JP5402533B2 - 硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層が、3〜20μmの全体平均層厚を有するTiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層が、1〜15μmの平均層厚を有し、化学蒸着形成された状態でα型の結晶構造を有する酸化アルミニウム(以下、Al2O3 で示す)層、
上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を蒸着形成した被覆工具が広く知られており、この被覆工具は、鋼や鋳鉄などの切削加工において、すぐれた耐摩耗性を発揮する。
また、工具基体とこの上に蒸着形成される硬質被覆層との接合強度を高めるために、工具基体表面に、Fe、NiあるいはCoの単一金属層、複合金属層を0.2〜2μm程度の厚さで被覆することも知られている。
そこで、下部層−上部層間の密着強度を高めるため、両層の密着界面領域の改質について、数多くの実験を重ねた結果、下部層と上部層との界面領域(下部層と上部層との界面を中心とした±5nmの範囲内の領域)のみに微量のZr原子、Lu原子、Y原子、Cr原子のいずれか1種又は2種以上が存在(偏在)している場合に、該Zr原子、Lu原子、Y原子、Cr原子のいずれか1種又は2種以上の原子は、下部層のTi化合物層および上部層のAl2 O3 層との間に強固なケミカルボンドを形成し、その結果として、下部層と上部層間の密着強度が高められることを見出したのである。
より具体的には、例えば、下部層形成後上部層形成前に、下部層表面を、Zr化合物を含有するガス雰囲気中で短時間処理(以下、「Zr処理」という)し、ついで、上部層を蒸着形成することによって、微量のZr原子を、上記下部層と上部層との界面領域のみに存在(偏在)させることができ、そして、これによって、Ti化合物層からなる下部層とAl2 O3 層からなる上部層との密着強度が向上し、その結果、高熱発生を伴い、切刃に衝撃的負荷が作用する高速断続切削加工においても、チッピング、剥離の発生なく、長期の使用に亘って優れた切削性能を発揮することができることを見出したのである。
また、Zr原子ばかりでなく、Lu原子、Y原子、Cr原子それぞれ単独の場合も、さらには、Zr原子、Lu原子、Y原子、Cr原子のうちの2種以上の場合も、これらを下部層と上部層との界面領域のみに存在(偏在)させた場合には、Ti化合物層からなる下部層とAl2 O3 層からなる上部層との密着強度が向上し、その結果、高熱発生を伴い、切刃に衝撃的負荷が作用する高速断続切削加工においても、チッピング、剥離の発生なく、長期の使用に亘って優れた切削性能を発揮することができることを見出したのである。
「 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、下部層と上部層からなる硬質被覆層を化学蒸着で形成した表面被覆切削工具において、
下部層は、3〜20μmの全体平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなり、また、上部層は、1〜15μmの平均層厚を有するα型酸化アルミニウム層からなり、さらに、透過型電子顕微鏡とエネルギー分散形X線分析装置を用いてプローブ径5nmで上記下部層と上部層との界面を解析した場合に、上記下部層と上部層との界面を中心とした±5nmの界面領域のみに、Zr原子、Lu原子、Y原子、Cr原子のいずれか1種又は2種以上が合計で1〜5原子%存在することを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
(a)下部層(Ti化合物層)
Tiの炭化物(TiC)層、窒化物(TiN)層、炭窒化物(TiCN)層、炭酸化物(TiCO)層および炭窒酸化物(TiCNO)層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層は、硬質被覆層の下部層として存在し、自身の具備するすぐれた高温強度によって硬質被覆層の高温強度向上に寄与するほか、工具基体と中間層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する接合強度を向上させる作用を有するが、その平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴う高速断続切削では熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その平均層厚を3〜20μmと定めた。
上記Zr処理、Lu処理、Y処理、Cr処理は、Ti化合物層からなる下部層と、Al2 O3 層からなる上部層との密着強度を高めるための処理であって、
(イ)例えば、Zr処理は、
反応ガス(容量%): ZrCl4 2〜5%, 残部H2、
雰囲気圧力: 3〜5 kPa、
処理温度: 1000〜1100 ℃、
処理時間: 1〜5 min
の条件でZr原子を下部層の表面に微量付着させ、その後、通常条件でAl2 O3 層を蒸着形成することによって、下部層と上部層との界面領域のみに微量のZr原子が存在(偏在)する領域を形成することができる。
(ロ)また、Lu処理は、上記Zr処理における反応ガスを、
反応ガス(容量%): LuCl3 2〜5%, 残部H2、
に変更することによって、下部層と上部層との界面領域のみに微量のLu原子が存在(偏在)する領域を形成することができる。
(ハ)同様に、Y処理は、反応ガスをYCl3 2〜5容量%,残部H2に変更することによって、Cr処理は、反応ガスをCrCl3 2〜5容量%,残部H2に変更することによって、下部層と上部層との界面領域のみに、それぞれ、微量のY原子、Cr原子が存在(偏在)する領域を形成することができる。
(ニ)下部層と上部層との界面領域のみに、微量のZr原子、Lu原子、Y原子およびCr原子のうちの2種以上が存在(偏在)する領域を形成するためには、
反応ガス(容量%): ZrCl4、LuCl3、YCl3、CrCl3のうちの2種以上の成分ガスを合計量で2〜5%, 残部H2、
からなる反応ガスを使用すればよい。
上記反応ガスを用い、
雰囲気圧力: 3〜5 kPa、
処理温度: 1000〜1100 ℃、
処理時間: 1〜5 min
の条件でZr原子、Lu原子、Y原子およびCr原子の2種以上を下部層の表面に微量付着させ、その後、通常条件でAl2 O3 層を蒸着形成することによって、下部層と上部層との界面領域のみに微量のZr原子、Lu原子、Y原子およびCr原子のうちの2種以上が存在(偏在)する領域を形成することができる。
反応ガス(容量%):TiCl4 4.2%, N2 20%,CH3CN 0.6%, 残部H2、
雰囲気圧力: 7 kPa、
処理温度: 900 ℃、
処理時間: 600 min、
の条件でTi化合物層(下部層)を蒸着形成した後、
反応ガス(容量%): ZrCl4 3%, 残部H2、
雰囲気圧力: 4 kPa、
処理温度: 1000 ℃、
処理時間: 3 min
の条件でZr処理を行って、Zr原子を下部層の表面に微量付着させ、その後、
反応ガス(容量%): AlCl3 3%, CO2 6%,HCl 8%,H2S0.4%,残部H2、
雰囲気圧力: 7 kPa、
処理温度: 1000 ℃、
処理時間: 300 min、
の条件でAl2 O3 層(上部層)を蒸着形成した硬質被覆層について、その硬質被覆層の縦断面を観察すると、図1として示す高分解能透過型顕微鏡写真(倍率:20000倍)にみられるように、下部層と上部層との界面領域のみ(界面を中心にして±5nmの範囲内の領域)にZr存在(偏在)領域が形成されていることがわかる。
そして、Zrの存在(偏在)する上記界面領域を、透過型電子顕微鏡とエネルギー分散形X線分析装置を用いてプローブ径5nmで測定解析すると、下部層と上部層との界面を中心にして±5nmの範囲内の領域のみに微量(1〜5原子%)のZr原子が存在(偏在)することがわかり、一方、下部層と上部層との界面を中心にして±5nm以外の領域(例えば、界面中心からAl2 O3 層内部へ深さ10nmの位置あるいは界面中心からTi化合物層内部へ深さ10nmの位置)においては、Zrは全く検出されなかった。
なお、Lu原子の存在(偏在)は上記の作用に加えて、下部層と上部層間のクリープ特性を向上させるという効果があり、さらに、Y原子、Cr原子の存在(偏在)は上記の作用に加えて、上部層の成膜初期にAl2O3粒子を微粒化することにより、密着性の向上効果、耐摩耗性の向上効果を高めるという作用がある。
一方、Zr処理、Lu処理、Y処理、Cr処理におけるZrCl4、LuCl3、YCl3、CrCl3の(合計)濃度を上記条件から外れた高濃度で行った場合には、下部層と上部層との界面を中心にして±5nm以内の領域のZr、Lu、Y、Crの含有割合が多くなるとともに、より下部層内部へ、あるいは、より上部層内部へとZr、Lu、Y、Crの各原子が浸透し偏在するようになるが、界面領域でのZr原子、Lu原子、Y原子、Cr原子の存在割合が合計で5原子%を超えると、界面領域においてZr原子、Lu原子、Y原子、Cr原子同士の金属結合が発生し、密着強度が低下することとなり、さらに、界面領域を超えて下部層内部、上部層内部へとZr原子、Lu原子、Y原子、Cr原子が浸透すると、下部層内部、上部層内部に金属Zr、金属Lu、金属Y、金属Crが析出し、下部層の高温強度、上部層の高温硬さを低下せしめるためである。
したがって、この発明では、下部層と上部層との界面を中心にして±5nm以内の領域のみにZr、Lu、Y、Crの各原子が存在(偏在)するようにするため、Zr原子、Lu原子、Y原子、Cr原子の割合を合計で1〜5原子%と定めた。
なお、この発明でいうZr処理、Lu処理、Y処理、Cr処理により形成されるZr、Lu、Y、Crの存在(偏在)する界面領域とは、下部層と上部層との界面を中心にした±5nmの範囲内の領域のみにZr原子、Lu原子、Y原子、Cr原子が存在するということであるが、このZr、Lu、Y、Crは、下部層と上部層の中間的な層として存在するのではなく、また、Zr層、Lu層、Y層、Cr層として独立してあるいは識別される層を形成しているわけではない。
したがって、下部層と上部層との界面に、所謂、層が形成されるか否かという点で、工具基体表面にFe、NiあるいはCoの単一金属層、複合金属層を0.2〜2μmの層厚で形成している先に示した先行技術文献(特許文献1、2)記載のものとは、下部層と上部層間の界面構造は明白に異なり区別されるべきものである。
上部層を構成するAl2 O3 層は、高温硬さおよび耐熱性にすぐれ、高熱発生を伴う高速断続切削加工において、基本的な役割として耐摩耗性を維持する。
この発明では、Zr処理、Lu処理、Y処理、Cr処理によって、下部層と上部層の密着強度を高めているので、このような被覆工具を高速断続切削加工に用いたような場合には、耐チッピング性、耐剥離性等が向上し、その結果、長期の使用に亘って、すぐれた切削特性を発揮することができる。
ただ、上部層の平均層厚が1μm未満では、厚膜化による工具寿命の長寿命化を期待することができず、また、下部層との密着強度を高めたことから上部層の厚膜化も可能となるが、上部層の平均層厚が15μmを超えるようになると、切刃部にチッピング、欠損、剥離等が発生し易くなることから、上部層の平均層厚は、1〜15μmと定めた。
ついで、表4〜8に示される条件にて、下部層の最表面にZr処理、Lu処理、Y処理、Cr処理を施し、Zr原子、Lu原子、Y原子、Cr原子のいずれか1種又は2種以上の原子を下部層の表面に微量付着させ、
ついで、表3に示される条件にて、表9、表11〜14に示される組み合わせおよび目標層厚で、Al2 O3 層を上部層として蒸着形成する、
ことにより本発明被覆工具1〜13、21〜33、41〜53、61〜73、81〜93をそれぞれ製造した。
具体的には、Zr、Lu、Y、Crの存在割合は以下の手順で求めた。
試料について、界面部平均厚さ100nm以下の断面薄片サンプルを作成し、高分解能透過型顕微鏡において、加速電圧200kV、倍率20000倍、プローブ径5nmの条件にてエネルギー分散型X線分析装置測定を行い、試料各ポイントにおけるZrの存在割合を測定し、界面においては10点測定を行った平均割合をZr、Lu、Y、Crの存在割合として決定した。
表9〜14に、上記測定で求めたZr、Lu、Y、Crの各原子の存在割合(原子%)を示す。
[切削条件A]
被削材:JIS・SNCM420の長さ方向等間隔4本縦溝入の丸棒、
切削速度: 375 m/min、
切り込み: 2.4 mm、
送り: 0.24 mm/rev、
切削時間: 5 分、
の条件でのニッケルクロムモリブデン鋼の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は、200m/min)、
[切削条件B]
被削材:JIS・FCD500の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 370 m/min、
切り込み: 2.6 mm、
送り: 0.33 mm/rev、
切削時間: 5 分、
の条件での鋳鉄の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は、180m/min)、
[切削条件C]
被削材:JIS・S30Cの長さ方向等間隔4本縦溝入の丸棒、
切削速度: 370 m/min、
切り込み: 1.45 mm、
送り: 0.50 mm/rev、
切削時間: 5 分、
の条件での炭素鋼の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は、250m/min)
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表15〜17に示した。
しかるに、硬質被覆層の下部層と上部層との間に微量のZr原子、Lu原子、Y原子、Cr原子が存在する界面領域が形成されていない比較被覆工具1〜13においては、高速断続切削という厳しい切削条件下では、硬質被覆層の層間密着強度が不十分であるために、硬質被覆層にチッピングが発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、下部層と上部層からなる硬質被覆層を化学蒸着で形成した表面被覆切削工具において、
下部層は、3〜20μmの全体平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなり、また、上部層は、1〜15μmの平均層厚を有するα型酸化アルミニウム層からなり、さらに、透過型電子顕微鏡とエネルギー分散形X線分析装置を用いてプローブ径5nmで上記下部層と上部層との界面を解析した場合に、上記下部層と上部層との界面を中心とした±5nmの界面領域のみに、Zr原子、Lu原子、Y原子、Cr原子のいずれか1種又は2種以上が合計で1〜5原子%存在することを特徴とする表面被覆切削工具。
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