JP2004142964A - ペースト、その製造方法、積層型セラミック電子部品およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】積層型セラミック電子部品を製造するために用いられるセラミックペーストの印刷塗膜の保形性の向上および連続印刷性の向上を図る。
【解決手段】段差吸収用のセラミックグリーン層5を形成するためのセラミックペーストは、有機バインダを含み、この有機バインダは、分子量分布の高分子量側および低分子量側に極大点を有し、高分子量側に極大点を有する熱可塑性樹脂成分によって、セラミックペーストの高粘度化を図る一方、低分子量側に極大点を有する熱可塑性樹脂成分によって、セラミックペーストの糸曳性を改善し、セラミックペーストの印刷塗膜の保形性を向上させるとともに、連続印刷性の向上を図る。
【選択図】 図1
【解決手段】段差吸収用のセラミックグリーン層5を形成するためのセラミックペーストは、有機バインダを含み、この有機バインダは、分子量分布の高分子量側および低分子量側に極大点を有し、高分子量側に極大点を有する熱可塑性樹脂成分によって、セラミックペーストの高粘度化を図る一方、低分子量側に極大点を有する熱可塑性樹脂成分によって、セラミックペーストの糸曳性を改善し、セラミックペーストの印刷塗膜の保形性を向上させるとともに、連続印刷性の向上を図る。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ペースト、その製造方法、積層型セラミック電子部品およびその製造方法に関し、更に詳しくは、ベースフィルム上への連続印刷性に優れたペースト、その製造方法、積層型セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、積層セラミックインダクタのような積層型セラミック電子部品を製造する場合、複数のセラミックグリーンシートが用意され、これらセラミックグリーンシートが積み重ねられる。特定のセラミックグリーンシート上には、得ようとする積層型セラミック電子部品の機能に応じて、コンデンサ、抵抗、インダクタ、バリスタ、フィルタなどを構成するための導体膜、抵抗体膜のような内部回路要素膜が形成されている。
【0003】
近年、移動体通信機器をはじめとする電子機器は、小型化かつ軽量化が進み、このような電子機器において、例えば、積層型セラミック電子部品が回路素子として用いられる場合、このような電子部品に対しても、小型化、薄型化、軽量化が強く要求されるようになっている。例えば、積層セラミックインダクタの場合には、小型化、薄型化かつ低直流抵抗化の要求が高まっている。
【0004】
積層セラミックインダクタを製造しようとする場合、典型的には、磁性体セラミック粉末、有機バインダ、可塑剤および有機溶剤を混合してセラミックスラリーを作製し、このセラミックスラリーを剥離剤としてのシリコン樹脂などがコーティングされた、例えば、ポリエステルフィルムのような支持体となるベースフィルム上で、ドクターブレード法などを適用して、例えば、厚さ数10μmのシート状となるように成形することにより、セラミックグリーンシートが作製され、次で、このセラミックグリーンシートが乾燥される。
【0005】
次に、上述したセラミックグリーンシートの主面上に、互いに間隔を隔てた複数のパターンをもって、導電性ペーストをスクリーン印刷によって付与する。これを乾燥することにより、内部回路要素膜としての内部電極がセラミックグリーンシート上に形成される。
【0006】
次に、セラミックグリーンシートが支持体から剥離され、適当な大きさに切断された後、図3に一部示すように、所定の枚数だけセラミックグリーンシート2が積み重ねられ、さらに、この積み重ねの上下に内部電極1を形成していないセラミックグリーンシートが所定の枚数だけ積み重ねられることによって、生の積層体3が作製される。
【0007】
この生の積層体3は、積層方向にプレスされた後、図4に示すように、個々の積層セラミックインダクタのための積層体チップ4となるべき大きさに切断され、最終的に外部電極が形成されることによって、積層セラミックインダクタが完成される。
【0008】
このような積層セラミックインダクタにおいて、その小型化、薄型化および低直流抵抗化に対する要求を満足させるためには、内部電極1の断面積の大面積化を図ることが必要となってくる。
【0009】
しかしながら、上述のような断面積の大面積化が進めば進むほど、内部電極1の各厚みの累積の結果、内部電極1の位置する部分とそうでない部分との間、あるいは、内部電極1が積層方向に比較的多数配列されている部分とそうでない部分との間での厚みの差がより顕著になり、例えば、図4に示すように、得られた積層体チップ4の外観に関しては、その一方主面が凸状となるような変形が生じてしまう。
【0010】
積層体チップ4において図4に示すような変形が生じていると、内部電極1が位置していない部分あるいは比較的少数の内部電極1しか積層方向に配列されていない部分においては、プレス工程の際に比較的大きな歪みがもたらされており、また、セラミックグリーンシート2間の密着性が劣っているため、焼成時に引き起こされる内部ストレスによって、デラミネーションや微小クラックなどの構造欠陥が発生しやすい。
【0011】
また、図4に示すような積層体チップ4の変形は、内部電極1を望ましくない状態に不当に変形させる結果を招き、これによって、ショート不良が生じるおそれがある。
【0012】
このような不都合は、積層セラミックインダクタの信頼性を低下させる原因となっている。
【0013】
上述のような問題を解決するため、例えば、図1に示されるように、セラミックグリーンシート2上の内部電極1が形成されていない領域に段差吸収用セラミックグリーン層5を形成し、この段差吸収用セラミックグリーン層5によって、セラミックグリーンシート2上での内部電極1の厚みによる段差を実質的になくすことが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0014】
上述のように、段差吸収用セラミックグリーン層5を形成することによって、図1に示されるように、生の積層体3aを作製したとき、内部電極1が積層方向に比較的多数配列されている部分とそうでない部分との間での厚みの差が実質的に生じなくなり、図2に示すように、得られた積層チップ4aにおいて、図4に示すような望まない変形が生じにくくなる。その結果、前述したようなデラミネーションや微小クラックなどの構造欠陥および内部電極1の変形によるショート不良といった問題を生じにくくすることができ、得られた積層セラミックインダクタの信頼性を高めることができる。
【0015】
しかしながら、このような工法においては、印刷によって形成できる内部電極1の厚みは数十μmが限界であり、それ以上の厚み、例えば、100μmの厚みを得ることができない。印刷を複数回重ねれば内部電極1の厚みを厚くすることは可能であるが、印刷の度に乾燥工程を経ることになり、一回目の印刷によって得た層と、最後の印刷によって得た層とでは、乾燥状態が異なり、このことは積層体内に余分な歪みをもたらすことになる。
【0016】
そこで、ベースフィルムなどの支持体上に、内部電極と段差吸収用のセラミックグリーン層とを形成し、これを支持体上から剥離して、必要な電極厚みとなるだけ積層すれば、いずれの層においても乾燥状態は同じであり、余分な歪みを生じさせることなく、必要な電極厚みを得ることができる。
【0017】
【特許文献1】
特開昭56−94719号公報
【特許文献2】
特開平3−74820号公報
【特許文献3】
特開平9−106925号公報
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
上述の段差吸収用のセラミックグリーン層5は、セラミックグリーンシートと同様の組成を有し、セラミック粉末、有機バインダおよび有機溶剤を含むセラミックペーストをスクリーン印刷等によって付与することによって形成されるものである。
【0019】
かかるセラミックペーストでは、これによって形成される段差吸収用セラミックグリーン層の印刷の形状確保のために、有機バインダの増量や有機溶剤の減量によって固形分濃度を高くしたり、あるいは、増粘剤を添加するなどして高粘度化するということが一般的な考え方である。
【0020】
しかし、かかる高粘度化は、セラミックペーストの糸曳性を増大させ、印刷の掠れや版離れ不良を生じさせることになり、精度のよいスクリーン印刷が困難となる。
【0021】
特に、セラミックグリーンシート上への印刷ではなく、ベースフィルムなどの支持体上への印刷を行なう場合には、セラミックペーストの粘度が高過ぎると印刷掠れが生じ、逆に粘度が低過ぎると、印刷滲みが生じ易く、スクリーン印刷の精度を上げるのは、一層困難である。
【0022】
以上、積層セラミックインダクタに関連して説明してきたが、同様の問題は、積層セラミックインダクタ以外の積層セラミック電子部品においても起こり得るものである。
【0023】
そこで、本発明は、印刷の形状確保を達成しながら、糸曳性を小さくして上述したような各問題を解決し得るペースト、その製造方法およびこのペーストを用いる積層型セラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的としている。
【0024】
【課題を解決するための手段】
本発明では、上述の目的を達成するために、次のように構成している。
【0025】
すなわち、本発明のペーストは、無機粉末、有機バインダおよび有機溶剤を含むペーストであって、前記有機バインダとして分子量分布が高分子量側および低分子量側にそれぞれ極大点を有する熱可塑性樹脂を含んでおり、前記熱可塑性樹脂の前記低分子量側の極大点が、重量平均分子量で10,000〜80,000の範囲にあり、前記高分子量側の極大点が、重量平均分子量で200,000〜800,000の範囲にあるものである。
【0026】
本発明によると、重量平均分子量で200,000〜800,000の範囲の高分子量側に極大点を有する熱可塑性樹脂成分によって、ペーストの高粘度化を図る一方、重量平均分子量で10,000〜80,000の範囲の低分子量側に極大点を有する熱可塑性樹脂成分によって、ペーストの糸曳性を改善することができる。これによって、ペーストの印刷塗膜の保形性を向上させて印刷滲みを防止できるとともに、印刷掠れや版離れ不良を防止して連続印刷性の向上を図ることができる。
【0027】
また、熱可塑性樹脂であるので、熱硬化性樹脂のように印刷したものを加熱硬化させて保形する必要がなく、加熱硬化による収縮もない。
【0028】
本発明の好ましい実施態様においては、前記熱可塑性樹脂が、アクリル系樹脂である。
【0029】
本発明の他の実施態様においては、前記高分子量側に極大点を有する樹脂成分と、前記低分子量側に極大点を有する樹脂成分とを、等しい重量部含んでいる。
【0030】
本発明によると、高分子量側の樹脂成分と低分子量側の樹脂成分とを、等しい重量部含んでいるので、樹脂成分の分子量を選択することによって、ペーストの高粘度化と糸曳性との調整を容易に行なうことができる。
【0031】
本発明の好ましい実施態様においては、前記アクリル系樹脂が、1種類の(メタ)アクリル酸エステルの重合体あるいは2種類以上の(メタ)アクリル酸エステルの共重合体である。
【0032】
本発明によれば、例えば、分子量分布における極大点が低分子量側にある(メタ)アクリル酸エステルの重合体あるいは共重合体と、極大点が高分子量側にある(メタ)アクリル酸エステルの重合体あるいは共重合体とを混合して所望の有機バインダを調製することができる。
【0033】
本発明の好ましい実施態様においては、前記無機粉末がセラミック粉末である。
【0034】
本発明のペーストの製造方法は、本発明のペーストを製造する方法であって、前記セラミック粉末と第1の有機溶剤とを含む1次混合物を分散処理する1次分散工程と、前記1次分散工程を経た前記1次混合物に前記有機バインダを加えた2次混合物を分散処理する2次分散工程と、第2の有機溶剤を、前記1次混合物および/または前記2次混合物に含ませる工程と、前記2次分散工程の後、前記2次混合物を加熱処理することによって、前記第2の有機溶剤よりも低沸点の前記第1の有機溶剤を選択的に除去する除去工程とを備えている。
【0035】
本発明によると、1次分散工程では、有機バインダを未だ加えていないので、低粘度下での分散処理が可能となって無機粉末の分散性を高めることができ、また、2次分散工程では、1次分散工程で得られた無機粉末の高い分散性を維持したまま、有機バインダを十分かつ均一に混合させることができる。さらに、低沸点の第1の有機溶剤の除去が2次分散工程の後に実施されるので、2次分散工程の段階においても、2次混合物の粘度を比較的低くしておくことが可能であり、したがって、分散効率を比較的高く維持しておくことができるとともに、2次分散工程の段階で加えられる有機バインダの溶解性を高めることができる。
【0036】
本発明の積層型セラミック電子部品の製造方法は、セラミックスラリー、導電性ペーストおよび本発明のペーストをそれぞれ準備し、前記セラミックスラリーを成形することによって得られたセラミックグリーンシートと、前記セラミックグリーンシートの主面上にその厚みによる段差をもたらすように部分的に前記導電性ペーストを付与することによって形成された内部回路要素膜と、前記内部回路要素膜の厚みによる段差を実質的になくすように前記セラミックグリーンシートの前記主面上であって前記内部回路要素膜が形成されない領域に前記ペーストを付与することによって形成された段差吸収用グリーン層とを備える複数の複合構造物を作製し、前記複合構造物を積層して生の積層体を作製し、前記生の積層体を焼成するものである。
【0037】
本発明によると、セラミックグリーンシート上の内部回路要素膜が形成されていない領域に、段差吸収用グリーン層を形成するので、セラミックグリーンシート上での内部回路要素膜の厚みによる段差を実質的になくすことができ、不所望な変形が生じにくくなり、これによって、構造欠陥が生じにくく、信頼性の高い積層型セラミック電子部品を提供できる。さらに、段差吸収用グリーン層は、本発明のペーストによって形成されるので、ペースト印刷塗膜の保形性向上ならびに連続印刷性が向上し、歩留まりの向上を図ることができる。
【0038】
また、本発明の積層型セラミック電子部品の製造方法は、セラミックスラリー、導電性ペースト、本発明のペーストおよび剥離剤がコーティングされたベースフィルムをそれぞれ準備し、前記ベースフィルムの主面上にその厚みによる段差をもたらすように部分的に前記導電性ペーストを付与することによって形成された内部回路要素膜と、前記内部回路要素膜の厚みによる段差を実質的になくすように前記ベースフィルムの前記主面上であって前記内部回路要素膜が形成されていない領域に前記ペーストを付与することによって形成された段差吸収用グリーン層とを備える複数の複合構造物を作製し、前記複合構造物を前記ベースフィルムから剥離して、前記セラミックスラリーを成形して得られたセラミックグリーンシート上に積層して生の積層体を作製し、前記生の積層体を焼成するものである。
【0039】
本発明によると、ベースフィルム上の内部回路要素膜が形成されていない領域に、段差吸収用グリーン層を形成し、ベースフィルムから剥離して積層するので、内部回路要素膜の厚みによる段差を実質的になくすことができ、不所望な変形が生じにくくなり、これによって、構造欠陥が生じにくく、信頼性の高い積層型セラミック電子部品を提供できる。しかも、ベースフィルム上に内部回路要素膜と段差吸収用グリーン層とを形成し、これをベースフィルムから剥離して、必要な内部回路要素膜の厚みとなるように積層するので、ベースフィルム上に、内部回路要素膜と段差吸収用グリーン層とを形成する方法に比べて、余分な歪みを生じさせることなく、必要な内部回路要素膜の厚みを得ることができ、これによって、積層型セラミック電子部品の内部回路断面積の大面積化の要求に十分に対応できる。
【0040】
さらに、段差吸収用グリーン層は、本発明のペーストによって形成されるので、ペースト印刷塗膜の保形性向上ならびに連続印刷性が向上し、歩留まりの向上を図ることができる。
【0041】
本発明の一実施態様においては、前記セラミックスラリーおよび前記ペーストにそれぞれ含まれるセラミック粉末は、実質的に同じ組成である。
【0042】
ここで、実質的に同じ組成であるとは、主成分が同じであることをいう。
【0043】
本発明によると、段差吸収用グリーン層とセラミックグリーンシートとの間で焼結性を一致させることができる。
【0044】
本発明の好ましい実施態様においては、前記セラミックスラリーおよび前記ペーストにそれぞれ含まれるセラミック粉末が、磁性体セラミック粉末である。
【0045】
本発明によると、積層セラミックインダクタに好適に実施できる。
【0046】
本発明の他の実施態様においては、前記内部回路要素膜は、コイルを形成するように配置されたコイル導体膜である。
【0047】
本発明によると、積層セラミックインダクタのコイル導体膜の厚みを、所望の厚みにすることができ、積層セラミックインダクタの低直流抵抗化を図ることができる。
【0048】
本発明の積層型セラミック電子部品は、本発明の製造方法によって得られるものである。
【0049】
本発明によると、構造欠陥が生じにくく、信頼性の高い積層型セラミック電子部品を得ることができる。
【0050】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、積層セラミックインダクタの製造方法に適用して説明する。この実施の形態の積層セラミックインダクタの製造方法は、上述の図1および図2を参照しながら説明することができる。
【0051】
この実施形態の製造方法を実施するにあたり、セラミックグリーンシート2の成形ためのセラミックスラリー、内部電極1の形成のための導電性ペーストおよび段差吸収用セラミックグリーン層5の形成のための本発明のセラミックペーストがそれぞれ準備される。
【0052】
セラミックスラリーからセラミックグリーンシート2を得るため、剥離剤としてのシリコン樹脂などによってコーティングされた、例えば、ポリエステルフィルムのような支持体としてのベースフィルム(図示せず)上で、セラミックスラリーがドクターブレード法などによって成形され、次いで乾燥される。セラミックグリーンシート2の厚みは、例えば、数10μmとされる。
【0053】
剥離剤としてのシリコン樹脂などによってコーティングされた、例えば、ポリエステルフィルムのようなベースフィルムの主面上には、コイル状に延びるコイル導体膜としての内部電極1が例えば、数μm〜30μmの厚みをもって形成される。また、コイル状の内部電極1の端部には、ビアホール導体(図示せず)が形成される。なお、コイル導体膜およびビアホール導体は、例えば、ベースフィルムに、ビアホール導体のための貫通孔をレーザまたはパンチングなどの方法により形成した後、コイル導体膜およびビアホール導体となる導電性ペーストを、スクリーン印刷等によって付与し、これを乾燥させることによって形成される。内部電極1は、それぞれ所定の厚みを有していて、したがって、ベースフィルム上には、この厚みによる段差がもたらされる。
【0054】
次に、上述した内部電極1の厚みによる段差を実質的になくすように、支持体としてのベースフィルムの主面上であって、内部電極1が形成されていない領域に、段差吸収用セラミックグリーン層5が形成される。段差吸収用セラミックグリーン層5は、内部電極1のネガティブパターンをもって、上述のセラミックペーストをスクリーン印刷などによって付与することにより形成され、次いで乾燥される。
【0055】
このセラミックペーストは、本発明に係るものであって、その組成および製法などの詳細は、後述する。
【0056】
段差吸収用セラミックグリーン層5は、図1に示すように、内部電極1の周縁部において、内部電極1の一部を覆うように形成されることが好ましい。
【0057】
また、上述の説明では、内部電極1を形成した後に段差吸収用セラミックグリーン層5を形成したが、逆に、段差吸収用セラミックグリーン層5を形成した後に内部電極1を形成するようにしてもよい。
【0058】
また、上述の説明では、支持体としては、剥離剤としてシリコン樹脂などによってコーティングされた、例えば、ポリエステルフィルムのようなベースフィルムなどを用いているが、この支持体としては、上述したセラミックグリーンシート2を用いてもよい。
【0059】
上述のように、支持体上に内部電極1および段差吸収用セラミックグリーンシート層5が形成された複合構造物は、複数用意され、これら複合構造物は、ベースフィルムより剥離された後、適当な大きさに切断され、所定の枚数だけ積み重ねられ、その上下に内部電極1および段差吸収用セラミックグリーン層5が形成されていないセラミックグリーンシートを積み重ねることによって、図1に一部を示すような生の積層体3aが作製される。
【0060】
この生の積層体3aは、積層方向にプレスされた後、図2に示すように、個々の積層セラミックインダクタのための積層体チップ4aとなるべき大きさに切断され、次いで、脱バインダ工程を経た後、焼成工程に付され、最終的に外部電極が形成されることによって、積層インダクタが完成される。
【0061】
上述のように、段差吸収用セラミックグリーン層5を形成することによって、図1に一部を示すように、生の積層体3aにおいて、内部電極1が位置する部分とそうでない部分との間、あるいは内部電極1が積層方向に比較的多数配列されている部分とそうでない部分との間での厚みの差が実質的に生じなくなり、図2に示すように、積層体チップ4aにおいて、望まれない変形が生じにくくなる。その結果、得られた積層セラミックインダクタにおいて、デラミネーションや微小クラックなどの構造欠陥およびショート不良といった問題を生じにくくすることができる。
【0062】
この実施形態において、セラミックグリーンシート2の成形のためのセラミックスラリーは、セラミック粉末と、有機溶剤と、有機バインダとを含んでいる。
【0063】
また、内部電極1の形成のための導電性ペーストは、導電性粉末と、有機溶剤と、有機バインダとを含んでいる。
【0064】
本発明は、段差吸収用セラミックグリーン層5を形成するためのセラミックペーストに特徴を有している。
【0065】
このセラミックペーストは、セラミック粉末と、有機溶剤と、有機バインダとを含んでいる。
【0066】
有機バインダは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)において、分子量分布に二箇所の極大点を有する熱可塑性樹脂を含むものであり、この熱可塑性樹脂としては、アクリル系樹脂が好ましい。
【0067】
また、二箇所の極大点の一方の極大点は、重量平均分子量で、10,000〜80,000の低分子量側にあり、他方の極大点が、重量平均分子量で、200,000〜800,000の高分子量側にあるのが好ましい。
【0068】
この熱可塑性樹脂のセラミック粉末100重量部に対する含有量は、例えば、2〜20重量部、好ましくは5〜15重量部である。
【0069】
また、高分子量側の樹脂成分と低分子量側の樹脂成分とは、等しい重量部であるのが好ましいが、異なる重量部としてもよい。
【0070】
アクリル系樹脂としては、1種類の(メタ)アクリル酸エステルの重合体あるいは2種類以上の(メタ)アクリル酸エステルの共重合体が挙げられる。
【0071】
上述のように分子量分布の低分子量側および高分子量側の二箇所に極大点を有するためには、例えば、低分子量側に極大点を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合体と、高分子量側に極大点を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合体とを混合し、あるいは、低分子量側に極大点を有する(メタ)アクリル酸エステルの共重合体と、高分子量側に極大点を有する(メタ)アクリル酸エステルの共重合体とを混合し、あるいは、低分子量側または高分子量側に極大点を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合体と、高分子量側または低分子量側に極大点を有する(メタ)アクリル酸エステルの共重合体とを混合すればよい。
【0072】
また、(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ノルマルプロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ノルマルブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャルブチル(メタ)リレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等がある。
【0073】
次に、本発明のセラミックペーストの製造方法について説明する。
【0074】
本発明のセラミックペーストの製造方法では、少なくともセラミック粉末と第1の有機溶剤とを含む1次混合物を分散処理する1次分散工程と、前記1次分散工程を経た前記1次混合物に少なくとも上述の有機バインダを加えた2次混合物を分散処理する2次分散工程と、第2の有機溶剤を、前記1次混合物および/または前記2次混合物に含ませる工程と、前記2次分散工程の後、前記2次混合物を加熱処理することによって、前記第2の有機溶剤よりも低沸点の前記第1の有機溶剤を選択的に除去する除去工程とを備えるものてある。
【0075】
このように、1次分散工程では、有機バインダを未だ加えていないので、低粘度下での分散処理が可能となり、これによって、セラミック粉末の分散性を高めることが容易である。この1次分散工程では、セラミック粉末の表面に吸着している空気が低沸点の第1の有機溶剤で置換され、セラミック粉末を低沸点の第1の有機溶剤で十分に濡らした状態とすることができるとともに、セラミック粉末の凝集状態を十分に解砕することができる。
【0076】
また、2次分散工程では、上述のように、1次分散工程で得られたセラミック粉末の高い分散性を維持したまま、有機バインダを十分かつ均一に混合させることができ、また、セラミック粉末のさらなる粉砕効果も期待できる。
【0077】
また、低沸点の第1の有機溶剤の除去が2次分散工程の後に実施されるので、2次分散工程の段階においても、2次混合物の粘度を比較的低くしておくことが可能であり、したがって、分散効率を比較的高く維持しておくことができるとともに、2次分散工程の段階で加えられる有機バインダの溶解性を高めることができる。
【0078】
なお、上述した低沸点の第1の有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、トルエン、ベンゼン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸ブチル、およびこれらの混合物を用いることができる。
【0079】
また、第2の有機溶剤としては、例えば、ジイソプロピルケトン、メチルセルソルブアセテート、セルソルブアセテート、ブチルセルソルブ、シクロヘキサノール、パイン油、ジヒドロテルピネオール、イソホロン、テルピネオール、ジプロピレングリコール、ジメチルフタレート、ブチルカルビトールおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0080】
セラミックグリーンシート2を成形するためのセラミックスラリーに含まれるセラミック粉末は、段差吸収用セラミックグリーン層5のためのセラミックペーストに含まれるセラミック粉末と実質的に同じ組成を有するものであることが好ましい。段差吸収用セラミックグリーン層5とセラミックグリーンシート2との間で焼結性を一致させるためである。
【0081】
なお、実質的に同じ組成を有するとは、主成分が同じであることをいう。
【0082】
セラミック粉末としては、代表的なものとしてアルミナ、ジルコニア、マグネシア、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト−マンガンなどの酸化物系微粉末、炭化ケイ素、窒化ケイ素、サイアロンなどの非酸化物系セラミック微粉末が挙げられる。粉末粒径としては平均5μm以下、好ましくは1μmの球径、粉砕状のものが使用される。
【0083】
以下に、この発明を、実施例に基づいて、より具体的に説明する。
【0084】
【実施例】
(磁性体セラミック粉末の準備)
酸化第二鉄49.0mol%、酸化亜鉛29.0mol%、酸化ニッケル14.0mol%、酸化銅8.0mol%となるように秤量し、ボールミルを用いて湿式混合した後、脱水乾燥させた。750℃で1時間仮焼した後、粉砕することにより磁性体セラミック粉末を得た。
【0085】
(セラミックスラリーの準備およびセラミックグリーンシートの作製)
先に準備したセラミック粉末100重量部と、積水化学製ポリビニルブチラール「BMS(中重合品;ブチラール基70mol%)」7重量部と、可塑剤としてのDOP(フタル酸ジオクチル)3重量部と、メチルエチルケトン30重量部と、エタノール20重量部と、トルエン20重量部とを直径1mmのジルコニア製玉石600重量部とともにボールミルに投入し、20時間湿式混合を行って、セラミックスラリーを得た。
【0086】
そして、このセラミックスラリーに対して、ドクターブレード法を適用して、厚さ約10μmのセラミックグリーンシートを成形した。乾燥は、80℃で、5分間行った。
【0087】
(導電性ペーストの準備)
内部電極ペーストは、Ag/Pd=70/30の金属粉末100重量部に、エチルセルロース4重量部と、アルキッド樹脂2重量部と、Ag金属レジネート3重量部(Agとして約17.5重量部)と、ブチルカルビトールアセテート35重量部とを、3本ロールで混練した後、同じ有機溶剤35重量部を加えて粘度調整を行って、導電性ペーストを得た。
【0088】
(段差吸収用セラミックグリーン層のためのセラミックペーストの準備)
〔実施例1〜5〕
実施例1〜5は、有機セラミックペーストの製造において用いられる有機バインダの分子量分布が連続印刷性に及ぼす効果を確認するために実施したものである。
【0089】
先に準備したセラミック粉末100重量部と、低沸点の第1の有機溶剤としてのアセトン60重量部と、直径1mmのジルコニア製玉石600重量部とを、ボールミルに投入し、4時間湿式混合を行った。
【0090】
続いて、同じポットに、分子量が10000〜80000の範囲の10000(実施例1)、40000(実施例2)、80000(実施例3)、10000(実施例4)、80000(実施例5)にそれぞれ極大点を有する低分子量(メタ)アクリル樹脂のいずれか1種類を6重量部と、分子量が200000〜800000の範囲の200000(実施例1)、400000(実施例2)、400000(実施例3)、800000(実施例4)、800000(実施例5)にそれぞれ極大点を有する高分子量(メタ)アクリル樹脂のいずれか1種類を6重量部と、沸点230℃の第2の有機溶剤としてのテルピネオール48重量部とを添加し、さらに、16時間混合することによって、セラミックスラリー混合物を得た。
【0091】
なお、この実施例1〜5および後述の比較例1〜6では、(メタ)アクリル樹脂として、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートとメトキシトリエチレングリコールアクリレートとの共重合体を使用した。
【0092】
次いで、上述のセラミックスラリー混合物を、60℃の温浴中でエバポレータにより30分間減圧蒸留することにより、アセトンを完全に除去して、実施例1〜5のセラミックペーストを得た。
【0093】
〔比較例1〕
先に準備したセラミック粉末100重量部と、低沸点の第1の有機溶剤としてのアセトン60重量部と、直径1mmのジルコニア製玉石600重量部とを、ボールミルに投入し、4時間湿式混合を行った。
【0094】
続いて、同じポットに、分子量が400000、すなわち、400000に極大点を有する高分子量(メタ)アクリル樹脂を12重量部と、沸点230℃のテルピネオール48重量部とを添加し、さらに、16時間混合することによって、セラミックスラリー混合物を得た。
【0095】
次いで、上述のセラミックスラリー混合物を、60℃の温浴中でエバポレータにより30分減圧蒸留することにより、アセトンを完全に除去して、セラミックペーストを得た。
【0096】
〔比較例2〕
先に準備したセラミック粉末100重量部と、低沸点の第1の有機溶剤としてのアセトン60重量部と、直径1mmのジルコニア製玉石600重量部とを、ボールミルに投入し、4時間湿式混合を行った。
【0097】
続いて、同じポットに、分子量が40000、すなわち、40000に極大点を有する低分子量(メタ)アクリル樹脂を12重量部と、沸点230℃のテルピネオール48重量部とを添加し、さらに、16時間混合することによって、セラミックスラリー混合物を得た。
【0098】
次いで、上述のセラミックスラリー混合物を、60℃の温浴中でエバポレータにより30分減圧蒸留することにより、アセトンを完全に除去して、セラミックペーストを得た。
【0099】
〔比較例3〕
先に準備したセラミック粉末100重量部と、低沸点の第1の有機溶剤としてのアセトン60重量部と、直径1mmのジルコニア製玉石600重量部とを、ボールミルに投入し、4時間湿式混合を行った。
【0100】
続いて、同じポットに、分子量の異なる(200000および800000)2つの高分子量(メタ)アクリル樹脂、すなわち、
200000に極大点を有する高分子量(メタ)アクリル樹脂と、800000に極大点を有する高分子量(メタ)アクリル樹脂との各々6重量部と、沸点230℃のテルピネオール48重量部とを添加し、さらに、16時間混合することによって、セラミックスラリー混合物を得た。
【0101】
次いで、上述のセラミックスラリー混合物を、60℃の温浴中でエバポレータにより30分減圧蒸留することにより、アセトンを完全に除去して、セラミックペーストを得た。
【0102】
〔比較例4〕
先に準備したセラミック粉末100重量部と、低沸点有機溶剤としてのアセトン60重量部と、直径1mmのジルコニア製玉石600重量部とを、ボールミルに投入し、4時間湿式混合を行った。
【0103】
続いて、同じポットに、分子量の異なる(10000および80000)2つの低分子量(メタ)アクリル樹脂、すなわち、10000に極大点を有する低分子量(メタ)アクリル樹脂と、80000に極大点を有する高分子量(メタ)アクリル樹脂との各々6重量部と、沸点230℃のテルピネオール48重量部とを添加し、さらに、16時間混合することによって、セラミックスラリー混合物を得た。
【0104】
次いで、上述のセラミックスラリー混合物を、60℃の温浴中でエバポレータにより30分減圧蒸留することにより、アセトンを完全に除去して、セラミックペーストを得た。
【0105】
〔比較例5〕
先に準備したセラミック粉末100重量部と、低沸点有機溶剤としてのアセトン60重量部と、直径1mmのジルコニア製玉石600重量部とを、ボールミルに投入し、4時間湿式混合を行った。
【0106】
続いて、同じポットに、分子量が40000、すなわち、40000に極大点を有する低分子量(メタ)アクリル樹脂を6重量部と、分子量が1000000、すなわち、1000000に極大点を有する高分子量(メタ)アクリル樹脂を6重量部と、沸点230℃のテルピネオール48重量部とを添加し、さらに、16時間混合することによって、セラミックスラリー混合物を得た。
【0107】
次いで、上述のセラミックスラリー混合物を、60℃の温浴中でエバポレータにより30分減圧蒸留することにより、アセトンを完全に除去して、セラミックペーストを得た。
【0108】
〔比較例6〕
先に準備したセラミック粉末100重量部と、低沸点有機溶剤としてのアセトン60重量部と、直径1mmのジルコニア製玉石600重量部とを、ボールミルに投入し、4時間湿式混合を行った。
【0109】
続いて、同じポットに、分子量が7000、すなわち、7000に極大点を有する低分子量(メタ)アクリル樹脂を6重量部と、分子量が400000、すなわち、400000に極大点を有する高分子量(メタ)アクリル樹脂を6重量部と、沸点230℃のテルピネオール48重量部とを添加し、さらに、16時間混合することによって、セラミックスラリー混合物を得た。
【0110】
次いで、上述のセラミックスラリー混合物を、60℃の温浴中でエバポレータにより30分減圧蒸留することにより、アセトンを完全に除去して、セラミックペーストを得た。
【0111】
(積層インダクタの作製)
実施例1〜5および比較例1,2の各々について、シート積層後にコイルが形成できるように、先に用意したベースフィルムの所定の位置にレーザあるいはパンチングなどの方法で貫通孔を形成した。このフィルムの主面上に内部電極を形成するため、導電性ペーストおよび段差吸収用磁性体層をスクリーン印刷し、80℃で10分間乾燥した。内部電極および段差吸収用磁性体層の各厚みは15μmになるようにした。得られた複合シートを電極断面積が焼成後に100μmとなるように、圧着剥離により3枚積層した磁性体グリーンシート上に圧着剥離により8枚重ね、重ねた積層体上に磁性体グリーンシートを圧着剥離により3枚重ねた。この積層体上に、内部電極がコイルを形成するように複合シートの積層と磁性体グリーンシートの積層を繰り返して、内部電極が3.5ターンのコイルを形成した生の積層体を作製した。
【0112】
次に、焼成後において長さ3.2mm×幅1.6mm×厚み1.6mmの寸法となるように、複数の積層体チップにカットし、400℃で2時間加熱して有機バインダを除去した後、900℃で90分焼成した。
【0113】
次に、得られた焼結体チップをバレルに投入し、端面研磨を施した後、焼結体の両端部に主成分が銀である外部電極を設けて積層インダクタを完成させた。
【0114】
(特性の評価)
上述した試料の各々に係る段差吸収用セラミックグリーン層について、各種特性を評価した。その結果が表1および表2の「特性評価結果」に示されている。表1および表2における特性評価は、次のように行った。
【0115】
「固形分」:セラミックペースト約1gを精秤し、熱対流式オーブンにおいて、130℃で3時間放置した後の重量から算出した。
【0116】
「粘度」:セラミックペーストの粘度を東京計器製のE型粘度計を用いて、20℃において、1.0rpmの回転を付与して測定した。
【0117】
「分散度」:セラミック粉末の粘度分布を光回折式粒度分布測定装置を用いて測定し、得られた粒度分布から算出した。すなわち、先に準備したセラミック粉末を、超音波ホモジナイザを用いて水中で分散させ、粒径がこれ以上小さくならないところまで超音波を印加し、そのときのD50、D90の粒径を記録して、これを限界粒径とした。他方、セラミックペーストをトルエン/エタノール中で希釈し、粒度分布のD50、D90の粒径を記録して、これをペーストの粒径とした。そして、
分散度=(ペーストの粒径/限界粒径)−1
の式に基づき、分散度を算出した。この分散度は、数値が+であれば、値が0に近いほど分散性が良いことを示し、数値が−であれば、絶対値が大きいほど分散性が良いことを示している。
【0118】
「糸曳性」:同じ材質でできた同じ形状で同じ容量の容器を必要数用意し、そこへ液面が同じ高さになるように前記セラミックペーストを入れ、そこへ先端が細くなった針のようなものを一定量含浸させ、それを一定速度で引き上げることにより、セラミックペーストからの糸曳を発生させ、その糸曳が切れる高さを測定することにより、セラミックペーストの糸曳性を評価した。この評価では、糸曳が切れる高さが低い方が糸曳性が良いことを示している。
【0119】
「スクリーン印刷性」:スクリーン印刷時において、スクリーンからの剥離が良好に進行し、連続印刷において全く問題がない場合を二重丸、連続印刷でほとんど問題がない場合を一重丸、連続印刷でやや問題がある場合を三角、連続印刷が不可能な場合を×印または××印でそれぞれ示した。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
表1および表2に示されるように、実施例1〜5は、比較例1〜6に比べて、優れた特性を有している。
【0122】
高分子量樹脂成分を含んでいない比較例2,4では、セラミクペーストの粘度が低過ぎてスクリーン印刷における形状確保が困難となって、印刷滲みが生じている。一方、低分子量樹脂成分を含んでいない比較例1,3は、セラミックペーストの粘度が高過ぎてスクリーン印刷における版離れ不良が生じている。
【0123】
これに対して、所要の範囲の分子量を有する高分子量樹脂成分および低分子量樹脂成分を含む実施例1〜5では、セラミックペーストの粘度が適切な範囲となって、印刷滲みや版離れ不良が生じていないことが分かる。
【0124】
上述の実施の形態では、高分子量側と低分子量側とにそれぞれ一つずつの二つの極大点を有していたけれども、本発明の他の実施の形態として、三つ以上の極大点を有する構成としてもよい。
【0125】
以上、この発明に係るセラミックペーストに含まれるセラミック粉末として、磁性体セラミック粉末および積層インダクタが用いられる場合について説明したが、この発明は、用いられるセラミック粉末の電気的特性に左右されるものではなく、したがって、例えば、絶縁体または誘電体セラミック粉末あるいは圧電体セラミック粉末などを用いても、同様の効果を期待できるセラミックペーストを得ることができる。
【0126】
なお、ペーストとしては、本実施の形態のような段差吸収用のセラミックペーストとして用いられるだけでなく、例えば、チップ部品の外部電極用導電性ペースト等として用いることができる。
【0127】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、段差吸収用グリーン層の形成に好適なペーストの有機バインダは、分子量分布の高分子量側および低分子量側のそれぞれに極大点を有する熱可塑性樹脂を含むので、高分子量側の樹脂成分によってペーストの高粘度化を図ることができ、また、低分子量側の樹脂成分によってペーストの糸曳性の改善を図ることができる。
【0128】
これによって、積層型セラミック電子部品を製造するために用いられるペースト印刷塗膜の保形性の向上および連続印刷性の向上を図ることができ、歩留まりの向上を実現することができる。また、さらなる内部電極の厚肉化に対しても構造欠陥が生じにくく、信頼性の高い積層型セラミック電子部品が実現でき、積層セラミックインダクタに適用した場合、積層セラミックインダクタの低直流抵抗化を有利に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一つの実施の形態に係る生の積層体の断面図である。
【図2】図1の実施の形態に係る積層体チップの断面図である。
【図3】従来例の生の積層体の断面図である。
【図4】従来例の積層体チップの断面図である。
【符号の説明】
1 内部電極(内部回路要素膜)
2 セラミックグリーンシート
3,3a 生の積層体
4,4a 積層体チップ
5 段差吸収用セラミックグリーン層
【発明の属する技術分野】
本発明は、ペースト、その製造方法、積層型セラミック電子部品およびその製造方法に関し、更に詳しくは、ベースフィルム上への連続印刷性に優れたペースト、その製造方法、積層型セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、積層セラミックインダクタのような積層型セラミック電子部品を製造する場合、複数のセラミックグリーンシートが用意され、これらセラミックグリーンシートが積み重ねられる。特定のセラミックグリーンシート上には、得ようとする積層型セラミック電子部品の機能に応じて、コンデンサ、抵抗、インダクタ、バリスタ、フィルタなどを構成するための導体膜、抵抗体膜のような内部回路要素膜が形成されている。
【0003】
近年、移動体通信機器をはじめとする電子機器は、小型化かつ軽量化が進み、このような電子機器において、例えば、積層型セラミック電子部品が回路素子として用いられる場合、このような電子部品に対しても、小型化、薄型化、軽量化が強く要求されるようになっている。例えば、積層セラミックインダクタの場合には、小型化、薄型化かつ低直流抵抗化の要求が高まっている。
【0004】
積層セラミックインダクタを製造しようとする場合、典型的には、磁性体セラミック粉末、有機バインダ、可塑剤および有機溶剤を混合してセラミックスラリーを作製し、このセラミックスラリーを剥離剤としてのシリコン樹脂などがコーティングされた、例えば、ポリエステルフィルムのような支持体となるベースフィルム上で、ドクターブレード法などを適用して、例えば、厚さ数10μmのシート状となるように成形することにより、セラミックグリーンシートが作製され、次で、このセラミックグリーンシートが乾燥される。
【0005】
次に、上述したセラミックグリーンシートの主面上に、互いに間隔を隔てた複数のパターンをもって、導電性ペーストをスクリーン印刷によって付与する。これを乾燥することにより、内部回路要素膜としての内部電極がセラミックグリーンシート上に形成される。
【0006】
次に、セラミックグリーンシートが支持体から剥離され、適当な大きさに切断された後、図3に一部示すように、所定の枚数だけセラミックグリーンシート2が積み重ねられ、さらに、この積み重ねの上下に内部電極1を形成していないセラミックグリーンシートが所定の枚数だけ積み重ねられることによって、生の積層体3が作製される。
【0007】
この生の積層体3は、積層方向にプレスされた後、図4に示すように、個々の積層セラミックインダクタのための積層体チップ4となるべき大きさに切断され、最終的に外部電極が形成されることによって、積層セラミックインダクタが完成される。
【0008】
このような積層セラミックインダクタにおいて、その小型化、薄型化および低直流抵抗化に対する要求を満足させるためには、内部電極1の断面積の大面積化を図ることが必要となってくる。
【0009】
しかしながら、上述のような断面積の大面積化が進めば進むほど、内部電極1の各厚みの累積の結果、内部電極1の位置する部分とそうでない部分との間、あるいは、内部電極1が積層方向に比較的多数配列されている部分とそうでない部分との間での厚みの差がより顕著になり、例えば、図4に示すように、得られた積層体チップ4の外観に関しては、その一方主面が凸状となるような変形が生じてしまう。
【0010】
積層体チップ4において図4に示すような変形が生じていると、内部電極1が位置していない部分あるいは比較的少数の内部電極1しか積層方向に配列されていない部分においては、プレス工程の際に比較的大きな歪みがもたらされており、また、セラミックグリーンシート2間の密着性が劣っているため、焼成時に引き起こされる内部ストレスによって、デラミネーションや微小クラックなどの構造欠陥が発生しやすい。
【0011】
また、図4に示すような積層体チップ4の変形は、内部電極1を望ましくない状態に不当に変形させる結果を招き、これによって、ショート不良が生じるおそれがある。
【0012】
このような不都合は、積層セラミックインダクタの信頼性を低下させる原因となっている。
【0013】
上述のような問題を解決するため、例えば、図1に示されるように、セラミックグリーンシート2上の内部電極1が形成されていない領域に段差吸収用セラミックグリーン層5を形成し、この段差吸収用セラミックグリーン層5によって、セラミックグリーンシート2上での内部電極1の厚みによる段差を実質的になくすことが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0014】
上述のように、段差吸収用セラミックグリーン層5を形成することによって、図1に示されるように、生の積層体3aを作製したとき、内部電極1が積層方向に比較的多数配列されている部分とそうでない部分との間での厚みの差が実質的に生じなくなり、図2に示すように、得られた積層チップ4aにおいて、図4に示すような望まない変形が生じにくくなる。その結果、前述したようなデラミネーションや微小クラックなどの構造欠陥および内部電極1の変形によるショート不良といった問題を生じにくくすることができ、得られた積層セラミックインダクタの信頼性を高めることができる。
【0015】
しかしながら、このような工法においては、印刷によって形成できる内部電極1の厚みは数十μmが限界であり、それ以上の厚み、例えば、100μmの厚みを得ることができない。印刷を複数回重ねれば内部電極1の厚みを厚くすることは可能であるが、印刷の度に乾燥工程を経ることになり、一回目の印刷によって得た層と、最後の印刷によって得た層とでは、乾燥状態が異なり、このことは積層体内に余分な歪みをもたらすことになる。
【0016】
そこで、ベースフィルムなどの支持体上に、内部電極と段差吸収用のセラミックグリーン層とを形成し、これを支持体上から剥離して、必要な電極厚みとなるだけ積層すれば、いずれの層においても乾燥状態は同じであり、余分な歪みを生じさせることなく、必要な電極厚みを得ることができる。
【0017】
【特許文献1】
特開昭56−94719号公報
【特許文献2】
特開平3−74820号公報
【特許文献3】
特開平9−106925号公報
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
上述の段差吸収用のセラミックグリーン層5は、セラミックグリーンシートと同様の組成を有し、セラミック粉末、有機バインダおよび有機溶剤を含むセラミックペーストをスクリーン印刷等によって付与することによって形成されるものである。
【0019】
かかるセラミックペーストでは、これによって形成される段差吸収用セラミックグリーン層の印刷の形状確保のために、有機バインダの増量や有機溶剤の減量によって固形分濃度を高くしたり、あるいは、増粘剤を添加するなどして高粘度化するということが一般的な考え方である。
【0020】
しかし、かかる高粘度化は、セラミックペーストの糸曳性を増大させ、印刷の掠れや版離れ不良を生じさせることになり、精度のよいスクリーン印刷が困難となる。
【0021】
特に、セラミックグリーンシート上への印刷ではなく、ベースフィルムなどの支持体上への印刷を行なう場合には、セラミックペーストの粘度が高過ぎると印刷掠れが生じ、逆に粘度が低過ぎると、印刷滲みが生じ易く、スクリーン印刷の精度を上げるのは、一層困難である。
【0022】
以上、積層セラミックインダクタに関連して説明してきたが、同様の問題は、積層セラミックインダクタ以外の積層セラミック電子部品においても起こり得るものである。
【0023】
そこで、本発明は、印刷の形状確保を達成しながら、糸曳性を小さくして上述したような各問題を解決し得るペースト、その製造方法およびこのペーストを用いる積層型セラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的としている。
【0024】
【課題を解決するための手段】
本発明では、上述の目的を達成するために、次のように構成している。
【0025】
すなわち、本発明のペーストは、無機粉末、有機バインダおよび有機溶剤を含むペーストであって、前記有機バインダとして分子量分布が高分子量側および低分子量側にそれぞれ極大点を有する熱可塑性樹脂を含んでおり、前記熱可塑性樹脂の前記低分子量側の極大点が、重量平均分子量で10,000〜80,000の範囲にあり、前記高分子量側の極大点が、重量平均分子量で200,000〜800,000の範囲にあるものである。
【0026】
本発明によると、重量平均分子量で200,000〜800,000の範囲の高分子量側に極大点を有する熱可塑性樹脂成分によって、ペーストの高粘度化を図る一方、重量平均分子量で10,000〜80,000の範囲の低分子量側に極大点を有する熱可塑性樹脂成分によって、ペーストの糸曳性を改善することができる。これによって、ペーストの印刷塗膜の保形性を向上させて印刷滲みを防止できるとともに、印刷掠れや版離れ不良を防止して連続印刷性の向上を図ることができる。
【0027】
また、熱可塑性樹脂であるので、熱硬化性樹脂のように印刷したものを加熱硬化させて保形する必要がなく、加熱硬化による収縮もない。
【0028】
本発明の好ましい実施態様においては、前記熱可塑性樹脂が、アクリル系樹脂である。
【0029】
本発明の他の実施態様においては、前記高分子量側に極大点を有する樹脂成分と、前記低分子量側に極大点を有する樹脂成分とを、等しい重量部含んでいる。
【0030】
本発明によると、高分子量側の樹脂成分と低分子量側の樹脂成分とを、等しい重量部含んでいるので、樹脂成分の分子量を選択することによって、ペーストの高粘度化と糸曳性との調整を容易に行なうことができる。
【0031】
本発明の好ましい実施態様においては、前記アクリル系樹脂が、1種類の(メタ)アクリル酸エステルの重合体あるいは2種類以上の(メタ)アクリル酸エステルの共重合体である。
【0032】
本発明によれば、例えば、分子量分布における極大点が低分子量側にある(メタ)アクリル酸エステルの重合体あるいは共重合体と、極大点が高分子量側にある(メタ)アクリル酸エステルの重合体あるいは共重合体とを混合して所望の有機バインダを調製することができる。
【0033】
本発明の好ましい実施態様においては、前記無機粉末がセラミック粉末である。
【0034】
本発明のペーストの製造方法は、本発明のペーストを製造する方法であって、前記セラミック粉末と第1の有機溶剤とを含む1次混合物を分散処理する1次分散工程と、前記1次分散工程を経た前記1次混合物に前記有機バインダを加えた2次混合物を分散処理する2次分散工程と、第2の有機溶剤を、前記1次混合物および/または前記2次混合物に含ませる工程と、前記2次分散工程の後、前記2次混合物を加熱処理することによって、前記第2の有機溶剤よりも低沸点の前記第1の有機溶剤を選択的に除去する除去工程とを備えている。
【0035】
本発明によると、1次分散工程では、有機バインダを未だ加えていないので、低粘度下での分散処理が可能となって無機粉末の分散性を高めることができ、また、2次分散工程では、1次分散工程で得られた無機粉末の高い分散性を維持したまま、有機バインダを十分かつ均一に混合させることができる。さらに、低沸点の第1の有機溶剤の除去が2次分散工程の後に実施されるので、2次分散工程の段階においても、2次混合物の粘度を比較的低くしておくことが可能であり、したがって、分散効率を比較的高く維持しておくことができるとともに、2次分散工程の段階で加えられる有機バインダの溶解性を高めることができる。
【0036】
本発明の積層型セラミック電子部品の製造方法は、セラミックスラリー、導電性ペーストおよび本発明のペーストをそれぞれ準備し、前記セラミックスラリーを成形することによって得られたセラミックグリーンシートと、前記セラミックグリーンシートの主面上にその厚みによる段差をもたらすように部分的に前記導電性ペーストを付与することによって形成された内部回路要素膜と、前記内部回路要素膜の厚みによる段差を実質的になくすように前記セラミックグリーンシートの前記主面上であって前記内部回路要素膜が形成されない領域に前記ペーストを付与することによって形成された段差吸収用グリーン層とを備える複数の複合構造物を作製し、前記複合構造物を積層して生の積層体を作製し、前記生の積層体を焼成するものである。
【0037】
本発明によると、セラミックグリーンシート上の内部回路要素膜が形成されていない領域に、段差吸収用グリーン層を形成するので、セラミックグリーンシート上での内部回路要素膜の厚みによる段差を実質的になくすことができ、不所望な変形が生じにくくなり、これによって、構造欠陥が生じにくく、信頼性の高い積層型セラミック電子部品を提供できる。さらに、段差吸収用グリーン層は、本発明のペーストによって形成されるので、ペースト印刷塗膜の保形性向上ならびに連続印刷性が向上し、歩留まりの向上を図ることができる。
【0038】
また、本発明の積層型セラミック電子部品の製造方法は、セラミックスラリー、導電性ペースト、本発明のペーストおよび剥離剤がコーティングされたベースフィルムをそれぞれ準備し、前記ベースフィルムの主面上にその厚みによる段差をもたらすように部分的に前記導電性ペーストを付与することによって形成された内部回路要素膜と、前記内部回路要素膜の厚みによる段差を実質的になくすように前記ベースフィルムの前記主面上であって前記内部回路要素膜が形成されていない領域に前記ペーストを付与することによって形成された段差吸収用グリーン層とを備える複数の複合構造物を作製し、前記複合構造物を前記ベースフィルムから剥離して、前記セラミックスラリーを成形して得られたセラミックグリーンシート上に積層して生の積層体を作製し、前記生の積層体を焼成するものである。
【0039】
本発明によると、ベースフィルム上の内部回路要素膜が形成されていない領域に、段差吸収用グリーン層を形成し、ベースフィルムから剥離して積層するので、内部回路要素膜の厚みによる段差を実質的になくすことができ、不所望な変形が生じにくくなり、これによって、構造欠陥が生じにくく、信頼性の高い積層型セラミック電子部品を提供できる。しかも、ベースフィルム上に内部回路要素膜と段差吸収用グリーン層とを形成し、これをベースフィルムから剥離して、必要な内部回路要素膜の厚みとなるように積層するので、ベースフィルム上に、内部回路要素膜と段差吸収用グリーン層とを形成する方法に比べて、余分な歪みを生じさせることなく、必要な内部回路要素膜の厚みを得ることができ、これによって、積層型セラミック電子部品の内部回路断面積の大面積化の要求に十分に対応できる。
【0040】
さらに、段差吸収用グリーン層は、本発明のペーストによって形成されるので、ペースト印刷塗膜の保形性向上ならびに連続印刷性が向上し、歩留まりの向上を図ることができる。
【0041】
本発明の一実施態様においては、前記セラミックスラリーおよび前記ペーストにそれぞれ含まれるセラミック粉末は、実質的に同じ組成である。
【0042】
ここで、実質的に同じ組成であるとは、主成分が同じであることをいう。
【0043】
本発明によると、段差吸収用グリーン層とセラミックグリーンシートとの間で焼結性を一致させることができる。
【0044】
本発明の好ましい実施態様においては、前記セラミックスラリーおよび前記ペーストにそれぞれ含まれるセラミック粉末が、磁性体セラミック粉末である。
【0045】
本発明によると、積層セラミックインダクタに好適に実施できる。
【0046】
本発明の他の実施態様においては、前記内部回路要素膜は、コイルを形成するように配置されたコイル導体膜である。
【0047】
本発明によると、積層セラミックインダクタのコイル導体膜の厚みを、所望の厚みにすることができ、積層セラミックインダクタの低直流抵抗化を図ることができる。
【0048】
本発明の積層型セラミック電子部品は、本発明の製造方法によって得られるものである。
【0049】
本発明によると、構造欠陥が生じにくく、信頼性の高い積層型セラミック電子部品を得ることができる。
【0050】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、積層セラミックインダクタの製造方法に適用して説明する。この実施の形態の積層セラミックインダクタの製造方法は、上述の図1および図2を参照しながら説明することができる。
【0051】
この実施形態の製造方法を実施するにあたり、セラミックグリーンシート2の成形ためのセラミックスラリー、内部電極1の形成のための導電性ペーストおよび段差吸収用セラミックグリーン層5の形成のための本発明のセラミックペーストがそれぞれ準備される。
【0052】
セラミックスラリーからセラミックグリーンシート2を得るため、剥離剤としてのシリコン樹脂などによってコーティングされた、例えば、ポリエステルフィルムのような支持体としてのベースフィルム(図示せず)上で、セラミックスラリーがドクターブレード法などによって成形され、次いで乾燥される。セラミックグリーンシート2の厚みは、例えば、数10μmとされる。
【0053】
剥離剤としてのシリコン樹脂などによってコーティングされた、例えば、ポリエステルフィルムのようなベースフィルムの主面上には、コイル状に延びるコイル導体膜としての内部電極1が例えば、数μm〜30μmの厚みをもって形成される。また、コイル状の内部電極1の端部には、ビアホール導体(図示せず)が形成される。なお、コイル導体膜およびビアホール導体は、例えば、ベースフィルムに、ビアホール導体のための貫通孔をレーザまたはパンチングなどの方法により形成した後、コイル導体膜およびビアホール導体となる導電性ペーストを、スクリーン印刷等によって付与し、これを乾燥させることによって形成される。内部電極1は、それぞれ所定の厚みを有していて、したがって、ベースフィルム上には、この厚みによる段差がもたらされる。
【0054】
次に、上述した内部電極1の厚みによる段差を実質的になくすように、支持体としてのベースフィルムの主面上であって、内部電極1が形成されていない領域に、段差吸収用セラミックグリーン層5が形成される。段差吸収用セラミックグリーン層5は、内部電極1のネガティブパターンをもって、上述のセラミックペーストをスクリーン印刷などによって付与することにより形成され、次いで乾燥される。
【0055】
このセラミックペーストは、本発明に係るものであって、その組成および製法などの詳細は、後述する。
【0056】
段差吸収用セラミックグリーン層5は、図1に示すように、内部電極1の周縁部において、内部電極1の一部を覆うように形成されることが好ましい。
【0057】
また、上述の説明では、内部電極1を形成した後に段差吸収用セラミックグリーン層5を形成したが、逆に、段差吸収用セラミックグリーン層5を形成した後に内部電極1を形成するようにしてもよい。
【0058】
また、上述の説明では、支持体としては、剥離剤としてシリコン樹脂などによってコーティングされた、例えば、ポリエステルフィルムのようなベースフィルムなどを用いているが、この支持体としては、上述したセラミックグリーンシート2を用いてもよい。
【0059】
上述のように、支持体上に内部電極1および段差吸収用セラミックグリーンシート層5が形成された複合構造物は、複数用意され、これら複合構造物は、ベースフィルムより剥離された後、適当な大きさに切断され、所定の枚数だけ積み重ねられ、その上下に内部電極1および段差吸収用セラミックグリーン層5が形成されていないセラミックグリーンシートを積み重ねることによって、図1に一部を示すような生の積層体3aが作製される。
【0060】
この生の積層体3aは、積層方向にプレスされた後、図2に示すように、個々の積層セラミックインダクタのための積層体チップ4aとなるべき大きさに切断され、次いで、脱バインダ工程を経た後、焼成工程に付され、最終的に外部電極が形成されることによって、積層インダクタが完成される。
【0061】
上述のように、段差吸収用セラミックグリーン層5を形成することによって、図1に一部を示すように、生の積層体3aにおいて、内部電極1が位置する部分とそうでない部分との間、あるいは内部電極1が積層方向に比較的多数配列されている部分とそうでない部分との間での厚みの差が実質的に生じなくなり、図2に示すように、積層体チップ4aにおいて、望まれない変形が生じにくくなる。その結果、得られた積層セラミックインダクタにおいて、デラミネーションや微小クラックなどの構造欠陥およびショート不良といった問題を生じにくくすることができる。
【0062】
この実施形態において、セラミックグリーンシート2の成形のためのセラミックスラリーは、セラミック粉末と、有機溶剤と、有機バインダとを含んでいる。
【0063】
また、内部電極1の形成のための導電性ペーストは、導電性粉末と、有機溶剤と、有機バインダとを含んでいる。
【0064】
本発明は、段差吸収用セラミックグリーン層5を形成するためのセラミックペーストに特徴を有している。
【0065】
このセラミックペーストは、セラミック粉末と、有機溶剤と、有機バインダとを含んでいる。
【0066】
有機バインダは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)において、分子量分布に二箇所の極大点を有する熱可塑性樹脂を含むものであり、この熱可塑性樹脂としては、アクリル系樹脂が好ましい。
【0067】
また、二箇所の極大点の一方の極大点は、重量平均分子量で、10,000〜80,000の低分子量側にあり、他方の極大点が、重量平均分子量で、200,000〜800,000の高分子量側にあるのが好ましい。
【0068】
この熱可塑性樹脂のセラミック粉末100重量部に対する含有量は、例えば、2〜20重量部、好ましくは5〜15重量部である。
【0069】
また、高分子量側の樹脂成分と低分子量側の樹脂成分とは、等しい重量部であるのが好ましいが、異なる重量部としてもよい。
【0070】
アクリル系樹脂としては、1種類の(メタ)アクリル酸エステルの重合体あるいは2種類以上の(メタ)アクリル酸エステルの共重合体が挙げられる。
【0071】
上述のように分子量分布の低分子量側および高分子量側の二箇所に極大点を有するためには、例えば、低分子量側に極大点を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合体と、高分子量側に極大点を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合体とを混合し、あるいは、低分子量側に極大点を有する(メタ)アクリル酸エステルの共重合体と、高分子量側に極大点を有する(メタ)アクリル酸エステルの共重合体とを混合し、あるいは、低分子量側または高分子量側に極大点を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合体と、高分子量側または低分子量側に極大点を有する(メタ)アクリル酸エステルの共重合体とを混合すればよい。
【0072】
また、(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ノルマルプロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ノルマルブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャルブチル(メタ)リレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等がある。
【0073】
次に、本発明のセラミックペーストの製造方法について説明する。
【0074】
本発明のセラミックペーストの製造方法では、少なくともセラミック粉末と第1の有機溶剤とを含む1次混合物を分散処理する1次分散工程と、前記1次分散工程を経た前記1次混合物に少なくとも上述の有機バインダを加えた2次混合物を分散処理する2次分散工程と、第2の有機溶剤を、前記1次混合物および/または前記2次混合物に含ませる工程と、前記2次分散工程の後、前記2次混合物を加熱処理することによって、前記第2の有機溶剤よりも低沸点の前記第1の有機溶剤を選択的に除去する除去工程とを備えるものてある。
【0075】
このように、1次分散工程では、有機バインダを未だ加えていないので、低粘度下での分散処理が可能となり、これによって、セラミック粉末の分散性を高めることが容易である。この1次分散工程では、セラミック粉末の表面に吸着している空気が低沸点の第1の有機溶剤で置換され、セラミック粉末を低沸点の第1の有機溶剤で十分に濡らした状態とすることができるとともに、セラミック粉末の凝集状態を十分に解砕することができる。
【0076】
また、2次分散工程では、上述のように、1次分散工程で得られたセラミック粉末の高い分散性を維持したまま、有機バインダを十分かつ均一に混合させることができ、また、セラミック粉末のさらなる粉砕効果も期待できる。
【0077】
また、低沸点の第1の有機溶剤の除去が2次分散工程の後に実施されるので、2次分散工程の段階においても、2次混合物の粘度を比較的低くしておくことが可能であり、したがって、分散効率を比較的高く維持しておくことができるとともに、2次分散工程の段階で加えられる有機バインダの溶解性を高めることができる。
【0078】
なお、上述した低沸点の第1の有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、トルエン、ベンゼン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸ブチル、およびこれらの混合物を用いることができる。
【0079】
また、第2の有機溶剤としては、例えば、ジイソプロピルケトン、メチルセルソルブアセテート、セルソルブアセテート、ブチルセルソルブ、シクロヘキサノール、パイン油、ジヒドロテルピネオール、イソホロン、テルピネオール、ジプロピレングリコール、ジメチルフタレート、ブチルカルビトールおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0080】
セラミックグリーンシート2を成形するためのセラミックスラリーに含まれるセラミック粉末は、段差吸収用セラミックグリーン層5のためのセラミックペーストに含まれるセラミック粉末と実質的に同じ組成を有するものであることが好ましい。段差吸収用セラミックグリーン層5とセラミックグリーンシート2との間で焼結性を一致させるためである。
【0081】
なお、実質的に同じ組成を有するとは、主成分が同じであることをいう。
【0082】
セラミック粉末としては、代表的なものとしてアルミナ、ジルコニア、マグネシア、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト−マンガンなどの酸化物系微粉末、炭化ケイ素、窒化ケイ素、サイアロンなどの非酸化物系セラミック微粉末が挙げられる。粉末粒径としては平均5μm以下、好ましくは1μmの球径、粉砕状のものが使用される。
【0083】
以下に、この発明を、実施例に基づいて、より具体的に説明する。
【0084】
【実施例】
(磁性体セラミック粉末の準備)
酸化第二鉄49.0mol%、酸化亜鉛29.0mol%、酸化ニッケル14.0mol%、酸化銅8.0mol%となるように秤量し、ボールミルを用いて湿式混合した後、脱水乾燥させた。750℃で1時間仮焼した後、粉砕することにより磁性体セラミック粉末を得た。
【0085】
(セラミックスラリーの準備およびセラミックグリーンシートの作製)
先に準備したセラミック粉末100重量部と、積水化学製ポリビニルブチラール「BMS(中重合品;ブチラール基70mol%)」7重量部と、可塑剤としてのDOP(フタル酸ジオクチル)3重量部と、メチルエチルケトン30重量部と、エタノール20重量部と、トルエン20重量部とを直径1mmのジルコニア製玉石600重量部とともにボールミルに投入し、20時間湿式混合を行って、セラミックスラリーを得た。
【0086】
そして、このセラミックスラリーに対して、ドクターブレード法を適用して、厚さ約10μmのセラミックグリーンシートを成形した。乾燥は、80℃で、5分間行った。
【0087】
(導電性ペーストの準備)
内部電極ペーストは、Ag/Pd=70/30の金属粉末100重量部に、エチルセルロース4重量部と、アルキッド樹脂2重量部と、Ag金属レジネート3重量部(Agとして約17.5重量部)と、ブチルカルビトールアセテート35重量部とを、3本ロールで混練した後、同じ有機溶剤35重量部を加えて粘度調整を行って、導電性ペーストを得た。
【0088】
(段差吸収用セラミックグリーン層のためのセラミックペーストの準備)
〔実施例1〜5〕
実施例1〜5は、有機セラミックペーストの製造において用いられる有機バインダの分子量分布が連続印刷性に及ぼす効果を確認するために実施したものである。
【0089】
先に準備したセラミック粉末100重量部と、低沸点の第1の有機溶剤としてのアセトン60重量部と、直径1mmのジルコニア製玉石600重量部とを、ボールミルに投入し、4時間湿式混合を行った。
【0090】
続いて、同じポットに、分子量が10000〜80000の範囲の10000(実施例1)、40000(実施例2)、80000(実施例3)、10000(実施例4)、80000(実施例5)にそれぞれ極大点を有する低分子量(メタ)アクリル樹脂のいずれか1種類を6重量部と、分子量が200000〜800000の範囲の200000(実施例1)、400000(実施例2)、400000(実施例3)、800000(実施例4)、800000(実施例5)にそれぞれ極大点を有する高分子量(メタ)アクリル樹脂のいずれか1種類を6重量部と、沸点230℃の第2の有機溶剤としてのテルピネオール48重量部とを添加し、さらに、16時間混合することによって、セラミックスラリー混合物を得た。
【0091】
なお、この実施例1〜5および後述の比較例1〜6では、(メタ)アクリル樹脂として、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートとメトキシトリエチレングリコールアクリレートとの共重合体を使用した。
【0092】
次いで、上述のセラミックスラリー混合物を、60℃の温浴中でエバポレータにより30分間減圧蒸留することにより、アセトンを完全に除去して、実施例1〜5のセラミックペーストを得た。
【0093】
〔比較例1〕
先に準備したセラミック粉末100重量部と、低沸点の第1の有機溶剤としてのアセトン60重量部と、直径1mmのジルコニア製玉石600重量部とを、ボールミルに投入し、4時間湿式混合を行った。
【0094】
続いて、同じポットに、分子量が400000、すなわち、400000に極大点を有する高分子量(メタ)アクリル樹脂を12重量部と、沸点230℃のテルピネオール48重量部とを添加し、さらに、16時間混合することによって、セラミックスラリー混合物を得た。
【0095】
次いで、上述のセラミックスラリー混合物を、60℃の温浴中でエバポレータにより30分減圧蒸留することにより、アセトンを完全に除去して、セラミックペーストを得た。
【0096】
〔比較例2〕
先に準備したセラミック粉末100重量部と、低沸点の第1の有機溶剤としてのアセトン60重量部と、直径1mmのジルコニア製玉石600重量部とを、ボールミルに投入し、4時間湿式混合を行った。
【0097】
続いて、同じポットに、分子量が40000、すなわち、40000に極大点を有する低分子量(メタ)アクリル樹脂を12重量部と、沸点230℃のテルピネオール48重量部とを添加し、さらに、16時間混合することによって、セラミックスラリー混合物を得た。
【0098】
次いで、上述のセラミックスラリー混合物を、60℃の温浴中でエバポレータにより30分減圧蒸留することにより、アセトンを完全に除去して、セラミックペーストを得た。
【0099】
〔比較例3〕
先に準備したセラミック粉末100重量部と、低沸点の第1の有機溶剤としてのアセトン60重量部と、直径1mmのジルコニア製玉石600重量部とを、ボールミルに投入し、4時間湿式混合を行った。
【0100】
続いて、同じポットに、分子量の異なる(200000および800000)2つの高分子量(メタ)アクリル樹脂、すなわち、
200000に極大点を有する高分子量(メタ)アクリル樹脂と、800000に極大点を有する高分子量(メタ)アクリル樹脂との各々6重量部と、沸点230℃のテルピネオール48重量部とを添加し、さらに、16時間混合することによって、セラミックスラリー混合物を得た。
【0101】
次いで、上述のセラミックスラリー混合物を、60℃の温浴中でエバポレータにより30分減圧蒸留することにより、アセトンを完全に除去して、セラミックペーストを得た。
【0102】
〔比較例4〕
先に準備したセラミック粉末100重量部と、低沸点有機溶剤としてのアセトン60重量部と、直径1mmのジルコニア製玉石600重量部とを、ボールミルに投入し、4時間湿式混合を行った。
【0103】
続いて、同じポットに、分子量の異なる(10000および80000)2つの低分子量(メタ)アクリル樹脂、すなわち、10000に極大点を有する低分子量(メタ)アクリル樹脂と、80000に極大点を有する高分子量(メタ)アクリル樹脂との各々6重量部と、沸点230℃のテルピネオール48重量部とを添加し、さらに、16時間混合することによって、セラミックスラリー混合物を得た。
【0104】
次いで、上述のセラミックスラリー混合物を、60℃の温浴中でエバポレータにより30分減圧蒸留することにより、アセトンを完全に除去して、セラミックペーストを得た。
【0105】
〔比較例5〕
先に準備したセラミック粉末100重量部と、低沸点有機溶剤としてのアセトン60重量部と、直径1mmのジルコニア製玉石600重量部とを、ボールミルに投入し、4時間湿式混合を行った。
【0106】
続いて、同じポットに、分子量が40000、すなわち、40000に極大点を有する低分子量(メタ)アクリル樹脂を6重量部と、分子量が1000000、すなわち、1000000に極大点を有する高分子量(メタ)アクリル樹脂を6重量部と、沸点230℃のテルピネオール48重量部とを添加し、さらに、16時間混合することによって、セラミックスラリー混合物を得た。
【0107】
次いで、上述のセラミックスラリー混合物を、60℃の温浴中でエバポレータにより30分減圧蒸留することにより、アセトンを完全に除去して、セラミックペーストを得た。
【0108】
〔比較例6〕
先に準備したセラミック粉末100重量部と、低沸点有機溶剤としてのアセトン60重量部と、直径1mmのジルコニア製玉石600重量部とを、ボールミルに投入し、4時間湿式混合を行った。
【0109】
続いて、同じポットに、分子量が7000、すなわち、7000に極大点を有する低分子量(メタ)アクリル樹脂を6重量部と、分子量が400000、すなわち、400000に極大点を有する高分子量(メタ)アクリル樹脂を6重量部と、沸点230℃のテルピネオール48重量部とを添加し、さらに、16時間混合することによって、セラミックスラリー混合物を得た。
【0110】
次いで、上述のセラミックスラリー混合物を、60℃の温浴中でエバポレータにより30分減圧蒸留することにより、アセトンを完全に除去して、セラミックペーストを得た。
【0111】
(積層インダクタの作製)
実施例1〜5および比較例1,2の各々について、シート積層後にコイルが形成できるように、先に用意したベースフィルムの所定の位置にレーザあるいはパンチングなどの方法で貫通孔を形成した。このフィルムの主面上に内部電極を形成するため、導電性ペーストおよび段差吸収用磁性体層をスクリーン印刷し、80℃で10分間乾燥した。内部電極および段差吸収用磁性体層の各厚みは15μmになるようにした。得られた複合シートを電極断面積が焼成後に100μmとなるように、圧着剥離により3枚積層した磁性体グリーンシート上に圧着剥離により8枚重ね、重ねた積層体上に磁性体グリーンシートを圧着剥離により3枚重ねた。この積層体上に、内部電極がコイルを形成するように複合シートの積層と磁性体グリーンシートの積層を繰り返して、内部電極が3.5ターンのコイルを形成した生の積層体を作製した。
【0112】
次に、焼成後において長さ3.2mm×幅1.6mm×厚み1.6mmの寸法となるように、複数の積層体チップにカットし、400℃で2時間加熱して有機バインダを除去した後、900℃で90分焼成した。
【0113】
次に、得られた焼結体チップをバレルに投入し、端面研磨を施した後、焼結体の両端部に主成分が銀である外部電極を設けて積層インダクタを完成させた。
【0114】
(特性の評価)
上述した試料の各々に係る段差吸収用セラミックグリーン層について、各種特性を評価した。その結果が表1および表2の「特性評価結果」に示されている。表1および表2における特性評価は、次のように行った。
【0115】
「固形分」:セラミックペースト約1gを精秤し、熱対流式オーブンにおいて、130℃で3時間放置した後の重量から算出した。
【0116】
「粘度」:セラミックペーストの粘度を東京計器製のE型粘度計を用いて、20℃において、1.0rpmの回転を付与して測定した。
【0117】
「分散度」:セラミック粉末の粘度分布を光回折式粒度分布測定装置を用いて測定し、得られた粒度分布から算出した。すなわち、先に準備したセラミック粉末を、超音波ホモジナイザを用いて水中で分散させ、粒径がこれ以上小さくならないところまで超音波を印加し、そのときのD50、D90の粒径を記録して、これを限界粒径とした。他方、セラミックペーストをトルエン/エタノール中で希釈し、粒度分布のD50、D90の粒径を記録して、これをペーストの粒径とした。そして、
分散度=(ペーストの粒径/限界粒径)−1
の式に基づき、分散度を算出した。この分散度は、数値が+であれば、値が0に近いほど分散性が良いことを示し、数値が−であれば、絶対値が大きいほど分散性が良いことを示している。
【0118】
「糸曳性」:同じ材質でできた同じ形状で同じ容量の容器を必要数用意し、そこへ液面が同じ高さになるように前記セラミックペーストを入れ、そこへ先端が細くなった針のようなものを一定量含浸させ、それを一定速度で引き上げることにより、セラミックペーストからの糸曳を発生させ、その糸曳が切れる高さを測定することにより、セラミックペーストの糸曳性を評価した。この評価では、糸曳が切れる高さが低い方が糸曳性が良いことを示している。
【0119】
「スクリーン印刷性」:スクリーン印刷時において、スクリーンからの剥離が良好に進行し、連続印刷において全く問題がない場合を二重丸、連続印刷でほとんど問題がない場合を一重丸、連続印刷でやや問題がある場合を三角、連続印刷が不可能な場合を×印または××印でそれぞれ示した。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
表1および表2に示されるように、実施例1〜5は、比較例1〜6に比べて、優れた特性を有している。
【0122】
高分子量樹脂成分を含んでいない比較例2,4では、セラミクペーストの粘度が低過ぎてスクリーン印刷における形状確保が困難となって、印刷滲みが生じている。一方、低分子量樹脂成分を含んでいない比較例1,3は、セラミックペーストの粘度が高過ぎてスクリーン印刷における版離れ不良が生じている。
【0123】
これに対して、所要の範囲の分子量を有する高分子量樹脂成分および低分子量樹脂成分を含む実施例1〜5では、セラミックペーストの粘度が適切な範囲となって、印刷滲みや版離れ不良が生じていないことが分かる。
【0124】
上述の実施の形態では、高分子量側と低分子量側とにそれぞれ一つずつの二つの極大点を有していたけれども、本発明の他の実施の形態として、三つ以上の極大点を有する構成としてもよい。
【0125】
以上、この発明に係るセラミックペーストに含まれるセラミック粉末として、磁性体セラミック粉末および積層インダクタが用いられる場合について説明したが、この発明は、用いられるセラミック粉末の電気的特性に左右されるものではなく、したがって、例えば、絶縁体または誘電体セラミック粉末あるいは圧電体セラミック粉末などを用いても、同様の効果を期待できるセラミックペーストを得ることができる。
【0126】
なお、ペーストとしては、本実施の形態のような段差吸収用のセラミックペーストとして用いられるだけでなく、例えば、チップ部品の外部電極用導電性ペースト等として用いることができる。
【0127】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、段差吸収用グリーン層の形成に好適なペーストの有機バインダは、分子量分布の高分子量側および低分子量側のそれぞれに極大点を有する熱可塑性樹脂を含むので、高分子量側の樹脂成分によってペーストの高粘度化を図ることができ、また、低分子量側の樹脂成分によってペーストの糸曳性の改善を図ることができる。
【0128】
これによって、積層型セラミック電子部品を製造するために用いられるペースト印刷塗膜の保形性の向上および連続印刷性の向上を図ることができ、歩留まりの向上を実現することができる。また、さらなる内部電極の厚肉化に対しても構造欠陥が生じにくく、信頼性の高い積層型セラミック電子部品が実現でき、積層セラミックインダクタに適用した場合、積層セラミックインダクタの低直流抵抗化を有利に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一つの実施の形態に係る生の積層体の断面図である。
【図2】図1の実施の形態に係る積層体チップの断面図である。
【図3】従来例の生の積層体の断面図である。
【図4】従来例の積層体チップの断面図である。
【符号の説明】
1 内部電極(内部回路要素膜)
2 セラミックグリーンシート
3,3a 生の積層体
4,4a 積層体チップ
5 段差吸収用セラミックグリーン層
Claims (12)
- 無機粉末、有機バインダおよび有機溶剤を含むペーストであって、
前記有機バインダとして分子量分布が高分子量側および低分子量側にそれぞれ極大点を有する熱可塑性樹脂を含んでおり、前記熱可塑性樹脂の前記低分子量側の極大点が、重量平均分子量で10,000〜80,000の範囲にあり、前記高分子量側の極大点が、重量平均分子量で200,000〜800,000の範囲にあることを特徴とするペースト。 - 前記熱可塑性樹脂が、アクリル系樹脂である請求項1記載のペースト。
- 前記高分子量側に極大点を有する樹脂成分と、前記低分子量側に極大点を有する樹脂成分とを、等しい重量部含んでいる請求項1または2記載のペースト。
- 前記アクリル系樹脂が、1種類の(メタ)アクリル酸エステルの重合体あるいは2種類以上の(メタ)アクリル酸エステルの共重合体である請求項2または3記載のペースト。
- 前記無機粉末がセラミック粉末である請求項1〜4のいずれかに記載のペースト。
- 請求項1〜5のいずれかに記載のペーストの製造方法であって、
前記無機粉末と第1の有機溶剤とを含む1次混合物を分散処理する1次分散工程と、
前記1次分散工程を経た前記1次混合物に前記有機バインダを加えた2次混合物を分散処理する2次分散工程と、
第2の有機溶剤を、前記1次混合物および/または前記2次混合物に含ませる工程と、
前記2次分散工程の後、前記2次混合物を加熱処理することによって、前記第2の有機溶剤よりも低沸点の前記第1の有機溶剤を選択的に除去する除去工程と、
を備えることを特徴とするペーストの製造方法。 - セラミックスラリー、導電性ペーストおよび請求項1〜5のいずれかに記載のペーストをそれぞれ準備し、
前記セラミックスラリーを成形することによって得られたセラミックグリーンシートと、前記セラミックグリーンシートの主面上にその厚みによる段差をもたらすように部分的に前記導電性ペーストを付与することによって形成された内部回路要素膜と、前記内部回路要素膜の厚みによる段差を実質的になくすように前記セラミックグリーンシートの前記主面上であって前記内部回路要素膜が形成されない領域に前記ペーストを付与することによって形成された段差吸収用グリーン層とを備える複数の複合構造物を作製し、
前記複合構造物を積層して生の積層体を作製し、
前記生の積層体を焼成することを特徴とする積層型セラミック電子部品の製造方法。 - セラミックスラリー、導電性ペースト、請求項1〜5のいずれかに記載のペーストおよび剥離剤がコーティングされたベースフィルムをそれぞれ準備し、
前記ベースフィルムの主面上にその厚みによる段差をもたらすように部分的に前記導電性ペーストを付与することによって形成された内部回路要素膜と、前記内部回路要素膜の厚みによる段差を実質的になくすように前記ベースフィルムの前記主面上であって前記内部回路要素膜が形成されていない領域に前記ペーストを付与することによって形成された段差吸収用グリーン層とを備える複数の複合構造物を作製し、
前記複合構造物を前記ベースフィルムから剥離して、前記セラミックスラリーを成形して得られたセラミックグリーンシート上に積層して生の積層体を作製し、
前記生の積層体を焼成することを特徴とする積層型セラミック電子部品の製造方法。 - 前記セラミックスラリーおよび前記ペーストにそれぞれ含まれるセラミック粉末は、実質的に同じ組成である請求項7または8に記載の積層型セラミック電子部品の製造方法。
- 前記セラミックスラリーおよび前記ペーストにそれぞれ含まれるセラミック粉末が、磁性体セラミック粉末である請求項7〜9のいずれかに記載の積層型セラミック電子部品の製造方法。
- 前記内部回路要素膜は、コイルを形成するように配置されたコイル導体膜である請求項10記載の積層型セラミック電子部品の製造方法。
- 請求項7〜11のいずれかに記載の製造方法によって製造された積層型セラミック電子部品。
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