JP2011157610A - Dlc膜被覆部材およびその製造方法 - Google Patents

Dlc膜被覆部材およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】炭素共析型電気Crめっき膜をアンダーコートとしてその上に積層される高品質DLC膜の密着性を向上させること、とくに膨れ現象を発生させることのないDLC膜被覆部材とそれの製造方法を提供する。
【解決手段】金属製基材と、その表面に被覆形成された、被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜と、その被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜表面に被覆形成されたDLC膜とからなるDLC膜被覆部材およびその部材の製造方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、DLC膜被覆部材とその製造方法に関し、特に、金属製基材の表面に被覆形成されるダイヤモンド−ライク−カーボン(以下、「DLC」膜という)の密着性を向上させるための技術を提案するものである。
近年、炭化水素系ガスを成膜材料として、主に炭素と水素とからなる硬質膜の被覆処理法が実用化され、多くの産業分野において利用されている。この炭素と水素を主成分とする硬質膜は、アモルファスながらダイヤモンド構造(SP3構造)とグラファイト構造(SP2構造)とが混在しており、ダイヤモンド−ライク−カーボン、所謂、DLCと呼ばれている。
このDLC膜は、硬質で摩擦係数も小さいことから、当初は耐摩耗性を必要とするような切削工具類や摺動部材、回転部材などの表面に施工されていたが、最近では、その他の産業分野における表面処理皮膜としても採用されつつある。
一般に、DLC膜は、無気孔の緻密な状態に成膜されたものだと、酸やアルカリあるいはハロゲン化合物などに対して卓越した耐食性を発揮するため、半導体加工装置の分野などにおいて、部材の耐食性向上、あるいは酸、純水による洗浄時における汚染物質の除去機能を向上させるものとして使用されている(特許文献1〜7)。
また、DLC膜のCとHからなる構造にFを結合させたCF基およびCF基を付与することによって、皮膜に一段と高い潤滑性と親水性を付与する技術(特許文献8〜15)が提案され、これらの技術は、磁気ディスクや医療用器材の分野で利用されている。さらに、DLC膜の優れた滑り特性は、樹脂形成用金型の表面処理のために適用された例もある(特許文献16、17)。
一方、DLC膜を形成するための方法や、その装置の開発研究も精力的に行われ、最近では、イオン化蒸着法、アークイオンプレーティング法、高周波・高電圧パルス重畳型成膜法、プラズマブースター法、プラズマCVD法など、多数のDLC膜形成方法とそのための装置が開発されている。開発されたこれらの方法によって形成されるDLC膜は、アモルファス状の、硬質で耐摩耗性に優れた皮膜になる点では共通している。しかし、複雑な形状を有する被処理体に対して均一に成膜できるか否かについては差があり、課題が残っていた。ただし、これらの形成方法のうち、高周波・高電圧パルス重畳型のプラズマCVD方法は、膜厚の均等な被覆形成性能を有し、初期残留応力の小さいDLC膜の形成が可能になったことから、新しい適用分野の開拓に貢献している。
以上、説明したように、DLC膜は優れた物理的・化学的性質を有しているため、多くの産業分野で注目されている。その一方で、解決すべき課題として、金属基材との密着性が悪い点が指摘されていた。具体的には、普通鋼やステンレス鋼などの鋼材、銅やニッケルなどの非鉄金属製基材の表面に被覆形成したDLC膜は、使用中にしばしば剥離し、膜としての機能を十分に発揮できていない事例も散見されている。
この対策として、基材の表面に、DLC膜との密着性を向上させるために、アンダーコートや中間層を介在させる方法が報告されている。例えば、ステンレス鋼基材へのDLC膜の密着性向上対策として、該基材表面に対し、アンダーコートとしてCrやTi、Si、SiCなどの薄膜をPVD法によって形成する技術(特許文献18〜20)などが知られている。
また、基材表面に、TiやW、Nb、Ta、Cr、Al、Siなどの金属イオンを注入する技術が(特許文献21〜24)、あるいはグラビア製版ロールのエッチングされた銅めっき層の表面に、WやSi、Ti、Crおよびそれらの金属炭化物の薄膜をPVD法によって形成する技術(特許文献25)、さらには基材の表面に、電気クロムめっき層を会して、DLC膜を被覆形成する技術などの提案もある(特許文献26〜28)。
特開平9−313926号公報 特開2002−110655号公報 特開2003−133149号公報 特開2000−262989号公報 特開2000−70884号公報 特開2000−265945号公報 特開2003−209086号公報 特開平11−158361号公報 特開平11−330066号公報 特開平9−44841号公報 特開平10−68083号公報 特開平10−198953号公報 特開2000−96233号公報 特開2003−310744号公報 特開2003−217845号公報 特開2004−130775号公報 特開2004−315876号公報 特開平6−60404号公報 特開平9−105051号公報 特開平10−37043号公報 特開平9−165282号公報 特開2007−231781号公報 特開2007−327349号公報 特開2007−327350号公報 特開2007−130996号公報 特開2005−36800号公報 特開平6−85384号公報 特開平11−74069号公報
ところで、金属製基材上に被覆形成されるDLC膜の密着性向上対策として採用されている技術、例えば電気クロムめっき膜からなるアンダーコートを介在させるという上記従来技術の場合、次のような課題があった。
一般に、電気めっき法で得られる電気クロムめっき膜は、硬く平滑で金属光沢を有し、DLC膜とは良好な密着性を有するものの、めっき処理膜中に多量の水素ガスを吸収し、これが固溶状態となって、膜中に残存するという問題がある。
電気めっき処理時に、電気クロムめっき膜中に吸収され固溶化した水素ガスは、時間が経過しても、また室内に放置しておくだけでも、この膜から水素ガスが発生する。もし、このめっき膜の上に、例えばDLC膜を積層する場合、そのDLC膜との界面に気泡が生成する。その結果、DLC膜が電気クロムめっき膜から局部的に剥離し、特に、その気泡(膨れ部)内部における水素ガス圧力が大きくなると、やがてDLC膜の破裂を誘発し、完全に剥離することになる。
図1は、ステンレス鋼基材の表面に、電気クロムめっき膜を1μmの厚さにめっきした後、その表面にDLC膜を5μm厚さに被覆して積層した試験片に発生した水素ガスによるDLC膜の膨れ状況を示す写真である。膨れ部の空間には、電気クロムめっき膜から放出された水素ガスが充満し、その圧力によってDLC膜が剥離して、膨れ上ったものである。
水素ガスによるDLC膜の上記膨れ現象は、緻密で厚いDLC膜の場合に見られる特有の問題であると言うことができる。即ち、もしDLC膜が多孔質で品質の悪い薄い膜だと、たとえクロムめっき膜から水素ガスが放出されたとしても、その多孔質なDLC膜を通過して外部へ拡散することになる。しかし、このDLC膜が緻密でしかも厚く、たとえば耐食性に優れる高品質のDLC膜であればあるほど、かかる膨れ現象が発生しやすいという傾向が見られるのである。
このような緻密質(高品質)DLC膜に発生する膨れ現象は、皮膜を形成した後、室内に放置していても、また、使用中においても発生する。特に、後者の場合には、運転中の機械装置に大きな障害を誘発する可能性もあり、大きな問題となっており、とくに膜厚が大きい場合に顕著である。
なお、図2は、クロムめっき膜から放出される水素ガスの圧力が大きくなって、DLC膜の膨れ部が破裂した状況を示すものであり、使用中にこのような現象が発生するようなことは避けなければならない。
本発明の目的は、炭素共析型電気クロムめっき膜をアンダーコートとしてその上に積層される高品質DLC膜の密着性を向上させること、とくに膨れ現象を発生させることのないDLC膜被覆部材とそれの製造方法を提案することにある。
従来技術が抱えている上述した課題を解決し、上記目的を実現するため、鋭意研究した結果、金属製基材の表面にアンダーコートとして金属クロムを電気めっきする場合、とくに生成しためっき膜中には水素ガスを吸収しやすくし、これがめっき膜中に固溶化(残留)する現象がある。この現象は、めっき液の種類やめっき条件を変えたとしても避けられない現象であることがわかった。そこで、本発明では、アンダーコート(炭素共析型電気クロムめっき膜)の上に、DLC膜を被覆して積層するのに先立ち、まず、基材表面に形成される炭素共析型電気クロムめっき膜を予め熱処理して、該めっき膜中に固溶している水素ガスを予め外部に除去(放出)させておくことが効果的であることを突き止めた。
また、熱処理後の炭素共析型電気クロムめっき膜、即ち被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜は、室温に冷却後、直ちに、DLC膜を被覆処理して積層させてもよいが、その後、暫く室内に放置しても差支えない。その理由は、熱処理によって、一旦、水素ガスを放出した炭素共析型電気クロムめっき膜については、しばらく室内に放置しても水素ガスを再び吸収することはないので、次工程のDLC膜被覆形成工程までの時間は、特に限定されない。
なお、被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜の研磨や清浄化などの表面処理については、実施してもまた実施しなくともよい。
以上のような考え方の下に開発した本発明は、金属製基材と、その表面に被覆形成された、被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜と、その被処理炭素共析型電気クロムめっき膜表面に被覆形成されたDLC膜とからなることを特徴とするDLC膜被覆部材である。
また、本発明は、金属製基材の表面に、蓚酸もしくは蟻酸を含有するクロム酸めっき液中で電気めっきして得られる炭素共析型電気クロムめっき膜を被覆形成し、次いで、その炭素共析型電気クロムめっき膜を熱処理することにより、被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜とし、その後、その被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜の表面にDLC膜を被覆形成することを特徴とするDLC膜被覆部材の製造方法を提案する。
なお、本発明に係るDLC膜被覆部材とその製造方法については、
(1)前記被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜は、厚さ:0.5〜10mm、硬さHv:1000〜1100の特性を有する炭化クロム含有膜であって、熱処理によってめっき膜中の水素ガスが放出されていると共に、めっき直後の熱処理前より硬さが硬化して、Hv≧700の膜質に変化したものであること、
(2)前記被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜の表面に被覆されるDLC膜の残留応力が1.0GPa以下であること、
(3)前記DLC膜は、炭素と水素を主成分とするアモルファス状を呈し、厚さが0.5〜20μm、かつ貫通気孔率が3.4×10−2%以下の膜質のものであること、
(4)前記DLC膜は、炭素と水素を主成分として含む他、Siの微粒子を3〜20原子%の割合で含む固形物含有皮膜であること、
(5)炭素共析型電気クロムめっき膜の熱処理は、空気中、不活性ガス中あるいは真空中のなかから選ばれるいずれかの環境中で、温度;150〜500℃、時間;0.5〜25時間の条件で行うこと、
が、より好ましい解決手段を与える。
前記のように構成された本発明によれば、次のような効果を期待することができる。
(1)金属製基材表面に、DLC膜のアンダーコートとして被覆形成した炭素共析型電気クロムめっき膜を熱処理することによって、炭素共析型電気クロムめっき膜の特性を改善すること、とくに水素ガス発生起因を予め除去しておくことで、使用中のDLC膜の膨れ現象を未然に防止することができ、DLC膜の長期に亘る皮膜密着性が向上する。
(2)被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜は、熱処理によって硬さが上昇するので、大きな面圧を受けるような用途部材として適用すれば効果がある。
(3)電気クロムめっき膜の熱処理は、大気中、不活性ガス中、真空中のいずれでも可能であるうえ、熱処理温度も150〜500℃という低温下で行うことができ、また、時間も概ね25時間以内で処理することができるので、生産性に富み、経済的である。
電気クロムめっき膜の表面に被覆形成したDLC膜に発生した膨れ現象の代表的な事例を示す写真である。 DLC膜の表面に発生した膨れが、クロムめっき膜から放出される水素ガスによって破裂した状態を示す写真である。 本発明に係る方法を説明するための工程図である。 炭素共析型電気クロムめっき膜の硬さと熱処理温度との関係を示すグラフである。 厚膜DLC膜を被覆形成するために適したプラズマCVD装置の概略図である。 DLC膜の残留応力測定用試験片とその変位のもようを示す略線図である。 DLC膜の貫通気孔率を電気化学的に求める場合の原理を示したものである。(A)は、比較例の試験片、(B)はDLC膜を被覆形成した試験片の例 スクラッチ試験後のDLC膜表面のスクラッチ痕の状態を示す外観写真である。
図3は、本発明に係る製造方法に基づき、基材表面に、被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜を介してDLC膜を被覆してなる部材の製造方法を説明するための工程図である。以下、この工程順に従って本発明の方法を説明する。
(1)基材
基材としては金属製基材を用いる。具体的には、炭素鋼や低合金鋼、各種ステンレス鋼などの鋼鉄系のものをはじめ、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、Mg合金、Niおよびその合金、銅およびその合金などが基材として好適である。これらの金属製基材は、機械装置用部材としての利用範囲が広いうえ、良好な電気伝導性を有し、次工程の電気めっき処理に対しても、好適な電気化学的性質を有しているからである。
(2)炭素共析型電気クロムめっき工程
前記金属製基材の表面を、機械加工や研削・研磨、酸洗、脱脂などの前処理を行った後、その表面に、クロム(Cr)を電気めっきして炭素共析型電気クロムめっき膜を被覆形成する。めっき液としては、表1に示すような成分組成の、金属クロムと炭化クロムを共析させるのに用いられる、蓚酸含有クロム酸液や蟻酸含有クロム酸液が推奨される。このようなめっき液を用いて電気めっきすると、炭素共析型電気Crめっき膜が形成されることになる。このめっき膜の厚さとしては、0.5μm〜10μmの範囲が好適である。該炭素共析型電気Crめっき膜が0.5μmより薄いと、均等なめっき膜が得られず、一方、10μm以上厚くしても、DLC膜との密着性効果が格段に向上するものではなく、生産コストの上昇を招くからである。
表1に示すようなめっき液を使って形成される炭素共析型電気クロムめっき膜は、硬質クロムめっきと称されているように、皮膜の硬度が高く、その硬さ(Hv)は1000〜1100を示し、かつ金属光沢に優れるほか、耐摩耗性も良好である。本発明では、該炭素共析型電気Crめっき膜が、以上の特性に加えてDLC膜との密着性がよく、強い結合力を発揮することを利用するものである。
Figure 2011157610
次に、電気めっき処理時に、炭素共析型電気Crめっき膜が水素ガスを吸収し固溶化する現象について説明する。一般に、電気めっき処理は、金属基材をカソード[−]として、めっき液中で電解することによって、液中のクロムイオン(クロム3+、Cr6+)が、カソードの基材表面に引きつけられて、電子を放出し、金属Crを還元析出することによって、基材表面にCrの膜を生成させる処理である。しかし、このようなめっき処理を行うということは、電解反応と同時にめっき液中の水(HO)も電気分解され、カソード(基材表面)で水素ガス(H)を発生させることになる。このようにして発生した水素ガスの一部が、原子状の水素(H)となって、基材表面に析出するCrめっき膜中にトラップさせて侵入し、これが固溶化されるのである。
特に、Crのめっきは、NiやCuのめっき液に比べて、高電圧を負荷して、大電流を流す必要があるため、水の電解反応が起こりやすく、通電中は常に水素ガスを激しく発生する環境中で金属Crが基材表面に析出する特徴がある。このためCrの析出率は、理論析出量の約20%以下にとどまっている。換言すれば、残りの約80%もの電気エネルギーの大部分は、水素ガスの発生に消費されているほどである。なお、本発明にかかる炭素共析型電気Crめっき膜は、金属製基材の表面に直接、被覆することが好ましいが、CuめっきやNiめっきなどの下地コートを介しても差支えない。
(3)炭素共析型電気クロムめっき膜の熱処理工程
この工程は、本発明における最も特徴的な処理を行う工程である。前述のようにして得られる炭素共析型電気Crめっき膜を被覆形成した金属製基材は、次に、空気中、不活性ガス中あるいは真空中から選ばれるいずれかの環境中で、150〜500℃の温度にて0.5〜25hの条件の熱処理を行う。この熱処理の目的は、電気めっき処理時にCrめっき膜中に捕捉され、固溶化した水素ガスを、外部(膜外)へ放出させることにある。このことによって、該炭素共析型電気Crめっき膜上に被覆形成するDLC膜を被覆形成した後に、時間の経過とともに該めっき膜から放出される水素ガスによって、DLC膜の“膨れ現象”が発生するのを防止することができるのである。
前記熱処理の条件は、150℃より低い温度、0.5hより短い時間では、電気めっき処理中に吸収された水素ガスを完全に放出させることができず、一方、600℃、25h以上の条件では、基材の種類、例えばAl材などでは軟化したり変形することがあることに加え、空気中では、電気Crめっき膜自体が酸化されたり、ひび割れを発生するおそれがあるからである。従って、好ましくは180〜500℃程度がよい。熱処理環境中で基材や炭素共析型電気Crめっき膜の酸化が問題となる場合には、不活性ガス中または真空中で処理するのがよい。特に、真空中での熱処理では、該炭素共析型電気Crめっき膜中の水素ガスの放出を促進する傾向が顕著であるため、短時間で熱処理の目的が達成できるという利点がある。なお、この熱処理のより好適な条件としては、基材などにもよるが、温度は200〜400℃程度、さらに好ましくは200〜250℃程度で時間は2〜5h程度がよい。
本発明において、前記炭素共析型電気Crめっき膜を熱処理すると、水素ガスの放出とともに、該めっき膜自体がより硬化する。例えば、図4は、ステンレス鋼(SUS304)基材の表面に形成した2種(無水クロム酸めっき液を用いて形成した市販流通電気Crめっき膜、蓚酸含有クロム酸めっき液を用いて形成した本発明の炭素共析型電気Crめっき膜)の電気Crめっき膜を、真空中で熱処理したときの、2種の電気Crめっき膜の硬さと温度との関係を示したものである。この図に示す結果から明らかなように、市販流通品の電気Crめっき膜の硬さは、熱処理温度が高くなるほど低下する傾向があるが、本発明で用いる炭素析出型電気Crめっき膜は、熱処理温度300℃以上になると、硬さが上昇しはじめ、500℃では、ほぼHv;1800に達することがわかる。この硬化機構は、めっき液中に含まれる蓚酸成分の炭素が、電気Crめっき膜中に含まれる結果、熱処理環境中でCrと炭素が反応して、硬質の炭化クロムを生成するためと推定されている。熱処理によって高硬度化(Hv≧700、好ましい例ではHv≧850、より好ましい例ではHv≧1100)したCrめっき膜の表面に被覆形成されたDLC膜は、大きな面圧を受けるような条件下に適用すれば、十分その機能を発揮するものと考えられる。このことから本発明では、炭素成分(炭化クロム)を含む電気Crめっき膜を炭素共析型Crめっき膜と言うことができる。
なお、前記熱処理温度の選定は、基材質によって変えることが好ましい。具体的には、AlやTi、Mg、Cuなどの非鉄金属およびその合金類は200℃以下、ステンレス鋼を含む鋼材は500℃以下の温度を選択すれば、基材の機械的性質への影響を回避することができる。一方、熱処理に伴う電気クロムめっき膜からの水素ガスの放出は、熱処理温度が高いほど多くなるので、基材の機械的性質の変化を考慮して、熱処理条件を決定することが望ましい。
(4)基材上(被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜上)へのDLC膜の被覆形成方法
現在、DLC膜の形成方法としては、プラズマCVD法、イオン化蒸着法、アークイオンプレーティング法、プラズマブースタ法など多くの方法が知られている。また、形成されるDLC膜の性質は、被覆形成の方法やその条件によって異なるのが普通である。一般に、DLC膜は、高硬度で表面摩擦係数の小さいものを製造しようとした場合、成膜時の残留応力が大きくなる傾向がある。一般に、もしDLC膜を厚く成長させようとすると、皮膜内部の残留応力値が大きくなり、時として基材との接合力よりも大きくなって、アンダーコートの有無にかかわらず該DLC皮膜が剥離することがあった。これは電気クロムめっき膜の水素ガス発生に起因する膨れ現象由来のものとも異なる。それ故に、発明者らの経験によると、硬質のDLC膜の最大厚さは3μm未満にとどまっていることが普通である。なお、ここで言う硬質のDLC膜とは、硬さHv:3000程度以上のものである。
この点に関し、発明者らの研究によると、本発明に係るプラズマCVD法による成膜時に、水素含有量を比較的多く含有させたDLC膜については、膜の硬さが若干小さくなり、残留応力値が抑制される傾向があり、そのため厚膜の形成が容易になる。発明者らの実験によると、水素含有量を13〜30at%の範囲に制御すると、成膜に時間は要するものの80μm程度の厚膜の形成させも可能となる。そのため、こうした膜については、その表面を研磨したり、レーザビーム熱源を照射して彫刻加工などの処理をすることができるようになる。
以下、DLC膜、とくに緻密で厚膜のDLC膜を形成するのに適した成膜方法について説明する。この方法は、本発明者らが提案した特開2008−231520号公報に開示の方法と同種の技術であって、成膜時に素材(被処理基材)を相対的に負の電位に維持しつつ気相状態の炭化水素のラジカル、分子イオンなどの正に帯電したものを電気化学的に基材表面に引き付け、最終的には炭素と水素を主成分とするアモルファス状の固形物を析出させる技術であって、前記現象を効果的に実行するための高周波とプラズマを重畳させた、所謂、プラズマCVD法の一種と呼ばれているものである。
図5は、炭素と水素を主成分とするアモルファス状のDLC膜を被覆形成するための、前記プラズマCVD装置の概略構成図である。この装置は、接地された反応容器51と、この反応容器に対して、バルブ57a、バルブ57bを介して接続されている成膜用の有機系ガス(主として炭化水素系ガス)導入装置(図示せず)および反応容器を真空引きする真空ポンプ(図示せず)と、反応容器内の所定の位置に配設される被処理体としての基材52に接続する導体53と導入端子59を介して、高電圧パルスを印加するための高電圧パルス発生電源54と、高電圧導入部59を介して高周波を導体53に印加し、被処理体としての基材51の周囲にプラズマを発生させるためのプラズマ発生用電源55と、パルスおよび高周波の印加を一つの導体で共用するために、高電圧導入部59と電気的に接続されている重乘装置56と高電圧パルス発生装置54から構成されている。
このプラズマCVD装置を用いて、被処理体(被熱処理電気クロムめっき膜被覆基材)の表面に、DLC薄膜を成膜させるには、まず、該被処理体を反応容器内の所定位置に設置し、次いで、真空装置を稼動させて該反応容器内の空気を排出して脱気し、その後、ガス導入装置によって炭素水素系の有機ガスを該反応容器内に導入する。
次いで、被処理体にはプラズマ発生用電源55からの高周波電力を印加する。前述の反応容器とアース線58によって電気的に中性状態にあるため、被処理体は、相対的に負が帯電した状態となる。このためプラズマ中に存在する正イオンは、被処理体の表面全体に対して均等に作用し、DLC膜の平準化析出を促す特徴がある。
即ち、高電圧パルス発生装置から、被処理体に高電圧パルス(負の高電圧パルス)を印加すると、炭化水素系ガスのプラズマ中の正イオンは、該被処理体の表面に電気的に誘引吸着されることとなる。このような操作によって、被処理体の表面にDLC膜が生成して膜が形成される。発明者らは、この現象について、反応容器内では、炭素と水素を主成分とするアモルファス状の炭素・水素固形物を主成分とするDLC膜が、被処理体の全表面に気相析出し、これを被覆するようにして成長していくものと推測している。
前記プラズマCVD装置の反応容器内へ導入する成膜用の炭化水素系のガスとしては、以下の(イ)〜(ロ)に示すような有機質の炭化水素ガスを単独または2種以上の混合ガスを用いる。
(イ)常温(18℃)での気相状態のもの
CH、CHCH、C、CHCHCH、CHCHCHCH
(ロ)常温で液相状態のもの
CH、CCHCH、C(CH、CH(CHCH、C12
なお、得られた最上層のDLC膜については、用途に応じて、膜中に金属微粒子を共析させることも有効である。例えば、Si微粒子を共析させる場合には、(CO)Si、(CHO)Si、[(CHSi]などを使用すればよい。また、(C1119)基または(C1221)基に、Si、Al、Y、Mg、Crなどの元素を分散含有したアモルファス状膜を形成できる。なお、常温で気相状態の有機化合物ガスは、そのままの状態で反応容器52に導入できるが、液相状態の化合物はこれを加熱してガス化させ、この上記を反応容器52中へ供給する。有機Si化合物を用いてアモルファス状膜を形成すると、この膜中にSiが混入し、その一部のSiは炭素と強く結合し、SiCxを生成したり、有機Cr化合物を用いて形成した膜中には、CrxCyのような炭化物微粒子の共析も考えられるが、本発明では、これらの微細金属粒子のDLC膜に対しても適用できるものである。
(5)DLC膜を構成する炭素と水素含有量の比率
一般に、DLC膜は、硬く耐摩耗性に優れているものの、成膜時に大きな残留応力が発生するため、柔軟性に欠けるという傾向がある。そのため、DLC膜に局部的な微小欠陥が発生したり、また、基材やアンダーコートとDLC膜との熱膨張係数の相違に起因する熱応力の発生によって剥離しやすくなるので、成膜時のDLC膜は、残留応力を軽減させることが重要である。
この対策として、本発明では、DLC膜を形成する炭素と水素の割合に注目し、特に、水素含有量を全体の13〜30原子%に制御することによって、DLC膜本来の特性を維持しつつ、膜の柔軟性を付与することとした。具体的には、DLC膜中に含まれる水素含有量を13〜30原子%とし、残部を炭素含有量とした。なお、このような組成のDLC膜を形成するには、成膜用の炭化水素系ガス中に占める炭素と水素含有比が異なる化合物を混合することによって果すことができる。
このような前記水素含有量であるDLC膜は、その表面硬さが、マイクロビッカース硬さで、Hv:700〜3000の範囲となるので、工具鋼などに形成されるDLC膜に比較すると、はるかに軟質であり、ある程度の変形にも耐える柔軟性もある。
以上説明したような方法で被覆形成されるDLC膜の膜厚は、0.5〜20μm以下の範囲内が適当である。膜厚が0.5μm以下では、金属基材上に被覆形成したDLC膜では、微小欠陥をなくすことが困難であるため、酸素ガス(空気)が皮膜の欠陥部を通って内部へ侵入し、基材を酸化させることによって、DLC膜を剥離させる畏れがある。一方、膜厚が20μmより厚いものでは、成膜に長時間を要し、生産コストの上昇原因となったり、DLC膜の成長に伴う残留応力の増大による基材との接合力の低下を招く危険が考えられるからである。なお、この膜厚は、アンダーコート(電気クロムめっき層)の熱処理しないと、上述した膨れ現象が不可避に発生しやすいものとなる。
(6)DLC膜表面の研磨・塑性加工工程
被熱処理炭素共析型電気Crめっき膜からなるアンダーコート層の上に被覆形成した前記DLC膜は平滑であり、成膜状態のままで十分に使用可能なものが得られる。しかし、DLCの膜厚が大きくなるほど平滑性が低下する傾向があり、特に、膜厚の10μm以上に達する場合には、精密なラッピング加工処理を施した方が、DLC膜の特性をより発揮できる場合がある。さらに、厚膜にしたDLC膜の表面は、レーザビームや電子ビーム熱源によって、彫刻加工が容易となるので、目的に応じて上記のような加工処理を施してもよい。
(7)DLC膜の残留応力
気相状態の炭化水素ガスから析出する、アモルファス状炭素水素固形物微粒子の堆積層であるDLC膜は、必然的に残留応力が発生する。即ち、大きな残留応力を内蔵するDLC膜は、膜厚が大きくなればなるほど残留応力も大きくなる。そして、最終的には、その残留応力が膜の密着強さより大きくなって、DLC膜が剥離するに至ので、厚膜のDLC膜を被覆形成する場合には、予め残留応力値を測定し、その許容応力値(残留応力によって決定される限界膜厚)を決定することが重要である。
とくに、厚膜のDLC膜は、たとえその膜が形成できたとしても、DLC膜と基材やアンダーコートとの熱膨張係数の差によって、膜に大きな熱応力が発生することになるので、この対策についての配慮も必要である。そこで、本発明では、DLC膜の初期残留応力(成膜直後の残留応力値)の許容値を特定することとし、これを求めるため、次に示すような方法によって測定することとした。
DLC膜の残留応力の評価は、図6に示すように、試験片の一端を固定した短冊形の薄い石英基板(寸法:幅5mm×長さ50mm×厚さ0.5mm)の一方の面に、DLC膜を形成し、成膜の前後の石英基板の変位量(δ)を測定することによって、膜の残留応力を求めるが、具体的には、残留応力(σ)は、下記Stoneyの式によって求められる。
Figure 2011157610
E:基板のヤング率=76.2GPa
v:基板のポアソン比=0.14
b:基板の厚さ=0.5mm
l:DLC膜が形成された基板の長さ
δ:変位量
d:DLCの膜厚
表2は、各種成膜プロセスによって形成されたDLC膜(水素13原子%、炭素87原子%)について、上記の方法によって初期残留応力値を求めたものである。この結果から明らかなように、アークイオンプレーティング法、イオン化蒸着法などの方法で形成されたDLC膜の初期残留応力は13〜20GPaである。これに対し、本発明で採用するプラズマCVD法で形成されたDLC膜の初期残留応力は0.3〜0.98GPaの範囲にあり、初期残留応力の非常に小さい膜であることがわかる。
なお、表2に示すとおり、DLC膜の最大形成厚さは、プラズマCVD法の場合、成膜時間は長くなるものの厚さ50μmの膜厚にすることができたが、他の成膜方法では3μm厚さ以上の膜の形成は困難であった。
さらに、表2に示すDLC膜の表面硬さを測定したところ、プラズマCVD法の膜は、マイクロビッカース硬さ(Hv)で700〜2800であるのに対し、他の方法で形成されたDLC膜の硬さは、Hv=3000以上であり、非常に硬いことがわかった。これらの結果から判ることは、プラズマCVD法に従うDLC膜のように、水素含有量が多いほど、また、イオンプレーティング法に従うDLC膜のように、膜の硬さが大きいほど、DLC膜の成膜時における初期残留応力値が大きくなることが窺える。
Figure 2011157610
(8)DLC膜の気孔率を定量的に求める方法
本発明では、被熱処理炭素共析型電気Crめっき膜の表面に被覆形成するDLC膜の気孔率(正確には貫通気孔率)を定量的に求めるため、(社)日本機械学会が制定した「ドライコーティング膜の欠陥評価試験方法、JSME S010・1996」に従う、電気化学的手法を適用することとした。すなわち、DLC膜を構成する炭素と水素を主成分とする成分は、酸、アルカリに対して腐食されず、膜成分そのものは耐食性に優れているものの、DLC膜に小さくても貫通気孔が存在すると、この気孔を通って、腐食成分が内部へ侵入して、基材またはアンダーコートを腐食する原因となる。
一方、炭素共析型電気Crめっき膜中に固溶された水素は、DLC膜に貫通気孔が多いほど、膜を通って外部への放出することが容易になるため、水素ガスに起因するDLC膜の膨れ現象が発生する確率は小さくなることが予想される。
このように、DLC膜の貫通気孔の多少は、膜の特性に大きな影響を与えるが、本発明では、被熱処理炭素共析型電気Crめっき膜の表面に被覆形成するDLC膜の貫通気孔率を定量的に把握することもまた、重要なこととして考え、以下に示すような方法によって貫通気孔率を測定することにした。
図7は、金属基材の表面に被覆形成したDLC膜試験片を用いてDLC膜の貫通気孔率を測定するための電気化学的手法の概要図を示したものである。カソード−を白金、アノードがDLC膜被覆試験片となるように、それぞれ直流電源に接続して、電解液中に浸漬する。DLC膜は、電気絶縁体であるため、無気孔ならば電圧を印加しても電気回路に電流が流れることはない。微小ながらも電流が認められるのは、その電流はDLC膜に存在する貫通気孔を通じて電解液が、試験片基材の表面に達していることとなる。即ち、電気回路に流れる電流は、印加電圧が同等ならば、DLC膜の貫通気孔部を通って、試験片基材と接触しているアノード面積に比例することを意味しており、貫通気孔率が大きいほど、流れる電流値も多くなることとなる。
採用した方法では、電解液として0.5kmol/m・HSO+0.05kmol/m・KSCN水溶液を用い、DLC膜を被覆していない場合の電流値(i)とDLC膜を被覆した場合の電流値(i)との関係から次式によって貫通気孔率を算出した。
貫通気孔率 = F×i/i×100
但し、Fは、DLC膜の貫通気孔部から浸入した電解液によって溶出した試験片基材部の形態因子であるが、本発明では測定時間が短いため計算上省略した。
表3は、プラズマCVD法によって、SUS304鋼試験片の表面に被覆形成した本発明に係るDLC膜の厚さと、貫通気孔率との関係を示したものである。DLC膜の厚さが大きくなればなるほど、回路に流れる電流値が小さくなって、膜が緻密化している状況が認められる。
Figure 2011157610
(実施例1)
この実施例では、炭素共析型電気Crめっき膜の表面に被覆形成するDLC膜の貫通気孔率と水素ガスに起因するDLC膜の膨れ現象の関係を調査した。
(1)供試基材
供試基材としてSUS304鋼(寸法:幅30mm×長さ50mm×厚さ3.2mm)を用いた。
(2)Crめっき
SUS304鋼基材の全面に対して、表1に示す蓚酸含有液を用いて、炭素共析型電気Crめっき膜を2mmの厚さに施工した。
(3)DLC膜の形成
炭素共析型電気Crめっき膜の表面に、膜厚0.3〜20μmのDLC膜をプラズマCVD法によって被覆形成した。
(4)DLC膜の貫通気孔率の測定法
供試DLC膜の貫通気孔率は、JSME S010に規定されている電気化学的手法によって求めた。
(5)膨れの観察方法
DLC膜表面の膨れ現象は、下記の条件にて試験した。
条件(A);炭素共析型電気Crめっき膜(無処理)の表面に直接DLC膜を被覆形成した後、50℃の環境に500h放置し、その後、DLC膜の表面を拡大鏡(×8)を用いて、膨れ現象の有無を観察した。
条件(B);電気Crめっき膜を施工したSUS304鋼試験片を、200℃×2hの熱処理を行った後、その被熱処理炭素共析型電気Crめっき膜の表面に所定のDLC膜を被覆形成した。さらに、試験片を50℃の環境に500h放置した後、条件(A)と同じ方法によって、膨れ現象の有無を観察した。
なお、比較として電気Crめっき膜を施工しないSUS304鋼試験片の表面に直接DLC膜を被覆形成したものも準備し、前記条件(A)、(B)による試験に用いた。
(6)試験結果
試験結果を表4に要約した。この結果から明らかなように、SUS304鋼上に、DLC膜を直接被覆形成した(No.1)には、条件(A)、(B)の環境においても、膨れ現象は発生せず、基材のSUS304鋼からのDLC膜の膨れを促すような水素ガスの発生はなかったものと考えられる。
これに対して、電気Crめっき膜の表面に被覆形成したDLC膜(No.3〜8)については、50℃の環境で500h放置すると、小さな膨れ現象の発生が認められ、この放置時間中に電気Crめっき膜中に吸収され固溶化されていた水素ガスが放出され、この結果、DLC膜が局部的に膨れたことを示している。また、これらの膨れ現象は、No.3〜8のDLC膜の貫通気孔率では、水素ガスの膜通過ができないほどの緻密性を有していることを物語っている。一方、No.2のDLC膜のように貫通気孔率が高い場合には(1.1×10−1%)、たとえ水素ガスが発生したとしても、水素ガスが膜を通過して外部へ放出されるため、膨れ現象の発生には到らなかったものと思われる。
これに対し、試験片No.3〜8のようなDLC膜が緻密で、炭素共析型電気Crめっき膜から放出される水素ガスが膜を通過できない場合においても、DLC膜の被覆形成工程に先駆けて、電気Crめっき膜を熱処理しておけば、DLC膜の膨れ現象の発生は避けられることが確められた。
以上の結果から、本発明においては、炭素共析型電気Crめっき膜の表面に被覆形成するためのDLC膜の貫通気孔率は、JSME S010−1996に規定されている電気化学的手法によって求められる3.4×10−2%以下の膜質に適用できることが判明した。
Figure 2011157610
(実施例2)
この実施例では、炭素共析型電気Crめっき膜の膜厚と、そのめっき膜熱処理条件とが、DLC膜の膨れ現象に及ぼす影響について調査した。
(1)供試基材
供試基材として、SUS304鋼から寸法:幅30mm×長さ50mm×厚さ3.2mmの試験片を切り出した。
(2)電気Crめっき処理
試験片の全面に直接、表1に示す蟻酸含有液を用いてめっきした炭素共析型電気Crめっき膜を、0.5、1.0、3.0、10、20mmの厚さに形成した。
(3)熱処理条件
炭素共析型電気Crめっき膜を形成した試験片を空気中で、温度100℃〜180℃に25h、250℃は2h、500℃は0.5hの熱処理を施した。なお、比較例として室温(20℃)に50h放置した電気Crめっき膜の試験片も準備した。
(4)DLC膜の形成
熱処理後の炭素共析型電気Crめっき膜試験片の表面に、プラズマCVD法によって、膜厚3μm(貫通気孔率0.8×10−2%)のDLC膜を被覆形成した。
(5)DLC膜の膨れ現象の観察方法
DLC膜を被覆形成した試験片を50℃の恒温槽中に、500h放置した後、DLC膜の表面を拡大鏡(×10)を用いて観察し、水素ガスに起因する膨れ現象の有無を調査した。
(6)試験結果
試験結果を表5に要約した。この結果から明らかなように、室温および熱処理温度150℃未満の条件で処理した炭素共析型電気Crめっき膜表面のDLC膜には、すべて膨れ現象が観察され、めっき膜中に吸収、固溶化された水素ガスが残存していることがわかる。また、DLC膜の膨れ現象は、めっき膜が薄いと少なく、めっき膜が厚いほど、このめっき膜中に固溶化している水素ガス量が多いことが認められた。これに対して、150℃以上の温度で0.5〜2h熱処理した被熱処理炭素共析型電気Crめっき膜の表面に被覆形成したDLC膜には、膨れ現象が観察されず、熱処理によってめっき膜中の水素ガスが放出されていたことが確認された。
Figure 2011157610
(実施例3)
この実施例では、基材表面に形成した炭素共析型電気めっき膜の種類と熱処理環境を変化させ、DLC膜の表面に発生する水素ガスに起因する膨れ現象の有無について調査した。
(1)供試基材
供試基材として、S45C鋼から寸法:幅30mm×長さ50mm×厚さ3.2mmの試験片を切り出した。
(2)電気Crめっき処理
試験片の全面にわたって、Cu、Niなどの下地めっきを施した後、表1に示す蓚酸含有液を用いて電気めっきし、炭素共析型電気Crめっき膜を形成したものと、Cu、Niめっき膜のみの試験片も、比較のため準備した。
(3)熱処理条件
それぞれのめっき膜を形成した試験片は、空気中、Arの不活性ガス中および真空中において、それぞれ2hの熱処理を行った後、DLC膜を被覆形成した。また、比較用の試験片として、熱処理を施していないめっき膜上にDLC膜を被覆形成した試験片も用意した。
(4)DLC膜の形成
めっき膜を形成しただけの上記試験片および熱処理を行っためっき膜試験片の表面に対して、プラズマCVD法によって、厚さ3μmのDLC膜(貫通気孔率0.8×10−2%)を被覆形成した。
(5)DLC膜の膨れ現象の観察方法
実施例2と同じ条件と方法で実施した。
(6)試験結果
試験結果を表6に要約した。この結果から明らかなように、熱処理を施さずに、DLC膜を被覆形成した試験片には、すべて膨れ現象が発生した。とくに、CuやNiの電気めっき膜の表面に形成したDLC膜にも、膨れ現象が認められたことから、めっき膜中に固溶化される水素ガスは、Crめっき膜に限らず、電気めっき膜全体の問題であることがわかる。ただ、Cu、Niめっき膜に形成されたDLC膜に発生する膨れ現象は、Crめっき膜の場合に比較すると、発生頻度が小さい傾向がある。
一方、被熱処理電気めっき膜の表面に被覆形成したDLC膜には、熱処理環境が空気中、不活性ガス中、真空中のいずれの場合においても膨れ現象は認められなかった。
Figure 2011157610
(実施例4)
この実施例では、炭素共析型電気Crめっき膜の熱処理の有無と、その表面に被覆形成したDLC膜の密着性をJIS R3255に規定されている薄膜の密着性を評価するためのスクラッチ試験を適用して調査した。
(1)供試基材
供試基材として、SUS304鋼、SS400鋼、Al(JIS H4000規定の1050級を用い、それぞれの基材から寸法:幅30mm×長さ50mm×厚さ3.2mmの試験片を切り出した。
(2)電気Crめっき処理
試験片の全面に表1に示す蟻酸含有液を用いて電気めっきし、炭素共析型電気Crめっき膜を直接、2μm厚に形成した。なお、比較例としてCrめっき膜を施工しない試験片を準備した。
(3)熱処理条件
炭素共析型電気Crめっき膜を形成した試験片を空気中で、SUS304鋼とSS400鋼は250℃×2h、Alは180℃×5hの熱処理を行った。
(4)DLC膜の形成
熱処理後の被熱処理炭素共析型電気Crめっき膜試験片の全面に、プラズマCVD法によって、膜厚2μmのDLC膜(貫通気孔率1.0×10−2%)を被覆形成した。
(5)スクラッチ試験方法
スクラッチ試験方法は、JIS R3255に規定されているガラス基板上に形成された薄膜の付着試験方法に準じて実施した。具体的には、ダイヤモンド針に30Nの負荷を与えつつ、針を移動することによって発生する傷の状態を拡大鏡によって観察して、DLC膜の剥離の有無を調査した。
(6)試験結果
スクラッチ試験結果を表7に要約した。この結果から明らかなように、試験片に直接DLC膜を被覆形成した場合(No.1、4、7)では、スクラッチ疵の周辺のDLC膜に剥離現象が明瞭に観察され、密着性に乏しいことがわかる。これに対して、炭素共析型電気Crめっき膜を形成後DLC膜を直に被覆形成した場合(No.2、5、8)および炭素共析型電気Crめっき膜を熱処理した後、DLC膜を被覆形成した試験片(No.3、6、9)は、いずれもDLC膜の表面にスクラッチ疵は発生するものの、剥離部は認められず良好な密着性を維持している状況が確認された。これらの結果から、炭素共析型電気Crめっき膜の場合、これを熱処理しても、その表面に被覆形成するDLC膜の密着性に悪影響を与えないことが判明した。
なお、図8は、この実施例において実施したスクラッチ試験後のDLC膜表面を観察記録した代表的な写真を示したものである。試験片基材に直接DLC膜を被覆形成したDLC膜のスクラッチ疵の周辺には、小さなDLC膜の剥離現象が認められるのに対して、被熱処理炭素共析型電気Crめっき膜の表面に形成したDLC膜ではスクラッチ疵のみが観察されるのみであり、良好な密着性を示している。
Figure 2011157610
(実施例5)
この実施例では、電気Crめっき膜の熱処理の有無と、Siを共析させたDLC膜の膨れ現象との関係を調査した。
(1)供試基材
供試基材として、SUS304鋼を用い、寸法:幅30mm×長さ50mm×厚さ3.2mmの試験片を作製した。
(2)電気Crめっき処理
試験片の全面に直接、炭素共析型電気Crめっき膜を3μm厚に形成した。
(3)熱処理条件
炭素共析型電気Crめっき膜を形成した試験片を空気中で、240℃×2hの熱処理を施した。なお、比較例として、熱処理を施さない電気Crめっき膜試験片も準備した。
(4)DLC膜の形成
電気Crめっき膜試験片の全面に対して、プラズマCVD法によって、厚さ3μmのDLC膜を被覆形成したが、膜中にSi微粒子(粒径2.34×10−10m)を3、8、15、30原子%共析させた。また、Si微粒子を共析させないDLC膜も作製した。
(5)DLC膜の膨れ現象の観察方法
実施例2と同じ条件と方法で実施した。
(6)試験結果
試験結果を表8に要約した。この結果から明らかなように、炭素共析型電気Crめっき膜形成試験片を熱処理せずに、しかも通常のDLC膜を被覆形成したもの(No.1)では、複数ヵ所に膨れ現象の発生が認められた。これに対して、同じめっき膜だけと、熱処理してなるものに対し、Siを共析させたDLC膜(No.2〜5)を被成したものでは、膨れ現象は全く観察されなかったので、本発明に係る炭素共析型電気Crめっき膜に対する熱処理の施工は、水素ガスに起因するSi共析DLC膜の場合でも、同様に膨れ現象が防止できることが判明した。
Figure 2011157610
本発明に係る技術は、金属製基材の表面にDLC膜を被覆形成して使用する分野であれば、すべてに適用可能な基本的な技術である。例えば、各種の機械装置の軸受、シャフトなどの摺動部品をはじめ、金型などの耐摩耗性、低摩耗係数、耐食性、良好な滑り性、離形性などの目的に使用される部材のほか、液体、スラリー、粉体などを搬送、排気、排水するポンプ、ブロワー、コンプレッサー用部に対しても好適に利用できる。
51 反応容器
52 被処理体
53 導体
54 高電圧パルス発生電源
55 プラズマ発生用電源
56 重畳装置
57a、57b バルブ
58 アース線
59 高電圧導入端子

Claims (11)

  1. 金属製基材と、その表面に被覆形成された、被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜と、その被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜表面に被覆形成されたDLC膜とからなることを特徴とするDLC膜被覆部材。
  2. 前記被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜は、厚さ:0.5〜10mm、硬さHv:1000〜1100の特性を有する炭化クロム含有膜であって、熱処理によってめっき膜中の水素ガスが放出されていると共に、めっき直後の熱処理前より硬さが硬化して、Hv≧700の膜質に変化したものであることを特徴とする請求項1に記載のDLC膜被覆部材。
  3. 前記被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜の表面に被覆したDLC膜の残留応力が1.0GPa以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のDLC膜被覆部材。
  4. 前記DLC膜は、炭素と水素を主成分とするアモルファス状を呈し、厚さが0.5〜20μm、かつ貫通気孔率が3.4×10−2%以下の膜質のものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のDLC膜被覆部材。
  5. 前記DLC膜は、炭素と水素を主成分として含む他、Siの微粒子を3〜20原子%の割合で含む固形物含有皮膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載のDLC膜被覆部材。
  6. 金属製基材の表面に、蓚酸もしくは蟻酸を含有するクロム酸めっき液中で電気めっきして得られる炭素共析型電気クロムめっき膜を被覆形成し、次いで、その炭素共析型電気クロムめっき膜を熱処理することにより、被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜とし、その後、その被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜の表面にDLC膜を被覆形成することを特徴とするDLC膜被覆部材の製造方法。
  7. 前記被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜は、厚さ:0.5〜10mm、硬さHv:1000〜1100の特性を有する炭化クロム含有膜であって、熱処理によってめっき膜中の水素ガスが放出されていると共に、めっき直後の熱処理前より硬さが硬化して、Hv≧700の膜質に変化したものであることを特徴とする請求項1に記載のDLC膜被覆部材の製造方法。
  8. 前記被熱処理炭素共析型電気クロムめっき膜の表面に被覆したDLC膜の残留応力が1.0GPa以下であることを特徴とする請求項6または7に記載のDLC膜被覆部材の製造方法。
  9. 炭素共析型電気クロムめっき膜の熱処理は、空気中、不活性ガス中あるいは真空中のなかから選ばれるいずれかの環境中で、温度;150〜500℃、時間;0.5〜25時間の条件で行うことを特徴とする請求項6〜8のいずれか1に記載のDLC膜被覆部材の製造方法。
  10. 前記DLC膜は、炭素と水素を主成分とするアモルファス状を呈し、厚さが0.5〜20μm、かつ貫通気孔率が3.4×10−2%以下の膜質のものであることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1に記載のDLC膜被覆部材の製造方法。
  11. 前記DLC膜は、炭素と水素を主成分として含む他、Siの微粒子を3〜20原子%の割合で含む固形物含有皮膜であることを特徴とする請求項6〜10のいずれか1に記載のDLC膜被覆部材の製造方法。
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