JP2004074324A - 酸化アルミニウム被覆工具 - Google Patents

酸化アルミニウム被覆工具 Download PDF

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Abstract

【目的】CVD装置内全体で安定して下地の非酸化膜との密着性が優れるα−Alを主とする酸化膜が成膜でき、その結果、品質のばらつきが少なく優れた特性を有する酸化アルミニウム被覆工具を提供する
【構成】皮膜表面に結合層を介してα型酸化アルミニウムを主とする酸化膜が形成されている酸化アルミニウム被覆工具において、該結合層が少なくとも基体側から順にTi及びAlの酸化物、酸炭化物、酸窒化物又は酸炭窒化物からなる層とα型酸化アルミニウムを主とする酸化膜側に形成されたTiの酸化物、酸炭化物、酸窒化物又は酸炭窒化物からなる層とにより構成されており、該結合層表面が略膜厚方向に突き出た多数の突起を有していることを特徴とする酸化アルミニウム被覆工具。
【選択図】図4

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本願発明は、切削用及び耐摩耗用の酸化アルミニウム被覆工具に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、被覆工具は超硬質合金、高速度鋼、特殊鋼よりなる基体表面に硬質皮膜を化学蒸着法(以下、CVD法と称する。)や物理蒸着法により成膜することにより作製される。このような被覆工具は皮膜の耐摩耗性と基体の強靭性とを兼ね備えており、広く実用に供されている。特に、高硬度材を高速で切削する場合に、切削工具の刃先温度は1000℃前後まで上がるとともに、このような高温で被削材との接触による摩耗や断続切削等の機械的衝撃に耐える必要があり、耐摩耗性と強靭性及び耐熱性を兼ね備えた被覆工具が重宝されている。硬質皮膜には、耐摩耗性と靭性とが優れる周期律表4a、5a、6a族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物からなる非酸化膜や耐酸化性が優れる酸化膜が単層或いは多層膜として用いられる。非酸化膜では例えばTiC、TiN、Ti(CN)が利用され、酸化膜では特にκ型酸化アルミニウム(以下、κ−Alと称する。)やα型酸化アルミニウム(以下、α−Alと称する。)が利用されている。上記非酸化膜の欠点は酸化され易いことであり、この欠点を補うため、これらの非酸化膜の上に耐酸化性が優れる酸化アルミニウムを形成することにより非酸化膜の酸化を防止することが一般に行われている。この非酸化膜/酸化アルミニウム膜の多層膜構造の欠点は非酸化膜と酸化アルミニウム膜との間の密着性が低いこと、或いは高温で機械強度が安定しないことである。このようなα−Al膜の欠点を解消するため、特開平09−29512号公報及び特開平08−276305号公報では、α−Al層の下地層となる結合層にTi(CNO)を用い、この結合層の表面形態が等軸又は針状の結晶粒となっていることが開示されている。更に、特許第3250134号公報では、酸化アルミニウム層の下地層としてTi(CNO)を用い、該下地層の表面状態を先鋭化針状結晶とすることにより、酸化アルミニウム層とTi(CNO)からなる下地層との密着性を向上しようとする事例を開示している。しかし、これらTi系の酸炭窒化物単独から成る結合層ではその表面にα−Al膜との密着性を高める効果が期待される突起が形成し難く、このためその化学蒸着装置内全体で結合層の表面にα−Al膜を密着性良く成膜することは困難であった。一方、比較的容易に突起を形成しやすい結合層としてTiとAlの両者を含有した結合層も提案されている。すなわち、特開平03−138368号公報では、炭化物結合焼結体からなる基体上にα−Al層とκ−Al層とを積層する場合において、(AlTi)(OC)からなる2種類の結合層(α変態層、κ変態相)を使い分ける事により、純粋なα−Al層とκ−Al層との堆積の制御を可能とした事例が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらの結合層が酸素を含有することによる酸化膜の生成基点と、突起構造による密着性が強化されるアンカー効果の両機能が1つの層により担われているため、例えば突起組織のみを強化することによりα−Alの密着性を更に高める、或いは結合層の酸素含有量を高めることによりα−Alが安定して成膜されるようにする等の調整が難しいという欠点がある。また、TiとAlの両者を含有した結合層では酸素含有量の制御が難しく、酸素が少ないとその表面にα−Alよりもむしろκ−Alが生成されやすくなり、酸素量が多すぎると結合層自体が機械的に脆くなり、結合層の部分からα−Alが剥離しやすくなる欠点がある。例えば、現状の量産型のCVD装置では内径260mm×高さ700mmの範囲内に約5000個のインサート工具をセットし成膜するが、装置内全体のインサート工具にα−Alを安定して成膜するために、酸素量を上げると、装置内の一部が酸素量過剰になりα−Alが剥がれやすくなり、一方α−Alの密着性を高めるため酸素量を下げると、CVD装置内に多数個セットしたインサート工具の一部にα−Alが成膜されずκ−Alが成膜されてしまう欠点があらわれる。上記問題を踏まえて、本発明が解決しようとする課題は、CVD装置内全体で安定して下地の非酸化膜との密着性が優れるα−Alを主とする酸化膜が成膜でき、その結果、品質のばらつきが少なく優れた特性を有する酸化アルミニウム被覆工具を提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために、基体表面に周期律表の4a、5a、6a族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物、酸炭化物、酸窒化物及び酸炭窒化物のいずれか1種の単層皮膜又は2種以上からなる多層皮膜が形成され、該皮膜表面に結合層を介してα型酸化アルミニウムを主とする酸化膜が形成されている酸化アルミニウム被覆工具において、該結合層が少なくとも基体側から順にTi及びAlの酸化物、酸炭化物、酸窒化物又は酸炭窒化物からなる層とα型酸化アルミニウムを主とする酸化膜側に形成されたTiの酸化物、酸炭化物、酸窒化物又は酸炭窒化物からなる層とにより構成されており、該結合層表面が略膜厚方向に突き出た多数の突起を有していることを特徴とする酸化アルミニウム被覆工具である本発明を適用することによりα−Alを主とする酸化膜とその下地である非酸化膜との間にあり両膜に直接接触する結合層を複層構造にし、各層にアンカー効果による密着性強化機能と酸化膜生成機能とを別個に担わせることにより、下地非酸化膜との密着性が優れるα−Alを主とする酸化膜がCVD装置内全体で安定して成膜されるようになり、上記問題点が解消する。また、本発明のα−Alを主とする酸化膜とは、80vol%以上のα−Alを含み、残りがκ−Al、γ型酸化アルミニウム、θ型酸化アルミニウム、δ型酸化アルミニウム、χ型酸化アルミニウム等、他の構造の酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の酸化物からなる混合組織のものをいう。
【0005】
第1に、結合層を二層に分けることによりα−Alを主とする酸化膜との密着性を強化する機能とα−Alが生成されやすくする機能とが分離でき各機能を別個に制御することができ下地非酸化膜との密着性が優れるα−Alを主とする酸化膜がCVD装置内全体で安定して成膜できるようになる。即ち、Ti及びAlの酸化物、酸炭化物、酸窒化物又は酸炭窒化物から成る層が略膜厚方向に突き出た多数の突起を有する組織から成っていることにより、いわゆるアンカー効果等により上層のα−Alを主とする酸化膜の密着性を高めることができ、しかも結合層の表面側にTiの酸化物、酸炭化物、酸窒化物又は酸炭窒化物から成る層を形成しその酸素含有量を最適化することによりCVD装置内全体でα−Alが安定して成膜されるようになる。
【0006】
第2に、結合層内に略膜厚方向に突き出た多数の突起を有する組織が含有されているため結合層の表面も略膜厚方向に突き出た多数の突起を有する組織になる。尚、上記のように結合層を層別に区分けしたのは成膜過程から区分けしたものであり、成膜後の皮膜を観察した時には外観上からは明確に区分け出来ないことが多い。この場合も、エネルギー分散型X線分析装置(以下、EDXと称する。)や電子プローブマイクロアナライザー装置(以下、EPMAと称する。)を用いてAlとTiの分布を膜厚方向に分析した時、ある膜厚領域にAl成分が多く検出され、他の膜厚領域ではAlがほとんど検出されないことから結合層が上記のような複層構造で形成されていることがわかる。特に、結合層の厚さが数100nmであり、結合層を層別に明確に分析することが出来ない場合はAlとTiを膜厚方向に線分析した時、Al/Ti比がある膜厚領域で明確に高くなることにより上記のような層状に結合層が形成されていることがわかる。透過電子顕微鏡(以下、TEMと称する。)に内蔵されたEDXを用いて数10nmの微少領域を分析する場合はTEM用の薄い試料を作製する時にイオンミリング等で掘られたAlやTi、W、Co等の元素がTEM試料に再付着する。この時、AlやTiは膜中から、WやCoは超硬合金製基体から再付着する。このためAlやTi等の有無が明確に識別出来ないことがある。この時も上記と同様に膜厚方向に異なる位置でAl/Ti比を分析することにより結合層が上記のような層状に形成されていることがわかる。この場合、TEM試料作製時の付着により検出されるAl/Ti比量、即ちAl/Ti比のゼロ点はTiCN等の本来Alを含有していない下地非酸化膜のAl/Ti比を測定することにより得られる。
【0007】
第3に、本発明は、該結合層が少なくとも基体側から順にTiの酸化物、酸炭化物又は酸窒化物からなる層、Ti及びAlの酸化物、酸炭化物、酸窒化物又は酸炭窒化物からなる層及びTiの酸化物、酸炭化物、酸窒化物又は酸炭窒化物からなる層の3層により構成されている。下地の非酸化膜の上にTiと酸素を含有した皮膜から成る第1層を介してTi、Al及び酸素を含有する第2層を成膜することにより下地の非酸化膜と第2層間の密着性が更に高まり、結合層と下地非酸化膜の間に更に高い密着性が得られる。また、成膜ガスとして、より少ない酸素ガス供給量で略膜厚方向に突き出た多数の突起を有する第2層の組織が安定して成膜出来るようになり第2層の高い機械強度と上層の酸化膜との密着性が更に高まり、更に優れた工具特性を有する被覆工具が得られる。
【0008】
第4に、本発明は、該結合層表面の略膜厚方向に突き出た多数の突起が鉤型に屈曲している。鉤型に屈曲させることにより、結合層とα−Alを主とする酸化膜との間に更に高い密着性が得られ、更に優れた工具特性を有する被覆工具が得られる。
【0009】
第5に、本発明は、該結合層表面の略膜厚方向に突き出た多数の突起の先端が丸くなっている。先端が丸くなっているとは先端が先鋭でなく緩やかな曲面で形成されていることをいい、突起先端の断面積が大きくなり突起自体の機械強度が高まり、結合層とα−Alを主とする酸化膜との間に更に高い密着性が得られ、更に優れた工具特性を有する被覆工具が得られる。
【0010】
第6に、本発明は、結合層の少なくとも一部の層の断面が基体と略垂直方向に細長い結晶粒郡からなっていることより、結合層の表面が突起に富みアンカー効果等によりα−Alを主とする酸化膜の密着性を更に高めることができる。層の断面が基体と略垂直方向に細長い結晶粒郡からなっていることはSEM又はTEMで観察することにより確認できる。
【0011】
第7に、本発明は、α−Alを主とする酸化膜の表面に少なくとも有色のTi、Zr又はHfの窒化物、炭化物、炭窒化物、酸化物、酸窒化物、酸炭化物、酸炭窒化物のいずれか1種の単層皮膜又は2種以上からなる多層皮膜が形成されており、工具表面の摺動性がより高まり更に優れた工具特性が得られるとともに、有色の皮膜で工具の外層部分を構成することになり工具として使用済みの有無が容易に判別出来るようになる。
【0012】
第8に、本発明は、上記皮膜を形成した後に少なくとも刃先部周辺の最外層の一部が除去され、α−Alを主とする酸化膜が露出させることにより、被削材との接触頻度が高い刃先部の少なくとも1部が耐酸化性と耐溶着性とが特に優れているα−Alを主とする酸化膜で構成されていることになり被削材と溶着することが特に少なくなり特に優れた切削耐久特性が実現できる。
【0013】
本発明における被覆方法には既知の成膜方法を適用することが可能である。例えば、通常の熱化学蒸着法、プラズマを付加した化学蒸着法等を用いることができる。用途は切削工具に限るものではなく、α−Alを主とする酸化膜を含む単層或いは多層の硬質皮膜により被覆された耐摩耗材や金型、溶湯部品等でも良い。酸化膜はα−Al単層に限るものではなく、α−Alが主であれば、他の酸化物、例えばα−Alとκ−Alとの混合膜や、γ型酸化アルミニウム、θ型酸化アルミニウム、δ型酸化アルミニウム、χ型酸化アルミニウム等、他の構造の酸化アルミニウムとの混合膜或いはα−Alと酸化ジルコニウム等他の酸化物との混合膜であっても同様の作用効果を得ることが可能である。次に、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
【0014】
【発明の実施の形態】
(実施例1)
本発明例1としてまず、WC:72質量%、TiC:8質量%、(TaNb)C:11質量%、Co:9質量%の成分組成よりなるJIS規格CNMG120408形状の切削工具用超硬合金基体200個を万遍なくセットした内径260mm、高さ25mmのカーボン製トレーを23段、縦方向に積み上げ、CVD反応装置内にセットした。尚、成膜の安定性を確保するため、有効な23段のトレーの上下にダミートレーをそれぞれ2段と3段セットした。そして、HキヤリヤーガスとTiClガスとNガスとを原料ガスに用いて0.5μm厚さのTiN膜を900℃で形成後、HキャリヤーガスとTiClガス、Nガス、CHCNガスを原料ガスに用いて6μm厚さのTiCN膜を890℃で形成した後、1000℃でHキヤリヤーガスとTiClガス、CHガス、Nガスとを原料ガスに用いてTi(CN)膜を15分間成膜した。その後、Ti(CN)の成膜に用いたのと同じ構成からなるガス郡にCOガスとAlClガスとを追加して(TiAl)(CNO)膜を1000℃で10分間成膜し、そのまま更にHキヤリヤーガスとTiClガス、CHガス、Nガス及びCOガスとCOガスとを原料ガスに用いてTi(CNO)膜を7分間成膜することにより(TiAl)(CNO)とTi(CNO)との2層からなる結合層を成膜した。その後、Hキャリヤーガス、AlClガス、COガスを原料ガスに用いて4μm厚さのAl膜を1020℃で形成し、更に、HキヤリヤーガスとHfClガス及びNガスとを原料ガスに用いて厚さ1μmのHfN膜を1050℃で形成した後、室温まで冷却した。次に、CVD装置から取り出した試料の刃先部のホーニング部分周辺をラバー砥石により研磨することによって、内層のAl膜を露出させ本発明の酸化膜被覆工具を作製した。
【0015】
作製した本発明例の皮膜を理学電気製のX線回折装置(RU−200BH)でX線源にCuKα1線を用いて2θ−θ走査法によりX線回折図形を測定した結果、有効トレーの最上段23段目の内側、外側の試料番号を23A、23B、中段12段目の内側、外側の試料位置番号を12A、12B及び最下段1段目の内側、外側の試料位置番号を1A、1Bの何れの位置にセットした試料もα−AlのX線回折ピークのみが検出されκ−Al等のピーク強度は検出限界以下であった。このことから、有効トレー内全体の試料にα−Alが成膜されたと考えられる。
【0016】
本発明例を17度傾けて研磨し基体表面からα−Al膜迄を倍率1000倍で撮影した光学顕微鏡写真を図1に、またその模式図を図2に示す。図1、2には、超硬合金製基体1の表面にTiN膜2とTi(CN)膜3が形成され、その上に結合層4を介してα−Al膜5が形成されていることが示されている。図1、2より、結合層4の表面から多数の突起がα−Al膜5側に突き出ておりα−Al膜5中に食い込んでいることがわかる。また、図3は上記試料の結合層4とα−Al膜5間の界面近傍をSEMにより倍率5000倍で撮影したもの、図4はその模式図である。図3、4より、結合層)の表面に略膜厚方向に多数の突起が突き出ており、しかも先端が鉤型に屈曲していることが、特に図3、4の左から3番目と右から3番目の突起から良くわかる。また、これらの突起の先端が先鋭ではなく丸くなっていることがわかる。
【0017】
本発明例の成膜面の膜断面を厚さ20μm以下に研磨した後、更に、イオンミリングにより膜断面の厚さを極端に薄くしてTEM観察用の試料を作製した。そして日立製作所製のTEM(H−800)を用い、加速電圧200kVの条件でTi(CN)膜部とAl膜部の間にある薄い結合層部を同定した後、TEM内蔵のNORAN社製のEDXで元素分析した結果、結合層は2層に分離でき、基体側の第1層はTiとAl、第2層はTiのみから形成されていることがわかった。尚、EDX分析のため軽元素であるC、N、Oは分析できなかった。また、TEM試料作製時に発生した再付着物量を求めるため結合層直下のTiCN皮膜中央部でWとCo量及びAl膜直上のHfN膜中央部でTiとAl量とを測定し、その値を再付着物量として結合層部の分析値から差し引いた。また、上記TEM観察の結果、結合層中でAlが多い膜厚領域は断面が略膜厚方向に細長い結晶粒郡で形成されておりその一部が膜厚方向に突き出し突起が形成されていること、そして結合層の表面にTiは分析されるがAlは再付着物量分しか分析されない膜厚領域がありこの領域は粒状の結晶粒郡から形成されていることが観察された。
【0018】
(実施例2)
本発明例2としてまず、本発明例1と同じ材質と形状の基体を本発明例1と同様にCVD反応装置内に設置し、本発明例1と同じ条件でTiN膜と2種類のTi(CN)膜を成膜した。その後、2番目のTi(CN)の成膜に用いたのと同じ構成からなるガス郡にCOガスを追加してTi(CNO)膜を1000℃で15分間成膜した後、更にAlClガスを追加して(TiAl)(CNO)膜を10分間成膜し、そして更にHキヤリヤーガスとTiClガス、CHガス、Nガス及びCOガスとCOガスとを原料ガスに用いてTi(CNO)膜を7分間成膜することによりTi(CNO)−(TiAl)(CNO)−Ti(CNO)の3層からなる結合層を成膜した。その後、本発明例1と同じ条件でAl膜をした後、更に、HキヤリヤーガスとCHガス、Nガス及びZrClガスとを原料ガスに用いて厚さ1μmのZr(CN)膜を1020℃で形成した後、室温まで冷却した。次に、CVD装置から取り出した試料の刃先部のホーニング部分周辺をダイヤモンド砥粒とブラシにより研磨することによって内層のAl膜を露出させ本発明例2を作製した。本発明例2のX線回折図形を本発明例1と同じ方法で試料位置番号:23A、23B、12A、12B、1A、1Bの試料を測定した結果、全てα−AlのX線回折ピークのみが検出されκ−Al等のピーク強度は検出限界以下であった。本発明例1と同様に有効トレー内全体の試料にα−Alが成膜された。また、本発明例1と同様に本発明例2の研磨面を光学顕微鏡とSEMで観察した結果、結合層の表面に略膜厚方向に多数の突起が突き出ており、しかもその多くの先端が鉤型に屈曲しており、突起の先端も丸くなっていることが確認された。本発明例2の成膜面の膜断面を本発明例1と同様にTEM−EDXにより分析した結果、結合層は3層に分離でき、基体側の第1層はTiのみ、第2層はTiとAl、第3層はTiのみから形成されていることがわかった。軽元素であるC、N、Oは本発明例1と同様に分析できなかった。結合層の第1層は粒状の結晶粒郡で形成されており、第2層は断面が略膜厚方向に細長い結晶粒郡で形成されておりその1部が膜厚方向に突起を形成しており、第3層は再び粒状の結晶粒郡で形成されていることが観察された。
【0019】
(実施例3)
比較例3としてまず、結合層の構造の差異によるα−Alを主とする酸化膜の密着性及び切削特性への影響を明らかにするために、本発明例1と同じ材質と形状の基体を本発明例1と同様にCVD反応装置内に設置し、本発明例1と同じ条件でTiN膜と2種類のTi(CN)膜を成膜した。その後、HキャリヤーガスとTiClガスとCHガスを原料ガスに用い1010℃で5〜30分間反応させTiC膜を成膜した後、そのままTiClガスとCHガスとを止めHキャリヤーガスとCOガスとを15分間流し既に成膜したTiC膜表面を酸化することにより結合層を作製した。その後、本発明例1と同じ条件で4μm厚さのAl膜と厚さ1μmのHfN膜を形成した後室温まで冷却し、比較例3を作製した。比較例3のX線回折図形を本発明例1と同じ方法で試料位置番号:23A、23B、12A、12B、1A、1Bの試料を測定した結果、全てα−AlのX線回折ピークのみが検出されκ−Al等のピーク強度は検出限界以下であった。有効トレー内全体の試料にα−Alが成膜されたと考えられる。比較例3の研磨面を光学顕微鏡とSEMで観察した結果、結合層の表面は粒状の結晶粒からなっており穏やかな曲面が形成されており、本発明1、本発明例2のような突起は形成されていないことがわかった。比較例3の皮膜断面をTEMで観察した結果、基体表面から順にTiN、Ti(CN)、TiC、結合層、Alの各層が形成されていること、また、結合層は粒状の結晶粒から構成され膜厚方向に細長い結晶粒郡からは構成されていないことが判明した。また、結合層の組成をEDXで分析した結果、Tiのみが検出されAlは再付着量分しか検出されず、結合層は金属成分としてTiのみを含有しておりAlは含有していないことがわかった。
【0020】
(実施例4)
比較例4として、結合層の構造の差異によるα−Alを主とする酸化膜のCVD装置内全体での安定成膜性及び切削特性への影響を明らかにするために、本発明例1と同じ材質と形状の基体を本発明例1と同様にCVD反応装置内に設置し、本発明例1と同じ条件でTiN膜と2種類のTi(CN)膜を成膜した。その後、Ti(CN)の成膜に用いたのと同じ構成からなるガス郡にCOガスとAlClガスとを追加して(TiAl)(CNO)膜を10分間成膜した。上記の(TiAl)(CNO)単層からなる結合層の表面に直接、本発明例1と同じ条件で4μm厚さのAl膜と厚さ1μmのHfN膜を形成した。そして、本発明例1と同じ条件でホーニング部分周辺を研磨することにより内層のAl膜を露出させて比較例4を作製した。比較例4のX線回折図形を本発明例1と同じ方法で試料位置番号:23A、23B、12A、12B、1A、1Bの試料を測定した結果、試料位置番号:23A、23B、12A、1Bの試料はα−AlのX線回折ピークのみが検出されκ−Al等のピーク強度は検出限界以下であったが、試料位置番号:12A、1Aの試料はκ−Alのピークが大部分であり、α−Alは(104)のピークが弱く検出されるだけであった。比較例4では安定してα型酸化アルミニウムを主とする酸化膜が製作できないことがわかる。比較例4の研磨面を光学顕微鏡とSEMで観察した結果、結合層の表面には略膜厚方向に多数の突起が突き出てはいるが、これらの突起先端は鋭くなっており丸くないことが確認された。比較例4の成膜面の膜断面を本発明例1と同じ条件でTEM観察した結果、結合層はTiとAlの両者を含有する単一層から成っておりその上にTiのみからなる第2層は形成されていないことがわかった。
【0021】
次に、本発明例1、本発明例2の条件で製作した切削工具と比較例3、4の条件で製作した工具の各5個を用いて、以下の切削条件で1分間と10分間連続切削試験した後に酸化アルミニウム皮膜の剥離状況を倍率200倍の光学顕微鏡により観察し、評価した。切削諸元は、被削材:FCD700、切削速度:300m/min、送り:0.3mm/rev、切り込み:2.0mm、水溶性切削油使用である。この切削試験の結果、比較例3は1分間切削後にすくい面の酸化アルミニウム皮膜が大きく剥離したのに対して、本発明例1、本発明例2と比較例4はいずれも1分間連続切削後も酸化アルミニウム皮膜の剥離が見られず、下地膜に対する酸化アルミニウム膜の密着性が優れていることが判明した。更に10分間連続切削した後に本発明1、2と比較例4を観察すると、κ−AlのX線回折ピークが強く現れた比較例4の試料位置番号:12B、1Bの試料はすくい面の酸化アルミニウム皮膜中に大きくクラックが発生しており、所々で皮膜が大きく剥離していることが観察された。これは、10分間の連続切削により皮膜表面の温度が上がり、κ−Alの一部がα−Alに変態し、体積が収縮したためクラックが発生し、そこを起点にして膜が剥離したと考えられる。そして残った試料を更に10分間連続切削した結果、比較例4の試料位置番号:23A、23B、12A、1Bの試料は、すくい面が剥離したのに対して、本発明例1、本発明例2はいずれの試料も剥離しなかった。本発明例1、本発明例2はCVD装置内全体で下地膜との密着性と耐熱・耐クラック性が優れた酸化アルミニウム膜が形成されていることがわかる。
【0022】
【発明の効果】
上述のように、本発明によれば、下地の非酸化膜との密着性が優れるα−Alを主とする酸化膜がCVD装置内全体で安定して成膜できるようになり、その結果、品質のばらつきが少なく、多層膜間の密着性と耐熱・耐クラック性とが優れ、優れた工具特性有し、工具寿命の長い優れた酸化アルミニウム被覆工具が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明例の組織写真を示す。
【図2】図2は、図1の模式図を示す。
【図3】図3は、図1の結合膜とα−Al膜間の界面近傍組織写真を示す。
【図4】図4は、図3の模式図を示す。
【符号の説明】
1 超硬合金製基体
2 TiN膜
3 TiCN膜
4 結合層
5 Al

Claims (6)

  1. 基体表面に周期律表の4a、5a、6a族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物、酸炭化物、酸窒化物及び酸炭窒化物のいずれか1種の単層皮膜又は2種以上からなる多層皮膜が形成され、該皮膜表面に結合層を介してα型酸化アルミニウムを主とする酸化膜が形成されている酸化アルミニウム被覆工具において、該結合層が少なくとも基体側から順にTi及びAlの酸化物、酸炭化物、酸窒化物又は酸炭窒化物からなる層とα型酸化アルミニウムを主とする酸化膜側に形成されたTiの酸化物、酸炭化物、酸窒化物又は酸炭窒化物からなる層とにより構成されており、該結合層表面が略膜厚方向に突き出た多数の突起を有していることを特徴とする酸化アルミニウム被覆工具。
  2. 請求項1記載の被覆工具において、該結合層が少なくとも基体側から順にTiの酸化物、酸炭化物又は酸窒化物からなる層、Ti及びAlの酸化物、酸炭化物、酸窒化物又は酸炭窒化物からなる層及びTiの酸化物、酸炭化物、酸窒化物又は酸炭窒化物からなる層の3層により構成されていることを特徴とする酸化アルミニウム被覆工具。
  3. 請求項1又は2記載の被覆工具において、前記結合層表面の突起が鉤型に屈曲していることを特徴とする酸化アルミニウム被覆工具。
  4. 請求項1乃至3のいずれかに記載の被覆工具において、前記突起の先端が丸くなっていることを特徴とする酸化アルミニウム被覆工具。
  5. 請求項1乃至4のいずれかに記載の被覆工具において、前記結合層の少なくとも一部の層の断面が略膜厚方向に細長い結晶粒郡からなっていることを特徴とする酸化アルミニウム被覆工具。
  6. 請求項1乃至5のいずれかに記載の被覆工具において、前記α型酸化アルミニウムを主とする酸化膜の表面に少なくともTi、Zr又はHfの窒化物、炭化物又は炭窒化物のいずれか1種の単層皮膜又は2種以上からなる多層皮膜が形成されていることを特徴とする酸化アルミニウム被覆工具。
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