JP2011230221A - 表面被覆部材 - Google Patents

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Abstract

【課題】 高い密着性と耐摩耗性を有する切削工具等の表面被覆部材を提供する。
【解決手段】 基体6の表面に、Tiの炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物および炭窒酸化物のうちの1層以上の下層7と、α型結晶構造のAl層8とを形成してなり、Al層8に波長514.53nmのHe−Neレーザーを照射して得ら
れるラマンスペクトルにおいて、波数50〜580cm−1(540cm−1付近)の範囲内に現れるTiCNに帰属されるピークTOと、波数230〜300cm−1(260cm−1付近)の範囲内に現れるTiCNに帰属されるピークTAと、のピーク強度をそれぞれITO、ITAとしたとき、その比(ITO/ITA)が0〜0.5の切削工具である。
【選択図】 図2

Description

本発明は基体の表面に被覆層が形成されている表面被覆部材に関する。
現在、切削工具や耐摩部材、摺動部材といった耐摩耗性や摺動性、耐欠損性を必要とする部材では、超硬合金やサーメット等の基体の表面に被覆層を成膜して、耐摩耗性、摺動性、耐欠損性を向上させる手法が使われている。
例えば、特許文献1では、超硬合金やサーメット等の基体の表面に、TiNやTiCNの下部層と、(Ti,Al)CNOの中間層と、Alの上部層とを順次成膜した切削工具が開示されている。また、特許文献2では、TiNやTiCNの下部層とAlの中間層とAlとZrOとの混合組織からなる上部層とを成膜した切削工具において、下部層を成膜した後でAl層を成膜する前に、核薄膜を形成して加熱処理を施す方法が開示されている。
さらに、非特許文献1では、TiCN膜のラマンスペクトルについて開示され、TA、LA、TOモードのスペクトルが検出されることが記載されている。
特開2007−075968号公報 特開2001−322007号公報
Ines Dreling,「Raman spectroscopy as a tool to study cubic Ti-C-N CVD coating」,Surface & Coating Technology,2009,204,p.1008-1012
しかしながら、特許文献1や特許文献2の構成の被覆層では、高速切削加工のように切刃が高温になるとAl層が部分的に剥離しやすくなり、耐摩耗性が低下した。
そこで、本発明の表面被覆部材は、高速切削加工のように接触部が高温になってもAl層の剥離を抑制できる切削工具等の部材を提供することを目的とする。
本発明の表面被覆部材は、基体の表面に、Tiの炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物および炭窒酸化物のうちの1層以上の下層と、α型結晶構造のAl層とを形成してなり、前記Al層の表面から波長514.53nmのHe−Neレーザ
ーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて、波数50〜580cm−1(540cm−1付近)の範囲内に現れるTiCNに帰属されるピークTOと、波数230〜300cm−1(260cm−1付近)の範囲内に現れるTiCNに帰属されるピークTAと、のピーク強度をそれぞれITO、ITAとしたとき、その比(ITO/ITA)が0〜0.5である。
ここで、波数416〜420cm−1(418cm−1付近)の範囲内に現れるAlに帰属されるピークAのピーク強度をIとしたとき、ITO/Iが0〜0.5で
あることが望ましい。
本発明の表面被覆部材によれば、前記ラマンスペクトルにおいて、ピークTOとピークTAとのピーク強度の比(ITO/ITA)が0〜0.5であることによって、Al層の密着性が向上して層剥離が抑制できて、切削工具の耐欠損性および耐摩耗性がともに向上することがわかった。
本発明の表面被覆部材の好適例である切削工具の一例についての概略断面図である。 図1の切削工具について、波長514.53nmのHe−Neレーザーを照射して得られるラマンスペクトルである。
本発明の表面被覆部材の好適例である切削工具の一例について、図1の概略断面図を基に説明する。
図1の切削工具1は、すくい面2と逃げ面3との交差稜線部が切刃4を構成しているとともに、基体6の表面に、Tiの炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物および炭窒酸化物のうちの1層以上の下層7と、α型結晶構造のAl層(以下、単にAl層と略す。)8とを被覆層が形成されている。また、図1によれば、Al層8の表面には表面層9が形成されている。
そして、図2に示すように、Al層8の表面から波長514.53nmのHe−
Neレーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて、波数50〜580cm−1(540cm−1付近)の範囲内に現れるTiCNに帰属されるピークTOと、波数230〜300cm−1(260cm−1付近)の範囲内に現れるTiCNに帰属されるピークTAと、のピーク強度をそれぞれITO、ITAとしたとき、その比(ITO(a)/ITA(a))が0〜0.5の(a)のほうが、(ITO(b)/ITA(b))が0.5よりも大きい(b)よりも切削工具1のチッピングが減少して耐摩耗性が向上する。なお、上記ラマンスペクトルピークの状態で耐チッピング性が向上する理由は不明であるが、レーザーがAl層8を透過して観察される下層、特にAl層8を成膜する前の被覆層の状態に起因しているものと考えられる。比ITO/ITAの望ましい範囲は、0〜0.5である。
なお、本発明において、ピーク強度ITO、ITAの測定方法は、図2に示すように、100cm−1における強度(測定値)と800cm−1における強度(測定値)とを結ぶ線分を0(ゼロ)点基準として、各ピークのピーク強度を算出する。また、100cm−1または800cm−1にピークが存在する場合には、そのピークを避けてその周辺のピークが存在しない位置で代用する。
ここで、本発明によれば、波数416〜420cm−1(418cm−1付近)の範囲内に現れるAlに帰属されるピークAのピーク強度をIとしたとき、ITO/Iが0〜0.5であることが、密着力に優れ、耐摩耗性に優れたAl層となる点で望ましい。
次に、Al層8より基体6側に形成される下層7について説明する。
下層7は、TiC、TiN、TiCN、TiCNO、TiCO、TiNO、TiOの群から選ばれる1層以上が好適に用いられ、耐摩耗性および耐欠損性が向上する。本実施態様によれば、具体的な構成として、基体6の直上には第1層としてTiN層7aが形成さ
れ、第2層としてTiCN層7bが形成されている。TiCN層7bとしては、アセトニトリル(CHCN)ガスを原料として含み成膜温度が780〜900℃と比較的低温で成膜した柱状結晶からなる、いわゆるMT−TiCN層と、成膜温度が950〜1100℃と高温で成膜した、いわゆるHT−TiCN層とが順に成膜された構成であることが望ましい。さらに、MT−TiCN層は、平均結晶幅が0.5μm未満と微細な微細柱状結晶からなる微細MT−TiCN層と、平均結晶幅が0.5〜2μmと比較的大きい粗大柱状結晶からなる粗大MT−TiCN層との積層からなることが望ましい。これによって、Al層8との密着力が高まり、被覆層の剥離やチッピングを抑えることができる。
また、HT−TiCN層は、成膜工程で酸化させて、Ti原子を40〜55原子%と、酸素(O)を15〜25原子%と、炭素(C)を25〜40原子%と、残部が窒素(N)とのTiCNO層に変化させ、その後Al系ガスを流し、次いで再度Ti系ガスを流して被覆層の表面を調整した厚み0.05〜0.5μmの中間層7cを形成していることが望ましい。これによって、平均粒径0.05〜0.7μmのα型結晶構造のAl結晶からなるα型Al層8をより容易に作製することができる。
なお、各層の厚みおよび各層を構成する結晶の性状は、切削工具1の断面における電子顕微鏡写真(走査型電子顕微鏡(SEM)写真または透過電子顕微鏡(TEM)写真)を観察することにより、測定することが可能である。
さらに、Al層8の上層に、表面層9としてTiN層、TiC層、TiCNO層、TiCO層、TiNO層の群から選ばれる少なくとも1層(他のTi系被覆層)を形成することによって、切削工具1の摺動性の向上や外観等の調整が可能となる。表面層9としてTiN層やTiCN層を用いた場合には、切削工具1の表面が有色となり、切削工具1を使用したときに表面層9が摩耗して使用済みかどうかの判別がつきやすく、また、摩耗の進行を容易に確認できる。なお、表面層9は、摺動性を高めるためにDLC(ダイヤモンドライクカーボン)層やCrN層を表面層9として形成しても良い。
一方、切削工具1の基体6は、炭化タングステン(WC)と、所望により周期表第4、5、6族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物の群から選ばれる少なくとも1種と、からなる硬質相を、コバルト(Co)やニッケル(Ni)等の鉄属金属からなる結合相にて結合させた超硬合金やTi基サーメット、またはSi、Al、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素(cBN)等のセラミックスのいずれかが好適に使用できる。中でも、切削工具1を切削工具として用いる場合には、基体6は、超硬合金またはサーメットからなることが耐欠損性および耐摩耗性の点で望ましい。また、用途によっては、基体6は炭素鋼、高速度鋼、合金鋼等の金属からなるものであっても良い。
さらに、上記記載では切削工具1について説明したが、摺動部品や金型等の耐摩部品、掘削工具、刃物等の工具、耐衝撃部品等の各種の用途への応用も可能である。特に、切削工具1を高速切削条件で加工した場合に優れた切削性能を示す。つまり、本発明によれば、α型Al層8が高温になっても、α型Al層8がTiCN層7bと強固に結合しているので、α型Al層8がチッピングしたり欠損したりすることを抑制することができる。もちろん、鋼の切削加工においても、従来の工具に対して優れた耐欠損性および耐摩耗性を示すことができる。
(製造方法)
また、本実施形態の切削工具1の一例である上述した表面被覆切削工具の製造方法の一実施形態について説明する。
まず、上述した硬質合金を焼成によって形成しうる金属炭化物、窒化物、炭窒化物、酸
化物等の無機物粉末に、金属粉末、カーボン粉末等を適宜添加、混合し、プレス成形、鋳込成形、押出成形、冷間静水圧プレス成形等の公知の成形方法によって所定の工具形状に成形する。その後、得られた成形体を真空中または非酸化性雰囲気中にて焼成することによって上述した硬質合金からなる基体6を作製する。そして、上記基体6の表面に所望によって研磨加工や切刃部のホーニング加工を施す。
次に、得られた基体6の表面に化学気相蒸着(CVD)法によって被覆層を形成する。まず、基体6の直上に第1層としてTiN層を形成する。TiN層の成膜条件としては、混合ガス組成として四塩化チタン(TiCl)ガスを0.5〜10体積%、窒素(N)ガスを10〜60体積%の割合で含み、残りが水素(H)ガスからなる混合ガスを用い、成膜温度を80〜940℃(チャンバ内)、圧力を8〜50kPaにて成膜される。
次に、第2層としてTiCN層7bを形成する。ここでは、TiCN層7bが、平均結晶幅が小さい微細柱状結晶層と、この層よりも平均結晶幅が大きい粗柱状結晶層とのMT−TiCN層と、HT−TiCN層との3層にて構成する場合の成膜条件について説明する。
MT−TiCN層のうちの微細柱状結晶層の成膜条件は、四塩化チタン(TiCl)ガスを0.5〜10体積%、窒素(N)ガスを10〜60体積%、アセトニトリル(CHCN)ガスを0.1〜0.4体積%の割合で含み、残りが水素(H)ガスからなる混合ガスを用い、成膜温度を780〜900℃、圧力を5〜25kPaとする。MT−TiCN層のうちの粗柱状結晶層の成膜条件は、四塩化チタン(TiCl)ガスを0.5〜4.0体積%、窒素(N)ガスを0〜40体積%、アセトニトリル(CHCN)ガスを0.4〜2.0体積%の割合で含み、残りが水素(H)ガスからなる混合ガスを用い、成膜温度を780〜900℃、圧力を5〜25kPaとする。
HT−TiCN層の成膜条件は、四塩化チタン(TiCl)ガスを0.1〜5体積%、メタン(CH)ガスを0.1〜10体積%、窒素(N)ガスを0〜30体積%の割合で含み、残りが水素(H)ガスからなる混合ガスを用い、成膜温度を950〜1100℃、圧力を5〜40kPaとして成膜する。そして、チャンバ内を950〜1100℃、5〜40kPaとし、四塩化チタン(TiCl)ガスを1〜5体積%、メタン(CH)ガスを4〜10体積%、窒素(N)ガスを10〜30体積%、一酸化炭素(CO)ガスを4〜8体積%、残りが水素(H)ガスからなる混合ガスを調整して反応チャンバ内に3〜20分導入して成膜した後、引き続き、三塩化アルミニウム(AlCl)ガスを0.5〜5.0体積%と残りが水素(H)ガスからなる混合ガスを5〜30分間流す。その後、四塩化チタン(TiCl)ガスを1〜5体積%を5〜30分間流し、続いて、二酸化炭素(CO)ガスを0.5〜4.0体積%、残りが窒素(N)ガスからなる混合ガスを2〜10分間流し、さらに、再度、三塩化アルミニウム(AlCl)ガスを0.5〜5.0体積%、残りが水素(H)ガスからなる混合ガスを5〜30分間流すことによって、HT−TiCN層が変化した中間層を成膜する。
続いて、α型Al層8を形成する。α型Al層8の成膜条件としては、三塩化アルミニウム(AlCl)ガスを0.5〜5.0体積%、塩化水素(HCl)ガスを0.5〜3.5体積%、二酸化炭素(CO)ガスを0.5〜5.0体積%、硫化水素(HS)ガスを0〜0.5体積%、残りが水素(H)ガスからなる混合ガスをチャンバ内に導入し、成膜温度を950〜1100℃、圧力を5〜10kPaとして成膜することが望ましい。
さらに、α型Al層8の上層に表面層9としてTiN層を形成する。四塩化チタン(TiCl)ガスを0.1〜10体積%、窒素(N)ガスを0〜60体積%の割合
で含み、残りが水素(H)ガスからなる混合ガスを反応チャンバ内に導入し、チャンバの温度を960〜1100℃、圧力を10〜85kPaとして成膜する。
そして、所望により、形成した被覆層の表面の少なくとも切刃部を研磨加工する。この研磨加工により、切刃部が平滑に加工され、被削材の溶着を抑制して、さらに耐欠損性に優れた切削工具となる。
平均粒径1.5μmの炭化タングステン(WC)粉末に対して、平均粒径1.2μmの金属コバルト(Co)粉末を6質量%の割合で添加、混合して、プレス成形により切削工具形状(CNMA120412)に成形した。得られた成形体について、脱バインダ処理を施し、0.5〜100Paの真空中、1400℃で1時間焼成して超硬合金を作製した。さらに、作製した超硬合金に対して、ブラシ加工にてすくい面側から刃先処理(すくい面側が0.05mm/逃げ面側が0.05mmのRホーニング)を施した。
次に、上記超硬合金に対して、CVD法により各種の被覆層を表1に示す成膜条件、および表2に示す層構成にて形成した。そして、被覆層の表面をすくい面側から30秒間ブラシ加工して試料No.1〜8の表面被覆切削工具を作製した。
得られた工具について、波長514.53nmのHe−Neレーザーを照射してラマンスペクトルを得た。得られたスペクトルチャートについて、
各ピーク強度を算出した。なお、図2(a)は試料No.3のピークを示し、図2(b)は試料No.6のピークを示す。また、被覆層の断面について透過型電子顕微鏡観察を行い、各層を構成する結晶の形状、平均粒径(または平均結晶幅)、厚みを見積もった。結果は表3に示した。
Figure 2011230221
Figure 2011230221
次に、このスローアウェイチップを用いて以下の切削条件にて切削試験を行った。結果は表3に併せて示した。
切削方法:端面加工
被削材 :FCD700 (8本溝)
切削速度:300m/分
送り :0.3mm/rev
切り込み:1.5mm
切削状態:湿式
評価方法:切れ刃が欠損となる衝撃回数(表中、衝撃回数と記載。)
Figure 2011230221
表1〜3に示される結果から、所定の成膜条件でHT−TiCN層が変化した中間層を形成しない試料No.6〜8では、いずれも比(ITO/ITA)が0.5を超え、上記切削試験においては少ない衝撃回数で欠損に至った。
これに対し、所定の成膜条件でHT−TiCN層が変化した中間層を形成した試料No.1〜5では、いずれも比(ITO/ITA)が0〜0.5の範囲内となり、上記切削試験において良好な耐欠損性を示した。
1 切削工具
2 すくい面
3 逃げ面
4 切刃
6 基体
7 下層
7a TiN層
7b TiCN層
7c 中間層
8 Al
9 表面層

Claims (2)

  1. 基体の表面に、Tiの炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物および炭窒酸化物のうちの1層以上の下層と、α型結晶構造のAl層とを形成してなり、前記Al層の表面から波長514.53nmのHe−Neレーザーを照射して得られるラマ
    ンスペクトルにおいて、波数50〜580cm−1(540cm−1付近)の範囲内に現れるTiCNに帰属されるピークTOと、波数230〜300cm−1(260cm−1付近)の範囲内に現れるTiCNに帰属されるピークTAと、のピーク強度をそれぞれITO、ITAとしたとき、その比(ITO/ITA)が0〜0.5である表面被覆部材。
  2. 波数416〜420cm−1(418cm−1付近)の範囲内に現れるAlに帰属されるピークAのピーク強度をIとしたとき、ITO/Iが0〜0.5である請求項1に記載の表面被覆部材。
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