JP4863071B2 - 硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(以下、Al2O3で示す)層、
からなる硬質被覆層を形成してなる被覆工具において、上記Ti化合物層におけるTiの一部を10原子%以下程度のCrで置換することによって、切削工具特性を向上させるようにした被覆工具が知られている。
(a)従来被覆工具の硬質被覆層において、下部層を構成するTi化合物層のうちの(Ti,Cr)CN層(以下、「従来Ti系CN層」という)は、例えば、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:3〜10%、CrF5:0.1〜0.4%、CH3CN:0.5〜3%、N2:20〜40%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件(通常条件という)で蒸着形成されるが、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:1〜5%、CrCl3:0.7〜2.5%、CH3CN:3〜6%、N2:20〜40%、HCl:0.5〜2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:5〜20kPa、
の条件、すなわち上記の通常条件に比して、反応ガス成分の一つであるCrF5にかえて少量のCrCl3およびHClを加え、さらにTiCl4の含有割合を少なく、CH3CNの含有割合を多くした条件で蒸着すると、
組成式:(Ti1−QCrQ)CN
で表した場合、Q=0.12〜0.20(但し、原子比)を満足するCr含有割合のTiとCrの複合炭窒化物層が蒸着形成される。
そして、上記TiとCrの複合炭窒化物層に対して、さらに、雰囲気圧力6〜60kPaのH2ガス雰囲気中で、1030〜1080℃×5〜10時間熱処理を行うと、
組成式:(Ti1−XCrX)CN
で表した場合、X=0.05〜0.15(但し、原子比)を満足するCr含有割合のTiとCrの複合炭窒化物からなるマトリックス相と、
組成式:(Ti1−YCrY)CN
で表した場合、Y=0.2〜0.8(但し、原子比)を満足するCr含有割合であって、しかも、結晶粒界に連続的に析出しているTiとCrの複合炭窒化物からなる析出相、
上記マトリックス相と析出相とからなるTi系炭窒化物層(以下、「改質Ti系CN層」で示す)が形成されること。
以上(a)、(b)に示される研究結果を得たのである。
「炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に下部層と上部層とからなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)上記下部層は、3〜20μmの合計平均層厚を有する蒸着で形成された密着性Ti化合物層と改質Ti系炭窒化物層とからなり、
(b)上記密着性Ti化合物層は、0.5〜5μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、
(c)上記改質Ti系炭窒化物層は、2.5〜15μmの平均層厚を有し、かつ、マトリックス相と析出相からなる組織を有し、
上記マトリックス相は、
組成式:(Ti1−XCrX)CN
で表した場合、X=0.05〜0.15(但し、原子比)を満足するCr含有割合のTiとCrの複合炭窒化物であり、また、
上記析出相は、
組成式:(Ti1−YCrY)CN
で表した場合、Y=0.2〜0.8(但し、原子比)を満足するCr含有割合のTiとCrの複合炭窒化物であって、マトリックス相の結晶粒界に連続的に析出していること、
(d)上記上部層は、蒸着で形成された1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
からなることを特徴とする硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
(a)下部層の密着性Ti化合物層
密着性Ti化合物層は、工具基体、改質Ti系CN層および上部層であるAl2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が0.5μm未満では、所望のすぐれた密着性を確保することができず、一方前記密着性は5μmまでの合計平均層厚で充分であることから、その合計平均層厚を0.5〜5μmと定めた。
改質Ti系CN層の形成は、2段階に分けて行い、まず、第1段階では、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:1〜5%、CrCl3:0.7〜2.5%、CH3CN:3〜6%、N2:20〜40%、HCl:0.5〜2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:5〜20kPa、
の条件で、
組成式:(Ti1−QCrQ)CN
で表した場合、Q=0.12〜0.20(但し、原子比)を満足するCr含有割合のTiとCrの複合炭窒化物からなる層を予め蒸着形成し、その後の第2段階として、雰囲気圧力6〜60kPaのH2雰囲気ガス中で、1030〜1080℃の温度範囲で5〜10時間熱処理を行うことによって、所定のマトリックス相と析出相からなる改質Ti系CN層を得るが、上記組成式:(Ti1−QCrQ)CNにおいて、Crの含有割合Qの値が0.12未満の場合には、熱処理を行ってもマトリックス相の結晶粒界に連続した析出相を形成することができないため、耐熱性の向上が期待できず、また、Crの含有割合Qの値が0.20を超える場合には、析出相の粗大化による高温強度の低下が生じるようになることから、Crの含有割合Qの値は、0.12〜0.20(但し、原子比)の範囲に定めた。
組成式:(Ti1−XCrX)CN
で表した場合、X=0.05〜0.15(但し、原子比)を満足するCr含有割合のTiとCrの複合炭窒化物からなるマトリックス相と、
組成式:(Ti1−YCrY)CN
で表した場合、Y=0.2〜0.8(但し、原子比)を満足するCr含有割合であって、しかも、結晶粒界に連続的に析出しているTiとCrの複合炭窒化物からなる析出相、
が形成されるが、改質Ti系CN層のマトリックス相において、Tiとの合量に占めるCrの含有割合X(=Cr/(Ti+Cr))が0.05未満では、l−TiCN層中のTiの一部をCrで置換したことによるマトリックス相の高温硬さ向上効果が少なく、さらに、組成式:(Ti1−YCrY)CNで表される析出相の結晶粒界への連続析出が起こらないため、粒界における連続的な析出相の存在による耐熱性向上効果を期待できない。一方、上記マトリックス相におけるTiとの合量に占めるCrの含有割合Xが0.15を超えると、複合炭窒化物の相形態変化による脆化、結晶粒界における連続析出相(組成式:(Ti1−YCrY)CNで表されるTiとCrの複合炭窒化物析出相)の粗大化、マトリックス相と析出相との界面の脆化等により、改質Ti系CN層の特性が劣化し、チッピングを発生しやすくなる。
したがって、組成式:(Ti1−XCrX)CNで表した場合のマトリックス相における、Tiとの合量に占めるCrの含有割合X(=Cr/(Ti+Cr))を、0.05〜0.15(但し、原子比)の範囲に定めた。
したがって、組成式:(Ti1−YCrY)CNで表した場合の析出相における、Tiとの合量に占めるCrの含有割合Y(=Cr/(Ti+Cr))を、0.2〜0.8(但し、原子比)の範囲に定めた。
即ち、蒸着膜形成時より温度を高く(約1050℃)し、H2ガス雰囲気中(雰囲気圧力6〜60kPa)で、1030〜1080℃×5〜10時間の熱処理を行うことによって、上記(Ti1−QCrQ)CNというほぼ均一固溶体のTiとCrの複合炭窒化物において、相対的にCrリッチなTiとCrの複合炭窒化物相(析出相)の粒界析出が促進されると同時に、Xの値、Yの値が前記数値範囲となるマトリックス相および析出相が形成されるが、熱処理の雰囲気ガス、圧力、加熱温度、加熱時間が上記熱処理条件から外れた場合には、マトリックス相、析出相のXの値、Yの値が前記数値範囲から外れることになるため、すぐれた高温硬さ、耐熱性、耐熱塑性変形性を備えた改質Ti系CN層を得ることはできない。
Al2O3層は、それ自身の有するすぐれた高温硬さと耐熱性により、硬質被覆層にすぐれた耐摩耗性を付与せしめるが、その平均層厚が1μm未満では、前記特性を十分に発揮することができず、一方、平均層厚が15μmを超えると、高速断続切削条件下では、切刃部にチッピングを発生しやすくなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
Al2O3の代表的な結晶構造として、特にすぐれた高温硬さと耐熱性を備えるα型−Al2O3の他、これに比べて相対的に高温硬さは低いが、高温強度が高いκ型−Al2O3等があるが、この発明では、Al2O3層の結晶構造については特に規定せず、α型−Al2O3層とκ型−Al2O3層等のいずれをも用いることができる。
なお、マトリックス相の粒界に析出相が連続的に析出した組織状態の改質Ti系CN層を形成するための具体的な熱処理条件(イ)〜(ト)については表4に示す。
被削材:JIS・SS400の丸棒、
切削速度: 570 m/min、
切り込み: 2.0 mm、
送り: 0.7 mm/rev、
切削時間: 7 分、
の条件(切削条件Aという)での軟鋼の湿式高送り高速切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、300m/min、0.3mm/rev)、
被削材:JIS・SUS309Sの丸棒、
切削速度: 320 m/min、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.65 mm/rev、
切削時間: 7 分、
の条件(切削条件Bという)でのステンレス鋼の湿式高送り高速切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、160m/min、0.25mm/rev)、
被削材:JIS・SCMnH2の丸棒、
切削速度: 420 m/min、
切り込み: 5.0 mm、
送り: 0.25 mm/rev、
切削時間: 7 分、
の条件(切削条件Cという)での高マンガン鋼の湿式高切り込み高速切削試験(通常の切削速度および切り込みは、それぞれ、220m/min、2.0mm)、
を行い、いずれの切削試験(水溶性切削油使用)でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表7に示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に下部層と上部層とからなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)上記下部層は、3〜20μmの合計平均層厚を有する蒸着で形成された密着性Ti化合物層と改質Ti系炭窒化物層とからなり、
(b)上記密着性Ti化合物層は、0.5〜5μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、
(c)上記改質Ti系炭窒化物層は、2.5〜15μmの平均層厚を有し、かつ、マトリックス相と析出相からなる組織を有し、
上記マトリックス相は、
組成式:(Ti1−XCrX)CN
で表した場合、X=0.05〜0.15(但し、原子比)を満足するCr含有割合のTiとCrの複合炭窒化物であり、また、
上記析出相は、
組成式:(Ti1−YCrY)CN
で表した場合、Y=0.2〜0.8(但し、原子比)を満足するCr含有割合のTiとCrの複合炭窒化物であって、マトリックス相の結晶粒界に連続的に析出していること、
(d)上記上部層は、蒸着で形成された1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
からなることを特徴とする硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具。
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