JP2004063423A - 電極製造に用いる塗布液、それを用いて製造した電極及び電池 - Google Patents

電極製造に用いる塗布液、それを用いて製造した電極及び電池 Download PDF

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村上 博保
Hiroki Emoto
江本 浩樹
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Abstract

【課題】粘度安定性が高く生産安定性に優れる電極製造用の塗布液、並びに前記塗布液を用いて製造した電極及び電池を提供する。
【解決手段】電池の電極製造に用いる塗布液であって、前記塗布液が、溶媒に、結着剤(バインダー)、及び炭素系物質を含有し、更に、前記塗布液が、窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子を塗布液の全重量に対して1ppm以上、10000ppm以下含有することを特徴とする塗布液。
【選択図】 無し

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電極製造用の塗布液並びに前記塗布液を用いて製造した電極及び電池に関する。特に、塗布液中の固形分の凝集が起こらずに製造時に安定して塗布が行える電極製造用の塗布液に関する。
【0002】
【従来の技術】
リチウム二次電池等の電池に用いる正極又は負極(本発明においては、正極及び負極をまとめて電極と呼ぶ場合がある。)は、通常金属等からなる集電体上に電極材料層を形成した構造を有する。前記電極は、少なくとも活物質及び結着剤を溶媒に分散又は溶解させた塗布液を集電体上に塗布、乾燥することによって製造されるのが一般的である。この製造方法は、一度に大面積の電極を製造することができるため、工業的に生産性が高い。
【0003】
上記製造方法の一例を図1に示す。図1は、電極の製造工程のうち、長尺・大面積の導電性電極基材7(後に集電体となる。)に塗布液を塗布、乾燥する工程を示す模式図である。タンク2に保持された塗布液1は、ポンプ3を作動させることによって、液供給用の配管11を矢印10の方向に流れる。このようにして配管11を流れる塗布液は、フィルター4を通すことによって塗布液に混入したゴミ等を除去した後、ダイ5を通して導電性電極基材7に塗布される。ここで、巻き出しローラー8aと巻き取りローラー8bを作動させることによって、導電性電極基材7を矢印12の方向に移動させれば、ダイ5に供給された塗布液を導電性電極基材7に連続的に塗布できる。そして、導電性電極基材7上の塗布液は乾燥ゾーン6を通過することによって、塗布液中の溶媒が除去され、電極材料層が導電性電極基材7上に形成される。上記のようにして、長尺・大面積の導電性電極基材上に電極材料層を形成した後、これを所望の大きさに裁断し、必要により電極材料層を圧密することによって、最終的に電極が完成する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、本発明者等の検討によれば、用いる塗布液の組成によっては、塗布を開始して短時間(数十分)のうちに前記フィルター4での目詰まりが発生し、ダイ5に十分な塗布液が供給されなくなることにより、塗布重量の制御が難しくなって安定した塗布ができなくなる場合があることがわかった。
【0005】
本発明者等はこの原因について詳細に検討を行った。その結果、炭素系物質が塗布液に含有されていると、塗布液中でそれら炭素系物質が凝集して前記フィルターの目詰まりを発生させることが判明した。
ここで、上記炭素系物質としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラックを挙げることができる。これらカーボンブラックは、一般に電極材料層への導電性を付与するために用いられるものである。また上記炭素系物質の他の例としては、グラファイトや人造黒鉛等の黒鉛材料を挙げることができる。これら黒鉛材料は、一般に負極活物質として用いられるものである。炭素系物質は、塗布液の凝集の観点からは塗布液中に含有させないことが好ましいが、電池性能を確保する観点からは電極材料層に含有させる必要がある。
【0006】
従って、一度に大面積の電極を安定に塗布するためにも、塗布工程時における塗布液中の炭素系物質の凝集を抑制し、電極製造時における塗布液の粘度安定性を確保することは非常に重要である。
ところで、この塗布液中での炭素系物質の凝集は、塗布液のゲル化とは異なる現象である。塗布液のゲル化は塗布液の粘度の上昇を引き起こすが、上記炭素系物質同士の凝集は、前記ゲル化とは反対に、塗布液の粘度の低下を引き起こすからである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記実情に鑑み、本発明者等は鋭意検討した結果、塗布液中に窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子を微量含有させることにより、塗布液中の炭素系物質の凝集を抑制できることを見出し本発明を完成させた。
すなわち、本発明の第1の要旨は、電池の電極製造に用いる塗布液であって、前記塗布液が、溶媒に、結着剤(バインダー)、及び炭素系物質を含有し、更に、前記塗布液が、窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子を塗布液の全重量に対して1ppm以上、10000ppm以下含有することを特徴とする塗布液に存する。
【0008】
本発明の第2の要旨は、上記塗布液を集電体に塗布し、溶媒を除去して製造した電極に存する。
本発明の第3の要旨は、正極及び/又は負極が上記電極である電池に存する。
【0009】
【発明の実施の形態】
(A)電池の電極製造に用いる塗布液
電池の電極製造に用いる塗布液は、溶媒に、結着剤(バインダー)、及び炭素系物質を含有し、更に、前記塗布液が、窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子を塗布液の全重量に対して1ppm以上、10000ppm以下含有することを特徴とする。以下、前記塗布液を構成する材料等について詳細に説明する。(1)窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子
本発明においては、窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子を用いる。これは、電極製造時における塗布液中の炭素系物質の凝集を防ぐためである。窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子を用いることにより、炭素系物質の凝集を抑制することができる理由は以下のように考えられる。すなわち、窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子は、保護コロイドとしての機能を有しており、炭素系物質の表面に吸着して、バリヤーとして働くため、炭素系物質同士が凝集して固まることを抑制するものと考えられる。
【0010】
質素を含む五員環構造とは、環の中に窒素原子を1以上含んでいればよいことを意味する。
窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロール、ポリビニルインドール、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルピラゾール、ポリビニルベンズイミダゾール、ポリビニル−1H−インダゾール、ポリビニルピペリジン、ポリビニルイミダゾリジン、ポリビニルピラゾリジン、ポリビニルピロリン、ポリビニルピラゾリン、及びポリビニルイソインドリンからなる群から選ばれる少なくとも1つを挙げることができる。これら高分子のち、保護コロイドの機能が高いものとして好ましいのは、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロール、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルイミダゾリジンであり、より好ましいのは、ポリビニルピロリドンである。
【0011】
また、前記窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子としては、ポリビニルイミダゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピリジン、ポリビニルピロール、ポリビニルフラン、ポリビニルインドール、ポリビニルピラゾール、ポリビニルベンズイミダゾール、ポリビニル−1H−インダゾール、ポリビニルピペリジン、ポリビニルイミダゾリジン、ポリビニルピラゾリジン、ポリビニルピロリン、ポリビニルピラゾリン、及びポリビニルイソインドリンからなる群から選ばれる少なくとも1つとポリビニルピロリドンとの共重合体を挙げることができる。これらの高分子のうち、保護コロイドの機能が高いものとして好ましいのは、ポリビニルイミダゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロール、及びポリビニルイミダゾリジンからなる群から選ばれる少なくとも1つとポリビニルピロリドンとの共重合体であり、より好ましいのは、ポリ酢酸ビニル又はポリビニルイミダゾールとポリビニルピロリドンとの共重合体である。ポリビニルイミダゾールとポリビニルピロリドンとの共重合体は、粘度自体は無添加の場合と同等としつつも、電極製造時の粘度の時間安定性が良好となる。
【0012】
ポリビニルピロリドン及びポリビニルピロリドンと他の高分子との共重合体は、保護コロイドとしての機能が高く、炭素系物質の表面に吸着してバリヤーとして働き、炭素系物質同士が凝集して固まることを防止する効果が特に大きい。
ポリビニルピロリドンと他の高分子との共重合体を用いる場合、高分子全体を構成する全モノマーのうちN−ビニル−2−ピロリドンを30%以上含有させることが好ましく、50%以上含有させるのがより好ましく、特に好ましくは60%以上含有させることである。N−ビニル−2−ピロリドンのユニットを多く含有させれば保護コロイドとしての機能をより高くできる利点がある。
【0013】
上記高分子のうち、ポリビニルピロリドンは、白色〜微黄色の粉状で、水、アルコール類、エステル類、エーテルアルコール類、ケトン類、有機酸類、アミン類に良く溶ける。ポリビニルピロリドン−ポリ酢酸ビニル共重合体(60:40)も、白色〜微黄色の固体で、ポリビニルピロリドンと同様の溶媒に溶ける。ポリビニルピロリドン−ポリビニルイミダゾール(50:50)も、白色〜微黄色の固体でポリビニルピロリドンと同様の溶媒に溶ける。具体的な共重合体としては、ポリビニルピロリドン−ポリ酢酸ビニル共重合体(60:40)、重量平均分子量が10000や、ポリビニルピロリドン−ポリビニルイミダゾール(50:50)、重量平均分子量が120000を挙げることができる。
【0014】
窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子の重量平均分子量は、通常1000以上、好ましくは5000以上、より好ましくは45000以上、一方、通常5000000以下以下、好ましくは2000000以下、より好ましくは500000以下とする。上記範囲の重量平均分子量の範囲とすれば、市販のものをそのまま使用することができるようになる。重量平均分子量が小さい場合、N−ビニル−2−ピロリドンの単位が例えば10個程度以下と少なくなるので、n−メチルピロリドン溶媒とほとんど同じ状態となると考えられ、電極製造時の粘度を安定化する効果が若干希薄になると考えられる。また、分子量が大きすぎると、分子鎖の長さが、炭素系物質の一例であるアセチレンブラックの一次粒子より、例えば数倍大きくなるため、保護コロイドとしての機能が十分発揮されなくなると考えられる。
【0015】
窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子の含有量は、塗布液の全重量に対して、1ppm以上、好ましくは100ppm以上、より好ましくは200ppm以上、一方、10000ppm以下、好ましくは6000ppm以下、より好ましくは2500ppm以下、特に好ましくは1500ppm以下、最も好ましくは1000ppm以下とする。1ppm以上含有させれば塗布液の粘度安定性の改良効果が発揮されるようになるが、原料バッチ間のばらつきを考慮し生産安定性を重視する場合は100ppm以上とすればよく、200ppm以上とすれば、塗布液の粘度安定性改良及び生産安定性の向上をより確実に達成できる。一方、10000ppm以下含有させれば、塗布液の粘度安定性改良及び生産安定性の向上が十分に達成されるが、窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子の含有量を減らせば、活物質比率を上げることができ電池容量も上げることができるので、6000ppm以下とすることが好ましく、2500ppm以下とするのがより好ましく、1500ppm以下とするのが特に好ましく、1000ppm以下とするのが最も好ましい。
【0016】
窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子の結着剤(バインダー)に対する含有量は、通常42ppm以上、好ましくは4200ppm以上、より好ましくは8400ppm以上である。一方、通常420000ppm以下、好ましくは105000ppm以下、より好ましくは42000ppm以下である。42ppm以上含有させれば塗布液の粘度安定性の改良効果は発揮されるようになるが、原料バッチ間のばらつきを考慮し生産安定性を重視する場合は4200ppm以上とすればよく、8400ppm以上とすれば、塗布液の粘度安定性改良及び生産安定性の向上をより確実に達成できる。一方、420000ppm以下含有させれば、塗布液の粘度安定性改良及び生産安定性の向上が十分に達成されるが、窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子の含有量を減らせば、活物質比率を上げることができ電池容量も上げることができるので、105000ppm以下とするのが好ましく、42000ppm以下とするのがより好ましい。
【0017】
尚、本発明においては、前記窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子の好ましい一種としてポリビニルピロリドンを用いる。ポリビニルピロリドンは高分子であるため、電極材料層に含有させるバインダーとして用いられたり、塗布液の粘度を上昇させるための増粘剤として用いることが知られている。特開平8−315855号公報においては、ポリビニルピロリドンを負極のバインダーとして用いている。また、特開平10−106542号公報においては、粘度を増加(増粘効果)させるために、カルボキシルメチルセルロースやポリビニルピロリドン等を含有させた塗布液を用いている。
【0018】
しかし、本発明においては、前記窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子を塗布液中に微量に存在させることを特徴とし、電極と活物質とを結着させるバインダーや塗布液の粘度を増加させる増粘剤としての役割を果たすほどの量は存在させない。本発明においては、ポリビニルピロリドン等の前記高分子を、従来知られている技術とは異なる目的、つまり、炭素系物質の凝集を抑制し、製造した塗布液の粘度を製造後から変化しないようにするために用いるのである。
(2)炭素系物質
電極に含有させる炭素系物質は、通常、活物質又は導電剤として含有される。
【0019】
活物質として炭素系物質を用いる場合、例えば、グラファイト等の黒鉛材料、及び石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチの炭化物、石油系ピッチの炭化物、あるいはこれらピッチを酸化処理したものの炭化物、ニードルコークス、ピッチコークス、フェノール樹脂、及び結晶セルロース等の炭化物等並びにこれらを一部黒鉛化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等を挙げることができる。
【0020】
上記炭素系物質のうち、好ましいのは、コークスやグラファイト等の黒鉛材料であるが、容量が大きい点で、グラファイト等の黒鉛材料が特に好ましい。
黒鉛材料としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の導電性カーボンブラックの黒鉛化品、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛粉末及びその精製品、気相成長炭素繊維等の炭素繊維が挙げられる。このような黒鉛材料ならどれでもよいが、容量の点から好ましいのは、天然黒鉛等からなる鱗片状の黒鉛である。
【0021】
黒鉛材料の平均粒径は、通常1μm以上、好ましくは5μm以上であり、また通常45μm以下、好ましくは35μm以下、さらに好ましくは25μm以下である。平均粒径が小さすぎると不可逆容量が増え電池容量が低下してしまうことがあり、一方大きすぎると活物質層の膜厚が制限され均一な活物質層を基材の上に形成させることが難しくなる。
【0022】
また、下記(I)〜(IV)に示す様な粒径と比表面積との所定の関係、特定数値域のラマンR値、半値幅等を有する黒鉛材料が特に好ましい。
(I)BET法(窒素ガス吸着)で測定された比表面積の値をY(m/g)、粉体の粒径の値をX(μm)とした場合、1≦X≦45、0.1≦Y≦25、且つY≦ax、(但しa=52、b=−0.6)で表される領域内にある黒鉛材料が好ましい。尚、粒子の大きさの測定には、レーザー回折法、電気抵抗式法、CCD高感度カメラの写真イメージの処理による粒径直接評価法などが利用できる。また、比表面積の測定には、気体分子吸着によるBET法、有機分子吸着法、有機溶媒吸着法が利用できる。
(II)ラマンスペクトル分析におけるR値(=IB/IA)が、0.001以上、一方0.2以下、好ましくは0.15以下、特に好ましくは0.07以下である黒鉛材料が好ましい。
(III)上記ラマンスペクトル分析において、1570〜1620cm−1に存在するピークの半値幅である△v値の大きさが、14〜22cm−1である黒鉛材料が好ましい。
(IV)X線回折による(002)面の面間隔d002が3.38Å以下、好ましくは3.36Å以下であるのが好ましい。また、c軸方向の結晶子の大きさ(Lc)が1000Å以下である黒鉛材料が好ましい。
【0023】
本発明で使用し得る黒鉛材料のより詳細な具体例としては、下記のものを挙げることができる。また、これらの高純度精製品でもよい。
(イ)高結晶性の天然黒鉛や人造黒鉛。
(ロ)天然黒鉛、人造黒鉛、或いは膨張黒鉛の再熱処理品。
(ハ)下記(a)及び(b)のような、黒鉛化可能な有機物原料から黒鉛化を行うことにより生成した上記(イ)及び(ロ)と同等の性能を持つ黒鉛。
【0024】
(a)コールタールピッチ、石炭系重質油、常圧残油、石油系重質油、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然高分子、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、フルフリルアルコール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂から選ばれる1 種以上の有機物を例えば2500℃以上3200℃以下の焼成温度で黒鉛化したもの。
【0025】
(b)上記(a)の黒鉛化可能な有機物をリチウム、ベリリウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、珪素、カリウム、カルシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、銅、亜鉛、ニッケル、白金、パラジウム、コバルト、ルテニウム、錫、鉛、鉄、ゲルマニウム、ジルコニウム、モリブデン、銀、バリウム、タンタル、タングステン、レニウム、から選ばれる少なくとも一種以上の粉体、或いは薄膜などの触媒存在下で、400℃以上2500℃以下、より好ましくは1000℃以上2000℃以下で焼成することにより黒鉛化したもの。
(ニ)黒鉛材料の粒径測定及びラマン分光分析の結果が、高い負極容量や高速の充放電に対する耐レート特性を期待し得る所望の一定範囲内の数値を有しない黒鉛材料であるが、それらの材料を改めて2000℃以上3200℃以下の温度で再焼成処理することにより、焼成後の材料の持つ粒径測定とラマン分光分析から得られる数値を所望の一定範囲に収めることができる黒鉛。
(ホ)黒鉛材料のBET法(窒素ガス吸着)による比表面積測定、及びラマン分光分析の結果が、高い負極容量や高速の充放電に対する耐レート特性を期待し得る所望の一定範囲内の数値を有しない黒鉛材料であるが、それらの材料を改めて2000℃以上3200℃以下の温度で再焼成処理することにより、焼成後の材料の持つ比表面積測定とラマン分光分析から得られる数値を所望の一定範囲に収めることができる黒鉛。
【0026】
鱗片状の黒鉛等の黒鉛材料を用いる場合、その表面の少なくとも一部をアモルファスな炭素質(特にコークス)で被覆することが好ましい(以下、このような表面の少なくとも一部がアモルファスなコークスで被覆された黒鉛材料を炭素被覆黒鉛材料と略称することがある)。炭素被覆黒鉛材料を負極に用いたリチウムニ次電池は、被覆を行わない黒鉛材料を負極に用いたリチウムニ次電池に比べ、レート特性とサイクル特性に優れる利点がある。この炭素被覆黒鉛材料は、黒鉛材料を炭素化可能な有機物で被覆し、その被覆体を焼成することで炭素化し、必要に応じて炭素化物を粉砕することにより生成し得るものであり、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な性質を有する。
【0027】
この炭素被覆黒鉛材料は、通常以下の(a)から(c)の特性を有する炭素質物の粒子である。
(a)X線回折から求められる(002)面の面間隔d002の値が、3.35Å以上3.39Å以下の値を持つこと。
(b)ラマンスペクトル分析から求められるR値が0.15以上、好ましくは0.2以上、一方1.0以下、好ましくは0.5以下であること、特に上記R値が被覆前の黒鉛系炭素質物のR値以上であること。
(なお、R値とは、波長5145Åのアルゴンイオンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、1570〜1620cm−1の範囲に存在するピークの強度をIA、1350〜1370cm−1の範囲に存在するピークの強度をIBとしたとき、その比IB/IAを表す。以下、特記しない限りR値は同義を意味する。)
(c)窒素ガス吸着によるBET法を用いて測定した比表面積が13m/g以下、より好ましくは10m/g以下、さらに好ましくは5m/g以下であり、また0.1m/g以上であること。
【0028】
炭素被覆黒鉛材料の被膜を形成するために用いられる有機物としては、液相で炭素化が進行する有機物や固相で炭素化が進行する各種の有機物を例示できる。液相で炭素化が進行する有機物としては、軟ピッチから硬ピッチまでを含むコールタールピッチや乾留液化油などの石炭系重質油の外、常圧残油、減圧残油等の直流系重質油、原油、ナフサなどの熱分解時に副生するエチレンタール等分解系重質油等の石油系重質油が挙げられる。さらにアセナフチレン、デカシクレン、アントラセンなどの芳香族炭化水素、フェナジンやアクリジンなどの窒素含有環状化合物、チオフェンなどの硫黄含有環状化合物、アダマンタンなどの脂環族炭化水素、ビフェニルやテルフェニルなどのポリフェニルなどが挙げられる。また、固相で炭素化が進行する有機物としては、セルロースや糖類などの天然高分子、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド等の熱可塑性樹脂、フルフリルアルコール樹脂(フラン樹脂)、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂等の熱硬化性樹脂などが挙げられる。これらの有機物は無論複数種を併用することができる。
【0029】
炭素被覆黒鉛材料を得るには、液相で炭素化が進む有機物を用いるのが有利である。
なお、被膜がコークスであることは、例えば、(a)TEM写真により、又は(b)被覆後のX線回折のピークから被覆前の黒鉛系炭素物質のX線回折ピークを差し引くことにより、又は(c)シモン試薬(クロム酸銀−硫酸)で炭素被覆黒鉛材料を溶解し、残った被膜を公知の方法(TEM、X線回折、ラマン分光分析等)で測定することにより、容易に確認することができる。
【0030】
炭素被覆黒鉛材料は、上記の有機物及び黒鉛材料を混合し、通常700℃以上、好ましくは900℃以上、より好ましくは1000℃以上、特に好ましくは1100℃以上、一方、通常2800℃以下、好ましくは1500℃以下で焼成することによって得ることができる。上記温度範囲は、炭素被覆黒鉛材料に所望する性能に応じて適宜選択すればよいが、焼成温度が低すぎると、前記有機物の焼成が不十分で炭素被覆黒鉛材料の導電性が不十分となる場合がある。一方、焼成温度が高すぎると炭素被覆黒鉛材料の表面処理効果が不十分となる場合がある。
【0031】
炭素被覆黒鉛材料の平均粒径は、通常1以上、好ましくは5μm以上あり、一方、通常100μm以下、好ましくは50μm以下である。これらの粒子は、必要に応じさらに粉砕処理に供することにより、所望する粒径を有する炭素被覆黒鉛材料を得ることができる。
炭素被覆黒鉛材料の組成は、前記黒鉛材料と前記有機物との合計を100重量%とした場合に、有機物の割合を通常50重量%以下、好ましくは25重量%以下、より好ましくは10重量%以下、特に好ましくは8重量%以下、一方、通常1重量%以上、好ましくは2重量%以上、より好ましくは5重量%以上とする。有機物の焼成物組成が多すぎると、低電位化、急速充放電特性の改善が少ない傾向にある。また、有機物の焼成物組成が多すぎると、更に性能を改善するために焼成後に実施することが好ましい酸またはアルカリによる処理の効果があまり顕著でない場合がある。一方、有機物の焼成物組成が少なすぎると所望の効果が得られない場合がある。なお、上記範囲は原料仕込み比ではなく、最終的生成物での組成である。そのため、仕込み時には、最終段階での組成比を考慮して原料の配合量を決定する必要がある。こうして調製した炭素被覆黒鉛材料を負極に用いたリチウムイオンニ次電池は被覆しない黒鉛負極使用時に比べ、優れたレート特性とサイクル特性を示す。
【0032】
また、球状の黒鉛を用いることも好ましい。ここで、球状の黒鉛の具体例としてはメソカ−ボンマイクロビーズ、グラッシーカーボン等が挙げられ、好ましくはメソカーボンマイクロビーズである。
メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)は、ピッチの炭素化過程で生じるメソフェーズ小球体を高温で熱処理し黒鉛化して得ることができる球状粒子であり、石油学会誌第6巻第5号(1973年)に開示されている球状の黒鉛である。さらに、MCMBは、その黒鉛化度が重要な因子であり、炭素の物性パラメータで表すと、002面の面間隔(d002)が3.35〜3.42Å、特に3.36〜3.40Åのものがよい。また、そのBET法による比表面積は0.7〜5m/gのものが好ましい。メソカーボンマイクロビーズは、例えば、コールタールやコールタールピッチ等の石炭系重質油を、300〜500℃程度の低温で熱処理してメソフェーズ小球体を得、これをさらに2000〜3000℃程度の高温で熱処理することによって得ることができる。
【0033】
球状の黒鉛の平均粒径は、通常0.5μm以上、好ましくは3μm以上であり、また通常30μm以下、好ましくは10μm以下である。平均粒径が小さすぎると塗膜強度を向上させる効果が小さく、大きすぎると膜厚が均一な塗膜を形成させることが難しいだけでなくこの場合も塗膜強度を向上させる効果が小さい傾向にある。
【0034】
鱗片状の黒鉛と球状の黒鉛を併用することも好ましい。併用すれば、球状の黒鉛が鱗片状の黒鉛の粒子間に存在するようになり、接着性に優れ密な塗膜が形成されるようになる。この場合、鱗片状の黒鉛に対する球状の黒鉛の重量比は、通常100%以下、好ましくは70%以下、さらに好ましくは50%以下、最も好ましくは40%以下であり、通常1%以上、好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上、最も好ましくは15%以上である。この重量比が小さすぎると塗膜強度や接着性を向上させる効果が小さくなる傾向にあり、また大きすぎると電池容量が低下する傾向にある。
【0035】
導電材料として炭素系物質を用いる場合、通常、カーボンブラック、黒鉛などの炭素粉末を挙げることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等を挙げることができるが、好ましいのは、アセチレンブラックである。なぜなら純度が高く、不純物による悪影響が少なく、かつストラクチャーが大きいため、少量の添加で導電性を高くできるからである。
【0036】
導電材料を用いる場合、活物質に対して、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上、一方、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下である。上記範囲内とすれば、導電性を確保しつつも、活物質の量比を大きく下げることがないため電池容量も確保することができる。
(3)結着剤(バインダー)
正極製造用の塗布液にはさらにバインダーを含有させる。バインダーを用いるのは、電極材料層を形成した後に、電極材料層中の活物質等の材料と集電体とを結着させるためである。
【0037】
バインダーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1,1−ジメチルエチレンなどのアルカン系ポリマー;ポリブタジエン、ポリイソプレンなどの不飽和系ポリマー;ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリビニルピリジン、ポリ−N−ビニルピロリドンなどの環を有するポリマー;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミドなどのアクリル誘導体系ポリマー;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニドなどのCN基含有ポリマー;ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール系ポリマー;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのハロゲン含有ポリマー;ポリアニリンなどの導電性ポリマーなど各種の樹脂が使用できる。また、上記のポリマーなどの混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体などであっても使用できる。また、シリケートやガラスのような無機化合物を使用することもできる。本発明においては、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂を使用することが好ましい。フッ素系樹脂は、電池の充放電電圧の範囲において酸化還元が起こらず安定に存在するため好ましい。
【0038】
バインダーの重量平均分子量は、通常1000以上、好ましくは10000以上、さらに好ましくは20000以上であり、通常5000000以下、好ましくは1000000以下、さらに好ましくは300000以下である。低すぎると塗膜の強度が低下し好ましくない。高すぎると粘度が高くなり活物質層の形成が困難になる。
【0039】
活物質を塗布液に含有させる場合、活物質100重量部に対するバインダーの場合は、通常0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上、更に好ましくは1重量部以上、通常50重量部以下、好ましくは30重量部以下、更に好ましくは15重量部以下である。バインダーの量が少なすぎると強固な正極が形成させにくい。バインダーの量が多すぎると、エネルギー密度やサイクル特性が低下する場合がある。
(4)溶媒
溶媒としては、例えば、n−メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドを挙げることができる。これら溶媒のうち好ましいのはn−メチルピロリドンである。上記溶媒は、上記バインダーとしてフッ素系樹脂を用いる場合、その溶解性が高くすることができ、5wt%以上の樹脂溶液にする事ができる利点がある。
【0040】
塗布液中の溶媒濃度は、通常10重量%以上であり、好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上、最も好ましくは35重量%以上である。また、通常90重量%以下、好ましくは80重量%以下、さらに好ましくは65重量%以下である。溶媒濃度が低すぎると、塗料粘度が高くなって本発明の効果が不十分になることがあるばかりではなく、塗布そのものが困難になることがあり、一方高すぎると塗布膜厚を上げることが困難になると共に塗料の安定性、特に塗膜のエッジ形状が悪化することがある。
(5)塗布液中のその他の構成要素
本発明においては、塗布液がさらにリチウム遷移金属複合酸化物を含有することが好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物は、一般的にリチウム二次電池用の正極において正極活物質として用いるため、正極製造用の塗布液に含有される。本発明においては、リチウム遷移金属複合酸化物を含有させた場合に、前記窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子を用いると、塗布液の粘度安定性が飛躍的に向上する。この理由は以下のように考えられる。
【0041】
すなわち、リチウム遷移金属複合酸化物が正極活物質として確実に性能を発揮するためには、その製造時において金属複合酸化物格子の中にリチウムを確実に挿入する必要がある。このため、リチウム遷移金属複合酸化物を製造する際においては、リチウムをリチウム遷移金属複合酸化物の化学量論組成における原子比よりも若干過剰に加えて原料の仕込みを行った後、これら原料を焼成してリチウム遷移金属複合酸化物を得る。このように、仕込み時に過剰のリチウムを加えるため、焼成の際に全てのリチウムがリチウム遷移金属複合酸化物の合成に用いられずに未反応のリチウムが残留することとなる。この未反応のリチウムは、水酸化リチウム、酸化リチウム、炭酸リチウム等の形でリチウム遷移金属複合酸化物中に存在する。従って、上記水酸化リチウム等を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を塗布液中に含有させると塗布液の塩基性が高くなる。そして、塗布液の塩基性が高くなると、塗布液中に含有される炭素系物質同士が凝集し易くなり塗布液の粘度安定性が悪化する(塗布開始後短時間で粘度低下が激しく起こる)のである。一方、リチウム遷移金属複合酸化物を水洗浄等して過剰のリチウムを除去しようとすると、リチウムを除去しすぎる場合が往々にしてあるため、電池性能が劣化することになるのみならず製造コストも上昇する。従って、リチウム遷移金属複合酸化物を用いる場合において、粘度安定性が高い塗布液を得るために、窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子を用いる有効性が特に高いのである。
【0042】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、及びリチウムマンガン複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つであることがより好ましい。
これらリチウム遷移金属複合酸化物のうち、リチウムニッケル複合酸化物を用いることが特に好ましい。リチウムニッケル複合酸化物は、単位重量あたりの電流容量が大きく、電池容量を高くすることができる。一方、リチウムニッケル複合酸化物は、原料製造の際に過剰のリチウムを多く用いるので、残留する水酸化リチウム等の量が多くなる。従って、塗布液の塩基性が特に高くなり、炭素系物質の凝集が激しくなる。このため、正極活物質として、リチウムニッケル複合酸化物を用いた場合に、前記窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子を塗布液中に含有させる効果が顕著に発揮される。
【0043】
リチウムニッケル複合酸化物としては、例えば、α−NaFeO構造等の層状構造を有する、LiNiOのようなリチウムニッケル複合酸化物が好ましい。具体的な組成としては、例えば、LiNiO、LiNi等を挙げることができる。この場合、リチウムニッケル複合酸化物は、Niが占めるサイトの一部をNi以外の元素で置換したものであってもよい。Niサイトの一部を他の元素で置換することによって、結晶構造の安定性を向上させることができ、繰り返し充放電する際のNi元素の一部がLiサイトに移動して発生する容量低下が抑制されるため、サイクル特性も向上する。さらに、Niサイトの一部をNi以外の元素で置換することによって、DSC(Differential Scanning Calorimetry:示差走査熱量測定)の発熱開始温度が高温側にシフトするため、電池の温度が上昇した場合のリチウムニッケル複合酸化物の熱暴走反応も抑制され、結果として高温保存時の安全性の向上につながる。
【0044】
Niが占めるサイトの一部をNi以外の元素で置換する際の、該元素(以下、置換元素と表記する)としては、例えば、Al、Ti、V、Mn、Co、Li、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr等が挙げられる。無論、Niサイトは2種以上の他元素で置換されていてもよい。好ましくはAl、Ti、Co、Li、Mg、Ga、Mnが挙げられ、更に好ましくはAl、Ti、Co、Mnが挙げられる。Ni元素の一部をAl、Ti、Co、Mnで置換することにより、サイクル特性、安全性の改善効果が大きくなる。
【0045】
置換元素によりNiサイトを置換する場合、その割合は通常Ni元素の2.5モル%以上、好ましくは5モル%以上であり、通常Ni元素の50モル%以下、好ましくは30モル%以下である。置換割合が少なすぎるとサイクル特性等の改善効果が充分ではない場合があり、多すぎると電池にした場合の容量が低下してしまう場合がある。
【0046】
尚、上記の組成において、少量の酸素欠損等の不定比性を持っていてもよい。また、酸素サイトの一部が硫黄やハロゲン元素で置換されていてもよい。
本発明においては、リチウムニッケル複合酸化物は、下記一般式(1)で表される、無置換又はNiサイトがCo及び所定の元素で置換される化合物であることが好ましい。
【0047】
LiαNiCo2− ββ             (1)
一般式(1)中、αは、電池内での充放電の状況により変化する数であり、αは、通常0以上、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.95以上であり、一方、通常1.1以下、好ましくは1.08以下である。この範囲とすれば、高容量を維持しつつ、繰り返し充放電特性(本明細書においては、サイクル特性という場合がある。)が良好となる。特にαを0.95以上とすれば、容量とサイクル特性のバランスがより良好に保たれる。
【0048】
Xは、0.1以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.7以上であり、一方、1以下、好ましくは0.9以下である。この範囲とすれば、容量を高く保もちつつ、サイクル特性も良好となる。容量の点からは、Xは1に近いことが好ましいがサイクル特性を考慮すると特に良好なのはXを0.7以上0.9以下とすることである。
【0049】
Yは、0以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上であり、一方、0.9以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下である。この範囲とすればサイクル特性を良好に保ちつつ、リチウム二次電池としての安全性も確保されるようになる。
Zは、0以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上であり、一方、0.8以下、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.05以下である。この範囲とすれば、電池容量を落とさずに、リチウム二次電池としての安全性を確保することができるようになる。
【0050】
尚、上記のX、Y、Zは、0.9≦X+Y+Z≦1.1の関係を満たすが、通常1.0である。
βは、0以上、好ましくは0.01以上であり、一方、0.5以下、好ましくは0.1以下である。この範囲とすれば、フッ素がリチウムニッケル複合酸化物の結晶に取り込まれるようになるので、リチウム二次電池としての安全性を高くすることができる。
【0051】
Mは、Li,Mg,Ca,Sr,Cu,Zn,Al,Ga,Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,及びFeからなる群から選ばれる少なくとも1つである。Mを上記元素の少なくとも1つとすることにより、リチウム二次電池としての安全性を高くすることができるようになる。好ましくは、MをMg、Al、Ga、Ti、Nb、Cr、Mo、Mn、及びFeからなる群から選ばれる少なくとも1つとすることである。これら元素は、Niとイオン半径が近く、Niと置換されやすいという利点があるのみならず、工業的にも入手しやすいという利点がある。さらに好ましくは、MをMn、Mg、Al、Gaの少なくともいずれか1つとすることである。これら元素は工業的に特に入手しやすいからである。特に好ましいのは、MをAl、Mnとすることである。Al、Mnはコストが安価である利点がある。
【0052】
本発明で用いるリチウムニッケル複合酸化物の比表面積は、通常0.01m/g以上、好ましくは0.1m/g以上、より好ましくは0.3m/g以上であり、また通常10m/g以下、好ましくは1m/g以下、より好ましくは0.7m/g以下である。比表面積がこの範囲とすれば、高温保存時のガス発生を有効に抑制しつつ、リチウムイオンがインターカレーション、デインターカレーションするサイトが少なくなることによる、大電流での充放電特性が悪化することもなくなる。比表面積の測定はBET法に従う。
【0053】
本願発明で用いるリチウムニッケル複合酸化物の平均2次粒径は、通常0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上、最も好ましくは0.5μm以上であり、通常300μm以下、好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下、最も好ましくは20μm以下である。平均2次粒径を上記範囲とすれば、電池のサイクル劣化を抑制しつつ、リチウム二次電池としての高い安全性を保つことができる。また、電池の内部抵抗値を小さくすることができるため、電池出力も大きくすることができる。
【0054】
正極活物質としては、リチウムニッケル複合酸化物以外にリチウムコバルト複合酸化物を挙げることができる。リチウムコバルト複合酸化物は、放電曲線が平坦であるためレート特性に優れる有用な正極材料である。一方、リチウムコバルト複合酸化物は、製造の際に原料として用いる水酸化リチウムを若干量過剰に加えているため、リチウムコバルト複合酸化物合成後も未反応の水酸化リチウムが残存していると考えられる。従って、リチウムコバルト複合酸化物を塗布液に含有させる場合も塗布液の塩基性が高くなり、炭素系物質の凝集が起こりやすい。従って、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物を用いた場合に、前記窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子を用いる有効性が特に高くなる。
【0055】
リチウムコバルト複合酸化物としては、例えば、層状構造を有するLiCoO等を挙げることができる。また、リチウムコバルト複合酸化物は、Coが占めるサイトの一部をCo以外の元素で置換したものであってもよい。Coサイトを他元素で置換することにより、電池のサイクル特性・レート特性が向上する場合がある。Coが占めるサイトの一部をCo以外の元素で置換する際の、置換元素としては、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Sn、Sb、Ge等が挙げられ、好ましくはAl、Cr、Fe、Li、Ni、Mg、Ga、Zr、Sn、Sb、Ge更に好ましくはAl、Mg、Zr、Snである。なお、Coサイトは2種以上の他元素で置換されていてもよい。
【0056】
置換元素によりCoサイトを置換する場合、その割合は通常Co元素の0.03モル%以上、好ましくは0.05モル%以上であり、通常Co元素の30モル%以下、好ましくは20モル%以下である。置換割合が少なすぎると結晶構造の安定性向上が充分ではない場合があり、多すぎると電池にした場合の容量が低下してしまう場合がある。
【0057】
リチウムコバルト複合酸化物は、通常、充電前の基本的な組成としてLiCoOで表されるが、前記したようにCoサイトの一部を他の元素で置換してもよい。また、上記組成式において、少量の酸素欠損、不定性があっても良く、酸素サイトの一部が硫黄やハロゲン元素で置換されていてもよい。さらには、上記組成式において、リチウム量を過剰又は不足にしたりすることができる。
【0058】
リチウムコバルト複合酸化物の比表面積は、通常0.01m/g以上、好ましくは0.1m/g以上、より好ましくは0.4m/g以上であり、また通常10m/g以下、好ましくは5.0m/g以下、より好ましくは2.0m/g以下である。比表面積が小さすぎるとレート特性の低下、容量の低下を招き、大きすぎると電解液等と好ましくない反応を引き起こし、サイクル特性を低下させることがある。比表面積の測定はBET法に従う。
【0059】
リチウムコバルト複合酸化物の平均二次粒径は、通常0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上、最も好ましくは0.5μm以上であり、通常300μm以下、好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下、最も好ましくは20μm以下である。平均二次粒径が小さすぎると電池のサイクル劣化が大きくなったり、安全性に問題が生じたりする場合があり、大きすぎると電池の内部抵抗が大きくなり、出力が出にくくなる場合がある。
【0060】
もちろん、リチウム遷移金属複合酸化物は複数種類を併用してもよい。例えば、リチウムニッケル複合酸化物とリチウムコバルト複合酸化物とを併用することが挙げられる。リチウムニッケル複合酸化物とリチウムコバルト複合酸化物とを併用する場合の重量比としては、リチウムニッケル複合酸化物とリチウムコバルト複合酸化物との総重量に対するリチウムニッケル複合酸化物の割合は、通常1重量%以上、好ましくは40重量%以上であり、一方、通常99重量%以下であり、好ましくは90重量%以下である。上記範囲とすることで、電池容量及びレート特性のバランスに優れる正極活物質を得ることができるようになる。
(6)塗布液の粘度
塗布液の粘度としては、剪断速度10(1/s)における定常状態での粘度として、通常0.002Pa・ s 以上、好ましくは0.005Pa・ s 以上、さらに好ましくは0.01Pa・ s 以上であり、また通常100Pa・ s 以下、好ましくは50Pa・ s 以下、さらに好ましくは20Pa・ s 以下、最も好ましくは10Pa・ s 以下である。粘度が小さすぎると、塗布部において液だれしやすくなり、又塗膜のエッジ形状が不安定になりやすい傾向にあり、大きすぎると送液の抵抗が大きくなり、送液のために大規模な設備が必要になり、コストの面で不利である。
【0061】
本発明においては、塗布液に窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子を含有させることにより、製造後の塗布液粘度の経時変化が抑制される。
本発明においては、電極の塗布を行う間において塗布液粘度が安定であることが必要である。電極の塗布が行われる間、塗布液は、配管、フィルター、及びダイの中をゆっくり流れるため、塗布液は弱いシェアー(せん断応力)を受けることになる。そして、このゆっくりとした流れ(弱いシェアー)が炭素系物質を凝集させやすくし、ひいては塗布開始後短時間で塗布液の粘度低下が顕著になると考えられる。
【0062】
従って、本発明における塗布液には、弱いシェアーを受け続けた場合において、短時間のうちに粘度低下が起こらない程度の安定性が必要となる。このような粘度の経時安定性を評価する指標として、下記試験方法におけるη300sとη45sとの比率(η300s/η45s)を用いる。下記試験方法で詳述するように、η45sは弱いシェアーをかけ続けて45秒後の粘度値であり、η300sは弱いシェアーをかけ続けて300秒後の粘度値であるため、それぞれが同じ値又はそれぞれの値の差が小さければ、粘度安定性が高いこととなる。
【0063】
このような観点から、η300s/η45sは、通常0.65以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上であり、一方、通常1.1以下、好ましくは1.05以下である。上述の通り、塗布液粘度の経時安定性の観点からは、η300s/η45sが1であることが非常に好ましいが、実際は測定誤差や塗布液製造装置側のマージンがあるため、η300s/η45sを上記範囲内とすれば、電極製造を安定に行うことができる。
(塗布液の粘度安定性の試験方法)
回転プレート式の粘度計(例えば、東機産業社製、型番R500型)を用いて、コーン角度3.0゜、半径14mm、回転数5rpm(Shear=10/sec)で測定したときの粘度の経時変化を測定する。回転数を5rpmとすることで、弱いシェアーを塗布液に与え続けることができる。但し、粘度測定開始から最初の20秒間は、回転プレートを100rpmで回転させる。これは、塗布液の状態が塗布液製造後の状態(放置時間、放置環境等)に敏感に影響を受け、塗布液中の固形分がマトリックスを作って降伏値を示す場合があり、その影響を排除するために、一度塗布液をほぐして製造直後の状態に戻すためである。粘度測定開始後20秒間、回転プレートを100rpmで回転させた後、回転プレートの回転数を5rpmへ下げる。そして粘度測定開始後45秒後(5rpmの弱いシェアーを25秒程度かけた後)の粘度:η45s、及び、粘度測定開始後300秒後(5rpmの弱いシェアーを280秒程度かけた後)の粘度:η300sをそれぞれ測定し、η300s/η45sの値を計算する。
(7)塗布液の固形分濃度
塗布液の固形分濃度は、通常35重量%以上、好ましくは40重量%以上、より好ましくは45重量%以上、一方、通常70重量%以下、好ましくは68重量%以下、より好ましくは65重量%以下である。上記範囲とすれば、塗布液の不均一性による粘度の低下による活物質の沈降がなくなり、また、ポンプでの送液、フィルター処理が良好にできるようになる。
(8)塗布液の製造
塗布液は、結着剤、炭素系物質、窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子、及び必要に応じてリチウム遷移金属複合酸化物を溶媒に分散して製造する。溶媒へ分散を行う際には、プラネタリーミキサー、ボールミル、サンドミル、二軸混練機などの通常の分散機が用いられる。
(B)電極の製造方法
電極は、通常、導電性電極基材(集電体)上に、上記(A)で説明した塗布液を塗布し、溶媒を除去することによって製造される。
【0064】
電極製造用の塗布液が塗布される導電性電極基材としては、電気化学的に溶出等の問題が生じず、金属や合金、金属ラミネートプラスチックフィルム、金属蒸着プラスチックフィルム等、電池の集電体として機能しうる各種のものを使用することができるが、通常は金属や合金が用いられる。リチウム二次電池の場合、具体例として、アルミニウムや銅、ニッケル、SUS等を挙げることができる。
【0065】
これら基材の表面を予め粗面化処理しておくことは、電極材料層との結着効果を向上させることができるので好ましい方法である。表面の粗面化方法としては、ブラスト処理や粗面ロールにより圧延するなどの方法、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤ−ブラシなどで集電体表面を研磨する機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。
【0066】
また、電池の重量を低減させる、すなわち重量エネルギー密度を向上させるために、エキスパンドメタルやパンチングメタルのような穴あきタイプの基材を使用することもできる。この場合、その開口率を変更することで重量も自在に変更可能となる。また、このような穴あけタイプの基材の両面に電極材料層を形成した場合、この穴を通しての塗膜のリベット効果により塗膜の剥離がさらに起こりにくくなる傾向にあるが、開口率があまりに高くなった場合には、塗膜と基材との接触面積が小さくなるため、かえって接着強度は低くなることがある。また、開口率は、あまりに大きいと塗膜のエッジ精度が低くなりすぎることがあるので、通常80%以下、好ましくは70%以下、さらに好ましくは50%以下、最も好ましくは40%以下である。エッジ精度の面からは、導電性電極基材には、開口を設けないのが好ましい。
【0067】
導電性電極基材の片面又は両面に電極材料層を形成することができる。製造の容易さからは片面塗布が、電池性能の面からは両面塗布が好ましい。両面塗布をする場合には、基材両面からの両面同時塗布が好ましい。
導電性電極基材の厚さは、通常1μm以上、好ましくは5μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは50以下、さらに好ましくは35μm以下である。あまりに厚すぎると、電池全体の容量が低下しすぎることになり、逆に薄すぎると取り扱いが困難になることがある。
【0068】
上記導電性電極基材上に塗料液を塗布する塗布装置としては、例えば、スライドコーティングやエクストルージョン型のダイコーティング、リバースロール、グラビアコーター、ナイフコーター、キスコーター、マイクログラビアコーター、ロッドコーター、ブレードコーターなどが挙げられるが、ダイコーティングが好ましく、塗料粘度および塗布膜厚等を考慮するとエクストルージョン型のダイコーティングが最も好ましい。
【0069】
以下ダイを用いたダイコーティング法について説明する。ダイコーティング法の一例を図1に示す。図1は、電極の製造工程のうち、長尺・大面積の導電性電極基材7に塗布液を塗布、乾燥する工程を示す模式図である。タンク2に保持された塗布液1は、ポンプ3を作動させることによって、液供給用の配管11を矢印10の方向に流れる。このようにして配管11を流れる塗布液は、フィルター4を通すことによって塗布液に混入したゴミ等を除去した後、ダイ5を通して導電性電極基材7に塗布される。ここで、巻き出しローラー8aと巻き取りローラー8bを作動させることによって、導電性電極基材7を矢印12の方向に移動させれば、ダイ5に供給された塗布液を導電性電極基材7に連続的に塗布できる。そして、膜取りローラー8bで巻き取る前に、塗布液が塗布された導電性電極基材7を乾燥ゾーン6を通過させて塗布液中の溶媒を除去することにより、導電性電極基材上に固体状の電極材料層を形成する。
【0070】
図1におけるダイ5について以下説明する。ダイコーティング法の一般的なダイとしては、図3及び図4のようなダイが用いられる。図3はダイの分解斜視図、図4は同ダイの中央での断面図である。ダイ5は、上刃21と下刃31との間にマニホールド41と吐出口71とを設けてなり、マニホールド41には塗布液供給口51が設けられている。塗布液は、塗布液供給口51からマニホールド内に導入され、スリット61を通り、吐出口71から薄膜状に押し出される。
【0071】
また、多条塗布をダイを用いて行う場合は、図5及び図6のようなダイが用いられる。図5は多条塗布の際に用いることができるダイの分解斜視図、図6は同ダイの中央での断面図である。ダイ50は、上刃91と下刃101との間にマニホールド111と吐出口161に連通するスリット151とを設けてなり、マニホールド111には液導入口121が設けられている。上刃と下刃との間には、シム131が配されており、それによってスリット151が形成されている。シム131には、スリットの方向に吐出口まで延在し、スリットの厚さと同じ厚さを有するガイド141が設けられている。その結果、スリット151は複数に分割され、複数の塗料吐出路が形成されている。塗布液は、塗布液供給絵口121からマニホールド内に導入され、スリット151を通り、吐出口161から薄膜状に押し出される。この際、スリットにはガイド141が設けられているため、電極用塗料は、塗料吐出路の部分を通過し、その結果多条に塗布されることになる。
【0072】
集電体に延設してタブを設ける場合においては、導電性電極基材上に電極製造用の塗布液を塗布する方法としてストライプ状に塗布する多条塗布が有効である。なぜならば、図7に示すように、長尺状の導電性電極基材311に多条塗布を施して形成された塗布部分321及び331から電池として使用する薄片を切り出す際に、塗布部分の間の未塗布部分341を図7中点線で示すように一部残しておけば、この未塗布部分をそのまま電池のタブとして使用することが可能であるからである。また、上記タブを設けない場合においても、多条塗布によって特定の幅の導電性電極基材に対しても電極幅の自由度を大きくできるので、このような生産性の面からも多条塗布は有効な手段である。
【0073】
ダイを用いて導電性電極基材上に電極製造用塗布液を塗布した後の厚さ(湿潤厚さ)は、通常10μm以上、好ましくは30μm以上、さらに好ましくは50μm以上であり、また通常1000μm以下、好ましくは500μm以下、さらに好ましくは400μm以下である。あまりに薄いと、体積当たりの充電容量が下がり、高容量化の目的が達成できない。また、あまりに厚いと、急速充電、急速放電に対応できないため(または、レート特性が悪くなるため)、電極用塗料として現実的ではない。
【0074】
このように塗布を行った後、湿潤状態の塗布液は乾燥を経て、塗布液中の溶媒が除去される。乾燥は、ロールサポート、エアフローティング等に代表される熱風乾燥法、遠赤外線処理、熱ロール接触など各種の方法を採用でき、これらを単独又は組み合わせて使用できる。乾燥温度は、通常40以上、好ましくは60℃以上、一方、通常200℃以下、好ましくは160℃以下とする。乾燥温度は、使用する溶剤の蒸発速度、蒸発時間を考慮しつつ制御すればよい。
【0075】
乾燥工程後の塗膜の厚さは、通常0.05μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上であり、通常300μm以下、好ましくは200μm以下である。薄すぎると塗布が困難になり均一性が確保しにくくなるだけでなく、電池の容量が小さくなりすぎることがある。一方、あまりに厚すぎるとレート特性が低下しすぎることがある。
【0076】
乾燥後の塗膜の膜厚はある程度の分布を有しているが、通常、塗膜の最大膜厚差を7μm以下、好ましくは5μm以下、さらに好ましくは3μm以下、最も好ましくは2μ以下とする。ここで、最大膜厚差とは、塗膜の最大膜厚と最小膜厚との差をいう。その結果、安定した電池性能を確保することができる。最大膜厚差は、ガイドの先端形状や塗料粘度、スリットの厚さ等によって制御することが可能である。なお、最大膜厚さの制御には限界があるので、最大膜厚さは通常0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上である。
【0077】
塗布・乾燥された塗膜には、カレンダー等による圧密化処理が施されるのが好ましい。その結果、塗膜の強度を向上させることができ、且つ塗膜と導電性電極基材との接着性を向上させることができる。その結果、サイクル特性等の電池性能を向上させることができる。また、後述する非流動性電解質を使用した電池においては、電極用塗料を塗布・乾燥して得られた電極の空隙内にこの非流動性電解質を含有させることがあり、この場合、圧密化処理によって、電極内部の非流動性電解質の存在量を調整できるという効果もある。カレンダーの圧力は通常1kgf/cm以上、好ましくは10kgf/cm以上であり、通常2000kgf/cm以下、好ましくは1000kgf/cm以下、さらに好ましくは500kgf/cm以下である。圧力が低すぎると十分な圧密の効果が得られないことがある。圧力が高すぎると塗膜がつぶれすぎて電池特性が低下したり、基材から剥離しやすくなる傾向にある。また、導電性電極基材の変形が生じやすくもなる。圧密化の際のカレンダー温度は常温で十分であるが、必要に応じてバインダーの分解温度以下の温度を加えても良い。特にはバインダーの融点以下としておくと好ましい。
【0078】
塗布・乾燥によって得られた電極は、通常ロール状に巻き取られて保管又は次工程に移送される。この場合、導電性電極基材として長尺状のものを使用し、得られた長尺状の電極を巻き取ることとなる。
得られた電極は、任意の段階で所定の形状に切断して薄片とすることができる。この際、電極製造用塗布液が多条塗布された導電性電極基材から、未塗布部分を一部残すように、塗布部分を切断すると、薄片に残された未塗布部分を電池のタブとして利用できるので、未塗布部分の有効活用や生産性の点から好ましい。
【0079】
得られた電極は、リチウム二次電池等の電池の電極として利用することができる。
(C)電池
本発明においては、上記の様にして製造した電極を正極及び/又は負極として電池を構成する。電池としては、マンガン電池、リチウム二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル亜鉛電池、ナトリウム硫黄電池、亜鉛ハロゲン電池、レドックスフロー電池等のいずれの電池であってもよいが、リチウム二次電池に本発明を適用すると本発明の効果が顕著に発揮されるようになる。リチウム二次電池においては、電池性能を確保するために電極材料層中に炭素系物質を通常含有させるため、塗布液の粘度安定性を確保する意義が非常に高いからである。
【0080】
以下に本発明の電池の一例として、リチウム二次電池について説明する。
一般にリチウム二次電池は、正極、セパレータ、負極をこの順に積層し、正極、負極及びセパレータの空隙に電解質を含浸させた電池要素をケースに収納した形態を有する。
(1)電池要素
(1−1)正極及び負極
正極及び負極は、上述の塗布液を集電体(導電性電極基材)に塗布した後に溶媒を除去することにより、集電体上に電極材料層を設けた構造となる。このような構造を有する電極の一例を図2に示す。図2は、正極及び負極の構成の一例を示す模式的な斜視図である。
【0081】
図2に示すように、正極20は、通常、正極集電体20a上に正極材料層20bを設けて構成される。そして、この正極材料層20b中に、通常、Liを吸蔵・放出し得るリチウム遷移金属複合酸化物等の正極活物質、結着剤(バインダー)、炭素系物質からなる導電材、及び窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子を含有する。また、負極30は、通常、負極集電体30a上に負極材料層30bを設けて構成される。そして、この負極材料層30b中に、通常、Liを吸蔵・放出し得る黒鉛材料等の炭素系物質からなる負極活物質、結着剤(バインダー)、及び必要に応じて窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子を含有する。ここで、窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子、結着剤(バインダー)、炭素系物質、及びリチウム遷移金属複合酸化物の各材量については、上述の通りである。
【0082】
正極活物質としては、前述のリチウム遷移金属複合酸化物以外に、遷移金属硫化物等各種の無機化合物が挙げることもできる。ここで遷移金属としてはFe、Mn等が用いられる。具体的には、MnO、V O 、V O13、TiO 等の遷移金属酸化物粉末、TiS 、FeS、MoS などの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。これらの化合物はその特性を向上させるために部分的に元素置換したものであっても良い。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセン、ジスルフィド系化合物、ポリスルフィド系化合物、N−フルオロピリジニウム塩等の有機化合物も併用することができる。当然これらの無機化合物、有機化合物を混合して併用しても良い。これら正極の活物質の粒径は、通常1〜30μm、好ましくは1〜10μmとする。粒径が大きすぎても小さすぎても、レート特性、サイクル特性等の電池特性が低下する傾向にある。
【0083】
また、正極材料層及び負極材料層には、必要に応じて導電材料、補強材など各種の機能を発現する添加剤、粉体、充填材などを含有しても良い。導電材料としては、(A)(2)で説明した通り、アセチレンブラック等の炭素系物質、各種の金属ファイバー、箔などが挙げられる。補強材としては各種の無機、有機の球状、繊維状フィラーなどが使用できる。
【0084】
正極及び負極に使用される集電体の材料としては、通常、アルミニウム、銅、ニッケル、錫、ステンレス鋼等の金属、これら金属の合金等を用いることができる。この場合、正極の集電体としては、通常アルミニウムが用いられ、負極の集電体としては、通常銅が用いられる。
(1−2)セパレータ
セパレータは、通常、正極・負極間の短絡を防止するために用いられる。セパレータは、通常多孔性膜からなる。セパレータとして使用する材料としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン類や、これらの水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたポリオレフィン類、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド等の樹脂の多孔性膜が挙げられる。電解質に対する化学的安定性の点、印加される電圧に対する安定性の点から、好ましくは、ポリオレフィン又は、フッ素置換されたポリオレフィンであり、具体的には、ポリエチレンやポリプロピレン、これらの水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたものを挙げることができる。これらの中でも特に好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリフッ化ビニリデンであり、最も好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンである。無論これらの共重合体や混合物を使用することもできる。
【0085】
セパレータの原料として用いられる樹脂の数平均分子量は、通常1万以上、好ましくは10万以上であり、また通常1000万以下、好ましくは300万以下である。分子量が小さすぎると、その機械的強度が不十分となり、電極の短絡が生じやすい傾向にある。また、分子量が大きすぎると、多孔性膜の空隙内への電解質の含浸が困難になりがちであり、電池の生産効率を低下させ、またレート特性等の電池性能も低下させる傾向にある。さらに、分子量が大きすぎると、後述する可塑剤を混合した後延伸する方法等において製膜が困難になることもある。
【0086】
前述したように、通常、セパレータは多孔性膜である。多孔性膜としては、例えば、多孔性延伸膜、不織布などが挙げられるが、本発明においては延伸によって製造される延伸膜であることがより好ましい。多孔性延伸膜は、不織布よりもさらに膜内の抵抗がより均一になるため、局所的なリチウムの析出、すなわち電極間短絡の原因となるデンドライトの析出を抑制することができる。
【0087】
多孔性延伸膜の延伸は、一軸又は二軸延伸のいずれであってもよいが、二軸延伸のものを使用するのが好ましい。二軸延伸とすれば、膜の縦・横の機械的強度バランスがよいため、電池製造上の取り扱いが容易となる。
セパレータの空孔率は通常30%以上、好ましくは35%以上、通常80%以下、好ましくは75%以下、さらに好ましくは72%以下である。空孔率が小さすぎると膜抵抗が大きくなりレート特性が悪化する。特に、高レートで使用した際の容量が低下する。一方、空孔率が大きすぎると、膜の機械的強度が低下する結果、電池要素の形状が変化する際に短絡が生じやすくなる。
【0088】
セパレータに存在する空孔の平均孔径は、通常1.0μm以下、好ましくは0.2μm以下、より好ましくは0.18μm以下、最も好ましくは0.15μm以下であり、通常は0.01μm以上、好ましくは0.07μm以上である。孔径があまりに大きいと短絡が生じやすいくなる一方、孔径があまりに小さいと膜抵抗が大きくなり、レート特性等の電池性能が低下する傾向にある。
【0089】
セパレータの膜厚は通常5μm以上、好ましくは7μm以上であり、通常50μm以下、好ましくは28μm以下、さらに好ましくは25μm以下であり、最も好ましくは20μm以下である。あまりに膜厚が小さいと、マイルドショート現象による自己放電が生じやすく、あまりに膜厚が大きいとレート特性等の電池特性が不十分になるばかりでなく、体積エネルギー密度が低下する傾向にある。セパレータの膜厚が小さい場合に架橋性ポリマーを使用すると、自己放電が有効に防止される。
【0090】
セパレータは、例えば以下のようにして製造することができる。数平均分子量1 万〜1000万程度、好ましくは10万〜300万の樹脂に不均一分散媒としての可塑剤を混合し、混練した後にシート状に成膜する。さらにこれから溶媒で可塑剤を抽出する工程と所定の倍率で縦横方向いずれかまたは両方に延伸する工程を経ることにより、所望のセパレータを得ることが出来る。
(1−3)電解質
リチウム二次電池においては、電解質は、通常、溶質、非水系溶媒を含有する(本明細書においては、溶質及び非水系溶媒を合わせて電解液、又は非水電解液と呼ぶ場合がある。)。また、電解質が、溶質、非水系溶媒及びポリマーを含有してもよい。ポリマーを含有させることで、電解質が非流動化して保液性が向上し液漏れを防止することができるようになるため、高温保存時の安全性が改善されるようになる。
【0091】
溶質としては、従来公知のリチウム塩のいずれもが使用できる。例えば、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiB(C 、CHSOLi、CFSOLi、LiN(SOCF、LiN(SO、LiC(SOCF、LiSbF 、LiSCN等が挙げられ、これらのうち少なくとも1種以上のものを用いることができる。これらのうちでは、本発明の効果が顕著となる点から、LiClO、LiPF が特に好ましい。これら溶質の非水電解液に対する含有量は、通常0.5〜2.5mol/lである。
【0092】
非水系溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの非環状カーボネート類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のフラン類、ジメトキシエタン等のエーテル類、γ−ブチルラクトン等のラクトン類、アセトニトリル等のニトリル類等の1種又は2種以上の混合物を挙げることができる。これらのうちでは、環状カーボネート類、非環状カーボネート類及びラクトン類から選ばれた1種又は2種以上の混合溶液が好ましい。
【0093】
高温保存時の電解質の安定性を確保する観点から、本発明においては、非水系溶媒に20℃/1気圧での沸点が150℃以上の高沸点溶媒を含有させることがより好ましい。上記高沸点溶媒とは、通常、沸点が150℃〜300℃の範囲にある溶媒をいうが、好ましくは、沸点が180℃〜270℃、より好ましくは、沸点が200℃〜250℃の範囲にある溶媒である。上記範囲の沸点を有する溶媒を使用することで、電池の高温保存時の熱安定性をより確実に向上させることができる。このような溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(沸点243℃)、プロピレンカーボネート(沸点240℃)及びγ−ブチロラクトン(沸点204℃)等を挙げることができる。これら高沸点溶媒を単独で使用してもよく、複数を併用してもよいし、さらには、低沸点溶媒(本発明においては、沸点が150℃以下のものをいう。)と併用して用いても良い。尚、「20℃/1気圧での沸点がX℃以上」とは、圧力1気圧の下で20℃からX℃まで加熱しても蒸気圧が1気圧を越えないことを意味する。
【0094】
尚、非水電解液は、上記溶質、非水系溶媒の他に、安全性や電池特性(例えばサイクル特性)を確保するための添加剤をさらに含有してもよい。
電解質に含有されるポリマーとしては、電解質の保液性をある程度確保できるもので有れば特に制限はなく、例えば、ポリメタクリル酸メチルのようなアクリル系高分子や、アルキレンオキシドユニットを有するアルキレンオキシド系高分子、ポリフッ化ビニリデンやフッ化ビニリデン−へキサフルオロプロピレン共重合体のようなフッ素系高分子等を挙げることができる。これらポリマーのうち電解質の保液性を十分に確保する観点から、鎖状に結合した原子からなる分子のうちの任意の2原子間に橋をかけるように形成された結合(架橋結合)を有する高分子を用いることが好ましい(本明細書においては、これを「架橋性ポリマー」という)。
【0095】
架橋性ポリマーの基本骨格となる材料としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミドなどの重縮合によって生成させるもの、ポリウレタン、ポリウレアなどのように重付加によって生成されるもの、ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系高分子やポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニルなどのポリビニル系高分子などの付加重合で生成されるもの等を挙げることができる。
【0096】
本発明においては、セパレータに含浸させてから重合させるのが好ましいことから、重合の制御が容易で重合時に副生成物が発生しない付加重合により生成される高分子を使用することが望ましい。このようなポリマーとしては、アクリル系高分子を挙げることができる。アクリル系高分子は、電池容量やレート特性、機械的強度等の電池特性上からも好ましい材料である。
【0097】
アクリル系高分子しては、アクリロイル基を有するモノマーを重合することにより得られる高分子が特に好ましい。アクリロイル基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリルアミド、2−エトキシエチルアクリレート、ジエチレングリコールエチルエーテルアクリレート、ポリエチレングリコールアルキルエーテルアクリレート、ポリプロピレングリコールアルキルエーテルアクリレート、2―シアノエチルアクリレートなどモノアクリレート類;1、2―ブタンジオールジアクリレート、1、3―ブタンジオールジアクリレート、1、4―ブタンジオールジアクリレート、ネオペンタンジオールジアクリレート、1、6―ヘキサンジオールジアクリレートなどのアルカンジオールジアクリレート類;エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレートなどのポリエチレングリコールジアクリレート類;プロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラプロピレングリコールジアクリレートなどのポリプロピレングリコールジアクリレート類;ビスフェノールFエトキシレートジアクリレート、ビスフェノールFエトキシレートジメタアクリレート、ビスフェノールAエトキシレートジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシレートトリアクリレート、イソシアヌル酸エトキシレートトリアクリレート、グリセロールエトキシレートトリアクリレート、グリセロールプロポキシレートトリアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシレートテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンエトキリレートテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールエトキシレートヘキサアクリレート等を挙げることができる。
【0098】
これらの中でも、リチウムイオンの導電性の観点からエチレングリコールユニットを有するポリアクリレート系高分子が特に好ましい。
本発明においては、アクリル系高分子として上記のモノマー成分と他のモノマー成分との共重合体を用いることができる。即ち、モノマー成分として上記のモノマーの他に別の構造を有するモノマーを共存させて重合させてもよい。特に、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基等の不飽和二重結合を有する基を有するモノマーを共存させると電解質の強度及び保液性が向上する場合がある。このようなモノマーとしては、メタクリル酸メチル、メタクリルアミド、ブタジエン、アクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニルなどの化合物が使用できる。
【0099】
アクリル系高分子を使用する場合の、アクリロイル基を有するモノマーの全モノマーに対する存在率は特に限定されないが、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上である。上記存在率が高い方が、重合速度が早く、電解質の生産性を高めることができる点で有利である。
架橋性ポリマーは、架橋結合を有する。架橋結合は、高分子間を架橋剤によって架橋反応させることによって製造することができる。また、高分子の原料として、反応点を複数有するモノマー(以下、「多官能モノマー」ということがある)を使用することによって製造することができる。好ましくは後者の方法である。
【0100】
後者の方法で架橋性ポリマーを製造する場合、原料として、多官能モノマーの外に、反応点を1つ有するモノマー(以下「単官能モノマー」ということがある)を併用することができる。多官能モノマーと単官能モノマーを併用する場合、多官能モノマーの官能基の当量比は、通常10%以上であり、好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上である。
【0101】
最も好ましい架橋性ポリマーの製造方法としては、アクリロイル基を複数有する多官能モノマーを、必要に応じて、アクリロイル基を1つ有する単官能モノマーと共に重合する方法である。
電解質に含有させるポリマーの含量は、電解質の全重量に対して通常80重量%以下、好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下である。ポリマー含量が多すぎると非水電解液の濃度低下によりイオン伝導度が低下してレート特性などの電池特性が低下する傾向がある。一方、ポリマーの割合が少な過ぎる場合は、ゲルの形成が困難となり非水系溶媒の保持性が低下して流動及び液漏れが生じることがあるのみならず、電池の安全性を確保できない可能性もあるので、ポリマーの電解質に対する含有量は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、更に好ましくは2重量%以上、最も好ましくは5重量%以上である。
【0102】
非水系溶媒に対するポリマーの割合は、ポリマーの分子量に応じて適宜選択されるが、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下である。ポリマーの割合が少な過ぎる場合は、ゲルの形成が困難となり非水電解液の保持性が低下して流動及び液漏れの問題が生じる傾向がある。ポリマーの割合が多過ぎる場合は、粘度が高くなり過ぎて取り扱いが困難となり、また、非水電解液の濃度低下によりイオン伝導度が低下してレート特性等の電池特性が低下する傾向にある。
【0103】
本発明では、電解質にポリマーの原料となるモノマーを含有させた状態で、セパレータの空隙に充填させ、その後前記モノマーを重合させることによって、ポリマーを形成させる方法を用いるのが好ましい。
これらのモノマーを重合する方法としては、例えば、熱、紫外線、電子線などによる手法を挙げることができるが、本発明においては、製造上の容易性から加熱又は紫外線照射によってモノマーを重合させることが好ましい。熱による重合の場合、反応を効果的に進行させるため、含浸させる電解質に熱に反応する重合開始剤をいれておくこともできる。利用できる熱重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビスイン酪酸ジメチル等のアゾ系化合物、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の過酸化物などが使用でき、反応性、極性、安全性などから好ましいものを単独、または組み合わせて用いれば良い。尚、ポリマーを得るためには、モノマーの全官能基のうち、通常30%以上を反応させるが、40%以上を反応させることが好ましく、50%以上を反応させるのがより好ましい。
(1−4)電池要素の形態
リチウム二次電池は、通常、電池要素をケースに収納してなる。電池要素は、通常、活物質を主成分とする正極及び負極と、電解質とから構成される単位電池要素を基本として形成され、該単位電池要素を長尺に形成してこれを捲き回したり、平板状に形成した該単位電池要素を複数積層したりすることにより形成される。つまり、電池要素の形態としては、例えば、平板状の単位電池要素を複数枚積層した平板積層型、長尺に形成した単位電池要素を平板状となるように捲回した平板状捲回型、さらには、長尺に形成した単位電池要素を円筒状に捲回した円筒捲回型を挙げることができる。
(2)ケースその他
リチウム二次電池において、電池要素を収納するケースは、SUS(ステンレス)製等の金属ケースや、形状可変性を有するケースを挙げることができる。金属ケースは、剛性が高いため、リチウム二次電池の安全性を十分確保することができるようになる利点がある一方で、重量が重いため携帯用の電気機器の電池には不向きであるという不利な点がある。一方、ラミネートフィルム等からなる形状可変性を有するケースは、ケースの厚みが薄いため、軽量化が可能となる利点がある一方で、剛性が低いため、リチウム二次電池の対衝撃性が劣る不利な点がある。つまり、リチウム二次電池が用いられる用途によって、上記ケースの種類を選べばよいこととなる。
【0104】
携帯するような電気機器の電源としてリチウム二次電池を用いる場合には、形状可変性を有するケースを用いることが好ましい。形状可変性ケースの材料としては、アルミニウム、ニッケルメッキした鉄、銅等の金属、合成樹脂等を用いることができる。好ましくは、ガスバリア層と樹脂層とを設けてなるラミネートフィルム、特に、ガスバリア層の両面に樹脂層が設けられたラミネートフィルムである。このようなラミネートフィルムは、高いガスバリア性を有すると共に、高い形状可変性と、薄さを有する。その結果、外装材の薄膜化・軽量化が可能となり、電池全体としての容量を向上させることができる。
【0105】
ラミネートフィルムに使用するガスバリア層の材料としては、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、チタン、モリブデン、金等の金属やステンレスやハステロイ等の合金、酸化ケイ素や酸化アルミニウム等の金属酸化物を使用することができる。好ましくは、軽量で加工性に優れるアルミニウムである。
樹脂層に使用する樹脂としては、熱可塑性プラスチック、熱可塑性エラストマー類、熱硬化性樹脂、プラスチックアロイ等各種の合成樹脂を使うことができる。これらの樹脂にはフィラー等の充填材が混合されているものも含んでいる。
【0106】
形状可変性ケースの厚さは、通常0.01μm以上、好ましくは0.02μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上であり、通常1mm以下、好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.3mm以下、さらに好ましくは0.2mm以下、最も好ましくは0.15mm以下とする。薄いほど電池がより小型・軽量化できるが、あまりに薄いと、十分な剛性の付与ができなくなったり密閉性が低下する可能性もある。
【0107】
電池要素がケースに収納されてなるリチウム二次電池全体の厚さは、通常5mm以下、好ましくは4.5mm以下、さらに好ましくは4mm以下である。このような薄型のリチウム二次電池に対して本発明の効果は特に大きい。ただし、あまりに薄い電池は、容量が小さすぎたり、製造が困難だったりするので、通常0.5mm以上、好ましくは1mm以上、さらに好ましくは2mm以上である。
【0108】
尚、電池の機器への装着等の利便を図るため、形状可変性ケースに電池要素を封入し好ましい形状に成形後、必要に応じてこれら複数のリチウム二次電池をさらに剛性を持つ外装ケースに収納することも可能である。
(3)用途
リチウム二次電池が電源として使用される電気機器としては、例えば、携帯用パーソナルコンピュータ(本明細書においては、パーソナルコンピュータを単にパソコンという場合がある。)、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)等を挙げることができる。また、リチウム二次電池は、電気自動車用の電源として用いることもできる。
【0109】
【実施例】
以下、窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子の例として、ポリビニルピロリドン又はその共重合体を用いた本発明の具体的な実施形態について説明する。ただし、これらはあくまでも1つの例であり、これらの態様に限定されるものでないことは言うまでもない。
(実施例1、比較例1)
[塗布液の製造]
以下の組成をプラネタリーミキサータイプの混練機により2時間混練した。
【0110】
【表1】
LiNi0.82Co0.15Al0.03           100.0重量部
LiCoO                         42.9重量部
アセチレンブラック                        6.2重量部
ポリ弗化ビニリデン                        6.2重量部
n−メチルピロリドン(NMP)            104.0重量部
このように製造した塗布液の一部を取り置いた(塗布液1b:比較例1)後、残りの塗布液をさらに6つに分けた。そしてそれぞれの塗布液に、ポリビニルピロリドン(Mw=約50,000)を、それぞれの塗布液全体の重量に対して、200ppm(塗布液1a)、300ppm(塗布液2a)、500ppm(塗布液3a)、1000ppm(塗布液4a)、1500ppm(塗布液5a)、6000ppm(塗布液6a)になるように添加して、それぞれの塗布液をさらに2時間混練して、電極製造に用いる塗布液を製造した。
[塗布液の粘度安定性測定]
このように製造した塗布液の粘度安定性を以下のように測定した。すなわち、回転プレート式の粘度計(東機産業社製、型番R500型)を用いて、コーン角度3.0゜、半径14mm、回転数5rpm(Shear=10/sec)で測定したときの粘度の経時変化を測定することにより、塗布液の粘度安定性を評価したのである。
【0111】
但し、回転プレートの回転数を5rpmとする前に、粘度測定開始後の最初の20秒間は、回転プレートを100rpmで回転させた。これは、塗布液の状態が塗布液製造後の状態(放置時間、放置環境等)に敏感に影響を受け、塗布液中の固形分がマトリックスを作って降伏値を示す場合があり、その影響を排除するために、一度塗布液をほぐして製造直後の状態に戻すためである。粘度測定開始後20秒間、回転プレートを100rpmで回転させた後、回転プレートの回転数を5rpmへ下げた。そして粘度測定開始後45秒後の粘度:η45s、及び、粘度測定開始後300秒後の粘度:η300sをそれぞれ測定し、η300s/η45sの値を計算した。ここで、粘度安定性が高い塗布液のη300s/η45sの値は1に近くなる一方で、炭素系物質が凝集して粘度低下が大きい塗布液のη300s/η45sの値は、1よりも小さくなる。
【0112】
上記のように製造した各塗布液のη300s/η45sの粘度比は、表−1のようになった。
【0113】
【表2】
Figure 2004063423
表−1の結果からわかるように、ポリビニルピロリドンを全く添加しない塗布液1bにおいては、測定開始後から300秒後の粘度は、測定開始後45秒後の粘度に対して半分近くの値となっている。つまり、この塗布液を用いると製造開始後数分間でアセチレンブラック(炭素系物質)の凝集が起こり、フィルターの目づまりが発生することとなる。一方、ポリビニルピロリドンを塗布液重量の全体に対して200ppmと非常に微量に添加するだけでも、測定開始後から300秒後の粘度低下は大幅に軽減されることがわかる。特に300ppm程度含有させれば、η300s/η45sの値をほぼ1にすることができ、電極製造時の粘度の経時安定性を確実に安定化することができるようになる。
(実施例2)
実施例1において、ポリビニルピロリドンの代わりにポリビニルピロリドンとポリビニルイミダゾールの共重合体(モノマー比50:50、Mw=120,000)を498ppm添加したこと以外は実施例1と同様にして粘度安定性を評価した。η300s/η45sの値は、0.9であった。
【0114】
この結果から、ビニルピロリドンとビニルイミダゾールの共重合体とした場合においてもポリビニルピロリドンと同様の効果が得られることがわかる。
(実施例3)
実施例1において、ポリビニルピロリドンの代わりにポリビニルピロリドンとポリ酢酸ビニルの共重合体(モノマー比60:40、Mw=10,000)を498ppm添加したこと以外は実施例1と同様にして粘度安定性を評価した。η300s/η45sの値は、0.91であった。
【0115】
この結果から、ポリビニルピロリドンとポリ酢酸ビニルの共重合体とした場合においてもポリビニルピロリドンと同様の効果が得られることがわかる。
(実施例4、比較例2)
上記実施例1、比較例1における、塗布液1b(ポリビニルピロリドン無添加)、塗布液2a(ポリビニルピロリドン299ppm添加)、塗布液4a(ポリビニルピロリドン1005ppm添加)を用いてリチウム二次電池を製造した。具体的な製造方法を以下に示す。
[正極の製造]
塗布系1b、塗布液2a、塗布液4aそれぞれを15μm厚のアルミニウム導電性電極基材(後に集電体となる)上に、エクストルージョン型のダイコーティングによって塗布、乾燥し、活物質がバインダーによって導電性電極基材上に結着された正極材料層を製造した。ついで、ロールプレス(カレンダー)をもちいて圧密することによって電極シートを製造した。この後、電極シートから電極を切り出した。
【0116】
ここで、塗布液1bで製造した正極を正極1b、塗布液2aで製造した正極を正極2a、塗布液4aで製造した正極を正極4aとした。
[負極の製造]
最初に以下の組成を、プラネタリーミキサータイプの混練機により2時間混練し負極製造用の塗布液を製造した。
【0117】
【表3】
グラファイト(粒径15μm)                90部
ポリフッ化ビニリデン                        10部
N−メチル−2−ピロリドン                100部
次に上記の負極塗料を20μm厚の銅の導電性電極基材上にエクストルージョン型のダイコーティングによって塗布、乾燥し、活物質がバインダーによって導電性電極基材上に結着された負極材料層を製造した。ついで、ロールプレス(カレンダー)を用い圧密することによって電極シートを作製した。この後、電極シートから電極を切り出し、負極とした。
[正極・負極材料層の比]
上記の正極の製造及び負極の製造においては、(正極の充電容量)/(負極の充電容量)=0.93となるように、正極材料層及び負極材料層の膜厚を調整した。ここで、負極の充電容量は、対極Liを用い1.5V〜3mVまで充電したときの負極単位重量あたりの容量(mAh/g)を基準とした。
[電解質層形成用の塗料の製造]
下記組成を混合・攪拌して、電解質層形成用の塗料を製造した。
【0118】
【表4】
1M濃度のLiPFをリチウム塩として含有するエチレンカーボネー ト及びプロピレンカーボネートの混合液(体積比率;エチレンカーボネー ト:プロピレンカーボネート=1:1)            925部
テトラエチレングルコールジアクリレート            44部
ポリエチレンオキシドトリアクリレート              22部
重合開始剤                                  2部
[リチウム二次電池の製造]
上記のようにして準備した正極1b及び負極に、上記のようにして準備した電解質層形成用の塗料を塗布し、別途電解質層形成用の塗料に浸した高分子多孔質フィルム(スペーサー)を用意し、このフィルムを正極1bと負極との間に挟んだ後、90℃で10分加熱することにより、電解質層形成用の塗料中のテトラエチレングルコールジアクリレート及びポリエチレンオキシドトリアクリレートを重合させた。これによって、活物質とバインダーを含み集電体上に形成された正極、負極を有し、該正極と負極との間に非流動化された電解質層を有する平板状の単位電池要素を作製した。
【0119】
次に、この単位電池要素の正極及び負極それぞれの電極端子部に電流を取り出すリード線を接続し電池要素とした後、これをアルミニウム膜の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムを対向成形した袋状ケースに収容した。その後、2枚のポリエチレン製テープで電極端子部を挟み(端子部の短絡防止のため)、ラミネートフィルムを真空シールで封入後、リード線を取り出した辺を除くシール部を電池外装材側面に沿うように折曲した。折曲されたシール部は外装材被包部側面に市販のエポキシ系接着剤で接着して平板状のリチウム二次電池1bを製造した。
【0120】
正極2a、正極4aについてもそれぞれ同様にリチウム二次電池を製造した。正極2aを用いたリチウム二次電池をリチウム二次電池2aと、正極4aを用いたリチウム二次電池をリチウム二次電池4aとする。
このようにして製造したリチウム二次電池の初期効率及び繰り返し充放電後(400サイクル後)の容量維持率を測定した。尚、初期効率及び繰り返し充放電後の容量維持率の測定は、1Cの値を30.2mA(正極活物質の単位重量当たりの放電容量:168mAhと正極活物質の重量0.18gを乗じた値)として、以下の通りに測定した。
[初期効率の測定]
リチウム二次電池を、25℃のもと、0.5Cで4.2Vまで定電流充電した後4.2Vにて電流値が1C/15に減衰するまで定電圧充電を行って充電を行うことにより充電容量を測定した。その後、リチウム二次電池を、25℃のもと、0.2Cで3.0Vまで定電流放電を行って放電を行うことにより放電容量を測定した。そして、(放電容量)/(充電容量)を計算することにより、初期効率を求めた。
[繰り返し充放電後の容量維持率測定]
リチウム二次電池を、25℃のもと、0.6Cで4.2Vまで定電流充電した後4.2Vにて電流値が1C/15に減衰するまで定電圧充電を行って充電をした後、1Cで3.0Vまで定電流放電を行って放電を行った。この充放電を1サイクルとして400サイクルの充放電を行った。
【0121】
サイクル容量維持率は、各リチウム二次電池における、1サイクル目の1C放電の容量に対する、400サイクル目の1C放電の容量((400サイクル目の1C放電の容量)/(1サイクル目の1C放電の容量))を計算することにより求めた。
リチウム二次電池1b、2a、及び4aの初期効率の値及び繰り返し充放電後の容量維持率の値を表−2に示す。
【0122】
【表5】
Figure 2004063423
表−2の結果から、ポリビニルピロリドンを塗布液重量の全体に対して299ppm、1005ppm含有させても電池特性は全く悪化しないことがわかる。つまり、ポリビニルピロリドンを用いれば、電池特性に悪影響を与えることなく、電極製造時の塗布液の経時安定性を良好にすることができることがわかる。
(参考例1)
塗布液中で粘度低下を起こす物質を特定するために、リチウムニッケル複合酸化物(正極活物質)と結着剤(バインダー)とをNMPに含有させた以下の組成をプラネタリーミキサータイプの混練機により2時間混練した。
【0123】
【表6】
LiNi0.82Co0.15Al0.03           100.0重量部
ポリ弗化ビニリデン                      3.1重量部
n−メチルピロリドン(NMP)            35.3重量部
このように製造した塗布液を2つに分けて、一方には、ポリビニルピロリドンを塗布液全体の重量に対して300ppm添加し、さらに2時間攪拌した。このようにして得た塗布液の粘度の経時安定性を以下のようにして測定した。すなわち、実施例1と同様の粘度測定装置を用い、塗布液製造後2時間後における上記2つの塗布液におけるη45sの粘度比、及び塗布液製造後6日間保存した後における上記2つの塗布液におけるη45sの粘度比をそれぞれ測定した。結果を表−3に示す。
【0124】
【表7】
Figure 2004063423
表−3の結果をみてわかるように、塗布液製造後2時間保存後、6日間の保存時後、いずれにおいても粘度比はほぼ1となった。これは、ポリビニルピロリドン添加の有無に関わらず、2つの塗布液の粘度値がほとんど同一であることを意味する。この結果から、正極活物質及び結着剤(バインダー)は、ポリビニルピロリドンを添加することによって影響を受けてないことが判る。
【0125】
参考例1においては、正極活物質、結着剤(バインダー)、及び溶媒で塗布液を構成している。これに対し、実施例1においては、正極活物質、結着剤(バインダー)、溶媒、及び炭素系物質(アセチレンブラック)で塗布液を構成している。実施例1においては、ポリビニルピロリドン(窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子)を用いることにより、塗布液の粘度安定性を高めることができるようになる。一方、参考例1においては、ポリビニルピロリドン(窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子)を用いなくても、そもそも粘度安定性が高い塗布液が得られている。これら2つの実験の結果から、電極製造時の粘度低下を引き起こしているのは、塗布液中に含有される炭素系物質であることがわかる。
【0126】
【発明の効果】
本発明においては、塗布液中に所定の高分子を所定量含有させることにより、経時に対する粘度安定性の高い塗布液を得ることができるようになる。特に、塗布開始後短時間の間に発生する、塗布液中の固形分の凝集による粘度低下を抑制することができるようになる。従って、上記塗布液を用いれば、大面積の電極を安定に製造することができるようになる。
【0127】
さらに、本発明においては、所定の高分子を所定量含有する塗布液を用いて電極ひいては電池を製造すれば、電池容量、初期効率、サイクル特性、レート特性、及び安全性に優れた電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】塗布液を導電性電極基材に塗布する一例を示す模式図である。
【図2】電極を表す斜視図である。
【図3】広い面の塗布に用いることができるダイの分解斜視図
【図4】図3のXYを通る垂直面におけるダイの断面図
【図5】多条塗布の際に用いる事ができるダイの分解斜視図
【図6】図5のXYを通る垂直面におけるダイの断面図
【図7】多条塗布の様子を示す導電性電極基材の上面図
【符号の説明】
1 塗布液
2 タンク
3 ポンプ
4 フィルター
5、50 ダイ
6 乾燥ゾーン
7 導電性電極基材
8a、8b ローラー
10、12 矢印
11 配管
20 正極
20a 正極集電体
20b 正極材料層
20’ タブ
30 負極
30a 負極集電体
30b 負極材料層
30’ タブ
21、91 上刃
31、101 下刃
41、111 マニホールド
51、121 塗布液供給口
61、151 スリット
71、161 吐出口
131、135 シム
141 ガイド
311 導電性電極基材
321、331 塗布部分
341 未塗布部分

Claims (12)

  1. 電池の電極製造に用いる塗布液であって、
    前記塗布液が、溶媒に、結着剤(バインダー)、及び炭素系物質を含有し、
    更に、前記塗布液が、窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子を塗布液の全重量に対して1ppm以上、10000ppm以下含有することを特徴とする塗布液。
  2. 炭素系物質が、アセチレンブラック、黒鉛、及びコークスからなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1に記載の塗布液。
  3. 窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子が、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロール、ポリビニルインドール、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルピラゾール、ポリビニルベンズイミダゾール、ポリビニル−1H−インダゾール、ポリビニルピペリジン、ポリビニルイミダゾリジン、ポリビニルピラゾリジン、ポリビニルピロリン、ポリビニルピラゾリン、及びポリビニルイソインドリンからなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1又は2に記載の塗布液。
  4. 窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子が、ポリビニルイミダゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピリジン、ポリビニルピロール、ポリビニルフラン、ポリビニルインドール、ポリビニルピラゾール、ポリビニルベンズイミダゾール、ポリビニル−1H−インダゾール、ポリビニルピペリジン、ポリビニルイミダゾリジン、ポリビニルピラゾリジン、ポリビニルピロリン、ポリビニルピラゾリン、及びポリビニルイソインドリンからなる群から選ばれる少なくとも1つとポリビニルピロリドンとの共重合体である請求項1又は2に記載の塗布液。
  5. 窒素を含む五員環構造を側鎖に有する高分子の重量平均分子量が、1000以上、5000000以下である請求項1乃至4のいずれかに記載の塗布液。
  6. 前記溶媒が、n−メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリドン、ジメチルアセトアミド、及びジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1乃至5のいずれかに記載の塗布液。
  7. 前記結着剤(バインダー)が、フッ素系樹脂である請求項1乃至6のいずれかに記載の塗布液。
  8. 前記塗布液がさらにリチウム遷移金属複合酸化物を含有する請求項1乃至7のいずれかに記載の塗布液。
  9. 前記リチウム遷移金属複合酸化物が、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、及びリチウムマンガン複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項8に記載の塗布液。
  10. 請求項1乃至9のいずれかに記載の塗布液を集電体に塗布し、溶媒を除去して製造した電極。
  11. 正極及び/又は負極が請求項10に記載の電極である電池。
  12. 電池がリチウム二次電池である請求項11に記載の電池。
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