JP2004043837A - 機械部品及びその製造方法並びに電気機械製品 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐摩耗性及び耐食性に優れる、エンジン部品、切削部品等の機械部品及びその製造方法を提供する。また、摺動部品を含む電気機械製品であって、長期にわたり安定して動作させることができる電気開閉機器、エンジン、切削機器等の電気機械製品を提供する。
【解決手段】基体11上に、水素含有量を1atm%以下であるメッキ層(例えば硬質Crメッキ層)12が形成され、メッキ層12の上にセラミック薄膜(例えばCrN薄膜)又はDLC薄膜が形成された機械部品1。機械部品の基体上にメッキ層を形成する工程と、メッキ層の水素含有量が1atm%以下となるようにメッキ層に脱水素処理を行う工程と、メッキ層上にセラミック薄膜又はDLC薄膜を形成する工程とを含む機械部品の製造方法。
【選択図】 図1
【解決手段】基体11上に、水素含有量を1atm%以下であるメッキ層(例えば硬質Crメッキ層)12が形成され、メッキ層12の上にセラミック薄膜(例えばCrN薄膜)又はDLC薄膜が形成された機械部品1。機械部品の基体上にメッキ層を形成する工程と、メッキ層の水素含有量が1atm%以下となるようにメッキ層に脱水素処理を行う工程と、メッキ層上にセラミック薄膜又はDLC薄膜を形成する工程とを含む機械部品の製造方法。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電気開閉機器用部品、エンジン部品、切削部品等の機械部品及びその製造方法に関し、特に他の部品と相対的に摺動接触する摺動部品として用いられる機械部品及びその製造方法に関する。また、本発明は、このような機械部品を有する電気機械製品、例えば電気開閉機器、エンジン、切削機器に関する。
【0002】
【従来の技術】
電気開閉機器、エンジン、切削機器等の電気機械製品は、通常、他の部品と相対的に摺動接触する機械部品を含んでいる。例えば遮断器等の電気開閉機器は操作リンク機構用の部品を、エンジン、特にガソリンエンジン、ジーゼルエンジンのような内燃機関はシリンダ、ピストンリング、コネクティングロッド等のエンジン部品を、切削機器はドリル、エンドミル、バイト等の切削部品を摺動部品として通常含んでいる。
【0003】
このような摺動部品としての機械部品には、それが組み込まれた電気機械製品に長期にわたり安定して動作を行わせるために次のような性能が求められる。
【0004】
動作回数(摺動回数)が多かったり、大きな負荷がかかる機械部品(摺動部品)には、耐摩耗性が求められる。耐摩耗性等の観点からは、機械部品の基体材料としては鋼が用いられることが多い。摺動部品としての機械部品には摺動性も求められ、摺動性を向上させるためにグリース等の潤滑剤が機械部品に塗布されることもある。錆等による動作不良を抑制して、長期にわたる安定した動作をなすためには、機械部品(特に鋼等の金属からなる機械部品)には耐食性も求められる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、耐食性及び摺動性に優れる電気開閉機器用部品、エンジン(代表例として内燃機関)の部品、切削部品等の機械部品及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0006】
また、本発明は、機械部品の基体が該部品の耐摩耗性及び摺動性を向上させるための高硬度の薄膜により被覆された機械部品であって、耐食性に優れる機械部品及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0007】
また、本発明は、機械部品の基体が該部品の耐摩耗性及び摺動性を向上させるための高硬度の薄膜により被覆された機械部品であって、耐食性に優れるとともに、該高硬度薄膜の基体への密着性がよい機械部品及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0008】
また、本発明は、摺動部品を含む電気機械製品であって、長期にわたり安定して動作させることができる電気開閉機器、エンジン(代表例として内燃機関)、切削機器等の電気機械製品を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
§1.機械部品、電気機械製品用部品及び電気機械製品
前記課題を解決するために本発明は、次の第1及び第2の二つのタイプの機械部品を提供する。
【0010】
(1) 第1タイプの機械部品は、該機械部品の基体上に水素含有量が1atm%以下のメッキ層が形成され、該メッキ層上にDLC薄膜(Diamond like carbon 薄膜)が形成されていることを特徴とする機械部品である。
【0011】
(2) 第2タイプの機械部品は、該機械部品の基体上に水素含有量が1atm%以下のメッキ層が形成され、該メッキ層上にセラミック薄膜が形成されていることを特徴とする機械部品である。
【0012】
いずれのタイプの機械部品も、例えば、電気機械製品等において他の部品に対して相対的に摺動する部品(摺動部品)として用いることができる。
【0013】
いずれのタイプの機械部品も、鋼等からなる基体(基材、母材)上にメッキ層が形成されており、該メッキ層上にさらに薄膜(第1タイプの機械部品においてはDLC薄膜、第2タイプの機械部品においてはセラミック薄膜を指す。以下、同様。)が形成されている。基体の少なくとも一部の上にメッキ層及び薄膜が形成されている。
【0014】
代表的には、基体上に直接メッキ層を形成すればよいが、基体とメッキ層の間に別の層(膜)を形成してもよい。また、代表的には、メッキ層上に直接薄膜を形成すればよいが、メッキ層と薄膜の間には別の層(膜)を形成してもよい。代表的には薄膜(DLC薄膜又はセラミック薄膜)を機械部品の表層とすればよい。
【0015】
いずれのタイプの機械部品においても、メッキ層は代表的には機械部品(機械部品基体)の耐食性を向上させるために設けられる。代表的には、メッキ層は機械部品基体に接するように、基体上に直接形成すればよい。メッキ層は例えばクロム(Cr)メッキ層、ニッケル(Ni)メッキ層などとすればよい。この中でも、メッキ層としては硬度が比較的高いCrメッキ層が好ましく、いわゆる硬質Crメッキ層がさらに好ましい。
【0016】
第1タイプの機械部品におけるDLC薄膜及び第2タイプの機械部品におけるセラミック薄膜は高硬度に形成することができる。高硬度薄膜(DLC薄膜又はセラミック薄膜)は、代表的には機械部品の耐摩耗性及び摺動性を向上させるために設けられる。
【0017】
第2タイプの機械部品に設けるセラミック薄膜は、例えば窒化クロム(CrN)、窒化チタン(TiN)、炭化チタン(TiC)、炭窒化チタン(TiCN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化タンタル(TaN)又は窒化チタンアルミニウム(TiAlN)からなるものとすればよい。メッキ層上に直接セラミック薄膜を形成する場合には、セラミック薄膜としてメッキ層を構成する金属元素のうちの少なくとも一種の金属元素を含んでいるものを採用すれば、セラミック薄膜とメッキ層の密着性を向上させることができる。例えば、メッキ層としてCrメッキ層(硬質クロムメッキ層を含む)を採用する場合には、セラミック薄膜としてCrN薄膜を採用すれば、メッキ層と薄膜の密着性を向上させることができる。
【0018】
第1タイプの機械部品によると、鋼等からなる基体の耐食性をメッキ層により向上させるとともに、DLC薄膜により耐摩耗性及び摺動性も向上させることができる。同様に、第2タイプの機械部品によると、鋼等からなる基体の耐食性をメッキ層により向上させるとともに、セラミック薄膜により耐摩耗性及び摺動性も向上させることができる。メッキ層(例えば硬質Crメッキ層)に比べてDLC膜やセラミック薄膜の硬度は高くすることができるので、機械部品の基体上にメッキ層だけを設ける場合に比べて、第1及び第2いずれのタイプの機械部品も耐摩耗性を向上させることができるとともに、摺動性も向上させることができる(摩擦係数を小さくすることができる)。
【0019】
第1及び第2のいずれのタイプの機械部品におけるメッキ層(Crメッキ層、Niメッキ層等)も例えば電気メッキにより形成すればよい。いずれのタイプの機械部品においても、メッキ層の水素含有量が1atm%以下である。これにより、メッキ層中の水素に起因して生じる次のような不具合を抑制することができる。メッキ層に多量の水素が混入していると、メッキ層にクラックが生じやくなったり、メッキ層が脆くなりやすくなる。また、メッキ層上に直接薄膜を形成する場合には、メッキ層に多量の水素が混入していると、メッキ層と薄膜の密着性も悪くなる。特にCrメッキ層(硬質Crメッキ層を含む)を電気メッキにより形成する場合には、メッキ層に水素が混入しやすくなる。メッキ層の水素含有量を1atm%以下とすることで、メッキ層やその上に形成された薄膜の破損(クラック等)を抑制できるとともに、薄膜のメッキ層への密着性を向上させることができる。高硬度な薄膜のメッキ層への密着性が高いので、機械部品はそれだけ長期にわたり安定して摺動性及び耐摩耗性を発揮することができる。また、メッキ層のクラック等の破損を抑制できるので、機械部品はそれだけ長期にわたり安定して耐食性を発揮することができる。メッキ層の水素含有量は、さらに好ましくは0.7atm%以下であり、さらに好ましくは0.5atm%以下である。
【0020】
本発明は、上記第1又は第2タイプの機械部品を含む電気機械製品、特に、上記第1又は第2タイプの機械部品が他の部品に対して相対的に摺動する部品(摺動部品)として用いられる電気機械製品も提供する。電気機械製品とは、例えば、スイッチ、遮断器、ブレーカー等の電気開閉機器、自動車、自動二輪車、農作業機器、船舶、航空機等のためのエンジン(特に内燃機関)、ドリル、エンドミル、フライス、バイト等の切削部品を含む切削工具、切削機器などである。
【0021】
さらに本発明は、このような電気機械製品用の部品として、上記第1又は第2タイプの機械部品を該電気機械製品用部品とする電気機械製品用部品(例えば、電気開閉機器のための部品(例えば操作リンク機構の部品)、エンジン(代表例として内燃機関)のためのエンジン部品、切削機器のための切削部品)、特に電気機械製品において摺動部品として用いられる電気機械製品用部品も提供する。
【0022】
本発明に係る電気機械製品用部品(例えば電気開閉機器用部品、エンジン部品、切削部品等)は、既述の第1又は第2タイプの機械部品そのものであるので、既述のように耐食性、耐摩耗性及び摺動性に優れている。
【0023】
本発明に係る電気機械製品(例えば、電気開閉機器、エンジン、切削機器等)は、既述の耐食性、耐摩耗性及び摺動性に優れた第1又は第2タイプの機械部品を含んでいるので、その機械部品が摺動部品として用いられる場合には、その機械部品は長期にわたり安定して摺動動作をなすことができ、したがって電気機械製品を長期にわたり安定して動作させることができる。第1又は第2タイプの機械部品を摺動部品として含む電気機械製品においては、その機械部品にグリース等の潤滑剤を塗布しなくても、その機械部品自身の摺動性が高いため、その電機機械製品を長期にわたり安定して、信頼性高く動作させることができる。
【0024】
§2.機械部品の製造方法
本発明は、上記述べた第1及び第2タイプの機械部品の製造方法として、それぞれ次の第1及び第2タイプの製造方法を提供する。
【0025】
(1) 第1タイプの製造方法は、前記第1タイプの機械部品を製造するための方法であって、
機械部品の基体上にメッキ層を形成するメッキ工程と、
該メッキ層の水素含有量が1atm%以下となるように、該メッキ層の脱水素処理を行う脱水素工程と、
該メッキ層上にDLC薄膜を形成する薄膜形成工程とを含むことを特徴とする機械部品の製造方法である。
【0026】
(2) 第2タイプの製造方法は、前記第2タイプの機械部品を製造するための方法であって、
機械部品の基体上にメッキ層を形成するメッキ工程と、
該メッキ層の水素含有量が1atm%以下となるように、該メッキ層の脱水素処理を行う脱水素工程と、
該メッキ層上にセラミック薄膜を形成する薄膜形成工程とを含むことを特徴とする機械部品の製造方法である。
【0027】
第1及び第2のいずれのタイプの製造方法においても、メッキ工程、脱水素工程及び薄膜形成工程が行われる。
【0028】
メッキ工程においては、鋼等からなる機械部品の基体上に、Crメッキ層(硬質Crメッキ層を含む)、Niメッキ層等のメッキ層を形成する。代表的には、機械部品基体上に直接メッキ層を形成すればよい。メッキ層は例えば電気メッキにより形成すればよい。電気メッキによりメッキ層を形成することで、通常は、メッキ液を使い捨てする化学メッキによりも安価にメッキ層を形成することができる。
【0029】
脱水素工程は、メッキ層上に薄膜(高硬度薄膜)を形成する前に行う。脱水素工程においては、メッキ層中の水素含有量が1atm%以下となるように、メッキ層の脱水素処理を行う。例えば、メッキ層を加熱することで脱水素処理を行えばよい。メッキ層の加熱は、例えばメッキ層をベーキングすることで行えばよい。ベーキングによる脱水素処理はメッキ層がCrメッキ層(硬質クロムメッキ層を含む)の場合を例にとると、メッキ層の水素含有量が1atm%以下となるように、該メッキ層を120℃〜200℃程度で1時間〜5時間程度ベーキングすることで行えばよい。脱水素工程(脱水素処理)は、薄膜形成工程において薄膜を形成するための薄膜形成装置内において、メッキ層を加熱することにより行ってもよい。このようにすれば、脱水素工程及び薄膜形成工程を効率良く行うことができる。脱水素工程は、メッキ層にイオン、電子又はプラズマを照射することにより行ってもよい。例えば、アルゴン(Ar)等の不活性ガスのイオン、プラズマをメッキ層に照射することでメッキ層を加熱し、メッキ層中の水素を放出させることができる。
【0030】
薄膜形成工程においては、メッキ層上に高硬度薄膜(DLC薄膜又はセラミック薄膜)を形成する。つまり、第1タイプの機械部品を作製する場合にはメッキ層上にDLC薄膜を形成し、第2タイプの機械部品を作製する場合にはメッキ層上にセラミック薄膜を形成する。薄膜は、代表的には、メッキ層上に直接形成すればよい。薄膜は、例えば、イオンプレーティング法、真空アーク蒸着法、プラズマCVD法、IVD法(イオン蒸着薄膜形成法)又はIBS法(イオンビームスパッタリング法)によって形成すればよい。
【0031】
上記述べたいずれのタイプの製造方法によっても、メッキ層の水素含有量が1atm%以下となるので、メッキ層中の水素に起因して生じる既述の不具合を抑制することができる。つまり、メッキ層のクラックや、メッキ層上に形成される薄膜のクラックを抑制できる。また、メッキ層上に直接高硬度薄膜(DLC薄膜又はセラミック薄膜)を形成する場合には、メッキ層と高硬度薄膜の密着性の低下を抑制することができる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。本発明に係る機械部品の一例の部分断面図を図1に示す。
【0033】
図1の機械部品1は、開閉機器、エンジン(ここでは内燃機関)、切削機器等の電気機械製品において他の部品(図示省略)に対して相対的に摺動する部品として用いられるものである。
【0034】
機械部品1は鋼からなる基体11を有しており、基体11上にはメッキ層12とセラミック薄膜13がこの順に形成されている。本例では、メッキ層12は硬質クロムメッキ層であり、セラミック薄膜13は窒化クロム(CrN)薄膜である。基体11上に硬質Crメッキ層を形成した後、セラミック薄膜13を形成する前に、そのメッキ層に対して脱水素処理を施すことによって、メッキ層12中の水素含有量は1atm%以下となっている。
【0035】
機械部品1の製造方法の一例を図2の工程図を参照しながら説明する。まず、基体11上に電気メッキにより硬質クロムメッキ層12を形成する(ステップ#101)。次いで、電気炉等によってメッキ層12が形成された基体11をベーキングして、メッキ層12の水素含有量が1atm%以下となるように、メッキ層12中の水素14を放出させる(#102)。このようにして脱水素処理を行った後、例えばイオンプレーティング法、真空アーク蒸着法、プラズマCVD法、イオン蒸着薄膜形成法(IVD法)又はイオンビームスパッタリング法(IBS法)によってメッキ層12上にCrN薄膜13を形成する(#103)。これらにより、硬質Crメッキ層12及びCrN薄膜13でコーティングされた機械部品1を得る。
【0036】
機械部品1は、耐食性のあるCrメッキ層12によりコーティングされているため耐食性に優れる。
【0037】
また、表層が比較的硬度の高いセラミック薄膜(本例ではCrN薄膜)であるので、機械部品1は耐摩耗性に優れるとともに摩擦係数を低くすることができ、したがって摺動性に優れる。硬質Crメッキ層12はメッキにより形成される膜としては硬度が高い方ではあるが、そのマイクロビッカース硬度(mHv)は700〜1000程度である。これに対して、CrN薄膜のマイクロビッカース硬度(mHv)は2000程度にすることができ、硬質Crメッキ層12を表層とする場合よりも、CrN薄膜13を表層とする方が機械部品1の耐摩耗性及び摺動性を向上させることができる。
【0038】
仮にCrメッキ層12を形成せずに、CrN薄膜13を基体11上に直接形成しても、摺動性に優れた、メッキ層12を形成しない分それだけ安価な機械部品を得ることができる。しかし、その場合には次のような不具合が生じる。イオンプレーティング法等によってCrN膜等のセラミック薄膜を形成する場合には、CrN薄膜にはピンホールができやすい。したがって、仮にCrN薄膜13を基体11上に直接形成すると、CrN薄膜13のピンホールを介して鋼からなる基体11が侵食されやすい。これに対して、上記述べた機械部品1においては、CrN薄膜13の下に耐食性のあるCrメッキ層12が形成されているため、たとえCrN薄膜13にピンホールがあったとしても、基体11の侵食を抑制することができる。勿論、CrN薄膜13を厚くすることで、CrN薄膜13にピンホールができてしまうことを抑制することができるが、その場合にはメッキ法に比べてイオンプレーティング法等の成膜速度が遅いため、CrN薄膜13の形成に時間がかかるとともに、コスト高にもなる。
【0039】
つまり、機械部品1においては、CrN薄膜13の下にCrメッキ層12が形成されているため、ピンホールができなくなるほどCrN薄膜13を厚くする必要がなく、それだけCrN薄膜13を効率良く、安価に形成することができる。そして、高硬度のCrN層13により優れた耐摩耗性及び摺動性を得る。機械部品1の耐食性は、CrN薄膜13をピンホールができなくなるほど厚く形成する場合に比べて、効率良く、安価に形成することができるCrメッキ層12によって確保される。
【0040】
CrN薄膜13の下地層としてのCrメッキ層12は、CrN薄膜13を構成する金属元素Crを含んでいるため、CrN薄膜13とCrメッキ層12との密着性を高くすることができる。それだけCrN薄膜13のメッキ層からの剥離を抑制することができ、長期にわたり安定した耐摩耗性及び摺動性が得られる。
【0041】
Crメッキ層12には、その水素含有量が1atm%以下となるように脱水素処理が施されているため、Crメッキ層12上にCrN薄膜13を形成するときのメッキ層12からの水素の放出は少なく、それだけ密着性高くCrメッキ層12上にCrN薄膜13を形成することができる。また、Crメッキ層12に脱水素処理が施されているため、Crメッキ層12自身及びその上のCrN薄膜13にクラックが発生することも抑制することができる。これにより、長期にわたり安定した耐食性、摺動性及び耐摩耗性が得られる。
【0042】
多量の水素14が混入したメッキ層12には大きな応力がかかり、図3に示すようなクラックが発生しやすい。このようなクラックが発生すると、その部分から基体11の腐食が進行してしまう。したがって、脱水素処理はメッキ層12を形成した後速やかに行うことが好ましく、つまり、メッキ層12に実用上の支障が生じるクラックができてしまう前に行うことが好ましい。メッキ層12がおかれる環境等にもよるが、脱水素処理はメッキ層12を形成した後、概ね3時間以内に行うとよい。
【0043】
上記の例では脱水素処理は電気炉によりメッキ層12が形成された基体11を加熱することにより行ったが、この加熱はメッキ層12上にCrN薄膜13を形成するための成膜装置(例えばイオンプレーティング装置、真空アーク蒸着装置等)のチャンバ内において行ってもよい。例えば、その成膜装置に設けられているヒータによりメッキ層12を加熱することで、脱水素処理を行ってもよい。このようにすれば、脱水素処理とCrN薄膜13の成膜を効率良く行うことができる。
【0044】
或いは、上記のようにメッキ層12に熱を直接的に加えて脱水素処理を行うことに代えて、メッキ層12にイオン、電子、プラズマを照射することによりメッキ層を加熱して、メッキ層12の脱水素処理を行ってもよい。例えば、CrN薄膜13を形成するための成膜装置において、メッキ層12にイオン、電子又はプラズマ照射することで、メッキ層12の脱水素処理を行ってもよい。このようにすれば、脱水素処理とCrN薄膜13の成膜を効率よく行うことができる。
【0045】
メッキ層12上に形成する機械部品の耐摩耗性及び摺動性を向上させるための高硬度の薄膜は、CrN薄膜に代えて、TiN、TiCN、ZrN、TaN,TiAlN等のセラミック薄膜としてもよい。
【0046】
また、図4に示す機械部品のようにメッキ層12上には、CrN薄膜等のセラミック薄膜に代えてDLC薄膜15を形成してもよい。DLC薄膜15はマイクロビッカース硬度(mHv)を2000程度と高硬度にすることができ、DLC薄膜15を表層とする機械部品も耐摩耗性が良好になるとともに、摩擦係数が低くなり、摺動性も良好になる。
【0047】
§4.
本発明に係る機械部品のテストピース(実験例1〜6)及び比較のための機械部品のテストピース(比較実験例1〜9)を作製し、それらの耐摩耗性、摺動性及び耐食性を調べる実験を行った。いずれの実験においても、テストピースの基体としてはJIS SM490Aからなる、サイズ28mm×28mm、厚さ2mmのものを用いた。各テストピースは次のようにして作製した。
【0048】
(1) 実験例1では、基体上に電気メッキにより厚さ2μmの硬質クロムメッキ層を形成した。メッキ層を形成後60分以内に、メッキ層が形成された基体を温度190°Cで3時間ベーキングして、メッキ層の脱水素処理を行った。脱水素処理を行った後のメッキ層の水素含有量は0.5atm%であった。この後、メッキ層上に3μmのCrN薄膜を形成して、機械部品のテストピースを得た。CrN薄膜は、真空アーク蒸着法により、陰極材料:クロム(Cr)、導入ガス:窒素(N2 )ガス、ガス導入量:200sccm、成膜時のテストピース温度:400°C、成膜時にテストピースに印加するバイアス電圧:−100Vという条件の下で形成した。
【0049】
(2) 実験例2では、メッキ層中の水素含有量を1.0atm%としたことを除き、実験例1と同様にして機械部品のテストピースを得た。実験例2では、メッキ層が形成された基体を温度130℃で3時間ベーキングすることで、脱水素処理を行った。
【0050】
(3) 比較実験例(比較例)1では、メッキ層中の水素含有量を1.5atm%としたことを除き、実験例1と同様にして機械部品のテストピースを得た。比較例1では、メッキ層が形成された基体を温度100℃で3時間ベーキングすることで、脱水素処理を行った。
【0051】
(4) 比較例2では、メッキ層中の水素含有量を2.0atm%としたことを除き、実験例1と同様にして機械部品のテストピースを得た。比較例2では、メッキ層が形成された基体を温度60℃で3時間ベーキングすることで、脱水素処理を行った。
【0052】
(5) 比較例3では、脱水素処理を行わなかったことを除き、実験例1と同様にして機械部品のテストピースを得た。このテストピースのメッキ層の水素含有量は3atm%であった。
【0053】
(6) 実験例3では、メッキ層の脱水素処理をベーキングに代えてイオン照射により行ったことを除き、実験例1と同様にして機械部品のテストピースを得た。テストピースのメッキ層には、イオン源を用いてアルゴンイオンを1時間照射した。イオン照射するときのイオンエネルギーは300eVとし、イオン電流は50μA/cm2 とした。アルゴンガスの流量は10sccmとした。このようにイオン照射により脱水素処理を施したテストピースのメッキ層の水素含有量は0.7atm%であった。
【0054】
(7) 実験例4では、メッキ層上にCrN薄膜に代えてDLC薄膜を形成したことを除き、実験例1と同様にして機械部品のテストピースを得た。実験例4のテストピースのメッキ層の水素含有量は0.5atm%であった。DLC薄膜の膜厚は0.5μmとした。DLC薄膜は、真空アーク蒸着法により、陰極材料:カーボン(C)、導入ガス:無し、成膜時のテストピース温度:150℃、成膜時にテストピースに印加するバイアス電圧:−100Vという条件の下で形成した。
【0055】
(8) 実験例5では、メッキ層中の水素含有量を1.0atm%としたことを除き、実験例4と同様にして機械部品のテストピースを得た。実験例5では、メッキ層が形成された基体を温度130℃で3時間ベーキングすることで、脱水素処理を行った。
【0056】
(9) 比較例4では、メッキ層中の水素含有量を1.5atm%としたことを除き、実験例4と同様にして機械部品のテストピースを得た。比較例4では、メッキ層が形成された基体を温度100℃で3時間ベーキングすることで、脱水素処理を行った。
【0057】
(10) 比較例5では、メッキ層中の水素含有量を2.0atm%としたことを除き、実験例4と同様にして機械部品のテストピースを得た。比較例5では、メッキ層が形成された基体を温度60℃で3時間ベーキングすることで、脱水素処理を行った。
【0058】
(11) 比較例6では、脱水素処理を行わなかったことを除き、実験例4と同様にして機械部品のテストピースを得た。このテストピースのメッキ層の水素含有量は3atm%であった。
【0059】
(12) 実験例6では、メッキ層の脱水素処理をベーキングに代えてイオン照射により行ったことを除き、実験例4と同様にして機械部品のテストピースを得た。イオン照射は実験例3と同様に行った。このテストピースのメッキ層の水素含有量は0.7atm%であった。
【0060】
(13) 比較例7では、基体上に硬質クロムメッキ層だけを形成して、機械部品のテストピースを得た。メッキ層の厚み及び製法は実験例1のものと同じである。メッキ層には脱水素処理は施していない。このテストピースのメッキ層の水素含有量は3atm%であった。
【0061】
(14) 比較例8では、基体上にCrN薄膜だけを形成して、機械部品のテストピースを得た。CrN薄膜の厚み及び製法は実験例1と同じである。
【0062】
(15) 比較例9では、基体上にDLC薄膜だけを形成して、機械部品のテストピースを得た。DLC薄膜の厚み及び製法は実験例4と同じである。
【0063】
このようにして作製した各テストピースを次のように評価した。耐摩耗性及び摺動性を評価するために、各テストピースのマイクロビッカース硬さ(mHv)を測定した。
【0064】
テストピースの耐摩耗性を評価するために、摩擦摩耗試験をピン・オン・ディスク試験機(レスカ社製フリクションプレーヤーFRP4000)を用いて次のように行った。テストピースを回転速度191rpmで回転させ、回転するテストピースに球面状先端部(球面曲率半径2.5mm)を有するピンを圧接した。ピンは、JIS SCM435からなる基体の上に、圧接するテストピースと同様のメッキ層及び(又は)薄膜が形成されたものである。ピンは、その球面状先端部をテストピースの回転中心から5mmの位置に、圧力160kgf/mm2 でテストピースに圧接した。このようにピンを圧接しながら、摺動距離にして100mピンに対してテストピースを摺動させた後、テストピースの摩耗状態を評価した。また、このようにテストピースを回転させているときに、テストピースの摩擦係数(動摩擦係数)も測定した。
【0065】
テストピースの耐食性を評価するために、JIS Z2371に準じて中性塩水噴霧試験を行った。8時間又は48時間経過後のテストピースにおける錆の発生状況によりそのテストピースの耐食性を評価した。
【0066】
結果を次表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から、基体と高硬度薄膜(CrN薄膜又はDLC膜)との間に形成された硬質Crメッキ層により、錆の発生を抑制できることがわかる。メッキ層の脱水素処理を行って、硬質Crメッキ層の水素含有量を1atm%以下とすれば、錆の発生を効果的に抑制できることがわかる。メッキ層が形成された基体をベーキングすることで脱水素処理を行っても、メッキ層にイオン照射することで脱水素処理を行っても、メッキ層の水素含有量が1atm%以下となれば、同じように錆の発生を抑制できることわかる。
【0069】
【発明の効果】
本発明は、耐食性及び摺動性に優れる電気開閉機器用部品、エンジン(代表例は内燃機関)部品、切削部品等の機械部品及びその製造方法を提供することができる。
【0070】
また、本発明は、機械部品の基体が該部品の耐摩耗性及び摺動性を向上させるための高硬度の薄膜により被覆された機械部品であって、耐食性に優れる機械部品及びその製造方法を提供することができる。
【0071】
また、本発明は、機械部品の基体が該部品の耐摩耗性及び摺動性を向上させるための高硬度の薄膜により被覆された機械部品であって、耐食性に優れるとともに、該高硬度薄膜の基体への密着性がよい機械部品及びその製造方法を提供することができる。
【0072】
また、本発明は、摺動部品を含む電気機械製品であって、長期にわたり安定して動作させることができる電気開閉機器、エンジン(代表例として内燃機関)、切削機器等の電気機械製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る機械部品の一例の部分断面図である。
【図2】図1の機械部品を作製方法の一例を示す工程図である。
【図3】メッキ層中の水素によりクラックが生じている様子を示している。
【図4】本発明に係る機械部品の他の例の部分断面図である。
【符号の説明】
1 機械部品
11 機械部品の基体
12 メッキ層
13 セラミック薄膜
14 水素
15 DLC薄膜
【発明の属する技術分野】
本発明は電気開閉機器用部品、エンジン部品、切削部品等の機械部品及びその製造方法に関し、特に他の部品と相対的に摺動接触する摺動部品として用いられる機械部品及びその製造方法に関する。また、本発明は、このような機械部品を有する電気機械製品、例えば電気開閉機器、エンジン、切削機器に関する。
【0002】
【従来の技術】
電気開閉機器、エンジン、切削機器等の電気機械製品は、通常、他の部品と相対的に摺動接触する機械部品を含んでいる。例えば遮断器等の電気開閉機器は操作リンク機構用の部品を、エンジン、特にガソリンエンジン、ジーゼルエンジンのような内燃機関はシリンダ、ピストンリング、コネクティングロッド等のエンジン部品を、切削機器はドリル、エンドミル、バイト等の切削部品を摺動部品として通常含んでいる。
【0003】
このような摺動部品としての機械部品には、それが組み込まれた電気機械製品に長期にわたり安定して動作を行わせるために次のような性能が求められる。
【0004】
動作回数(摺動回数)が多かったり、大きな負荷がかかる機械部品(摺動部品)には、耐摩耗性が求められる。耐摩耗性等の観点からは、機械部品の基体材料としては鋼が用いられることが多い。摺動部品としての機械部品には摺動性も求められ、摺動性を向上させるためにグリース等の潤滑剤が機械部品に塗布されることもある。錆等による動作不良を抑制して、長期にわたる安定した動作をなすためには、機械部品(特に鋼等の金属からなる機械部品)には耐食性も求められる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、耐食性及び摺動性に優れる電気開閉機器用部品、エンジン(代表例として内燃機関)の部品、切削部品等の機械部品及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0006】
また、本発明は、機械部品の基体が該部品の耐摩耗性及び摺動性を向上させるための高硬度の薄膜により被覆された機械部品であって、耐食性に優れる機械部品及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0007】
また、本発明は、機械部品の基体が該部品の耐摩耗性及び摺動性を向上させるための高硬度の薄膜により被覆された機械部品であって、耐食性に優れるとともに、該高硬度薄膜の基体への密着性がよい機械部品及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0008】
また、本発明は、摺動部品を含む電気機械製品であって、長期にわたり安定して動作させることができる電気開閉機器、エンジン(代表例として内燃機関)、切削機器等の電気機械製品を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
§1.機械部品、電気機械製品用部品及び電気機械製品
前記課題を解決するために本発明は、次の第1及び第2の二つのタイプの機械部品を提供する。
【0010】
(1) 第1タイプの機械部品は、該機械部品の基体上に水素含有量が1atm%以下のメッキ層が形成され、該メッキ層上にDLC薄膜(Diamond like carbon 薄膜)が形成されていることを特徴とする機械部品である。
【0011】
(2) 第2タイプの機械部品は、該機械部品の基体上に水素含有量が1atm%以下のメッキ層が形成され、該メッキ層上にセラミック薄膜が形成されていることを特徴とする機械部品である。
【0012】
いずれのタイプの機械部品も、例えば、電気機械製品等において他の部品に対して相対的に摺動する部品(摺動部品)として用いることができる。
【0013】
いずれのタイプの機械部品も、鋼等からなる基体(基材、母材)上にメッキ層が形成されており、該メッキ層上にさらに薄膜(第1タイプの機械部品においてはDLC薄膜、第2タイプの機械部品においてはセラミック薄膜を指す。以下、同様。)が形成されている。基体の少なくとも一部の上にメッキ層及び薄膜が形成されている。
【0014】
代表的には、基体上に直接メッキ層を形成すればよいが、基体とメッキ層の間に別の層(膜)を形成してもよい。また、代表的には、メッキ層上に直接薄膜を形成すればよいが、メッキ層と薄膜の間には別の層(膜)を形成してもよい。代表的には薄膜(DLC薄膜又はセラミック薄膜)を機械部品の表層とすればよい。
【0015】
いずれのタイプの機械部品においても、メッキ層は代表的には機械部品(機械部品基体)の耐食性を向上させるために設けられる。代表的には、メッキ層は機械部品基体に接するように、基体上に直接形成すればよい。メッキ層は例えばクロム(Cr)メッキ層、ニッケル(Ni)メッキ層などとすればよい。この中でも、メッキ層としては硬度が比較的高いCrメッキ層が好ましく、いわゆる硬質Crメッキ層がさらに好ましい。
【0016】
第1タイプの機械部品におけるDLC薄膜及び第2タイプの機械部品におけるセラミック薄膜は高硬度に形成することができる。高硬度薄膜(DLC薄膜又はセラミック薄膜)は、代表的には機械部品の耐摩耗性及び摺動性を向上させるために設けられる。
【0017】
第2タイプの機械部品に設けるセラミック薄膜は、例えば窒化クロム(CrN)、窒化チタン(TiN)、炭化チタン(TiC)、炭窒化チタン(TiCN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化タンタル(TaN)又は窒化チタンアルミニウム(TiAlN)からなるものとすればよい。メッキ層上に直接セラミック薄膜を形成する場合には、セラミック薄膜としてメッキ層を構成する金属元素のうちの少なくとも一種の金属元素を含んでいるものを採用すれば、セラミック薄膜とメッキ層の密着性を向上させることができる。例えば、メッキ層としてCrメッキ層(硬質クロムメッキ層を含む)を採用する場合には、セラミック薄膜としてCrN薄膜を採用すれば、メッキ層と薄膜の密着性を向上させることができる。
【0018】
第1タイプの機械部品によると、鋼等からなる基体の耐食性をメッキ層により向上させるとともに、DLC薄膜により耐摩耗性及び摺動性も向上させることができる。同様に、第2タイプの機械部品によると、鋼等からなる基体の耐食性をメッキ層により向上させるとともに、セラミック薄膜により耐摩耗性及び摺動性も向上させることができる。メッキ層(例えば硬質Crメッキ層)に比べてDLC膜やセラミック薄膜の硬度は高くすることができるので、機械部品の基体上にメッキ層だけを設ける場合に比べて、第1及び第2いずれのタイプの機械部品も耐摩耗性を向上させることができるとともに、摺動性も向上させることができる(摩擦係数を小さくすることができる)。
【0019】
第1及び第2のいずれのタイプの機械部品におけるメッキ層(Crメッキ層、Niメッキ層等)も例えば電気メッキにより形成すればよい。いずれのタイプの機械部品においても、メッキ層の水素含有量が1atm%以下である。これにより、メッキ層中の水素に起因して生じる次のような不具合を抑制することができる。メッキ層に多量の水素が混入していると、メッキ層にクラックが生じやくなったり、メッキ層が脆くなりやすくなる。また、メッキ層上に直接薄膜を形成する場合には、メッキ層に多量の水素が混入していると、メッキ層と薄膜の密着性も悪くなる。特にCrメッキ層(硬質Crメッキ層を含む)を電気メッキにより形成する場合には、メッキ層に水素が混入しやすくなる。メッキ層の水素含有量を1atm%以下とすることで、メッキ層やその上に形成された薄膜の破損(クラック等)を抑制できるとともに、薄膜のメッキ層への密着性を向上させることができる。高硬度な薄膜のメッキ層への密着性が高いので、機械部品はそれだけ長期にわたり安定して摺動性及び耐摩耗性を発揮することができる。また、メッキ層のクラック等の破損を抑制できるので、機械部品はそれだけ長期にわたり安定して耐食性を発揮することができる。メッキ層の水素含有量は、さらに好ましくは0.7atm%以下であり、さらに好ましくは0.5atm%以下である。
【0020】
本発明は、上記第1又は第2タイプの機械部品を含む電気機械製品、特に、上記第1又は第2タイプの機械部品が他の部品に対して相対的に摺動する部品(摺動部品)として用いられる電気機械製品も提供する。電気機械製品とは、例えば、スイッチ、遮断器、ブレーカー等の電気開閉機器、自動車、自動二輪車、農作業機器、船舶、航空機等のためのエンジン(特に内燃機関)、ドリル、エンドミル、フライス、バイト等の切削部品を含む切削工具、切削機器などである。
【0021】
さらに本発明は、このような電気機械製品用の部品として、上記第1又は第2タイプの機械部品を該電気機械製品用部品とする電気機械製品用部品(例えば、電気開閉機器のための部品(例えば操作リンク機構の部品)、エンジン(代表例として内燃機関)のためのエンジン部品、切削機器のための切削部品)、特に電気機械製品において摺動部品として用いられる電気機械製品用部品も提供する。
【0022】
本発明に係る電気機械製品用部品(例えば電気開閉機器用部品、エンジン部品、切削部品等)は、既述の第1又は第2タイプの機械部品そのものであるので、既述のように耐食性、耐摩耗性及び摺動性に優れている。
【0023】
本発明に係る電気機械製品(例えば、電気開閉機器、エンジン、切削機器等)は、既述の耐食性、耐摩耗性及び摺動性に優れた第1又は第2タイプの機械部品を含んでいるので、その機械部品が摺動部品として用いられる場合には、その機械部品は長期にわたり安定して摺動動作をなすことができ、したがって電気機械製品を長期にわたり安定して動作させることができる。第1又は第2タイプの機械部品を摺動部品として含む電気機械製品においては、その機械部品にグリース等の潤滑剤を塗布しなくても、その機械部品自身の摺動性が高いため、その電機機械製品を長期にわたり安定して、信頼性高く動作させることができる。
【0024】
§2.機械部品の製造方法
本発明は、上記述べた第1及び第2タイプの機械部品の製造方法として、それぞれ次の第1及び第2タイプの製造方法を提供する。
【0025】
(1) 第1タイプの製造方法は、前記第1タイプの機械部品を製造するための方法であって、
機械部品の基体上にメッキ層を形成するメッキ工程と、
該メッキ層の水素含有量が1atm%以下となるように、該メッキ層の脱水素処理を行う脱水素工程と、
該メッキ層上にDLC薄膜を形成する薄膜形成工程とを含むことを特徴とする機械部品の製造方法である。
【0026】
(2) 第2タイプの製造方法は、前記第2タイプの機械部品を製造するための方法であって、
機械部品の基体上にメッキ層を形成するメッキ工程と、
該メッキ層の水素含有量が1atm%以下となるように、該メッキ層の脱水素処理を行う脱水素工程と、
該メッキ層上にセラミック薄膜を形成する薄膜形成工程とを含むことを特徴とする機械部品の製造方法である。
【0027】
第1及び第2のいずれのタイプの製造方法においても、メッキ工程、脱水素工程及び薄膜形成工程が行われる。
【0028】
メッキ工程においては、鋼等からなる機械部品の基体上に、Crメッキ層(硬質Crメッキ層を含む)、Niメッキ層等のメッキ層を形成する。代表的には、機械部品基体上に直接メッキ層を形成すればよい。メッキ層は例えば電気メッキにより形成すればよい。電気メッキによりメッキ層を形成することで、通常は、メッキ液を使い捨てする化学メッキによりも安価にメッキ層を形成することができる。
【0029】
脱水素工程は、メッキ層上に薄膜(高硬度薄膜)を形成する前に行う。脱水素工程においては、メッキ層中の水素含有量が1atm%以下となるように、メッキ層の脱水素処理を行う。例えば、メッキ層を加熱することで脱水素処理を行えばよい。メッキ層の加熱は、例えばメッキ層をベーキングすることで行えばよい。ベーキングによる脱水素処理はメッキ層がCrメッキ層(硬質クロムメッキ層を含む)の場合を例にとると、メッキ層の水素含有量が1atm%以下となるように、該メッキ層を120℃〜200℃程度で1時間〜5時間程度ベーキングすることで行えばよい。脱水素工程(脱水素処理)は、薄膜形成工程において薄膜を形成するための薄膜形成装置内において、メッキ層を加熱することにより行ってもよい。このようにすれば、脱水素工程及び薄膜形成工程を効率良く行うことができる。脱水素工程は、メッキ層にイオン、電子又はプラズマを照射することにより行ってもよい。例えば、アルゴン(Ar)等の不活性ガスのイオン、プラズマをメッキ層に照射することでメッキ層を加熱し、メッキ層中の水素を放出させることができる。
【0030】
薄膜形成工程においては、メッキ層上に高硬度薄膜(DLC薄膜又はセラミック薄膜)を形成する。つまり、第1タイプの機械部品を作製する場合にはメッキ層上にDLC薄膜を形成し、第2タイプの機械部品を作製する場合にはメッキ層上にセラミック薄膜を形成する。薄膜は、代表的には、メッキ層上に直接形成すればよい。薄膜は、例えば、イオンプレーティング法、真空アーク蒸着法、プラズマCVD法、IVD法(イオン蒸着薄膜形成法)又はIBS法(イオンビームスパッタリング法)によって形成すればよい。
【0031】
上記述べたいずれのタイプの製造方法によっても、メッキ層の水素含有量が1atm%以下となるので、メッキ層中の水素に起因して生じる既述の不具合を抑制することができる。つまり、メッキ層のクラックや、メッキ層上に形成される薄膜のクラックを抑制できる。また、メッキ層上に直接高硬度薄膜(DLC薄膜又はセラミック薄膜)を形成する場合には、メッキ層と高硬度薄膜の密着性の低下を抑制することができる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。本発明に係る機械部品の一例の部分断面図を図1に示す。
【0033】
図1の機械部品1は、開閉機器、エンジン(ここでは内燃機関)、切削機器等の電気機械製品において他の部品(図示省略)に対して相対的に摺動する部品として用いられるものである。
【0034】
機械部品1は鋼からなる基体11を有しており、基体11上にはメッキ層12とセラミック薄膜13がこの順に形成されている。本例では、メッキ層12は硬質クロムメッキ層であり、セラミック薄膜13は窒化クロム(CrN)薄膜である。基体11上に硬質Crメッキ層を形成した後、セラミック薄膜13を形成する前に、そのメッキ層に対して脱水素処理を施すことによって、メッキ層12中の水素含有量は1atm%以下となっている。
【0035】
機械部品1の製造方法の一例を図2の工程図を参照しながら説明する。まず、基体11上に電気メッキにより硬質クロムメッキ層12を形成する(ステップ#101)。次いで、電気炉等によってメッキ層12が形成された基体11をベーキングして、メッキ層12の水素含有量が1atm%以下となるように、メッキ層12中の水素14を放出させる(#102)。このようにして脱水素処理を行った後、例えばイオンプレーティング法、真空アーク蒸着法、プラズマCVD法、イオン蒸着薄膜形成法(IVD法)又はイオンビームスパッタリング法(IBS法)によってメッキ層12上にCrN薄膜13を形成する(#103)。これらにより、硬質Crメッキ層12及びCrN薄膜13でコーティングされた機械部品1を得る。
【0036】
機械部品1は、耐食性のあるCrメッキ層12によりコーティングされているため耐食性に優れる。
【0037】
また、表層が比較的硬度の高いセラミック薄膜(本例ではCrN薄膜)であるので、機械部品1は耐摩耗性に優れるとともに摩擦係数を低くすることができ、したがって摺動性に優れる。硬質Crメッキ層12はメッキにより形成される膜としては硬度が高い方ではあるが、そのマイクロビッカース硬度(mHv)は700〜1000程度である。これに対して、CrN薄膜のマイクロビッカース硬度(mHv)は2000程度にすることができ、硬質Crメッキ層12を表層とする場合よりも、CrN薄膜13を表層とする方が機械部品1の耐摩耗性及び摺動性を向上させることができる。
【0038】
仮にCrメッキ層12を形成せずに、CrN薄膜13を基体11上に直接形成しても、摺動性に優れた、メッキ層12を形成しない分それだけ安価な機械部品を得ることができる。しかし、その場合には次のような不具合が生じる。イオンプレーティング法等によってCrN膜等のセラミック薄膜を形成する場合には、CrN薄膜にはピンホールができやすい。したがって、仮にCrN薄膜13を基体11上に直接形成すると、CrN薄膜13のピンホールを介して鋼からなる基体11が侵食されやすい。これに対して、上記述べた機械部品1においては、CrN薄膜13の下に耐食性のあるCrメッキ層12が形成されているため、たとえCrN薄膜13にピンホールがあったとしても、基体11の侵食を抑制することができる。勿論、CrN薄膜13を厚くすることで、CrN薄膜13にピンホールができてしまうことを抑制することができるが、その場合にはメッキ法に比べてイオンプレーティング法等の成膜速度が遅いため、CrN薄膜13の形成に時間がかかるとともに、コスト高にもなる。
【0039】
つまり、機械部品1においては、CrN薄膜13の下にCrメッキ層12が形成されているため、ピンホールができなくなるほどCrN薄膜13を厚くする必要がなく、それだけCrN薄膜13を効率良く、安価に形成することができる。そして、高硬度のCrN層13により優れた耐摩耗性及び摺動性を得る。機械部品1の耐食性は、CrN薄膜13をピンホールができなくなるほど厚く形成する場合に比べて、効率良く、安価に形成することができるCrメッキ層12によって確保される。
【0040】
CrN薄膜13の下地層としてのCrメッキ層12は、CrN薄膜13を構成する金属元素Crを含んでいるため、CrN薄膜13とCrメッキ層12との密着性を高くすることができる。それだけCrN薄膜13のメッキ層からの剥離を抑制することができ、長期にわたり安定した耐摩耗性及び摺動性が得られる。
【0041】
Crメッキ層12には、その水素含有量が1atm%以下となるように脱水素処理が施されているため、Crメッキ層12上にCrN薄膜13を形成するときのメッキ層12からの水素の放出は少なく、それだけ密着性高くCrメッキ層12上にCrN薄膜13を形成することができる。また、Crメッキ層12に脱水素処理が施されているため、Crメッキ層12自身及びその上のCrN薄膜13にクラックが発生することも抑制することができる。これにより、長期にわたり安定した耐食性、摺動性及び耐摩耗性が得られる。
【0042】
多量の水素14が混入したメッキ層12には大きな応力がかかり、図3に示すようなクラックが発生しやすい。このようなクラックが発生すると、その部分から基体11の腐食が進行してしまう。したがって、脱水素処理はメッキ層12を形成した後速やかに行うことが好ましく、つまり、メッキ層12に実用上の支障が生じるクラックができてしまう前に行うことが好ましい。メッキ層12がおかれる環境等にもよるが、脱水素処理はメッキ層12を形成した後、概ね3時間以内に行うとよい。
【0043】
上記の例では脱水素処理は電気炉によりメッキ層12が形成された基体11を加熱することにより行ったが、この加熱はメッキ層12上にCrN薄膜13を形成するための成膜装置(例えばイオンプレーティング装置、真空アーク蒸着装置等)のチャンバ内において行ってもよい。例えば、その成膜装置に設けられているヒータによりメッキ層12を加熱することで、脱水素処理を行ってもよい。このようにすれば、脱水素処理とCrN薄膜13の成膜を効率良く行うことができる。
【0044】
或いは、上記のようにメッキ層12に熱を直接的に加えて脱水素処理を行うことに代えて、メッキ層12にイオン、電子、プラズマを照射することによりメッキ層を加熱して、メッキ層12の脱水素処理を行ってもよい。例えば、CrN薄膜13を形成するための成膜装置において、メッキ層12にイオン、電子又はプラズマ照射することで、メッキ層12の脱水素処理を行ってもよい。このようにすれば、脱水素処理とCrN薄膜13の成膜を効率よく行うことができる。
【0045】
メッキ層12上に形成する機械部品の耐摩耗性及び摺動性を向上させるための高硬度の薄膜は、CrN薄膜に代えて、TiN、TiCN、ZrN、TaN,TiAlN等のセラミック薄膜としてもよい。
【0046】
また、図4に示す機械部品のようにメッキ層12上には、CrN薄膜等のセラミック薄膜に代えてDLC薄膜15を形成してもよい。DLC薄膜15はマイクロビッカース硬度(mHv)を2000程度と高硬度にすることができ、DLC薄膜15を表層とする機械部品も耐摩耗性が良好になるとともに、摩擦係数が低くなり、摺動性も良好になる。
【0047】
§4.
本発明に係る機械部品のテストピース(実験例1〜6)及び比較のための機械部品のテストピース(比較実験例1〜9)を作製し、それらの耐摩耗性、摺動性及び耐食性を調べる実験を行った。いずれの実験においても、テストピースの基体としてはJIS SM490Aからなる、サイズ28mm×28mm、厚さ2mmのものを用いた。各テストピースは次のようにして作製した。
【0048】
(1) 実験例1では、基体上に電気メッキにより厚さ2μmの硬質クロムメッキ層を形成した。メッキ層を形成後60分以内に、メッキ層が形成された基体を温度190°Cで3時間ベーキングして、メッキ層の脱水素処理を行った。脱水素処理を行った後のメッキ層の水素含有量は0.5atm%であった。この後、メッキ層上に3μmのCrN薄膜を形成して、機械部品のテストピースを得た。CrN薄膜は、真空アーク蒸着法により、陰極材料:クロム(Cr)、導入ガス:窒素(N2 )ガス、ガス導入量:200sccm、成膜時のテストピース温度:400°C、成膜時にテストピースに印加するバイアス電圧:−100Vという条件の下で形成した。
【0049】
(2) 実験例2では、メッキ層中の水素含有量を1.0atm%としたことを除き、実験例1と同様にして機械部品のテストピースを得た。実験例2では、メッキ層が形成された基体を温度130℃で3時間ベーキングすることで、脱水素処理を行った。
【0050】
(3) 比較実験例(比較例)1では、メッキ層中の水素含有量を1.5atm%としたことを除き、実験例1と同様にして機械部品のテストピースを得た。比較例1では、メッキ層が形成された基体を温度100℃で3時間ベーキングすることで、脱水素処理を行った。
【0051】
(4) 比較例2では、メッキ層中の水素含有量を2.0atm%としたことを除き、実験例1と同様にして機械部品のテストピースを得た。比較例2では、メッキ層が形成された基体を温度60℃で3時間ベーキングすることで、脱水素処理を行った。
【0052】
(5) 比較例3では、脱水素処理を行わなかったことを除き、実験例1と同様にして機械部品のテストピースを得た。このテストピースのメッキ層の水素含有量は3atm%であった。
【0053】
(6) 実験例3では、メッキ層の脱水素処理をベーキングに代えてイオン照射により行ったことを除き、実験例1と同様にして機械部品のテストピースを得た。テストピースのメッキ層には、イオン源を用いてアルゴンイオンを1時間照射した。イオン照射するときのイオンエネルギーは300eVとし、イオン電流は50μA/cm2 とした。アルゴンガスの流量は10sccmとした。このようにイオン照射により脱水素処理を施したテストピースのメッキ層の水素含有量は0.7atm%であった。
【0054】
(7) 実験例4では、メッキ層上にCrN薄膜に代えてDLC薄膜を形成したことを除き、実験例1と同様にして機械部品のテストピースを得た。実験例4のテストピースのメッキ層の水素含有量は0.5atm%であった。DLC薄膜の膜厚は0.5μmとした。DLC薄膜は、真空アーク蒸着法により、陰極材料:カーボン(C)、導入ガス:無し、成膜時のテストピース温度:150℃、成膜時にテストピースに印加するバイアス電圧:−100Vという条件の下で形成した。
【0055】
(8) 実験例5では、メッキ層中の水素含有量を1.0atm%としたことを除き、実験例4と同様にして機械部品のテストピースを得た。実験例5では、メッキ層が形成された基体を温度130℃で3時間ベーキングすることで、脱水素処理を行った。
【0056】
(9) 比較例4では、メッキ層中の水素含有量を1.5atm%としたことを除き、実験例4と同様にして機械部品のテストピースを得た。比較例4では、メッキ層が形成された基体を温度100℃で3時間ベーキングすることで、脱水素処理を行った。
【0057】
(10) 比較例5では、メッキ層中の水素含有量を2.0atm%としたことを除き、実験例4と同様にして機械部品のテストピースを得た。比較例5では、メッキ層が形成された基体を温度60℃で3時間ベーキングすることで、脱水素処理を行った。
【0058】
(11) 比較例6では、脱水素処理を行わなかったことを除き、実験例4と同様にして機械部品のテストピースを得た。このテストピースのメッキ層の水素含有量は3atm%であった。
【0059】
(12) 実験例6では、メッキ層の脱水素処理をベーキングに代えてイオン照射により行ったことを除き、実験例4と同様にして機械部品のテストピースを得た。イオン照射は実験例3と同様に行った。このテストピースのメッキ層の水素含有量は0.7atm%であった。
【0060】
(13) 比較例7では、基体上に硬質クロムメッキ層だけを形成して、機械部品のテストピースを得た。メッキ層の厚み及び製法は実験例1のものと同じである。メッキ層には脱水素処理は施していない。このテストピースのメッキ層の水素含有量は3atm%であった。
【0061】
(14) 比較例8では、基体上にCrN薄膜だけを形成して、機械部品のテストピースを得た。CrN薄膜の厚み及び製法は実験例1と同じである。
【0062】
(15) 比較例9では、基体上にDLC薄膜だけを形成して、機械部品のテストピースを得た。DLC薄膜の厚み及び製法は実験例4と同じである。
【0063】
このようにして作製した各テストピースを次のように評価した。耐摩耗性及び摺動性を評価するために、各テストピースのマイクロビッカース硬さ(mHv)を測定した。
【0064】
テストピースの耐摩耗性を評価するために、摩擦摩耗試験をピン・オン・ディスク試験機(レスカ社製フリクションプレーヤーFRP4000)を用いて次のように行った。テストピースを回転速度191rpmで回転させ、回転するテストピースに球面状先端部(球面曲率半径2.5mm)を有するピンを圧接した。ピンは、JIS SCM435からなる基体の上に、圧接するテストピースと同様のメッキ層及び(又は)薄膜が形成されたものである。ピンは、その球面状先端部をテストピースの回転中心から5mmの位置に、圧力160kgf/mm2 でテストピースに圧接した。このようにピンを圧接しながら、摺動距離にして100mピンに対してテストピースを摺動させた後、テストピースの摩耗状態を評価した。また、このようにテストピースを回転させているときに、テストピースの摩擦係数(動摩擦係数)も測定した。
【0065】
テストピースの耐食性を評価するために、JIS Z2371に準じて中性塩水噴霧試験を行った。8時間又は48時間経過後のテストピースにおける錆の発生状況によりそのテストピースの耐食性を評価した。
【0066】
結果を次表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から、基体と高硬度薄膜(CrN薄膜又はDLC膜)との間に形成された硬質Crメッキ層により、錆の発生を抑制できることがわかる。メッキ層の脱水素処理を行って、硬質Crメッキ層の水素含有量を1atm%以下とすれば、錆の発生を効果的に抑制できることがわかる。メッキ層が形成された基体をベーキングすることで脱水素処理を行っても、メッキ層にイオン照射することで脱水素処理を行っても、メッキ層の水素含有量が1atm%以下となれば、同じように錆の発生を抑制できることわかる。
【0069】
【発明の効果】
本発明は、耐食性及び摺動性に優れる電気開閉機器用部品、エンジン(代表例は内燃機関)部品、切削部品等の機械部品及びその製造方法を提供することができる。
【0070】
また、本発明は、機械部品の基体が該部品の耐摩耗性及び摺動性を向上させるための高硬度の薄膜により被覆された機械部品であって、耐食性に優れる機械部品及びその製造方法を提供することができる。
【0071】
また、本発明は、機械部品の基体が該部品の耐摩耗性及び摺動性を向上させるための高硬度の薄膜により被覆された機械部品であって、耐食性に優れるとともに、該高硬度薄膜の基体への密着性がよい機械部品及びその製造方法を提供することができる。
【0072】
また、本発明は、摺動部品を含む電気機械製品であって、長期にわたり安定して動作させることができる電気開閉機器、エンジン(代表例として内燃機関)、切削機器等の電気機械製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る機械部品の一例の部分断面図である。
【図2】図1の機械部品を作製方法の一例を示す工程図である。
【図3】メッキ層中の水素によりクラックが生じている様子を示している。
【図4】本発明に係る機械部品の他の例の部分断面図である。
【符号の説明】
1 機械部品
11 機械部品の基体
12 メッキ層
13 セラミック薄膜
14 水素
15 DLC薄膜
Claims (17)
- 機械部品の基体上に水素含有量が1atm%以下のメッキ層が形成され、該メッキ層上にDLC薄膜が形成されていることを特徴とする機械部品。
- 前記メッキ層がクロム(Cr)メッキ層である請求項1記載の機械部品。
- 機械部品の基体上に水素含有量が1atm%以下のメッキ層が形成され、該メッキ層上にセラミック薄膜が形成されていることを特徴とする機械部品。
- 前記セラミック薄膜が、窒化クロム(CrN)、窒化チタン(TiN)、炭化チタン(TiC)、炭窒化チタン(TiCN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化タンタル(TaN)又は窒化チタンアルミニウム(TiAlN)からなる請求項3記載の機械部品。
- 前記セラミック薄膜が前記メッキ層を構成する金属元素のうちの少なくとも一種の金属元素を含んでいる請求項3又は4記載の機械部品。
- 前記メッキ層がクロム(Cr)メッキ層である請求項3から5のいずれかに記載の機械部品。
- 請求項1又は2記載の機械部品の製造方法であって、
機械部品の基体上にメッキ層を形成するメッキ工程と、
該メッキ層の水素含有量が1atm%以下となるように、該メッキ層の脱水素処理を行う脱水素工程と、
該メッキ層上にDLC薄膜を形成する薄膜形成工程とを含むことを特徴とする機械部品の製造方法。 - 請求項3から6のいずれかに記載の機械部品の製造方法であって、
機械部品の基体上にメッキ層を形成するメッキ工程と、
該メッキ層の水素含有量が1atm%以下となるように、該メッキ層の脱水素処理を行う脱水素工程と、
該メッキ層上にセラミック薄膜を形成する薄膜形成工程とを含むことを特徴とする機械部品の製造方法。 - 前記脱水素工程は、前記薄膜形成工程において薄膜を形成するための薄膜形成装置内において、前記メッキ層を加熱することにより行われる請求項7又は8記載の機械部品の製造方法。
- 前記脱水素工程は、前記メッキ層にイオン、電子又はプラズマを照射することにより行われる請求項7又は8記載の機械部品の製造方法。
- 前記薄膜形成工程において前記薄膜をイオンプレーティング法、真空アーク蒸着法、プラズマCVD法、イオン蒸着薄膜形成法又はイオンビームスパッタリング法によって形成する請求項7から10のいずれかに記載の機械部品の製造方法。
- 請求項1から6のいずれかに記載の機械部品を含み、該機械部品が他の部品に対して相対的に摺動する部品として用いられる電気機械製品。
- 請求項1から6のいずれかに記載の機械部品を含む電気開閉機器。
- エンジン部品である請求項1から6のいずれかに記載の機械部品。
- 請求項1から6のいずれかに記載の機械部品を含むエンジン。
- 切削部品である請求項1から6のいずれかに記載の機械部品。
- 請求項1から6のいずれかに記載の機械部品を含む切削機器。
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