JP2004123519A - 成形用型の再生方法及び光学素子の製造方法 - Google Patents

成形用型の再生方法及び光学素子の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】成形用型母材表面にダメージを与えることなく、成形用型母材成形面の炭素系膜を的確に除去でき、かつコストと時間も抑制された再生方法を提供すること及びこの再生方法により再生された成形用型を用いたガラス光学素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】成形面に炭素系膜を有する成形用型から前記膜を除去することを含む、成形用型の再生方法。前記膜の除去を水素系ガスのプラズマによるエッチングまたはUVオゾン処理により行う。成形面に炭素系膜を有する成形型で、加熱軟化したガラス素材をプレス成形することを含むガラス光学素子の製造方法。前記成形型は、成形面に炭素系膜を有する成形型の前記膜を水素系ガスのプラズマによるエッチングまたはUVオゾン処理で除去し、次いで、膜が除去された成形面上に炭素系膜を成膜することで再生されたものである。
【選択図】

Description

 本発明は、ガラス素材をプレス成形してレンズ、プリズム等のガラス光学素子を製造するために使用される光学素子成形用型について、その成形面にある膜が劣化した場合、それを除去し、再生するのに適した成形用型の再生方法及びこの方法で再生された成形用型を用いるガラス光学素子の製造方法に関するものである。
 ガラス光学素子のプレス成形用成形型には、その成形面に離型膜として炭素系の膜を設けることが知られている。
 この離型膜は、プレスの際に高温でガラスが成形面に密着する際、融着を防止し、精密加工された成形面の鏡面を維持し、また高温下でガラスが伸ばされるときの、成形面とガラスの間の滑り製を確保する上で、極めて有用である。特に、炭素系の離型膜は、安価であり、上記性能の点でも優れている。
 しかしながら、多数回のプレス成形を行なうと、この離型膜は部分的に剥離し、又は消失するなど、消耗し、充分機能しなくなる。それでもプレスを続けると、ガラスが成形面に融着したり、型母材とガラスが反応して、型を損傷する。型は、特殊な素材である型母材を精密加工して成形面を形成した高価なものを用いるが、上記損傷が生じると型がもはや使用できない。したがって、離型膜の性能を随時確認し、その劣化状態を修復するため、離型膜形成後、所定回のプレス毎に除去し、改めて成膜するという再生作業を行なうことが必要になる。これによって、常に、面精度の高い光学素子をプレス成形することが可能であるとともに、型母材のライフを延長することができる。
 従来、光学素子成形用型の再生方法として、特許文献1には、成形面に硬質炭素膜を有するガラス成形用型の上記硬質炭素膜を、酸素プラズマアッシングにより除去した後、フッ化水素またはその塩の水溶液により成形型の成形面を洗浄処理する、成形型の再生法が記載されている。また、特許文献2には、成形面に炭素系膜を有するガラス成形用型の炭素系膜を、フッ素系ガスもしくはフッ素系ガスと酸素との混合ガスの減圧プラズマエッチングにより除去した後、ガラス中の成分が拡散して残留した残留付着物を、微小粒径の砥粒を用いた擦りを行って除去する成形型の再生法が記載されている。また、特許文献3には、膜の一部分を酸素含有ガスのプラズマによりエッチングし、型母材がエッチングされる前にアルゴンガスのプラズマによるエッチングに切り替えて膜を除去する成形型の再生法が記載されている。
特開平2−38330号公報 特開平6-345447号公報 特許2505893号公報
 特許文献1に記載されているとおり、酸素プラズマアッシングによって硬質炭素膜を除去しただけでは、母材表面が酸素のプラズマにより浸食され、母材表面に酸化層の変質層が生成し、この母材表面に炭素系膜をした場合、炭素系膜の母材表面への付着強度が弱くなり、プレス成形において、炭素系被膜のはく離など問題が発生する。そこで、フッ化水素またはその塩の水溶液により、成形型の成形面を洗浄処理する方法が記載されている。この洗浄処理により、母材表面の変質層の除去は可能である。しかし、この除去により母材表面がわずかに粗れ、成形型の再生を繰り返すと、上記表面粗れが蓄積され、それがプレスの際に転写され、プレス成型品の表面に表面粗れに起因する光散乱によるクモリや白濁といった外観欠陥が発生するという問題がある。
 特許文献2には、プラズマエッチング処理後に、平均粒径0.5μmのダイヤモンド・ペーストを用いた擦り方法が記載されている。しかし、この方法では、やはり母材表面に酸化層、フッ化層が生じ、擦りによって成形面に残留するガラスの揮発成分などは除去できても、母材は硬質であるので、母材表面の酸化層、フッ化層などの変質層や粗れを除去することはできない。
 また、特許文献3に記載されている方法では、母材表面のプラズマによる浸食を防止するために、型母材がエッチングする前に酸素ガスのプラズマによるエッチング又はアッシングからアルゴンガスのプラズマによるエッチング又はアッシングに切り替えて膜を除去する。しかし、この方法では、切り替えの判定が必要となる。ここで、切り替えの判断のために、プラズマの発光分析により、エッチング物質の発光強度をモニターしながらエッチングするなど、付加的な装置と工程を要することから、コスト高となる。また、酸素ガスとアルゴンガスの2つのプラズマの使用もエッチングコストを倍加する。
 以上のように、従来の方法では、精度と経済性に優れた光学素子成形用型の再生方法は実現されていなかった。
 そこで本発明の目的は、成形用型母材成形面の炭素系膜を除去し、再生する方法であって、成形用型母材表面にダメージを与えることなく、炭素系膜を的確に除去でき、かつコストと時間も抑制された再生方法を提供することにある。
 さらに本発明は、この再生方法により再生された成形用型を用いたガラス光学素子の製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するための本発明は以下の通りである。
[請求項1]成形面に炭素系膜を有する成形用型から前記膜を除去することを含む、成形用型の再生方法であって、前記膜の除去を水素系ガスのプラズマによるエッチングまたはUVオゾン処理により行うことを特徴とする成形用型の再生方法。
[請求項2]前記水素系ガスが、水素ガスまたは水素ガスとアルゴンガスとの混合ガスである請求項1に記載の再生方法。
[請求項3]前記UVオゾン処理中に、成形面に炭素系膜を有する成形用型を100℃以上600℃以下に加熱することを特徴とする請求項1に記載の再生方法。
[請求項4]水素系ガスのプラズマによるエッチングまたはUVオゾン処理を施す前に、成形面を酸溶液またはアルカリ溶液で洗浄することを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の再生方法。
[請求項5]膜が除去された成形面上に炭素系膜を成膜することをさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の再生方法。
[請求項6]前記エッチングまたはUVオゾン処理に付される成形用型は、膜が劣化したものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
[請求項7]成形面に炭素系膜を有する成形型で、加熱軟化したガラス素材をプレス成形することを含むガラス光学素子の製造方法であって、
前記成形型は、成形面に炭素系膜を有する成形型の前記膜を水素系ガスのプラズマによるエッチングまたはUVオゾン処理で除去し、次いで、膜が除去された成形面上に炭素系膜を成膜することで再生されたものであることを特徴とする、ガラス光学素子の製造方法。
[請求項8]前記エッチングまたはUVオゾン処理に付される成形用型は、炭素系膜が劣化したものである請求項7に記載の製造方法。
 以上説明したように、本発明によれば、成形面に炭素系膜被覆を施した成形用型を用いて光学素子の成形を行うことで、その成形用型の膜が劣化した場合であっても、水素系ガスのプラズマによるエッチングまたはUVオゾン処理を施すことにより該膜を除去して、良好な精度の成型品が得られ、コストと時間がかからない成形用型の再生方法を提供することができる。
 本発明は、成形面に炭素系膜を有する成形用型から前記膜を除去することを含む、成形用型の再生方法である。
 本発明の方法によって再生される成形用型は、成形面に炭素系膜を有するものであり、型母材として用いられる材料は、光学的鏡面への加工が可能であること、プレスの衝撃に耐える機械的強度をもつことなどを考慮して選択される。
 そのような観点から選択される材料は、例えば、SiC、WC、TiC、TaC、BN、TiN、AlN、Si34、SiO2 、Al23 、ZrO2 、W、Ta、Mo、サーメット、サイアロン、ムライト、カーボン・コンポジット(C/C)、カーボンファイバー(CF)、WC−Co合金、ステンレス等を挙げることができる。特にSiC、WC、TiC、TaC、WC−Co合金、ステンレスを型母材とする成形用型は、酸素やフッ素との反応性が高く、酸素やフッ素を用いた従来方法のエッチングでは表面が変質又は損傷しやすい。しかしながら、本発明を適用すれば、後述する選択比が有利に働くという理由で、本発明の効果が顕著に得られる。
 尚、成形面を精密加工する際には、その表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)で測定評価したRmaxにて80nm以下とすること好ましく、50nm以下がより好ましい。
 成形面に施された炭素系膜は、炭素をその主成分として含有する膜であり、例えば、ダイヤモンド状炭素膜(以下、DLC)、水素化ダイヤモンド状炭素膜(以下、DLC:H)、テトラヘドラルアモルファス炭素膜(以下、ta-C)水素化テトラヘドラルアモルファス炭素膜(以下、ta-C:H)、アモルファス炭素膜(以下、a-C)、水素化アモルファス炭素膜(以下、a-C:H)等から選ばれることができる。但し、これらの炭素系膜に限定されない。
 また、これらから選ばれる2種以上の積層もしくは複合(複数の成膜法を同時に適用する場合)した膜でも良い。これらの炭素系膜は、成形面の離型性を向上させる機能をもつ。
[水素系ガスのプラズマによるエッチング]
 本発明の成形用型の再生方法の第1の態様では、成形用型が有する膜の除去を水素系ガスのプラズマによるエッチングにより行う。
 水素系ガスのプラズマによるエッチングは、母材表面にダメージを与えることなく、炭素系膜を除去できるという利点がある。
 ここで、水素系ガスとは水素を含むガスであり、水素を1vol%以上含むガスが好ましく、水素を3vol%以上含むガスが特に好ましい。より具体的には、水素系ガスとしては、水素ガスもしくは水素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを用いることが好ましい。アルゴンガスとの混合ガスは、水素ガスを1vol%以上含むガスが好ましく、水素を3vol%以上含むガスが好ましい。
 また、エッチングとは、化学的反応を利用した表面層の除去手段であり、アッシングも含む。また、プラズマは、電離によって生じた荷電粒子が気体中に存在する状態であり、イオンやラジカルの混合気体、イオンまたはラジカルから主になる気体を含む。
 水素系プラズマによるエッチングは、例えば、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching)方式もしくはダイレクトプラズマ(Direct Plasma)方式の公知の装置で行うことができ、そのような装置は、市販品として入手可能である。エッチング条件は、適用する装置に応じて、適宜選択される。標準条件は、プラズマ出力が100〜2000Wであり、プラズマ出力が高すぎたり、低すぎたりするとプラズマが安定しないことがある。基板温度は室温〜300℃とすることができ、高すぎると、後述する選択比が低下し、低すぎるとエッチング速度が低下する傾向がある。常圧プラズマ処理装置では常圧を用い、減圧プラズマ処理装置では1Pa〜100KPa程度のガス圧を用いることで、安定したプラズマを発生することができる。
 本発明で用いる水素系ガスのプラズマによるエッチングは、対象物質に対する選択性が高いことを特徴とする。一般に、膜と母材とのエッチング速度の比率を選択比と呼ぶことがあるが、水素は先行技術で使用されている酸素やCF4に比べて、炭素に対するエッチング速度は同等であるが、上記した型母材に対するエッチング速度が極めて小さい。例えば、型母材をSiC、又はWCとした場合、水素系ガスのプラズマによるエッチング速度は、酸素プラズマやCF4プラズマを用いた場合の1/100程度である。これは、型母材と水素プラズマの反応性が低いためであり、型母材と水素との反応層が生じても非常に薄いからである。
 したがって、水素系ガスを用いるとエッチングの選択比が高く、膜を完全に除去するため、必要以上にエッチング処理をしても、母材表面は実質的に変質しない、という特性がある。即ち、炭素系膜をエッチングして除去したのち、水素系プラズマが型の母材に接触しても、型母材をエッチングすることは殆どないため、仮にエッチング処理時間が必要以上に長くても、母材を変質し、損傷することがないという利点がある。更に、母材表面に反応層が生じても、これは水素化層であり、再生のために再度炭素系膜を成膜するときに、膜の付着性を阻害しない。
 [UVオゾン処理]
 本発明の成形用型の再生方法の第2の態様では、成形用型が有する膜の除去をUVオゾン処理により行う。
 UVオゾン処理とは、紫外線によりオゾンを発生し、そのオゾンから分解生成した励起酸素原子の酸化力により、有機物の汚れを短時間に分解・揮発させる方法であり、超精密な洗浄や、殺菌、消臭に広く利用されている。励起酸素原子の酸化力は、酸素プラズマの酸化力より小さく、炭素に対するエッチング速度は、1/2〜1/8程度である。一方、型母材に対するエッチング速度は、1/100以下である。例えば、型母材にSiC又はWCを用いた場合、UVオゾン処理によると、選択比 (炭素系膜のエッチング速度/型母材のエッチング速度)は、酸素プラズマやCF4プラズマによる選択比の数10倍程度である。これはUVオゾン処理における励起酸素原子の型母材に対する酸化力が小さく、型母材との反応層が生じても極めて薄いからである。
 尚、この反応層の膜厚は非常に薄いため、(例えば1nm以下の膜厚とすることができる)新たに炭素系膜を再成膜する際の付着性を下げるものではない。また、薬品を使わないため環境への負荷が小さいというメリットもある。UVオゾン発生に用いるUV光源のパワーは、100W以上が好ましく、200W以上が特に好ましい。また、雰囲気中には酸素が必須であり、酸素濃度は5vol%以上が好ましく、10 vol%以上が特に好ましい。UVオゾン処理時間は、一般的に、数分〜数時間である。UVオゾン処理(紫外線・オゾンプロセス)は、公知の装置での処理が可能である。
 本発明の方法では、UVオゾン処理による炭素系膜の分解・除去を加速するために、基材を加熱することが好ましい。しかし、加熱が600℃を超えると、一部の基材では、成形用型表面が酸化され、再び離型膜を成膜する際に離型膜の付着力が損なわれ、離型膜再生に支障をきたす場合がある。従って、UVオゾン処理における基材加熱は600℃以下が好ましい。さらに、UVオゾン処理における基材加熱は400℃以下が特に好ましい。一方、基板温度が100℃未満では、UVオゾン処理による炭素系膜の分解・除去の速度は遅くなるので、UVオゾン処理における基材加熱は100℃以上が好ましい。また、基板温度は必ずしも一定である必要はなく、UVオゾン処理の始動時は基板温度を高く設定し、その後、徐々に低下するなど、温度を変化させることも可能である。
 本発明のUVオゾン処理は、水素系ガスのプラズマによるエッチングの場合と同様に、対象物質に対する選択性が高いという利点がある。即ち、成形面上に設けられた炭素系膜を除去したのち、成形型母材を変質させたり、損傷することがない。
 連続プレス後の成形用型成形面の炭素皮膜上には、微小ながら若干のガラスもしくはガラスからの揮発成分などが付着・残留する場合がある。これらの中には、水素系プラズマによるエッチングやUVオゾン処理により除去しにくいものもある。そこで、本発明では、成形用型成形面の炭素系皮膜を、あらかじめ、酸溶液またはアルカリ溶液にて洗浄し、表面の付着物を除去することが好ましい。
 酸溶液としては、例えば、濃度1wt%〜50 wt %のフッ酸、酸性フッ化アンモニウム水溶液、硝酸、硫酸、塩酸、硝酸と硫酸との混酸などを挙げることができる。また、アルカリ溶液としては、例えば、濃度5 wt %〜70 wt %の水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液などを挙げることができる。酸溶液またはアルカリ溶液への浸漬時間は数分〜数時間、浸漬液温は室温〜50℃程度が好ましい。
 本発明の再生方法は、膜が除去された母材表面に炭素系膜を成膜することをさらに含む。
 炭素系膜は、前述の炭素系膜であり、成膜は、例えば、ダイヤモンド膜はマイクロ波プラズマCVD法、熱フィラメント法、プラズマ・ジェット法、電子サイクロトロン共鳴プラズマCVD法、DC-プラズマCVD法、光CVD法、レーザーCVD法など、またDLC膜やDLC:H膜は、マイクロ波プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法、プラズマ・ジェット法、電子サイクロトロン共鳴プラズマCVD法、DC-プラズマCVD法、光CVD法、レーザーCVD法、イオンプレーティング法などのイオン化蒸着法、スパッタ法など、ta-C膜やta-C:HはFCA(Filtered Cathodic Arc)法など、a-Cやa-C:HはプラズマCVD法、イオンプレーティング法などのイオン化蒸着法、スパッタ法、蒸着法などによって行われることができる。
 炭素系膜の膜厚は、1nm〜1μm程度であれば良く、特に2nm〜100nmが好適である。膜厚が薄すぎると十分な離型性や耐久性が得られず、膜厚が厚過ぎると型母材との密着性が低下するという問題が生じる。
 本発明の再生方法は、前記エッチングまたはUVオゾン処理に付される成形用型は、膜が劣化したものであることができる。但し、それ以外の膜を有する成形用型にも適用できる。
 また、本発明の再生方法は、レンズ、ミラー、グレーティング、プリズム等の光学素子用成形型に限定されるものではなく、光学素子以外のガラス、プラスチック等の成形品用の成形型に対しても適用できることは言うまでもない。
 [ガラス光学素子の製造方法]
 本発明は、成形面に炭素系膜を有する成形型で、加熱軟化したガラス素材をプレス成形することを含むガラス光学素子の製造方法を包含する。このガラス光学素子の製造方法は、前記成形型が、成形面に炭素系膜を有する成形型の前記膜を水素系ガスのプラズマによるエッチングまたはUVオゾン処理で除去し、次いで、膜が除去された成形面上に炭素系膜を成膜することで再生されたものであることを特徴とする。炭素系膜の除去方法は、上記本発明の再生方法で説明した方法と同様である。さらに、膜が除去された成形面上に炭素系膜を成膜する。炭素系膜の成膜も、上記本発明の再生方法で説明した方法と同様に行うことができる。また、加熱軟化したガラス素材のプレス成形等は、公知の方法で実施できる。
 本発明を適用した、成形型によってプレス成形するガラス素材、形状にはとくに制約は無い。しかしながら、離型膜が劣化しやすいガラス素材、即ち、型の離型膜再生が頻度高く必要なものにおいては、本発明の効果が顕著である。例えば、リン酸系の光学ガラスからなるガラス素材においては、ガラス成分中に水分子が取りこまれやすいことから、成形面において離型膜との反応性が高く、離型膜の劣化が早い。従って、離型膜の再生は頻度高く必要となり、本願の効果が顕著に得られる。同様に、反応性の高いガラスとして、フツリン酸系、ホウ酸系の光学ガラスなどが挙げられる。
 更に、上記した反応性の高いガラスは、反応性を抑える為にプレス時のガラス素材温度が低めに設定される場合がある(例えばガラス粘度で107.5〜108.5dPa・s相当温度)。そのため、そのような場合には、プレス荷重を大きくしなければ必要な肉厚が得られない。プレス荷重は、通常30〜300kg/cm2程度であるが、上記反応性の高いガラス素材は、この範囲中、高い荷重領域(例えば、200〜250kg/cm2程度)を適用することが適当である。但し、高い荷重領域でのプレスでは離型膜の損傷が早く、再生頻度が高くなるため、本発明は、反応性の高いガラスのプレス用成形型の再生に極めて有利である。
 また、成形すべき光学素子の形状が割れやすいもの(例えば中心肉厚と、レンズ周辺部の肉厚差が2倍以上であるような、両凸レンズ、両凹レンズ、メニスカスレンズ)においては、一般に割れ防止のために離型膜の厚みを大きくする。例えば、離型膜の厚みを30〜100nm程度とする。このような離型膜が劣化した場合に、効率良く、完全に離型膜を除去するとともに、母材に損傷を与えないことが極めて重要である。このため、離型膜の厚みが大きい成形型の再生にも本発明を適用することが極めて有効である。
 また、成形面の面粗度の要求が厳しい光学素子、例えば、Rmaxで、20nm以下のものにおいては、離型膜のわずかな表面粗れが許容されない。そのため、離型膜の再生頻度が高くなると共に、型母材の鏡面を劣化させないことが特に重要であり、このような場合にも、本発明は有効に適用される。
 プレス成形工程においては、ガラスの粘度で109dPa・s以下となるように加熱軟化したガラス素材を、成形型よってプレス成形する。このとき、プレスに先だって、ガラス素材を成形型内に供給し、型とガラス素材を共に上記温度に加熱し、ついでプレス成形を行なってもよく(いわゆる等温プレス)、また、型外で加熱軟化したガラス素材を、加熱した成形型に供給し、直ちにプレス成形を行っても良い。後者の場合には、型温度に対して、ガラス素材の温度を高く設定することができ(いわゆる非等温プレス)、これによって型の温度設定を等温プレスの場合より低く設定することができる。例えば、ガラス素材を、ガラス粘度で106以上108dPa・s未満の温度に加熱し、一方、成形型はガラス粘度で、108以上1011dPa・s未満の温度に加熱することができる。この方法は、離型膜の劣化を抑止し、また型母材の寿命を延長する上で有利であるほか、型の熱サイクルに要する時間を短縮できることから、生産効率も高くなる。いずれのプレス方法においても、プレス後のガラス素材は型内におかれたまま、転移点温度付近以下まで冷却され、その後離型され、取出される。
[実施例]
 以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
実施例1
 図1は本発明に係わる光学素子成形用型の一つの実施態様を示すものである。図1中、1は型母材、2はガラス素材を成形する成形面に設けられた炭素膜(離型膜)である。
 まず、光学素子成形用型について詳細に説明する。型母材として、CVD法により作製した多結晶のSiCの成形面をRmax=18nmに鏡面研磨したものを用いた(粗さ測定はAFMで行った)。この型を良く洗浄した後、イオンプレーティング法成膜装置を用いて、成形面にDLC:H膜を成膜した。ESCAによる深さ方向分析の結果、DLC:H膜の厚さは80nm であった。顕微ラマン分析の結果、ディスオーダード(Disordered)クラスターとグラファイト(Graphite)クラスターの中距離秩序による1380cm-1付近(D-band)と1580cm-1付近(G-band)との2つのピークを確認し、膜構造がDLC構造であることを確認した。
 所定の量に調整した光学ガラスバリウムホウケイ酸塩ガラスのガラスA(転移点Tg=500℃、屈伏点Ts=540℃)の球状ガラス素材(プリフォーム)を成形型のキャビティー内に置き、これを成形装置内に設置した。窒素ガス雰囲気中で、620℃まで加熱して150kg/cm2 の圧力で1分間加圧した。圧力を解除した後、冷却速度を−50℃/minで480℃になるまで冷却し、その後は−100℃/min以上の速度で冷却を行い、プレス成形物の温度が200℃以下に下がったら、成形物を取り出した。上記のようにして外径が12mmφ、中心肉厚が1.5mm、コバ厚が0.5mmの両凸レンズを成形した。連続成形においても、光学素子として、良好な成形品を得ることができた。
 この様にして1000回成形を行った後の成形面を光学顕微鏡によって観察した結果、若干ながら、微小な融着および揮発物の付着が認められた。そこで、室温の20%の酸性フッ化アンモニウム水溶液に30分間浸漬した。洗浄後、成形面を光学顕微鏡によって観察した結果、微小な融着および揮発物の付着は認められず、酸洗浄による除去を確認した。
 次に、酸洗浄した光学素子成形用型を、図2に示す様にプラズマ処理装置チャンバー内の基板上にセットして、チャンバー内が5Paになるまで、真空排気した後、水素3.5%、アルゴン96.5%の混合ガスをチャンバー内が100Paになるまで導入しながら、放電を行いプラズマを発生させ、水素系プラズマによるエッチングの処理を20分間行った。エッチング後の成形面を光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した結果、残留物は認められず、DLC:H膜が完全に除去された。また、AFM(原子間力顕微鏡)により粗さを測定した結果、Rmax=19nmであり、母材成形面の表面形状は保全されていた。
 この処理後の光学素子成形用型を良く洗浄した後、再び、イオンプレーティング法成膜装置を用いて、成形面に厚さ80nmのDLC:H膜を成膜した。DLC:H膜には、粗さや膜抜けなどの異常もなく、連続成形においても、再度、光学素子として、良好な成形品を得ることができた。
 この様な、1000回成形、酸洗浄、水素系プラズマによるエッチングの処理、DLC:H膜成膜、の再生処理を100回繰り返したが、成形用型の成形面における実質的な表面劣化やDLC:H膜の成膜力低下は微小であり、成形品のクモリ等の外観品質において問題となる点は認められなかった。再生処理を100回繰り返した後の成形面の表面粗さはRmaxで30nm(AFM測定)であった。
比較例1
 実施例1において、1000回成形を行った後の光学素子成形用型の水素系ガスのプラズマによるエッチングの処理の代わりに、酸素ガスのプラズマによるエッチングの処理を行った。実施例1と同様に、酸洗浄した光学素子成形用型をプラズマ処理装置チャンバー内の基板上にセットして、チャンバー内が5Paになるまで、真空排気した後、酸素ガスをチャンバー内が5x10-3Torrになるまで導入しながら、放電を行いプラズマを発生させ、酸素ガスのプラズマによるエッチングの処理を20分間行った。成形面を光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した結果、残留物は認められず、DLC:H膜が完全に除去された。
 また、この処理後の光学素子成形用型を良く洗浄した後、再び、イオンプレーティング法成膜装置を用いて、成形面に厚さ80nmのDLC:H膜を成膜して同じガラス素材を用いて連続成形を開始したところ、30 回のプレスにて、成形面にクモリや白濁などの外観不良が発生した。成形後の成形面を観察したところ、DLC:H膜の剥離が認められた。
比較例2
 実施例1において、1000回成形を行った後の光学素子成形用型の水素系ガスのプラズマによるエッチングの処理の代わりに、アルゴンガスのプラズマによるエッチングの処理を行った。実施例1と同様に、酸洗浄した光学素子成形用型をプラズマ処理装置チャンバー内の基板上にセットして、チャンバー内が5Paになるまで、真空排気した後、アルゴンをチャンバー内が100Paになるまで導入しながら、放電を行いプラズマを発生させ、アルゴンのプラズマによるエッチングの処理を300分間行った。成形面を光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した結果、成形面の全面にDLC:H膜が残存していた。
 また、この成形用型を良く洗浄した後、再び、イオンプレーティング法成膜装置を用いて、成形面に厚さ80nmのDLC:H膜を成膜して同じガラス素材を用いて連続成形を開始したところ、50回程度のプレスにて、成形面にクモリや白濁などの外観不良が発生した。
実施例2〜6
 型母材、炭素系離型膜、離型膜成膜法、離型膜の膜厚、光学ガラス、プレス条件、プラズマ処理前の洗浄、エッチング処理のガス(プラズマ源)を表1及び2のとおり変更した以外は、実施例1と同様に、再生処理を100回繰り返した。表のとおり、成形用型の成形面における実質的な表面劣化や炭素系離型膜の成膜力低下は微小であり、成形品の外観品質において問題となる点は認められなかった。
 尚、実施例2〜6で成形したレンズは以下のとおりである。
実施例2;外径が10mmφ、中心肉厚が0.5mm、コバ厚が1.5mmの凹メニスカスレンズ
実施例3;外径が12mmφ、中心肉厚が0.6mm、コバ厚が1.6mmの両凹レンズ
実施例4;外径が15mmφ、中心肉厚が1.5mm、コバ厚が0.6mmの凸メニスカスレンズ
実施例5;外径が16mmφ、中心肉厚が0.8mm、コバ厚が1.8mmの凹メニスカスレンズ
実施例6;外径が22mmφ、中心肉厚が1.8mm、コバ厚が0.4mmの凸メニスカスレンズ
Figure 2004123519
Figure 2004123519
実施例7
 実施例1において、1000回成形を行った後の光学素子成形用型の水素系ガスのプラズマによるエッチングの処理の代わりに、酸洗浄した光学素子成形用型を、図3に示す様にUVランプの出力350WのUVオゾン処理装置内にセットして、チャンバー内が10Paになるまで、真空排気した後、酸素ガスをチャンバー内が大気圧になるまで導入し、UVランプを点灯し、UVオゾン処理を20分間行った。
 成形面を光学顕微鏡、及び走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した結果、残留物は認められず、DLC:H膜が完全に除去された。また、AFMにより粗さを測定した結果、Rmax=25nmであり、母材成形面の表面形状は保全されていた。
 この処理後の光学素子成形用型を良く洗浄した後、再び、イオンプレーティング法成膜装置を用いて、成形面に厚さ30nmのDLC:H膜を成膜した。DLC:H膜には、粗さや膜抜けなどの異常もなく、連続成形においても、再度、光学素子として、良好な成形品を得ることができた。
 この様な、1000回成形、酸洗浄、水素系プラズマによるエッチング処理、DLC:H膜成膜、の再生処理を100回繰り返したが、成形用型の成形面における実質的な表面劣化やDLC:H膜の成膜力低下は微小であり、成形品の外観品質において問題となる点は認められなかった。再生処理を100回繰り返した後の成形面の表面粗さは、Rmaxで31nm(AFM測定)であった。
比較例4
 実施例7において、1000回成形を行った後の光学素子成形用型のUVオゾン処理の代わりに、酸素雰囲気中、800℃の温度で30分間、加熱処理を行った。成形面を光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)によって観察した結果、残留物は認められず、DLC:H膜が完全に除去された。しかし、AFMにより粗さを測定した結果、Rmax=128nmであり、母材成形面の粗れが進行した。
 また、この処理後の光学素子成形用型を良く洗浄した後、再び、イオンプレーティング法成膜装置を用いて、成形面に厚さ30nmのDLC:H膜を成膜して同じガラス素材の連続成形を開始したところ、プレス初回から、成形面にクモリや白濁などの外観不良が発生した。
実施例8〜12
 型母材、炭素系離型膜、離型膜成膜法、離型膜の膜厚、光学ガラス、プレス条件、UVオゾン処理前の洗浄、UVオゾン処理の有無を表3及び4のとおり変更した以外は、実施例7と同様に、再生処理を100回繰り返した。表のとおり、成形用型の成形面における実質的な表面劣化や炭素系離型膜の成膜力低下は微小であり、成形品の外観品質において問題となる点は認められなかった。
 尚、実施例8〜12において成形したレンズは以下の形状である。
実施例8;外径が12mmφ、中心肉厚が0.8mm、コバ厚が1.9mmの凹メニスカスレンズ
実施例9;外径が8mmφ、中心肉厚が0.4mm、コバ厚が1.2mmの両凹レンズ
実施例10;外径が18mmφ、中心肉厚が1.8mm、コバ厚が0.6mmの凸メニスカスレンズ
実施例11;外径が12mmφ、中心肉厚が0.4mm、コバ厚が1.8mmの凹メニスカスレンズ
実施例12;外径が6mmφ、中心肉厚が1.2mm、コバ厚が0.4mmの両凸レンズ
Figure 2004123519
Figure 2004123519
成形面に炭素系膜を施した成形用型の説明図。 プラズマ処理装置の説明図。 UVオゾン処理装置の説明図。
符号の説明
 1 型母材
 2 ガラス素材を成形する成形面に設けた炭素皮膜(離型膜)
 3 ガス導入口
 4 プラズマ
 5 試料
 6 電極
 7 排気口
 8 ガス導入口
 9 UVランプ
 10 試料
 11 ヒーター
 12 排気口

Claims (8)

  1. 成形面に炭素系膜を有する成形用型から前記膜を除去することを含む、成形用型の再生方法であって、前記膜の除去を水素系ガスのプラズマによるエッチングまたはUVオゾン処理により行うことを特徴とする成形用型の再生方法。
  2. 前記水素系ガスが、水素ガスまたは水素ガスとアルゴンガスとの混合ガスである請求項1に記載の再生方法。
  3. 前記UVオゾン処理中に、成形面に炭素系膜を有する成形用型を100℃以上600℃以下に加熱することを特徴とする請求項1に記載の再生方法。
  4. 水素系ガスのプラズマによるエッチングまたはUVオゾン処理を施す前に、成形面を酸溶液またはアルカリ溶液で洗浄することを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の再生方法。
  5. 炭素系膜が除去された成形面上に炭素系膜を成膜することをさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の再生方法。
  6. 前記エッチングまたはUVオゾン処理に付される成形用型は、炭素系膜が劣化したものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の再生方法。
  7. 成形面に炭素系膜を有する成形型で、加熱軟化したガラス素材をプレス成形することを含むガラス光学素子の製造方法であって、
    前記成形型は、成形面に炭素系膜を有する成形型の前記膜を水素系ガスのプラズマによるエッチングまたはUVオゾン処理で除去し、次いで、膜が除去された成形面上に炭素系膜を成膜することで再生されたものであることを特徴とする、ガラス光学素子の製造方法。
  8. 前記エッチングまたはUVオゾン処理に付される成形用型は、炭素系膜が劣化したものである請求項7に記載の製造方法。
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JP2017103393A (ja) * 2015-12-03 2017-06-08 学校法人日本大学 炭素膜処理装置

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