、R2及びR3の定義における炭素数1〜5のアルキル基は直鎖状、分枝鎖状のいずれでもよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。アルキル部分を有する他の置換基(アルコキシカルボニルアルキル基)におけるアルキル部分についても同様である。
【0018】
R1の定義における総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基としては、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、プロポキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルエチル基、メトキシカルボニルプロピル基等が挙げられる。
【0019】
R2の定義におけるアリールオキシ基としては、p−メチルフェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、p−ヒドロキシフェノキシ基等が挙げられ、アリールメルカプト基としては、フェニルメルカプト基、p−メチルフェニルメルカプト基、p−メトキシフェニルメルカプト基、p−クロロフェニルメルカプト基、p−ヒドロキシフェニルメルカプト基等が挙げられる。
【0020】
R2及びR3の定義における炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。R3の定義における炭素数5〜7のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
【0021】
R3の定義において、フェニル基の置換基における炭素数1〜5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられ、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が挙げられ、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基としては、メチルメルカプト基、エチルメルカプト基、プロピルメルカプト基等が挙げられ、炭素数1〜4のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基等が挙げられ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等が挙げられる。
【0022】
本発明の医薬の有効成分として好適に用いられる化合物(I)として、例えば、以下に示す化合物が挙げられる。
3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(2−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3,4−ジメチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロピルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0023】
1−(4−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジメトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロポキシフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジクロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0024】
1−(4−ブロモフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−フルオロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(3−メチル−5−オキソ−2−ピラゾリン−1−イル)安息香酸;
1−(4−エトキシカルボニルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ニトロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−エチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−3−プロピル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0025】
1,3−ジフェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−フェニル−1−(p−トリル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3,4−ジメチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−イソブチル−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェノキシ−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェニルメルカプト−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0026】
3,3’,4,5,6,7−ヘキサヒドロ−2−フェニル−2H−インダゾール−3−オン;
3−(エトキシカルボニルメチル)−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1,3−ジメチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−エチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ブチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキエチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−シクロヘキシル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ベンジル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0027】
1−(α−ナフチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−メチル−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0028】
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−アミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ジメチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(アセトアミドフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;及び
1−(4−シアノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
【0029】
本発明の医薬の有効成分としては、式(I)で表される遊離形態の化合物のほか、生理学的に許容される塩を用いてもよい。生理学的に許容される塩としては、塩酸、硫酸、臭化水素塩、リン酸等の鉱酸との塩;メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、グリコール酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、アスコルビン酸、クエン酸、サリチル酸、ニコチン酸、酒石酸等の有機酸との塩;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニア、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、N−メチルグルタミン、L−グルタミン等のアミンとの塩が挙げられる。また、グリシンなどのアミノ酸との塩を用いてもよい。
【0030】
本発明の医薬の有効成分としては、上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩の水和物、又は上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩の溶媒和物を用いてもよい。溶媒和物を形成する有機溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどを例示することができる。また、上記式(I)で表される化合物は、置換基の種類により1以上の不斉炭素を有する場合があり、光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する場合がある。本発明の医薬の有効成分としては、純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などを用いてもよい。
【0031】
式(I)で表される化合物はいずれも公知の化合物であり、特公平5−31523号公報などに記載された方法により当業者が容易に合成できる。
【0032】
本発明の医薬の投与量は特に限定されないが、通常は、有効成分である式(I)で示される化合物の重量として一般に経口投与の場合には一日あたり0.1〜1000mg/kg体重、好ましくは一日あたり0.5〜50mg/kg体重であり、非経口投与の場合には一日あたり0.01〜100mg/kg体重、好ましくは0.1〜10mg/kg体重である。上記投与量は1日1回又は2〜3回に分けて投与するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減してもよい。
【0033】
本発明の医薬としては、上記一般式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物をそのまま投与してもよいが、一般的には、有効成分である上記の物質と薬理学的及び製剤学的に許容される添加物を含む医薬組成物を調製して投与することが好ましい。
【0034】
薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を用いることができる。
【0035】
経口投与に適する医薬組成物には、添加物として、例えば、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、デンプン、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤を用いることができる。
【0036】
注射あるいは点滴用に適する医薬組成物には、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D−マンニトール、グリセリン等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤等の添加物を用いることができる。
【0037】
本発明の医薬の形態は特に限定されず、当業者に利用可能な種々の形態をとることができる。経口投与に適する医薬として、例えば、固体の製剤用添加物を用いて錠剤、散剤、顆粒剤、硬ゼラチンカプセル剤、坐剤、又はトローチ剤などを調製することができ、液状の製剤用添加物を用いてシロップ剤、乳剤、軟ゼラチンカプセル剤などを調製することができる。また、非経口投与に適する医薬として、注射剤、点滴剤、吸入剤、坐剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤などを調製することができる。なお、上記の式(I)の化合物を有効成分とする脳保護剤(点滴剤)が、すでに臨床において使用されているので(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)、本発明の化学物質に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬として、上記市販製剤をそのまま用いることができる。
【0038】
本発明の医薬は、化学物質に起因する肝障害に有効である。すなわち、本発明の医薬は、化学物質に起因する肝障害を防止する予防剤としての作用、及び/又は化学物質に起因する肝障害を正常な状態に回復させる治療剤としての作用を有している。ここで、「化学物質」とは、有機物質、無機物質、金属イオン、高分子化合物、低分子化合物、天然物などを包含する。代表的には、ハローセン、アセトアミノフェン、シメチジン、ケトコナゾール、フェノバルビタール、アミノサリチル酸、キニジン、アスピリン、アロピリノール、バルプロン酸などの肝障害を起こすことが知られている各種薬剤、四塩化炭素、トルエン、アルコールなどの溶剤、鉄イオンなどの金属イオンなどが挙げられる。
【0039】
本明細書において、化学物質に起因する肝障害とは、上記の各種化学物質により直接的にまたはその代謝物により間接的に惹起された肝細胞の損傷、肝機能の低下などの病態をいう。この用語は、上記の定義に合致するかぎり最も広義に解釈されるべきであり、疾患名の異同に拘泥して解釈されるべきではない。なお、化学物質に起因する肝障害に相当する疾患であるか否かは熟練した医師ならば容易に診断可能である。化学物質に起因する肝障害としては、上記の化学物質によって惹起される肝障害、具体的には、薬剤性肝障害、急性胆管閉塞、胆汁うっ滞、アルコール性肝疾患、金属イオン過剰症に伴う肝障害、薬物起因性肝内胆管消失症候群などが挙げられる。
【0040】
本発明の医薬の投与経路は特に限定されず、経口的または非経口的に投与することができる。例えば、上記疾患を引き起こしうる薬剤を用いる治療に先立って、本発明の医薬を予防的に経口投与しておくことができ、あるいは上記疾患を引き起こしうる薬剤を麻酔剤として用いる手術では本発明の医薬を手術中若しくはその前後に注射若しくは点滴などによって非経口的投与しておくこともできる。また、上記疾患を発症した患者に対しては、症状の悪化の防止ないしは症状の軽減などを目的として、静脈内、動脈内、又は心臓内に注射により投与することもできる。
【0041】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
【0042】
合成例:3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン(以下、エダラボン)の合成
エタノール50ml中にアセト酢酸エチル13.0g及びフェニルヒドラジン10.8gを加え、3時間還流攪拌した。反応液を放冷後、析出した結晶をろ取し、エタノールより再結晶して、表題の化合物11.3gを無色結晶として得た。
収率 67%
融点 127.5〜128.5℃
【0043】
(実施例1)
(1) 実験方法
▲1▼ 試薬
CCl4及びオリーブオイルは関東化学(株)より購入した。
▲2▼ 動物及び治療
Crea Japan, Inc.から購入した雄性ウイスターラット(6週令、200〜250g)を用いた。全部で18匹のラットを、オリーブオイル投与群、CCl4+生理食塩水投与群、CCl4+エダラボン投与群の3つの群に分けた。CCl4+生理食塩水投与群、CCl4+エダラボン投与群のラットにはCCl4の50%オリーブオイル溶液を腹腔内に2mL/kg体重の用量で注射し、急性肝障害を発症させた。CCl4注射前と3時間後、エダラボン(3mg/kg)又は生理食塩水を陰茎静脈に注入した。CCl4注射24時間後、ラットをエーテル麻酔下で犠牲にし、血液を心臓から採取し、肝臓を摘出した。摘出した肝臓は10%中性緩衝化ホルマリンで直ちに固定化した。
【0044】
▲3▼ 組織学的試験
ホルマリン固定化肝をパラフィンに埋め込み、5μm切片にカットした。これらの切片をヘマトキシリン−エオジン(HE)染色およびオイルレッド染色後、光学顕微鏡で観察した。
▲4▼ Tunel法
パラフィンブロックを4μm切片にカットした。脱パラフィン後、切片をプロテナーゼKのリン酸緩衝液(以下、PBS溶液という。)(10μg/mL)にて37℃にて15分間処理した。PBSで洗浄後、切片を0.3% H2O2とともに20分間室温でインキュベートし、内因性パーオキシダーゼ活性を遮断した。これらのスライドをPBS及び蒸留水で洗浄し、TdT緩衝液(200mMカコジル酸カリウム、25mM Tris HCl pH6.5、0.25mg/mLウシ血清アルブミン、1mM CoCl2、0.01mM Biotin−dUTP、1120U/ml TdT)に37℃で60分間浸した。PBSで洗浄後、その切片をVECSTATIN Elite ABC KIT(Vector)でカバーし、37℃で30分間インキュベートした。これらの切片を0.025% 3,3’−ジアミノベンチジン四塩酸塩(DAB)のTris−HCl緩衝液にて染色した。核をMayer’s Hematoxylin溶液で染色した後、切片を光学顕微鏡にて観察した。
▲5▼ 血清ALT、総ビリルビン及びLDH測定
肝障害を評価するために、犠牲にした動物から得た血清中のALT、総ビリルビン(TB)及び乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)を測定した。活性はDri−chem 3500i(富士フイルム(株))を用いて分析した。
分析したデータは平均値±S.Dで表した。2つの群の平均値間の相違をKruskal−Waillisテストで評価し、p<0.05のとき有意差ありと考えた。
【0045】
(2)実験結果
▲1▼ 血清ALT、LDH活性、TB量
対照群では血清ALT及びLDH活性はCCl4注射後24時間で顕著に高かった。血清ALT、LDH、TB量の増加はエダラボンの注射によって顕著に減少した(表1)。
【0046】
【表1】
【0047】
▲2▼組織学的試験
CCl4投与により、その腹腔内注射24時間後にマウス肝において脂肪化が顕著に誘導された。特にゾーン2(Rapapport分類(Rapapport AM, Microvasc Res 6, 212−228, 1973)、以下同じ。)では、微小脂肪滴の著しい増加が認められる(図1a、b)が、エダラボン投与により脂肪滴は顕著に減少した(図1c)。
【0048】
CCl4投与による肝細胞の障害はゾーン3よりゾーン1及びゾーン2の方が強く、びまん性の脂肪変性が認められ、肝細胞内に産生されている脂肪滴も大きい(図2a、b)。これに対してエダラボン投与により脂肪変性は軽減され(図2c)、脂肪滴はゾーン1(図2d)とゾーン3(図2e)に認められる程度であった。
【0049】
CCl4投与によってゾーン2に脂肪化が認められ、また肝細胞の核は濃縮されていた(図3a)。Tunel染色により肝細胞のアポトーシスについて検討したところ、中心静脈付近にはTunel陽性核を有する細胞が認められた(図3b)。これに対し、エダラボン投与群ではTunel陽性核を有する細胞はわずかであった(図3c)。
CCl4投与により誘導される肝細胞のアポトーシスについて、誘導48時間後の組織でも検討した。CCl4投与によりゾーン2とゾーン3にはTunel陽性核が多数認められたが(図4a、b)、エダラボン投与群ではアポトーシスを起こしている細胞数は著しく減少した (図4c)。
【0050】
【発明の効果】
本発明の医薬は種々の薬剤や化学物質により惹起される肝障害の予防及び/又は治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】HE染色したラット肝切片を光学顕微鏡により観察した結果を示す図である(a:CCl4+生理食塩水投与群(200倍)、b:CCl4+生理食塩水投与群(400倍)、c:CCl4+エダラボン投与群(200倍))。
【図2】オイルレッド染色したラット肝切片を光学顕微鏡により観察した結果を示す図である(a:CCl4+生理食塩水投与群(200倍)、b:CCl4+生理食塩水投与群(400倍)、c:CCl4+エダラボン投与群(100倍)、
d:CCl4+エダラボン投与群(400倍)、e:CCl4+エダラボン投与群(400倍))。
【図3】HE染色及びTunel染色したラット肝切片を光学顕微鏡により観察した結果を示す図である(a:HE染色、CCl4+生理食塩水投与群(400倍)、b:Tunel染色、CCl4+生理食塩水投与群(200倍)、c:Tunel染色、CCl4+エダラボン投与群(200倍))。
【図4】Tunel染色したラット肝切片を光学顕微鏡により観察した結果を示す図である(CCl4+生理食塩水投与群(200倍)、b:CCl4+生理食塩水投与群(200倍)、c:CCl4+エダラボン投与群(200倍))。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む化学物質に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
薬剤性肝障害は種々の薬剤や化学物質により惹起される重篤な副作用の一つである。これまでハローセン、アセトアミノフェン、四塩化炭素などが薬剤性肝障害を引き起こすことが知られている。薬剤性肝障害の予防や治療にはこれまで種々のアプローチがなされてきたが、いずれも肝障害部位に直接作用してその損傷を治癒することを企図したものではなく、満足できる効果は得られていない。
【0003】
一方、下記の一般式(I):
【化2】
【0004】
(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)で表されるピラゾロン誘導体については、医薬の用途として、脳機能正常化作用(特公平5−31523号公報)、過酸化脂質生成抑制作用(特公平5−35128号公報、例1の化合物)、抗潰瘍作用(特開平3−215425号公報)、及び血糖上昇抑制作用(特開平3−215426号公報)等が知られている。
【0005】
また、上記式(I)の化合物のうち、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを有効成分とする製剤は、2001年6月以来、脳保護剤(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)として上市されている。この「エダラボン」は、活性酸素に対して高い反応性を有することが報告される(Kawai, H., et al., J. Phamacol. Exp. Ther., 281(2), 921, 1997; Wu, TW. et al., Life Sci, 67(19), 2387, 2000)。このように、エダラボンは活性酸素をはじめとする種々のフリーラジカルを消去することで、細胞障害などを防ぐ働きをするフリーラジカルスカベンジャーである。しかしながら、エダラボンが化学物質に起因する肝障害に対して有効であるか否かについては従来全く報告がない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、化学物質に起因する肝障害の予防及び/又は治療に有用な医薬を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々の検討を行った結果、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物が、四塩化炭素(CCl4)で肝障害を誘発したモデル動物においてその肝障害を顕著に改善することを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成された。
【0008】
即ち、本発明によれば、下記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む化学物質に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬が提供される。
【0009】
【化3】
【0010】
(式中、R1は、水素原子、アリール基、炭素数1〜5のアルキル基又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基を表わし;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレン基を表わし;R3は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物である上記医薬が提供される。
【0012】
本発明の別の側面によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の予防及び/又は治療有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、化学物質に起因する肝障害の予防及び/又は治療方法が提供される。本発明のさらに別の側面によれば、上記医薬の製造のための式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の使用が提供される。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の化学物質に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬(以下、本発明の医薬という。)は、本明細書に定義する式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む。
【0014】
本発明で用いる式(I)で示される化合物は、互変異性により、以下の式(I’)又は(I”)で示される構造をもとりうる。本明細書の式(I)には、便宜上、互変異性体のうちの1つを示したが、当業者には下記の互変異性体の存在は自明である。本発明の医薬の有効成分としては、下記の式(I’)又は(I”)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を用いてもよい。
【0015】
【化4】
【0016】
式(I)において、R1の定義におけるアリール基は単環性又は多環性アリール基のいずれでもよい。例えば、フェニル基、ナフチル基などのほか、メチル基、ブチル基などのアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、塩素原子などのハロゲン原子、又は水酸基等の置換基で置換されたフェニル基等が挙げられる。アリール部分を有する他の置換基(アリールオキシ基など)におけるアリール部分についても同様である。
【0017】
R1、R2及びR3の定義における炭素数1〜5のアルキル基は直鎖状、分枝鎖状のいずれでもよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。アルキル部分を有する他の置換基(アルコキシカルボニルアルキル基)におけるアルキル部分についても同様である。
【0018】
R1の定義における総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基としては、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、プロポキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルエチル基、メトキシカルボニルプロピル基等が挙げられる。
【0019】
R2の定義におけるアリールオキシ基としては、p−メチルフェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、p−ヒドロキシフェノキシ基等が挙げられ、アリールメルカプト基としては、フェニルメルカプト基、p−メチルフェニルメルカプト基、p−メトキシフェニルメルカプト基、p−クロロフェニルメルカプト基、p−ヒドロキシフェニルメルカプト基等が挙げられる。
【0020】
R2及びR3の定義における炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。R3の定義における炭素数5〜7のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
【0021】
R3の定義において、フェニル基の置換基における炭素数1〜5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられ、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が挙げられ、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基としては、メチルメルカプト基、エチルメルカプト基、プロピルメルカプト基等が挙げられ、炭素数1〜4のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基等が挙げられ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等が挙げられる。
【0022】
本発明の医薬の有効成分として好適に用いられる化合物(I)として、例えば、以下に示す化合物が挙げられる。
3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(2−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3,4−ジメチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロピルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0023】
1−(4−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジメトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロポキシフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジクロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0024】
1−(4−ブロモフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−フルオロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(3−メチル−5−オキソ−2−ピラゾリン−1−イル)安息香酸;
1−(4−エトキシカルボニルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ニトロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−エチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−3−プロピル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0025】
1,3−ジフェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−フェニル−1−(p−トリル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3,4−ジメチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−イソブチル−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェノキシ−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェニルメルカプト−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0026】
3,3’,4,5,6,7−ヘキサヒドロ−2−フェニル−2H−インダゾール−3−オン;
3−(エトキシカルボニルメチル)−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1,3−ジメチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−エチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ブチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキエチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−シクロヘキシル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ベンジル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0027】
1−(α−ナフチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−メチル−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0028】
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−アミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ジメチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(アセトアミドフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;及び
1−(4−シアノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
【0029】
本発明の医薬の有効成分としては、式(I)で表される遊離形態の化合物のほか、生理学的に許容される塩を用いてもよい。生理学的に許容される塩としては、塩酸、硫酸、臭化水素塩、リン酸等の鉱酸との塩;メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、グリコール酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、アスコルビン酸、クエン酸、サリチル酸、ニコチン酸、酒石酸等の有機酸との塩;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニア、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、N−メチルグルタミン、L−グルタミン等のアミンとの塩が挙げられる。また、グリシンなどのアミノ酸との塩を用いてもよい。
【0030】
本発明の医薬の有効成分としては、上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩の水和物、又は上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩の溶媒和物を用いてもよい。溶媒和物を形成する有機溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどを例示することができる。また、上記式(I)で表される化合物は、置換基の種類により1以上の不斉炭素を有する場合があり、光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する場合がある。本発明の医薬の有効成分としては、純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などを用いてもよい。
【0031】
式(I)で表される化合物はいずれも公知の化合物であり、特公平5−31523号公報などに記載された方法により当業者が容易に合成できる。
【0032】
本発明の医薬の投与量は特に限定されないが、通常は、有効成分である式(I)で示される化合物の重量として一般に経口投与の場合には一日あたり0.1〜1000mg/kg体重、好ましくは一日あたり0.5〜50mg/kg体重であり、非経口投与の場合には一日あたり0.01〜100mg/kg体重、好ましくは0.1〜10mg/kg体重である。上記投与量は1日1回又は2〜3回に分けて投与するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減してもよい。
【0033】
本発明の医薬としては、上記一般式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物をそのまま投与してもよいが、一般的には、有効成分である上記の物質と薬理学的及び製剤学的に許容される添加物を含む医薬組成物を調製して投与することが好ましい。
【0034】
薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を用いることができる。
【0035】
経口投与に適する医薬組成物には、添加物として、例えば、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、デンプン、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤を用いることができる。
【0036】
注射あるいは点滴用に適する医薬組成物には、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D−マンニトール、グリセリン等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤等の添加物を用いることができる。
【0037】
本発明の医薬の形態は特に限定されず、当業者に利用可能な種々の形態をとることができる。経口投与に適する医薬として、例えば、固体の製剤用添加物を用いて錠剤、散剤、顆粒剤、硬ゼラチンカプセル剤、坐剤、又はトローチ剤などを調製することができ、液状の製剤用添加物を用いてシロップ剤、乳剤、軟ゼラチンカプセル剤などを調製することができる。また、非経口投与に適する医薬として、注射剤、点滴剤、吸入剤、坐剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤などを調製することができる。なお、上記の式(I)の化合物を有効成分とする脳保護剤(点滴剤)が、すでに臨床において使用されているので(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)、本発明の化学物質に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬として、上記市販製剤をそのまま用いることができる。
【0038】
本発明の医薬は、化学物質に起因する肝障害に有効である。すなわち、本発明の医薬は、化学物質に起因する肝障害を防止する予防剤としての作用、及び/又は化学物質に起因する肝障害を正常な状態に回復させる治療剤としての作用を有している。ここで、「化学物質」とは、有機物質、無機物質、金属イオン、高分子化合物、低分子化合物、天然物などを包含する。代表的には、ハローセン、アセトアミノフェン、シメチジン、ケトコナゾール、フェノバルビタール、アミノサリチル酸、キニジン、アスピリン、アロピリノール、バルプロン酸などの肝障害を起こすことが知られている各種薬剤、四塩化炭素、トルエン、アルコールなどの溶剤、鉄イオンなどの金属イオンなどが挙げられる。
【0039】
本明細書において、化学物質に起因する肝障害とは、上記の各種化学物質により直接的にまたはその代謝物により間接的に惹起された肝細胞の損傷、肝機能の低下などの病態をいう。この用語は、上記の定義に合致するかぎり最も広義に解釈されるべきであり、疾患名の異同に拘泥して解釈されるべきではない。なお、化学物質に起因する肝障害に相当する疾患であるか否かは熟練した医師ならば容易に診断可能である。化学物質に起因する肝障害としては、上記の化学物質によって惹起される肝障害、具体的には、薬剤性肝障害、急性胆管閉塞、胆汁うっ滞、アルコール性肝疾患、金属イオン過剰症に伴う肝障害、薬物起因性肝内胆管消失症候群などが挙げられる。
【0040】
本発明の医薬の投与経路は特に限定されず、経口的または非経口的に投与することができる。例えば、上記疾患を引き起こしうる薬剤を用いる治療に先立って、本発明の医薬を予防的に経口投与しておくことができ、あるいは上記疾患を引き起こしうる薬剤を麻酔剤として用いる手術では本発明の医薬を手術中若しくはその前後に注射若しくは点滴などによって非経口的投与しておくこともできる。また、上記疾患を発症した患者に対しては、症状の悪化の防止ないしは症状の軽減などを目的として、静脈内、動脈内、又は心臓内に注射により投与することもできる。
【0041】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
【0042】
合成例:3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン(以下、エダラボン)の合成
エタノール50ml中にアセト酢酸エチル13.0g及びフェニルヒドラジン10.8gを加え、3時間還流攪拌した。反応液を放冷後、析出した結晶をろ取し、エタノールより再結晶して、表題の化合物11.3gを無色結晶として得た。
収率 67%
融点 127.5〜128.5℃
【0043】
(実施例1)
(1) 実験方法
▲1▼ 試薬
CCl4及びオリーブオイルは関東化学(株)より購入した。
▲2▼ 動物及び治療
Crea Japan, Inc.から購入した雄性ウイスターラット(6週令、200〜250g)を用いた。全部で18匹のラットを、オリーブオイル投与群、CCl4+生理食塩水投与群、CCl4+エダラボン投与群の3つの群に分けた。CCl4+生理食塩水投与群、CCl4+エダラボン投与群のラットにはCCl4の50%オリーブオイル溶液を腹腔内に2mL/kg体重の用量で注射し、急性肝障害を発症させた。CCl4注射前と3時間後、エダラボン(3mg/kg)又は生理食塩水を陰茎静脈に注入した。CCl4注射24時間後、ラットをエーテル麻酔下で犠牲にし、血液を心臓から採取し、肝臓を摘出した。摘出した肝臓は10%中性緩衝化ホルマリンで直ちに固定化した。
【0044】
▲3▼ 組織学的試験
ホルマリン固定化肝をパラフィンに埋め込み、5μm切片にカットした。これらの切片をヘマトキシリン−エオジン(HE)染色およびオイルレッド染色後、光学顕微鏡で観察した。
▲4▼ Tunel法
パラフィンブロックを4μm切片にカットした。脱パラフィン後、切片をプロテナーゼKのリン酸緩衝液(以下、PBS溶液という。)(10μg/mL)にて37℃にて15分間処理した。PBSで洗浄後、切片を0.3% H2O2とともに20分間室温でインキュベートし、内因性パーオキシダーゼ活性を遮断した。これらのスライドをPBS及び蒸留水で洗浄し、TdT緩衝液(200mMカコジル酸カリウム、25mM Tris HCl pH6.5、0.25mg/mLウシ血清アルブミン、1mM CoCl2、0.01mM Biotin−dUTP、1120U/ml TdT)に37℃で60分間浸した。PBSで洗浄後、その切片をVECSTATIN Elite ABC KIT(Vector)でカバーし、37℃で30分間インキュベートした。これらの切片を0.025% 3,3’−ジアミノベンチジン四塩酸塩(DAB)のTris−HCl緩衝液にて染色した。核をMayer’s Hematoxylin溶液で染色した後、切片を光学顕微鏡にて観察した。
▲5▼ 血清ALT、総ビリルビン及びLDH測定
肝障害を評価するために、犠牲にした動物から得た血清中のALT、総ビリルビン(TB)及び乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)を測定した。活性はDri−chem 3500i(富士フイルム(株))を用いて分析した。
分析したデータは平均値±S.Dで表した。2つの群の平均値間の相違をKruskal−Waillisテストで評価し、p<0.05のとき有意差ありと考えた。
【0045】
(2)実験結果
▲1▼ 血清ALT、LDH活性、TB量
対照群では血清ALT及びLDH活性はCCl4注射後24時間で顕著に高かった。血清ALT、LDH、TB量の増加はエダラボンの注射によって顕著に減少した(表1)。
【0046】
【表1】
【0047】
▲2▼組織学的試験
CCl4投与により、その腹腔内注射24時間後にマウス肝において脂肪化が顕著に誘導された。特にゾーン2(Rapapport分類(Rapapport AM, Microvasc Res 6, 212−228, 1973)、以下同じ。)では、微小脂肪滴の著しい増加が認められる(図1a、b)が、エダラボン投与により脂肪滴は顕著に減少した(図1c)。
【0048】
CCl4投与による肝細胞の障害はゾーン3よりゾーン1及びゾーン2の方が強く、びまん性の脂肪変性が認められ、肝細胞内に産生されている脂肪滴も大きい(図2a、b)。これに対してエダラボン投与により脂肪変性は軽減され(図2c)、脂肪滴はゾーン1(図2d)とゾーン3(図2e)に認められる程度であった。
【0049】
CCl4投与によってゾーン2に脂肪化が認められ、また肝細胞の核は濃縮されていた(図3a)。Tunel染色により肝細胞のアポトーシスについて検討したところ、中心静脈付近にはTunel陽性核を有する細胞が認められた(図3b)。これに対し、エダラボン投与群ではTunel陽性核を有する細胞はわずかであった(図3c)。
CCl4投与により誘導される肝細胞のアポトーシスについて、誘導48時間後の組織でも検討した。CCl4投与によりゾーン2とゾーン3にはTunel陽性核が多数認められたが(図4a、b)、エダラボン投与群ではアポトーシスを起こしている細胞数は著しく減少した (図4c)。
【0050】
【発明の効果】
本発明の医薬は種々の薬剤や化学物質により惹起される肝障害の予防及び/又は治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】HE染色したラット肝切片を光学顕微鏡により観察した結果を示す図である(a:CCl4+生理食塩水投与群(200倍)、b:CCl4+生理食塩水投与群(400倍)、c:CCl4+エダラボン投与群(200倍))。
【図2】オイルレッド染色したラット肝切片を光学顕微鏡により観察した結果を示す図である(a:CCl4+生理食塩水投与群(200倍)、b:CCl4+生理食塩水投与群(400倍)、c:CCl4+エダラボン投与群(100倍)、
d:CCl4+エダラボン投与群(400倍)、e:CCl4+エダラボン投与群(400倍))。
【図3】HE染色及びTunel染色したラット肝切片を光学顕微鏡により観察した結果を示す図である(a:HE染色、CCl4+生理食塩水投与群(400倍)、b:Tunel染色、CCl4+生理食塩水投与群(200倍)、c:Tunel染色、CCl4+エダラボン投与群(200倍))。
【図4】Tunel染色したラット肝切片を光学顕微鏡により観察した結果を示す図である(CCl4+生理食塩水投与群(200倍)、b:CCl4+生理食塩水投与群(200倍)、c:CCl4+エダラボン投与群(200倍))。
Claims (3)
- 下記式(I):
で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む化学物質に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬。 - 式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンである請求項1に記載の化学物質に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬。
- 化学物質に起因する肝障害が、薬剤性肝障害、急性胆管閉塞、胆汁うっ滞、アルコール性肝疾患、金属イオン過剰症に伴う肝障害、及び薬物起因性肝内胆管消失症候群から選ばれる疾患である請求項1又は2に記載の化学物質に起因する肝障害の予防及び/又は治療のための医薬。
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JP2012501454A (ja) * | 2008-08-28 | 2012-01-19 | サルトリア・フアーマシユーテイカルズ・エル・エル・シー | 肝臓病学的有害事象のリスクのある患者を同定するためのスクリーニング法 |
US8658684B2 (en) | 2008-03-04 | 2014-02-25 | Jiangsu Simcere Pharmaceutical R & D Co., Ltd. | Pharmaceutical composition and its use in the preparation of a medicament for the treatment of cerebrovascular diseases |
JP2014121323A (ja) * | 2012-12-21 | 2014-07-03 | Stembios Technologies Inc | 幹細胞による行為効果を評価する方法 |
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US20190105353A1 (en) * | 2014-11-19 | 2019-04-11 | StemBios Technologies, Inc. | Somatic stem cells for treating bone defects |
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-
2003
- 2003-08-05 JP JP2003205911A patent/JP2004123716A/ja active Pending
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