JP2004099552A - 親水性ジペプチド - Google Patents
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Abstract
【解決手段】Ile−His、Ile−ArgまたはIle−Lysのアミノ酸配列を有するジペプチドまたはその塩及びこれを含有するアンジオテンシンI変換酵素阻害剤。
【効果】親水性で苦味がなく、アンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有し、高血圧症の予防・治療剤、飲食品に有用である。
【選択図】 なし
【効果】親水性で苦味がなく、アンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有し、高血圧症の予防・治療剤、飲食品に有用である。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なジペプチドに関し、更に詳しくは、アンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有する新規なジペプチド及びその利用に関する。
【0002】
【従来の技術】
アンジオテンシンI変換酵素(ACE)は、生体内においてデカペプチドであるアンジオテンシンIを切断し、オクタペプチドであるアンジオテンシンIIを生成する酵素である。このアンジオテンシンIIは、強力な血管収縮活性を有し、また、血管拡張作用を有するブラジキニンの生成を抑制することから、ACE活性を抑制することは、即ち、血管の収縮を抑制する方向へシフトすることになり、高い血圧を下げるまたは血圧上昇を抑制する。実際、カプトプリルを始めとする強力なACE阻害活性を持つ複数の合成ペプチドが医薬品に応用され(例えば、特許文献1参照。)、高血圧症の治療目的で医療現場で汎用されている。しかし、医薬品であることは同時にその作用が強いことをも意味し、一定の頻度で副作用の出ることは避けられない。
【0003】
一方、食品由来の蛋白分解物(例えば、乳、大豆、魚等由来蛋白の発酵による分解、酵素消化または化学的分解したもの)のなかで、ある種のアミノ酸配列をもつペプチドが、ACE阻害活性を有することが見出され(例えば、特許文献2参照。)、食品への応用が図られている。これらは、食品由来ということからも長期摂取による安全性が期待でき、いわゆる境界域の高血圧患者に対して、その予防効果を得る目的で継続摂取が可能という利点がある。しかし、これらのペプチドは味の点で苦味を有し、利用においては制限があった。また、これらペプチドは通常疎水性ペプチドであって、食品への応用においては自ずと制限があった。
【0004】
【特許文献1】
特開平2−62828号公報
【特許文献2】
特開平3−120225号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は長期間にわたって摂取しても安全であり、かつ苦味のないACE阻害活性物質を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意研究を行った結果、特定の親水性ジペプチドが苦味がなくACE阻害活性を有し、高血圧症の予防・治療剤及び飲食品に有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明はIle−His、Ile−ArgまたはIle−Lysのアミノ酸配列を有するジペプチドまたはその塩を提供するものである。
また、本発明はこれらのジペプチドまたはその塩を有効成分とするアンジオテンシンI変換酵素(ACE)阻害剤及び高血圧症予防・治療剤を提供するものである。
更に、本発明はこれらのジペプチドまたはその塩を含有する飲食品を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のジペプチドまたはその塩は、該当するアミノ酸を基に通常の有機合成法で調製される。
例えば、本発明のジペプチドは、次式(1)
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、R1はウレタン型またはアシル型のアミノ基の保護基、Ileはイソロイシン残基を示す)
で表わされるアミノ保護イソロイシン誘導体と、次式(2)
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、XはHis(ヒスチジン残基)、Arg(アルギニン残基)またはLys(リジン残基)、R2は水素原子またはウレタン型、アシル型もしくはアルキル型等のアミノ酸側鎖保護基、R3は水素原子、カルボキシル基の保護基または固相合成に使用されるレジンの結合を示す)
で表わされるアミノ酸誘導体を脱水縮合し、次いで保護基を脱保護して調製される。
【0013】
式(1)の保護基R1は酸、塩基または接触還元にて脱離可能な保護基である。R1のうち、ウレタン型アミノ基の保護基としては、ベンジルオキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、ジイソプロピルメチルオキシカルボニル基、β−(p−トルエンスルホニル)エトキシカルボニル基等が、またアシル型アミノ基の保護基としては、ベンゾイル基、アセチル基、ホルミル基等が挙げられる。R1としてはt−ブトキシカルボニル基が特に好ましい。
【0014】
式(2)のアミノ酸側鎖保護基R2は接触還元、酸、塩基またはその他の試薬によって脱離可能なウレタン型、アシル型、アルキル型等の保護基である。R2のうち、ウレタン型またはアシル型保護基としては、R1と同じ保護基が挙げられる。R2のうち、アルキル型保護基としてはトリフェニルメチル基等が挙げられる。
【0015】
R3としては、メチル基、エチル基等の低級アルキル基やベンジル基、またはそれらの誘導体が挙げられる。その誘導体としては、メトキシメチル基、クロロベンジル基、メトキシベンジル基が好ましい。R3は固相合成に使用されるレジンとの結合であってもよい。レジンとしては、例えば、ヒドロキシメチルフェニル−レジン、ヒドロキシメチルフェノキシアセチルノルロイシルクロスリンクトエトキシレートアクリレート−レジン等が挙げられる。
【0016】
式(1)と式(2)の化合物の脱水縮合反応は、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジ−2−ピリジルカルボネート、N−エトキシカルボニル−2−エトキシ−1,2−ジヒドロキノリン(EEDQ)等の縮合剤を用いるか、またはp−ニトロフェノール、N−ヒドロキシスクシイミド等の活性エステルを経由することによって行うのが好ましい。得られたジペプチド誘導体は、常法によって各保護基を別々にまたは同時に脱離することにより所望のジペプチドに変換される。
【0017】
また、本発明のジペプチドの塩としては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩及び酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、酒石酸塩等の有機酸塩が挙げられる。また、ペプチドを構成するアミノ酸はL体が好ましい。
【0018】
本発明のジペプチドは、また、当該アミノ酸配列を有する天然蛋白質を基質として、発酵によってまたは酵素分解によっても得ることができる。すなわち、獣乳蛋白、特に牛乳蛋白を基質とし、乳酸菌、ビフィズス菌による発酵によって得ることができる。得られた培養液をジペプチド含有組成物としてそのまま利用することもできるが、培養によって得た当該ジペプチドは、その含量が高くないため、簡単な精製操作、すなわち、溶媒留去による濃縮や吸着と溶出による組み合わせによってジペプチド濃度を高くすることが好ましい。また、発酵によって得た本発明のジペプチドは、得られた培養液をろ過や遠心分離で菌体及び不溶性カゼインを除去後、逆相系の樹脂を用い、かつ溶出液に水を用いただけで、容易に他の疎水性ペプチドまたは蛋白と分離が可能であり、かつそのまま必要な程度濃縮して使用することができる。
【0019】
かくして調製された本発明のジペプチド及びその塩は、親水性で苦味のないものである。
【0020】
本発明のジペプチドまたはその塩の使用量は特に制限されないが、穏やかな降圧作用を有し、かつ経済性が良好である点から、ジペプチドとして1〜1,000mg/日/ヒトであるのが好ましい。
【0021】
本発明のジペプチドまたはその塩をACE阻害剤または高血圧症予防・治療剤として用いる場合には、常法に従って薬学的に許容される担体とともに種々の剤型の医薬組成物とすることができる。例えば、経口用固形製剤を調製する場合には、上記組成物に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。そのような添加剤としては、当該分野で一般的に使用されるものを用いればよく、例えば、賦形剤としては、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、硅酸等を;結合剤としては、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等を;崩壊剤としては乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等を;滑沢剤としては精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等を;矯味剤としては白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等を例示できる。
【0022】
経口用液体製剤を調製する場合は、本発明のジペプチドまたはその塩に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。この場合矯味剤としては上記に挙げられたもので良く、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0023】
また、本発明のジペプチドまたはその塩は、飲食品として用いることも可能である。ここで好ましい飲食品としては、発酵乳、果汁加工飲料、栄養ドリンク、クッキー、キャンディー、タブレット食品等が例示され、特に種々の生理効果を有し、健康に寄与する食品として長く親しまれてきた発酵乳とすれば、風味が良く降圧効果も高いため好ましい。なお飲食品には動物の飼料も含まれる。
【0024】
また、飲食品の製造に際しては、その他の食品素材、すなわち各種糖質や乳化剤、増粘剤、甘味料、酸味料、果汁等を適宜添加することができる。具体的には、蔗糖、異性化糖、グルコース、フラクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール類、アスパルテーム、ステビア、アセスルフォムカリウム、スクラロース等の高甘味度甘味料、蔗糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、カラギーナン、キサンタンガム、グァーガム、ペクチン、ローカストビーンガム等の増粘(安定)剤、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等の酸味料、レモン果汁、オレンジ果汁、ベリー系果汁等の果汁類等が挙げられる。この他にも、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE等のビタミン類やカルシウム、鉄、マンガン、亜鉛等のミネラル類等を添加することが可能である。
【0025】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
参考例 Boc−Ile−ONSuの合成
t−ブトキシカルボニル−Ile−OH 12.2g(50mmol)を1mol/LN−ヒドロキシサクシイミド(H−ONSu)のジクロルメタン溶液50mL(50mmol)中に溶解し−5℃に冷却した。次いで、0.5mol/Lジシクロヘキシルカルボジイミドのジクロルメタン溶液100mLを加え、そのまま−5℃で1時間反応させた後、室温において一夜反応させた。この間、反応液のpHを中性付近に維持するために適時トリエチルアミンを添加した。析出したジシクロヘキシル尿素をろ別し、ジクロルメタンを減圧留去してオイル状のt−ブトキシカルボニルイソロイシル−N−ヒドロキシサクシイミド(Boc−Ile−ONSu)を得た。このBoc−Ile−ONSuはジクロルメタン50mLに再溶解し以降の反応に用いた。
【0027】
実施例1 H−Ile−His−OH(イソロイシルヒスチジン)の合成
H−His−OCH3・2HCl 2g(8mmol)をジクロルメタン30mLに懸濁し、トリエチルアミン8mmolを加えて溶解した後、参考例で調製したBoc−Ile−ONSuのジクロルメタン溶液8mLを加え、室温で一夜撹拌した。この間、反応液のpHを中性付近に維持するために適時トリエチルアミンを添加した。ジクロルメタンを減圧留去後、酢酸エチル200mLを加えて溶解し、0.1mol/L塩酸、5重量%重曹水、飽和食塩水にて洗浄した後、硫酸ナトリウムにて乾燥後、次いで酢酸エチルを減圧留去した。メタノール20mLに再溶解し、2mol/L水酸化ナトリウム4mLを加えてメチルエステルをケン化して脱保護した。更に、0.1mol/L塩酸で中和後、メタノールを減圧留去後酢酸エチル200mLを加えて溶解し、0.1mol/L塩酸、飽和食塩水にて洗浄した後、硫酸ナトリウムにて乾燥後、酢酸エチルを減圧留去した。これを氷冷後、トリフルオロ酢酸(TFA)20mLを加えてそのまま15分間撹拌した。更に室温で1時間撹拌してt−ブトキシカルボニル基を脱保護した。減圧留去によりジクロルメタンとトリフルオロ酢酸を取り除き、残ったオイル状残渣に冷却したエチルエーテル200mLを加えて固化させ、減圧ろ過によって目的物H−Ile−His−OH・TFA0.16gを得た。
【0028】
実施例2 H−Ile−Lys−OH(イソロイシルリジン)の合成
H−Lys(Boc)−OH 1g(4mmol)をジクロルメタン30mLに溶解し、参考例で調製したBoc−Ile−ONSuのジクロルメタン溶液8mLを加え、室温で一夜撹拌した。この間、反応液のpHを中性付近に維持するために適時トリエチルアミンを添加した。ジクロルメタンを減圧留去後、酢酸エチル200mLを加えて溶解し、0.1mol/L塩酸、飽和食塩水にて洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥後、酢酸エチルを減圧留去してオイル状残渣を得た。これを氷冷後、トリフルオロ酢酸20mLを加えてそのまま15分間撹拌した後、更に室温で1時間撹拌してt−ブトキシカルボニル基を脱保護した。減圧留去によりジクロルメタンとトリフルオロ酢酸を取り除き、残ったオイル状残渣に冷却したエチルエーテル200mLを加えて固化させ、減圧ろ過により目的物H−Ile−Lys−OH・2TFA 0.27gを得た。
【0029】
実施例3 H−Ile−Arg−OH(イソロイシルアルギニン)の合成
H−Arg−OC2H5・2HCl 5g(18mmol)をジクロルメタン15mLに懸濁し、トリエチルアミン18mmolを加えて溶解した後、参考例で調製したBoc−Ile−ONSuのジクロルメタン溶液18mLを加え、室温で一夜撹拌した。この間、反応液のpHを中性付近に維持するために適時トリエチルアミンを添加した。ジクロルメタンを減圧留去後、酢酸エチル200mLを加えて溶解し、0.1mol/L塩酸、飽和食塩水にて洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥後、酢酸エチルを減圧留去してオイル状の残渣を得た。メタノール20mLに再溶解し、2mol/L水酸化ナトリウム4mLを加えて、エチルエステルをケン化して脱保護した。更に0.1mol/L塩酸で中和後、メタノールを減圧留去後酢酸エチル200mLを加えて溶解し、0.1mol/L塩酸、飽和食塩水にて洗浄した後、硫酸ナトリウムにて乾燥後、酢酸エチルを減圧留去した。これを氷冷後、トリフルオロ酢酸20mLを加えそのまま15分間撹拌した。更に室温で1時間撹拌しt−ブトキシカルボニル基を脱保護した。減圧留去によりジクロルメタンとトリフルオロ酢酸を取り除き、残ったオイル状残渣に冷却したエチルエーテル200mLを加えて固化させ、減圧ろ過により目的物H−Ile−Arg−OH・2TFA 0.21gを得た。
【0030】
実施例4 ACE阻害活性
実施例1〜3で調製したジペプチドのACE阻害活性を測定した結果を表1に示す。
【0031】
ACE阻害活性の測定法
ACE阻害活性は、クッシュマンらの方法[Biochem. Pharmacol., 20, 1637−1648,(1971)]に準じ、生物化学実験法38[川岸舜郎編、学会出版センター(1996)]及び江藤らの方法[日本栄養・食糧学会誌、52, 301−306,(1999)]を参考に若干修正した次法により測定した。
測定用試料または対照液(精製水)0.08mLに、0.3mol/L 塩化ナトリウム含有0.2mol/Lホウ酸緩衝液(pH8.3)で調製した5mmol/Lヒプリルヒスチジルロイシン溶液0.2mLを加えた後、2mU ACEを含んだ0.5mol/L塩化ナトリウム含有0.01mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)0.02mLを加え、37℃で30分間反応させた。1mol/L塩酸0.25mLを添加して反応を停止させ、反応液に酢酸エチル1.7mLを混和して20秒間振盪する。遠心分離(3,000r/min, 10min)後、酢酸エチル層を1.4mL分取し、ブロックヒーター上で蒸発乾固(140℃, 20min)させた後、1mol/L塩化ナトリウム溶液1.5mLに溶解する。塩化ナトリウム溶液中のヒプリル酸の紫外部吸収を228nmで測定し、得られた吸光度から下記の式よりACE阻害率を求めた。
【0032】
ACE阻害率(%)=[(B−D)/(A−C)]×100
【0033】
A:水を酵素と基質で反応させた時の吸光度
B:試料を酵素と基質で反応させた時の吸光度
C:水と基質のみで反応させ、反応停止後、酵素を添加した時の吸光度
D:試料と基質のみで反応させ、反応停止後、酵素を添加した時の吸光度
測定試料の濃度を複数取って各々ACE阻害活性を測定し、得られた値からACE活性を50%阻害する試料濃度を求め、これをIC50値とした。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例5 発酵によるジペプチドの調製
加熱殺菌した30重量%脱脂乳溶液1Lに、ラクトバチルス・カゼイYIT9029(FERM BP−1366)、ラクトコッカス・ラクティスYIT2027(FERM BP−6224)、ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT2037(ATCC 19258)及びラクトバチルス・デルブリッキー・サブスピーシズ・ブルガリクスYIT0181(ATCC 11842)菌株を接種し、30℃で3日間培養した。培養液を遠心分離して菌体及び不溶性カゼインを除き、培養上清0.8Lを得た。そのうち10mLをメタノール及びイオン交換水にてコンディショニングした固相抽出用逆相系カラム(SPEカラム Bond Elute C18m VARIAN社)に通し、更にイオン交換水70mLを通液した。通過液を集め、濃縮後、親水性化合物用ODSカラム(ダイソーパックODS−BP)にて、移動相に水を用いてクロマトグラフィーを行い、0.5mLずつ分取した。各画分のACE阻害活性を測定し、活性を示した二つの画分のアミノ酸シークエンスを行った結果、それぞれよりイソロイシルヒスチジン及びイソロイシルリジンが同定された。各々の収量は約2μg/mL及び25μg/mLであった。
【0036】
実施例6 発酵乳
実施例5で得られた培養液1Lをホモジナイザーで均質化し、これに殺菌した20重量%ショ糖溶液を等量混合した。更に適量の香料を混合、撹拌し、ポリスチレン容器に充填して発酵乳製品を製造した。この発酵乳製品をパネラー5名で官能評価したところ、風味は非常に良好であった。
また、菌株としてストレプトコッカス・サーモ フィルスYIT2109とラクトバチルス・カゼイYIT9031(FERM BP−1359)を用いる以外は、実施例5と同様に発酵乳を調製した。(この発酵乳中にイソロイシルヒスチジン、イソロイシルアルギニン及びイソロイシルリジンは同定されなかった。)この発酵乳食品に疎水ペプチドであるArg−Gly−Pro−Pro−Phe−Ile−Val(カゼイン由来)を30μg/mL添加し、上記と同様に官能評価したところ、好ましくない苦味が発現し、風味の低下が感じられた。
【0037】
【発明の効果】
本発明のジペプチド及びその塩は、親水性で苦味がなく、アンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有し、高血圧症の予防・治療剤、飲食品に有用である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なジペプチドに関し、更に詳しくは、アンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有する新規なジペプチド及びその利用に関する。
【0002】
【従来の技術】
アンジオテンシンI変換酵素(ACE)は、生体内においてデカペプチドであるアンジオテンシンIを切断し、オクタペプチドであるアンジオテンシンIIを生成する酵素である。このアンジオテンシンIIは、強力な血管収縮活性を有し、また、血管拡張作用を有するブラジキニンの生成を抑制することから、ACE活性を抑制することは、即ち、血管の収縮を抑制する方向へシフトすることになり、高い血圧を下げるまたは血圧上昇を抑制する。実際、カプトプリルを始めとする強力なACE阻害活性を持つ複数の合成ペプチドが医薬品に応用され(例えば、特許文献1参照。)、高血圧症の治療目的で医療現場で汎用されている。しかし、医薬品であることは同時にその作用が強いことをも意味し、一定の頻度で副作用の出ることは避けられない。
【0003】
一方、食品由来の蛋白分解物(例えば、乳、大豆、魚等由来蛋白の発酵による分解、酵素消化または化学的分解したもの)のなかで、ある種のアミノ酸配列をもつペプチドが、ACE阻害活性を有することが見出され(例えば、特許文献2参照。)、食品への応用が図られている。これらは、食品由来ということからも長期摂取による安全性が期待でき、いわゆる境界域の高血圧患者に対して、その予防効果を得る目的で継続摂取が可能という利点がある。しかし、これらのペプチドは味の点で苦味を有し、利用においては制限があった。また、これらペプチドは通常疎水性ペプチドであって、食品への応用においては自ずと制限があった。
【0004】
【特許文献1】
特開平2−62828号公報
【特許文献2】
特開平3−120225号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は長期間にわたって摂取しても安全であり、かつ苦味のないACE阻害活性物質を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意研究を行った結果、特定の親水性ジペプチドが苦味がなくACE阻害活性を有し、高血圧症の予防・治療剤及び飲食品に有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明はIle−His、Ile−ArgまたはIle−Lysのアミノ酸配列を有するジペプチドまたはその塩を提供するものである。
また、本発明はこれらのジペプチドまたはその塩を有効成分とするアンジオテンシンI変換酵素(ACE)阻害剤及び高血圧症予防・治療剤を提供するものである。
更に、本発明はこれらのジペプチドまたはその塩を含有する飲食品を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のジペプチドまたはその塩は、該当するアミノ酸を基に通常の有機合成法で調製される。
例えば、本発明のジペプチドは、次式(1)
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、R1はウレタン型またはアシル型のアミノ基の保護基、Ileはイソロイシン残基を示す)
で表わされるアミノ保護イソロイシン誘導体と、次式(2)
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、XはHis(ヒスチジン残基)、Arg(アルギニン残基)またはLys(リジン残基)、R2は水素原子またはウレタン型、アシル型もしくはアルキル型等のアミノ酸側鎖保護基、R3は水素原子、カルボキシル基の保護基または固相合成に使用されるレジンの結合を示す)
で表わされるアミノ酸誘導体を脱水縮合し、次いで保護基を脱保護して調製される。
【0013】
式(1)の保護基R1は酸、塩基または接触還元にて脱離可能な保護基である。R1のうち、ウレタン型アミノ基の保護基としては、ベンジルオキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、ジイソプロピルメチルオキシカルボニル基、β−(p−トルエンスルホニル)エトキシカルボニル基等が、またアシル型アミノ基の保護基としては、ベンゾイル基、アセチル基、ホルミル基等が挙げられる。R1としてはt−ブトキシカルボニル基が特に好ましい。
【0014】
式(2)のアミノ酸側鎖保護基R2は接触還元、酸、塩基またはその他の試薬によって脱離可能なウレタン型、アシル型、アルキル型等の保護基である。R2のうち、ウレタン型またはアシル型保護基としては、R1と同じ保護基が挙げられる。R2のうち、アルキル型保護基としてはトリフェニルメチル基等が挙げられる。
【0015】
R3としては、メチル基、エチル基等の低級アルキル基やベンジル基、またはそれらの誘導体が挙げられる。その誘導体としては、メトキシメチル基、クロロベンジル基、メトキシベンジル基が好ましい。R3は固相合成に使用されるレジンとの結合であってもよい。レジンとしては、例えば、ヒドロキシメチルフェニル−レジン、ヒドロキシメチルフェノキシアセチルノルロイシルクロスリンクトエトキシレートアクリレート−レジン等が挙げられる。
【0016】
式(1)と式(2)の化合物の脱水縮合反応は、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジ−2−ピリジルカルボネート、N−エトキシカルボニル−2−エトキシ−1,2−ジヒドロキノリン(EEDQ)等の縮合剤を用いるか、またはp−ニトロフェノール、N−ヒドロキシスクシイミド等の活性エステルを経由することによって行うのが好ましい。得られたジペプチド誘導体は、常法によって各保護基を別々にまたは同時に脱離することにより所望のジペプチドに変換される。
【0017】
また、本発明のジペプチドの塩としては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩及び酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、酒石酸塩等の有機酸塩が挙げられる。また、ペプチドを構成するアミノ酸はL体が好ましい。
【0018】
本発明のジペプチドは、また、当該アミノ酸配列を有する天然蛋白質を基質として、発酵によってまたは酵素分解によっても得ることができる。すなわち、獣乳蛋白、特に牛乳蛋白を基質とし、乳酸菌、ビフィズス菌による発酵によって得ることができる。得られた培養液をジペプチド含有組成物としてそのまま利用することもできるが、培養によって得た当該ジペプチドは、その含量が高くないため、簡単な精製操作、すなわち、溶媒留去による濃縮や吸着と溶出による組み合わせによってジペプチド濃度を高くすることが好ましい。また、発酵によって得た本発明のジペプチドは、得られた培養液をろ過や遠心分離で菌体及び不溶性カゼインを除去後、逆相系の樹脂を用い、かつ溶出液に水を用いただけで、容易に他の疎水性ペプチドまたは蛋白と分離が可能であり、かつそのまま必要な程度濃縮して使用することができる。
【0019】
かくして調製された本発明のジペプチド及びその塩は、親水性で苦味のないものである。
【0020】
本発明のジペプチドまたはその塩の使用量は特に制限されないが、穏やかな降圧作用を有し、かつ経済性が良好である点から、ジペプチドとして1〜1,000mg/日/ヒトであるのが好ましい。
【0021】
本発明のジペプチドまたはその塩をACE阻害剤または高血圧症予防・治療剤として用いる場合には、常法に従って薬学的に許容される担体とともに種々の剤型の医薬組成物とすることができる。例えば、経口用固形製剤を調製する場合には、上記組成物に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。そのような添加剤としては、当該分野で一般的に使用されるものを用いればよく、例えば、賦形剤としては、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、硅酸等を;結合剤としては、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等を;崩壊剤としては乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等を;滑沢剤としては精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等を;矯味剤としては白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等を例示できる。
【0022】
経口用液体製剤を調製する場合は、本発明のジペプチドまたはその塩に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。この場合矯味剤としては上記に挙げられたもので良く、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0023】
また、本発明のジペプチドまたはその塩は、飲食品として用いることも可能である。ここで好ましい飲食品としては、発酵乳、果汁加工飲料、栄養ドリンク、クッキー、キャンディー、タブレット食品等が例示され、特に種々の生理効果を有し、健康に寄与する食品として長く親しまれてきた発酵乳とすれば、風味が良く降圧効果も高いため好ましい。なお飲食品には動物の飼料も含まれる。
【0024】
また、飲食品の製造に際しては、その他の食品素材、すなわち各種糖質や乳化剤、増粘剤、甘味料、酸味料、果汁等を適宜添加することができる。具体的には、蔗糖、異性化糖、グルコース、フラクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール類、アスパルテーム、ステビア、アセスルフォムカリウム、スクラロース等の高甘味度甘味料、蔗糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、カラギーナン、キサンタンガム、グァーガム、ペクチン、ローカストビーンガム等の増粘(安定)剤、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等の酸味料、レモン果汁、オレンジ果汁、ベリー系果汁等の果汁類等が挙げられる。この他にも、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE等のビタミン類やカルシウム、鉄、マンガン、亜鉛等のミネラル類等を添加することが可能である。
【0025】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
参考例 Boc−Ile−ONSuの合成
t−ブトキシカルボニル−Ile−OH 12.2g(50mmol)を1mol/LN−ヒドロキシサクシイミド(H−ONSu)のジクロルメタン溶液50mL(50mmol)中に溶解し−5℃に冷却した。次いで、0.5mol/Lジシクロヘキシルカルボジイミドのジクロルメタン溶液100mLを加え、そのまま−5℃で1時間反応させた後、室温において一夜反応させた。この間、反応液のpHを中性付近に維持するために適時トリエチルアミンを添加した。析出したジシクロヘキシル尿素をろ別し、ジクロルメタンを減圧留去してオイル状のt−ブトキシカルボニルイソロイシル−N−ヒドロキシサクシイミド(Boc−Ile−ONSu)を得た。このBoc−Ile−ONSuはジクロルメタン50mLに再溶解し以降の反応に用いた。
【0027】
実施例1 H−Ile−His−OH(イソロイシルヒスチジン)の合成
H−His−OCH3・2HCl 2g(8mmol)をジクロルメタン30mLに懸濁し、トリエチルアミン8mmolを加えて溶解した後、参考例で調製したBoc−Ile−ONSuのジクロルメタン溶液8mLを加え、室温で一夜撹拌した。この間、反応液のpHを中性付近に維持するために適時トリエチルアミンを添加した。ジクロルメタンを減圧留去後、酢酸エチル200mLを加えて溶解し、0.1mol/L塩酸、5重量%重曹水、飽和食塩水にて洗浄した後、硫酸ナトリウムにて乾燥後、次いで酢酸エチルを減圧留去した。メタノール20mLに再溶解し、2mol/L水酸化ナトリウム4mLを加えてメチルエステルをケン化して脱保護した。更に、0.1mol/L塩酸で中和後、メタノールを減圧留去後酢酸エチル200mLを加えて溶解し、0.1mol/L塩酸、飽和食塩水にて洗浄した後、硫酸ナトリウムにて乾燥後、酢酸エチルを減圧留去した。これを氷冷後、トリフルオロ酢酸(TFA)20mLを加えてそのまま15分間撹拌した。更に室温で1時間撹拌してt−ブトキシカルボニル基を脱保護した。減圧留去によりジクロルメタンとトリフルオロ酢酸を取り除き、残ったオイル状残渣に冷却したエチルエーテル200mLを加えて固化させ、減圧ろ過によって目的物H−Ile−His−OH・TFA0.16gを得た。
【0028】
実施例2 H−Ile−Lys−OH(イソロイシルリジン)の合成
H−Lys(Boc)−OH 1g(4mmol)をジクロルメタン30mLに溶解し、参考例で調製したBoc−Ile−ONSuのジクロルメタン溶液8mLを加え、室温で一夜撹拌した。この間、反応液のpHを中性付近に維持するために適時トリエチルアミンを添加した。ジクロルメタンを減圧留去後、酢酸エチル200mLを加えて溶解し、0.1mol/L塩酸、飽和食塩水にて洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥後、酢酸エチルを減圧留去してオイル状残渣を得た。これを氷冷後、トリフルオロ酢酸20mLを加えてそのまま15分間撹拌した後、更に室温で1時間撹拌してt−ブトキシカルボニル基を脱保護した。減圧留去によりジクロルメタンとトリフルオロ酢酸を取り除き、残ったオイル状残渣に冷却したエチルエーテル200mLを加えて固化させ、減圧ろ過により目的物H−Ile−Lys−OH・2TFA 0.27gを得た。
【0029】
実施例3 H−Ile−Arg−OH(イソロイシルアルギニン)の合成
H−Arg−OC2H5・2HCl 5g(18mmol)をジクロルメタン15mLに懸濁し、トリエチルアミン18mmolを加えて溶解した後、参考例で調製したBoc−Ile−ONSuのジクロルメタン溶液18mLを加え、室温で一夜撹拌した。この間、反応液のpHを中性付近に維持するために適時トリエチルアミンを添加した。ジクロルメタンを減圧留去後、酢酸エチル200mLを加えて溶解し、0.1mol/L塩酸、飽和食塩水にて洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥後、酢酸エチルを減圧留去してオイル状の残渣を得た。メタノール20mLに再溶解し、2mol/L水酸化ナトリウム4mLを加えて、エチルエステルをケン化して脱保護した。更に0.1mol/L塩酸で中和後、メタノールを減圧留去後酢酸エチル200mLを加えて溶解し、0.1mol/L塩酸、飽和食塩水にて洗浄した後、硫酸ナトリウムにて乾燥後、酢酸エチルを減圧留去した。これを氷冷後、トリフルオロ酢酸20mLを加えそのまま15分間撹拌した。更に室温で1時間撹拌しt−ブトキシカルボニル基を脱保護した。減圧留去によりジクロルメタンとトリフルオロ酢酸を取り除き、残ったオイル状残渣に冷却したエチルエーテル200mLを加えて固化させ、減圧ろ過により目的物H−Ile−Arg−OH・2TFA 0.21gを得た。
【0030】
実施例4 ACE阻害活性
実施例1〜3で調製したジペプチドのACE阻害活性を測定した結果を表1に示す。
【0031】
ACE阻害活性の測定法
ACE阻害活性は、クッシュマンらの方法[Biochem. Pharmacol., 20, 1637−1648,(1971)]に準じ、生物化学実験法38[川岸舜郎編、学会出版センター(1996)]及び江藤らの方法[日本栄養・食糧学会誌、52, 301−306,(1999)]を参考に若干修正した次法により測定した。
測定用試料または対照液(精製水)0.08mLに、0.3mol/L 塩化ナトリウム含有0.2mol/Lホウ酸緩衝液(pH8.3)で調製した5mmol/Lヒプリルヒスチジルロイシン溶液0.2mLを加えた後、2mU ACEを含んだ0.5mol/L塩化ナトリウム含有0.01mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)0.02mLを加え、37℃で30分間反応させた。1mol/L塩酸0.25mLを添加して反応を停止させ、反応液に酢酸エチル1.7mLを混和して20秒間振盪する。遠心分離(3,000r/min, 10min)後、酢酸エチル層を1.4mL分取し、ブロックヒーター上で蒸発乾固(140℃, 20min)させた後、1mol/L塩化ナトリウム溶液1.5mLに溶解する。塩化ナトリウム溶液中のヒプリル酸の紫外部吸収を228nmで測定し、得られた吸光度から下記の式よりACE阻害率を求めた。
【0032】
ACE阻害率(%)=[(B−D)/(A−C)]×100
【0033】
A:水を酵素と基質で反応させた時の吸光度
B:試料を酵素と基質で反応させた時の吸光度
C:水と基質のみで反応させ、反応停止後、酵素を添加した時の吸光度
D:試料と基質のみで反応させ、反応停止後、酵素を添加した時の吸光度
測定試料の濃度を複数取って各々ACE阻害活性を測定し、得られた値からACE活性を50%阻害する試料濃度を求め、これをIC50値とした。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例5 発酵によるジペプチドの調製
加熱殺菌した30重量%脱脂乳溶液1Lに、ラクトバチルス・カゼイYIT9029(FERM BP−1366)、ラクトコッカス・ラクティスYIT2027(FERM BP−6224)、ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT2037(ATCC 19258)及びラクトバチルス・デルブリッキー・サブスピーシズ・ブルガリクスYIT0181(ATCC 11842)菌株を接種し、30℃で3日間培養した。培養液を遠心分離して菌体及び不溶性カゼインを除き、培養上清0.8Lを得た。そのうち10mLをメタノール及びイオン交換水にてコンディショニングした固相抽出用逆相系カラム(SPEカラム Bond Elute C18m VARIAN社)に通し、更にイオン交換水70mLを通液した。通過液を集め、濃縮後、親水性化合物用ODSカラム(ダイソーパックODS−BP)にて、移動相に水を用いてクロマトグラフィーを行い、0.5mLずつ分取した。各画分のACE阻害活性を測定し、活性を示した二つの画分のアミノ酸シークエンスを行った結果、それぞれよりイソロイシルヒスチジン及びイソロイシルリジンが同定された。各々の収量は約2μg/mL及び25μg/mLであった。
【0036】
実施例6 発酵乳
実施例5で得られた培養液1Lをホモジナイザーで均質化し、これに殺菌した20重量%ショ糖溶液を等量混合した。更に適量の香料を混合、撹拌し、ポリスチレン容器に充填して発酵乳製品を製造した。この発酵乳製品をパネラー5名で官能評価したところ、風味は非常に良好であった。
また、菌株としてストレプトコッカス・サーモ フィルスYIT2109とラクトバチルス・カゼイYIT9031(FERM BP−1359)を用いる以外は、実施例5と同様に発酵乳を調製した。(この発酵乳中にイソロイシルヒスチジン、イソロイシルアルギニン及びイソロイシルリジンは同定されなかった。)この発酵乳食品に疎水ペプチドであるArg−Gly−Pro−Pro−Phe−Ile−Val(カゼイン由来)を30μg/mL添加し、上記と同様に官能評価したところ、好ましくない苦味が発現し、風味の低下が感じられた。
【0037】
【発明の効果】
本発明のジペプチド及びその塩は、親水性で苦味がなく、アンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有し、高血圧症の予防・治療剤、飲食品に有用である。
Claims (5)
- Ile−His、Ile−ArgまたはIle−Lysのアミノ酸配列を有するジペプチドまたはその塩。
- 請求項1記載のジペプチドまたはその塩を有効成分とするアンジオテンシンI変換酵素阻害剤。
- 請求項1記載のジペプチドまたはその塩を有効成分とする高血圧症予防・治療剤。
- 請求項1記載のジペプチドまたはその塩を含有する飲食品。
- 飲食品が発酵乳である請求項4記載の飲食品。
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