JP3910881B2 - 酸化膜被覆工具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、切削用及び耐摩耗用の酸化膜被覆工具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、硬質膜被覆工具は超硬合金、高速度鋼または特殊鋼よりなる基体表面に化学蒸着(以下、CVDと称する。)法または物理蒸着(以下、PVDと称する。)法等により硬質皮膜を被覆することにより作製され、皮膜の耐摩耗性と基体の強靭性とを兼ね備えているため広く利用されている。特に高硬度材を高速で切削する場合には切削工具の刃先温度が1000℃付近にまで上昇することがあり、このような高温で工具は被削材との接触による摩耗や断続切削等の機械的衝撃に耐える必要があるため耐摩耗性と耐欠損性とを兼ね備えた上記の硬質膜被覆工具が広く使用されている。
【0003】
これら硬質皮膜は、CVD法或いはPVD法により成膜されている。PVD法で成膜された膜は一般に圧縮応力を有しておりCVD法で成膜された膜は引張り応力を有している。PVD法の長所は多数の元素を含有する膜を比較的容易に成膜できることであり、短所はCVD膜に比べて膜の密着性が劣ることである。すなわち、PVD法で成膜され圧縮応力を有する皮膜は下地膜との密着性が劣るため切削の初期に皮膜が剥がれてしまい摺動性や耐摩耗性を高める皮膜の役割があまり期待できない欠点がある。これに対して、CVD法の長所は750〜1050℃と高い温度で成膜されるため膜間の密着性が優れしかもより高温で使用しても膜特性の劣化が少ないことであり、短所は化学反応を用いて成膜するために多数の元素を含有する膜を成膜することが困難なことである。このため、切削加工時に刃先が1000℃前後まで昇温する旋削工具に使用されている皮膜はCVD法で成膜されたTiC、TiN、TiCN、Al2O3膜に限定されているのが現状である。
【0004】
CVD法で成膜された硬質膜被覆工具表面の皮膜は耐摩耗性を左右するため種々の改善がなされてきた。例えば、基体表面に高硬度の炭化チタン膜を被覆して耐摩耗性を改善したもの、或いはこの炭化チタン膜の表面に更に酸化アルミニウム膜を被覆し耐酸化性を改善したもの等がある。特に、酸化アルミニウム膜は化学的に安定しており酸化に強く被削材とも反応し難いため多くの工具で利用されている。しかし、酸化アルミニウム膜はTiN、TiC、TiCN等の非酸化膜に比べて膜中にクラックが発生し易く、結晶粒が脱落し易いため耐摩耗性が劣る欠点があった。このような酸化アルミニウム膜の欠点を改善するため、本願発明者らは先に特開平10―18039号公報や特開平10―156606号公報、特開平10―273778号公報等で高温安定性が優れ膜中にクラックが発生し難いα型酸化アルミニウム(α−Al2O3)を下地の非酸化膜の上に密着性良く成膜した酸化アルミニウム被覆工具を実現した。また、特開2000―144427号公報で結晶粒径が小さく皮膜表面が平滑なため摺動性が優れ結晶粒が脱落し難い酸化アルミニウム被覆工具を実現した。しかし、これらの酸化アルミニウム被覆工具はいずれも下地膜との密着性や耐熱安定性及び皮膜表面の摺動性を高めたものであり酸化アルミニウムを構成する結晶粒が脱落し易い欠点は改善されていなかった。
【0005】
特開平8−92743号公報では、耐摩耗性の複合セラミックコーティングを基材に付着させる方法として、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、或いは酸化ジルコニウムから成る連続金属酸化物相内に酸化アルミニウム、酸化イットリウム、或いは酸化ジルコニウムから成る不連続金属酸化物を離散した第二相として分散させ該コーティングを形成することが提案されている。しかし、この方法では、例えば酸化アルミニウムから成る連続金属酸化物相内に酸化イットリウムから成る不連続金属酸化物相が個別に離散して分散しており、酸化アルミニウムを構成する結晶粒の粒界強度を高め結晶粒が脱落し易い欠点を改善する効果は期待できない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、酸化アルミニウム膜を構成する結晶粒間の機械強度が高く、結晶粒が脱落し難く、切削耐久特性が大幅に改善された酸化膜被覆工具を提供することである。
【0007】
本発明者らは上記従来技術被覆工具の欠点を解決するために鋭意研究した結果、酸化アルミニウム膜の結晶粒界にイットリウムを含有させることにより、酸化アルミニウム膜を構成する結晶粒間の密着性を大幅に改善でき、結晶粒が脱落し難くなるとともに、優れた切削耐久特性を持つ酸化膜被覆工具を実現できることを見出し、本発明に至った。すなわち、基体表面に周期律表の4a、5a、6a族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物、炭酸化物、窒酸化物及び炭窒酸化物のいずれか1種の単層皮膜又は2種以上からなる多層皮膜並びに少なくとも1層の酸化アルミニウム膜が形成されている酸化膜被覆工具において、該酸化アルミニウム膜がα型酸化アルミニウム、κ型酸化アルミニウム、或いはκ型酸化アルミニウムとα型酸化アルミニウムとの混合膜であり、且つ、引張り残留応力を有しており、且つ、該酸化アルミニウム膜の結晶粒界にイットリウムが含有されていることを特徴とする酸化膜被覆工具である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の被覆工具は、該酸化アルミニウム膜が引張り残留応力を有している。引張り残留応力を有していることにより該酸化アルミニウム膜はその下地膜との間に優れた密着性が得られる。ここで、皮膜が引張り残留応力を有するか否かはX線応力測定法の1種である並傾法を用いて膜応力σの符号(±)を求めることにより判定できる。符号が+の時は引張り残留応力を持ち、−の時は圧縮残留応力を有している。一般に、膜の残留応力σは、X線応力測定法による並傾法を用いて、次式に示す応力計算式により求められる。
【0009】
【数式1】
【0010】
ここで、Eは弾性定数、νはポアソン比、θ0は無歪みの格子面からの標準ブラッグ回折角、Ψは回折格子面法線と試料面法線との傾き、θは測定試料の角度がΨの時のブラッグ回折角である。前記数式1より、膜応力の符号(±)の決定には2θ−sin2Ψ線図の勾配のみが必要とされ、弾性定数Eやポアソン比ν、cotθ0(常に+)の正確な値は必要としないことがわかる。
【0011】
本発明の被覆工具は、該酸化アルミニウム膜中のイットリウム含有量が0.01〜10質量%であることが好ましく、0.01〜7質量%であることがさらに好ましく、0.05〜2.5質量%であることが最も好ましい。イットリウム含有量が0.01〜10質量%であることにより酸化アルミニウム膜の結晶粒間の密着性が高まり結晶粒が脱落し難くなりさらに優れた工具寿命を持つ被覆工具が実現できる。イットリウム含有量が0.01質量%未満ではイットリウムを含有する効果が小さくなり、7質量%を越えると結晶粒内に若干クラックが発生し易くなり、10質量%を越えると更に結晶粒内にクラックが発生し易くなり工具寿命が低下する欠点が現れる。また、0.05〜2.5質量%であることにより最も優れた結晶粒間の密着性と工具寿命が実現できる。その理由は、イットリウム含有量が0.05〜2.5質量%のときはほとんどのイットリウムが酸化アルミニウム膜の結晶粒界にのみ偏在しており結晶粒間の密着性を高めるが結晶粒内の耐クラック性の低下がほとんど見られず、2.5質量%を越えると1部のイットリウムがアルミニウム膜の結晶粒内にも若干広がるため結晶粒内の耐クラック性が若干低下し、7質量%を越えると更に多くのイットリウムがアルミニウム膜の結晶粒内に広がり結晶粒内の耐クラック性が低下するためと考えられる。
【0012】
本究明の被覆工具はイットリウムが該酸化アルミニウム膜の粒界に偏析していることが好ましい。こうすることにより該酸化アルミニウム膜の粒界強度が高まるとともに該酸化アルミニウム膜の結晶粒内の強度低下が抑えられ、更に優れた切削耐久特性を持つ被覆工具が実現される。偏析の有無は該酸化アルミニウム膜の粒界近傍のイットリウム量を走査電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)に内蔵されたエネルギー分散形X線分析装置(EDX)により分析した時、(粒界部のイットリウム量(質量%)/結晶粒中央部のイットリウム量(質量%))が20以上であることにより判別できる。
【0013】
本発明に用いる酸化アルミニウム膜にはα型酸化アルミニウム(α-Al2O3)単相膜やκ型酸化アルミニウム(κ-Al2O3)単相膜或いはκ型酸化アルミニウムとα型酸化アルミニウムとの混合膜でも良く、それぞれの酸化アルミニウム膜に対応したイットリウム含有効果が得られる。また、κ型酸化アルミニウム及び/又はα型酸化アルミニウムと、γ型酸化アルミニウム、θ型酸化アルミニウム、δ型酸化アルミニウム、χ型酸化アルミニウムの少なくとも1種とからなる混合膜や、酸化アルミニウム膜の代わりに酸化アルミニウムと酸化ジルコニウム等に代表される他の酸化物との混合膜でもでも良く、それぞれの酸化膜に対応したイットリウム含有効果が得られる。
【0014】
本発明の被覆工具は該酸化アルミニウムがα型酸化アルミニウムであることが好ましい。該酸化アルミニウムの高温耐熱性が特に優れたα型酸化アルミニウムであることにより、切削加工時に1000℃付近の高温にさらされても酸化アルミニウム膜が変態することなく、膜中にクラックが発生し難くなり更に優れた耐クラック性と切削耐久特性が実現される。次に、該酸化アルミニウム膜はイットリウム以外にも、例えば、Mg、Cr、Lu、Eu、Tm、Sm、Zrの1種又は2種以上を0.01〜7質量%添加した膜でも良い。0.01質量%未満ではこれらを添加する効果が現れず、7質量%を超えると上記膜の耐摩耗や高靭性の効果が低くなる欠点が現れる。本発明において、該酸化アルミニウム膜の上に摺動性を高めるため、美観を高めるため或いは工具使用の有無を容易に判別出来るようにするため等の理由で少なくとも1層のチタンやジルコニウム、ハフニウム、クロムの炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物、炭酸化物、窒酸化物及び炭窒酸化物、例えば、TiN、ZrN、HfN、CrN、TiCN、ZrCN、HfCN、CrCN或いはこれらを組み合わせた多層膜等、を被覆してもよい。更に、切削耐久特性を劣化させない範囲でWやCo等不可避の添加物や不純物を、例えば3質量%程度まで含むことが許容される。また、該酸化膜は膜中の塩素量が2質量%以下であることが好ましい。より高温で成膜するCVD法を用いることにより膜中の塩素量が2質量%以下になりより高い膜硬度と耐摩耗性が得られる。これに対してプラズマCVD法で成膜すると膜中の塩素量が2質量%を越え膜硬度と耐摩耗性が低下し、工具寿命が低下する欠点が現れる。本発明の被覆工具の用途は切削工具に限るものではなく、硬質皮膜を被覆した耐摩耗材や金型、溶湯部品等でもよい。次に、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明するが、それら実施例により本発明が限定されるものではない。
【0015】
【実施例】
(実施例1)
実施例1としてまず、WC:87質量%、TiC:3質量%、(TaNb)C:3質量%、Co:7質量%の組成よりなるJIS規格CNMG120408形状の切削工具用超硬合金基体をCVD反応炉内に設置し、H2キャリヤーガスとTiCl4ガスとN2ガスとを原料ガスに用いて0.5μm厚さのTiN膜を900℃で形成後、H2キャリヤーガスとTiCl4ガス、N2ガス、CH3CNガスを原料ガスに用いて厚さ6μmのTiCN膜を890℃で形成した。その後、1000℃でH2キヤリヤーガスとTiCl4ガス、CH4ガスとを原料ガスに用いてTiC膜を15分間成膜した後、そのまま連続して本構成ガスにCO2ガスとCOガスとを追加し15分間成膜することのよりTiCO膜を形成した。その後、H2キャリヤーガス、AlCl3ガス、CO2ガス及び塩化イットリウムガスを原料ガスに用いて厚さ4μmのY含有Al2O3膜を1020℃で形成した。ここで、塩化イットリウムガスはCVD反応炉の直前に約900℃に保温したイットリウム金属貯蔵タンクにH2キャリヤーガスとHClガスとを流すことにより作製した。そして、作製される塩化イットリウムガスの流量はイットリウム金属貯蔵タンクに流すHClガス量を調整することにより制御した。なお、この時作製されている塩化イットリウムガスはYCl3と考えられる。このようにしてイットリウムを含有した酸化アルミニウム(イットリウム含有Al2O3)膜を成膜した後、H2キヤリヤーガスとTiCl4ガスとN2ガスとを原料ガスに用いて0.5μm厚さのTiN膜を1010℃で形成し、その後室温まで冷却することにより実施例1の酸化膜被覆工具を作製した。作製した実施例1のY含有Al2O3膜の残留応力を理学電気(株)製のX線回折装置(RU−200BH)と応力測定用ソフト(Manual番号:MJ13026A01)を用いて並傾法(X線の走査面と応力の測定方向面とが平行)により測定した結果、本発明品のY含有Al2O3膜が引張り残留応力を有していることが判明した。
【0016】
作製した皮膜のX線回折パターンを理学電気(株)製のX線回折装置(RU−300R)を用いて2θ−θ法により測定した。2θの範囲は20〜90°で、X線源にはCuのKα1線(波長λ=0.154nm)を用い、装置に内蔵されたソフトによりKα2線とノイズとを除去して測定した。この測定の結果、実施例1品のY含有Al2O3膜は測定されたX線回折ピーク位置がα-Al2O3のX線回折ピーク位置(ASTMファイル番号:10−173)と一致し、実施例1品のY含有Al2O3膜はいずれもα-Al2O3からなっていることが確認された。作製したY含有Al2O3膜のイットリウム含有量は膜断面を研磨した後、膜断面を走査電子顕微鏡(SEM、日立製作所製、S−4200)に内蔵されたエネルギー分散形X線分析装置(EDX、堀場製作所製S−792X1)を用いて測定した。測定領域の大きさは膜厚方向1μm×基板表面と平行方向20μmにした。測定したイットリウム含有量を後述の切削テスト結果と併せて表1に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
また、該酸化アルミニウム膜中のイットリウムの分布を評価するため、発明例1のY含有Al2O3膜断面を透過型電子顕微鏡(TEM、日立製作所製、H−800、200kV)により観察し、Y含有Al2O3膜の結晶粒界部と結晶粒中央部のイットリウム量をTEM装置内蔵のエネルギー分散形X線分析装置(EDX、NORAN社製)により分析した。その結果も表1中に示す。
【0019】
表1より、イットリウム含有量が2.5質量%以下の時にイットリウムの結晶粒界への偏析が強く、イットリウム量が増加するにつれて結晶粒内にイットリウムが含有されるようになることがわかる。結晶粒界へのイットリウム偏在量を表す、粒界部のイットリウム量(質量%)/結晶粒中央部のイットリウム量(質量%)、はSEM−EDXによる平均含有量が7質量%以内の時は22以上と大きいのに対して、7質量%を越えると10以下になりイットリウムの結晶粒界への偏析が小さくなることがわかる。
【0020】
(実施例2)
実施例2としてまず、酸化膜がAl2O3膜でありイットリウムを含有する場合と含有しない場合との差違を明らかにするために、実施例1の試料と同一の膜構成と成膜条件でTiCO膜までを形成した後、H2キャリヤーガス、AlCl3ガス、CO2ガスを原料ガスに用いて厚さ4μmのAl2O3膜を1020℃で形成した。このとき、塩化イットリウムガスはCVD反応炉中には全く流さなかった。このようにしてイットリウムを含有しないAl2O3膜を成膜した後、実施例1と同じ条件で0.5μm厚さのTiN膜を1010℃で形成し、その後室温まで冷却することにより比較例26を作製した。そして、実施例1と同じ条件でAl2O3膜の残留応力を測定した結果その符号は+であり引張り残留応力を有していることが判明した。実施例2の結果も表1に併記する。
【0021】
実施例1、2で製作した本発明例1〜25、比較例26に付いて、連続切削寿命特性を以下の切削条件で評価した。各切削時間における摩耗量を倍率50倍の工具顕微鏡で観察し、平均逃げ面摩耗量が0.4mm、クレーター摩耗が0.1mmのどちらかに達した時間を連続切削寿命時間と判断した。
被削材:S53C
切削速度:250m/分
送り:0.3mm/rev
切り込み:2.0mm
切削油:使用せず
上記の条件で切削評価した結果も表1に併記する。
【0022】
表1より、比較例26の連続切削寿命は、13分であるのに対し、本発明例1〜25はいずれも連続切削寿命が18分以上と長く比較例26に比べて1.3倍以上長寿命であることがわかる。また、イットリウム含有量が0.01〜7質量%の時は連続切削寿命が22分以上と長く比較例26の1.6倍以上の長寿命であり更に優れていることがわかる。イットリウム含有量が0.05〜2.5質量%の時には連続切削寿命が30分以上と更に長く比較例26の2.3倍以上になり最も優れていることがわかる。また、本発明例15〜22の連続切削寿命は、22分以上と長く比較例2の1.6倍以上長寿命であり更に優れていることがわかる。
【0023】
(実施例3)
本発明例27として、WC:85質量%、TaC:4質量%、TiC:3質量%、NbC:2質量%、Co:6質量の組成よりなるミリング工具用インサート形状SEE42TN、の切削工具用超硬合金基体をCVD反応炉内に設置し、H2キャリヤーガスとTiCl4ガスとN2ガスとを原料ガスに用いて0.5μm厚さのTiN膜を900℃で形成後、H2キャリヤーガスとTiCl4ガス、N2ガス、CH3CNガスを原料ガスに用いて厚さ3μmのTiCN膜を890℃で形成した。その後、1000℃でH2キャリヤーガスとTiCl4ガス、CH4ガスとを原料ガスに用いてTiC膜を10分間成膜した後、そのまま連続して本構成ガスにCO2ガスとCOガスとを追加し10分間成膜することのよりTiCO膜を形成した。その後、H2キャリヤーガス、AlCl3ガス、CO2ガス及び塩化イットリウムガスを原料ガスに用いて厚さ0.5μmのY含有Al2O3膜を1000℃で形成した。そしてさらにH2キヤリヤーガスとTiCl4ガスとN2ガスとを原料ガスに用いて0.5μm厚さのTiN膜を1010℃で形成し、その後室温まで冷却することにより本発明例27を作製した。
【0024】
本発明例27を実施例1と同様の条件で評価した結果、Y含有Al2O3膜はイットリウム含有量が0.3質量%であり、引張り残留応力を有していることが判明した。また、皮膜のX線回折パターンからを測定した結果、作製されたY含有Al2O3膜のX線回折ピーク位置はα-Al2O3のX線回折ピーク位置(ASTMファイル番号:10−173)と一致し、本発明例3のY含有Al2O3膜はいずれもα-Al2O3からなっていることが確認された。
【0025】
(実施例4)
Y含有Al2O3膜がα−Al2O3である場合とその他のAl2O3である場合との差違を明らかにするために、本発明例28としてまず、実施例3と同じ組成と形状からなる切削工具用超硬合金基体をCVD反応炉内に設置し、実施例3と同じ成膜条件で0.5μm厚さのTiN膜と厚さ3μmのTiCN膜を890℃で形成した。その後、1000℃でH2キャリヤーガスとTiCl4ガス、CH4ガスとを原料ガスに用いてTiC膜を20分間成膜した後、1000℃でH2キャリヤーガス、AlCl3ガス、CO2ガス及び塩化イットリウムガスを原料ガスに用いて厚さ0.5μmのY含有Al2O3膜を成膜した。更に、H2キヤリヤーガスとTiCl4ガスとN2ガスとを原料ガスに用いて0.5μm厚さのTiN膜を1010℃で形成し、その後室温まで冷却することにより本発明例28を作製した。
【0026】
本発明例28を実施例1と同様の条件で評価した結果、Y含有Al2O3膜はイットリウム含有量が0.3質量%であり、引張り残留応力を有していることが判明した。また、皮膜のX線回折パターンからを測定した結果、作製されたY含有Al2O3膜のX線回折ピーク位置はκ-Al2O3のX線回折ピーク位置(ASTMファイル番号:4−0878)と一致し、κ-Al2O3からなっていることが確認された。
【0027】
(実施例5)
Y含有Al2O3膜が引張り残留応力を有する場合と有しない場合との差違を明らかにするために、実施例3と同じ超硬合金製インサートの表面にマグネトロンスパッタ方式によりTiターゲットを用いて膜厚0.5μmのTiN膜と膜厚3μmのTiCN膜を成膜した後、イットリウムを含有したAlターゲットを用いて厚さ0.5μmのイットリウムを含有した酸化アルミニウム膜を成膜し、その上に再びTiターゲットを用いて膜厚0.5μmのTiN膜を成膜することにより比較例29を作製した。
【0028】
比較例29を実施例1と同様の条件で評価した結果、イットリウムを含有した酸化アルミニウム膜はイットリウムとAlから成っておりイットリウム含有量が0.3質量%であることが確認された。また、皮膜のX線回折パターンを測定したが酸化アルミニウム膜の明確なX線回折ピークが得られず、イットリウム含有酸化アルミニウム膜が引張り残留応力を有しているかどうかは確認できなかった。但し、一般にマグネトロンスパッタ法で成膜した皮膜は圧縮応力を有しているのでこの場合も圧縮応力を有しているものと推定出来る。
【0029】
本発明例27、28のミリング切削寿命を以下の切削条件で評価した。ホルダーには切削評価するインサートを1個だけ装着し、各切削時間における摩耗量を倍率50倍の工具顕微鏡で観察し、平均逃げ面摩耗量が0.3mmに達した時間を連続切削寿命時間と判断した。
被削材:SKD61(焼鈍材)
インサート形状:SEE42TN
切削速度:200m/分
送り:0.25mm/回転
切り込み:2.0mm
切削油:使用せず
【0030】
上記切削テストの結果、本発明例27の連続切削寿命時間は30分であるのに対して、本発明例28は連続切削寿命が50分となり、本発明例27の1.6倍以上長寿命であった。これよりイットリウムを含有する酸化アルミニウム膜がκ−Al2O3であることが好ましいことがわかる。比較例29の連続切削寿命時間は18分で、本発明例27、29とは2.7倍以上と1.6倍以上長寿命であったことから、酸化アルミニウム膜が引張り残留応力を有していることが好ましいことがわかる。
【0031】
【発明の効果】
上述の通り、本発明によれば、該酸化アルミニウム膜がα型酸化アルミニウム、κ型酸化アルミニウム、或いはκ型酸化アルミニウムとα型酸化アルミニウムとの混合膜であり、且つ、引張り残留応力を有しており、且つ、該酸化アルミニウム膜の結晶粒界にイットリウムを含有させることにより酸化アルミニウム膜を構成する結晶粒間の密着性を大幅に改善でき結晶粒が脱落し難くなるとともに、優れた切削耐久特性を持つ酸化膜被覆工具を提供することができる。
Claims (4)
- 基体表面に周期律表の4a、5a、6a族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物、炭酸化物、窒酸化物及び炭窒酸化物のいずれか1種の単層皮膜又は2種以上からなる多層皮膜並びに少なくとも1層の酸化アルミニウム膜が形成されている酸化膜被覆工具において、該酸化アルミニウム膜がα型酸化アルミニウム、κ型酸化アルミニウム、或いはκ型酸化アルミニウムとα型酸化アルミニウムとの混合膜であり、且つ、引張り残留応力を有しており、且つ、該酸化アルミニウム膜の結晶粒界にイットリウムが含有されていることを特徴とする酸化膜被覆工具。
- 請求項1記載の酸化膜被覆工具において、該酸化アルミニウム膜中のイットリウム含有量が0.01〜10質量%であることを特徴とする酸化膜被覆工具。
- 請求項1又は2記載の酸化膜被覆工具において、該イットリウムが該酸化アルミニウム膜の粒界に偏析していることを特徴とする酸化膜被覆工具。
- 請求項1乃至3のいずれかに記載の酸化膜被覆工具において、該酸化アルミニウムがα型酸化アルミニウムであることを特徴とする酸化膜被覆工具。
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