JP2004075907A - 低速電子線用赤色蛍光体、その製造方法および蛍光表示管 - Google Patents
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Abstract
【課題】蛍光体寿命を伸ばすことができる低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)、その製造方法およびその蛍光体を用いた蛍光表示管を提供する。
【解決手段】SrTiO3母体にPrおよびAlが付活された低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)(図3)において、該蛍光体(6a)の表面に導電性酸化物(6c)が被覆され、この導電性酸化物表面に白金族金属および白金族金属酸化物から選ばれた少なくとも1種の物質(6b)が撒布状に付着されてなる。
【選択図】 図3
【解決手段】SrTiO3母体にPrおよびAlが付活された低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)(図3)において、該蛍光体(6a)の表面に導電性酸化物(6c)が被覆され、この導電性酸化物表面に白金族金属および白金族金属酸化物から選ばれた少なくとも1種の物質(6b)が撒布状に付着されてなる。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は低速電子線用赤色蛍光体および該低速電子線用赤色蛍光体を用いた蛍光表示管に関する。
【0002】
【従来の技術】
オーディオ、家電製品、計測器、医療機器などの表示部に所定のパターンあるいはグラフィックを表示する表示素子や、バックライト、プリンタヘッド、ファックス用光源、複写機用光源などの各種光源、平面テレビ等に自発光型の素子として蛍光表示管が多用されている。
これら蛍光表示管に用いられる蛍光体の中で、従来のCdを含む(Zn,Cd)S:Ag,Cl赤色蛍光体から、Cdを含まない低速電子線用赤色蛍光体が近年開発されている。例えば、Mg、Sr、Ca、Baから選択された一種類の元素とTiの酸化物からなる母体に3族元素が添加された蛍光体の表面に、酸化物からなり前記蛍光体をカーボン系ガスから保護する保護膜が形成されたことを特徴とする蛍光体(特許第2746186号)、SrTiO3を母体とする蛍光体にPtO2とRuO2の中から選ばれた少なくとも一つの物質を添加したことを特徴とする蛍光体(特許第2904106号)等が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、Cdを含まない低速電子線用赤色蛍光体としてのSrTiO3:Pr,Alは、時間の経過とともに輝度の低下割合が大きく、蛍光体寿命が短いという問題がある。特に励起電圧が 15V をこえる動作環境下では極端に蛍光体寿命が短くなる。
酸化物からなる保護膜を形成したり、PtO2等を添加したりすることにより、蛍光体寿命は向上するが実用上十分でないという問題がある。
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、蛍光体寿命を伸ばすことができる低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)、その製造方法およびその蛍光体を用いた蛍光表示管の提供を目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明の低速電子線用蛍光体は、SrTiO3母体にPrおよびAlが付活された低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)において、該蛍光体の表面に導電性酸化物が被覆され、この導電性酸化物表面に白金族金属および白金族金属酸化物から選ばれた少なくとも1種の物質が撒布状に付着されてなることを特徴とする。
また、蛍光体の表面に被覆される導電性酸化物が 0.01〜5 重量%蛍光体全体に対して配合され、この導電性酸化物に対して白金族金属および白金族金属酸化物から選ばれた少なくとも1種の物質が 0.05〜15 重量%導電性酸化物表面に撒布状に付着されてなることを特徴とする。
【0005】
本発明の低速電子線用赤色蛍光体の製造方法は、SrTiO3母体にPrおよびAlが付活された低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)粒子を導電性酸化物を形成する有機金属アルコラート含有溶液に分散させて、乾燥、焼成する工程と、導電性酸化物層が被覆された赤色蛍光体粒子を白金族金属および白金族金属酸化物から選ばれた少なくとも1種の物質を形成する溶液に分散させて、乾燥、焼成する工程とを含むことを特徴とする。
【0006】
本発明の蛍光表示管は、真空容器内に形成された蛍光体層に低速電子線を射突させて発光させる蛍光表示管において、蛍光体層が上記低速電子線用赤色蛍光体を含むことを特徴とする。
【0007】
低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)の発光輝度が時間の経過とともに低下する原因について研究したところ、SrTiO3:Pr,Alは 15V 以上の電圧で励起されると蛍光体表面に吸着していたCO2、CO、CH4、H2等の管内残留ガスがイオン化され、蛍光体表面の酸素と化合し表面に酸素欠乏層が生じることで、発光輝度の低下が生じることが分かった。
酸素欠陥がある導電性酸化物で蛍光体表面を被覆することにより、残留ガスがこの導電性酸化物層に吸着される。しかし、導電性酸化物層を厚くすると低速電子線が蛍光体層に侵入せず、薄いと残留ガス吸着能が少なくなるので、導電性酸化物のみで蛍光体表面の酸素欠乏層の生成を抑えることが困難である。しかし、導電性酸化物層表面に白金族金属および白金族金属酸化物から選ばれた少なくとも1種の物質を撒布状に付着させることにより、この白金族金属酸化物等の作用により残留ガスが導電性酸化物に強固に吸着する。その結果、高い励起電圧でも残留ガスがイオン化されず、蛍光体表面の酸素欠乏層の生成を抑えられ、低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)の発光輝度寿命が向上する。
【0008】
【発明の実施の形態】
SrTiO3母体にPrおよびAlが付活された低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)を準備し、この蛍光体の表面に導電性酸化物を被覆する。使用できる導電性酸化物としては、管内残留ガスを吸着しやすい導電性酸化物であればよい。例えばSn、Ti、Zn、W、In、Nbなど単体または複合導電性酸化物が挙げられる。好ましくはSnO2、TiO2、ZnO、WO3を例示できる。
【0009】
蛍光体の表面に被覆される導電性酸化物は、蛍光体全体に対して 0.01〜5 重量%、好ましくは 0.1〜3 重量%、より好ましくは 0.5〜1.5 重量%配合される。0.01 重量%未満では管内残留ガスの吸着が困難になり、5 重量%をこえると被覆層の膜厚が厚くなりすぎ、低速電子線が十分に蛍光体層に侵入せず輝度が向上しない。
【0010】
導電性酸化物の被覆は、該酸化物を形成する有機金属アルコラートを溶媒に溶解して得られる溶液に低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)粒子を分散させて、その後に乾燥、焼成を行なうことにより形成できる。また、導電性酸化物の被覆層の膜厚は、この乾燥、焼成を繰り返すことにより調整できる。
有機金属アルコラートは、アルコールの水酸基の水素を金属で置換した化合物であり、導電性酸化物層を形成できる金属のアルコラートであれば使用できる。好適なアルコラートとしては、エチラート、メチラート等が挙げられる。
有機金属アルコラート溶液には、該有機金属アルコラートを安定化させることができるバインダー樹脂を配合できる。好適なバインダー樹脂としては、セルローズ誘導体であり、エチルセルローズ、メチルセルローズ、酢酸セルローズ、カルボキシメチルセルローズ等が挙げられる。これらの中で、エチルセルローズが有機金属アルコラートとの親和性等に優れるため好ましい。
また、有機金属アルコラートを溶解する溶媒としては、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテートなどのカルビトール類、α−テルピネオール、2−フェノキシエタノールなどの高沸点溶媒が挙げられる。
【0011】
導電性酸化物の被覆層の表面に撒布状に付着させる白金族金属としては、Pd、Pt、Ru、Rh、OsおよびIrを例示できる。また、白金族金属の酸化物としては、上記白金族金属の酸化物が例示できる。これら白金族金属および白金族金属酸化物は単独であるいは複合物で存在することができる。また、該金属および酸化物は微粒子状態で導電性酸化物表面に撒布状に付着されることが好ましい。
【0012】
白金族金属、白金族金属酸化物、またはこれらの混合物は、上記導電性酸化物に対して 0.05〜15 重量%、好ましくは 0.1〜5 重量% 該導電性酸化物表面に撒布状に付着させる。0.05 重量%未満では触媒効果が発現せず、15 重量%をこえると微粒子の状態で撒布状に付着させることが困難になる。
【0013】
白金族金属酸化物等を撒布状に付着させる方法を説明する。この方法は導電性酸化物表面に撒布状に付着させるとともに陽極基板上に蛍光体層を形成する方法である。
まず印刷ペーストを調製する。
印刷ペーストは、導電性酸化物層が被覆された低速電子線用赤色蛍光体と白金族金属酸化物等形成剤とからなり、該形成剤はバインダー樹脂および有機白金族金属アルコラートを溶媒に溶解して得られる。
バインダー樹脂としては導電性酸化物層形成時に使用した樹脂、例えば印刷性に優れるエチルセルローズを使用できる。
【0014】
金属アルコラートは、アルコールの水酸基の水素を白金族金属で置換した化合物であり、上述した導電性酸化物層を形成できる金属のアルコラートであれば使用できる。好適なアルコラートとしては、エチラート、メチラート等が挙げられる。
【0015】
白金族金属酸化物等形成剤の溶媒は、スクリーン印刷用に採用されている従来周知の溶媒を用いることができる。そのような溶媒としては、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテートなどのカルビトール類、α−テルピネオール、2−フェノキシエタノールなどの高沸点溶媒が挙げられる。
【0016】
印刷ペーストは、白金族金属アルコラートを溶媒に溶解し、粘度調整するとともに、白金族金属アルコラートの径時的沈殿や混濁を生じることなく、かつ蛍光体の表面を均一に覆うことができるエチルセルローズ等を配合して得られる。印刷ペーストの白金族金属アルコラート成分濃度、あるいは、浸漬、乾燥、焼成を調節することにより、酸化物を微粒子の状態で撒布状に付着させられる。また、還元雰囲気下で焼成することにより、白金族金属の微粒子を撒布状に付着できる。
印刷ペーストを用いて印刷、乾燥、焼成する工程は、陽極パターン上に周知の方法によって行なうことができる。
【0017】
本発明の蛍光表示管について図1、図2および図3により説明する。図1は蛍光表示管の断面図、図2は蛍光表示管を構成する陽極基板の部分拡大断面図、図3は蛍光体の拡大断面図である。
蛍光表示管1は、陽極基板7と、この陽極基板7上方にグリット8と陰極9とを設け、フェースガラス10およびスペーサガラス11を用いて封着して真空引きして形成される。陰極9より発生した低速電子線が陽極基板7上の蛍光体層6に射突して発光する。
陽極基板7は、ガラス基板2上に銀を主成分とする導電性ペーストを印刷塗布法により、またはアルミニウムの薄膜法により配線層3を形成した後、スルーホール4aを除くほぼ全面にわたって低融点フリットガラスペーストの印刷塗布法により絶縁層4を形成し、このスルーホール4aを介して電気的に接続された陽極電極5をグラファイトペーストの印刷塗布法により形成する。この陽極電極5上に、蛍光体層6を印刷塗布法より塗布したのち焼成して陽極基板7が得られる。
図3に示すように、蛍光体層6は表面に導電性酸化物層6cが被覆された低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)粒子6aの導電性酸化物層6c上に白金族金属または白金族金属酸化物6bが撒布状に付着している。この白金族金属酸化物等の触媒作用等により管内ガス汚染による赤色蛍光体6の発光輝度が経時的に変化しない。
【0018】
【実施例】
実施例1
平均粒子径 2〜3 μm の赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)を錫アルコラート溶液に分散させる。この分散液を乾燥し、500 ℃の温度で空気中で焼成することにより赤色蛍光体粒子表面に導電性酸化物(SnO2)を被覆した。
導電性酸化物層が表面に被覆された赤色蛍光体粒子を、白金アルコラートを含むα−テルピネオールおよびエチルセルローズ混合液に分散させて印刷ペーストを調製した。この印刷ペーストを用いて、スクリーン印刷して 500 ℃の温度で焼成し、還元処理することにより図2に示す陽極基板7を作製し、さらに図1に示す蛍光表示管を組み立てた。なお、導電性酸化物の配合割合は 0.8 重量%、この導電性酸化物に対してPtの配合割合は 0.5 重量%であった。
得られた蛍光表示管を、陽極電圧 26V 、デューティー 1/12 で初期輝度と 5000 時間放置後の初期輝度維持率を調べた。結果を表1に示す。
なお、印刷ペースト調製のときに 0.5μm 以下のIn2O3などの導電性粒子を所定量添加することで導電性がより改善される。
【0019】
実施例2
平均粒子径 2〜3 μm の赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)をチタンアルコラート溶液に分散させる。この分散液を乾燥し、500 ℃の温度で空気中で焼成することにより赤色蛍光体粒子表面に導電性酸化物(TiO2)を被覆した。
導電性酸化物層が表面に被覆された赤色蛍光体粒子を、パラジウムアルコラートを含むα−テルピネオールおよびエチルセルローズ混合液に分散させて印刷ペーストを調製した。この印刷ペーストを用いて、スクリーン印刷して 500 ℃の温度で空気中で焼成することにより図2に示す陽極基板7を作製し、さらに図1に示す蛍光表示管を組み立てた。なお、導電性酸化物の配合割合は 1.0 重量%、この導電性酸化物に対してPdOの配合割合は 0.5 重量%であった。
得られた蛍光体組成物を用いて実施例1と同一の方法で蛍光表示管を組み立て、実施例1と同一の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0020】
比較例1
平均粒子径 2〜3 μm の赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)をα−テルピネオールおよびエチルセルローズ混合液に分散させて印刷ペーストを調製した。この印刷ペーストを用いて実施例1と同一の方法で蛍光表示管を組み立て、実施例1と同一の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0021】
比較例2
平均粒子径 2〜3 μm の赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)を錫アルコラート溶液に分散させる。この分散液を乾燥し、500 ℃の温度で空気中で焼成することにより赤色蛍光体粒子表面に導電性酸化物(SnO2)を被覆した。なお、導電性酸化物の配合割合は 0.8 重量%であった。
この導電性酸化物層が表面に被覆された赤色蛍光体粒子をα−テルピネオールおよびエチルセルローズ混合液に分散させて印刷ペーストを調製した。この印刷ペーストを用いて実施例1と同一の方法で蛍光表示管を組み立て、実施例1と同一の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1に示すように、各実施例は初期輝度を劣化させることなく、かつ 5000 時間放置後の初期輝度維持率が 60 %以上と優れていた。
【0024】
【発明の効果】
本発明の低速電子線用蛍光体は、SrTiO3母体にPrおよびAlが付活された低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)において、該蛍光体の表面に導電性酸化物が被覆され、この導電性酸化物表面に白金族金属および白金族金属酸化物から選ばれた少なくとも1種の物質が撒布状に付着するので、初期輝度に優れ、かつこの初期輝度を長期間維持できる。
また、蛍光体の表面に被覆される導電性酸化物が 0.01〜5 重量%蛍光体全体に対して配合され、この導電性酸化物に対して白金族金属および白金族金属酸化物から選ばれた少なくとも1種の物質が 0.05〜15 重量%導電性酸化物表面に撒布状に付着するので、初期輝度およびこの輝度維持率がより向上する。
【0025】
本発明の低速電子線用蛍光体の製造方法は、低速電子線用赤色蛍光体表面に導電性酸化物を形成した後、白金族金属酸化物等を溶液法で塗布焼成するので、導電性酸化物表面に白金族金属酸化物等を容易に撒布状に付着させることができる。
【0026】
本発明の蛍光表示管は、真空容器内に形成された蛍光体層に低速電子線を射突させて発光させる蛍光表示管において、上記蛍光体層を用いるので、初期輝度に優れ、輝度の変化がなく、表示品位の一定した蛍光表示管が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】蛍光表示管の断面図である。
【図2】陽極基板の部分拡大断面図である。
【図3】蛍光体の拡大断面図である。
【符号の説明】
1 蛍光表示管
2 ガラス基板
3 配線層
4 絶縁層
5 陽極電極
6 蛍光体層
7 陽極基板
8 グリット
9 陰極
10 フェースガラス
11 スペーサガラス
【発明の属する技術分野】
本発明は低速電子線用赤色蛍光体および該低速電子線用赤色蛍光体を用いた蛍光表示管に関する。
【0002】
【従来の技術】
オーディオ、家電製品、計測器、医療機器などの表示部に所定のパターンあるいはグラフィックを表示する表示素子や、バックライト、プリンタヘッド、ファックス用光源、複写機用光源などの各種光源、平面テレビ等に自発光型の素子として蛍光表示管が多用されている。
これら蛍光表示管に用いられる蛍光体の中で、従来のCdを含む(Zn,Cd)S:Ag,Cl赤色蛍光体から、Cdを含まない低速電子線用赤色蛍光体が近年開発されている。例えば、Mg、Sr、Ca、Baから選択された一種類の元素とTiの酸化物からなる母体に3族元素が添加された蛍光体の表面に、酸化物からなり前記蛍光体をカーボン系ガスから保護する保護膜が形成されたことを特徴とする蛍光体(特許第2746186号)、SrTiO3を母体とする蛍光体にPtO2とRuO2の中から選ばれた少なくとも一つの物質を添加したことを特徴とする蛍光体(特許第2904106号)等が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、Cdを含まない低速電子線用赤色蛍光体としてのSrTiO3:Pr,Alは、時間の経過とともに輝度の低下割合が大きく、蛍光体寿命が短いという問題がある。特に励起電圧が 15V をこえる動作環境下では極端に蛍光体寿命が短くなる。
酸化物からなる保護膜を形成したり、PtO2等を添加したりすることにより、蛍光体寿命は向上するが実用上十分でないという問題がある。
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、蛍光体寿命を伸ばすことができる低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)、その製造方法およびその蛍光体を用いた蛍光表示管の提供を目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明の低速電子線用蛍光体は、SrTiO3母体にPrおよびAlが付活された低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)において、該蛍光体の表面に導電性酸化物が被覆され、この導電性酸化物表面に白金族金属および白金族金属酸化物から選ばれた少なくとも1種の物質が撒布状に付着されてなることを特徴とする。
また、蛍光体の表面に被覆される導電性酸化物が 0.01〜5 重量%蛍光体全体に対して配合され、この導電性酸化物に対して白金族金属および白金族金属酸化物から選ばれた少なくとも1種の物質が 0.05〜15 重量%導電性酸化物表面に撒布状に付着されてなることを特徴とする。
【0005】
本発明の低速電子線用赤色蛍光体の製造方法は、SrTiO3母体にPrおよびAlが付活された低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)粒子を導電性酸化物を形成する有機金属アルコラート含有溶液に分散させて、乾燥、焼成する工程と、導電性酸化物層が被覆された赤色蛍光体粒子を白金族金属および白金族金属酸化物から選ばれた少なくとも1種の物質を形成する溶液に分散させて、乾燥、焼成する工程とを含むことを特徴とする。
【0006】
本発明の蛍光表示管は、真空容器内に形成された蛍光体層に低速電子線を射突させて発光させる蛍光表示管において、蛍光体層が上記低速電子線用赤色蛍光体を含むことを特徴とする。
【0007】
低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)の発光輝度が時間の経過とともに低下する原因について研究したところ、SrTiO3:Pr,Alは 15V 以上の電圧で励起されると蛍光体表面に吸着していたCO2、CO、CH4、H2等の管内残留ガスがイオン化され、蛍光体表面の酸素と化合し表面に酸素欠乏層が生じることで、発光輝度の低下が生じることが分かった。
酸素欠陥がある導電性酸化物で蛍光体表面を被覆することにより、残留ガスがこの導電性酸化物層に吸着される。しかし、導電性酸化物層を厚くすると低速電子線が蛍光体層に侵入せず、薄いと残留ガス吸着能が少なくなるので、導電性酸化物のみで蛍光体表面の酸素欠乏層の生成を抑えることが困難である。しかし、導電性酸化物層表面に白金族金属および白金族金属酸化物から選ばれた少なくとも1種の物質を撒布状に付着させることにより、この白金族金属酸化物等の作用により残留ガスが導電性酸化物に強固に吸着する。その結果、高い励起電圧でも残留ガスがイオン化されず、蛍光体表面の酸素欠乏層の生成を抑えられ、低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)の発光輝度寿命が向上する。
【0008】
【発明の実施の形態】
SrTiO3母体にPrおよびAlが付活された低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)を準備し、この蛍光体の表面に導電性酸化物を被覆する。使用できる導電性酸化物としては、管内残留ガスを吸着しやすい導電性酸化物であればよい。例えばSn、Ti、Zn、W、In、Nbなど単体または複合導電性酸化物が挙げられる。好ましくはSnO2、TiO2、ZnO、WO3を例示できる。
【0009】
蛍光体の表面に被覆される導電性酸化物は、蛍光体全体に対して 0.01〜5 重量%、好ましくは 0.1〜3 重量%、より好ましくは 0.5〜1.5 重量%配合される。0.01 重量%未満では管内残留ガスの吸着が困難になり、5 重量%をこえると被覆層の膜厚が厚くなりすぎ、低速電子線が十分に蛍光体層に侵入せず輝度が向上しない。
【0010】
導電性酸化物の被覆は、該酸化物を形成する有機金属アルコラートを溶媒に溶解して得られる溶液に低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)粒子を分散させて、その後に乾燥、焼成を行なうことにより形成できる。また、導電性酸化物の被覆層の膜厚は、この乾燥、焼成を繰り返すことにより調整できる。
有機金属アルコラートは、アルコールの水酸基の水素を金属で置換した化合物であり、導電性酸化物層を形成できる金属のアルコラートであれば使用できる。好適なアルコラートとしては、エチラート、メチラート等が挙げられる。
有機金属アルコラート溶液には、該有機金属アルコラートを安定化させることができるバインダー樹脂を配合できる。好適なバインダー樹脂としては、セルローズ誘導体であり、エチルセルローズ、メチルセルローズ、酢酸セルローズ、カルボキシメチルセルローズ等が挙げられる。これらの中で、エチルセルローズが有機金属アルコラートとの親和性等に優れるため好ましい。
また、有機金属アルコラートを溶解する溶媒としては、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテートなどのカルビトール類、α−テルピネオール、2−フェノキシエタノールなどの高沸点溶媒が挙げられる。
【0011】
導電性酸化物の被覆層の表面に撒布状に付着させる白金族金属としては、Pd、Pt、Ru、Rh、OsおよびIrを例示できる。また、白金族金属の酸化物としては、上記白金族金属の酸化物が例示できる。これら白金族金属および白金族金属酸化物は単独であるいは複合物で存在することができる。また、該金属および酸化物は微粒子状態で導電性酸化物表面に撒布状に付着されることが好ましい。
【0012】
白金族金属、白金族金属酸化物、またはこれらの混合物は、上記導電性酸化物に対して 0.05〜15 重量%、好ましくは 0.1〜5 重量% 該導電性酸化物表面に撒布状に付着させる。0.05 重量%未満では触媒効果が発現せず、15 重量%をこえると微粒子の状態で撒布状に付着させることが困難になる。
【0013】
白金族金属酸化物等を撒布状に付着させる方法を説明する。この方法は導電性酸化物表面に撒布状に付着させるとともに陽極基板上に蛍光体層を形成する方法である。
まず印刷ペーストを調製する。
印刷ペーストは、導電性酸化物層が被覆された低速電子線用赤色蛍光体と白金族金属酸化物等形成剤とからなり、該形成剤はバインダー樹脂および有機白金族金属アルコラートを溶媒に溶解して得られる。
バインダー樹脂としては導電性酸化物層形成時に使用した樹脂、例えば印刷性に優れるエチルセルローズを使用できる。
【0014】
金属アルコラートは、アルコールの水酸基の水素を白金族金属で置換した化合物であり、上述した導電性酸化物層を形成できる金属のアルコラートであれば使用できる。好適なアルコラートとしては、エチラート、メチラート等が挙げられる。
【0015】
白金族金属酸化物等形成剤の溶媒は、スクリーン印刷用に採用されている従来周知の溶媒を用いることができる。そのような溶媒としては、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテートなどのカルビトール類、α−テルピネオール、2−フェノキシエタノールなどの高沸点溶媒が挙げられる。
【0016】
印刷ペーストは、白金族金属アルコラートを溶媒に溶解し、粘度調整するとともに、白金族金属アルコラートの径時的沈殿や混濁を生じることなく、かつ蛍光体の表面を均一に覆うことができるエチルセルローズ等を配合して得られる。印刷ペーストの白金族金属アルコラート成分濃度、あるいは、浸漬、乾燥、焼成を調節することにより、酸化物を微粒子の状態で撒布状に付着させられる。また、還元雰囲気下で焼成することにより、白金族金属の微粒子を撒布状に付着できる。
印刷ペーストを用いて印刷、乾燥、焼成する工程は、陽極パターン上に周知の方法によって行なうことができる。
【0017】
本発明の蛍光表示管について図1、図2および図3により説明する。図1は蛍光表示管の断面図、図2は蛍光表示管を構成する陽極基板の部分拡大断面図、図3は蛍光体の拡大断面図である。
蛍光表示管1は、陽極基板7と、この陽極基板7上方にグリット8と陰極9とを設け、フェースガラス10およびスペーサガラス11を用いて封着して真空引きして形成される。陰極9より発生した低速電子線が陽極基板7上の蛍光体層6に射突して発光する。
陽極基板7は、ガラス基板2上に銀を主成分とする導電性ペーストを印刷塗布法により、またはアルミニウムの薄膜法により配線層3を形成した後、スルーホール4aを除くほぼ全面にわたって低融点フリットガラスペーストの印刷塗布法により絶縁層4を形成し、このスルーホール4aを介して電気的に接続された陽極電極5をグラファイトペーストの印刷塗布法により形成する。この陽極電極5上に、蛍光体層6を印刷塗布法より塗布したのち焼成して陽極基板7が得られる。
図3に示すように、蛍光体層6は表面に導電性酸化物層6cが被覆された低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)粒子6aの導電性酸化物層6c上に白金族金属または白金族金属酸化物6bが撒布状に付着している。この白金族金属酸化物等の触媒作用等により管内ガス汚染による赤色蛍光体6の発光輝度が経時的に変化しない。
【0018】
【実施例】
実施例1
平均粒子径 2〜3 μm の赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)を錫アルコラート溶液に分散させる。この分散液を乾燥し、500 ℃の温度で空気中で焼成することにより赤色蛍光体粒子表面に導電性酸化物(SnO2)を被覆した。
導電性酸化物層が表面に被覆された赤色蛍光体粒子を、白金アルコラートを含むα−テルピネオールおよびエチルセルローズ混合液に分散させて印刷ペーストを調製した。この印刷ペーストを用いて、スクリーン印刷して 500 ℃の温度で焼成し、還元処理することにより図2に示す陽極基板7を作製し、さらに図1に示す蛍光表示管を組み立てた。なお、導電性酸化物の配合割合は 0.8 重量%、この導電性酸化物に対してPtの配合割合は 0.5 重量%であった。
得られた蛍光表示管を、陽極電圧 26V 、デューティー 1/12 で初期輝度と 5000 時間放置後の初期輝度維持率を調べた。結果を表1に示す。
なお、印刷ペースト調製のときに 0.5μm 以下のIn2O3などの導電性粒子を所定量添加することで導電性がより改善される。
【0019】
実施例2
平均粒子径 2〜3 μm の赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)をチタンアルコラート溶液に分散させる。この分散液を乾燥し、500 ℃の温度で空気中で焼成することにより赤色蛍光体粒子表面に導電性酸化物(TiO2)を被覆した。
導電性酸化物層が表面に被覆された赤色蛍光体粒子を、パラジウムアルコラートを含むα−テルピネオールおよびエチルセルローズ混合液に分散させて印刷ペーストを調製した。この印刷ペーストを用いて、スクリーン印刷して 500 ℃の温度で空気中で焼成することにより図2に示す陽極基板7を作製し、さらに図1に示す蛍光表示管を組み立てた。なお、導電性酸化物の配合割合は 1.0 重量%、この導電性酸化物に対してPdOの配合割合は 0.5 重量%であった。
得られた蛍光体組成物を用いて実施例1と同一の方法で蛍光表示管を組み立て、実施例1と同一の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0020】
比較例1
平均粒子径 2〜3 μm の赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)をα−テルピネオールおよびエチルセルローズ混合液に分散させて印刷ペーストを調製した。この印刷ペーストを用いて実施例1と同一の方法で蛍光表示管を組み立て、実施例1と同一の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0021】
比較例2
平均粒子径 2〜3 μm の赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)を錫アルコラート溶液に分散させる。この分散液を乾燥し、500 ℃の温度で空気中で焼成することにより赤色蛍光体粒子表面に導電性酸化物(SnO2)を被覆した。なお、導電性酸化物の配合割合は 0.8 重量%であった。
この導電性酸化物層が表面に被覆された赤色蛍光体粒子をα−テルピネオールおよびエチルセルローズ混合液に分散させて印刷ペーストを調製した。この印刷ペーストを用いて実施例1と同一の方法で蛍光表示管を組み立て、実施例1と同一の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1に示すように、各実施例は初期輝度を劣化させることなく、かつ 5000 時間放置後の初期輝度維持率が 60 %以上と優れていた。
【0024】
【発明の効果】
本発明の低速電子線用蛍光体は、SrTiO3母体にPrおよびAlが付活された低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)において、該蛍光体の表面に導電性酸化物が被覆され、この導電性酸化物表面に白金族金属および白金族金属酸化物から選ばれた少なくとも1種の物質が撒布状に付着するので、初期輝度に優れ、かつこの初期輝度を長期間維持できる。
また、蛍光体の表面に被覆される導電性酸化物が 0.01〜5 重量%蛍光体全体に対して配合され、この導電性酸化物に対して白金族金属および白金族金属酸化物から選ばれた少なくとも1種の物質が 0.05〜15 重量%導電性酸化物表面に撒布状に付着するので、初期輝度およびこの輝度維持率がより向上する。
【0025】
本発明の低速電子線用蛍光体の製造方法は、低速電子線用赤色蛍光体表面に導電性酸化物を形成した後、白金族金属酸化物等を溶液法で塗布焼成するので、導電性酸化物表面に白金族金属酸化物等を容易に撒布状に付着させることができる。
【0026】
本発明の蛍光表示管は、真空容器内に形成された蛍光体層に低速電子線を射突させて発光させる蛍光表示管において、上記蛍光体層を用いるので、初期輝度に優れ、輝度の変化がなく、表示品位の一定した蛍光表示管が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】蛍光表示管の断面図である。
【図2】陽極基板の部分拡大断面図である。
【図3】蛍光体の拡大断面図である。
【符号の説明】
1 蛍光表示管
2 ガラス基板
3 配線層
4 絶縁層
5 陽極電極
6 蛍光体層
7 陽極基板
8 グリット
9 陰極
10 フェースガラス
11 スペーサガラス
Claims (4)
- SrTiO3母体にPrおよびAlが付活された低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)において、
該蛍光体の表面に導電性酸化物が被覆され、この導電性酸化物表面に白金族金属および白金族金属酸化物から選ばれた少なくとも1種の物質が撒布状に付着されてなることを特徴とする低速電子線用赤色蛍光体。 - 前記導電性酸化物が 0.01〜5 重量%蛍光体全体に対して配合され、前記導電性酸化物に対して前記白金族金属および白金族金属酸化物から選ばれた少なくとも1種の物質が 0.05〜15 重量%導電性酸化物表面に撒布状に付着されてなることを特徴とする請求項1記載の低速電子線用赤色蛍光体。
- SrTiO3母体にPrおよびAlが付活された低速電子線用赤色蛍光体(SrTiO3:Pr,Al)粒子を導電性酸化物を形成する有機金属アルコラート含有溶液に分散させて、乾燥、焼成する工程と、導電性酸化物層が被覆された前記赤色蛍光体粒子を白金族金属および白金族金属酸化物から選ばれた少なくとも1種の物質を形成する溶液に分散させて、乾燥、焼成する工程とを含むことを特徴とする低速電子線用赤色蛍光体の製造方法。
- 真空容器内に形成された蛍光体層に低速電子線を射突させて発光させる蛍光表示管において、前記蛍光体層が請求項1または請求項2記載の低速電子線用赤色蛍光体を含むことを特徴とする蛍光表示管。
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