JP2004001079A - 連続鋳造方法、連続鋳造装置および連続鋳造鋳片 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】(1)未凝固部を含む鋳片をバルジングさせた後に、圧下ロール対を用いて圧下する連続鋳造方法であって、連続鋳造機内において、圧下ロール対の下部ロールを鋳片の下側パスラインよりも突出させて圧下する鋼の連続鋳造方法。(2)鋳片をバルジングさせた後に、連続鋳造機内において、圧下ロール対(7)の下部ロール(7b)を鋳片の下側パスライン(9)よりも突出させて圧下するロール対(7)を配置した鋼の連続鋳造装置。(3)前記(1)の連続鋳造方法により製造された鋳片の厚さ方向中心部の中心偏析比C/Coが0.7〜1.2の範囲である鋳片。
【選択図】 図5
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、連続鋳造による鋼鋳片(以下、単に「鋳片」という)の厚さ方向中心部に発生する成分偏析を軽減し得る連続鋳造方法、連続鋳造装置およびこの方法により製造された鋳片に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、鋼板の圧延では、圧延時の上下ロールによる圧下量は上下対称、すなわち上部ロールによる圧下量と下部ロールによる圧下量とがほぼ同等となるように行われる。これに対し、最近、湾曲型あるいは垂直曲げ型の連続鋳造機内で、未凝固部を含む鋳片の圧下が行われるようになってきた。その際、鋳造スタート時のダミーバーを支障なく通過させる必要があり、このため、未凝固部を含む鋳片の圧下の際には、下部ロールは固定し、かつ圧下点を鋳片の下側パスラインと同レベルに設定し、上部ロール単独で圧下するのが通常であった。
【0003】
連続鋳造による鋳片の製造では、しばしば中心偏析と呼ばれる内部欠陥が発生し、問題となる。この中心偏析は、鋳片の最終凝固部である厚さ方向中心部にC、S、P、Mnなどの溶鋼成分が濃化し、正偏析する現象である。前記の中心偏析は、鋼材の靱性の低下や水素誘起割れの原因となるため、特に、厚板製品で深刻な問題となることがある。これを防止する方法として次のような技術が開示されている。
【0004】
特許文献1では、凝固収縮量より大きい3mm以上の大圧下を与えて、内部割れを発生させることなく中心偏析を解消する方法が開示されている。この方法は、鋳片の凝固完了点近傍の上流側に設置した電磁攪拌装置あるいは超音波印加装置を用いて溶鋼流動により樹枝状晶を切断し、凝固完了点近傍に等軸晶域を形成させた上で、圧下する方法である。しかし、この方法では、圧下ロールおよびフレームの撓みなどが発生し、充分な圧下効果が得られないという問題がある。その理由は、変形抵抗の大きい鋳片両端部の凝固部を圧下し、塑性変形させるため、変形抵抗の大きい鋼種や、鋳片両端部が低温になり変形抵抗が大きくなった場合などには、圧下ロールなどが撓むからである。
【0005】
圧下力を効率的に付与する対策案として、特許文献2では、鋳片の幅方向中央の未凝固部を、キャメル・クラウン・ロールと呼ばれる大径ロールの中央部に突出部を設けた段付きロールで局部的に圧下する方法が開示されている。しかし、この方法では、段付きロールで局部的に圧下するため鋳片表面に凹部が形成され、その後の圧延工程で寸法不良、平坦度不良の原因となる。
【0006】
本発明者らは、特許文献3に記載されるように、鋳型直下から引き抜き方向に配列されたガイドロールの鋳片厚さ方向の間隔を段階的に増加させて未凝固部を含む鋳片を一旦バルジングさせ、凝固完了点直前にて前記バルジング量相当分を圧下する方法を提案した。しかしながら、この方法においても、未凝固層の大きい領域での圧下が不充分であると、中心偏析の改善効果が得られない、等の問題があることが判明した。
【0007】
また、鋳片のバルジングを伴わない条件下で鋳片の内部割れの発生を防止する圧下方法としては下記の方法が開示されている。
【0008】
特許文献4には、等軸晶が鋳片下面側で多く発生しやすい湾曲型連鋳機を用い、未凝固部分を含む鋳片を圧下する際に、鋳片下面側での圧下力を鋳片上面側よりも増大させる連続鋳造方法が開示されている。なお、この方法では、前記の圧下力を圧下量に言い換える場合があるが、圧下力または圧下量のいずれの場合にも、鋳片のバルジングを行わずに圧下することにより発生する内部割れを防止することを目的としたものであり、成分偏析の軽減効果も十分なものとはいえない。
特許文献5には、連続鋳造機後端の定められた箇所に圧延機を固定して設置し、鋳造したままの未凝固部を含む鋳片を意図的にはバルジングさせずに圧延する方法が開示されている。この方法は、鋳片厚に対する幅の比が5以上で、鋳片厚に対する未凝固厚の比が1/2以下の鋳片を、鋳片厚と未凝固厚とから求められる所定の値を超える条件で圧延する方法である。しかし、ここで開示された方法も、鋳片のバルジングを行わずに、大圧下を行った時の鋳片の内部割れを防止することを目的としたものであり、成分偏析の防止効果は満足できるものではない。
【0009】
図1は、連続鋳造において従来の圧下方法を実施するための装置の構成例を示す側面方向の概略の縦断面図である。図1において、浸漬ノズル1を経て鋳型3内に注入された溶鋼4は、水冷されている鋳型3およびその下方に多数配設されたスプレーノズル(図示せず)から噴射されるスプレー水により冷却され、凝固シェル5を形成する。その内部に未凝固溶鋼11を含んだ鋳片はガイドロール6により保持され、上下対をなす圧下ロール対7により圧下され、ピンチロール14により引き抜かれる。図中に両端に矢印を付して示した領域B1−B2が、溶鋼静圧によりバルジングしているバルジング領域である。圧下ロール対7の下部ロール7bは、鋳片の下側パスライン9に沿ってそれと同じ高さレベルに設定されている。
【0010】
図2は、バルジングが鋳片の下側、すなわち地側に偏して生じた鋳片、つまり、地側バルジングの鋳片を前記図1に示した装置により従来の圧下方法で圧下した場合の圧下位置の近傍を拡大して模式的に示した図である。図2(a)は側面図、図2(b)は図2(a)におけるA−A矢視断面図である。図2中の一点鎖線は、鋳片の厚さ方向の中心線(以下、”短辺面中心線”という)L1およびL2を表す。なお、符号Sを付した部分はバルジングにより厚さが増した部分、すなわちバルジング量相当分である。
【0011】
図2に示すように、圧下前の短辺面中心線L1は、圧下時のロールキャビティー(圧下時の圧下上部ロール7aと圧下下部ロール7bの間隙距離)の中心位置と高さレベルが異なるため、バルジング量相当分を圧下しようとすると、圧下と同時に鋳片をδ(曲げ量)だけ曲げなければならない。したがって、このとき生じる曲げ反力に抗して必要となる力が圧下力の損失(ロス)となり、圧下力が不足するので、前述のようにバルジング量相当分のみの圧下力では圧下量が目標値に到達しなくなる。
【0012】
図3は、バルジングが鋳片の上側および下側にほぼ均等に生じた天側地側均等バルジングの鋳片を同じく図1に示した装置により従来の圧下方法で圧下した場合の圧下位置の近傍を模式的に示した図である。図3(a)は側面図、図3(b)は図3(a)におけるA−A矢視断面図であり、図中の一点鎖線は短辺面中心線L1およびL2を表し、符号Sを付した部分は、バルジングにより厚さが増した部分、すなわちバルジング量相当分を表す。
【0013】
図3においても、圧下前の短辺面中心線L1は圧下時のロールキャビティーの中心位置と高さレベルが異なるため、圧下と同時に鋳片をδだけ曲げる必要があり、この曲げに要する力が圧下力のロスとなる。
【0014】
このように、従来、連続鋳造機内で未凝固部を含む鋳片を一旦バルジングさせた後圧下するに際して、上下対称な圧下方式を採用するという発想がなく、圧下点を鋳片の下側パスラインと同レベルに設定して、上部ロール単独で圧下する方式が採用されてきた。その理由は、下部ロールを下側パスラインから突出させた状態では、鋳造スタート時のリンク式ダミーバーや未凝固部が含まれている鋳片を通過させる際に、その突出部が障害となって引き抜き停止等の支障が生じるという懸念があったからである。
【特許文献1】
特開昭61−42460号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開昭61−132247号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】
特開平9−57410号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】
特開昭62−28056号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】
特開平7−132355号公報(特許請求の範囲)
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記の未凝固部を含む鋳片を一旦バルジングさせた後、凝固完了点直前にて鋳片を圧下する場合に生じていた上記の問題を解消し、健全な鋳片を製造し得る鋼の連続鋳造方法、連続鋳造装置およびこの方法で製造された中心偏析の少ない鋳片を提供することを目的としている。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、下記の(1)および(2)に示される鋼の連続鋳造方法、(3)〜(5)に示される連続鋳造装置、並びにこの方法で製造された下記(6)に示される鋳片である。
【0017】
(1)未凝固部を含む鋳片をバルジングさせた後に、圧下ロール対を用いて圧下する連続鋳造方法であって、連続鋳造機内において、圧下ロール対の下部ロールを鋳片の下側パスラインよりも突出させて圧下する鋼の連続鋳造方法。
【0018】
(2)圧下ロール対の下部ロールを鋳片の下側パスラインよりも突出させる量が、鋳片をバルジングさせる厚さ以下である前記(1)に記載の鋼の連続鋳造方法。
【0019】
(3)未凝固部を含む鋳片をバルジングさせた後に、圧下ロール対を用いて圧下する連続鋳造装置であって、連続鋳造機内において、圧下ロール対の下部ロールを鋳片の下側パスラインよりも突出させた圧下ロール対を配置する鋼の連続鋳造装置。
【0020】
(4)圧下ロール対の下部ロールが鋳片の下側パスラインよりも突出する量が、鋳造開始前および鋳造中に変更可能であり、圧下に伴う圧下ロール対の負荷荷重の変動に対して突出量を一定に保持する制御機構を有する前記(3)に記載の鋼の連続鋳造装置。
【0021】
(5)連続鋳造機内における圧下ロール対の配置位置が、任意の圧下位置に変更可能である前記(3)または(4)に記載の連続鋳造装置。
【0022】
(6)鋳片の厚さ方向中心部におけるMnの中心偏析比C/Coが、下記(b)式で表される幅Wにわたって下記(a)式で表される関係を満たすことを特徴とする前記(1)または(2)に記載の鋼の連続鋳造方法により製造された鋳片。
【0023】
0.7≦C/Co≦1.2 ・・・(a)
W=Wo−2×d ・・・(b)
ここで、C :鋳片の厚さ方向中心部におけるMnの含有率(質量%)、
Co:鋳片のMnの平均含有率(質量%)、
Wo:鋳片の幅(mm)、
d :凝固シェルの厚さ(圧下位置における固相率0.8の鋳片の短辺表層からの距離)(mm)、である。
【0024】
上記の(b)式について、図4を用いて説明する。
図4は、圧下ロール対により圧下する直前および直後の鋳片の断面を模式的に示す図である。図4(a)は、C、S、P、Mnなどの溶鋼成分が濃化している未凝固溶鋼11を含む鋳片12の圧下直前の状態を示し、図4(b)は、圧下力を加えられて、圧着された直後の鋳片の横断面の状態を示す。図中の一点鎖線L1およびL2は、鋳片の厚さ方向の中心線を表している。
【0025】
上記(b)式のWoは、鋳造後の鋳片12の幅である。また、dは、鋳片12の凝固シェルの厚さであり、ここでは、圧下位置における固相率0.8の鋳片短辺表層からの距離を意味している。このdは、鋳片長辺表面からの凝固シェルの厚さにもほぼ等しく、したがって、鋳片の長辺表面からの凝固シェルの厚さにより代用することもできる。なお、固相率は、前記の特許文献3に記載されるように、例えば、鋳片厚さ方向の非定常伝熱解析により求めることができる。
【0026】
図4(a)から明らかなように、Woから2×dを差し引いた部分が(b)式のWである。したがって、上記(6)において、”(b)式であらわされる幅Wにわたって(a)式を満たす”とは、上記(6)に記載の鋳片が上記(1)または(2)に記載の方法で製造される際、圧下時に未凝固溶鋼11が含まれていた部分にわたって上記(a)式で表される関係が満たされていることを意味する。
【0027】
上述した本発明は、下記の知見に基づきなされたものである。
連続鋳造機内で未凝固部を含む鋳片を圧下する際、鋳型内湯面(メニスカス)からの溶鋼静圧によりバルジングしている部分だけに対して加える圧下力では圧下量が目標値に到達せず、圧下力が不足する状況が観察された。本発明者らはその原因について調査した結果、本来、バルジングした鋳片の厚さの減少に消費されるべき圧下力が、鋳片の曲げ等の変形に一部消費され、効率的な圧下になっていないことが判明した。つまり、バルジングさせた鋳片の上部ロールのみによる圧下では、短辺側の凝固部分の曲げおよび矯正のために力が必要となり、上部ロールのみによる圧下では圧下力が不足するのである。これは、連続鋳造機内での従来の未凝固圧下においては、圧下ロール対の下部ロールが、以下に示すように鋳片の下側パスラインと同レベルに設定され、下側パスラインから突出させるような設定にはなっていなかったことによるものである。
【0028】
そこで、本発明者らは、連続鋳造機の鋳片の下側パスラインから下部ロールを意図的に突出させて、バルジング後の鋳片を圧下したところ、下部ロールを突出させずに圧下する場合に比べて圧下力、圧下量を増加させることができ、未凝固部を含む鋳片を効率よく圧下できることを知見し、上記本発明をなすに至った。
【0029】
図5は、本発明の連続鋳造方法を実施するための装置の構成例を示す側面方向の概略の縦断面図である。前記図1に示した装置を用いた従来の圧下方法の場合と同様に、浸漬ノズル1を経て鋳型3内に注入された溶鋼4は、鋳型3および多数の図示しないスプレーノズルから噴射されるスプレー水で冷却され、凝固シェル5を形成する。その内部に未凝固溶鋼11を含んだ鋳片は、ガイドロール6により保持される。図中に両端に矢印を付して示した領域B1−B2がバルジング領域である。次いで、鋳片は、上下対をなす圧下ロール対7で圧下され、引き抜かれる。本発明では、圧下ロール対7の下部ロール7bは鋳片の下側パスライン9から上方へδ1だけ突出させた状態で設置されている。
【0030】
図6は、バルジングが鋳片の上側および下側にほぼ均等に生じた天側地側均等バルジングの鋳片を本発明で規定する圧下方法で圧下した場合の圧下位置の近傍を模式的に示した図である。ここで、同図は前記の図5に示した構成を有する装置を用いた場合を示している。図6(a)は側面図、図6(b)は図6(a)におけるA−A矢視断面図である。図中の一点鎖線は、短辺面中心線L1およびL2を、また、符号Sを付した部分はバルジングにより厚さが増した部分を表す。
【0031】
図6(a)において、圧下ロール対の圧下下部ロール7bは、鋳片の下側パスライン9から上方へδ1だけ突出しているので、圧下前の短辺面中心線L1と圧下ロールキャビティーの中心位置とは高さレベルが同一になり、圧延の前後で短辺面中心線L1およびL2のレベルは変化しない。したがって曲げ変形が生じず、鋳片の曲げ変形に要する力は不要となる。その結果、圧下ロールによる最大圧下力をそのままバルジングさせた鋳片に伝達することが可能となり、効率のよい圧下を実現することができる。
【0032】
【発明の実施の形態】
上述のとおり、本発明の連続鋳造方法は、未凝固部を含む鋳片をバルジングさせた後に、圧下ロール対を用いて圧下する連続鋳造方法であって、連続鋳造機内において、圧下ロール対の圧下下部ロールを鋳片の下側パスラインよりも突出させて圧下する鋼の連続鋳造方法である。
【0033】
この方法においては、未凝固部を含む鋳片をバルジングさせた後、圧下ロール対を用いて鋳片を圧下する。なお、圧下は、図1または図5に示すように凝固完了点10の手前近傍で行えばよい。また、圧下量は、バルジング相当量を圧下するのが好ましいが、バルジング相当量を超えても構わない。
【0034】
また、圧下は通常は連続鋳造機内で行うが、装置の構成によっては連続鋳造機の機端で行ってもよい。
【0035】
圧下の際、圧下下部ロールを下側、すなわち固定側のパスラインよりも突出させるのは、前述したように、圧下に伴う鋳片の曲げ変形を極力少なくして圧下力を鋳片の圧下に有効に作用させ、効率のよい圧下を行うためである。
【0036】
圧下下部ロールの突出量δ1は、わずかに突出させるだけでも改善効果が認められるので、鋳片などの通過に支障をきたさない範囲内であればその範囲は特に限定されない。しかし、地側のみがバルジングした場合を想定すると、鋳片をバルジングさせる厚さ、つまり、総バルジング量以下とするのが好ましい。より好ましくは、バルジングが鋳片の上側および下側にほぼ均等に生じるように鋳込み条件を選定し、圧下下部ロールの突出量δ1を総バルジング量の1/2程度とするのがよい。これによって、圧下前の短辺面中心線を圧下時のロールキャビティーの中心位置と同一レベルにすることが可能となり、原理的には圧下に際して、鋳片に曲げ変形を生ずることなく、効率のよい圧下を実現することができる。
【0037】
本発明の連続鋳造方法において、圧下ロールとしては平行ロールを用いればよく、鋳片の全幅にわたり効果的に圧下力を加えることができる。
【0038】
なお、圧下下部ロールの突出量δ1は、一定値に固定されていると操業上不都合な場合もあることから、下記に述べるように、油圧などにより操業に応じて昇降可能に構成されていることが好ましい。これによって、本発明の方法を実施するに際し、柔軟性を確保することができる。
本発明の別の発明は、前記のとおり、未凝固部を含む鋳片をバルジングさせた後に、圧下ロール対を用いて圧下する連続鋳造装置であって、連続鋳造機内において、圧下ロール対の圧下下部ロールを鋳片の下側パスラインよりも突出させた圧下ロール対を配置した鋼の連続鋳造装置である。
【0039】
さらに、この連続鋳造装置は、圧下ロール対の圧下下部ロールが鋳片の下側パスラインよりも突出する量が、鋳造開始前および鋳造中に変更可能であって、圧下に伴う圧下ロール対の負荷荷重の変動に対して突出量を一定に保持する制御機構を有してもよいし、これに加えて、連続鋳造機内における圧下ロール対の配置位置が、鋳片の引き抜き方向の任意の圧下位置に変更可能であってもよい。
【0040】
図7は、圧下ロール昇降装置の例を示す図であり、図7(a)は圧下ロール昇降装置の側面図であり、図7(b)は正面図である。なお、図7(a)においては、圧下上部ロール昇降装置の一部および鋳片の記載を省略している。
【0041】
圧下ロール対は圧下上部ロール7a、圧下下部ロール7b、圧下上部ロール7aを昇降させるための圧下上部ロール昇降装置71、および圧下下部ロール7bを昇降させるための圧下下部ロール昇降装置72により主として構成されている。なお、前記のロール昇降装置は、例えば油圧駆動または電気駆動装置などを用いればよい。
【0042】
圧下下部ロール昇降装置72と圧下ロールセグメント基盤79との間には、圧下荷重を計測できるロードセル76が設置されている。また、圧下上部ロール7aおよび圧下下部ロール7bの高さ方向の位置は、それぞれ圧下上部ロール位置検出装置78および圧下下部ロール位置検出装置77により測定され、それらの圧下ロール位置の測定値は、圧下ロール位置制御装置73に送られる構成となっている。
【0043】
さらに、圧下後の鋳片8を支持するサポートロール7cおよび7dが備えられており、上記の装置一式が圧下ロールセグメント7Sに組み込まれ、一体化されている。
【0044】
次に、これらの圧下ロール昇降装置の動作について説明する。
【0045】
鋳片の鋼種、サイズなどに基き、圧下ロール昇降装置の剛性を考慮して、圧下ロール位置制御装置73により、鋳片の下側パスライン9からの圧下下部ロール7bの突出量δ1を設定する。図5に示した装置による圧下方法において説明したように、未凝固溶鋼を含んだ鋳片は、圧下上部ロール7aおよび圧下下部ロール7bにより圧下された後、サポートロール7cおよび7dにより案内および支持されながら、圧下後鋳片8として引き抜かれる。
【0046】
このとき、鋳片の鋼種や凝固の進行状況の変動にともない、圧下上部ロール7aおよび圧下下部ロール7bにかかる負荷荷重が変動し、その結果、圧下下部ロールの突出量δ1、および圧下上部ロール7aと圧下下部ロール7bとの間隙、すなわちロールキャビティーも変動する。この変動は、圧下ロール位置検出装置77および78により検出され、圧下ロール位置制御装置73に送られる。圧下位置制御装置73では、圧下下部ロールの突出量δ1、および前記圧下ロールのロールキャビティーの目標値からの偏差を演算し、圧下下部ロールの突出量δ1および圧下ロールのロールキャビティーの必要修正量を演算する。圧下ロール位置制御装置73は、それらの演算結果にしたがって、圧下下部ロール昇降用油圧駆動装置75および圧下上部ロール昇降用油圧駆動装置74を駆動させることにより、圧下下部ロール昇降装置72および圧下上部ロール昇降装置71を、それぞれ作動させる。
【0047】
以上の説明は、鋳造開始前に圧下下部ロールの突出量δ1を設定する場合についての説明であるが、鋳造中においても、同様に圧下下部ロールの突出量δ1の設定を変更することができる。
【0048】
図8は、圧下ロールの配置位置可変機構の例を示す図である。
【0049】
鋳片の湾曲を矯正する矯正領域C1−C2の下流側には、圧下ロールセグメント7Sの配置位置を変えることができる共用セグメント帯R1−R2があり、さらに、その下流側にはピンチロール14が配置されている。未凝固溶鋼を含んだ鋳片は、前記の矯正領域C1−C2を経て、共用セグメント帯R1−R2に進み、この領域において圧下ロール対により圧下を受け、さらに、ピンチロール14にて引き抜かれる。
【0050】
ここで、共用セグメント帯には、圧下ロールセグメント7Sおよび通常セグメント13が配置されており、圧下ロールセグメント7Sと通常セグメント13とは配置位置に関して互換性を有している。同図において、圧下ロールセグメント7Sは共用セグメント帯の最も下流側の位置に配置されているが、例えば、実線の矢印で示すように、上流側に配置位置を変更し、上流側に配置されていた通常セグメント13を、圧下ロールセグメント7Sが配置されていた最も下流側の位置に配置することができる。
【0051】
同様にして、点線の矢印で示された任意の位置に、圧下ロールセグメント7Sを配置することができる。このようにして、圧下ロール対の配置位置を、鋳片の引き抜き方向の任意の圧下位置に変更することができる。また、予備の圧下セグメントを予め調整、整備して待機させておくことにより、前記の圧下セグメントの配置位置変更時間が短縮され、装置の稼動率を高めることができる。
【0052】
また、本発明の連続鋳造方法において必須の装置ではないが、圧下ロール対の上流側に電磁攪拌装置を設置してもよい。未凝固部の溶鋼に流動を与えることにより偏析を分散することができ、効果的である。
【0053】
本発明のさらに別の発明は、上記本発明の連続鋳造方法で製造された鋳片であって、鋳片の厚さ方向中心部におけるMnの中心偏析比C/Coが、下記(b)式で表される幅Wにわたって下記(a)式を満たす鋳片である。なお、(a)式および(b)式において、Cは鋳片の厚さ方向中心部におけるMnの含有率(質量%)を、Coは鋳片のMnの平均含有率(質量%)を表し、また、Woは鋳片幅(mm)を、dは凝固シェルの厚さ(圧下位置における固相率0.8の鋳片短辺表層からの距離で、単位はmm)を表す。
【0054】
0.7≦C/Co≦1.2 ・・・(a)
W=Wo−2×d ・・・(b)
上記の(a)式において、C/Coの下限を0.7とし、上限を1.2とした理由は、下記のとおりである。
【0055】
C/Coの値が0.7未満では、鋼材の機械的特性が満足されない。他方、C/Coが1.2を超えると、局所的に強度が高くなりすぎ、材料が不均質になりやすいからである。具体的には、中心偏析に起因して、鋼材の靱性の低下や水素誘起割れが発生し、特に、厚板製品で深刻な問題となるからである。
【0056】
また、上記(b)式は、先に述べたように、本発明の鋳片が、この鋳片を製造する際、圧下時にC、S、P、Mnなどの溶鋼成分が濃化している未凝固溶鋼が含まれていた部分全てにわたって上記(a)式を満たしていること、すなわち、圧下時に未凝固溶鋼が存在していた部分の改善を行うことを表している。
【0057】
【実施例】
図5、詳しくは図7および図8に示される構成を有し、厚さ235mm、幅1800〜2300mmの鋳片を製造することができる垂直曲げ型スラブ連続鋳造機を用い、炭素濃度C:0.06〜0.07質量%の低炭素鋼の厚板用スラブ(鋳片)を、バルジングを実施後、最大圧下能力が4.90×106Nの対向ロール対で圧下する方法により鋳造する試験を行った。なお、試験方法は、前記の図5、図7および図8についての説明で述べたのと同様の方法によった。
【0058】
試験に当たっては、圧下下部ロールの突出量を0、1、10、12および15mmの範囲で変化させ、得られたそれぞれの鋳片について、鋳片の厚さ方向中心部におけるMnの中心偏析比C/Coを求め、中心部の偏析状況を評価した。
【0059】
試験条件および結果を表1にまとめて示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1において、”上部ロールの目標圧下量”とは、バルジング量(表1中に(▲1▼)と表示)から設定した下部ロール突出量(同じく(▲2▼)と表示)を差し引いた圧下上部ロールの目標の圧下量(すなわち▲1▼−▲2▼)を示す。”圧下量”とは、バルジングさせた鋳片の厚さから圧下時の実績ロールキャビティを差し引いた実績の圧下量を示す。
【0062】
最大で、4.90×106Nとなるように圧下荷重を設定したが、圧下下部ロール昇降装置の下部に配置したロードセルにより測定した結果、圧下条件により圧下荷重は1.67×106N〜4.90×106Nの範囲の値となった。また、圧下下部ロールの突出量を増加するにつれて、このロードセルによる圧下荷重の測定値は増大する傾向を示した。
【0063】
すなわち、圧下下部ロールの突出にともない、圧下下部ロールが鋳片の圧下に寄与する比率が大きくなったことがわかる。圧下上部ロールによる圧下力のうち、鋳片の曲げ変形に費やされる圧下力が減じられ、鋳片の圧下自身に最大圧下力が作用するようになったためである。
【0064】
また、”Mnの最大中心偏析比C/Co”は、鋳造された鋳片をマクロエッチングして観察した後、Mnの濃化部と推測される鋳片の厚さ方向中心部を含む鋳片サンプルを任意に採取し、マッピング機能付きEPMAを用いて電子ビーム径を50μmとして20mm角視野で1〜4視野を観察し、鋳片のMn平均濃度(Co)に対する中心近傍の濃化部のMn濃度(C)の比、すなわち中心偏析比C/Coを求め、その最大値を代表値として表示した。
【0065】
表1の”Mnの最大濃度比C/Co”の欄に示したように、圧下下部ロールを突出させなかった、すなわち突出量が0mmの比較例である試験番号1〜6では、いずれもC/Coの値が本発明の鋳片で規定する上限1.2を超えている。
【0066】
これに対して、圧下下部ロールを鋳片の下側パスラインよりも突出させた本発明例である試験番号7〜16では、C/Coの値は、試験番号7および8の一部を除いて、1.0〜1.2の範囲内であり、中心偏析が改善された。この結果から明らかなように、圧下下部ロールを鋳片の下側パスラインよりも突出させることが中心偏析を改善する上で重要である。
【0067】
試験番号7および8のように、圧下下部ロールを1mm突出させるだけであっても改善の兆候が認められるが、鋳片端部の凝固遅れ部でC/Coの値が高くなる場合があるので、圧下下部ロールの突出量は総バルジング量の50%±10%程度の値とするのが好ましい。
バルジング量を30mm、圧下下部ロール突出量を15mmとした本発明例の試験番号15および16では、C/Coの値は試験番号9〜14の場合と同程度の1.0〜1.1であったが、鋳片に軽微な内部割れが発生していた。このような結果から、バルジング量は25mm以下の範囲とすることが好ましい。
【0068】
以上説明したとおり、本発明の連続鋳造方法によれば、未凝固部を含む鋳片をバルジングさせた後圧下するに際し、圧下力の損失を伴うことなく効率よく圧下することができ、鋳片の厚さ方向中心部に発生する偏析を軽減することが可能となる。また、本発明の連続鋳造装置は、鋳片のパスラインよりも上部への圧下下部ロールの突出量を安定して制御でき、また、圧下ロール対の位置を任意の位置に変更できるから、本発明の連続鋳造方法を実施するのに好適である。さらに、本発明の方法により製造された鋳片は、未凝固溶鋼が含まれていた鋳片の幅方向全域にわたって中心偏析が改善された良好な品質の鋳片である。
【0069】
【発明の効果】
本発明の連続鋳造方法によれば、未凝固部を含む鋳片をバルジングさせた後圧下するに際し、圧下力の損失を伴うことなく効率よく圧下することができ、鋳片の厚さ方向中心部に発生する偏析を軽減することが可能となる。また、本発明の連続鋳造装置は、鋳片のパスラインよりも上部への圧下下部ロールの突出量を安定して制御でき、また、圧下ロール対の位置を任意の位置に変更できるから、本発明の連続鋳造方法を実施するのに好適である。さらに、本発明の方法により製造された鋳片は、未凝固溶鋼が含まれていた鋳片の幅方向全域にわたって中心偏析が改善された良好な品質の鋳片である。
【図面の簡単な説明】
【図1】連続鋳造において従来の圧下方法を実施するための装置の構成例を示す概略の側面方向の縦断面図である。
【図2】地側がバルジングした鋳片を従来の圧下方法で圧下した場合の圧下位置の近傍を拡大して模式的に示した図であり、図2(a)は側面図、図2(b)は図2(a)のA−A矢視断面図である。
【図3】天側地側均等バルジングの鋳片を従来の圧下方法で圧下した場合の圧下位置の近傍を拡大して模式的に示した図であり、図3(a)は側面図、図3(b)は図3(a)のA−A矢視断面図である。
【図4】圧下ロール対を用いて圧下する際の鋳片の断面を模式的に示す図であり、図4(a)は圧下直前の鋳片の厚さ方向縦断面図、図4(b)は圧下直後の厚さ方向縦断面図である。
【図5】本発明の連続鋳造方法を実施するための装置の構成例を示す側面方向の概略の縦断面図である。
【図6】天側地側均等バルジングの鋳片を本発明で規定する圧下方法で圧下した場合の圧下位置の近傍を拡大して模式的に示した図であり、図6(a)は側面図、図6(b)は図6(a)におけるA−A矢視断面図である。
【図7】圧下ロール昇降装置の例を示す図であり、図7(a)は圧下ロール昇降装置の側面図であり、図7(b)は正面図である。
【図8】圧下ロール対の配置位置可変機構の例を示す図である。
【符号の説明】
1:浸漬ノズル、
2:鋳型内湯面(メニスカス)、
3:鋳型、
4:溶鋼、
5:凝固シェル、
6:ガイドロール、
7:圧下ロール対、
7a:圧下上部ロール、
7b:圧下下部ロール、
7c、7d:サポートロール、
7S:圧下ロールセグメント、
71:圧下上部ロール昇降装置、
72:圧下下部ロール昇降装置、
73:圧下ロール位置制御装置、
74:圧下上部ロール昇降用油圧駆動装置、
75:圧下下部ロール昇降用油圧駆動装置、
76:ロードセル、
77:圧下下部ロール位置検出装置、
78:圧下上部ロール位置検出装置、
79:圧下ロールセグメント基盤、
8:圧下後鋳片、
9:下側パスライン、
10:凝固完了点、
11:未凝固溶鋼、
12:鋳片、
13:通常セグメント、
14:ピンチロール、
δ:曲げ量、
δ1:下部ロールの突出量、
L1、L2:圧下前および圧下後の鋳片短辺面中心線、
B1−B2:バルジング領域、
C1−C2:矯正領域、
R1−R2:共用セグメント帯
Claims (6)
- 未凝固部を含む鋳片をバルジングさせた後に、圧下ロール対を用いて圧下する連続鋳造方法であって、連続鋳造機内において、圧下ロール対の下部ロールを鋳片の下側パスラインよりも突出させて圧下することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
- 圧下ロール対の下部ロールを鋳片の下側パスラインよりも突出させる量が、鋳片をバルジングさせる厚さ以下であることを特徴とする請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。
- 未凝固部を含む鋳片をバルジングさせた後に、圧下ロール対を用いて圧下する連続鋳造装置であって、連続鋳造機内において、圧下ロール対の下部ロールを鋳片の下側パスラインよりも突出させた圧下ロール対を配置することを特徴とする鋼の連続鋳造装置。
- 圧下ロール対の下部ロールが鋳片の下側パスラインよりも突出する量が、鋳造開始前および鋳造中に変更可能であり、圧下に伴う圧下ロール対の負荷荷重の変動に対して突出量を一定に保持する制御機構を有することを特徴とする請求項3に記載の鋼の連続鋳造装置。
- 連続鋳造機内における圧下ロール対の配置位置が、任意の圧下位置に変更可能であることを特徴とする請求項3または4に記載の連続鋳造装置。
- 鋳片の厚さ方向中心部におけるMnの中心偏析比C/Coが、下記(b)式で表される幅Wにわたって下記(a)式で表される関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の鋼の連続鋳造方法で製造された鋳片。
0.7≦C/Co≦1.2 ・・・(a)
W=Wo−2×d ・・・(b)
ここで、C :鋳片の厚さ方向中心部におけるMnの含有率(質量%)、
Co:鋳片のMnの平均含有率(質量%)、
Wo:鋳片幅(mm)、
d :凝固シェルの厚さ(圧下位置における固相率0.8の鋳片の短辺表層からの距離)(mm)、である。
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